(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040902
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】電源ケーブルおよび該電源ケーブル用電線の製造装置
(51)【国際特許分類】
H02G 1/00 20060101AFI20161128BHJP
H02G 1/06 20060101ALI20161128BHJP
H01B 7/36 20060101ALI20161128BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
H02G1/00
H02G1/06
H01B7/36
B60K7/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-196499(P2013-196499)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-65712(P2015-65712A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智久
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 健
(72)【発明者】
【氏名】岡 史人
(72)【発明者】
【氏名】江島 弘高
(72)【発明者】
【氏名】千綿 直文
【審査官】
石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−140886(JP,A)
【文献】
特開2004−101736(JP,A)
【文献】
特開平10−67467(JP,A)
【文献】
特開2005−192036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/00
B60K 7/00
H01B 7/36
H02G 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と該導体を被覆する樹脂シースとを有し、応力無負荷環境下で弧を描こうとする癖がある電線と、前記電線の長手方向の端末に形成された接続端子とを具備する電源ケーブルであって、
前記電源ケーブルは、前記弧の法線方向に癖方向表示部を有することを特徴とする電源ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の電源ケーブルにおいて、
前記癖方向表示部は、前記樹脂シースの表面に設けられていることを特徴とする電源ケーブル。
【請求項3】
請求項2に記載の電源ケーブルにおいて、
前記癖方向表示部は、前記接続端子の表面に設けられていることを特徴とする電源ケーブル。
【請求項4】
請求項2に記載の電源ケーブルに用いられる電線の製造装置であって、
前記製造装置は、前記電線を巻き取るためのボビンと、前記ボビンを回転させるための駆動機構と、前記癖方向表示部を設けるための癖方向表示部印刷機構とを具備し、
前記癖方向表示部印刷機構は、前記電線が前記ボビンに巻き取られる直前に、および/または前記電線が前記ボビンに巻き取られた直後に、前記癖方向表示部を前記樹脂シースの表面に印刷する機構であることを特徴とする電源ケーブル用電線の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電源ケーブル用電線の製造装置において、
前記癖方向表示部は、前記ボビンに巻き取られた前記電線をその横断面方向から見た時に、前記ボビンの法線方向上に設けられていることを特徴とする電源ケーブル用電線の製造装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の電源ケーブル用電線の製造装置において、
前記ボビンは、前記電線の保存にそのまま用いられるボビンであることを特徴とする電源ケーブル用電線の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源ケーブルに関し、特に、狭小な空間に配索されると共に繰り返しの屈曲運動を受ける環境で使用され、かつ当該屈曲運動に対して望まない方向への変形が少ない電源ケーブルおよび該電源ケーブル用電線の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境保護および省エネルギーへの強い要求を受けて、主動力源として電気モータが使用される電気自動車(EV)や燃料電池車(FCEV)が精力的に研究・開発されている。それら自動車の駆動機構としては、従来のエンジン(内燃機関)を単純に電気モータに置き換える方式と、ホイール内に電気モータを配置して直接駆動するインホイールモータ方式とが提案されている。インホイールモータ方式は、従来のエンジンルームが不要になる点や各輪独立駆動を可能にする点など、非常にユニークな駆動機構として注目されている。
