【実施例1】
【0035】
図1を参照して本発明による荷電粒子顕微鏡の例を説明する。以下に、イオンビーム装置として、走査イオン顕微鏡装置の第1の実施例を説明する。本実施例の走査イオン顕微鏡は、ガス電界電離イオン源1、イオンビーム照射系カラム2、試料室3、及び冷却機構4を有する。ここでガス電界電離イオン源1、イオンビーム照射系カラム2、及び、試料室3内は真空容器である。
【0036】
ガス電界電離イオン源1の構成は後で詳細に述べるが、真空容器68内に針状のエミッタティップ21、エミッタティップに対向して設けられ、イオンが通過する開口部27を有する引き出し電極24が含まれる。また、エミッタティップ周辺のイオン化ガス圧力を高めるためイオン化室15が設けられている。さらに、イオン化室15にはガス供給機構76先端のガス供給配管25が接続されエミッタティップ周辺にイオン化ガスを供給する。
【0037】
また、ガス電界電離イオン源1の真空容器68を真空排気するイオン源真空排気用ポンプ12が設けられている。真空容器68とイオン源真空排気用ポンプ12の間には真空遮断可能なバルブ69が配置されている。
【0038】
さらにガス電界電離イオン源1の真空容器68には非蒸発ゲッター材料70を内包する真空ポンプ71が接続されている。また、非蒸発ゲッター材料70には真空容器の外に加熱機構72が備えられている。加熱機構は抵抗加熱、ランプ加熱などを原理としたものなどである。
【0039】
また、非蒸発ゲッター材料70を内包する真空ポンプ71と真空容器68との間には真空遮断可能なバルブ74が配置されている。また、非蒸発ゲッター材料70を内包する真空ポンプ71には真空遮断可能なバルブ77を介して真空ポンプ78が接続されている。
【0040】
さらにガス電界電離イオン源1は、エミッタティップ21の傾斜を変える傾斜機構61を含み、これはエミッタベースマウント64に固定されている。これは、エミッタティップ先端の方向をイオンビーム照射軸14Aに精度良く合わせるために用いる。この角度軸調整により、イオンビームの歪みを少なくするという効果を奏する。
【0041】
また、イオンビーム照射系は、上記ガス電界電離イオン源1から放出されたイオンを集束する集束レンズ5、集束レンズ5を通過したイオンビーム14を制限する可動な第1アパーチャ6、第1アパーチャ6を通過したイオンビーム14を走査あるいはアラインメントする第1偏向器35、第1アパーチャ6を通過したイオンビーム14を偏向する第2偏向器7、第1アパーチャ6を通過したイオンビーム14を制限する第2アパーチャ36、第1アパーチャを通過したイオンビームを試料上に集束する対物レンズ8から構成される。
【0042】
なお、図示していないが、イオンビーム照射系に質量分離器を導入する場合がある。また、 集束レンズをイオンビーム照射軸14Aに対して傾斜できる構造を持たせる場合もある。傾斜機構61は圧電素子で構成すれば比較的コンパクトに実現できる。
【0043】
ここで第1偏向器35とは、エミッタティップからのイオン放射パターンを得るためにイオンビームを走査する偏向器である。また、第1とは、イオン源1から試料9方向に最初に配置される偏向器という意味である。ただし、第1偏向器35と集束レンズ5間に、第1偏向器35の光学軸方向の長さに比べて短い偏向器を備え、これをイオンビーム14の偏向軸調整に用いる荷電粒子線装置としてもよい。
【0044】
また、試料室3内には、試料9を載置する試料ステージ10、及び二次粒子検出器11が設けられている。ガス電界電離イオン源1からのイオンビーム14は、イオンビーム照射系を経由して、試料9に照射される。試料9からの二次粒子は、二次粒子検出器11によって検出される。ここで、二次粒子検出器11で計測される信号量は、第2アパーチャ36を通過したイオンビーム電流にほぼ比例している。
【0045】
本実施例のイオン顕微鏡は、更に、試料室3を真空排気する試料室真空排気用ポンプ13を有する。また、図示してないが、試料室3にはイオンビームを照射したときの試料のチャージアップを中和するための電子銃や、試料近傍にエッチングやデポジションガスを供給するガス銃を設ける。
【0046】
