(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
純度の高く粒度の細かな金属水酸化物は、非常に多方面で利用されている。近年、太陽電池用途とタッチパネル用途として透明導電膜の利用が増えている。それに伴ってスパッタリングターゲット等、透明導電膜形成用材料の需要が増加している。これらの透明導電膜形成用材料には、酸化インジウム系焼結材料が主に使用されており、その主原料として酸化インジウム粉が使用されている。スパッタリングターゲットに使用される酸化インジウム粉は、高純度であることの他、高密度ターゲットを得るためにできるだけ粒度分布の幅が狭いことが望ましい。
【0003】
酸化インジウム粉の製造方法としては、主に、硝酸インジウム水溶液や塩化インジウム水溶液などの酸性水溶液をアンモニア水などのアルカリ性水溶液で中和して生じる水酸化インジウムの沈澱を乾燥し仮焼する、いわゆる中和法によって製造される。
【0004】
中和法では、得られる酸化インジウム粉の凝集を抑制するために、70〜95℃という高温の硝酸インジウム水溶液にアルカリを添加することで、針状の水酸化インジウムを得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、得られた針状の水酸化インジウムを90〜260℃で乾燥した後、500〜900℃で仮焼することにより、凝集の少ない酸化インジウム粉を得ている。
【0005】
しかしながら、中和法で製造した酸化インジウム粉は、粒径や粒度分布が不均一となり易く、スパッタリングターゲットを製造するとターゲットの密度が高くなり難く、密度にムラが生じ易いという問題や、スパッタリングの際に異常放電が生じ易いといった問題が生じる。また、中和法では、酸化インジウム粉製造後に大量の窒素排水が発生するため排水処理コストが大きくなるという問題がある。
【0006】
このような問題を改善する方法としては、金属インジウムを電解処理することで水酸化インジウム粉の沈殿を生じさせ、これを仮焼して酸化インジウム粉を製造する方法、いわゆる電解法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。電解法では、中和法に比べて、酸化インジウム粉の製造後の窒素排水量を格段に少なくすることができる他、得られる酸化インジウム粉の粒径を均一化できる。
【0007】
電解法では、基本的に使用される電解液は消耗されないという特徴がある。しかしながら、生成した金属水酸化物とともに分離された硝酸分やアンモニウムイオンは、乾燥と仮焼によって分解・消失する。このため、電解液から分解・消失した分が失われることになるため、その分は補給しなければならない。
【0008】
電解法による金属水酸化物の製造方法では、析出した金属水酸化物が含まれた電解スラリーを固液分離し、金属水酸化物と電解液とに分離する。固液分離により得られたろ過ケーキ分には、硝酸分やアンモニウムイオン等の電解液成分が含まれている。
【0009】
そこで、ろ過ケーキ分を純水でよく洗浄すると、ケーキ分に含まれていた硝酸分やアンモニウムイオン分が純水中に抽出され、電解成分を含む純水を廃液処理することによりケーキ分に含まれていた電解液成分が捨てられ、失われてしまう。
【0010】
そこで、電解液成分を含む純水を電解工程の電解液として使用することができれば電解液成分の損失を抑えることができる。しかしながら、ケーキ分から電解液成分を純水で洗い流してろ過すると、ケーキ分から硝酸分やアンモニウムイオン分を除去でき、ろ液に電解液成分を含ませることができるが、純水を加えたことにより電解液成分を含むろ液は薄まってしまう。そのため、元の電解工程の電解液にそのままろ液を戻すことができない。
【0011】
そこでやむなく排水処理しようとすると、環境面への負荷を考慮しなければならない。窒素を含有する排水を河川や海洋に排出する場合には、公害防止法水質汚濁防止法などによる厳しい環境基準を満たす必要がある。
【0012】
