特許第6044145号(P6044145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044145
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/28 20060101AFI20161206BHJP
   H01M 10/16 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H01M2/28
   H01M10/16 Z
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-156894(P2012-156894)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-22076(P2014-22076A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年2月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健也
(72)【発明者】
【氏名】下浦 一朗
(72)【発明者】
【氏名】酒井 政則
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−121951(JP,A)
【文献】 特開平09−306464(JP,A)
【文献】 特開昭51−065332(JP,A)
【文献】 特開昭59−016264(JP,A)
【文献】 特開2006−024514(JP,A)
【文献】 実開昭58−002965(JP,U)
【文献】 特開2004−247197(JP,A)
【文献】 飯塚博幸,VRLA電池設計へのCAE適用の検討,FBテクニカルニュース,2002年,No.58号,pp.19−24
【文献】 JIS工業用語大辞典,2001年,第5版,p.251
【文献】 最新実用二次電池 −その選び方と使い方−,日刊工業新聞社,1995年,初版,pp.32−33
【文献】 桜井 俊明,鉛蓄電池極板格子耳部の破断メカニズムの解明,FBテクニカルニュース,2005年,No.61号,pp.18−24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/28
H01M 10/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池に備えられる電解液に浸漬される電極板と、外部電極に接続されるストラップとが接合され、前記電極板の表面には階段状の凹凸が形成されており、当該階段状の凹凸が形成された前記電極板の表面の部分で前記電極板が前記ストラップと接合されており、前記ストラップの残存応力が圧縮応力又は5MPa以下の引張応力である鉛蓄電池の電極構造を有する鉛蓄電池を製造する方法であって、
前記電極板が、前記ストラップを構成する金属の溶湯に浸漬されて冷却された後、再加熱されて再冷却される工程を有することを特徴とする、鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、二次電池として、例えば鉄道、船舶、自動車等に積載されている。また、風力や太陽光等の自然エネルギを利用して発電した電力を二次電池に蓄えたり、系統からの電力を蓄えたりする技術が家庭用にも産業用にも注目されている。さらには、IT技術を利用したスマートグリッド(次世代送電網)においても、二次電池を利用した技術が注目されている。
【0003】
二次電池としての鉛蓄電池は、その内部に電極板(負極板及び正極板)を有している。電極板は外部端子(負極及び正極)に接続され、外部端子を通じて、鉛蓄電池と外部との間で電子の授受が行われるようになっている。なお、電極板は、負極板及び正極板のそれぞれについて、ストラップと呼称される導電性金属部材を介し、外部端子に接続されている。
【0004】
電極板及びストラップは、異なる材料により構成されることが多い。具体的には例えば、電極板及びストラップは、例えば鉛−アンチモン合金や、鉛−カルシウム合金、鉛−スズ合金等から適宜組み合わされて構成される。このようにすることにより、電極板の融点とストラップの融点とに差を生じさせることができる。
【0005】
