(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記誘電率調整溝の形成後、隣り合う前記誘電率調整溝の間に存在する誘電体の部分の全部、もしくは一部を取り除くことを特徴とする請求項7記載の電磁波反射防止構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13のような電磁波反射防止構造体は、例えば、樹脂成形で作られる。しかし、樹脂成形では、成形温度が高いので、誘電体としては、高温に耐えうる限られた材料しか使用できない。よって、樹脂成形以外の製造方法で作れる電磁波反射防止構造体が望まれる。
【0007】
また、電磁波反射防止構造体は、例えば、切削加工で作られる。しかし、切削加工は一般的に生産性が低い。また、切削加工できるほどの硬さを有する材料は、その反面欠けやすく、例えば、錐体の頂点の部分が欠けてしまう。その防止のため、頂点を平らに加工する必要がある。よって、理想的な錐体が得られず、反射防止性能が低下する。
【0008】
また、電磁波反射防止構造体は、例えば、等方性ウェットエッチングで作られる。しかし、錐体の形状にあわせてエッチング速度を制御するのが難しい。よって、理想的な錐体が得られず、反射防止性能が低下する。
【0009】
また、電磁波反射防止構造体は、例えば、ドライエッチングで作られる。しかし、異方性エッチングであるドライエッチングでは、等方性ウェットエッチングと同様に形状制御が困難であり、理想的な錐体が得られず、反射防止性能が低下する。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エッチングにより製造でき、且つ、高い反射防止性能が得られる電磁波反射防止構造体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、第1の本発明は、電磁波の反射を防止する電磁波反射防止構造体であって、1つの誘電体に形成される複数の基本構造を有し、且つ、前記基本構造を構成する誘電体の部分には同心円状に、もしくは複数の同心円のそれぞれに内接するような多角形状に、複数の誘電率調整溝が形成され、且つ、前記誘電率調整溝の深さは同心円の中心から遠いほど深いことを特徴とする。
【0012】
第2の本発明は、電磁波の反射を防止する電磁波反射防止構造体であって、1つの誘電体に形成される複数の基本構造を有し、且つ、前記基本構造を構成する誘電体の部分は錐体状であり、且つ、錐体の頂点を中心として同心円状に、もしくは複数の同心円のそれぞれに内接するような多角形状に、複数の誘電率調整溝が形成されている
ことを特徴とする。
【0013】
第3の本発明は、電磁波の反射を防止する電磁波反射防止構造体であって、1つの誘電体に形成される複数の基本構造を有し、且つ、前記基本構造を構成する誘電体の部分には複数の同心円のそれぞれに点在するように誘電率調整穴が形成され、且つ、前記誘電率調整穴の深さは同心円の中心から遠いほど深いことを特徴とする。
【0014】
例えば、同心円の中心から最も遠い前記誘電率調整溝
の深さは電磁波の半波長以上である。
【0015】
例えば、前記誘電率調整溝
の面積は同心円の中心から遠いほど大きい。
【0016】
例えば、隣り合う2つの基本構造の中心間の距離が電磁波の半波長以上である。
【0017】
第4の本発明は、電磁波の反射を防止する電磁波反射防止構造体の製造方法であって、前記電磁波反射防止構造体は、1つの誘電体に形成される複数の基本構造を有し、 前記製造方法は、前記基本構造を構成する誘電体の部分に同心円状に、もしくは複数の同心円のそれぞれに内接するような多角形状に、複数の誘電率調整溝を形成し、且つ、前記誘電率調整溝の深さを同心円の中心から遠いほど深くすることを特徴とする。
【0018】
例えば、前記誘電率調整溝の形成後、隣り合う前記誘電率調整溝の間に存在する誘電体の部分の全部、もしくは一部を取り除く。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電磁波反射防止構造体をエッチングで製造でき、且つ、高い反射防止性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施の形態に係る電磁波反射防止構造体の斜視図である。
【
図2】(a)は、
図1に示す電磁波反射防止構造体の上面図、(b)は、AA断面図である。
【
図3】第1の実施の形態の変形例に係る電磁波反射防止構造体の斜視図である。
