特許第6044332号(P6044332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニコンの特許一覧

特許6044332針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法、電界効果トランジスタの製造方法、電子デバイスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044332
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法、電界効果トランジスタの製造方法、電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/02 20060101AFI20161206BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20161206BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C01G9/02 B
   C01G9/02 Z
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618A
【請求項の数】8
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2012-284633(P2012-284633)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-80349(P2014-80349A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年7月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-214045(P2012-214045)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】西 康孝
(72)【発明者】
【氏名】中積 誠
(72)【発明者】
【氏名】瀧 優介
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 忠彦
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−149367(JP,A)
【文献】 特表2008−547195(JP,A)
【文献】 特開2008−254989(JP,A)
【文献】 特開平04−164816(JP,A)
【文献】 特開2008−105923(JP,A)
【文献】 特開昭59−193131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 9/02
H01L 21/336
H01L 29/786
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが12〜13の範囲である過飽和の亜鉛酸イオンを含む液体の温度を20〜40℃の範囲にし、前記液体から、前記液体が付着する基板表面に酸化亜鉛の針状結晶を析出させることを特徴とする針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法。
【請求項2】
前記液体に含まれる亜鉛原子の濃度、前記液体に含まれる水酸化物イオンの濃度、および、前記液体の温度を制御することにより、前記液体の過飽和度を制御する、請求項1に記載の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法。
【請求項3】
前記液体に含まれる亜鉛原子の濃度を0.05〜0.22mol/Lに制御する、請求項1または2に記載の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法。
【請求項4】
前記基板は、第1の電極と第2の電極の対を少なくとも一対備え、
前記第1の電極と前記第2の電極の間の間隙を含む領域に前記液体を付着させ、前記第1の電極と前記第2の電極の間を架橋するように前記酸化亜鉛の針状結晶を析出させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法。
【請求項5】
前記基板は、前記間隙に対向する第3の電極を備え、
前記酸化亜鉛の針状結晶を、平面視において前記第3の電極と少なくとも一部が重なるように、前記第1の電極と前記第2の電極の間を架橋して析出させる、請求項4に記載の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法。
【請求項6】
前記第1の電極をドレイン電極、前記第2の電極をソース電極、前記第3の電極をゲート電極として構成された電界効果トランジスタを形成する、請求項5に記載の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法。
【請求項7】
基板表面に、請求項1〜6のいずれか1項に記載の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法により、針状酸化亜鉛結晶からなるチャネル層またはゲート絶縁層を形成することを含む電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法を用いて、基板上に針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜を形成することと、
前記酸化亜鉛薄膜が形成された基板を加工することと、を含む電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法、電界効果トランジスタの製造方法、電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は、薄膜トランジスタ(thin film transistor、TFT)のチャネル層を形成する材料として広く用いられている。酸化亜鉛は、Si系半導体の代替材料として注目されている。酸化亜鉛薄膜は、一般的にスパッタリング法などの真空成膜法により成膜される。
