特許第6043852号(P6043852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6043852
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20161206BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01L21/302 101D
   H05H1/46 C
   H05H1/46 L
   H05H1/46 M
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-195554(P2015-195554)
(22)【出願日】2015年10月1日
(62)【分割の表示】特願2012-158255(P2012-158255)の分割
【原出願日】2012年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-27667(P2016-27667A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2015年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】大越 康雄
(72)【発明者】
【氏名】森本 未知数
(72)【発明者】
【氏名】大平原 勇造
(72)【発明者】
【氏名】小野 哲郎
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−525682(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0284156(US,A1)
【文献】 特開2002−050611(JP,A)
【文献】 特開平09−092645(JP,A)
【文献】 米国特許第05779925(US,A)
【文献】 特開平04−174514(JP,A)
【文献】 特開平08−083776(JP,A)
【文献】 特開2010−238960(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0243607(US,A1)
【文献】 特開平05−039578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がプラズマ処理される処理室と、前記処理室内にプラズマを生成するための第一の高周波電力を供給する第一の高周波電源と、前記試料が載置された試料台に第二の高周波電力を供給する第二の高周波電源と、前記第一の高周波電力を変調するための第一のパルスと前記第二の高周波電力を変調するための第二のパルスを生成するパルス発生ユニットと、前記パルス発生ユニットを制御する制御部とを備えるプラズマ処理装置において、
前記制御部は、前記第一の高周波電源の出力を連続出力させる連続出力モードから前記第一の高周波電源の出力をパルス変調させるパルス変調モードへ移行させるとともに前記第二の高周波電源の出力を連続出力させる連続出力モードから前記第二の高周波電源の出力をパルス変調させるパルス変調モードへ移行させる場合前記第二の高周波電源の出力を連続出力モードからパルス変調モードへ移行させた後、前記第一の高周波電源の出力を連続出力モードからパルス変調モードへ移行させ
前記第一の高周波電源の出力をパルス変調させるパルス変調モードから前記第一の高周波電源の出力を連続出力させる連続出力モードへ移行させるとともに前記第二の高周波電源の出力をパルス変調させるパルス変調モードから前記第二の高周波電源の出力を連続出力させる連続出力モードへ移行させる場合、前記第一の高周波電源の出力をパルス変調モードから連続出力モードへ移行させた後、前記第二の高周波電源の出力をパルス変調モードから連続出力モードへ移行させる制御を行うことを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ処理装置に係り、特に半導体素子等の試料を加工するために、プラズマを用い且つ試料に高周波バイアスを印加することにより微細パターンを高精度にエッチング処理を施すのに好適なプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子の表面を高精度に処理するためには、エッチング時に発生する反応生成物の制御が重要になりつつある。従来技術として、特許文献1には、プラズマやバイアスの時間変調による反応生成物の制御方法が開示されている。
【0003】
また、一般的にパルス変調されたマイクロ波を用いたパルスプラズマの場合、マイクロ波がオンすると、自由電子はマイクロ波から獲得したエネルギーで他の原子、分子を分離、または解離させ、プラズマを生成させるが、マイクロ波がオフすると、自由電子は数μsの期間にほとんどが原子、分子に捕縛され、ネガティブイオンが生成され、チャージアップを防止する効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−250479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラズマ生成用高周波や高周波バイアスを時間変調させると以下のような三つの課題がある。
