(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043568
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】質量分析装置、質量分析方法、及びイオン源
(51)【国際特許分類】
H01J 49/10 20060101AFI20161206BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20161206BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
H01J49/10
H01J49/04
G01N27/62 G
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-220467(P2012-220467)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-75182(P2014-75182A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(72)【発明者】
【氏名】小原 賢信
(72)【発明者】
【氏名】照井 康
【審査官】
杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−110544(JP,A)
【文献】
特開平09−274885(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/093394(WO,A1)
【文献】
特開2012−089268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J49/02−49/24
G01N27/62−27/70
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放端と閉端を有する筒形状の容器であり、測定試料溶液が導入される容器と、前記容器の内空間に電圧を印加する一対の電極とを有するイオン源と、
前記一対の電極に電圧を印加する電圧源と、
前記開放端に向けてイオン取り込み口を配置した分析部と、
前記分析部で選択されたイオンを検出する検出部と、
前記一対の電極に対する電圧の印加タイミングを制御して前記容器内の測定試料溶液に気泡を発生させ、前記開放端の方向に成長する気泡と共に放出されるイオンを前記分析部及び前記検出部を通じて計測する制御部と
を有する質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記容器の一部に形成され、測定試料溶液の導入に使用される小孔と、
測定試料溶液を送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプと前記小孔を接続する配管と
を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析装置において、
前記小孔は、筒形状の前記容器のうち閉じられている側の端面に形成される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の質量分析装置において、
前記小孔の内径は前記容器の内径の1/3以下、又は、前記小孔の断面積は前記容器の断面積の1/10以下に形成される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項2に記載の質量分析装置において、
前記電圧源はパルス電源であり、
前記制御部は少なくとも前記電圧源による電圧の印加が停止されている間は、前記送液ポンプによる測定試料溶液の送液を停止制御する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記容器はその内空間の一部に絞り部を有する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記イオン取り込み口の前方に液よけを有する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の質量分析装置において、
前記イオン取り出し口の軸方向が、前記容器の開放端における軸方向に対して下方を向くように配置される
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項9】
開放端と閉端を有する筒形状の容器であり、測定試料溶液が導入される容器と、
前記容器の内空間に電圧を印加する一対の電極と、を有し、
前記容器の一部に、測定試料溶液が送液ポンプから配管を通じて導入される小孔が形成されており、
前記小孔は、筒形状の前記容器のうち閉じられている側の端面に形成され、
前記小孔の内径は前記容器の内径の1/3以下、又は、前記小孔の断面積は前記容器の断面積の1/10以下に形成される
ことを特徴とするイオン源。
【請求項10】
開放端と閉端を有する筒形状の容器であり、測定試料溶液が導入される容器と、前記容器の内空間に電圧を印加する一対の電極とを有するイオン源と、前記一対の電極に電圧を印加する電圧源と、前記開放端に向けてイオン取り込み口を配置した分析部と、前記分析部で選択されたイオンを検出する検出部とを有する質量分析装置における質量分析方法であって、
