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特許6040616無線通信システム及びアレーアンテナ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040616
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】無線通信システム及びアレーアンテナ制御方法
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20161128BHJP
   H04B 7/04 20060101ALI20161128BHJP
   H04J 99/00 20090101ALI20161128BHJP
   H04B 1/59 20060101ALI20161128BHJP
   H04B 5/02 20060101ALI20161128BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   G06K19/077 280
   H04B7/04
   H04J15/00
   H04B1/59
   H04B5/02
   G06K7/10 240
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-167844(P2012-167844)
(22)【出願日】2012年7月28日
(65)【公開番号】特開2014-26554(P2014-26554A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電子情報通信学会総合大会講演論文集1(平成24年3月6日発行)B−1−212に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電子情報通信学会技術研究報告Vol.112 No.149(平成24年7月18日発行)A・P2012−60に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】本間 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 雄
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 幸夫
【審査官】 甲斐 哲雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−232372(JP,A)
【文献】 特表2009−518954(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0214065(US,A1)
【文献】 特開平08−094745(JP,A)
【文献】 J. D. Griffin, G. D. Durgin,Multipath Fading Measurements for Multi-Antenna Backscatter RFID at 5.8GHz,2009 IEEE International Conference on RFID,米国,2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/00−19/08
H04B 7/02− 7/12
H04J 99/00
H04B 1/59
H04B 5/02
G06K 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タグとリーダとを備えた無線通信システムであって
上記タグは、それぞれ可変負荷を有している複数のタグ用アレーアンテナと、上記可変負荷をそれぞれ独立して制御する終端条件可変回路とを具備し
上記リーダは、上記タグ用アレーアンテナに信号を送信する複数のアンテナからなる送信アレーアンテナと、上記タグ用アレーアンテナからの反射波を受信する複数のアンテナからなる受信アレーアンテナと、該受信アレーアンテナに接続される復調回路とを具備してなり、
上記無線通信システムが、
上記タグ用アレーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与えて上記受信アレーアンテナと上記復調回路を用いて反射波を観測し、
上記タグ用アレーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与えて上記受信アレーアンテナと上記復調回路を用いて反射波を観測し、
既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与えて上記受信アレーアンテナと上記復調回路を用いて観測した反射波と、既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与えて上記受信アレーアンテナと上記復調回路を用いて観測した反射波とを比較することを特徴とする、無線通信システム。
【請求項2】
前記可変負荷は、集中定数素子であることを特徴とする、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記可変負荷は、ダイオード又はトランジスタであることを特徴とする、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記終端条件可変回路は、バイアス回路を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
アンテナ毎に個別の終端条件可変機構が接続されたタグ用アレーアンテナと、
該タグ用アレーアンテナに信号を送信する送信アンテナと該タグ用アレーアンテナからの反射波を受信する受信アンテナとからなるリーダと、