【0006】
先ず一つ目の課題は、マイクロ波のみをパルス変調し、連続した高周波バイアスを印加すると、マイクロ波がオフしている期間、すなわち電子温度が下がる期間に、高周波バイアス電源のピーク・トウ・ピーク電圧(以下、Vppと称する)が跳ね上がる現象が発生することである。この現象が発生すると選択比が低下する問題が生じる。
【0007】
次に二つ目の課題は、プラズマ生成用高周波や高周波バイアスのオン・オフをパルス状に繰り返す場合、プラズマ生成用高周波を時間変調するためのパルスと高周波バイアスを時間変調するためのパルスを同期させてオン・オフを繰り返すが、プラズマ生成用高周波電源内部、または高周波バイアス電源内部での内部処理遅延時間及びマイクロ波を発生させるマグネトロンでの出力立ち上り時間の遅延等により、実際にはマイクロ波電力出力のオンタイミングと高周波バイアス電源出力のオンタイミングのずれが発生することである。
【0008】
さらにマイクロ波の出力をパルス変調する場合、パルス出力の立ち上り時は、発光強度が安定するまでの立ち上り時間を要する。その期間に高周波バイアスが印加されると、その期間は高周波バイアスのVppが高くなり、エッチング特性のばらつきや、一つ目の課題と同様に選択比の低下など、プロセス特性への影響が生じてしまう。
【0009】
次に三つ目の課題は、実際のプラズマエッチング装置運用の際に、時間変調ではなく連続的に出力をし続ける連続出力モードとプラズマ生成用高周波や高周波バイアスを時間変調する時間変調出力モードの2つのモードを連続的に切り替えて使用する場合がある。
【0010】
例えば、連続出力モードから時間変調出力モードに切り替える場合、プラズマ生成用高周波電源の方が高周波バイアス電源に先行して時間変調出力モードに移行してしまった場合、高周波バイアス電源の出力がまだ連続出力モードのため、プラズマ生成用高周波電源のパルス出力のオフ期間に高周波バイアス電源が出力され、一つ目の課題と同様に高周波バイアス電源のVppが跳ね上がってしまう問題が生じる。
【0011】
逆に、時間変調出力モードから連続出力モードに切り替える場合は、高周波バイアス電源の方がプラズマ生成用高周波電源に先行して連続出力モードに移行してしまった場合、高周波バイアス電源のVppが跳ね上がる問題が発生してしまうことになる。
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために、プラズマ生成用高周波電力および高周波バイアス電力を時間変調するプラズマ処理装置において、安定したプロセス性能を得ることができるプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、試料がプラズマ処理される処理室と、前記処理室内にプラズマを生成するための第一の高周波電力を供給する第一の高周波電源と、前記試料が載置された試料台に第二の高周波電力を供給する第二の高周波電源と、前記第一の高周波電力を変調するための第一のパルスと前記第二の高周波電力を変調するための第二のパルスを生成するパルス発生ユニットと、前記パルス発生ユニットを制御する制御部とを備えるプラズマ処理装置において、前記パルス発生ユニットは、制御ユニットと第一のパルスカウンタと第二のパルスカウンタとを具備し、基準クロックから前記第一のパルスを生成するための信号である第一のカウント値と前記基準クロックから前記第二のパルスを生成するための信号である第二のカウント値と前記第一のカウント値の信号をリセットする第一のリセット信号と前記第二のカウント値の信号をリセットする第二のリセット信号が前記制御部から送信された前記第一のパルスの周波数と前記制御部から送信された前記第一のパルスのデューティー比と前記制御部から送信された前記第二のパルスの周波数と前記制御部から送信された前記第二のパルスのデューティー比と前記第一のパルスに対して前記第二のパルスを遅延させる時間であるパルス遅延時間に基づいて前記制御ユニットにてそれぞれ生成され、前記第一のパルスが前記制御ユニットから送信された前記第一のカウント値と前記制御ユニットから送信された前記第一のリセット信号に基づいて前記第一のパルスカウンタにて生成され、前記第一のパルスと同期した前記第二のパルスが前記制御ユニットから送信された前記第二のカウント値と前記制御ユニットから送信された前記第二のリセット信号に基づいて前記第二のパルスカウンタにて生成されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、試料をプラズマ処理する処理室と、前記処理室内にプラズマを生成するためのプラズマ生成用高周波電源と、前記試料が載置された試料台に高周波バイアス電力を供給する高周波バイアス電源と、前記プラズマ生成用高周波電源の出力を変調するための第一のパルスと前記高周波バイアス電源の出力を変調するための第二のパルスを生成するパルス発生ユニットと、前記プラズマ処理を行うための制御を行う制御部とを備えるプラズマ処理装置において、前記制御