前記一対の電極に対する電圧の印加タイミングを制御して前記容器内の測定試料溶液に気泡を発生させる処理と、
前記開放端の方向に成長する気泡と共に放出されるイオンを前記分析部及び前記検出部を通じて計測する処理と
を有する質量分析方法。
【請求項11】
請求項10に記載の質量分析方法において、
少なくとも前記一対の電極に対する電圧の印加が停止されている間、前記容器内への送液ポンプによる測定試料溶液の送液を停止制御する
ことを特徴とする質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置、質量分析方法、及びイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術が特許文献1及び2に記載されている。
特許文献1には、絶縁性材料を加工して形成した流路の一部分にその断面積に比して著しく小さい断面積を有する狭小部を設けたチップと、狭小部を通過するように電界を発生する一対の電極とを有するプラズマ発光分析装置が記載されている。また、このプラズマ発光分析装置は、流路及び狭小部に導電性液体を満たした状態で狭小部の両側に電界を印加することにより、狭小部にプラズマを発生させ、発生したプラズマのスペクトルを分光器で分析する。
【0003】
特許文献2には、筒体の内部にその内径よりも十分に小さい径を有する液滴を導入してプラズマを発生させる装置が記載されている。なお、筒体の内部は空洞であり、発生されたプラズマは筒体内部に均等に広がるように成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3932368号公報
【特許文献2】国際公開第2006/137205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、元素分析には、誘導結合式プラズマ発光分析装置(ICP-OES)、誘導結合式プラズマ質量分析装置(ICP-MS)、原子吸光光度計などが用いられる。中でも、高い分析感度が要求される用途には、ICP-MSが用いられている。
【0006】
ところが、ICP-OES及びICP-MSは、プラズマの発生にアルゴン等のガスを使用するため分析コストが高く、この点が問題として指摘されている。また、これらの分析装置は、プラズマ部分の発熱量が大きいため、プラズマ部分を小さく作成できないという問題がある。
また原子吸光光度計も燃焼ガスを使用するため、上記同様の問題が生じている。
【0007】
前述した特許文献1に記載のプラズマ発光分光分析装置は、これらの問題を解決する一つの方法を提示する。しかし、この分析装置は、発生したプラズマが流路内に閉じ込められるため、質量分析には応用できない。
【0008】
一方、特許文献2には、発生したプラズマを筒体の一方の開口から取り出すことが記載されているが、プラズマ化されて膨張する液滴は空間内に均等に広がるため(すなわち、筒体の開口側だけでなく、開口の反対方向にも均等に広がるため、発生したプラズマの一部分しか外部に取り出すことができないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明者は、ガスを使用せず、かつ、効率良くプラズマ(分析対象であるイオン化物を含む)を取り出すことが可能な質量分析装置及びイオン源を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、開放端と閉端を有する筒形状の容器の内空間を充填するように測定試料溶液を導入し、その後、充填された測定試料溶液に電界を印加して気泡(プラズマ)を発生させる。この後、気泡(プラズマ)の成長を継続すると、イオン化物を含む気泡(プラズマ)は開放端の方向に成長し、開放端から外部へと放出される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容器内に発生する気泡(プラズマ)は、容器の開放端の方向に成長するため、イオン成分を含む気泡(プラズマ)を効率的に外部に取り出すことができる。また、本発明は、気泡(プラズマ)の発生にガスを使用しないため、従来方式に比して分析コストを低減することができる。上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に係る質量分析装置の主要構成を説明する図。
【
図2A】実施例1に係るイオン源の容器内に測定試料を充填した状態を示す図。
【
図2B】実施例1に係るイオン源の容器内で発生する気泡の発生状態を説明する図。
【
図2C】実施例1に係るイオン源の容器内における気泡の成長に伴う液滴の排出を説明する図。
【
図2D】実施例1に係るイオン源の容器内における気泡の成長に伴う液滴やガス化したイオン化物の排出を説明する図。
【
図3】実施例2に係る質量分析装置の主要構成を説明する図。
【
図4】実施例2に係る質量分析装置の駆動タイミングを説明する図。
【
図5】実施例3に係る質量分析装置で使用するイオン源の容器の構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0014】
(実施例1)
[装置構成]
図1に、本実施例に係る質量分析装置100の主要部を示す。質量分析装置100は、イオン源(容器101、電極111及び112)、高圧電源110、分析部122、検出部123、コンピュータ130を有している。
