特許第6043506号(P6043506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043506硬質化装置及び金属酸化物膜の硬質化方法
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  • 特許6043506-硬質化装置及び金属酸化物膜の硬質化方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043506
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】硬質化装置及び金属酸化物膜の硬質化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/08 20060101AFI20161206BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20161206BHJP
   C01B 13/14 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B01J19/08 H
   C01G23/04 C
   C01B13/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-112782(P2012-112782)
(22)【出願日】2012年5月16日
(65)【公開番号】特開2013-237026(P2013-237026A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】竹井 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宗之
(72)【発明者】
【氏名】桃野 健
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 恭平
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−000535(JP,A)
【文献】 特開2009−074178(JP,A)
【文献】 特開2008−159347(JP,A)
【文献】 特開2003−059902(JP,A)
【文献】 特開2000−311869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B01J19/00−19/32
C01G23/04−23/08
C01B13/14−13/36
C23C14/00−14/58
DB JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂板の表面に金属酸化物膜を形成したものを処理対象物とし、この処理対象物を硬質化させる硬質化装置であって、
互いに連設される少なくとも2以上の真空処理室と、これら真空処理室の間で樹脂板を移送する移送手段とを備え、
移送方向上流側に位置する真空処理室に、処理対象物に対してプラズマから酸素イオンを引き出し加速して照射するイオンガンを設け、
移送方向下流側に位置する真空処理室に、酸素ガスと不活性ガスのプラズマを形成するプラズマ形成手段を設け、金属酸化物膜側から酸素イオンを照射した処理対象物を、酸素ガスと不活性ガスのプラズマに曝すように構成したことを特徴とする硬質化装置。
【請求項2】
前記移送方向上流側に位置する真空処理室の更に上流側の真空処理室に、金属酸化物膜を加熱する加熱手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の硬質化装置。
【請求項3】
前記加熱手段を設けた真空処理室の更に上流側の真空処理室に、樹脂板の表面に金属酸化物膜を成膜する成膜手段を設けたことを特徴とする請求項2記載の硬質化装置。
【請求項4】
処理対象物を表面に金属酸化物膜が形成された樹脂板とし、この金属酸化物膜を硬質化する金属酸化物膜の硬質化方法であって、
減圧下の処理室内で金属酸化物膜に対してプラズマから酸素イオンを引き出し加速して照射する第1工程と、
減圧下の処理室内に酸素ガスと不活性ガスを導入してプラズマを形成し、この形成したプラズマに、前記第1工程にて酸素イオンが照射された金属酸化物膜を曝す第2工程と、を含むことを特徴とする金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項5】
前記第2工程において、酸素ガスと不活性ガスとの総流量に対する不活性ガスの流量比を、15%〜40%の範囲内に設定することを特徴とする請求項4記載の金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項6】
