特許第6042324号(P6042324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6042324カーボンでコーティングしたオリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウム、およびそれを使用するリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042324
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】カーボンでコーティングしたオリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウム、およびそれを使用するリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20161206BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20161206BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/136
   H01M4/36 C
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-506076(P2013-506076)
(86)(22)【出願日】2011年4月20日
(65)【公表番号】特表2013-525975(P2013-525975A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】KR2011002829
(87)【国際公開番号】WO2011132931
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2012年12月11日
【審判番号】不服2015-2396(P2015-2396/J1)
【審判請求日】2015年2月6日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0036760
(32)【優先日】2010年4月21日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】サン・フン・チョイ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・テ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ホン・キュ・パク
(72)【発明者】
【氏名】スン−キュン・チャン
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 小川 進
【審判官】 河本 充雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/975289(WO,A1)
【文献】 特開2006−66081(JP,A)
【文献】 特表2009−526735(JP,A)
【文献】 特開2010−161038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/136
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用のオリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウム粒子を含むカソード活物質であって、前記リン酸鉄リチウム粒子に含まれるリン酸鉄リチウムは、以下の式(1)で表される組成を有し、カーボン(C)が、“酸素−硫黄−カーボン”の形態で硫黄(S)を介して化学結合によって前記リン酸鉄リチウム粒子の表面上にコーティングされる、カソード活物質
Li1+aFe1−x(PO4−b)X (1)
ここで、
Mは、Al、Mg、Ni、Co、Mn、Ti、Ga、Cu、V、Nb、Zr、Ce、In、ZnおよびYから選択された少なくとも1つであり、
Xは、F、SおよびNから選択された少なくとも1つであり、
−0.5≦a≦+0.5、0≦x≦0.5、0≦b≦0.1であり
前記硫黄(S)は、前記カソード活物質の全重量をベースとして、0.005から1重量%の量で含まれ
前記カーボンは、前記カソード活物質の全重量をベースとして、0.01から2.0重量%の量でコーティングされる。
【請求項2】
前記リン酸鉄リチウムはLiFePOである、請求項1に記載のカソード活物質
【請求項3】
前記カーボンは、2から10nmの厚さで、前記リン酸鉄リチウム粒子の表面上にコーティングされる、請求項1に記載のカソード活物質
【請求項4】
請求項1からの何れか1項に記載のカソード活物質を含むカソード混合物。
【請求項5】
請求項に記載のカソード混合物が電流コレクタに適用されるカソードを含むリチウム二次電池。
【請求項6】
前記リチウム二次電池は、デバイスの電源である電池モジュールのうちの一つの電池として使用される、請求項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
