特許第6044213号(P6044213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6044213EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクおよびその製造方法、ならびに該マスクブランク用の反射層付基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044213
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクおよびその製造方法、ならびに該マスクブランク用の反射層付基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20161206BHJP
【FI】
   G03F1/24
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-201409(P2012-201409)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-56960(P2014-56960A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】三上 正樹
【審査官】 赤尾 隼人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−014893(JP,A)
【文献】 特開2010−199503(JP,A)
【文献】 特表2007−515770(JP,A)
【文献】 特開2009−260183(JP,A)
【文献】 特開2002−134385(JP,A)
【文献】 特開2010−226123(JP,A)
【文献】 特開2005−260072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00−1/86;7/20
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にEUV光を反射する反射層を形成するEUVリソグラフィ(EUVL)用反射層付基板の製造方法であって、
前記反射層が、スパッタリング法により、低屈折率層と高屈折率層とで構成されるbilayerを複数積層させてなる多層反射膜であり、
前記多層反射膜の表面における、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布に応じて、
前記多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組を、前記基板の中心から半径方向に、下記式で定義され、下記(1),(2)を満たすγ比の分布を設けた反射率分布補正層と
前記反射率分布補正層に相当するγ比の変化を設けなかった場合の、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が、前記基板の中心から半径方向にピーク反射率が低くなる面内分布であり、
前記反射率分布補正層における前記基板の中心から半径方向のγ比の分布として、前記基板中心から半径方向にEUV波長域の光のピーク反射率が高くなるγ比の分布を設けて、
前記反射率分布補正層のγ比を、
前記基板の外周部において、EUV波長域の光のピーク反射率が極大値となるγ比とし、
前記反射率分布補正層を設けた場合の、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布における、ピーク反射率の最大値と最小値との差が、0.3%以下となるように、前記基板の外周部における前記反射率分布補正層のγ比と前記基板の中心における前記反射率分布補正層のγ比との差を設定することにより、
前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が小さくなるように抑制するEUVL用反射層付基板の製造方法。
γ比=(高屈折率層の膜厚)/(低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚)
(1)γ比の範囲は0.55〜0.65。
(2)基板の外周部から、該基板中心に向けて、bilayerのγ比が半径方向に減少している。
【請求項2】
前記反射率分布補正層での前記基板の中心から半径方向のγ比の分布によって生じる、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の変化が2%以内である、請求項1に記載のEUVL用反射層付基板の製造方法
【請求項3】
前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、前記多層反射膜の最上層から、20組以内のbilayerのうち、少なくとも1組を前記反射率分布補正層とする、請求項1または2に記載のEUVL用反射層付基板の製造方法
【請求項4】
前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、少なくとも5組のbilayerを前記反射率分布補正層とする、請求項1〜3のいずれかに記載のEUVL用反射層付基板の製造方法
【請求項5】
前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、全ての前記bilayerを前記反射率分布補正層とする、請求項1〜3のいずれかに記載のEUVL用反射層付基板の製造方法
【請求項6】
前記反射率分布補正層を構成する前記bilayerは、一定の膜厚とする請求項1〜5のいずれかに記載のEUVL用反射層付基板の製造方法
【請求項7】
前記bilayerは、前記低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、前記高屈折率層がケイ素(Si)層である、請求項1〜6のいずれかに記載のEUVL用反射層付基板の製造方法
【請求項8】
前記反射層上に、該反射層の保護層を設ける、請求項1〜7のいずれかに記載のEUVL用反射層付基板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスクブランク(以下、本明細書において、「EUVL用マスクブランク」という。)およびその製造方法に関する。
また、本発明は、EUVリソグラフィ(EUVL)用反射層付基板およびその製造方法に関する。なお、EUVL用反射層付基板は、EUVL用マスクブランクの前駆体として用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、シリコン基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速している一方で、従来のフォトリソグラフィ法の限界に近づいてきた。フォトリソグラフィ法の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(波長:193nm)の液浸法を用いても、その露光波長は45nm程度が限界と予想される。そこで45nmよりも短い波長を用いる次世代の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線を指し、具体的には波長10〜20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度(13.2〜13.8nm程度)の光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつこの波長で物質の屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用できない。このため、EUV光リソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスクとミラーとが用いられる。
【0004】
マスクブランクは、フォトマスク製造に用いられるパターニング前の積層体である。EUVL用マスクブランクの場合、ガラス製等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収層とがこの順で形成された構造を有している。
上記反射層と吸収層の間には、通常、保護層が形成される。該保護層は、吸収層にパターン形成する目的で実施されるエッチングプロセスによって反射層がダメージを受けないように、該反射層を保護する目的で設けられる。
【0005】
反射層としては、EUV光に対して低屈折率となる低屈折率層と、EUV光に対して高屈折率となる高屈折率層と、で構成されるbilayerを複数積層することで、EUV光をその表面に照射した際の光線反射率が高められた多層反射膜が通常使用される。このような多層反射膜としては、具体的にはたとえば、低屈折率層であるモリブデン(Mo)層と高屈折率層であるケイ素(Si)層とで構成されるbilayerを複数積層させたMo/Si多層反射膜がある。
吸収層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。
【0006】
また、特許文献1に記載されているように、EUVL用マスクブランクにおいて、多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率に面内分布が生じることが問題となっている。多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光の反射率スペクトルを測定すると、測定する波長により反射率の値は異なり、極大値、すなわち、ピーク反射率を有する。多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率に面内分布(つまり、ピーク反射率が、多層反射膜表面の場所により異なる状態)が生じると、該EUVL用マスクブランクから作製したEUVL用マスクを用いてEUVLを実施した際に、ウェハ上レジストへ照射されるEUV露光量の面内分布が生じる。このことは、露光フィールド内におけるパターン寸法のばらつきを生じさせ、高精度のパターニングを阻害する要因となる。
