特許第6043851号(P6043851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6043851有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料及び該化学蒸着用原料を用いた化学蒸着法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6043851
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料及び該化学蒸着用原料を用いた化学蒸着法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/18 20060101AFI20161206BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20161206BHJP
   C07C 251/08 20060101ALI20161206BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C23C16/18
   H01L21/285 301
   H01L21/285 C
   C07C251/08
   C07F15/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-180101(P2015-180101)
(22)【出願日】2015年9月11日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】原田 了輔
(72)【発明者】
【氏名】重冨 利幸
(72)【発明者】
【氏名】石坂 翼
(72)【発明者】
【氏名】青山 達貴
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/117955(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/210512(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0199739(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
C07C 251/08
C07F 15/00
H01L 21/285
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着法によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造するための化学蒸着用原料において、
次式で示される、ルテニウムに2つのジアザジエン配位子、及び、2つのアルキル配位子が配位した有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料。
【化1】
(式中、ジアザジエン配位子の置換基R〜Rは、水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基である。置換基R〜Rから選択される2以上の置換基は、相互に結合し、それらが直接結合する炭素原子又は窒素原子と共に環状構造を形成しても良い。置換基R〜Rから選択される2以上の置換基も、相互に結合し、それらが直接結合する炭素原子又は窒素原子と共に環状構造を形成しても良い。アルキル配位子である置換基R、R10は、炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【請求項2】
置換基R、R、R、Rの少なくともいずれかがアルキル基であり、前記アルキル基の少なくともいずれかが炭素数1以上4以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である請求項1に記載の化学蒸着用原料。
【請求項3】
置換基R、R、R、Rの少なくともいずれかがアルキル基であり、前記アルキル基の少なくともいずれかがメチル基である請求項1又は請求項2に記載の化学蒸着用原料。
【請求項4】
有機ルテニウム化合物からなる原料を気化して原料ガスとし、前記原料ガスを基板表面に導入しつつ加熱するルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の化学蒸着法において、
前記原料として請求項1〜請求項3のいずれかに記載の化学蒸着用原料を用いる化学蒸着法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学蒸着法(化学気相蒸着法(CVD法)、原子層蒸着法(ALD法))によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造するための有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料に関する。詳しくは、分解温度が低いとともに、適度な熱安定性を有する化学蒸着用原料に関する。
【背景技術】
