(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有し、該表面の水接触角が120°以上である微細凹凸構造体と、フィルム基材およびフィルム樹脂層を備えた、微細凹凸構造体の表面を保護するフィルムとを有する積層体の製造方法において、
前記微細凹凸構造体の微細凹凸構造側表面とフィルム基材との間に、前記フィルム樹脂層となる硬化性樹脂組成物を配置する工程と、
該硬化性樹脂組成物を介して微細凹凸構造体とフィルム基材とを貼り合わせる工程と、
硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が30MPa以上、かつ、微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率よりも低くなるように、前記硬化性樹脂組成物を硬化させる工程とを含む、積層体の製造方法。
硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力よりも硬化性樹脂組成物の硬化物の凝集力が強く、かつ、硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力よりも硬化性樹脂組成物の硬化物とフィルム基材との密着力が強い、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書における「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの総称であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルおよびメタクリロイルの総称である。
また、本明細書における「活性エネルギー線」は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。
また、本明細書における「可視光の波長」は、380〜780nmの波長を意味する。
図1〜4においては、各層を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層ごとに縮尺を異ならせてある。
また、
図2〜3において、
図1と同じ構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0019】
「積層体」
図1は、本発明の積層体の一例を示す断面図である。
この例の積層体1は、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する微細凹凸構造体10の微細凹凸構造側表面に、フィルム基材(以下、「保護フィルム基材」ともいう。)21およびフィルム樹脂層(以下、「保護フィルム樹脂層」ともいう。)22を備えたフィルム(以下、「保護フィルム」ともいう。)20が、微細凹凸構造体10の微細凹凸構造と保護フィルム樹脂層22とが接するように貼着した、保護フィルム付き微細凹凸構造体である。
なお、本発明において、微細凹凸構造体10の微細凹凸構造側表面(すなわち、保護フィルム20で保護される表面)を「微細凹凸構造体の表面」という。
【0020】
保護フィルム20を構成する保護フィルム樹脂層22は、微細凹凸構造体10の表面と、該表面上に設けられた保護フィルム基材21との間に配置された硬化性樹脂組成物が活性エネルギー線照射により硬化したものである。
積層体1は、以下のようにして微細凹凸構造体10の表面を保護することで得られる。
【0021】
「積層体の製造方法」
本発明の積層体1の製造方法は、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に、保護フィルム樹脂層となる硬化性樹脂組成物を配置する工程(以下、「配置工程」ともいう。)と、硬化性樹脂組成物を介して微細凹凸構造体10と保護フィルム基材21とを貼り合わせる工程(以下、「貼付工程」ともいう。)と、硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が30MPa以上、かつ、微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率よりも低くなるように、硬化性樹脂組成物を硬化させる工程(以下、「硬化工程」ともいう。)とを含む。
この方法により、保護フィルム基材21と硬化性樹脂組成物の硬化物である保護フィルム樹脂層22とが一体化して保護フィルム20が形成されるとともに、該保護フィルム20により微細凹凸構造体10の表面が保護された積層体1が得られる。
【0022】
<微細凹凸構造体>
微細凹凸構造体10は、
図1、2に示すように、基材11と、基材11の表面に形成された、微細凹凸構造を表面に有する硬化物12とを有し、微細凹凸構造体10の表面の水接触角が120°以上である。撥水性および撥油性を発現させる観点から、水接触角はl30°以上が好ましく、140°以上がより好ましい。
【0023】
(基材)
微細凹凸構造体10を構成する基材11としては、微細凹凸構造を表面に有する硬化物12を支持可能なものであればよく、微細凹凸構造体10をディスプレイ部材等に適用する場合は、透明基材、すなわち光を透過するものが好ましい。
【0024】
透明基材の材料としては、合成高分子(メチルメタクリレート(コ)ポリマー、ポリカーボネート、スチレン(コ)ポリマー、メチルメタクリレート−スチレンコポリマー等)、半合成高分子(セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタラート、ポリ乳酸等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、これらの複合物(ポリメチルメタクリレートとポリ乳酸の複合物、ポリメチルメタクリレートとポリ塩化ビニルの複合物等)、ガラス等が挙げられる。
【0025】
基材11の形状は、微細凹凸構造体10の用途に応じて適宜選択でき、微細凹凸構造体10が反射防止フィルム等である場合には、シート状またはフィルム状が好ましい。
基材11の製造方法としては、射出成形法、押出成形法、キャスト成形法等が挙げられる。
基材11の表面には、密着性、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性等の特性の改良を目的として、コーティングやコロナ処理が施されていてもよい。
【0026】
(硬化物)
微細凹凸構造体10を構成する硬化物12は、微細凹凸構造を表面に有する。
硬化物12は、微細凹凸構造を構成する材料が硬化したものである。
微細凹凸構造は、等間隔に並んだ円錐状の凸部13と凹部14とで形成される。
【0027】
微細凹凸構造の周期、すなわち凸部13の頂部13aからこれに隣接する凸部13の頂部13aまでの距離w
1は、可視光の波長以下である。
微細凹凸構造の周期が可視光の波長以下、すなわち380nm以下であれば、可視光の散乱を抑制でき、反射防止フィルム等の光学用途に好適に用いることができる。
微細凹凸構造の周期は、凸部13が形成しやすい点から、25nm以上が好ましい。具体的には、微細凹凸構造の周期は、60〜300nmが好ましく、90〜250nmがより好ましく、140〜220nmが特に好ましく、180〜200nmが最も好ましい。
微細凹凸構造の周期は、電界放出形走査電子顕微鏡によって、隣接する凸部13同士の距離w
1を10点測定し、これらの値を平均したものとする。
【0028】
凸部13の高さ(または凹部14の深さ)、すなわち凸部13の頂部13aから凹部14の底部14aまでの垂直距離d
1は、波長により反射率が変動するのを抑制できる深さとすることが好ましい。具体的には、60nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましく、150nm以上が特に好ましく、180nm以上が最も好ましい。凸部13の高さが150nm近傍では、人が認識しやすいとされる550nmの波長域光の反射率を最も低くすることができる。特に、凸部13の高さが150nm以上になると、凸部13の高さが高くなるほど、可視光域における最高反射率と最低反射率の差が小さくなる。このため、凸部13の高さが150nm以上になれば、反射光の波長依存性が小さくなり、目視での色味の相違は認識されなくなる。
凸部13の高さは、凸部13の耐擦傷性が良好となる点から、400nm以下が好ましい。
凸部13の高さは、電界放出形走査電子顕微鏡によって、10個の凸部13の高さ(垂直距離d
1)を測定し、これらの値を平均したものとする。
【0029】
凸部13の形状は、垂直面における断面積が、頂部13a側から基材11側に、連続的に増大する形状であることが、屈折率を連続的に増大させることができ、波長による反射率の変動(波長依存性)を抑制し、可視光の散乱を抑制して低反射率にできることから好ましい。
【0030】
ところで、微細凹凸構造体10は、微細凹凸構造を構成する材料によって撥水性を発現することができる。微細凹凸構造体10が撥水性を有していれば、屋外や水周りにて撥水フィルムとして用いることが可能であり、水滴付着による視認性の低下を抑制することができる。
