特許第6040315号(P6040315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6040315単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法及びこれを利用したシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040315
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法及びこれを利用したシステム
(51)【国際特許分類】
   B01F 1/00 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   B01F1/00 Z
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-534413(P2015-534413)
(86)(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公表番号】特表2016-500553(P2016-500553A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】KR2014006234
(87)【国際公開番号】WO2015008976
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2015年3月25日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0084080
(32)【優先日】2013年7月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ、スン−ヨプ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ヘ−ソン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、チャン−ギ
【審査官】 安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】 特表平01−503237(JP,A)
【文献】 特開2007−256912(JP,A)
【文献】 山本博志,ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を使ったポリマーの溶媒探索法,[online],HSPiP Team,2009年 9月 9日,[検索日:平成28年2月29日],URL,https://www.pirika.com/NewHP-J/JP/polymer-solvent.html
【文献】 山本博志,ハンセン溶解度パラメータを使った環境に優しい溶媒選択,[online],HSPiP Team,2010年 7月28日,[検索日:平成28年2月29日],URL,https://www.pirika.com/NewHP-J/JP2/GreenSolvent.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 1/00
G06F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解させようとする対象物質、前記対象物質を溶解させることができる単独溶媒、前記単独溶媒及び添加溶媒を含む混合溶媒において、前記対象物質を溶解させるために用いられる前記混合溶媒が、最少量で前記単独溶媒を含み、前記単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒を予測する方法であって、
a)単独溶媒に添加溶媒を追加して製造した混合溶媒の添加溶媒の重量%増加に基づく前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を計算するステップと、
b)前記a)ステップで計算した前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(HSP)と単独溶媒中に溶解される対象物質のハンセン溶解度因子(HSP)との差(HSP−Diff)を計算するステップと、
c)前記混合溶媒の前記添加溶媒の重量%増加に基づくHSP−Diffの二次元グラフを生成するステップと、
d)前記c)ステップにおいて生成されたグラフ中の前記混合溶媒内の添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)を決定するステップと、
を含む単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法。
【請求項2】
前記a)ステップのHSP(ハンセン溶解度因子)は、HSP=(δD、δP、δH)及びδTotであり、前記δDは、無極性分散結合により発生する溶解度因子、δPは、永久双極子による極性結合により発生する溶解度因子、δHは、水素結合により発生する溶解度因子、及びδTotは、HSPベクトルの大きさ(magnitude)である請求項1に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法。
【請求項3】
前記混合溶媒の総重量に対して添加溶媒は0〜60重量%で含まれる請求項1に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法。
【請求項4】
