(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不飽和二重結合を有するカルボン酸、そのアルキルエステル、その酸無水物及びその塩、並びに不飽和二重結合を有するシリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体の存在下でビニルエステル系単量体を重合する工程、
上記重合工程で得られた重合体をけん化する工程、及び
上記重合体を加熱処理する工程
を備え、
上記加熱処理を70℃以上150℃以下で行う請求項1に記載の増粘剤の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<増粘剤>
当該増粘剤は、PVA(A)を含む。このPVA(A)は、ビニルアルコール単位(−CH
2−CHOH−)を含む重合体である。
【0012】
当該増粘剤の状態は特に限定されないが、例えば、PVA(A)を含む粉末状、PVA(A)と水又は水含有溶媒を含有する液体状等が挙げられる。この液体状の増粘剤は、塗料、接着剤等の水分散性エマルジョン含有物に用いる場合に好適である。
【0013】
上記水含有溶媒に含まれる水以外の溶媒としては、特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、MTBE(メチル−t−ブチルエーテル)、ブチルカルビトール等のエーテル系溶媒;アセトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、PMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒などが挙げられる。
【0014】
当該増粘剤が液体状である場合、溶媒100質量部に対する上記PVA(A)の含有量の下限としては、1質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。上記PVA(A)の含有量の上限としては、50質量部が好ましく、30質量部がより好ましい。このような液体状の当該増粘剤は、水又は水含有溶媒とPVA(A)とを加熱混合することにより製造される。
【0015】
液体状の当該増粘剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を含んでいてもよい。
【0016】
また、当該増粘剤には、同様に本発明の効果を損なわない範囲で、公知の各種PVA、澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の他の水溶性高分子を含んでいてもよい。これらの他の水溶性高分子の含有量は、PVA(A)100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましい。
【0017】
[PVA]
PVA(A)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の割合(Mw/Mn)が3以上8以下である。当該割合の下限としては、3.2が好ましく、3.4がより好ましく、3.6がさらに好ましく、また、当該割合の上限としては、6が好ましく、5がより好ましい。
【0018】
また、PVA(A)を水酸化ナトリウム溶液中で40℃で1時間処理して得られるPVA(B)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の割合(Mw/Mn)が2以上3未満である。当該割合の下限としては、2.1が好ましく、2.2がより好ましく、また、当該割合の上限としては、2.9が好ましく、2.8がより好ましい。
【0019】
本発明の増粘剤に含まれる上記PVA(A)は、上記のような特定の性質を有している。本発明を何ら限定するものではないが、当該PVA(A)は、PVA鎖が互いに結合して分岐構造を形成していると考えられる。そして、この分岐構造により、当該PVA(A)を含む増粘剤は、増粘性に優れたものとなると考えられる。
【0020】
上記のPVA(B)は、PVA(A)を水酸化ナトリウム溶液中で40℃で1時間処理して得られる。当該処理としては、JIS−K6726における平均重合度の欄に記載された完全けん化の方法を採用することができ、具体的には、以下のようにして得られる。すなわち、PVA(A)約10gを共通すり合わせ三角フラスコに量り採り、メタノール200mLを加えた後、12.5モル/L水酸化ナトリウム溶液を、PVA(A)のけん化度が97モル%以上の場合は3mL、PVA(A)のけん化度が97モル%未満の場合は10mL加えて、かき混ぜ、40℃の水浴中で1時間加熱し、次に、フェノールフタレインを指示薬として加え、アルカリ性反応を認めなくなるまでメタノールで洗浄して水酸化ナトリウムを除去し、最後に、時計皿に移しメタノールがなくなるまで105℃で1時間乾燥させる方法によって得ることができる。
【0021】
なお、上記のPVA(A)及びPVA(B)における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ヘキサフルオロイソプロパノールを移動相に用い、示差屈折率検出器を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリメタクリル酸メチル換算値として求めることができ、より具体的な方法としては、以下を採用することができる。
GPCカラム:東ソー社の「GMH
HR(S)」2本
移動相:ヘキサフルオロイソプロパノール
流速:0.2mL/分
試料濃度:0.100wt/vol%
試料注入量:10μL
検出器:示差屈折率検出器
標準物質:ポリメタクリル酸(例えば、Agilent Technologies社の「EasiVial PMMA 4mL tri−pack」)
【0022】
上記の方法において、移動相として使用されるヘキサフルオロイソプロパノールには、GPCカラム充填剤への試料の吸着を抑制するために、トリフルオロ酢酸ナトリウムなどの塩を添加するのが好ましい。塩の濃度としては、通常、1mmol/L〜100mmol/L、好ましくは5mmol/L〜50mmol/Lである。
【0023】