しかしながら、電極板及びストラップを異なる材料により構成すると、接合後、これらの接合界面において溶接強度が低下することがある。そこで、このような溶接強度の低下を防止する技術として、例えば特許文献1には、極板の少なくとも一辺には耳部が設けられ、複数の前記耳部が接続された棚部が設けられ、前記耳部の少なくとも一面には刻み目あるいは凹部が設けられた鉛蓄電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−135131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記の特許文献1に記載の技術においては、耐食性及び溶接強度の検討が為されているものの、これらは依然として不十分である。特に、特許文献1に記載の技術においては、製造時に残存する応力(残存応力)が考慮されていないため、経時劣化に伴う耐食性に改善の余地がある。即ち、特許文献1に記載の技術においては、残存応力の大きさによっては、経時劣化により電極板の耳部とストラップとの間に破断が生じることがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、従来よりも耐食性を向上させた鉛蓄電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、以下のようにすることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明の要旨は、鉛蓄電池に備えられる電解液に浸漬される電極板と、外部電極に接続されるストラップとが接合され、前記電極板の表面には階段状の凹凸が形成されており、当該階段状の凹凸が形成された前記電極板の表面の部分で前記電極板が前記ストラップと接合されており、前記ストラップの残存応力が圧縮応力又は5MPa以下の引張応力である鉛蓄電池の電極構造を有する鉛蓄電池を製造する方法であって、前記電極板が、前記ストラップを構成する金属の溶湯に浸漬されて冷却された後、再加熱されて再冷却される工程を有することを特徴とする、鉛蓄電池の製造方法に関する。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも耐食性を向上させた鉛蓄電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の鉛蓄電池の斜視図である。
図2図1におけるA−A線断面図である。
図3図2におけるB部拡大図である。
図4】実施例において作製した電極板とストラップとの一体物を示す図である。
図5】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明するが、本実施形態は以下の内容に何ら制限されるものではない。
【0013】
<構成>
図1は、本実施形態の鉛蓄電池100の斜視図である。図1においては、鉛蓄電池100の内部構造を説明するために、電槽3及び蓋8の構造を一部省略して示している。鉛蓄電池100は、負極1と、正極2と、電槽3と、負極板4と、正極板5と、セパレータ6と、ストラップ7aと、蓋8と、弁9とを備えている。また、図示はしないが、電槽3内には硫酸(電解液)が充填されている。電槽3内の気体等は、内外を連通させる弁9を通じて外部に排出可能になっている。また、電槽3への硫酸の補充も、弁9を通じて可能になっている。
【0014】
筐体としての電槽3内には、複数の負極板4及び複数の正極板5が設けられている。負極板4は例えば鉛等により構成される。また、正極板5は例えば二酸化鉛等により構成される。セパレータ6は例えば多孔質の樹脂膜等により構成される。そして、負極板4と正極板5とはセパレータ6を介して積層され、これらは硫酸中に浸漬されている。これにより、鉛蓄電池100は充放電可能になっている。
【0015】
負極板4は、その上端に耳部4aを備えている。各負極板4の耳部4a同士はストラップ7a(例えば鉛等により構成される)により接合されている。また、図示はしないが、各正極板5の耳部同士も、ストラップ7b(例えば鉛等により構成される)により接合されている。複数の負極板4を接合しているストラップ7aは、外部に露出している負極1に対し、接続部10によって接続されている。また、複数の正極板5を接合しているストラップ7bは、外部に露出している正極2に対し、接続部11(図2参照)によって接続されている。負極1及び正極2はいずれも蓋8に固定されている。これらを通じて、鉛蓄電池100と外部との間で電子の授受が可能になっている。
