特許第6041508号(P6041508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041508キャノロール高含有加熱処理物の製造方法及びキャノロール高含有加熱処理物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041508
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】キャノロール高含有加熱処理物の製造方法及びキャノロール高含有加熱処理物
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/44 20060101AFI20161128BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20161128BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C07C41/44ZAB
   C07C43/23 A
   B09B3/00 304Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-73772(P2012-73772)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-203687(P2013-203687A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】牧田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】河野 敦
(72)【発明者】
【氏名】武田 恒幸
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/030888(WO,A1)
【文献】 特開2012−110273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/00−43/32
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理すること、及び当該アルカリ処理後に加熱処理することを含むキャノロール高含有加熱処理物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理の温度が100℃以上である請求項1記載のキャノロール高含有加熱処理物の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ処理に用いるアルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量が、前記菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たり、1.0〜10mmolである請求項1又は2記載のキャノロール高含有加熱処理物の製造方法。
【請求項4】
キャノロール含有量が2000ppm以上であるキャノロール高含有菜種処理物又はキャノロール含有量が800ppm以上であるキャノロール高含有菜種ミール処理物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菜種及び/又は菜種ミールを原料とした、キャノロール高含有加熱処理物の製造方法及びキャノロール高含有加熱処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物である4−ビニル−2,6−ジメトキシフェノール(キャノロール)は、菜種原油から見出された抗酸化成分であることが知られており、抗酸化剤としての有用性が認められている。
例えば、特許文献1には、菜種原油(圧搾油、抽出油、脱ガム油等)からキャノロールを単離・精製し、このキャノロールを有効成分とする抗酸化剤(抗ラジカル剤)が開示されている。
【0003】
抗酸化剤等により、活性酸素や過酸化脂質に起因するフリーラジカルを捕捉、除去、抑制等することは生体の酸化的障害を抑制する上で重要であり、このような研究は、例えば、特許文献2や特許文献3にも開示されている。
特許文献2には、米、小麦、大麦、大豆等の植物種子を50〜100℃未満で焙煎し、次いで微生物を加えて発酵させた後、焙煎した植物種子より得た植物油を添加して製造する活性酸素抑制組成物が開示されている。
特許文献3には、菜種、大豆又はコーンの脱ガム油又は脱ガム脱臭油からなる植物油を有効成分とする生体内ラジカル捕捉剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2003/030888号公報
【特許文献2】特公平5−19531号公報
