【実施例】
【0016】
以下に、本発明に係る液滴吐出ヘッドの実施例を従来の構造の液滴吐出ヘッドと対比しつつ、本発明に係る液滴吐出ヘッドの構造及び製造方法及びこの液滴吐出ヘッドを用いたインクタンク及びインクジェット記録装置及び画像形成装置の実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(従来構造の液滴吐出ヘッド)
図1は、従来構造の液滴吐出ヘッドの断面図である。その
図1において、符合1は液滴吐出ヘッドとしてのインクジェット記録ヘッドを示している。このインクジェット記録ヘッド1は、ヘッド本体2とハウジング部材3とから大略構成されている。
【0018】
ヘッド本体2は、ノズル基板4、液室基板5、振動板6、液体供給基板7、共通液室構成部材8から大略構成されている。ノズル基板4には複数個のノズル孔4aが形成されている。液室基板5には、複数個の加圧液室5aと、液体流入抵抗部としての液体導入路5bと、液体供給口5cとが形成されている。
【0019】
そのノズル基板4と液室基板5と液体供給基板7とは接着による積層構成とされている。振動板6は液室基板5と液体供給基板7との間に介在されて、加圧液室5aの一部を構成している。液体供給基板7には、駆動回路部材9が設けられている。その液体供給基板7は、その駆動回路部材9の両側が電気機械変換素子としての圧電素子10を配置する配置空間11とされている。
【0020】
その配置空間11に圧電素子10が振動板6を介して加圧液室5aと対向するように配置されている。圧電素子10の上部には図示を略す電極が形成され、この電極に駆動回路部材9がフリップチップボンディング手法により電気的に接合されている。
【0021】
共通液室構成部材8には、液体供給口5cに連通する共通液室12が形成されている。この液室構成部材8は、共通液室12の所望の容積を確保するため、金属板8aと二枚の樹脂板8b、8cとの三枚構成とされている。その共通液室構成部材8は、金属板8aと二枚の樹脂板8b、8cとは接着により接合されて構成される。
【0022】
その共通液室構成部材8は、液体供給基板7の上面に接着により接合される。ハウジング部材3には、液体貯留部(図示を略す)からの液体を共通液室12に供給する連通管13が形成されている。
【0023】
ヘッド本体2はそのハウジング部材3にダンパー部材14とダンパーフレーム15とを介して接合される。この従来構造の液滴吐出ヘッド1は、各構成要素の積層に時間がかかり、総じてコスト高である。
【0024】
(本発明の実施例に係る液滴吐出ヘッドの成形体の構造)
(実施例1)
図2、
図3は本発明の実施例1に係る液滴吐出ヘッド1の一部を構成する成形体28を示し、
図2は実施例1に係る液滴吐出ヘッドの成形体28の分解斜視図を示し、
図3はその実施例1に係る液滴吐出ヘッドの成形体28の断面図を示している。
【0025】
その
図2、
図3には、液滴吐出ヘッドを構成するヘッド本体2の構成要素のうちのノズル基板4、液室基板5、振動板6、液体供給基板7は
図1に示す従来構造の液滴吐出ヘッド1と同一であるので、その図示が省略されている。
【0026】
共通液室構成部材8は、矩形状の金属板16と長尺形状の包囲壁部材17とから構成されている。その金属板16には、複数個のスリット状開口18が形成されている。ここでは、このスリット状開口18はY、M、C、Kの各色に対応して4個とされている。
【0027】
その金属板16の材料には、ここでは、ステンレンススチールが用いられている。この金属板16はプレス加工により形成される。この金属板16には、スリット状開口18の延びる方向中央部にこのスリット状開口18を横断する隆起状骨部19が形成されている。
【0028】
この隆起状骨部19は、金属板16から起立されてスリット状開口18を間において対向する一対の起立壁部20aと、この一対の起立壁部20aの頂部からスリット状開口18を横断する方向に屈曲されて、この一対の起立壁部20aを互いに連結する頂壁部20bとから構成されている。その頂壁部20bには、後述する連通管13を共通液室19’と連通する貫通孔20cが形成されている。この隆起状骨部19の機能については後述する。
【0029】
包囲壁部材17は、