【0015】
本実施例の場合、容器101は、その内径が10μm〜数mmの筒状体(例えば円筒形状)であり、その軸方向の長さが5mm〜50mmである。容器101の一端側(図では右側)は開放端102であり、他端側(図では左側)は閉端103である。質量分析時には、分析開始前に、開放端102から測定試料溶液が導入され、容器101の内空間に充填される。本実施例における測定試料溶液は電気伝導性を有する必要がある。このため、測定試料溶液には、一般的な元素分析で使用される酸、例えば硝酸などが適当である。その他にも塩酸、硫酸など各種の産を使用することが可能である。また、電気伝導性を有する塩類が含まれる溶液を用いても良い。
【0016】
容器101には、測定試料溶液に電界を印加するために使用する電極111及び112が取り付けられる。電極111及び112は、その先端部分が容器101の内壁面から露出するように容器101に対して取り付けられており、それぞれ配線113と配線114を通じて高圧電源110に接続されている。高圧電圧の印加により、電極111及び112間に電界が発生する。
【0017】
本実施例の場合、電極111及び112は、容器101の軸方向に2mm〜20mmほど離して取り付けられている。なお、電極111及び112の容器101に対する取り付け位置は任意である。もっとも、電極111及び112は、容器101の開放端102の近くに取り付けることが望ましい。電界の印加により発生する気泡/プラズマの膨張力により液滴化又はガス化したイオン化物を開放端102から効率的に放出させるためである。
【0018】
また、気泡/プラズマの生成に適した電圧の印加条件は、印加する電圧の大きさ、電圧を印加する時間、容器101の内空間の形状、電極の配置、測定試料溶液の組成等に依存する。このため、一概に電圧の印加条件を特定することはできない。本実施例では、500V以上、より望ましくは1kV以上、より望ましくは1.5kV以上、さらに望ましくは2.5kV以上の電圧を電極111と電極112の間に印加する。また、本実施例の場合、電圧の印加時間は0.1m秒以上、より望ましくは0.2m秒以上、より望ましくは0.5m秒以上、さらに望ましくは0.8m秒以上とする。
【0019】
容器101の開放端102は、分析部122のイオン取り込み口121の方向を向いている。開放端102とイオン取り込み口121の距離は任意であるが、少なくとも必要量のガス化したイオン化物を取り込めるように設定する。なお、開放端102の周辺に不図示の送風口や送風ファンを配置し、イオン化物が溶け込んでいる液滴を効率的にガス化しても良い。なお、液滴のガス化には、高温ガスの吹き付けが望ましい。
【0020】
分析部122は、イオン化された測定試料を分離する部位であり、本実施例の場合、イオントラップ型の分析部を使用する。例えば四重極トラップ型の分析部やリニアイオントラップ型の分析部を使用する。検出器123は、分析部122で選別されたイオンを検出する部位である。
【0021】
コンピュータ130は、装置全体の動作を制御する制御部であり、高圧電源110とは信号線132で接続され、分析部分120とは信号線131で接続されている。また、コンピュータ130は、検出器123と信号線133で接続されており、検出器123から検出信号を入力して各種のデータ処理を実行し、原子種及び分子種を測定し、推定し、定量する。コンピュータ130は、高圧電圧の印加タイミング、分析タイミング、検出タイミングを同期させる。
【0022】
[イオンの発生原理]
続いて、本実施例に係るイオン源は、ガスを使用することなく、測定試料のイオンを効率的に分析部122に供給できることを説明する。以下では、
図2A〜
図2Dを用い、イオンの発生動作を説明する。なお、
図2A〜
図2Dは、容器101と電極111及び112の周辺のみを表している。
【0023】
(1)測定試料溶液の充填
図2Aは、測定試料溶液140を容器101に導入した状態を模式的に表している。測定試料溶液140は、開放端102の付近を除き、容器101の内部を満たしている。測定試料溶液140は、気泡等が容器101内に存在しないように充填されることが望ましい。特に、閉端103側に気泡等が存在しないことが望ましい。また、充填の完了時点で、測定試料溶液140は電極111と電極112に接している必要がある。
【0024】
(2)気泡の発生
電極111と電極112の間に高電圧を印加すると、測定試料溶液140が電導路となり、電極111と電極112の間に電流が流れる。この際、測定試料溶液140は、ジュール熱により温度上昇し、一部が気泡141となる。
図2Bに、発生した気泡141の初期状態を示す。気泡141は、電極111と電極112の間に発生する。
【0025】
電圧の印加を継続すると、気泡141の内部で放電が起こり、そのジュール熱により気泡141は膨張を続ける。この際、気泡141の内部では放電に伴うプラズマが発生しており、測定試料溶液140に含まれる成分のイオン化が起こる。
【0026】
(3)気泡の成長
図2Cに示すように、気泡の膨張が続いて気泡141の内部に電極111と電極112が取り込まれる状態になると、電極111と電極112の間には測定試料溶液140を介する場合よりも多くの電流が流れる状態になる。この結果、気泡141の温度は一段と上昇し、気泡141の膨張は加速される。また、測定試料溶液140に含まれる成分のイオン化も一段と促進される。