【0002】
DRAM、FERAM等の半導体デバイスの薄膜電極材料としてルテニウム又はルテニウム化合物が使用されている。これらの薄膜の製造法としては、CVD法(化学気相蒸着法)、ALD法(原子層蒸着法)といった化学蒸着法が適用されている。このような化学蒸着法で使用される原料化合物として、従来から多くの有機ルテニウム化合物からなるものが知られている。
【0003】
化学蒸着用原料としての有機ルテニウム化合物としては、例えば、特許文献1には環状ジエニルであるシクロペンタジエニル基が配位する、化1に示すビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)が開示されている。特許文献2には鎖状ジエニルであるペンタジエニル基が配位する、化2に示すビス(2,4‐ジメチルペンタジエニル)ルテニウム(II)が開示されている。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【0006】
また、特許文献3には、ルテニウムにベンゼン環とジアザジエン基が配位する、化3に示すベンゼン(グリオキサールビスイソプロピルアミン)ルテニウム(II)が開示されている。
【0007】
【化3】
【0008】
更に、ルテニウムに配位する配位子として、構造中に酸素原子を含有するβ−ジケトナト配位子が適用される有機ルテニウム化合物もある。例えば、特許文献4には、テトラメチルヘプタンジオナトとカルボニルが配位する化4に示すジカルボニルビス(テトラメチルヘプタンジオナト)ルテニウムが開示されている。また、β−ジケトナト配位子として3つのアセチルアセトナトが配位する化5に示すトリス(アセチルアセトナト)ルテニウムもある。
【0009】
【化4】
【0010】
【化5】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−281694号公報
【特許文献2】特開2010−215982号公報
【特許文献3】国際公開第2013/117955号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6303809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
化学蒸着用の有機ルテニウム化合物に要求される特性は、かつては、ルテニウム薄膜形成の可否や効率性、取り扱い性等の基本的なものが主体であった。化学蒸着法では、原料化合物を気化して原料ガスとし、これを基板に輸送するが、効率的な薄膜形成には蒸気圧の高い化合物が好適であるとされている。また、原料の取り扱い性を考慮して熱的安定性が高く、容易に分解しないものが好ましいとされている。
【0013】
しかし、半導体デバイスの微細化や高性能化への要求はとどまるところを知らず、常に従来以上に高度なものの開発が進行している。この流れに対応するため、化学蒸着用原料となる有機ルテニウム化合物に要求される特性も変遷している。かかる新規な要求特性として挙げられるのが、成膜温度の低温化への要求と反応ガス選定の問題である。これらの問題は、いずれもルテニウム薄膜を形成する際の基板へのダメージや薄膜の品質にかかわるものである。
【0014】
上記した、化1の有機ルテニウム化合物は、蒸気圧が高いことに加え、熱的安定性が高いことから、古くからの観点から好適な有機ルテニウム化合物であった。更に、常温で液体状態にあることもこの有機ルテニウム化合物の有用性を高めていた。しかし、この有機ルテニウム化合物は分解温度が350℃と高いため、成膜温度を低く設定することができない。
【0015】
また、この有機ルテニウム化合物は、反応ガスとして酸素を導入しなければルテニウムを析出させることができないという問題があった。酸素ガスの使用は、シリコン等からなる基板の酸化の可能性があり、デバイス特性への影響が懸念される。
【0016】
化2の有機ルテニウム化合物も、常温で固体ではあるが蒸気圧の観点では好適な化合物である。但し、熱的安定性に乏しく、80℃程度の加熱でも容易に分解するため実用面で課題があった。更に、この有機ルテニウム化合物も反応ガスとして酸素が必要であった。
【0017】
これらに対して、化3の有機ルテニウム化合物は、水素を反応ガスとしてルテニウム薄膜を形成可能であるので、反応ガスの問題はクリアされている。しかし、この化合物は蒸気圧が低く、化学蒸着原料用としての基本的特性に劣るという欠点がある。蒸気圧の高低は、成膜の効率にかかわる特性であり、化学蒸着法の工業的活用の観点から外せない条件である。
【0018】
化4及び化5の有機ルテニウム化合物も、反応ガスとして水素を適用できる点は評価できるものの、配位子の構造中、酸素原子が含まれている点が懸念される。これらの酸素原子を含む有機ルテニウム化合物の場合、反応ガスによる基板への影響は問題ないが、配位子の酸素原子がルテニウム薄膜に混入することがある。ルテニウム薄膜中の酸素は電極特性に影響を及ぼすと考えられる。薄膜への酸素混入については、特許文献4の中でも言及されており、化4の化合物により製造されたルテニウム薄膜中に酸素が3%程度含まれていたことが明らかとなっている。そして、化4の有機ルテニウム化合物も低温成膜には対応し難い化合物であり、400℃以上と相当に高温の成膜温度の設定を要するものである。