記デバイスは、電動工具、電気自動車、ハイブリッド自動車、または電動ゴルフカートである、請求項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウムに関する。より具体的には、本発明は、オリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウムであって、リン酸鉄リチウムは以下の式1で表される組成を有し、カーボン(C)が、カーボン以外の異種元素による化学結合によってリン酸鉄リチウムの表面をコーティングする、リン酸鉄リチウムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動式機器{いどうしき きき}に対する技術開発および増加{ぞうか}した需要は、エネルギー源としての二次電池に対する需要の急速な増加につながっている。これらの二次電池の中で、高いエネルギー密度および電圧、長い寿命および低い自己放電{じこ ほうでん}を有するリチウム二次電池は商業化が可能であり、広く使用されている。
【0003】
リチウム二次電池は通常、アノード活物質としてカーボン材料を使用する。また、アノード活物質としてのリチウム金属、硫黄化合物、シリコン化合物、スズ化合物などの使用が考えられている。一方、リチウム二次電池は通常、カソード活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を使用する。また、カソード活物質としての層状結晶構造を有するLiMnO2およびスピネル結晶構造を有するLiMn2O4などのリチウム−マンガン複合酸化物、およびリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)の使用が考えられている。
【0004】
LiCoO2は現在、サイクル寿命などの優れた物理的特性により使用されているが、低安定性、並びに天然資源の制限、および電気自動車に対する電源としての大量使用の制限を受けるコバルトの使用による高コストの欠点を有する。LiNiO2は、その調製方法に関する多くの特徴により、合理的{ごうり てき}コストでの量産に向けた実用的な応用には適していない。LiMnO2およびLiMn2O4などのリチウムマンガン酸化物は、短いサイクル寿命の欠点を有する。
【0005】
近年、カソード活物質としてのリチウムリン酸遷移金属(lithium transition metal phosphate)の使用方法が研究されてきた。リチウムリン酸遷移金属は概して、ナシコン構造を有するLixM2(PO4)3およびオリビン構造を有するLiMPO4に分けられ、従来のLiCoO2と比較して優れた高温安定性を示すことが見出されている。これまでに、Li3V2(PO4)3が最も広く知られたナシコン構造化合物であり、LiFePO4およびLi(Mn,Fe)PO4が最も広く知られたオリビン構造化合物である。
【0006】
オリビン構造化合物の中で、LiFePO4は、リチウム(Li)と比較して、3.5Vの高出力電圧および170mAh/gの高理論容量を有し、コバルト(Co)と比較して優れた高温安定性を示し、安価なFeを原料として利用でき、故にリチウム二次電池に対するカソード活物質として大いに適用できる。
【0007】
オリビン構造化合物の中で、LiFePO4は、リチウム(Li)と比較して、3.5Vの高出力電圧、3.6g/cm3の高体積密度、および170mAh/gの高理論容量を有し、コバルト(Co)と比較して優れた高温安定性を示し、安価なFeを原料として利用でき、故にリチウム二次電池に対するカソード活物質として大いに適用できる。
【0008】
しかしながら、LiFePO4は不利なことに、カソード活物質として使用されるとき、低い導電性により、電池の内部抵抗の増加をもたらす。この理由のため、電池回路が閉じているとき、分極電圧は増加し、故に電池容量が減少する。
【0009】
これらの問題を解決するために、特開2001−110414号公報(特許文献1)では、導電率を改善させるために、オリビン型金属{きんぞく}リン酸塩に導電性材料を組み込むことが示唆されている。
【0010】
しかしながら、LiFePO4は通常、ソリッドステート方法、熱水法などによって、リチウム源としてLi2CO3またはLiOHを使用して調製される。導電率を改善させるために添加されたリチウム源およびカーボン源は、不利なことに、多量のLi2CO3をもたらす。このようなLi2CO3は、充電の間に分解されるか、または電解質溶液と反応してCO2ガスを作り、故に不利なことに、貯蔵またはサイクルの間に多量のガスの製造をもたらす。結果として、不利なことに、電池の膨潤が生じ、高温安定性が悪化する。
【0011】
加えて、H.Q社(H.Q company)による関連特許では、LiFePO4上の物理的にコーティングされたカーボンが開示されている。しかしながら、表面コーティングが単に物理結合を介して実施されるとき、以下の試験例に見られるように、均一なコーティングは不可能である。
【0012】
具体的に、オリビン構造粒子の表面に酸素が存在し、酸素および炭素は化学結合を介して表面上に存在できないため、それらが互いに化学的に結合される場合、それらはCOまたはCO2ガスに転換され、粒子の表面上に存在できない。従って、カーボンコーティングが単純な物理的方法でオリビン粒子の表面上に実施されるとき、結合力は非常に弱く、コーティングは僅かな衝撃によってさえ容易に分離し得る。特に、電極スラリーの混合プロセスでは、活物質およびカーボンが分離され、結果として、過剰の導電性材料が電極に添加されるときに得られる結果が生じる。これは、電極密度の低下をもたらし得る。
【0013】