【0027】
この実施例の場合、気泡141は、主に、開放端102の方向に膨張する。容器101の奥側(閉端103側)は密閉されており、かつ、気泡141と閉端103の間には測定試料溶液140が満たされているため、気泡141が膨張できる空間的な余地がないためである。一方、容器101の開放端102側は、文字通り、容器101が外に開いており、気泡141の膨張を妨げるような力は作用しない。このため、気泡141は容器101の開放端102の方向に成長を続けることになり、開放端102と気泡141の間にあった測定試料溶液140は開放端102の方向に押される。結果的に、開放端102を通過した測定試料溶液140の一部は液滴142として飛散する。
【0028】
(4)液滴(イオン)の放出
さらに電圧の印加を続けると、気泡141の膨張が継続し、やがて気泡141が開放端102から容器101の外部に向けて爆発的に放出される。この状態を、
図2Dに示す。この際、気泡141の内部で生成された測定試料溶液140に含まれる成分のイオン化物143も容器101の外側に放出される。この際、イオン化物143はガス化している。
【0029】
本実施例に係る質量分析装置100は、このように容器101の外部に放出された測定溶液140に含まれる成分のイオン化物143を分析部122に取り込み、検出部123で検出し、コンピュータ130で解析する。このようにして、質量分析装置100は、測定試料溶液140に含まれる原子種及び分子種を測定し、推定し、定量する。
【0030】
[まとめ]
以上のように、本実施例に係る質量分析装置100によれば、アルゴンガス等を用いることなく小さいプラズマを容器101内に発生することができ、かつ、当該プラズマにより生成されたイオン化物143を分析部122の方向に効率良く取り出すことができる。
【0031】
(実施例2)
[装置構成]
続いて、前述した原理を使用する質量分析装置の他の実施例を示す。
図3に、本実施例に係る質量分析装置200の主要部を示す。
図3には、
図1との対応部分に同一符号を付して示す。
【0032】
本実施例の場合、容器101の閉端面に小孔201が加工されている。小孔201には測定試料溶液140を送液するための配管202が接続されている。なお、小孔201の加工位置は任意である。ただし、測定の終了した測定試料溶液140が容器101内に残り難くするためには、
図3に示すように容器101の底面である閉端103に加工することが望ましい。
【0033】
小孔201の内径は容器101の内径に対して十分小さく形成されている。その理由は、容器101内で発生し成長する気泡141によって測定試料溶液140が配管202の方向に逆流しないようにするためである。本実施例では、小孔201の内径は容器101の内径の1/3以下になるように設定する。または、小孔201の断面積が容器101の断面積の1/10以下になるように設定する。本実施例の場合、小孔201の内径は500μm程度に設定する。
【0034】
一端が小孔201に接続された配管202の他端は、送液ポンプ203に接続される。送液ポンプ203は、配管202を通じ、測定試料溶液140を容器101内に導入するために用いられる。すなわち、本実施例では、測定試料溶液140は、容器101の底面側(閉端103側)から導入される。この他、送液ポンプ203は、洗浄液(例えば純水)も送液することができる。
【0035】
送液ポンプ203とコンピュータ130は配線134を通じて接続されており、測定試料溶液140の送液はコンピュータ130により制御される。本実施例の場合、送液ポンプ203の送液制御により、電圧の印加と同期した測定試料溶液140の導入が容易になる。このため、同一試料についての測定の繰り返しが容易となり、測定の再現性及び感度を向上させることができる。
【0036】
コンピュータ130は、送液タイミングと高電圧の印加タイミングを同期させるだけでなく、質量分析タイミングとの同期も実現する。このように、本実施例では、送液タイミング、高電圧の印加タイミング、質量分析タイミングを同期させ、同一の測定試料溶液についての繰り返し測定を実現する。因みに、本実施例の場合、高圧電源110として高圧パルス電源を使用する。
【0037】
また、本実施例の場合、容器101に対する分析部122の配置が実施例1と異なっている。実施例1の場合には、容器101の中心軸と分析部122に設けられたイオン取り込み口121の中心軸とがほぼ一致するように、すなわち容器101の開放端102と分析部122のイオン取り込み口121が対向するように配置していた。しかし、この配置では、容器101の開放端102から放出された液滴がイオン取り込み口121に直接入り込む可能性がある。
【0038】
そこで、本実施例では、イオン取り込み口121の前方(容器101とイオン取込み口121の間)に溶液よけ204を設置する。溶液よけ204は漏斗形状を有し、先端部分にイオン化物143を取り込むための小孔が形成されている。また、溶液よけ204は、イオン取り込み口121の開口径の全体を覆うように分析部122に対して位置決めされている。
【0039】
さらに、本実施例では、イオン取り込み口121の中心軸が測定試料の飛散方向に対してオフセットするように、分析部122を取り付けている。具体的には、気泡141(又はイオン化物143)よりも測定試料溶液140(又は液滴142)の重量密度が重いことを考慮し、イオン取り込み口121の軸方向を水平から鉛直下向きに傾けている。
