特許第6041262号(P6041262)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041262
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20161128BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20161128BHJP
   H01L 23/34 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   H01L25/04 C
   H01L23/34 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-261438(P2012-261438)
(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-107506(P2014-107506A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年8月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構からの委託研究「次世代パワーエレクトロニクス技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100144325
【弁理士】
【氏名又は名称】小澁 高弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘
(72)【発明者】
【氏名】仲川 博
(72)【発明者】
【氏名】郎 豊群
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩
【審査官】 井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−173680(JP,A)
【文献】 特開2003−017627(JP,A)
【文献】 特開2011−176323(JP,A)
【文献】 特開2008−124430(JP,A)
【文献】 特開2001−168482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 25/07
H01L 23/34
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両電極面にそれぞれ電極を備えた半導体チップと、
前記半導体チップの各電極面にそれぞれ配置され、電極を有する表面配線層を基板表面に備えた一対のモジュール基板と、を有し、
前記半導体チップの各電極面の電極は、対向する前記モジュール基板の表面配線層の電極に接合されており、
少なくともいずれかの前記モジュール基板の表面配線層の電極には、溝が形成され、
前記モジュール基板の基板裏面には、裏面配線層が形成され
前記半導体チップの少なくともいずれかの電極面には、面積の異なる複数の電極が形成され、
前記表面配線層の電極の溝は、前記面積の小さい電極と前記表面配線層の電極との接合部分の近傍に形成されている、半導体モジュール。
【請求項2】
両電極面にそれぞれ電極を備えた半導体チップと、
前記半導体チップの各電極面にそれぞれ配置され、電極を有する表面配線層を基板表面に備えた一対のモジュール基板と、を有し、
前記半導体チップの各電極面の電極は、対向する前記モジュール基板の表面配線層の電極に接合されており、
少なくともいずれかの前記モジュール基板の表面配線層の電極には、溝が形成され、
前記モジュール基板の基板裏面には、裏面配線層が形成され
前記半導体チップは、固相−固相接合用の電極を備えた第一の電極面と、リフロー接合用の電極を備えた第二の電極面を有し、
前記一対のモジュール基板は、前記固相−固相接合用の電極とフリップチップにより接合された表面配線層の電極を備える第一のモジュール基板と、前記リフロー接合用の電極とはんだリフローにより接合された表面配線層の電極を備える第二のモジュール基板からなる、半導体モジュール。
【請求項3】
前記半導体チップの少なくともいずれかの電極面には、面積の異なる複数の電極が形成され、
前記表面配線層の電極の溝は、前記面積の小さい電極が接合された前記表面配線層の電極に形成されている、請求項2に記載の半導体モジュール。
【請求項4】
前記裏面配線層は、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が前記表面配線層と同じになるように形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体モジュール。
