特許第6044549号(P6044549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6044549-超微結晶合金薄帯の製造方法 図000018
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044549
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】超微結晶合金薄帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20161206BHJP
   H01F 1/16 20060101ALI20161206BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20161206BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20161206BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B22D11/06 360B
   B22D11/06 390
   H01F1/16 Z
   C22C45/02 A
   C22C38/00 303S
   C21D6/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-550334(P2013-550334)
(86)(22)【出願日】2012年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2012083093
(87)【国際公開番号】WO2013094690
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-277894(P2011-277894)
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】太田 元基
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 克仁
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/122589(WO,A1)
【文献】 特開2001−191151(JP,A)
【文献】 特開平07−266006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Fe100-x-y-zAxByXz(ただし、AはCu及び/又はAuであり、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ原子%で0<x≦5、4≦y≦22、0≦z≦10、及びx+y+z≦25の条件を満たす数である。)により表される組成を有し、非晶質母相中に平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が5〜30体積%の割合で分散した組織を有する超微結晶合金薄帯を製造する方法であって、
合金溶湯を回転する冷却ロール上に噴出することにより急冷し、
リールへの巻取り開始前に、曲げ半径1 mm以下に折曲げても破断しない靱性を有する薄帯を形成し、
リールへの巻取り開始後に、非晶質母相中に平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が5〜30体積%の割合で分散した組織が得られるように、前記薄帯の形成条件において、以下の3つの変更の少なくとも1つを行うことを特徴とする方法。
1.前記冷却ロール上のパドルの量を巻取り開始前より巻取り開始後に多くする。
2.前記超微結晶合金薄帯の巻取り開始後の目標厚さに対して巻取り開始前の厚さを2μm以上薄くし、巻取り開始後に前記目標厚さとする。
3.前記冷却ロールから前記超微結晶合金薄帯を剥離する温度を巻取り開始前より巻取り開始後に高くする。
【請求項2】
請求項1に記載の超微結晶合金薄帯の製造方法において、リールへの巻取り開始前の薄帯は、非晶質母相中に平均粒径0〜20 nmの超微細結晶粒が0〜4体積%の割合で分散した組織を有することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超微結晶合金薄帯の製造方法において、前記合金溶湯が、一般式:Fe100-x-y-zAxByXz(ただし、AはCu及び/又はAuであり、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ原子%で0<x≦5、4≦y≦22、0≦z≦10、及びx+y+z≦25の条件を満たす数である。)により表される組成を有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の磁性部品に好適な高飽和磁束密度及び優れた軟磁気特性を有する微結晶軟磁性合金を製造する際の中間製品である超微結晶合金薄帯を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のリアクトル、チョークコイル、パルスパワー磁性部品、トランス、アンテナ、モータ、発電機等の磁心、電流センサ、磁気センサ、電磁波吸収シート等に用いる軟磁性材として、珪素鋼、フェライト、Co基非晶質軟磁性合金、Fe基非晶質軟磁性合金及びFe基微結晶軟磁性合金がある。珪素鋼は安価で磁束密度が高いが、高周波では損失が大きく、かつ薄くしにくい。フェライトは飽和磁束密度が低いので、動作磁束密度が大きなハイパワー用途では磁気飽和しやすい。Co基非晶質軟磁性合金は高価な上に、飽和磁束密度が1 T以下と低いので、ハイパワー用に使用すると部品が大きくなり、また熱的に不安定であるため経時変化により損失が増加する。Fe基非晶質軟磁性合金は飽和磁束密度が1.5 T程度とまだ低く、また保磁力も十分低いとは言えない。Fe基微結晶軟磁性合金はこれらの軟磁性材より高い飽和磁束密度及び低い保磁力を有する。
【0003】