前記第1工程の前に、減圧下の処理室内で金属酸化物膜を加熱する工程を更に含むことを特徴とする請求項4又は5記載の金属酸化物膜の硬質化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質化装置及び金属酸化物膜の硬質化方法に関し、より詳しくは、樹脂板表面に形成された金属酸化物膜を硬質化させ、輸送機械用の窓材に適したものとするものに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車等の輸送機械の窓材には、硬質の材料たるガラス材が一般に用いられてきたが(例えば特許文献1参照)、軽量化を図るには限界があり、しかも、水洗を繰り返すと、ガラス中のカルシウム成分の影響で白濁するという問題がある。そこで、新幹線やリニアモーターカーといった、速度アップ等のために軽量化の要請が特に強い高速鉄道車両や軽量化による更なる燃費向上が求められる自動車における窓材として、より軽量なポリカーボネート等からなる樹脂板を用いる開発が進められている。このように窓材を樹脂板から構成すれば、上記白濁の問題も同時に解消することができる。
【0003】
他方、樹脂板はガラス材と比較して硬度(強度)が低く、傷もつきやすい。このため、樹脂板を輸送機械の窓材として用いるには、樹脂板の厚みを、ガラス材を用いる場合と比較して厚くして、強度を持たせると共に、その表面を硬質化する必要がある。然し、厚い樹脂板をその表面の平滑性よく硬質化することは困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−310392号公報
【特許文献2】特開平9−025123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、厚い樹脂板であっても、その表面の平滑性よく硬質化することができる量産性に優れた硬質化装置及び金属酸化物膜の硬質化方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、樹脂板の表面に金属酸化物膜を形成したものを処理対象物とし、この処理対象物を硬質化させる本発明の硬質化装置は、互いに連設される少なくとも2以上の真空処理室と、これら真空処理室の間で樹脂板を移送する移送手段とを備え、移送方向上流側に位置する真空処理室に、処理対象物に対してプラズマから酸素イオンを引き出し加速して照射するイオンガン設け、移送方向下流側に位置する真空処理室に、酸素ガスと不活性ガスのプラズマを形成するプラズマ形成手段を設け、樹脂板表面の酸素イオンを照射した金属酸化物膜を、酸素ガスと不活性ガスのプラズマに曝すように構成したことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、移送方向上流側の真空処理室に処理対象物を移送し、酸素イオン照射手段から樹脂板に対して酸素イオンを照射する。この場合、酸素イオン照射手段としては、漏洩磁場域で発生させたプラズマからイオンを引き出して照射するイオンガン等の公知のものを用いることができる。ここで、金属酸化物膜を構成する原子は規則正しく配列されておらず、特に、塗布液を塗布する液相法により形成されたものは規則性が悪い。本発明では、酸素イオンを照射することで、金属酸化物膜の構成原子が再配列し、再配列した原子がより大きな集合体(クラスター)となって結晶化する。これにより、金属酸化物膜を硬質化できるものの、その金属酸化物膜の表面には、硬質化の間に起こる偏析により微細な凹凸が形成される。そこで、本発明者らは鋭意研究し、下流側の真空処理室に処理対象物を移送し、この真空処理室内に酸素ガスと不活性ガスのプラズマを形成し、このプラズマに樹脂板表面の上記酸素イオンを照射した金属酸化物膜を曝すことで、金属酸化物膜の表面がエッチングされ、金属酸化物膜の表面平滑性が飛躍的に向上することを知見した。本発明者らの実験によれば、金属酸化物膜表面の平均粗さ(R)が0.05μmより小さく、最大粗さ(Rp−p)が0.2μmより小さくなることが確認された。従って、厚い樹脂板であっても、表面平滑性に優れた硬質の金属酸化物膜が得られるため、この金属酸化物膜を具備する樹脂板を輸送機械の窓材として利用できる。
【0008】
本発明において、金属酸化物膜には、金属酸化物膜の前駆体膜であって、例えば、金属アルコキシド、金属錯体又は金属水酸化物で構成されるものが含まれるものとする。この場合、前駆体に酸素イオンが照射されると酸化して金属酸化物膜となり、その後、上記構成原子の再配列が起こる。樹脂板としては、ポリカーボネート樹脂板、アクリル樹脂板又はエポキシ樹脂板を好適に用いることができる。また、不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスを用いることができ、そのうちのアルゴンガスを好適に用いることができる。
【0009】
本発明において、前記移送方向上流側に位置する真空処理室の更に上流側の真空処理室に、金属酸化物膜を加熱する加熱手段を設けることが好ましい。これによれば、酸素イオンを照射する際に金属酸化物膜から放出されるガスの量を低減できるため、金属酸化物膜の硬質化をより一層効率良く行うことができる。