従って、LiFePO4の導電性を改善するために、カーボンコーティングが均一であり、活物質およびカーボンがスラリー混合の間に互いに分離しない技術の必要性が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−110414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明は、未だ解決されていない上記問題および他の技術的問題を解決するためになされた。
【0016】
上記の問題を解決するための様々な外的および内的研究および実験の結果、本発明の発明者は、カーボン(C)がオリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウムに化学的に結合するとき、カーボンが薄膜の形態で活物質の表面上を均一にコーティングでき、スラリーの混合プロセスにおいて分離しないことを発見した。この発見に基づき、本発明は完了した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一側面によると、オリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウムが提供され、ここで、リン酸鉄リチウムは以下の式1によって表される組成を有し、カーボン(C)は、カーボン以外の異種元素による化学結合によってリン酸鉄リチウムの表面をコーティングする。
Li1+aFe1−xMx(PO4−b)Xb (1)
ここで、
Mは、Al、Mg、Ni、Co、Mn、Ti、Ga、Cu、V、Nb、Zr、Ce、In、ZnおよびYから選択された少なくとも1つであり、
Xは、F、SおよびNから選択された少なくとも1つであり、
−0.5≦a≦+0.5、0≦x≦0.5、0≦b≦0.1である。
【0018】
本発明によるオリビン型リン酸鉄リチウムは、均一なコーティングにより高導電率を示すことができ、強い結合力により電極製造プロセスにおける分離を防止でき、少量使用の場合であっても所望の導電率を達成でき、故に、カーボンは化学結合を介してその表面上にコーティングされるため、電極密度が向上する。
【0019】
任意の化合物が、それが以下の式1の条件を満たす限り、本発明によるオリビン型リン酸鉄リチウムとして使用され得、その代表例はLiFePO4である。
【0020】
カーボン(C)は好ましくは、リン酸鉄リチウムの重量をベースとして、0.01から10重量%の量でコーティングされる。カーボンの含量が過剰であるとき、活物質量は相対的に低下し、容量は不利なことに減少し、電極密度は不利なことに悪化する。一方、カーボンの含量が過度に少ないとき、不利なことに、所望の導電率が得られない。コーティングされるカーボンの量は、より好ましくは0.03から7重量%である。
【0021】
加えて、カーボンは好ましくは、2から10nmの厚さで、リン酸鉄リチウムの表面上に均一にコーティングされる。カーボンが過剰に厚くリン酸鉄リチウムの表面上にコーティングされるとき、それはリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションを妨げ、一方、過剰に薄いコーティングは、均一なコーティングを保証できず、所望の導電性を提供できない。より好ましいコーティング厚さは、3から7nmであり得る。
【0022】
化学結合は好ましくは、イオン結合ではなく、共有結合である。
【0023】
カーボンが化学結合を介してリン酸鉄リチウムの表面上にコーティングされるとき、物理結合とは異なり、有利なことに、カーボンは薄膜の形態でリン酸鉄リチウムの表面上に均一にコーティングされることができ、電極の製造プロセスにおいて分離しない。
【0024】
通常、カーボンを金属または金属酸化物の表面に化学的に結合させることは、非常に難しい。加えて、リン酸鉄リチウムなどのリチウム金属酸化物において、カーボンに化学的に結合されるとき、酸化物の端部は通常、酸素およびCOまたはCO2の形態のリチウム金属酸化物蒸気から成る。
【0025】
従って、本発明によると、カーボンは異種元素を介してリン酸鉄リチウムの表面に化学的に結合される。任意の元素が、酸素に化学的に結合されるとき、真空下でリン酸鉄リチウムの表面から分離されず、リン酸鉄リチウムを含む二次電池の作動を害さない限り、特に制限なく異種元素として使用することができ、好ましくは硫黄(S)である。この場合、活物質として、リン酸鉄リチウムは、例えば“酸素−硫黄−カーボン”の形態で、カーボン(コーティングされる材料)に化学的に結合され得る。
【0026】
カーボンとリン酸鉄リチウムとの間のブリッジとして機能する硫黄(S)は例えば、リン酸鉄リチウムの調製に対する前駆体から生じる。FeSO4がリン酸鉄リチウムの調製に使用されるとき、硫黄は反応後にその生成物に残存することがある。通常、硫黄が活物質に残存するとき、硫黄を除去するために繰り返しの洗浄プロセスが必要である。
【0027】
一方、本発明によると、残存する硫黄(S)はカーボンコーティングに使用され得る。例えば、洗浄プロセスの数または洗浄強度を減少させることで所定量の硫黄がリン酸鉄リチウムの表面に残存した後に、カーボンがコーティングされるため、化学結合をベースとするカーボンコーティングによって得られる効果に加え、洗浄プロセスの単純化を実現でき、活物質の調製コストは故に低減され得る。特に、リン酸鉄リチウムの一次粒子がナノ材料であるとき、洗浄の間の濾過は容易ではない。従って、洗浄プロセスを制限することによって、二次電池製造の全体効率がさらに向上され得る。
【0028】
