(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044041
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】設計支援装置
(51)【国際特許分類】
G06F 17/50 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
G06F17/50 658M
G06F17/50 604G
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-152095(P2012-152095)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-16695(P2014-16695A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】松島 隆明
(72)【発明者】
【氏名】町田 克之
(72)【発明者】
【氏名】年吉 洋
【審査官】
松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−124423(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/076320(WO,A1)
【文献】
特開2010−097475(JP,A)
【文献】
特開2002−055431(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0025331(US,A1)
【文献】
宮下進太郎,MEMSのための統合設計環境,第55回理論応用力学講演会講演論文集 セッションID:3C12 [online],日本学術会議 機械工学委員会・土木工学・建築学委員会合同IUTAM分科会,2006年 3月25日,[検索日 2016.03.15],J−STAGE,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/japannctam/55/0/55_0_230/_article/-char/ja/
【文献】
三宅常之,次の本命デバイス MEMSをつかめ,NIKKEI MICRODEVICES,日経BP社,2004年12月 1日,第234号,pp.93,108−111
【文献】
GADDI, R.,The hierarchical HDL-based design of an integrated MEMS-CMOS oscillator,Symposium on Design, Test, Integration and Packaging of MEMS/MOEMS 2003 [online],IEEE,2003年 5月,pp. 176 - 180 ,[検索日 2016.03.14],IEEE Xplore,URL,http://ieeexplore.ieee.org/xpl/articleDetails.jsp?arnumber=1287031
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
J−STAGE
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力データに従って電子回路の電子回路設計データを生成する電子回路データ生成手段と、
入力データに従って、MEMSの等価回路の等価回路設計データを、前記電子回路設計データと同じ形式で生成する等価回路データ生成手段と、
前記電子回路データ生成手段が生成した電子回路設計データおよび前記等価回路データ生成手段が生成した等価回路設計データを解析する回路解析手段と、
電子回路を構成する電子素子に対応する基本パターンデータを備えた電子素子パターンデータ記憶部と、
MEMSの等価回路を構成する各部分に対応する基本MEMSパターンデータを備えたMEMSパターンデータ記憶部と、
前記回路解析手段が解析した前記電子回路設計データより前記電子素子パターンデータ記憶部に記憶されている対応する基本パターンデータを組み合わせて電子素子パターンデータを生成する電子パターンデータ生成手段と、
前記回路解析手段が解析した前記等価回路設計データより前記MEMSパターンデータ記憶部に記憶されている対応する基本MEMSパターンデータを組み合わせてMEMSパターンデータを生成するMEMSパターンデータ生成手段と
を少なくとも備え、
前記電子素子パターンデータ生成手段および前記MEMSパターンデータ生成手段を動作させることでフォトマスクパタンを生成する
ことを特徴とする設計支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSなどの素子から構成される半導体装置の設計を支援する設計支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製された各種センサおよびスイッチなどが、盛んに研究開発されている。
【0003】
MEMS素子を設計する際、ユーザのコンピュータ上で動作する専用アプリケーションを用いてMEMS素子の機械特性や電気特性をシミュレーションし、意図した挙動が示されることを確認することが一般的に行われている。また、シミュレーション結果をもとに、ユーザのコンピュータ上で動作するコンピュータ支援設計(computer aided design;CAD)のアプリケーションソフトを用い、MEMS素子製造用のフォトマスクを作製するためのパタンを配置してレイアウトパタンを作成し、このレイアウトパタンを用いてフォトマスクを作製する。フォトマスクは、MEMS素子を作製するときのパターニングにおけるリソグラフィーで用いられる。
【0004】
例えば、非特許文献1によれば、市販のアプリケーションソフトを組み合わせることで、上記シミュレーションおよびレイアウトパタンの作成が可能であることが示されている。
図7は、非特許文献1に示されているMEMS素子の設計方法を説明する説明図である。この設計方法では、MEMS素子の機械的特性または電気的特性を解析する解析アプリケーション701と、フォトマスクパタンをレイアウトするためのCADアプリケーション702と、解析アプリケーション701によるシミュレーション結果をもとにシステム設計を行うシステム設計アプリケーション703とを備える。