【0010】
本発明において、前記加熱手段を設けた真空処理室の更に上流側の真空処理室に、樹脂板の表面に金属酸化物膜を成膜する成膜手段を設けることが好ましい。これによれば、金属酸化物膜の成膜から硬質化までを連続して行うことができるため、量産性をより一層向上できる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、処理対象物を表面に金属酸化物膜が形成された樹脂板とし、この金属酸化物膜を硬質化する金属酸化物膜の硬質化方法であって、減圧下の処理室内で金属酸化物膜に対してプラズマから酸素イオンを引き出し加速して照射する第1工程と、減圧下の処理室内に酸素ガスと不活性ガスを導入してプラズマを形成し、この形成したプラズマに、前記第1工程にて酸素イオンが照射された金属酸化物膜を曝す第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第1工程では、金属酸化物膜が形成された樹脂板を処理室内に配置し、この処理室を所定圧力まで真空引きし、減圧下の処理室内で金属酸化物膜に対して酸素イオンを照射する。このとき、樹脂板表面の金属酸化物膜がその前駆体膜である場合、酸素イオンにより前駆体膜が酸化して金属酸化物膜となる。金属酸化物膜に酸素イオンを照射することで、金属酸化物膜の構成粒子が再配列し、再配列した粒子がより大きな集合体(クラスター)となって結晶化する。これにより、金属酸化物膜が硬質化される。ここで、金属酸化物膜の膜厚は、20〜300nmの範囲内に設定することが好ましい。300nmより厚いと、金属酸化物膜の表面では十分に結晶化されるものの、金属酸化物膜の全体を効率よく硬質化できないという不具合が生じる虞がある。
【0013】
上述したように、第1工程で酸素イオンを照射した後の金属酸化物膜表面には微細な凹凸が存在する。本発明では、第2工程にて、減圧下の処理室内に酸素ガスと不活性ガスを導入してプラズマを形成し、このプラズマ雰囲気に上記第1工程にて酸素イオンが照射された金属酸化物膜を曝すことにより、金属酸化物膜表面がエッチングされ、その結果、金属酸化物膜の表面平滑性が飛躍的に向上する。このように、表面平滑性に優れた硬質の金属酸化物膜が得られるため、この金属酸化物膜を具備する樹脂板を輸送機械の窓材として利用できる。
【0014】
第2工程において、酸素ガスと不活性ガスとの総流量に対する不活性ガスの流量比を、15%〜40%の範囲内に設定することが好ましい。不活性ガスの流量比が40%を超えると、スパッタエッチング効果が大きくなり、偏析した凹凸部分のみを効率良くエッチングできず、硬質化した金属酸化物膜のエッチング量が多くなるという不具合がある一方で、15%より小さいと、金属酸化物膜表面の凹凸部分がエッチングされないかエッチング速度が遅くなるという不具合がある。また、第2工程では、3×10−3Pa以下の圧力に減圧してから酸素ガスと不活性ガスを導入してプラズマを形成することが好ましい。これによれば、プラズマにて水分が分解されることを抑制でき、その水分の分解により生じる水酸化物イオンや水素イオンによって金属酸化物膜の表面が還元されることが防止できる。
【0015】
本発明において、第1工程の前に、減圧下の処理室内で金属酸化物膜を加熱する工程を更に含むことが好ましい。これによれば、第1工程で金属酸化物膜から放出されるガス量を低減でき、金属酸化物膜を硬質化できる。尚、加熱温度は、樹脂板が熱変形しない範囲内で設定でき、例えば、樹脂板がポリカーボネート樹脂で構成される場合、100〜180℃の範囲内、好ましくは、110〜140℃の範囲内で設定できる。
【0016】
本発明は、樹脂板表面に形成される金属酸化物膜が、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含むものである場合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態の硬質化装置の構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、処理対象物を樹脂板の表面に金属酸化物膜を形成したものとし、この処理対象物を水平に移送し、イオンガンから金属酸化物膜に酸素イオンを照射し、ECRプラズマ源で生成した酸素ガスと不活性ガスのプラズマに金属酸化物膜を曝す場合を例に、本発明の実施形態の硬質化装置及び金属酸化物膜の硬質化方法を説明する。
【0019】