【特許文献3】特開平9−157687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、キャノロールを抽出し、キャノロールの抗酸化剤への利用が研究されてきたが、キャノロールを多く含有する原料を得ようとする検討は行われていなかった。前述の通り、キャノロールは、抗酸化成分として有用であることが認められており、そのようなキャノロールを原料から多量に得ることができれば、産業上より有益になると考えられる。そこで本発明は、キャノロールを多く含有する新規な処理物及びその新規処理物を得るための新規な製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく、菜種や菜種ミールの処理について、鋭意検討を重ねた結果、菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理し、さらに加熱処理することにより、キャノロール高含有の処理物が得られることを見出し、本発明(本技術)を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理すること、及び当該アルカリ処理後に加熱処理することを含むキャノロール高含有加熱処理物の製造方法を提供する。
本発明の製造方法において、前記加熱処理の温度が100℃以上であることが好ましい。
また、アルカリ処理におけるアルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量が、前記菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たり、1.0〜10mmolであるのが好ましい。
本発明は、また、菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理し、さらに加熱処理して得られるキャノロール高含有加熱処理物を提供する。
本発明は、さらに、キャノロール含有量が2000ppm以上であるキャノロール高含有菜種処理物又はキャノロール含有量が800ppm以上であるキャノロール高含有菜種ミール処理物を提供する。

【0008】
ここで、本発明において「菜種」とは、アブラナ科(Brassicaceae(Cruciferae))アブラナ属(Brassica)に属する植物の種子をいい、「菜種ミール」とは、菜種から搾油等による脱脂後に残った菜種粕(菜種残渣物)をいう。
【0009】
また、本発明において「キャノロール高含有」とは、次の(1)及び(2)のうち、少なくともいずれかをいう。
(1)キャノロール高含有加熱処理物のキャノロール含有量が、菜種及び/又は菜種ミールの加熱処理物中のキャノロール含有量に比べて、2倍以上である場合、「キャノロール高含有」である。なお、比較対象となる「菜種及び/又は菜種ミールの加熱処理物」とは、菜種及び/又は菜種ミールに対して、アルカリ処理を実質的に行わずに、「キャノロール高含有加熱処理物」における加熱処理の温度と同一温度(又は±10℃の範囲内の温度)で、加熱処理を施したものをいう。
(2)「菜種」から得た場合のキャノロール高含有加熱処理物のキャノロール含有量が1400ppm以上である場合、また、「菜種ミール」から得た場合のキャノロール高含有加熱処理物のキャノロール含有量が800ppm以上である場合、「キャノロール高含有」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、菜種及び/又は菜種ミールから、キャノロール高含有加熱処理物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
<キャノロール高含有加熱処理物の製造方法>
まず、本開示に係るキャノロール高含有加熱処理物の製造方法について説明する。
本開示に係るキャノロール高含有加熱処理物の製造方法は、菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理すること(以下、この工程を「アルカリ処理工程」ともいう。)、及び加熱処理すること(以下、この工程を「加熱処理工程」ともいう。)を含む。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0013】
(菜種及び/又は菜種ミール)
本開示では、菜種及び/又は菜種ミールを原料とする。本開示において、原料である菜種及び菜種ミールの産地は特に限定されない。
【0014】
「菜種」は、アブラナ科(Brassicaceae(Cruciferae))アブラナ属(Brassica)に属する植物の種子であり、食用及び食品加工用として用いられる植物油脂の原料として知られている。通常、加熱処理等を施していない生の菜種原料中にはキャノロールをほとんど含んでいない。
【0015】
また、菜種ミールは、菜種から搾油による脱脂後に残った菜種粕(菜種残渣物)であり、有機肥料や配合飼料の原料等として提供され得るものとして知られ、有効的に利用されている。
