【実施例】
【0064】
以下のようにして脱臭材を作製し、得られた脱臭材の脱臭能について検証した。
【0065】
(脱臭材の作製)
不飽和ポリエステル樹脂組成物として、クリアポリエステル樹脂(品番:F−04、株式会社エポック)100mlにローズベンガルを1.5g添加して攪拌し、溶解させた。
ついで、硬化剤(パーキュアーHB(商品名:日油株式会社)(成分:エチルメチルケトンパーオキサイド、フタル酸ジメチル))を2ml添加して、型枠に流し込み、硬化させ、脱臭材を得た。
脱臭材を型枠から取り出し、下記の各実験条件に記した形状に解砕した。この脱臭材を以下、脱臭材Es1.5と記す。
また、クリアポリエステル樹脂100mlに対し、ローズベンガルを2.0g、3.0gをそれぞれ溶解させ、上記と同様にして脱臭材を得た。この脱臭材をそれぞれ脱臭材Es2.0、脱臭材Es3.0と記す。
【0066】
また、ポリアクリル樹脂を用い、脱臭材を作製した。アクリル樹脂組成物(アクリル樹脂SS101、株式会社エポック)(主剤:メタクリル酸メチル(66wt%)、アクリル樹脂(34wt%))100gに、ローズベンガル1.0gを添加して攪拌し、硬化剤(ナイパーE(商品名:日油株式会社)(成分:ベンゾイルパーオキサイド)を0.25g添加した以外、上記と同様にして脱臭材を得た。この脱臭材を脱臭材Ac1.0と記す。
また、ローズベンガルの配合量を2.0g、3.0gとした以外、上記と同様にして脱臭材を得た。この脱臭材をそれぞれ脱臭材Ac2.0、脱臭材Ac3.0と記す。
【0067】
また、ポリエポキシ樹脂を用い、脱臭材を作製した。エポキシ樹脂組成物(高透明度エポキシ樹脂(PROCRYSTAL770:主剤(ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを重合させて得られたエポキシ樹脂)200g、硬化剤(変性脂環式ポリアミンと変性脂肪族ポリアシンが配合されたもの)130g)、テムコファイン株式会社)を用い、ローズベンガルを2g添加した以外、上記と同様にして脱臭材を得た。この脱臭材を脱臭材Epと記す。
【0068】
なお、上記の脱臭材の作製作業は、全て室温で行った。以上のようにして得られた各脱臭材を以下の実験に供した。
【0069】
(実施例1:混合ガスの流速による脱臭能への影響の検証)
脱臭材の脱臭能の検証に用いた装置構成を
図4に示す。サイクロン式の脱臭装置4を構築し、容器10内に脱臭材を充填した。そして、この脱臭装置4をチャンバー60内に設置した。なお、チャンバー60内は密閉された暗室である。また、容器10の内容積(脱臭材を充填可能な容積)は1L、チャンバーの内容積は5Lである。
【0070】
臭気ガスと空気を混合した混合ガスをチャンバーに封入し、装置を駆動させた。チャンバー内の混合ガスは導入路から容器内に入り、容器内にて脱臭材に接触したのち、排出部からチャンバーに排出され、容器内を混合ガスが循環する仕組みである。そして、経時的にチャンバー内の臭気ガスの残存率(%)を測定した。また、混合ガスの流速は脱臭装置の入口部にて測定した。
【0071】
以下に記す実験条件で混合ガス中の臭気ガスを分解した。
・光強度:30,000ルクス
・充填した脱臭材:脱臭材Es2.0(3〜10mmの略角柱体形状)
・脱臭材の充填量:160g
・臭気ガス:メチルメルカプタン
・混合ガスの流速:12.8L/min、6.4L/min、3.2L/min
【0072】
その結果を
図5に示す。いずれの流速においても、最終的にメチルメルカプタンの残存率が0%となり、メチルメルカプタンを完全に分解できていることがわかる。また、循環させる混合ガスの流速が速くなるにしたがって、メチルメルカプタンの分解速度が速くなっている。混合ガスの流速が速いほど、光増感色素によって発生する一重項酸素とメチルメルカプタンとの接触回数が増加するためと考えられる。
【0073】
(実施例2:臭気ガスの流速による脱臭能への影響の検証)
つづいて、臭気ガスを硫化ジメチルに代える以外、実施例1と同様にして行った。
実験条件を以下に記す。
・光強度:30,000ルクス
・充填した脱臭材:脱臭材Es2.0(3〜10mmの略角柱体形状)