また、床20の上に配置された装置架台17の上には、防振機構19を介して、ベースプレート18が配置されている。電界電離イオン源1、カラム2、及び試料室3は、ベースプレート18によって支持されている。
【0047】
冷却機構4は、電界電離イオン源1の内部、エミッタティップ21、引き出し電極24などを冷却する。本実施例では、冷却経路はエミッタベースマウント64内部に配されている。なお、冷却機構4は例えばギフォード・マクマホン型(GM型)冷凍機を用いる場合には、床20には、図示してないがヘリウムガスを作業ガスとする圧縮機ユニット(コンプレッサ)が設置される。圧縮機ユニット(コンプレッサ)の振動は、床20を経由して、装置架台17に伝達される。装置架台17とベースプレート18との間には除振機構19が配置されており、床の高周波数の振動は電界電離イオン源1、イオンビーム照射系カラム2、真空試料室3などには伝達しにくいという特徴を持つ。ここでは、床20の振動の原因として、冷凍機40及びコンプレッサ16を説明した。しかしながら、床20の振動の原因はこれに限定されるものではない。
【0048】
また、防振機構19は、防振ゴム、バネ、ダンパ、又はこれらの組合せによって構成されてもよい。
【0049】
図2を参照して、本発明による荷電粒子顕微鏡のガス電界電離イオン源1の一例を詳細に説明する。本実施例のガス電界電離イオン源1は、針状のエミッタティップ21、細線状のフィラメント22、支柱形状をした2個の端子26、円柱状のフィラメントマウント23、及び、円柱状のエミッタベースマウント64を有する。
【0050】
図3(A)は円柱状のフィラメントマウント23をエミッタティップ側から見た立体図である。針状のエミッタティップ21は、細線状のフィラメント22の略中央に接続されている。細線状のフィラメント22は、
図3(A)ではV字状であり、支柱形状をした2個の端子間26に接続されている。
図3(B)は正面図であり、フィラメント22の V字のなす角度は鈍角である。なお、
図3(C)は側面図である。すでに述べたように、本装置は床20等からの振動をイオン源に伝達しにくい構造となっている。しかし、本構造の機械振動シミュレーションにより、音のイオン源への影響により、
図3(C)に示すようにフィラメント22が図の左右にゆれることを見出した。そして、その振動振幅はV字のなす角度に依存し、従来の約60度の鋭角ではなく、本発明のように鈍角にすると低減されることを見出したのである。特に、約100度以上で従来に比べて著しく振動低減効果が向上する。
【0051】
なお、フィラメントマウント23は、絶縁物などを挟んで、エミッタベースマウント64に固定されている。これにより、エミッタティップ21には高電圧を印加できる。また、イオン源真空容器68には、イオンビームが通過する作動排気孔67がある。
【0052】
本実施例の電界電離イオン源は、更に、引き出し電極24、及び、円筒状の側壁28、を有する。引き出し電極24はエミッタティップ21に対向して配置され、イオンビーム14が通るための開口部27を有する。なお、引き出し電極には高電圧を印加できる。
【0053】
引き出し電極24、側壁28、及びフィラメントマウント23によって囲まれる空間をガス分子のイオン化室15と呼ぶ。
【0054】
また、ガス分子イオン化室15にはガス供給機構76先端のガス供給配管25が接続されている。このガス供給配管25を通って、エミッタティップ21に、イオンとなるべきガス(イオン化ガス)が供給される。
【0055】
本実施例では、イオンとなるべきガス(イオン化ガス)はヘリウムである。なお、
図2ではエミッタティップ21の冷却機構については省略した。
【0056】
図4は、
図1に示した本発明によるイオン顕微鏡の制御装置の例を示す。本実施例の制御装置は、ガス電界電離イオン源1を制御する電界電離イオン源制御装置91、冷凍機4を制御する冷凍機制御装置92、非蒸発ゲッター材料70の加熱機構72および冷却機構4などの温度制御装置191、ガス電界電離イオン源周辺に配置された複数の真空遮断可能なバルブ69、74、77の開閉を制御するバルブ制御装置192、集束レンズ5および対物レンズ8を制御するレンズ制御装置93、可動な第1アパーチャ6を制御する第1アパーチャ制御装置94、第1偏向器を制御する第1偏向器制御装置195、第2偏向器を制御する第2偏向器制御装置95、二次粒子検出器11を制御する二次電子検出器制御装置96、試料ステージ10を制御する試料ステージ制御装置97、試料室真空排気用ポンプ13を制御する真空排気用ポンプ制御装置98、及び演算装置を含む計算処理装置99を有する。計算処理装置99は画像表示部を備える。画像表示部は、二次粒子検出器11の検出信号から生成された画像、及び入力手段によって入力した情報を表示する。