したがって、本質的な対応として、電解法を用いた金属水酸化物の製造方法において電解液をほぼ完全にリサイクルし、廃棄物の出ない製造方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を適用した金属水酸化物の製造方法について説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。本発明を適用した金属水酸化物の製造方法は、例えば水酸化インジウムや水酸化スズを製造することができ、以下では水酸化インジウムを例に挙げて次の順序で詳細に説明する。
【0019】
1.金属水酸化物生成工程
2.固液分離工程
3.洗浄工程
4.濃縮液生成工程
5.乾燥工程
【0020】
1.金属水酸化物生成工程
金属水酸化物生成工程では、
図1に示すように、濃度、pH及び水酸化インジウム粉の溶解度等を調整した電解液を用いて電解反応を利用して金属水酸化物を得る。この工程では、原料とする金属をアノード(陽極)とし、対極のカソード(陰極)に導電性の金属やカーボン電極を使用し、両者を電解液に浸漬して両極間に電位差を発生させ電流を生じさせることにより陽極において金属の溶解が進行する。さらに、電解液において、生成される金属水酸化物の溶解度が低い状態となるようにpHを調整することにより、金属水酸化物が晶析し沈殿が生じさせるようにする。
【0021】
陽極に使用する金属インジウムは、特に限定されないが、酸化インジウム粉への不純物の混入を抑制するため高純度のものが望ましい。金属インジウムとしては、純度99.9999%(通称6N品)が好適品として挙げることができる。
【0022】
陰極には、導電性の金属やカーボン電極等が用いられ、例えば不溶性のチタン等を用いることができ、チタンを白金でコーティングしたものであってもよい。
【0023】
電解液としては、水溶性の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩等の一般的な電解質塩の水溶液を用いることができる。その中でも、水酸化インジウム粉を沈殿した後の乾燥、仮焼後に硝酸イオン及びアンモニウムイオンが窒素化合物として除去されて不純物として残らない硝酸アンモニウムを使用した硝酸アンモニウム水溶液が好ましい。
【0024】
電解液は、生成された水酸化インジウム粉の溶解度が10
−6〜10
−3mol/Lの範囲であることが好ましい。水酸化インジウム粉の溶解度が10
−6mol/Lよりも低い場合には、陽極から解け出したインジウムイオンが核化しやすくなるため、一次粒子径が微細化し過ぎてしまう。一次粒子径が微細化し過ぎた場合には、後の水酸化インジウム粉を回収する工程における水酸化インジウム粉の分離回収が困難となるため好ましくない。
【0025】
一方、溶解度が10
−3mol/Lよりも高い場合は、粒成長が促進されるため、一次粒子径が大きくなる。このため、粒子を成長させるほど、成長する粒子としない粒子の間で粒子径の違いが大きくなる。粒子径の違いは、凝集の度合いに影響を与えるため、結果として粒度分布の幅が広くなってしまう。水酸化インジウム粉の粒度分布の幅が広くなると、水酸化インジウム粉を仮焼して得られる酸化インジウム粉の粒度分布の幅も広くなり、これを焼結して得られるスパッタリングターゲットの密度は高密度となり難いため好ましくない。
【0026】
したがって、電解液では、水酸化インジウムの溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lの範囲にすることで適度に一次粒子の成長が促進されるため、凝集が抑制され、粒度分布の幅が広くならず、粒度分布が狭く、粒径が均一な水酸化インジウム粉を得ることができる。
【0027】
電解液は、水酸化インジウム粉の溶解度が10
−6〜10
−3mol/Lの範囲であればよく、硝酸アンモニウムの濃度、pH、液温等により溶解度を制御することができる。電解液は、例えば、硝酸アンモニウムの濃度を0.1〜2.0mol/L、pHを2.5〜4.0、液温を20〜60℃の範囲に調製することにより、溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lの範囲に制御することができる。pHは、硝酸アンモニウムの添加量により調製することができる。
