特許第6041387号(P6041387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6041387-一酸化窒素の品質維持方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041387
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】一酸化窒素の品質維持方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/00 20060101AFI20161128BHJP
   B65D 88/12 20060101ALI20161128BHJP
   B65D 88/74 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   F17C13/00 301Z
   B65D88/12 W
   B65D88/74
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-66132(P2013-66132)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-190423(P2014-190423A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095429
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 進
(72)【発明者】
【氏名】川上 純一
(72)【発明者】
【氏名】岡部 彰
(72)【発明者】
【氏名】小松 正浩
(72)【発明者】
【氏名】澤谷 幸慶
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 Hirokazu TSUKAHARA, Takanobu ISHIDA, Mitsufumi MAYUMI,Gas-phase oxidation and disproportionation of nitric oxide,Methods in Enzymology,2002年,Vol. 359,pages 168-179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/00
B65D 88/12
B65D 88/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化窒素を高圧ガス容器に保存した状態で運搬する際に、前記高圧ガス容器に一酸化窒素を1.96MPa〜3.5MPaのゲージ圧で充填することにより保存し、前記高圧ガス容器の外表面温度を−15℃〜5℃の範囲に保持した状態で運搬することを特徴とする一酸化窒素の品質維持方法。
【請求項2】
記高圧ガス容器内における一酸化窒素の不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の生成速度と、前記高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力と、前記高圧ガス容器の外表面温度との間の関係を表す実験式を求め、
求めた前記実験式と、前記高圧ガス容器内での一酸化窒素の保存期間と、その保存期間の経過時における亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度増加分の許容値とから、前記高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力と、前記高圧ガス容器の外表面温度とを設定することを特徴とする請求項1に記載の一酸化窒素の品質維持方法。
【請求項3】
前記高圧ガス容器内における一酸化窒素の不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度(体積比)の一日当たりの増加分をV(ppm/day)、前記高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力をゲージ圧でP(MPa)、前記高圧ガス容器の外表面温度を絶対温度でT(K)、気体定数をR、実験により求められる定数をA、実験により求められる活性化エネルギーをBとして、前記実験式をV=AP3 (-B/(RT)) とする請求項2に記載の一酸化窒素の品質維持方法。
【請求項4】