特許文献1では、多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率の面内均一性に関する要求値が±0.25%以内とされている。
したがって、多層反射膜表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率の面内均一性については、そのレンジ(ピーク反射率の最大値と最小値との差)を0.5%以内とすることが求められる。
【0007】
上記した多層反射膜の表面における反射光の面内分布、すなわち、該表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布、および、該表面におけるEUV波長域の反射光の中心波長の面内分布の原因の一つに、多層反射膜を構成する各層、すなわち、低屈折率層および高屈折率層の膜厚の面内分布がある(特許文献1参照)。
このため、多層反射膜を構成する各層の成膜時には、これらの膜厚に面内分布が生じないように、均一に成膜することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−260183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上述べたように、多層反射膜を構成する各層の膜厚を均一にすれば、多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布も解消できると、従来は考えられていた。
しかしながら、多層反射膜の各層の膜厚を均一に成膜した場合であっても、EUV波長域の光のピーク反射率に要求値を超える面内分布が生じる場合があることを見出した。この面内分布は、多層反射膜や保護層が形成される基板の半径方向についてみた場合、特定の傾向があり、基板の半径方向において、基板の中心から該基板の外周部へとEUV波長域の光のピーク反射率が低くなる面内分布である。特許文献1の実施例においても、合成石英ガラス基板上に、イオンビームスパッタリング法により、Mo/Si多層反射膜を成膜した後、保護膜としてRu膜を成膜した反射ミラー基板(多層反射膜および保護膜付き基板)は、基板中心部のピーク反射率が高く、外周部のピーク反射率が低い傾向の、ピーク反射率の面内分布が確認されている。ピーク反射率の面内分布は1.2%であり、ピーク反射率の面内均一性に関する要求値である、そのレンジ(ピーク反射率の最大値と最小値との差)で0.5%以内を満たしていない。
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、多層反射膜の表面における、EUV波長域の光のピーク反射率の面内均一性に優れたEUVL用マスクブランクおよびその製造方法、ならびに該EUVL用マスクブランクの製造に使用されるEUVL用反射層付基板およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明は、基板上にEUV光を反射する反射層を形成するEUVリソグラフィ(EUVL)用反射層付基板の製造方法であって、
前記反射層が、スパッタリング法により、低屈折率層と高屈折率層とで構成されるbilayerを複数積層させてなる多層反射膜であり、
前記多層反射膜の表面における、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布に応じて、
前記多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組を、前記基板の中心から半径方向に、下記式で定義され、下記(1),(2)を満たすγ比の分布を設けた反射率分布補正層とすることにより、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が小さくなるように抑制するEUVL用反射層付基板の製造方法を提供する。
γ比=(高屈折率層の膜厚)/(低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚)
(1)γ比の範囲は0.55〜0.65。
(2)基板の外周部から、該基板11の中心に向けて、bilayerのγ比が半径方向に減少している。
【0012】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、
前記反射率分布補正層に相当するγ比の分布を設けなかった場合の、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が、前記基板の中心から半径方向にピーク反射率が低くなる面内分布であり、
前記反射率分布補正層における前記基板の中心から半径方向のγ比の分布として、前記基板中心から半径方向にEUV波長域の光のピーク反射率が高くなるγ比の分布を設けて、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が小さくなるように抑制することが好ましい。
【0013】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、
前記反射率分布補正層のγ比を、
前記基板の外周部において、EUV波長域の光のピーク反射率が極大値となるγ比とし、
前記反射率分布補正層を設けた場合の、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布における、ピーク反射率の最大値と最小値との差が、0.3%以下となるように、前記基板の外周部における前記反射率分布補正層のγ比と前記基板の中心における前記反射率分布補正層のγ比との差を設定することが好ましい。
【0015】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、前記反射率分布補正層での前記基板の中心から半径方向のγ比の分布によって生じる、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の変化が2%以内であることが好ましい。
【0016】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、前記多層反射膜の最上層から、20組以内のbilayerのうち、少なくとも1組を前記反射率分布補正層とすることが好ましい。
【0017】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、少なくとも5組のbilayerを前記反射率分布補正層とすることが好ましい。
【0018】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、全ての前記bilayerを前記反射率分布補正層としてもよい。
【0019】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、前記反射率分布補正層を構成する前記bilayerは、一定の膜厚とすることが好ましい。
【0020】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、前記bilayerは、前記低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、前記高屈折率層がケイ素(Si)層であることが好ましい。
【0021】
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法において、前記反射層上に、該反射層の保護層を設けてもよい。
【0022】
また、本発明は、基板上にEUV光を反射する反射層を形成し、前記反射層上にEUV光を吸収する吸収層を形成するEUVリソグラフィ(EUVL)用反射型マスクブランクの製造方法であって、
前記反射層が、スパッタリング法により、低屈折率層と高屈折率層とで構成されるbilayerを複数積層させてなる多層反射膜であり、
前記多層反射膜の表面における、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布に応じて、
前記多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組を、前記基板の中心から半径方向に、下記式で定義され、下記(1),(2)を満たすγ比の分布を設けた反射率分布補正層とすることにより、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が小さくなるように抑制するEUVL用反射型マスクブランクの製造方法を提供する。
γ比=(高屈折率層の膜厚)/(低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚)
(1)γ比の範囲は0.55〜0.65。
(2)基板の外周部から、該基板11の中心に向けて、bilayerのγ比が半径方向に減少している。
【0023】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、
前記反射率分布補正層に相当するγ比の変化を設けなかった場合の、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が、前記基板の中心から半径方向にピーク反射率が低くなる面内分布であり、
前記反射率分布補正層での前記基板の中心から半径方向のγ比の分布として、前記基板中心から半径方向にEUV波長域の光のピーク反射率が高くなるγ比の分布を設けて、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布が小さくなるように抑制することが好ましい。
【0024】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、
前記反射率分布補正層のγ比を、
前記基板の外周部において、EUV波長域の光のピーク反射率が極大値となるγ比とし、
前記反射率分布補正層を設けた場合の、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布における、ピーク反射率の最大値と最小値との差が、0.3%以下となるように、前記基板の外周部における前記反射率分布補正層のγ比と前記基板の中心における前記反射率分布補正層のγ比との差を設定することが好ましい。
