特許第6040929号(P6040929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6040929表面処理方法及びそれを用いた金属化樹脂フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040929
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】表面処理方法及びそれを用いた金属化樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/34 20060101AFI20161128BHJP
   C25D 5/56 20060101ALI20161128BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C25D5/34
   C25D5/56 Z
   C25D7/06 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-270540(P2013-270540)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124418(P2015-124418A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2015年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】西原 晋平
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−181180(JP,A)
【文献】 特開平10−310887(JP,A)
【文献】 特開平02−310386(JP,A)
【文献】 特開昭57−158399(JP,A)
【文献】 特開2005−240108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D5/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に金属層を有する長尺のフィルム状部材をロールツーロール方式で搬送しながらその表面を連続的に処理する方法であって、
ほぼ密閉された空間内で前記フィルム状部材の金属層を有する面に酸を含む液体を塗布すると共に、1秒当たり前記空間内に存在するガスの15〜50%を置換することによって、前記空間内を漂う酸性ミストにさらされることによって生じうる面方向の大きさ20〜50μmの凹凸部を発生させることなく前記フィルム状部材を処理することを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記塗布の後に前記フィルム状部材を水洗し、該水洗により該フィルム状部材に付着した水分を液切りし、該液切りで除去しきれない水分を乾燥することを特徴とする、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
少なくとも片面に金属層を有する長尺フィルム状部材をロールツーロール方式で搬送しながらその表面に連続的に電気めっきを行う方法であって、前処理として請求項1又は2に記載の表面処理方法を行うことを特徴とする電気めっき方法。
【請求項4】
前記電気めっきは銅層を成膜するものであり、前記酸は硫酸であることを特徴とする、請求項3に記載の電気めっき方法。
【請求項5】
長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に金属シード層及び銅被膜層をこの順に接着剤を介することなく積層した後、請求項3又は4に記載の電気めっき方法を用いて該銅被膜層を膜厚化して金属導電体層を形成することを特徴とする金属化樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