【0003】
インホイールモータ方式について簡単に説明する。
図1は、車体の側面方向から車輪の内側を見たときのインホイールモータ周りの構造例を示す模式図である。
図2は、
図1のy軸方向(例えば、車体の上面方向)から車輪の内側を見たときの構造例を示す模式図である。
図1,2に示したように、インホイールモータ30は、サスペンション32と共にサスペンションアーム31に固定され、モータ回転軸がホイール35の回転軸となるように配設される。
【0004】
インホイールモータ30には、ホイール35によって制約される空間内に配設するための小型化と車両走行のための高い出力とが同時に要求されることから、通常、三相交流モータが使用される。そのため、複数本の電源ケーブル20(例えば、20a〜20c)が端子21および端子台33を介してインホイールモータ30に接続される。そのような状況から、インホイールモータ30に電力を供給する電源ケーブル20は、必然的に狭小な空間内で配索されることになる。
【0005】
さらに、電源ケーブル20は、車両の走行時などにサスペンション32の動きに伴って繰り返しの屈曲運動を受ける(例えば、
図1におけるサスペンション32の作動方向の屈曲運動)。このとき、電源ケーブル20に過度の引張応力が掛かったり、周辺の構造部材(例えば、サスペンション32、ホイール35、ホイールハウス(図示せず)など)と接触したりしないように、電源ケーブル20が配索されることは極めて重要である。
【0006】
また、インホイールモータ方式による電気自動車は、それ自体が研究開発途上であり、該電気自動車を構築するための各技術においても未解明の領域が多く残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−101736号公報
【特許文献2】特開平10−67467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インホイールモータ方式による電気自動車の走行試験を行うと、インホイールモータ30の電源ケーブル20が周辺の構造部材と予期せず接触してしまうことがあった。これは、電源ケーブル20が、サスペンション32の動きに伴う繰り返しの屈曲運動を受けた時に、当該屈曲運動している面内(
図1のx‐y面内)から外れる方向へ変形していることを意味する(例えば、
図2中の矢印で示される方向への変形。以下、面外変形と称する)。電源ケーブル20と周辺構造部材との予期しない接触は、経時的に電源ケーブル20の破損につながることから、厳に避けるべき問題である。
【0009】
電源ケーブル20を取り替えながら種々調査したところ、面外変形の様子・程度は電源ケーブル毎に異なり、一貫した傾向が見出せなかった。言い換えると、電源ケーブル20の面外変形とそのばらつきの要因が解らないために、それらの対策が困難であった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記事情に鑑み、電源ケーブルの面外変形とそのばらつきの要因を解明し、大電力を扱う電源ケーブルであって、狭小な空間に配索されると共に繰り返しの屈曲運動を受ける環境で使用され、かつ当該屈曲運動に対して望まない方向への変形が少ない電源ケーブルおよび該電源ケーブル用電線の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(I)本発明の一態様は、上記目的を達成するため、導体と該導体を被覆する樹脂シースとを有し、応力無負荷環境下で弧を描こうとする癖がある電線と、前記電線の長手方向の端末に形成された接続端子とを具備する電源ケーブルであって、前記電源ケーブルは、前記弧の法線方向に癖方向表示部を有することを特徴とする電源ケーブルを提供する。
【0012】