前記高圧ガス容器を、収納室の温度調節機能を有するコンテナに収納して運搬する請求項1〜3の中の何れか1項に記載の一酸化窒素の品質維持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療や半導体の製造のために用いられる一酸化窒素(NO)を高圧ガス容器に保存した状態で運搬する場合に、その運搬時における品質を維持するのに適する一酸化窒素の品質維持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばアンモニア酸化法、亜硝酸ソーダと塩化第一鉄との反応、硝酸と亜硫酸ガスとの反応等の、従前から知られた様々な方法によって、粗一酸化窒素が工業的に製造されている。粗一酸化窒素から酸性ガスを吸着材やアルカリ水溶液により除去し、水等を吸着剤により除去することで、高純度の一酸化窒素が精製される。近年、99.95%以上の純度を有する一酸化窒素が、高圧ガス容器に充填された状態で医療用途や半導体材料等として市販されている。
【0003】
そのような一酸化窒素は熱力学的に不安定な物質であり、高圧ガス容器内において一部が不均化反応を起こすことで純度が低下する。すなわち、高圧ガス容器内において以下の反応式(1)に示す不均化反応が生じ、一酸化窒素は亜酸化窒素(N2 O)と、これと等モルの二酸化窒素(NO2 )に変化する。
3NO→NO2 +N2 O…(1)
【0004】
非特許文献1においては、200atm以上の圧力において、不均化反応による亜酸化窒素および二酸化窒素の生成速度が以下の式(2)により表され、温度または圧力が増大すると不均化速度は大きくなることが示されている。
-d[NO]/dt =k′[NO]3 = d[N2 O]/dt = d[NO2 ]/dt …(2)
ここで、k′は反応速度定数、 d/dt は時間微分、[NO]、[N2 O]、[N2 O]はそれぞれ一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素のモル濃度である。
【0005】
非特許文献2においては、700℃〜1800℃の高温域における一酸化窒素の不均化反応と温度との関係が示されている。
【0006】
非特許文献3においては、たとえば一酸化窒素を298K、10atmで1 か月間静置した場合に生じる亜酸化窒素と二酸化窒素の量が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.P.MELIA. J.Inorg,Nucl.Chem., 27, 95-98 (1965)
【非特許文献2】Yuan,E.L.,Slaughter,J.I.,Koerner,W.E.and Daniels,F. J.Phys.Chem.,63,952-956 (1959)
【非特許文献3】H.TSUKAHARA.,T.ISHIDA.,Y.TODOROKI.,M.HIRAOKA. and M.MAYUMI.,Free Radical Research,2003 vol.37(2) 171-177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一酸化窒素が充填された高圧ガス容器の消費者への納品までには、充填後の不純物分析、荷姿点検、出荷場所から納品場所までの運搬等が必要であり、1週間〜1ヶ月の時間を要することがある。そうすると、一酸化窒素の不均化反応は時間経過に伴い進行することから、高圧ガス容器内に保存されている間に一酸化窒素の純度が低下する。また、一酸化窒素の不均化による亜酸化窒素と二酸化窒素の生成速度は温度上昇に伴い速くなる。さらに、不均化反応による亜酸化窒素および二酸化窒素の生成速度は温度に影響されるため、運搬中の温度如何によって不純物濃度にバラつきが生じ、例えば一酸化窒素を半導体の製造に用いる場合は半導体の品質に影響を与える虞がある。
【0009】
例えば、高圧ガス容器を高温の夏期に直射日光が当たるコンテナに収納して運搬する場合、一般的なコンテナでは内部温度が上昇して40℃を超えることがある。また、船舶により海外に運搬する場合、法規制により一酸化窒素の搬送用コンテナは甲板上に配置しなればならず、また、2度の通関が必要であることから、コンテナ内の温度上昇と長時間の搬送により一酸化窒素の純度が低下する。そのため、高圧ガス容器に保存された一酸化窒素に含まれる亜酸化窒素および二酸化窒素の濃度が、品質規格等で定められた許容濃度から外れる虞れがある。
【0010】
高圧ガス容器をできるだけ低温に保持すれば、内部の一酸化窒素の純度低下を防止することはできる。しかし、必要以上に低温に保持すると冷却のためのエネルギーコストが上昇する。また、従来技術からは、高圧ガス容器に充填された一酸化窒素の不均化を抑制するための好適な条件を見出すことができない。すなわち、非特許文献1においては、200atm以上の圧力における不均化速度の関係性が示されているが、一酸化窒素の一般的な充填圧力(例えば20atm〜35atm)付近での亜酸化窒素もしくは二酸化窒素の生成量は何ら示されていない。非特許文献2においては、一酸化窒素が充填された高圧ガス容器の一般的な保持温度と一酸化窒素の不均化反応との関係は何ら示されていない。非特許文献3は、一酸化窒素の一般的な充填圧である20atm付近での不均化による亜酸化窒素と二酸化窒素の生成量が示されいるが、非特許文献1に記載された例えば200atmでの実験に基づき推定されたデータであることから、信頼性に欠けるものである。
【0011】
