(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これら従来の技術では、複数種類の標的配列を混合させること無く、且つ、ハイスループットに増幅させることは困難である。
【0013】
例えば、特許文献1に記載の技術では、一つの反応溶液中で複数種類のプライマーを用いることができないため、複数種類の特定配列を増幅することは困難である。また、キャピラリー中にPCR溶液を吸い上げたものを使用するが、もともと微量の体積のキャピラリーではすぐに乾燥してしまい、結果の再現性が高くないと考えられる。
【0014】
特許文献2に記載の技術では、増幅されうる断片数はきわめて多量であるものの、特許文献1に記載の技術と同様に、一つの反応溶液中(一つの微小液滴ゲル中)で複数のプライマー対を使用できない。また、増幅反応後の検出に際しては、エマルジョン中の微小液滴ゲルの慎重な取り扱いが必要になることのほか、各々の微小液滴ゲル中に含まれる増幅産物の種類が不明であるため別途シークエンシングによる同定が必要となることから、高度な技術や高額な装置が必要となるため、実用化は困難である。
【0015】
特許文献3に記載の技術では、複数種類のプライマー対を用いて個別にPCRを実施することは可能であるが、プライマー自体は単に各画分中に乾燥固着されているだけなので、PCR溶液接触時にキャピラリーの開放部が水系の溶液を介して連結され、溶解されたプライマー対が混合し、意図しない増幅産物が発生する可能性が高い。また、増幅産物の検出時に、キャピラリー中からPCR溶液を回収する必要がある。回収する必要がない実験系においては、検出時にPCR溶液をキャピラリーから漏洩させることなく、かつ乾燥させない工夫が必要となる等、操作が煩雑である。
【0016】
非特許文献1に記載の技術では、プライマーを固定化した担体を用いたPCRに比較すれば増幅効率は向上するが、PCR初期の反応は固相のみで行われるため、水相におけるPCRに比較すると、増幅効率が低く反応により多くの時間を要する。また、液相中で共通プライマーを使用することから、サンプル中にもともと多く存在する標的核酸配列の増幅に多くの共通プライマーが使用され、元の量の少ない標的核酸配列については検出できない可能性がある。つまり、量比によっては、増幅されなくなる標的核酸配列が存在する可能性がある。
【0017】
そこで、本発明の目的は、検出対象となる複数の標的核酸配列を正確かつ効率的に増幅し、検出することができる核酸増幅用基材、及び当該基材を用いた核酸増幅方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、加熱によって溶解する親水性ゲルを介して異なる種類の核酸増幅用プライマー対とポリメラーゼ及びバッファー成分とを保持した、アレイ化された複数の画分を有する基材を用いれば、検出対象となる複数の標的核酸配列を正確かつ効率的に増幅し、検出することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(I)アレイ化された複数の画分を有し、当該画分中に、核酸を増幅するための異なる種類のプライマー対、ポリメラーゼ及びバッファー成分を含む加熱により溶解し得る親水性ゲルが保持された、核酸増幅用基材。
【0020】
上記(I)に記載の基材は、各画分中のプライマーの濃度が、例えば、1〜1000fmol/μLであってもよい。
また、バッファー成分が、例えば、KCl、Tris−HCl、MgCl
2、ゼラチン及びTriton X−100からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものであってもよい。
また、親水性ゲル(加熱により溶解し得る親水性ゲル)が、アガロース、アルギン酸、デキストラン、ビニルアルコール及びエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種をモノマー成分として用いて調製されたゲルであってもよく、特に、アガロースゲルが好ましい。ここで、親水性ゲルの濃度は、例えば、0.5〜2質量%であってもよい。
【0021】
上記(I)に記載の基材における各画分の大きさは、例えば、該画分の形状の最大幅が10μm〜1000μmであってもよい。
【0022】
(II)下記工程を含む、上記(I)に記載の核酸増幅用基材の製造方法。
(1)複数本の中空繊維を、中空繊維の各繊維軸が同一方向となるように3次元に配列し、その配列を樹脂で固定することにより、中空繊維束を製造する工程
(2)プライマーを含むゲル前駆体溶液を、予め加温した中空繊維束の各中空繊維の中空部に導入する工程
(3)中空繊維束の中空部に導入したゲル前駆体溶液を反応させ、プライマーを含むゲル状物を中空繊維の中空部に保持する工程
(4)疎水性の液体中で、中空繊維束を繊維の長手方向に交差する方向で切断して薄片化する工程
【0023】
(III)上記(I)に記載の核酸増幅用基材とテンプレート供給用基材とを含む、核酸増幅用キット。
【0024】