図3に示すように、金属板16と協働してその内部に共通液室19’を構成している。この包囲壁部材17の材料には、熱可塑性エラストマー樹脂が用いられている。その包囲壁部材17の壁の厚さは、例えば0.1mm以上、0.3mm以下であり、その包囲壁部材17のヤング率は、例えば2メガパスカル以下である。
その包囲壁部材17は、金属板16をインサートして成形することにより金属板16と一体的に形成されるものであるが、その製造方法の詳細については後述する。
【0030】
また、ハウジング部材3と連通管13とは同時に形成されるが、これについては、この成形体28の製造工程の説明の際に説明する。そのハウジング部材3と連通管13とは、熱可塑性エラストマー樹脂とは異なる樹脂材料、例えば、耐腐食性を有するポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂材料)を用いて、射出成形により共通液室構成部材8に一体的に形成される。ポリフェニレンサルファイドには、ガラス繊維が50重量%ないし60重量%程度充填されている。
【0031】
これにより、金属板16の線膨張係数にポリフェニレンサルファイドの線膨張係数が極力近づけられ、金属板16とハウジング部材3との間の温度に起因する歪の発生の防止が図られ、金属板16が極力変形しない構造とされている。
【0032】
その連通管13は、その上部に液体貯留部(図示を略す)に連通する開口13aが形成されていると共に、その下部に貫通孔20cを介して共通液室19’と連通する開口13bが形成されている。
【0033】
その包囲壁部材17は、その壁全体により液滴吐出時の加圧液室5a(
図1参照)内の液体の振動を吸収するダンパー部材としての役割を有している。
隆起状骨部19は、金属板16それ自体の強化を図る役割を果たす役割、連通管13を金属板16に据え付け固定する役割、包囲壁部材17の形状安定性を保つ役割を果たす。
【0034】
以下に、この液滴吐出ヘッド1の共通液室構成部材8とハウジング部材3と連通管13との製造方法を
図4Aないし
図4Fを参照しつつ説明する。
図4Aないし
図4Fは、実施例1に係る共通液室構成部材8とハウジング部材3と連通管13との製造方法に用いる二色成形タイプの射出成形金型の概略構成を示す概要図である。
【0035】
その
図4Aないし
図4Fにおいて、符合21は固定型を示し、符合22は可動型を示している。可動型22には、固定型21と協働してハウジング部材3を形成すると共に金属板16をセットするための凹処22aと、隆起状骨部19の形成用のコマ部22bと、貫通孔20cの形成と連通管13の形成とに用いる凸部22cと、固定型21の後述するコマ部と協働して包囲壁部材17を構成するコマ部(図示を略す)とが形成されている。
【0036】
固定型21には、凹処22aと協働してハウジング部材3を形成すると共にコマ部22cと協働して連通管13を形成するコマ部21aが形成されている。コマ部21aにはコマ部22cが進入する凹処21bが形成されている。そのコマ部21aの先端部に包囲壁部材17形成用の凹処21cが形成されている。そのコマ部21aとコマ部21aとの間は仕切り壁を形成する凹処21dとなっている。
【0037】
固定型21は、射出成形機(図示を略す)からの熱可塑性エラストマー樹脂を注入する熱可塑性エラストマ樹脂注入ノズル26に接続された包囲壁部材形成用固定型部21Aと、射出成形機(図示を略す)からのハウジング部材構成用樹脂を注入するハウジング部材構成用樹脂注入ノズル27に接続されたハウジング部材形成用固定型部21Bとから構成されている。
熱可塑性エラストマ樹脂注入ノズル26は凹処21cに連通されている。ハウジング部材構成用樹脂注入ノズル27は凹処22aと協働して後述のハウジング部材形成用キャビティを形成する部分とコマ部21aの凹処21bと仕切り壁形成用の凹処21dとに連通されている。
【0038】
その可動型22と固定型21とは型締めされた状態で、回転軸Oを境にして180度対称位置に、共通液室構成部材8とハウジング部材3と連通管13とを一体成形する一対のキャビティを構成する。この一対のキャビティは同一形状であり、可動型22の凹処22aのいずれか一方は包囲壁部材形成用固定型部21Aに対向してかつこの包囲壁部材形成用固定型部21Aと協働して包囲壁部材形成用キャビティを構成し、可動型22の凹処22aのいずれか他方はハウジング部材形成用固定型部21Bに対向してかつこのハウジング部材形成用固定型部21Bと協働してハウジング部材形成用キャビティを構成する。