菜種からの搾油は、一般に、菜種を前処理として加熱してから圧搾機により搾油し(いわゆる、圧搾油)、続いて、圧搾粕に残された油分をn−ヘキサン等の有機溶剤を用いて抽出し(いわゆる、抽出油)、圧搾油と抽出油を合わせて精製することが行われている。本開示における菜種ミールには、菜種の圧搾後の圧搾粕、及び圧搾粕からの抽出後の抽出粕が含まれ得る。
【0016】
(アルカリ処理工程)
次にアルカリ処理工程について説明する。
アルカリ処理工程では、原料である菜種及び/又は菜種ミールをアルカリによって処理する。
【0017】
アルカリ処理工程では、アルカリ溶液(塩基性溶液)の形態として用いることができ、その溶液に菜種及び/又は菜種ミールを接触させることで行う。溶液に菜種及び/又は菜種ミールを接触させる方法としては、例えば、浸漬、噴霧、滴下等が挙げられる。
【0018】
アルカリ溶液は、pHが7より大きいアルカリ性(塩基性)領域の溶液であり、pHが8〜10の弱アルカリ、pHが11以上の強アルカリを用いることができ、そのうち、強アルカリを用いることが好ましい。
【0019】
アルカリ溶液における溶質(本開示では、「アルカリ性剤」ともいう。)としては、例えば、ナトリウム、カリウム及びリチウム等のアルカリ金属の水酸化物(塩)、カルシウム、マグネシウム及びバリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物(塩)、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ性剤の具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。また、アルカリ溶液における溶媒としては、水、エタノール等が挙げられ、これらのうち水が好ましい。
【0020】
アルカリ溶液の具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等が挙げられる。なお、アルカリ溶液は1種に限られず、2種以上を用いてもよい。本開示では、アルカリ溶液として、水酸化ナトリウム水溶液を用いるのが好ましい。
【0021】
アルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量は特に限定されないが、菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たり、0.50mmol以上、より好ましくは1.0mmol以上、さらに好ましくは2.0mmol以上である。また、アルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量は、後述する中和処理に発生する塩の量を少量に抑えることができるため、菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たり10mmol以下であるのが好ましい。なお、菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たりのアルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量は、アルカリ溶液のモル濃度[mol/L]と、菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たりのアルカリ溶液の使用量[L]とを乗じて得られる。
【0022】
菜種をアルカリ処理する場合には、アルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、0.50〜10mmol、より好ましくは1.0〜10mmol、さらに好ましくは1.5〜10mmolである。菜種ミールをアルカリ処理する場合には、アルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量は、菜種ミールの乾燥質量1g当たり、0.5〜10mmol、より好ましくは2.0〜10mmol、さらに好ましくは3.0〜10mmolである。なお、アルカリ性剤の使用量について、菜種の場合と菜種ミールの場合とで分けて述べたが、本開示の製造方法では、菜種及び菜種ミールの混合物をアルカリ処理することができる。
【0023】
アルカリ処理における温度や時間は特に限定されないが、例えば、0〜100℃程度、好ましくは0〜50℃、より好ましくは0〜40℃で、1〜24時間、好ましくは1〜12時間、より好ましくは1〜6時間の条件で行うことができる。
【0024】
アルカリ処理後、アルカリ処理を行った菜種及び/又は菜種ミールに対して、酸性溶液にて中和処理することが好ましい。酸性溶液は、pHが7より小さい酸性領域の溶液であり、pHが5〜6の弱酸性、pHが4以下の強酸性を用いることができ、そのうち、強酸性溶液を用いることが好ましい。
中和処理で用いる酸性溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等の酸性剤の水溶液が挙げられる。
【0025】
