特許第6041161号(P6041161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041161熱線遮蔽分散体の製造方法および熱線遮蔽体の製造方法
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  • 特許6041161-熱線遮蔽分散体の製造方法および熱線遮蔽体の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041161
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】熱線遮蔽分散体の製造方法および熱線遮蔽体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20161128BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20161128BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C09K3/00 105
   C09D1/00
   C09D5/32
【請求項の数】19
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-524874(P2014-524874)
(86)(22)【出願日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2013069011
(87)【国際公開番号】WO2014010684
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-155150(P2012-155150)
(32)【優先日】2012年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 佳世
(72)【発明者】
【氏名】東福 淳司
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−163574(JP,A)
【文献】 特開2011−063739(JP,A)
【文献】 特開2011−157504(JP,A)
【文献】 特開2011−133586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00、
B05D1/00−7/26、
B32B1/00−43/00
C09D1/00−10/00、
C09D101/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちから選択される1種類以上であり、且つ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を分散媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整した複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程と、
水酸化亜鉛を分散媒に分散し、当該水酸化亜鉛の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整して水酸化亜鉛微粒子分散液を製造する工程と、
前記複合タングステン酸化物微粒子分散液へ、前記水酸化亜鉛微粒子分散液を添加混合し、前記複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対して、前記水酸化亜鉛微粒子が、0.1重量部以上、100重量部以下含有される第1の混合分散液を製造する工程と、
前記第1の混合分散液を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽分散体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の混合分散液から分散媒を除去して、分散粉を製造する工程と、
前記分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の混合分散物を製造する工程と、
前記第2の混合分散物を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽分散体の製造方法。
【請求項3】
一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちから選択される1種類以上であり、且つ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、水酸化亜鉛とを、前記複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対して、前記水酸化亜鉛が0.1重量部以上、100重量部以下含有されるように分散媒に分散し、前記複合タングステン酸化物微粒子と前記水酸化亜鉛との分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整して第1の混合分散液を製造する工程と、
前記第1の混合分散液を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽分散体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の混合分散液から分散媒を除去して分散粉を製造する工程と、
前記分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の混合分散物を製造する工程と、
前記第2の混合分散物を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程と、を有することを特徴とする請求項3に記載の熱線遮蔽分散体の製造方法。
【請求項5】
一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちから選択される1種類以上であり、且つ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を分散媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整した第1の複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程と、
前記第1の複合タングステン酸化物微粒子分散液から分散媒を除去して、複合タングステン酸化物微粒子分散粉を製造する工程と、
前記複合タングステン酸化物微粒子分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の複合タングステン酸化物微粒子分散物を製造する工程と、
水酸化亜鉛を分散媒に分散し、当該水酸化亜鉛の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整した第1の水酸化亜鉛微粒子分散液を製造し、当該分散液から分散媒を除去して、水酸化亜鉛微粒子分散粉を製造する工程と、
前記第1の水酸化亜鉛微粒子分散液から分散媒を除去して、水酸化亜鉛微粒子分散粉を製造する工程と、
前記水酸化亜鉛微粒子分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の水酸化亜鉛微粒子分散物を製造する工程と、
前記第2の複合タングステン酸化物微粒子分散物と、前記第2の水酸化亜鉛微粒子分散物とを混合し、成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程と、を有することを特徴とする熱線遮蔽分散体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の混合分散液へ媒体を添加し、硬化させて熱線遮蔽分散体を製造する工程を有することを特徴とする請求項1または3に記載の熱線遮蔽分散体の製造方法。
【請求項7】
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項2、4から6のいずれかに記載の熱線遮蔽分散体の製造方法
【請求項8】
前記媒体が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂から選択される1種類以上であることを特徴とする請求項2、4から6のいずれかに記載の熱線遮蔽分散体の製造方法
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の熱線遮蔽分散体を、所定の基材の片面または両面に設けることを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法