ロールツーロール方式で搬送される長尺フィルム状部材に連続的に電気めっきを施す電気めっき部と、該電気めっき部で電気めっきを施す前に該長尺フィルム状部材に連続的に表面処理を施す前処理部とからなる電気めっき装置であって、前記前処理部は前記フィルム状部材に浸漬により塗布させる酸を含む液体が貯められたほぼ密閉された容器と、該容器内の空間を漂う酸性ミストにさらされることによって生じうる面方向の大きさ20〜50μmの凹凸部を発生させることなく該フィルム状部材を処理するために1秒当たり該空間に存在するガスの15〜50%を置換するガス置換手段とを有していることを特徴とする電気めっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも片面に金属層が形成されたフィルム状部材に酸性液を用いて表面処理する方法、及び該表面処理方法を用いて電子機器内の配線部材に用いられる金属化樹脂フィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルや携帯電話等の電子機器の配線部材には、金属化樹脂フィルムをパターニング処理して得られるフレキシブルプリント配線板が広く採用されている。この金属化樹脂フィルムには、樹脂フィルムとしてのポリイミドフィルムと銅箔とを接着剤を用いて貼り合わせた3層の金属化樹脂フィルムが従来から広く使われている。しかし、近年の電子機器の軽薄短小化に伴って配線部材の配線には更なる狭ピッチ化が求められており、金属化樹脂フィルムにはより微細な配線を描ける高品質の基材が求められている。
【0003】
かかる状況の中、樹脂フィルムに主にポリイミドフィルムを用い、接着剤層を介在させずに金属層の成膜を行う2層の金属化ポリイミドフィルムが注目を集めている。このように接着剤層のない2層構造にすることで接着剤層の特性に左右されることなくポリイミド本来の安定した特性を十分に発揮させることができ、より高品質の基材を作製することができるからである。なお、以降の説明では、このように樹脂フィルムにポリイミドを用いた場合を金属化ポリイミドフィルムと称し、ポリイミドに限定しない場合は単に金属化樹脂フィルムと記載する
【0004】
上記したような接着剤層のない2層金属化ポリイミドフィルムを作製する方法には、(1)銅箔にポリイミドワニスを塗布した後、加熱してポリイミドフィルム層を形成するキャスティング法、(2)ポリイミドフィルムに熱可塑性のポリイミド系接着剤を塗布して銅箔と加熱圧着させるラミネート法、(3)ポリイミドフィルム表面にスパッタ法や蒸着法で直接金属層を積層させた後、電気めっき法や無電解めっき法を用いて金属層を厚付けする乾式めっき法がある。
【0005】
これら種々の方法のうち、乾式めっき法は2層金属化樹脂フィルムを連続的に製造することができるという利点を有している。例えば長尺状の樹脂フィルムをロールツーロールで搬送しながらスパッタリングもしくは蒸着等の乾式めっき法により少なくとも片面にニッケル、クロム、又はニッケルクロム合金等からなる金属シード層を先ず形成し、その上に良導電性を付与するために銅層からなる金属被膜を形成する。そして、後工程の回路形成においてパターニングされる導電体層を膜厚化するため、電気めっき単独、又は電気めっきと無電解めっきとの併用による湿式めっき法によって上記金属被膜の上に更に銅の導電体層を形成することが通常行われる。
【0006】
この電気めっき法による導電体層の形成も連続的に行うことが可能であり、例えば長尺樹脂フィルムをロールツーロールで搬送しながらめっき槽内のめっき液に連続的に浸漬させ、該めっき液中に設けられているアノード(陽極)に連続的に対向させながら、これらアノードと長尺樹脂フィルム上のめっき面とに電力を供給することにより長尺樹脂フィルムに連続的に電気めっきを行うことができる。なお、このように連続的に電気めっきを行う場合は、一般に2槽以上のめっき槽が長尺樹脂フィルムの搬送方向に沿って並設される。
【0007】
例えば特許文献1には、電解液が貯められた複数の一列に並べられためっき槽に、厚さ0.5μm以下の金属化樹脂フィルムを順次連続的に浸漬させて陽極に対向させることにより連続的にめっきする方法が示されている。この特許文献1の方法では、めっき槽毎に通電量を制御できるようになっており、めっき槽毎の通電量を金属化樹脂フィルムの搬送方向に関して後段になるにしたがって順次増加させることにより、均一で良好な電気めっき被膜を連続的に形成できることが示されている。
【0008】