別の実施形態では、硫黄(S)は、硫黄含有化合物を有するリン酸鉄リチウムをコーティングすることによって組み込まれ得る。硫黄含有化合物は、硫化物、亜硫酸塩および硫酸{りゅうさん}塩から選ばれた1つ以上であり得る。
【0029】
硫黄は、リン酸鉄リチウムの全重量をベースとして、0.005から1重量%の量で含まれ得る。
【0030】
硫黄の含量が過度に高いとき、活物質の導電率並びに電極の密度は低下することがあり、一方、硫黄の含量が過度に低いとき、リン酸鉄リチウムとカーボンとの間の十分な化学結合が、不利なことに不可能であり得る。より好ましい硫黄の含量は、0.01から0.7重量%であり得る。
【0031】
本発明は、オリビン型リン酸鉄リチウムの調製方法を提供する。
【0032】
好ましい実施形態では、オリビン型リン酸鉄リチウムは、以下の段階を含む方法によって調製され得る:
(a)初めに、開始材料としての前駆体とアルカリ化剤とを混合する段階;
(b)次に、段階(a)の混合物を超臨界水または亜臨界水と混合し、リン酸鉄リチウムを合成する段階;
(c)合成されたリン酸鉄リチウムをカーボン前駆体と混合し、その混合物を乾燥させる段階;
(d)リン酸鉄リチウムとカーボン前駆体との混合物を加熱する段階。
【0033】
段階(a)では、リチウム前駆体として、Li2CO3、Li(OH)、Li(OH)・H2O、LiNO3などの原料の1つが使用され得る。鉄(Fe)前駆体として、FeSO4、FeC2O4・2H2OまたはFeCl2などの、作られたリン酸鉄リチウムの表面上に硫黄が残るように少なくとも硫黄原料を含む化合物が使用され得る。FeSO4は特に好ましいが、それは、それが硫黄元素を含んでいるからである。リン(P)前駆体として、H3PO4、NH4H2PO4、(NH4)2HPO4、P2O5などのアンモニウム塩が使用され得る。加えて、アルカリ化剤の例は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア化合物などを含む。
【0034】
段階(b)では、超臨界水または亜臨界水は、180から550barの圧力、200から700℃の水であり得、段階(d)での加熱温度は、600から1200℃であり得る。
【0035】
任意のカーボン前駆体が、それが還元雰囲気下でのベーキングプロセスの間にカーボンを作ることが出来る限り、使用され得る。好ましくは、カーボン前駆体はポリオールタイプのカーボン含有前駆体であり得、その非限定的な例は、スクロース、セルロース、グルコースなどを含む。
【0036】
別の実施形態では、オリビン型リン酸鉄リチウムは、以下の段階を含む方法によって調製され得る:
(a’) 初めに、開始材料としての前駆体とアルカリ化剤とを混合する段階;
(b’)次に、段階(a’)の混合物を超臨界水または亜臨界水と混合し、リン酸鉄リチウムを合成し、続いて乾燥させる段階;
(c’)合成されたリン酸鉄リチウムを加熱する段階;
(d’)リン酸鉄リチウムおよびカーボンパウダーをミリングする段階。
【0037】
段階(d’)では、ミリング方法は当該技術分野で既知であり、その詳細な説明は故に省略される。好ましい実施形態では、ミリング方法はボールミリングであり得る。
【0038】
段階(d)または(c’)では、加熱が不活性ガス雰囲気下で実施され得る。任意の不活性ガスが、それが低反応性を有する限り、特に制限なく使用され得る。その好ましい例は、Ar、N2などを含む。
【0039】
本発明によるリン酸鉄リチウムは、一次粒子または二次粒子の形態であり得る。二次粒子の形態のリン酸鉄リチウムは、所定の粒子直径を有する一次粒子、バインダーおよび溶媒の混合物を乾燥し、続いて凝集させることによって調製され得る。
【0040】
混合物では、好ましくは、一次粒子は、溶媒の重量に対して5から20wt%の量で存在し、バインダーは、溶媒の重量に対して5から20wt%の量で存在する。一次粒子と溶媒の比率を制御することによって、二次粒子のくされ(internal porosity)が制御され得る。そのプロセスの間に使用され得る溶媒の例は、水などの極性溶媒および非極性溶媒の全ての有機溶媒を含む。加えて、その段階で使用されるバインダーの例は、それらに限定されないが、スクロース、ラクトースベースの糖類、PVDFまたはPEベースのポリマー、および極性溶媒に溶解できるコークスを含む。
【0041】
二次粒子の乾燥および調製は、スプレー乾燥、流動床乾燥、振動、乾燥などを含む当該技術分野で既知の様々な方法によって同時に実施され得る。特に、回転スプレー乾燥が好ましいが、それは、それが球形の二次粒子の調製、故にタップ密度の改善を可能にするからである。
【0042】
乾燥は、不活性ガス(Ar、N2など)雰囲気下、120から200℃で実施され得る。
【0043】
また、本発明によるオリビン型リン酸鉄リチウムは、好ましくは共沈または固相方法によって調製される。
【0044】
別の実施形態では、本発明によるオリビン型リン酸鉄リチウムは、以下の段階を含む方法によって調製され得る:
(a’’)開始材料としての前駆体を用いて、共沈または固相方法によってリン酸鉄リチウムを合成する段階;
(b’’)合成されたリン酸鉄リチウムを、硫黄含有化合物を含む分散槽に添加し、続いて撹拌する段階;
(c’’)段階(b’’)で得られた混合物を乾燥させ、続いてベーキングする段階;
(d’’)段階(c’’)で得られたリン酸鉄リチウムをカーボンパウダーと混合させ、続いてミリングするか、または焼成されたリン酸鉄リチウムおよびカーボン前駆体を溶媒と混合し、続いて乾燥およびベーキングする段階。
【0045】