【請求項10】
前記熱線遮蔽分散体を、板状またはフィルム状または薄膜状に形成することを特徴とする請求項9に記載の熱線遮蔽体の製造方法
【請求項11】
前記基材が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項9または10のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法
【請求項12】
前記基材が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする請求項9または10のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法
【請求項13】
可視光透過率が70%以上でありかつ日射透過率が40%以下であるとき、耐湿熱性評価後における熱線遮蔽分散体の可視光透過率の変化が2%以下、日射透過率の変化が4%以下、ヘイズ値の変化が0.5%以下であることを特徴とする請求項9から12のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法
【請求項14】
請求項1または3に記載の第1の混合分散液を、所定の基材上にコーティングする工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法。
【請求項15】
請求項2または4に記載の第2の混合分散物の成形固化物を、所定の基材上に設ける工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法。
【請求項16】
請求項5に記載の第2の複合タングステン酸化物微粒子分散物と、第2の水酸化亜鉛微粒子分散物との混合物である成形固化物を、所定の基材上に設ける工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法。
【請求項17】
請求項6に記載の第1の混合分散液へ媒体を添加したものを、所定の基材上に設け、硬化させる工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法。
【請求項18】
前記基材が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項14から17のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法
【請求項19】
前記基材が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする請求項14から17のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域の光は透過し、近赤外線領域に吸収を持つ近赤外線遮蔽材料を用いた熱線遮蔽分散体、熱線遮蔽体、および、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線は、近赤外光(熱線)、可視光、紫外光の3つに大きく分けられる。熱線は熱エネルギーとして人体に感じる波長領域であり、夏季の室内の温度上昇の原因となる。また、紫外線領域は日焼けや皮膚ガン等人体へ悪影響を及ぼすことが指摘されている。
近年、熱線としての近赤外線を遮蔽し、保温及び断熱の性能を付与するために、ガラス、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の透明基材に近赤外線吸収能を付与することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、上記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、第2層の透明誘電体膜上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族およびVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、かつ、上記第2層を構成する透明誘電体膜の屈折率を第1層および第3層の複合酸化タングステン膜の屈折率よりも低くすることにより、高い可視光透過率および良好な熱線遮蔽性能が要求される部位に好適に使用できる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、この第1層上に第2層として酸化タングステン膜を設け、この第2層上に第3層として上記第2層の誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、特許文献1と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、この第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた熱線遮断ガラスが提案されている。
【0006】
更に、特許文献4では、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム等の添加元素を含有する三酸化タングステン(WO3)、三酸化モリブデン(MoO3)、五酸化ニオブ(Nb25)、五酸化タンタル(Ta25)、五酸化バナジウム(V25)および二酸化バナジウム(VO2)の1種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法あるいはスプレー法でガラスシートに被覆しかつ250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシートが提案されている。
【0007】
特許文献5では、タングステン酸を加水分解して得られたタングステン酸化物を用い、このタングステン酸化物にポリビニルピロリドンという特定の構造の有機ポリマーを添加することにより、太陽光が照射されると光線中の紫外線が上記タングステン酸化物に吸収されて励起電子とホールとが発生し、少量の紫外線量により5価タングステンの出現量が著しく増加して着色反応が速くなり、これに伴って着色濃度が高くなると共に、光を遮断することによって5価タングステンが極めて速やかに6価に酸化されて消色反応が速くなる特性を用い、太陽光に対する着色および消色反応が速く、着色時に近赤外域の波長1250nmに吸収ピークが現れ、太陽光の近赤外線を遮断することができる太陽光可変調光断熱材料が提案されている。
【0008】
また、特許文献6では、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、または加熱還流した後に溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物または両者の混合物から成る粉末が得られること、このタングステン酸化物微粒子を用いてエレクトロクロミック素子が得られること、多層の積層体を構成し膜中にプロトンを導入したときに当該膜の光学特性を変化させること、が出来ること等が提案されている。
【0009】
また、特許文献7では、メタ型タングステン酸アンモニウムと水溶性の各種金属塩を原料とし、約300〜700℃に加熱しながらその混合水溶液の乾固物に対し、不活性ガス(添加量;約50vol%以上)または水蒸気(添加量;約15vol%以下)が添加された水素ガスを供給することにより、MxWO3(M;アルカリ Ia族、IIa族、希土類等の金属元素、0<x<1)で表記される種々のタングステンブロンズを調製する方法が提案されている。
【0010】
更に、特許文献8には、タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子から成る近赤外線遮蔽材料微粒子を、樹脂、ガラス等の媒体中に分散させて成る近赤外線遮蔽材料微粒子分散体、この分散体から製造される近赤外線遮蔽体、上記近赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、および、近赤外線遮蔽材料微粒子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−59300号公報
【特許文献2】特開平8−12378号公報
【特許文献3】特開平8−283044号公報
【特許文献4】特開2000−119045号公報
【特許文献5】特開平9−127559号公報
【特許文献6】特開2003−121884号公報
【特許文献7】特開平8−73223号公報