図1を参照して、Mは、本実施形態の硬質化装置であり、硬質化装置Mは、インライン式に構成されたものであり、例えば、図示省略の真空ポンプで真空引きされ、互いに連設される真空処理室10a,10b,10cを画成する直方体形状の真空チャンバ1を備えている。真空処理室10aの上流側(左側)及び真空処理室1cの下流側(右側)には、図示省略の真空ポンプで真空引きされる、上流側の真空補助室2aを画成する補助真空チャンバ(ロードチャンバ)2と、下流側の真空補助室3aを画成する補助真空チャンバ(アンロードチャンバ)3とがゲートバルブGVを介して夫々連設されている。以下においては、図1を基準に、補助真空チャンバ2から真空チャンバ1を介して補助真空チャンバ3に向かう方向を移送方向とし、上、下、右、左といった方向と示す用語を用いるものとする。
【0020】
真空処理室10a,10b,10cと、両真空補助室2a,3aとの底部には、移送方向に線状にのびるように一対のレール部材4,4が設けられている。レール部材4には、スライダ5がスライド自在に係合し、このスライダ5上にステージ6が設けられている。ステージ6は、スライダ5に固定された本体60と、本体60に設けられた駆動部61と、駆動部61により回転駆動される駆動軸62と、駆動軸62の上端に固定された回転テーブル63とを備えている。このような構成を採用することにより、樹脂板を移送しながら回転できる。レール部材4、スライダ5及びステージ6は、移送手段を構成する。
【0021】
真空チャンバ1の上壁には、その下方へと延出する仕切り板11a,11bが設けられ、3つの真空処理室10a,10b,10cが画成されている。最上流側の真空処理室(脱ガス室)10aの上部空間には、加熱手段7が設けられ、樹脂板表面の金属酸化物膜を加熱できるようになっている。加熱手段7は、例えば、ハロゲンランプユニットやエキシマランプユニット等の公知の構造のものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0022】
真空処理室10aよりも下流側の真空処理室(イオン照射室)10bの上部空間には、イオンガン8が設けられている。イオンガン8は、例えば、スリット状の開口部81aが形成されたステンレス鋼で構成される陰極81と、開口部81aの幅方向に漏洩磁場を発生させる磁石82と、この漏洩磁場に対して略直交方向に電界を生じさせるように陰極81の裏面(上面)から離間して配置された強磁性体又は弱磁性体で構成される陽極83と、これら磁石82及び陽極83を囲む枠状のヨーク84と、冷却媒体の流路85とを備える。そして、ヨーク84により区画される4つの空間(漏洩磁場域)に酸素ガスを導入し、図外の電源から陰極81と陽極83との間に電力を印加することにより、開口部81aから引き出された酸素イオンをシャワー状に金属酸化物膜に照射できるようになっている。このとき、処理対象物Wを回転させることで、金属酸化物膜に対して酸素イオンを均一に照射できる。酸素イオン照射時間は、金属酸化物膜の硬質化が行われるのに十分な時間に設定でき、例えば、20〜60秒の範囲内で設定できる。金属酸化物膜の硬質化を効率よく行うために、イオンガン8と金属酸化物膜との間の距離は、例えば、5cm〜15cmの範囲内で設定することが好ましい。
【0023】
真空処理室10bよりも下流側の真空処理室(プラズマ処理室)10cの上部には、ECRプラズマ源9が設けられている。ECRプラズマ源9は、例えば、プラズマ発生室90と、プラズマ発生室90の上部に接続されるマイクロ波導波管91と、プラズマ発生室90の周囲に配置され、図示省略の電源に接続された電磁石92と、プラズマ発生室90に接続され、酸素と不活性ガスを導入するガス導入管93とを備える。マイクロ波導波管は、図外のマグネトロンに連通し、このマグネトロンは、図示省略のマイクロ波電源に接続されている。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスを用いることができ、そのうちのアルゴンガスを好適に用いることができる。そして、プラズマ発生室90に酸素と不活性ガスのプラズマPを発生させ、このプラズマPが処理対象物Wへと流れることで、金属酸化物膜をプラズマに曝すことができるようになっている。ECRプラズマ源9と金属酸化物膜との間の距離は、例えば、7cm〜15cmの範囲内で設定することが好ましい。
【0024】
上記硬質化装置Mは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた図示省略の制御手段を有し、この制御手段により加熱手段7、イオンガン8及びECRプラズマ源9の作動やゲートバルブGV及び移送手段の作動等が統括制御されるようになっている。以下、上記硬質化装置Mを用いて、本実施形態の硬質化方法を、処理対象物をポリカーボネート樹脂板の表面に塗布法により酸化チタン膜が形成されたものとし、この酸化チタン膜を硬質化する場合を例に説明する。
【0025】
ここで、ポリカーボネート樹脂板のほかに、アクリル樹脂板やエポキシ樹脂板を用いることができる。また、酸化チタン膜のほかに、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を用いることができる。
【0026】
