(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
単結晶育成装置を用いたCZ法では、減圧下の不活性ガス雰囲気に維持されたチャンバ内において、石英ルツボに貯溜されたシリコンの原料融液に種結晶を浸漬し、浸漬した種結晶を徐々に引き上げる。これにより、種結晶の下端に連なってシリコン単結晶が育成される。
【0003】
図1は、ボロンコフ理論に基づいて各種の欠陥が発生する状況を説明する模式図である。同図に示すように、ボロンコフ理論では、引き上げ速度をV(mm/min)とし、ルツボ内の原料融液とインゴット(シリコン単結晶)との固液界面近傍における引き上げ軸方向の温度勾配をG(℃/mm)としたとき、それらの比であるV/Gを横軸にとり、空孔型点欠陥の濃度と格子間シリコン型点欠陥の濃度を同一の縦軸にとって、V/Gと点欠陥濃度との関係を模式的に表現している。そして、空孔型点欠陥の発生する領域と格子間シリコン型点欠陥の発生する領域の境界が存在し、その境界がV/Gによって決定されることを説明している。
【0004】
空孔型点欠陥は、結晶格子を構成すべきシリコン原子が欠けた空孔を根源とするものであり、この空孔型点欠陥の凝集体の代表格がCOPである。格子間シリコン型点欠陥は、結晶格子間にシリコン原子が入り込んだ格子間シリコンを根源とするものであり、この格子間シリコン型点欠陥の凝集体の代表格がLDである。
【0005】
図1に示すように、V/Gが臨界点を上回ると、空孔型点欠陥濃度が優勢な単結晶が育成される。その反面、V/Gが臨界点を下回ると、格子間シリコン型点欠陥濃度が優勢な単結晶が育成される。このため、V/Gが臨界点より小さい(V/G)
1を下回る範囲では、単結晶内で格子間シリコン型点欠陥が支配的であって、格子間シリコン点欠陥の凝集体が存在する領域[I]が出現し、LDが発生する。V/Gが臨界点より大きい(V/G)
2を上回る範囲では、単結晶内で空孔型点欠陥が支配的であって、空孔型点欠陥の凝集体が存在する領域[V]が出現し、COPが発生する。
【0006】
V/Gが(V/G)
1〜(V/G)
2の範囲では、単結晶内で空孔型点欠陥および格子間シリコン型点欠陥のいずれも凝集体としては存在しない無欠陥領域[P]が出現し、OSFを含めCOPおよびLDのいずれの欠陥も発生しない。無欠陥領域[P]に隣接する領域[V](V/Gが(V/G)
2〜(V/G)
3の範囲)には、OSF核を形成するOSF領域が存在する。
【0007】
また、無欠陥領域[P]は、OSF領域に隣接する領域[P
V]と、領域[I]に隣接する領域[P
I]とに区分される。すなわち、無欠陥領域[P]のうち、V/Gが臨界点〜(V/G)
2の範囲では、凝集体にならない空孔型点欠陥が優勢に存在する領域[P
V]が出現し、V/Gが(V/G)
1〜臨界点の範囲では、凝集体にならない格子間シリコン点欠陥が優勢に存在する領域[P
I]が出現する。
【0008】
図2は、単結晶育成時の引き上げ速度と欠陥分布との関係を示す模式図である。同図に示す欠陥分布は、引き上げ速度Vを徐々に低下させながらシリコン単結晶を育成し、育成した単結晶を中心軸(引き上げ軸)に沿って切断して板状試片とし、その表面にCuを付着させ、熱処理を施した後、その板状試片をX線トポグラフ法により観察した結果を示している。
【0009】
図2に示すように、引き上げ速度を高速にして育成を行った場合、単結晶の引き上げ軸方向と直交する面内全域にわたり、空孔型点欠陥の凝集体(COP)が存在する領域[V]が発生する。引き上げ速度を低下させていくと、単結晶の外周部からOSF領域がリング状に出現する。このOSF領域は、引き上げ速度の低下に伴ってその径が次第に縮小し、引き上げ速度がV
1になると消滅する。これに伴い、OSF領域に代わって無欠陥領域[P](領域[P
V])が出現し、単結晶の面内全域が無欠陥領域[P]で占められる。そして、引き上げ速度がV
2までに低下すると、格子間シリコン型点欠陥の凝集体(LD)が存在する領域[I]が出現し、ついには無欠陥領域[P](領域[P
I])に代わって単結晶の面内全域が領域[I]で占められる。
【0010】