【請求項5】
前記裏面配線層には、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が前記表面配線層と同じになるような配線パターンが形成されている、請求項4に記載の半導体モジュール。
【請求項6】
前記裏面配線層には、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が前記表面配線層と同じになるような格子状の溝が形成されている、請求項4に記載の半導体モジュール。
【請求項7】
前記裏面配線層は、配線部分の体積が前記表面配線層と同じになるように厚みが調整されている、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体モジュール。
【請求項8】
前記半導体チップは、パワー素子である、請求項1〜7のいずれかに記載の半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップ、特にパワー素子においては、ますますの高電流、高密度化が進展し、この素子を実装したパワーモジュールなどでは、性能指数として単位体積当たりのパワー密度が年々増加している。また、近年、SiCやGaNなどのワイドギャップ半導体が、低い順電流抵抗と高速スイッチング性能、高温動作などの特徴をもち、従来のシリコン半導体の性能を大きく上回ることが明らかになりつつある。
【0003】
従来のパワー素子は、大きな電流密度を得るため、例えば図1及び図2のような縦型構造を持つ。図1はソースードレイン端子にゲート端子が備わった基本的な3端子パワー素子の図を示し、パワーチップ本体200の表面側にソース電極201とゲート電極202があり、裏面はドレイン電極203となっている。図2はアノード-カソードの2端子パワー用ダイオードの図を示し、パワーダイオードチップ本体204の表面側にアノード電極205、裏面側にカソード電極206がある。
【0004】
上記構造を持つパワー素子(又はパワーチップ)の実装では、例えば図3に示すように、まず、チップ裏面側にて、絶縁基板207上に設けられた銅などでなる配線等の基板側電極208上に、はんだ209を用いて、ドレイン電極203をリフローによってダイボンドする。チップ表面側では、その配線が単一の電極ではないので、アルミニウム線などによるワイヤーボンド210を用いている(例えば特許文献1)。ワイヤーの代わりにリボン線や銅の板(ブスバー)やリードを用いることもある。この実装方法は、配線によるチップへの熱膨張によるストレスを緩和でき、また、実装プロセスおよび実動作時の熱環境に対しても耐久性を確保することができることから、広く実用化されている。
【0005】
一方、この方式によると、パワー素子が基板207の平面方向にのみ実装される、つまり二次元実装されるため、チップ表面側の配線が空間的に広がって配線密度が低いためチップ表面側に大きなスペースを必要とすることと、放熱方向が基板207側のみの一方向であるため、パワーモジュールの高パワー密度化が困難である弱点を持っている。また、空間的に広がりを持つ配線では浮遊のインダクタンスやキャパシタンス成分が大きくなり、パワー回路の損失の増大につながっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−138808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本出願人は、ワイヤーボンドなどの配線を用いない半導体チップの両面実装法を提案している。この両面実装法では、半導体チップの一方の電極面をフリップチップ法により加圧、加熱して第一のモジュール基板に接合(拡散接合)し、半導体チップの他方の電極面をはんだ等のリフロー法により第二のモジュール基板に接合する。
【0008】
これによれば、半導体チップを2枚のモジュール基板で挟んだサンドイッチ構造の半導体モジュールとなることから、両モジュール基板を熱的に均一化することで、従来の片側冷却に起因する熱的変形による使用制限を大幅に低減でき、例えば従来のパワーモジュールの限界温度(Si デバイスの限界温度)175℃〜200℃を超えた、200℃以上の高温領域で使用できる可能性を得ている。
【0009】