【0026】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記反射率分布補正層での前記基板の中心から半径方向のγ比の分布によって生じる、前記基板の中心から半径方向のEUV波長域の光のピーク反射率の変化が2%以内であることが好ましい。
【0027】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、前記多層反射膜の最上層から、20組以内のbilayerのうち、少なくとも1組を前記反射率分布補正層とすることが好ましい。
【0028】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、少なくとも5組のbilayerを前記反射率分布補正層とすることが好ましい。
【0029】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記多層反射膜は、30組〜60組のbilayerで構成され、全ての前記bilayerを前記反射率分布補正層としてもよい。
【0030】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記反射率分布補正層を構成する前記bilayerは、一定の膜厚とすることが好ましい。
【0031】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記bilayerは、前記低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、前記高屈折率層がケイ素(Si)層であることが好ましい。
【0032】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記反射層と、前記吸収体層と、の間に、前記反射層の保護層を設けてもよい。
【0033】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法において、前記吸収層上に、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層をさらに形成してもよい。
【0036】
また、本発明は、基板上にEUV光を反射する反射層が形成されたEUVリソグラフィ(EUVL)用反射層付基板であって、
前記反射層が、低屈折率層と高屈折率層とで構成されるbilayerを複数積層させてなる多層反射膜であり、
前記多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組が、前記基板の中心から半径方向に向けて、下記式で定義され、下記(1),(2)を満たすγ比の分布を設けた反射率分布補正層であることを特徴とするEUVL用反射層付基板を提供する。
γ比=(高屈折率層の膜厚)/(低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚)
(1)γ比の範囲は0.55〜0.65。
(2)基板の外周部から、該基板11の中心に向けて、bilayerのγ比が半径方向に減少している。
【0037】
本発明のEUVL用反射層付基板において、前記bilayerは、前記低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、前記高屈折率層がケイ素(Si)層であることが好ましい。
【0038】
本発明のEUVL用反射層付基板において、前記反射層上に、該反射層の保護層が形成されていてもよい。
【0039】
また、本発明は、基板上にEUV光を反射する反射層が形成され、前記反射層上にEUV光を吸収する吸収層が形成されたEUVリソグラフィ(EUVL)用反射型マスクブランクであって、
前記反射層が、低屈折率層と高屈折率層とで構成されるbilayerを複数積層させてなる多層反射膜であり、
前記多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組が、前記基板の中心から半径方向に向けて、下記式で定義され、下記(1),(2)を満たすγ比の分布を設けた反射率分布補正層であることを特徴とするEUVL用反射型マスクブランクを提供する。
γ比=(高屈折率層の膜厚)/(低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚)
(1)γ比の範囲は0.55〜0.65。
(2)基板の外周部から、該基板11の中心に向けて、bilayerのγ比が半径方向に減少している。
【0040】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクにおいて、前記bilayerは、前記低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、前記高屈折率層がケイ素(Si)層であることが好ましい。
【0041】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクにおいて、前記反射層と、前記吸収層の間に、前記反射層の保護層が形成されていてもよい。
【0042】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクにおいて、前記吸収層上に、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層が形成されていてもよい。
【0043】
また、本発明は、本発明のEUVL用反射型マスクブランクをパターニングしたEUVリソグラフィ用反射型マスクを提供する。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、多層反射膜の表面における、EUV波長域の光のピーク反射率の面内均一性に優れたEUVL用反射型マスクブランク、および、EUVL用反射層付基板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明の方法により製造されるEUVL用反射型マスクブランクの実施形態を示す概略断面図である。
図2図2は、Si層およびMo層で構成されるbilayerのγ比と、多層反射膜における、EUV光(波長13.57nm)の反射率と、の関係を示したグラフである。
図3図3は、Mo/Si多層反射膜を構成するbilayerでのγ比の分布を説明するための模式図である。
図4図4は、本発明の反射率分布補正層をなすbilayerでのγ比の分布の一構成例を示した模式図である。
図5図5は、本発明の反射率分布補正層をなすbilayerでのγ比の分布の別の一構成例を示した模式図である。
図6図6は、本発明の方法により製造されるEUVL用反射型マスクブランクの別の実施形態を示す概略断面図である。
図7図7は、比較例1および実施例1における、基板の中心からの半径方向の位置と、Mo/Si多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布と、の関係を示したグラフであり、補正前が比較例1の結果、補正後が実施例1の結果を示している。
図8図8は、比較例2および実施例2における、基板の中心からの半径方向の位置と、Mo/Si多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布と、の関係を示したグラフであり、補正前が比較例2の結果、補正後が実施例2の結果を示している。
図9図9は、比較例3および実施例3における、基板の中心からの半径方向の位置と、Mo/Si多層反射膜の表面におけるEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布と、の関係を示したグラフであり、補正前が比較例3の結果、補正後が実施例3の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明の方法により製造されるEUVL用反射型マスクブランク(以下、本明細書において、「本発明のEUVL用反射型マスクブランク」という。)の1実施形態を示す概略断面図である。図1に示すEUVL用反射型マスクブランク1は、基板11上にEUV光を反射する反射層12と、EUV光を吸収する吸収層14とがこの順に形成されている。反射層12と吸収層14との間には、吸収層14へのパターン形成時に反射層12を保護するための保護層13が形成されている。
なお、本発明のEUVL用反射型マスクブランクにおいて、図1に示す構成中、基板11、反射層12、および、吸収層14のみが必須であり、保護層13は任意の構成要素である。
以下、EUVL用反射型マスクブランク1の個々の構成要素について説明する。
【0047】
基板11は、EUVL用反射型マスクブランク用の基板としての特性を満たすことが要求される。
そのため、基板11は、低熱膨張係数(0±1.0×10-7/℃が好ましく、より好ましくは0±0.3×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.2×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.1×10-7/℃、特に好ましくは0±0.05×10-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。基板11としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えば、SiO2−TiO2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属などの基板も使用できる。また、基板11上に応力補正膜のような膜を形成してもよい。
基板11は、0.15nm rms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることが、パターン形成後のフォトマスクにおいて高反射率および転写精度が得られるために好ましい。
基板11の大きさや厚さなどはマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では、外形6インチ(152mm)角で、厚さ0.25インチ(6.35mm)のSiO2−TiO2系ガラスを用いた。