【0005】
この設計システムでは、CADアプリケーション702で作成したデータ(3次元モデル)を解析アプリケーション701で扱うことのできるデータに変換し、また解析アプリケーション701で用いたMEMS素子の3次元モデルから、CADアプリケーション702で扱えるデータに変換することが、各々可能である。
【0006】
この設計システムでは、まず、所望とするMEMS素子用のフォトマスクパターン作製のためのデータをCADアプリケーション702で作成する。次いで、作成したデータを解析アプリケーション701で扱うことのできるデータに変換する。次いで、変換したデータにより、解析アプリケーション701で、有限要素法などを用いてMEMS素子に熱や電場などの解析条件を与え、MEMS素子の変形などを解析する。また、システム設計アプリケーション703では、解析アプリケーション701によるMEMS素子のシミュレーション結果をもとに、当該MEMS素子に対して電圧または電流を印加するための電子回路を設計する。
【0007】
また、MEMS素子を駆動し、あるいはMEMS素子の位置を検出するための電子回路を用いる技術が盛んに研究開発されており、電子回路の特性とMEMS素子の特性とを同時に解析することの重要性が増している。例えば、非特許文献2によれば、MEMS素子の質量およびばね定数、MEMS素子が受ける機械的減衰係数を、電子回路上のインダクタ,容量,および抵抗と、各々置き換えることで、電子回路上でMEMS素子を扱えることが示されている。
【0008】
図8,
図9は、非特許文献2に示されているMEMS素子の設計方法を説明する説明図である。
図8は、MEMS素子の構成を示し、
図9は、当該MEMS素子の等価回路を示している。等価回路においては、MEMS素子の可動部801の質量M
0を、電子回路のインダクタ901のインダクタンス値、MEMS素子の可動部801を支えているばね部802のばね定数K
0は、電子回路の容量902の容量値C
0の逆数、MEMS素子が受ける機械的な減衰係数B
0は、電子回路の抵抗903の抵抗値R
0に置き換えられている。
【0009】
図8に示すMEMS素子の可動部801に対して静電引力などの力F
0が発生し、可動部801が速度U
0で動作する場合、可動部801における運動方程式は、次の式(1)で示すことができる。
【0010】
【数1】
【0011】
一方、
図9に示す電子回路において、キルヒホッフの電圧則により、電圧Vは、以下の式(2)で示される。
【0012】
【数2】
【0013】
式(1)と式(2)とを比較すると、MEMS素子の可動部801に作用する力F
0と電子回路の電源904による電圧V
0、可動部801が動作する速度U
0と電子回路に流れる電流I
0、可動部801の質量M
0とインダクタ901のインダクタンスL
0、ばね部802のばね定数K
0と容量902の容量値の逆数1/C
0、可動部801が受ける機械的な減衰係数B
0と抵抗903の抵抗R
0が、各々対応していることがわかる。従って、
図9に示す等価回路を用いて
図8に示すMEMS素子を電子回路で扱うことが可能となる。
【0014】
ところが、非特許文献2では、MEMS素子のうち静電アクチュエータに特有の現象であるプルイン,リリースダンピングなどを解析することが困難である。
【0015】
ここで、プルインとは、ばねによって中空に支持されている可動電極を持つ静電アクチュエータにおいて、固定電極に電圧を印加することによって発生する静電引力がばねの復元力より大きくなり、可動電極が中空で静止することができずに固定電極に向かって引き寄せられる現象である。なお、可動電極および固定電極の両者が金属で構成されている場合、引き寄せられた可動電極が固定電極と接触した瞬間、電極間に過大な電流が流れて電極同士が固着する。これに対し、電極同士の固着を防ぐために、可動電極または固定電極の表面を絶縁膜で覆う、あるいは、可動電極と固定電極との間に、物理的な衝突防止構造(ストッパー)を設けることが一般的である。
【0016】
また、プルインした状態から固定電極に印加した電圧を下げていき、ばねによる復元が静電引力よりも大きくなったとき、ばねによる復元力が働く方向に向かって可動電極が急激に動き出し、振動する現象がある。この現象が、リリースダンピングと呼ばれている。
【0017】
上述したプルインおよびリリースダンピングは、MEMS静電アクチュエータに特有の非線形現象であることが知られており、MEMS素子の設計を行う際には、このような非線形現象を考慮する必要がある。しかしながら、非特許文献2に示す設計方法では、プルインやリリースダンピングが発生する条件を、容量,インダクタ,抵抗といった素子に設定することができないため、プルインおよびリリースダンピングといった現象を表現することができない。このため、非特許文献2の設計方法では、設計対象であるMEMS素子の挙動の一部しか把握できず、プルインやリリースダンピングが起こった場合について十分検討することができないという問題がある。
【0018】
これに対し、非特許文献3では、電子回路設計アプリケーションにおいて、MEMS素子を等価回路化し、等価回路の内部処理として、非特許文献2のようなインダクタや容量を用いず、方程式で記述することが可能な回路素子を用い、上述したプルインおよびリリースダンピングを計算している。これにより、非特許文献3の設計方法によれば、プルインやリリースダンピングが起こった場合についても、設計対象であるMEMS素子の挙動が把握できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】http://www.cybernet.co.jp/ansys/solution/softmems/function.html
【非特許文献2】Qi Jing et al. , "CMOS Micromechanical Bandpass Filters Design Using a Hierarchical MEMS Circuit Library", The 13th IEEE Annual International Conference on MEMS Miyazaki Japan, 23-27, pp.187-192, 2000.