【0039】
その可動型22は、固定型21に対して離反・接近されると共に、固定型21に対して回転駆動される。その離反・接近機構、回転機構は公知であるので、その詳細な説明は省略する。
【0040】
(成形体の製造工程)
予め、金属板16の表面は、樹脂と金属板16との密着性の向上を図るため、脱脂処理等の前処理が行なわれているものとする。
可動型22と固定型21とが
図4Aに示すように型開きの状態で、固定型21の包囲壁部材形成用固定型部21Aに対向する可動型22のいずれか一方の凹処22aに、
図4Bに示すように金属板16をセットし、
図4Cに示すように、可動型22を固定型21に接近させて型締めする。
【0041】
ついで、
図4Cに示すように、熱可塑性エラストマ樹脂注入ノズル26から金属板16がセットされている凹処22aと凹処21cとの協働により構成された包囲壁部材形成用キャビティに熱可塑性エラストマー樹脂を注入する。
【0042】
その際、熱可塑性エラストマー樹脂は、隆起状骨部19を被覆するようにして凹処21cと凹処22aとに流れ込む。これにより、隆起状骨部19を中心として、金属板16に包囲壁部材17が一体的に形成される。従って、包囲壁部材17を熱可塑性エラストマー樹脂材料を用いて形成した場合でも、その形状の安定性が保たれる。これにより、金属板16と包囲壁部材17とが一体化された共通液室構成部材8が形成される。
【0043】
ついで、
図4Dに示すように、可動型22を固定型21から離間させて型開きして、可動型22を回転軸Oを中心にして180度回転させることにより、共通液室構成部材8が形成された可動型22の一方の凹処22aをハウジング部材形成用固定型部21Bに対向させる。
【0044】
これと同時に、その回転軸Oを中心とする可動型22の回転によって、金属板16がセットされておらずかつ包囲壁部材17も形成されていない可動型22の他方の凹処22aが、包囲壁部材形成用固定型部21Aに対向される。そして、この他方の凹処22aに金属板16をセットする。
【0045】
ついで、
図4Eに示すように、可動型22を固定型21に型締めして、ハウジング部材構成用樹脂注入ノズル27からPPS樹脂を共通液室構成部材8が形成されているハウジング部材形成用キャビティに注入すると共に、熱可塑性エラストマ樹脂注入ノズル26から熱可塑性エラストマー樹脂を金属板16がセットされている包囲壁部材形成用キャビティに注入する。
【0046】
これにより、ハウジング部材形成用キャビティに共通液室構成部材8とハウジング部材3と連通管13とからなる成形体28が一体的に形成される。
同時に、包囲壁部材形成用キャビティに金属板16と包囲壁部材17とからなる共通液室構成部材8が一体的に形成される。
【0047】
ついで、可動型22を固定型21から離間させて、
図4Fに示すようにハウジング部材3と連通管13と共通液室構成部材8とからなる成形体28を可動型22から離型させる。この一連の工程を繰り返すことにより、ハウジング部材3と連通管13と共通液室構成部材8とからなる成形体28が射出成形により連続的に形成される。
【0048】
(実施例2)
図5、
図6は、本発明の実施例2に係る液滴吐出ヘッド1の成形体28を示し、
図5は実施例2に係る成形体28の分解斜視図を示し、
図6はその実施例2に係る成形体28の断面図を示している。
【0049】
この実施例2では、連通管13の材料には、包囲壁部材17に用いる材料と同一の熱可塑性エラストマー樹脂が用いられ、連通管13は包囲壁部材17と一体に形成される。
【0050】
この実施例2の場合には、熱可塑性エラストマ樹脂注入ノズル26を凹処21cと凹処21bとに連通する構成とし、熱可塑性エラストマー樹脂により、連通管13と包囲壁部材17と金属板16とからなる共通液室構成部材8を構成することにしたものである。残余の構成は、実施例1と同様であるので、その詳細な説明は省略する。
【0051】