基板11の成膜面、つまり、反射層12が形成される側の表面には欠点が存在しないことが好ましい。しかし、存在している場合であっても、凹状欠点および/または凸状欠点によって位相欠点が生じないように、凹状欠点の深さおよび凸状欠点の高さが2nm以下であり、かつこれら凹状欠点および凸状欠点の半値幅は、60nm以下が好ましい。
【0048】
EUVL用反射型マスクブランクの反射層12に特に要求される特性は、高EUV光線反射率である。具体的には、EUV光の波長領域の光線を反射層12表面に入射角度6度で照射した際の、EUV波長域の光のピーク反射率(すなわち、波長13.5nm付近の光線反射率の極大値。以下、本明細書において、「EUV光のピーク反射率」という。)は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。また、反射層12の上に保護層13を設けた場合であっても、EUV光のピーク反射率は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。
【0049】
また、EUVL用反射型マスクブランクの反射層12は、上記したEUV光のピーク反射率の面内均一性の要求値が、そのレンジ(ピーク反射率の最大値と最小値との差)で0.5%以内である。なお、反射層12上に保護層13が形成されている場合は、該保護層13の表面におけるEUV光のピーク反射率の面内均一性の要求値が、そのレンジ(ピーク反射率の最大値と最小値との差)で0.5%以内となる。
【0050】
EUVL用反射型マスクブランクの反射層としては、EUV波長域において高反射率を達成できることから、EUV光に対して低屈折率となる層である低屈折率層1層と、EUV光に対して高屈折率となる層である高屈折率層1層と、が隣り合ってなる組として構成されるbilayerを複数積層させた多層反射膜が広く用いられている。このような多層反射膜としては、低屈折率層としてのモリブデン(Mo)層と、高屈折率層としてのケイ素(Si)層と、で構成されるbilayerを複数積層させたMo/Si多層反射膜が通常用いられる。多層反射膜の他の具体例としては、低屈折率層としてのルテニウム(Ru)層と、高屈折率層としてのケイ素(Si)層と、で構成されるbilayerを複数積層させたRu/Si多層反射膜、低屈折率層としてのモリブデン(Mo)層と、高屈折率層としてのベリリウム(Be)層と、で構成されるbilayerを複数積層させたMo/Be多層反射膜、低屈折率層としてのモリブデン(Mo)化合物層と、高屈折率層としてのケイ素(Si)化合物層と、で構成されるbilayerを複数積層させたMo化合物/Si化合物多層反射膜等が挙げられる。
また、本発明におけるbilayerは、特開2006−093454号の記載の多層反射膜のように、低屈折率層(Mo層)と、高屈折率層(Si層)と、の間に拡散防止層や膜応力緩和層などの中間層が形成されたものであってもよい。
【0051】
bilayerを構成する各層(低屈折率層、高屈折率層)の膜厚、および、bilayerの積層の繰り返し数は、各層の構成材料や、達成するEUV光線反射率によって異なるが、Mo/Si多層反射膜の場合に、EUV光のピーク反射率が60%以上の反射層12とするには、例えば、膜厚2.7nmのMo層と、膜厚4.3nmのSi層と、で構成されるbilayerを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させることになる。
Mo層とSi層とで構成されるbilayerでは、(1)Mo層およびSi層それぞれの膜厚は、後述のγ比の調整から最大反射率が得られる膜厚に調整され、(2)Mo層およびSi層の合計膜厚は、EUV波長域の反射光の中心波長が、約13.5nmとなるよう約7nm(7nm±5%)に調整される。
また、bilayerの膜厚は、EUV波長域の反射光の中心波長の面内分布に大きなばらつきを与えないレベルである±0.03nm以内となるような膜厚の分布とすることが好ましく、該膜厚が面内で一定であることがより好ましい。そのため、後述するγ比を一定とする対象のbilayerであっても、γ比に分布を与える対象のbilayer(反射率分布補正層)であっても、bilayerの膜厚、つまり、低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚は一定であることがより好ましい。
なお、EUV波長域の反射光の中心波長とは、EUV波長域の反射率スペクトルにおいて、ピーク反射率の半値幅(FWHM(full width of half maximum))に対応する波長をλ1およびλ2とするとき、これらの波長の中央値((λ1+λ2)/2)となる波長である。
【0052】
なお、bilayerを構成する各層(低屈折率層、高屈折率層)は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いて所望の厚さになるように成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて、Mo/Si多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度1.8〜18.0nm/minで厚さ2.7nmとなるようにMo層を成膜し、次に、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度1.8〜18.0nm/minで厚さ4.3nmとなるようにSi層を成膜して、bilayerを形成することが好ましい。このようなbilayerを30〜60組積層させることによりMo/Si多層反射膜が成膜される。
【0053】
bilayerを構成する各層(低屈折率層、高屈折率層)の膜厚、および、それらの合計膜厚を均一に成膜した場合であっても、EUV光のピーク反射率の要求値を超える面内分布が生じる場合がある。この点については、後述する比較例1(図7の「補正前」に相当する破線)に示されている。
図7の「補正前」では、基板の中心から該基板の外周部へと、EUV光のピーク反射率が低くなる面内分布が生じている。EUV光のピーク反射率の面内分布は0.6%超であり、ピーク反射率の面内均一性に関する要求値である、そのレンジ(ピーク反射率の最大値と最小値との差)で0.5%以内を満たしていない。
【0054】
本発明では、多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組を、該bilayerを構成する低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚を一定に保ちつつ、基板の中心から半径方向に、下記式で定義されるγ比の分布を設けた反射率分布補正層とすることにより、上述したEUV光のピーク反射率の面内分布、すなわち、基板の中心から該基板の外周部へと、EUV光のピーク反射率が低くなる面内分布を抑制する。
γ比=(高屈折率層の膜厚)/(低屈折率層および高屈折率層の合計膜厚)
【0055】
ここで、基板の中心から該基板の外周部へと、EUV光のピーク反射率が低くなる面内分布を抑制する場合、反射率分布補正層をなすbilayerでは、基板の中心から該基板の外周部へと、EUV光のピーク反射率が高くなるようなγ比の分布を設ければよい。
本明細書における基板の外周部とは、EUV光のピーク反射率等の、多層反射膜の光学特性を評価する領域(光学特性評価領域)の外周部を指す。例えば、152mm角の基板の場合、光学特性評価領域は142mm角の領域である。この142mm角の領域の角部は、基板中心から半径方向に100mm付近に位置しているので、基板の外周部は、基板中心から半径方向に100mm付近に位置していることになる。
上述したEUV光のピーク反射率の面内分布を抑制する目的で、多層反射膜を構成するbilayerのうち少なくとも1組を、基板の中心から半径方向のγ比の分布を設けた反射率分布補正層とするのは、図2に示すように、bilayerの表面におけるEUV光の反射率が、該bilayerのγ比に対し依存性があるからである。
図2は、Mo層とSi層とで構成されるbilayerのγ比、すなわち、(Si層の膜厚)/(Mo層およびSi層の合計膜厚)と、多層反射膜の表面におけるEUV光の反射率(波長13.57nm)と、の関係を示したグラフである。
図2に示すように、Mo層とSi層とで構成される多層反射膜の表面におけるEUV光の反射率は、該bilayerのγ比に対し依存性がある。
なお、図2では、Mo層とSi層とで構成されるbilayerのγ比と、多層反射膜の表面におけるEUV光の反射率と、の関係を示しているが、低屈折率層および高屈折率層が異なるbilayerの場合や、低屈折率層と、高屈折率層と、の間に拡散防止層や膜応力緩和層などの中間層が形成されたbilayerの場合も、多層反射膜の表面におけるEUV光の反射率は、該bilayerのγ比に対し依存性を示す。
【0056】
本発明では、上述したEUV光のピーク反射率の面内分布、すなわち、基板の中心から該基板の外周部へとEUV光のピーク反射率が低くなる面内分布を抑制するため、多層反射膜を構成するbilayerのうち少なくとも1組を、基板中心から半径方向にピーク反射率が高くなるようなγ比の分布(別の言い方をすると、基板の外周部から基板の中心へとピーク反射率が低くなるようなγ比の分布)を設けた反射率分布補正層とする。
基板中心から半径方向にピーク反射率が高くなるγ比の分布は、上述した多層反射膜の表面におけるピーク反射率の面内分布と、反射率分布補正層をなすbilayerにおける、上述したγ比依存性に基づいて設定すればよい。
【0057】
本発明では、反射率分布補正層をなすbilayerに、基板の外周部から基板の中心へとEUV光のピーク反射率が低くなるようなγ比の分布を設けるため、基板の外周部におけるγ比をEUV光のピーク反射率が極大値となるγ比とする。後述する実施例では、図2に基づき、反射率分布補正層をなすbilayerの基板外周部におけるγ比を0.6付近(0.608)とした。