【非特許文献3】M. Mita et al. , "Multi-Physics analysis for Micro Electromechanical Systems Based on Electrical Circuit Simulator", IEEJ Transactions, vol.6, no.2, pp.180-189, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、まず、非特許文献1の設計システムでは、解析アプリケーションでシミュレーションを実施した結果が目的の値に合致しなかった場合、計算(シミュレーション)に使用するパラメータをCADアプリケーションで修正し、解析アプリケーションで扱うことのできるデータに変換した上で、再度シミュレーションを実施する必要があり、時間がかかり、また非常に手間がかかるという問題がある。
【0021】
また、非特許文献1の設計システムでは、電子回路上でMEMS素子の特性を把握するための解析を実施する場合、解析アプリケーションを用いてMEMS素子の挙動を先に計算し、計算結果を電子回路上の等価回路に変換するための装置を用いて等価回路を生成し、電子回路設計アプリケーションに読み込む必要があり、コストと手間(時間)がかかるという問題があった。
【0022】
また、非特許文献3の設計方法によれば、プルインやリリースダンピングが起こった場合についても、設計対象であるMEMS素子の挙動が把握できるが、電子回路およびMEMS素子のフォトマスクパタンのレイアウトを行う場合には、別途のシステムが必要となる。例えば、設計および解析を行ったデータを、CADアプリケーションに改めて入力し、これにより得られるデータを用いてフォトマスクパタンを作成することになる。このように、いずれにおいても、手間とコストがかかるという問題がある。
【0023】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、従来に比較して手間をかけることなくより容易に短時間でMEMS素子を含む半導体装置の設計が行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る設計支援装置は、入力データに従って電子回路の電子回路設計データを生成する電子回路データ生成手段と、入力データに従って、MEMSの等価回路の等価回路設計データを、電子回路設計データと同じ形式で生成する等価回路データ生成手段と、電子回路データ生成手段が生成した電子回路設計データおよび等価回路データ生成手段が生成した等価回路設計データを解析する回路解析手段と、電子回路を構成する電子素子に対応する基本パタンデータを備えた電子素子パタンデータ記憶部と、MEMSの等価回路を構成する各部分に対応する基本MEMSパタンデータを備えたMEMSパタンデータ記憶部と、回路解析手段が解析した電子回路設計データより電子素子パタンデータ記憶部に記憶されている対応する基本パタンデータを組み合わせて電子素子パタンデータを生成する電子パタンデータ生成手段と、回路解析手段が解析した等価回路設計データよりMEMSパタンデータ記憶部に記憶されている対応する基本MEMSパタンデータを組み合わせてMEMSパタンデータを生成するMEMSパタンデータ生成手段とを少なくとも備え
、 電子素子パターンデータ生成手段およびMEMSパターンデータ生成手段を動作させることでフォトマスクパタンを生成する。なお、電子回路設計データと等価回路設計データとは接続され、回路解析手段は、電子回路設計データと等価回路設計データとを一群のデータとして解析してもよい。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したことにより、本発明によれば、従来に比較して手間をかけることなくより容易に短時間でMEMS素子を含む半導体装置の設計が行えるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態における設計支援装置の構成を示す構成図である。
【
図2】
図2は、解析対象とするMEMS素子のモデルの1例を示す構成図である。
【
図3】
図3は、等価回路データ生成部102により構成される等価回路の1例を示す構成図である。
【
図4】
図4は、MEMS素子の等価回路に電子回路を組み合わせた構成を示す回路図である。
【
図5】
図5は、3つのフォトマスクのパタンを重ねて表示した状態を示す平面図である。
【
図6】
図6は、MEMS素子の構成を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、非特許文献1に示されているMEMS素子の設計方法を説明する説明図である。