(IV)上記(I)に記載の核酸増幅用基材の各画分にテンプレートを供給する工程、及び、当該供給後の基材を加熱する工程を含む、核酸増幅方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、標的核酸配列を異にするプライマー対が互いに混合することなく、複数種類のプライマー対を用いた核酸増幅反応を実施することが可能となる。
【0026】
また、プライマーが固相に固定化されていないため、加熱によりゲルを液化した際にプライマーが遊離し、液相での核酸増幅反応と同等の速さで実施することが可能である。ゲルの持つ保水力のため、少ない体積であっても乾燥が進みにくく、PCRの安定性が高くなる。
【0027】
さらに、標的核酸配列に共通のプライマーを使用することもないため、増幅反応の対象となる標的核酸配列間でのプライマーの奪い合いがおきず、元の標的核酸の量比が増幅結果に影響を与えることもない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2011-263730号明細書等(2011年12月1日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0030】
1.アレイ化された複数の画分を有する核酸増幅用基材
本発明に用いる核酸増幅用基材(以下、「基材」ということがある。)の素材(原料)は、加熱処理を行う反応容器として用いるため、例えば100℃以上の温度下でも形状を維持できるものであることが好ましく、より好ましくは110℃以上の温度下でも形状を維持できるものである。このような素材としては、例えば、ガラス、シリコン、樹脂等が挙げられる。樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂等を使用することができる。
【0031】
基材の形状は特に限定されない。例えば、立方体、直方体(例えば、
図1に例示するような板状)、多角柱、三角柱、円柱、楕円柱等が挙げられる。取り扱い性や反応、検出時における市販機器との適合性の観点から立方体又は直方体が好ましい。
【0032】
基材の大きさについても特に限定はされない。例えば、ハイスループット性の面から、市販のサーマルサイクラー等の加熱機器を用いた場合に、当該機器内に24枚以上設置できることが好ましく、96枚以上設置可能な大きさであることがより好ましい。従って、正方形または長方形の板状構造とするのであれば、一辺(長方形の場合は長い方の辺)が4〜14mmの矩形が好ましく、一片が6〜12mmの矩形がより好ましい。
【0033】
基材の厚さに関しても特には限定されず、市販のサーマルサイクラー等の加熱機器において使用可能な厚さであることが好ましい。例えば、1μm〜5000μmが好ましく、10μm〜2000μmがより好ましく、100μm〜500μmがさらに好ましく、場合により100μm〜250μmであることも好ましい。
【0034】
本発明の基材は、複数の画分を有する。画分の形状は特には限定されず、例えば、立方体、直方体、円柱、楕円柱、三角錐、四角錐、半球等の形状が挙げられる。これらの中でも、作業性の良さ、製造し易さ等の観点から、立方体、直方体、円柱等が好ましい。
【0035】
画分の大きさも限定されず、例えば、基材の大きさや基材に設ける画分数等に応じて適宜選択することができる。例えば、画分の形状は、該形状の最大幅(具体的には、円柱の場合は内径、立方体の場合は一辺の長さ、直方体の場合は長辺の長さ)が、それぞれ、10μm〜1000μm程度であることが好ましく、90μm〜500μm程度がより好ましく、150μm〜180μmがさらに好ましい。
【0036】
画分の深さも特に限定はされず、基材の厚さ等に応じて適宜選択することができる。例えば、1μm〜5000μmが好ましく、10μm〜2000μmがより好ましく、100μm〜500μmがさらに好ましく、場合により100μm〜250μmであることも好ましい。
【0037】
本発明の基材において、画分は
図2に断面図を例示するように基材を貫通していてもよく、貫通していなくてもよい。画分が基材を貫通する場合は、画分の深さは基材の厚さと等しくなる。一方、画分が基材を貫通しない場合、画分の深さは、基材の厚さよりも小さくなる。
【0038】
一つの基材で一度に多くの標的核酸配列を増幅するために、基材には可能な限り多数の画分が設置されることが好ましい。好ましくは50以上、より好ましくは100以上、さらに好ましくは200以上である。
本発明において、基材が有する複数の画分は、アレイ化されたものである。アレイ化とは、例えば、どのような種類のプライマー対が、どの画分に含まれているか(配置されているか)が明確となっていることを含む意味である。
【0039】
基材表面は、核酸増幅反応が実施可能な範囲で各種処理を行うことが可能である。例えば、基材の平面上に撥水性樹脂をコーティングすることにより撥水加工を施してもよいし、プラズマ処理により親水化してもよいし、ガンマ線照射等で滅菌処理してもよい。
【0040】
2.親水性ゲル