(II)本発明の他の一態様は、上記目的を達成するため、本発明に係る電源ケーブルに用いられる電線の製造装置であって、前記製造装置は、前記電線を巻き取るためのボビンと、前記ボビンを回転させるための駆動機構と、前記癖方向表示部を設けるための癖方向表示部印刷機構とを具備し、前記癖方向表示部印刷機構は、前記電線が前記ボビンに巻き取られる直前に、および/または前記電線が前記ボビンに巻き取られた直後に、前記癖方向表示部を前記樹脂シースの表面に印刷する機構であることを特徴とする電源ケーブル用電線の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高出力三相交流モータのような大電力を扱う電機機器の電源ケーブルであって、狭小な空間に配索されると共に繰り返しの屈曲運動を受ける環境で使用され、かつ当該屈曲運動に対して望まない方向への変形が少ない電源ケーブルおよび該電源ケーブル用電線の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】車体の側面方向から車輪の内側を見たときのインホイールモータ周りの構造例を示す模式図である。
【
図2】
図1のy軸方向(例えば、車体の上面方向)から車輪の内側を見たときの構造例を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る電源ケーブルに用いる電線の一例を示す断面模式図である。
【
図4】本発明に係る電源ケーブルの一例を示す平面模式図である。
【
図5】本発明に係る電源ケーブル用電線の製造装置の一例を示す側面模式図である。
【
図6】本発明に係る電源ケーブル用電線の製造装置の他の一例を示す側面模式図である。
【
図7】電線の癖方向と電源ケーブルにL字曲げを課す平面(x‐y平面)との関係を理解するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、前述した本発明に係る電源ケーブル(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記癖方向表示部は、前記樹脂シースの表面に設けられている。
(ii)前記癖方向表示部は、前記接続端子の表面に設けられている。
【0016】
また、本発明は、前述した本発明に係る電源ケーブル用電線の製造装置(II)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(iii)前記癖方向表示部は、前記ボビンに巻き取られた前記電線をその横断面方向から見た時に、前記ボビンの法線方向上に設けられている。
(iv)前記ボビンは、前記電線の保存にそのまま用いられるボビンである。
【0017】
(本発明の基本思想)
本発明者等は、電源ケーブルに屈曲運動を課した時に、該電源ケーブルの面外変形の様子・程度がケーブル毎に大きくばらつく要因を解明するために、電源ケーブルを構成する電線の製造にまでさかのぼって調査した。
【0018】
電源ケーブル用の電線は、長尺で製造されるため、通常、最終製品になる直前までボビン/ドラムに巻かれた状態で保管される。端末加工を施して電源ケーブルを製造するために電線をボビン/ドラムから所定長さで切り出すと、切り出された電線には癖が残っていることがある。このような電線の癖は、樹脂からなる絶縁材料/シース材料の粘弾性に起因すると言われている。また、電線の癖は、絶縁材料/シース材料の材質や製造された電線の保存期間、電線を巻き取っていたボビン/ドラムの径にも依存すると考えられる。
【0019】
なお、本発明における電線の「癖」とは、電線をボビン/ドラムに巻き付けることによって生じる癖(いわゆる、巻き癖)を意味するものとし、以下、「癖」または「巻き癖」と称して説明する。
【0020】
電線の巻き癖は、電源ケーブルの面外変形とそのばらつきに影響を与える可能性が考えられたので、電線の巻き癖に関する先行技術を調査した。
【0021】
例えば、特許文献1(特開2004-101736号公報)には、細長く可撓性を有する挿入部と、この挿入部の基端に接続された把持部と、この把持部に接続されたユニバーサルケーブル部とからなる可撓部を有する内視鏡装置において、前記可撓部は、同一方向に湾曲した複数のループを形成するとともに、これらのループを各ループの中心を軸方向にして重ねて略平面状態を有する可撓部収納状態を形成可能であることを特徴とする内視鏡装置が開示されている。また、前記挿入部は、前記ループが同一方向に湾曲する巻き癖を有すること、前記ユニバーサルケーブル部は、前記ループが同一方向に湾曲する巻き癖を有することが好適であるとしている。特許文献1によると、可撓管部の収納性を向上させた内視鏡装置を提供することができるとしている。
【0022】
