(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一態様に係るハードコート膜形成用組成物、ハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り本発明を限定するものではない。
【0023】
[ハードコート膜形成用塗料]
本実施形態のハードコート膜形成用塗料は、以下の(A)〜(C)を含む。
(A)互いに重合性官能基を有し、重合体の溶解性パラメーターの差が0.5以上である第1成分及び第2成分
(B)屈折率が1.9以上の金属酸化物粒子
(C)6官能のアクリレート及び6官能以上のウレタンアクリレートの一方または双方
以下、順に説明する。
【0024】
「(A)成分:第1成分、第2成分」
本実施形態のハードコート膜形成用塗料は、互いに重合性官能基を有し、重合体の溶解性パラメーターの差が0.5以上である第1成分及び第2成分を含む。このような第1成分及び第2成分としては、国際公開2005/073763号公報、国際公開2010/114056号公報、特開2010−157439号公報、特開2010−163535号公報等に記載されているものを用いることができる。
【0025】
第1成分及び第2成分は、同種の骨格構造を含むモノマー、オリゴマーまたはポリマーを用いてもよく、また互いに異なる骨格構造を含むモノマー、オリゴマーまたはポリマーを用いてもよい。また、第1成分及び第2成分のうち何れか一方がモノマーであって、他の一方がオリゴマーまたはポリマーであってもよい。
【0026】
重合性官能基は(メタ)アクリロイル基が好ましい。
また、第1成分は不飽和二重結合含有アクリル共重合体(オリゴマー又はポリマー)であるのが好ましく、第2成分は多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるのが好ましい。
【0027】
第1成分として好ましい不飽和二重結合含有アクリル共重合体は、例えば(メタ)アクリルモノマーを重合または共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合及びエポキシ基を有するモノマーとを反応させた樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合及びイソシアネート基を有するモノマーとを反応させた樹脂、などが挙げられる。これらの不飽和二重結合含有アクリル共重合体は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
第2成分として好ましい多官能性不飽和二重結合含有モノマーは、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリレートとの脱アルコール反応物、具体的には、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどを用いることができる。この他にも、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(共栄社化学(株)社製)などの、ポリエチレングリコール骨格を有するアクリレートモノマーを使用することもできる。これらの多官能性不飽和二重結合含有モノマーは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
このような第1成分及び第2成分としては、市販品の樹脂組成物を用いてもよい。このような市販品としては例えば、日本ペイント社製のNAB−001が挙げられる。
【0030】
「(B)成分:屈折率が1.9以上の金属酸化物粒子」
本実施形態のハードコート膜形成用塗料に用いられる金属酸化物粒子は、屈折率が1.9以上の金属酸化物を形成材料とする粒子であれば特に限定されない。このような金属酸化物としては例えば、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化錫、酸化セリウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化ユーロピウム、酸化ハフニウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タングステン酸カルシウム、アンチモン含有酸化スズ、インジウム含有酸化スズ等が好適に用いられる。これらの中でも、酸化ジルコニウム、酸化チタンが特に好ましい。
【0031】
金属酸化物粒子の粒径は用途に応じて適宜選択して用いればよいが、透明性の高い膜が得られる点で、平均一次粒径は1nm以上かつ30nm以下であることが好ましく、5nm以上かつ25nm以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態において、「平均一次粒径」とは、個々の粒子そのものの粒子径を意味する。平均一次粒径の測定方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて、金属酸化物粒子それぞれの長径、例えば、100個以上の金属酸化物粒子、好ましくは500個の金属酸化物粒子それぞれの長径を測定し、その算術平均値を算出する方法が挙げられる。
【0033】
また、本実施形態のハードコート膜形成用塗料において、金属酸化物粒子の平均分散粒径は、1nm以上かつ45nm以下となるように分散されたものが好ましく、1nm以上かつ20nm以下となるように分散されたものがより好ましい。
【0034】
