(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042129
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ウェアリング及びこれを用いた遠心ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04D 29/16 20060101AFI20161206BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20161206BHJP
F04D 29/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
F04D29/16
F04D29/08 C
F04D29/10 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-167048(P2012-167048)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-25431(P2014-25431A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100114487
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100117411
【弁理士】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】筒井 栄治
(72)【発明者】
【氏名】日高 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 公喜
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 望
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 仁香
【審査官】
加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第3881840(US,A)
【文献】
米国特許第4386780(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/00−29/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心ポンプ装置の羽根車に装着され、遠心ポンプ装置のケ−シングと協働して内部流路を高圧側領域と低圧側領域とに区分するためのウェアリングであって、
前記ウェアリングは、流体が通過するための相互に連通する入口側流路と出口側流路とを内部に備え、
前記出口側流路の少なくとも出口部分の向きは、半径方向外方に向かう成分を有することを特徴とするウェアリング。
【請求項2】
前記出口側流路の少なくとも出口部分の向きは、前記高圧側領域に向かう成分を更に有することを特徴とする、請求項1に記載のウェアリング。
【請求項3】
前記入口側流路は前記高圧側領域において、ウェアリングの中心軸線方向に開口しており、前記出口側流路は、ウェアリングの外周面に開口していることを特徴とする、請求項1又は2に記載のウェアリング。
【請求項4】
前記出口側流路は、前記ウェアリングの半径方向に沿っていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のウェアリング。
【請求項5】
前記出口側流路は、円弧状若しくは前記ウェアリングの半径方向に対して傾斜した直線状であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載のウェアリング。
【請求項6】
前記ウェアリングは厚さ方向及び半径方向に二分割される第1及び第2リングからなり、これら第1及び第2リングの間に前記入口側流路と出口側流路が形成されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のウェアリング。
【請求項7】
前記入口側流路は、ウェアリングの円周方向に沿った長穴形状を有することを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載のウェアリング。
【請求項8】
上記請求項1〜7の何れか一項に記載のウェアリングが装着されていることを特徴とする、羽根車。
【請求項9】