また、特許文献2(特開平10-67467号公報)には、内側円筒部を有する第1の回転体と、前記内側円筒部を所定の間隔をおいて囲み、同内側円筒部に対して相対的に回転する外側円筒部を有する第2の回転体と、前記内側円筒部と外側円筒部との間の環状の空間内に沿って収納され、内周端部が前記内側円筒部に保持され、外周端部が前記外側円筒部に保持されたフレキシブルフラットケーブルとを備えた相対回転部材間継電装置であって、前記フレキシブルフラットケーブルには、前記内側円筒部の外周面に沿うように湾曲する巻き癖がつけられていることを特徴とする相対回転部材間継電装置が開示されている。特許文献2によると、フレキシブルフラットケーブルには内側円筒部の外周面に沿うように湾曲する巻き癖がついているから、フレキシブルフラットケーブルが内側円筒部の外周面から外側に膨れ上がって、互いに密接するように重なり合うことがない。したがって、従来例のようにフレキシブルフラットケーブルの互いに密接して重なった部分に摩擦抵抗が生じ、この摩擦抵抗によって、フレキシブルフラットケーブルに作用する圧縮応力が増大するということがないから、フレキシブルフラットケーブルの座屈を防止することができるとしている。
【0023】
しかしながら、上述した特許文献1や特許文献2は、ケーブルの巻き癖を利用して、ケーブルの収納性向上や座屈防止を図るものであるが、巻き癖を有するケーブルの面外変形およびそのばらつきに関する記載や示唆は見られなかった。なお、特許文献2に記載されるようなフレキシブルフラットケーブルでは、その構造上、面外変形自体が生じるものではない。また、電気自動車用の高出力三相交流モータの電源ケーブルを想定した場合、大電力を扱うことから一般的なフレキシブルフラットケーブルは適用できない。
【0024】
そこで、本発明者等は、巻き癖を有する電線を用いることを前提として、当該巻き癖と電源ケーブルの面外変形の様子・程度との関係について、更に詳細に調査・研究した。その結果、電源ケーブルの面外変形の様子・程度は、用いる電線の巻き癖方向と電源ケーブルに課される屈曲運動の方向との関係に強く影響されることを見出した。言い換えると、用いる電線の巻き癖方向と電源ケーブルに課される屈曲運動の方向とを制御することで、電源ケーブルの面外変形およびそのばらつきを低減できることを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
【0025】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能ある。
【0026】
(電源ケーブル)
図3は、本発明に係る電源ケーブルに用いる電線の一例を示す断面模式図であり、
図4は、本発明に係る電源ケーブルの一例を示す平面模式図である。
図3,4に示したように、本発明の電源ケーブル20は、中心導体12の外周に、絶縁層13、補強編組層14および樹脂シース15が順次形成された電線10と、電線10の長手方向の端末に形成された接続端子21とを具備する。電線10は、応力無負荷環境下で弧を描こうとする癖を有する。樹脂シース15の表面には、電線10の癖方向を示す癖方向表示部16,16’が癖の弧の法線方向17に設けられている。
【0027】
本発明の電源ケーブル20では、用いる電線10の癖方向が表示されていることから、電線10の癖方向と電源ケーブル20に課される屈曲運動の方向とを容易に調整することができる。その結果、電源ケーブル20に繰り返しの屈曲運動が課されたとしても、電源ケーブル20の面外変形およびそのばらつきを低減することができる。電線10の癖方向、該癖方向と屈曲運動の方向との関係、および電源ケーブル20の面外変形については、追って詳述する。
【0028】
癖方向表示部16,16’は、癖方向(巻き癖の弧の法線方向17)が外観から判別できるような形式であれば、線、記号、図形、溝、突起等、どのような形状であっても構わない。これらの中で、電線10の最外層の樹脂シース15の表面に線を入れるような構成が簡便かつ低コストで製造できるため好ましい。
【0029】
図3のように2箇所に癖方向表示部16,16’を設ける場合においては、巻き癖の内側と外側とで表示の区別ができるようになっていると管理上好ましい(例えば、線の太さを変える、線の色を変える)。なお、本発明において、癖方向表示部は、2箇所の表示が必須ではなく、どちらか一方のみであっても構わない。
【0030】