また、微細凹凸構造を構成する材料によっては撥水性に留まらず、撥油性を発現させることもできる。微細凹凸構造体10を反射防止フィルム等として用いる場合、通常、ディスプレイ等の対象物の表面に貼り付けて用いられるが、人の手に触れる機会が多いため、微細凹凸構造体10は、使用に際して指紋が付着しにくいことが好ましい。微細凹凸構造体10が撥油性を有していれば、指紋が付着しても除去しやすい。
【0031】
微細凹凸構造体の撥水性や撥油性の評価方法としては、接触角測定が一般的である。例えば、自動接触角測定器などの市販装置を用いて測定することができる。具体的には、微細凹凸構造体に1μLのイオン交換水を滴下し、θ/2法にて水接触角を算出する。
一般に、水接触角が90°以上の場合を撥水性と判断することが多いが、用途によっては水接触角が70°程度であっても撥水性と判断する場合もある。また、理論上、平滑な表面において、水接触角が120°を超えることはない。
しかしながら、表面に微細凹凸構造を有していれば、見かけ上の水接触角を120°以上にすることが可能となる。
なお、水滴と微細凹凸構造の間に空気を噛みこむことによって、見かけ上の水接触角が大きくなる場合が多い。そのような状態は必ずしもエネルギー的に最安定な状態ではなく、準安定状態と判断されることもある。本発明において「水接触角」という場合、上述の準安定状態での評価結果も含めて指すこととする。
【0032】
微細凹凸構造を構成する材料としては、微細凹凸構造となったときの表面の水接触角が120°以上になる材料であれば特に制限されないが、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマーを適宜含むものが好ましく、さらに、非反応性のポリマーを含んでいてもよい。
また、微細凹凸構造を構成する材料は、通常、硬化のための重合開始剤を含む。重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができる。
【0033】
撥水性を発現させるために有用な成分としては、一般にフッ素系化合物、シリコーン系化合物、脂環構造を有する化合物、長鎖アルキル基を有する化合物などが知られている。従って、このような化合物を1種以上含む材料を用いて微細凹凸構造を形成することで、微細凹凸構造体の表面の水接触角を120°以上にできる。
ここで、「長鎖アルキル基」とは、炭素数12以上のアルキル基のことである。
【0034】
なお、化学物質として、最も表面エネルギーが低くなるのは1つの炭素原子に3つのフッ素原子が結合した末端基が緊密に並んだ状態であるが、上述したように、表面の微細凹凸構造によってそれを上回る撥水性を発現できることが知られている。フラクタル構造と呼ばれる自己相似構造をとることで、親水性の材料であっても撥水性を発現させることが可能であり、必ずしも微細凹凸構造を構成する材料は限定されない。
しかし、微細凹凸構造を構成する材料を重合・硬化させて微細凹凸構造を形成する場合には、意図的にフラクタル構造表面を形成することは難しい。そのため、表面自由エネルギーが低くなる官能基を有する重合性成分を適宜用いることによって、撥水性を発現させることが一般的である。
【0035】
そのような重合性成分として、フッ素系化合物ならば、例えば、ポリフルオロアルキル鎖を有する化合物、フッ素含有アルキル基を有する(メタ)アクリレート(具体的には2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1,1,2,2−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート等)などが挙げられる。また、フッ素系化合物として、フッ素化アルコールにイソシアヌル基を有する化合物を反応させて得られるフッ素化ウレタン化合物を用いることもできる。
【0036】
シリコーン系化合物ならば、ポリジメチルシロキサン構造を有する重合性成分、例えば反応性シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。また、市販品としては、チッソ株式会社製のサイラプレーン(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
脂環構造を有する化合物ならば、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
長鎖アルキル基を有する化合物ならば、炭素数12以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、例えばラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
また、上述した以外にも、水添ポリブタジエン構造を有するアクリレート(例えば日本曹達株式会社製のポリブタジエンアクリレート「TEAI−1000」等)なども撥水性を発現させるために用いることができる。
【0038】
また、予め形成した微細凹凸構造体の表面にフッ素化合物などを蒸着させて、撥水性を発現させることもできる。
しかし、このような後加工によって撥水処理をした微細凹凸構造体は、撥水性発現のための蒸着層と元々の微細凹凸構造体の密着性は必ずしも十分ではなく、使用に際して、蒸着層の剥離や滑落が生じる場合がある。また、本発明の積層体の製造方法を適用する場合、蒸着層が微細凹凸構造体より保護フィルムの保護フィルム樹脂層と密着してしまい、剥離後の撥水性を損なう場合がある。
従って、微細凹凸構造体の撥水性は、微細凹凸構造を構成する材料によって発現されることが好ましい。
【0039】
(微細凹凸構造体の製造方法)
微細凹凸構造体の製造方法としては、例えば、下記の方法等が挙げられる。
・微細凹凸構造が表面に形成されたモールドを用いて射出成形やプレス成形を行う方法(方法1)。
・モールドと基材との間に微細凹凸構造を構成する材料を配置し、活性エネルギー線の照射によって微細凹凸構造を構成する材料を硬化させてモールドの微細凹凸構造を硬化物に転写した後、モールドを硬化物から剥離する方法(方法2)。
・微細凹凸構造を構成する材料にモールドの微細凹凸構造を転写した後、微細凹凸構造を構成する材料からモールドを剥離し、活性エネルギー線の照射によって微細凹凸構造を構成する材料を硬化させる方法(方法3)。
これらの中でも、微細凹凸構造の転写性、表面組成の自由度の点から、方法2、3が好ましく、方法2が特に好ましい。方法2は、連続生産が可能なベルト状やロール状のモールドを用いる場合に特に好適であり、生産性に優れた方法である。
【0040】
モールドに微細凹凸構造(反転構造)を形成する方法としては、電子ビームリソグラフィー法、レーザ光干渉法等が挙げられる。例えば、適当な支持基板の表面に適当なフォトレジスト膜を塗布し、紫外線レーザ、電子線、X線等の光で露光し、現像することによって微細凹凸構造を形成したモールドを得ることができる。また、フォトレジスト層を介して支持基板をドライエッチングによって選択的にエッチングし、レジスト層を除去して、支持基板そのものに微細凹凸構造を直接形成することも可能である。
【0041】
また、陽極酸化ポーラスアルミナをモールドとして利用することも可能である。例えば、アルミニウムをシュウ酸、硫酸、リン酸等を電解液として所定の電圧にて陽極酸化することにより形成される周期が20〜200nmの細孔構造をモールドとして利用してもよい。この方法によれば、高純度アルミニウムを定電圧で長時間陽極酸化した後、一旦酸化皮膜を除去し、再び陽極酸化することで非常に高規則性の細孔が自己組織化的に形成できる。さらに、二回目に陽極酸化する工程で陽極酸化処理と孔径拡大処理を組み合わせることによって、断面が矩形でなく三角形や釣鐘型である細孔も形成可能となる。また、陽極酸化処理と孔径拡大処理の時間や条件を適宜調節することによって、細孔最奥部の角度を鋭くすることも可能である。
さらに、微細凹凸構造を有するマザーモールドから電鋳法等で複製モールドを作製してよい。
【0042】
モールドそのものの形状は、特に限定されず、例えば、平板状、ベルト状、ロール状のいずれでもよい。特に、ベルト状やロール状にすれば、連続的に微細凹凸構造を転写でき、生産性をより高めることができる。
【0043】
モールドと基材との間に微細凹凸構造を構成する材料を配置する方法としては、モールドと基材との間に微細凹凸構造を構成する材料を配置した状態でモールドと基材とを押圧することによって、微細凹凸構造を構成する材料をモールドの微細凹凸構造に注入する方法等が挙げられる。
【0044】
(微細凹凸構造体の用途)
微細凹凸構造体は、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有するため、光学用途、特に反射防止フィルム、立体形状の反射防止体等の反射防止物品として好適である。また、微細凹凸構造体の表面の水接触角が120°以上であるため、微細凹凸構造体は撥水性を有する。よって、窓やミラーなどの建材用途に用いることができ、水滴付着による視認性低下を抑制することができる。
【0045】
(微細凹凸構造体の他の形態)
微細凹凸構造体10は、
図1、2に示すものに限定されない。
