(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ニッケル微粒子]
本発明の実施の形態に係るニッケル微粒子は、その表面に水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)の被膜を有している。水酸化ニッケルの被膜を有することによって、接合材として被接合部材に塗布した場合の塗布膜に圧力をかけても潰れないほど硬く、かつ塗布膜自体が粘着性を有するものとなるため、焼成後の接合層のシェア強度を高くすることができる。また、水酸化物の被膜により、ニッケル微粒子の表面活性が抑制され、焼成工程における炭素元素の系外放出の際に生じる低温燃焼又は急激なガス化を抑制することができる。
【0019】
水酸化ニッケルの被膜は、ニッケル微粒子の表面に部分的に存在する被膜でもよいし、該粒子の全表面に亘る被膜であってもよい。また、水酸化ニッケルの被膜は、ニッケル微粒子の表面に存在する吸着水を含んでいてもよい。
【0020】
また、水酸化ニッケルの被膜は、アルコール系有機溶媒に浸漬して成長させたものが好ましい。アルコール系有機溶媒に浸漬して水酸化ニッケル被膜を成長させたニッケル微粒子は、接合層を形成した場合に高いシェア強度を発現する傾向にある。
【0021】
本実施の形態のニッケル微粒子は、水酸化ニッケルの含有率が3〜35重量%の範囲内であり、好ましくは5〜33重量%の範囲内、より好ましくは9〜15重量%の範囲内である。水酸化ニッケルの含有率が3重量%より少ないと、接合層のシェア強度を向上させる効果が得られない。一方、水酸化ニッケルの含有率が35重量%より多い場合も、接合層のシェア強度が低下する傾向になる。
【0022】
本実施の形態のニッケル微粒子は、炭素元素の含有率が0.3〜2.5重量%の範囲内、好ましくは0.5〜2.0重量%の範囲内である。炭素元素は、ニッケル微粒子の表面に存在する有機化合物に由来するものであり、ニッケル微粒子の分散性向上に寄与する。従って、炭素元素の含有量が0.3重量%未満では、十分な分散性が得られない場合があり、2.5重量%を超える場合は、焼成後に炭化して残炭となり、接合層の導電性を低下させる可能性がある。
【0023】
本実施の形態のニッケル微粒子は、酸素元素の含有率が0.9〜9.0重量%の範囲内、好ましくは2.0〜6.5重量%の範囲内である。酸素元素は、主に水酸化ニッケルの被膜に由来するものであり、水酸化ニッケルの被膜が還元されて存在しなくなると、ニッケル微粒子の焼結が開始される。酸素元素の含有率が9.0重量%を超えると、ニッケル微粒子の凝集が生じやすくなり、ペースト状態を保持できず、粉状になる傾向となる。
【0024】
本実施の形態のニッケル微粒子は、酸素元素に対する炭素元素の含有割合(炭素元素の含有量/酸素元素の含有量;C/O比)が0.1を超え0.35以下の範囲内にあり、好ましくは0.1を超え0.25以下の範囲内、より好ましくは0.1を超え0.2以下の範囲内である。C/O比は、ニッケル微粒子の分散性と還元性の両立を考慮したものであり、C/O比が0.1以下であると、ニッケル微粒子が凝集しやすくなり、また、ニッケル微粒子の焼結時の収縮変化が大きくなるほか、導通性も低下することがある。また、C/O比が0.35を超える場合は、有機化合物が焼成時に炭化して残炭となる傾向が強くなる。C/O比を上記範囲内にすることによって、特に、水素ガスを含有する還元性ガス雰囲気で焼結させる場合に有利である。
【0025】
本実施の形態のニッケル微粒子は、焼成工程における耐酸化性と焼成後の腐食防止を図る観点から、塩素元素の含有量が900重量ppm未満であることが好ましい。特に、ニッケル微粒子の原料として、塩化ニッケルを使用する場合は、ニッケル微粒子の生成後、塩素除去処理を行って、塩素量を低減することが好ましい。なお、塩素除去処理については後述する。
【0026】
また、本実施の形態のニッケル微粒子は、ニッケルを主成分とする微粒子であり、ニッケル元素の含有量は、全金属元素の100重量部に対し、好ましくは50重量部以上、より好ましくは70重量部以上、更に好ましくは75重量部以上とすることがよい。ニッケル微粒子は、例えば、ニッケル、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム等の貴金属などの金属元素を、単独で又は2種以上含有していてもよい。
【0027】
水酸化ニッケルの被膜の厚みは、ニッケル微粒子の凝集を効果的に抑制する観点から、例えば1〜8nmの範囲内であることが好ましい。なお、本明細書において、水酸化ニッケル被膜の厚みとは、無作為に200個抽出したニッケル微粒子の表面を、加速電圧300KVの透過型電子顕微鏡で観察し、コントラストの濃い格子面間隔からもニッケル微粒子と判別できる末端から、コントラストの薄い部分の末端までの長さを測定し、10個のニッケル微粒子における測定結果の平均を被膜の厚みとする。
【0028】
ニッケル微粒子の一次粒子の平均粒子径は、例えば50〜150nmの範囲内であることが好ましい。水酸化ニッケルの被膜の厚みは、ニッケル粒子の平均粒子径の大小によらず殆ど大差ないが、ニッケル微粒子の平均粒子径が小さくなるにつれ、水酸化ニッケルの含有量が高くなる傾向があることから、下限値を50nm以上とすることで、焼結時の収縮変化を抑制するとともに、ニッケル微粒子の酸化層の総量を抑えて焼結性を向上させることができる。また、ニッケル微粒子の一次粒子の平均粒子径が150nmを上回ると、ニッケル微粒子の低温焼結性が低下する場合がある。なお、本明細書において、ニッケル微粒子の一次粒子の平均粒子径は、実施例で用いた値を含めて、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission−Scanning Electron Microscope:FE−SEM)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として算出した値である。
【0029】
ニッケル微粒子は、後述するエステル化合物による分散効果を十分に発揮させるために、粒子径分布が狭いこと、例えば、CV値が0.2以下であることが好ましい。
【0030】
また、エステル化合物としては、下記の一般式(1)又は(2)で表される官能基のいずれかを2つ含有するエステル化合物を挙げることができる。これらの官能基が、ニッケル微粒子の分散性向上に寄与する。ニッケル微粒子は、エステル化合物との複合体を形成していてもよい。ここで複合体とは、エステル化合物中の官能基と、ニッケル微粒子の表面又は該表面に存在する官能基(例えば水酸基)との相互作用により、ニッケル微粒子の周囲にエステル化合物が吸着又は付着した状態、あるいは化学的に結合した状態を意味する。このような複合体の形態をとることによって、エステル化合物が、ニッケル微粒子に近接した状態をとるため、エステル化合物による分散効果が効果的に奏されるものと推測される。
【0031】
【化1】
[式(1)又は(2)中、基Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基又はベンジル基を示す。]
【0032】
ここで、炭素数が1〜6、好ましくは2〜6のアルキル基としては、例えば直鎖又は枝分かれしたアルキル基がよい。また、置換されていてもよいフェニル基としては、例えばフェニル基、トリル基又はアニソイル基のいずれかが好ましい。エステル化合物の分子量は、好ましくは100〜500の範囲内、より好ましくは150〜450の範囲内がよい。
【0033】
エステル化合物としては、例えば、酒石酸から誘導されるエステル化合物、マロン酸から誘導されるエステル化合物、クエン酸から誘導されるエステル化合物、又はトリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物を挙げることができる。このようなエステル化合物の具体例としては、例えばジベンゾイル−D−酒石酸、ジベンゾイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−L−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、ジ−o−アニソイル−L−酒石酸、ジ−o−アニソイル−D−酒石酸、ジ−m−アニソイル−L−酒石酸、ジ−m−アニソイル−D−酒石酸、ジアセチル−L−酒石酸、ジアセチル−D−酒石酸、ジピバロイル−L−酒石酸、ジピバロイル−D−酒石酸、L−酒石酸ジイソプロピル、D−酒石酸ジイソプロピル、L−酒石酸ジ−n−ブチル、D−酒石酸ジ−n−ブチル、L−酒石酸ジメチル、D−酒石酸ジメチル、L−酒石酸ジエチル、D−酒石酸ジエチル、L−酒石酸ジベンジル、D−酒石酸ジベンジル、2,3−O−イソプロピリデン−L−酒石酸ジメチル、2,3−O−イソプロピリデン−D−酒石酸ジメチルなどの酒石酸から誘導されるエステル化合物、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジベンジル、マロン酸ベンジルメチル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジヘキシル、イソブチルマロン酸ジエチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチルなどのマロン酸から誘導されるエステル化合物、クエン酸トリメチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリブチル、O−アセチルクエン酸トリメチル、O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリプロピル、O−アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸から誘導されるエステル化合物、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートなどのトリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物が挙げられる。
【0034】
酒石酸から誘導されるエステル化合物は、下記一般式(I)で表される酒石酸誘導体が好ましい。
【0035】
【化2】
[式(I)中、基R
11、基R
12は、それぞれ独立して、置換されていてもよいフェニル基を意味する。]
【0036】
一般式(I)中、基R
11及び基R