本発明の基材の画分中に保持するゲルの種類は、核酸増幅反応を行うことができる限り限定されない。酵素反応を行う必要があるので、親水性ゲルを使用するのが好ましい。親水性ゲルの中でも、加熱により溶解し得るものが好ましく、具体的には、室温付近(好ましくは25℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは35℃以下)においてはゲルとして存在し、核酸増幅反応を実施する温度(例えば、好ましくは60℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは40℃以上の加熱条件下)においては液相(溶液状)であるものが好ましい。核酸増幅反応時には溶液中(加熱により溶解した親水性ゲル中)で当該反応が効率良く進み、その他の時にはゲルを形成することにより、取り扱いやすいからである。
【0041】
このような親水性ゲルの中でも、アガロース、アルギン酸、デキストラン、ビニルアルコール、エチレングリコール等をモノマー成分として使用して調製されたゲル好ましい。これらのモノマー成分は単独で使用することもできるし、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0042】
また、ゲルそのものが核酸増幅反応の反応を阻害しない素材であることが好ましい。このような観点から、例えば、タカラバイオ(社)製のAgarose LO3を初めとするアガロースゲルが特に好ましい。
【0043】
本発明で使用するゲルの濃度は、0.5〜2質量%が好ましく、0.7〜1.8質量%がより好ましく、0.9〜1.6質量%がさらに好ましい。0.5質量%以上とするのは、ゲル強度が著しく低下するのを避けるためである。2質量%以下とするのは、温度を上昇させたときにゲルを容易に再溶解できるからである。
【0044】
本発明の基材においては、上記親水性ゲルは、後述する核酸増幅用プライマー等を含む核酸増幅反応溶液とともに、各画分中に保持される。すなわち、当該保持後の各画分中における親水性ゲルには、核酸増幅反応溶液が含まれている状態となる。
【0045】
3.核酸を増幅するためのプライマー等
複数種類の標的核酸配列を増幅するためには、アレイ化された複数の画分に、画分ごとに異なる種類のプライマー対が搭載されている必要がある。プライマー自体は、DNAからなるオリゴヌクレオチドであってもよいし、特異性及び反応性に影響の無い範囲において、RNAやPNA、LNA等を用いることも可能である。
【0046】
これら異なる種類のプライマー対は、標的核酸配列の増幅に必要な特異性が確保可能な範囲で、それぞれ、GC含量や配列長を調整し、核酸増幅反応の反応条件がプライマー間で同等となるように設計されたものであることが望ましい。例えば、アニーリングの温度や標的配列である増幅産物の長さが著しく異なる場合、それぞれの画分において、適切な反応温度や時間が異なり、同時に反応させることが困難となる可能性があると考えられるためである。このようなプライマーの設計は、当業者において適宜実施することが可能である。
【0047】
一組のプライマー対は、一箇所の画分のみに含まれていてもよいし、複数の画分に含まれていてもよい。同一のプライマー対を複数の画分に搭載することによって、再現性を検証することも可能であるし、増幅の認められた画分と認められなかった画分の個数から、標的核酸の定量をすることも可能である。
【0048】
プライマーは、核酸増幅反応に使用できる限りにおいて、アミノ化、ビオチン化、蛍光標識等の修飾がなされていてもかまわない。また、目的によっては、1つの画分中に2種類以上のプライマー対が含まれていてもかまわない。
【0049】
各画分に含まれるプライマーの濃度は特には限定されず、標的核酸の種類や増幅反応に使用する酵素の種類等によって適宜選択することができる。例えば、1〜1000fmol/μLであることが好ましく、10〜100fmol/μLであることがより好ましく、20〜50fmol/μLであることがさらに好ましい。1fmol/μL以上とすることにより、効率的に標的核酸配列が増幅させることができる。また、1000fmol/μL以下とすることにより、非特異的な増幅やプライマーダイマーの形成を抑制することができる。
【0050】
なお、画分中に前記親水性ゲルとともに保持される核酸増幅反応溶液には、上記プライマー以外の各種成分、例えばdNTPや、バッファー成分、DNAポリメラーゼ等を予め含有させることができ、場合によってはSYBR Green IやEtBr、PicoGreen等の二本鎖核酸特異的なインターカレータを予め含有させることも可能である。ゲルの保水性を高めるために、グリセロールを含んでいてもよい。複数種類のサンプルを扱う場合でなければ、テンプレート溶液を予め導入しておくことも可能である。
【0051】
ここで、バッファー成分としては、限定はされないが、例えば、50mM KCl、10mM Tris−HCl(pH8.4〜9.0、25℃)、1.5mM MgCl
2、0.01% ゼラチンまたは0.01% Triton X−100の混合物等が好ましく挙げられる。
【0052】
また、DNAポリメラーゼとしては、限定はされないが、例えば、polI型の耐熱性DNAポリメラーゼ、例えばTaqポリメラーゼやTthポリメラーゼ、もしくはα型の耐熱性ポリメラーゼ、例えばPfuポリメラーゼやKODポリメラーゼ等が好ましく挙げられる。
【0053】
4.本発明の基材の製造