上記したように乾式めっき法及び電気めっき法で作製された2層金属化樹脂フィルムは、COF(Chip On Film)に代表されるフレキシブルプリント配線板用として微細配線加工された後、例えば液晶パネル向け実装用基板に使用される。このように微細配線加工される金属化樹脂フィルムには、表面に微小な凹凸部を有していないことが特に要求されている。素地である樹脂フィルムの表面の荒れは金属化樹脂フィルムの表面のなめらかさに影響を及ぼしやすく、表面に凹凸のある樹脂フィルムを用いた場合は金属化樹脂フィルムの表面に凹凸が形成されやすい。そのため、樹脂フィルムにはフィルムの面方向での大きさが20〜50μm程度の凹部や凸部のないものが求められている。
【0009】
また、2層金属化樹脂フィルムでは樹脂フィルムと金属層との良好な密着のため、素地である樹脂フィルム表面の活性化が求められる場合がある。そこで、金属化樹脂フィルムの作製においては、素地である樹脂フィルムの活性化や異物の除去のため、電気めっき前に前処理として酸を用いて表面を処理することが行われている。例えば特許文献2には、電気めっき前の金属化ポリイミドフィルムに対して酸による表面処理を施すことで、表面に付着している異物等を除去し、微細な表面欠陥が少ない金属導電体層を得る技術が示されている。また特許文献3には、電気めっき前の表面処理において、フィルム基板の表面に接触するローラーの表面硬度を規定することで電気めっき後の金属導電体層の表面欠陥への悪影響を抑える技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−026990号公報
【特許文献2】特開2013−056977号公報
【特許文献3】特開2013−181180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、接着剤層の無い2層金属化樹脂フィルムでは、特にCOFとして微細配線加工される場合、金属表面に微小凹凸部が存在していないことが求められている。しかし、乾式めっき法と電気めっき法とを用いて長尺樹脂フィルムを連続的に処理して金属化樹脂フィルムを作製する場合、特許文献2に示すように電気めっき前の前処理としてグリコール酸や硫酸などの酸を表面処理液として用いて表面処理を行うと、金属導電体層に微小凹凸部が発生することがあった。また、特許文献3に示すように、フィルム基板に接触するローラーの表面硬度を適切な範囲に設定しても金属導電体層に微小凹凸部が発生することがあった。
【0012】
本発明は上記した従来の問題に鑑みてなされたものであり、金属導電体層に表面欠陥となる微小凹凸部を生じさせることなく少なくとも片面に金属層を有するフィルム状部材に酸を用いて表面処理を行う方法、及びその表面処理方法を用いて微小凹凸部がほとんどない金属化樹脂フィルムを製造する方法を提供する事を目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するため、金属化ポリイミドフィルムの製造方法について鋭意研究を行った結果、電気めっきの前処理としての表面処理工程において発生する酸性ミストを抑制することで、電気めっきが施される前の金属表面にダメージが生ずるのを防ぐことができ、よって表面に微小凹凸部のない高品質の金属化ポリイミドフィルムを電気めっきで作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明が提供する表面処理方法は、少なくとも片面に金属層を有する長尺のフィルム状部材をロールツーロール方式で搬送しながらその表面を連続的に処理する方法であって、ほぼ密閉された空間内で前記フィルム状部材の金属層を有する面に酸を含む液体を塗布すると共に、1秒当たり前記空間内に存在するガスの15〜50%を置換することによって、前記空間内を漂う酸性ミストにさらされることによって生じうる面方向の大きさ20〜50μmの凹凸部を発生させることなく前記フィルム状部材を処理することを特徴としている。
【0015】
また、本発明が提供する電気めっき方法は、少なくとも片面に金属層を有する長尺フィルム状部材をロールツーロール方式で搬送しながらその表面に連続的に電気めっきを行う方法であって、前処理として上記した表面処理方法を行うことを特徴としている。また、本発明が提供する金属化樹脂フィルムの製造方法は、長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に金属シード層及び銅被膜層をこの順に接着剤を介することなく積層した後、上記した電気めっき方法を用いて該銅被膜層を膜厚化することで金属導電体層を形成することを特徴としている。
【0016】