12で表される置換されていてもよいフェニル基としては、例えば、フェニル基、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基、アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基等を挙げることができる。ここで、アルキル基としては、例えば炭素数1〜4の低級アルキル基が優れた分散効果を有するので好ましく、メチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数1〜4の低級アルコキシ基が優れた分散効果を有するので好ましく、メトキシ基がより好ましい。従って、置換されていてもよいフェニル基の具体例としては、フェニル基、o−、m−もしくはp−トリル基、又は、o−、m−もしくはp−アニソイル基が好ましく、これらの中でもo−、m−もしくはp−トリル基が最も好ましい。
【0037】
上記一般式(I)で表される酒石酸誘導体の好ましい具体例としては、ジベンゾイル−D−酒石酸、ジベンゾイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−L−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、ジ−o−アニソイル−L−酒石酸、ジ−o−アニソイル−D−酒石酸、ジ−m−アニソイル−L−酒石酸、ジ−m−アニソイル−D−酒石酸などを挙げることができる。これらの中でも、優れた分散効果を有するジ−p−トルオイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−D−酒石酸が最も好ましい。
【0038】
一般式(I)で表される酒石酸誘導体が、ニッケル微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、ニッケル微粒子と一般式(I)で表される酒石酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(I)で表される酒石酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された2つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成にそれぞれ関与する2つの嵩高い又は疎水性の芳香環を有している。これらのエステル構造−芳香環が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造−芳香環によってニッケル微粒子との間に相互作用が生じ、ニッケル微粒子の周囲に前記酒石酸誘導体が近接した状態で存在することによって、ニッケル微粒子の表面の電気的性質を変化させ、あるいは立体的な障害によって、ニッケル微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0039】
また、酒石酸から誘導されるエステル化合物は、下記一般式(II)で表される酒石酸誘導体が好ましい。
【0040】
【化3】
[式(II)中、基R
21、基R
22は、それぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を示す。]
【0041】
一般式(II)中、基R
21及び基R
22で表される炭素数3〜6のアルキル基としては、例えばプロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基などを挙げることができる。これらの中でも、炭素数3〜6の分岐したアルキル基が優れた分散効果を有するので好ましく、その中でもイソプロピル基がより好ましい。
【0042】
上記一般式(II)で表される酒石酸誘導体の好ましい具体例としては、L−酒石酸ジイソプロピル、D−酒石酸ジイソプロピル、L−酒石酸ジ−n−ブチル、D−酒石酸ジ−n−ブチルなどを挙げることができる。これらの中でも、優れた分散効果を有するL−酒石酸ジイソプロピル、D−酒石酸ジイソプロピルが最も好ましい。
【0043】
一般式(II)で表される酒石酸誘導体が、ニッケル微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、ニッケル微粒子と一般式(II)で表される酒石酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(II)で表される酒石酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された2つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成にそれぞれ関与する2つのアルキル基(好ましくは分岐したアルキル基)を有している。これらのエステル構造−アルキル基が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造−アルキル基によってニッケル微粒子との間に相互作用が生じ、ニッケル微粒子の周囲に前記酒石酸誘導体が近接した状態で存在することによって、ニッケル微粒子の表面の電気的性質を変化させ、ニッケル微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0044】
また、マロン酸から誘導されるエステル化合物は、下記一般式(III)で表されるマロン酸誘導体が好ましい。
【0045】
【化4】
[式(III)中、基X
1は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示し、基R
31、基R
32は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示す。]
【0046】
一般式(III)中、基X
1は水素原子であることが好ましく、基R
31及び基R
32は、それぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基又はベンジル基であることが好ましい。ここで、炭素数3〜6のアルキル基としては、例えばプロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基などを挙げることができる。これらの中でも、炭素数3〜6の分岐したアルキル基が優れた分散効果を有するので好ましく、その中でも分岐したプロピル基又は分岐したブチル基がより好ましく、イソプロピル基、t−ブチル基が最も好ましい。
【0047】
上記一般式(III)で表されるマロン酸誘導体の好ましい具体例としては、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジベンジル、マロン酸ベンジルメチル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジヘキシルなどを挙げることができる。これらの中でも、優れた分散効果を有するマロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジベンジルが最も好ましい。
【0048】
一般式(III)で表されるマロン酸誘導体が、ニッケル微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、ニッケル微粒子と一般式(III)で表されるマロン酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(III)で表されるマロン酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された2つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成に関与する嵩高い又は疎水性の芳香環又はアルキル基(好ましくは分岐したアルキル基)を有している。このような構造が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造と、嵩高い又は疎水性の芳香環又はアルキル基(好ましくは分岐したアルキル基)によってニッケル微粒子との間に相互作用が生じ、ニッケル微粒子の周囲に前記マロン酸誘導体が近接した状態で存在することによって、ニッケル微粒子の表面の電気的性質を変化させ、あるいは立体的な障害によって、ニッケル微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0049】
また、クエン酸から誘導されるエステル化合物は、下記一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体が好ましい。
【0050】
【化5】
[式(IV)中、基X
2は水素原子又はアセチル基を示し、基R
41,基R
42,基R
43はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を示す。]
【0051】
一般式(IV)中、基R
41,基R
42,基R
43で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基を挙げることができる。また、クエン酸誘導体は、一般式(IV)中、基X
2が水素原子であり、基R
41,基R
42,基R
43が炭素数3〜6のアルキル基であるものが優れた分散効果を有するので好ましく、これらの中でも、炭素数3〜6の直鎖のアルキル基がより好ましく、その中でもブチル基が最も好ましい。
【0052】
上記一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体の好ましい具体例としては、クエン酸トリメチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリブチル、O−アセチルクエン酸トリメチル、O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリプロピル、O−アセチルクエン酸トリブチルなどを挙げることができる。これらの中でも、クエン酸トリブチル、O−アセチルクエン酸トリブチルが優れた分散効果を有するので最も好ましい。
【0053】
一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体が、ニッケル微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、ニッケル微粒子と一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された3つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成にそれぞれ関与する3つのアルキル基を有している。これらのエステル構造−アルキル基が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、3つのエステル構造−アルキル基によってニッケル微粒子との間に相互作用が生じ、ニッケル微粒子の周囲に前記クエン酸誘導体が近接した状態で存在することによって、ニッケル微粒子の表面の電気的性質を変化させ、ニッケル微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0054】