本発明の核酸増幅反応用基材は、基材を作製した後に画分を形成することもできるし、中空の管や繊維を用いて基材を製造することもできる。例えば、以下の工程を含む方法により安価かつ大量に製造することが可能である。
(1)複数本の中空繊維を、中空繊維の各繊維軸が同一方向となるように3次元に配列し、その配列を樹脂で固定することにより、中空繊維束を製造する工程
(2)プライマー対を含むゲル前駆体溶液を、予め加温した中空繊維束の各中空繊維の中空部に導入する工程
(3)中空繊維束の中空部に導入したゲル前駆体溶液を反応させ、プライマー対を含むゲル状物を中空繊維の中空部に保持する工程
(4)疎水性の液体中で、中空繊維束を繊維の長手方向に交差する方向で切断して薄片化する工程。
【0054】
本方法に使用できる繊維としては、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維等が挙げられる。合成繊維の代表例としては、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等の各種繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネート等のポリエステル系の各種繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル系の各種繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の各種繊維、ポリビニルアルコール系の各種繊維、ポリ塩化ビニリデン系の各種繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン系の各種繊維、フェノール系繊維、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等から成るフッ素系繊維、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系の各種繊維等が挙げられる。半合成繊維の例としては、ジアセテート、トリアセテート、キチン、キトサン等を原料としたセルロース系の各種再生繊維(レーヨン、キュプラ、ポリノジック等)等が挙げられる。天然繊維の代表例としては、綿、亜麻等の植物繊維、羊毛、絹等の動物繊維、石綿等の鉱物繊維等が挙げられる。
【0055】
繊維の形態としては、公知の中空繊維を使用することができる。繊維の直径は、1mm以下、数十ミクロン以上が好ましい。また、このようにして作られた画分の内壁は、BSA等のタンパク質吸着阻害作用を有する物質で覆うことで、ポリメラーゼ等が吸着することを防止することも可能である。放射線処理等での滅菌や、プラズマ処理等での親水化も可能である。
【0056】
ゲルを介して生体関連物質を保持するとは、例えば、繊維が中空繊維の場合は中空部に、ゲルが化学的又は物理的な相互作用を利用して保持され、保持されているゲルに生体関連物質が化学的又は物理的な相互作用を利用して保持されている状態をいう。本方法に用いることができるゲルは、特に制限されないが、例えば、アガロース、アルギン酸、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。
【0057】
次に複数の繊維が包埋された中空繊維束について説明する。
複数の繊維を各繊維軸が略同一となるように整然と配列するには、例えば、WO00/53736号記載の配列治具を用いて規則正しく配列させる。配列を構成する繊維の本数は、1cm
2あたり10〜1,000,000本で配列させることができる。当該繊維の本数は、本発明の基材の画分数に応じて適宜選択することができる。
【0058】
前記配列した繊維を固定するために、配列状態の繊維間に包埋剤を均一に注入して硬化させる。包埋剤の種類は、架橋性プレポリマーから成る包埋剤、重合オリゴマーと触媒から成る包埋剤及び熱可塑性ポリマー等が挙げられる。
【0059】
架橋性プレポリマーから成る包埋剤としては、ポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリウレタン樹脂は、主剤である架橋性プレポリマーのポリイソシアネートに硬化剤を加えて作ることが出来る。硬化剤の例としては、アルコール類やケトン類、アミド類、エステル類、ヒマシ油系ポリオール等が挙げられる。これらの中でも沸点が60℃以上のものが特に好ましく、具体例としてはグリセロール、ポリエチレングリコール、メチルエチルケトン、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸エチル等を挙げることができる。また、ポリウレタン樹脂以外に、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等を利用することもできる。
【0060】
重合性オリゴマーと触媒から成る包埋剤としては、(メタ)アクリル酸エステル〔A〕と〔A〕成分に可溶な(メタ)アクリル系重合体または共重合体〔B〕を含有するアクリル系シラップが例として挙げられる。
【0061】