部は、前記プラズマ生成用高周波電源、前記高周波バイアス電源のそれぞれの出力を連続出力する連続出力モードから前記プラズマ生成用高周波電源、前記高周波バイアス電源のそれぞれの出力をパルス変調するパルス変調モードへ移行する場合、前記プラズマ生成用高周波電源の連続出力モードからパルス変調モードへの移行を前記高周波バイアス電源の連続出力モードからパルス変調モードへの移行より遅らせる制御を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、試料をプラズマ処理する処理室と、前記処理室内にプラズマを生成するためのプラズマ生成用高周波電源と、前記試料が載置された試料台に高周波バイアス電力を供給する高周波バイアス電源と、前記プラズマ生成用高周波電源の出力を変調するための第一のパルスと前記高周波バイアス電源の出力を変調するための第二のパルスを生成するパルス発生ユニットと、前記プラズマ処理を行うための制御を行う制御部とを備えるプラズマ処理装置において、前記制御部は、前記プラズマ生成用高周波電源、前記高周波バイアス電源のそれぞれの出力をパルス変調するパルス変調モードから前記プラズマ生成用高周波電源、前記高周波バイアス電源のそれぞれの出力を連続出力する連続出力モードへ移行する場合、前記高周波バイアス電源のパルス変調モードから連続出力モードへの移行を前記プラズマ生成用高周波電源のパルス変調モードから連続出力モードへの移行より遅らせる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、プラズマ生成用高周波電力および高周波バイアス電力を時間変調するプラズマ処理装置において、安定したプロセス性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例に係るマイクロ波ECRプラズマエッチング装置の縦断面図である。
図2】マイクロ波および高周波バイアスの変調パルスのタイミングチャートである。
図3】マイクロ波の変調パルスの出力が高周波バイアスの変調パルスより遅れた場合のパルス波形である。
図4】本発明のマイクロ波および高周波バイアスの変調パルスのタイミングチャートである。
図5】パルス発生ユニットの構成図である。
図6(a)】パルス出力1とパルス出力2のそれぞれの遅延時間の一例を示す図である。
図6(b)】パルス出力1とパルス出力2のそれぞれの遅延時間の一例を示す図である。
図7】本発明によるシリコン酸化膜に対するポリシリコン膜の選択比を示す図である。
図8】プラズマ発光レベルと高周波バイアス出力のVppの関係を示す図である。
図9】プラズマ発光を用いたパルス遅延時間の設定方法を示す図である。
図10(a)】連続出力モードからパルス変調モードへの移行を示す図である。
図10(b)】パルス変調モードから連続出力モードへの移行を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。本発明の一実施例に係るECR(Electron Cyclotron Resonance)方式のマイクロ波プラズマエッチング装置の概略縦断面図を図1に示す。
【0019】
上部が開放された真空容器101の上部に、真空容器101内にエッチングガスを導入するためのシャワープレート102(例えば石英製)と、誘電体窓103(例えば石英製)とを設置し、密封することにより処理室104を形成する。シャワープレート102にはエッチングガスを流すためのガス供給装置105が接続される。また、真空容器101には排気用開閉バルブ117及び排気速度可変バルブ118を介し真空排気装置106が接続されている。処理室104内は排気用開閉バルブ117を開とし、真空排気装置106を駆動することで減圧され、真空状態となる。処理室104内の圧力は排気速度可変バルブ118により所望の圧力に調整される。エッチングガスは、ガス供給装置105からシャワープレート102を介して処理室104内に導入され、排気速度可変バルブ118を介して真空排気装置106によって排気される。また、シャワープレート102に対向して真空容器101の下部に試料台である試料載置用電極111が設けられる。
【0020】
プラズマを生成するための電力を処理室104に伝送するため、誘電体窓103の上方には電磁波を伝送する導波管107が設けられる。導波管107へ伝送される電磁波は、プラズマ生成用高周波電源である電磁波発生用電源109から発振させる。電磁波発生用電源109には、パルス発生ユニット121が取り付けられており、これによりマイクロ波を図2に示すように任意に設定可能な繰り返し周波数でパルス状に変調することができる。尚、本実施例の効果は、電磁波の周波数に特に限定されないが、本実施例では2.45GHzのマイクロ波を使用する。
【0021】