また、トリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物としては、下記一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体が好ましい。
【0055】
【化6】
[式(V)中、基R
51、基R
52は、それぞれ独立して、炭素数4〜6のアシル基を示す。]
【0056】
一般式(V)中、前記基R
51及び基R
52が、いずれも、分岐した炭素数4〜6のアシル基であることが優れた分散効果を有するので好ましく、基R
51及び基R
52が、ともにイソブタノイル基であることがより好ましい。
【0057】
上記一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体としては、優れた分散効果を有する2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートが最も好ましい。
【0058】
一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体が、ニッケル微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、ニッケル微粒子と一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体は、分子内に2つのエステル構造と、該エステル構造の形成に関与する嵩高い又は疎水性のアシル基(好ましくは分岐したアシル基)を有している。このような構造が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造と、嵩高い又は疎水性のアシル基(好ましくは分岐したアシル基)によって、ニッケル微粒子との間に相互作用が生じ、ニッケル微粒子の周囲に前記トリメチルペンタンジオール誘導体が近接した状態で存在することによって、ニッケル微粒子の表面の電気的性質を変化させ、あるいは立体的な障害によって、ニッケル微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0059】
上記一般式(I)〜(V)で表されるエステル化合物の中でも、特に上記一般式(I)で表されるエステル化合物が好ましい。
【0060】
上記のエステル化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物からなる分散剤と組み合わせて使用することもできる。
【0061】
本実施の形態では、上記エステル化合物を用いることによって、粒子径が50nm〜150nmの範囲内の微細なニッケル微粒子についても、凝集を抑制し、単一粒子が分散した粒子径分布のシャープなニッケル微粒子の集合体を得ることができる。また、エステル化合物は、強い凝集抑制作用を有することから、少量でも優れた分散効果が期待できる。さらに、余剰のエステル化合物を除去することで、焼成工程などで発生する揮発分を低減できる効果も得られる。
【0062】
以上述べたように、本実施の形態に係るニッケル微粒子は、水酸化ニッケルの被膜を有することによって、接合材として被接合部材に塗布した場合の塗布膜に圧力をかけても潰れない程度に硬く、かつ塗布膜自体が粘着性を有するものとなるため、焼成後の接合層のシェア強度を高くすることができる。また、水酸化物の被膜により、ニッケル微粒子の表面活性が抑制され、焼成工程における炭素元素の系外放出の際に生じる低温燃焼又は急激なガス化を抑制することができる。このように、凝集粒子が少なく、シャープな粒子径分布を持つニッケル微粒子は、例えば、接合材、配線材料、導電性材料、コンデンサ用電極、磁気記録媒体等の工業材料として好適に用いることができる。
【0063】
[ニッケル微粒子の製造方法]
次に、水酸化ニッケルの被膜を有するニッケル微粒子の製造方法について説明する。本実施の形態のニッケル微粒子の製造方法は、以下の第1〜第3の工程を含むことができる。
第1の工程:
ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物から、湿式還元法によりニッケルイオンを還元して水酸化ニッケル被膜を有する原料ニッケル微粒子を析出させる工程。
第2の工程:
原料ニッケル微粒子と有機溶媒とを含有するスラリーに、エステル化合物からなる低分子分散剤を添加し、原料ニッケル微粒子の表面に低分子分散剤を被覆させて分散性ニッケル微粒子を得る工程。
第3の工程:
分散性ニッケル微粒子をアルコール系溶媒に浸漬して、分散性ニッケル微粒子の表面で水酸化ニッケルの被膜を成長させることにより、水酸化ニッケルの含有率が3〜35重量%の範囲内であるとともに、炭素元素の含有率が0.3〜2.5重量%の範囲内、酸素元素の含有率が0.9〜9.0重量%の範囲内であり、かつ、酸素元素に対する炭素元素の含有割合(炭素元素の含有量/酸素元素の含有量)が0.1を超え0.35以下の範囲内にあるニッケル微粒子を得る工程。
【0064】
<第1の工程>
第1の工程では、ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物から、湿式還元法によりニッケルイオンを還元して水酸化ニッケル被膜を有する原料ニッケル微粒子を析出させる。本工程では、まず、ニッケル塩及び有機アミンを含む混合物を調製する。
【0065】
(ニッケル塩)
ニッケル塩としては、例えばカルボン酸ニッケル(カルボン酸のニッケル塩)、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の無機塩や、Ni(acac)
2(β-ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩を用いることができる。これらの中でも、還元過程での解離温度(分解温度)が比較的低く、塩素元素の残留の心配がないカルボン酸ニッケルを用いることが好ましい。
【0066】
(有機アミン)
有機アミンとしては、1級アミンを好ましく用いることができる。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも単独では使用できないが、1級アミンを使用する上で、生成するニッケル微粒子の形状に支障を与えない範囲でこれらを併用することは差し支えない。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0067】
以下、有機アミンとして1級アミン、ニッケル塩としてカルボン酸ニッケルを用いる場合を例に挙げて第1の工程を説明する。カルボン酸ニッケルにおけるカルボン酸の種類は特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル基が1つのモノカルボン酸であってもよく、また、カルボキシル基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。このようなカルボン酸ニッケルとして、非環式モノカルボン酸ニッケルを好適に用いることができ、非環式モノカルボン酸ニッケルのなかでも、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、安息香酸ニッケル等を用いることがより好ましい。これらの非環式モノカルボン酸ニッケルを用いることによって、得られるニッケル微粒子は、その形状のばらつきが抑制され、均一な形状として形成されやすくなる。カルボン酸ニッケルは、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。
【0068】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するニッケル微粒子の粒子径を制御することができ、特に平均粒子径が50nm〜150nmの範囲内にあるニッケル微粒子を製造する場合において有利である。ニッケル微粒子の粒子径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるニッケル微粒子の粒子径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ニッケル微粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液で反応を効率的に進行できる。
【0069】
1級アミンは、ニッケル微粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、還元反応後に、生成したニッケル微粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケル微粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンにおいては沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましく、また、炭素数が9以上のものが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミン[C
9H
21N(ノニルアミン)]の沸点は201℃である。1級アミンの量は、ニッケル1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケル微粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下とすることが好ましい。
【0070】
(有機溶媒)
第1の工程では、均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒をカルボン酸ニッケル及び1級アミンと同時に混合してもよいが、カルボン酸ニッケル及び1級アミンを先ず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的にニッケル原子に配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0071】
(錯形成)
2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により錯形成が変化する可能性がある。例えばカルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を熱処理して反応液を得る工程において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、カルボン酸イオン(R
1COO、R