一方、より簡便にかつ低コストで酸化亜鉛薄膜を成膜可能な方法として、湿式成膜法の研究も行われている。湿式成膜法としては、酸化亜鉛ナノロッドの分散液を塗布することにより、酸化亜鉛薄膜を成膜する方法(例えば、特許文献1参照)や、亜鉛の前駆体を含む溶液から、酸化亜鉛層を析出させる方法(例えば、非特許文献1参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−81363号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】B.Ling,N.X.Yang et al.IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS,VOL.17,NO.4,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化亜鉛ナノロッドの分散液を用いる方法では、酸化亜鉛ナノロッドを作製する工程を含んでおり、一方、亜鉛の前駆体を含む溶液を用いる方法では、その溶液を加熱するなどの外部処理が必要である。このように、従来の湿式成膜法は、工程が多く、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、脱真空かつ低温の成膜プロセスにより、高品質の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法、および、その製造方法により製造された針状酸化亜鉛結晶を備えた物品、電界効果トランジスタ、電子デバイス、針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造装置、電子デバイスの製造方法、電子デバイスの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、pHが12〜13の範囲である過飽和の亜鉛酸イオンを含む液体の温度を20〜40℃の範囲にし、前記液体から、前記液体が付着する基板表面に酸化亜鉛の針状結晶を析出させる針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第2の態様に従えば、基板表面に、本発明の第1の態様の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法により、針状酸化亜鉛結晶からなるチャネル層またはゲート絶縁層を形成することを含む電界効果トランジスタの製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第3の態様に従えば、本発明の第1の態様の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法を用いて、基板上に針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜を形成することと、前記酸化亜鉛薄膜が形成された基板を加工することと、を含む電子デバイスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法によれば、脱真空かつ低温の成膜プロセスにより、TFTを動作させることが可能な高品質の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法の一例を示す工程図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
図2】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法の他の例を示す工程図であり、(a)は断面図、(b)斜視図である。
図3】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造装置の構成例である。
図4】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の連続製造装置における前処理機構の構成例である。
図5】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の連続製造装置における第1溶液槽の構成例である。
図6】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の連続製造装置におけるスタティックミキサの構成例である。
図7】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の連続製造装置における第1ノズルの構成例である。
図8】針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の連続製造装置における搬送機構の構成例である。
図9】本実施形態に係るデバイス製造方法の一例を模式的に示す図である。
図10】本実施形態に係るデバイス製造方法の一例を模式的に示す図である。
図11】本実施形態に係るデバイス製造方法の一例を模式的に示す図である。
図12】実験例1のNo.4において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図13】実験例1のNo.5において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図14】実験例1のNo.6において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図15】実験例1のNo.12において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図16】実験例1のNo.15において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図17】実験例1のNo.16において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図18】実験例1のNo.17において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図19】実験例1のNo.20において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図20】実験例1のNo.32において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図21】実験例1のNo.33において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図22】実験例1のNo.34において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図23】実験例1のNo.36において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図24】実験例1のNo.37において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図25】実験例1のNo.38において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図26】実験例1のNo.39において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
図27】実験例1のNo.42において、シリコン基板上に析出させた酸化亜鉛の結晶のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本実施形態に係る針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法、針状酸化亜鉛結晶を備えた物品、電界効果トランジスタ、電子デバイス、針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造装置、電子デバイスの製造方法、電子デバイスの製造装置について説明する。
本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