を備えた無線通信システムにおいて、
上記タグ用アレーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与え該受信アンテナを用いて反射波を観測するステップと、
上記タグ用アレーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与え該受信アンテナを用いて反射波を観測するステップと、
既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与え該受信アンテナを用いて観測した反射波と、既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与え該受信アンテナを用いて観測した反射波とを比較するステップからなることを特徴とする、アレーアンテナ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、終端となる負荷インピーダンスを可変にしたアンテナを多数備えたアレーアンテナにおいて、負荷のインピーダンス値を制御することによって負荷変調を実現する無線通信システム及びアレーアンテナ制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子タグやIDタグと呼ばれる無線自動識別(Radio Frequency Identification、RFIDと呼ぶ)システムが、バーコードに続く新しい自動認識媒体として注目を集めている。RFIDシステムとは、微小な無線チップが収容されたカード(以下、タグと呼ぶ。)によって人や物品の認証や管理をする技術である。身近な例では、乗車カードや電子マネー、社員証などとして普及している。RFIDシステムはタグとリーダとによって構成され、タグの持つ情報をリーダによって非接触で読み書きする。
【0003】
タグは、アクティブ型とパッシブ型に大別される。アクティブ型のタグは、タグから識別信号(ID信号とも呼ばれる。)を送信する。
一方、パッシブ型のタグは、リーダからの読取信号を利用して識別信号を認証する。パッシブ型のタグは、構造が簡易で電源が不要である。このため、パッシブ型のタグは、小型で安価に量産できるため、RFIDシステムの主流となっている。
【0004】
図9は、従来のパッシブ型のRFIDシステム100の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、従来のパッシブ型のRFIDシステム100は、リーダ用アンテナ110とタグ用アンテナ120からなり、リーダ用アンテナ110には送受分離回路112を介して送信機114と受信機となる受信負荷116が取り付けられている(非特許文献1参照)。
【0005】
送信機114から発せられた高周波信号はリーダ用アンテナ110より送信され、タグ用アンテナ120に到達する。タグ用アンテナ120に到達した高周波信号は反射し再びリーダ用アンテナ110に戻る。
【0006】
リーダ用アンテナ110に取り付けられた送受分離手段112によって戻った反射波は受信負荷116に到達する。タグ用アンテナ120には可変負荷122が取り付けられており、負荷インピーダンス値を制御することによって反射波の位相や振幅を変化させることが可能になる。このように、パッシブ型では,リーダとタグ間との通信には負荷変調方式が用いられている。負荷変調はタグ側のインピーダンスを変化させることで反射波を制御し、リーダに情報を送信する。
【0007】
たとえば、負荷インピーダンス(Z)を開放の大きな抵抗(∞Ω)、又は短絡の0Ωの何れかとし、ビット系列0、1を割り当てることによって、タグからリーダへ信号を伝達することが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】森田他、「次世代ICタグ開発最前線」、NTS、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の無線通信システムでは、タグからリーダへ伝達する情報の量が増加した場合、伝送速度が遅いために伝達に時間がかかるという問題がある。
【0010】
また、可変負荷の単位時間あたりの負荷インピーダンスを切り替える回数(シンボルレートと呼ばれている。)を増加させると反射波の周波数帯域が広がるため、多くの周波数リソースを消費する、あるいは他システムに帯域が及ぶ場合は干渉を生じるという問題がある。このため、高い伝送速度を得ることが困難であった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み、高速伝送が可能となる無線通信システムを提供することを第1の目的とし、無線通信システムに用いるアレーアンテナ制御方法を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1の目的を達成するため、本発明は、タグとリーダとを備えた無線通信システムであって、タグは、それぞれ可変負荷を有している複数のタグ用アレーアンテナと、可変負荷をそれぞれ独立して制御する終端条件可変回路とを具備し、リーダは、タグ用アレーアンテナに信号を送信する複数のアンテナからなる送信アレーアンテナと、タグ用アレーアンテナからの反射波を受信する複数のアンテナからなる受信アレーアンテナと、受信アレーアンテナに接続される復調回路とを具備してなり、無線通信システムが、タグ用アーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与えて受信アレーアンテナと復調回路を用いて反射波を観測し、タグ用アレーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与えて受信アレーアンテナと復調回路を用いて反射波を観測し、既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与えて受信アレーアンテナと復調回路を用いて観測した反射波と、既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与えて受信アレーアンテナと復調回路を用いて観測した反射波とを比較することを特徴とする。