上記〔A〕成分の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸アリル等のメタクリル酸エステルが挙げられ、これらは、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0062】
〔A〕成分として上述のいずれかのモノマーを単独で(一種類だけで)硬化させて得られる樹脂のガラス転移温度(硬い状態から軟らかい状態に変わる温度)が低い場合には、柔らかくなる傾向にあり、ガラス転移温度が高いと得られる硬化物は硬くなる傾向にある。そこで、所望する包埋剤硬度を発現させるには、この〔A〕成分のホモポリマーとしてのガラス転移温度をもとに、〔A〕成分を適宜選択して使用することが好ましい。
【0063】
上記〔B〕成分として用いられる(メタ)アクリル系重合体は、〔A〕成分に可溶である必要がある。なお、「可溶」とは、分散状態も含む。〔B〕成分の具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等から選ばれる単量体の単独重合体もしくは共重合体が挙げられる。これらは、1種または2種以上を混合して使用することができる。〔A〕成分と〔B〕成分の使用割合は、〔A〕成分と〔B〕成分から成るアクリル系シラップを100質量部としたとき〔A〕成分は40〜80質量部の範囲、〔B〕成分は20〜60質量部の範囲であり、好ましくは、〔A〕成分は40〜70質量部の範囲、〔B〕成分は30〜60質量部の範囲である。
【0064】
また、薄片化を行う上で、〔A〕成分と〔B〕成分から成るアクリル系シラップに、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー又はその他のゴム成分を適宜添加することが好ましい。アクリル系シラップの重合開始剤としては、使用する溶剤に溶解可能なアゾ系、過酸化物系、レドックス系等の開始剤を使用することができる。例として、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)イソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、又は過酸化ベンゾイル−ジメチルアニリン系等が挙げられる。
【0065】
熱可塑性ポリマーである包埋剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、PBT樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレートポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルペンテン、ポリエーテルイミド等が挙げられる。
【0066】
前記包埋剤により包埋した包埋物は、核酸増幅反応用基材として利用する場合、生体関連物質の検出において低蛍光強度が要求されることがある。そのような場合には、前記包埋剤にカーボンブラックや消光剤等を添加することが好ましい。また、使用する繊維の種類に応じて、繊維と包埋剤との密着性を考慮し包埋剤を選択することが好ましい。例えば、ポリメタクリル酸メチル中空繊維には、アクリレート系シラップから成る包埋剤が好ましい。
【0067】
前記包埋剤の硬化温度は、繊維材料のガラス転移温度以下であることが好ましい。100℃以下であることがさらに好ましい。このように複数の繊維が包埋された包埋物を、硬度が70〜95(JIS K 7215により測定)で、繊維を交差する方向で薄片化することにより、薄片の表面が平滑で、且つ繊維の脱落のない生体関連物質が保持された繊維配列体薄片を得ることができる。包埋剤の硬度とは、JIS K 7215により測定されるものであり、加圧面が包埋物に密着してから5秒後に測定した硬度をいう。
【0068】
ゲルを前記の中空繊維を使用した画分を有する基材に保持させる場合は、予め加温した前記中空繊維束にゲル前駆体溶液を充填させた後、中空繊維束内でゲル化させて保持させることができる。ここで、ゲル前駆体溶液とは、プライマー対を含むゲル化していない溶液をいう。また、上記中空繊維束を予め加温しておく温度は、充填するゲル前駆体溶液の種類等により適宜設定することができ、限定はされないが、例えば、50〜90℃であることが好ましく、より好ましくは60〜80℃、さらに好ましくは70〜75℃である。予め中空繊維束を加温しておくことにより、中空繊維束内へのゲル前駆体溶液の導入が極めてスムーズに行われる等の効果が得られる。その後、ゲル状物を保持した中空繊維束を、疎水性の液体中で、繊維の長手方向に交差する方向で切断して薄片化する(すなわち、中空糸束の貫通孔の配向方向に対し、垂直な方向に薄片化する)ことで、ゲルを保持させた核酸増幅反応用基材を得ることができる。ここで、疎水性の液体とは、限定はされないが、例えば、ミネラルオイル及び流動パラフィン等が好ましく例示できる。上記薄片化を、疎水性の液体中で行うことにより、薄片化後においてもゲル状物が中空糸内に十分に保持されたままの品質の高い基材が得られる。
【0069】
ゲル前駆体溶液を中空繊維束内に充填する方法は、例えば、微細な針を有するシリンジに前記溶液を吸引し、各中空繊維の中空部に針を差し込むことにより導入することができる。
【0070】
