特許第6042793号(P6042793)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6042793
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】導電膜の製造方法、プリント配線基板
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20161206BHJP
   H05K 3/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01B13/00 503D
   H05K3/10 C
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-248097(P2013-248097)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-132565(P2014-132565A)
(43)【公開日】2014年7月17日
【審査請求日】2015年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-267817(P2012-267817)
(32)【優先日】2012年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】太田 浩史
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−047021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H05K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の粒子を含む分散液を基材上に塗布して、前記粒子を含む前駆体膜を形成する工程と、
前記前駆体膜に対して、連続発振レーザ光を相対的に走査させつつ照射し、前記連続発振レーザ光の照射領域における金属酸化物を還元して金属を含有する導電膜を形成する工程とを備え、
前記走査の速度が1.0m/s以上、4.0m/s以下であり、
前記連続発振レーザ光のレーザパワーが6.0W以上、14.0W以下であり、
前記前駆体膜表面の一地点あたりの照射時間が1.0μs以上1000μs以下である、導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記照射時間が2.0μs以上である、請求項1に記載の導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記連続発振レーザ光の波長が2.0μm以上である、請求項1または2に記載の導電膜の製造方法。
【請求項4】
前記基材がポリイミドを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体膜の厚みが10μm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物の粒子に含まれる金属元素が、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、In、Ga、Sn、Ge、Sb、Pb、Zn、Bi、Fe、Ni、Co、Mn、Tl、Cr、V、Ru、Rh、Ir、Mo、W、TiおよびAlからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記連続発振レーザ光のレーザパワーXを横軸とし、前記連続発振レーザ光の走査速度Yを縦軸とする二次元座標において、レーザパワーXおよび走査速度Yが以下の式(1)、式(3)〜(5)で表される直線で囲まれた範囲に存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電膜の製造方法。
式(1) Y=1.5
式(3) Y=0.625X−2.25
式(4) Y=0.625X−4.75
式(5) Y=4.0
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の導電膜の製造方法より製造された導電膜を有するプリント配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜の製造方法に係り、特に、所定の条件で連続発振レーザ光を照射することにより導電膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材上に金属膜を形成する方法として、金属粒子や金属酸化物粒子の分散体を印刷法により基材に塗布し、光照射処理して焼結させることによって金属膜や回路基板における配線等の電気的導通部位を形成する技術が知られている。