上記請求項8に記載の羽根車を備え、前記出口側流路が前記高圧領域に開口していることを特徴とする、遠心ポンプ装置。
【請求項10】
上記請求項2、または、請求項2を引用先に含む請求項3〜7の何れか一項に記載のウェアリングが装着されている羽根車を備えていることを特徴とする、遠心ポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアリング及びこれを用いた遠心ポンプ装置に係り、特に、クロ−ズ型羽根車を具備する遠心ポンプ装置において、羽根車に装着されるウェアリング及びこれを用いた遠心ポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心ポンプ装置においては、吸込側(低圧側)領域と吐出側(高圧側)領域の間に、流体の流れを阻止するためのシ−ル機構が必要である。なぜなら、シ−ル機構を設けないならば、高圧側領域から低圧側領域に流体が漏洩してしまい、ポンプ効率が著しく低下するからである。このシ−ル機構は通常、羽根車とポンプケ−シングの近接部に設けられている。
【0003】
一方で、クロ−ズ型羽根車を採用している遠心ポンプ装置の場合、ケ−シングは固定構造物であるのに対し、羽根車は回転構造物である。このため、ケ−シングと羽根車の間に所定の隙間を形成する必要がある。この隙間は狭いほど絞り効果を発揮し、流体の漏れ損失を低減することができるが、隙間を狭くするためにはケ−シングや羽根車に対して高い加工精度が要求される。また、羽根車の回転時の僅かな振れなどでも、ケ−シングと羽根車が接触してしまい、ケ−シング及び羽根車を損傷してしまう可能性が高まる。
【0004】
このため、仮に羽根車がケ−シングに接触しても、ケ−シングや羽根車に直接影響が及ばないように、摺動性の良い材料で製作したライナ−リングやウェアリングを使用する。ここで、ライナ−リングとは、ケ−シング側に設置されるリング状の部材であり、羽部車に対向するものである。一方、ウェアリングとは、羽根車に装着されるリング状の部材であり、ケ−シング(あるいはライナ−リング)に対向するものである。ここで、ライナ−リングとウェアリングとを単純な円筒形状として、これらライナ−リングとウェアリングとの隙間を単に狭くするだけでもシ−ル効果を発揮する。しかしながら、隙間をそれほど小さくせずにシ−ル効果を高めるために、ライナ−リングとウェアリングをクランク形状やラビリンス形状にする場合もある(
図9参照)。また、特殊な構造のシ−ル機構を設ける場合もある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−207402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術に係る発明には、以下のような問題点があった。すなわち、ライナ−リングとウェアリングをクランク形状やラビリンス形状に加工するためには、多大な加工工程を必要とし、製造コストが著しく高いものとなってしまう。また、特殊な構造のシ−ル機構については、ケ−シングと羽根車との隙間を狭くするとしても限界がある。このため、高圧側から低圧側への所定量の流体の漏洩は避けることができない。
【0007】
このため、本願発明が解決しようとする課題は、ケ−シングと羽根車との間の隙間を可能な限り狭くしたり、複雑な隙間形状にしなくても、流体の漏れ損失を低減できるシ−ル機構を実現するウェアリング及びこれを用いた遠心ポンプ装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、遠心ポンプ装置の羽根車に装着され、遠心ポンプ装置のケ−シングと協働して内部流路を高圧側領域と低圧側領域とに区分するためのウェアリングであって、ウェアリングは、流体が通過するための相互に連通する入口側流路と出口側流路とを内部に備え、出口側流路の少なくとも出口部分の向きは、半径方向外方に向かう成分を有する、という構成を採っている。
【0009】
以上のような構成を採ることにより、高圧側領域からウェアリングの入口側流路に流れ込む高圧流体の一部が、羽根車の回転により遠心力を得る。このため、高圧流体はウェアリングの出口側流路に向かって流れる。このとき、出口側流路により吐き出された直後の流体の少なくとも一部は、高圧側領域へ向かう速度成分を持っており、該高圧水の漏洩の方向に逆らっているため、漏れ損失を効果的に抑えることができる。また、従来技術のように、ウェアリングとケ−シング(あるいはライナリング)との摩擦抵抗に頼った構造ではないため、ケ−シングと羽根車間の隙間を可能な限り狭くしたり、複雑な隙間形状にしなくても良い。