【0057】
試料ステージ10は、試料9を試料載置面内にて直交2方向へ直線移動させる機構、試料9を試料載置面に垂直な方向への直線移動させる機構、及び試料9を試料載置面内にて回転させる機構を有する。試料ステージ10は、更に、試料9を傾斜軸周りに回転させることによりイオンビーム14の試料9への照射角度を可変できる傾斜機能を備える。これらの制御は計算処理装置99からの指令によって、試料ステージ制御装置97によって実行される。
【0058】
次に、本実施例の電界電離イオン源の動作を説明する。ここでは、イオン化ガスはヘリウムであるとして説明する。真空排気後、十分な時間が経過した後、冷凍機4を運転する。それによってエミッタティップ21、および引き出し電極24等が冷却される。
【0059】
次に、エミッタティップ21の構造及び作製方法を説明する。先ず、直径約100〜400μm、軸方位<111>のタングステン線を用意し、その先端を鋭利に成形する。それによって、曲率半径が数10nmの先端を有するエミッタティップ21が得られる。このエミッタティップ21の先端に、別の真空容器でイリジウムを真空蒸着させる。次に、フィラメント22に通電してエミッタティップ21を高温加熱して、イリジウム原子をエミッタティップ21の先端に移動させる。それによって、イリジウム原子によるナノメートルオーダのピラミッド型構造が形成される。これをナノピラミッドと呼ぶことにする。ナノピラミッドは、典型的には、先端に1個の原子を有し、その下に3個又は6個の原子の層を有し、さらにその下に10個以上の原子の層を有する。
【0060】
ここで、このナノピラミッドを再現性よく形成するためには、フィラメント22通電によるエミッタティップ加熱における温度を再現性良く管理する必要があることを本願発明者は突き止めた。フィラメント22単体での加熱特性のほかに、フィラメントの熱が端子へ逃げることをも考慮する必要があるが、本イオン源1のように極低温に冷却する場合には、特にその影響が大きい。これは、従来の電子銃やイオン源のエミッタティップ加熱制御の条件とは、本イオン源のエミッタティップ加熱制御の条件が異なることを意味する。先に、フィラメント22のV字形状が機械振動特性に大きく影響することを述べたが、同じく、フィラメント22のV字形状はエミッタティップ21の加熱特性に影響するのである。
【0061】
なお、本実施例では、タングステンの細線を用いたがモリブデンの細線を用いることもできる。また、本例では、イリジウムの被覆を用いたが、白金、レニウム、オスミウム、パラジュウム、ロジュウム等の被覆を用いることもできる。
【0062】
また、エミッタティップ21の先端にナノピラミッドを形成する方法として、他に、真空中での電界蒸発、ガスエッチィング、イオンビーム照射等を用いてもよい。このような方法によって、タングステン線、又はモリブデン線先端にタングステン原子又はモリブデン原子ナノピラミッドを形成することができる。例えば<111>のタングステン線を用いた場合には、先端が1個または3個のタングステン原子で構成されるのが特徴となる。また、これとは別に、白金、イリジウム、レニウム、オスミウム、パラジュウム、ロジュウムなどの、細線の先端に真空中でのエッチング作用により同様なナノピラミッドを形成してもよい。これらの原子オーダの鋭利な先端構造をもつエミッタティップをナノティップと呼ぶことにする。
【0063】
上述のように、本実施例によるガス電界電離イオン源のエミッタティップ21の特徴は、ナノピラミッドにある。エミッタティップ21の先端に形成される電界強度を調整することによって、エミッタティップ21の先端の1個の原子の近傍でヘリウムイオンを生成させることができる。従って、イオンが放出される領域、即ち、イオン光源は極めて狭い領域であり、ナノメータ以下である。このように、非常に限定された領域からイオンを発生させることによって、ビーム径を1nm以下とすることができる。そのため、イオン源の単位面積及び単位立体角当たりの電流値は大きくなる。これは試料上で微細径・大電流のイオンビームを得るためには重要な特性である。