【特許文献8】特許第4096205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが本発明者らの検討によると、特許文献1〜3に記載の近赤外線遮蔽体(熱線遮断ガラス)は、主にスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法および化学気相法(CVD法)等の真空成膜方式による乾式法を用いた方法で製造されるため、大型の製造装置を必要とし、製造コストが高くなるという問題がある。また、上記真空成膜方法で製造されることから、近赤外線遮蔽体の基材が高温のプラズマに曝されたり、成膜後に加熱を必要としたりすることになるため、ガラスに替えてフィルム等の樹脂を基材とする場合には、別途、設備上、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0013】
また、特許文献4に記載の近赤外線遮蔽体(太陽光制御被覆ガラスシート)は、原料である金属酸化物をCVD法またはスプレー法と熱分解法との併用によりガラス上に被膜形成するが、前駆体となる原料が高価であること、高温で分解すること等から、ガラスシートに代えてフィルム等の樹脂を基材とする場合には、別途、成膜条件の検討を行う必要があった。
【0014】
また、特許文献5に記載の太陽光可変調光断熱材料や、特許文献6に記載のエレクトロクロミック素子は、紫外線や電位差によりその色調を変化させる材料であるため膜の構造が複雑であり、色調変化が望まれない用途分野には適用が困難という問題があった。
【0015】
更に、特許文献7にはタングステンブロンズの調製方法が記載されているが、得られた粉体の粒子直径や光学特性の記載は皆無である。これは、特許文献7において、タングステンブロンズの用途としては電解装置や燃料電池の電極材料および有機合成の触媒材料が考えられており、上述した近赤外線遮蔽体を用途としていないためと考えられる。
【0016】
他方、特許文献8においては、近赤外線遮蔽体の製造に用いられるタングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子が提案され、これ等酸化物微粒子は優れた可視光透過性と良好な近赤外線遮蔽効果を有している。このため、各種建築物や車両の窓材等の分野において好適に利用される近赤外線遮蔽体として注目されている。
しかし、これ等複合タングステン酸化物微粒子の耐湿熱性については十分満足できない場合があり、未だ改善の余地が残されていた。
【0017】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、優れた耐湿熱性を有する熱線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる熱線遮蔽分散体、熱線遮蔽体、および、それらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明者らが研究を行なった結果、近赤外線吸収材料である複合タングステン酸化物微粒子へ水酸化亜鉛微粒子を混合することで、可視光領域に透過率の極大を持つとともに近赤外領域に強い吸収を持ち、優れた耐湿熱性を有する近赤外線吸収材料の製造が可能となるとの知見を得た。本発明は、当該技術的知見に基づき完成されたものである。
【0019】
すなわち、本発明の第1の発明は、
一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちから選択される1種類以上であり、且つ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を分散媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整した複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程と、
水酸化亜鉛を分散媒に分散し、当該水酸化亜鉛の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整して水酸化亜鉛微粒子分散液を製造する工程と、
前記複合タングステン酸化物微粒子分散液へ、前記水酸化亜鉛微粒子分散液を添加混合し、前記複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対して、前記水酸化亜鉛微粒子が、0.1重量部以上、100重量部以下含有される第1の混合分散液を製造する工程と、
前記第1の混合分散液を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第2の発明は、
前記第1の混合分散液から分散媒を除去して、分散粉を製造する工程と、
前記分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の混合分散物を製造する工程と、
前記第2の混合分散物を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程と、を有することを特徴とする第1の発明に記載の熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第3の発明は、
一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちから選択される1種類以上であり、且つ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子と、水酸化亜鉛とを、前記複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対して、前記水酸化亜鉛が0.1重量部以上、100重量部以下含有されるように分散媒に分散し、前記複合タングステン酸化物微粒子と前記水酸化亜鉛との分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整して第1の混合分散液を製造する工程と、
前記第1の混合分散液を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程とを、有することを特徴とする熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第4の発明は、
前記第1の混合分散液から分散媒を除去して分散粉を製造する工程と、
前記分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の混合分散物を製造する工程と、
前記第2の混合分散物を成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程と、を有することを特徴とする第3の発明に記載の熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第5の発明は、
一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちから選択される1種類以上であり、且つ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子を分散媒に分散し、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整した第1の複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程と、
前記第1の複合タングステン酸化物微粒子分散液から分散媒を除去して、複合タングステン酸化物微粒子分散粉を製造する工程と、
前記複合タングステン酸化物微粒子分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の複合タングステン酸化物微粒子分散物を製造する工程と、
水酸化亜鉛を分散媒に分散し、当該水酸化亜鉛の分散粒子径を1nm以上800nm以下に調整した第1の水酸化亜鉛微粒子分散液を製造し、当該分散液から分散媒を除去して、水酸化亜鉛微粒子分散粉を製造する工程と、
前記第1の水酸化亜鉛微粒子分散液から分散媒を除去して、水酸化亜鉛微粒子分散粉を製造する工程と、
前記水酸化亜鉛微粒子分散粉を所定の媒体中に混合分散し、第2の水酸化亜鉛微粒子分散物を製造する工程と、
前記第2の複合タングステン酸化物微粒子分散物と、前記第2の水酸化亜鉛微粒子分散物とを混合し、成形固化して熱線遮蔽分散体を製造する工程と、を有することを特徴とする熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第6の発明は