【0010】
また、前記出口側流路の少なくとも出口部分の向きは、前記高圧側領域に向かう成分を更に有する、という構成を採っている。こうすることで、高圧側領域に向かって傾いた出口側流路により吐き出された直後の流体は、高圧側領域へ向かうより大きな速度成分を持っており、漏れ損失を更に効果的に抑えることができる。
【0011】
また、入口側流路はウェアリングの高圧側領域において、ウェアリングの中心軸線方向に開口しており、出口側流路はウェアリングの外周面に開口している、という構成を採っている。
【0012】
また、出口側流路は、ウェアリングの半径方向に沿っている、という構成を採っている。
【0013】
また、出口側流路は、円弧上若しくはウェアリングの半径方向に対して傾斜した直線状である、という構成を採っている。
【0014】
ウェアリングは厚さ方向及び半径方向に二分割される第1及び第2リングからなり、これら第1及び第2リングの境界部に入口側流路と出口側流路が形成されている、という構成を採っている。
【0015】
また、入口側流路は、ウェアリングの円周方向に沿った長穴形状を有する、という構成を採っている。
【0016】
また、上記何れかに記載のウェアリングが装着されている羽根車、という構成を採っている。
【0017】
更に、上記羽根車を備えている遠心ポンプ装置、という構成を採っている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るウェアリングを示し、
図1(A)は
図1(B)のA−A線における断面図であり、
図1(B)は上面図であり、
図1(C)は側面図である。
【
図2】
図1に開示したウェアリングを構成する第1リングを示し、
図2(A)は
図2(B)のA−A線における断面図であり、
図2(B)は上面図であり、
図2(C)は側面図である。
【
図3】
図1に開示したウェアリングを構成する第2リングを示し、
図3(A)は
図3(B)のA−A線における断面図であり、
図3(B)は上面図であり、
図3(C)は側面図である。
【
図4】
図1に開示したウェアリングを備える遠心ポンプ装置を示し、
図4(A)は羽根車の主要部分とウェアリングの断面図であり、
図4(B)はウェアリングが装着された部位の拡大断面図である。
【
図5】
図4に開示した遠心ポンプ装置の羽根車に加わる圧力を概念的に示す図である。
【
図6】
図5(B)に開示したウェアリングにおける流体の流れを説明する図を示し、
図6(A)はウェアリングの断面図であり、
図6(B)は流れの方向成分を説明する図である。
【
図7】本発明のウェアリングの変形例を示す平面図であり、
図7(A)は
図1に開示したものであり、
図7(B)は出口側流路が円弧状になったものであり、
図7(C)は出口側流路が半径方向に対して傾斜しているものであり、
図7(D)は
図7(C)のものに対して出口側流路の数を増やしたものである。
【
図8】ウェアリングの第2の実施形態を示す図であり、
図8(A)は
図8(B)のA−A線における断面図であり、
図8(B)は上面図であり、
図8(C)は側面図である。
【
図9】従来のウェアリングとライナリングの境界部の例を示す断面図であり、
図9(A)はクランク形状のもの、
図9(B)は複合クランク形状のもの、
図9(C)はウェアリングが無くライナリングがT字状のもの、
図9(D)はライナリングがC字状でウェアリングがC字の中に入るもの、
図9(E)はウェアリングが無くライナリングがL字状のもの、
図9(F)はウェアリングに複数の溝が形成されているもの、をそれぞれ示す。
【0019】
本発明は、クロ−ズ型の羽根車を搭載した遠心ポンプ装置において、ケ−シングと羽根車の間に形成された隙間での漏れ損失を極力防止することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付図面に基づいて、本願発明の一実施形態について説明する。
【0021】
[第1実施形態]
[全体概要]
図1に、本願発明の一実施形態に係るウェアリング1を示している。このウェアリング1は、遠心ポンプ装置の羽根車に装着され、遠心ポンプ装置のケ−シングと協働して、遠心ポンプ装置の内部流路を高圧側領域と低圧側領域とに区分するためのウェアリング1である。ウェアリング1は、流体が通過するための相互に連通する入口側流路3と出口側流路5とを内部に備え、出口側流路5の少なくとも出口部分の向きは、高圧側領域に向かう成分と半径方向外方に向かう成分を有している。