PVA(B)の重量平均分子量(Mw)に対するPVA(A)の重量平均分子量(Mw)の割合(Mw(A)/Mw(B))は特に制限されないが、その下限としては、1.4が好ましく、1.5がより好ましい。一方、上記割合(Mw(A)/Mw(B))の上限としては、3.0が好ましく、2.5がより好ましい。上記割合(Mw(A)/Mw(B))が上記下限以上であることにより、当該増粘剤の増粘性がより向上する。一方、上記割合(Mw(A)/Mw(B))が上記上限以下であることにより、当該増粘剤の水溶性がより向上する。
【0024】
PVA(A)としては、ビニルエステル系重合体をけん化することにより得られたものを用いることができる。当該PVA(A)は、ビニルアルコール単位のみからなるものであってもよいが、単量体(a)に由来する単位をさらに含むことが好ましい。
【0025】
ビニルエステル系重合体の製造に使用されるビニルエステル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。これらの中で、経済的観点から酢酸ビニルが好ましい。
【0026】
上記単量体(a)は、不飽和二重結合を有するカルボン酸、そのアルキルエステル、その酸無水物及びその塩、並びに不飽和二重結合を有するシリル化合物からなる群より選択される少なくとも1種の単量体である。
【0027】
上記の不飽和二重結合を有するカルボン酸、そのアルキルエステル、その酸無水物及びその塩としては、例えば、マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸ジメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、無水マレイン酸、シトラコン酸、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸ジメチルエステル、シトラコン酸ジエチルエステル、無水シトラコン酸、フマル酸、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、フマル酸モノエチルエステル、フマル酸ジエチルエステル、イタコン酸、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジメチルエステル、イタコン酸モノエチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、無水イタコン酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
【0028】
上記の不飽和二重結合を有するシリル化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン等の不飽和二重結合とトリアルコキシシリル基とを有する化合物などが挙げられる。
【0029】
これらの単量体(a)の中でも、マレイン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、ビニルトリメトキシシランが好ましく、マレイン酸モノメチルエステル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、ビニルトリメトキシシランがより好ましい。
【0030】
PVA(A)における単量体(a)に由来する単位の含有率の下限としては、PVA(A)を構成する全単量体単位のモル数に基づいて、0.02モル%が好ましく、0.05モル%がより好ましく、0.1モル%がさらに好ましい。一方、PVA(A)における上記単量体(a)に由来する単位の含有率の上限としては、PVA(A)を構成する全単量体単位のモル数に基づいて、5モル%が好ましく、2モル%がより好ましく、1モル%がさらに好ましい。この含有率が上記下限以上であることにより、増粘剤の増粘性がより向上する。一方、この含有率が上記上限以下であることにより、増粘剤の水溶性がより向上する。
【0031】
単量体(a)に由来する単位の含有率は、PVA(A)の前駆体であるビニルエステル系重合体の
1H−NMRから求めることができる。例えば、単量体(a)としてマレイン酸モノメチルを用いた場合、上記含有率は以下の手順により求められる。すなわち、n−ヘキサン/アセトンでビニルエステル系重合体の再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のサンプルを作製する。このサンプルをCDCl
3に溶解させ、500MHzの
1H−NMR(日本電子社の「GX−500」)を用い室温で測定する。ビニルエステル系重合体における、ビニルエステル単位のメチン構造に由来するピークα(4.7〜5.2ppm)と、単量体(a)に由来する単位のメチルエステル部分のメチル基に由来するピークβ(3.6〜3.8ppm)とから、下記式を用いて、単量体(a)に由来する単位の含有率Sを算出することができる。
S(モル%)={(βのプロトン数/3)/(αのプロトン数+(βのプロトン数/3))}×100
【0032】
また、PVA(A)は本発明の趣旨を損なわない範囲で、ビニルアルコール単位及び単量体(a)に由来する単位以外の他の単量体に由来する単位を含んでいてもよい。上記他の単量体に由来する単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどに由来する単位が挙げられる。PVA(A)における上記他の単量体に由来する単位の含有率は、PVA(A)を構成する全単量体単位のモル数に基づいて、例えば、15モル%以下とすることができる。
【0033】
PVA(A)におけるビニルアルコール単位、単量体(a)に由来する単位及び上記他の単量体に由来する単位の配列順序に特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互のいずれであってもよい。
【0034】
PVA(A)の一次構造は、
1H−NMRにより定量することができる。
1H−NMR測定時の溶媒としては、CDCl
3を用いればよい。
【0035】
PVA(A)のけん化度(PVA(A)におけるヒドロキシル基とエステル結合との合計に対するヒドロキシル基のモル分率)は、JIS−K6726に準じて測定される。けん化度の下限としては、20モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましく、80モル%が特に好ましく、87モル%が最も好ましい。PVA(A)のけん化度が上記下限以上であることにより、PVA(A)の増粘性及び水溶性がより向上する。
【0036】