中和処理は、酸性溶液中の酸性剤の使用量を、アルカリ処理で用いたアルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量と同量にして行うことが好ましい。例えば、アルカリ処理におけるアルカリ性剤の使用量が、菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たり1.0mmolである場合、酸性剤の使用量を1.0mmolとして中和処理を行うことが好ましい。
【0026】
アルカリ処理を行う前の菜種及び菜種ミールは、弱酸性〜中性を示す。具体的には、10倍量の水に懸濁して測定した場合、菜種はpH6〜7程度であり、菜種ミールはpH6程度を示す。そのため、前述の中和処理において、酸性剤の使用量が、アルカリ性剤の使用量と同量である場合、アルカリ処理及び中和処理後の処理物についても弱酸性〜中性を示す(上記同様に測定した場合、菜種の処理物はpH6〜7、菜種ミールの処理物はpH5〜7を示す)。
【0027】
(加熱処理工程)
次に加熱処理工程について説明する。
加熱処理工程は、上述のアルカリ処理工程の後に行われる。すなわち、加熱処理工程では、アルカリ処理がされた菜種及び/又は菜種ミール(換言すれば、菜種及び/又は菜種ミールのアルカリ処理物)を加熱処理する。
【0028】
加熱処理工程における加熱方法は特に限定されず、例えば、熱風、直火、赤外線、遠赤外線、マイクロウェーブ、蒸気、過熱水蒸気等やこれらの組み合わせ等が利用可能である。
加熱処理の装置としては、乾燥機、焙煎機、オーブン、オートクレーブ等が挙げられる。
【0029】
加熱処理の温度は、特に限定されないが、キャノロールを多く含有する処理物を得るため、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。また、加熱処理の温度の上限は特に限定されないが、加熱処理の際、菜種及び/又は菜種ミールに焦げの発生等が起き難いため、300℃以下であることが好ましく、220℃以下がより好ましい。
【0030】
菜種をアルカリ処理し、さらに加熱処理する場合には、加熱処理の温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜220℃、さらに好ましくは150℃〜210℃である。菜種ミールをアルカリ処理し、さらに加熱処理する場合には、好ましくは100〜300℃、より好ましくは120〜220℃、さらに好ましくは150〜180℃である。なお、加熱処理の温度について、菜種の場合と菜種ミールの場合とで分けて述べたが、本開示の製造方法では、菜種及び菜種ミールの混合物をアルカリ処理し、さらに加熱処理することもできる。
【0031】
加熱処理の時間は、特に限定されない。加熱温度にもよるが、例えば、1分〜24時間、好ましくは1分〜60分、より好ましくは1分〜30分、さらに好ましくは1分〜15分である。
【0032】
なお、本開示の製造方法では、前述のアルカリ処理工程の前に、加熱処理工程とは別に、菜種及び/又は菜種ミールを加熱・乾燥処理してもよい。この加熱・乾燥処理における温度としては、例えば、50〜300℃程度で行うことができる。
また、本開示の製造方法では、加熱処理工程の後に、加熱処理後の菜種及び/又は菜種ミールの処理物を除熱したり冷却したりする除熱工程や冷却工程を行ってもよい。
【0033】
<キャノロール高含有加熱処理物>
前述の製造方法により製造されたキャノロール高含有加熱処理物、すなわち、菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理し、さらに加熱処理して得られるキャノロール高含有加熱処理物(キャノロール高含有アルカリ・加熱処理物)は、以下のような特徴を有する。
【0034】
キャノロール高含有加熱処理物のキャノロール含有量は、菜種及び/又は菜種ミールの加熱処理物中のキャノロール含有量に比べて、1.5倍以上、好適には2倍以上、さらに好適には3倍以上となることが可能である。ここで、比較対象となる「菜種及び/又は菜種ミールの加熱処理物」は、菜種及び/又は菜種ミールに対して、アルカリ処理を実質的に行わずに、本開示の「キャノロール高含有加熱処理物」における加熱処理の温度と同一温度(又は±10℃の範囲内の温度)で、加熱処理を施したものをいう。
【0035】
菜種に対して、アルカリ処理を実質的に行わずに加熱処理を施した菜種の加熱処理物(以下、「菜種加熱処理物」という。)は、キャノロールを500〜1000ppm程度含有する。また、菜種ミールに対して、アルカリ処理を実質的に行わずに加熱処理を施した菜種ミールの加熱処理物(以下、「菜種ミール加熱処理物」という。)は、キャノロールを100〜500ppm程度含有する。
【0036】
一方、本開示のキャノロール高含有加熱処理物は、菜種をアルカリ処理し、さらに加熱処理して得たキャノロール高含有加熱処理物(以下、「キャノロール高含有菜種処理物」ともいう。)の場合、キャノロールを1400ppm以上、より好適には2000ppm以上、さらに好適には3000ppm以上含有する。