本発明は上記従来技術に鑑み、一酸化窒素を高圧ガス容器に保存した状態で運搬する際の不均化反応の進行を適正に抑制することで、一酸化窒素の品質を維持できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力がゲージ圧で1.96MPa〜3.5MPa、その高圧ガス容器の表面温度が−15℃〜35℃の範囲においては、高圧ガス容器内の一酸化窒素の不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の生成速度と、充填圧力と、高圧ガス容器の表面温度との間の関係を、信頼性の高い実験式によって表せることを見出したことに基づく。その実験式から、一酸化窒素を高圧ガス容器に保存した状態で運搬する際に、前記高圧ガス容器に一酸化窒素を1.96MPa〜3.5MPaのゲージ圧で充填することにより保存し、前記高圧ガス容器の外表面温度を−15℃〜5℃の範囲に保持した状態で運搬すれば、高圧ガス容器内の一酸化窒素の不均化反応を効果的に抑制できることが判明した。これにより、一般的な充填圧力で高圧ガス容器に充填された一酸化窒素を必要以上に低温に保持することなく、一酸化窒素の純度の低下およびバラツキを防止して品質を維持できる。
【0013】
本発明において好ましくは、前記高圧ガス容器内における一酸化窒素の不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の生成速度と、前記高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力と、前記高圧ガス容器の外表面温度との間の関係を表す実験式を求め、求めた前記実験式と、前記高圧ガス容器内での一酸化窒素の保存期間と、その保存期間の経過時における亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度増加分の許容値とから、前記高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力と、前記高圧ガス容器の外表面温度とを設定する。これにより、高圧ガス容器内での一酸化窒素の保存期間、充填圧力に応じて高圧ガス容器の外表面温度を調整することで、一酸化窒素の純度が所望の許容範囲から外れるのを防止できる。
【0014】
前記高圧ガス容器内における一酸化窒素の不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度(体積比)の一日当たりの増加分をV(ppm/day)、前記高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力をゲージ圧でP(MPa)、前記高圧ガス容器の外表面温度を絶対温度でT(K)、気体定数をR、実験により求められる定数をA、実験により求められる活性化エネルギーをBとして、前記実験式を以下の式(3)によって表すのが好ましい。
V=AP3 (-B/(RT)) …(3)
式(3)を用いることで、充填圧力Pと高圧ガス容器の表面温度Tとから、不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度の一日当たりの増加分Vすなわち生成速度を演算できる。その一日当たりの増加分Vに高圧ガス容器内での一酸化窒素の保存期間を乗じた濃度増加分が許容値以下となるように、充填圧力Pと高圧ガス容器の表面温度Tとを設定すればよい。
【0015】
本発明において、前記高圧ガス容器を、収納室の温度調節機能を有するコンテナに収納して運搬するのが好ましい。これにより、外気温度が高い環境においてもコンテナ内の高圧ガス容器の外表面温度を低下させ、運搬時における不均化反応を減速させ、亜酸化窒素および二酸化窒素の生成量を抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高圧ガス容器に保存された状態で運搬される一酸化窒素の不均化反応を適正に抑制し、運搬中に生成される亜酸化窒素および二酸化窒素の量を低減することで一酸化窒素の品質を維持し、高純度の一酸化窒素の提供に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】高圧ガス容器における一酸化窒素の不均化反応により生成される亜酸化窒素濃度と保存期間との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において一酸化窒素を保存する際に用いる高圧ガス容器としては、例えば、内容積が40L〜48L の中型で、調質(焼入れ及び焼き戻し)されたマンガン鋼(STH12)製の継目無鋼管から熱間成形され、内表面が研磨され、容器の口金部に公知の容器弁が取り付けられた一般的なシームレス型高圧ガス容器が使用される。なお、高圧ガス容器は、一酸化窒素ガスを1.96MPa〜3.5MPa(ゲージ圧)の圧力で充填できれば内容積、成形方法、内面粗さ等は特に限定されず、市販品を用いることができ、また、材質も調質マンガン鋼に限定されず、アルミニウム合金、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼等であってもよい。