図4に示したように、接続端子21の表面にも、電線10の癖方向(巻き癖の弧の法線方向17)を示す癖方向表示部22,22’が設けられていることは好ましい。接続端子21の取り付け(電源ケーブル20の端末加工)において、あらかじめ癖方向表示部22,22’が設けられた接続端子21を、癖方向表示部22,22’と電線10の癖方向表示部16,16’とが合致するように取り付けてもよいし、接続端子21を電線10に取り付けた後に、電線10の癖方向表示部16,16’と合致するように癖方向表示部22,22’を設けてもよい。
【0031】
電線10の断面構造は、
図3に限定されるものではなく、少なくとも中心導体12と最外層の樹脂シース15とを有していれば、他の構成に限定はない。また、本発明において、応力無負荷環境とは、表面摩擦をできるだけ小さい状態にした板上に(例えば、表面仕上げされたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板上や表面仕上げされた氷板上に)、電線10を静かに置いた環境と定義する。
【0032】
本発明では、中心導体12は複数本の素線11が撚り合わされた撚線であることが好ましい。一般的に、撚線導体は、屈曲運動の際に各素線に均等な応力が掛かることから、屈曲耐性が高い利点があるためである。
図3においては、29芯撚線を描いたが、もちろんそれに限定されるものではない。
【0033】
絶縁層13、補強編組層14および樹脂シース15の材料および厚さも特に限定されるものではなく、電源ケーブル20の接続対象となる電機機器(例えば、インホイールモータ30)の仕様に合わせて適宜選定されればよい。例えば、中心導体12(直径3.4 mm)に対して、絶縁層13としてポリエチレン(PE)層(厚さ0.5 mm)を用い、補強編組層14としてポリエチレンテレフタレート(PET)繊維編組層(厚さ1.0 mm)を用い、樹脂シース15としてエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)層(厚さ0.8 mm)を用いることができる。
【0034】
(電源ケーブル用電線の製造装置)
図5は、本発明に係る電源ケーブル用電線の製造装置の一例を示す側面模式図である。
図5に示したように、本発明に係る電源ケーブル用電線の製造装置40は、電線10を巻き取るためのボビン41と、ボビン41を回転させるための駆動機構42と、癖方向表示部を設けるための癖方向表示部印刷機構43,43’とを具備する。癖方向表示部印刷機構43,43’は、電線10がボビン41に巻き取られる直前に、癖方向表示部16,16’を樹脂シース15の表面に印刷する機構である。また、癖方向表示部16,16’を樹脂シース15の表面に印刷する位置は、ボビン41に巻き取られた電線10をその横断面方向から見た時に、ボビン41の法線方向17’上である。
【0035】
図6は、本発明に係る電源ケーブル用電線の製造装置の他の一例を示す側面模式図である。
図6に示す電源ケーブル用電線の製造装置40’は、癖方向表示部印刷機構43’の換わりに、電線10がボビン41に巻き取られた直後に癖方向表示部16’を樹脂シース15の表面に印刷するように、癖方向表示部印刷機構43”が配設されている点において、
図5の製造装置40と異なる。
図6の製造装置40’においては、癖方向表示部印刷機構43は配設されていてもよいし、配設されていなくてもよい。
【0036】
本発明に係る電源ケーブル用電線の製造装置40,40’は、電源ケーブル用電線10の製造の最終工程(完成した電線10を保存する直前の工程)で用いられることが好ましい。また、電線10を巻き取るためのボビン41は、電線10の保存にそのまま用いられるボビンであることが好ましい。これは、電線10の保存中に、巻き癖が形成されるためである。
【0037】
(インホイールモータ)
前述したように、本発明に係る電源ケーブル20は、用いる電線10の癖方向が表示されていることから、電線10の癖方向と電源ケーブル20に課される屈曲運動の方向とを容易に調整することができる。その結果、電源ケーブル20に繰り返しの屈曲運動が課されたとしても、電源ケーブル20の面外変形およびそのばらつきを低減することができる。本発明の電源ケーブル20を用いることにより、車両走行中でも電源ケーブル20がホイール35やタイヤと接触しないインホイールモータ30を提供することができる(
図1,2参照)。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(電源ケーブルの作製および面外変形量測定)
まず、