【0037】
また、菜種ミールをアルカリ処理し、さらに加熱処理して得たキャノロール高含有加熱処理物(以下、「キャノロール高含有菜種ミール処理物」ともいう。)の場合、キャノロールを800ppm以上、より好適には1000ppm以上、さらに好適には1500ppm以上含有する。
【0038】
本開示のキャノロール高含有加熱処理物は、上述の製造方法に限定されず、製造することも可能である。そして、本開示のキャノロール高含有加熱処理物は、前述した特徴を有する。
【0039】
なお、前述のキャノロール含有量の具体的数値(単位ppm)は、後述する実施例において説明する高速流体クロマトグラフィー(HPLC)で測定される値である。
【0040】
以上の通り、本開示のキャノロール高含有加熱処理物の製造方法によれば、簡単な製造工程で菜種及び/又は菜種ミール中に多くのキャノロールを生成することができ、キャノロール含有量を高めることができる。
従来は、キャノロールは菜種原油から見出された成分で、菜種の加熱時に生成されることがわかったが、その生成量は少なかった。また、菜種の搾油粕、抽出粕である菜種ミールには、キャノロールはほとんど含まれていなかった。
しかしながら、本開示の新規製造方法では、「菜種」をアルカリ処理し、さらに加熱処理して製造されたキャノロール高含有加熱処理物について、前述の通り、多くのキャノロールを含有することができる。
また、「菜種ミール」をアルカリ処理し、さらに加熱処理して製造されたキャノロール高含有加熱処理物では、菜種ミールはすでに菜種から搾油、抽出等されたものであるにも関わらず、キャノロール含有量を高めることが可能となり、菜種ミールのさらなる利用価値を創出することができる。
【0041】
加えて、製造されたキャノロール高含有加熱処理物は、原料である菜種及び/又は菜種ミールを処理した物であるため、菜種及び/又は菜種ミールの用途と同様の用途としての使用が可能である。
【0042】
本開示のキャノロール高含有加熱処理物はそれ自体が新規であり、前述の通り、多くのキャノロールを含有するため、食品、医薬、家畜飼料等の広い分野で利用することができる。例えば、菜種から得られたキャノロール高含有加熱処理物を搾油等することでキャノロール高含有の菜種油を製造することができる。
また、本開示のキャノロール高含有加熱処理物からキャノロールを抽出・精製等することでキャノロール高含有物を製造することができる。そして、キャノロールを有効成分とする抗酸化剤、栄養補助食品、健康食品等を製造することができる。さらに、菜種ミールから得られたキャノロール高含有加熱処理物は、キャノロール高含有の飼料として用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0044】
<実施例1〜4>
乾燥質量200gの菜種を、室温(23℃)にて、6規定(N)のNaOH水溶液100ml中に浸漬させ、アルカリ処理を4時間行った。このとき、NaOH水溶液中のアルカリ性剤(NaOH)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、3.0mmolであった。次に、6Nの塩酸100ml(酸性剤(HCl)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、3.0mmol)を用いて中和処理を行った。その後、アルカリ処理及び中和処理を経た処理物を5g取り出し、実施例1〜4については以下の条件で熱風乾燥機(ヤマト科学株式会社製、「送風定温恒温器」;以下の「熱風乾燥機」において同じ。)にて加熱処理を行い、実施例1〜4のキャノロール高含有加熱処理物を得た。
・実施例1:210℃、5分間。
・実施例2:180℃、7分間。
・実施例3:180℃、4分間。
・実施例4:165℃、7分間。
【0045】
<実施例5>
乾燥質量50gの菜種を、室温(23℃)にて、3NのNaOH水溶液25ml中に浸漬させ、アルカリ処理を4時間行った。このとき、NaOH水溶液中のアルカリ性剤(NaOH)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、1.5mmolであった。次に、3Nの塩酸25ml(酸性剤(HCl)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、1.5mmol)を用いて中和処理を行った。その後、アルカリ処理及び中和処理を経た処理物を5g取り出し、熱風乾燥機にて、210℃、5分間の加熱処理を行い、実施例5のキャノロール高含有加熱処理物を得た。
【0046】
<実施例6>