・脱臭材の充填量:160g
・臭気ガス:硫化ジメチル
・混合ガスの流速:12.8L/min、6.4L/min、3.2L/min
【0074】
その結果を
図6に示す。メチルメルカプタンに比べて、分解速度は遅いものの、硫化ジメチルの残存率が徐々に減少しており、硫化ジメチルを分解できていることが実証された。また、メチルメルカプタンと同様に、混合ガスの流速が速いほど分解速度が向上している。
【0075】
(実施例3:光増感色素と不飽和ポリエステル樹脂組成物との配合比率による影響の検証)
つづいて、不飽和ポリエステル樹脂組成物中の光増感色素の配合量が臭気ガスの分解に及ぼす影響について検証した。
【0076】
下記の実験条件にて、実施例1と同様にしてメチルメルカプタンの分解を行った。
・光強度:30,000ルクス
・充填した脱臭材:脱臭材Es1.5、脱臭材Es2.0、脱臭材Es3.0(いずれも3〜10mmの角柱体形状)
・脱臭材の充填量:160g
・臭気ガス:メチルメルカプタン
・混合ガスの流速:12.8L/min
【0077】
その結果を
図7に示す。脱臭材Es2.0が最も分解速度が速く、20分経過時にはメチルメルカプタンの残存率は0%である。脱臭材Es1.5では、200分経過時にメチルメルカプタンの残存率が0%となった。一方、脱臭材Es3.0では、分解速度が遅く、240分経過時でもメチルメルカプタンが残存していた。脱臭材Es3.0では、後述するように光の透過率がほぼ0%であるため、容器の外側(光が照射される側)の脱臭材の光増感色素のみが励起されるに過ぎず、一重項酸素の発生量が少なかったためと考えられる。
【0078】
(実施例4:光増感色素と不飽和ポリエステル樹脂組成物との配合比率による影響の検証)
つづいて、臭気ガスを硫化ジメチルに代える以外、実施例3と同様にして行った。
【0079】
実験条件を以下に示す。
・光強度:30,000ルクス
・充填した脱臭材:脱臭材Es1.5、脱臭材Es2.0、脱臭材Es3.0(いずれも3〜10mmの角柱体形状)
・脱臭材の充填量:160g
・臭気ガス:硫化ジメチル
・混合ガスの流速:12.8L/min
【0080】
その結果を
図8に示す。全体的にメチルメルカプタンの場合と比べて分解速度は遅いが、実施例3と同様に、脱臭材Es2.0、脱臭材Es1.5、脱臭材Es3.0の順に分解速度が速い傾向であった。
【0081】
(比較例1:脱臭材Acの脱臭能の検証)
つづいて、不飽和ポリエステル樹脂組成物の代わりに、ポリアクリル樹脂組成物を用いて作製した脱臭材Acについて、その脱臭能を検証した。
【0082】
・光強度:30,000ルクス
・充填した脱臭材:脱臭材Ac2.0(3〜10mmの略角柱体形状)
・脱臭材の充填量:160g
・臭気ガス:メチルメルカプタン
・混合ガスの流速:12.8L/min
【0083】
その結果を
図9に示す。脱臭材Es2.0の場合では、20分後には、メチルメルカプタンの残存率が2〜3%とほぼ分解されているのに対し、脱臭材Ac2.0では、メチルメルカプタンの残存率は90〜95%とあまり分解されていなかった。すなわち、脱臭材Ac2.0では、ローズベンガルの配合量が同量である脱臭材Es2.0に比べて、メチルメルカプタンの分解速度は極めて遅いことがわかる。これは、脱臭材Ac2.0に光を照射しても、脱臭材Ac2.0中のローズベンガルがさほど光励起しておらず、一重項酸素の発生量が少ないと考えられる。このことから、アクリル樹脂組成物を用いて得られる脱臭材は、脱臭効果が劣り、不適当であるといえる。
【0084】
(検証例1:光透過率及び吸光スペクトルの検証)
ポリアクリル樹脂組成物、不飽和ポリエステル樹脂組成物の臭気成分の分解能の違いについて、更に検証すべく、脱臭材Es、脱臭材Acの透過率を測定した。
【0085】
日立分光光度計(U−2001)にて、セル内に脱臭材Es1.5、2.0、3.0(厚み2mm、幅8mm、長さ20mm)をそれぞれ挿入し、波長:700nm〜400nmまでの吸光度をスキャンした。そして、ローズベンガルの最大吸収波長567nmにおける吸光度を測定し、透過率を求めた。