処理室104の外部には、磁場を形成する磁場発生コイル110が設けてあり、電磁波発生用電源109より発振された電磁波は、磁場発生コイル110により形成された磁場との相互作用により、処理室104内に高密度プラズマを生成し、試料載置用電極111上に配置された、試料であるウエハ112にエッチング処理を施す。シャワープレート102、試料載置用電極111、磁場発生コイル110、排気用開閉バルブ117、排気速度可変バルブ118及びウエハ112は処理室104の中心軸上に対して同軸に配置されているため、エッチングガスの流れやプラズマにより生成されたラジカル及びイオン、更にはエッチングにより生成された反応生成物はウエハ112に対し同軸に導入、排気される。この同軸配置はエッチングレート、エッチング形状のウエハ面内均一性を軸対称に近づけ、ウエハ処理均一性を向上させる効果がある。
【0022】
試料載置用電極111は電極表面が溶射膜(図示せず)で被覆されており、高周波フィルター115を介して直流電源116が接続されている。
【0023】
さらに、試料載置用電極111には、マッチング回路113を介して高周波バイアス電源114が接続される。高周波バイアス電源114には、パルス発生ユニット121が取り付けられており、同様に図2に示すような時間変調された間欠的な高周波電力を選択的に試料載置用電極111に供給することができる。尚、本実施例の効果は、高周波バイアスの周波数に特に限定されないが、本実施例では400kHzの高周波を使用する。
【0024】
上述のECRマイクロ波プラズマエッチング装置を用いたエッチング処理を制御する制御部120は、入力手段(図示せず)により、電磁波発生用電源109、高周波バイアス電源114、パルス発生ユニット121のパルスのオン・オフタイミングを含む繰り返し周波数やデューティー比、エッチングを実施するためのガス流量、処理圧力、電磁波電力、高周波バイアス電力、コイル電流等のエッチングパラメータを制御している。尚、デューティー比とは、パルスの1周期に対するオン期間の割合のことである。
【0025】
以下に、電磁波発用電源109のから時間変調された間欠的な電磁波を発生する場合と、高周波バイアス電源114から時間変調された間欠的な高周波電力を試料載置用電極111に供給する場合の制御部120の機能について、図2を用いて説明する。
【0026】
制御部120は、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114をパルス状に変調するための繰り返し周波数、デューティー比、電磁波発生用電源109のオンのタイミングと高周波バイアス電源114のオンのタイミングを合わせた時間情報を、パルス発生ユニット121に設定する。電磁波発用電源109は図2に示すようなオン・オフのタイミングで、電磁波を発生させる。同様に、高周波バイアス電源114も図2に示すようなオン・オフのタイミングで、高周波を発生させる。前述のオン時間、オフ時間のパルス生成手法、及び同期制御手法については、いろいろな手法があるが、ここでは詳細に述べないが、一実施例を後述する。
【0027】
次に電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114の変調タイミングを同期させた場合における、さらに高周波バイアスのVppが安定して出力され、高選択比を確保できる手法を説明する。
【0028】
制御部120から指令された出力タイミング、繰り返し周波数、デューティー比で、パルス発生ユニット121は電磁波発生用電源109に、パルス情報を送信する。さらに、パルス発生ユニット121は制御部120から指令された出力タイミング、繰り返し周波数、デューティー比のパルス情報を高周波バイアス電源114に送信する。電磁波発生用電源109はパルス発生ユニット121から指示されたオン・オフタイミングで、電磁波発生用電源109に高電圧を印加しマイクロ波を発生させるが、実際の環境下では、電磁波発生用電源109の内部処理遅延時間や、マグネトロンでの出力立ち上り時間の遅延時間等の発生によって、マイクロ波出力パルスの立ち上りが遅れる場合が発生する。
【0029】
そうした場合、図3に示すように、マイクロ波出力遅れ時間201の間に高周波バイアスのVppが大きくなり、前述の通り選択比の低下が発生してしまう可能性がある。その解決策として、制御部120は、電磁波発生用電源109の出力タイミングが、高周波バイアス電源114の出力タイミングよりも先となるように、パルス発生ユニット121に、電磁波発生用電源109の出力タイミング、繰り返し周波数、デューティー比の情報と、高周波バイアス電源114の出力タイミング、繰り返し周波数、デューティー比の情報を送信する。
【0030】
パルス発生ユニット121は、制御部120からの指示に従って図4に示すように高周波バイアス電源114の出力タイミングを電磁波発生用電源109の出力タイミング(マイクロ波)よりパルス遅延時間202の時間だけ遅らせることができ、その結果、常に安定した高周波バイアスVppが印加されることで、選択比の低下を防止することが可能となる。
【0031】
次に電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114のオン・オフのタイミング調整手段について、図1を用いて説明する。
【0032】