昨今、半導体デバイスの微細化の発展により、シリコンウェーハに要求される品質がますます高まっている。また、歩留り向上のため、シリコンウェーハの大径化に対する要求もますます高まっている。このため、シリコンウェーハの素材であるシリコン単結晶の製造においては、OSFやCOPやLDなどの各種の点欠陥を排除し、面内全域にわたって無欠陥領域[P]が分布する、大径無欠陥結晶を育成する技術が強く望まれている。
【0011】
この要求に応えるには、シリコン単結晶を引き上げる際、前記
図1および
図2に示すように、ホットゾーン内でV/Gが、面内全域にわたり、格子間シリコン型点欠陥の凝集体が発生しない第1臨界点(V/G)
1以上であって、空孔型点欠陥の凝集体が発生しない第2臨界点(V/G)
2以下に確保されるように管理を行う必要がある。実操業では、引き上げ速度の狙いをV
1とV
2の間(例えば両者の中央値)に設定し、仮に育成中に引き上げ速度を変更したとしてもV
1〜V
2の範囲に収まるように管理する。
【0012】
また、固液界面近傍における引き上げ軸方向の温度勾配Gは、固液界面近傍のホットゾーンの寸法に依存することから、単結晶育成に先立ち、予めそのホットゾーンを適正に設計しておく。一般に、ホットゾーンは、育成中の単結晶を囲繞するように配置された水冷体と、この水冷体の外周面および下端面を包囲するように配置された熱遮蔽体とから構成される。ここで、ホットゾーンを設計するにあたっての管理指標としては、単結晶の中心部の引き上げ軸方向の温度勾配G
cと、単結晶の外周部の引き上げ軸方向の温度勾配G
eが用いられる。そして、無欠陥結晶を育成するために、例えば特許文献1に開示された技術では、単結晶中心部の温度勾配G
cと単結晶外周部の温度勾配G
eとの差ΔG(=G
e−G
c)が0.5℃/mm以内となるようにしている。
【0013】
ところで、近年、無欠陥結晶の育成で狙うべきV/Gが、単結晶育成時に単結晶中に作用する応力によって変動することが分かってきている。このため、前記特許文献1に開示された技術では、その応力の効果をまったく考慮していないことから、完全な無欠陥結晶が得られない状況が少なからず起こる。
【0014】
この点、例えば特許文献2には、直径が300mm以上の単結晶を育成の対象とし、単結晶中の応力の効果を考慮して、単結晶中心部の引き上げ軸方向の温度勾配G
cと単結晶外周部の引き上げ軸方向の温度勾配G
eとの比(以下、「温度勾配比」ともいう)G
c/G
eを1.8よりも大きくする技術が開示されている。しかし、特許文献2に開示される技術では、単結晶中の応力の効果を考慮しているといえども、必ずしも完全な無欠陥結晶が得られるとは限らない。これは、単結晶中の引き上げ軸方向と直交する面内の応力分布が影響していると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、単結晶育成時に単結晶中に作用する応力の面内分布を考慮し、大径のものも含め、無欠陥結晶を精度良く育成することができるシリコン単結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するため、単結晶育成時に単結晶中に作用する応力に着目し、この応力を加味した数値解析を行って鋭意検討を重ねた。その結果、下記の知見を得た。
【0018】
図3は、単結晶中に作用する応力σ
meanと臨界V/Gの関係を示す図である。ホットゾーンの条件を種々変更した総合伝熱解析により、臨界V/Gと平均応力σ
meanとの関係を調査した結果、
図3に示すように、(臨界V/G)=0.1789+0.0012×σ
meanであることが見出された。
【0019】
単結晶の引き上げ軸方向と直交する面内の応力分布には規則性があり、単結晶中心部の応力を定めれば、その面内の応力分布は、単結晶の中心から半径方向の距離Rの関数として表すことができる。さらに、単結晶中心部の応力を定めるとともに、単結晶を包囲する熱遮蔽体の下端と石英ルツボ内の原料融液の液面との隙間の大きさを定めれば、単結晶中の面内の応力分布から、無欠陥結晶を育成するのに最適な温度勾配の分布G
ideal(R)を把握することが可能となる。そして、その最適温度勾配の分布G
ideal(R)を管理指標として用いることにより、ホットゾーンの適正な寸法設計が行えるようになり、しかも、その最適温度勾配の分布G
ideal(R)を基準とした、実際の温度勾配の分布G