【0016】
図2は、図1におけるA−A線断面図である。図2においては、図示の簡略化のために、負極板4及び正極板5を一部省略して記載している。前記したように、負極板4及び正極板5は、セパレータ6を介して、交互に積層されている。そして、負極板4は、その上端に形成されている耳部4aにより、ストラップ7aに接合されている。なお、正極板5も、その上端に形成されている耳部5bにより、ストラップ7b(図2参照)に接合されている。
【0017】
ストラップ7aと耳部4aとの接合は、例えば、ストラップ7aの形状を有する鋳型に溶融鉛合金を入れ、その中に耳部4aを浸漬して冷却固化させることにより行うことができる。具体的には、例えば、耳部4aに水−アルコール系溶媒にメタリン酸を溶解したフラックスを塗布し、60℃〜90℃程度の温風にて5秒〜20秒程度加熱乾燥することにより、耳部4aを有する負極板4が得られる。また、ストラップ7aの形状を有する金型は、その内表面にコルクを予め吹き付けておく。そして、コルクが吹き付けられた鋳型を約220℃程度に加熱し、その状態において、2.7質量%のアンチモンを含む鉛の溶融物(約550℃程度)を入れる。この溶融物の中に耳部4aを浸漬させて溶融物を冷却することにより、ストラップ7aと耳部4aとの接合を行うことができる。このような作業は、所謂「鋳ぐるみ」と呼称される作業である。
【0018】
また、例えば、別個に形成したストラップと電極板の耳部とが、バーナー溶接及び冷却により接合されることもある。
【0019】
これらの冷却の際、ストラップ7aには応力が残存する。そのため、応力方向や大きさによっては、ストラップ7aと耳部4aとの接合部分において、経時劣化に伴って、ストラップ7aと耳部4aとが脱離し易くなることがある。即ち、これらの接合界面において、破断が生じ易くなることがある。そのため、本実施形態の鉛蓄電池100においては、ストラップ7aに残存する残存応力が、圧縮応力であるか、5MPa以下の引張応力になっている。
【0020】
具体的には、残存応力が圧縮応力である場合、鉛蓄電池100の使用時間が経過しても、ストラップ7aの接合界面は、耳部4aに対して押し付ける力(即ち圧縮応力)を有しているため、破断が生じる可能性が低い。また、残存応力が引張応力である場合、ストラップ7aの接合界面は、耳部4aから離れようとする力(即ち引張応力)を有しているが、引張応力の大きさは5MPa以下と小さいため、破断が生じる可能性は低い。従って、ストラップ7の残存応力を圧縮応力とするか、5MPa以下の引張応力にすることにより、従来よりも耐食性を向上させた鉛蓄電池の電極構造を提供することができる。
【0021】
残存応力が圧縮応力の場合、応力の方向は特に問題にならない。しかしながら、残存応力が引張応力の場合、耳部4aとストラップ7aとの接合界面に垂直な方向の応力の大きさが大きすぎると、これらの接合界面において、破断が生じ易くなる。従って、この方向における引張応力の大きさが5MPa以下になっている。
【0022】
つまり、ストラップ7aの残存応力の方向が二方向以上になっていることが好ましい。このようにすることで、残存応力の方向を分散させることができ、より確実に前記の残存応力にすることができる。これにより、従来よりも耐食性を向上させた鉛蓄電池の電極構造を提供することができる。
【0023】
このような応力の大きさ及び方向は、所望の位置に歪ゲージ等を設けることにより、当該所望の位置の残存応力を測定することができる。歪ゲージの具体的な種類としては、例えば実施例に記載の歪ゲージが使用可能である。
【0024】
図3は、図2におけるB部拡大図である。図3(a)は負極板4の耳部4aとストラップ7aとの接合界面の構造を示す図であり、図3(b)は図3(a)のC部拡大図である。図3(a)に示すように、耳部4aにおけるストラップ7aの接合界面において、凹凸が設けられている。即ち、耳部4aの表面形状はエンボス形状になっている。
【0025】
耳部4aにおけるストラップ7aの接合界面において、具体的には、図示のように、凸部4a1及び凹部4a2が設けられている。これにより、図3(b)に示すように、耳部4aとストラップ7aとの接合界面において発生する圧縮応力及び引張応力の方向を分散させることができる。即ち、ストラップ7aの残存応力の方向が、図示のように二方向以上になっている。そのため、特に引張応力の力を分散させることができ、破断の生成可能性を低下させることができる。さらには、亀裂が生じた際に、連続的な進行が抑制される。