PVA(B)の粘度平均重合度に特に制限はないが、その上限としては、5,000が好ましく、4,000がより好ましい。PVA(B)の粘度平均重合度の下限としては、100が好ましく、500がより好ましく、1,000がさらに好ましい。PVA(B)の粘度平均重合度が上記下限以上であることにより、増粘剤の増粘性がより向上する。一方、PVA(B)の粘度平均重合度が上記上限以下であることにより、PVA(A)の生産性が向上し、より低コストでPVA(A)を製造することが可能となる。
【0037】
PVA(B)の粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。ここで、PVA(B)はPVA(A)を水酸化ナトリウム溶液中で40℃で1時間処理して得られるものであるため、上記測定においては、測定試料としてPVA(A)を用いてもPVA(B)を用いても実質的に同じ値が得られる。そのため、PVA(B)の粘度平均重合度(P)を測定するにあたっては、以下のように、試料としてPVA(A)を用いて行うことができる。すなわち、PVA(A)を完全にけん化し、精製した後、単量体(a)に由来する単位を含むPVA(A)については30℃の塩化ナトリウム水溶液(0.5モル/L)中で極限粘度[η](単位:デシリットル/g)を測定し、単量体(a)に由来する単位を含まないPVA(A)については30℃の水溶液中で極限粘度[η](単位:デシリットル/g)を測定する。この極限粘度[η]から次式によりPVA(B)の粘度平均重合度(P)が求められる。
P=([η]×10
3/8.29)
(1/0.62)
【0038】
<増粘剤の製造方法>
当該PVA(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ビニルエステル系単量体を含む単量体を重合する工程(以下、「重合工程」ともいう)、この重合工程により得られたビニルエステル系重合体をけん化する工程(以下、「けん化工程」ともいう)とを備え、好ましくはさらに加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)を備える。加熱する工程は、けん化工程後のPVAに対して行っても、ビニルエステル系重合体に対するけん化工程と同時に行ってもどちらでもよいが、けん化工程後のPVAに対して行うのが好ましい。
【0039】
[重合工程]
本工程では、ビニルエステル系単量体を含む単量体の重合を行い、ビニルエステル系重合体を合成する。ビニルエステル系単量体を含む単量体としては、ビニルエステル系単量体のみを含むものであっても、上記したように、ビニルエステル系単量体と、単量体(a)及び/又は上記他の単量体とを含むものであってもどちらでもよい。
【0040】
ビニルエステル系単量体を含む単量体の重合を行うのに採用される重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を採用することができる。これらの中で、無溶媒又はアルコール等の溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度のビニルエステル系重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。溶液重合法の溶媒は特に限定されないが、例えば、アルコール等が挙げられる。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールは、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール等の低級アルコールである。溶媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。重合系における溶媒の使用量は、目的とするPVA(A)の重合度等に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と重合系に含まれる全単量体との質量比{=(溶媒)/(全単量体)}にして0.01〜10の範囲、好ましくは0.05〜3の範囲から選択すればよい。
【0041】
上記重合に使用される重合開始剤としては、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等から重合方法に応じて適宜選択すればよい。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;過酸化アセチル;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤としてもよい。レドックス系開始剤としては、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
重合開始剤の使用量は、重合触媒などにより異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて適宜選択すればよい。例えば重合開始剤に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル又は過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。
【0042】
上記重合温度の下限としては、0℃が好ましく、30℃がより好ましい。重合温度の上限としては、200℃が好ましく、140℃がより好ましい。重合温度が上記下限以上であることにより、重合速度が向上する。一方、重合温度が上記上限以下であることにより、例えば単量体(a)を用いる場合においてもPVA(A)中の単量体(a)に由来する単位の含有率を適切な割合に保つことが容易になる。重合温度を上記範囲内に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の観点から後者の方法が好ましい。
【0043】
上記重合は、本発明の趣旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類などが挙げられる。これらのうち、アルデヒド類及びケトン類が好ましい。重合系への連鎖移動剤の添加量としては、添加する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするPVA(A)の重合度等に応じて決定することができ、一般にビニルエステル系単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0044】