real(R)の管理範囲を設定することにより、無欠陥結晶を精度良く育成することが可能になる。
【0020】
本発明は、上記の知見に基づいて完成させたものであり、その要旨は下記のシリコン単結晶の育成方法にある。すなわち、本発明のシリコン単結晶の育成方法は、
CZ法によりチャンバ内に配置したルツボ内の原料融液からシリコン単結晶を引き上げて育成する方法であって、
育成中の単結晶を囲繞する水冷体を配置するとともに、この水冷体の外周面および下端面を包囲する熱遮蔽体を配置した単結晶育成装置を用い、
総合伝熱解析により、単結晶の面内応力分布であって、単結晶の中心部、周縁部、および中心部と周縁部との間を含む位置における面内応力分布を算出し、
前記応力分布を考慮した無欠陥結晶を育成するのに最適な単結晶の面内温度勾配分布を算出し、
前記最適な温度勾配分布と実際の単結晶の面内温度勾配との差異を所定の範囲内に設定し、
単結晶の引き上げをおこなうことを特徴とする。
上記の育成方法では、総合伝熱解析により、単結晶中心部の温度勾配または単結晶中心部の応力、ならびに前記熱遮蔽体の下端部と前記原料融液の液面との間隔から、前記最適な単結晶の面内温度勾配分布を算出することが好ましい。
上記の育成方法では、半径がR
max(mm)の単結晶の育成時に、単結晶の固液界面近傍にて、単結晶の中心から半径R(mm)の位置における実際の引き上げ軸方向の温度勾配をG
real(R)、単結晶の中心から半径Rの位置における引き上げ軸方向の最適温度勾配をG
ideal(R)とした場合、0<R<R
max−35(mm)の範囲で、下記(A)式を満足する条件で単結晶の引き上げを行うこと
が好ましい。
|G
real(R)−G
ideal(R)|/G
real(R)<0.08 …(A)
上記(A)式中、G
ideal(R)は下記(a)式で表される。
G
ideal(R)=[(0.1789+0.0012×σ
mean(0))/(0.1789+0.0012×σ
mean(x))]×G
real(0) …(a)
上記(a)式中、x=R/R
maxであり、σ
mean(0)およびσ
mean(x)は、それぞれ下記(b)式および(c)式で表される。
σ
mean(0)=−b
1×G
real(0)+b
2 …(b)
σ
mean(x)=[n(x)×(σ
mean(0)−σ
mean(0.75))−(N×σ
mean(0)−σ
mean(0.75))]/(1−N) …(c)
上記(c)式中、N=0.30827であり、σ
mean(0.75)およびn(x)は、それぞれ下記(d)式および(e)式で表される。
σ
mean(0.75)=d
1×GAP−d
2 …(d)
n(x)=0.959x
3−2.0014x
2+0.0393x+1 …(e)
上記(d)式中、GAPは前記熱遮蔽体の下端と前記原料融液の液面との間隔(mm)である。
【0021】
上記の育成方法では、下記(B)式を満足する条件で単結晶の引き上げを行うことが好ましい。
|G
real(R)−G
ideal(R)|/G
real(R)<0.05 …(B)
【0022】
上記の育成方法では、直径が300mmの単結晶を育成する場合、上記(b)式中、b
1=17.2、b
2=40.8とし、上記(d)式中、d
1=0.108、d
2=11.3とする。
【0023】
上記の育成方法では、直径が450mmの単結晶を育成する場合、上記(b)式中、b
1=27.5、b
2=44.7とし、上記(d)式中、d
1=0.081、d
2=11.2とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のシリコン単結晶の育成方法によれば、単結晶中の応力の効果を考慮し、温度勾配の分布G
real(R)の管理範囲を適正に設定しているので、無欠陥結晶を精度良く育成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明のシリコン単結晶の育成方法について、その実施形態を詳述する。
【0027】
1.応力効果を導入した臨界V/Gの式