【0064】
なお、白金、レニウム、オスミウム、イリジウム、パラジュウム、ロジュウム、などを用いて、先端原子1個のナノピラミッドが形成された場合には、同様に単位面積・単位立体角から放出される電流すなわちイオン源輝度を大きくすることができ、イオン顕微鏡の試料上のビーム径を小さくしたり、電流を増大したりするのに好適となる。ただし、エミッタティップが十分冷却され、かつガス供給が十分な場合には、必ずしも先端を1個に形成する必要はなく、3個、6個、7個、10個などの原子数であっても十分な性能を発揮できる。特に、4個以上、10個未満の原子で先端を構成する場合には、イオン源輝度を高くでき、かつ先端原子が蒸発しにくく安定した動作が可能であることを見出した。
【0065】
次に、エミッタティップ21と引き出し電極24の間に電圧を印加する。エミッタティップの先端に強電界が形成される。ガス供給配管25から供給されたヘリウムが、強電界によってエミッタティップ面に引っ張られる。ヘリウムは、最も電界の強いエミッタティップ21の先端近傍に到達する。そこでヘリウムが電界電離し、ヘリウムイオンビームが生成される。ヘリウムイオンビームは、引き出し電極24の孔27を経由してイオンビーム照射系に導かれる。
【0066】
次に、本実施例のイオン顕微鏡のイオンビーム照射系の動作を説明する。イオンビーム照射系の動作は、計算処理装置99からの指令により制御される。ガス電界電離イオン源1によって生成されたイオンビーム14は、集束レンズ5によって集束され、ビーム制限アパーチャ6によって、ビーム径が制限され、対物レンズ8によって集束される。集束されたビームは、試料ステージ10上の試料9の上に走査されながら照射される。ここで、集束レンズと対物レンズで、イオン光源を試料上に集束する倍率を少なくとも0.5以上として、大電流を得られる条件とした。このようにすると、ビーム径に対する電流が大きくでき走査イオン像の信号/ノイズ比を大きくできることになる。
【0067】
試料から放出された二次粒子は、二次粒子検出器11によって検出する。二次粒子検出器11からの信号は、二次電子検出器制御装置96で輝度変調され、計算処理装置99に送られる。計算処理装置99は、走査イオン顕微鏡像を生成し、それを画像表示部に表示する。こうして、試料表面の高分解能観察を実現することができる。
【0068】
図5は、試料表面の超高分解能観察像の模式図である。試料構造は、2本の直線である。
図5(A)は、エミッタティップ先端が機械振動して、2本の直線のエッジがゆれているように観察されている。
図5(B)は、エミッタティップ先端が機械振動しているとき、イオンビーム走査周波数が遅いとき、2本の直線のエッジがボケで観察されている。
図5(C)は本装置が正常動作した状態で得た超高分解能観察像の模式図である。2本の直線のエッジが明瞭に観察されていることを示す。これは、フィラメント形状をV字として、その間の角度を鈍角として、エミッタティップ先端振動振幅を低減した効果である。この結果、試料表面の走査イオン像でレンズの収差である0.2nm程度の分解能を得ることができた。
【0069】
また、別の実施例である
図6(A)では、支柱形状をした端子26とフィラメント21との接続点間をフィラメント22が略最短距離で接続され、フィラメント22の略中央に前記エミッタティップ21が接続されている。
【0070】
図6(A)は円柱状のフィラメントマウント23をエミッタティップ21側から見た立体図である。
図6(B)は正面図であり、フィラメントは直線状であり、その略中央にエミッタティップ21が接続されている。本実施例においても、試料表面の走査イオン像でレンズの収差である0.2nm程度の分解能を得ることができた。ただし、フィラメント加熱特性を安定させるため、フィラメント端子間隔を広げて、フィラメント22を長くしたり、制御回路に安定化回路を追加したりする対策が必要であった。また、略中央にU字またはV字の微小変形を加えるようにすると、フィラメント22略中央部分の局所抵抗率が相対的に高くなるため、フィラメント22を高温に加熱するのに好適となり、さらにエミッタティップ21先端の機械的振動振幅を小さくすることができるという効果を奏する。そして、ガス電界電離イオン源1から放出されたイオンビーム14を走査して試料9に照射して、試料から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置とすると、超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0071】