しかしながら、2枚のモジュール基板は、各々の基板表面に半導体チップの電極と接合する表面配線層を有しており、この表面配線層の熱膨張率が基板の熱膨張率よりも高い場合がある。例えば、表面配線層には、銅などの高電気伝導性の金属が用いられ、基板には、200℃以上などといった高温での使用に耐え得る絶縁材として、SiN系(Si2N3)やAlNなどが用いられ、互いに熱膨張率が約一桁異なる(SiN:4ppm、Cu:17ppm)。このため、例えば半導体チップの実装時や動作時に温度が昇降した際に、表面配線層と基板の熱膨張率の差により、モジュール基板全体が撓んだり、表面配線層が大きく膨縮して、モジュール基板の表面配線層と半導体チップの電極との接合部に大きな熱応力が生じ負荷がかかり得る。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、パワー素子などの半導体チップを一対のモジュール基板で挟んだ構造の半導体モジュールにおいて、実装時や動作時の温度変化による、半導体チップの電極とモジュール基板の表面配線層との接合部の劣化等の影響を抑制することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明は、両電極面にそれぞれ電極を備えた半導体チップと、前記半導体チップの各電極面にそれぞれ配置され、電極を有する表面配線層を基板表面に備えた一対のモジュール基板と、を有し、前記半導体チップの各電極面の電極は、対向する前記モジュール基板の表面配線層の電極に接合されており、少なくともいずれかの前記モジュール基板の表面配線層の電極には、溝が形成され、前記モジュール基板の基板裏面には、裏面配線層が形成され、前記半導体チップの少なくともいずれかの電極面には、面積の異なる複数の電極が形成され、前記表面配線層の電極の溝は、前記面積の小さい電極と前記表面配線層の電極との接合部分の近傍に形成されている、半導体モジュールである。なお、「裏面配線層」には、配線パターンのない単なる板状のものも含まれる。
また、本発明は、両電極面にそれぞれ電極を備えた半導体チップと、前記半導体チップの各電極面にそれぞれ配置され、電極を有する表面配線層を基板表面に備えた一対のモジュール基板と、を有し、前記半導体チップの各電極面の電極は、対向する前記モジュール基板の表面配線層の電極に接合されており、少なくともいずれかの前記モジュール基板の表面配線層の電極には、溝が形成され、前記モジュール基板の基板裏面には、裏面配線層が形成され、前記半導体チップは、固相−固相接合用の電極を備えた第一の電極面と、リフロー接合用の電極を備えた第二の電極面を有し、前記一対のモジュール基板は、前記固相−固相接合用の電極とフリップチップにより接合された表面配線層の電極を備える第一のモジュール基板と、前記リフロー接合用の電極とはんだリフローにより接合された表面配線層の電極を備える第二のモジュール基板からなる、半導体モジュールである。なお、前記半導体チップの少なくともいずれかの電極面には、面積の異なる複数の電極が形成され、前記表面配線層の電極の溝は、前記面積の小さい電極が接合された前記表面配線層の電極に形成されていてもよい。
【0012】
上記半導体モジュールにおいて、前記裏面配線層は、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が前記表面配線層と同じになるように形成されていてもよい。
【0013】
前記裏面配線層には、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が前記表面配線層と同じになるような配線パターンが形成されていてもよい。
【0014】
前記裏面配線層には、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が前記表面配線層と同じになるような格子状の溝が形成されてもよい。
【0015】
前記裏面配線層は、配線部分の体積が前記表面配線層と同じになるように厚みが調整されていてもよい。
【0018】
前記半導体チップは、パワー素子であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来のパワー素子の一例を示す図である。
図2】従来のパワー素子の別の一例を示す図である。
図3】従来のパワー素子の実装について説明する図である。
図4】本発明の半導体モジュールの一例を示す図である。
図5】ゲート電極とソース電極を示す図である。
図6】溝がない場合のモジュール基板の表面配線層が膨張する様子を示す図である。
図7】溝がある場合のモジュール基板の表面配線層が膨張する様子を示す図である。
図8】表面配線層と裏面配線層が同じ配線パターンの場合の半導体モジュールの一例を示す図である。
図9】裏面配線層に格子状の溝を形成した場合の半導体モジュールの一例を示す図である。
図10】裏面配線層の厚みを調整した場合の半導体モジュールの一例を示す図である。
図11】複数のパワー素子を実装する場合の実装方法を示す図である。