前記b)ステップのHSP−Diffは、下記の式1の値を用いて計算される請求項1に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法。
【数4】
前記式においてAは、溶解させようとする対象物質、B+Cは、単独溶媒及び添加溶媒を含む混合溶媒であり、α1、α2、α3は、0より大きい実数であり、βは、0より大きい実数であり、γは、0でない実数である。
【請求項5】
前記α1は、0.5〜4.5の実数、α2は、0.5〜3の実数、α3は、0.5〜2.5の実数であり、βは、1.0〜2.5の実数であり、γは、−2.5〜−0.1または0.1〜2.5の実数である請求項4に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法。
【請求項6】
前記c)ステップのグラフは、x軸に添加溶媒の含量を、y軸に前記b)ステップで計算されたHSP−Diff値を表す請求項1に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法。
【請求項7】
前記d)ステップでHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)は10重量%以上である請求項1に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法。
【請求項8】
単独溶媒に添加溶媒を追加して製造した混合溶媒で添加溶媒の重量%増加による混合溶媒のハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を計算してデータを受信する第1のデータ入力モジュールと、
前記第1のデータ入力モジュールで入力された前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(HSP)と単独溶媒が溶解させようとする対象物質とのハンセン溶解度因子(HSP)との差(HSP−Diff)を計算するデータを受信する第2のデータ入力モジュールと、
混合溶媒で添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diffを二次元グラフで生成するグラフ決定モジュールと、
前記グラフ決定モジュールにおいて生成されたグラフで前記混合溶媒内の添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値を計算する最大値決定モジュールと、
を備える単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システム。
【請求項9】
前記第1のデータ入力モジュールのHSP(ハンセン溶解度因子)は、HSP=(δD、δP、δH)及びδTotであり、前記δDは、無極性分散結合により発生する溶解度因子、δPは、永久双極子による極性結合により発生する溶解度因子、δHは、水素結合により発生する溶解度因子、及びδTotは、HSPベクトルの大きさ(magnitude)である請求項8に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システム。
【請求項10】
前記混合溶媒の総重量に対して添加溶媒は0〜60重量%で含まれる請求項8に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システム。
【請求項11】
前記第2のデータ入力モジュールのHSP−Diffは、下記の式1の値を用いて計算される請求項8に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システム。
【数5】
前記式においてAは、溶解させようとする対象物質、B+Cは、単独溶媒及び添加溶媒を含む混合溶媒であり、α1、α2、α3は、0より大きい実数であり、βは、0より大きい実数であり、γは、0でない実数である。
【請求項12】
前記α1は、0.5〜4.5の実数、α2は、0.5〜3の実数、α3は、0.5〜2.5の実数であり、βは、1.0〜2.5の実数であり、γは、−2.5〜−0.1または0.1〜2.5の実数である請求項11に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システム。
【請求項13】
前記グラフ決定モジュールのグラフは、x軸に添加溶媒の含量を、y軸に前記第2のデータ入力モジュールで計算されたHSP−Diff値を表す請求項8に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システム。
【請求項14】
前記最大値決定モジュールでHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)は10重量%以上である請求項8に記載の単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法及びこれを利用したシステムに関し、より詳細には、混合溶媒内の添加溶媒の最大組成を計算できるG−MRDSE(Graph−based Mixing Ratio Dependant Solubility Estimation)を利用して単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒を予測できる新しい評価方法及びこれを利用したシステムに関する。本出願は、2013年7月17日に韓国特許庁へ提出された韓国特許出願第10−2013−0084080号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【背景技術】
【0002】