【0019】
以上の通り、これまで化学蒸着用原料として適用可能な有機ルテニウム化合物は、多様化する要求特性に対して一長一短があるといえる。そこで本発明は、化学蒸着用原料としての基本特性を具備しつつ低温成膜に対応できる有機ルテニウム化合物を提供する。また、酸素ガスを使用することなくルテニウム薄膜を製造することができ、基板及び生成するルテニウム薄膜への影響が生じ難い有機ルテニウム化合物を提供する。尚、本発明において低温成膜の具体的指針としては、250℃以下での成膜が可能であるとの意義である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決する本発明は、化学蒸着法によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造するための化学蒸着用原料において、次式で示される、ルテニウムに2つのジアザジエン配位子、及び、2つのアルキル配位子が配位した有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料である。
【0021】
【化6】
(式中、ジアザジエン配位子の置換基R〜Rは、水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基である。置換基R〜Rから選択される2以上の置換基は、相互に結合し、それらが直接結合する炭素原子又は窒素原子と共に環状構造を形成しても良い。置換基R〜Rから選択される2以上の置換基も、相互に結合し、それらが直接結合する炭素原子又は窒素原子と共に環状構造を形成しても良い。アルキル配位子である置換基R、R10は、炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【0022】
本発明の化学蒸着用原料は、ジアザジエン配位子及びアルキル配位子の両配位子を有する有機ルテニウム化合物からなる。これらの配位子を適用するのは、各配位子のルテニウムに対する結合の強弱を考慮し、熱的安定性を適度な範囲とし、水素雰囲気下での低温成膜を可能とするためである。即ち、有機ルテニウム化合物の構造中に、結合力が強固なジアザジエン−ルテニウム結合と、比較的弱い結合力のアルキル−ルテニウム結合とを導入して化合物全体の物性を制御するものである。
【0023】
また、この有機ルテニウム化合物は、窒素・炭素・水素からなるジアザジエン配位子と、炭素・水素からなるアルキル配位子と、ルテニウムとからなり酸素原子を含まない。従って、形成されるルテニウム薄膜に原料由来の酸素が含有することもなく、また、基板を酸化することもない。
【0024】
そして、本発明で適用される有機ルテニウム化合物は、化学蒸着用原料として要求される基本特性である蒸気圧も適切に高くなっている。これは、ジアザジエン配位子の置換基R〜Rを水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基としつつ、アルキル配位子であるR、R10について炭素数1以上3以下の比較的短鎖のアルキル基に限定したことによる。
【0025】
これらの利点を有する本発明に係る化学蒸着用原料の各構成について、以下、詳細に説明する。
【0026】
本発明で適用する有機ルテニウム化合物では、2つのジアザジエン配位子が配位する。このジアザジエン配位子中の置換基R〜Rは、水素又は炭素数1以上4以下の炭化水素基である。置換基R〜Rは全てが水素であっても良く、置換基R〜Rの少なくともいずれかが炭化水素基であっても良い。炭化水素基は、水素と炭素で構成された置換基である。
【0027】
このようにジアザジエン配位子中の置換基R〜Rについて、炭素数を1以上4以下に制限するのは、これら置換基R〜Rの炭素鎖も、有機ルテニウム化合物の蒸気圧に影響を与え得るからである。炭素数が過度に多くなると、蒸気圧が低くなるおそれがある。
【0028】
置換基R〜Rを炭化水素基とするとき、これらの置換基の例としては直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。また、置換基R〜Rが炭化水素基であるとき、それらは独立した置換基であっても良いが、相互に結合しても良い。即ち、置換基R〜Rから選択される2以上の置換基が、相互に結合し、それらが直接結合する炭素原子又は窒素原子と共に環状構造を形成しても良い。同様に、置換基R〜Rから選択される2以上の置換基も、相互に結合し、それらが直接結合する炭素原子又は窒素原子と共に環状構造を形成しても良い。例えば、下記のような環状の置換基を有するジアザジエン配位子が配位した有機ルテニウム化合物も本発明の範囲内となる。
【0029】
【化7】
【0030】