前記第1の混合分散液へ媒体を添加し、硬化させて熱線遮蔽分散体を製造する工程を有することを特徴とする第1または第3の発明に記載の熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第7の発明は、
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第2、第4から第6の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第8の発明は
前記媒体が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂から選択される1種類以上であることを特徴とする第2、第4から第6の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽分散体の製造方法である。
第9の発明は
第1から第8の発明のいずれか記載の熱線遮蔽分散体を、所定の基材の片面または両面に設けることを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法である。
第10の発明は
前記熱線遮蔽分散体を、板状またはフィルム状または薄膜状に形成することを特徴とする第9の発明に記載の熱線遮蔽体の製造方法である。
第11の発明は
前記基材が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第9または第10の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法である。
第12の発明は
前記基材が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする第9または第10の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法である。
第13の発明は
可視光透過率が70%以上でありかつ日射透過率が40%以下であるとき、耐湿熱性評価後における熱線遮蔽分散体の可視光透過率の変化が2%以下、日射透過率の変化が4%以下、ヘイズ値の変化が0.5%以下であることを特徴とする第9から第12の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法である。
第14の発明は
第1または第3の発明に記載の第1の混合分散液を、所定の基材上にコーティングする工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法である。
第15の発明は
第2または第4の発明に記載の第2の混合分散物の成形固化物を、所定の基材上に設ける工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法である。
第16の発明は
第5の発明に記載の第2の複合タングステン酸化物微粒子分散物と、第2の水酸化亜鉛微粒子分散物との混合物である成形固化物を、所定の基材上に設ける工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法である。
第17の発明は
第6の発明に記載の第1の混合分散液へ媒体を添加したものを、所定の基材上に設け、硬化させる工程を有することを特徴とする熱線遮蔽体の製造方法。
第18の発明は
前記基材が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第14から第17の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法である。
第19の発明は
前記基材が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちの1種類以上であることを特徴とする第14から第17の発明のいずれかに記載の熱線遮蔽体の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体は、従来の技術に係る熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体に比べて耐湿熱性に優れており、高温高湿化に暴露された後であっても、透明性が高く、近赤外線吸収機能の低下が抑制されていた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る熱線遮蔽分散体、熱線遮蔽体の模式的な断面図である。
【発明の実施するための形態】
【0022】
本発明は、耐湿熱性に優れており、高温高湿下に暴露された後であっても、透明性が高く、近赤外線吸収機能の低下が抑制された熱線遮蔽分散体、当該熱線遮蔽分散体を所定の基材の片面または両面に設けた熱線遮蔽体、および、当該熱線遮蔽分散体、熱線遮蔽体の製造方法である。
【0023】
本発明において耐湿熱性とは、熱線遮蔽分散体または熱線遮蔽体を、例えば85℃、90%RHという高温高湿条件に暴露後において、暴露前と比較して、可視光透過率が低下する、日射透過率が上昇する、ヘイズ値が上昇するといった劣化が抑制されていることを言う。つまり、当該熱線遮蔽分散体または熱線遮蔽体が、高温高湿条件に対して耐久性を有することを言う。
【0024】
以下、本発明について、(1)複合タングステン酸化物微粒子、(2)水酸化亜鉛、(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合、(4)熱線遮蔽分散体とその形成、(5)熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体の形態、(6)まとめ、の順で詳細に説明する。
【0025】
(1)複合タングステン酸化物微粒子
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺にある電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような物質の粉末を光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて可視光領域の透明性が得られる。
【0026】
一般に、WO3中には有効な自由電子が存在しないため、WO3は近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、近赤外線吸収材料としては有効ではない。一方、酸素欠損を持つ3酸化タングステンや、3酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、導電性材料であり、自由電子を持つ材料である。さらに、これら材料の単結晶等を分析した結果からも、赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
本発明者等は、当該タングステンと酸素との組成範囲が特定範囲にあるとき、近赤外線吸収材料として特に有効なものとなることを見出した。
【0027】
本発明に適用される近赤外線吸収機能を有する微粒子は、一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である。当該複合タングステン酸化物微粒子は、熱線遮蔽分散体や熱線遮蔽体に適用された場合、熱線吸収成分として有効に機能する。
当該一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子としては、例えばM元素が、Cs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上を含むような複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。添加元素Mの添加量は、0.1以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33付近が好ましい。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。典型的な例としてはCs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Tl0.33WO3などを挙げることができるが、Y,Zが上述の範囲に収まるものであれば、有用な熱線吸収特性を得ることができる。
【0028】
更に、熱線遮蔽分散体や熱線遮蔽体の意匠性を考慮すると、透明性を保持したまま近赤外線の効率良い遮蔽を行なうことが必要となる。一方、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線吸収材料は近赤外線領域、特に波長900−2200nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0029】