更に、本発明が提供する電気めっき装置は、ロールツーロール方式で搬送される長尺フィルム状部材に連続的に電気めっきを施す電気めっき部と、該電気めっき部で電気めっきを施す前に該長尺フィルム状部材に連続的に表面処理を施す前処理部とからなる電気めっき装置であって、前記前処理部は前記フィルム状部材に浸漬により塗布させる酸を含む液体が貯められたほぼ密閉された容器と、該容器内の空間を漂う酸性ミストにさらされることによって生じうる面方向の大きさ20〜50μmの凹凸部を発生させることなく該フィルム状部材を処理するために1秒当たり該空間に存在するガスの15〜50%を置換するガス置換手段とを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面に微小凹凸部のほとんどない平坦な導電体層を有する金属化樹脂フィルムを得ることができる。この金属化樹脂フィルムは微細加工が施されるCOFなど用途に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の表面処理方法が好適に適用される電気めっき装置の概略の側面図である。
図2図1の電気めっき装置が有する前処理部の概略の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の表面処理方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態の表面処理方法を電子機器内の配線部材に用いられる2層金属化樹脂フィルムの製造工程に適用しており、特にその中の一工程である電気めっき工程の前処理工程に適用しているが、本発明の表面処理方法は、かかる電気めっき工程の前処理工程への適用に限定されるものではない。すなわち、本発明の表面処理方法は、金属化樹脂フィルムに代表される少なくとも片面に金属層を有する長尺のフィルム状部材をローラーにより連続的に搬送しながら表面処理剤に代表される酸を含む液体を浸漬等により塗布して金属面を表面処理する方法に対して広く適用可能である。
【0020】
先ず、図1を参照しながら本発明の表面処理方法が好適に適用される電気めっき装置について説明する。この図1に示す電気めっき装置は、図示しない前段の乾式めっき装置において少なくとも片面に金属被膜が成膜された金属化樹脂フィルムFの該金属被膜を膜厚化するものであり、ロールツーロール方式で搬送される金属化樹脂フィルムFに対して前処理を行った後、湿式めっきである電気めっきを行って乾式めっきで成膜された金属被膜を厚膜化し、これにより膜厚の金属化樹脂フィルムSを作製するものである。なお、電気めっきにより厚膜化される金属被膜の材質には主として銅が用いられる。
【0021】
具体的に説明すると、この図1に示す装置は、ロール状に巻回された金属化樹脂フィルムFが巻き出される巻出しロール11と、ローラーで搬送される金属化樹脂フィルムFの金属被膜に表面処理を施す前処理部12と、ローラーで搬送される金属化樹脂フィルムFの金属被膜を膜厚化すべく電気めっき処理が行われる電気めっき部13と、電気めっきにより金属被膜が膜厚化された金属化樹脂フィルムSをロール状に巻き取る巻取りロール14とで構成される。
【0022】
電気めっき部13では、めっき液が貯められためっき槽21内に8枚の互いに平行なアノード(陽極)22a〜22hがめっき液に浸漬するように設けられており、このアノードに金属化樹脂フィルムFが連続的に対向できるように液面上部にある5つの給電ロール23a〜23e及びめっき槽21内部にある4つの搬送用ガイドロール24a〜24dが交互に配置されている。そして、これらアノードと給電ロールとに図示しない給電装置によって電力の供給が行われる。なお、めっき槽21内は図示しない仕切り板によって2枚のアノードと1つの搬送用ガイドロールとを各々有する4つの槽に区切られている。
【0023】
上記した電気めっき部13の前段に位置する前処理部12は、金属化樹脂フィルムFの表面に電気めっき処理前に前処理としての表面処理を施す部分であり、図2に示す通り、巻出しロール11(図2には図示せず)より巻き出された金属化樹脂フィルムFを複数のローラー対52、55、62、64を用いて搬送しながら、塗布装置50、水洗装置60、液切り装置70、及び乾燥装置80において順に処理するものである。
【0024】