本実施形態において、「平均分散粒径」とは、金属酸化物粒子を分散媒中に分散してなる分散液に特定波長の光を照射した場合に、光散乱により得られる金属酸化物粒子の光に対する見かけ上の粒径の平均値を意味する。平均分散粒径は、平均一次粒径よりも大きな値となる。
【0035】
本実施形態において、ハードコート膜形成用塗料における金属酸化物粒子の平均分散粒径は、後述する不揮発分の濃度を10質量%に調整した塗料を、動的光散乱法式を測定原理とする粒度分布計(マイクロトラックUPA150(日機装社製))で測定した値を採用した。
【0036】
「(C)成分:6官能のアクリレート」
本実施形態のハードコート膜形成用塗料に用いる6官能のアクリレートとしては、アクリロイル基を1以上含み、官能基の数の合計が6であるアクリレートであれば特に限定されない。
【0037】
なお、「6官能のアクリレート」の官能基数は、「重合性官能基の数」を意味し、「6官能の」とは、「アクリロイル基を1以上含む重合性官能基が、一分子内に合計6つ存在する」ことを意味する。
【0038】
すなわち、本実施形態のハードコート膜形成用塗料に用いるアクリレートにおいては、アクリロイル基以外に、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のエチレン性不飽和結合及びエポキシ基等の架橋反応性の官能基(イソシアネート基を除く)等が含まれていてもよく、アクリレート中の上記官能基の合計が6官能であればよい。これらの重合性官能基の中でも、アクリロイル基がより好ましい。
また、本実施形態のアクリレートは、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、モノマーとオリゴマーが混合されていてもよい。
【0039】
このような6官能のアクリレートとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを挙げることができる。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの市販品としては、例えば、日本化薬社製のDPHA等を用いることができる。
【0040】
「(C)成分:6官能以上のウレタンアクリレート」
本実施形態のハードコート膜形成用塗料に用いる6官能以上のウレタンアクリレートは、その官能基数が多いほうが好ましい。具体的には、8官能以上のウレタンアクリレートであることが好ましく、10官能以上のウレタンアクリレートであることがより好ましい。
また、取扱いの容易性から、15官能以下のウレタンアクリレートを用いることが好ましく、上限は20官能程度である。
【0041】
なお、「6官能以上のウレタンアクリレート」の官能基数は、「重合性官能基の数」を意味し、「6官能以上の」とは、「アクリロイル基を1以上含む重合性官能基が、一分子内に合計6つ以上存在する」ことを意味する。
【0042】
すなわち、本実施形態のハードコート膜形成用塗料に用いるウレタンアクリレートにおいては、アクリロイル基以外に、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のエチレン性不飽和結合及びエポキシ基等の架橋反応性の官能基等が含まれていてもよい。ウレタンアクリレート中の上記官能基の合計が6官能以上であればよい。
また、本実施形態のウレタンアクリレートは、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、モノマーとオリゴマーが混合されていてもよい。
【0043】
本実施形態のハードコート膜形成用塗料が(C)成分を含むことにより、(A)成分と(B)成分との相性の悪さが緩和され、ハードコート膜形成用塗料を用いて形成されるハードコート膜が、ハードコート性、アンチブロッキング性に優れ、屈折率も高い単層膜とすることができる。また、(A)成分と(B)成分との相性の悪さが緩和されることで、(A)成分と(B)成分との界面における散乱光の発生を抑制し、形成されるハードコート膜が透明性に優れたものとなる。
【0044】
本実施形態の6官能以上のウレタンアクリレートは、市販品のウレタンアクリレートを用いてもよい。市販品のウレタンアクリレートとしては、例えば、日本合成化学工業(株)製のUV1700B(10官能)、UV6300B(7官能)及びUV7640B(7官能)や、日本化薬(株)製のDPHA40H(8官能)、UX5001T(8官能)や、根上工業(株)製のUN3320HS(15官能)及びUN904(10官能)、並びに新中村化学工業(株)製のU−6LPA(6官能)、U−6HA(6官能)UA−33H(9官能)及びUA−53H(15官能)等を挙げることができる。
【0045】
本実施形態のハードコート膜形成用塗料において、(A)成分、(B)成分、(C)成分それぞれの含有量は、用途に応じて適宜調整すればよいが、例えば、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計質量を100質量%としたときに、(A)成分は1質量%以上かつ80質量%以下、(B)成分は1質量%以上かつ80質量%以下、(C)成分は1質量%以上かつ80質量%以下となるように含有されるのが好ましく、(A)成分は5質量%以上かつ50質量%以下、(B)成分は20質量%以上かつ70質量%以下、(C)成分は5質量%以上かつ50質量%以下であることがより好ましく、(A)成分は10質量%以上かつ30質量%以下、(B)成分は40質量%以上かつ65質量%以下、(C)成分は10質量%以上かつ30質量%以下であることがさらに好ましい。
上記範囲で含有されることにより、ハードコート性に加え、良好なアンチブロッキング性及び高い屈折率を有する単層膜を得ることができる。