なお、高温下で上記重合を行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVA(A)の着色等が見られることがある。この場合には、着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤をビニルエステル系単量体に対して1〜100ppm程度添加するとよい。
【0045】
[けん化工程]
本工程では、ビニルエステル系重合体をけん化する。この重合体をけん化することにより、重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。
【0046】
ビニルエステル系重合体のけん化は、特に制限されないが、溶媒中に上記重合体が溶解した状態で行われる公知の加アルコール分解反応又は加水分解反応を採用することができる。
【0047】
けん化に使用する溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等の低級アルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中で、メタノール、メタノールと酢酸メチルとの混合溶液が好ましい。
【0048】
けん化に使用する触媒としては、例えばアルカリ金属の水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド等)等のアルカリ触媒;p−トルエンスルホン酸、鉱酸等の酸触媒などが挙げられる。これらの中で、水酸化ナトリウムを使用すると簡便であるため好ましい。
【0049】
けん化を行う温度としては、特に限定されないが、20℃〜60℃が好ましい。けん化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕し、さらにけん化を進行させるのがよい。その後、得られた溶液を中和することで、けん化を終了させ、洗浄、乾燥して、ビニルアルコール系重合体を得ることができる。けん化方法としては、上述した方法に限らず、公知の方法を採用できる。
【0050】
[加熱工程]
ビニルエステル系単量体の重合後、好ましくはけん化工程後に加熱処理を施すことにより、分岐構造が形成されたPVA(A)を容易に得ることができ、増粘剤の増粘性がより高まる。加熱処理は、空気または窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0051】
加熱工程における加熱温度の下限としては、70℃であり、90℃が好ましい。上記加熱温度の上限としては、150℃であり、130℃が好ましい。加熱工程における加熱時間の下限としては、30分が好ましく、1時間がより好ましく、2時間がさらに好ましい。上記加熱時間の上限としては、10時間が好ましく、7時間がより好ましく、5時間がさらに好ましい。加熱温度及び加熱時間を上記範囲内とすることで、本発明の規定を満たすPVA(A)を容易に得ることができ、得られる増粘剤の増粘性及び水溶性が向上する。
【0052】
上記の製造方法により得られたPVA(A)と、その他の成分とを、適宜混合することにより本発明の増粘剤を製造することができる。ここで、上述のように水又は水含有溶媒とPVA(A)、及び必要に応じてさらにその他の任意成分とを混合することにより、液体状の当該増粘剤を容易に製造することができる。
【0053】
なお、本発明のPVA(A)は、増粘剤以外にも、紙用塗工剤、接着剤、フィルム、重合用分散安定剤等を製造するための原料としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例により、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量を基準とする。
【0055】
下記実施例及び比較例のPVAの物性値について、以下の方法に従って測定した。
【0056】
[重合度]
各実施例又は比較例において、PVA(B)の粘度平均重合度は、PVA(A)を用いて上述の方法に従い求めた。
【0057】
[けん化度]
各PVA(A)のけん化度は、JIS−K6726に記載の方法により求めた。
【0058】
[変性率]
各PVAの変性率(PVA(A)における単量体(a)に由来する単位の含有率)は、PVA(A)の前駆体であるビニルエステル系重合体を用いて、上述の
1H−NMRを用いた方法により求めた。
【0059】
[PVA(B)の調製]
PVA(A)約10gを共通すり合わせ三角フラスコに量り採り、メタノール200mLを加えた後、12.5モル/L水酸化ナトリウム溶液を10mL加えて、かき混ぜ、40℃の水浴中で1時間加熱し、次に、フェノールフタレインを指示薬として加え、アルカリ性反応を認めなくなるまでメタノールで洗浄して水酸化ナトリウムを除去し、最後に、時計皿に移しメタノールがなくなるまで105℃で1時間乾燥させてPVA(B)を調製した。
【0060】
[PVA(A)及びPVA(B)における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)]
ヘキサフルオロイソプロパノールを移動相に用い、示差屈折率検出器を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリメタクリル酸メチル換算値として求めた。具体的には、以下の条件を採用した。
GPCカラム:東ソー社の「GMH
HR(S)」2本
移動相:ヘキサフルオロイソプロパノール(トリフルオロ酢酸ナトリウムを20mmol/Lの濃度で含有)
流速:0.2mL/分
試料濃度:0.100wt/vol%
試料注入量:10μL
検出器:示差屈折率検出器
標準物質:ポリメタクリル酸(例えば、Agilent Technologies社の「EasiVial PMMA 4mL tri−pack」)
【0061】