塗布装置50では、容器51内に設けられたローラー対52,55及び液状の表面処理剤53の液面下に位置するローラー54により金属化樹脂フィルムFは連続的に表面処理剤53に浸漬され、これにより金属導電体層側の表面に表面処理剤53が塗布される。この表面処理剤53の塗布により金属化樹脂フィルムFの表面処理が行われ、その結果、金属化樹脂フィルムFの金属表面部が一部溶解して粗面化し、後段の電気めっきの際の密着力が高められる。また、薄い錆(酸化皮膜)やスマット、異物の除去が行われる。
【0025】
塗布装置50で使用する表面処理剤53には有機溶剤を含んだ酸性水溶液を使用するのが好ましい。例えば、アルニオン(ユケン工業株式会社製、商品名:アルニオンT−NNO)等の有機溶剤に酸性液及び水を加えることで調製することができる。酸性液には無機酸を用いるのが好ましいが、特に硫酸が好適である。これら有機溶剤及び酸性液の濃度は、金属化樹脂フィルムSの用途に応じて適宜設定すればよい。なお、金属化樹脂フィルムFに酸性水溶液を塗布することで表面処理を施す方法は、上記した方法に限定されるものではなく、超音波洗浄法など公知の方法によるものでもよい。
【0026】
塗布装置50で表面処理された金属化樹脂フィルムFは、次に水洗装置60に送られる。水洗装置60は前段の塗布装置50で金属化樹脂フィルムFの表面に余剰に付着した液状の表面処理剤を水洗により除去するものであり、水洗に使用する水は純水が好ましいが、洗浄力を高めるために必要に応じて添加剤を加えた純水を使用してもよい。水洗する方法としては、図2に示すように水平方向に搬送される金属化樹脂フィルムFの上下に配置した1対のシャワー63を用いて金属化樹脂フィルムFの両面に水を吹き付けてもよいし、金属化樹脂フィルムFを水槽に浸漬させる等の公知の方法を用いてもよい。
【0027】
水洗装置60で水洗された金属化樹脂フィルムFは次に液切り装置70に送られる。液切り装置70は、前段の水洗装置60で金属化樹脂フィルムFに付着した水の量を減らして後段の乾燥装置80の負荷を低減することを目的とするものであり、表裏面を上下に向けて水平方向に搬送される金属化樹脂フィルムFの当該表裏面に向けてそれぞれ上下から圧縮エアーを吹き付けることで金属化樹脂フィルムFに付着している水分を吹き飛ばしている。液切り装置70で脱水された金属化樹脂フィルムFは次に乾燥装置80に送られる。乾燥装置80は、水平方向に搬送される金属化樹脂フィルムFのスリット状入口及び出口を有するボックス内に、温風を導入すると共に蒸発した水分を含むガスを排気することで金属化樹脂フィルムFを乾燥するものである。
【0028】
ところで、上記した金属化樹脂フィルムFに表面処理剤53で表面処理を施す塗布装置50は、異物が槽内に落下したり異物が金属化樹脂フィルムFに付着したりするのを防止する為、カバー等によりほぼ密閉状態が確保された容器51内に納められている。その為、この容器51内には表面処理剤53の液面より上の空間に表面処理剤53としての酸性水溶液から蒸発した酸性蒸気や酸性ミストが存在している。そして、この空間内を複数のローラー対52、55によって金属化樹脂フィルムFが搬送されることになる。その結果、金属化樹脂フィルムFは空間内を漂う特に酸性ミストにさらされることによりその金属表面が不均質に荒らされ、これにより電気めっき後の金属化樹脂フィルムFの銅被膜の金属導電体層表面に微小な凹凸部が発生することがあった。
【0029】
もちろん、表面処理剤53に酸性液を添加しなければ塗布装置50内で発生する酸性ミストによる金属化樹脂フィルムFへの悪影響を考慮する必要はない。しかしながら、この場合は前述したように酸を用いた浸漬法による薄い錆(酸化皮膜)やスマット、異物の除去能力を低下させる要因となる。したがって、空間内を漂う酸性ミストの量をコントロールすることが、高品質の金属化樹脂フィルムSを得るために極めて有効になる。
【0030】
そこで、この塗布装置50では、その空間雰囲気を漂う酸性ミストによる金属化樹脂フィルムFの金属表面の不均質な荒れを抑える為、塗布装置50内の気流の流れを制御している。具体的には図2の容器51に設けた図示しない排気口を介して酸性ミストを含んだガスを排気すると共に容器51に設けた図示しない送風口を介して外気を容器51内に供給することによって、該容器51内において表面処理剤53の液面より上の有効空間に存在するガスを毎秒15〜50%の割合で置換する。これにより、塗布装置50の容器51内を漂う酸性ミストの量を減らすことができ、酸性ミストによって金属化樹脂フィルムFの金属表面に不均質な凹凸部が生成するのを防止することができる。