また、中空繊維を樹脂で固めて製造する中空繊維束を用いる場合において、中空繊維束の一方の端部が固定されていない場合は、次の方法によりゲル前駆体溶液を中空繊維内へ導入することもできる。まず中空繊維束の固定されている端部の中空部を封止し、もう一方の固定されていない端部の中空部を開放しておく。次にプライマー対を含むゲル前駆体溶液を調製し、該ゲル前駆体溶液及び前記中空繊維束をデシゲーター内に設置し、次いで中空繊維束の中空繊維が固定されていない端部を、この溶液中に浸し、デシゲーター内を減圧状態にした後、常圧に戻すことにより、中空繊維の溶液に浸した端部より、この溶液を中空繊維中空部へ導入することができる。
【0071】
中空繊維の中空部に導入されたゲル前駆体溶液をゲル化することにより、プライマー対を中空繊維の中空部に保持させる。ゲル化条件は特には限定されず、使用したゲル前駆体の種類等により適宜選択することができる。例えば、アガロースであればあらかじめ加熱し、液体としておいたゲル前駆体溶液を、ゲル化温度以下まで冷却することでゲル化が可能である。
【0072】
次に繊維を配列させた包埋物の薄片化について説明する。
薄片化する際は、包埋物を、該包埋物の繊維軸に対して交差する方向に切断する。切断する角度は限定されず実験等の目的に応じて適宜選択することができる。例えば、繊維軸に対して45〜90°、好ましくは60〜90°、さらに好ましくは直交する方向(繊維軸に対して90°)である。
【0073】
切断に用いる刃物の刃先角度は20°以下であることが好ましく、15°以下であることがさらに好ましい。刃物の材質としては、例えば、カーボン鋼、SUS、超硬合金等が例示できる。また、装置としては市販のミクロトームを使用して薄片化を実施することも可能である。薄片の厚さは、上述したとおりである。
【0074】
このように作成された薄片は、多数の標的核酸配列を増幅するための、核酸増幅反応用基材として使用できる。
【0075】
5.本発明の基材の使用
本発明の核酸増幅反応用基材を用いて核酸を増幅及び検出する方法は、プライマーを用いる方法であれば、熱サイクルをかけるPCR法であっても、等温反応のLAMP法であってもよい。これらの手法は当業者であれば核酸増幅反応の条件設定、プライマー設計等は適宜実施できる。ただし、反応時の温度が核酸増幅反基材におけるゲルの融点以上であることが必要である。
【0076】
核酸増幅用基材を核酸増幅反応に使用する方法として、以下に示す方法が可能である。
【0077】
テンプレートの供給
まず反応開始前に、本発明の基材中の各画分に、サンプルとなる標的塩基配列を含む核酸(以下、「テンプレート」という。)を供給する。当該テンプレートは、例えば、粉末状などの固体で供給することもできるし、溶液として供給することもできる。
【0078】
テンプレートは通常の核酸増幅反応で用いられる鋳型となる核酸であれば、どのようなものでも使用可能である。通常は含有される核酸を調べるために天然物由来のものが使われるが、そこから精製された核酸を用いることも可能であるし、用途によっては細胞や組織の破砕液やその上清を用いることも可能である。また、人工的に合成された核酸をテンプレートとして用いることも可能である。mRNAからの逆転写産物をテンプレートとすることも可能である。
【0079】
テンプレートは、溶液としてピペットのような分注器具を用いて各画分に供給することもできる。このようにして、各画分に分注したプライマーの遊離と混合を防ぐことが可能である。アレイヤーやマニピュレータ等の装置を用いて基材の各画分に供給することも可能である。
【0080】
一方、テンプレート溶液を、滴下し乾燥させることでテンプレート供給用材料に塗布したものを、基材表面に貼り付けることで、各画分に一度にテンプレートを供給することも可能である。この場合、テンプレートの形状は板状であってもよいし、シート状又はフィルム状であってもよい。
【0081】
テンプレート供給用材料を本発明の基材に貼り付けたまま反応に供する場合は、テンプレート供給用材料についても核酸増幅反応で使用される程度の耐熱性があることが必要であり、増幅産物を直接検出するために、適用した検出方法を阻害しない材質であることが望ましい。また、テンプレート供給用材料は、その使用の簡便のため、ゲル以外の基盤表面に圧着可能であることが望ましい。
【0082】
このようなテンプレート供給用材料としては、ポリオレフィン製のフィルム等が挙げられる。また、リアルタイムPCR等におけるウェルの封止に用いられるようなフィルムを使用することも可能である。
【0083】
テンプレート供給用材料にテンプレートを塗布する方法としては、ピペット等の液体取り扱い器具を用いてもよいし、綿棒や筆、ペーパーポイント等でサンプル溶液を吸着したものを、フィルム上に塗りつける方法でもよい。均一に塗布するために、フィルムに滴下したテンプレート溶液を中心部分で回転させることで塗布することも可能である。
【0084】
テンプレート溶液を供給するとき、画分が基材を貫通しないものである場合、画分と接触する面上にテンプレートを含むテンプレート供給用材料を接触させることができる。また、
図2に断面図を例示するように、画分が基材を貫通するものである場合は、テンプレートを含むテンプレート供給用材料を基材の両面に接触させることもできるし、どちらか一方の面にテンプレートを含むテンプレート供給用材料を接触させ、もう片方の面はテンプレートを含まない材料を接触させることも可能である(