【0022】
また、
図1に開示された実施形態に係るウェアリング1の場合、第1リング11と第2リング21を組み合わせて構成されている。ウェアリング1は、全体として厚みの薄い円筒形状をしており、内径は羽根車33(
図4参照)に圧入する嵌め合い寸法となっている。一方、ウェアリング1の外径部分はケ−シング37に対向するが、本発明を適用することでケ−シング37との隙間を可能な限り狭くする必要はないのである。第1リング11と第2リング21とは、軸線方向(厚さ方向)と半径方向に沿って2分割された構造となっている。こうすることで、特殊な形状の入口側流路3および出口側流路5も比較的簡単な加工で形成することが可能となる。これらについて、以下に詳述する。
【0023】
[第1リング]
図1及び
図2に示すように、第1リング11は円筒状部分11aと鍔状部分11bとか
らなり、結果としてリング部分の断面が略L字状の部材となっている。円筒状部分11aの内径は、上述したように羽根車33の装着部分の外径との嵌め合い寸法となっている。一方、円筒状部分11aの外径は、後述するように第2リング21の内径との嵌め合い寸法となっている。ウェアリング1は、通常は耐摩耗性を有する材料であることが求められる。しかし、本実施形態のウェアリング1では、ケ−シング37との隙間をそれほど狭くする必要がなく、ケ−シング37(或はライナリング)と接触することが無いか或は少ない。このため、当該第1リング11の材質は通常のウェアリング1の材料よりも耐摩耗特性は低いものであっても使用することが可能である。
【0024】
[入口側流路]
第1リング11の円筒状部分11aには、円周方向に沿って長穴状の入口側流路3が形成されている。入口側流路3の実際の構造としては、円筒状部分11aの表面において円周方向に沿って形成された凹部である。この凹部によって、後述する第2リング21が装着されることによって、長穴状の流路となるのである。そしてこの入口側流路3は、ウェアリング1が遠心ポンプ装置の羽根車33に装着された場合の、高圧側領域に向かって開口している。これは、入口側流路3が高圧側領域から流体を取り込むための流路だからである。本実施形態においては、円周方向に沿って4つの入口側流路3が形成されている。但し、これはあくまでも一例であって、入口側流路3の数はとくに限定されるものではない。
【0025】
第1リング11の鍔状部分11bは、表面が中空逆円錐台状に形成されている。このため、鍔状部分11bの表面は、半径方向外側に行くに従って高圧側領域に向かうように傾斜している。この傾斜は、後述する出口側流路5の傾斜に対応することとなる。この傾斜は、流体を高圧側領域に向けて押し戻すためのものであるので、その傾斜角度については羽根車33の回転数や流れる液体の種類に応じて最適に設定する必要がある。傾斜角度としては、例えば5°から45°程度が考えられる。
【0026】
[第2リング]
次に、
図1及び
図3に基づいて、第2リング21について説明する。この第2リング21は、第1リング11の円筒状部11aの外周面に嵌め合わされるものであるため、第2リング21の内径は、第1リング11の円筒状部11aの外径に対応した値となっている。第2リング21の高圧側領域に向いた面は平坦な面となっている一方で、第2リング21の低圧側領域に向いた面は中空逆円錐台状となっている。これは、上述した第1リング11の鍔状部分11bの中空逆円錐台形状の面と共に、出口側流路5を形成するためである。
【0027】
[出口側流路]
第2リング21の下面(低圧側領域側の面)の所定位置には、複数の出口側流路5が形成されている。この出口側流路5は、断面が矩形や略半円形の凹形であり、第2リング21の中空逆円錐台状の表面に沿って、中心軸から半径方向外側に向かって形成されている。この出口側流路5は、実際には第1リング11に第2リング21を装着することにより、これら第1リング11と第2リング21の境界部に形成されるものである。このため、出口側流路5は、第1リング11及び第2リング21の中空逆円錐台形状部分に沿って、高圧側領域に向かって傾斜している。換言すると、出口側流路の出口部分の方向は、高圧側領域に向かう成分を有しているということである。
【0028】
出口側流路5は、
図1(B)に示すように、円周方向に沿って8箇所に形成されている。このため、各出口側流路5は、45°の角度間隔で設けられている。また、
図1および