例えば、微細凹凸構造を有する硬化物12は、基材11の片面に形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。
また、微細凹凸構造は、硬化物12の表面全体に形成されていてもよく、表面の一部に形成されていてもよい。
また、凸部13の形状は、
図2に示す円錐状または角錐状に限定されず、
図3に示すような、凸部13の頂部13bが曲面である釣鐘状であってもよい。また、釣鐘状の形態を反転させた形状、すなわち凸部13の頂部が尖端部になり、凹部14の底部が曲面である形状のものでもよい。その他、垂直面における断面積が、頂部側から基材側に連続的に増大する形状を採用することができる。なお、微細凹凸構造体10に撥水性能を効果的に発現させるためには、凸部13の頂部が細いことが好ましく、微細凹凸構造体10と水滴の接触面における硬化物12の占有する面積ができるだけ少ないことが好ましい。
【0046】
中間層:
また、
図3に示すように、基材11と硬化物12との間に、耐擦傷性、接着性等の諸物性を向上させる目的で、中間層15を設けてもよい。
中間層15の材料としては、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、アクリルグラフトポリエステル、ポリエチレンイミン、ポリカーボネート、ポリブタジエン、スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0047】
<保護フィルム>
保護フィルム20は、微細凹凸構造体10の表面を保護するものであり、保護フィルム基材21および保護フィルム樹脂層22を備える。
図1に示すように、保護フィルム20は、微細凹凸構造体10の微細凹凸構造と保護フィルム樹脂層22とが接するように、微細凹凸構造体10の微細凹凸構造側の表面に貼着している。
保護フィルムは、通常、保護フィルム基材と保護フィルム基材の表面に形成された粘着剤層(保護フィルム樹脂層)とで構成される。保護フィルムの性能として、保護対象に貼り付き、必要に応じて糊残りを発生させずに剥離できることが求められるが、前述のような撥水性を有する微細凹凸構造体に対して適度な粘着力を有しつつ、かつ糊残りを発生せずに剥離できるような適当な粘着剤を開発することは容易ではない。
【0048】
しかし、本発明の積層体の製造方法であれば、予め製造された保護フィルムを微細凹凸構造体の表面に貼り付けるのではなく、微細凹凸構造体の表面を保護しつつ、微細凹凸構造体上で保護フィルムを製造する。すなわち、上述したように、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に、保護フィルム樹脂層22となる硬化性樹脂組成物を配置し(配置工程)、硬化性樹脂組成物を介して微細凹凸構造体10と保護フィルム基材21とを貼り合わせた後(貼付工程)、硬化性樹脂組成物を硬化させることで(硬化工程)、保護フィルム基材21と硬化性樹脂組成物の硬化物である保護フィルム樹脂層22とが一体化して保護フィルム20が形成されるとともに、該保護フィルム20により微細凹凸構造体10の表面が保護された積層体1が得られる。
従って、本発明の積層体の製造方法は、微細凹凸構造体の表面の保護と同時に最適な保護フィルムをその場で製造する方法とも言える。
【0049】
(保護フィルム基材)
保護フィルム20を構成する保護フィルム基材21は、保護対象である微細凹凸構造体10の表面に傷が付かないように十分な強度を有するものであればよい。
保護フィルム基材21の材料としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコールコポリマー等)、ポリカーボネート樹脂、フッ素系樹脂(ポリフッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー等)、塩素系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、スルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン等)、ケトン系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリイミド、ポリアミドなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
詳しくは後述するが、硬化性樹脂組成物を硬化させる際には、通常、保護フィルム基材21側から活性エネルギー線を照射する。よって、保護フィルム基材21としては透明性を有するものが好ましい。また、保護フィルム基材21が透明性に優れていれば、保護フィルム20越しに微細凹凸構造体10の状態を検査することもできる。
保護フィルム基材21の材料としては、上述した中でもポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、その中でもポリエステル樹脂、特に熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートがさらに好ましい。ポリエチレンテレフタレートは透明性に優れる上に、平滑性の良好な保護フィルム基材21が得られる。
【0050】
保護フィルム基材21の曲げ弾性率は、500〜4000MPaが好ましく、1000〜3500MPaがより好ましく、2000〜3200MPaがさらに好ましい。曲げ弾性率が500MPa以上であれば、微細凹凸構造の保護フィルムとしての役割を十分に果たすことができる。よって、保護フィルム越しに引っ掻きや荷重を掛けても、微細凹凸構造が傷付きにくい。一方、曲げ弾性率が4000MPa以下であれば、保護フィルム付き微細凹凸構造体を容易に巻き取ることが可能となる。
保護フィルム基材21の曲げ弾性率は、JIS K 7171:2008(ISO 178:2001)に記載されている試験方法に従って測定する。
【0051】
保護フィルム基材21には、保護フィルム樹脂層22との密着力を向上するために、保護フィルム樹脂層22と接する側の表面にコロナ処理、プラズマ処理といった表面処理や、下塗り剤(プライマ)の塗布等を行ってもよい。
【0052】
保護フィルム基材21の厚さは、保護フィルム基材21と保護フィルム樹脂層22とで保護フィルム20を形成し、微細凹凸構造体10に貼着した際に、十分な密着性が得られ、傷等から微細凹凸構造体10の表面を十分に保護することができる厚さであればよく、保護フィルム20の用途等に応じて適宜設定される。保護フィルム基材21の厚さの下限値は、通常、12μm以上程度であり、16μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。一方、保護フィルム基材21の厚さの上限値は、通常、2mm以下程度であり、1mm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。保護フィルム基材21の厚さが2mmを超えると、保護フィルム20として微細凹凸構造体10に貼着したときに、密着性が低下するおそれがある。一方、保護フィルム基材21の厚さが12μm未満では、微細凹凸構造体10を傷等から十分に保護することが困難となるおそれがある。
【0053】
(保護フィルム樹脂層)
保護フィルム20を構成する保護フィルム樹脂層22は、硬化性樹脂組成物が硬化した硬化物である。
硬化性樹脂組成物は、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に配置され、微細凹凸構造に追従した状態で硬化して保護フィルム樹脂層22となることにより、微細凹凸構造体10に最適な保護フィルム20を形成するための、保護フィルム樹脂層22を構成する材料である。
【0054】
微細凹凸構造体10は、保護フィルム樹脂層22と、保護フィルム基材21とで構成される保護フィルム20によって、搬送時や各種加工時の傷付きから保護される。そして、微細凹凸構造体10を例えば反射防止フィルムや撥水フィルムなどとして使用する前に、保護フィルム20を剥離することになる。よって、保護フィルム樹脂層22と、微細凹凸構造体10とが剥離可能であることが必要であり、また、保護フィルム樹脂層22と保護フィルム基材21とが接着されており、保護フィルム基材21と共に、微細凹凸構造体10から保護フィルム樹脂層22が残留する(糊残りする)ことなく剥離されることが望まれる。
【0055】
このような条件を満たすには、硬化性樹脂組成物の硬化物(すなわち、保護フィルム樹脂層22)の圧縮弾性率が30MPa以上であり、かつ、上述した微細凹凸構造を構成する材料の硬化物(すなわち、微細凹凸構造体10を構成する硬化物12)の圧縮弾性率よりも低くなるような硬化性樹脂組成物を用いる。
硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が30MPa以上であれば、微細凹凸構造体10から保護フィルム20を引き剥がす際に、保護フィルム樹脂層22が引きちぎられる(凝集破壊)ことを防止でき、保護フィルム樹脂層22が微細凹凸構造体10の表面に残留する(糊残りする)ことなく保護フィルム20を剥離できる。硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率は、40〜270MPaが好ましく、80〜250MPaがより好ましく、150〜250MPaがさらに好ましい。硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が270MPa以下であれば、積層体1をロール状などに容易に巻き取ることができる。