【0019】
高圧ガス容器への一酸化窒素の充填は、充填圧力がゲージ圧で1.96MPa〜3.5MPaになるように行い、その充填後に容器弁を閉じ、高圧ガス容器の外表面温度を−15℃〜5℃の範囲に保持して保存する。一酸化窒素が充填された高圧ガス容器をコンテナに収納して運搬する場合、収納室の温度調節機能を有するコンテナに収納し、高圧ガス容器の外表面温度を−15℃〜5℃の範囲に保持した状態で運搬する。例えば、冷凍機を搭載した所謂リーファーコンテナに高圧ガス容器を縦置き収納する。リーファーコンテナは長さが20フィート(6096mm)又は40フィート(12192mm)のものが標準的であるが、収納した高圧ガス容器の外表面温度を−15℃〜5℃の範囲で調節できるコンテナであれば、寸法、材質、発電冷却方法、換気方法等は制限されない。高圧ガス容器を静置する場合、例えば温度調節機能を有する一般的な冷凍倉庫内に保管することで高圧ガス容器の外表面温度を調節してもよい。なお、高圧ガス容器内の一酸化窒素の温度が容器外表面温度に等しくなるまでに多少のタイムラグがあるが、高圧ガス容器の運搬に要する期間に比べて短く、そのタイムラグの間の不均化反応により生じる亜酸化窒素および二酸化窒素の量は運搬期間に生じる量に比べて無視できる程に少ないことから、一酸化窒素そのものでなく容器外表面温度を管理すれば足りる。
【0020】
高圧ガス容器に一酸化窒素ガスを設定圧力で充填することで保存し、この保存された一酸化窒素に含まれる亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度を、保存開始時点から設定時間毎に測定する実験を行い、時系列の測定データを得る。例えば、高圧ガス容器への充填当初、保存開始時点から30日後、60日後、および90日後それぞれの時点で、高圧ガス容器から抽出した一定量の一酸化窒素ガスに含まれる亜酸化窒素の濃度測定を、ガスクロマトグラフ等の測定機器を用いて行う。測定期間中は高圧ガス容器をリーファーコンテナ等に収納することで外表面温度を一定に保持する。このようにして得られる濃度についての一連の時系列の測定データを、充填圧力を相違させた場合、および高圧容器の外表面温度を相違させた場合についても求める。なお、不均化反応により生成される亜酸化窒素と二酸化窒素とは等モルなので、二酸化窒素の濃度を測定してもよい。
【0021】
実験により得られた測定データを分析することで、高圧ガス容器内における一酸化窒素の不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の生成速度と、高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力と、高圧ガス容器の外表面温度との間の関係を表す上記式(3)における定数A、および活性化エネルギーBを求める。本実施形態では、気体定数Rを8.314(J・mol-1・K-1)として、実験により求められる定数Aは2.34×107 (ppm・day-1・MPa-3)、活性化エネルギーBは46411(J・mol-1)とされる。
【0022】
実験により求められる定数Aおよび活性化エネルギーBを用いた式(3)と、高圧ガス容器内での一酸化窒素の保存期間と、その保存期間の経過時における亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度増加分の許容値とから、高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力と、前記高圧ガス容器の外表面温度とを設定する。例えば、1.96MPaのゲージ圧で一酸化窒素が充填された高圧ガス容器を30日間保存する場合、高圧ガス容器の表面温度Tを261.15K(−12℃)に設定すれば、本実施形態における式(3)から算出される亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度増加分は2.7ppmになる。この場合、濃度増加分の許容値は通常は2.7ppm以上であるので、計算される濃度増加分が許容値を超えない範囲で充填圧力を1.96MPa(ゲージ圧)以上、高圧ガス容器の表面温度Tを261.15K以上に設定できる。また、3.5MPaのゲージ圧で一酸化窒素が充填された高圧ガス容器を30日間保存する場合、高圧ガス容器の表面温度Tを298.15K(25℃)に設定すると、本実施形態における式(3)から算出される亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度増加分は220.3ppmになる。この場合、濃度増加分の許容値が220.3ppm未満であれば、計算される濃度増加分が許容値以下となるように、充填圧力および高圧ガス容器の外表面温度の少なくとも一方の設定値を低減すればよい。