【0026】
従来、例えば前記した特許文献1に記載のような鉛蓄電池においては、このような残存応力が考慮されていなかった。そのため、耳部4aとストラップ7aとの間で破断が生じることがあり、耐食性に課題があった。具体的には、図3(b)のD部に示す境界面で特に大きな引張応力が残存することがあり、この部位で破断が生じやすかった。しかしながら、本実施形態の鉛蓄電池100においては、前記の残存応力を有するストラップ7aを備えている。そのため、耳部4aとストラップ7aとの間で破断が生じる可能性が低い。即ち、経時劣化に伴う腐食割れが生じる可能性が低い。また、耳部4aとストラップ7aとを一体に形成後、亀裂の生じる方向が変わるため、破断が生じるまでの時間を長時間化することができる。
【0027】
図3に示すような凹凸を設ける場合、凸部4a1の高さHは例えば0.2mm以上10mm以下とすることができる。また、隣接する凸部4a1の間隔Wは例えば1mm以上5mm以下とすることができる。さらに、凹部4a2の深さDは例えば0.2mm以上2mm以下とすることができる。これらの中でも、本発明者らの検討によれば、特に、凹部4a2の深さDが残存応力の方向に寄与することが見出された。そこで、特には、凹部4a2の深さDを前記の範囲に設定することが好ましい。
【0028】
また、凸部4a1及び凹部4a2の数も特には制限されないが、いずれも多いことが好ましい。
【0029】
従来よりも耐食性を向上させた鉛蓄電池の電極構造としては、図3に示す形状の他にも、耳部4aとストラップ7aとを接合した後に全体を再加熱及び再冷却してなる構造が挙げられる。再加熱により、ストラップ7aの残存応力の方向を分散させることができる。また、耳部4aとストラップ7aとの接合面を平滑にすることができるため、製造が容易になる。しかも、製造中にも破断が生じにくいため、歩留まりが向上する。
【0030】
再加熱の温度及び時間は特に制限されないが、例えば320℃以上450℃以下で30秒以上行うことができる。
【0031】
さらには、これらの構造の他にも、予め加熱された耳部4aを用いてストラップ7aを形成してなる構造が挙げられる。このようにすることにより、ストラップ7aの形状の鋳型内の溶融鉛に耳部4aを浸漬したときに、耳部4aの温度が迅速に溶融鉛の温度まで上昇する。これにより、耳部4aとストラップ7aとの境界において隙間の発生を抑制することができる。
【0032】
また、冷却時に全体が一様に冷却されるため、残存応力の方向が偏りにくい。これより、ストラップ7aの残存応力の方向を分散させることができる。具体的には、図3(b)の紙面垂直な方向(耳部4aの長辺方向に垂直で、かつ、負極板4の平面に平行な方向)に残存応力が発生することを抑制することができる。また、耳部4aとストラップ7aとの接合面を平滑にすることができるため、製造が容易になる。しかも、製造中にも破断が生じにくいため、歩留まりが向上する。
【0033】
耳部4aの予熱温度は特に制限されないが、例えば150℃以上300℃以下とすることができる。
【0034】
<変更例>
以上、鉛蓄電池100の構成を説明したが、鉛蓄電池100の構成は前記の内容に何ら限定されるものではない。
【0035】
前記の実施形態においては、負極板4の耳部4aとストラップ7aとの接合について説明したが、正極板5の耳部5b(図2参照)とストラップ7b(図2参照)との接合界面においても、同様の残存応力とすることができる。
【0036】
また、図示の例では、負極板4の耳部4aは、ストラップ7aに対して垂直に接合している。しかしながら、耳部4aとストラップ7aとの接合角度は垂直(90°)に限定されず、それより小さくてもよい。ただし、残存応力を分散させると言う観点から、負極板4(具体的には耳部4a)とストラップ7aとの接合角度は45°以上であることが好ましい。また、その上限は、90°以下であることが好ましい。
【0037】
さらに、鉛蓄電池の構造も図示の例に限定されず、各部材の形状は適宜変更して決定すればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて、本実施形態をより詳細に説明する。
【0039】
<実施例1>