【0028】
電解液の濃度については、濃度が低いほど安価となるが、0.1mol/Lよりも低いと電解液の電気伝導率が低過ぎて電流が生じないか、または必要電圧が実用範囲を越えるため好ましくない。一方、濃度が2.0mol/Lあれば、十分な電気伝導率が確保されるので、2.0mol/Lより高くすることは不経済でありその必要はない。
【0029】
電解液のpHが2.5より小さい場合には、水酸化物の沈殿が生じず、また4.0よりも大きい場合には、水酸化物の析出速度が速過ぎて濃度不均一のまま沈殿が形成されるため粒度分布幅が広がってしまい好ましくない。
【0030】
電解液の液温が20℃よりも低い場合には、析出速度が遅すぎ、また60℃よりも高い場合には析出速度が速過ぎて濃度不均一のまま沈殿が形成されるため粒度分布幅が広がり好ましくない。
【0031】
電解条件は、特に限定されないが、電流密度を3A/dm
2〜15A/dm
2で行うことが好ましい。電流密度が3A/dm
2より低い場合には、水酸化インジウム粉の生産効率が低下してしまう。電流密度が15A/dm
2よりも高い場合には、電解電圧が上昇することで液温上昇が生じやすいこと、金属インジウムの表面が不動態化し電解し難くなるなどの問題が生じてしまう。したがって、電流密度を3A/dm
2〜15A/dm
2とすることが好ましい。
【0032】
また、金属水酸化物の溶解安定性を向上させるために、クエン酸や酒石酸、グリコール酸などの含酸素キレート化合物やEDTAなどの含窒素キレートを必要に応じ添加してもよい。
【0033】
以上のような条件による電解で生成される水酸化インジウム粉を電解槽へ回収する。得られた水酸化インジウム粉は、粒径がサブミクロン又は数ミクロンの柱状であり、粒度分布が狭く、粒径が均一なものとなる。水酸化インジウム粉が柱状であることによって、より凝集を抑制することができる。
【0034】
(2.固液分離工程)
次に、
図1に示すように、金属水酸化物生成工程で生成した水酸化インジウム粉と電解液とを固液分離する固液分離工程を行う。固液分離工程では、水酸化インジウム粉をろ過や遠心分離などの方法により分離する。
【0035】
ろ過方法としては、フィルタープレスや遠心ろ過等のケーキろ過、及びクロスフローろ過などを使用することができる。また、ろ布によるろ過を使用しないデカンター分離も可能である。クロスフロー方式のロータリーフィルタは、微細な粉末であっても目詰まりを起こし難く回収効率が高いため好ましい。ロータリーフィルタで使用するろ布は、水酸化インジウム粉の回収効率をより高めるため、できるだけ通気度が小さい方が望ましい。通気度が0.3cm
3/sec/cm
2以下のものが好ましい。
【0036】
固液分離工程では、固液分離により生じた固形分(ケーキ分)には水酸化インジウム粉と電解液が含まれ、ろ液として電解液が分離される。ここで、本実施の形態に係る金属水酸化物の製造方法では、
図1に示すように、ろ液として分離された電解液を廃棄物として排水処理せず、金属水酸化物製造工程における電解液として再利用する。固液分離工程により分離された電解液は、金属水酸化物生成工程における電解液の濃度と同じであるため、そのまま金属水酸化物生成工程の電解液として再利用することができる。なお、分離された電解液中に不純物等が含まれている場合には、不純物を除去する処理を行ってもよい。
【0037】
(3.洗浄工程)
次に、
図1に示すように、固液分離工程により分離された水酸化インジウム粉の固形分(ケーキ分)を洗浄液でリパルプ洗浄する洗浄工程を行う。洗浄工程では、固液分離工程により分離された水酸化インジウム粉の固形分(ケーキ分)に含まれている電解液を洗浄液に抽出して、水酸化インジウム粉から電解液を除去する。
【0038】
具体的に、洗浄工程では、水酸化インジウム粉の固形分(ケーキ分)に洗浄液として例えば純水を加えて撹拌して再分散させ、固形分(ケーキ分)に含まれていた電解液を純水中に抽出させて固液分離を行う。この固液分離には、上述した固液分離工程と同様に、ケーキろ過、クロスフローろ過、デカンター分離等を使用することができる。