【0046】
ここで「高い屈折率」とは、屈折率が1.65のポリエチレンテレフタレートに本実施形態のハードコート膜形成用塗料を塗布して、膜厚が2μmとなるように形成したハードコート膜(後述)の屈折率が1.62以上であることを意味する。
ハードコート膜の屈折率は、分光光度計で可視光領域の反射スペクトルを測定し、反射率が最も低かった値(ボトム反射率)を基に、下記の式(1)を用いて算出した値を用いる。屈折率は実用上、上限は3.0程度である。
【0047】
【数1】
(R
0;ボトム反射率、n
1;空気の屈折率、n
2;ハードコート膜の屈折率、n
3;基材の屈折率)
【0048】
本実施形態のハードコート膜形成用塗料は、必要に応じて、溶媒が含有されていてもよい。このような溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
【0049】
上記溶媒により、ハードコート膜形成用塗料における不揮発分を5質量%以上かつ60質量%以下に調整することが好ましく、15質量%以上かつ40質量%以下がより好ましい。
ここで「不揮発分」とは、ハードコート膜形成用塗料の質量に対する、ハードコート膜形成用塗料を熱風乾燥法で107℃、1時間乾固させたときに残存する残存物の質量割合を意味する。高沸点の添加剤等を含有させた場合を除き、第1成分及び第2成分と、金属酸化物粒子と、6官能のアクリレートと、6官能以上のウレタンアクリレートの、ハードコート膜形成用塗料中における合計質量割合を意味する。
【0050】
本実施形態のハードコート膜形成用塗料には、分散剤、重合開始剤、帯電防止剤、屈折率調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、消泡剤、無機充填剤、カップリング剤、防腐剤、可塑剤、流動調整剤、増粘剤、pH調整剤等の一般的な各種添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0051】
分散剤としては例えば、硫酸エステル系、カルボン酸系、ポリカルボン酸系等のアニオン型界面活性剤、高級脂肪族アミンの4級塩等のカチオン型界面活性剤、高級脂肪酸ポリエチレングリコールエステル系等のノニオン型界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アマイドエステル結合を有する高分子系界面活性剤等が挙げられる。
【0052】
重合開始剤としては光重合開始剤を好適に用いることができる。光重合開始剤の種類や量は、使用する多官能重合性モノマーに応じて適宜選択すればよい。例えば、ベンゾフェノン類、ジケトン類、アセトフェノン類、ベンゾイン類、チオキサントン類、キノン類、ベンジルジメチルケタール類、アルキルフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド類、フェニルフォスフィンオキサイド類等の公知の光重合開始剤を用いることができる。
【0053】
[ハードコート膜形成用塗料の製造方法]
上述の本実施形態のハードコート膜形成用塗料の製造方法は、第1成分及び第2成分と、金属酸化物粒子と、6官能のアクリレート及び6官能以上のウレタンアクリレートの一方または双方と、溶媒とを均一に混合できる方法であれば特に限定されない。本実施形態の製造方法に適用できる混合装置としては、例えば、撹拌機、自公転式ミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0054】
なかでも、透明性の高い膜を得るためには、金属酸化物粒子は、分散媒に分散させた金属酸化物含有分散液の状態で、ハードコート膜形成用塗料を構成する他の成分と混合することが好ましい。
【0055】
金属酸化物粒子を分散媒に分散させる方法は特に限定されず、公知の分散装置を用いればよい。このような分散装置としては、ニーダ、ロールミル、ピンミル、サンドミル(ビーズミル)、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル等が挙げられ、これらの装置の中でも、サンドミルが好ましい。
これらの分散液は市販品を用いてもよい。例えば、住友大阪セメント社製のEZ−220XC、EZ−230XC、MIZ−220XC、MIZ−230XC、MZ−220XC、MZ−230XC等が挙げられる。
【0056】
すなわち、本実施形態のハードコート膜形成用塗料の製造方法としては、以下の(a)〜(c)を混合する工程を有することが好ましい。
(a)互いに重合性官能基を有し、重合体の溶解性パラメーターの差が0.5以上である第1成分及び第2成分
(b)屈折率が1.9以上であり、平均分散粒径が1nm以上かつ45nm以下である金属酸化物粒子を含有する金属酸化物含有分散液
(c)6官能のアクリレート及び6官能以上のウレタンアクリレートの一方または双方
【0057】
本実施形態において、金属酸化物含有分散液における金属酸化物粒子の平均分散粒径は、金属酸化物粒子の濃度を10質量%に調整した分散液を、動的光散乱法式を測定原理とする粒度分布計(マイクロトラックUPA150(日機装社製))で測定した値を採用した。
【0058】
混合は、(a)〜(c)がムラなく均質に混ざり合えばよく、金属酸化物粒子の平均分散粒径が変化するほどの強いせん断を加える混合は行わない。したがって混合の前後で(b)の平均分散粒径は、維持されることとなる。
【0059】
「(a)成分」「(c)成分」については、上記で説明したハードコート膜形成用塗料における「(A)成分」「(C)成分」と全く同様であるので説明を省略する。