単結晶を育成するときの引き上げ速度をV(単位:mm/min)、単結晶の固液界面近傍における引き上げ軸方向の温度勾配をG(単位:℃/mm)とし、無欠陥結晶が得られるVとGの比(以下、「臨界V/G」ともいう。)をξとする。臨界V/Gは、単結晶育成時に単結晶中に作用する応力の効果を導入すれば、下記の(1)式で定義することができる。ここでいう単結晶の固液界面近傍とは、単結晶の温度が融点から1350℃までの範囲のことをいう。
ξ
σmean=ξ
0+α×σ
mean …(1)
【0028】
同式中、ξ
σmeanは、結晶中の応力がσ
meanのときの臨界V/Gを表す。ξ
0は、結晶中の応力がゼロであるときの臨界V/Gを示す定数である。αは応力係数であり、σ
meanは単結晶中の平均応力(単位:MPa)である。例えば、ξ
0は0.1789であり、αは0.0012である。これらの値は、直径が300mmの単結晶を育成対象とする場合でも、450mmの単結晶を育成対象とする場合でも変わらない。これらの値は、育成対象とする単結晶の直径に依存しないからである。ここでいう直径が300mmの単結晶とは、製品(シリコンウェーハ)の直径として300mmとなるものをいい、具体的には育成時の直径が300.5〜330mmの単結晶である。同様に、直径が450mmの単結晶とは、製品(シリコンウェーハ)の直径として450mmとなるものをいい、具体的には育成時の直径が450.5〜480mmの単結晶である。
【0029】
ここで、平均応力σ
meanは、育成時に単結晶の体積変化を及ぼす応力に相当し、数値解析により把握できるものであり、単結晶中の微小部分における径方向に沿った面、円周方向に沿った面、および引き上げ軸方向と直交する面の3面それぞれに作用する応力の垂直成分σ
rr、σ
θθ、およびσ
zzを抽出し、これらを合計して3で割ったものである。また、平均応力σ
meanの正は引張応力を、負は圧縮応力を意味する。
【0030】
上記(1)式は、一次元での臨界V/Gと平均応力σ
meanとの関係を表しているが、無欠陥結晶を育成するためには、単結晶の引き上げ軸方向と直交する面内で考える必要がある。
【0031】
2.応力効果を導入した臨界V/Gの式の単結晶面内分布への拡張
単結晶を育成するときの引き上げ速度をV(単位:mm/min)とする。また、育成する単結晶の半径をR
max(単位:mm)とし、単結晶の中心から半径R(単位:mm)の位置での固液界面近傍における引き上げ軸方向の温度勾配をG(r)(単位:℃/mm)とする。ここで、r=R/R
maxであり、rを相対半径と呼ぶ。r=0は単結晶の中心を意味し、r=1はR=R
maxであるため単結晶の外周を意味する。
【0032】
無欠陥結晶が得られるVとG(r)の比(以下、「臨界V/G(r)」ともいい、数式上「(V/G(r))
cri」で表す。)は、応力効果を導入すれば、上記(1)式に準じて、下記の(2)式で定義することができる。この場合も、ξ
0は0.1789であり、αは0.0012である。これらの値は、直径が300mmの単結晶を育成対象とする場合でも、450mmの単結晶を育成対象とする場合でも変わらない。これらの値は、育成対象とする単結晶の直径に依存しないからである。
(V/G(r))
cri=ξ
0+α×σ
mean(r) …(2)
【0033】
同式中、σ
mean(r)は、単結晶の中心から相対半径rの位置での平均応力(単位:MPa)であり、単結晶の引き上げ軸方向と直交する面内での平均応力の分布を示す。
【0034】
ここで、温度勾配G(r)は、単結晶の引き上げ軸方向と直交する面内での温度勾配の分布を示すので、無欠陥結晶を育成するために最適な温度勾配G(r)の分布を求めたい。しかし、面内での平均応力σ
mean(r)の分布の規則性が不明であることが問題となる。また、無欠陥結晶を育成する条件において、面内平均応力σ
mean(r)の分布と、温度勾配G(r)との間に何ら相関がない場合は、制御条件が定まらないことが問題となる。
【0035】
そこで、面内平均応力σ
mean(r)と温度勾配G(r)との相関の有無、および面内平均応力σ
mean(r)の規則性について検討した。
【0036】
2−1.単結晶中心部の温度勾配と平均応力の関係
単結晶中心部の温度勾配G(0)と単結晶中心部の面内平均応力σ