また、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が800nmよりも大きい場合、可視光を遮蔽してしまうため、可視光領域の透明性を保持したまま効率良く近赤外線を遮蔽することは難しい。特に可視光領域の透明性を重視する場合には、分散粒子径は200nm以下がよく、好ましくは100nm以下がよい。微粒子の分散粒子径が大きいと、幾何学散乱もしくは回折散乱によって400〜780nmの可視光領域の光を散乱して曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が不可能だからである。分散粒子径が200nm以下になると、上述の散乱が低減してミー散乱もしくはレイリー散乱領域になる。特に、レイリー散乱領域まで分散粒子径が減少すると、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。更に100nm以下になると散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0030】
また、複合タングステン酸化物微粒子の単位重量あたりの熱線吸収能力は非常に高く、ITO(インジウム錫酸化物)やATO(アンチモン錫酸化物)と比較して、4〜10分の1程度の使用量でその効果を発揮する。
【0031】
(2)水酸化亜鉛
本発明に適用される水酸化亜鉛は、熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体の耐湿熱性を向上させ、長期間使用された際の光学特性の変化を抑制する目的で添加するものである。
水酸化亜鉛は公知の方法で製造しても良いが、市販のものも使用可能である。そして、純度が95%以上あれば良い。
【0032】
また、当該水酸化亜鉛微粒子の分散粒子径も、上述した複合タングステン酸化物微粒子の場合と同様に800nmよりも大きい場合、可視光を遮蔽してしまうため、可視光領域の透明性を保持したまま効率良く近赤外線を遮蔽することは難しい。特に可視光領域の透明性を重視する場合には、分散粒子径は200nm以下がよく、好ましくは100nm以下がよい。分散粒子径が100nm以下になると散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0033】
(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合
複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とを混合することで、当該本発明に係る熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体の光学的特性、色調を保持したまま、耐湿熱性を向上させる効果が得られる。
一方、複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とを別々の分散体とし、これら別々の分散体を、別層として接合した場合は耐湿熱性の向上が見られない。
【0034】
複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合比率は、複合タングステン酸化物微粒子100重量部に対し、水酸化亜鉛微粒子0.1重量部〜100重量部の範囲であることが好ましく、1重量部〜50重量部の範囲であることがより好ましい。水酸化亜鉛微粒子の添加量が上述の範囲にあれば、複合タングステン酸化物微粒子の耐湿熱性向上の効果があり、且つ、製造される熱線遮蔽分散体や熱線遮蔽体における、機械的特性や光学的特性に悪影響を及ぼすことがないからである。
【0035】
複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合方法について、以下〈1〉〜〈4〉の例を参照しながら具体的に説明する。
〈1〉媒体撹拌ミル等を用いて予め所定の分散粒子径に調整された複合タングステン酸化物微粒子分散液と水酸化亜鉛微粒子分散液とを、混合撹拌する方法。
〈2〉複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とを混合した後、適宜な分散媒と伴に媒体撹拌ミル等に装填し、両微粒子の混合撹拌と分散粒子径の調整とを同時に行なう方法。
〈3〉複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とを所定の媒体内に分散させる方法。
〈4〉複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とを、予め原料樹脂中に高濃度に分散したマスターバッチを製造し、当該マスターバッチと適宜な樹脂とを混合することで、所定の濃度に希釈調整して用いる方法。
【0036】
上述の〈1〉〈2〉の方法に係る複合タングステン酸化物微粒子や水酸化亜鉛微粒子の分散媒は、特に限定されるものではなく、後述する熱線遮蔽分散体や熱線遮蔽体を製造する際に配合する樹脂に合わせて選択することが可能である。当該分散媒としては、例えば、水やエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類といった各種の有機溶媒が使用可能である。また、必要に応じて、酸やアルカリを添加してpHを調整してもよい。更に、微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することも可能である。
【0037】
上述の〈3〉〈4〉の方法に係る複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合方法は、複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子と適宜な樹脂とを混合して、後述する熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体を直接製造するものである。
上述の〈3〉の方法において、複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との、各々の単独微粒子または混合物を媒体の内部に分散させる場合には、当該単独微粒子または混合物を媒体表面から浸透させればよい。
または、当該複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との、各々の単独微粒子または混合物を、溶融温度以上に加熱して溶融させた熱可塑性樹脂へ直接添加し、均一に溶融混合する方法を用いることもできる。当該両微粒子を樹脂に分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、超音波分散、媒体攪拌ミル、ボールミル、サンドミルなどを使用することができる。これらの器材を用いた分散処理によって、当該両微粒子の分散媒中への分散と同時に微粒子同士の衝突等による微粒子化も進行し、粒子をより微粒子化して分散させることができる(すなわち、粉砕・分散処理される)。
【0038】
上述の〈4〉の方法に係るマスターバッチの製造方法は、特に限定されないが、例えば、複合タングステン酸化物微粒子の分散液と、水酸化亜鉛微粒子の分散液と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、分散媒を除去しながら均一に溶融混合することで、熱可塑性樹脂に微粒子が均一に分散した混合物として調整することができる。
その際の混合には、リボブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機、あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機などの混練機を使用することができる。
また、例えば、〈3〉の方法により得られた複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との、各々の単独微粒子または混合物と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、ペント式一軸もしくは二軸の押出機で溶融混練し、ペレット状に加工することによって、樹脂中に複合タングステン酸化物微粒子および/または水酸化亜鉛微粒子を高濃度に分散させることで、〈4〉の方法に係るマスターバッチの製造方法を行なってもよい。
【0039】
(4)熱線遮蔽分散体の形成方法
上述の「(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合」で製造された熱線遮蔽分散体の成形方法について、以下(A)〜(D)の例を参照しながら説明する。