また、
図6(C)側面図に示すように、エミッタティップ21自身がわずかに揺れていることを見出した。そこで、別の実施例である
図7では、フィラメント22の形状が直線状であり、フィラメント22の他に、少なくとも2個の端子間を接続する第2の線材29が存在し、エミッタティップ21の根元がフィラメント22と第2の線材29に接続されている構造とした。これにより、エミッタティップ21自身がわずかな振動も低減することに成功した。その結果、レンズ収差を改善することにより0.1nm程度の分解能を得ることができた。
さらに、
図7に示すように引き出し電極24の略中央部がエミッタティップ21に向かって凸構造31をもつことを特徴とする。このようにすると、2個の端子と前記引き出し電極との距離が長くなり、2個の端子と前記引き出し電極間の放電などが無くなり、信頼性が高くなるという効果を奏する。
【0072】
以上述べた実施例では、エミッタティップ先端の機械的振動振幅を小さくすることができるという効果を奏する。そして、ガス電界電離イオン源1から放出されたイオンビームを走査して試料9に照射して、試料から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置とすると、超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれやボケなどを低減することができるという効果を奏する。
【0073】
また、電界電離イオン源1、イオンビーム照射系および試料室3などの真空チャンバ材質を磁性材料で構成させ外部磁気をシールドするとイオンビームの径が小さくなり、より高分解能観察が実現するという効果を奏する。
【0074】
また、本実施例に示したように、ガス電界電離イオン源1のエミッタティップをナノピラミッドで構成すると、極微小なビーム径で、電流が大きいというイオンビームが得られるため、高信号/ノイズ比で超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0075】
さらに、ガス電界電離イオン源1を搭載した荷電粒子線装置において、イオン光源を試料に投影する倍率が少なくとも0.5以上であることを特徴とする荷電粒子線装置とすると、特に、イオンビーム電流が大きくなり、ガス電界電離イオン源1から放出されたイオンビームを走査して試料9に照射して、試料から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置とすると、高信号/ノイズ比で超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0076】
また、エミッタティップの傾斜を変える傾斜機構61を省略した装置構成とした場合、エミッタティップ先端から放出されるイオンビームの方向に合わせて集束レンズ5の傾斜を調整すれば、集束レンズ5でのイオンビームの歪みを小さくでき、イオンビームの径が小さくなり、より高分解能観察が実現するという効果を奏する。また、エミッタティップ21の傾斜機構を省略できるので、イオン源構造を単純化できる、ひいては低コストの装置を実現できるという効果を奏する。
【0077】
さらに、別の真空装置でエミッタティップ21からのイオン放出パターンを観察して、エミッタティップ21の傾斜方向を精密に調整しておき、次に本実施例装置に導入すれば、エミッタティップ21の傾斜を変える傾斜機構61を省略するか、あるいは、傾斜範囲を小さくすることができる。このことによりイオン源構造を単純化できる、ひいては低コストの装置を実現できるという効果を奏する。
【0078】