【0039】
使用する純水は、不純物が少ない方が望ましく、特にJIS K0557に規定されたA2グレード以上であることが望ましい。これ以下のグレードである場合には、シリカなどの不純物が混入してしまうため好ましくない。
【0040】
純水の添加量は、水酸化インジウム粉の固形分(ケーキ分)中の電解液の濃度を十分低下させることができる適当な最小量を選択して決める。例えば、洗浄後の固形分中の電解液残留量を測って決めることが適当である。例えば水酸化インジウム1kgに対して5〜20Lの純水で洗浄することが望ましい。純水の添加量が少な過ぎる、例えば5Lよりも少ない場合には、水酸化インジウム粉内に硝酸アンモニウム等の電解液成分が多量に残留してしまい、水酸化インジウム粉の乾燥時、水酸化インジウム粉を仮焼し、酸化インジウム粉を得る際に火災の危険性が高くなる。添加量が多すぎる、例えば20Lよりも多い場合には、必要以上に多いため純水が無駄となり、後述する濃縮工程における濃縮処理が増加してコストアップとなってしまう。
【0041】
洗浄工程では、電解液成分を含む水酸化インジウム粉の固形分(ケーキ分)に純水等の洗浄液を加えて必要に応じて攪拌を行う。洗浄工程では、水酸化インジウム粉に純水等の洗浄液を加えて攪拌した後ろ過を行うリパルプ洗浄を1回以上行うことによって、水酸化インジウム粉の固形分から電解液を除去することができる。
【0042】
ここで、洗浄工程では、電解液が混ざり込んだ洗浄液を廃棄物として処理せず、後の濃縮液生成工程で洗浄液を濃縮して得られた濃縮液を金属水酸化物生成工程の電解液として再利用する。
【0043】
(4.濃縮液生成工程)
濃縮液生成工程では、
図1に示すように、洗浄工程で得られた電解液が混ざり込んだ洗浄液を濃縮して濃縮液を得る。濃縮液生成工程では、洗浄液を濃縮して、上述の金属水酸化物生成工程で使用している電解液の濃度まで濃縮した濃縮液を得る。得られた濃縮液を上述の金属水酸化物生成工程の電解液に再び用いる。
【0044】
濃縮方法としては、電解液成分が混ざり込んだ洗浄液を熱して、電解液成分以外、即ち洗浄液を蒸発させ、再び冷やして洗浄液にする蒸留方式がある。この蒸留方式では、残留する濃縮液に電解液成分が濃縮される。
【0045】
蒸留方式の中でも減圧蒸留は、熱効率が良いため好ましい。また、単蒸留の他に、多数の減圧室を組み合わせた多段蒸留方式も採用することができる。蒸留方式の条件や冷却方法等は、電解液成分が混ざり込んだ洗浄液を濃縮して、電解液成分からなる濃縮液が得られる条件であれば特に限定されない。
【0046】
濃縮液生成工程では、蒸留時に残液をサンプリングして密度の分析を行い、金属水酸化物生成工程での電解液濃度までに戻っているかどうかを確認する。金属水酸化物生成工程で使用する電解液濃度までに戻っている場合には、濃縮液を金属水酸化物生成工程における電解液として再利用することができる。
【0047】
また、上述の洗浄工程において洗浄液として純水を使用した場合には、濃縮液生成工程で蒸留される水は純水であるので、そのまま洗浄工程で使用する純水として再び用いることができる。
【0048】
また、濃縮方法としては、逆浸透法、洗浄水に圧力をかけて逆浸透膜と呼ばれるろ過膜の一種を用いることもできる。この逆浸透法は、ろ過膜に電解液成分が混ざり込んだ洗浄液を通し、水だけが逆浸透膜を透過することにより電解液を濃縮する方式である。この方法により逆浸透膜を透過した水には、蒸留法よりは電解液成分が比較的多く混入しているものの洗浄工程での洗浄水として十分に使用できる。
【0049】
逆浸透法では、逆浸透膜に高い圧力をかけて水を浸透させる必要があるため、圧力に耐えるよう以下の何れかの構造で造る。逆浸透膜としては、例えば、パスタ状の太さで中が空胴の糸状に成型し、外側から内側へ濾過する中空糸膜を挙げることができる。または、1枚のろ過膜を強度を保つため丈夫なメッシュ状のサポートと重ね合わせて袋状に閉じ、これをロールケーキ状に巻いてその断面方向から加圧するスパイラル膜も用いることができる。加圧には、タービンポンプやプランジャーポンプなどの高圧ポンプを使用することができる。