【0056】
また、硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が、微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率よりも低ければ、微細凹凸構造体10から保護フィルム20を引き剥がす際に、保護フィルム基材21が引き裂かれたり、微細凹凸構造の凸部が引きちぎられたりすることを防止できる。硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率は、微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率よりも20〜250MPa低いことが好ましく、80〜220MPa低いことがより好ましい。
【0057】
硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率、および微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率は、積層体1や微細凹凸構造体10の状態では測定することが困難であるため、以下のようにして測定する。
まず、硬化性樹脂組成物や微細凹凸構造を構成する材料をそれぞれ光硬化させて厚さ2mmの板状に成形する。光硬化の条件は、微細凹凸構造体10を保護するときの硬化条件や、微細凹凸構造体10を製造するときの硬化条件とそれぞれ同じにする。
ついで、得られた各板を1cm角の試験片に切り出し、圧縮試験機にて0.5mm/分の速度で厚み方向に圧縮し、圧縮率20%まで圧縮したときの弾性率を測定する。なお、圧縮率20%とは、例えば元の厚みが5mmの試験片の場合はその20%である1mm分圧縮した状態を指す。
本発明では、このようにして測定された値を、保護フィルム樹脂層22の圧縮弾性率、および硬化物12の圧縮弾性率とみなす。
【0058】
また、硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂組成物の硬化物(すなわち、保護フィルム樹脂層22)と微細凹凸構造体との密着力よりも硬化性樹脂組成物の硬化物の凝集力が強く、かつ、硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力よりも硬化性樹脂組成物の硬化物と保護フィルム基材との密着力が強いことが好ましい。
【0059】
硬化性樹脂組成物の硬化物の凝集力とは硬化性樹脂組成物を構成する分子内、分子間で働く力であり、硬化性樹脂組成物の強度のことである。保護フィルム基材を把持して微細凹凸構造体から保護フィルムを引き剥がす動作において、ミクロな視点では、微細凹凸構造体と保護フィルム基材の間で、硬化性樹脂組成物の硬化物である保護フィルム樹脂層が引き伸ばされることになる。
硬化性樹脂組成物の硬化物の凝集力が、硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力よりも弱い場合、微細凹凸構造体から保護フィルム樹脂層を引き剥がす力に樹脂自身が耐えられず、保護フィルム樹脂層が引きちぎられ、糊残りする場合がある。従って、微細凹凸構造体から保護フィルム樹脂層を剥がすには、硬化性樹脂組成物の硬化物の凝集力が大きいことが望ましい。特に、微細凹凸構造の凸部の高さが高い(凹部の深さが深い)場合、すなわち、突起が林立した構造で示すならば、突起の幅に対する高さ、およびアスペクト比が大きい場合、保護フィルム樹脂層を剥がすにはより大きな力が必要であるため、凝集力はさらに大きいことが望まれる。
【0060】
また、硬化性樹脂組成物の硬化物と保護フィルム基材との密着力が、硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力よりも強ければ、微細凹凸構造体から保護フィルムを引き剥がす際に、保護フィルム基材が引き裂かれることを防止できる。
【0061】
従って、硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力よりも硬化性樹脂組成物の硬化物の凝集力が強く、かつ、硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力よりも硬化性樹脂組成物の硬化物と保護フィルム基材との密着力が強くなるような硬化性樹脂組成物を用いれば、保護フィルム基材と硬化性樹脂組成物の硬化物である保護フィルム樹脂層とが一体となって、必要な時に微細凹凸構造体から糊残りすることなく、より容易に剥離することができる。
【0062】
なお、硬化性樹脂組成物の硬化物の凝集力は、引張試験により測定できるが、積層体1の状態では測定することが困難である。そのため、通常は、硬化性樹脂組成物を光硬化させて得られた硬化物をダンベルなどの所定形状に加工して、ISO 527−2:1993などの工業規格に基づいて測定する。本発明では、このようにして測定された値を、保護フィルム樹脂層22の凝集力とみなす。
ただし、硬化性樹脂組成物の硬化物は概して脆いため、ダンベルなどの所定形状に打ち抜くことが困難となる場合がある。このような場合には、硬化性樹脂組成物の硬化物をブロック形状などに切断して上述した圧縮試験を行い、任意の圧縮率における弾性率を測定することで凝集力の測定に代えてもよい。すなわち、硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率は、凝集力の指標にもできる。
【0063】
一方、硬化性樹脂組成物の硬化物と微細凹凸構造体との密着力や、硬化性樹脂組成物の硬化物と保護フィルム基材との密着力は、90°剥離試験や180°剥離試験などの剥離試験により測定できる。
【0064】
また、保護フィルム基材21と保護フィルム樹脂層22とが一体化して形成された保護フィルム20を微細凹凸構造体10から剥がす際の剥離強度(剥離力)は、微細凹凸構造体10と密着できる程度であればよいが、微細凹凸構造体10に対して、0.01〜5N/25mmが好ましく、0.01〜3N/25mmがより好ましく、0.015〜1N/25mmがさらに好ましい。保護フィルム20の剥離強度が上記範囲内であれば、硬化性樹脂組成物の硬化物(保護フィルム樹脂層)と微細凹凸構造体との密着力よりも、硬化性樹脂組成物の硬化物(保護フィルム樹脂層)と保護フィルム基材との密着力が強いと概ね判断できる。よって、保護フィルム20が微細凹凸構造体10に十分な強度で密着することができ、不用意に剥がれず、かつ不要となった際に微細凹凸構造体10から糊残りすることなく容易に保護フィルム20を剥離できる。
【0065】
保護フィルム20の剥離強度は、以下のようにして測定される。
まず、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に硬化性樹脂組成物を配置し、硬化性樹脂組成物を介して微細凹凸構造体10と保護フィルム基材21とを貼り合わせた後、硬化性樹脂組成物を硬化させて、保護フィルム基材21と保護フィルム樹脂層22とが一体化した保護フィルム20を形成するとともに、微細凹凸構造体10の表面が保護フィルム20により保護された積層体1を得る。
得られた積層体1について、剥離角180°、剥離速度300mm/分、室温下の条件で、保護フィルム20を積層体1の長さ方向に剥がしたときの剥離強度を測定する。剥離強度の測定には、例えば、インストロン社製の万能試験機5565を用いることができる。
【0066】
硬化性樹脂組成物としては、上述したよう圧縮弾性率、凝集力、密着力の条件を満たすものであれば特に制限されないが、例えば保護フィルム基材21との密着性を高めるには、分子量230以下の重合性成分(低分子量重合性成分)を含むことが好ましい。
低分子量重合性成分としては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド等の単官能アクリレート;1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート等の2官能アクリレートなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
一般的に、重合性成分の分子量が低くなるほど、樹脂を侵しやすくなることが知られている。分子量が230以下であれば、硬化性樹脂組成物の保護フィルム基材21への浸透性が高まり、保護フィルム基材21と保護フィルム樹脂層22との密着性が向上する。
その一方で、重合性成分の分子量が低くなると、微細凹凸構造体10の硬化物12にも硬化性樹脂組成物が浸透する場合もある。硬化性樹脂組成物が微細凹凸構造体10の硬化物12に浸透して化学的に結合すると、糊残りすることなく保護フィルム20を微細凹凸構造体10から剥離することが困難となるおそれがある。