図12】表面配線層の基板電極を曲げた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図4は、本実施形態にかかる半導体モジュール1の構成の一例を示す模式図である。
【0021】
図4に示す半導体モジュール1は、半導体チップとしてのパワー素子10と、パワー素子10の各電極面にそれぞれ配置された一対のモジュール基板11、12を有している。
【0022】
パワー素子10は、例えばJFET,MOSFET,IGBTなどであり、第一の電極面20に複数の電極、例えばゲート電極30とソース電極31を有し、第二の電極面21にドレイン電極32を有している。
【0023】
図5に示すように第一の電極面20のゲート電極30とソース電極31は、互いに絶縁されている。ゲート電極30に流す電流は、ソース電極31に流す電流より小さくてよいので、ゲート電極30の面積は、ソース電極31に比べて例えば1/20程度に小さくなっている。ゲート電極30とソース電極31は、例えば数十ミクロン程度の距離で分離されている。一方、第二の電極面21のドレイン電極32は、例えば第二の電極面21のほぼ全面にわたり形成されている。
【0024】
ゲート電極30とソース電極31は、固相−固相接合用の電極であり、例えばSiCチップ表面にNi、Ti、Ag、Pt、Pd、Alなどの金属元素によりオーミックコンタクトを形成し、さらに、その上にAu、Ag、Pt、Pd、Ni、Cu、Snなどの固相−固相接合金属をペーストなどの手法により形成することによって構成されている。
【0025】
図4に示すドレイン電極32は、リフロー接合用の電極であり、例えばSiCチップ表面にNi、Ti、Ag、Pt、Pd、Alなどの金属元素によりオーミックコンタクトを形成し、その上にAu-Sn、Au-Ge、Au-Si、Zn-Alなどの例えば200℃以上のデバイス動作温度に対応する高温鉛フリーはんだによるリフロー可能な金属を形成することによって構成されている。
【0026】
第一のモジュール基板11は、パワー素子10の第一の電極面20側に配置されている。第一のモジュール基板11は、絶縁性の基板40を有し、その基板40の表面には、複数の基板電極50、51を有する表面配線層52が形成されている。この基板電極50、51を含む表面配線層52の材質には、例えば銅などの高い電気伝導性を有する金属が用いられている。また、基板40の材質には、SiN系(Si2N3)、AlNなどが用いられている。
【0027】
パワー素子10のゲート電極30とソース電極31は、第一のモジュール11の基板電極50、51にそれぞれ接合されている。このゲート電極30及びソース電極31と基板電極50、51との接合は、高い位置合わせ精度を実現できるフリップチップ法により行われている。具体的には、パワー素子10のゲート電極30とソース電極31と、第一のモジュール基板11の基板電極50、51を位置合わせし、加圧、加熱、超音波振動等を適宜与えて固相−固相反応により電極接合する。すなわち、この接合方式は、固相−固相によるもので、拡散により接合する方法を用いる。この方法の特徴としては、例えば金−金の熱圧着法によれば、200℃程度での接合の後に300℃に熱せられても接合強度などが変化しないことにある。この場合、接合中に液相の状態がないため、正確な位置合わせが可能となる。この接合は、微細で隣の電極との間が狭いゲート電極30の接合に有利である。なお、この接合においては、多数のパワー素子を仮止め段階で接合し、その後、すべてのパワー素子の接合の固相−固相反応を同時に進行させる方法を採ってもよい。
【0028】
以上のようにゲート電極30に接合される基板電極50には、他の部分より厚みが薄くなった溝55が形成されている。溝55は、後述する応力緩和を実現することのできる位置にて、より具体的には例えばゲート電極30と基板電極50との接合部分の外方向近傍に、あるいは接合時にゲート電極30の外縁付近に位置するように基板電極50表面に形成される。溝55の形状は、任意に選択でき、例えばゲート電極30の外側を囲むように形成されていてもよい。後述するこの溝55による応力緩和を一層有効にするためには、溝55のエッジ部分をできるだけ切り立ったシャープな形状、例えば垂直にすることも好ましい。
【0029】
第二のモジュール基板12は、パワー素子10の第二の電極面21側に配置されている。第二のモジュール基板12は、絶縁性の基板60を有し、その基板60の表面には、基板電極61を有する表面配線層62が形成されている。この基板電極61を含む表面配線層62の材質には、例えば銅などの高い電気伝導性を有する金属が用いられている。また、基板60の材質には、SiN系(Si2N3)、AlNなどが用いられている。
【0030】