図3において、各出口側流路5の角度位置は、時計の0時の位置を0°に仮定すると、それぞれ、22.5°、67.5°、112.5°、157.5°、202.5°、247
.5°、292.5°、337.5°の位置となっている。出口側流路5の位置は、第1リング11の長穴形状の入口側流路3に対応した位置となっている。具体的には、1つ目の入口側流路3は、角度位置として略5°程度の位置から始まって85°程度の位置まで連続して形成されている。このため、1つの入口側流路3に対して2つの出口側流路5が連通するようになっている。また、何れの出口側流路5も、
図3(B)に示すように、第2リングの中心から半径方向外方に向かって放射状に形成されている。
【0029】
なお、上述した出口側流路5の数や方向、そして角度位置についてはあくまでも一例である。すなわち、入口側流路3と出口側流路5はそれぞれ少なくとも1つ設けられていればよい。また、1つの入口側流路3に2つの出口側流路5を対応させるのではなく、1つの入口側流路3に1つの出口側流路5を対応させても良いし、あるいは1つの入口側流路3により多くの出口側流路5を対応させるようにしてもよい。なお、本実施形態の出口側流路5は高圧側領域に向かう方向成分(傾斜)を有しているが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、出口側流路の出口部分の方向が傾斜を有さず、半径方向(入口側流路に対して直角方向)を向いていたとしても、出口側流路を出た流体の少なくとも一部は、高圧側領域の方向に流れる。このため、流体の漏洩を抑制する機能を発揮することは可能である。また、入口側流路又は出口側流路となる凹部は、第1リング11に形成しても第2リング21に形成してもよい。
【0030】
[遠心ポンプ装置]
図4は、羽根車33に本実施形態のウェアリング1が装着された遠心ポンプ装置31を示す断面図である。ここで、
図4(A)は遠心ポンプ装置31の主要部の断面図であり、
図4(B)はウェアリング1が装着された領域の拡大断面図である。この遠心ポンプ装置31は、図示しない駆動源(モータ)と、この駆動源に連結されている主軸35と、この主軸35に取り付けられているクロ−ズ型の羽根車33と、羽根車33の側板34bの吸込口の外周に取り付けられているウェアリング1と、ケーシング37を備えている。ウェアリング1は、羽根車33とケ−シング37が近接した領域の羽根車33上に圧入によって取り付けられている。なお、羽根車33及びウェアリング1は回転するのに対し、ケ−シング37は固定されているものである。このため、羽根車33とケ−シング37との間には、
図4(B)に示すように所定の隙間が形成されている。本実施形態は、この隙間を通って高圧側領域から低圧側領域に逆流する流体を低減するものである。
【0031】
ここで、クロ−ズ型の羽根車33とは、羽根車33のブレ−ド39が主板34aと側板34bによって囲まれており、流体が吐き出される部位が閉断面となっている羽根車33である。本実施形態に係る羽根車33では、吸込口40aから吐出口40bまで完全に主板34aと側板34bで覆われている。しかし、本発明は、ブレ−ド39が部分的に主側板で覆われているような、部分クロ−ズ型の羽根車(図示略)にも適用することが可能である。この時、少なくともウェアリング1が装着される部位には側板34bが設けられていることが必要である。
【0032】
[作用]
次に、
図4から
図6に基づいて、本実施形態のウェアリング1及び遠心ポンプ装置31の作用について説明する。図示しない駆動源が回転すると、主軸35が回転して羽根車33を直接回転させる。すると、羽根車33の内部に滞留している流体は羽根車33と共に回転する。この回転によって流体に遠心力が働くこととなる。流体に遠心力が働くと、吐出口40bを通って半径方向外方に流れることとなる。羽根車33内の流体が半径方向外方に移動すると、それに伴って新たな流体が吸込口40aから取り込まれることとなる。これにより、連続的に流体が吸込口40aから吐出口40bに流れることとなる。この結果、吸込口40a側が低圧側領域となり、吐出口40b側が高圧側領域となる。この高圧側領域における圧力は、
図5に示すように、羽根車33の主板34a及び側板34bに略
均等に加わることとなる。
【0033】