そして、基板の中心に向けて、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比が増加するか、または、減少するように、半径方向にγ比の分布を設ければよい。図3〜5は、Mo/Si多層反射膜を構成するbilayerでのγ比の分布を説明するための模式図である。図3〜5では、基板11上に形成された反射層12としてのMo/Si多層反射膜のうち、1組のbilayerのみを示している。このbilayerは、低屈折率層としてのMo層12aと、高屈折率層としてのSi層12bと、で構成されている。
【0058】
図3は、反射率分布補正層ではない、Mo/Si多層反射膜の通常のbilayerを示している。図3では、Mo層12a、および、Si層12bの膜厚が一定である。したがって、Mo層12aおよびSi層12bの合計膜厚も一定であり、bilayerのγ比、すなわち、(Si層の膜厚)/(Mo層およびSi層の合計膜厚)も一定である。
図4は、反射率分布補正層をなすbilayerの一構成例を示している。図4では、Mo層12a、および、Si層12bの膜厚が、基板11の中心から半径方向に変化している。より具体的には、Mo層12aの膜厚は、基板11の中心付近で最も大きく、該基板11の外周部に向けて該基板11の半径方向に減少している。Si層12bの膜厚は、基板11の中心付近で最も小さく、該基板11の外周部に向けて該基板11の半径方向に増加している。一方、Mo層12aおよびSi層12bの合計膜厚は一定である。この結果、bilayerのγ比は、基板11の中心付近で最も小さく、該基板11の外周部に向けて、半径方向に増加している。言い換えると、基板11の外周部から、該基板11の中心に向けて、bilayerのγ比が半径方向に減少している。
図5は、反射率分布補正層をなすbilayerの別の一構成例を示している。図5では、Mo層12aの膜厚は、基板11の中心付近で最も小さく、該基板11の外周部に向けて該基板11の半径方向に増加している。Si層12bの膜厚は、基板11の中心付近で最も大きく、該基板11の外周部に向けて該基板11の半径方向に減少している。一方、Mo層12aおよびSi層12bの合計膜厚は一定である。この結果、bilayerのγ比は、基板11の中心付近で最も大きく、該基板11の外周部に向けて、半径方向に減少している。言い換えると、基板11の外周部から、該基板11の中心に向けて、bilayerのγ比が半径方向に増加している。
なお、図4,5に示したいずれの態様でも、基板の外周部から基板の中心へとEUV光のピーク反射率が低くなるようなγ比の分布を設けることができる。後述する実施例では、反射率分布補正層をなすbilayerが図4に示した態様である。
【0059】
上述したEUV光のピーク反射率の面内分布の抑制という点では、反射率分布補正層を設けた場合の、基板の中心から半径方向のEUV光のピーク反射率の面内分布における、ピーク反射率の最大値と最小値との差が、0.3%以下となるように、基板の外周部におけるγ比と、基板の中心におけるγ比と、の差を設定することが好ましい。
【0060】
後述する比較例1の場合、前述のとおり、図7に示すピーク反射率の面内分布から導き出される、基板の中心から外周部へのピーク反射率の低下量(ピーク反射率の最大値に対するピーク反射率の低下量)は、0.66%となる。
このため、図2において、ピーク反射率の極大値に対するピーク反射率の低下量が、0.66%となるように、反射率分布補正層をなすbilayerの基板の中心におけるγ比および反射率分布補正層の組数を設定すればよい。
これらの前提により、実施例1では、基板の外周部におけるγ比が0.608、基板の中心におけるγ比が0.583となるように、半径方向のγ比の分布を、反射率分布補正層をなすbilayerに設けた。
なお、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比は、0.45〜0.8の範囲内で設定することは、該bilayerの表面におけるEUV光のピーク反射率が高くなることから好ましく、0.5〜0.75の範囲内で設定することがより好ましく、0.55〜0.65の範囲内で設定することがさらに好ましい。
【0061】
但し、基板中心から半径方向にγ比の分布を、反射率分布補正層をなすbilayerに設けたことによって生じるEUV光のピーク反射率の変化が大きすぎると、かえってEUV光のピーク反射率に面内分布を生じさせるおそれがある。このため、基板中心から半径方向に膜厚分布を設けたことによって生じるEUV光のピーク反射率の変化は2%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0062】
上述したように、本発明では、多層反射膜を構成するbilayerのうち少なくとも1組を、基板中心から半径方向にEUV光のピーク反射率が高くなるようなγ比の分布(別の言い方をすると、基板の外周部から基板の中心へとEUV光のピーク反射率が低くなるようなγ比の分布)を設けた反射率分布補正層とする。
したがって、多層反射膜を構成するいずれのbilayerを、上記したγ比の分布を設けた反射率分布補正層としてもよい。また、多層反射膜を構成するbilayerのうち、1組のみを、上記したγ比の分布を設けた反射率分布補正層としてもよく、2組以上を、上記した膜厚分布を設けた反射率分布補正層としてもよい。
なお、多層反射膜を構成するbilayerのうち、反射率分布補正層をなすbilayerは、上述したbilayerにおける低屈折率層(Mo層)と高屈折率層(Si層)の膜厚の一構成例((2.7nm)および(4.3nm))の例外となる。
【0063】
但し、多層反射膜の表面に近いbilayerを、反射率分布補正層とするほうが、多層反射膜の表面におけるEUV光のピーク反射率がより大きく変化する場合が多い。
そのため、多層反射膜の一態様として、多層反射膜を構成するbilayer全てを反射率分布補正層とせずに、一部のbilayerを反射率分布補正層とし、EUV光のピーク反射率の面内分布を効率的に調整してもよい。ここで、bilayerを30〜60組積層させた多層反射膜の場合、多層反射膜の最上層から、20組以内のbilayerのうち少なくとも1組を反射率分布補正層としてもよい。また、反射率分布補正層は、20組よりも少ない組数を対象とする場合、20組以内のbilayerのうち、最上層に近い側のbilayerを対象とすることが好ましく、反射率分布補正層の組数をN(1≦N≦19)とする場合、最上層から(連続した)N組を対象とすることがより好ましい。
【0064】
また、多層反射膜を構成するbilayerのうち複数の組を反射率分布補正層とするほうが、多層反射膜の表面におけるEUV光のピーク反射率がより大きく変化する場合が多いことから好ましい。
このため、多層反射膜の一態様として、多層反射膜を構成するbilayer全てを反射率分布補正層とせずに、一部のbilayerを反射率分布補正層とし、EUV光のピーク反射率の面内分布を効率的に調整する場合、5組以上のbilayerを反射率分布補正層とすることが好ましく、10組以上のbilayerを反射率分布補正層とすることがより好ましい。また、調整すべき面内分布の程度にもよるが、20組以上のbilayerを反射率分布補正層としてもよい。なお、この場合においても、反射率分布補正層は、最上層に近い側のbilayerを対象にすることが好ましく、最上層から連続した複数組を対象とすることがより好ましい。また、多層反射膜の他の態様として、多層反射膜を構成する全てのbilayerを反射率分布補正層としてもよい。このように、全てのbilayerが反射率分布補正層であって、とくにγ比の分布が同じである場合、低屈折率層および高屈折率層の、それぞれの成膜条件を、同じとすることができるので、成膜プロセスが煩雑になりにくいという利点がある。
【0065】
保護層13は、エッチングプロセス、具体的には、エッチングガスとして塩素系ガスを用いたドライエッチングプロセスにより吸収層14にパターン形成する際に、反射層12がエッチングプロセスによるダメージを受けないよう反射層12を保護する目的で設けられる。したがって保護層13の材質としては、吸収層14のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチング速度が吸収層14よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。
また、保護層13は、保護層13を形成した後であっても反射層12でのEUV光線反射率を損なうことがないように、保護層13自体もEUV光線反射率が高いことが好ましい。
本発明では、上記の条件を満足するため、保護層13として、Ru層、または、Ru化合物層が形成される。Ru化合物層としては、RuB、RuNb、および、RuZrからなる少なくとも1種で構成されることが好ましい。保護層1がRu化合物層である場合、Ruの含有率は50at%以上、80at%以上、特に90at%以上であることが好ましい。但し、保護層13がRuNb層の場合、保護層13中のNbの含有率が5〜40at%、特に5〜30at%が好ましい。
【0066】
反射層12上に保護層13を形成する場合、保護層13表面の表面粗さは、0.5nm rms以下が好ましい。保護層13表面の表面粗さが大きいと、該保護層13上に形成される吸収層14の表面粗さが大きくなり、該吸収層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収層14表面は平滑であることが要求される。
保護層13表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、該保護層13上に形成される吸収層14表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。保護層13表面の表面粗さは、0.4nm rms以下がより好ましく、0.3nm rms以下がさらに好ましい。
【0067】
反射層12上に保護層13を形成する場合、保護層13の厚さは、EUV光線反射率を高め、かつ耐エッチング特性を得られるという理由から、1〜10nmが好ましい。保護層13の厚さは、1〜5nmがより好ましく、2〜4nmがさらに好ましい。
【0068】
反射層12上に保護層13を形成する場合、保護層13は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いる。