上記方法は、従来の高熱・真空プロセス(スパッタ)やめっき処理による配線作製法に比べて、簡便・省エネ・省資源であることから次世代エレクトロニクス開発において大きな期待を集めている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、基板の表面上に酸化銅ナノ粒子を含有するフィルムを堆積させ、フィルムの少なくとも一部を露光して、露光部分を導電性にする方法が開示されている。
また、特許文献2(特に、実施例)においては、金属または複合金属からなるコロイド粒子を含有する微粒子層に所定の条件(線速、出力など)でレーザ照射を行う導電パターンの形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−528428号公報
【特許文献2】特開2004−143571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年、低コスト化の観点から、酸化銅粒子など金属酸化物粒子を含む組成物を用いて導電特性に優れる金属を含有する導電膜を形成する方法の開発が要求されている。
また、近年、電子機器の小型化、高機能化の要求に対応するため、プリント配線板などにおいては配線のより一層の微細化および高集積化が進んでいる。それに伴って、基材と導電膜との密着性のより一層の向上も要求されている。
【0006】
本発明者らは、特許文献1および2を参照して、酸化銅粒子に代表される金属酸化物粒子を含む層に対して、連続発振レーザ光を所定のパターン状に走査することにより導電膜の作製を行ったところ、特許文献2で具体的に開示される条件では、金属酸化物粒子の還元が十分に進行せず、得られる層の基材に対する密着性も劣ることが確認された。
【0007】
本発明は、上記実用上に鑑みて、金属酸化物から金属への還元が効率よく進行し、基材に対する密着性に優れた導電膜を製造することができる導電膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討した結果、連続発振レーザ光の走査条件・照射条件などを制御することにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0009】
(1) 金属酸化物の粒子を含む分散液を基材上に塗布して、粒子を含む前駆体膜を形成する工程と、
前駆体膜に対して、連続発振レーザ光を相対的に走査させつつ照射し、連続発振レーザ光の照射領域における金属酸化物を還元して金属を含有する導電膜を形成する工程とを備え、
走査の速度が1.0m/s以上であり、
連続発振レーザ光のレーザパワーが6.0W以上であり、
前駆体膜表面の一地点あたりの照射時間が1.0μs以上である、導電膜の製造方法。
【0010】
(2) 照射時間が2.0μs以上である、(1)に記載の導電膜の製造方法。
【0011】
(3) 連続発振レーザ光の波長が2.0μm以上である、(1)または(2)に記載の導電膜の製造方法。
【0012】
(4) 基材がポリイミドを含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の導電膜の製造方法。
【0013】
(5) 前駆体膜の厚みが10μm以上である、(1)〜(4)のいずれかに記載の導電膜の製造方法。
【0014】
(6) 金属酸化物の粒子に含まれる金属元素が、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、In、Ga、Sn、Ge、Sb、Pb、Zn、Bi、Fe、Ni、Co、Mn、Tl、Cr、V、Ru、Rh、Ir、Mo、W、TiおよびAlからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素である、(1)〜(5)のいずれかに記載の導電膜の製造方法。
【0015】
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の導電膜の製造方法より製造された導電膜を有するプリント配線基板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属酸化物から金属への還元が効率よく進行し、基材に対する密着性に優れた導電膜を製造することができる導電膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】照射工程の態様を示す概略図である。
図2】走査速度およびレーザパワーの好適範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の導電膜の製造方法の好適態様について詳述する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点について詳述する。