本発明に係る有機ルテニウム化合物のより好ましい構成としては、置換基R、R、R、Rの少なくともいずれかがアルキル基であって、当該アルキル基の少なくともいずれかが炭素数1以上4以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であるものである。置換基R、R、R、Rの全てが炭素数1以上4以下のアルキル基であっても良いが、R、R、R、Rの一部の置換基が炭素数1以上4以下のアルキル基で他の置換基が水素又はそれ以外のアルキル基でも良い。直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。
【0031】
更に、置換基R、R、R、Rについて、それらの少なくともいずれかがアルキル基であるとき、当該アルキル基の少なくともいずれかがメチル基であるものが好ましい。R、R、R、Rの全てがメチル基であっても良いが、R、R、R、Rの一部の置換基がメチル基で他の置換基が水素又はそれ以外のアルキル基でも良い。
【0032】
そして、本発明に係る有機ルテニウム化合物で、他方の配位子であるアルキル配位子R、R10は、炭素数1以上3以下のアルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基)に限定される。アルキル配位子の炭素鎖の長短は、有機ルテニウム化合物の蒸気圧の高低に影響を与える。この配位子を短鎖のアルキル基に限定することで、好適な蒸気圧を確保することができる。
【0033】
次に、本発明に係る化学蒸着用原料を適用した、ルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の化学蒸着法について説明する。本発明に係る化学蒸着法では、これまで説明した有機ルテニウム化合物からなる原料を、加熱することにより気化させて原料ガスを発生させ、この原料ガスを基板表面上に輸送して有機ルテニウム化合物を熱分解させてルテニウム薄膜を形成させるものである。
【0034】
この化学蒸着法における原料の形態に関し、本発明で適用される有機ルテニウム化合物は、常温で固体状態のものもあるが、蒸気圧が高く昇華法にて容易に気化することができる。従って、原料である有機ルテニウム化合物をそのまま加熱することができる。また、適宜の溶媒に溶解して、溶液を加熱して原料ガスを得ることもできる。原料の加熱温度としては、50℃以上150℃以下とするのが好ましい。
【0035】
気化した原料は、通常、キャリアガスと合流して基板上に輸送される。本発明の有機ルテニウム化合物は、不活性ガス(アルゴン、窒素等)をキャリアガスとし、反応ガスを使用せずともルテニウムの成膜が可能である。
【0036】
また、反応ガスを適宜に設定することもできる。本発明に係る化学蒸着用原料はルテニウムからなる薄膜を製造する際、酸素を使用しなくても成膜可能である。このとき、水素、アンモニア、ヒドラジン、ギ酸等の還元性ガス種を反応ガスとして適用できる。但し、反応ガスとして酸素の適用を忌避するものではない。ルテニウム酸化物等のルテニウム化合物薄膜の成膜においては、酸素ガスを反応ガスとして適用できる。尚、これら反応ガスは、キャリアガスを兼ねることもできる。
【0037】
成膜時の成膜温度は150℃以上500℃以下とするのが好ましい。150℃未満では、成膜反応が進行し難く効率的な成膜ができなくなる。また、高温過ぎると均一な成膜が困難となる、基板へダメージが懸念される等の問題がある。尚、この成膜温度は、通常、基板の加熱温度により調節される。もっとも、本発明の課題である低温成膜の達成を考慮すれば、成膜温度としてより好ましいのは150℃以上400℃以下であり、150℃以上300℃以下がより好ましい。
【発明の効果】
【0038】
以上の通り、本発明に係る化学蒸着用原料を構成する有機ルテニウム化合物は、ルテニウムに配位する配位子の選定により、化学蒸着用原料に求められる範囲での熱的安定性を有する。この熱的安定性について本発明の有機ルテニウム化合物は、上記した化2の化合物と化3の化合物との中間の安定性を有し(化3>本願化合物>化2)、化学蒸着用原料として取り扱うのに程よい安定性を有する。また、配位子及びその置換基を調整したことにより蒸気圧も好適な高さである。
【0039】
更に、本発明に係る化学蒸着用原料は、水素等の酸素以外の反応ガスを適用してルテニウム薄膜の成膜が可能である。また、化合物の構成元素にも酸素原子を含むものではない。従って、製造したルテニウム薄膜への酸素原子の混入もなく、また、基板の酸化ダメージの懸念もない。
【0040】
以上から、本発明に係る化学蒸着用原料は、近年の高度に微細化された半導体デバイスの電極形成に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】第1実施形態における化合物のTG−DTA測定の結果を示す図(減圧下)。
図2】第1実施形態における化合物のTG−DTA測定の結果を示す図(大気圧下、TGのみ)。
図3】成膜温度250℃で成膜したルテニウム薄膜(ガス:水素)のSEM写真。
図4】成膜温度250℃で成膜したルテニウム薄膜(ガス:アルゴン)のSEM写真。
図5】第2実施形態における化合物のTG−DTA測定の結果を示す図(大気圧下、TGのみ)。
【発明を実施するための形態】
【0042】