【0050】
このように、濃縮液生成工程では、得られた濃縮液を電解液として再利用でき、得られた洗浄液を洗浄工程の洗浄液として再利用できるため、洗浄後の電解液成分を含む洗浄液を廃棄物として処理する必要がなくなる。なお、濃縮液の濃度が電解液の濃度よりも高くなり過ぎた場合には、純水を加えて濃度の調整を行ってもよい。
【0051】
(5.乾燥工程)
乾燥工程では、
図1に示すように、洗浄工程後の水酸化インジウム粉を乾燥する。乾燥方法は、スプレードライヤ、空気対流型乾燥炉、赤外線乾燥炉等の乾燥機を用いる方法がある。
【0052】
乾燥条件は、水酸化インジウム粉の水分を除去できれば特に限定されないが、例えば乾燥温度は80℃〜150℃の範囲が好ましい。乾燥温度が80℃よりも低い場合には、乾燥が不十分となり、150℃よりも高い場合には、水酸化インジウムから酸化インジウムに変化してしまう。乾燥時間は、温度により異なるが、約10時間〜24時間である。
【0053】
以上のように、水酸化インジウムの製造方法では、電解反応を利用した金属水酸化物生成工程から乾燥工程を経て水酸化インジウム粉を得る。この水酸化インジウム粉の製造方法では、水酸化インジウム粉の生成後に、電解液から水酸化インジウム粉を分離する固液分離工程で得られた電解液や電解液が混入した洗浄液を濃縮する濃縮液生成工程で得られた電解液を金属水酸化物生成工程の電解液に再利用することで、従来のように排水処理しないため、電解液成分の損失を抑制できるとともに環境への負荷を抑制することができる。
【0054】
上述では、水酸化インジウムの製造方法を例に挙げて説明したが、このことに限定されず、水酸化スズの製造方法についても同様に本発明を適用することができる。水酸化スズを製造する場合には、電解時のpHを8付近とする点で水酸化インジウム粉の製造方法とは異なるところはあるが、その他の要件については同様である。水酸化スズの製造方法においても、電解液や洗浄液を再利用することで、従来のように排水処理しないため、電解液の損失を抑制できるとともに環境への負荷を抑制することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例>
実施例では、次のようにして金属水酸化物生成工程から乾燥工程まで行った。
【0057】
(1)金属水酸化物生成工程
金属水酸化物生成工程では、
図2に示す電解装置1を用いて水酸化インジウムを生成した。
図2に示す電解装置1は、縦30cm、横40cm、深さ30cmの36L電解槽2と、縦40cm、横40cm、深さ50cmの80L調整槽3とを備え、電解槽2と調整槽3は隣接している。電解槽2と調整槽3は、循環ポンプ4により接続されている。
【0058】
電解槽2には、底部より2cmの高さで底と平行に電解液5の液流を分散させるためにパンチプレート6が設けられている。即ち、パンチプレート6は、10cm四方あたり縦5列、横5列、計25個の直径3mmの穴がマス目状に等間隔に開いている。これにより、電解槽2では、循環ポンプ4により電解槽2の下部に注入された電解液5がパンチプレート6を通過し、各液流は偏流のないほぼ均一な液流を確保できる。
【0059】
また、電解槽2には、
図3に示すように陰極7と陽極8を配置した。陰極(カソード)7には、巾30cm、高さ25cm、厚み1mmのチタン金属板を5枚準備した。陽極(アノード)電極8には、純度99.9999%のインジウム金属を巾30cm、高さ25cm、厚み5mmの板状に成型したものを4枚準備した。これらの5枚の陰極7と4枚の陽極8を
図3に示すように、電解槽2内のパンチプレート6上に垂直にして両極が互いに平行となるよう交互に配置した。陰極7と陽極8と間の距離を3.0cmに調節し配置した。4枚の陰極7は導線9で電気的に接続されている。
【0060】
調整槽3は、電解液5の温度を制御及び維持するための温調ヒーター11及び冷却器12を備える。また、調整槽3は、槽内の電解液5を撹拌する撹拌棒13を備える。