【0060】
(b)成分において、金属酸化物含有分散液の分散媒は用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類等が挙げられる。
【0061】
この分散液には、本発明の効果を損なわない範囲において、分散剤、重合開始剤、帯電防止剤、屈折率調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、レベリング剤、消泡剤、無機充填剤、カップリング剤、防腐剤、可塑剤、流動調整剤、増粘剤、pH調整剤等の一般的な各種添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0062】
[ハードコート膜]
本実施形態のハードコート膜は、以下の(i)〜(iii)を含む。
(i)溶解性パラメーターの差が0.5以上である第1樹脂成分及び第2樹脂成分
(ii)屈折率が1.9以上の金属酸化物粒子
(iii)6官能のアクリレート及び6官能以上のウレタンアクリレートの一方または双方の重合体
【0063】
(i)成分である第1樹脂成分及び第2樹脂成分は、上述のハードコート膜形成用塗料における(A)成分である第1成分及び第2成分が重合して得られる重合体である。
【0064】
「屈折率が1.9以上の金属酸化物粒子」については、上記で説明したものと全く同様であるので説明を省略する。
【0065】
(iii)成分である重合体は、上述のハードコート膜形成用塗料における(C)成分である6官能のアクリレート及び6官能以上のウレタンアクリレートの一方または双方が重合して得られる重合体である。
【0066】
また、本実施形態のハードコート膜は、上述のハードコート膜形成用塗料の(A)成分である、互いに重合性官能基を有し、重合した時の溶解性パラメーターの差が0.5以上である第1成分及び第2成分の共重合体を含む。
【0067】
さらに、本実施形態のハードコート膜は、上述のハードコート膜形成用塗料の(A)成分である第1成分及び第2成分と、(C)成分である、6官能のアクリレート及び6官能以上のウレタンアクリレートの一方または双方と、の共重合体を含む。
【0068】
このハードコート膜の膜厚は、用途に応じて適宜調整すればよいが、0.1μm以上かつ20μm以下が好ましく、1μm以上かつ8μm以下がより好ましい。膜厚を上記範囲とすることで、ハードコート性とアンチブロッキング性に優れた高い屈折率のハードコート膜を得ることができる。
【0069】
また「アンチブロッキング性」とは、膜面同士を擦り合わせ場合に、滑らかに滑る性質を意味する。
本実施形態のハードコート膜は、膜面同士を押し付けあった場合には、ひっかかり感を感じることなく、滑らかに滑ることが好ましい。
【0070】
本実施形態のハードコート膜の製造方法は、上記ハードコート膜形成用塗料を被塗布物上に塗工することで塗膜を形成する工程と、上記塗膜を硬化させる工程とを含む。
塗膜を形成する工程における塗工方法としては例えば、バーコート法、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法、グラビアコート法、吸上げ塗工法、はけ塗り法等、公知のウェットコート法を用いることができる。
【0071】
塗膜を硬化させる工程における硬化方法としては、塗膜にエネルギー線を照射して光硬化させる。光硬化に用いるエネルギー線は塗膜が硬化すれば特に限定されず、例えば、紫外線、遠赤外線、近紫外線、赤外線、X線、γ線、電子線、プロトン線、中性子線等のエネルギー線を用いることができる。これらのエネルギー線の中でも、硬化速度が速く、装置の入手が容易である紫外線照射による硬化が好ましい。
塗膜を光硬化させることで、上記多官能重合性モノマーとウレタンアクリレートが重合して、耐擦傷性等の強度に優れ、アンチブロッキング性に優れた膜を得ることができる。
【0072】
紫外線硬化させる場合には、200nm〜500nmの波長帯域の光を発する高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ等を用いて、100mJ/cm
2〜3,000mJ/cm
2のエネルギーにて照射する方法等が挙げられる。
【0073】
[ハードコート膜を備えたプラスチック基材]
本実施形態のハードコート膜を備えたプラスチック基材は、樹脂材料を用いて形成された基材本体と、基材本体の少なくとも一面に設けられた本実施形態のハードコート膜と、を備えている。
【0074】
ハードコート膜を備えたプラスチック基材は、本実施形態のハードコート膜形成用塗料を公知の塗工法を用いて基材本体上に塗工することで塗膜を形成し、その塗膜を光硬化させることにより得ることができる。
【0075】
基材本体は、光透過性を有するプラスチック製の基材であれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、アクリル、アクリル−スチリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、塩化ビニル等により形成されたものを用いることができる。
【0076】
基材本体は、シート状であってもよく、フィルム状であってもよいが、フィルム状であることが好ましい。
【0077】
本実施形態のハードコート膜を備えたプラスチック基材は、空気を基準として測定した場合に、ヘーズ値が2.0%以下であることが好ましく、1.8%以下であることが好ましい。
【0078】