段階(a’’)での共沈または固相方法は、当該技術分野において既知であり、その詳細な説明は故に省略される。
【0046】
段階(b’’)に使用される硫黄含有化合物は、上述のように、硫化物、亜硫酸塩、硫酸塩などであり得、本発明で示唆された硫黄量の範囲内で使用され得る。
【0047】
本発明は、カソード活物質として、化学的方法によってカーボンでコーティングされたリン酸鉄リチウムを含む、カソード混合物を提供する。カソード混合物は場合によっては、カソード活物質に加えて、導電性材料、バインダー、フィラーなどを含むことができる。
【0048】
導電性材料は、カソード活物質を含む混合物の全重量をベースとして、通常1から30重量%の量で添加される。任意の導電性材料が、それが電池において不都合な化学的変化をもたらすことなく適切な導電性を有する限り、特に制限なく使用され得る。導電性材料の例は、グラファイト;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックおよびサーマルブラックなどのカーボンブラック;カーボンファイバーおよび金属ファイバーなどの導電性ファイバー;フッ化炭素パウダー、アルミニウムパウダーおよびニッケルパウダーなどの金属パウダー;酸化亜鉛およびチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカ;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;およびポリフェニレン誘導体;を含む導電性材料を含む。
【0049】
バインダーは、電極活物質の導電性材料および電流コレクタへの結合を高める成分である。バインダーは通常、カソード活物質を含む混合物の全重量をベースとして、1から30重量%の量で添加される。バインダーの例は、ポリ{えんか}ビニリデン、ポリ{えんか}ビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、再生{さいせい}セルロース、ポリビニル・ピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、スルホン酸化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムおよび様々なコポリマーを含む。
【0050】
フィラーは、場合によっては電極の膨張を抑制するために使用される成分である。任意のフィラーが、それが製造された電池において不利な化学的変化をもたらさず、繊維性材料である限り、特に制限なく使用され得る。フィラーの例は、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのオレフィンポリマー;並びにガラスファイバーおよびカーボンファイバーなどの繊維性材料を含む。
【0051】
一方、カソード活物質は、オリビン型リン酸鉄リチウムのみ、および必要であれば、オリビン型リン酸鉄リチウムとリチウム含有遷移金属酸化物との結合物から成り得る。
【0052】
リチウム遷移金属複合酸化物の例は、それらに限定されないが、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)およびリチウムニッケル酸化物(LiNiO2)などの層状化合物、または1つ以上の遷移金属で置換された化合物;式Li1+yMn2−yO4(0≦y≦0.33)の化合物、LiMnO3、LiMn2O3およびLiMnO2などのリチウムマンガン酸化物{さんかぶつ};リチウム銅酸化物(Li2CuO2);LiV3O8、LiFe3O4、V2O5およびCu2V2O7などのバナジウム酸化物;式LiNi1−yMyO2(M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGa、および0.01≦y≦0.3)のNiサイトタイプのリチウム化(lithiated)ニッケル酸化物;式LiMn2−yMyO2(M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTa、および0.01≦y≦0.1)、または式Li2Mn3MO8(M=Fe、Co、Ni、CuまたはZn)のリチウムマンガン複合酸化物;Liの一部がアルカリ土類金属イオンで置換されているLiMn2O4;ジスルフィド化合物;およびFe2(MoO4)3を含む。
【0053】
本発明は、カソード混合物がコレクタに適用されるカソードを提供する。
【0054】
二次電池のためのカソードは、カソード混合物をNMPなどの溶媒と混合することによって得られるスラリーをカソード電流コレクタに適用し、続いて乾燥およびプレスローリングすることによって調製され得る。
【0055】
カソード電流コレクタは通常、3から500μmの厚さを有するように作られる。それが製造された電池において不利な化学的変化をもたらすことなく適切な導電率を有する限り、カソード電流コレクタに関し特に制限はない。カソード電流コレクタの例は、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結カーボン、およびカーボン、ニッケル、チタンまたは銀で表面処理されたアルミニウムまたはステンレス鋼を含む。必要であれば、これらの電流コレクタはまた、カソード活物質への接着強度を高めるために、その表面上に微細な凸凹を形成するように処理され得る。加えて、電流コレクタは、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質構造、発泡体および不織布織物を含む様々な形態で使用され得る。