乾燥質量50gの菜種を、室温(23℃)にて、2NのNaOH水溶液25ml中に浸漬させ、アルカリ処理を4時間行った。このとき、NaOH水溶液中のアルカリ性剤(NaOH)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、1.0mmolであった。次に、2Nの塩酸25ml(酸性剤(HCl)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、1.0mmol)を用いて中和処理を行った。その後、アルカリ処理及び中和処理を経た処理物を5g取り出し、熱風乾燥機にて、210℃、5分間の加熱処理を行い、実施例6のキャノロール高含有加熱処理物を得た。
【0047】
<実施例7>
乾燥質量50gの菜種を、室温(23℃)にて、1NのNaOH水溶液25ml中に浸漬させ、アルカリ処理を4時間行った。このとき、NaOH水溶液中のアルカリ性剤(NaOH)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、0.50mmolであった。次に、1Nの塩酸25ml(酸性剤(HCl)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、0.50mmol)を用いて中和処理を行った。その後、アルカリ処理及び中和処理を経た処理物を5g取り出し、熱風乾燥機にて、210℃、5分間の加熱処理を行い、実施例7のキャノロール高含有加熱処理物を得た。
【0048】
<実施例8〜13>
乾燥質量200gの菜種ミールを、室温(23℃)にて、3NのNaOH水溶液200ml中に浸漬させ、アルカリ処理を4時間行った。このとき、NaOH水溶液中のアルカリ性剤(NaOH)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、3.0mmolであった。次に、3Nの塩酸200ml(酸性剤(HCl)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、3.0mmol)を用いて中和処理を行った。その後、アルカリ処理及び中和処理を経た処理物を3g取り出し、実施例8〜13については以下の条件で熱風乾燥機にて加熱処理を行い、実施例8〜13のキャノロール高含有加熱処理物を得た。
・実施例8:210℃、7分間。
・実施例9:180℃、7分間。
・実施例10:165℃、7分間。
・実施例11:165℃、15分間。
・実施例12:120℃、150分間(2.5時間)。
・実施例13:100℃、540分間(9時間)。
【0049】
<実施例14>
乾燥質量200gの菜種ミールを、室温(23℃)にて、1.5NのNaOH水溶液200ml中に浸漬させ、アルカリ処理を4時間行った。このとき、NaOH水溶液中のアルカリ性剤(NaOH)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、1.5mmolであった。次に、1.5Nの塩酸200ml(酸性剤(HCl)の使用量は、菜種の乾燥質量1g当たり、1.5mmol)を用いて中和処理を行った。その後、アルカリ処理及び中和処理を経た処理物を3g取り出し、熱風乾燥機にて、210℃、7分間の加熱処理を行い、実施例14のキャノロール高含有加熱処理物を得た。
【0050】
<比較例1〜3>
乾燥質量5gの菜種を以下の条件で熱風乾燥機にて加熱処理を行い、比較例1〜3の菜種加熱処理物を得た。
・比較例1:210℃、7分間。
・比較例2:180℃、15分間。
・比較例3:165℃、15分間。
【0051】
<比較例4〜6>
乾燥質量3gの菜種ミールを以下の条件で熱風乾燥機にて加熱処理を行い、比較例4〜6の菜種ミール加熱処理物を得た。
・比較例4:210℃、7分間。
・比較例5:180℃、15分間。
・比較例6:165℃、15分間。
【0052】
なお、上記の各実施例及び比較例で用いた菜種は、各実施例及び比較例間で差異がなく同一の菜種である。菜種ミールについても同様である。
【0053】
実施例1〜14のキャノロール高含有加熱処理物、及び比較例1〜6の菜種処理物並びに菜種ミール処理物中のキャノロール含有量を以下に示す方法にて測定した。
【0054】
<分析方法>
サンプル(菜種の処理物(実施例1〜7及び比較例1〜3)では1g、菜種ミールの処理物(実施例8〜14及び比較例4〜6)では0.5g)に70%メタノール水溶液(v/v)を8ml加え、振とう抽出4分と超音波抽出2分を行った後に遠心分離(7500×g、10分)を行い、上澄みを回収した。この操作を3回繰り返して回収した抽出液を全てあわせた。この抽出液を減圧蒸留で溶媒留去後残った溶質を70%メタノール水溶液に溶解し、キャノロールの分析サンプルとした。なお、検量線を作成する標準液の作製にはキャノロールの合成品(純正化学株式会社製)を用いた。キャノロール含有量の測定は、高速流体クロマトグラフィー(HPLC)で、以下に示す条件設定の下で行った。
(HPLC条件)
・カラム:Inertsil ODS−3(4.6×150mm、5μm)
・ガードカラム:カートリッジガードカラムE Inertsil ODS−3(4.0×10mm、5μm)