ここで、「ヘーズ値」とは、全光線透過光に対する拡散透過光の割合(%)のことを指し、空気を基準として、ヘイズメーターNDH−2000(日本電色社製)を用い、日本工業規格JIS−K−7136に基づいて測定した値を意味する。
【0079】
また、本実施形態のプラスチック基材は、ハードコート膜面同士を擦り合わせ場合は、滑らかに滑ることが好ましい。ハードコート膜面同士を押し付けあった場合には、ひっかかり感を感じることなく、滑らかに滑ることが好ましい。
【0080】
[タッチパネル]
本実施形態のタッチパネルは、本実施形態のハードコート膜及び本実施形態のプラスチック基材の一方または双方を備えてなる。
【0081】
本実施形態のハードコート膜及び本実施形態のプラスチック基材の一方または双方をタッチパネルに備えさせる方法は、特に限定されず、公知の方法により実装させればよい。例えば、本実施形態のプラスチック基材においてハードコート膜が形成された面とは反対の面に、順にITO電極がパターニングされた透明導電膜、配向膜、液晶層を積層した構造等が挙げられる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態のハードコート膜形成用塗料によれば、単層でハードコート性とアンチブロッキング性に優れ、かつ屈折率が高いハードコート膜とそれを備えたプラスチック基材を得ることができる。
【0083】
本実施形態の金属酸化物粒子の一次粒子が1nm以上かつ30nm以下である場合には、透明性に優れたハードコート膜が得られるため好ましい。
本実施形態の金属酸化物粒子を平均分散粒径が1nm以上かつ45nmの分散液の状態で混合した場合には、より透明性に優れたハードコート膜が得られるため好ましい。
【0084】
本実施形態のハードコート膜によれば、単層でハードコート性とアンチブロッキング性に優れ、かつ屈折率が高い膜とすることができる。
本実施形態のプラスチック基材によれば、単層でアンチブロッキング性と透明性に優れたハードコート膜を備えたプラスチック基材とすることができる。
【0085】
本実施形態のタッチパネルによれば、ITO電極の骨見え現象を低減させることができるので、ハードコート性と視認性に優れたタッチパネルを得ることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、後段の説明における記号は下記内容を示すものである。
【0087】
以下の実施例及び比較例で用いた材料について表1に示す。表中(A)成分は、本発明における「(A)」であり、(B)成分は、本発明における「(B)」である。また、(C)成分は、実施例における本発明の「(C)」と、比較例における本発明の「(C)」に対応する化合物と、を示している。
【0088】
【表1】
【0089】
なお、表1に記載したZ−1分散液〜Z−3分散液については、ジルコニア粒子とイソブチルケトンとを表1に記載の濃度となるように配合した後、サンドミルを用いて分散させることにより調整した。
得られた分散液におけるジルコニア粒子の平均分散粒径については、調製した分散液を、動的光散乱法式を測定原理とする粒度分布計(マイクロトラックUPA150(日機装社製))で測定した値を採用した。
【0090】
[実施例1]
「ハードコート膜形成用塗料」
NAB−001を8.5質量部、UA−53H(15官能ウレタンアクリレート)を4.2質量部、イルガキュア184を0.3質量部、ジアセトンアルコールを20質量部、メチルイソブチルケトンを17質量部、ジルコニアZ−1分散液を50質量部(ジルコニア換算で10質量部)混合して、実施例1のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0091】
「膜形成」
得られたハードコート膜形成用塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラー(登録商標)#100−QTD0、片面易接着処理品、易接着面の屈折率n=1.65、全光線透過率90.2%、ヘーズ値0.9)の易接着面上に、乾燥膜厚が1.5μm〜5μmとなるように、バーコーティング法で塗布し、80℃で加熱して乾燥した。次いで高圧水銀灯(120W/cm)で紫外線を300mJ/cm
2のエネルギーとなるように露光して硬化させて膜を形成させることで、実施例1のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0092】
[実施例2]
「ハードコート膜形成用塗料」
UA−53Hの替わりにUV−1700B(11官能ウレタンアクリレート)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、実施例2のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0093】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、実施例2で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、実施例2のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
[実施例3]
「ハードコート膜形成用塗料」
UA−53Hの替わりにU−6LPA(6官能ウレタンアクリレート)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、実施例3のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0094】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、実施例3で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、実施例3のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0095】