【0056】
本発明は、カソード、アノード、セパレータ、およびリチウム塩含有非水電解質を含むリチウム二次電池を提供する。
【0057】
例えば、アノードは、アノード活物質を含むアノード混合物をアノード電流コレクタに適用し、続いて乾燥することによって調製される。アノード混合物は、必要であれば、前述の構成要素、つまり、導電性材料、バインダーおよびフィラーを含み得る。
【0058】
アノード電流コレクタは通常、3から500μmの厚さを有するように作られる。それが製造された電池において不利な化学的変化をもたらすことなく適切な伝導率を有する限り、アノード電流コレクタに関し特に制限はない。アノード電流コレクタの例は、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結カーボン、およびカーボン、ニッケル、チタンまたは銀で表面処理された銅またはステンレス鋼、並びにアルミニウム−カドミウム合金を含む。カソード電流コレクタと同様に、必要であれば、これらの電流コレクタはまた、アノード活物質への接着強度を高めるために、その表面上に微細な凸凹を形成するように処理され得る。加えて、電流コレクタは、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質構造、発泡体および不織布織物を含む様々な形態で使用され得る。
【0059】
アノード活物質の例は、天然グラファイト、人工グラファイト、膨張グラファイト、カーボンファイバー、ハードカーボン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ペリレン、活性カーボンなどのカーボンおよびグラファイト材料;Al、Si、Sn、Ag、Bi、Mg、Zn、In、Ge、Pb、Pd、PtおよびTi、並びにこれらの元素を含む化合物などの、リチウムと合金可能な金属;カーボンおよびグラファイト材料と、金属およびその化合物との複合材料;並びにリチウム含有窒化物を含む。これらの中で、カーボンベースの活物質、シリコンベースの活物質、スズベースの活物質、またはシリコン−カーボンベースの活物質がより好ましい。その材料は、単独で、またはその2つ以上の組み合わせで使用され得る。
【0060】
セパレータは、カソードとアノードとの間に挟まれる。セパレータとして、高いイオン透過性および機械的強度を有する絶縁薄膜が使用される。セパレータは典型的に、0.01から10μmの孔径および5から300μmの厚さを有する。セパレータとして、ポリプロピレンなどのオレフィンポリマーおよび/またはガラスファイバーまたはポリエチレンで作られ、耐薬品性および疎水性を有するシートまたは不織布織物が使用される。ポリマーなどの固体電解質が電解質として採用されるとき、固体電解質はまた、セパレータおよび電解質の両方としての役割を果たし得る。
【0061】
リチウム塩含有非水電解質は、非水電解質およびリチウム塩から成る。非水電解質として、非水電解質溶液、固体電解質および無機固体電解質が利用され得る。
【0062】
本発明で使用され得る非水電解質溶液の例は、N−メチル−2−ピロリジノン(pyrollidinone)、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン(Franc)、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン(dioxolane)、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸{さくさん}メチル、{ゆうき}リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチルおよびプロピオン酸エチルなどの非プロトン有機溶媒を含む。
【0063】
本発明で利用される有機固体電解質の例は、ポリエチレン誘導体、ポリエチレン酸化物誘導体、ポリプロピレン酸化物誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアギテーションリシン(poly agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリビニリデンフッ化物、およびイオン解離基(group)を含むポリマーを含む。
【0064】
無機固体電解質の例は、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N−LiI−LiOH、LiSiO4、LiSiO4−LiI−LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOHおよびLi3PO4−Li2S−SiS2などのリチウムの窒化物、ハロゲン化物および硫酸{りゅうさん}塩を含む。
【0065】
リチウム塩は、上述の非水電解質に容易に溶ける材料であり、その例は、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、クロロボランリチウム、低脂肪族カルボン酸リチウム、リチウムテトラフェニルホウ酸塩およびイミドを含む。
【0066】