特定物質を溶解させる単独溶媒に他の種類の添加溶媒を混ぜた混合溶媒は、単独溶媒に比べて溶解度特性が変わることになり、特に、添加される添加溶媒量が多くなるほど、単独溶媒との溶解度差が大きくなる。このように、既存の単独溶媒と溶解度差がつく混合溶媒は、結局、溶解させようとする物質、例えば、高分子とも溶解度差がつくため、単独溶媒に代えて高分子を溶解させるのに使用できないと一般的に考えるようになる。
【0003】
混合溶媒が単独溶媒に代えて使用されるための必要条件は、(1)混合溶媒が単独溶媒と類似した溶解度特性を有し、高分子をよく溶解させることができる組成が存在すべきであり、(2)添加される溶媒の量が最大となり、単独溶媒の使用量を最小化できるべきであるということである。しかし、添加溶媒の量が多くなるほど、混合溶媒は、単独溶媒と互いに溶解度差が大きくなるはずであるため、必要条件(1)と(2)は、互いに同時に満足できない関係と見える。
【0004】
一方、物質間の溶解性(solubility)や混合性(miscibility)を判断するためには、物質の固有物性を使用して互いに類似性の比較をしなければならない。溶解性や混合性に影響を与える固有物性は種々あるが、その中でも、物質内の結合(interaction)程度を定量的な値で表す溶解度因子(Solubility Parameters)が最も多く使用される。すなわち、各物質は、固有の溶解度因子値を有し、溶解度因子値が類似した物質同士は、互いによく溶解されるか、混ざる。
【0005】
様々な理論や概念に基づいて溶解度因子が提案され使用されているが、その中でも、1967年にDr.C.Hansenが提案したハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:以下、HSP)が最も正確に溶解度特性を表すことができると知られている。HSPでは、物質内の結合程度を次のような3つの因子に細分化して考慮する。
【0006】
(1)無極性分散結合により発生する溶解度因子(δD)
(2)永久双極子による極性結合により発生する溶解度因子(δP)
(3)水素結合により発生する溶解度因子(δH)
このように、HSPは、他の溶解度因子よりさらに詳しく物質内の結合情報を提供するので、より正確かつ体系的に物質の溶解性や混合性を評価することができ、広く使用される。
【0007】
HSP=(δD、δP、δH)、(J/cm31/2 (1)
δTot=(δD2+δP2+δH21/2、(J/cm31/2 (2)
HSPは、3つの要素からなる空間で大きさと方向性を有するベクトルであり、δTotは、HSPベクトルの大きさ(magnitude)を表す。HSPを表す基本単位は、(J/cm31/2である。このようなHSP値は、HSPを提案したDr.Hansenグループで開発したHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)というプログラムを使用して計算する。前述したように、2つの物質のHSP値が類似すれば互いによく溶解されるが、HSPはベクトルであるため、互いに類似すると判断するためには、各物質の3つのHSP成分とHSPの大きさとが共に類似しなければならない。全ての物質はHSPを有し、これを使用して類似性差に対する比較分析により、関心のある物質等が互いに溶解されるか否かを予測できる。
【0008】
純物質同士によく溶解されるか否かは、各純物質のHSP類似性解析によって予測できるが、2種類以上の純物質が混ざっている混合物質の場合には、組成によって溶解度が大きく変わる。このように変わる混合溶媒の溶解度性質をよく利用できれば、種々の分野で目的に応じて有用に使用できるが、特に、既存の工程で使用される単独溶媒を代替する必要があるか、特定物性を調節するのに大きな役割をすることができる。例えば、図1の模式図の順序により、高分子に対する溶解性に優れ、高分子加工工程で使用される単独溶媒の値段があまり高くて、安価な他の単独溶媒に代替すれば、大きい費用低減効果が発生できる場合、代替できる単独溶媒があれば、その目的を達成することができるが、代替溶媒がない場合には、現在までは費用低減が可能な解決方案はない。
【0009】
しかし、既存の単独溶媒を完全に代替できる単独溶媒が存在しない場合にも、単独溶媒の使用量を最大限減らすことができる方案があれば、費用を低減できるので、これに対する解決方案が必要である。
【0010】
上記に記載された内容のように、混合溶媒は、組成によって溶解度特性が大きく変わるので、既存の単独溶媒の使用量を減少させる代案として混合溶媒の使用可能性を考慮してみることができる。また、使用する溶媒の種類に応じて様々な混合溶媒を作ることができるが、既存の単独溶媒と比較して、安価な他の添加溶媒を混ぜて作った混合溶媒の使用可能性を考えることができる。
【0011】
混合溶媒が単独溶媒の代わりに使用されるための必要条件(necessary condition)は、使用しようという混合溶媒の組成で溶解度特性が単独溶媒と類似して、対象物質を溶解させるのに問題がないべきであり、また、費用低減の効果の極大化のために、混合溶媒内で単独溶媒が最小限に使用されるべきであるということである。しかし、このような試みで最も早く浮び上がる問題点は、単独溶媒に他の添加溶媒を混ぜて作った混合溶媒は、当然溶解度特性が変わるようになるということである。したがって、混合溶媒の溶解度特性をよく調節して単独溶媒の使用量を最大限減らすとともに、単独溶媒と溶解度特性の類似した混合溶媒の組成を探索する方法についての研究が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためのものであって、単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒を予測する新しい方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような目的を達成するために、本発明は、