[
参考例1]
「ハードコート膜形成用塗料」
UA−53Hの替わりにDPHA(6官能アクリレート)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、
参考例1のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0096】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、
参考例1で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、
参考例1のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0097】
[実施例5]
「ハードコート膜形成用塗料」
ジルコニアZ−1分散液の替わりにジルコニアZ−2分散液を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、実施例5のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0098】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、実施例5で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、実施例5のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0099】
[実施例6]
「ハードコート膜形成用塗料」
NAB−001を13.1質量部、UA−53Hを6.6質量部、イルガキュア184を0.5質量部、ジアセトンアルコールを20質量部、メチルイソブチルケトンを29.8質量部、ジルコニアZ−1分散液を30質量部(ジルコニア換算で6質量部)混合して、実施例6のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0100】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、実施例6で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、実施例6のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0101】
[実施例7]
「ハードコート膜形成用塗料」
NAB−001を6.2質量部、UA−53Hを3.1質量部、イルガキュア184を0.2質量部、ジアセトンアルコールを20質量部、メチルイソブチルケトンを10.5質量部、ジルコニアZ−1分散液を60質量部(ジルコニア換算で12質量部)混合して、実施例7のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0102】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、実施例7で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、実施例7のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0103】
[実施例8]
「ハードコート膜形成用塗料」
ジルコニアZ−1分散液の替わりにジルコニアZ−3分散液を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、実施例8のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0104】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、実施例8で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、実施例8のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0105】
[比較例1]
「ハードコート膜形成用塗料」
UA−53Hの替わりにU−4HA(4官能ウレタンアクリレート)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、比較例1のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0106】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、比較例1で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、比較例1のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0107】
[比較例2]
「ハードコート膜形成用塗料」