ここで、イオンビームスパッタリング法を用いて、保護層13としてRu層を形成する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガス雰囲気中で放電させればよい。具体的には、以下の条件でイオンビームスパッタリングを実施すればよい。
スパッタリングガス:Ar(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)
イオン加速電圧:300〜1500V
成膜速度:1.8〜18.0nm/min
なお、Ar以外の不活性ガスを使用する場合も上記のガス圧とする。
【0069】
なお、本発明のEUVL用反射型マスクブランクの吸収層を形成する前の状態、すなわち、図1に示すEUVL用反射型マスクブランク1の吸収層14を除いた構造が本発明のEUVL用反射層付基板である。本発明のEUVL用反射層付基板は、EUVL用反射型マスクブランクの前駆体をなすものである。なお、本発明のEUVL用反射層付基板は、EUVL用マスクブランクの前駆体に限らず、全般的にEUV光を反射する機能を有する光学基板を含めて考えてもよい。
本発明のEUVL用反射層付基板は、多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組が、基板の中心から半径方向に向けて、上記したγ比の分布を設けた反射率分布補正層である。
【0070】
吸収層14に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収層14表面に照射した際の、波長13.5nm付近の最大光線反射率は、0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
上記の特性を達成するため、EUV光の吸収係数が高い材料での構成が好ましく、少なくともTaおよびNを含有する層が好ましい。
なお、少なくともTaおよびNを含有する層であれば、結晶状態がアモルファスの膜を形成しやすい点でも好ましい。
TaおよびNを含有する層としては、TaN、TaNH、TaBN、TaGaN、TaGeN、TaSiN、TaBSiN、および、PdTaNからなる群から選択されるいずれか1つを用いることが好ましい。これらの吸収層の好適組成の一例を挙げると以下のとおりである。
【0071】
TaN層
Taの含有率:好ましくは30〜90at%、より好ましくは40〜80at%、さらに好ましくは40〜70at%、特に好ましくは50〜70at%
Nの含有率:好ましくは10〜70at%、より好ましくは20〜60at%、さらに好ましくは30〜60at%、特に好ましくは30〜50at%
【0072】
TaNH層
TaおよびNの合計含有率:好ましくは50〜99.9at%、より好ましくは90〜98at%、さらに好ましくは95〜98at%
Hの含有率:好ましくは0.1〜50at%、より好ましくは2〜10at%、さらに好ましくは2〜5at%
TaとNとの組成比(Ta:N):好ましくは9:1〜3:7、より好ましくは7:3〜4:6、さらに好ましくは7:3〜5:5
【0073】
TaBN層
TaおよびNの合計含有率:好ましくは75〜95at%、より好ましくは85〜95at%、さらに好ましくは90〜95at%
Bの含有率:好ましくは5〜25at%、より好ましくは5〜15at%、さらに好ましくは5〜10at%
TaとNとの組成比(Ta:N):好ましくは9:1〜3:7、より好ましくは7:3〜4:6、さらに好ましくは7:3〜5:5
【0074】
TaBSiN層
Bの含有率:1at%以上5at%未満、好ましくは1〜4.5at%、より好ましくは1.5〜4at%
Siの含有率:1〜25at%、好ましくは1〜20at%、より好ましくは2〜12at%
TaとNとの組成比(Ta:N):8:1〜1:1
Taの含有率:好ましくは50〜90at%、より好ましくは60〜80at%
Nの含有率:好ましくは5〜30at%、より好ましくは10〜25at%
【0075】
PdTaN層
TaおよびNの合計含有率:好ましくは30〜80at%、より好ましくは30〜75at%、さらに好ましくは30〜70at%
Pdの含有率:好ましくは20〜70at%、より好ましくは25〜70at%、さらに好ましくは30〜70at%
TaとNとの組成比(Ta:N):好ましくは1:7〜3:1、より好ましくは1:3〜3:1、さらに好ましくは3:5〜3:1
【0076】
吸収層14表面は、上述のとおり、その表面粗さが大きいと、吸収層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収層14表面は平滑性が要求される。
吸収層14として、少なくともTaおよびNを含有する層を形成した場合、その結晶状態はアモルファスであり、表面の平滑性に優れている。具体的には、吸収層14としてTaN層を形成した場合、吸収層14表面の表面粗さが0.5nm rms以下になる。
吸収層14表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、吸収層14表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。吸収層14表面の表面粗さは0.4nm rms以下がより好ましく、0.3nm rms以下がさらに好ましい。
【0077】
吸収層14は、少なくともTaおよびNを含有する層であることにより、エッチングガスとして塩素系ガスを用いてドライエッチングを実施した際のエッチング速度が速く、保護層13とのエッチング選択比は10以上を示す。本明細書において、エッチング選択比は、下記式を用いて計算できる。
エッチング選択比
=(吸収層14のエッチング速度)/(保護層13のエッチング速度)
エッチング選択比は、10以上が好ましく、11以上がさらに好ましく、12以上が特に好ましい。
【0078】
吸収層14の膜厚は、5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、50nm以上が特に好ましい。
一方、吸収層14の膜厚が大きすぎると、該吸収層14に形成するパターンの精度が低下するおそれがあるため、100nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましい。
【0079】
吸収層14は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法のようなスパッタリング法など、周知の成膜方法を使用できる。
吸収層14としてTaN層を形成する場合、マグネトロンスパッタリング法を用いる場合には、Taターゲットを使用し、Arで希釈した窒素(N2)雰囲気中でターゲットを放電させることによって、TaN層を形成できる。
【0080】
上記例示した方法で吸収層14としてのTaN層を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
スパッタリングガス:ArとN2の混合ガス(N2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧0.5×10-1Pa〜10×10-1Pa、好ましくは0.5×10-1Pa〜5×10-1Pa、より好ましくは0.5×10-1Pa〜3×10-1Pa。)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/min、好ましくは3.5〜45nm/min、より好ましくは5〜30nm/min
【0081】
なお、本発明のEUVL用反射型マスクブランクは、図1に示した構成(すなわち、基板11、反射層12、保護層13および吸収層14)以外の構成要素を有していてもよい。
図6は、本発明のEUVL用反射型マスクブランクの別の実施形態を示す概略断面図である。
図6に示すEUVL用反射型マスクブランク1´では、吸収層14上にマスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層15が形成されている。
【0082】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクからEUVL用反射型マスクを作製する際、吸収層にパターンを形成した後、このパターンが設計どおりに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nmの光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の光の反射率の差、具体的には、吸収層14がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収層14表面と、の反射率の差によって検査される。ここで、前者は保護層13表面であり、反射層12上に保護層13が形成しない場合は反射層12表面(具体的には、Mo/Si多層反射膜の最上層のSi膜表面)である。
したがって、257nm程度の検査光の波長に対する保護層13表面(または反射層12表面)と吸収層14表面との反射率の差が小さいと検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査ができない場合がある。
【0083】
上記した構成の吸収層14は、EUV光線反射率が極めて低く、EUVL用反射型マスクブランクの吸収層として優れた特性を有しているが、検査光の波長についてみた場合、光線反射率が必ずしも十分低いとは言えない。この結果、検査光の波長での吸収層14表面の反射率と反射層12表面(または保護層13表面)の反射率との差が小さくなり、検査時のコントラストが十分得られないおそれがある。検査時のコントラストが十分得られないと、マスク検査においてパターンの欠陥を十分判別できず、正確な欠陥検査を行えない場合がある。
図6に示すEUVL用反射型マスクブランク1´のように、吸収層14上に低反射層15を形成することにより、検査時のコントラストが良好となる。別の言い方をすると、検査光の波長での光線反射率が極めて低くなる。このような目的で形成する低反射層15は、検査光の波長領域(257nm近傍)の光線を照射した際の、該検査光の波長の最大光線反射率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