先ず、上流側の補助真空室2aにて処理対象物Wをステージ6上に保持させ、この補助真空室2aを所定圧力まで真空引きする。そして、上流側のゲートバルブGVを開け、スライダ5を介してステージ6を移送方向下流側(図1中、右側)に向けて移動させる。これにより、ステージ6がゲートバルブGVを設けた空間を跨いで、所定圧力まで真空引きされた脱ガス室10aに移送され、処理対象物Wが、加熱手段7に対向する位置に到達する。そして、加熱手段7により処理対象物Wの金属酸化物膜が加熱され、加熱された金属酸化物膜から放出されるガスが排気される。加熱温度は、樹脂板が変形しない範囲内で適宜設定でき、例えば、ポリカーボネート樹脂板の場合、100〜180℃の範囲内、好ましくは、110〜140℃の範囲内で設定できる。加熱時間は、金属酸化物膜から放出されるガスの量に応じて設定でき、例えば、30分〜120分の範囲内で設定できる。
【0027】
次に、ステージ6を搬送方向下流側に更に移動させることにより、ステージ6が所定圧力まで真空引きされたイオン照射室10bに移送され、処理対象物Wが、イオンガン8に対向する位置に到達する。そして、イオンガン8に酸素ガスを導入し、陰極81と陽極83との間に所定の電力を印加することにより、イオンガン8から酸化チタン膜に酸素イオンが照射される(第1工程)。このとき、処理対象物Wを回転させることで、酸化チタン膜の全体に均一に酸素イオンを照射できる。これにより、酸化チタン膜の構成原子が再配列し、再配列した粒子がより大きな集合体(クラスター)となって結晶化することで、酸化チタン膜が硬質化される。さらに、前工程で脱ガスを行うことで、第1工程で酸化チタン膜から放出されるガス量を低減できるため、硬質化をより一層効率的に行うことができる。イオン照射時間は、酸化チタン膜全体が硬質化されることを考慮して、20秒〜120秒の範囲内、好ましくは、20秒〜60秒の範囲内で設定できる。尚、樹脂板表面に形成された膜が酸化チタン膜の前駆体膜である場合、酸素イオンにより前駆体膜が酸化して酸化チタン膜となり、その後、構成原子の再配列が起こる。また、第1工程にて、アルゴン等の不活性ガスのイオンが照射されないため、酸化チタン膜表面がエッチングされて表面荒れを起こすという不具合が生じない。
【0028】
このように酸化チタン膜が硬質化される間に起こる偏析により、硬質化後の金属酸化物膜表面には微細な凹凸が形成される。この凹凸は、硬質化された酸化チタン膜よりも軟らかい有機物で主に構成されている。
【0029】
そこで、本発明では、ステージ6を搬送方向下流側に更に移動させることにより、ステージ6が所定圧力まで真空引きされたプラズマ処理室10cに移送され、処理対象物Wが、ECRプラズマ源9に対向する位置に到達する。ECRプラズマ源9に酸素ガスと不活性ガスたるアルゴンガスを導入し、マイクロ波導波管91からマイクロ波を導入し、電磁石92に通電して磁場を発生させることで、プラズマPを発生させる。そして、この発生させたプラズマPを処理対象物Wに向けて照射することで、酸化チタン膜がプラズマに曝されて酸化チタン膜表面の凹凸がエッチングされ、これにより、酸化チタン膜の表面平滑性が向上する(第2工程)。
【0030】
第2工程において、酸素ガスと不活性ガスとの総流量に対する不活性ガスの流量比を、15%〜40%の範囲内に設定することが好ましい。不活性ガスの流量比が40%を超えると、スパッタエッチング効果が大きくなり、偏析した凹凸部分のみを効率良くエッチングできず、硬質化した金属酸化物膜のエッチング量が多くなるという不具合がある一方で、15%より小さいと、金属酸化物膜表面の凹凸部分がエッチングされないかエッチング速度が遅くなるという不具合がある。また、第2工程では、3×10−3Pa以下の圧力に減圧してから酸素ガスと不活性ガスを導入してプラズマを形成することが好ましい。これによれば、プラズマにて水分が分解されることを抑制でき、その水分の分解により生じる水酸化物イオンや水素イオンによって酸化チタン膜の表面が還元されることが防止できる。
【0031】
上記実施形態によれば、樹脂板表面に形成した金属酸化物膜を表面平滑性よく硬質化できるため、厚い樹脂板であっても、その表面の平滑性よく硬質化できる。そして、硬質化された酸化チタン膜を具備するポリカーボネート樹脂板を輸送機械の窓材として利用できる。しかも、硬質化装置Mをインライン式に構成して、処理対象物Wに対して脱ガス処理、酸素イオン照射処理、プラズマ処理を減圧下で連続して行うことができるため、量産性に優れている。
【0032】