まず制御部120は、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114をパルス状に変調出力するための繰り返し周波数、デューティー比、電磁波発生用電源109のオン・オフのタイミングと高周波バイアス電源114のオン・オフのタイミング時間の情報を、パルス発生ユニット121にそれぞれ設定し、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114の変調出力タイミングを同期して出力させたときの、高周波バイアス電源114の出力波形を確認する。
【0033】
出力波形の確認方法は、例えば、方向性結合器(directional coupler)を用いて高周波バイアス電源114の出力波形をピックアップすることで可能である。ピックアップされた出力波形はオシロスコープ119で表示され、高周波バイアス電源114の出力のVppが安定しているかを確認できる。高周波バイアス電源114の出力のVppが一定でない場合は、安定したVppの出力が得られるように、高周波バイアス電源1
14の出力立ち上りタイミングを図4のパルス遅延時間202の時間だけ遅らせたパルス情報を、制御部120からパルス発生ユニット121に設定することで、高周波バイアス電源出力のVppを安定させるためのオン・オフのタイミング調整を容易に実施することができる。つまり、パルス遅延時間202は、高周波バイアス電源114の出力のVppが安定する時間とする。
【0034】
ここで述べた高周波バイアス電源114の変調パルスの出力立ち上りタイミングを遅らせる手法について図5を用いて説明する。パルス発生ユニット121は、基準クロックを内部に備え、該基準クロックが第一のパルスカウンタ122と第二のパルスカウンタ123にそれぞれ入力される。
【0035】
第一のパルスカウンタ122は、電磁波発生用電源109の時間変調用パルスであるパルス出力1を生成し、第二のパルスカウンタ123は、高周波バイアス電源114の時間変調用パルスであるパルス出力2を生成する。尚、基準クロックとは、パルス出力1とパルス出力2を生成するための基となるパルス波形である。
【0036】
パルス発生ユニット121内部の制御ユニット124は、制御部120から電磁波発生用電源109のパルス情報信号1(例えば、パルスの周波数とデューティー比)と、高周波バイアス電源114のパルス情報信号2(例えば、パルスの周波数とデューティー比)とパルス出力1に対するパルス出力2の遅延時間であるパルス遅延時間202を受信する。
【0037】
そして、制御ユニット124は、受信した、パルス情報信号1とパルス情報信号2とパルス遅延時間202に応じてカウント値1とリセット信号1を第一のパルスカウンタ122に、カウント値2とリセット信号2を第二のパルスカウンタ123にそれぞれ送信する。
【0038】
尚、リセット信号1、2は、パルスの周波数とデューティー比を変更する場合にカウント値1、2をリセットしたり、パルス遅延時間の調整等を行うための信号である。また、カウント値1、2は、基準クロックから所望の周波数及びデューティー比のパルスを生成するための信号である。
【0039】
制御ユニット124から送信されたカウント値1とリセット信号1により第一のパルスカウンタ122は、所望の周波数およびデューティー比であるパルス出力1を生成し、このパルス出力1を電磁波発生用電源109に出力することにより、マイクロ波をパルス変調する。また、同様に制御ユニット124から送信されたカウント値2とリセット信号2により第二のパルスカウンタ123は、所望の周波数およびデューティー比であるパルス出力2を生成し、このパルス出力2を高周波バイアス電源114に出力することにより、高周波バイアスをパルス変調する。
【0040】
また、第一のパルスカウンタ122から生成されたパルス出力1と第二のパルスカウンタ123から生成されたパルス出力2は、図6(a)に示すようにある基準時間からそれぞれA1の時間、B1の時間遅延している。尚、B1の時間は、A1の時間より、制御ユニット124が受信したパルス遅延時間202だけ長くなっている。
【0041】
このようにしてパルス出力2をパルス出力1よりパルス遅延時間202だけ遅延させてパルス出力1とパルス出力2を同期させている。逆に図6(b)に示すようにA1の時間をB1の時間より長くすることにより、パルス出力1をパルス出力2よりA1とB1の差分の時間だけ遅延させることもできる。
【0042】
次に上述した本発明のように、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114のそれぞれのパルス変調のタイミングを同期させた場合と電磁波発用電源109のみパルス変調した場合において、表面全体がポリシリコン膜のウエハと表面全体がシリコン酸化膜のウエハを、表1の条件でエッチング処理して算出した選択比を図7に示す。なお、図7の横軸の「%」は、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114のパルス変調のデューティー比である。
【0043】
【表1】
【0044】