mean(0)の関係を検討した。この検討は、以下のように行った。直径が300mmの単結晶、または450mmの単結晶を育成する場合を前提にし、まずホットゾーンの条件を種々変更した総合伝熱解析により、各ホットゾーン条件での単結晶表面の輻射熱を算出し、次いで算出された各ホットゾーン条件での輻射熱と、種々変更した固液界面形状を境界条件として、各境界条件での単結晶内の温度を再計算した。ここで、ホットゾーンの条件変更としては、単結晶を包囲する熱遮蔽体の下端と石英ルツボ内の原料融液の液面との隙間(以下、「液面Gap」ともいう)の大きさを変更した。また、固液界面形状の条件変更としては、原料融液の液面から固液界面の中心部までの引き上げ軸方向の高さ(以下、「界面高さ」ともいう)を変更した。そして、各条件について、再計算によって得られた単結晶内温度の分布に基づき、平均応力の計算を実施した。
【0037】
図4は、単結晶中心部の面内平均応力σ
mean(0)と単結晶中心部の温度勾配G(0)との関係を示す図であり、同図(a)は直径300mmの単結晶、同図(b)は直径450mmの単結晶の場合を示す。同図は、上記解析結果から得られたものである。同図から、単結晶中心部の平均応力σ
mean(0)は、界面高さによらず、単結晶中心部の温度勾配G(0)に比例し、両者の間に下記(3)式で表される相関があることが分かった。
σ
mean(0)=−b
1×G(0)+b
2 …(3)
ここで、b
1およびb
2はそれぞれ面内平均応力σ
mean(0)の計算値および単結晶中心部の温度勾配G(0)の計算値から一次近似で得られる定数である。直径300mmの単結晶では、b
1=17.2、b
2=40.8であり、厳密には、b
1=17.211、b
2=40.826である。直径450mmの単結晶では、b
1=27.5、b
2=44.7であり、厳密には、b
1=27.548、b
2=44.713である。
【0038】
2−2.面内平均応力σ
mean(r)の規則性(その1)
引き続き、上記の数値解析により、面内平均応力σ
mean(r)の規則性について検討した。直径300mmの単結晶については、液面Gapの大きさを、40mm、70mmおよび90mmの3種類の値に設定し、それぞれの場合について界面高さを0〜25mmにおいて5mm間隔で6種類の高さに設定し、単結晶の中心から相対半径rの位置での面内平均応力σ
mean(r)を算出した。直径450mmの単結晶については、液面Gapの大きさを、60mm、90mmおよび120mmの3種類の値に設定し、それぞれの場合について界面高さを0〜35mmにおいて5mm間隔で8種類の高さに設定し、単結晶の中心から相対半径rの位置での面内平均応力σ
mean(r)を算出した。
【0039】
図5は、直径300mmの単結晶を育成する場合において、単結晶の中心からの相対半径rと面内平均応力σ
mean(r)との関係を示す図であり、同図(a)は液面Gapの大きさが40mmの場合を、同図(b)は液面Gapの大きさが70mmの場合を、同図(c)は液面Gapの大きさが90mmの場合をそれぞれ示す。
【0040】
図6は、直径450mmの単結晶を育成する場合において、単結晶の中心からの相対半径rと面内平均応力σ
mean(r)との関係を示す図であり、同図(a)は液面Gapの大きさが60mmの場合を、同図(b)は液面Gapの大きさが90mmの場合を、同図(c)は液面Gapの大きさが120mmの場合をそれぞれ示す。
【0041】
図5および
図6から、液面Gapの大きさが一定であれば、界面高さによらず単結晶の中心からの相対半径r=0.75の位置における平均応力σ
mean(0.75)が一定の値となることがわかった。この知見に基づき、液面Gapの大きさと平均応力σ
mean(0.75)との関係について検討したところ、
図7が得られた。
【0042】
図7は、液面Gapの大きさと平均応力σ
mean(0.75)との関係を示す図であり、同図(a)は直径300mmの単結晶の場合を、同図(b)は直径450mmの単結晶の場合をそれぞれ示す。同図から、液面Gapの大きさ(GAP、単位:mm)と平均応力σ
mean(0.75)(単位:MPa)との関係は、下記(4)式で表されることがわかった。すなわち、液面Gapの大きさが決まればσ
mean(0.75)が決まることがわかった。
σ
mean(0.75)=d
1×GAP−d
2 …(4)
ここで、d