溶解させようとする対象物質、前記対象物質を溶解させることができる単独溶媒、前記単独溶媒及び添加溶媒を含む混合溶媒において、前記混合溶媒で対象物質を溶解させるとき、単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒を予測する方法であって、
a)単独溶媒に添加溶媒を追加して製造した混合溶媒で添加溶媒の重量%増加による混合溶媒のハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を計算するステップと、
b)前記a)ステップで計算した前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(HSP)と単独溶媒が溶解させようとする対象物質とのハンセン溶解度因子(HSP)との差(HSP−Diff)を計算するステップと、
c)混合溶媒で添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diffを二次元グラフで生成するステップと、
d)前記c)ステップにおいて生成されたグラフで前記混合溶媒内の添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)を確認するステップとを含む単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、
単独溶媒に添加溶媒を追加して製造した混合溶媒で添加溶媒の重量%増加による混合溶媒のハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を計算してデータを受信する第1のデータ入力モジュールと、
前記第1のデータ入力モジュールで入力された前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(HSP)と単独溶媒が溶解させようとする対象物質とのハンセン溶解度因子(HSP)との差(HSP−Diff)を計算するデータを受信する第2のデータ入力モジュールと、
混合溶媒で添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diffを二次元グラフで生成するグラフ決定モジュールと、
前記グラフ決定モジュールにおいて生成されたグラフで前記混合溶媒内の添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値を計算する最大値決定モジュールとを備える単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法であるG−MRDSE(Graph−based Mixing Ratio Dependant Solubility Estimation)によれば、物質の溶解度特性をハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を利用して比較し、計算されたデータのグラフを解析する方法により、単独溶媒の量を最小に減らした混合溶媒の組成を予測して、価格競争力を確保することができ、また、HSPを利用した溶解度予測方法の新しい可能性を見せることにより、様々な分野において目的に応じて有用に利用され得ることと期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】単独溶媒と類似した溶解度を有する代替溶媒を探す既存の方法を示した模式図である。
図2】本発明のG−MRDSE(Graph−based Mixing Ratio Dependant Solubility Estimation)を利用した混合溶媒の組成を探す方法を示した模式図である。
図3】本発明の実施例1で単独溶媒Bに添加溶媒Cを追加して製造した混合溶媒B+Cに対して添加溶媒の組成によるHSP構成要素値の変化を示したグラフである。
図4】本発明の実施例1で添加溶媒Cの組成による混合溶媒B+Cの溶解度類似性の変化をHSP−Diffを利用して計算したものを示したグラフである。
図5】本発明の実施例2で添加溶媒Dの組成による混合溶媒B+DのHSP成分値の変化を示したグラフである。
図6】本発明の実施例2による単独溶媒Bに添加溶媒Dを追加して製造した混合溶媒B+Dで添加溶媒の量が閾値まで増加すれば、溶解度整数差が減るか類似することを示した模式図である。
図7】本発明の実施例2による混合溶媒B+Dの溶解度変化傾向を確認するために、HSP−Diffを高分子A(高分子、混合溶媒)と単独溶媒B(単独溶媒、混合溶媒)に対して計算し示したグラフである。
図8】本発明のG−MRDSE方法を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法は、溶解させようとする対象物質、前記対象物質を溶解させることができる単独溶媒、前記単独溶媒及び添加溶媒を含む混合溶媒において、前記混合溶媒で対象物質を溶解させるとき、単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒を予測する方法であって、
a)単独溶媒に添加溶媒を追加して製造した混合溶媒で添加溶媒の重量%増加による混合溶媒のハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を計算するステップと、