図7より、電磁波発用電源109により発振されたマイクロ波のみ間欠的に時間変調するよりも、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114を同期させて時間変調する場合の方が、シリコン酸化膜に対するポリシリコン膜の選択比が高くなる結果を得ることができた。さらに、デューティー比を小さくするに従って選択比が向上した。
【0045】
本実施例では、パルス遅延時間202を高周波バイアス電源114の出力のVppが安定する時間としたが、本発明は、このようなパルス遅延時間の設定方法に限定されない。以下に他のパルス遅延時間の設定方法について説明する。
【0046】
まず制御部120は、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114をパルス状に変調出力するための繰り返し周波数、デューティー比、電磁波発生用電源109のオン・オフのタイミングと高周波バイアス電源114のオン・オフのタイミング時間情報を、パルス発生ユニット121にそれぞれ設定し、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114のパルス変調出力のタイミングを同期して出力させた場合、マイクロ波出力の立ち上り時の発光状態は除々に上昇していき、いわゆるプラズマ中の電子温度も同じカーブを描くため、図8に示すように、プラズマ発光の安定時間301の間に高周波バイアスが印加されると、高周波バイアス出力のVppが大きくなり、上述の通り選択比が低下する。
【0047】
このため、まず制御部120は、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114をパルス状に変調出力するための繰り返し周波数、デューティー比、電磁波発生用電源109のオン・オフのタイミングと高周波バイアス電源114のオン・オフのタイミング時間を、パルス発生ユニット121にそれぞれ設定し、電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114のパルス変調出力のタイミングを同期させた時のプラズマの発光レベルを確認する。尚、プラズマの発光レベルは、フォトダイオードを用いて検出し、検出されたプラズマの発光はオシロスコープ119に表示して確認する。
【0048】
次に、電磁波発生用電源109のオンのタイミングから安定したプラズマの発光レベル302が検出されるまでの時間をパルス遅延時間202とする。図9に示すようにこのパルス遅延時間202だけ高周波バイアス電源114の変調パルス出力立ち上りのタイミングを遅らせることにより、高周波バイアス電源出力のVppを安定させることができる。
【0049】
また、上記のパルス遅延時間の設定方法以外にパルス遅延時間は、予め実験等により求めた時間を用いてもよい。
【0050】
次に、電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114のそれぞれの出力モードを連続的に切り替える場合の最適な手法について実施例を説明する。尚、出力モードとは、パルス変調モードまたは、連続出力モード(パルス変調無し)のことである。
【0051】
まず制御部120は、電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114に対して、連続出力モードで出力する指示を行う。電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114は制御部120から指示された連続出力モードで、且つ指示された期間連続出力モードで動作を行う。
【0052】
次のステップで電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114の出力モードをパルス変調モードとして連続的に切り替える時、制御部120は電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114をパルス状に変調出力するための繰り返し周波数、デューティー比、電磁波発生用電源109のオン・オフのタイミングと高周波バイアス電源114のオン・オフのタイミング時間を、パルス発生ユニット121にそれぞれ設定する。パルス発生ユニット121は、制御部120からの指示に従い電磁波発用電源109と高周波バイアス電源114に対して、指示された所望のパルスを出力する。
【0053】
ここで制御部120は、図10(a)に示すような動作シーケンスで、パルス変調モード移行遅延時間401の時間だけ電磁波発生用電源109へのパルス変調モードへの移行タイミングを、高周波バイアス電源114のパルス変調モードへの移行タイミングよりも遅らせる制御を行う。
【0054】
このような制御部120の制御により、高周波バイアス電源114の連続出力モードからパルス変調モードへの移行が電磁波発生用電源109より先行して実施することが可能となり、高周波バイアスの出力のVppを安定させることができる。
【0055】