「針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法」
本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法は、過飽和の亜鉛酸イオンを含む液体を基板表面に付着させ、前記液体から前記基板表面に酸化亜鉛の針状結晶(以下、「針状酸化亜鉛結晶」と言うこともある。)を析出させる方法である。
【0018】
図1および図2は、本実施形態に係る針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法を示す説明図である。図1は、針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法の一例を示す図である。図2は、針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法の他の例を示す図である。
【0019】
まず、室温にて、亜鉛塩を溶解させた溶液(以下、「亜鉛塩含有溶液」と言う。)に、塩基性溶液を添加して、亜鉛塩含有溶液と塩基性溶液を混合し、過飽和の亜鉛酸イオンを含む液体(以下、「亜鉛酸イオン含有溶液」と言う。)を調製する。
【0020】
亜鉛塩含有溶液および塩基性溶液の溶媒としては、それぞれの溶質を溶解可能なものであれば特に限定されるものではないが、水が好適に用いられる。そして、水を溶媒として調製された亜鉛塩含有溶液と塩基性溶液とを混合することが好ましい。本実施形態においては、溶媒として水を用いることとする。なお、水以外の溶媒としては、溶質を溶解可能なものであれば特に限定されず、アルコール等を用いることもできる。
【0021】
亜鉛塩含有溶液の溶質である亜鉛塩としては、水等の溶媒に溶解して亜鉛イオン(Zn2+)を生じるものが用いられ、例えば、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛等が挙げられる。
【0022】
亜鉛塩含有溶液は、亜鉛塩を溶媒に溶解させることにより調製する。このとき、亜鉛塩含有溶液のpHの調整を行っても、行わなくてもよいが、pHの調整を行う場合には、亜鉛イオンの溶解度を高める方向に調整すればよい。また、亜鉛塩の濃度は、亜鉛イオン濃度として、0.05〜0.75mol/L、好ましくは0.1〜0.25mol/Lの範囲に調整する。
【0023】
塩基性溶液の溶質としては、水等の溶媒に溶解して水酸化物イオン(OH)を生じるものが用いられ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等が挙げられる。
塩基性溶液は、上記の溶質を溶媒に溶解させることにより調製する。
【0024】
本実施形態では、亜鉛塩含有溶液と塩基性溶液を混合して、亜鉛酸イオン含有溶液を調製する際に、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる亜鉛原子(Zn)の濃度、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる水酸化物イオンの濃度、および、針状酸化亜鉛結晶を析出させる際の亜鉛酸イオン含有溶液の温度(析出温度)を制御することにより、亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度を制御する。
【0025】
亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる亜鉛原子の濃度は、予め亜鉛塩含有溶液に含まれる亜鉛イオンの濃度を所定の範囲に調整し、その亜鉛塩含有溶液と塩基性溶液の混合比を調整することにより制御される。
亜鉛塩含有溶液に含まれる亜鉛イオンの濃度は、特に限定されるものではなく、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる水酸化物イオンの濃度、亜鉛塩含有溶液と塩基性溶液の混合比、亜鉛酸イオン含有溶液の温度等に応じて適宜調整される。
【0026】
亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる水酸化物イオンの濃度は、予め塩基性溶液に含まれる水酸化物イオンの濃度を所定の範囲に調整し、その塩基性溶液と亜鉛塩含有溶液の混合比を調整することにより制御される。
塩基性溶液に含まれる水酸化物イオンの濃度は、特に限定されるものではなく、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる亜鉛イオンの濃度、亜鉛塩含有溶液と塩基性溶液の混合比、亜鉛酸イオン含有溶液の温度等に応じて適宜調整される。
【0027】
亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度を制御するための亜鉛酸イオン含有溶液の温度は、過飽和の亜鉛酸イオン含有溶液を基板表面に付着させ、亜鉛酸イオン含有溶液から基板表面に針状酸化亜鉛結晶を析出させる際の温度(析出温度)であり、20〜40℃の範囲であることが好ましい。
亜鉛酸イオン含有溶液の温度が上記の範囲外であると、酸化亜鉛の針状結晶と非針状結晶の混合物が得られ、針状結晶のみが得られないか、あるいは、酸化亜鉛の非針状結晶しか得られず、針状結晶が全く得られないことがある。
【0028】
本実施形態では、亜鉛酸イオン含有溶液のpHを制御することにより、亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度を制御する。
具体的には、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる亜鉛原子の濃度、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる水酸化物イオンの濃度、および、亜鉛酸イオン含有溶液の温度を制御することにより、亜鉛酸イオン含有溶液のpHを12〜13の範囲に制御する。これにより、亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度を制御し、亜鉛酸イオン含有溶液から針状酸化亜鉛結晶を析出させる。
ここでは、上記の析出温度(20〜40℃)において、亜鉛酸イオン含有溶液のpHを12〜13に制御する。なお、温度によって亜鉛酸イオン含有溶液のpHは変化するので、析出温度に応じて、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる亜鉛原子の濃度、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる水酸化物イオンの濃度を制御する。
なお、亜鉛酸イオン含有溶液のpHが上記の範囲外であると、酸化亜鉛の針状結晶と非針状結晶の混合物が得られ、針状結晶のみが得られないか、あるいは、酸化亜鉛の非針状結晶しか得られず、針状結晶が全く得られないことがある。
【0029】