b)前記a)ステップで計算した前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(HSP)と単独溶媒が溶解させようとする対象物質とのハンセン溶解度因子(HSP)との差(HSP−Diff)を計算するステップと、
c)混合溶媒で添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diffを二次元グラフで生成するステップと、
d)前記c)ステップにおいて生成されたグラフで前記混合溶媒内の添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)を確認するステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明者は、『単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法』を「G−MRDSE(Graph−based Mixing Ratio Dependant Solubility Estimation)」と命名した。
【0020】
本発明は、前記a)ステップにおいて単独溶媒に添加溶媒を追加して製造した混合溶媒で添加溶媒の重量%増加による混合溶媒のハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を計算することを特徴とする。
【0021】
HSPは、3つの要素からなる空間で大きさと方向性を有するベクトルであり、δTotは、HSPベクトルの大きさ(magnitude)を表すものである。HSPを表す基本単位は、(J/cm31/2である。具体的に、本発明者らは、前記HSP値を、HSPを提案したDr.Hansenグループで開発したHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)というプログラムを使用して計算した。
【0022】
前記ハンセン溶解度因子は、下記において定義されたHSP=(δD、δP、δH)及びδTotである。
【0023】
HSP=(δD、δP、δH)、(J/cm31/2 (1)
δTot=(δD2+δP2+δH21/2、(J/cm31/2 (2)
HSPでは、物質内の結合程度を次のような3つの因子に細分化した。
【0024】
(1)無極性分散結合により発生する溶解度因子(δD)
(2)永久双極子による極性結合により発生する溶解度因子(δP)
(3)水素結合により発生する溶解度因子(δH)
HSPは、他の溶解度因子よりさらに詳しく物質内の結合情報を提供するので、より正確かつ体系的に物質の溶解性や混合性を評価することができ、広く使用される。
【0025】
まず、前記HSPiPプログラムを利用して互いに類似してよく溶解される対象物質、例えば、高分子Aと単独溶媒Bの場合に対してHSP類似性を計算した。2つの物質のHSPを比較して溶解度の類似性可否を判断するためには、HSPを構成する3種類の構成要素(δD、δP、δH)が互いに類似するか比較し、また、2つの物質間のδTot差を比較した。
【0026】
本発明の一実現例では、対象物質Aをよく溶解させる単独溶媒Bがあり、これを代替できる単独溶媒はないが、単独溶媒Bの値段が高いため、単独溶媒Bの使用量を減らすことができれば、価格競争力を確保することができ、収益増大をなすことができると仮定し、単独溶媒Bに添加溶媒Cを追加して混合溶媒B+Cを製造して、使用されるBの量を最大限減らすようにした。混合溶媒B+Cで単独溶媒Bが占める量が少ないほど有利であるが、混合溶媒B+Cは、単独溶媒Bと類似した溶解度特性を有さなければならないので、添加溶媒Cの量を増加し続けることができない。
【0027】
したがって、前記混合溶媒の総重量に対して添加溶媒は0〜60重量%で含まれることが好ましい。前記3種類の物質間の溶解度の類似性可否は、HSPを利用した比較によって分かることができた。
【0028】
本発明は、前記b)ステップにおいて、前記a)ステップで計算した前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(HSP)と単独溶媒が溶解させようとする対象物質とのハンセン溶解度因子(HSP)との差(HSP−Diff)を計算することを特徴とする。
【0029】
HSPの構成要素の差は、ベクトルの差を比較するHSP−Diffを計算することにより分かることができる。2つの物質のHSP−Diff値が0に近いほど、各物質内で結合の責任を負っている成分が類似したことを表し、結局、似ているHSP(溶解度特性)を有し、よく溶解されることを意味する。溶解させようとする対象物質のAと混合溶媒B+Cとの間のHSP−Diff(A、B+C)は、下記の[式1]によって計算される。
【0030】
【数1】
【0031】
前記式において、Aは、溶解させようとする対象物質、B+Cは、単独溶媒及び添加溶媒を含む混合溶媒であり、前記α1、α2、α3は、0より大きい実数で、特別な制限はないが、好ましい範囲は、α1は、0.5〜4.5の実数、α2は、0.5〜3の実数、α3は、0.5〜2.5の実数であり、βは、0より大きい実数で、特別な制限はないが、好ましい範囲は、1.0〜2.5の実数であり、γは、0でない実数で、特別な制限はないが、好ましい範囲は、−2.5〜−0.1または0.1〜2.5の実数である。本発明において、前記式のHSP−Diff(A、B+C)を計算するのに使用された値は、α1=1.0、α2=1.0、α3=1.0、β=2.0、γ=0.5である。
【0032】