次に、パルス変調モードから連続出力モードへの切替えについて説明する。まず制御部120は、電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114に対して、パルス変調モードで出力する指示を行い、電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114をパルス状に変調出力するための繰り返し周波数、デューティー比、電磁波発生用電源109のオン・オフのタイミングと高周波バイアス電源114のオン・オフのタイミング時間を、パルス発生ユニット121にそれぞれ設定する。電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114は制御部120から指示されたパルス変調モードで、且つ指示された期間パルス変調モードで動作を行う。
【0056】
次のステップで電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114の出力モードを連続出力モードとして連続的に切り替える時、制御部120は、図10(b)のような動作シーケンスで、連続出力モード移行遅延時間402の時間だけ高周波バイアス電源114のパルス変調モードから連続出力モードへの移行タイミングを、電磁波発生用電源109のパルス変調モードから連続出力モードへの移行タイミングよりも遅らせる制御を行う。
【0057】
このような制御部120の制御により、電磁波発生用電源109のパルス変調モードから連続出力モードへの移行が高周波バイアス電源114より先行して実施することが可能となり、高周波バイアスの出力のVppを安定させることができる。
【0058】
以上、上述したように本発明は、プラズマ生成用電磁波を時間変調し、さらに高周波バイアスを時間変調できるプラズマ処理装置において、電磁波発生用電源の繰り返し周波数、デューティー比と、高周波バイアス用電源の繰り返し周波数、デューティー比のオンのタイミング制御を行うことで、安定した選択比が得られるプロセス性能を得ることができるプラズマ処理装置である。
【0059】
また、本発明は、プラズマ生成用電源を連続出力するモードまたはパルス変調するモードで使用し、高周波バイアス電源も連続出力するモードまたはパルス変調するモードで使用するプラズマ処理装置において、プラズマ生成用電源および高周波バイアス電源の出力を連続出力モードからパルス変調モードへ連続的に切り替える場合は、プラズマ生成用電源の連続出力モードからパルス変調モードへの移行を高周波バイアス電源より遅らせる制御を行い、プラズマ生成用電源および高周波バイアス電源の出力をパルス変調モードから連続出力モードへ連続的に切り替える場合は、高周波バイアス電源のパルス変調モードから連続出力モードへの移行をプラズマ生成用電源より遅らせる制御を行うことで、安定した選択比が得られるプロセス性能を得ることができるプラズマ処理装置である。
【0060】
また、本実施例では、電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114のパルス変調のタイミング制御を、パルスの周波数、デューティー比で説明したが、制御部120とパルス発生ユニット121とのインタフェース信号としては、オン時間、オフ時間設定でも本発明は実施可能である。
【0061】
さらに、本実施例では、電磁波発生用電源109と高周波バイアス電源114のそれぞれのパルス変調の周波数及びデューティー比は、同じ場合であったが、本発明は、異なるパルス変調の周波数及びデューティー比でも実施可能である。
【0062】
また、本実施例は、プラズマ源として、ECR(Electron Cyclotron Resonance)方式を用いた例であったが、本発明は、誘導結合型プラズマ(Inductively Coupled Plasma)、容量結合型プラズマ(Capasitively Coupled Plasma)等の他のプラズマ生成方式におけるプラズマ処理装置においても同様の効果が得られる。
【0063】
さらに、本実施例では、オン・オフのパルス変調の例で説明したが、本発明は、HighとLowの2値からなるパルスを用いても良い。
【符号の説明】
【0064】
101・・・真空容器
102・・・シャワープレート
103・・・誘電体窓
104・・・処理室
105・・・ガス供給装置
106・・・真空排気装置
107・・・導波管
109・・・電磁波発生用電源
110・・・磁場発生コイル
111・・・試料載置用電極
112・・・ウエハ
113・・・マッチング回路
114・・・高周波バイアス電源
115・・・高周波フィルター
116・・・直流電源
117・・・排気用開閉バルブ
118・・・排気速度可変バルブ
119・・・オシロスコープ
120・・・制御部
121・・・パルス発生ユニット
122・・・第一のパルスカウンタ
123・・・第二のパルスカウンタ
124・・・制御ユニット
201・・・マイクロ波出力遅れ時間
202・・・パルス遅延時間
301・・・プラズマ発光の安定時間
302・・・安定したプラズマの発光レベル
401・・・パルス変調モード移行遅延時間
402・・・連続出力モード移行遅延時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図7
図8
図9
図10(a)】
図10(b)】