【
図4】(a)は、
図3に示す電磁波反射防止構造体の上面図、(b)は、AA断面図である。
【
図5】(a)は、ドライエッチングにおける開口幅とエッチング後にできる溝の深さの関係を示す図であり、(b)はエッチングレートとアスペクト比の関係を示す図である。
【
図6】電磁波反射防止構造体の透過特性と反射特性の一例を示す図である。
【
図7】第2の実施の形態に係る電磁波反射防止構造体の斜視図である。
【
図8】(a)は、
図7に示す電磁波反射防止構造体の上面図、(b)は、AA断面図である。
【
図9】第2の実施の形態に係る電磁波反射防止構造体の製造方法の一例を示す図である。
【
図10】第3の実施の形態に係る電磁波反射防止構造体の斜視図である。
【
図11】(a)は、
図10に示す電磁波反射防止構造体の上面図、(b)は、AA断面図である。
【
図12】第3の実施の形態の変形例に係る電磁波反射防止構造体における誘電率調整穴の配置を示す図である。
【
図13】(a)は、従来の電磁波反射防止構造体の上面図、(b)は、BB断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0022】
[第1の実施の形態]
図1、
図2に示すように、電磁波反射防止構造体1aは、電磁波の反射を防止する電磁波反射防止構造体であって、1つの誘電体100に形成される複数(ここでは8個)の基本構造11を有し、且つ、基本構造11を構成する誘電体の部分には複数の同心円(図示せず)のそれぞれに内接するような多角形状(ここでは6角形状)の誘電率調整溝12が複数形成され、且つ、誘電率調整溝12の深さは同心円の中心Cから遠いほど深くなっている。
【0023】
図3、
図4に示すように、変形例の電磁波反射防止構造体1aは、1つの誘電体100に形成される複数(ここでは7個)の基本構造11を有し、且つ、基本構造11を構成する誘電体の部分には同心円状に複数の誘電率調整溝12が形成され、且つ、誘電率調整溝12の深さは同心円の中心Cから遠いほど深くなっている。
【0024】
誘電体100の材料は例えば、シリコン、ガリウムヒ素、インジウムリン等の半導体材料であり、また、この他にもセラミックスやガラスフィラーを混入したセラミックス混合材料、石英、ガラスを使用できる。また、使用する電磁波において誘電体損失が小さい材料が望ましく、例えば、テフロン、ポリエチレン、ポリイミド等も使用できる。
【0025】
例えば、周波数1THz(テラヘルツ)の電磁波の大気中での波長は、0.3mmであり、この場合、同心円の中心に最も近い誘電率調整溝12の深さを例えば、波長の10分の1である30μmとし、中心から遠くなるに従い、30μmずつ増加させる。
【0026】
図1、
図2に示す基本構造11は、擬似的な錐体(六角錐)であり、
図3、
図4に示す基本構造11は、擬似的な錐体(円錐)である。
【0027】
基本構造11において、一定体積の任意の領域での実効的な誘電率は、領域での誘電体と空気の体積比で決まる。よって、誘電率調整溝12の深さを同心円の中心から遠いほど深くしたことで、実効的な誘電率は、錐体の底面において誘電体自体の値を呈し、錐体の頂点に向かうに従い、空気の誘電率へと連続的に変化する。よって、電磁波の反射を防止することができる。
【0028】
なお、基本構造11は、擬似的な六角錐とすることで密に配置でき、円錐とした場合のように隙間ができないので、誘電率を連続的に変化でき、好ましい。
【0029】
また、反射防止性能向上のため、同心円の中心から最も遠い誘電率調整溝12の深さ(錐体の高さ)は電磁波の半波長以上であることが好ましい。
【0030】
例えば、周波数1THz(テラヘルツ)の電磁波の大気中での波長は、0.3mmであるから、同心円の中心から最も遠い誘電率調整溝12の深さ(錐体の高さ)は、例えば、180μm以上とする。
【0031】
また、反射防止性能向上のため、隣り合う2つの基本構造11の中心C間の距離Dは電磁波の半波長以上であることが好ましい。距離Dは、基本構造11の大きさとも言える。
【0032】
例えば、周波数1THz(テラヘルツ)の電磁波の大気中での波長は、0.3mmであるから、距離Dを150μm以上とする。
【0033】
電磁波反射防止構造体を加工し、製造するには、例えば、ドライエッチング法を用いる。
【0034】