【0031】
ここで上記有効空間とは、ほぼ密閉された容器51内における表面処理剤53の液面より上の空間から搬送手段52、55等の機器が占める部分を除いた実質的にガス相が存在しうる空間のことである。またほぼ密閉されているとは、連続して搬送される長尺フィルム状の金属化樹脂フィルムFの容器51への搬入及び搬出がそれぞれ行われるスリット状の入口及び出口や、上記した容器51内のガスの置換のための排気口及び送風口を除いて、容器51がカバー等で密閉されていることを意味している。
【0032】
上記したガスの置換量が毎秒50%を超えると酸性ミストだけでなく必要な水分も容器51から排気されるため、容器51内の有効空間の湿度が過度に低下してウエットな環境ではなくなり、金属化樹脂フィルムFの搬送の役割を担うローラーの外周面上に形成される水膜が不十分となり、ローラーの擦れによる傷などが発生するおそれがある。また、この場合は後段の水洗装置60における水洗能力の低下にも繋がるおそれがある。一方、上記したガスの置換量が毎秒15%未満では滞留する酸性ミストの量が多くなりすぎ、金属化樹脂フィルムFの金属表面が不均質に荒らされる問題が生じやすくなる。
【0033】
なお、塗布装置50の容器51内に存在する酸性ミスト量は、上記した容器51内のガスを置換する以外にも容器51内に貯められる表面処理剤53の液温やその容器51内での流速、金属化樹脂フィルムFの搬送速度、金属化樹脂フィルムFの搬送のためのローラーの個数等の影響もある程度受けるので、上記した容器51内のガスの置換に加えてこれらを適宜調整することで金属化樹脂フィルムFの金属表面への悪影響をより効果的に防止することができる。
【0034】
上記した容器51内のガスの置換量を制御する方法としては、送風口と排気口との間で所望の流速を有する気流が形成されるように空間内に空調機やファン等を設置してその流量を調整してもよいし、排気口の外側や送風口の外側に吸引ファンや送風ファンを設置してその流量を調整してもよい。また、これら機器の流量を調整することに代えて、あるいはこれと並行して送風口や排気口の開度を調整してもよい。なお、これら送風口及び排気口、並びに空調機やファン等のガス送風手段をまとめてガス置換手段と称する。
【0035】
塗布装置50の容器51内の酸性ミスト量を制御するためには、上記したように容器51をほぼ密閉状態にせずに大気開放状態にして図2に示す前処理部12の全体又は図1に示すめっき装置全体が設置されている室内の気流を制御してもよい。この場合は、例えば図1のめっき装置全体又は図2の前処理部12全体が設けられている部屋に送風口及び排気口を設置することになる。
【0036】
但し、例えば排気口に接続したダクトに設けた排気ファンで室内のガスを吸引する場合は、排気口の周囲が負圧となって室内の大気を引き寄せることになるので、酸性ミストを塗布装置50以外に不要に拡散させるおそれがある。これを防ぐため、排気口は塗布装置50の近傍に設置するのがより好ましい。例えば、排気口は処理槽の側壁に設けるのが好ましい。また、金属化樹脂フィルムFの搬送方向に気流の流れが逆行するように送風口や排気口を設置するのが好ましい。
【0037】
次に、上記した表面処理方法を含んだ電気めっき法により長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤を用いることなく金属層を成膜して2層金属化樹脂フィルムを製造する場合について説明する。先ず、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンテレナフタレート(PEN)等のポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、又は液晶ポリマー系フィルム等の主として厚み10〜50μm程度の長尺樹脂フィルムを用意する。具体的な長尺樹脂フィルムの材質は、耐熱性、誘電体特性、電気絶縁性やプリント配線基板の製造工程やその後工程での耐薬品性、及び用途等を考慮に入れて適宜選択される。また、具体的な厚みについても用途に応じて適宜選択される。
【0038】