1およびd
2はそれぞれ、各々の液面Gapの大きさと単結晶の中心からの相対半径r=0.75の位置における平均応力σ
mean(0.75)の計算値から一次近似で得られる定数である。直径300mmの単結晶では、d
1=0.108、d
2=11.3であり、厳密には、d
1=0.1084、d
2=11.333である。直径450mmの単結晶では、d
1=0.081、d
2=11.2であり、厳密には、d
1=0.0808、d
2=11.233である。
【0043】
2−3.面内平均応力σ
mean(r)の規則性(その2)
さらに、面内平均応力σ
mean(r)の規則性について検討した。ここでは、面内平均応力σ
mean(r)の形状が、液面Gapの大きさまたは界面高さに依存するか否かについて検討した。
【0044】
上述した面内平均応力σ
mean(r)を、下記(5)式でn(r)として標準化した。(5)式中、σ
mean(0)は単結晶の中心における面内平均応力、σ
mean(1)は単結晶の外周における面内平均応力である。
n(r)=[σ
mean(r)−σ
mean(1)]/[σ
mean(0)−σ
mean(1)] …(5)
【0045】
図8は、単結晶の中心からの相対半径rと標準化平均応力n(r)の関係を示す図である。同図には、単結晶の直径が300mmの場合と450mmの場合について、液面Gapの大きさと界面高さを種々変更し、各変更条件での面内平均応力σ
mean(r)から算出した標準化平均応力n(r)をプロットした。同図から、標準化平均応力n(r)は、単結晶の直径、液面Gapの大きさおよび界面高さに依存しないことがわかった。n(r)は、同図に示す結果から下記(6)式で表すことができる。
n(r)=0.959r
3−2.0014r
2+0.0393r+1 …(6)
【0046】
すなわち、面内平均応力σ
mean(r)には規則性があり、単結晶の中心における面内平均応力σ
mean(0)および単結晶の外周における面内平均応力σ
mean(1)が分かれば、上記(5)式から面内平均応力σ
mean(r)の分布を把握できる。
【0047】
3.最適温度勾配G
ideal(r)の分布の導出
以上の検討により、再掲する下記(3)式、(4)式および(6)式が得られた。また、検討の際に、下記(5)式を用いた。
σ
mean(0)=−b
1×G(0)+b
2 …(3)
σ
mean(0.75)=d
1×GAP−d
2 …(4)
n(r)=0.959r
3−2.0014r
2+0.0393r+1 …(6)
n(r)=[σ
mean(r)−σ
mean(1)]/[σ
mean(0)−σ
mean(1)] …(5)
ここで、直径が300mmの単結晶を育成する場合、上記(3)式中、b
1=17.2、b
2=40.8であり、上記(4)式中、d
1=0.108、d
2=11.3である。また、直径が450mmの単結晶を育成する場合、上記(3)式中、b
1=27.5、b
2=44.7であり、上記(4)式中、d
1=0.081、d
2=11.2である。
【0048】
(6)式から、n(0.75)は定数N(=0.30827)として算出することができる。この定数Nを用い、(5)式にr=0.75を代入することにより、P(1)を表す数式として、下記(7)式が得られる。
σ
mean(1)=[σ
mean(0.75)−N×σ
mean(0)]/[1−N] …(7)
【0049】
さらに、上記(5)式を変形することにより、σ
mean(r)は、既に得られている上記(3)式のσ
mean(1)、上記(4)式のσ
mean(0.75)および上記(6)式のn(r)、ならびに定数Nを用いて、下記(8)式で表すことができる。
σ
mean(r)=n(r)[σ
mean(0)−σ
mean(1)]+σ
mean(1)
=[n(r)×(σ
mean(0)−σ
mean(0.75))−(N×σ
mean(0)−σ
mean(0.75))]/(1−N) …(8)
【0050】
したがって、上記(3)式中のG(0)と上記(4)式中のGAPを定めれば、上記(8)式から面内平均応力分布σ
mean(r)を求めることができる。
【0051】
ところで、上述のように、臨界V/G(r)は、下記(2)式で表される。
(V/G(r))
cri=ξ