【0068】
微細凹凸構造体10の硬化物12への硬化性樹脂組成物の浸透性は、低分子量重合性成分の分子量、低分子量重合性成分と微細凹凸構造体10の硬化物12との相溶性、硬化性樹脂組成物中の他の重合性成分との組み合わせなどに影響される。従って、微細凹凸構造体10の硬化物12への硬化性樹脂組成物の浸透性を防げるような、低分子量重合性成分と他の重合性成分との組み合わせを選択したり、低分子量重合性成分の種類や含有量を変更したりすることが好ましい。
【0069】
硬化性樹脂組成物中の低分子量重合性成分の含有量は、硬化性樹脂組成物に含まれる全ての重合性成分の全量を100質量%としたときに、5〜50質量%が好ましい。低分子量重合性成分の含有量が5質量%以上であれば、保護フィルム基材21との密着性がより良好なものとなる。低分子量重合性成分の含有量が50質量%以下であれば、微細凹凸構造体10の硬化物12への密着性を抑えることができる。
保護フィルム基材21が易接着加工を施したポリエチレンテレフタラートフィルムの場合、硬化性樹脂組成物中の低分子量重合性成分の含有量は、5〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。また、保護フィルム基材21がポリカーボネートフィルムの場合、硬化性樹脂組成物中の低分子量重合性成分の含有量は、20〜50質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましい。
【0070】
また、分子量は230以上であっても、水素結合を高密度に形成するウレタン結合を含有する化合物を用いることで、保護フィルム基材21への密着性を出すことも可能である。
【0071】
硬化性樹脂組成物は、通常、硬化させるための助剤(重合開始剤など)を含有する。硬化は加熱による熱重合・熱硬化でもよいが、微細凹凸構造体を連続的に生産する場合、出来上がった微細凹凸構造体を巻き取る前の工程で簡便に保護できることが望ましい。その点から、紫外線等の活性エネルギー線照射による光重合、光硬化が好ましい。
【0072】
活性エネルギー線重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって開裂し、重合反応を開始させるラジカルを発生する化合物である。活性エネルギー線としては、装置コストや生産性の点から、紫外線が好ましい。
【0073】
活性エネルギー線重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、チオキサントン類(2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等)、アセトフェノン類(ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等)、ベンゾインエーテル類(ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等)、アシルホスフィンオキサイド類(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等)、メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。活性エネルギー線重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、吸収波長の異なる2種以上を併用することが好ましい。
また必要に応じて、過酸化物(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド等)、アゾ系開始剤等の熱重合開始剤を併用してもよい。
【0074】
硬化性樹脂組成物中の活性エネルギー線重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂組成物に含まれる全ての重合性成分の合計100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましく、0.2〜3質量部がさらに好ましい。活性エネルギー線重合開始剤の含有量が0.01質量部以上であれば、硬化性樹脂組成物の硬化性に優れ、保護フィルム樹脂層22の機械特性、特に耐擦傷性が良好となる。また、未反応の重合性成分を十分に減らすことができ、微細凹凸構造体10に対する未反応成分の浸透による汚染や、未反応成分を内包することで保護フィルム樹脂層22の凝集力が弱くなり、微細凹凸構造体10に対して糊残りを生ずることを防ぐこともできる。活性エネルギー線重合開始剤の含有量が10質量部以下であれば、保護フィルム樹脂層22内に残存する重合開始剤による弾性率および耐擦傷性の低下や着色を抑制することができる。
【0075】
また、硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線吸収剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい。
活性エネルギー線吸収剤は、硬化性樹脂組成物の硬化の際に照射される活性エネルギー線を吸収し、樹脂の劣化を抑制できるものが好ましい。活性エネルギー線吸収剤としては、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線吸収剤が挙げられる。市販品としては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のチヌビンシリーズの400、479、共同薬品株式会社製のViosorbシリーズの110が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系の酸化防止剤、リン系の酸化防止剤、イオウ系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系の酸化防止剤が挙げられる。市販品としては、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のIRGANOXシリーズが挙げられる。
活性エネルギー線吸収剤、酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
硬化性樹脂組成物中の活性エネルギー線吸収剤および/または酸化防止剤の含有量は、硬化性樹脂組成物に含まれる全ての重合性成分の合計100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.01〜0.5質量部がさらに好ましい。活性エネルギー線吸収剤および/または酸化防止剤の含有量が0.01質量部以上であれば、保護フィルム樹脂層22の黄色化やヘイズ上昇を抑制し、耐候性を向上させることができる。活性エネルギー線吸収剤および/または酸化防止剤の含有量が5質量部以下であれば、硬化性樹脂組成物の硬化性、保護フィルム樹脂層22の耐擦傷性、保護フィルム樹脂層22と保護フィルム基材21の密着性を良好にできる。
【0077】
さらに、硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤等の他の添加剤を含んでいてもよい。
また、硬化性樹脂組成物は溶剤を含んでいてもよいが、含まない方が好ましい。溶剤を含まない場合は、例えば、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に硬化性樹脂組成物を配置して、活性エネルギー線照射によって重合、硬化させて保護フィルム樹脂層22を形成するプロセスにおいて、溶剤が保護フィルム樹脂層22中に残る心配がない。また、製造工程を考慮した場合、溶剤除去のための設備投資が不要であり、コストの点でも好ましい。
【0078】
詳しくは後述するが、硬化性樹脂組成物を微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に配置し、例えばローラ等によって任意の圧力をかけて両者を貼り合わせ、硬化させる各工程において、その作業性を考慮すると、硬化性樹脂組成物の25℃における回転式E型粘度計で測定される粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、3000mPa・s以下がより好ましく、500mPa・s以下が特に好ましい。但し、硬化性樹脂組成物の粘度が10000mPa・s以上であっても、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に配置する際に予め硬化性樹脂組成物を加温して粘度を下げることが可能ならば、作業性を損なうことなく使用できる。硬化性樹脂組成物の70℃における回転式E型粘度計で測定される粘度は、3000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましい。
【0079】
また、微細凹凸構造体10がフィルム状やシート状で連続的に生産されるライン上で、連続的に微細凹凸構造体10を保護する場合、その作業性を考慮すると、硬化性樹脂組成物の25℃における回転式E型粘度計で測定される粘度は、10mPa・s以上が好ましく、30mPa・s以上がより好ましく、50mPa・s以上がさらに好ましく、100mPa・s以上が特に好ましい。粘度が10mPa・s以上であれば、貼付工程で硬化性樹脂組成物が微細凹凸構造体の幅を超えて脇へ漏れることを防いだり、保護フィルム樹脂層22の厚みを任意に調整したりしやすい。