上述したように、本発明の特徴点は、連続発振レーザ光の照射条件(レーザパワーおよび照射条件)、並びに、連続発振レーザ光と被照射物との走査条件を制御する点が挙げられる。より具体的には、走査速度、照射時間およびレーザパワーを所定値以上に制御する。このように条件を制御することにより、所望の効果が得られる機構は以下のように説明される。
まず、金属酸化物の粒子を含む前駆体膜(被照射物)に対して、連続発振レーザ光を照射すると、金属酸化物から金属の還元反応が進行する。しかし、連続発振レーザ光を照射し過ぎると、生成した金属が再度金属酸化物へと戻ってしまう。これは、金属酸化物が連続発振レーザ光を吸収して金属への還元反応が一旦進行したとしても、冷却時の冷却速度が遅いと再び酸化銅へ逆戻りしてしまうためと推測される。そこで、走査速度および照射条件を制御することにより、酸化銅への逆戻りが進行しないように制御している。
さらに、所定照射量以上の連続発振レーザ光を前駆体膜に照射することにより、前駆体膜の一部が加熱溶融されて基材と界面付近で両者が混じり合うことにより、製造される導電膜と基材との間にアンカー構造が形成され、導電膜の密着性が向上する。
【0019】
本発明の導電膜の製造方法の好適態様は、前駆体膜を形成する工程(前駆体膜形成工程)と、前駆体膜に連続発振レーザ光を照射する工程(照射工程)との少なくとも2つを有する。
以下に、各工程で使用される材料・手順についてそれぞれ詳述する。
【0020】
[前駆体膜形成工程]
前駆体膜形成工程は、金属酸化物の粒子を含む分散液を基材上に塗布して、金属酸化物の粒子を含む前駆体膜を形成する工程である。本工程を実施することにより、後述する連続発振レーザ光が照射される前駆体膜が形成される。
以下では、まず、本工程で使用される材料について詳述し、その後、工程の手順について詳述する。
【0021】
(金属酸化物の粒子)
金属酸化物の粒子(以後、金属酸化物粒子とも称する)としては、金属元素を含む酸化物の粒子であれば、その種類は限定されない。なかでも、導電膜の形成性が優れる点で、金属酸化物の粒子が、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、In、Ga、Sn、Ge、Sb、Pb、Zn、Bi、Fe、Ni、Co、Mn、Tl、Cr、V、Ru、Rh、Ir、Mo、W、TiおよびAlからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含むことが好ましく、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、In、Ga、Sn、Ge、Sb、Pb、Zn、Bi、Fe、NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含むことがより好ましい。特に、還元されやすく、生成した金属が比較的安定であるので、酸化銅粒子がさらに好ましい。
なお、「酸化銅」とは、酸化されていない銅を実質的に含まない化合物であり、具体的には、X線回折による結晶解析において、酸化銅由来のピークが検出され、かつ金属由来のピークが検出されない化合物のことを指す。銅を実質的に含まないとは、限定的ではないが、銅の含有量が酸化銅粒子に対して1質量%以下であることをいう。
酸化銅としては、酸化銅(I)または酸化銅(II)が好ましく、安価に入手可能であること、低抵抗であることから酸化銅(II)であることがさらに好ましい。
【0022】
金属酸化物粒子の平均粒子径は特に制限されないが、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。下限も特に制限されないが、10nm以上が好ましい。
平均粒子径が10nm以上であれば、粒子表面の活性が高くなりすぎず、取扱い性に優れるため好ましい。また、200nm以下であれば、金属酸化物粒子を含有する溶液をインクジェット用インクとして用い、印刷法により配線等のパターン形成を行うことが容易となると共に、金属への還元が十分となり、得られる導電層の導電性が良好であるため好ましい。
なお、平均粒子径は、平均一次粒径のことを指す。平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察または走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、少なくとも50個以上の金属酸化物粒子の粒子径(直径)を測定し、それらを算術平均して求める。なお、観察図中、金属酸化物粒子の形状が真円状でない場合、長径を直径として測定する。
【0023】
(金属酸化物粒子を含む分散液)
分散液には、上記金属酸化物粒子が含まれる。また、必要に応じて、溶媒が含まれていてもよい。溶媒は、金属酸化物粒子の分散媒として機能する。