上記の操作により、亜鉛塩含有溶液と塩基性溶液を混合すると、これらの混合溶液中の亜鉛イオン(Zn2+)は、その混合溶液中の水酸化物イオン(OH)と結合して、水酸化亜鉛(Zn(OH))となり、さらに、水酸化亜鉛は、水酸化物イオンと結合して、テトラヒドロキシ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)2−)を生じる。このテトラヒドロキシ亜鉛(II)酸イオンは、混合溶液中に溶解するので、テトラヒドロキシ亜鉛(II)酸イオンを含む亜鉛酸イオン含有溶液が得られる。
【0030】
亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度を制御する具体的な条件は、亜鉛酸イオン含有溶液のpHを12〜13、亜鉛酸イオン含有溶液に含まれる亜鉛原子の濃度を0.05〜0.22mol/L、亜鉛酸イオン含有溶液から針状酸化亜鉛結晶を析出させる際の温度(析出温度)を20〜40℃に制御する。
【0031】
このようにして調製された過飽和の亜鉛酸イオン含有溶液は、テトラヒドロキシ亜鉛(II)酸イオンが過飽和となっており、針状酸化亜鉛結晶が容易に析出する溶液である。
以下の説明において、「過飽和の亜鉛酸イオン含有溶液」を「塗布溶液」と称することがある。
この塗布溶液を基板表面に付着させることにより、この塗布溶液から基板表面に針状酸化亜鉛結晶を析出させる。
基板表面に塗布溶液を付着させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、基板上に、この塗布溶液を塗布する方法(第一の方法)、この塗布溶液に、基板を浸漬する方法(第二の方法)等が挙げられる。
【0032】
(第一の方法)
基板上に、塗布溶液を塗布する方法について説明する。
例えば、図1に示すように、基板10の一面(上面)10aに、塗布装置に備えられた溶液滴下ノズル21により、塗布溶液Sを塗布する。
基板10は、その一面10aに、所定の間隔を隔てて設けられた、一対の第1の電極11と第2の電極12を備えている。
ここでは、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域に、塗布溶液Sを塗布する。
【0033】
なお、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域とは、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13、基板10の一面10aにおける間隙13の周辺領域、基板10の一面10aにおける第1の電極11と第2の電極12が設けられている領域、および、基板10の一面10aにおける第1の電極11と第2の電極12の周辺領域を言う。
【0034】
基板10としては、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス基板、樹脂フィルム、シリコン基板、各種単結晶基板、各種半導体基板等が挙げられる。
【0035】
第1の電極11、第2の電極12は、金(Au)から構成されていても、基板10上に順に積層されたクロム(Cr)からなる第一の層と、金(Au)からなる第二の層とから構成されていてもよい。
第1の電極11と第2の電極12の厚さは特に限定されるものではなく、要求される仕様などに応じて適宜調整される。
【0036】
また、第1の電極11と第2の電極12の間隔は、特に限定されるものではなく、要求される仕様などに応じて適宜調整される。
【0037】
塗布溶液Sの塗布の方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、ディスペンサを用いた滴下法、インクジェット法(液滴吐出法)、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スリットコート法等が挙げられる。
【0038】
このように、基板10の一面10aにおける、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域に、塗布溶液Sを塗布し、所定の時間放置することによって、第1の電極11と第2の電極12の間を架橋するように針状酸化亜鉛結晶が析出し、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域に、針状酸化亜鉛結晶の集合体が形成される。
【0039】
次いで、所定の温度に調整された純水により、基板10に付着している針状酸化亜鉛結晶を洗浄し、この針状酸化亜鉛結晶に含まれる不純物を除去する。
純水の温度は、特に限定されるものではなく、例えば、70℃程度とする。
このようにして、第1の電極11と第2の電極12の間を架橋するように析出した針状酸化亜鉛結晶は、第1の電極11がドレイン電極、第2の電極12がソース電極であれば、薄膜トランジスタ(TFT)のチャネル層として機能する。
【0040】
(第二の方法)
塗布溶液に、基板を浸漬する方法について説明する。
例えば、図2に示すように、基板10を、容器31内の塗布溶液Sに浸漬することにより、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域に、塗布溶液Sを塗布する。
基板10としては、例えば、上述の第一の方法と同様のものが用いられる。
【0041】
このように、塗布溶液Sに基板10を浸漬し、基板10の一面10aにおける、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域に、塗布溶液Sを塗布し、所定の時間放置することによって、第1の電極11と第2の電極12の間を架橋するように針状酸化亜鉛結晶が析出し、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域に、針状酸化亜鉛結晶の集合体が形成される。
【0042】
針状酸化亜鉛結晶が析出した後、塗布溶液Sから基板10を取り出し、所定の温度に調整された純水により、基板10に付着している針状酸化亜鉛結晶を洗浄し、この針状酸化亜鉛結晶に含まれる不純物を除去する。
純水の温度は、特に限定されるものではなく、例えば、70℃程度とする。
【0043】
上記のようにして得られた針状酸化亜鉛結晶を完全に乾燥することにより、基板10と、その一面10aにおける、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域に形成された針状酸化亜鉛結晶とを備えた物品が得られる。
このようにして、第1の電極11と第2の電極12の間を架橋するように析出した針状酸化亜鉛結晶は、第1の電極11がドレイン電極、第2の電極12がソース電極であれば、薄膜トランジスタ(TFT)のチャネル層として機能する。
【0044】
本実施形態では、基板10として、一対の第1の電極11と第2の電極12を備えたものを用いた場合を例示したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。本実施形態では、基板として、第1の電極と第2の電極の対を二対以上備えたものを用いてもよい。
【0045】
また、本実施形態では、基板として、第1の電極と第2の電極の間の間隙に対向する第3の電極を備えたものを用いてもよい。