【0080】
硬化性樹脂組成物の粘度は、モノマー(重合性成分)の種類や含有量を調節することで調整できる。具体的には、水素結合などの分子間相互作用を有する官能基や化学構造を含むモノマーを多量に用いると、硬化性樹脂組成物の粘度は高くなる傾向にある。また、分子間相互作用のない低分子量のモノマーを多量に用いると、硬化性樹脂組成物の粘度は低くなる傾向にある。
【0081】
保護フィルム樹脂層22の厚さは特に制限されないが、3〜100μmが好ましく、3〜50μmがより好ましく、3〜30μmがさらに好ましい。保護フィルム樹脂層22の厚さが3μm以上であれば、微細凹凸構造体の表面をピンホールなどの抜けなく保護できる。一方、保護フィルム樹脂層22の厚さが100μm以下であれば、保護フィルム20が貼着した状態の微細凹凸構造体10を容易に巻き取ることができ、実際の使用に際して有益である。また材料コスト低減にもなる。
【0082】
<微細凹凸構造体の保護>
上述した硬化性樹脂組成物を用い、微細凹凸構造体10の表面を保護する。
具体的には、上述したように、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に硬化性樹脂組成物を配置し(配置工程)、硬化性樹脂組成物を介して微細凹凸構造体10と保護フィルム基材21とを貼り合わせた後(貼付工程)、硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が30MPa以上、かつ、微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率よりも低くなるように、硬化性樹脂組成物を硬化させる(硬化工程)。硬化工程では、活性エネルギー線照射によって硬化性樹脂組成物を硬化させることが好ましく、特に保護フィルム基材21側から活性エネルギー線を硬化性樹脂組成物に照射するのが好ましい。
この方法により、保護フィルム基材21と硬化性樹脂組成物の硬化物である保護フィルム樹脂層22とが一体化した保護フィルム20が形成されるとともに、該保護フィルム20により微細凹凸構造体10の表面が保護された積層体1が得られる。
【0083】
硬化性樹脂組成物の配置方法は特に限定されず、例えば微細凹凸構造体10の表面に硬化性樹脂組成物を塗布し、その上から保護フィルム基材21を被せてもよいし、微細凹凸構造体10の表面と保護フィルム基材21との間に硬化性樹脂組成物を充填してもよい。
【0084】
微細凹凸構造体10と保護フィルム基材21とを貼り合わせる方法としては、例えばローラ等により押圧する方法が挙げられる。押圧する際の圧力は、0.01〜1MPaが好ましく、0.05〜0.5MPaがより好ましい。圧力が0.01MPa以上であれば、微細凹凸構造体10と保護フィルム基材21とを十分に貼り合わせることができる。一方、圧力が1MPa以下であれば、微細凹凸構造の凸部が損傷されにくい。
【0085】
活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。紫外線を照射するランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、フュージョンランプを用いることができる。
紫外線の照射量は、硬化性樹脂組成物に含まれる重合開始剤の吸収波長や含有量に応じて決定すればよい。通常、その積算光量は、400〜4000mJ/cm
2が好ましく、400〜2000mJ/cm
2がより好ましい。積算光量が400mJ/cm
2以上であれば、硬化性樹脂組成物を十分硬化させて硬化不足に因る耐擦傷性低下を抑制することができる。また。積算光量が4000mJ/cm
2以下であれば、保護フィルム樹脂層22の着色や、保護フィルム基材21の劣化等を防止することができる。照射強度も特に制限されないが、保護フィルム基材21の劣化等を招かない程度の出力に抑えることが好ましい。
【0086】
上述した方法により、保護フィルム20で表面が保護された微細凹凸構造体10を含む積層体1が得られる。
微細凹凸構造体10がフィルム状またはシート状の場合、積層体1は、所定サイズの積層フィルムという形状でもよく、巻物状であってもよい。
【0087】
<作用効果>
以上説明した本発明の積層体の製造方法は、予め保護フィルムを用意しておき、この保護フィルムを微細凹凸構造体の表面に貼り付ける従来法とは異なり、微細凹凸構造体上で、微細凹凸構造に追従するように硬化性樹脂組成物を硬化し、保護フィルムとして保護フィルム基材と一体化する。この方法によれば、微細凹凸構造体の表面自由エネルギーが低いこと自体は変わらないため、微細凹凸構造体と硬化性樹脂組成物の硬化物である保護フィルム樹脂層との間での相互作用は小さいままだが、微細凹凸構造体の表面と保護フィルム基材との間に硬化性樹脂組成物を配置してから硬化させるので、硬化性樹脂組成物が微細凹凸構造の凹部に入り込みやすく、適当な密着力を発現することができる。よって、微細凹凸構造体が撥水性を有するような表面自由エネルギーの低いものであっても、保護フィルムが容易に剥がれ落ちることはない。しかも、特定の硬化性樹脂組成物を用いるので、必要な時に糊残りすることなく保護フィルムを容易に剥離できる。
【0088】
また、本発明により得られる積層体は、保護フィルムによって微細凹凸構造体の表面が保護されているため、出荷、運搬、保存時に、微細凹凸構造の傷付きを防止できる。しかも、保護フィルムを剥がしたときの微細凹凸構造への糊残りが生じにくいことから、反射防止性能を高く維持した状態で微細凹凸構造体を提供できる。また、糊残りが生じにくいので、保護する前と後で微細凹凸構造体の表面の水接触角が変化しにくく、撥水性を良好に維持した微細凹凸構造体を提供できる。
【0089】
さらに、保護フィルムを構成する保護フィルム基材や保護フィルム樹脂層が透明性に優れていれば、保護フィルムを剥がすことなく、保護フィルム越しに微細凹凸構造の状態を検査できることができる。
微細凹凸構造の状態の検査としては、全光線透過率、曇価、反射率等の定量的な光学特性の測定、製品欠陥の有無の検出等が挙げられる。
【0090】
「物品」
本発明の物品は、上述した本発明の積層体から、保護フィルム基材と保護フィルム樹脂層とが一体化した保護フィルムが剥離したもの、すなわち保護フィルムを剥離した後の微細凹凸構造体、または、本発明の積層体から微細凹凸構造体が剥離したもの、すなわち、剥離後の保護フィルムである。
【0091】
保護フィルムを剥離した後の微細凹凸構造体は、微細凹凸構造への糊残りが少ない。すなわち、保護フィルムの粘着剤による微細凹凸構造体の表面汚染が抑制されている。よって、保護フィルムを剥離した後の微細凹凸構造体は、保護フィルムを貼着する前の微細凹凸構造体の反射防止性能を維持している。しかも、保護フィルムを剥離した後の微細凹凸構造体は、微細凹凸構造への糊残りが少ないので、保護フィルムの貼着前と剥離後とで微細凹凸構造体の表面の水接触角が変化しにくく、良好な撥水性を発現できる。
保護フィルムを剥離した後の微細凹凸構造体は、例えば、建材(壁、屋根等)、窓材(家屋、自動車、電車、船舶等)、鏡、反射防止性能が求められるディスプレイ等に用途に好適である。
【0092】
一方、剥離後の保護フィルムは、微細凹凸構造を反転した構造が保護フィルム樹脂層の表面に賦形されていることになる。そのため、剥離後の保護フィルムは、保護フィルムを剥離した後の微細凹凸構造体と同様に反射防止性能を発現することができ、反射防止フィルムとして使用できる。また、剥離後の保護フィルムを鋳型にして、再度、微細凹凸構造を転写するためのモールドとしても使用できる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
「各種測定および評価方法」
(1)モールドの細孔の測定:
陽極酸化ポーラスアルミナからなるモールドの一部の縦断面に白金を1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7400F)を用い、加速電圧3.00kVで観察し、隣り合う細孔の距離(周期)および細孔の深さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0095】
(2)微細凹凸構造体の凸部の測定:
微細凹凸構造体の縦断面に白金を10分間蒸着し、(1)の場合と同じ装置および条件にて、隣り合う凸部の距離(周期)および凸部の高さを測定した。具体的にはそれぞれ10点ずつ測定し、その平均値を測定値とした。
【0096】
(3)微細凹凸構造体の表面の水接触角:
微細凹凸構造体の表面に1μLのイオン交換水を滴下し、自動接触角測定器(KRUSS社製)を用いてθ/2法にて接触角を算出した。
【0097】
(4)反射率の測定:
微細凹凸構造体の、微細凹凸構造側とは反対側の表面を、サンドペーパー(GRITNo.500)で粗面化した後、黒く塗ったサンプルを、分光光度計(株式会社日立製作所製、U−4100)を用いて、入射角5°の条件で波長550nmの相対反射率を測定した。