2COO)が二座配位または単座配位のいずれかで配位する可能性があり、さらにアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造をとる可能性がある。目的とする反応温度(還元温度)に於いて均一溶液とするには、配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンが過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくともニッケルイオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0072】
この錯形成反応は室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して反応を行う。この加熱は、カルボン酸ニッケルとして、例えばギ酸ニッケル2水和物や酢酸ニッケル4水和物のようなカルボン酸ニッケルの水和物を用いた場合に特に有利である。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、錯体配位子としての水分子を解離させることができ、さらにその水を系外に出すことができるので効率よくアミンとの錯体を形成させることができる。例えば、ギ酸ニッケル2水和物は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個のギ酸イオンが存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱することでこの錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。また、カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応における熱処理は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上記の上限温度以下とし、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下とすることがよい。
【0073】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を完結させるという観点から、10分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間熱処理することはエネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0074】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応は、カルボン酸ニッケルと1級アミンとを有機溶媒中で混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えばギ酸ニッケル2水和物ではその極大吸収波長は710nmであり、酢酸ニッケル4水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する錯化反応液のシフト(極大吸収波長が600nmにシフト)を観測することによって確認することができる。
【0075】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成が行われた後、得られる反応液を、次に説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、ニッケル錯体のニッケルイオンが還元され、ニッケルイオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価のニッケルを含有するニッケル微粒子が生成する。一般にカルボン酸ニッケルは水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、カルボン酸ニッケルを含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれがニッケルイオンに配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0076】
次に、カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱し、錯化反応液中のニッケルイオンを還元して水酸化ニッケル被膜を有する原料ニッケル微粒子スラリーを得る。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られる原料ニッケル微粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。なお、加熱温度は、例えばカルボン酸ニッケルの種類や原料ニッケル微粒子ニッケル微粒子の核発生を促進させる添加剤の使用などによって、適宜調整することができる。
【0077】
本工程では、マイクロ波が反応液内に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。
【0078】
均一な粒子径を有する原料ニッケル微粒子を生成させるには、錯化反応液生成工程(ニッケル錯体の生成が行われる工程)でニッケル錯体を均一にかつ十分に生成させることと、原料ニッケル微粒子ニッケル微粒子スラリー生成工程(マイクロ波照射によって加熱還元する工程)で、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元により生成するニッケル(0価)の核の同時発生・成長を行う必要がある。すなわち、錯化反応液生成工程の加熱温度を上記の特定の範囲内で調整し、原料ニッケル微粒子ニッケル微粒子スラリー生成工程におけるマイクロ波による加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒子径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し異種の金属種が発生することで、原料ニッケル微粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、原料ニッケル微粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、原料ニッケル微粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0079】
マイクロ波照射によって加熱して得られる原料ニッケル微粒子スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、原料ニッケル微粒子が得られる。原料ニッケル微粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることが好ましい。
【0080】
(表面修飾剤)
本実施の形態では、原料ニッケル微粒子の製造において、原料ニッケル微粒子の粒径を制御するための表面修飾剤として、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等の高分子樹脂、ミリスチン酸、オレイン酸等の長鎖カルボン酸またはカルボン酸塩等を添加することができる。ただし、原料ニッケル微粒子の表面修飾量が多いと、第3の工程を経て得られるニッケル微粒子を高温で焼成すると充填密度の減少を招き、層間剥離やクラックを生じる可能性がある。このため、原料ニッケル微粒子ニッケル微粒子の段階では、洗浄した後の表面修飾量は可能な限り少ない方が好ましい。表面修飾剤は、カルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物の段階で添加してもよく、錯化反応液に添加してもよい。
【0081】
<第2の工程>
第2の工程では、原料ニッケル微粒子と有機溶媒とを含有するスラリーに、エステル化合物からなる低分子分散剤を添加し、原料ニッケル微粒子の表面に前記低分子分散剤を被覆させて分散性ニッケル微粒子を得る。原料ニッケル微粒子に低分子分散剤を添加する場合、例えば、a)原料ニッケル微粒子ニッケル微粒子に対して所定量の低分子分散剤を添加し、混練分散させる方法、b)原料ニッケル微粒子ニッケル微粒子を液相法で合成した後で液相中に所定量の低分子分散剤を添加する方法、c)高圧ホモジナイザーなどの分散機を用いて原料ニッケル微粒子を機械的に解砕し、その解砕の前又は後に、所定量の低分子分散剤を添加し分散させる方法など、様々な方法が挙げられる。なお、本実施の形態において低分子分散剤の添加方法は、特に制限はなく、そのまま原料ニッケル微粒子に添加してもよいし、任意の溶媒に溶解した状態で原料ニッケル微粒子に添加してもよい。
【0082】
低分子分散剤は、強い凝集抑制作用を有することから、少量でも優れた分散効果が期待できる。従って、低分子分散剤の使用量は、原料ニッケル微粒子100重量部に対して0.1重量部以上40重量部以下の範囲内とすることが好ましく、1重量部以上30重量部以下の範囲内がより好ましい。原料ニッケル微粒子100重量部に対する低分子分散剤の使用量が0.1重量部未満では分散効果が十分に得られない傾向があり、40重量部を超えると、低分子分散剤の残渣による凝集体が発生する傾向がある。また、上記の上限を超えて低分子分散剤を過剰に使用すると、最終的に得られるニッケル微粒子中に残留した低分子分散剤によって製品に影響を与える場合がある。従って、原料ニッケル微粒子に、低分子分散剤を適用した後、余剰のエステル化合物を洗浄して除去することが好ましい。洗浄は、例えばイソプロパノールなどのアルコール系溶媒を用いて行うことができる。
【0083】
<第3の工程>
第3の工程では、分散性ニッケル微粒子をアルコール系溶媒に浸漬して、分散性ニッケル微粒子の表面で水酸化ニッケルの被膜を成長させる。
【0084】
第3の工程において、出発原料は、第2の工程で得られた分散性ニッケル微粒子である。この分散性ニッケル微粒子は、水酸化ニッケル及び酸化ニッケルの被膜を有していることが好ましく、酸化ニッケルに対する水酸化ニッケルの含有割合{Ni(OH)
2/NiO比}が、好ましくは1〜1.7の範囲内、より好ましくは1〜1.2の範囲内がよい。また、水酸化ニッケルの含有率が2.0〜12.0重量%の範囲内であるとともに、炭素元素の含有率が0.3〜2.5重量%の範囲内、酸素元素の含有率が1.0〜4.6重量%の範囲内であり、かつ、酸素元素に対する炭素元素の含有割合(C/O比)が0.18以上0.58以下の範囲内にあることが好ましい。例えば、分散性ニッケル微粒子の一次粒子の平均粒子径が150nmである場合、水酸化ニッケルの含有率は、2〜3.4%の範囲内であることが好ましく、酸素元素の含有率は、1.0〜1.6重量%の範囲内であることが好ましく、炭素元素の含有率は、0.3〜0.6重量%の範囲内であることが好ましく、C/O比は、0.18以上0.58以下の範囲内にあることが好ましい。この分散性ニッケル微粒子は、水酸化ニッケルの被膜を有しているが、第3の工程ではその水酸化ニッケルの被膜をアルコール系溶媒中でさらに成長させる。分散性ニッケル微粒子の水酸化ニッケル被膜がアルコール系溶媒中で成長する理由は明らかではないが、後記実施例に示したように、水酸化ニッケル被膜を成長させたニッケル微粒子を用いることによって、シェア強度が高い接合層を形成できることが確認されている。