低反射層15における検査光の波長の光線反射率が15%以下であれば、該検査時のコントラストが良好である。具体的には、保護層13表面(または反射層12表面)における検査光の波長の反射光と、低反射層15表面における検査光の波長の反射光と、のコントラストが、40%以上となる。
【0084】
本明細書において、コントラストは下記式を用いて求められる。
コントラスト(%)=((R2−R1)/(R2+R1))×100
ここで、検査光の波長におけるR2は保護層13表面(または反射層12表面)での反射率であり、R1は低反射層15表面での反射率である。なお、上記R1およびR2は、図6に示すEUVL用反射型マスクブランク1´の吸収層14および低反射層15にパターンを形成した状態で測定する。上記R2は、パターン形成によって吸収層14および低反射層15が除去され、外部に露出した保護層13表面(または反射層12表面)で測定した値であり、R1はパターン形成によって除去されずに残った低反射層15表面で測定した値である。
本発明において、上記式で表されるコントラストは、45%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0085】
低反射層15は、上記の特性を達成するため、検査光の波長の屈折率が吸収層14よりも低い材料で構成され、その結晶状態はアモルファスが好ましい。
このような低反射層15の具体例としては、Ta、酸素(O)および窒素(N)を以下に述べる原子比率で含有するもの(低反射層(TaON))が挙げられる。
Taの含有率 20〜80at%、好ましくは、20〜70at%、より好ましくは20〜60at%
OおよびNの合計含有率 20〜80at%、好ましくは30〜80at%、より好ましくは40〜80at%
OとNとの組成(O:N) 20:1〜1:20、好ましくは18:1〜1:18、より好ましくは15:1〜1:15
【0086】
低反射層(TaON)は、上記の構成により、その結晶状態はアモルファスであり、その表面が平滑性に優れている。具体的には、低反射層(TaON)表面の表面粗さが0.5nm rms以下である。
上記したように、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度の悪化を防止するため、吸収層14表面は平滑であることが要求される。低反射層15は、吸収層14上に形成されるため、同様の理由から、その表面は平滑であることが要求される。
低反射層15表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、低反射層15表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。低反射層15表面の表面粗さは0.4nm rms以下がより好ましく、0.3nm rms以下がさらに好ましい。
【0087】
吸収層14上に低反射層15を形成する場合、吸収層14と低反射層15との合計厚さは、20〜130nmが好ましい。また、低反射層15の厚さが吸収層14の厚さよりも大きいと、吸収層14でのEUV光吸収特性が低下するおそれがあるので、低反射層15の厚さは吸収層14の厚さよりも小さいことが好ましい。このため、低反射層15の厚さは5〜30nmが好ましく、10〜20nmがより好ましい。
【0088】
上記の構成の低反射層(TaON)は、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスで希釈した酸素(O2)および窒素(N2)雰囲気中で、Taターゲットを用いたスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法により形成できる。または、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスで希釈した窒素(N2)雰囲気中でTaターゲットを放電させてTaおよびNを含有する膜を形成した後、例えば酸素プラズマ中にさらしたり、酸素を用いたイオンビームを照射することによって、形成された膜を酸化することにより、上記の構成の低反射層(TaON)としてもよい。
【0089】
上記した方法で低反射層(TaON)を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
スパッタリングガス:ArとO2とN2の混合ガス(O2ガス濃度5〜80vol%、N2ガス濃度5〜75vol%、好ましくはO2ガス濃度6〜70vol%、N2ガス濃度6〜35vol%、より好ましくはO2ガス濃度10〜30vol%、N2ガス濃度10〜30vol%。Arガス濃度5〜90vol%、好ましくは10〜88vol%、より好ましくは20〜80vol%、ガス圧1.0×10-1Pa〜50×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜40×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜30×10-1Pa。)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.1〜50nm/min、好ましくは0.2〜45nm/min、より好ましくは0.2〜30nm/min
なお、Ar以外の不活性ガスを使用する場合、その不活性ガスの濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。また、複数種類の不活性ガスを使用する場合、不活性ガスの合計濃度を上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。
【0090】
図6に示すEUVL用反射型マスクブランク1´のように、吸収層14上に低反射層15を形成する構成が好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。また、検査光の波長が193nmである場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はない場合がある。さらに、検査光の波長が13.5nmである場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。
【0091】
また、本発明のEUVL用反射型マスクブランクは、反射層12、保護層13、吸収層14、低反射層15以外に、EUVL用反射型マスクブランクの分野において公知の機能膜を有していてもよい。このような機能膜の具体例としては、例えば、特表2003−501823号公報に記載のように、基板の静電チャッキングを促すために、基板の裏面側に施される導電性コーティングが挙げられる。ここで、基板の裏面とは、図1の基板11において、反射層12が形成されている側とは反対側の面を指す。このような目的で基板の裏面に施す導電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。導電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択できる。例えば、特表2003−501823号公報に記載の導電性(高誘電率)のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、TaSiからなるコーティングを適用できる。導電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nmである。
導電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法を用いて形成できる。
【0092】
本発明のEUVL用反射層付基板は、多層反射膜を構成するbilayerのうち、少なくとも1組が、基板の中心から半径方向に向けて、上記したγ比の分布を設けた反射率分布補正層である。
【0093】
本発明の方法により製造されるEUVL用反射型マスクブランクの吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)を少なくともパターニングすることで、EUVL用反射型マスクが得られる。吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)のパターニング方法は特に限定されず、例えば、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)上にレジストを塗布してレジストパターンを形成し、これをマスクとして吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)をエッチングする方法を採用できる。レジストの材料やレジストパターンの描画法は、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)の材質等を考慮して適宜選択すればよい。吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)のエッチング方法としては、エッチングガスとして塩素系ガスを用いたドライエッチングを用いる。吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)をパターニングした後、レジストを剥離液で剥離することにより、EUVL用反射型マスクが得られる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
(比較例1)
本実施例では、EUVL用反射層付基板を作製した。このEUVL用反射層付基板は、図1に示すマスクブランク1の吸収層14および保護層13を除いた構造である。
成膜用の基板11として、SiO2−TiO2系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.35mm)を使用する。このガラス基板の熱膨張率は0.05×10-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×1072/s2である。このガラス基板を研磨により、rmsが0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度に形成した。