第3の電極を備えた基板を用いる場合、上記の第一の方法や第二の方法により、基板の一面における、第1の電極と第2の電極の間の間隙を含む領域に、過飽和の亜鉛酸イオン含有溶液を塗布し、所定の時間放置することによって、針状酸化亜鉛結晶を、平面視において第3の電極と少なくとも一部が重なるように、第1の電極と第2の電極の間を架橋して析出させる。これにより、第1の電極11と第2の電極12の間の間隙13を含む領域において、平面視において第3の電極と少なくとも一部が重なるように、針状酸化亜鉛結晶の集合体が形成される。
【0046】
また、第1の電極をドレイン電極、第2の電極をソース電極、第3の電極をゲート電極とすれば、本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法により、電界効果トランジスタを形成することができる。
【0047】
本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法によれば、脱真空かつ低温の成膜プロセスにより、TFTを動作させることが可能な高品質の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品を容易に製造することができる。例えば、基板上に形成された第1の電極と第2の電極の間を架橋するように、高品質の針状酸化亜鉛結晶を析出させることができる。
【0048】
「針状酸化亜鉛結晶を備えた物品」
本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品は、上述の本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法により製造されたものである。
針状酸化亜鉛結晶を備えた物品としては、針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜を備えた物品、針状酸化亜鉛結晶からなるチャネル層またはゲート絶縁層を備えた薄膜トランジスタ、針状酸化亜鉛結晶からなる透明酸化物配線を備えた物品等が挙げられる。
【0049】
「酸化亜鉛薄膜」
本実施形態における酸化亜鉛薄膜は、基板上に形成されたソース電極とドレイン電極の間を架橋するように形成された場合、薄膜トランジスタ(TFT)や電界効果トランジスタ(FET)のチャネル層として機能することができる。
【0050】
「薄膜トランジスタ」
本実施形態における薄膜トランジスタは、石英ガラス等の各種ガラスや樹脂フィルムなどからなる基板やシリコン基板に、チャネル層、ゲート絶縁層、保護絶縁層、電極層などが形成されたものであり、チャネル層またはゲート絶縁層が、上述の本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法によって形成された針状酸化亜鉛結晶からなるものである。
本実施形態における薄膜トランジスタの種類は、特に限定されるものではなく、スタガード型、インバーテッド・スタガード型、 コープレーナー型、インバーテッド・コープレーナー型のいずれであってもよい。
【0051】
「電界効果トランジスタ」
本実施形態における電界効果トランジスタは、石英ガラス等の各種ガラスや樹脂フィルムなどからなる基板やシリコン基板に、チャネル層、ゲート絶縁層、保護絶縁層、電極層などが形成されたものであり、チャネル層またはゲート絶縁層が、上述の本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法によって形成された針状酸化亜鉛結晶からなるものである。
【0052】
「電子デバイス」
本実施形態における電子デバイスは、上述の電界効果トランジスタを含むものである。
【0053】
「透明酸化物配線」
本実施形態における透明酸化物配線は、上述の本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法によって形成された針状酸化亜鉛結晶からなるものである。
本実施形態における透明酸化物配線は、上述の本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造方法によって、石英ガラス等の各種ガラスや樹脂フィルムなどからなる絶縁性の基板上に形成される。ここで、絶縁性の基板としては、金属製等の導電性基板上に絶縁層を形成したものも含まれる。
なお、透明酸化物配線の形状は、特に限定されるものではなく、必要に応じてマスキングや基板の親撥水処理を施すことにより、溶液の付着範囲を限定することで、任意の形状に形成することができる。
【0054】
「針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造装置」
図3は、本実施形態に係る針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造装置の構成例である。
図3の製造装置は、いわゆるロール・トゥ・ロール(role to role)の構成を有する連続製造装置である。
本実施形態の製造装置では、フィルム状基板FSが、供給側ロールSRから供給され、巻き取り側ロールRRに巻き取られる。供給側ロールSRから巻き取り側ロールRRまでの間に、針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜がフィルム状基板FS上に連続的に形成される。
【0055】
以下、本実施形態の製造装置について図面を参照しながら説明する。
本実施形態の製造装置は、フィルム状基板FSに前処理を行う前処理機構PTと、フィルム状基板FSの表面に酸化亜鉛の前駆体溶液を供給する溶液供給機構と、フィルム状基板FSに後処理を行う後処理機構と、これらの機構にフィルム状基板FSを順次搬送する搬送機構とを備えている。
【0056】
前処理機構PTとしては、静電気除去、紫外線洗浄、湿式洗浄、乾燥等の各種処理機構を必要に応じて適宜設けることができる。
前処理機構PTとしては、例えば、図4に示す構成のものが挙げられる。
本実施形態における前処理機構PTは、フィルム状基板FSを純水で洗浄する純水洗浄槽101と、純水洗浄後のフィルム状基板FS上に残留している純水を除去する送風機102と、フィルム状基板FSをアルコールで洗浄するアルコール洗浄槽103と、アルコール洗浄後のフィルム状基板FS上に残留しているアルコールを除去する送風機104と、アルコールを乾燥したフィルム状基板FSに紫外線を照射する紫外線光源105とを順に備えている。
【0057】
純水洗浄槽101には、純水を循環させるための循環系106が設けられている。
アルコール洗浄槽103には、純水を循環させるための循環系106が設けられている。また、アルコール洗浄で用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等が挙げられる。
【0058】
純水洗浄槽101とアルコール洗浄槽103の間、かつ、送風機102に対向する位置にドレン流路DRが設けられ、このドレン流路DRからフィルム状基板FSの洗浄に用いられた純水が図示しない排水処理装置に向けて排出される。
アルコール洗浄槽103と紫外線光源105の間、かつ、送風機104に対向する位置にドレン流路DRが設けられ、このドレン流路DRからフィルム状基板FSの洗浄に用いられたアルコールが図示しない排水処理装置に向けて排出される。
【0059】