0+α×σ
mean(r) …(2)
【0052】
また、Vは定数と見なせる。したがって、無欠陥結晶を育成するのに最適な温度勾配G
ideal(r)は、(2)式においてr=0としたG(0)を用いて、下記(9)式で表すことができる。
G
ideal(r)=[(ξ
0+α×σ
mean(0))/(ξ
0+α×σ
mean(r))]×G(0) …(9)
【0053】
4.単結晶育成中の温度勾配の条件
直径が300mmまたは450mmの単結晶を育成対象とする場合、ξ
0は0.1789であり、αは0.0012であることから、これらの値を上記式(9)に代入して、単結晶の中心から半径R(単位:mm)の位置における引き上げ軸方向の最適温度勾配G
ideal(R)(単位:MPa)は下記(a)式で表される。
G
ideal(R)=[(0.1789+0.0012×σ
mean(0))/(0.1789+0.0012×σ
mean(x))]×G
real(0) …(a)
(a)式中、x=R/R
maxであり、G
real(0)は、単結晶の中心における実際の引き上げ軸方向の温度勾配である。σ
mean(0)、σ
mean(x)は、下記(b)式および(c)式で表される。(b)式および(c)式は、それぞれ上記(3)式および(8)式と同じ式である。σ
mean(0)は、単結晶の中心における平均応力であり、(b)式で求めた値としてもよいし、他の方法で求めた値としてもよい。
σ
mean(0)=−b
1×G
real(0)+b
2 …(b)
σ
mean(x)=[n(x)×(σ
mean(0)−σ
mean(0.75))−(N×σ
mean(0)−σ
mean(0.75))]/(1−N) …(c)
直径が300mmの単結晶を育成する場合、上記(b)式中、b
1=17.2、b
2=40.8である。また、直径が450mmの単結晶を育成する場合、上記(b)式中、b
1=27.5、b
2=44.7である。(c)式中、N=0.30827であり、σ
mean(0.75)およびn(x)は下記(d)式および(e)式で表される。(d)式および(e)式は、それぞれ上記(4)式および(6)式と同じ式である。
σ
mean(0.75)=d
1×GAP−d
2 …(d)
n(x)=0.959x
3−2.0014x
2+0.0393x+1 …(e)
上記(d)式中、GAPは液面Gapの大きさ(単位:mm)である。直径が300mmの単結晶を育成する場合、d
1=0.108、d
2=11.3である。また、直径が450mmの単結晶を育成する場合、d
1=0.081、d
2=11.2である。
【0054】
図9は、単結晶の中心からの相対半径rと最適温度勾配G
idealの関係を示す図であり、同図(a)は直径300mmの単結晶の場合を、同図(b)は直径450mmの単結晶の場合をそれぞれ示す。同図では、横軸をr(R/R
max)とした。同図には、単結晶の中心における温度勾配G
real(0)を1.5℃/mm、2.0℃/mm、2.5℃/mm、3.0℃/mmおよび3.5℃/mmとし、液面Gapの大きさを60mm、80mmおよび100mmとした場合について示した。同図に示すように、温度勾配G
real(0)と液面Gapの大きさを定めることにより、最適温度勾配を把握できる。
【0055】
半径R
max(mm)の単結晶を育成する際には、外周から35mm以上内側の範囲、すなわち0<R<R
max−35(mm)の範囲で、下記(A)式を満足する条件で単結晶の引き上げを行う。これにより、無欠陥単結晶を精度良く育成することが可能となる。
|G
real(R)−G
ideal(R)|/G
real(R)<0.08 …(A)
ここで、G
real(R)は、単結晶の中心から半径R(mm)の位置における実際の引き上げ軸方向の温度勾配である。
【0056】
また、無欠陥単結晶をより精度良く単結晶を育成するには、下記(B)式を満足する条件で単結晶の引き上げを行うことが好ましい。
|G
real(R)−G
ideal(R)|/G
real(R)<0.05 …(B)
【0057】
このように、単結晶の引き上げ軸方向と直交する面内の平均応力σ
mean(r)の分布には規則性があり、その面内平均応力σ
mean(r)の分布は、単結晶中心部に限定した応力σ