【0095】
基板11の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の導電性コーティング(図示していない)を施した。
平板形状をした通常の静電チャックに、上記の手順で形成されるCr膜を用いて基板11(外形6インチ(152mm)角、厚さ6.35mm)を固定して、該基板11の表面上にイオンビームスパッタリング法を用いて、膜厚2.7nmのMo層と、膜厚4.3nmのSi層と、で構成されるbilayerを、繰り返し単位数が40となるように積層させて、合計膜厚280nm((2.7nm+4.3nm)×40)のMo/Si多層反射膜(反射層12)を形成した。Mo/Si多層反射膜は、基板11表面の152mm角の領域に形成した。
【0096】
Mo膜およびSi膜の成膜条件は以下のとおりである。
Mo膜の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタリングガス:Arガス(Arガス濃度100vol%、ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:3.84nm/min
膜厚:2.7nm
Si膜の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタリングガス:Arガス(Arガス濃度100vol%、ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:4.62nm/min
膜厚:4.3nm
【0097】
上記の手順で形成したMo/Si多層反射膜を構成するbilayer膜厚、およびMo層の膜厚、Si層の膜厚を、XRR(X線反射率法)を用いて、基板中心から半径方向に測定した。Mo/Si多層反射膜を構成するbilayer膜厚、およびMo層の膜厚、Si層の膜厚は一定であった。したがって、各bilayerのγ比、すなわち、(Si層の膜厚)/(Mo層およびSi層の合計膜厚)も一定である。
【0098】
上記の手順で形成したMo/Si多層反射膜の表面に、EUV光を入射角6度で照射した。この時のEUV波長域の反射光を、EUV反射率計(AIXUV社製MBR)を用いて測定し、同波長域のピーク反射率の面内分布を評価した。
図7の補正前(破線)は、上記の手順で形成したMo/Si多層反射膜にEUV光を入射角6度で照射した際の、基板の中心から半径方向における位置と、EUV光のピーク反射率の面内分布と、の関係を示したグラフである。図7は、基板中心から半径方向(0〜100m)において、ピーク反射率が最小値となる位置のEUV光のピーク反射率を基準としたときの変化を示したグラフである。そして、ピーク反射率の面内分布の大小は、基板の中心から半径方向におけるEUV光のピーク反射率の最大値と最小値との差の大小によって評価できる。これは、以降の図8図9も同様である。
ここで、図7の補正前(破線)に示すように、基板の中心から該基板の外周部へとEUV光のピーク反射率が低くなる面内分布が生じている。EUV光のピーク反射率の面内分布は0.6%超であり、EUV光のピーク反射率の面内均一性に関する要求値であり、そのレンジ(ピーク反射率の最大値と最小値との差)で0.5%以内を満たしていない。
【0099】
(実施例1)
本実施例では、比較例1で得られたEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布(図7の補正前)と、図2に示すEUV光のピーク反射率のγ比に対する依存性と、に基づいて、Mo/Si多層反射膜を構成する全てのbilayerを、半径方向のγ比の分布を設けた反射率分布補正層とした点を除いて、比較例1と同様の手順で、基板11上に反射層2として、Mo/Si多層反射膜を形成する。具体的には以下のとおり。
比較例1でEUV光のピーク反射率が最も低くなった基板の外周部では、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比を、図2でEUV光のピーク反射率が極大値となるγ比(0.608)とする。基板の外周部における、bilayerを構成する各層の膜厚は以下のとおり。
Mo層の膜厚:2.7nm
Si層の膜厚:4.3nm
合計膜厚:7.0nm
一方、比較例1でピーク反射率が最も高くなった基板の中心については、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比を、基板の中心から外周部へのEUV光のピーク反射率の低下量(0.66%)に対応するγ比(0.583)とし、全てのbilayerを対象の反射率分布補正層とする。
基板の中心における、bilayerを構成する各層の膜厚は以下のとおり。
Mo層の膜厚:2.9nm
Si層の膜厚:4.1nm
合計膜厚:7.0nm
【0100】
図7の補正後(実線)に示すように、Mo/Si多層反射膜を構成する全てのbilayerを、半径方向のγ比の分布を設けた反射率分布補正層とすることで、基板中心から外周部へと半径方向にEUV光のピーク反射率が低下するピーク反射率の面内分布が抑制されて、ピーク反射率の面内分布が0.15%となる。
【0101】
(比較例2)
比較例1と同様の手順で基板上にMo/Si多層反射膜を形成し、該Mo/Si多層反射膜にEUV光を入射角6度で照射した際の、基板の中心から半径方向における位置と、EUV光のピーク反射率の面内分布と、の関係を評価した。図8の補正前(破線)は、基板の中心から半径方向における位置と、EUV光のピーク反射率の面内分布と、の関係を示したグラフである。
図8の補正前(破線)に示すように、基板の中心から該基板の外周部へとEUV光のピーク反射率が低くなる面内分布が生じている。EUV光のピーク反射率の面内分布は0.28%であった。
【0102】
(実施例2)
本実施例では、Mo/Si多層反射膜を構成するbilayerのうち、最上層から連続した20組のbilayerを、半径方向のγ比の分布を設けた反射率分布補正層とした点を除いて、比較例2と同様の手順で、基板11上に反射層2として、Mo/Si多層反射膜を形成する。具体的には以下のとおり。
比較例2でEUV光のピーク反射率が最も低くなった基板の外周部では、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比を、図3でEUV光のピーク反射率が極大値となるγ比(0.608)とする。基板の外周部における、bilayerを構成する各層の膜厚は以下のとおり。
Mo層の膜厚:2.7nm
Si層の膜厚:4.3nm
合計膜厚:7.0nm
一方、比較例2でピーク反射率が最も高くなった基板の中心については、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比を、基板の中心から外周部へのEUV光のピーク反射率の低下量(0.28%)に対応してγ比(0.583)としたまま、適用する反射率分布補正層の組数を実施例1より半数減らして調整する。
基板の中心における、bilayerを構成する各層の膜厚は以下のとおり。
Mo層の膜厚:2.9nm
Si層の膜厚:4.1nm
合計膜厚:7.0nm
図8の補正後(実線)に示すように、Mo/Si多層反射膜を構成するbilayerのうち、最上層から連続した20組のbilayerを、半径方向のγ比の分布を設けた反射率分布補正層とすることで、基板中心から外周部へと半径方向にEUV光のピーク反射率が低下するピーク反射率の面内分布が抑制されて、ピーク反射率の面内分布が0.07%となる。
【0103】
(比較例3)
比較例1と同様の手順で基板上にMo/Si多層反射膜を形成し、該Mo/Si多層反射膜にEUV光を入射角6度で照射した際の、基板の中心から半径方向における位置と、EUV光のピーク反射率の面内分布と、の関係を評価した。図9の補正前(破線)は、基板の中心から半径方向における位置と、EUV光のピーク反射率の面内分布と、の関係を示したグラフである。
図9の補正前(破線)に示すように、基板の中心から該基板の外周部へとEUV光のピーク反射率が低くなる面内分布が生じている。EUV光のピーク反射率の面内分布は1.45%であった。
【0104】
(実施例3)
本実施例では、比較例3で得られたEUV波長域の光のピーク反射率の面内分布(図9の補正前)と、図2に示すEUV光のピーク反射率のγ比に対する依存性と、に基づいて、Mo/Si多層反射膜を構成する全てのbilayerを、半径方向のγ比の分布を設けた反射率分布補正層とした点を除いて、比較例3と同様の手順で、基板11上に反射層2として、Mo/Si多層反射膜を形成する。具体的には以下のとおり。
比較例3でEUV光のピーク反射率が最も低くなった基板の外周部では、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比を、図3でEUV光のピーク反射率が極大値となるγ比(0.608)とした。基板の外周部における、bilayerを構成する各層の膜厚は以下のとおり。
Mo層の膜厚:2.7nm
Si層の膜厚:4.3nm
合計膜厚:7.0nm
一方、比較例3でピーク反射率が最も高くなった基板の中心については、反射率分布補正層をなすbilayerのγ比を、基板の中心から外周部へのEUV光のピーク反射率の低下量(1.45%)に対応するγ比(0.565)とし、全てのbilayerを対象の反射率分布補正層とする。
基板の中心における、bilayerを構成する各層の膜厚は以下のとおり。
Mo層の膜厚:3.0nm
Si層の膜厚:4.0nm
合計膜厚:7.0nm
【0105】
図9の補正後(実線)に示すように、Mo/Si多層反射膜を構成する全てのbilayerを、半径方向のγ比の分布を設けた反射率分布補正層とすることで、基板中心から外周部へと半径方向にEUV光のピーク反射率が低下するピーク反射率の面内分布が抑制されて、ピーク反射率の面内分布が0.30%となる。
【符号の説明】
【0106】
1,1´:EUVマスクブランク
11:基板
12:反射層(Mo/Si多層反射膜)
12a:Mo層
12b:Si層
13:保護層
14:吸収層
15:低反射層
図7
図8
図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6