紫外線光源105からフィルム状基板FSに紫外線が照射されると、フィルム状基板FSの表面に付着した有機物が分解除去されるとともに、フィルム状基板FSの表面が親水性になる。
【0060】
本実施形態における溶液供給機構は、第1溶液を貯留する第1溶液槽RT1と、第2溶液を貯留する第2溶液槽RT2と、第1溶液と第2溶液を混合するスタティックミキサSMと、混合された溶液(混合液)をフィルム状基板FSの表面に供給する第1ノズルNZ1とを備えている。
なお、第1溶液は上述の亜鉛塩含有溶液であり、第2溶液は上述の塩基性溶液である。
第1溶液槽RT1の温度、第2溶液槽RT2の温度、および、スタティックミキサSMの温度は、これらの内部で溶質や針状酸化亜鉛結晶が析出しないように、各溶液の濃度や滞留時間等に応じて個別に制御される。
また、第1溶液槽RT1および第2溶液槽RT2へ各溶液を補充する際は、各溶液槽内の溶液の温度変化を生じないように、予め所定の温度にされた溶液が第1溶液貯留槽S1および第2溶液貯留槽S2から供給される。
【0061】
第1溶液槽RT1としては、例えば、図5に示す構成のものが挙げられる。
本実施形態における第1溶液槽RT1は、第1溶液槽RT1に収容された第1溶液120を攪拌する攪拌翼111を有する攪拌装置112と、第1溶液槽RT1に収容された第1溶液120の温度をモニタする温度モニタ113と、第1溶液槽RT1に収容された第1溶液120を所定の流量でスタティックミキサSMに供給するメータリングポンプMP1とを備えている。
【0062】
攪拌装置112による第1溶液120の攪拌は、第1溶液120の温度を均一にするために行われるが、攪拌装置112による攪拌に代えて、第1溶液槽RT1の容積や加熱/冷却機構の配置等の最適化によって温度を均一化してもよい。
温度モニタ113による第1溶液120の温度のモニタは、フィルム状基板FS上で針状酸化亜鉛結晶が適切に析出するように、第1溶液120の温度を制御するために行われる。
【0063】
第2溶液槽RT2としては、第1溶液槽RT1と同様の構成のものが挙げられる。
【0064】
第1溶液120と第2溶液121は、それぞれメータリングポンプMP1およびMP2によって、第1溶液槽RT1および第2溶液槽RT2からスタティックミキサSMに所定の流量比で供給される。
スタティックミキサSMで混合された溶液の温度やpH等の各種パラメータは、モニタ装置MONによって随時計測され、異常が検出された場合は警報が発せられるとともに装置の停止等の措置が講じられる。
【0065】
スタティックミキサSMとしては、例えば、図6に示す構成のものが挙げられる。
本実施形態におけるスタティックミキサSMは、温度モニタ143を備えている。
また、スタティックミキサSMの下方には、フィルム状基板FSに混合液を吐出する第1ノズルNZ1が設けられている。
なお、第1溶液120は、上述の亜鉛酸イオンを含む液体(亜鉛酸イオン含有溶液)である。
【0066】
第1ノズルNZ1としては、例えば、図7に示す構成のものが挙げられる。
本実施形態における第1ノズルNZ1は、その先端に多数の吐出口151を有するシャワーヘッド152を備えている。
【0067】
スタティックミキサSMから第1ノズルNZ1に供給された混合液は、シャワーヘッド152の吐出口151からフィルム状基板FSに吐出(散布)される。
【0068】
第1ノズルNZ1の下方には、前処理機構PTで前処理を施されたフィルム状基板FSが連続的に供給される。図8に示すように、第1ノズルNZ1の下方において、ローラーRによってフィルム状基板FSが搬送される。
そして、図8に示すように、スタティックミキサSMで混合された混合液が、第1ノズルNZ1からフィルム状基板FSの表面に所定の流量で吐出され、フィルム状基板FSの表面に均一な液膜が形成される。
【0069】
第1ノズルNZ1の下方に供給されるフィルム状基板FSの背面、すなわち、フィルム状基板FSを介して第1ノズルNZ1とは反対側には、第1ヒータHT1が配置されている。第1ヒータHT1により、フィルム状基板FSの温度を所定の温度に制御することによって、フィルム状基板FSの表面に形成された混合液の液膜から針状酸化亜鉛結晶を析出させ、この針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜を形成する。
【0070】
表面に針状酸化亜鉛結晶が析出したフィルム状基板FSは、搬送機構によって、第2ノズルNZ2の下方に搬送される。
なお、本実施形態における搬送機構は、供給側ロールSRと巻き取り側ロールRRの間に設けられた多数のローラーRを備えている。
【0071】
第2ノズルNZ2からはフィルム状基板FSの表面側にイオン交換水(純水)DIWが吐出され、このイオン交換水DIWによって、フィルム状基板FSや酸化亜鉛薄膜に付着した余剰の溶液や微結晶、副生成物等が洗浄され除去される。フィルム状基板FSから流れ落ちた余剰の溶液や洗浄液等は、下方(フィルム状基板FSを介して第1ノズルNZ1とは反対側)に設けられたドレンパンDPに捕集され、ドレン流路DRから図示しない排水処理装置に向けて排出される。
【0072】
イオン交換水DIWで洗浄されたフィルム状基板FSは、欠陥検出用のカメラCAMや膜厚計TMによって品質が確認された後、第2ヒータHT2に搬送される。
第2ヒータHT2は、酸化亜鉛薄膜を所定の温度に加熱し、結晶性やフィルム状基板FSとの密着性を向上させる。
【0073】
第2ヒータHT2による加熱が終了した、酸化亜鉛薄膜が形成されたフィルム状基板FSは、巻き取り側ロールRRに巻き取られる。
【0074】
なお、本実施形態における後処理機構は、第2ノズルNZ2と、第2ヒータHT2とを備えている。
【0075】
本実施形態の製造装置は、図示しないものを含む加熱/冷却装置により、ZONE1からZONE5までの5つのゾーンごとに温度を個別に管理することができる。各ゾーンの温度は、フィルム状基板FSに所望の性状の針状酸化亜鉛結晶が析出するとともに、装置内で意図しない針状酸化亜鉛結晶がしないように制御される。
【0076】
本実施形態の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造装置によれば、亜鉛塩含有溶液である第1溶液を貯留する第1溶液槽RT1と、塩基性溶液である第2溶液を貯留する第2溶液槽RT2と、第1溶液と第2溶液を混合するスタティックミキサSMと、を個別に備えることにより、亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度を所定の範囲に安定に制御することができるので、フィルム状基板FSの表面に、電子材料として優れた針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜を連続して形成することが可能となる。