さらに、以上の実施例によると、上記したガス電界電離イオン源において、エミッタティップ21の先端を原子で構成されるナノピラミッドとすることにより、イオン化領域が制限されるため、より高輝度のイオン源1が形成され、より高分解能の試料観察ができるという効果を奏する。また、このときには全イオン電流はより少なくなるので、イオン化ガスを循環利用することで、イオン化ガスの利用効率がより高いガス電界電離イオン源が提供されるという効果を奏する。
【0079】
なお、本実施例では、ヘリウムガスについて述べたが、水素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど、その他のガスでも本発明は適用可能である。このようにすると、水素、ヘリウムを用いるとイオンビームで試料極表面の観察ができ、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンを用いるとイオンビームで試料を加工するのに好適となり、さらにエミッタティップ先端の機械的振動振幅を小さくすることができるという効果を奏する。
【実施例2】
【0080】
次に
図8を参照して、本実施例による荷電粒子線装置の一例を説明する。
図8では、
図1に示した荷電粒子線装置の冷却機構4の一例について詳細に説明する。本例の冷却機構4は、ヘリウム循環方式を採用している。
【0081】
本実施例の冷却機構4は、冷媒となるヘリウムガスをGM型冷凍機401および熱交換器402、405、409、412を用いて冷却して、これを圧縮機ユニット400により循環させる。コンプレッサで加圧された例えば0.9MPaの常温の温度300Kのヘリウムガスは配管409を通じて熱交換器402に流入し、後述する戻りの低温のヘリウムガスと熱交換して温度約60Kに冷却される。冷却されたヘリウムガスは断熱されたトランスファーチューブ404内の配管403を通じて輸送され、ガス電界電離イオン源1近くに配置された熱交換器405に流入する。ここで、熱交換器405に熱的に一体化された熱伝導体を温度約65Kに冷却し、前記した輻射シールド等を冷却する。加温されたヘリウムガスは熱交換器405を流出し配管407を通じて、GM型冷凍機401の第1冷却ステージ408に熱的に一体化された熱交換器409に流入し、温度約50Kに冷却され、熱交換器410に流入する。後述する戻りの低温のヘリウムガスと熱交換して温度約15Kに冷却され、そののち、GM型冷凍機401の第2冷却ステージ411に熱的に一体化された熱交換器412に流入し、温度約9Kに冷却され、トランスファーチューブ404内の配管413を通じて輸送され、ガス電界電離イオン源1近くに配置された熱交換器414に流入し、熱交換器414で熱的に接続された良熱伝導体の冷却伝導棒53を温度約10Kに冷却する。熱交換器414で加温されたヘリウムガスは配管415を通じて熱交換器410、402に順次流入し、前述のヘリウムガスと熱交換してほぼ常温の温度約275Kになって、配管415を通じて圧縮機ユニット400に回収される。なお、前述した低温部は真空断熱容器416ないに収納され、トランスファーチューブ404とは、図示していないが断熱的に接続されている。また、真空断熱容器416内において、図示していないが低温部は輻射シールド板や、積層断熱材等により室温部からの輻射熱による熱侵入を防止している。
【0082】
また、トランスファーチューブ404は床20または床20に設置された支持体417に強固に固定支持されている。ここで、図示していないが熱伝導率が低い断熱材であるガラス繊維入りのプラスチック製に断熱体でトランスファーチューブ404の内部で固定支持された配管403、407、413、415も床20で固定支持されている。また、ガス電界電離イオン源1近くにおいて、トランスファーチューブ404は、ベースプレート18に支持固定されており、同様にここで、図示していないが熱伝導率が低い断熱材であるガラス繊維入りのプラスチック製に断熱体でトランスファーチューブ404の内部で固定支持された配管403、407、413、415もベースプレート18で固定支持されている。
【0083】
すなわち、本冷却機構は、圧縮機ユニット16で発生させた第1の高圧ガスを膨張させて寒冷を発生する寒冷発生手段と、この寒冷発生手段の寒冷で冷却し、圧縮機ユニット400で循環する第2の移動する冷媒であるヘリウムガスで被冷却体を冷却する冷却機構である。