【0085】
このように、第2の工程で得られた分散性ニッケル微粒子は、潜在的に成長可能な水酸化ニッケル被膜を有している。すなわち、第2の工程で得られた分散性ニッケル微粒子は、密閉条件の1−オクタノール中で室温(25℃)にて200日間静置した場合の水酸化ニッケルの含有量の増加率が67〜300重量%の範囲内であり、かつ、C/O比の減少率が37〜67%の範囲内にあるニッケル微粒子であることが好ましい。例えば、分散性ニッケル微粒子の一次粒子の平均粒子径が150nmである場合、密閉条件の1−オクタノール中で室温(25℃)にて200日間静置した後の分散性ニッケル微粒子における水酸化ニッケルの含有率は、6〜8重量%の範囲内にあることが好ましく、酸素元素の含有率は2.5〜3.2重量%の範囲内にあることが好ましく、炭素元素の含有率は、0.3〜0.6重量%の範囲内であることが好ましく、C/O比は、0.01以上0.23以下の範囲内にあることが好ましい。従って、第2の工程で得られた分散性ニッケル微粒子における水酸化ニッケルの含有率が2〜3.4重量%の範囲内である場合、水酸化ニッケルの含有量の増加率は100〜300%の範囲内となり、C/O比の減少率は37〜67%の範囲内にあるニッケル微粒子であることが好ましい。また、例えば、分散性ニッケル微粒子の一次粒子の平均粒子径が50nmである場合、密閉条件の1−オクタノール中で室温(25℃)にて200日間静置した後の分散性ニッケル微粒子における水酸化ニッケルの含有率は、20〜27重量%の範囲内にあることが好ましく、酸素元素の含有率は7.2〜9.8重量%の範囲内にあることが好ましく、炭素元素の含有率は、1.5〜2.5重量%の範囲内であることが好ましく、C/O比は、0.15以上0.34以下の範囲内にあることが好ましい。従って、第2の工程で得られた分散性ニッケル微粒子における水酸化ニッケルの含有率が8〜12重量%の範囲内である場合、水酸化ニッケルの含有量の増加率は67〜170%の範囲内となる。
【0086】
第3の工程で用いるアルコール系溶媒としては、沸点が150℃以上のものが好ましく、その具体例としては、例えば1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノールなどの炭素数7以上の脂肪族アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、メチルトリグリコール等の多価アルコール類、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール等のテルピネオール類等を挙げることができる。ニッケル微粒子表面への過剰な水分子の付着を防ぐため、アルコール系溶媒は、例えば水分含有率が0.01〜0.1重量%の範囲内にあるものを使用することが好ましい。
【0087】
アルコール系溶媒に分散性ニッケル微粒子を浸漬する際の条件として、例えば、温度は20〜30℃の範囲内、浸漬期間は150〜250日の範囲内とすることが好ましい。
【0088】
第3の工程によって、水酸化ニッケルの含有率が3〜35重量%の範囲内であるとともに、炭素元素の含有率が0.3〜2.5重量%の範囲内、酸素元素の含有率が0.9〜9.0重量%の範囲内であり、かつ、酸素元素に対する炭素元素の含有割合(C/O比)が0.1を超え0.35以下の範囲内にあるニッケル微粒子が得られる。このように、本実施の形態のニッケル微粒子の製造方法では、分散性ニッケル微粒子をアルコール系溶媒中に保持しておくことによって、ニッケル微粒子の表面で水酸化ニッケルの被膜を成長させることができる。
【0089】
なお、第2の工程で得られた分散性ニッケル微粒子を水中で撹拌することによっても、短時間で水酸化ニッケルの含有率が3〜35重量%の範囲内であるニッケル微粒子を得ることができるが、このように急激な処理によって得られたニッケル微粒子は、接合材として用いた場合に、優れたシェア強度を有する接合層を形成することができない。
【0090】
[解砕処理]
さらに、本実施の形態のニッケル微粒子の製造方法は、第2の工程の前に、湿式解砕機を用いて、水酸化ニッケル被膜を有する原料ニッケル微粒子を有機溶媒中で予め解砕処理する第4の工程を備えていてもよい。第1の工程で得られた水酸化ニッケル被膜を有する原料ニッケル微粒子を解砕処理することによって、接合材として用いた場合に、優れたシェア強度を有する接合層を形成することができる。このような目的から、解砕処理は、例えば高圧ホモジナイザー、湿式ジェットミル等の湿式解砕機を用い、炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数3〜18のアルコール系溶媒等の有機溶媒中で70MPa〜245MPaの圧力で解砕処理を行うことが好ましい。
【0091】
[塩素除去処理]
原料のニッケル塩として塩化ニッケルを使用した場合、塩素除去工程として、第1の工程で得られた原料ニッケル微粒子に対して酸処理を行うことが好ましい。酸処理によって、ニッケル前駆体である塩化ニッケル由来の塩素元素が除去され、塩素元素の含有量を好ましくは900質量ppm未満、より好ましくは100質量ppm未満に低下させることができる。また、酸処理には、原料ニッケル微粒子の表面に存在する水酸化ニッケルなどの水酸化物や、表面に付着した微粒子などを除去する作用もあるため、酸素含有量を調節することができる。原料ニッケル微粒子の酸処理に使用可能な酸としては、弱酸が好ましく、例えば、炭酸などの無機酸や、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、アスコルビン酸、クエン酸などの有機酸を用いることができる。酸処理は、例えば原料ニッケル微粒子を酸溶液で洗浄する方法、ニッケル微粒子のスラリー中にガス化した酸(例えば炭酸ガス)を吹き込む方法などにより行うことができる。原料ニッケル微粒子を酸溶液で洗浄する方法では、原料ニッケル微粒子を例えばpH3.5〜6.5の範囲内、好ましくはpH4.5〜6.0の酸溶液で洗浄することが好ましい。酸溶液がpH3.5未満であると、原料ニッケル微粒子の表面の酸化や溶解が進み、焼結しやすくなるばかりでなく、粒子を球状にすることが困難となる。酸溶液がpH6.5を超える場合は、酸処理の効果が十分に得られない。
【0092】
以上のようにして、表面に水酸化ニッケルの被膜を有するニッケル微粒子を調製することができる。なお、ニッケル合金を材料とする場合も、上記方法に準じて行うことができる。
【0093】
[ニッケル微粒子の使用方法]
本実施の形態のニッケル微粒子の好ましい使用方法として、例えばニッケル微粒子を被接合部材の間に介在させて、還元性ガスを含有する還元性ガス雰囲気下で300〜500℃の範囲内の温度に加熱することにより、ニッケル微粒子を焼結させて被接合部材同士を接合する。つまり、本実施の形態のニッケル微粒子は、接合材に使用できる。接合材とする場合、ニッケル微粒子と溶媒とを含むペーストの状態とすることが好ましい。
【0094】
本実施の形態のニッケル微粒子は、水酸化ニッケルの被膜によって均一な分散状態を維持できるため、ペースト状態にして塗布した場合の平坦性が高く、接合層のシェア強度を十分に高くすることができる。また、C/O比が上記範囲内に調整されていることによって、還元されやすくなるとともに、焼成後に残炭が残りにくく、接合層の導電性を高めることができる。
【0095】
また、本実施の形態のニッケル微粒子を接合材とする場合は、溶媒と混合してペースト状の形態とすることが好ましい。この場合、ペーストの形態を維持するため、ニッケル微粒子の含有量を接合材全量の70〜90重量%の範囲内とすることが好ましい。ニッケル微粒子の含有量が70重量%未満では、例えば塗布などを複数回繰り返す必要が生じてムラの原因となり、また十分な接合強度が得られない場合があり、90重量%を超えると、流動性が低下して接合材としての使用性が低下する場合がある。また、接合材用途においては、ペースト状の形態を維持するため、ニッケル微粒子と溶媒との重量比(ニッケル微粒子/溶媒)は、1〜19の範囲内であることが好ましい。
【0096】
本実施の形態のニッケル微粒子を用いた接合は、例えば、ニッケル微粒子を含むペースト状の接合材を一対の被接合部品の片方又は両方の被接合面に塗布する工程(塗布工程)、被接合面どうしを貼り合せ、例えば温度300℃以上500℃以下の範囲内、好ましくは350℃以上450℃以下に加熱することにより、接合材を焼結させる工程(焼成工程)、並びに、焼結した接合材を冷却することにより固化し、金属接合層を形成する工程(固化工程)、を含むことができる。
【0097】
接合材を塗布する塗布工程では、例えばスプレー塗布、インクジェット塗布、印刷等の方法を採用できる。接合材は、目的に応じて、例えばパターン状、アイランド状、メッシュ状、格子状、ストライプ状など任意の形状に塗布することができる。塗布工程では、接合後の固化した接合部分(金属接合層)の厚みが120nm以上となるように、接合材を塗布することが好ましい。このような厚みで塗布をすることで、接合部分の欠陥を少なくできるため、電気抵抗の上昇や接合強度の低下を防止できる。
【0098】
焼成工程では、ニッケル微粒子が焼結し、均一で強固な接着力を持つ金属接合層を形成することができる。また、本実施の形態のニッケル微粒子では、C/O比が0.1を超え0.35以下の範囲内であることから、水酸化ニッケル被膜や低分子分散剤が還元されるため、金属接合層中に酸素が入りこむことが抑制され、金属接合層の導電性が確保される。接合のための加熱温度は、十分な接合強度を得るために、300℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましい。また、加熱温度が500℃超では、周辺回路もしくは電極への損傷が懸念されるので、加熱温度の上限は500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましい。
【0099】
ニッケル微粒子による接合層の形成は、例えばH
2などの還元性ガスが存在する雰囲気で行うことが好ましい。また、減圧することで、ボイド発生を抑制する効果が得られ、例えば大気圧の95%以下の圧力でその効果が確認される。また、接合面を貼り合わせる際には、必要に応じて加圧することができる。
【0100】
ニッケル微粒子が焼結して形成される接合部分(金属接合層)の厚みは、例えば120nm以上が好ましい。接合部分の厚みがこれよりも薄い場合は、接合部分の欠陥が多くなり、電気抵抗の上昇や、強度の低下を引き起こす原因となる。なお、接合部分(金属接合層)は、熱応力緩和を必要とする用途に適用する場合には、ボイドを有してもよい。
【0101】