以上の効果を確認するために、上記硬質化装置を用いて次の実験を行った。即ち、処理対象物Wとして、鉄道車両用の厚みが5mmで1辺100mmのポリカーボネート樹脂板の表面に、酸化チタン(酸化チタンナノシート)を含むコロイド溶液をディップコート法により塗布して酸化チタン膜を約20nmの厚みで形成したものとした。この処理対象物Wを図1に示す硬質化装置Mの真空処理室10aに移送し、加熱手段7により酸化チタン膜を120℃で60分加熱する。加熱後の処理対象物Wを真空処理室10bに移送し、酸化チタン膜に対してイオンガン8から酸素イオン照射を行うことで硬質化した。酸素イオンの照射条件は、供給電力を200W(DC1kV、0.2A)、酸素ガス流量を200sccm、照射時間を60秒とした。酸素イオン照射後の処理対象物Wを真空処理室10cに移送し、ECRプラズマ源9で生成した酸素ガスとアルゴンガスのプラズマに曝した。このプラズマによる処理条件は、酸素ガス流量を100sccm、アルゴンガス流量を200sccm(このとき、総流量基準でのアルゴンガス流量比は67%)、マイクロ波電力を2.45GHz、800Wとした。プラズマ処理後の酸化チタン膜に対して鉛筆引っかき試験を、JIS−K5600−5−4に記載の方法に準拠して実施したところ、9H以上の鉛筆硬度を示し、酸化チタン膜が硬質化されていることが確認された。そして、プラズマ処理後の酸化チタン膜表面の平均粗さ(R)が0.03μm、最大粗さ(Rp−p)が0.18μmであり、優れた表面平滑性が達成できることが確認された。また、硬質化した酸化チタン膜に対して、テーバー摩耗試験を実施した。このテーバー摩耗試験は、JIS−R3212「自動車安全ガラス試験方法」の中に定められた耐摩耗性の試験方法に準拠し、CS−10F摩耗輪2個を4.9Nの荷重で1000回転させて摩耗試験を行い、試験前後の曇価を測定しその増加量ΔHzを算出した。テーバー磨耗試験を行ったところ、磨耗前後での曇価の変化量(ΔHz)の平均値は0.13となり、耐摩耗性に優れていることも確認された。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、インライン式に構成された硬質化装置を例に説明したが、所謂クラスターツールとして構成された硬質化装置にも本発明を適用することができる。上記実施形態では、イオンガンを用いて酸素イオンを照射する場合について説明したが、イオン源で発生させた複数種のイオンから酸素イオンを質量分離して照射するイオン注入装置を用いることもできる。
【0034】
また、上記実施形態では、処理対象物Wを水平に保持した状態で移送する場合を例に説明したが、処理対象物を垂直に保持した状態で移送するように構成してもよい。この場合、処理対象物の金属酸化物膜に対向して加熱手段7、イオンガン8及びECRプラズマ源9を配置すればよい。
【0035】
真空処理室10aの上流側に、この真空処理室10aと同一構成の真空処理室を更に連設してもよい。これによれば、移送速度を落とすことなく、加熱時間を長く確保できるため、金属酸化物膜からのデガス量が多い場合に適している。また、真空処理室10aの上流側に、金属酸化物膜の成膜を行う真空処理室(例えばスパッタ室)を更に連設してもよい。これによれば、金属酸化物膜の成膜から硬質化までを真空下で連続して行うことができるため、量産性をより一層向上できる。
【0036】
上記実施形態では、ECR式でプラズマを発生させているが、容量結合式又は誘導結合式等の公知の構造のものを用いてプラズマを発生させることができる。但し、処理時間を短くできる観点から、ECR式のものを用いることが好ましい。
【0037】
樹脂板表面の平均粗さ(R)は0.05μmより小さいことが好ましく、0.03μmより小さいことがより好ましい。樹脂板表面の最大粗さ(Rp−p)は0.1μmより小さいことが好ましく、0.08μmより小さいことが好ましい。これによれば、樹脂板と金属酸化物膜との間で優れた密着性が得られる。
【0038】
上記金属酸化物膜の形成方法としては、金属酸化物膜を樹脂板表面に直接成膜する、PVD法(例えばスパッタリング法)やCVD法等の気相法だけでなく、樹脂板表面に塗布液を塗布して金属酸化物膜を形成する液相法を用いることができる。本発明は、液相法を用いて金属酸化物膜を形成(成膜)する場合に特に適している。塗布液の塗布方法としては、ディップコート法、スピンコート法、フローコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、シルクスクリーン法など公知の方法を用いることができ、特に、室温プロセスであるディップコート法が好適に用いられる。塗布液としては、金属酸化物(例えば、鱗片状の粒子である酸化チタンナノシートや酸化ニオブナノシート)又は金属水酸化物を含むコロイド溶液、金属アルコキシドを含むゾルゲル溶液、金属錯体溶液等を用いることができる。これらの塗布液は、公知の製造方法を用いて製造できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0039】
M…硬質化装置、W…処理対象物、P…プラズマ、4…レール部材(移送手段)、5…スライダ(移送手段)、6…ステージ(移送手段)、7…加熱手段、8…イオンガン(酸素イオン照射手段)、9…ECRプラズマ源(プラズマ形成手段)、10a,10b,10c…真空処理室。
図1