【
図8】
図8は、非特許文献2に示されているMEMS素子の設計方法を説明するための説明図である。
【
図9】
図9は、非特許文献2に示されているMEMS素子の設計方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における設計支援装置の構成を示す構成図である。この設計支援装置は、電子回路データ生成部101,等価回路データ生成部102,回路解析部103,電子素子パタンデータ記憶部104,MEMSパタンデータ記憶部105,電子パタンデータ生成部106,およびMEMSパタンデータ生成部107を備える。また、この設計支援装置は、データ入力部111およびデータ出力部112を備える。
【0028】
電子回路データ生成部101は、ユーザによるデータ入力部111の操作により入力された入力データに従って電子回路の電子回路設計データを生成する。等価回路データ生成部102は、ユーザによるデータ入力部111の操作により入力された入力データに従って、MEMSの等価回路の等価回路設計データを電子回路データ生成部101が生成する電子回路設計データと同じ形式で生成する。回路解析部103は、電子回路データ生成部101が生成した電子回路設計データ、および等価回路データ生成部102が生成した等価回路設計データを解析する。また、回路解析部103は、電子回路設計データと等価回路設計データとを接続したデータを、一群(一組)のデータとして解析する。
【0029】
また、電子素子パタンデータ記憶部104は、電子回路を構成する電子素子に対応する基本パタンデータを記憶している。また、MEMSパタンデータ記憶部105は、MEMSの等価回路を構成する各部分に対応する基本MEMSパタンデータを備える。MEMSパタンデータ記憶部105は、MEMS素子の物理的な寸法値に対応したフォトマスクパタンを自動生成するための基本MEMSパタンデータを記憶している。
【0030】
また、電子パタンデータ生成部106は、回路解析部103が解析した電子回路設計データより電子素子パタンデータ記憶部104に記憶されている対応する基本パタンデータを組み合わせて電子素子パタンデータを生成する。MEMSパタンデータ生成部107は、回路解析部103が解析した等価回路設計データよりMEMSパタンデータ記憶部105に記憶されている対応する基本MEMSパタンデータを組み合わせてMEMSパタンデータを生成する。パターンデータの生成においては、基本となるパターンデータを、入力されているデータのパラメータに対応させて寸法などを適合させ、また、入力されているデータに適合させて配置する。また、データ出力部112は、例えば、上述したように生成したデータを、ユーザに視認可能な状態で出力する。データ出力部112は、例えば、表示装置、印刷装置などから構成されている。
【0031】
なお、上述した設計支援装置は、CPUと主記憶装置と外部記憶装置とネットワーク接続装置となどを備えたコンピュータ機器であり、主記憶装置に展開された電子回路設計アプリケーションプログラムによりCPUが動作することで、上述した各機能が実現される。また、各機能は、複数のコンピュータ機器に分散させるようにしてもよい。
【0032】
電子回路設計アプリケーションは、よく知られているように、電子設計自動化(Electronic Design Automation;EDA)アプリケーションと呼ばれている。近年では、半導体素子および電子回路のシミュレーションと、半導体素子および電子回路を作製するためのフォトマスクパタンの自動生成を行う機能とを備えるEDAアプリケーションがある。
【0033】
このような、EDAアプリケーションにおいては、半導体素子および電子回路のシミュレーションを行う際に、電子回路を構成する個々の半導体素子の接続情報を特定の文法で表現した「ネットリスト」と呼ばれるデータに変換してからシミュレーションを実行している。また、半導体素子および電子回路を作製するためのフォトマスクパタンの自動生成を行う際には、「ネットリスト」とは別の文法で構成されたフォトマスクパタンを自動生成するためのデータを、EDAアプリケーションに読み込ませる。EDAアプリケーションとしては、例えば、Cadence社の「Virtuoso Custom IC Platform」が利用可能である。
【0034】
本実施の形態における電子回路データ生成部101,回路解析部103,電子素子パタンデータ記憶部104,および電子パタンデータ生成部106は、上述したEDAアプリケーションで実施可能である。本実施の形態では、上述したEDAアプリケーションに、新たに、等価回路データ生成部102,MEMSパタンデータ記憶部105,およびMEMSパタンデータ生成部107を追加している。