本発明は、混合溶媒で添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diffを二次元グラフで生成することを特徴とする。
【0033】
具体的に、前記c)ステップのグラフは、x軸に添加溶媒の含量を、y軸に前記b)ステップで計算されたHSP−Diff値を表すグラフを生成した。
【0034】
図4は、本発明の一実現例による添加溶媒Cの組成による混合溶媒B+Cの溶解度類似性の変化を詳細に比較するために、(1)単独溶媒Bと混合溶媒B+Cとの間のHSP−Diff(単独溶媒、混合溶媒)と、(2)高分子Aと混合溶媒B+Cとの間のHSP−Diff(高分子、混合溶媒)とを計算してグラフで示した。
【0035】
添加溶媒Cの組成増加によって混合溶媒B+Cと単独溶媒B(高分子A)のHSP−Diffは、線形的に増加する傾向を表し、全体区間に対して決定係数(coefficient of determinant)であるR−square(R2)を計算すれば、0.9956(0.9959)を表した。すなわち、混合溶媒B+CのHSP−Diffと添加溶媒Cとの組成間には線形的な相関関係を有し、混合溶媒B+Cの溶解度が添加溶媒Cの組成の増加に敏感に変わって、結局、高分子Aと類似性差が大きくなる。これにより、混合溶媒B+Cが単独溶媒Bに代えて使用されようとすれば、添加溶媒Cの量が非常に微量(<5wt.%)でなければならないことを確認した。
【0036】
本発明は、前記d)ステップにおいて、c)ステップにおいて生成されたグラフで前記混合溶媒内の添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)を確認するステップを含むことを特徴とする。
【0037】
具体的に、前記d)ステップでHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%は、0超過〜最大値(MAX)以下(0<添加溶媒組成≦MAX)の領域であることを確認し、したがって、MAXが0より大きければ、MAXが結局、添加溶媒の最大組成を表すことが分かった。また、費用低減の効果のために、HSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)は、少なくとも10重量%以上であることが好ましい。
【0038】
また、本発明は、上記において説明した単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測方法を利用した単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システムを提供する。
【0039】
前記単独溶媒の使用量を最小化する混合溶媒の予測システムは、
単独溶媒に添加溶媒を追加して製造した混合溶媒で添加溶媒の重量%増加による混合溶媒のハンセン溶解度因子(Hansen Solubility Parameter:HSP)を計算してデータを受信する第1のデータ入力モジュールと、
前記第1のデータ入力モジュールで入力された前記混合溶媒のハンセン溶解度因子(HSP)と単独溶媒が溶解させようとする対象物質とのハンセン溶解度因子(HSP)との差(HSP−Diff)を計算するデータを受信する第2のデータ入力モジュールと、
混合溶媒で添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diffを二次元グラフで生成するグラフ決定モジュールと、
前記グラフ決定モジュールにおいて生成されたグラフで前記混合溶媒内の添加溶媒の重量%増加によるHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値を計算する最大値決定モジュールとを備えることを特徴とする。
【0040】
前記第1のデータ入力モジュールの前記ハンセン溶解度因子は、上記の方法において定義されたHSP=(δD、δP、δH)及びδTotである。
【0041】
前記混合溶媒の総重量に対して添加溶媒は0〜60重量%で含まれることが好ましい。
【0042】
また、前記第2のデータ入力モジュールのHSP−Diffは、下記の式1の値を用いることができる。
【0043】
【数2】
【0044】
前記式においてAは、溶解させようとする対象物質、B+Cは、単独溶媒及び添加溶媒を含む混合溶媒であり、前記α1、α2、α3は、0より大きい実数で、特別な制限はないが、好ましい範囲は、α1は、0.5〜4.5の実数、α2は、0.5〜3の実数、α3は、0.5〜2.5の実数であり、βは、0より大きい実数で、特別な制限はないが、好ましい範囲は、1.0〜2.5の実数であり、γは、0でない実数で、特別な制限はないが、好ましい範囲は、−2.5〜−0.1または0.1〜2.5の実数である。本発明において、前記式のHSP−Diff(A、B+C)を計算するのに使用された値は、α1=1.0、α2=1.0、α3=1.0、β=2.0、γ=0.5である。
【0045】
また、前記グラフ決定モジュールのグラフは、x軸に添加溶媒の含量を、y軸に前記第2のデータ入力モジュールで計算されたHSP−Diff値を表すことを特徴とする。
【0046】
また、前記最大値決定モジュールでHSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%は、0超過〜最大値(MAX)以下(0<添加溶媒組成≦MAX)の領域であることを確認し、MAXが0より大きければ、MAXが結局、添加溶媒の最大組成を表すことが分かった。また、費用低減の効果のために、前記HSP−Diff値が、添加溶媒の組成が0重量%である場合のHSP−Diff値に対して20%以下の偏差内で一定に維持される添加溶媒の重量%の最大値(MAX)は、少なくとも10重量%以上であることが好ましい。