図5に示すように、ドライエッチングでは、マスクされていない部分の縦横の幅(開口幅)が広いほど、その部分におけるエッチングガスの流入量が増え、エッチング後にできる溝の深さが深くなる。また、開口幅は、エッチングレートとアクペクト比にも影響を与える。
【0035】
開口幅は、すなわち、誘電率調整溝12の幅であり、同心円の中心Cから遠いほど広くすることで、ガス流入量に特段の調整を加えずとも、誘電率調整溝12の深さを同心円の中心から遠いほど深くすることができる。
【0036】
例えば、誘電体にシリコンを用いると、例えば、エッチング後にできる溝の深さを500μmまで深くでき、アスペクト比も100まで高められる。よって、高さの高い擬似的な錐体(基本構造)が得られ、長波長帯にも使用できる。
【0037】
このように、誘電率調整溝12の幅を同心円の中心からの距離に応じて変え、擬似的な錐体を製造することにより、前述の実効的な誘電率の変化が得られる。
【0038】
なお、誘電率調整溝12の幅は、少なくとも電磁波の1/10波長以上とするのが好ましい。
【0039】
例えば、周波数1THz(テラヘルツ)の電磁波の大気中での波長は、0.3mmであるから、同心円の中心に最も近い誘電率調整溝12の幅を例えば、5μmとし、中心から遠くなるに従い、1μmずつ増加させる。
【0040】
図6に示すように、これまで例示した値を採用した場合、1THzの電磁波に対する電磁波反射防止構造体の透過損失は0dB程度、反射損失は−20dB以下となる。
【0041】
以上のように、第1の実施の形態によれば、電磁波反射防止構造体をエッチングで製造でき、且つ、高い反射防止性能を得ることができる。よって、高い成形温度を必要とする樹脂成形で製造する必要がなく、誘電体の材料選択の自由度が高まる。また、切削加工が不要であり、切削時に一部が欠け落ち、不良品となる心配がない。
【0042】
なお、6角形状の誘電率調整溝12は、正三角形、正方形、正7角形以上としてもよい。
【0043】
[第2の実施の形態]
図7、
図8に示すように、電磁波反射防止構造体1bは、電磁波の反射を防止する電磁波反射防止構造体であって、1つの誘電体に形成される複数(ここでは8個)の基本構造11を有し、且つ、基本構造11を構成する誘電体の部分は錐体状(ここでは六角錐)であり、且つ、錐体の頂点Sを中心とした複数の同心円(図示せず)のそれぞれに内接するような多角形状の誘電率調整溝12が形成されている。
【0044】
図1等に示す電磁波反射防止構造体1aとの違いは、基本構造11を構成する誘電体の部分を、擬似的な錐体というより寧ろ実際に錐体状としたことである。これにより、誘電率調整溝12の深さには制限がなくなる。なお、誘電率調整溝12の深さは、
図1等に示す電磁波反射防止構造体1aと同様に、同心円の中心から遠いほど深くしてもよい。
【0045】
基本構造11を構成する誘電体の部分を錐体状としたことで、実効的な誘電率は、錐体の底面において誘電体自体の値を呈し、錐体の頂点に向かうに従い、空気の誘電率へと連続的に変化する。よって、電磁波の反射を防止することができる。
【0046】
図9(a)に示すように、電磁波反射防止構造体1aを製造するには、まず、誘電体100に対し、感光性レジスト等のマスク層Mを形成した後、誘電率調整溝12の位置におけるマスク層Mの部分を除去する。
【0047】
次に、エッチングガスを流入させると、
図9(b)に示すように、マスク層Mが除去された部分にある誘電体100がエッチングされ、つまり誘電率調整溝12が形成される。 例えば、エッチングガスとしては、SF
6とC
4F
8ガスを混合したものが用いられる。
【0048】
ドライエッチングの参考文献としては、例えば、Chen-Kuei Chung, “Geometrical pattern effect on silicon deep etching by an inductively coupled plasma system”, Journal of micromechanics and microengineering, 14, pp. 656-662, 2004)がある。
【0049】
また、誘電体がシリコンの場合は、フレオン(CF
4)ガスを用いたプラズマエッチングを行ってもよい。
【0050】
次に、マスク層Mを除去する。第1の実施の形態、および後述の第3の実施の形態に係る電磁波反射防止構造体は、ここまでの工程で製造できる。
【0051】
一方、第2の実施の形態の電磁波反射防止構造体では、次に、隣り合う誘電率調整溝12の間に存在する誘電体の部分(壁)を、同心円の中心から遠いほど短くなるように、部分的にエッチングする(