また、ウェアリング1には、上述したように、その内部に相互に連通している入口側流路3と出口側流路5とが形成されている。このため、これら入口側流路3と出口側流路5にも流体が満たされていることとなる。仮に、羽根車33が回転していない場合には、入口側流路3と出口側流路5に圧力差は生じないので、流体は停止したままとなる。一方、羽根車33が回転するとウェアリング1も羽根車33と共に回転するため、ウェアリング内の流体には遠心力が働く。このとき、入口側流路3の方向は主軸35の中心軸線と略平行であるのに対し、出口側流路5の少なくとも出口部分の方向は、半径方向外方に向かう成分を有している。このため、出口側流路5の内部に存在する流体には遠心力が働き、出口側流路5から吐き出されることとなる。
【0034】
図6(B)に示すように、出口側流路5から流体が吐き出される流出速度をVと定義する。このとき、主軸35と平行な方向の速度成分はVxは、Vcosθとなる。ここで、θは入口側流路3と出口側流路5とのなす角である。仮に、流体の流出速度Vが1m/秒であって、θが60°である場合、主軸35の中心軸線の方向の速度成分Vxは0.5m/秒となる。この主軸方向の速度成分Vxの向きは、ウェアリング1とケ−シング37との間の隙間近傍における、低圧側領域から高圧側領域に向かう方向である。これに対し、出口側流路5から吐き出される流体は低圧側領域から高圧側領域に向かう成分を有しているため、隙間から漏洩しようとする流体を押し戻す効果を発揮することとなる。ウェアリング1に何らの工夫も施さない場合には、高圧側領域から低圧側領域に向かって、流体が隙間を通過してしまう。特に、ウェアリング1とケ−シング37(あるいはライナリング)との隙間を大きくした場合には、漏洩量が増大してしまう。
【0035】
以上のことから、ポンプ効率を低下させる原因である、ウェアリング1とケーシングとの隙間からの、高圧側領域から低圧側領域への逆流を抑えることができる。逆流を抑える効果は、羽根車33の回転数が高い程大きくなる。このような構造を採用することにより、ウェアリング1とこのウェアリング1に対向するケ−シング37(またはライナ−リング)との隙間を、ラフに製造することができるようになり、製造上の工程が減り、組立て上の難しさが低減される。
【0036】
図7は、ウェアリングにおける出口側流路の変形例を示す平面図であり、
図7(A)には比較のために、
図1に開示した出口側流路5を具備したウェアリング1を示している。
図7(B)に示すウェアリング1bの出口側流路5bは、円弧状に曲がっていることが特徴である。また、
図7(C)に示すウェアリング1cの出口側流路5cは、ウェアリング1Cの半径方向に対して斜めになっている点が特徴である。これらの変形例は、遠心力の効果を有効に得られるようにするためのものである。更に、
図7(D)に示すウェアリング1dの出口側流路5dは、
図7(C)のウェアリング1cでは8個設けられているのに対し、12個設けられている点が特徴である。このため、1つの長穴形状の入口側流路3dに対して3個の出口側流路5dが連通している。これは、流体の漏洩を抑える(封水)特性を十分に発揮する流路を実現するためである。なお、出口側流路の上記各形状や数は一例であり、他の形状や数を採用することも当然可能である。
【0037】
図8は、本発明の第2の実施形態に係るウェアリング1eを示す図である。本実施形態のウェアリング1eは、2分割された第1リング11及び第2リング21からなる第1実施形態のウェアリング1と異なり、1つの部材から構成されていることが特徴である。すなわち、ウェアリング1eは、第1実施形態のウェアリング1と同様の形状及び寸法を有するリング状部材である。そして、一般的なドリル加工などを用いて、入口側流路3eと出口側流路5eが形成されている。
【0038】
本実施形態の入口側流路3eは長穴形状とはなっておらず、出口側流路5eの断面直径とほぼ同等の大きさの直径を有する断面円形の流路となっている。但し、NCフライス盤などの加工機械を用いて、長穴形状の入口側流路3eを形成してもよい。また、入口側流路3eの直径を出口側流路5eの直径より大きくすることで、出口側流路5eに至までの流路での流れ抵抗を低減するようにしてもよい。なお、出口側流路5eを
図7(C)〜
図7(D)に示す変形例のように形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ウェアリング、特にクローズ型(あるいは、部分クローズ型)の羽根車を具備する遠心ポンプ装置に利用されるウェアリングに利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 ウェアリング
3 入口側流路
5 出口側流路
11 第1リング
21 第2リング
31 遠心ポンプ装置
33 羽根車羽根車
37 ケーシング