mean(0)または温度勾配G
real(0)により把握することができる。その結果、点欠陥の発生に影響を及ぼす応力の効果を加味して、単結晶中心部の温度勾配G
real(0)または単結晶中心部の応力σ
mean(0)、ならびに液面Gapを定めることにより、無欠陥結晶を育成するのに最適な温度勾配G
ideal(R)の分布を把握することが可能となる。そして、その最適温度勾配G
ideal(R)の分布を管理指標として用いることにより、ホットゾーンの適正な寸法設計が行えるようになり、しかも、その最適温度勾配G
ideal(R)の分布を基準とした管理範囲を設定することにより、無欠陥結晶を精度良く育成することが可能になる。
【0058】
5.シリコン単結晶の育成
図8は、本発明のシリコン単結晶の育成方法を適用できる単結晶育成装置の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、単結晶育成装置は、その外郭をチャンバ1で構成され、その中心部にルツボ2が配置されている。ルツボ2は、内側の石英ルツボ2aと、外側の黒鉛ルツボ2bとから構成される二重構造であり、回転および昇降が可能な支持軸3の上端部に固定されている。
【0059】
ルツボ2の外側には、ルツボ2を囲繞する抵抗加熱式のヒータ4が配設され、その外側には、チャンバ1の内面に沿って断熱材5が配設されている。ルツボ2の上方には、支持軸3と同軸上で逆方向または同一方向に所定の速度で回転するワイヤなどの引き上げ軸6が配されている。この引き上げ軸6の下端には種結晶7が取り付けられている。
【0060】
チャンバ1内には、ルツボ2内の原料融液9の上方で育成中のシリコン単結晶8を囲繞する円筒状の水冷体11が配置されている。水冷体11は、例えば、銅などの熱伝導性の良好な金属からなり、内部に流通される冷却水により強制的に冷却される。この水冷体11は、育成中の単結晶8の冷却を促進し、単結晶中心部および単結晶外周部の引き上げ軸方向の温度勾配を制御する役割を担う。
【0061】
さらに、水冷体11の外周面および下端面を包囲するように、筒状の熱遮蔽体10が配置されている。熱遮蔽体10は、育成中の単結晶8に対して、ルツボ2内の原料融液9やヒータ4やルツボ2の側壁からの高温の輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、低温の水冷体11への熱の拡散を抑制し、単結晶中心部および単結晶外周部の引き上げ軸方向の温度勾配を水冷体11とともに制御する役割を担う。
【0062】
チャンバ1の上部には、Arガスなどの不活性ガスをチャンバ1内に導入するガス導入口12が設けられている。チャンバ1の下部には、図示しない真空ポンプの駆動によりチャンバ1内の気体を吸引して排出する排気口13が設けられている。ガス導入口12からチャンバ1内に導入された不活性ガスは、育成中の単結晶8と水冷体11との間を下降し、熱遮蔽体10の下端と原料融液9の液面との隙間(液面Gap)を経た後、熱遮蔽体10の外側、さらにルツボ2の外側に向けて流れ、その後にルツボ2の外側を下降し、排気口13から排出される。
【0063】
このような育成装置を用いたシリコン単結晶8の育成の際、チャンバ1内を減圧下の不活性ガス雰囲気に維持した状態で、ルツボ2に充填した多結晶シリコンなどの固形原料をヒータ4の加熱により溶融させ、原料融液9を形成する。ルツボ2内に原料融液9が形成されると、引き上げ軸6を下降させて種結晶7を原料融液9に浸漬し、ルツボ2および引き上げ軸6を所定の方向に回転させながら、引き上げ軸6を徐々に引き上げ、これにより種結晶7に連なった単結晶8を育成する。
【0064】
直径450mmの単結晶の育成に際しては、無欠陥結晶を育成するために、単結晶の固液界面近傍にて、単結晶の中心から外周方向への距離R(mm)の位置における実際の引き上げ軸方向の温度勾配をG
real(R)とした場合、0<R<190mmの範囲で、上記(A)式を満足するように、単結晶の引き上げ速度を調整し、単結晶の引き上げを行う。また、単結晶の育成に先立ち、上記(A)式を満足するように、ホットゾーン(熱遮蔽体および水冷体)の寸法形状を設計し、このホットゾーンを用いる。これにより、直径450mmの大径無欠陥結晶を精度良く育成することができる。