本実施の形態のニッケル微粒子は、例えば、Si、SiCの半導体材料ほか、金属材料などの接合にも利用できる。特に蝋材や溶接による接合で、熱影響部における母材の劣化がみられる場合に本実施の形態の接合材を使用して低温で接合することが好適である。例えば、本実施の形態のニッケル微粒子は、450℃以上又は800℃以上での加熱により、回復や再結晶等により強度低下する焼き入れ鋼、ステンレス鋼、加工硬化により強化された金属材料、熱酸化や熱ひずみにより劣化する無機材料や金属材料の接合に適している。被接合体は管、板、継手、ロッド、ワイヤ、ボルトなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0102】
[電子部品]
本実施の形態の電子部品は、ニッケル微粒子を含む接合材を使用して、接合部分(金属接合層)を形成したものである。ここで、電子部品としては、主に半導体装置、エネルギー変換モジュール部品などを例示できる。電子部品が半導体装置である場合、例えば、半導体素子の裏面と基板との間、半導体電極と基板電極との間、半導体電極と半導体電極との間、パワーデバイス若しくはパワーモジュールと放熱部材との間などの接合に適用できる。
【0103】
電子部品を接合させる際は、接合強度を高めるため、予め被接合面の片方又は両方に、例えば、Au,Cu,Pd,Ni,Ag,Cr,Tiあるいはそれらの合金などの材質の接触金属層を設けておくことが好ましい。また、被接合面の材質が、SiCもしくはSiあるいはそれらの表面の酸化膜である場合は、例えばTi,TiW,TiN,Cr,Ni、Pd,Vあるいはそれらの合金などの材質の接触金属層を設けておくことが好ましい。接触金属層の膜厚は、それぞれ、例えば50nm以上2μm以下の範囲内であることが好ましい。接触金属層の厚みが50nm未満では、欠陥が生じやすく、2μm超では蒸着工程が長くなり、生産効率が低下することがある。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例によって制約されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0105】
[平均粒子径の測定]
平均粒子径の測定は、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission−Scanning Electron Microscope:FE−SEM)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0106】
[分散性の評価]
分散性の評価は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名;LA−950V2)を用いて行った。ニッケル微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液を所定の濃度に希釈して、前記粒子径分布測定装置内にて超音波で5分間分散させ、体積分布の測定を行い、粒度分布の結果にて分散性の比較評価を行った。
【0107】
[赤外線吸収スペクトル分析]
赤外分光分析装置(日本分光株式会社製、商品名;FT/IR−6100型)を用いて、拡散反射法による赤外スペクトル分析を行った。
【0108】
[水酸化ニッケルの定量]
水酸化ニッケル{Ni(OH)
2}の定量は、昇温脱離ガス分析装置(Thermal Desorption Spectroscopy:TDS、電子科学株式会社製、商品名;WA1000S/W型)を用いて、試料を10℃/分の速度で昇温加熱して試料の表面から脱離する水を質量分析法で検出し、検出強度と分子数の相関式より、絶対数として算出した。
【0109】
[酸素含有量の定量]
酸素含有量の定量は、不活性ガス融解−赤外線吸収測定装置(LECO社製、商品名;TC600)を用いて、試料を約1800℃の炭素炉で加熱し、還元反応で発生する二酸化炭素の赤外線吸収量から求めた。
【0110】
[酸化ニッケルの定量]
水酸化ニッケルは不活性雰囲気中での加熱を行うと、以下の反応式(1)に示す反応により酸化ニッケルへと変化する。
Ni(OH)
2 → NiO + H
2O ・・・(1)
したがって、酸化ニッケル(NiO)の定量は、前記「酸素含有量の定量」で得られた酸素量から、前記「水酸化ニッケルの定量」から算出した酸素量を引いた値より算出した。
【0111】
[ニッケル微粒子の表面に存在する有機物の定量]
ニッケル微粒子の表面に存在する有機物の定量は、示差熱熱重量同時測定装置(Thermogravimetry−Differential Thermal Analysis:TG−DTA、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、商品名;TG/DTA6200)を用いて、200ml/分の窒素ガス流量、10℃/分の速度で昇温加熱する測定条件により、試料の重量減少量を測定し、この重量と前記「水酸化ニッケルの定量」で定量した水の脱離量との差から有機物の量を算出した。
【0112】
[焼結性の評価]
各実施例で作製したペーストの3mgをガラス基板に挟み、クリップで固定し焼結性試験用サンプル(約10mmΦ)とした。このサンプルを所定の条件で加熱し、冷却後のガラス基板に付着した焼成後のサンプルの周辺部を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察した。焼結性の評価は、全てのニッケル微粒子において、各々の粒子界面が全て確認される状態を「不可」、各々のニッケル微粒子において、粒子界面が部分的に確認できる状態を「可」、ニッケル粒子の少なくとも1つは、粒子界面が全く確認されない状態を「良」、全てのニッケル微粒子において、粒子界面が全く確認されない状態を「最良」とした。
【0113】
[焼成後のサンプルに含有する酸素含有量測定]
各実施例で作製したペーストをガラス基板上に膜厚が200μm以下になるように塗布し、所定の条件で焼成を行い、焼成後のサンプルの100mgにおける酸素量を前記[酸素含有量の定量]と同様に定量した。
【0114】
[焼成後のサンプルに含有する炭素量残分の定量]
各実施例で作製したペーストをガラス基板上に膜厚が200μm以下になるように塗布し、所定の条件で焼成を行い、焼成後のサンプルの100mgにおける炭素量残分を燃焼−赤外線吸収装置(LECO社製、商品名;CS−444)により測定した。
【0115】
[焼成方法]
焼結性試験用サンプルの焼成は、下記のようにして行った。
I)3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下での焼成は、小型イナートガスオーブン(光洋サーモシステム社製、商品名;KLO−30NH)を使用し、昇温速度5℃/分で、常温から所定温度まで昇温した後、この所定温度で1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置した。
II)100%窒素雰囲気下での焼成は、小型イナートガスオーブン(光洋サーモシステム社製、商品名;KLO−30NH)を使用し、昇温速度5℃/分で、常温から所定温度まで昇温した後、この所定温度で1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置した。
【0116】
[せん断強度(シェア強度)の評価]
ステンレス製マスク(マスク幅;1.0mm×長さ;1.0mm×厚さ;0.05〜0.1mm)を用いて、試料を金めっき銅基板(幅;10mm×長さ;10mm×厚さ;1.0mm)上に塗布して塗布膜を形成した後、その塗布膜の上に、シリコンダイ(幅;1.0mm×長さ;1.0mm×厚さ;0.75mm)を搭載した。その後、室温で30分放置して、クリップ(加圧強度;2.5MPa〜5MPa)で挟み焼成を行った。得られた接合サンプル(接合層の厚さ;十数μm〜30μm程度)を接合強度試験機(デイジ・ジャパン社製、商品名;ボンドテスター4000)により、せん断強度を測定した。ダイ側面からボンドテスターツールを、基板からの高さ50μm、ツール速度100μm/秒で押圧し、接合部がせん断破壊したときの荷重をせん断強度(シェア強度)とした。なお、金めっき銅基板は、Cu基板(厚さ;1.0mm)の表面に、Ni/Auをそれぞれ4μm/40〜50nmの厚みでめっきしたものであり、シリコンダイは、Si基板(厚さ;0.75mm)の接合面に、Auを15〜20nmの厚みで蒸着したものである。
【0117】
(合成例1)
642重量部のオレイルアミンに100.1重量部の酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下、150℃で20分加熱することによって酢酸ニッケルを溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に、492重量部のオレイルアミンを加え、マイクロ波を用いて250℃で5分加熱することによって、ニッケル微粒子スラリーを得た。
【0118】
ニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル微粒子(平均粒子径;92nm、CV値;0.19)を得た。このニッケル微粒子は、元素分析の結果、C;0.9、N<0.1、O;1.4(単位は重量%)であった。
【0119】
(合成例2)
642重量部のオレイルアミンに100.1重量部の酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下、150℃で20分加熱することによって酢酸ニッケルを溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に、492重量部の1−オクタノールを加え、マイクロ波を用いて210℃で5分加熱することによって、ニッケル微粒子スラリーを得た。
【0120】
ニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル微粒子(平均粒子径;51nm、CV値;0.18)を得た。このニッケル微粒子の元素分析の結果、C;1.8、N<0.1、O;3.4(単位は重量%)であった。
【0121】
(合成例3)
642重量部のオレイルアミンに100.1重量部の酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下、150℃で20分加熱することによって酢酸ニッケルを溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液を、マイクロ波を用いて250℃で5分加熱することによって、ニッケル微粒子スラリーを得た。
【0122】
ニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル微粒子(平均粒子径;150nm、CV値;0.19)を得た。このニッケル微粒子の元素分析の結果、C;0.35、N<0.1、O;0.95(単位は重量%)であった。