なお、過飽和度の高い亜鉛酸イオン含有溶液は、酸化亜鉛結晶を析出し易く、目的とするフィルム状基板FS以外で結晶が析出した場合には、装置の安定稼働に問題が生じる可能性がある。また、その亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度の違いにより、析出する針状酸化亜鉛結晶の形態が著しく変化する。そのため、針状酸化亜鉛結晶の形態の差異は、この針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜を備えた電子デバイスを作製した場合、電子デバイスの電子特性に大きく影響する。したがって、常に同じ形態の針状酸化亜鉛結晶を生成するように、亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度を所定の範囲に安定に制御することが望ましい。
【0077】
「電子デバイスの製造方法」
図9〜11は、本実施形態に係る電子デバイスの製造方法の一例を模式的に示す図である。図9〜11に示すように、本実施形態に係る電子デバイスの製造方法は、工程A〜工程Eを含む。
【0078】
工程Aは、フォトリソグラフィ工程を含む。工程Aでは、巻かれた帯状のフィルム状基板FSが送出され(SA1)、そのフィルム状基板FSにレジスト(感光材)を塗布する処理(SA2)、およびフィルム状基板FSを加熱する処理(SA3)が行われる。その後、そのフィルム状基板FSを露光する処理(SA4)、加熱する処理(SA5)、現像する処理(SA6)、および洗浄する処理(SA7)が実行される。その後、エッチング処理(SA8)、フィルム状基板FSを洗浄する処理(SA9)、および露光する処理(SA10)が実行される。その後、フィルム状基板FSからレジストを剥離する処理(SA11)、フィルム状基板FSを洗浄する処理(SA12)、温風を用いてフィルム状基板FSを乾燥する処理(SA13)が実行され、工程Aが終了する。なお、本実施形態において、洗浄する処理(SA7、SA9、SA12)では、水を用いる洗浄が行われる。なお、水に超音波を与えながらその水でフィルム状基板FSを洗浄してもよい。
【0079】
工程Bでは、フィルム状基板FSにUV硬化樹脂を塗布する処理(SB1)、そのフィルム状基板FSを露光する処理(SB2)、加熱する処理(SB3)、およびフィルム状基板FSに対する大気圧プラズマ処理(SB4)が実行される。
【0080】
工程Cでは、フィルム状基板FSにめっき処理のための下地膜となる材料を塗布する処理(SC1)、フィルム状基板FSを露光する処理(SC2)、加熱する処理(SC3)、現像する処理(SC4)、および加熱する処理(SC5)が実行される。
【0081】
工程Dでは、フォトリソグラフィ工程と、裏面にカバー部材が着けられた状態でフィルム状基板FSを無電解めっき処理する無電解めっき工程とが実行される。フォトリソグラフィ工程では、フィルム状基板FSにレジストを塗布する処理(SD1)と、そのフィルム状基板FSを加熱する処理(SD2)と、フィルム状基板FSを露光する処理(SD3)と、そのフィルム状基板FSを加熱する処理(SD4)と、現像する処理(SD5)と、洗浄する処理(SD6)とが実行される。
【0082】
無電解めっき工程では、第1の前処理(SD7)と、第1の洗浄処理(SD8)と、第2の前処理(SD9)と、第2の洗浄処理(SD10)と、無電解めっき処理(SD11)とが実行される。
【0083】
また、工程Dでは、無電解めっき工程の後、フィルム状基板FSを洗浄する処理(SD12)と、露光する処理(SD13)と、フィルム状基板FSからレジストを剥離する処理(SD14)と、フィルム状基板FSを洗浄する処理(SD15)と、Au置換めっき処理(SD16)と、フィルム状基板FSを洗浄する処理(SD17)と、還元処理(SD18)と、フィルム状基板FSを洗浄する処理(SD19)と、温風を用いてフィルム状基板FSを乾燥する処理(SD20)とが実行される。
【0084】
工程Eでは、フォトリソグラフィ工程と、フィルム状基板FSに酸化亜鉛薄膜を形成する酸化亜鉛薄膜形成工程とが実行される。フォトリソグラフィ工程では、フィルム状基板FSにレジストを塗布する処理(SE1)と、そのフィルム状基板FSを加熱する処理(SE2)と、フィルム状基板FSを露光する処理(SE3)と、そのフィルム状基板FSを加熱する処理(SE4)と、現像する処理(SE5)と、洗浄する処理(SE6)とが実行される。
【0085】
酸化亜鉛薄膜形成工程では、洗浄する処理(SE6)を経たフィルム状基板FSを乾燥する処理(SE7)と、上述の針状酸化亜鉛結晶を備えた物品の製造装置の実施形態に従って、フィルム状基板FSの表面に酸化亜鉛薄膜を形成する処理(SE8)と、フィルム状基板FSを洗浄する処理(SE9)と、フィルム状基板FSからレジストを剥離する処理(SE10)と、洗浄する処理(SE11)と、温風を用いてフィルム状基板FSを乾燥する処理(SE12)とが実行される。その後、フィルム状基板FSは、巻き取られる(SE13)。また、フィルム状基板FSに対して、例えば、ダイシング処理等、所定の加工が実行される。
【0086】
本実施形態の電子デバイスの製造方法によれば、所定の位置に、電子材料として優れた針状酸化亜鉛結晶からなる酸化亜鉛薄膜が形成された電子デバイスを連続して製造することが可能となる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実験例1]
室温で、0.1mol/Lの硝酸亜鉛水溶液1mLに対して、水酸化ナトリウム水溶液1mLを加えて混合し、亜鉛酸イオン含有溶液(亜鉛酸イオンを含む液体)を調製した。
このとき、表1〜5に示す混合比となるように、硝酸亜鉛水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を混合した。
また、表1〜5に示すように、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を調整することにより、亜鉛酸イオン含有溶液のpHを調整した。
表1〜5に示す全ての実験において、亜鉛酸イオン含有溶液中の亜鉛原子の濃度を0.05mol/Lとした。
この亜鉛酸イオン含有溶液中に、基板を浸漬し、全体(亜鉛酸イオン含有溶液、基板)を所定温度(析出温度)に調整して、結晶が析出するまで、その温度に保持した。
基板としては、第1の電極と第2の電極を備え、両電極の幅が5mm、両電極の間隔が5μmである金電極がパターニングされたシリコン基板を用いた。シリコン基板は、抵抗率0.0017Ω・cmの導電性基板を用い、金電極が設けられていない箇所において、表面を覆うSiの熱酸化膜を局所的に取り除くことでSi基板の表面が露出した部分を作った。
亜鉛酸イオン含有溶液のpHは、析出温度における値を測定した。
結晶が析出した後、亜鉛酸イオン含有溶液から基板を取り出し、基板に付着している結晶を70℃の温水で洗浄した。
これを乾燥させることにより、基板上に酸化亜鉛結晶を得た。
【0089】
得られた酸化亜鉛結晶について、以下の方法により、結晶状態の観察とTFT特性の測定を行った。
(結晶状態の観察)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、酸化亜鉛結晶を観察した。結果を表1〜5に示す。