UA−53Hの替わりにA−TMMT(4官能アクリレート)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、比較例2のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0108】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、比較例2で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、比較例2のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0109】
「比較例3」
UA−53Hの替わりにU−200PA(2官能ウレタンアクリレート)を用いた以外は、実施例1と全く同様にして、比較例4のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0110】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、比較例3で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、比較例3のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0111】
「比較例4」
NAB−001を16.9質量部、イルガキュア184を0.3質量部、ジアセトンアルコールを20質量部、メチルイソブチルケトンを12.8質量部、ジルコニアZ−1分散液を50質量部(ジルコニア換算で10質量部)混合して、(C)成分を含有しない比較例4のハードコート膜形成用塗料を得た。
【0112】
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、比較例4で得られたハードコート膜形成用塗料を用いた以外は実施例1と全く同様にして、比較例4のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0113】
「参考例
2」
「膜形成」
実施例1で得られたハードコート膜形成用塗料の替わりに、NAB−001を用いた以外は実施例1と全く同様にして、参考例
2のハードコート膜及びそれを備えたプラスチック基材を得た。
【0114】
実施例1〜
3、実施例5〜8、比較例1〜4及び参考例1
,2の各々で得られたプラスチック基材の、アンチブロッキング性、透明性、鉛筆硬度、耐擦傷性、屈折率の各特性について、下記の方法により評価した。鉛筆硬度及び耐擦傷性は、ハードコート性の指標として用いた。
【0115】
(1)アンチブロッキング性
[a]滑り性
プラスチック基材の塗布面同士を擦り合わせ、官能評価を行った。プラスチック基板同士を擦り合わせた際に、非常によく滑るものを◎、滑るものを○、あまり滑らないものを△、滑らないものを×として評価した。
[b]押し付け性
プラスチック基材の塗布面同士を強く押し付けながら擦り合わせ、官能評価を行った。プラスチック基板同士を強く押し付けながら擦り合わせた際に、ひっかかり感がなく非常によく滑るものを◎、滑るものを○、ひっかかり感があり、かつあまり滑らないものを△、滑らないものを×として評価した。
【0116】
(2)透明性
プラスチック基材のヘーズ値を、空気を基準として、ヘイズメーターNDH−2000(日本電色社製)を用い、日本工業規格JIS−K−7136に基づいて測定した。
測定は、作成したプラスチック基材から作成した100mm×100mmの試験片を用いて行った。
【0117】
(3)鉛筆硬度
JIS K−5600−5−4に基づき、750gf荷重で測定を行った。
【0118】
(4)耐擦傷性
プラスチック基材に形成されたハードコート膜上で、#0000のスチールウールを250g/cm
2の加重下にて10往復摺動させた。往復後のハードコート膜の表面を目視で観察し、次の基準で耐擦傷性の評価を行った。評価結果がAであるものが良品であり、評価結果がBからEとなるに従い、ハードコート性が低いものであることを示している。
A:傷0本
B:傷1−10本
C:傷11−20本
D:傷20−30本
E:傷31本以上
【0119】
(5)屈折率
分光光度計 V−570(日本分光社製)で可視光領域の反射率を測定し、もっとも低かった反射率(ボトム反射率)から、下記式(1)を用いて塗膜の屈折率を算出した。
【0120】
【数2】
(R
0;ボトム反射率、n
1;空気の屈折率、n
2;ハードコート膜の屈折率、n
3;基材の屈折率)
【0121】
屈折率の算出においては、n
1=1.00、n
3=1.65を採用した。
【0122】
実施例1〜
3、実施例5〜8、比較例1〜4及び参考例1
,2のプラスチック基材について、評価結果を下記表2に示す。
【0123】
【表2】
【0124】
実施例1〜
3、実施例5〜8と、比較例1〜4及び参考例1
,2の結果より、(C)成分である官能基数が6のアクリレートまたは官能基数が6以上のウレタンアクリレートが混合されたハードコート膜は、屈折率が1.64以上でかつアンチブロッキング性に優れたハードコート膜を形成できることが確認された。
【0125】
また、実施例1と比較例4との結果より、(C)成分が混合されたハードコート膜は、(C)成分を含まないハードコート膜よりもヘーズ値が小さく、透明性に優れることが確認された。実施例1では、(C)成分が混合されていることにより、(A)成分と(B)成分との相性の悪さが緩和された結果、(A)成分と(B)成分との界面における散乱光が低減したためであると考えられる。
【0126】
さらに、実施例1、5、8の結果より、平均分散粒径が40nm以下のジルコニアを用いた場合には、塗膜のヘーズ値が1.8%以下と、屈折率が高く、透明性とアンチブロッキング性に優れたハードコート膜を形成できることが確認された。