【0123】
(作製例1)
合成例1で得られたニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力200MPaの条件にてニッケル微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液1a(固形分濃度79.7wt%)を調製した。このスラリー溶液1aの粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.30、D90;0.55、D99;1.01(単位はμm)であった。
【0124】
(作製例2)
合成例2で得られたニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力200MPaの条件にてニッケル微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液2a(固形分濃度73.2wt%)を調製した。
【0125】
(作製例3)
合成例3で得られたニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力200MPaの条件にてニッケル微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液3a(固形分濃度82.6wt%)を調製した。
【0126】
(参考例1)
<ペーストの調製>
作製例1でスラリー溶液1aの252重量部を分取し、これに35.9重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃・100hPaで濃縮を行い、241重量部のペースト1a(固形分濃度86.3wt%)を調製した。
【0127】
<焼成工程>
ペースト1aを用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素雰囲気下、加熱温度350℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0128】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を
図1A及び
図1Bに示す。なお、
図1Aは倍率250,000倍、
図1Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図1A及び
図1Bより、ニッケル微粒子同士の粒子界面が完全に確認されないニッケル微粒子が存在しており、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認される。また焼結体の電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.4kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0129】
(参考例2)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液1aの100重量部を分取し、これに2重量部のジ−p−トルオイル−L−酒石酸を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液2a(固形分濃度55.6wt%)を調製した。このスラリー溶液2aの粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.11、D90;0.22、D99;0.48(単位はμm)であった。
【0130】
スラリー溶液2aを80℃に維持される真空乾燥機で2時間乾燥してニッケル微粒子(平均粒子径;92nm、CV値;0.19)を得た。このニッケル微粒子におけるニッケル含有量は、97.0wt%であった。また、X線光電子分光(XPS)によって得られるチャートから、Ni、NiO、及びNi(OH)
2のピークに由来する面積比は、それぞれ27.3%、66.4%、6.3%であった。
【0131】
<ペーストの調製>
スラリー溶液2aの250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト2a(固形分濃度75.4wt%)を調製した。ペースト2aに含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが3.44重量部、酸化ニッケルが3.02重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.72重量部であった。また、ペースト2aの固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;0.8、N<0.1、O;2.1、Cl<0.01(単位は重量%)であった(C/O比=0.38)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0132】
<焼成工程>
ペースト2aを用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度350℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0133】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を
図2A及び
図2Bに示す。なお、
図2Aは倍率250,000倍、
図2Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図2A及び
図2Bより、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在しており、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、それぞれ0.9kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0134】
(実施例1)
<ペーストの調製>
参考例2で調製したペースト2aを分取し、密閉状態で室温環境下にて200日放置することでペースト1(固形分濃度80.1wt%)を調製した。ペースト1に含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが9.90重量部、酸化ニッケルが2.89重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.69重量部であった。また、ペースト1の固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;0.7、N<0.1、O;4.3、Cl<0.01(単位は重量%)であった(C/O比=0.16)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0135】
<焼成工程>
ペースト1を用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度350℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0136】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を
図3A及び
図3Bに示す。なお、
図3Aは倍率250,000倍、
図3Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図3A及び
図3Bより、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在しており、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。この焼成後のサンプルの酸素含有量は0.93重量%であった。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、1.9kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0137】
(実施例2)
加熱温度を400℃とした以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。焼成後のサンプルのFE−SEM写真を
図4A及び
図4Bに示す。なお、
図4Aは倍率250,000倍、
図4Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図4A及び
図4Bより、全てのニッケル微粒子において、粒子界面が全く確認されず、実施例1と比較すると、ニッケル微粒子の焼結がより良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。この焼成後のサンプルの酸素含有量及び炭素含有量は、それぞれ0.53重量%、0.30重量%であった。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、2.1kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0138】
(実施例3)
加熱温度を450℃とした以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。焼成後のサンプルのFE−SEM写真を
図5A及び
図5Bに示す。なお、
図5Aは倍率250,000倍、
図5Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図5A及び
図5Bより、全てのニッケル微粒子において、粒子界面が全く確認されず、実施例1及2と比較して、ニッケル微粒子の焼結が最も良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。この焼成後のサンプルの酸素含有量及び炭素含有量は、それぞれ0.10重量%、0.17重量%であった。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、2.6kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0139】
(参考例3)
<ペーストの調製>
参考例2で調製したペースト2aを分取し、密閉状態で室温環境下にて300日放置することでペースト3a(固形分濃度86.2wt%)を調製した。ペースト3aに含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが19.97重量部、酸化ニッケルが2.70重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.64重量部であった。また、ペースト3aの固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;0.7、N<0.1、O;7.7(単位は重量%)であった(C/O比=0.09)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0140】