【0023】
なお、式(3)における定数Aと活性化エネルギーBの値は本実施形態の値に限定されるものではない。例えば、実験により求める測定データの数、測定間隔等が異なることで、定数Aと活性化エネルギーBの値が本実施形態と異なるものとなってもよい。
【実施例1】
【0024】
内容積が47L、材質が調質マンガン鋼、胴部の内表面粗さの最大高さ(JIS0601−2001で定義されるRz)が1.0μm程度のシームレス型高圧ガス容器(高圧昭和ボンベ株式会社製、クリーン高圧ガス容器)に、高純度の一酸化窒素ガスを1.96MPaのゲージ圧で充填し、充填後に容器弁を閉じた。これにより一酸化窒素を保存した高圧ガス容器の外表面温度を、リーファーコンテナ内において−15℃に保持した状態で静置した。高純度の一酸化窒素ガスとしては、充填当初に亜酸化窒素を20.3ppm、二酸化窒素を5.4ppm含むものを用いた。高圧ガス容器への保存開始時点から30日後、60日後、および90日後それぞれの時点で、高圧ガス容器から約150mL/minの流量で10分間抽出した一酸化窒素ガスに含まれる亜酸化窒素の濃度測定を、PDD(Pulsed Discharge Detector)搭載ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、GC−14B)を用いて行った。なお、高圧ガス容器から濃度測定のために一酸化窒素を抽出することで容器内は減圧されるが、減圧量は僅かであるので無視できる。
【実施例2】
【0025】
高圧ガス容器の外表面温度を−12℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【実施例3】
【0026】
高圧ガス容器の外表面温度を5℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【実施例4】
【0027】
高圧ガス容器への一酸化窒素ガスの充填圧力をゲージ圧で3.5MPaとした以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【実施例5】
【0028】
高圧ガス容器への一酸化窒素ガスの充填圧力をゲージ圧で3.5MPaとし、高圧ガス容器の外表面温度を−12℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【実施例6】
【0029】
高圧ガス容器への一酸化窒素ガスの充填圧力をゲージ圧で3.5MPaとし、高圧ガス容器の外表面温度を5℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【比較例1】
【0030】
高圧ガス容器の外表面温度を25℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【比較例2】
【0031】
高圧ガス容器の外表面温度を35℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【比較例3】
【0032】
高圧ガス容器への一酸化窒素ガスの充填圧力をゲージ圧で3.5MPaとし、高圧ガス容器の外表面温度を25℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【比較例4】
【0033】
高圧ガス容器への一酸化窒素ガスの充填圧力をゲージ圧で3.5MPaとし、高圧ガス容器の外表面温度を35℃に保持した以外は実施例1と同様にして亜酸化窒素の濃度を測定した。
【0034】
以下の表1は、実施例1〜6および比較例1〜4における濃度測定結果と、実施例2、5と同一条件下で上記実施形態における定数Aと活性化エネルギーBを用いた式(3)に基づき求められる濃度の計算値1、2を示す。図1は、実施例2、5における亜酸化窒素濃度の実測値と保存期間との関係、および実施例2、5と同一条件下で上記実施形態における定数Aと活性化エネルギーBを用いた式(3)に基づき求められる濃度の計算値1、2と保存期間との関係を示す。なお図1においては、実施例2、5、計算値1、2において保存期間が7日の場合に追加で求めた実測値と計算値も示している。各実施例と各比較例から、高圧ガス容器への一酸化窒素ガスの充填圧力の低下、および高圧ガス容器の外表面温度の低下により、不均化反応による亜酸化窒素の濃度増加が低下することを確認できる。また、一酸化窒素の不均化反応による亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度の一日当たりの増加分を、式(3)を用いることで精度良く推定できることを確認できる。そして、高圧ガス容器の外表面温度を−15℃〜5℃の範囲に保持すれば、高圧ガス容器への一酸化窒素の充填圧力を一般的な1.96MPa〜3.5MPa(ゲージ圧)にしても、通常の一般的な運搬期間であれば亜酸化窒素または二酸化窒素の濃度増加分が過大にならないことを確認できる。
【0035】
【表1】
図1