【0047】
また、本明細書において記載したモジュール(module)という用語は、特定の機能や動作を処理する1つの単位を意味し、これは、ハードウェアとかソフトウェア、またはハードウェア及びソフトウェアの結合で実現することができる。
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、下記に開示される本発明の実施形態はあくまで例示であって、本発明の範囲は、これらの実施形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に表示され、さらに、特許請求の範囲の記録と均等な意味及び範囲内での全ての変更を含んでいる。
【0049】
実施例1:対象物質A、単独溶媒B、添加溶媒C、及び混合溶媒B+Cの溶解度類似性変化の計算
高分子Aをよく溶解させる単独溶媒Bがあり、これを代替できる単独溶媒はないと仮定した。単独溶媒Bの値段が高いため、使用量を減らすことができれば価格競争力を確保することができ、収益増大をなすことができると仮定した。これを実現するために、単独溶媒Bに添加溶媒Cを混ぜて混合溶媒B+Cを作り、使用される単独溶媒Bの量を最大限減らそうとする。混合溶媒B+Cでは、単独溶媒Bが占める量が少ないほど有利であるが、混合溶媒B+Cは、単独溶媒Bと類似した溶解度特性を有さなければならないので、添加溶媒Cの量を増やし続けることはできない。物質間の溶解度類似性の可否は、HSPを利用した比較によって分かることができる。下記の[表1]に、高分子A、単独溶媒B、添加溶媒CのHSP値を示した。
【0050】
【表1】
【0051】
前記[表1]に示した高分子Aは、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、CAS number:9002−84−0)であり、単独溶媒Bは、4−エチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(4−Ethyl−1,3−Dioxolane−2−One、CAS number:4437−85−8)、添加溶媒Cは、エチル−イソチオシアネート(Ethyl−isothiocyanate、CAS number:542−85−8)である。上記のCAS numberは、Chemical Abstracts Service numberの略字で、物質固有の識別番号である。
【0052】
まず、互いに類似してよく溶解される高分子Aと単独溶媒Bの場合に対してHSP類似性を計算した。2つの物質のHSPを比較して溶解度類似性の可否を判断するためには、HSPを構成する3種類の構成要素(δD、δP、δH)が互いに類似するか比較しなければならず、また、2つの物質間のδTot差を比較しなければならない。HSPの構成要素の差は、ベクトルの差を比較するHSP−Diffを計算することにより分かることができる。2つの物質のHSP−Diff値が0に近い値を有するほど、各物質内で結合の責任を負っている成分が類似したことを表し、結局、似ているHSP(溶解度特性)を有し、よく溶解されることを意味する。高分子Aと単独溶媒Bとの間のHSP−Diff(A、B)は、下記の式によって計算した。
【0053】
【数3】
【0054】
前記式のHSP−Diff(A、B)を計算するのに使用された値は、α1=1.0、α2=1.0、α3=1.0、β=2.0、γ=0.5である。
【0055】
高分子Aと単独溶媒Bとの間のHSP−Diff(A、B)は2.4(J/cm31/2で、2つの物質は互いに類似するということが分かる。また、2つの物質のδTot差は|19.0−20.3|=1.3(J/cm31/2で、差が非常に小さい。したがって、HSP類似性の比較によって高分子Aと単独溶媒Bとは、互いによく溶解されるということを確認した。
【0056】
図3は、単独溶媒Bに添加溶媒Cを追加して製造した混合溶媒B+Cに対して添加溶媒Cの組成によるHSP構成要素値の変化を示したグラフである。添加溶媒Cの組成による混合溶媒のHSP変化と高分子Aとを比較するために、高分子AのHSP構成要素値をx−軸に「−1」に表示して別に示した。単独溶媒BのHSP構成要素値は、混合溶媒内でC組成=0.0の場合である。
【0057】
混合溶媒B+C内で添加溶媒Cの組成が増加すれば、混合溶媒B+CのHSP構成要素のうち、δPとδH値がその量に比例して増加するようになり、単独溶媒Bと高分子Aとに対して溶解度差が大きくなる。混合溶媒B+CのδDの値は、添加溶媒Cの量に関係無しにほとんど一定であった。したがって、全体的に添加溶媒Cの組成が増加するにつれて混合溶媒B+CのδPとδHも増加し、これにより、混合溶媒B+CのδTotも単独溶媒Bと高分子Aとに対する差が増加した。結局、混合溶媒B+Cの場合、添加溶媒Cの組成増加に比例して、高分子Aと単独溶媒Bとの溶解度差が増加するので、実験結果は、一般的に予想したように、単独溶媒Bを減らすための代案としては適していないものと表れた。
【0058】
図4は、添加溶媒Cの組成による混合溶媒B+Cの溶解度類似性の変化をさらに詳しく調べるために、(1)単独溶媒Bと混合溶媒B+Cとの間のHSP−Diff(単独溶媒、混合溶媒)と、(2)高分子Aと混合溶媒B+Cとの間のHSP−Diff(高分子、混合溶媒)とを計算してグラフで示した。
【0059】