溶媒の種類は特に制限されないが、例えば、水や、アルコール類、エーテル類、エステル類などの有機溶媒などを使用することができる。なかでも、金属酸化物粒子の分散性がより優れる点から、水、1〜3価のヒドロキシル基を有する脂肪族アルコール、この脂肪族アルコール由来のアルキルエーテル、この脂肪族アルコール由来のアルキルエステル、またはこれらの混合物が好ましく用いられる。
なお、分散液には、必要に応じて、他の成分(例えば、バインダー樹脂、金属粒子など)が含まれていてもよい。
【0024】
(基材)
本工程で使用される基材としては、公知のものを用いることができる。基材に使用される材料としては、例えば、樹脂、紙、ガラス、シリコン系半導体、化合物半導体、金属酸化物、金属窒化物、木材、またはこれらの複合物が挙げられる。
より具体的には、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート)、ポリアセタール樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、セルロース誘導体等の樹脂基材;非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙(アート紙、コート紙)、特殊印刷用紙、コピー用紙(PPC用紙)、未晒包装紙(重袋用両更クラフト紙、両更クラフト紙)、晒包装紙(晒クラフト紙、純白ロール紙)、コートボール、チップボール、段ボール等の紙基材;ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス、石英ガラス等のガラス基材;アモルファスシリコン、ポリシリコン等のシリコン系半導体基材;CdS、CdTe、GaAs等の化合物半導体基材;銅板、鉄板、アルミ板等の金属基材;アルミナ、サファイア、ジルコニア、チタニア、酸化イットリウム、酸化インジウム、ITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、ネサ(酸化錫)、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、フッ素ドープ酸化錫、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、ガリウムドープ酸化亜鉛、窒化アルミニウム基材、炭化ケイ素等のその他無機基材;紙−フェノール樹脂、紙−エポキシ樹脂、紙−ポリエステル樹脂等の紙−樹脂複合物、ガラス布−エポキシ樹脂、ガラス布−ポリイミド系樹脂、ガラス布−フッ素樹脂等のガラス−樹脂複合物等の複合基材等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル樹脂基材、ポリエーテルイミド樹脂基材、紙基材、ガラス基材が好ましく使用される。
【0025】
なかでも、基材としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、セルロースエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、シリコーン、ポリビニルエチルエーテル、ポリサルファイド、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、およびポリアクリレートからなる群から選択される少なくとも一つを有する樹脂基材が好ましい。
このような樹脂基材を使用すると、基材がレーザ光(特に、波長2μm以上のレーザ光。例えば、炭酸ガスレーザ)を吸収することがほとんどなく、基材が高温となることがない。結果として、レーザ光を吸収して還元生成された金属の急冷が効率よく進行し、酸化銅への戻りを抑制することができる。
【0026】
(工程の手順)
上記分散液を基材上に付与する方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法などの塗布法が挙げられる。
塗布の形状は特に制限されず、基材全面を覆う面状であっても、パターン状(例えば、配線状、ドット状)であってもよい。
【0027】
本工程においては、必要に応じて、分散液を基材へ塗布した後に乾燥処理を行い、溶媒を除去してもよい。残存する溶媒を除去することにより、後述する照射工程において、溶媒の気化膨張に起因する微小なクラックや空隙の発生を抑制することができ、導電膜の導電性および導電膜と基材との密着性の点で好ましい。
乾燥処理の方法としては温風乾燥機などを用いることができ、温度としては、金属酸化物粒子の還元が生じないような温度が好ましく、40℃〜200℃で加熱処理を行なうことが好ましく、50℃以上150℃未満で加熱処理を行なうことがより好ましく、70℃〜120℃で加熱処理を行うことがさらに好ましい。
【0028】
(前駆体膜)
前駆体膜は、金属酸化物粒子を含み、後述する光照射により金属酸化物粒子が金属に還元され、導電膜になる。