<焼成工程>
ペースト3aを用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度350℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0141】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を
図6A及び
図6Bに示す。なお、
図6Aは倍率250,000倍、
図6Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図6A及び
図6Bより、ニッケル微粒子の焼結が進行しているものの、各々のニッケル微粒子において、粒子界面が部分的に確認できる。また焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法にて接合サンプルを作製したところ、ペーストに粘着性が無く、シリコンダイを搭載できなかった。結果を表2に示す。
【0142】
(参考例4)
<ペーストの調製>
参考例2で調製したスラリー溶液2aの90重量部を分取し、これに5重量部の1−オクタノール、及びフラックス成分として12.5重量部のロジン系樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名;KR−85)を混合し、エバポレータにて60℃・100hPaで濃縮を行い、69重量部のペースト4a(固形分濃度80.4wt%)を調製した。
【0143】
<焼成工程>
ペースト4aを用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、100%窒素雰囲気下、加熱温度400℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0144】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を
図7A及び
図7Bに示す。なお、
図7Aは倍率250,000倍、
図7Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図7A及び
図7Bより、ニッケル微粒子の焼結は殆ど進行していないことが確認される。また焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通は確認できなかった。この焼成後のサンプルの酸素含有量及び炭素含有量は、それぞれ0.29重量%、1.16重量%であった。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0145】
(参考例5)
<ペーストの調製>
参考例2で調製したペースト2aを分取し、ペースト全量に対して2wt%の水を添加し混練を施した。密閉状態で室温環境下にて4日放置することでペースト5aを得た。ペースト5aに含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが18.05重量部、酸化ニッケルが2.71重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.64重量部であった。また、ペースト5aの固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;0.7、N<0.1、O;7.4(単位は重量%)であった(C/O比=0.09)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0146】
<焼成工程>
ペースト5aを用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度450℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0147】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる断面観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.4kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0148】
(参考例6)
<スラリー溶液の調製>
作製例2で調製したスラリー溶液2aの100重量部を分取し、これに2重量部のジ−p−トルオイル−L−酒石酸を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液6a(固形分濃度52.4wt%)を調製した。
【0149】
<ペーストの調製>
スラリー溶液6aの194重量部を分取し、これに24.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、121重量部のペースト6a(固形分濃度80.1wt%)を調製した。ペースト6aに含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが6.67重量部、酸化ニッケルが6.62重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が1.42重量部であった。また、ペースト6aの固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;2.1、N<0.1、O;2.9、Cl<0.01(単位は重量%)であった(C/O比=0.72)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0150】
(実施例4)
<ペーストの調製>
参考例6で調製したペースト6aを分取し、密閉状態で室温環境下にて200日放置することでペースト2(固形分濃度84.8wt%)を調製した。ペースト2に含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが32.4重量部、酸化ニッケルが5.49重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が1.18重量部であった。また、ペースト2の固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;2.0、N<0.1、O;8.7、Cl<0.01(単位は重量%)であった(C/O比=0.23)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0151】
<焼成工程>
ペースト2を用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度400℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0152】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる断面観察によって、粒子界面が確認されず、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、1.8kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0153】
(参考例7)
<スラリー溶液の調製>
作製例3で調製したスラリー溶液3aの100重量部を分取し、これに2重量部のジ−p−トルオイル−L−酒石酸を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液7a(固形分濃度73.9wt%)を調製した。
【0154】
<ペーストの調製>
スラリー溶液7aの144重量部を分取し、これに22.0重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、125重量部のペースト7a(固形分濃度82.9wt%)を調製した。ペースト7aに含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが2.31重量部、酸化ニッケルが2.01重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.48重量部であった。また、ペースト7aの固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;0.5、N<0.1、O;0.9、Cl<0.01(単位は重量%)であった(C/O比=0.56)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0155】
(実施例5)
<ペーストの調製>
参考例7で調製したペースト7aを分取し、密閉状態で室温環境下にて200日放置することでペースト3(固形分濃度86.1wt%)を調製した。ペースト3に含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが9.89重量部、酸化ニッケルが1.92重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.46重量部であった。また、ペースト3の固形分をイソプロパノールで洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して得られたニッケル微粒子の元素分析の結果、C;0.5、N<0.1、O;2.3、Cl<0.01(単位は重量%)であった(C/O比=0.21)。赤外線吸収スペクトル分析では、3643cm
−1付近に金属ニッケルに化学的に結合するOH基に起因する強いピークを観測した。
【0156】
<焼成工程>
ペースト3を用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度400℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0157】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる断面観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在しており、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、1.5kgf/mm
2であった。結果を表2に示す。
【0158】
以上の各実施例及び参考例のまとめを表1及び表2に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。