[実施例1](PVA−1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口及び重合開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル740部及びメタノール260部を仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また単量体(a)としてマレイン酸モノメチルを選択し、マレイン酸モノメチルのメタノール溶液(濃度20%)を窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25部を添加し重合を開始した。上記反応器に、上記マレイン酸モノメチルのメタノール溶液を滴下して重合溶液中の単量体組成比を一定に保ちながら、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止までに加えた単量体(a)の総量は0.9部であり、重合停止時の固形分濃度は33.3%であった。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の単量体の除去を行い、ビニルエステル系重合体のメタノール溶液(濃度35%)を得た。次に、このメタノール溶液にさらにメタノールを加えて調製したビニルエステル系重合体のメタノール溶液790.8部(溶液中の上記重合体200.0部)に、水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液9.2部を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液の上記重合体濃度25%、上記重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.01)。水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加後約15分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、さらに40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル500部を加え残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得た。この白色固体にメタノール2,000部を加えて室温で3時間放置洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機にて120℃で4.5時間加熱処理してPVA(A)(PVA−1)を得た。PVA−1の物性を表2に示す。
【0062】
[実施例2〜8及び比較例1〜9](PVA−2〜PVA−18の製造)
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用する単量体(a)の種類や添加量等の重合条件;けん化時におけるビニルエステル系重合体の濃度、酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件;並びに加熱処理条件を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により各種のPVA(A)を製造した。なお、比較例5においては、PVA−13及びPVA−14の2種のPVA(A)を製造したのち、PVA−13を45部に対しPVA−14を55部となるように2種のPVA(A)を混合した。各PVA(A)及びそれから得られるPVA(B)の物性を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
<評価>
[水溶性]
上記得られたPVA(A)4部に対して、水96部を加え、攪拌しながら90℃に昇温し、PVA(A)の溶解の様子を目視で観察した。昇温を開始してから完全に溶解するまでの時間を測定し、以下の基準に従って評価した。評価結果を表3に示す。なお、下記評価がA又はBの場合、実用性に優れるといえる。
A:1時間未満で完全に溶解した。
B:1時間以上3時間未満で完全に溶解した。
C:完全に溶解できず、溶け残った。
【0066】
[水に添加した場合の増粘性]
上記[水溶性]の評価と同様の方法で、濃度4.0%のPVA水溶液を調製し、B型粘度計(ロータ回転数6rpm、温度20℃)を用いて粘度(mPa・s)を測定した。PVA(A)と、比較対象となる無変性PVAとで当該粘度を測定し、それらの粘度比(PVA(A)の粘度/比較対象となる無変性PVAの粘度)を算出し、以下の基準で評価した。ここで、比較対象となる無変性PVAとしては、各実施例又は比較例におけるPVA(A)とけん化度が同じであり、且つ、PVA(A)から得られるPVA(B)の粘度平均重合度と同じ粘度平均重合度を有する無変性PVAを用いた。評価結果を表3に示す。
A:1.5以上
B:1.1以上1.5未満
C:1.0以上1.1未満、又は測定不可
【0067】
[エマルジョン組成物に添加した場合の増粘性]
エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン(クラレ社の「OM−4200NT」、総固形分55.0%)100部に、PVA水溶液50部(濃度10%)を加え、PVAとエマルジョンの混合液を調製した。この混合液の粘度(mPa・s)を、B型粘度計(ロータ回転数2rpm、温度20℃)を用いて測定した。PVA(A)と、比較対象となる無変性PVAとで当該粘度を測定し、それらの粘度比(PVA(A)を用いた場合の粘度/比較対象となる無変性PVAを用いた場合の粘度)を算出し、以下の基準で評価した。ここで、比較対象となる無変性PVAとしては、各実施例又は比較例におけるPVA(A)とけん化度が同じであり、且つ、PVA(A)から得られるPVA(B)の粘度平均重合度と同じ粘度平均重合度を有する無変性PVAを用いた。評価結果を表3に示す。
A:1.5以上
B:1.2以上1.5未満
C:1.0以上1.2未満
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示されるように、実施例1〜8で製造したPVA(A)は、単独又は水溶液の形態で増粘剤として用いた場合に水溶性及び増粘性が共に優れることが分かる。さらに、変性率、PVA(A)の割合(Mw/Mn)等を特定した実施例2及び6で製造したPVA(A)を用いた増粘剤は、増粘性に特に優れることが分かる。
【0070】
一方、PVA(A)の割合(Mw/Mn)が3未満又は8を超える比較例1、3及び5〜9では、増粘性が低いことが観察された。また、変性率が高い場合(比較例2)、加熱温度が高い場合(比較例4)は、水溶性が低く、水に完溶しなかった。