7枚の平滑な負極板4を用い、鉛を用いた鋳ぐるみにより、図4に示す鉛製の平板(厚さ7mm)13a,・・・13f,13gと接続部材14とにより構成される一体物200を形成した。この一体物200は、図1等に示した鉛蓄電池100における負極板4及びストラップ7aに相当するものである。
【0040】
作製した一体物200において、図4に示す位置12aの位置に歪ゲージ(東京測器研究所社製FCV−1)を設けた。即ち、平板13aの左下端部を起点として、右方向の距離として7mmの位置に歪ゲージを配置した。歪ゲージの周方向が引張応力方向である。その後、30日放置し、歪ゲージにより応力を測定した。また、残りの6枚の平板13b(図示していない)、・・・、13f及び13gについても、12b(図示していない)、・・・、12f及び12gの位置に同様に歪ゲージを設けて、応力を測定した。その結果を図5に示す。
【0041】
図5に示すように、距離が20mm程度より大きな位置の平板近傍においては、いずれも残存する引張応力が5MPa以上となった。そして、その後の腐食状況を目視したところ、いずれも腐食亀裂が進行したことがわかった。しかし、距離7mm付近では残存する引張応力は小さく、腐食亀裂が生じないことを確認した。このことから、残存引張応力を5MPa以下とすることにより、腐食亀裂による破断を抑制できることがわかった。
【0042】
<実施例2〜10、比較例1及び2>
表面に凹凸を有する平板を用いたこと以外は実施例1と同様にして一体物を作製した。この平板における耳部には、凸部4a1及び凹部4a2(いずれも図3参照。以下同じ。)が一つずつ形成されている。ただし、凹凸を構成する凸部4a1の高さH及び凹部4a2の深さDを表1のように変化させた(実施例2〜10)。また、凹凸を有さない一体物も作製した(比較例1及び2)。
【0043】
【表1】
【0044】
作製した実施例2〜10の一体物を硫酸39質量%溶液中に30日間浸漬して亀裂進行を調べた。その結果、実施例2〜10の一体物においては亀裂の破断が生じなかった。一方で、比較例1及び比較例2の一体物においては2mm以上の亀裂が生成していた。従って、平板表面に凹凸を設け、残存応力を本発明で特定する範囲にすることにより、良好な耐食性を示すことがわかった。
【0045】
<実施例11〜13、比較例3及び4>
表面に凹凸を有する平板を用いたこと以外は実施例1と同様にして一体物を作製した。凹部の深さを一定(2mm)にし、凸部の高さを表2のように変化させた(実施例11〜13、比較例3及び4)。そして、作製した実施例11〜13、比較例3及び4の一体物を硫酸39質量%溶液中に30日間浸漬して亀裂進行を調べた。亀裂進行の度合は、図4に示す一体物において、凸部の下部に形成された亀裂を指標として評価した。なお、ここでいう凸部は、図4においては図示していないが、図3(a)に示した凸部4a1のことである。また、この評価は、紙面に垂直な方向1cmの大きさの凸部4a1の下方に存在する亀裂(隙間)の体積を用いた。その結果も併せて表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、凸部及び凹部のいずれも有する実施例11〜13の一体物においては、亀裂進行はほとんど生じなかった。特に、凸部の高さによらず、いずれも良好な結果を示した。一方で、凸部を有さない比較例3及び4においては、亀裂進行が大きかった(0.5mm以上)。この結果より、凸部の大きさは制限されないが、平板表面に凸部及び凹部のいずれも有することで、残存応力を本発明で特定する範囲にすることにより、良好な耐食性を示すことがわかった。
【0048】
<実施例14及び15
実施例1と同様にして図4に示す一体物200を形成した後、350℃での熱処理を行ったもの(実施例14)と、当該熱処理を行わないもの(実施例15)との2つについて、実施例1と同様にして亀裂進行を評価した。その結果、熱処理を行わない実施例15では7枚の負極板中5枚の負極板にわずかな亀裂が認められたが、熱処理を行った実施例14では全ての負極板で亀裂が認められなかった。これは、鋳ぐるみ後の熱処理より残存引張応力が緩和されため、腐食亀裂による破断が抑制されたと考えられる。
【符号の説明】
【0049】
1 負極(外部電極)
2 正極(外部電極)
4 負極板(電極板)
4a 耳部
5 正極板(電極板)
7a ストラップ
7b ストラップ
図1
図2
図3
図4
図5