【0013】
上記構成において、可変負荷は、好ましくは、集中定数素子である。可変負荷は、好ましくは、ダイーオード又はトランジスタである。終端条件可変回路は、好ましくは、バイアス回路を備えている
【0014】
上記第2の目的を達成するため、本発明のアレーアンテナ制御方法は、アンテナ毎に個別の終端条件可変機構が接続されたタグ用アレーアンテナと、タグ用アレーアンテナに信号を送信する送信アンテナとタグ用アレーアンテナからの反射波を受信する受信アンテナとからなるリーダと、を備えた無線通信システムにおいて、タグ用アレーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与え受信アンテナを用いて反射波を観測するステップと、タグ用アレーアンテナに既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与え受信アンテナを用いて反射波を観測するステップと、既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与え受信アンテナを用いて観測した反射波と、既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与え受信アンテナを用いて観測した反射波とを比較するステップからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、終端条件可変機構を有するアレーアンテナをタグ用アンテナとして用いることによって、多くの周波数帯域を占有することなくタグ用アンテナの数に応じて高い伝送速度を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の無線通信システムの構成を示すブロック図である。
図2】終端条件可変回路の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の無線通信システムのSパラメータを用いた等価モデルを示す図である。
図4】複素平面上に配置した16通りの反射係数γを示す図である。
図5図1の無線通信システムの制御を示すフロー図であり、(a)は送信アレーアンテナ、(b)は受信アレーアンテナ、(c)はタグ用アレーアンテナの制御を示している。
図6】信号対雑音比が20dBにおいて、インピーダンスを4通り変化させたとき送信機の受信アンテナ1、2における受信信号点の例を示す図である。
図7】雑音電力に対する伝送レートを示す図である。
図8】リーダとタグとの間の距離に対するビット誤り率を示す図である。
図9】従来のパッシブ型のRFIDシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の無線通信システム1の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明の無線通信システム1は、リーダ10とタグ20とで無線通信を行うシステムである。リーダ10は、送信アレーアンテナ12と受信アレーアンテナ14とから構成されている。Mt本の複数のアンテナからなる送信アレーアンテナ12は、アンテナ毎に個別の送信機16を有している。Mr本の複数のアンテナからなる受信アレーアンテナ14は復調回路18に接続されている。送信アレーアンテナ12の本数Mtと受信アレーアンテナ14の本数Mrは、同じ数としてよい。
【0018】
タグ20は、タグ用アレーアンテナ22を備えている。タグ用アレーアンテナ22は、Mp本の複数のアンテナ24とアンテナ24毎に用意された可変負荷26とこれらを制御する終端条件可変回路28からなる。終端条件可変回路28は各可変負荷26を独立して制御が可能である。
【0019】
タグ用アレーアンテナ22、リーダ10用の送信アレーアンテナ12及び受信アレーアンテナ14の各アンテナは、例えばダイポールアンテナ、グランドプレーンアンテナ、スロットアンテナ等を使用することができる。これらの各アレーアンテナ12、14、22は2本以上のアンテナから構成される。
【0020】
各可変負荷26は、異なるインピーダンス値を有している複数の素子の内の任意の素子を選択する終端条件可変回路28により制御される。異なるインピーダンス値を有している素子は、集中定数素子や分布定数素子を用いることができる。異なるインピーダンス値を有している素子は、集中定数素子と分布定数素子との組合せでもよい。素子としては、例えば、複数の抵抗、可変抵抗、可変抵抗特性の得られるダイオード又はトランジスタ等の能動素子を用いることができる。
【0021】
図2は、終端条件可変回路28の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、終端条件可変回路28は、タグ用アレーアンテナ22の各アンテナ24の給電点24aに接続されるpinダイオード26aと直流カット用のコンデンサ28bとpinダイオード26aに接続されるバイアス回路28cとから構成されている。アンテナ24は、例えばダイポールアンテナである。pinダイオード26aは、周波数に応じて選定すれば良く、例えばマイクロ波用pinダイオードが用いられ得る。バイアス回路28cからpinダイオード26aに順方向電圧が印加されると、アンテナ24の給電点24aは抵抗が極めて小さい短絡状態となる。このとき、アンテナ24の給電点24aの負荷は0Ωとなる。バイアス回路28cからpinダイオード26aに逆方向電圧が印加されると、アンテナ24の給電点24aは抵抗が極めて大きい開放(オープン)状態(∞Ω)となる。図2では、1本のアンテナ24を示しているが、少なくとも2本以上のタグ用アレーアンテナ22の各可変負荷26が終端条件可変回路28によって制御される。