この長尺樹脂フィルムに蒸着法やスパッタ法を用いた乾式めっき法で、少なくとも片面にニッケル、クロム等からなる金属シード層を形成する。この金属シード層は、長尺樹脂フィルムと金属導電体層との密着性や、フレキシブルプリント配線板の絶縁信頼性を向上させる役割を担う。このような金属シード層として、ニッケル又はニッケル合金を使用することが好ましい。ニッケル合金の場合は、ニッケルにクロム、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト、及びタングステンの中から選択した1種以上の元素を添加することで得られるが、これらの中ではニッケル−クロム合金が好ましく、そのクロムの含有量が15〜25質量%であることがより好ましい。このようなニッケル−クロム合金は、高い絶縁信頼性を有し、且つ配線パターンを容易に形成することができるからである。
【0039】
金属シード層の膜厚は、該金属シード層を形成する金属又は合金の種類や組成、フレキシブルプリント配線板での配線の加工性、配線に要求される密着性や絶縁信頼性から適宜選択されるが、一般的には3〜50nmが好ましい。金属シード層の膜厚が3nm未満では、配線部以外の金属層(金属導電体層と金属シード層)をフラッシュエッチングなどで除去して配線パターンを形成する際、エッチング液が絶縁フィルムと金属層との間に染み込みやすくなり、配線が浮き上がってしまう問題が生じるおそれがある。一方、金属シード層の膜厚が50nmを超えると、フラッシュエッチングなどで最終的に配線パターンを形成する際、金属層が完全に除去されずに残存し、配線間の絶縁不良を発生させるおそれがある。
【0040】
この金属シード層の上に銅などを積層して金属被膜を形成する。ここで積層する銅層の膜厚は0.01〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmが特に好ましい。この銅層の厚さが0.01μm未満では、フレキシブルプリント配線板上の配線部の電気導電性に問題が発生しやすくなったり、強度上の問題が生じたりする場合がある。一方、乾式めっき法による成膜速度は電気めっき法による成膜速度に比べて遅いため、乾式めっき法により1μmを超えて成膜しようとすると、生産性が低下する。
【0041】
その後、前述した電気めっき法もしくは無電解めっき法、又はこれら両者を組み合わせた方法を用いて、金属導電体層である銅層の厚付けが行われる。電気めっき法もしくは無電解めっき法、又はこれら両者を組み合わせた方法で金属導電体層である銅層を厚膜化する場合の膜厚は、フレキシブルプリント配線板の配線パターニングにおいて、サブトラクティブ法又はセミアディティブ法のどちらを選択するかにより決まるものである。すなわち、銅層の膜厚は、サブトラクティブ法によって配線を形成する場合には5〜12μm、セミアディティブ法によって配線を形成する場合には0.5〜4μmとするのが好ましい。なお、電気めっき法は特に限定されることはなく、たとえば、硫酸銅水溶液中で公知の電気めっき方法を使用することができる。
【0042】
以上、本発明の表面処理方法について、電子機器内の配線部材に用いられる金属化樹脂フィルムに適用することを想定して説明したが、本発明の表面処理方法が対象とするフィルム状部材はこれに限定されるものではなく、ローラーを用いて搬送しながら液状の処理剤で表面処理される少なくとも片面に金属層を有するフィルム状部材であれば好適に適用することができる。
【0043】
このような少なくとも片面に金属層を有するフィルム状部材には、上記した2層金属化樹脂フィルムのほか、上記した電子機器内の配線部材以外に用いられる一般的な金属化樹脂フィルム、金属が表面に積層された薄いガラスやプラスチック、厚さ0.3mm以下の金属製の薄板、箔等を挙げることができる。また、液状の処理剤は水を主成分とする溶媒と溶質とからなる表面処理剤に限定されるものではなく、酸を含む各種の表面処理剤であってもよい。これらの表面処理剤が、強酸を含む表面処理剤であれば、より顕著な効果が得られる。
【0044】
また、上記した本発明の実施形態の表面処理方法で処理した金属化樹脂フィルムは、乾式めっき法にて長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に金属被膜が積層された金属化樹脂フィルムに、電気めっき法にて金属導電体層を積層して得たものであったが、金属化樹脂フィルム(長尺樹脂フィルムにポリイミドフィルムを用いる場合は金属化ポリイミドフィルム)の製造方法はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の表面処理方法について、実施例及び比較例を用いてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例及び比較例における微小凹凸部の有無の判定は、金属化樹脂フィルムの全長に亘って検査し、当該フィルムの面方向での大きさが20〜50μmの凹部又は凸部があれば微小凹凸部ありと判断した。