(A)上述の「(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合、〈1〉〈2〉」の方法により製造された複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との分散液から分散媒を公知の方法で除去し、得られた当該両微粒子の混合物と熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に溶融混合する方法を用いて成形固化し、熱可塑性樹脂に微粒子を均一に分散させた熱線遮蔽分散物を製造し、熱線遮蔽分散体とする。
【0040】
(B)上述の「(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合、〈1〉〈2〉」の方法により製造された複合タングステン酸化物微粒子の分散液と水酸化亜鉛微粒子の分散液との分散媒を公知の方法で除去し、得られた当該両微粒子と熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に溶融混合する方法を用いて成形固化し、熱可塑性樹脂に微粒子を均一に分散させた熱線遮蔽分散物を製造し、熱線遮蔽分散体とする。
【0041】
(C)上述の「(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合、〈3〉〈4〉」の方法により製造された複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とが均一に分散した熱可塑性樹脂である熱線遮蔽分散物を、所定の方法で板状、フィルム状、薄膜状に成形し熱線遮蔽分散体とする。
【0042】
(D)上述の「(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合、〈1〉〜〈4〉」の方法により製造された複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との分散液を基材上にコーティングし熱線遮蔽分散体とする。
この方法は、樹脂等の耐熱温度の低い材料への応用が可能であり、且つ、製造の際に、大型の装置を必要とせず安価である。
例えば、「(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合、〈1〉〈2〉」の方法により製造された複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との分散液へ、樹脂バインダーを添加した後、基材表面にコーティングし、分散媒を蒸発させ、所定の方法で樹脂を硬化させることにより、複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子を含む分散体を形成することができる。
また、例えば、「(3)複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子との混合、〈3〉〈4〉」の方法により製造された複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子が樹脂中に直接分散したものを、基材表面にコーティングする方法もある。この場合は、分散媒を蒸発させる必要がないため、環境的にも工業的にも好ましい。
【0043】
後述する適宜な基材表面へのコーティング方法としては、均一にコートできれば特に制限はなく、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法などを用いることができる。これらのコーティング方法により形成した複合タングステン酸化物微粒子を含有する層は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法および化学気相法(CVD法)などの乾式法や、スプレー法で製造した場合に比べて、光の干渉効果を用いなくても、特に近赤外線領域の光を効率よく吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることができる。
【0044】
ここで(A)〜(D)において、複合タングステン酸化物微粒子は導電性材料であるため、当該微粒子が連接して連続的な膜となっている場合には、携帯電話等の電波を吸収反射して妨害する恐れがある。しかし、複合タングステン酸化物微粒子を、例えばビーズミルを用いて分散することで、微粒子としてマトリックス中に分散した場合には、粒子一つ一つが孤立した状態で分散しているため、電波透過性を発揮することができ、汎用性を有している。
【0045】
上述した(A)〜(D)に用いる媒体、および、上述した適宜な基材としては、例えば、フィルム、樹脂もしくはガラス等が挙げられる。但し、これらの材料を基材として用いる場合は、それぞれの使用状況に応じた機械的強度を有することが求められる。
樹脂であれば、一般的に、透過性があり散乱の少ない、無色透明の樹脂が適しており、用途に適した樹脂を選択すればよい。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレート樹脂が好適である。
【0046】
また、これら樹脂もしくはフィルムを用いる場合、その表面は、樹脂バインダーとの結着性向上を目的とした表面処理が施されていてもよく、その代表的な処理方法は、コロナ表面処理、プラズマ処理、スパッタリング処理等の放電処理、火炎処理、金属ナトリウム処理、プライマー層コート処理等が挙げられる。
【0047】
樹脂もしくはフィルムの意匠性を重視する場合には、あらかじめ着色された媒体や基材、または、型どりされた媒体や基材を使用することもできる。また、塗布液中に着色顔料や染料を添加してもよい。
樹脂、または、フィルム等の形状の分散体をガラス等の基材に貼り付けるため、接着面に接着層と離型フィルム層とを積層してもよい。自動車のバックウィンドウのように曲面に貼り付け易いように、ドライヤーなどの熱で簡単に軟化するフィルムを使用してもよい。
接着剤中に紫外線遮蔽剤を添加すれば、フィルムや樹脂の紫外線劣化を防止できる。紫外線吸収剤には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や、CeO2、TiO2、ZnO等が挙げられる。
【0048】
上述した(A)〜(D)に用いる、媒体や基材に用いる樹脂バインダーとしては、例えば、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑性樹脂などを目的に応じて選択することができる。具体的には、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが利用できる。
また、上述した(A)〜(D)に用いる媒体や基材には、無機バインダーを用いることも出来る。
当該無機バインダーの種類は特に限定されるものではない。例えば、当該無機バインダーとして、珪素、ジルコニウム、チタン、または、アルミニウムの金属アルコキシドやこれらの部分加水分解縮重合物またはオルガノシラザンが挙げられる。
【0049】
また、コーティング液中に無機バインダーとして、珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウムの金属アルコキシド及びその加水分解重合物を含む場合、分散液の塗布後の基材加熱温度を100℃以上200℃未満とすることで、塗膜中に含まれるアルコキシドまたはその加水分解重合物の重合反応を殆ど完結させることができる。重合反応を殆ど完結させることで、水や有機溶媒が膜中に残留して加熱後の膜の可視光透過率の低減の原因となることを回避できることから、前記加熱温度は100℃以上が好ましく、さらに好ましくは150℃以上である。また、200℃以上にすると、複合タングステン酸化物微粒子の酸化が進んでしまい、熱線遮蔽能を損失する原因となることから、前記加熱温度は200℃未満が好ましい。
【0050】
また、コーティング液が樹脂バインダーまたは無機バインダーを含まない場合、透明基材上に得られる膜は、前記複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とのみが堆積した膜構造になる。そして、この膜はこのままでも熱線遮蔽効果を示す。しかし、この膜上へ、さらに珪素、ジルコニウム、チタン、またはアルミニウムの金属アルコキシドやこれらの部分加水分解縮重合物などの無機バインダー、または樹脂バインダーを含む塗布液を塗布して多層膜とするとよい。当該構成を採ることにより、前記塗布液成分が第1層のタングステン酸化物の微粒子の堆積した間隙を埋めて成膜されるため、膜のヘイズが低減して可視光透過率が向上し、また微粒子の基材への結着性が向上する。