追加的に、充電/放電特性および難燃性を改善するために、例えば、ピリジン、トリエチルホスフェート(triethylphosphite)、トリエタノールアミン(triethanolamine)、環状{かんじょう}エーテル、エチレンジアミン、n−グリム、ヘキサリン酸トリアミド(hexaphosphoric triamide)、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N−置換オキサゾリジノン、N,N−置換イミダゾリドン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2−メトキシエタノール、アルミニウムトリクロリドなどが、非水電解質に添加され得る。必要であれば、不燃性を与えるために、非水電解質はさらに、カーボンテトラクロリドおよびエチレン三フッ化物などのハロゲン含有溶媒を含み得る。さらに、高温保管特性を改善するために、非水電解質はさらに、二酸化炭素ガスなどを含むことができ、さらにフルオロ−エチレンカーボネート(FEC)、プロペンサルトン(PRS)、フルオロ−エチレンカーボネート(FEC)などを含むことができる。
【0067】
本発明によるリチウム二次電池は、電池モジュールの単一電池として使用され得、それらは、高温安定性、長いサイクル特性および高率特性を必要とする中型および大型デバイスの電源である。
【0068】
好ましくは、中型および大型デバイスの例は、電池駆動モーターを動力源{どうりょくげん}とした動力工具;電気自動車(EVs)、ハイブリッド電気自動車(HEVs)およびプラグインハイブリッド電気自動車(PHEVs)を含む電気車両;電気バイク(E−bikes)、電気スクーター(E−scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカートなど;を含む。
【0069】
上記および他の目的、特徴および本発明の他の利点は、添付の図面と併用される以下の詳細な説明からより明確に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】試験例1で物理結合によってカーボンでコーティングされた比較例1のリン酸鉄リチウム粒子のSEM画像(A)、および試験例1で化学結合によってカーボンでコーティングされたン酸鉄リチウム粒子のSEM画像(B)である。
図2】試験例2における実施例1のリン酸鉄リチウムのXPS分析結果を示すグラフである。
図3】試験例3において、比較例1のリン酸鉄リチウムを溶媒で撹拌した後の結果を示す画像である。
図4】試験例3において、実施例1のリン酸鉄リチウムを溶媒で撹拌した後の結果を示す画像である。
図5】試験例5における、実施例4の電池および比較例4の電池に関する0.1Cおよび1Cの放電プロファイルを示すグラフである。
図6】試験例5における、実施例4の電池および比較例4の電池に関する1回目および50回目のサイクルでの放電プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0071】
ここで、本発明は以下の実施例と関連してより詳細に説明される。これらの実施例は、本発明を例示する目的のみに提示され、本発明の範囲および精神を制限すると解釈されるべきではない。
【0072】
<実施例1>
硫酸鉄、リン酸および糖類の水溶液を含む第1流体ストリームと、アンモニアとリチウム水酸化物水溶液との混合物を含む第2流体ストリームとが、5ml/minの速度および270barの圧力で、加圧下で汲み上げられ、460℃の超純水を含む第4流体ストリームは、第1反応器から供給される第3流体ストリームに、100ml/minの速度、同一の圧力で、加圧下で汲み上げられ、続いて第2反応器で混合された。
【0073】
第1流体ストリームにおいて、混合水溶液は、22重量部の硫酸鉄および9重量部のリン酸(84wt%)から成り、硫酸鉄の重量をベースとして10重量%の糖類が含まれる。第2流体ストリームは、1.4重量%のアンモニアおよび6.5重量%の含水リチウム水酸化物から成る。
【0074】
第2反応器から得られた混合物は、略400℃の第3反応器に10秒間並べられ、冷却され、濃縮され、130℃でスプレー乾燥され、前駆体を調製した。
【0075】
洗浄プロセスが、硫黄がこうして調製された前駆体に残存するように簡単に実施され、窒素雰囲気下、700℃で11時間焼成され、カーボンが硫黄(S)を介して化学結合によってコーティングされたリン酸鉄リチウムを調製した。
【0076】
<実施例2>
硫酸鉄およびリン酸が、HFePO4を得ることを可能にする同等の比率で蒸留水に溶解され、HFePO4は、共沈方法によって沈殿物を得るプロセスにおいて硫黄が残存する条件下で得られた水溶液の塩基性(pH)を増加しながら合成された。こうして合成されたHFePO4は、炭酸{たんさん}リチウムおよび糖類と混合され、続いてスプレー乾燥され、前駆体粒子を調製し、前駆体粒子は窒素雰囲気下、700℃で11時間焼成され、硫黄(S)を介した化学結合によってカーボンがコーティングされたリン酸鉄リチウムを調製した。
【0077】
<比較例1>
リン酸鉄リチウム(H.Q社によって製造されたP2モデル)が得られた。製品の取扱説明書に見られるように、2.2重量%のカーボンがリン酸鉄リチウムの表面にコーティングされている。
【0078】
<比較例2>
前駆体が調整された後に糖類が添加されなかったことを除き、実施例1と同様の方法でリン酸鉄リチウムが調整された。
【0079】
<試験例1>
比較例1のリン酸鉄リチウム粒子および実施例1のリン酸鉄リチウムが、顕微鏡によって測定された。結果が図1に示される。
【0080】