【0084】
冷却伝導棒53は変形可能な銅網線54およびサファイアベースを経てエミッタティップ21に接続される。これによりエミッタティップ21の冷却が実現する。この実施例では、GM型冷凍機401は床を振動させる原因になるが、ガス電界電離イオン源1、イオンビーム照射系カラム2、真空試料室3などはGM冷凍機401とは隔離されて設置されており、さらにガス電界電離イオン源1近傍に設置した熱交換器405、414に連結された配管403、407、413、415は殆ど振動しない床20やベース18に強固に固定支持されて振動せず、さらに床から振動絶縁されているため機械振動の伝達の極めて少ないシステムとなることが特徴である。
【0085】
次に、本実施例でのエミッタティップ周辺での構造について述べる。
図9は円柱状のフィラメントマウント23をエミッタティップ側から見た立体図である。
【0086】
ガス電界電離イオン源1において、エミッタティップ加熱機構72が、少なくとも2個の端子26間を接続するフィラメント22に通電してエミッタティップ21を加熱する機構であり、フィラメント22の略中央にエミッタティップ21が接続され、エミッタティップ温度が相対的に低温時には、
図9(A)に示すように、エミッタティップ21が、2個の端子26以外の端子に接続され、エミッタティップ温度が相対的に高温時には、
図9(B)に示すように2個の端子以外の端子へは非接続されることを特徴とする。
【0087】
このようにすると、エミッタティップ温度が相対的に低温時には、エミッタティップが、2個の端子26以外の端子に接続されるためエミッタティップ先端の機械的振動振幅を小さくすることができるという効果を奏する。ここで、エミッタティップ温度が低温であれば、イオンビーム電流が大きくなるという効果を奏する。また、高温時はエミッタティップが、2個の端子26以外の端子に接続されないため、フィラメント加熱時に熱が逃げず加熱制御精度が向上するという効果を奏する。そして、ガス電界電離イオン源1から放出されたイオンビームを走査して試料9に照射して、試料9から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置とすると、より一層に超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0088】
さらに、別の実施例において、ガス電界電離イオン源1であって、フィラメント22の断面形状がU字、V字、中空チューブ状であることを特徴とする。
【0089】
さらに、別の実施例において、ガス電界電離イオン源1であって、フィラメント22の材質がマンガニンであることを特徴とする。
【0090】
さらに、別の実施例において、ガス電界電離イオン源1であって、フィラメント22にセラミックコーティングを施したことを特徴とする。
【0091】
このようにすると、フィラメント22の剛性が一層に高まるため、フィラメントの振動振幅が小さくさるため、エミッタティップ先端の機械的振動振幅を小さくすることができるという効果を奏する。そして、ガス電界電離イオン源1から放出されたイオンビームを走査して試料9に照射して、試料9から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置とすると、より一層の超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0092】
また、別の実施例において、
図10に示すようにエミッタティップ21を直接フィラメントマウント23と接続して、フィラメント22とは接続しない構造とする。エミッタティップ加熱は、フィラメント22加熱後に、エミッタティップ21とフィラメント22との間に電圧を印加してフィラメント22からエミッタティップ21に電子を放射させて実現する。この構造では、フィラメント振動はエミッタティップに伝達しない。
【0093】
このようにして、さらに前記ガス電界電離イオン源から放出されたイオンビームを走査して試料9に照射して、試料9から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置とすると、超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0094】