【0051】
(5)熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体の形態
次に、本発明に係る熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体の好ましい形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の熱線遮蔽分散体、熱線遮蔽体の模式的な断面図である。なお、図1において、○は複合タングステン酸化物微粒子を示し、●は水酸化亜鉛微粒子を示し、無地の部分は媒体を示し、斜線の部分は基材を示す。
熱線遮蔽分散体の形態は、複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とが、共に媒体内に分散して含有されているものである。当該形態例を図1(A)に示す。なお、当該形態において、媒体に機械的強度のあるものを用い、基材を用いることなく熱線遮蔽体として使用することも勿論可能である。
熱線遮蔽体の形態は、複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とを共に含有する分散体を、後述する適宜な基材の片面あるいは両面に、例えば成形固化物として設けるものである。当該形態例を図1(B)に示す。
【0052】
(6)まとめ
このように本発明によれば、複合タングステン酸化物微粒子と水酸化亜鉛微粒子とを含有することで、太陽光からの近赤外線の吸収を保持し、簡便な方法で製造できるうえ、耐湿熱性が良く、低コストである熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体を提供することを可能とした。本発明の熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体は、自動車のはめ込みガラス、サイドガラスおよびリヤガラス、鉄道車両の扉ガラスや窓ガラスおよび室内ドアガラス、ビル等の建物における窓ガラスおよび室内ドアガラス等、室内展示用ショーケースおよびショーウィンドー等、種々の用途に使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
本実施例において、可視光透過率、日射透過率は、日立製作所製の分光光度計を用いて波長200〜2500nmの光の透過率により測定し、JIS R 3106に従って算出した。なお、当該日射透過率は、熱線遮蔽分散体および熱線遮蔽体の熱線遮蔽性能を示す指標である。
膜のヘイズ値は、村上色彩技術研究所製のHM−150を用いて、JIS K 7105に基づいた測定を行なった。
微粒子の分散粒子径は、日機装製のマイクロトラック粒度分布計を用いて測定を行った。
熱線遮蔽体における光学特性変化の耐湿熱性の評価は、試験サンプル(熱線遮蔽体)を85℃、90%RH環境に設定した恒温恒湿槽に7日間暴露し、当該耐湿熱性の加速試験前後における可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値の変化を測定することにより行なった。
【0054】
(実施例1)
Cs0.33WO3微粒子20重量部、分散媒として4−メチル−2−ペンタノン70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO3微粒子の分散液を製造した(A液)。
同様に、水酸化亜鉛微粒子20重量部、分散媒として4−メチル−2−ペンタノン70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmの水酸化亜鉛微粒子分散液を製造した(B液)。
このA液とB液とを、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が10重量部となるように混合した後、当該混合液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように、4−メチル−2−ペンタノンで希釈して十分混合し、塗布液とした。
【0055】
この塗布液を、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分間乾燥し、分散媒を蒸発させて硬化させ、実施例1に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。そして、当該耐湿熱性の加速試験前後における可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値の変化を算出した。この結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
Rb0.33WO3微粒子20重量部、分散媒として4−メチル−2−ペンタノン70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのRb0.33WO3微粒子の分散液を製造した(C液)。
このC液と実施例1で製造したB液とを、Rb0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が10重量部となるように混合した後、当該混合液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように、4−メチル−2−ペンタノンで希釈して十分混合し塗布液とした。
【0057】
この塗布液を、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分間乾燥し、分散媒を蒸発させて硬化させ、実施例2に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
0.33WO3微粒子を20重量部、分散媒として4−メチル−2−ペンタノン70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのK0.33WO3微粒子の分散液を製造した(D液)。
このD液と実施例1で製造したB液とを、K0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が10重量部となるように混合した後、当該混合液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように、4−メチル−2−ペンタノンで希釈して十分混合し塗布液とした。
【0059】
この塗布液を、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分間乾燥し、分散媒を蒸発させて硬化させ、実施例3に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0060】
(実施例4)
Tl0.33WO3微粒子20重量部、分散媒として4−メチル−2−ペンタノン70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのTl0.33WO3微粒子の分散液を製造した(E液)。
このE液と実施例1で製造したB液とを、Tl0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が10重量部となるように混合した後、当該混合液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように、4−メチル−2−ペンタノンで希釈して十分混合し塗布液とした。
【0061】
この塗布液を、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分間乾燥し分散媒を蒸発させて硬化させ、実施例4に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0062】
(実施例5)
Cs0.33WO3微粒子20重量部、水酸化亜鉛微粒子2重量部、分散媒として4−メチル−2−ペンタノン68重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO3/水酸化亜鉛微粒子の混合分散液を製造した(F液)。
このF液を、F液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように、4−メチル−2−ペンタノンで希釈して十分混合し塗布液とした。
【0063】