図3に示した電線10を作製した。本実施例では、中心導体12(直径3.4 mm、29芯、撚りピッチ51 mm)の外周に、絶縁層13としてPE層(厚さ0.5 mm)、補強編組層4としてPET繊維編組層(厚さ1.0 mm)、最外層の樹脂シース15としてEPDM層(厚さ0.8 mm)が順次形成された電線10(外径8.0 mm)を用意した。なお、電線10の作製にあたり、
図5に示した製造装置40を用いて、電線10の癖方向と一致するように、樹脂シース15の表面に癖方向表示部16,16’を印刷した。
【0040】
次に、電源ケーブル20を作製するために、接続端子21間の距離が160 mmになる長さで、電線10をボビン42から切り出した。切り出した直後の電線10には、ボビン42に巻き付け保管されていた影響で、曲率半径約100 mmの巻き癖があった。切り出した電線10に対して、巻き癖の解し処理を行った。その結果、外見上は巻き癖の影響はほとんど解消したように見えた。最後に、電線10の両端を端末加工して接続端子21を取り付け、電源ケーブル20を作製した。
【0041】
電源ケーブルの面外変形量の測定方法について説明する。
図7は、電線の癖方向と電源ケーブルにL字曲げを課す平面(x‐y平面)との関係を理解するためのイメージ図である。
図7において、電源ケーブルは、その一端(ケーブル端A)が原点Oに固定されている状態である。その上で、電源ケーブルの他端(ケーブル端B)はフリーの状態にして(例えば、チャック等で挟まない状態で)、電線の癖が明確に表れたと想定した場合の電源ケーブルの形状を示したものである。
【0042】
より具体的に説明すると、電源ケーブル201は、電線の癖方向がx‐y平面内にあり、フリーのケーブル端Bがy軸(y”軸)の正の領域にある場合を示している(以下、これを設置方向0゜と定義する)。電源ケーブル202は、電線の癖方向がx‐z平面内にあり、フリーのケーブル端Bがz軸(z”軸)の正の領域にある場合を示している(以下、これを設置方向90゜と定義する)。電源ケーブル203は、電線の癖方向がx‐z平面内にあり、フリーのケーブル端Bがz軸(z”軸)の負の領域にある場合を示している(以下、これを設置方向270゜と定義する)。
【0043】
面外変形量の測定においては、ケーブル端Bをチャックで挟んでx軸上(x‐x”軸上)に一旦移動した後に、x‐y平面内でケーブル端Bを動かして電源ケーブルに対してL字曲げを課した。このとき、電源ケーブルの電線10が面外方向(z方向)に変形した最大量を測定した。表1に、測定結果(電源ケーブルの設置方向と面外変形量との関係)を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示したように、設置方向を0゜とした場合は、面外変形量が十分に小さい値であった。これに対し、設置方向を90゜や270゜とした場合には、面外変形量が、設置方向0゜の場合の約2倍に増大することが判った。また、設置方向が90゜と270゜との場合には、面外変形の方向も互いに逆方向になることが判った。なお、上記実験は、接続端子間距離160 mmでL字曲げの条件で行ったものであるが、接続端子間距離を長くしたりU字曲げを課したりすると、面外変形量が増大すると考えられる。
【0046】
上記の測定結果から、たとえ使用する電線に対して巻き癖の解し処理を行ったとしても、元々の癖方向の影響を無視することはできないことが判った。言い換えると、電源ケーブルに屈曲運動を課した時に面外変形の様子・程度が電源ケーブル毎に異なった従来の現象は、使用する電線の癖方向と屈曲運動面との関係が調整・制御されていなかったことに起因すると考えられた。
【0047】
以上説明したように、本発明に係る電源ケーブルは、用いる電線の癖方向が表示されていることから、電線の癖方向と電源ケーブルに課される屈曲運動の方向とを容易に調整することができる。その結果、電源ケーブルに繰り返しの屈曲運動が課されたとしても、電源ケーブルの面外変形およびそのばらつきを低減することができる。
【0048】
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10…電線、
11…素線、12…中心導体、13…絶縁層、14…補強編組層、15…樹脂シース、
16,16’…癖方向表示部、17,17’…法線方向、
20,20a,20b,20c,201,202,203…電源ケーブル、
21…接続端子、22,22’…癖方向表示部、
30…インホイールモータ、31…サスペンションアーム、32…サスペンション、
33…端子台、35…ホイール、
40,40’…電源ケーブル用電線の製造装置、
41…ボビン、42…駆動機構、43,43’,43”…癖方向表示部印刷機構。