第1実施形態:以下、本発明における最良の実施形態について説明する。本実施形態では、有機ルテニウム化合物として、シス−ジメチル−ビス(N,N'−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)(置換基R、R、R、Rがいずれもiso−プロピル基であり、R、R10がいずれもメチル基である)を製造した。
【0043】
【化8】
【0044】
テトラヒドロフラン150mLを入れたフラスコに、シス−ジクロロ−ビス(N,N’−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)3.80g(8.4mmol)を入れ溶解させ、溶液を氷冷した。この氷冷した溶液に、ヨウ化メチルマグネシウム/ジエチルエーテル溶液33mL(35mmol:濃度1.06M)加えた。そして、この混合溶液を室温で1時間攪拌して反応させた。このときの反応式は下記の通りである。
【0045】
【化9】
【0046】
反応終了後、濃縮して泥状の反応混合物を得た。得られた泥状反応混合物に対してヘキサンで抽出操作し、抽出液を濃縮し赤紫色の固体を得た。この固体を昇華法により精製することで製造目的物である有機ルテニウム化合物を2.25g(5.5mmol)得た(収率65%)。この有機ルテニウム化合物は、H−NMR分析から、確かにシス−ジメチル−ビス(N,N'−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)であることが確認された(H NMR(benzene−d):8.11(2H, s), 7.80(2H, s), 5.13−5.07(2H, m), 3.79−3.73(2H, m), 1.39(6H, d), 1.36(6H, d), 1.11(6H, d), 0.65(6H, d), 0.57(6H, s))。
【0047】
上記で製造した有機ルテニウム化合物について、その物性評価及び成膜試験を行った。
【0048】
示差熱−熱重量測定(TG−DTA):BRUKER社製TG−DTA2000SAにて、上記有機ルテニウム化合物(サンプル重量5mg)をアルミニウム製セルに充填し、昇温速度5℃/min、測定温度範囲室温〜500℃にて、重量変化を観察した。このTG−DTA測定は、減圧下(圧力5torr)で行った。それらの結果について、図1に示す。
【0049】
図1のTGの測定結果から、本実施形態で製造した有機ルテニウム化合物であるシス−ジメチル−ビス(N,N'−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)の気化は、110℃を越えた辺りから始まり、200℃未満で完了している。また、DTAの測定結果によると、150℃付近の吸熱ピークが気化によるものと推定され、この温度付近で急激な気化が発生していると思われる。そして、このTG−DTA分析後、セル上には残渣物は残っておらず、化学蒸着用原料として良好な気化特性を有することが確認できた。
【0050】
このTG−DTA分析に関し、同様の手法で大気圧下条件でも行った所、図2のような結果(TGの結果のみ)が得られた。本実施形態で製造した有機ルテニウム化合物は、大気圧下でも比較的低温で分解することが確認できた。
【0051】
成膜試験:本実施形態に係る有機ルテニウム化合物を原料として、CVD装置(ホットウォール式CVD成膜装置)によりルテニウム薄膜を形成させた。成膜条件は下記の通りである。
【0052】
基板:Ta/TH−Ox/Si(熱酸化Si+Ta)
成膜温度:250℃、300℃
試料温度(気化温度):95℃
圧力:5torr
ガス:水素又はアルゴンガス
ガス流量:20sccm
成膜時間:60min
【0053】
上記の通り、成膜温度及び反応ガスを変化させてルテニウム薄膜を成膜し、膜厚と薄膜中の酸素濃度を測定した。ルテニウム薄膜の膜厚はSEM(走査型電子顕微鏡)による観察結果から、複数箇所の膜厚を測定し、その平均値を算出した。また、酸素濃度はSIMS(二次イオン質量分析法:ULVAC−PHI社製ADEPT−1010)で測定した。この結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
試験No.1及びNo.2の結果から、成膜温度を250℃と低温に設定しても、ルテニウム薄膜を成膜できることが確認できた。また、反応ガスとして水素を用いても成膜できること、及び、アルゴンでも成膜可能であることも分かる。そして、試験No.3及びNo.4のように、300℃と比較的高温で成膜しても、ルテニウム薄膜から酸素は検出されなかった。図3図4に成膜温度250℃で成膜したルテニウム薄膜のSEM写真を示す。
【0056】
試験No.1及びNo.2の低温成膜によるルテニウム薄膜に関し比抵抗を測定したところ、50μΩ・cm未満となり電気特性が良好であることが確認された。
【0057】
比較例:従来技術である、上記化5のトリス(アセチルアセトナト)ルテニウムを原料としてルテニウム薄膜を製造した。条件は下記とした。尚、比較例の場合、300℃以下では成膜できないことが予測されたので、400℃、500℃での成膜も行った。この成膜試験の結果を表2に示す。