また、No.4のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図12に示す。No.5のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図13に示す。No.4およびNo.5では、20μm程度の針状酸化亜鉛結晶、および10μm程度の球状の酸化亜鉛結晶が析出している様子がうかがえる。結晶の生成速度が速く、初期核生成密度が密の場合には十分な大きさに成長しない結晶が大量に生成され、結晶の生成速度が速く、初期核生成密度が粗の場合には、より安定な大きい多面体状結晶へと変化する。本形態は両方の状態が共存したものとなっている。
No.6のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図14に示す。No.6では、アスペクト比が高い針状の酸化亜鉛結晶が優先的に析出している様子がうかがえる。結晶の生成速度が鈍化し、初期核生成密度が疎になったため、このような形態が得られたものと思われる。
No.12のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図15に示す。No.12では、多面体形状の酸化亜鉛結晶が析出している様子がうかがえる。亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度により結晶の生成速度が鈍化したため、初期核生成密度が疎になり、酸化亜鉛の安定な形態であるウルツ鉱型の結晶構造を反映した構造をとりやすくなったためだと思われる。
No.15のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図16に示す。No.16のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図17に示す。No.15およびNo.16では、微小な結晶が多数生成している様子がうかがえる。これは、亜鉛酸イオン含有溶液の過飽和度が高く、結晶の析出速度が速いため、結晶の初期核生成密度が密になり、十分な大きさに成長しない結晶が大量に生成されたことによると思われる。電子デバイスにおいて、小さな結晶の集合は電子の移動を阻害する要因となる結晶界面が多くなってしまうため、特性を低下させる要因となりうることが、SEM像からも確認される。
【0090】
No.17のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図18に示す。No.17では、No.4と同様に、20μm程度の針状酸化亜鉛結晶、および10μm程度の球状の酸化亜鉛結晶が析出している。
No.20のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図19に示す。No.20では、アスペクト比が高い針状酸化亜鉛結晶が優先的に析出している様子がうかがえる。結晶の生成速度が鈍化し、初期核生成密度が疎になったため、このような形態が得られたものと思われる。
No.32のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図20に示す。No.33のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図21に示す。No.32およびNo.33では、No.12と同様に多面体形状の酸化亜鉛結晶が析出している様子がうかがえる。
No.34のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図22に示す。No.34では、溶液の温度が上昇したことより結晶の析出速度が速くなり、十分に成長しない小さな結晶が多量に生成したものと思われる。
No.36のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図23に示す。No.37のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図24に示す。No.38のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図25に示す。No.39のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図26に示す。No.42のシリコン基板上に析出させた酸化亜鉛結晶のSEM像を図27に示す。これらについても、No.34と同様に結晶の析出速度が速いため、主としてサイズの小さい結晶が析出している。
以上のSEM像の撮影倍率は、図12図15および図20図23が2000倍、図16図19および図24図27が500倍である。
【0091】
(TFT特性)
ゲートバイアスを変化させ、第1の電極と第2の電極の間において、両電極間に析出した酸化亜鉛結晶からなる薄膜の電流−電圧測定を行った。ここでは、第1の電極をドレイン電極、第2の電極をソース電極、導電性シリコン基板をゲート電極とした。
±200Vの電圧発生機能を有するDIGITAL ELECTROMETER(ADCMT8252)を、第1の電極と第2の電極に接続し、ソース電極−ドレイン電極間(ISD)を計測した。同時に、VOLTAGE CURRENT SOURCE(ADVANTEST R6161) をゲート電極とソース電極部分に接続することによって、第1の電極と第2の電極の間に所望の電圧を印加した(VGS)。ゲート電極にはシリコン基板の熱酸化膜を除去した部分を介して接続した。
その結果、TFT動作した場合には「○」、TFT動作しない場合には「×」と評価した。結果を表1〜5に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
表1〜5の結果から、析出温度を20℃または40℃とし、析出温度における亜鉛酸イオン含有溶液のpHを12.4〜12.6に制御することにより、酸化亜鉛の針状結晶が得られることが確認された。
【0098】
[実験例2]
実験例1において、針状結晶のみが得られたpH−温度条件を中心として、硝酸亜鉛水溶液の亜鉛原子濃度、硝酸亜鉛水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の混合比を調整し、亜鉛酸イオン含有溶液中の亜鉛原子の濃度を変化させた以外は実験例1と同様にして、基板上に酸化亜鉛結晶を得た。
得られた酸化亜鉛結晶について、実験例1と同様の方法により、結晶状態の観察とTFT特性の測定を行った。結果を表6〜9に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
【0102】
【表9】
【0103】
表6〜9の結果から、亜鉛酸イオン含有溶液中の亜鉛原子の濃度を0.05〜0.22mol/L、析出温度を20℃または40℃とし、析出温度における亜鉛酸イオン含有溶液のpHを12〜12.4に制御することにより、硝酸亜鉛水溶液の亜鉛原子濃度や、硝酸亜鉛水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の混合比を変化させても、酸化亜鉛の針状結晶が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0104】
10・・・基板、11・・・第1の電極、12・・・第2の電極、13・・・間隙、31・・・容器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27