【0035】
電子回路データ生成部101および等価回路データ生成部102は、ユーザが入力したデータに従い作製された電子回路設計データおよび等価回路設計データを、同じ形式のデータである例えば「ネットリスト」で生成する。言い換えると、電子回路データ生成部101および等価回路データ生成部102は、回路解析部103で用いることができる同一のデータ形式で、電子回路設計データおよび等価回路設計データを生成する。このように生成された同じ形式とされた回路設計データを、回路解析部103が解析する。
【0036】
次に、解析対象とするMEMS素子のモデルの1例について説明する。
図2は、解析対象とするMEMS素子のモデルの1例を示す構成図である。このMEMS素子のモデルは、固定用アンカー201と、固定用アンカー201にばね部202で連結されている可動電極203と、可動電極203に対向する固定電極204とから構成されている。また、固定用アンカー201と可動電極203との間には、減衰部205が設けられている。ばね部202は、ばね定数k1とされ、可動電極203は、質量m1とされ、面積がS2とされている。また、減衰部205は、減衰係数b1とされている。
【0037】
図2に示すモデルに対し、等価回路データ生成部102では、ユーザの操作によって入力された入力データに従って、
図3に示すように等価回路を構成する。この等価回路は、固定用アンカー201に対応するモジュールD301と、ばね部202に対応するモジュールC302と、静電引力および復元力などの力によって可動電極203が動作するときの可動電極203の動作速度や変位量などを計算するモジュールB303と、可動電極203および固定電極204に対応するモジュールA304とから構成されている。
【0038】
各モジュールは、ハードウエア記述言語(Hardware Description Language;HDL)により記述され、各々の等価回路の動作が示されている。HDLとしては、「Verilo−a」を用いることができる。このようなHDLを用いることで、等価回路の入出力電圧および電流が、任意の式で記述でき、加えて、条件分岐や初期条件の設定、また、数学関数を用いた表現などで、各モジュールの内容を自由に記述することができる。例えば、条件分岐を用いることで、MEMS素子の可動部の変位量がストッパーの位置を超える場合、可動部の変位量をストッパーの位置に強制的に固定することが可能となる。これにより、MEMS素子特有の非線形現象が記述できるようになる。
【0039】
上述した等価回路データ生成部102により構成した等価回路に、電子回路データ生成部101で構成した電子回路を組み合わせた構成について、
図4を用いて説明する。
図4は、MEMS素子の等価回路に電子回路を組み合わせ、電子回路設計データと等価回路設計データとが接続された一群のデータとした回路図である。電子回路は、抵抗R1,抵抗R2,抵抗R3,抵抗R4,容量C1,容量C2,トランジスタNMOS,および電源VDD1から構成されている。この電子回路は、一般にコルピッツ型発振回路として知られており、インダクタ素子を配置する箇所に、等価回路のモジュールA304が接続されている。なお、等価回路のモジュールA304には、電源VBIAS1も接続されている。
【0040】
図4に示した電子回路および等価回路より、電子回路データ生成部101および等価回路データ生成部102から生成されて電子回路設計データおよび等価回路設計データが接続された一群のデータに対して回路解析部103により解析を実行することで、トランジスタNMOSのゲート端子電圧が発振する状態がシミュレーションできる。また、等価回路において、MEMSの可動部となる可動電極の変位量が、上記発振の周波数と同じ周波数で振動している状態がシミュレーションできる。これらのシミュレーションにより、MEMS素子と電子回路との同時解析が可能になる。これらの解析結果が、所望の状態となるように、電子回路のパラメータおよび等価回路の各モジュールのパラメータを設定すれば、所望とする電子回路および等価回路が得られる。
【0041】
また、上述したようにして回路解析部103により解析された電子回路設計データおよび等価回路設計データより、電子パタンデータ生成部106およびMEMSパタンデータ生成部107を動作させることで、フォトマスクパタンが得られる。例えば、得られた等価回路設計データよりMEMSパタンデータ生成部107が、
図5に示すフォトマスクパタンデータを生成する。