前駆体膜には金属酸化物粒子が含まれ、特に、主成分として含まれることが好ましい。ここで主成分とは、前駆体膜全質量中、金属酸化物粒子の占める質量が80質量%以上であることを意図し、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。
前駆体膜には、金属酸化物粒子以外の成分(例えば、バインダー樹脂)が含まれていてもよい。
【0029】
前駆体膜の厚みは特に制限されず、形成される導電膜の用途に応じて適宜最適な厚みが選択される。なかでも、後述する光照射による金属酸化物粒子の還元効率がより優れる点で、0.5〜2000μmが好ましく、0.5〜200μmがより好ましく、1.0〜100μmがさらに好ましく、10〜100μmが特に好ましい。
なお、前駆体膜は基材全面に設けられていてもよく、パターン状に設けられていてもよい。
【0030】
[照射工程]
照射工程は、上記工程で得られた前駆体膜に対して、連続発振レーザ光を相対的に走査させつつ照射して、連続発振レーザ光の照射領域における金属酸化物を還元して金属を含有する導電膜を形成する工程である。連続発振レーザ光照射を行うことにより、金属酸化物が光を吸収して金属酸化物から金属への還元反応が進行すると共に、吸収された光が熱に変換され、前駆体膜内部に熱が浸透することにより、内部においても金属酸化物から金属への還元反応が進行する。つまり、上記処理を施すことにより、金属酸化物の粒子が還元されて得られる金属粒子同士が互いに融着してグレインを形成し、さらにグレイン同士が接着・融着して導電膜を形成する。
【0031】
以下に、本工程に関して、図面を参照してより詳細に説明する。
図1では、基材10上に配置された前駆体膜12に対して、レーザ光源14からレーザ光16を照射する態様を示す。図1においては、図示しない走査機構によりレーザ光源14を矢印の方向に移動させ、前駆体膜12表面を走査させつつ、所定の領域に照射を行う。レーザ光16が照射された領域では、金属酸化物から金属への還元反応が進行し、金属を含む導電膜18が形成される。
図1において、導電膜18は直線状のパターンであるが、その形状は図1の態様に限定されない。例えば、曲線状であってもよく、基材全面に渡って導電膜が形成されてもよい。
なお、連続発振レーザ光を照射する照射装置としては、公知の装置を使用することができる。例えば、キーエンス社MLZ−9500シリーズなどが挙げられる。
【0032】
図1においては、走査機構によりレーザ光源14が移動する態様が例示されているが、本態様に限定されず、レーザ光と被照射物である前駆体膜とが相対的に走査されればよい。例えば、被照射物である前駆体膜付き基材を走査面に対して水平方向に移動可能なX−Y軸ステージ上に載置して、レーザ光を固定した状態でステージを移動させることにより、レーザ光を前駆体膜表面に走査させる方法が挙げられる。もちろん、レーザ光と、被照射物である前駆体膜とが共に移動する態様であってもよい。
【0033】
連続発振レーザ光の波長は特に制限されず、金属酸化物粒子が吸収を有する波長であればよく、紫外光から赤外光まで任意のものを選択できる。なかでも、連続発振レーザ光の波長は2.0μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましく、5.0μm以上がさらに好ましく、9.0μm以上が特に好ましい。上記範囲であれば、金属酸化物粒子の還元がより進行しやすい。上限は特に制限されないが、装置の性能の点から、通常、30μm以下が好ましい。
代表的なレーザとしては、AlGaAs、InGaAsP、GaN系等の半導体レーザ、Nd:YAGレーザ、ArF、KrF、XeCl等のエキシマレーザ、色素レーザ、ルビーレーザ等の固体レーザ、He-Ne、He-Xe、He-Cd、CO2、Ar等の気体レーザ、自由電子レーザなどが挙げられる。なかでも、CO2レーザ(炭酸ガスレーザ)が好ましい。
【0034】
本工程において、走査の速度は1.0m/s以上であり、前駆体膜中において金属酸化物から金属への還元がより効率よく進行すると共に、生産性がより優れる点で、1.5m/s以上が好ましく、2.0m/s以上がより好ましく、3.0m/s以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、装置の性能の点から、通常、100m/s以下の場合が多く、50m/s以下の場合がより多い。
走査の速度が1.0m/s未満の場合、前駆体膜中において金属酸化物から金属への変換が十分に進行せず(金属が金属酸化物に戻るため)、結果として導電特性に劣る導電膜が得られる。
【0035】
本工程において、連続発振レーザ光のレーザパワーは6.0W以上であり、前駆体膜中において金属酸化物から金属への還元がより効率よく進行すると共に、導電膜の密着性がより優れる点で、7.0W以上が好ましく、8.0W以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、材料自体の蒸発をより抑制できる点で、1kW以下が好ましく、500W以下がより好ましく、100W以下がさらに好ましく、16.0W以下が特に好ましく、14.0W以下が最も好ましい。