【0022】
また、上記条件の中間として、pinダイオード26aに立ち上がり電圧よりも低い順方向電圧を印加すると、pinダイオード26aは可変抵抗として動作する。この条件では、pinダイオード26aを、開放と短絡の中間の抵抗とすることができる。この場合には、アンテナ24の給電点24aの負荷を、開放と短絡の中間の抵抗とした終端状態を実現することができる。中間の終端状態を利用することによって負荷の値を2値以上の状態を実現できる。このため、例えば、負荷の値を4値の状態とした場合には、送信ビット数を2ビットとすることが可能になる。
【0023】
リーダ10の送信アレーアンテナ12に接続される送信機16は、例えば所定の周波数の正弦波を発生する。
【0024】
リーダ10の受信アレーアンテナ14に接続される復調回路18は、タグ用アレーアンテナ22からの反射波を受信して、反射波の振幅と位相、つまり反射係数を測定する機能を備えている。この反射係数の値から、タグ20に接続される可変負荷26の負荷インピーダンスの値を求めることができる。
【0025】
図3は、本発明の無線通信システム1のSパラメータを用いた等価モデルを示す図である。Sパラメータは散乱行列とも呼ばれ、透過波や反射波を用いた測定方法である。基準インピーダンスZは通常50Ωである。Sパラメータにおける反射係数等は、インピーダンスに変換ができ、スミスチャートや極座標等で表示される。
図3に示されている、(αT1, ・・・ , αTMt)は送信アレーアンテナ12からの信号、(αP1, ・・・ , αPMp)はタグ用アレーアンテナ22からの信号、(bT1, ・・・ , bTMr)は受信アンテナへの信号、(bP1, ・・・ , bPMp)は、タグ用アレーアンテナ22への信号である。
【0026】
受信アレーアンテナ14への信号は、下記(1)式で表される。
【0027】
【数1】
ここで、SRT,SRP,SPTは伝送を表す散乱行列であり、STT,SPPはそれぞれ、リーダ10のアンテナ,タグ20のアンテナの反射や結合を表す散乱行列である。
【0028】
タグ20の負荷インピーダンスの反射係数であるΓは、αPをタグ用アレーアンテナ22からの反射信号、bPをタグ用アレーアンテナ22への入射信号とすると、下記(2)式で定義される。
【0029】
【数2】
【0030】
負荷インピーダンスの反射係数であるΓは、タグ用アレーアンテナ22に接続される負荷インピーダンスZ、Z・・・ZMPと基準インピーダンスZとにより下記(3)式で表される。
【0031】
【数3】
【0032】
タグ用アレーアンテナ22に接続される負荷インピーダンスZは、復調回路18で測定された反射係数γから下記(4)式で求められる。
【0033】
【数4】
ここで、Zは基準インピーダンスである。
【0034】
これにより、タグ20の可変負荷26の負荷インピーダンスの取り得る値は、リーダ10の受信アレーアンテナ14に接続される復調回路18で測定される反射係数γにより求めることができる。
【0035】
一例として、伝送レートを4ビット/シンボル/タグ用アンテナとした場合を説明する。この場合、各ビットの可変負荷26の負荷インピーダンスを∞Ω、又は短絡の0Ωの2通りとすれば、4ビットの場合の負荷インピーダンスは、2×2×2×2の16通り存在することになる。
【0036】
図4は、複素平面上に配置した16通りの反射係数γを示す図である。図4の横軸が実数軸、縦軸が虚数軸である。図中の円の半径は1である。図4に示すように、16通りの反射係数γが円内に配置されており、かつ、図示するように反射係数γのそれぞれが最も離れるように配置すれば、リーダ10の復調回路18で容易に識別される。
【0037】
図5は、図1の無線通信システム1の制御を示すフロー図であり、それぞれ(a)は送信アレーアンテナ12、(b)は受信アレーアンテナ14、(c)はタグ用アレーアンテナ22の制御を示している。
まず本制御の手順を開始すると、送信アンテナ、つまり、送信アレーアンテナ12より信号を送信するものとする。信号は以降継続して送信されているものとする。ここで、信号は無変調の正弦波とすることができる。
【0038】
次の段階はトレーニングフェーズと定義する。リーダ10及びタグ20の双方は事前にタグ用アレーアンテナ22の終端条件のN通りの組合せを知っているものとする。これは、無線通信のトレーニング信号に対応する。トレーニングフェーズでは、最初にタグ用アレーアンテナ22に1番目の終端条件の組合せを与える。
この組合せZを、下記(5)式で定義する。
【0039】
【数5】
【0040】
次に、受信アレーアンテナ14では1番目の終端条件を与えた場合の反射波を観測する。このとき観測される信号ベクトルyT1を、下記(6)式で定義する。
【0041】
【数6】
【0042】
この手順が終わると次の終端条件の組合せを与え、同様に反射波を観測するものとする。つまり、下記(7)式で表されるi番目の終端条件に対する反射波は、下記(8)式で表される。
【0043】
【数7】
【0044】
【数8】
【0045】
以上のように異なる終端条件の組合せをN回与え、N通りの反射波[yT1,yT2,・・・,yTN]を受信アレーアンテナ14で観測する。ここで、受信アレーアンテナ14で観測される反射波は各受信アレーアンテナ14毎に異なる値となる。