この実施例2によれば、連通管13と包囲壁部材17は隆起状骨部19を挟んで一体成形されているので、連通管13に衝撃が加わった場合でも隆起状骨部19で衝撃は止まり包囲壁部材17に影響を与えることは無い。
【0052】
(実施例3)
図7,
図8は、本発明の実施例3に係る液滴吐出ヘッド1の成形体28を示し、
図7は実施例3に係る液滴吐出ヘッド1の成形体の分解斜視図を示し、
図8はその実施例3に係る液滴吐出ヘッド1の成形体28の断面図を示している。
【0053】
この実施例3では、金属板16のプレス加工時に
図7、
図8に示すように、矩形状の金属板16の適宜箇所に係止用段差部27が形成されている。この係止用段差部27には、ハウジング部材3の構成に用いる樹脂材料を注入したときに、その樹脂が充填される。
これにより、ハウジング部材3が金属板16に一体化され、ハウジング部材3と金属板16との剥離防止が図れる。
【0054】
その実施例1ないし実施例3の成形体28には、ノズル基板4、液室基板5、振動板6、液体供給基板7からなる積層基板が接着により接合され、これにより、従来例と同様に液滴吐出ヘッド1が構成される。
(実施例4)
【0055】
この液滴吐出ヘッド1は、
図9に示す液体貯留部としてのインクカートリッジ30に取り付けられる。そのインクカートリッジ30はインクタンク31を有する。このインクタンク31には、その下部に液滴吐出ヘッド1が取付け固定される。
【0056】
その
図9において、41はインクジェット記録装置(画像形成装置ともいう)である。このインクジェット記録装置41の本体の内部には、印字機構部42、用紙搬送機構部(図示を略す)が設けられている。
そのインクジェット記録装置41には、その本体の下部に給紙カセット(又は給紙トレイ)が抜き差し可能に装着される。
【0057】
用紙は給紙カセット(又は給紙トレイ)或いは手差しトレイから印字機構部42に給送され、この印字機構部42を経由して排紙トレイに向けて排出されるものであるが、その詳細な構成は、従来と同様であるのでその詳細な説明は省略することとし、印字機構部42の構成のみ、以下に概略説明することとする。
【0058】
印字機構部42は、主ガイドロッド83、従ガイドロッド84、主走査モータ85、駆動プーリ86、従動プーリ87、タイミングベルト88、キャリッジ89から大略構成されている。従ガイドロッド84は用紙搬送方向の上流側に位置し、主ガイドロッド83は用紙搬送方向の下流側に位置している。
【0059】
駆動プーリ86は、主走査モータ85の出力軸に固定され、従動プーリ87は本体内部の適宜箇所に配設されている。タイミングベルト88は駆動プーリ86と受動プーリ87とに張架されている。
【0060】
キャリッジ89は、タイミングベルト88に固定されると共に、主ガイドロッド83、従ガイドロッド84に長手方向(主走査方向)に摺動可能に載置されている。ここでは、キャリッジ89には、液滴吐出ヘッド1が下方に向けて形成されている。そのキャリッジ89はその主走査モータ85、駆動プーリ86、従動プーリ87、タイミングベルト88によって、主ガイドロッド83の長手方向に沿って往復駆動される。
【0061】
その液滴吐出ヘッド1には、ノズル孔4aとしての複数個のインク吐出口が主走査方向と交差する方向に配列形成され、そのインク吐出口からインク滴が下方に向けて吐出される。そのキャリッジ89には、液滴吐出ヘッド1にインクを供給するための複数個のインクカートリッジ30が交換可能かつ装着されている。
【0062】
このインクジェット記録装置41では、その記録時には、用紙を所定位置に停止させた状態で、キャリッジ89を主走査方向に移動させながら、画像信号に応じて液滴吐出ヘッド1を駆動することにより、用紙にインクを吐出させ、1行分の印字を実行し、1行分の印字終了後、所定量副走査方向に用紙を搬送して用紙を停止させ、次の行の印字を実行する。
この印字処理を例えば記録終了信号を受け取るまで実行し、1枚分の用紙の印字が終了すると、用紙を排出トレイに排出する。
【0063】
そのインクジェット記録装置41の内部には、キャリッジ89の主走査方向の記録領域から外れた位置に、回復装置90が設けられている。この回復装置90は、液滴吐出ヘッド1の吐出不具合を回復するのに用いる。