図3)。
【0085】
テンプレート供給用材料は、必要に応じて各種表面処理を実施してもよい。例えば、サケ精子DNA等のブロッキング剤で覆う(処理する)ことで、テンプレートとなる核酸がテンプレート供給用基材表面に固着することを防止することも可能である。放射線処理等で滅菌することや、プラズマ処理等で親水化することも可能である。
【0086】
上記のようにテンプレートを接触させた核酸増幅反応用基材については、基材の片面、もしくは両面を熱源にて挟み込むことで核酸増幅反応を実施することが可能である。この場合、画分内のゲルや、ゲルの溶解物が漏洩しないよう、画分の末端を封止することが必要である。
【0087】
また、例えば、核酸増幅反応用基材を、
図4に例示するように、ミネラルオイル等ゲル内容物が漏洩しないような疎水性の液体に包埋(浸漬)させた上で、核酸増幅反応を実施することも可能である。ミネラルオイルはゲル溶液との間で境界を形成するため、画分の末端を封止する必要が無い。またこの場合、テンプレートを接触させるために用いたフィルムをはがしてから核酸増幅反応に供することも可能である。
【0088】
反応時に、核酸の二本鎖特異的に蛍光を発するインターカレータを入れることで、増幅の有無を市販の蛍光検出器や蛍光顕微鏡等を用いて簡便に確認することも可能である。
【0089】
さらに、増幅後、ミネラルオイルと共に遠心することで、内部のゲルを取り出すことも可能である。取り出したゲルを溶解し、内部の増幅核酸を取得することも可能である。予め、取得目的以外の画分を封止しておくことにより、目的となるゲルのみを取得することも可能となる。
【0090】
基材の加熱
テンプレート供給後の基材を加熱することにより、核酸増幅反応を行う。核酸を増幅させる際の反応条件(加熱条件)は限定されず、使用する酵素(ポリメラーゼ等)、テンプレート等に応じて適宜選択することができる。例えば、PCR法を行う場合は、熱サイクルとして、二本鎖核酸を乖離させるために98℃で10秒間、アニーリングのために55℃で30秒間、核酸の伸長反応のために72℃で1分間加熱する工程を30サイクル程度繰り返すことなどが例示できる。各工程の温度や時間及びサイクル数については、当業者であれば宜選択することが可能である。また、LAMP法を行う場合は、例えば50〜70℃で等温加熱することが例示でき、加熱時間は当業者であれば宜選択することができる。
【0091】
6.キット
本発明の基材は、核酸増幅用キットとして使用することも可能である。キットには、本発明の基材と、テンプレート供給用基材とを含むことが好ましい。
【0092】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0093】
樹脂ブロックの作製
板の中央部に直径0.32mmの孔が0.42mm間隔で、格子状に19×12、228個配列された、厚さ0.1mmの多孔板2枚を用い、その多孔板の全ての孔に、カーボンブラックで着色したポリカーボネート製中空繊維(三菱レイヨン株式会社製、外径0.28mm、内径0.18mm、長さ500mm)を通過させ、この2枚の繊維を通過させた多孔板を50mm離間させ、離間した多孔板間に、カーボンブラックで着色したポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン工業株式会社製、ニッポラン4276及びコロネート4403)を充填し、長さ50mm、7×12mm角の角柱状の両端に樹脂で固定化されない部分を有する樹脂ブロックを得た。
【0094】
PCR溶液の調製
検出対象の異なる3種類のプライマー対、すなわち、計6種類のプライマー(下記のA1(配列番号1),A2(配列番号2),B1(配列番号3),B2(配列番号4),C1(配列番号5),C2(配列番号6))を、各10pmol/μLの濃度となるように準備し、dNTP、バッファー、DNAポリメラーゼを含有するPCRプレミックス(タカラバイオ(株)PremixTaq)、アガロース(タカラバイオ(株)LO3)、SYBR Green I(LifeTechnologies社)、Streptavidin−Cy5(GEヘルスケア社)、超純水を用いてプライマー対に応じた3種類の核酸増幅反応溶液を調製した(下表1参照)。
【0095】
プライマーA1:caggcagacggaagagttcg(配列番号1)
プライマーA2:ttatcacgtccttcttcgcc(配列番号2)
【0096】
プライマーB1:cagatatttgacataactagggaag(配列番号3)
プライマーB2:ctttcgcttgaccatattattgtcc(配列番号4)
【0097】
プライマーC1:gaaactatatagtagaacaaacaag(配列番号5)
プライマーC2:atcggctcttactacctaggc(配列番号6)
【0098】
【表1】
【0099】
核酸増幅反応溶液の樹脂ブロックへの導入