【0040】
[制御タイミング]
図4に、本実施例に係る質量分析装置200で使用する制御タイミングを示す。上から順に、送液ポンプ203による送液タイミング、高圧電源110によるパルス電圧の印加タイミング、分析部122による分析タイミング(イオントラップタイミング)、検出部123によるイオン検出タイミング(スイープタイミング)である。
【0041】
本実施例の場合、送液ポンプ203による測定試料溶液140の容器101内への導入は、高電圧の印加終了から次の高電圧の印加開始までの間に行われる。もっとも、測定試料溶液140を、一定の流量で、容器101内に導入することも可能である。ただし、一定流量の測定試料溶液140を容器101内に常に導入する方法は、高電圧の印加終了後に開始されるイオントラップやイオン検出に長時間を要する場合には適さない。なぜなら、高電圧の印加終了後は、容器101内に導入された測定試料溶液140が気泡化されることもなく、容器101の開放端102から流れ出るだけだからである。すなわち、導入された測定試料溶液140が分析に使用されないまま無駄に廃棄されるのに加え、計測系を汚染する原因にもなるからである。
【0042】
そこで、本実施例では、高電圧パルスの印加と同時又はそれより前に送液を停止し、電圧印加が終了してから次の電圧印加までの間に、気泡発生による体積の減少を補う分だけ測定試料溶液140を送液する手法を採用する。この送液制御により、測定試料の微量化と測定器の汚染の軽減が実現される。
【0043】
なお、高圧電源110による電圧の印加をパルス状に繰り返す際に、分析部122は電圧印加とほぼ同じタイミングでイオントラップを開始する。イオントラップは、電圧印加と同時又は若干遅く終了することが望ましい。このタイミング制御により、検出部123によるイオン検出の時間を確保することが可能となる。検出部123によるイオンの検出は、イオントラップの終了と同時又は若干遅く開始し、次の電圧印加開始のタイミングと同時又は若干早く終了する。
【0044】
[まとめ]
本実施例に係る質量分析装置200の場合にも、実施例1の同様の効果を実現することができる。すなわち、アルゴンガス等を用いることなく、プラズマにより生成されたイオン化物143を分析部122の方向に効率良く取り出し、測定試料を質量分析することができる。
【0045】
さらに、本実施例に係る質量分析装置200の場合には、測定試料溶液140の容器101内への導入を、高電圧の印加タイミング、イオントラップタイミング、スイープタイミングに同期させることができる。このため、同一試料についての繰り返し測定が可能となり、測定の再現性及び感度の向上が実現される。
【0046】
また、イオン取り込み口121の取り付け向きの変更や溶液よけ204の配置により、測定試料溶液140の液滴142による分析部122の汚染を低減することができる。
【0047】
(実施例3)
前述の2つの実施例においては、容器101の内径が、閉端103から開放端102まで全て同一である場合を想定した。しかしながら、
図5に示すように、いわゆる砂時計のように内空間の一部分に絞り部(狭小部)302を有する容器301を用いても良い。勿論、容器301の一方側は開放端102であり、他方側は閉端103である。また、容器301の内部には測定試料溶液140を充填し、不図示の電極111及び電極112に印加する高電圧により気泡140(プラズマ)を発生させる点は、前述の実施例と同様である。なお、不図示の電極111及び電極112は、絞り部(狭小部)302を挟むように絞り部(狭小部)302の両側に配置する。
【0048】
本実施例のように、内空間に絞り部(狭小部)302を有する容器301では、気泡140の発生位置を絞り部(狭小部)302にほぼ固定することができる。このため、質量分析の再現性が容器101を使用する場合に比して向上する。なお、容器301の内側の空洞部分は、回転軸対称に形成されている。各寸法は
図5に示す通りである。例えば絞り部(狭小部)302の内径aは、0.05mm〜0.2mm程度とする。また、内空間の最大内径bは3mm以下とする。また、容器301の軸方向長さcは5mm〜50mmとするが、10mm前後が望ましい。また、絞り部(狭小部)302とその両側の内空間とを接続する斜面の角度θ1及びθ2は、いずれも10°〜80°程度とし、望ましくは30°〜60°とする。
【0049】
(他の実施例)
本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0050】
また、上記実施例では、限定された元素、溶液組成、計測条件を例として用いて説明を行ったが、本発明は実施例に記載の元素、溶液組成、計測条件に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0051】
101、301…容器
102…開放端
103…閉端
110…高圧電源
111、112…電極
113、114…配線
121…イオン取り込み口
122…分析部
123…検出部
130…コンピュータ
131、132、133、134…信号線
140…測定試料溶液
141…気泡
142…液滴
143…イオン化物
201…小孔
202…配管
203…送液ポンプ
204…溶液よけ
302…絞り部(狭小部)