【0086】
なお、マーカーで黒く塗った紙を6重にしてセル内に挿入し、光を遮断して吸光度を測定すると、吸光度は2付近であったため、この吸光度を透過率0%とし、それぞれの透過率を換算して求めた。
【0087】
脱臭材Es1.5、2.0、3.0の吸光度及び透過率を表1に示す。なお、表1中におけるポリエステル樹脂は、上記の脱臭材Esの作製において、ローズベンガルを添加せずに得られたものである。
【0088】
【表1】
【0089】
表1をみると、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いて得られた脱臭材(脱臭材Es1.5、2.0、3.0)では、色素の配合量が増加するにつれて、透過率が低下している。脱臭材Es3.0では、透過率が0%であり、ほぼ光が透過していないことがわかった。これは、実施例4にて、脱臭材Es3.0におけるメチルメルカプタン及び硫化ジメチルの分解速度が遅いことの原因と考えられる。
【0090】
また、上記と同様に、脱臭材Ac1.0、2.0、3.0(厚み1mm、幅8mm、長さ20mm)についても、吸光度を測定し、透過率を求めた。なお、脱臭材Ac1.0、2.0、3.0は、2枚重ね、2mmの厚みにして吸光度を測定した。脱臭材Es1.5、2.0、3.0の吸光度及び透過率を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2を見ると、ポリアクリル樹脂組成物を用いて得られた脱臭材Ac1.0と脱臭材Ac2.0とでは、色素の配合量が変化しても、透過率の変化はほぼなく、脱臭材Ac3.0では0%となった。
【0093】
更に、脱臭材Es1.5、2.0、3.0、及び、脱臭材Ac1.0、2.0、3.0、並びに、ポリエステル樹脂の吸光スペクトルを
図10に示し検討する。
【0094】
脱臭材Es1.5、2.0では、500nm〜600nmの範囲(
図10中、丸で囲っている箇所)でローズベンガル特有のピークが見られる。即ち、脱臭材Es1.5、2.0中のローズベンガルが励起され、一重項酸素を発生させ得ることを示している。脱臭材Es3.0では、光透過率が0%であるため、同様のピークは見られなかった。
【0095】
一方、脱臭材Ac1.0、2.0については、光透過率が20%以上であるにも関わらず、いずれも脱臭材Es1.5、2.0で現れたローズベンガル特有のピークが現れなかった。このことは、アクリル樹脂中にローズベンガルを分散させても、ローズベンガルは光励起されない、即ち、一重項酸素を発生させることができず、一重項酸素発生による臭気成分の分解メカニズムを果たし得ないことを示している。
【0096】
(検証例2:光増感色素の樹脂組成物への溶解性の検証)
200mlの水を入れたビーカーを用意し、これに脱臭材Es2.0(10g,3〜10mmの略角柱体形状)を投入した。また、同様にして、脱臭材Ac2.0(10g,3〜10mmの略角柱体形状)、脱臭材Ep(10g,3〜10mmの略角柱体形状)をそれぞれ水に投入した。
【0097】
脱臭材Ac2.0、脱臭材Epでは、いずれも水に投入した直後に、すぐさま水が赤く着色された。脱臭材Ac2.0、脱臭材Epでは、樹脂中のローズベンガルが溶け出すことがわかった。これは、ローズベンガルの粒子がアクリル樹脂、エポキシ樹脂に完全には溶解せず、ローズベンガルの粒子は樹脂中にそのまま分散した形態であることを示している。
【0098】
一方、脱臭材Es2.0では、水に投入してそのまま放置し、3分経過後においても、水がほとんど着色されなかった。不飽和ポリエステル樹脂とローズベンガルとの相溶性が良好であり、不飽和ポリエステル樹脂にローズベンガルが十分に溶解した形態であるため、ローズベンガルが溶け出さなかったことを示している。
【0099】
これらの結果から、どのような樹脂組成物に光増感色素を溶解させても、光増感色素の光励起によって一重項酸素を発生させ臭気成分を分解する機能を果たす脱臭材が得られるものではなく、不飽和ポリエステル樹脂組成物と光増感色素を組み合わせた場合に、光増感色素が十分に溶解し、優れた脱臭能を有する脱臭材が得られることがわかった。