さらに、ガス電界電離イオン源1を搭載し、ガス電界電離イオン源1から放出されたイオンビーム14を走査して試料9に照射して、試料9から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置において、振動数5000Hz以上の音波をイオンビーム装置に向けて照射したときに、試料観察像にゆれが生じることを特徴とするイオンビーム装置である。このようにすると、エミッタティップの取り付け構造の固有振動数が5000Hz以上であるため、床などから伝達される振動ではエミッタティップは伝達しにくいという特性を持つことになる。
【0095】
さらに、
図11に示すように音が遮断される防音カバー418をするとこの効果は一層高まる。
【0096】
このようにして、さらに前記ガス電界電離イオン源から放出されたイオンビームを走査して試料に照射して、試料から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置とすると、超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0097】
さらに、ガス電界電離イオン源を搭載し、ガス電界電離イオン源から放出されたイオンビームを走査して試料に照射して、試料から放出される二次粒子を検出して試料観察像を得るイオンビーム装置において、電界電離放出型走査電子顕微鏡の最高分解能よりも高い分解能で、試料観察像で画像ゆれが顕在化しないことを特徴とするイオンビーム装置とすると、超高分解能の試料観察像が得られ、かつ試料観察像にゆれなどをなくすことができるという効果を奏する。
【0098】
さらに、本発明のガス電界電離イオン源および荷電粒子線装置によれば、冷却機構からの振動は、エミッタティップに伝達されにくく、エミッタベースマウントの固定機構が備えられているためエミッタティップの振動が防止され高分解能観察が可能となる。
【0099】
さらに、本願の発明者は、
図8に示すコンプレッサ(圧縮機)16、400の騒音が電界電離イオン源1を振動させてその分解能を劣化させることを突き止めた。そのため、本実施例では、コンプレッサ16、400と電界電離イオン源1を空間的に分離するカバー418を設けた。これにより、コンプレッサ16、400の騒音に起因した振動の影響を低減することができ、高分解能観察が可能となる。
【0100】
また、本実施例の場合、ヘリウム圧縮機400を用いて第2のヘリウムガスを循環させたが、図示しないが流量調整弁を介して、ヘリウム圧縮機16の 配管111、112と、それぞれ流量調整弁を介して、配管409、415を連通し、配管409内にヘリウム圧縮機16の一部のヘリウムガスを第2のヘリウムガスとして循環ヘリウムガスを供給し、配管415でガスをヘリウム圧縮機16に回収しても、同様な効果を生じる。
【0101】
また、本実施例では、GM型冷凍機401を用いたが、その代わりに、パルス管冷凍機、又はスターリング型冷凍機を用いてもよく、冷凍機の方式に限定されない。また、本実施例では、冷凍機は、2つの冷却ステージを有するが、単一の冷却ステージを有するものでもよく、冷却ステージの数は特に限定されるものではない。例えば、1段の冷却ステージを持つ小型のスターリング型冷凍を用いて、最低冷却温度を50Kとしたヘリウム循環冷凍機とすれば、コンパクトで低コストのイオンビーム装置を実現できる。また、この場合には、ヘリウムガスの代わりにネオンガスや水素を用いてもよい。また、複数の冷凍機を用いても良い。
【0102】
また、本実施例の場合に、走査イオン像取得時に、ヘリウム圧縮機400を停止させると、走査イオン像のノイズが減少して、鮮明で分解能の高い画像がえられることを見出した。この場合に、イオンエミッタの温度が大きな電流変化をもたらさない間に、ヘリウム圧縮機400を駆動させてヘリウムを循環させて、温度を低下させる。この方法によれば、走査イオン像取得時に冷凍機の動作を停止させるよりも簡便にノイズ低減効果が生じることを見出した。さらに、ヘリウム圧縮機と、冷凍機の動作の両者を停止させる、さらにノイズが減少して、鮮明で分解能の高い画像がえられることを見出した。