【0098】
(5)微細凹凸構造を形成する材料の硬化物の圧縮弾性率の測定:
微細凹凸構造を形成する材料を、厚さ2mmのスペーサーとガラス板からなるセルに流し込み、微細凹凸構造体を製造する時と同じ条件で紫外線を照射し、光硬化させて厚さ2mmの板状サンプルを得た。板状サンプルから約1cm角のチップ状に切削したものを試験片とし、圧縮試験機にて0.5mm/分の速度で圧縮率50%になるまで圧縮して応力−歪曲線を得た。その時の圧縮率20%における圧縮弾性率を測定した。
【0099】
(6)硬化性樹脂組成物の粘度の測定:
回転式E型粘度計(東機産業株式会社製、「RE−80R」)を用い、25℃での硬化性樹脂組成物の粘度を測定した。
【0100】
(7)硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率の測定:
保護フィルムを構成する保護フィルム樹脂層の材料となる硬化性樹脂組成物を、厚さ2mmのスペーサーとガラス板からなるセルに流し込み、微細凹凸構造体の表面を保護する時と同じ条件で紫外線を照射し、光硬化させて厚さ2mmの板状サンプルを得た。板状サンプルから約1cm角のチップ状に切削したものを試験片とし、(5)の場合と同じ装置および条件にて、圧縮率20%における圧縮弾性率を測定した。
【0101】
(8)密着性の評価
得られた積層体(保護フィルム付き微細凹凸構造体)を、押切式裁断機にて裁断したときの状態について目視にて観察し、以下の評価基準にて保護フィルムの密着性を評価した。
○:保護フィルムが微細凹凸構造体から剥がれていない。
×:保護フィルムが微細凹凸構造体から剥がれた。
【0102】
(9)巻き取り性の評価
得られた積層体を、微細凹凸構造側が内側に向くよう直径約3cmで巻き取ったときの状態について目視にて観察し、以下の評価基準にて積層体の巻き取り性を評価した。
○:保護フィルムを構成する保護フィルム樹脂層の破断等によるクラックや皺が発生していない。
△:保護フィルムを構成する保護フィルム樹脂層の破断等によるクラックや皺は発生していないが、保護フィルム樹脂層が堅く、曲げに対して復元しようとする力が強く、巻取りに力を要する。または巻き取り時にきしむ。
×:保護フィルムを構成する保護フィルム樹脂層の破断等によるクラックや皺が発生した。
【0103】
(10)剥離性・糊残りの評価
得られた積層体から保護フィルムを剥離した。剥離良好な場合を「○」、剥離不良の場合を「×」とした。
また、保護フィルムを剥離した後の微細凹凸構造体について、(3)と同様にして表面の水接触角を測定し、保護前の微細凹凸構造体の表面の水接触角との差を求めた。また、(4)と同様にして微細凹凸構造体の反射率を測定し、保護前の微細凹凸構造体の反射率との差を求めた。
以下の評価基準にて剥離性・糊残りを評価した。
○:剥離良好であり、かつ水接触角の差が±5°以内であり、かつ反射率の差が±0.1%以内である。
△:剥離良好であるが、水接触角の差が±5°超および/または反射率の差が±0.1%超である。
×:剥離不良であり、水接触角の差が±5°超であり、反射率の差が±0.1%超である。
【0104】
「モールドの作製」
図4に示す工程に従い、モールド(細孔の深さ:180nm)を以下のように作製した。
まず、純度99.99%のアルミニウム板30を、羽布研磨し、ついで過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し、鏡面化した。ついで、以下の工程(a)〜工程(f)を行った。
【0105】
工程(a):
アルミニウム板30を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で30分間陽極酸化を行い、酸化皮膜32に細孔31を生じさせた。
工程(b):
酸化皮膜32が形成されたアルミニウム板30を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜32を除去し、細孔31に対応する周期的な窪み33を露出させた。
工程(c):
窪み33を露出させたアルミニウム板30について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行い、細孔35を有する酸化皮膜34を形成した。
工程(d):
酸化皮膜34が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に8分間浸漬して、細孔35の径拡大処理を行った。
工程(e):
径拡大処理を行ったアルミニウム板30について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行い、細孔35から下方に延びる小径の細孔35を形成した。
工程(f):
工程(d)および工程(e)を合計で4回繰り返し、最後に工程(e)を行い、平均間隔(周期):100nm、深さ:180nmの略円錐形状の細孔35を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。
【0106】
得られた陽極酸化ポーラスアルミナを脱イオン水で洗浄し、表面の水分をエアーブローで除去し、表面防汚コーティング剤(ダイキン工業株式会社製、「オプツールDSX」)を固形分0.1質量%になるように希釈剤(株式会社ハーベス製、「HD−ZV」)で希釈した溶液に10分間浸漬し、20時間風乾してモールド40を得た。
【0107】
「微細凹凸構造体(1)の製造」
<微細凹凸構造を構成する材料(1)の調製>
トリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸をモル比2/1/4で反応させた混合物の45部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートの45部、シリコーンジアクリレート(信越化学工業株式会社製、「x−22−1602」)の10部、活性エネルギー線重合開始剤として、日本チバガイギー株式会社製の「イルガキュア184」の1.0部および「イルガキュア819」の0.1部を混合し、均一に溶解させ、微細凹凸構造を構成する材料(1)を調製した。
得られた微細凹凸構造を構成する材料(1)について硬化物の圧縮弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
<微細凹凸構造体(1)の製造>
微細凹凸構造を構成する材料(1)を50℃に調温し、50℃に調温したモールドの細孔が形成された表面に流し込み、その上に基材として厚さ38μmのポリエチレンテレフタラート(以下、PETと記す。)フィルム(三菱樹脂株式会社製、「WE97A」)を押し広げながら被覆した。その後、フィルム側からフュージョンランプを用いてベルトスピード6.0m/分で、積算光量1000mJ/cm
2となるよう紫外線を照射して、微細凹凸構造を構成する材料(1)を硬化させた。ついで、フィルムからモールドを剥離して、微細凹凸構造体(1)を得た。
得られた微細凹凸構造体(1)の表面には、モールドの微細凹凸構造が転写されており、
図2に示すような、隣り合う凸部13の距離w
1の平均値が100nm、凸部13の高さ(垂直距離d
1)の平均値が180nmの略円錐形状の微細凹凸構造が形成されていた。表面の水接触角および反射率の結果を表1に示す。
【0109】
「微細凹凸構造体(2)の製造」
<微細凹凸構造を構成する材料(2)の調製>
エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業株式会社製、「NKエステルATM−4E」)の85部、セチルアクリレート(日油株式会社製)の8部、メチルアクリレートの7部に、活性エネルギー線重合開始剤として、日本チバガイギー株式会社製の「イルガキュア184」の1.0部および「ダロキュアTPO」の0.5部を混合し、均一に溶解させ、微細凹凸構造を構成する材料(2)を調製した。
得られた微細凹凸構造を構成する材料(2)について硬化物の圧縮弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
<微細凹凸構造体(2)の製造>
微細凹凸構造を構成する材料(2)を用いた以外は、微細凹凸構造体(1)の製造方法と同じ方法で、微細凹凸構造体(2)を製造した。
得られた微細凹凸構造体(2)の表面には、モールドの微細凹凸構造が転写されており、
図2に示すような、隣り合う凸部13の距離w
1の平均値が100nm、凸部13の高さ(垂直距離d
1)の平均値が180nmの略円錐形状の微細凹凸構造が形成されていた。表面の水接触角および反射率の結果を表1に示す。
【0111】
「微細凹凸構造体(3)の製造」