【0058】
基板:Ta/TH−Ox/Si(Ta/熱酸化Si)
成膜温度:250℃、300℃、400℃、500℃、
試料温度(気化温度):140℃
圧力:5torr
反応ガス:水素
反応ガス流量:20sccm
成膜時間:15min
【0059】
【表2】
【0060】
比較例の有機ルテニウム化合物の場合、成膜温度を低温(250℃)とするとルテニウムの析出が見られず薄膜を得ることができなかった(試験No.5)。更に、成膜温度を300℃に上昇させてもルテニウムの成膜ができなかった(試験No.6)。これらから、化5の従来の有機ルテニウム化合物では、低温成膜ができないことが確認された。一方、成膜温度を400℃、500℃とすると、ルテニウム薄膜の成膜は可能である(試験No.7、No.8)。しかし、薄膜中の酸素濃度が高くなっていた。原料である有機ルテニウム化合物を構成する酸素原子の混入によるものと考えられる。
【0061】
第2実施形態:本実施形態では、有機ルテニウム化合物として、シス−ジエチル−ビス(N,N'−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)(置換基R、R、R、Rがいずれもiso−プロピル基であり、R、R10がいずれもエチル基である)を製造した。
【0062】
【化10】
【0063】
テトラヒドロフラン20mLを入れたフラスコに、シス−ジクロロ−ビス(N,N’−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)0.56g(1.3mmol)を入れ溶解させ、溶液を氷冷した。この氷冷した溶液に、臭化エチルマグネシウム/テトラヒドロフラン溶液5mL(5mmol:濃度1.0M)加えた。そして、この混合溶液を室温で1時間攪拌して反応させた。このときの反応式は下記の通りである。
【0064】
【化11】
【0065】
反応終了後、濃縮して泥状の反応混合物を得た。得られた泥状反応混合物に対してヘキサンで抽出操作し、抽出液を濃縮し赤紫色の固体を得た。この固体を昇華法により精製することで製造目的物である有機ルテニウム化合物を0.19g(2.87mmol)得た(収率43%)。この有機ルテニウム化合物は、H−NMR分析から、シス−ジエチル−ビス(N,N'−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)であることが確認された(H NMR(benzene−d):8.05(2H, s), 7.80(2H, s), 5.11−5.04(2H, m), 3.86−3.80(2H, m), 2.10−2.01(2H, m), 1.43(6H, d), 1.41−1.36(8H, overlap), 1.17(6H, d), 0.94(6H, t), 0.41(6H, d))
【0066】
この第2実施形態の有機ルテニウム化合物について、大気圧条件下でTG−DTA分析による重量変化を測定した。分析条件は、第1実施形態と同様とした。この結果を図5に示す。図5では、第1実施形態の化合物との対比のため、その重量変化も併記した。図5から、第2実施形態の有機ルテニウム化合物も大気中でスムーズに分解することが確認できる。
【0067】
そして、本実施形態の有機ルテニウム化合物であるシス−ジエチル−ビス(N,N'−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)は、第1実施形態の有機ルテニウム化合物であるシス−ジメチル−ビス(N,N'−ジイソプロピル−1,4−ジアザ−1,3−ブタジエン)ルテニウム(II)と比較すると、より低温での分解が可能な化合物であることが分かる。この有機ルテニウム化合物は、更なる低温での成膜用途として期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る化学蒸着用の原料は、構成する有機ルテニウム化合物の熱安定性が高く適度な蒸気圧を有するとともに、低温での成膜性に優れている。また、水素等を反応ガスとしても、ルテニウムの成膜が可能である。本発明は、DRAM、FERAM等の半導体デバイスの薄膜電極材料としての使用に好適である。
【要約】      (修正有)
【課題】ルテニウム・ルテニウム化合物薄膜製造のための化学蒸着用原料で、低温成膜に対応でき、酸素ガスを使用せずにルテニウム薄膜を製造可能な原料の提供。
【解決手段】化学蒸着法によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造するための化学蒸着用原料において、次式で示される、ルテニウムに2つのジアザジエン配位子、及び、2つのアルキル配位子が配位した有機ルテニウム化合物からなる化学蒸着用原料。
(R1〜8はH又はC1−4の炭化水素基;R1〜4又は、R5〜8の各々が2つ以上で環状構造を形成しても良い;R及びR10はC1−3のアルキル基)
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5