・溶離液 A:10mM リン酸アンモニウム緩衝液 pH6.0
B:メタノール 80%/溶離液A20%
・グラジエント: 0分 A90%B10%
20分 A0%B100%
21分 A90%B10%
30分 A90%B10%
・流速:1.0ml/分
・カラム温度:30℃
・検出器:UV検出器(275nm)
・インジェクト量:10μl
【0055】
以上の実施例1〜14、及び比較例1〜6の製造条件の概要とキャノロール含有量の測定結果を表1〜3に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表1〜3に示す通り、実施例1〜7のキャノロール高含有菜種処理物では、キャノロール含有量が1400ppm以上である結果が得られた。特に、アルカリ処理におけるアルカリ性剤の使用量が、菜種の乾燥質量1g当たり1.0mmol以上である場合の実施例1〜6では、キャノロール含有量が2700ppm以上である結果が得られた。さらに、実施例1、2、4及び5では、キャノロール含有量が3000ppm以上である結果が得られた。
【0060】
また、実施例1〜7のキャノロール高含有菜種処理物は、比較例1〜3の菜種加熱処理物と比較して、多くのキャノロールを含有していることが示された。特に、実施例1〜6のキャノロール高含有菜種処理物中のキャノロール含有量は、比較例1〜3の菜種加熱処理物中のキャノロール含有量の2倍以上(実施例1、2及び4については3倍以上)である結果が得られた。
【0061】
実施例8〜14のキャノロール高含有菜種ミール処理物では、キャノロール含有量が800ppm以上である結果が得られた。特に、実施例8〜12では、キャノロール含有量が1000ppm以上である結果が得られ、実施例9及び11では、キャノロール含有量が2000ppm以上である結果が得られた。
【0062】
また、実施例8〜14のキャノロール高含有菜種ミール処理物は、比較例4〜6の菜種ミール加熱処理物と比較して、多くのキャノロールを含有していることが示された。特に、実施例8〜12のキャノロール高含有菜種ミール処理物中のキャノロール含有量は、比較例4〜6の菜種ミール加熱処理物中のキャノロール含有量の2倍以上(実施例9〜12については3倍以上、実施例9及び11については4倍以上)である結果が得られた。
【0063】
以上の結果、菜種をアルカリ処理し、さらに加熱処理したキャノロール高含有加熱処理物(キャノロール高含有菜種処理物)は、キャノロールを1400ppm以上含有し、多くのキャノロールが生成されることが分かった。
【0064】
また、菜種ミールをアルカリ処理し、さらに加熱処理したキャノロール高含有加熱処理物(キャノロール高含有菜種ミール処理物)は、キャノロールを800ppm以上含有し、処理前の原料菜種ミールや菜種ミール加熱処理物に比べて、多くのキャノロールを含有することが分かった。菜種ミールは、菜種からすでに搾油、抽出等されているにも関わらず、キャノロール含有量を高めることができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示のキャノロール高含有加熱処理物は、食品、医薬、家畜飼料等広い分野で利用され得る。例えば、菜種から得られたキャノロール高含有加熱処理物であれば、それを搾油等することでキャノロール高含有の菜種油として利用され得る。また、例えば、本開示のキャノロール高含有加熱処理物を抽出等することで、キャノロール高含有抽出物が得られ、栄養補助食品、健康食品等の食品原料、抗酸化剤等の医薬原料等として利用され得る。菜種ミールから得られたキャノロール高含有加熱処理物であれば、キャノロール高含有の飼料等として有効に利用され得る。
【0066】
なお、本技術は、以下の構成を取ることもできる。
〔1〕 菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理すること、及び加熱処理することを含むキャノロール高含有加熱処理物の製造方法。
〔2〕 前記加熱処理の温度が100℃以上である前記〔1〕記載のキャノロール高含有加熱処理物の製造方法。
〔3〕 前記アルカリ処理に用いるアルカリ溶液中のアルカリ性剤の使用量が、前記菜種及び/又は菜種ミールの乾燥質量1g当たり、1.0〜10mmolである前記〔1〕又は〔2〕記載のキャノロール高含有加熱処理物の製造方法。
〔4〕 菜種及び/又は菜種ミールをアルカリ処理し、さらに加熱処理して得られるキャノロール高含有加熱処理物。
〔5〕 菜種及び/又は菜種ミールの処理物中のキャノロール含有量が、菜種及び/又は菜種ミールの加熱処理物と比較して2倍以上となるキャノロール高含有加熱処理物。
〔6〕 キャノロールの含有量が1400ppm以上(好適には、2000ppm以上)である、菜種から得られるキャノロール高含有加熱処理物。
〔7〕 キャノロールの含有量が800ppm以上(好適には、1000ppm以上)である、菜種ミールから得られるキャノロール高含有加熱処理物。