添加溶媒Cの組成増加によって混合溶媒B+Cと単独溶媒B(高分子A)とのHSP−Diffは、線形的に増加する傾向を表し、全体区間に対してcoefficient of determinantであるR−square(R2)を計算すれば、0.9956(0.9959)であった。すなわち、混合溶媒B+CのHSP−Diffと添加溶媒Cとの組成間には線形的な相関関係を有し、混合溶媒B+Cの溶解度が添加溶媒Cの組成に敏感(sensitive)に変わり、結局、高分子Aと類似性差が大きくなった。これにより、混合溶媒B+Cが単独溶媒Bに代えて使用されようとすれば、添加溶媒Cの量が非常に微量(<5重量%)でなければならないことが分かった。
【0060】
しかし、これでは、単独溶媒Bの量を最大限減らして価格競争力を確保しようとする本来の目的を達成できないため、混合溶媒B+Cを利用しては、単独溶媒Bの使用量を減らすことができないことを上記結果を介して確認した。
【0061】
実施例2:対象物質A、単独溶媒B、添加溶媒D、及び混合溶媒B+Dの溶解度類似性の変化計算
単独溶媒の使用量を減らすための解決方案として、単独溶媒に添加溶媒を混ぜた混合溶媒を使用するためには、添加溶媒の量が増加しても混合溶媒の溶解度が大きく変化されてはならない。
【0062】
混合溶媒の使用可能性を探索するために、前記実施例1の添加溶媒Cとは異なる溶解度特性を有する添加溶媒であるDを単独溶媒Bに混ぜた混合溶媒であるB+Dの場合に、高分子Aと単独溶媒Bとに比べて溶解度差がどのように変化するかを計算して下記の[表2]に示した。
【0063】
【表2】
【0064】
前記[表2]に示した高分子Aは、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、CAS number:9002−84−0)であり、単独溶媒Bは、4−エチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(4−Ethyl−1,3−Dioxolane−2−One、CAS number:4437−85−8)、添加溶媒Dは、リモネン(Limonene、CAS number:5989−27−5)である。
【0065】
図5は、添加溶媒Dの組成による混合溶媒B+DのHSP成分値の変化を示したグラフである。単独溶媒B(グラフ内の添加溶媒D組成=0wt.%)と比較してみると、混合溶媒B+Dは、添加溶媒Dの量が増加するほど、互いに溶解度の類似性差が大きくなった。しかし、構成成分別に類似性差が大きくなる方向が異なるが、添加溶媒D組成の増加によって混合溶媒B+Dの(1)δPは相対的に大きく減少し、(2)δHは増加するようになり、単独溶媒Bと溶解度差が大きくなった。結論的に、混合溶媒B+DのδTotは、このような傾向が反映されて次第に減少するようになり、単独溶媒Bとの類似性差が少しずつ大きくなった。
【0066】
高分子Aと混合溶媒B+Dとの間の溶解度類似性の変化を比較してみると、添加溶媒Dの量が増加するにつれて混合溶媒B+DのδPが減少するようになるが、これは却って溶解させようとする高分子AのδPに単独溶媒Bよりさらに近く接近するようになる結果を示した。すなわち、混合溶媒B+DのδPが減少して単独溶媒Bとは差が大きくなるが、高分子Aとは差が減るようになる。添加溶媒Dの組成が27重量%まで混合溶媒B+Dと高分子Aとの間のδPの差は減り続けるようになり、それ以後には、さらに差が大きくなった。これにより、混合溶媒が単独溶媒とは常に溶解度差が大きくなるが、その大きくなる方向が却って溶解させようとする高分子とは近づくことができるということを確認した。
【0067】
図7は、混合溶媒B+Dの溶解度変化の傾向を確認するために、HSP−Diffを高分子A(高分子、混合溶媒)と単独溶媒B(単独溶媒、混合溶媒)に対して計算してグラフで示したものである。混合溶媒B+Dと高分子Aとの間のHSP−Diffの変化傾向性を見ると、大きく2つの領域に分けることができる。添加溶媒組成が0重量%から一定値まではHSP−Diffが若干減少するか、一定の傾向を表し、それ以後には、添加溶媒組成に比例して増加する。高分子Aに対する混合溶媒B+DのHSP−Diffがほとんど一定に維持される理由は、前述したように、高分子と混合溶媒との間でδPの差は減少し、δHの差は増加する傾向が互いに相殺されるためである。このように、HSP−Diffが一定に維持され、添加溶媒が一定量以上に含まれれば、δPとδHの両方の差が大きくなる傾向に転換されるので、HSP−Diffが大きくなる。このように、HSP−Diffが一定に維持される最も大きい添加溶媒の組成がまさに最大組成(MAX)である。グラフ上で添加溶媒Dの最大組成(MAX)は約40重量%である。すなわち、B:D=60:40(重量%)組成の混合溶媒B+Dを使用すれば、単独溶媒Bに代えて高分子Aを溶解させるのに使用することができ、単独溶媒Bの使用量を最大限40%減らすことができた。最大組成での混合溶媒B+DのδTotは19.1で、高分子Aの19.0とほとんど類似したことを確認した。
【0068】
このように、添加溶媒の溶解度特性によって単独溶媒に添加される形態の混合溶媒が単独溶媒の使用量を減らすために使用されることができ、混合溶媒と溶解させようとする高分子とのHSP−Diff計算によって混合溶媒の最大組成を計算することができ、単独溶媒の使用量を最大に減らすことができた。
【0069】
したがって、単独溶媒の使用量を減らすために、単独溶媒に添加溶媒を混ぜて作った混合溶媒の使用が可能であることを確認し、混合溶媒の使用可能の可否は、添加溶媒の溶解度特性に依存するということが確認できた。このような特性を利用して混合溶媒内の添加溶媒に対する最大組成をグラフを介しての解析によって最終計算することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8