パワー素子10のドレイン電極32は、第二のモジュール12の基板電極61に接合されている。このドレイン電極32と基板電極61との接合は、リフロー法により行われている。具体的には、パワー素子10のドレイン電極32と、第二のモジュール基板12の基板電極61を位置合わせし、ドレイン電極32或いは基板電極61にはんだペーストを塗布し、リフロー工程によりダイボンド接合を行う。また、このはんだペーストに代えてペースト状の固相-固相反応材料(たとえば、金属粒子ペースト)などを塗布し、加圧予備焼結の後にリフロー加熱による本焼結する方法も可能である。
【0031】
第一のモジュール基板11と第二のモジュール基板12の基板裏面には、それぞれ裏面配線層70、71が形成されている。例えば裏面配線層70、71の材質には、表面配線層52、62と同じ材質、例えば銅が用いられている。例えば裏面配線層70、71には、基板露出部分と配線部分ができる所定の配線パターンが形成されている。裏面配線層70、71の配線パターンは、基板露出部分の総面積と配線部分の総面積との比が、各モジュール基板11、12の表面配線層52、62と同じになるように形成されている。なお、この配線パターンの構成は、特に限定されるものではない。
【0032】
次に、上述の半導体モジュール1の作用について説明する。半導体モジュール1の実装時あるいは動作時には、モジュール温度が上昇する。この温度は、ときに200℃以上になる。このとき、第一のモジュール基板11の表面配線層52を構成する銅などの熱膨張率が、基板40を構成するSiNなどの熱膨張率より著しく大きいため、図6に例示するように表面配線層52が基板40の表面に沿って外側に膨張しようとする。表1は、銅、SiNそれぞれの熱膨張率及びヤング率を示す。
【表1】
【0033】
このとき、表面配線層52は、その基板40側が拘束されているため、表面側が大きく膨張しようとする。仮に表面配線層52の基板電極50に溝55が形成されていないと、表面配線層52のズレ幅が大きくなったり、ゲート電極30の熱応力が増大したりする。これにより、基板電極50とゲート電極30との接合部に大きな負荷がかかる。特にゲート電極30の接合部は、接合面積が小さいため、影響を受け易く、例えば切断の恐れもある。
【0034】
しかしながら、図7に示すように、本実施の形態では、基板電極50に上述した溝55が形成されているため、基板電極50を含む表面配線層52の表面のズレが溝55で分断あるいは吸収され、また、ゲート電極30の熱応力も緩和されるため、基板電極50とゲート電極30との接合部にかかる負荷が軽減される。
【0035】
また、第一のモジュール基板11と第二のモジュール12の表面配線層52、62の熱膨張率と、基板40、60の熱膨張率が異なっているため、仮にモジュール基板11、12それぞれの片面にのみ配線層が形成されていると、温度上昇した際にモジュール基板全体が撓む可能性があるが、本実施の形態では、第一のモジュール基板11と第二のモジュール基板12の基板40、60の裏面に配線層、つまり裏面配線層70、71が形成されているため、表面層と裏面層の応力が相殺され、各モジュール基板11、12の全体の撓みが抑制される。
【0036】
以上のように本実施の形態によれば、パワー素子10が一対のモジュール基板11、12で挟まれたサンドイッチ構造(もしくは三層構造とも呼ぶ)の半導体モジュール1において、モジュール基板11の表面配線層52の基板電極50に溝55が形成され、且つモジュール基板11、12の基板40、60裏面に裏面配線層70、71が形成されているので、実装時又は動作時の温度変化による、パワー素子10の電極とモジュール基板11の電極の接合部の劣化等をより一層抑制できる。
【0037】
また、裏面配線層70、71には、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が表面配線層52、62と同じになるように配線パターンが形成されているので、裏面配線層70と表面配線層52の熱膨縮バランス、裏面配線層71と表面配線層62の熱膨縮バランスが取れ、モジュール基板11、12の熱による変形を効果的に抑制できる。
【0038】
また、本実施の形態では、表面配線層52の溝55が、面積の小さいゲート電極30が接合された基板電極50に形成されている。面積の小さいゲート電極30は、基板電極50との接合部の面積が小さく、また、ソース電極31との間の隙間も狭いため、溝55を設けることにより基板電極50の熱膨縮による横ズレや、それにより生じる熱応力を抑制することで、ゲート電極30の基板電極50との接続性や、ゲート電極30とソース電極31との絶縁性を確保できる。
【0039】