図9(c))。これにより、錐体が得られ、その頂点と同心円の中心とが一致する。
【0052】
例えば、この工程ではウェットエッチングを使用できる。表面張力により、誘電率調整溝12の中にエッチング液が浸透することで、誘電率調整溝12のパターンに依存したエッチングが可能である。
【0053】
エッチング液としては、例えばフッ酸(HF)と硝酸(HNO
3)を混ぜたフッ硝酸を、酢酸(CH
3COOH)で希釈したもの、もしくは水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAH)を用いることができる。
【0054】
壁は薄い板状であり、エッチング時間は短く、エッチング後には、錐体の基本構造11が残存する。
【0055】
なお、第2の実施の形態では、基本構造11の形状である錐体を円錐状とし、その頂点から同心円状に複数の誘電率調整溝12を形成してもよい。
【0056】
この場合、同心円の中心(錐体の頂点)から最も遠い誘電率調整溝の深さを、第1の実施の形態と同様に、電磁波の半波長以上とするのが好ましい。
また、誘電率調整溝12の幅を同心円の中心から遠いほど広くすることで、誘電率調整溝12の深さを自動的に調整でき、好ましい。
【0057】
また、反射防止性能向上のため、隣り合う2つの基本構造11の中心間の距離(錐体の頂点間の距離)Dは電磁波の半波長以上であることが好ましい。
【0058】
以上のように、第2の実施の形態によれば、電磁波反射防止構造体をエッチングで製造でき、且つ、高い反射防止性能を得ることができる。よって、高い成形温度を必要とする樹脂成形で製造する必要がなく、誘電体の材料選択の自由度が高まる。また、切削加工が不要であり、切削時に一部が欠け落ち、不良品となる心配がない。
【0059】
なお、6角形状の誘電率調整溝12は、正三角形、正方形、正7角形以上としてもよい。
【0060】
また、
図9(c)では、隣り合う誘電率調整溝12の間に存在する誘電体の部分(壁)の一部を残したが、壁の全部を取り除き、結果的に、誘電率調整溝12を無くしてもよい。誘電率調整溝12が無くなっても、基本構造11は錐体であるから、電磁波の反射を防止することができる。
【0061】
[第3の実施の形態]
図10、
図11に示すように、電磁波反射防止構造体1cは、1つの誘電体100に形成される複数の基本構造11を有し、且つ、基本構造11を構成する誘電体の部分には複数の同心円のそれぞれに点在するように誘電率調整穴13が形成され、且つ、誘電率調整穴13の深さは同心円の中心から遠いほど深くなっている。
【0062】
第1、第2の実施の形態のように誘電率調整溝12、つまり、線状の溝を形成すると、反射防止性が電磁波の入射角や偏波方向に依存してしまう。そこで、誘電率調整溝12に代えて誘電率調整穴13を設けたのが第3の実施の形態である。
【0063】
第1、第2の実施の形態と同様に、同心円の中心から最も遠い誘電率調整穴13の深さは、電磁波の半波長以上であることが好ましい。
【0064】
また、誘電率調整穴13の面積を同心円の中心から遠いほど大きくすることで、誘電率調整穴13の深さを自動的に調整でき、好ましい。
【0065】
例えば、同心円の中心に最も近い誘電率調整穴13の半径を例えば、2.5μmとし、中心から遠くなるに従い増加させ、中心から最も遠い誘電率調整穴13の半径を5μmとする。
【0066】
この場合、例えば、同心円の中心に最も近い誘電率調整穴13の深さは30μmとなり、中心から最も遠い誘電率調整穴13の深さは180μmとなる。
【0067】
また、第1、第2の実施の形態と同様に、隣り合う2つの基本構造11の中心間の距離は、電磁波の半波長以上であることが好ましい。
【0068】
なお、これらの値は、必ずしも上記のように限定する必要はなく、反射防止する電磁波の帯域や電磁波の入射角度に応じて設定すればよい。
【0069】
また、誘電率調整穴13の形状は、円に限らず、正六角形,正三角形,正方形等でもよい。
【0070】
また、誘電率調整穴13は、
図12に示すように放射線上に並んでいなくてもよい。
【0071】
以上のように、第3の実施の形態によれば、電磁波反射防止構造体をエッチングで製造でき、且つ、高い反射防止性能を得ることができる。よって、高い成形温度を必要とする樹脂成形で製造する必要がなく、誘電体の材料選択の自由度が高まる。また、切削加工が不要であり、切削時に一部が欠け落ち、不良品となる心配がない。