<微細凹凸構造を構成する材料(3)の調製>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製、「NKエステルA−DPH」)の20部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(第一工業製薬株式会社製、「ニューフロンティアPET−3」)の25部、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、「NKエステルA−200」)の25部、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(第一工業製薬株式会社製、「ニューフロンティアDPEA−12」)の25部、メチルアクリレートの5部に、活性エネルギー線重合開始剤として、日本チバガイギー株式会社製の「イルガキュア184」の1.0部、および「イルガキュア819」の0.5部を混合し、均一に溶解させ、微細凹凸構造を構成する材料(3)を調製した。
得られた微細凹凸構造を構成する材料(3)について硬化物の圧縮弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0112】
<微細凹凸構造体(3)の製造>
微細凹凸構造を構成する材料(3)を用い、基材として厚さ38μmのアクリルフィルム(三菱レイヨン株式会社製、「アクリプレンHBS010」)を用いた以外は、微細凹凸構造体(1)の製造方法と同じ方法で、微細凹凸構造体(3)を製造した。
得られた微細凹凸構造体(3)の表面には、モールドの微細凹凸構造が転写されており、
図2に示すような、隣り合う凸部13の距離w
1の平均値が100nm、凸部13の高さ(垂直距離d
1)の平均値が180nmの略円錐形状の微細凹凸構造が形成されていた。表面の水接触角および反射率の結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
「合成例1」
<ウレタンアクリレート化合物(UA1)の合成>
ガラス製のフラスコに、イソシアネート化合物として、ヘキサメチレンジイソシアネート117.6g(0.7モル)およびイソシアヌレート型のヘキサメチレンジイソシアネート3量体151.2g(0.3モル)と、水酸基を有する(メタ)アクリロイル化合物として、2−ヒドロキシプロピルアクリレート128.7g(0.99モル)およびペンタエリスリトールトリアクリレート459g(1.54モル)と、触媒として、ジラウリル酸ジ−n−ブチル錫100質量ppmと、重合禁止剤として、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.55gとを仕込み、70〜80℃の条件にて残存イソシアネート濃度が0.1質量%以下になるまで反応させ、ウレタンアクリレート化合物(UA1)を得た。得られたウレタンアクリレート化合物(UA1)の平均の分子量は696であった。
【0115】
「実施例1」
保護フィルム基材として易接着層付PETフィルム(東洋紡績株式会社製、「A4300」、厚さ38μm)を用いた。該易接着層付PETフィルムの曲げ弾性率について、JIS K 7171:2008(ISO 178:2001)に記載されている試験方法に従って測定したところ、3100MPaであった。
表2に示す配合組成にて光重合性の硬化性樹脂組成物を調製した。得られた硬化性樹脂組成物の粘度および硬化物の圧縮弾性率を測定した。結果を表2に示す。
得られた硬化性樹脂組成物を微細凹凸構造体(1)の表面に滴下し、その上に易接着層付PETフィルムを被せて、ローラで厚さが均一になるように押圧しながら展ばして、硬化性樹脂組成物を介して微細凹凸構造体(1)と保護フィルム基材とを貼り合わせた。押圧時の圧力は0.15MPaであった。
フュージョンUVランプ(Dバルブ)(フュージョンUVシステムズ・ジャパン株式会社製)を用い、積算光量がおよそ1000mJ/cm
2になるように、保護フィルム基材側から活性エネルギー線を照射して硬化性樹脂組成物を硬化させ、保護フィルム樹脂層(厚さ約3〜5μm)と保護フィルム基材とで保護フィルムを形成するとともに、該保護フィルムにより微細凹凸構造体(1)の表面が保護された積層体(保護フィルム付き微細凹凸構造体)を得た。
得られた積層体について、密着性、巻き取り性、剥離性および糊残りを評価した。結果を表2に示す。
【0116】
「実施例2〜8、比較例1〜8」
表2、3に示す配合組成にて硬化性樹脂組成物を調製し、得られた硬化性樹脂組成物および表2、3に示す種類の微細凹凸構造体を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体(保護フィルム付き微細凹凸構造体)を製造し、各測定・評価を行った。結果を表2、3に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
なお、表2、3中の「圧縮弾性率の差」とは、硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率から、微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率を引いた値である。
また、表2、3中の略号は以下の通りである。
・UA1:上記合成例1で合成したウレタンアクリレート化合物(分子量696)。
・ATM−4E:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業株式会社製、「NKエステルATM−4E」、分子量528)。
・PET−3:ペンタエリスリトールトリアクリレート(第一工業製薬株式会社製、「ニューフロンティアPET−3」、分子量282)。
・EB8402:2官能ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック株式会社製、「エベクリル8402」、分子量1000)。
・C6DA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(分子量226)。
・AP400:ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油株式会社製、「ブレンマーAP−400」、分子量478)。
・IRG 184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(日本チバガイギー株式会社製、「IRGACURE 184」)。
・DAR TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(日本チバガイギー株式会社製、「DAROCURE TPO」)。
【0120】
表2に示す結果から明らかなように、実施例1〜8で得られた積層体は、保護フィルムが微細凹凸構造体に良好に密着していた。
また、実施例1〜8の場合、保護前と保護フィルム剥離後における微細凹凸構造体の水接触角や反射率の差が小さく、良好な撥水性や反射防止性能を維持していた。これらの結果より、保護フィルム樹脂層が微細凹凸構造体の表面に残留(糊残り)することなく保護フィルムを剥離できることが示された。
【0121】
一方、表3に示す結果から明らかなように、比較例1〜8で得られた積層体は、いずれも剥離性や糊残りに問題があった。
硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が30MPa未満である比較例1、5の場合、保護フィルムの剥離時に保護フィルム樹脂層が凝集破壊を起こし、良好に剥離ができなかった。また、微細凹凸構造体を覆い隠すように保護フィルム樹脂層が残ってしまったために、水接触角、反射率とも顕著に変化し、撥水性や反射防止性能が低下した。
硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が、微細凹凸構造を構成する材料の硬化物の圧縮弾性率より高い比較例2〜4、6、7の場合、保護フィルムを良好に剥離できなかった。特に、比較例3、7の場合は保護フィルム基材が引き裂けてしまい、評価に値する状態になかった。一方、比較例2、4、6の場合は微細凹凸構造が保護フィルム樹脂層と共に根こそぎ剥離している部分もあり、水接触角、反射率とも顕著に変化し、撥水性や反射防止性能が低下した。また、比較例4は硬化性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率が特に高く、保護フィルムの密着性や積層体の巻き取り性に劣っていた。
表面の水接触角が13°である微細凹凸構造体(3)を用いた比較例8は、微細凹凸構造体(3)と保護フィルム樹脂層との間の相互作用が強く、保護フィルムの剥離に大きな力を要したため、良好に剥離できなかった。また、分子量230以下の重合性成分(低分子量重合性成分)が微細凹凸構造体に浸透したためか、微細凹凸構造体が白濁し、外観を損なった。
【0122】
「比較例9」
実施例1で用いた硬化性樹脂組成物を、保護フィルム基材として易接着層付PETフィルム上にバーコーターを用いて平滑に塗布し、窒素雰囲気下で硬化させて、硬化性樹脂組成物の硬化物からなる保護フィルム樹脂層が保護フィルム基材の表面に形成された保護フィルムを得た。
得られた保護フィルムの保護フィルム樹脂層が微細凹凸構造体(1)の表面に貼着するように、保護フィルムを微細凹凸構造体(1)に貼り合わせようとしたが、保護フィルム樹脂層が堅く、微細凹凸構造に追従せず、接触面積を大きくすることができなかった。そのため、保護フィルムが微細凹凸構造体に密着せず、積層体を得られなかった。