図5は、3つのフォトマスクのパタンを重ねて表示した状態を示す平面図である。
【0042】
まず、可動電極パタン501,ばね部パタン502が、同じフォトマスクのパタンとして生成される。ばね部パタン502の一端は、可動電極パタン501に接続している。また、ばね部パタン502の他端を支持するための固定用アンカーパタン521,可動電極パタン501に対向する固定電極パタン522,およびストッパーパタン523が、同じフォトマスクのパタンとして生成される。また、ばね部や可動電極を中空に支持するために、ばね部パタン502の他端と固定用アンカーパタン521との間に配置される支持台パタン511が、上述した2つのフォトマスクとは異なるフォトマスクのパタンとして生成される。
【0043】
これらの各フォトマスクパタンは、MEMSパタンデータ生成部107により、等価回路設計データの各部分に対応する基本MEMSパタンデータを、MEMSパタンデータ記憶部105より取り出し(読み出し)、入力されているパラメータに従って寸法などを変更するなど、取り出した基本MEMSパタンデータを等価回路設計データに適合させて配置することで形成される。
【0044】
例えば、
図4に示すMEMS素子の等価回路を構成するモジュールD301に対応して固定用アンカーのフォトマスクパタン、モジュールC302に対応してばねのフォトマスクパタン、モジュールB303に対応してストッパのフォトマスクパタン、モジュールA304に対応して可動電極および固定電極のフォトマスクパタンを自動生成するための基本MEMSパタンデータを、専用の文法に則ったテキスト形式のデータとして用意してMEMSパタンデータ記憶部105に記憶させておけばよい。
【0045】
上述した各フォトマスクを用いたリソグラフィー技術で作製される実際のパタンの状態を、
図6に示す、
図6は、MEMS素子の構成を示す斜視図である。このMEMS素子では、可動電極601が、ばね部602の一端に接続し、ばね部602の他端が、支持台611と固定用アンカー621に支持されている。また、可動電極601に対向して固定電極622が設けられている。また、固定電極622の周囲には、ストッパー623が設けられ、ばね部602の一端の可動範囲を制限している。
【0046】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、いわゆるCADアプリケーションソフトを用いることなく、MEMS素子のフォトマスクパタンが生成でき、また、シミュレーションの結果をMEMS素子のフォトマスクパタンの生成に対応させることができるので、手間をかけることなくより容易に短時間でMEMS素子を含む半導体装置の設計が行えるようになる。
【0047】
一般に、半導体素子および電子回路のフォトマスクパタンを作製する際、フォトマスクパタンが設計上のパタン幅や間隔を満たしているかを検証する方法(Design Rule Check;DRC)、および、フォトマスクパタンとユーザが設計した電子回路の電気的な接続情報とを比較検証する方法(Layout Versus Schematic)の2種類の検証を、電子回路設計アプリケーションで実施している。
【0048】
このような検証について、従来では、電子回路およびMEMS素子の各々について、個別に行っていたが、本発明によれば、MEMS素子の等価回路を電子回路と同じ形式の設計データで生成して検証するようにしたので、個別に検証する場合に比較して、より短時間で設計が行えるようになる。
【0049】
また、従来では、シミュレーションを実施した結果が目的の値に合致しなかった場合、パラメータなどをCADアプリケーションで修正し、解析アプリケーションで扱うことのできるデータに変換した上で、再度シミュレーションを実施していた。これに対し、本発明では、シミュレーションを実施した結果が目的の値に合致しなかった場合、電子回路データ生成手段および等価回路データ生成手段に入力すれば、回路解析手段で解析され、電子パターンデータ生成手段およびMEMSパターンデータ生成手段よりパターンデータが生成される。このように、本発明によれば、手間をかけることなく、短時間で、パターンデータの変更が可能である。
【0050】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0051】
101…電子回路データ生成部、102…等価回路データ生成部、103…回路解析部、104…電子素子パタンデータ記憶部、105…MEMSパタンデータ記憶部、106…電子パタンデータ生成部、107…MEMSパタンデータ生成部、111…データ入力部、112…データ出力部。