【0046】
次の段階はデータ転送フェーズであり、タグ用アレーアンテナ22に既知の終端条件の組合せの何れか、例えばk番目の終端条件の組合せを設定する。
次に、受信アレーアンテナ14は反射波yを観測しトレーニングフェーズで観測された反射波と最も近いものを推定する。推定する際に、最尤推定を用いる場合、下記(9)式のようにしてiを求める。最尤推定を用いた受信方法は、最尤複合(Maximum Likelihood Detection、DML)と呼ばれている。
【0047】
【数9】
【0048】
さらに、その後もタグ用アレーアンテナ22は、データに応じてトレーニングフェーズで与えた何れかの終端条件の組合せに切り替えることによって、リーダ10に向けて情報を伝達する。
【0049】
本発明の無線通信システム1におけるタグ用アレーアンテナ22では、以下のステップで制御される。
(ステップ1)
タグ用アレーアンテナ22に既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与え受信アンテナを用いて反射波を観測するステップ。
(ステップ2)
タグ用アレーアンテナ22に既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与え受信アンテナを用いて反射波を観測するステップ。
(ステップ3)
タグ用アレーアンテナ22に既知である複数の終端条件の組合せを既知の順番で逐次的に与え受信アンテナを用いて観測した反射波と、既知である複数の終端条件の組合せを任意の順番で与え受信アンテナを用いて観測した反射波とを比較するステップ。
ここで、受信アンテナは、無線通信システム1における受信アレーアンテナ12である。
【0050】
(無線通信システムのシミュレーション)
次に、本発明の無線通信システム1のシミュレーションについて説明する。
リーダ10用の送信アレーアンテナ12、受信アレーアンテナ14、タグ用アレーアンテナ22を全て2素子のダイポールアンテナとしてシミュレーションを行った。つまり、アンテナ数は2本である。
周波数は、2.4GHz、リーダ10側の素子間隔を1λ(λは真空中の波長である。)、タグ20側の素子間隔を0.25λとする。また雑音はガウス分布に従うものとする。
リーダ10とタグ20との間、送信アレーアンテナ12と受信アレーアンテナ14との間のチャネルは、リングモデルによって計算した。送信機16、タグ20、受信機とも水平面上にランダムに散乱体が分布するものとし、散乱体数はそれぞれ10とした。
復号アルゴリズムには(5)式の最尤推定を用いる。負荷インピーダンスを変化させることでシンボルを表現し、シンボル長は負荷インピーダンスが切り替わる時間間隔とする。
【0051】
図6(a)、(b)に信号対雑音比(SNR)が20dBにおいて、インピーダンスを4通り変化させたときの受信アンテナA、Bにおける受信信号点の例を示す。
図6に示すように、円が理想的な受信信号点であり、×は雑音が加えられた受信信号点である。この図から信号点数が図4で説明したように16となり、4ビット/シンボルの伝送レートが実現できることが分かる。
【0052】
図7は、雑音電力に対する伝送レートを示す図である。ここで、アンテナがタグ用アレーアンテナ22である場合と、従来のシングルアンテナ(Single Input Single output、SISOと呼ぶ。)の構成について比較した。また伝送レートは、ビット誤り率(Bit Error Rate、BERと表記する。)10−2を基準として多値化するものとした。送信電力は20dBmとし、リーダ10とタグ20との間、送信機16と受信機との間の距離を3mとした。
図7に示すように、伝送レートが4ビット/シンボルのとき、本発明の無線通信システム1の場合には、雑音電力がSISOより8dB高くても同等のBER特性を達成でき、本発明の効果である高速伝送が可能であることが確認できた。
【0053】
本発明の無線通信システム1ではアンテナ数が2本の場合には、SISOと同等のビット誤り率を得る雑音電力の差は17.3dBであった。アンテナ数が4本及び6本の場合の雑音電力の差は、それぞれ29.5dB、31.8dB改善された。アンテナの本数が増えるほど改善されるが,その値は飽和してくることが分かった。
【0054】
図7の結果から、多値化するほどその効果は大きく、本発明の無線通信システム1は高速伝送に適していることが分かる。
【0055】
図8は、リーダ10とタグ20との間の距離に対するビット誤り率を示す図である。図8の横軸は、リーダ10とタグ20との間の距離(m)であり、縦軸はビット誤り率である。送信電力は10m、20dBm、30dBmと変化させ、ビット誤り率は、自由空間の伝搬損失を考慮したときの値である。アンテナ数は図7の場合と同様に、リーダ10用送信アレーアンテナ12、受信アレーアンテナ14及びタグ用アレーアンテナ22で、それぞれ2本である。雑音電力は−100dBmで一定、伝送レートは4ビット/シンボルである。
【0056】
図8に示すように、BERが10−2であるときを基準とした場合、送信電力が10dBm(10mW)では、4.1m、30dBm(1000mW)では12.9mまで通信が可能であることが分かる。
【0057】
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1:無線通信システム
10:リーダ
12:送信アレーアンテナ
14:受信アレーアンテナ
16:送信機
18:復調回路
20:タグ
22:タグ用アレーアンテナ
24:アンテナ
24a:給電点
26:可変負荷
26a:pinダイオード
28:終端条件可変回路
28b:直流カット用のコンデンサ
28c:バイアス回路
図1
図2
図3
図4
図5
図8
図9
図6
図7