【0046】
(実施例1)
図1に示すような連続電気めっき装置を用いて、ロール状に巻回された長尺の金属化樹脂フィルムFを巻出しロール11から巻出し、ローラーで連続的に搬送しながら前処理部12で金属化樹脂フィルムFの金属被膜に表面処理を施した後、電気めっき部13でめっき処理して銅層を厚膜化し、得られた金属化樹脂フィルムSを巻取りロール14で巻取った。
【0047】
巻出しロール11から巻き出す金属化樹脂フィルムFには、厚み38μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名カプトン(登録商標))の表面に予めスパッタリング法で膜厚10nmのニッケル−20質量%クロム合金膜を成膜し、さらにこの合金膜の表面に膜厚100nmの銅層を積層したものを用いた。
【0048】
電気めっき部13では、硫酸を100g/L、硫酸銅を180g/L含み、塩素含有量50質量ppmのめっき液を用い、これに銅めっき皮膜の平滑性等を確保する目的で添加剤を添加した。この電気めっき部13に、金属化樹脂フィルムFを3m/minの搬送速度で導入することにより、金属化樹脂フィルムFの銅層を8μmまで厚膜化した。この電気めっき部13での電気めっきの前処理として、図2に示す塗布装置50、水洗装置60、液切り装置70、及び乾燥装置80からなる前処理部12で前処理を行った。塗布装置50の表面処理剤53には、アルニオンを4.7ml/L、硫酸を25g/Lに調整した水溶液を用いた。水洗装置60の洗浄液には純水を用いた。
【0049】
塗布装置50の容器51の側面には送風口及び排気口を1つずつ設けると共に、送風口に流量可変式の送風ファンを設置した。そして、送風ファンの流量を調整して1秒当たり容器51の空間内の酸性ミストを含むガスの23%を置換した。このようにして、表面処理を施してから電気めっきを行って金属化樹脂フィルムSを作製した。巻取りロール14にロール状に巻き取られた金属化樹脂フィルムに対して表面の微小凹凸部の有無を検査した結果、500ロールを検査しても微小凹凸部は発生しておらず、高品質の2層金属化樹脂フィルムを作製することができた。
【0050】
(実施例2)
塗布装置50の容器51において、金属化樹脂フィルムFの搬送方向で互いに対向する両側面に各々多数の開口部を設けた。そして、流量可変式の送風ファンの流量を調整して1秒当たり容器51の空間内の酸性ミストを含むガスの29%を置換した。なお、この送風ファンは金属化樹脂フィルムFの搬送方向に関して下流側に位置する開口部に設けて、金属化樹脂フィルムFが搬送される向きとは対向するように気流を流した。
【0051】
上記以外は実施例1と同様にして金属化樹脂フィルムSを作製した。巻取りロール14にロール状に巻き取られた金属化樹脂フィルムに対して表面の微小凹凸部の有無を検査した結果、500ロールを検査しても微小凹凸部は発生しておらず、高品質の2層金属化樹脂フィルムを作製することができた。
【0052】
(比較例1)
流量可変式の送風ファンの流量を調整して1秒当たり容器51の空間内の酸性ミストを含むガスの5%を置換した以外は実施例1と同様にして金属化樹脂フィルムSを作製した。巻取りロール14にロール状に巻き取られた金属化樹脂フィルムに対して表面の微小凹凸部の有無を検査した結果、500ロール検査するまでに微小凹凸部が見つかった。
【0053】
(比較例2)
流量可変式の送風ファンの流量を調整して1秒当たり容器51の空間内の酸性ミストを含むガスの56%を置換した以外は実施例1と同様にして金属化樹脂フィルムSを作製した。巻取りロール14にロール状に巻き取られた金属化樹脂フィルムに対して表面の微小凹凸部の有無を検査した結果、500ロール検査するまでに微小凹凸部が見つかった。
【符号の説明】
【0054】
11 巻出しロール
12 前処理部
13 電気めっき部
14 巻取りロール
50 塗布装置
60 水洗装置
70 液切り装置
80 乾燥装置
図1
図2