調製した3種類の核酸増幅反応溶液をヒートブロックで80℃、5分加熱し、アガロースを溶解させた。アガロースの溶解した核酸増幅反応溶液中に、予め65℃に加熱しておいた樹脂ブロックの、末端からはみ出した中空繊維を5本ずつ浸漬し、当該中空繊維の逆端からゲル溶液を吸うことで、樹脂ブロック内へ核酸増幅反応溶液を導入した。
樹脂ブロックを室温まで冷却し、内部の核酸増幅反応溶液をゲル化した。
【0100】
スライスによる、核酸増幅反応用基材の取得
上記で得た3種類のプライマー対を含む核酸増幅反応溶液からなるゲルが充填された樹脂ブロックを、ミクロトームを用いて250μmの厚さに切り出し、縦12×横19の計228本の孔が規則的に配列された、核酸増幅反応用基材を得た。乾燥紡糸のため、得られた核酸増幅反応用基材の両面をセロハンテープで封止した。
【0101】
テンプレート溶液のシートへの塗布
テンプレート溶液として、プライマーA1及びA2の組み合わせでのみ増幅が可能な標的核酸配列A(配列番号7)からなるDNAを1amol/μLの濃度にて用意した。
【0102】
標的核酸配列A:
caggcagacggaagagttcgctatagctcagttggttagagcgctacactgataatgtagaggtcggcagttcaactctgggcgaagaaggacgtgataa(配列番号7)。
【0103】
テンプレート溶液10μLを、1cm角に切り出した圧着用シート(LifeTechnologies社 Micro Optical Adhensive film)に滴下し、ピペットの先でシート上に塗布し、室温で静置して乾燥させた。
【0104】
核酸増幅反応用基材と、テンプレート塗布済みシートの接触
核酸増幅反応用基材の片面のセロハンテープを剥がし、同じ面にテンプレート溶液を塗布したシートを圧着した。その後、逆側のセロハンテープを剥がし、50μLのミネラルオイル(QIAGEN社)が入ったサンプルチューブに浸漬した。
【0105】
PCR実施前の検出
PCR実施前に、蛍光顕微鏡を用い、ミラーユニット(オリンパス WIB−UMWIB3)にて二本鎖核酸に特異的にインターカレートしたSYBRGreenIの蛍光を検出、CCDカメラにて撮像の後、各孔における蛍光の強度を画像処理ソフト(Media Cybernetics社 ImagePro)にて数値化した(
図5)。PCR反応を実施していないため二本鎖核酸は生成されておらず、ここで得られたシグナルはバックグラウンドとみなすことが可能である。
【0106】
PCRの実施
核酸増幅反応用基材を浸漬したエッペンチューブを、サーマルサイクラーにセットし、98℃10秒、55℃30秒、72℃1分を1サイクルとし、これを30サイクル繰り返した。
【0107】
増幅産物の検出
蛍光顕微鏡を用い、ミラーユニット(オリンパス WIB−UMWIB3)にて二本鎖核酸に特異的にインターカレートしたSYBRGreenIの蛍光を検出、CCDカメラにて撮像の後、各孔における蛍光の強度を画像処理ソフト(Media Cybernetics社 ImagePro)にて数値化したところ、3種類のプライマーセットのうち、プライマー対Aを導入した画分でのみ、シグナル強度の有意な増強が確認された。
【0108】
従って、使用した核酸増幅用基材に保持された3種類のプライマー対の内、プライマー対Aを保持したゲルでのみ特異的な増幅が行われたことがわかった(
図5)。
【実施例2】
【0109】
実施例1に記載の方法と同様の方法にて樹脂ブロック及び核酸増幅反応溶液を調製した。ただし、核酸増幅反応溶液については、本実施例ではプライマーを含めず、該溶液単一の組成とした。
【0110】
核酸増幅反応溶液の樹脂ブロックへの導入
調製した核酸増幅反応溶液をヒートブロックで80℃、5分加熱し、アガロースを溶解させた。ヒートブロック及び樹脂ブロック等を全て70℃環境の恒温装置に入れ、当該温度条件下において、アガロースの溶解した核酸増幅反応溶液に対して樹脂ブロックの末端からはみ出した中空繊維を19本ずつ浸漬し、当該中空繊維の逆端からゲル溶液を吸うことを12回繰り繰り返し、樹脂ブロック内へ核酸増幅反応溶液を導入した。
樹脂ブロックを室温まで冷却し、内部の核酸増幅反応溶液をゲル化した。
【0111】
スライスによる、核酸増幅反応用基材の取得
上記で得た核酸増幅反応溶液からなるゲルが充填された樹脂ブロックを、ミネラルオイル(QIAGEN社)で樹脂ブロック表面及びスライス刃を被覆した条件下(具体的には、樹脂ブロックをミネラルオイル中に浸漬させた状況下)において、ミクロトームを用いて500μmの厚さに切り出し、縦12×横19の計228本の孔が規則的に配列された核酸増幅反応用基材を15枚得た。
【0112】
また、同一の樹脂ブロックを用い、ミネラルオイルを使用しない条件下において、ミクロトームを用いて500μmの厚さに切り出し、同様の核酸増幅反応用基材を15枚得た。
スライスして得られた核酸増幅反応用基材について、それぞれを光学顕微鏡にて観察し、樹脂ブロック中の中空糸内に担持されたアガロースゲルの割合(残存割合)を調べたところ、
図6に示す結果となった。
【0113】
すなわち、アガロースゲルをスポットに用いる際には、ゲルが充填された樹脂ブロックをミネラルオイル等の疎水性液体中にてスライスすることで、安定した品質の核酸増幅反応用基材を得ることができることが明らかとなった。