物理結合によって粒子表面にカーボンがコーティングされた比較例1のオリビン型リン酸鉄リチウム(A)では、カーボンの一群が粒子間に存在し、カーボンが均一にコーティングされていないことを見ることができる。カーボンの一群が存在するケースは、導電率に貢献できない大量のカーボンが存在し、故にそのカーボン量に対応する容量および電池の密度の低下を引き起こすことを意味する。
【0081】
一方、化学結合によって粒子表面にカーボンがコーティングされた実施例1のオリビン型リン酸鉄リチウム(B)では、カーボンが薄膜の形態で表面上に均一にコーティングされ、カーボンの一群などは存在しないことを見ることができる。
【0082】
<試験例2>
カーボンと硫黄との間の結合状態を確認するため、実施例1のリン酸鉄リチウムがXPS分析にさらされた。結果が図2に示される。図2に見られるように、XPS分析の結果、カーボンは硫黄に共有結合していた。硫黄がイオン結合の形態で存在する場合、硫黄は充電/放電の間または高温で電解質溶液に溶解し、故に容量および安定性の低下などの電池の重大{じゅうだい}な問題を引き起こす。
【0083】
<試験例3>
比較例1および2、並びに実施例1および2のリン酸鉄リチウムのカーボン量および導電率が測定された。結果が以下の表1に示される。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に見られるように、カーボンがコーティングされていない比較例2のリン酸鉄リチウムは、顕著に低い導電率を示した。比較例1のリン酸鉄リチウムと比較して少量のカーボンを含むにもかかわらず、本発明による実施例1および2のリン酸鉄リチウムが高い導電率を発揮することを見ることができる。
【0086】
<試験例3>
比較例1および実施例1のリン酸鉄リチウムが、500mLビーカーに添加され、200mLの水がそれに添加され、その混合物が5分間活発に撹拌され、10分間放置された。そして、変化が測定された。測定結果に関連する画像が、図3および4に示される。
【0087】
図3に見られるように、比較例1のリン酸鉄リチウムにおいて、リン酸鉄リチウムはカーボンから完全に分離され、灰色のLiFePO4が沈殿した。一方、本発明による実施例1のリン酸鉄リチウムでは、リン酸鉄リチウムはカーボンから分離しないが、それは、カーボンが強い化学結合によってリン酸鉄リチウムの表面上にコーティングされているからである。
【0088】
<実施例3>
カソード活物質として実施例1で調製された95重量%のリン酸鉄リチウム、導電性材料として2.5重量%のスーパーP(Super−P)、およびバインダーとして2.5重量%のPVdFがNMPに添加され、カソード混合物スラリーを調製した。スラリーは、アルミニウムホイルの一表面にコーティングされ、続いて乾燥および加圧され、カソードを製造した。
【0089】
セパレータとしてのセルガード(商標)がカソードおよびアノードとしてのLi金属ホイル間に挿入された電極アセンブリが製造され、1MのLiPF6を含むリチウム非水電解質溶液が環状{かんじょう}および直鎖カーボネートの混合溶媒に添加され、電池を製造した。
【0090】
<実施例4>
実施例2で調製されたリン酸鉄リチウムがカソード活物質として使用されたことを除き、実施例3と同様の方法で電池が製造された。
【0091】
<比較例3>
比較例1のリン酸鉄リチウムがカソード活物質として使用されたことを除き、実施例3と同様の方法で電池が製造された。
【0092】
<比較例4>
比較例2のリン酸鉄リチウムがカソード活物質として使用されたことを除き、実施例3と同様の方法で電池が製造された。
【0093】
<試験例4>
実施例3および4、並びに比較例3および4の電池容量が測定された。結果が以下の表2に示される。
【0094】
【表2】
【0095】
表2に見られるように、実施例3および4の電池は、比較例3の電池と比較して少量のカーボンを含むにもかかわらず、このようなカーボンは化学結合によって堅く結合される。この理由より、電池は優れた電気化学的特性を示す。
【0096】
<試験例5>
実施例4の電池および比較例4の電池に関して、0.1Cおよび1C放電条件下での変化が測定された。結果が図5に示される。放電状態は、1回目および50回目のサイクルで測定された。結果が図6に示される。
【0097】
図5および6に見られるように、実施例4の電池はカーボンの化学結合によるIRドロップを抑制し、故に放電プロファイルが増加させる。特に、実施例4の電池は、比較例4の電池と比較して、50回目のサイクルで抵抗の僅かな増加を示した。この理由は、明確には分からないが、高い結合力を介するカーボンの存在により導電性が増加し、および/または電解質溶液とのネガティブな反応性が抑制され、均一なコーティングにより抵抗が低下するからであると考えられる。
【0098】
従って、本発明による化合物は、電力特性が重要であり、抵抗の低下がサイクル後においても小さい電池の製造を可能にする。
【0099】
本発明の好ましい実施形態が例示の目的で開示されたが、添付の特許請求の範囲に開示された本発明の範囲および精神を逸脱することなく様々な修正、追加および置換が可能であることは、当業者には理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0100】
前述から明らかなように、本発明によるオリビン型リン酸鉄リチウムは、化学結合によってカーボンがリン酸鉄リチウム上にコーティングされた構造を有し、故に有利には、活物質の表面上の均一な薄膜コーティングを可能にし、電極の製造プロセスにおいて容易に分離されず、優れた導電性および密度を示す。
図3
図4
図1
図2
図5
図6