連続発振レーザ光のレーザパワーが6.0W未満の場合、前駆体膜中において金属酸化物から金属への還元が十分に進行しない、または、導電膜の密着性に劣る。
【0036】
本工程において、前駆体膜表面の一地点あたりの照射時間は1.0μs以上であり、前駆体膜中において金属酸化物から金属への還元がより効率よく進行すると共に、導電膜の密着性がより優れる点で、2.0μs以上が好ましく、3.0μs以上がより好ましく、4.0μs以上がさらに好ましい。また、上限は特に制限されないが、1000μs以下が好ましく、500μs以下がより好ましく、100μsがさらに好ましい。長すぎると、制御が難しく、材料自体が蒸発などをしてしまう場合がある。
ここで、照射時間は、連続発振レーザ光が照射される前駆体膜表面上の任意の一地点における連続発振レーザ光が照射される時間を意味する。照射時間は、走査速度とビーム径より計算できる。例えば、前駆体膜表面上に照射される連続発振レーザ光の走査する方向におけるビーム径の幅が60μmで、その走査速度が2m/sである場合、照射時間は30μsと計算される。
【0037】
本工程における照射条件の好適態様としては、連続発振レーザ光のレーザパワーXを横軸とし、連続発振レーザ光の走査速度Yを縦軸とする二次元座標において、レーザパワーXおよび走査速度Yが下記式(1)〜(4)で表される直線で囲まれた範囲に存在することが好ましい。以下の範囲内に、レーザパワーXおよび走査速度Yがある場合、前駆体膜中において金属酸化物から金属への還元がより効率よく進行すると共に、得られる導電膜の密着性がより優れる。
式(1) Y=1.5
式(2) X=14.0
式(3) Y=0.625X−2.25
式(4) Y=0.625X−4.75
なかでも、前駆体膜中において金属酸化物から金属への還元がより効率よく進行すると共に、得られる導電膜の密着性がより優れる点で、以下の式(1)、式(3)〜(5)で表される直線で囲まれた範囲に存在することが好ましい。
式(1) Y=1.5
式(3) Y=0.625X−2.25
式(4) Y=0.625X−4.75
式(5) Y=4.0
図2に、上記式(1)、式(3)〜(5)で表される直線で囲まれた範囲を示す。図2の二次元座標中、A点は(X=6.0、Y=1.5)、B点は(X=10.0、Y=1.5)、C点は(X=14.0、Y=4.0)、D点は(X=10.0、Y=4.0)をそれぞれ表す。
【0038】
前駆体膜表面に照射される連続発振レーザ光のビーム径は特に制限されず、形成される導電膜の幅に応じて適宜調整される。例えば、導電膜をプリント配線基板の配線として用いる場合、細線な配線を形成できる点で、ビーム径は5〜1000μmが好ましく、9〜500μmがより好ましく、20〜200μmがさらに好ましい。
【0039】
上記光照射処理を実施する雰囲気は特に制限されず、大気雰囲気下、不活性雰囲気下、または還元性雰囲気下などが挙げられる。なお、不活性雰囲気とは、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素等の不活性ガスで満たされた雰囲気であり、また、還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素等の還元性ガスが存在する雰囲気を指す。
【0040】
(導電膜)
上記工程を実施することにより、金属を含有する導電膜(金属膜)が得られる。例えば、金属酸化物粒子として酸化銅粒子を使用した場合は、金属銅を含有する導電膜が得られる。
導電膜の膜厚は特に制限されず、使用される用途に応じて適宜最適な膜厚が調整される。なかでも、プリント配線基板用途の点からは、0.01〜1000μmが好ましく、0.1〜100μmがより好ましい。
なお、膜厚は、導電膜の任意の点における厚みを3箇所以上測定し、その値を算術平均して得られる値(平均値)である。
導電膜の体積抵抗率は、導電特性の点から、1×10-4Ωcm以下が好ましく、1×10-5Ωcm以下がより好ましい。
体積抵抗率は、導電膜の表面抵抗値を四探針法にて測定後、得られた表面抵抗値に膜厚を乗算することで算出することができる。
【0041】
導電膜は基材の全面、または、パターン状に設けられてもよい。パターン状の導電膜は、プリント配線基板などの導体配線(配線)として有用である。
パターン状の導電膜を得る方法としては、上記分散液をパターン状に基材に付与して、上記連続発振レーザ光照射処理を行う方法や、基材全面に設けられた導電膜をパターン状にエッチングする方法や、基材全面に設けられた前駆体膜にパターン状に連続発振レーザ光を照射する方法などが挙げられる。