この塗布液を、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分乾燥し分散媒を蒸発させて硬化させ、実施例5に係る熱線遮蔽体を得た。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0064】
(実施例6)
実施例1で製造したA液とB液とを、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子0.1重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0065】
(実施例7)
実施例1で製造したA液とB液とを、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子1重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして、実施例7に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0066】
(実施例8)
実施例1で製造したA液とB液とをCs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が50重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして、実施例8に係る熱線遮蔽体を得た。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0067】
(実施例9)
実施例1で製造したA液とB液をCs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が100重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして、実施例9に係る熱線遮蔽体を得た。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0068】
(実施例10)
実施例1で製造したA液からスプレードライヤーを用いて、4−メチル−2−ペンタノンを除去しCs0.33WO3微粒子分散粉である(A粉)を製造した。
同様に、実施例1で製造したB液からスプレードライヤーを用いて、4−メチル−2−ペンタノンを除去し、水酸化亜鉛微粒子分散粉である(B粉)を製造した。
製造した(A粉)をポリカーボネート樹脂に添加し、ブレンダーで均一に混合した後、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットしてCs0.33WO3微粒子を含有するマスターバッチを製造した。
同様に、製造した(B粉)を各々ポリカーボネート樹脂に添加し、ブレンダーで均一に混合した後、二軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットして水酸化亜鉛微粒子を含有するマスターバッチを製造した。
当該Cs0.33WO3微粒子を含有するマスターバッチと水酸化亜鉛微粒子を含有するマスターバッチとを、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が10重量部となるように、同じ方法で調製した無機微粒子を添加していないマスターバッチと混合した。
この混合マスターバッチを押出し成形して、厚さ2mmのプレートを形成し、実施例10に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0069】
(実施例11)
実施例5で製造したF液を4−メチル−2−ペンタノンで希釈して、F液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように十分混合し分散液を製造した。この分散液を塗布液として、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分乾燥し分散媒を蒸発させて硬化させた。その後、当該基材のもう片面に、同様の方法でこの塗布液を塗布、成膜し、硬化させ、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が10重量部となるような、実施例11に係る熱線遮蔽体を得た。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1)
Cs0.33WO3微粒子を20重量部、分散媒として4−メチル−2−ペンタノン70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO3微粒子の分散液を製造した(A液)。
このA液を4−メチル−2−ペンタノンで希釈して、A液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように十分混合し分散液を製造した。この分散液を塗布液として、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分乾燥し分散媒を蒸発させて硬化させ、比較例1に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
実施例1で製造したA液とB液とを、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が0.01重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0072】
(比較例3)
実施例1で製造したA液とB液とを、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が200重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
しかし、水酸化亜鉛微粒子の添加量が多すぎたため、熱線遮蔽体は、基材(無機ガラス)と熱線遮蔽膜との密着性が不十分であり、基材と熱線遮蔽膜が簡単に剥がれてしまう問題が生じた。
よって、耐湿熱性試験は実施しなかった。
【0073】
(比較例4)
実施例1で製造したA液を4−メチル−2−ペンタノンで希釈して、A液中の無機バインダー(固形分100%)の割合が30%となるように十分混合し、A分散液を製造した。
同様に、実施例1で製造したB液を4−メチル−2−ペンタノンで希釈して、B液中の水酸化亜鉛微粒子の割合が30%となるように十分混合し、B分散液を製造した。
このA分散液を塗布液として、バーコーターを用いて基材(無機ガラス)上に塗布、成膜した。この膜を180℃で30分乾燥し分散媒を蒸発させて硬化させた。その後、硬化したA分散液膜上へ、さらにB分散液を塗布液として、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して水酸化亜鉛微粒子が10重量部となるように塗布、成膜し、硬化させて比較例4に係る熱線遮蔽体を得た。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0074】
(比較例5)
実施例1で製造したA液と2−エチルヘキサン酸亜鉛とを、Cs0.33WO3微粒子100重量部に対して2−エチルヘキサン酸亜鉛が10重量部となるように混合した以外は実施例1と同様にして、比較例5に係る熱線遮蔽体を製造した。製造された熱線遮蔽体の光学特性を表1に示す。
製造された熱線遮蔽体を試験サンプルとし、85℃、90%RH環境下に7日間暴露し、耐湿熱性の加速試験後の可視光透過率、日射透過率、ヘイズ値を測定した。耐湿熱性の加速試験前後のこの結果を表1に示す。
【0075】
[評価]
実施例1〜11においては、高い可視光透過性と、優れた熱線遮蔽特性とを有し、ヘイズ値が低く透明性に優れた熱線遮蔽体が得られた。また、水酸化亜鉛微粒子が添加されたことで、高温高湿条件下に曝された複合タングステン酸化物微粒子の経時劣化が抑制され、光学特性変化が少ないという高い耐湿熱性を発揮した。この結果、例えば屋外のような過酷な使用条件においても熱線遮蔽特性の変化の少ない熱線遮蔽体が得られた。
【0076】
一方、比較例1〜2は、水酸化亜鉛微粒子を添加しなかった、または、添加量が少なすぎたため、耐湿熱性試験において可視光透過率の変化が大であった。
また、比較例3は、水酸化亜鉛微粒子の添加量が多すぎたため、熱線遮蔽体として重要な物性である基材(無機ガラス)との密着性が損なわれてしまった。
また、比較例4は、Cs0.33WO3微粒子と水酸化亜鉛微粒子とが同一の層に含有されていないため、Cs0.33WO3微粒子の耐湿熱性は全く向上しなかった。
また、比較例5は、水酸化亜鉛微粒子ではなく2−エチルヘキサン酸亜鉛を使用したため、耐湿熱性試験においてヘイズ値の変化が大であった。
【0077】
【表1】
図1