また、本実施の形態の半導体モジュール1は、パワー素子10のゲート電極30とソース電極31が、高い位置精度を有するフリップチップにより、第一のモジュール基板11の表面配線層52の基板電極50と接合されている。かかる場合、溝55や裏面配線層70、71により表面配線層52の膨張やモジュール基板11、12の撓みを抑制することによって、実装時のゲート電極30の位置ずれを防止し、高い位置精度の実装を実現できる。
【0040】
本実施の形態における半導体チップは、使用時に高温になるパワー素子10であるので、パワー素子10の電極とモジュール基板11、12の電極との接合部の熱的影響を飛躍的に低減できる。
【0041】
なお、上記実施の形態において、裏面配線層70、71の配線パターンは、図8に示すようにそれぞれ表面配線層52、62の配線パターンと同じものであってもよい。
【0042】
また、上記実施の形態における裏面配線層70、71には、図9に示すように、基板露出部分の面積と配線部分の面積との比が表面配線層52、62と同じになるような格子状の溝80が形成されるようにしてもよい。かかる場合、例えば裏面配線層70、71が銅板で構成され、当該銅板の表面に格子状の切欠き線が形成されてもよい。こうすることによって、表面配線層52、62と熱膨張バランスが取れた裏面配線層70、71を簡単に形成できる。
【0043】
また、上記実施の形態における裏面配線層70、71は、図10に示すように、配線部分の体積が表面配線層52、62と同じになるように厚みが調整されていてもよい。かかる場合、表面配線層52、62に基板露出部分がある分、裏面配線層70、71の厚みを薄くする。こうすることによって、表面配線層52、62と熱膨張バランスが取れた裏面配線層70、71を簡単に形成できる。
【0044】
例えば以上の実施の形態において、溝55は、表面配線層52において、ゲート電極30が接合される基板電極50に設けられていたが、ソース電極31と接合される基板電極51に設けられていてもよい。またパワー素子10を挟んで反対側のモジュール基板12の表面配線層62において、ドレイン電極32と接合される基板電極61に、溝が設けられていてもよい。勿論、これらの全てに設けられていてもよい。この場合の溝の位置や形状は、応力緩和を実現できるように適宜選択すれば良く、例えば上述した溝55と同様なものとすることができる。
【0045】
また、以上の実施の形態の説明では、パワー素子10がモジュール基板11、12の間に一つであったが、複数個あってもよい。また、パワー素子10が複数配置される場合、ゲート電極30及びソース電極31の第一の電極面20が、上に向けられているものと下に向けられているものがあってもよい。かかる場合の実装例を図11に示す。先ず、二つのパワー素子10a、10bのゲート電極30及びソース電極31がフリップチップ法により下の基板モジュール100の基板電極50、51に接合され、残りの一つのパワー素子10cのゲート電極30及びソース電極31がフリップチップ法により上の基板モジュール101の基板電極50、51に接合される(図11の(a)参照)。次に、二つのパワー素子10a、10bのドレイン電極32が、上の基板モジュール101の基板電極61にはんだリフロー102により接合され、残りの一つのパワー素子10cのドレイン電極32が、下の基板モジュール100の基板電極61にはんだリフロー102により接合される(図11の(b)、(c)参照)。
【0046】
以上の実施の形態では、一方にフリップチップ法、他方にリフロー法を用いてパワー素子10の電極とモジュール基板11、12の基板電極を接合していたが、電極同士を接合するものであれば、各々の接合において他の接合法を用いてもよい。
【0047】
パワー素子10の構造は、上記実施の形態のものに限られず、他の構成のものであってもよい。また、半導体チップは、パワー素子に限られず、本発明は、LED等で用いられる他の半導体チップにも適用できる。
【0048】
参考までに、ゲート電極30と基板電極50の接合部の熱変形による影響を低減するため、図12に示すように、基板電極50を90°程度曲げた構造にしてもよい。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1 半導体モジュール
10 パワー素子
11 第一のモジュール基板
12 第二のモジュール基板
20 第一の電極面
21 第二の電極面
30 ゲート電極
31 ソース電極
32 ドレイン電極
40 基板
50、51 基板電極
52 表面配線層
55 溝
60 基板
61 基板電極
62 表面配線層
70、71 裏面配線層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12