なお、エッチングの方法は特に制限されず、公知のサブトラクティブ法、セミアディティブ法などを採用できる。
【0042】
導電膜をパターン状に設けた場合、必要に応じて、連続発振レーザ光が照射されていない前駆体膜の未照射領域を除去してもよい。未照射領域の除去方法は特に制限されず、酸などのエッチング溶液を使用してエッチングする方法が挙げられる。
【0043】
パターン状の導電膜をプリント配線基板として構成する場合、パターン状の導電膜の表面に、さらに絶縁層(絶縁樹脂層、層間絶縁膜、ソルダーレジスト)を積層して、その表面にさらなる配線(金属パターン)を形成してもよい。
【0044】
絶縁膜の材料は特に制限されないが、例えば、エポキシ樹脂、アラミド樹脂、結晶性ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、フッ素含有樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、全フッ素化ポリイミド、全フッ素化アモルファス樹脂など)、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂など挙げられる。
これらの中でも、密着性、寸法安定性、耐熱性、電気絶縁性等の観点から、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、または液晶樹脂を含有するものであることが好ましく、より好ましくはエポキシ樹脂である。具体的には、味の素ファインテクノ(株)製、ABF GX−13などが挙げられる。
【0045】
また、配線保護のために用いられる絶縁層の材料の一種であるソルダーレジストについては、例えば、特開平10−204150号公報や、特開2003−222993号公報等に詳細に記載され、ここに記載の材料を所望により本発明にも適用することができる。ソルダーレジストは市販品を用いてもよく、具体的には、例えば、太陽インキ製造(株)製PFR800、PSR4000(商品名)、日立化成工業(株)製 SR7200G、などが挙げられる。
【0046】
上記で得られた導電膜を有する基材(導電膜付き基材)は、種々の用途に使用することができる。例えば、プリント配線基板、TFT、FPC、RFIDなどが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
バーコータを用いて、Novacentrix社製酸化銅インク(ICI−020)をポリイミド基材(厚さ:125μm)に付与して塗膜を形成後、塗膜を有する基板をホットプレート上に載置し、100℃で10分間乾燥処理を施して溶媒を除去して、前駆体膜付き基材(前駆体膜の厚み:50μm)を製造した。
次に、キーエンス社製ML−Z9550Tを用いて、走査方向のビーム径の幅が60μmの炭酸ガスレーザ(波長9.3μm)を前駆体膜上に60μmピッチで走査し、ライン/スペース=60μm/60μmの導電膜を製造した。なお、その際に、レーザパワー、走査速度、および照射時間を表1にまとめて示す。
【0049】
(導電性評価)
導電性は、四端子法により測定し算出した体積抵抗率(Ω・cm)として求めた。具体的には、導電膜の体積抵抗率は、先ず焼成後の導電膜の厚さをSEM(電子顕微鏡S800:日立製作所社製)を用いて導電膜断面から導電膜の厚さを直接計測し、次に四端子法による比抵抗測定器(ロレスタ:三菱化学社製)を用い、この測定器に上記実測した導電膜の厚さを入力して測定した。
体積抵抗率が10-4Ωcm以下であった場合を「A」とし、10-4Ωcm超であった場合を「B」とした。
【0050】
(密着性評価)
得られた導電膜を有する基材の導電膜の面に、カッターナイフで碁盤目状に縦11本、横11本の切り込みを入れて合計100個の正方形の升目を刻み、日東電工(株)製のポリエステル粘着テープ“NO.31B”を圧着して密着試験を行い、剥がれの有無を目視で観察した。剥がれがない場合を「A」、剥がれがある場合を「B」とした。
【0051】
<実施例1〜6、比較例1〜5>
表1の記載に従って、レーザパワー、走査速度、および照射時間を変更し、導電膜の製造を実施した。得られた導電膜に対して、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1にまとめて示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、本発明の導電膜の製造方法を使用した実施例1〜6においては、導電性および密着性に優れる導電膜が製造された。
一方、比較例1〜3に示すように走査速度が遅い場合や、比較例4〜5に示すようにレーザパワーが小さい場合は、所望の効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0054】
10 基材
12 前駆体膜
14 レーザ光源
16 レーザ光
18 導電膜
図1
図2