【0061】
電解装置1では、調整槽3に1.0mol/L硝酸アンモニウム水溶液が100L入っている。調整槽3において、電解液5の硝酸アンモニウム水溶液に対し1N硝酸を添加し、水素イオン濃度指数pHを4.0に調整した。pHの測定は、調整槽3に取り付けたpH電極10を用いて行った。この状態を維持しつつ、さらに温調ヒーター11及び冷却器12を使用して電解液5の温度を40℃に維持した。調整槽3では、撹拌棒13で槽内の電解液5を撹拌して電解液5の調整を行った。このときの水酸化インジウムの溶解度は、10
−5mol/Lである。
【0062】
電解中は、循環ポンプ4により20L/分の速度で調整槽3内の電解液4を電解槽2へ送った。電解槽2の電解液5は、オーバーフローにより調整槽3に戻るようになっている。
【0063】
電極電流密度は15A/dm
2に調節し、6時間電解を継続した。濃度4%の水酸化インジウムスラリーを得た。水酸化インジウムスラリーの濃度とは、[水酸化インジウム粉の質量/(水酸化インジウム粉の質量+電解液の質量)]により求めることができる。
【0064】
(2)固液分離工程
次に、水酸化インジウムスラリーの固液分離を行った。固液分離には、ロータリーフィルタ(寿工業(株)製RFU−02B)と、ろ布(KE−022、通気度0.1cm
3/sec/cm
2)を使用して行った。固液分離した結果、含水率が55%の水酸化インジウムケーキと、分離された電解液とが得られた。
【0065】
(3)洗浄工程
次に、水酸化インジウム粉を洗浄する。洗浄工程では、水酸化インジウムケーキに対して、純水を80L加えてステンレスバケツ容器で撹拌再分散した。これを上記固液分離工程と同じ方法で固液分離操作を行い再び、含水率が55%の水酸化インジウムケーキを得た。
【0066】
(4)濃縮液生成工程
次に、濃縮液生成工程を行った。濃縮液生成工程では、日鉄環境エンジニアリング社製の減圧蒸留装置(エコプリマ)を使用して、濃縮加熱用ヒーター釡(容量1m
3)に洗浄工程で得られた洗浄液100リットルを仕込み、電気ヒーター100kW/hrで4時間減圧蒸留を実施した。
【0067】
この濃縮液を固液分離工程で分離された電解液と混合し、金属水酸化物生成工程で使用した電解液5と同じになるよう純水を添加して調整した後、再び調整槽3に入れてポンプ4を介して電解槽2に入れて、新たな電解を行った。ここまでの工程において、電解液は、廃液として廃棄されることはなかった。
【0068】
この操作を3回繰り返して、得られた水酸化インジウムスラリーをサンプリングし粒度分布をレーザー光ドップラー法により測定した結果、3回とも最小径0.3μm、最大径1.2μmであり、どれも粒度分布の幅が狭い同様な良好な分布を有していた。
【0069】
(5)乾燥工程及び焼成工程
そして、この方法で得られた水酸化インジウム粉をスプレードライヤで噴霧乾燥し、大気中700℃で焼成した。得られた酸化インジウム粉の粒度分布は3回とも最小径0.3μm、最大径1.2μmであり同様に粒度分布の幅が狭い良好な分布を有していた。
【0070】
<比較例>
比較例では、実施例と同様に金属水酸化物生成工程と、固液分離工程と、洗浄工程を行い、濃縮液生成工程は行わなかった。比較例では、洗浄工程における洗浄後の洗浄液の窒素濃度が10,000ppmであったため、公害防止法水質汚濁防止法の排水窒素基準である120ppm以下の80ppmとなるように希釈するためには13m
3の水が必要とした。なお、比較例では、固液分離工程において分離した電解液は、金属水酸化物生成工程に戻した。
【0071】
以上の実施例では、固液分離工程で分離された電解液だけでなく、電解液が混ざり込んだ洗浄液を濃縮して得られた電解液成分を含む濃縮液を金属水酸化物生成工程の電解液に再利用することで、電解液成分の損失を抑制でき、また排水処理のための希釈が必要なくなる。一方、比較例では、電解液が混ざり込んだ洗浄液を排水処理するにあたり、そのまま排水処理することができないため、大量の水を使用して希釈する手間がかかり、さらに電解液成分が損失してしまうことがわかる。