WO 2007/032531号は、このようなFe基微結晶軟磁性合金の一例を開示している。このFe基微結晶軟磁性合金は、一般式:Fe100-x-y-zCuxByXz(但し、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x,y及びzはそれぞれ原子%で、0.1≦x≦3、10≦y≦20、0<z≦10、及び10<y+z≦24の条件を満たす数である。)により表される組成、及び結晶粒径60 nm以下の結晶粒を非晶質母相中に30体積%以上分散した組織を有し、もって1.7 T以上の高い飽和磁束密度と低い保磁力を有する。このFe基微結晶軟磁性合金は、Fe基合金の溶湯を急冷することにより非晶質中に平均粒径30 nm以下の微結晶粒が30体積%未満の割合で分散した超微結晶合金薄帯を一旦作製し、この超微結晶合金薄帯に高温短時間又は低温長時間の熱処理を施すことにより製造される。最初に作製する超微結晶合金薄帯は、Fe基微結晶軟磁性合金の微結晶組織の核となる超微細結晶粒を有するので、靭性が低く、ハンドリングが難しい。
【0004】
アモルファス合金薄帯は一般に単ロール装置を用いた液体急冷法により製造され、急冷凝固した薄帯は巻取り装置にそのまま連続的に巻き取られる。巻取り方法としては、例えば特開2001-191151号に記載のように、ロールから剥離された薄帯を粘着テープを有する巻取りリールに粘着させた後巻き取る方法がある。
【0005】
WO 2007/032531号の超微結晶合金薄帯を安定的に量産するため種々検討した結果、従来のアモルファス合金薄帯の製造では遭遇しない問題、すなわち、薄帯を巻き取る際に破断が生じるという問題があることが分かった。超微結晶合金薄帯の製造では、急冷した超微結晶合金薄帯と冷却ロールとの間に不活性ガス(窒素等)を吹き付けることにより超微結晶合金薄帯を冷却ロールから剥離し、宙に舞う超微結晶合金薄帯の端部を回転するリールに巻き取る。しかし、従来の巻取り方法は高靭性で破断しにくいアモルファス合金薄帯を対象としており、低靭性で切れ易い超微結晶合金薄帯には適さない。特に特開2001-191151号に記載のように粘着テープで薄帯を固定する場合、30 m/sもの高速で飛び出す薄帯を高速で回転するリールに巻き取るため、薄帯は優れた耐ねじれ応力性及び耐衝撃性を有していなければならない。しかし、超微細結晶粒が多数析出した超微結晶合金薄帯では、衝撃等の応力が加わると超微細結晶粒が応力集中の起点となり、破断につながり易い。このように本発明が対象とする超微結晶合金薄帯には、靭性が低いために切れ易く、巻取性が悪いという問題がある。
【0006】
WO 2011/122589号は、一般式:Fe100-x-y-zAxByXz(ただし、AはCu及び/又はAuであり、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ原子%で0<x≦5、10≦y≦22、0≦z≦10、及びx+y+z≦25の条件を満たす数である。)により表される組成を有し、平均粒径30 nm以下の初期超微結晶粒が非晶質母相中に5〜30体積%の割合で分散した組織を有する初期超微結晶合金であって、その示差走査熱量(DSC)曲線は結晶化開始温度TX1と化合物析出温度TX3との間に第一の発熱ピークと前記第一の発熱ピークより小さい第二の発熱ピークとを有し、前記第一の発熱ピーク及び前記第二の発熱ピークの総発熱量に対する前記第二の発熱ピークの発熱量の割合が3%以下であることを特徴とする初期超微結晶合金を開示している。しかしWO 2011/122589号では、巻取り開始時の初期超微結晶合金薄帯の破断の問題が検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、超微結晶合金薄帯の製造方法であって、従来の巻取り装置をそのまま利用して超微結晶合金薄帯を破断させることなく効率良く巻き取ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高速回転する巻取りドラム(リール)に薄帯を高速で巻取る場合、巻取り開始直後に大きな応力、衝撃、ねじれ等が加わるので、薄帯の脆さは巻取りにとって大きな障害となる。さらに、巻取り開始後数十秒間はリールと薄帯との速度が同期していないので、突然大きな応力や衝撃が加わることがあり、薄帯に十分な靱性及び耐衝撃性が要求される。このような事情に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、非晶質母相中における超微細結晶粒の割合を巻取り開始前で小さくすることにより、薄帯に十分な靱性及び耐衝撃性を付与すると、巻取り開始時の破断等の問題を解消できることを発見し、本発明に想到した。
【0009】
一般式:Fe100-x-y-zAxByXz(ただし、AはCu及び/又はAuであり、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ原子%で0<x≦5、4≦y≦22、0≦z≦10、及びx+y+z≦25の条件を満たす数である。)により表される組成を有し、非晶質母相中に平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が5〜30体積%の割合で分散した組織を有する超微結晶合金薄帯を製造する本発明の方法は、
合金溶湯を回転する冷却ロール上に噴出することにより急冷し、
リールへの巻取り開始前に、曲げ半径1 mm以下に折曲げても破断しない靱性を有する薄帯を形成し、
リールへの巻取り開始後に、非晶質母相中に平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が5〜30体積%の割合で分散した組織が得られるように、前記薄帯の形成条件において、以下の3つの変更の少なくとも1つを行うことを特徴とする。
1.前記冷却ロール上のパドルの量を巻取り開始前より巻取り開始後に多くする。
2.前記超微結晶合金薄帯の巻取り開始後の目標厚さに対して巻取り開始前の厚さを2μm以上薄くし、巻取り開始後に前記目標厚さとする。
3.前記冷却ロールから前記超微結晶合金薄帯を剥離する温度を巻取り開始前より巻取り開始後に高くする。
【0010】
リールへの巻取り開始前の薄帯は、非晶質母相中に平均粒径0〜20 nmの超微細結晶粒が0〜4体積%の割合で分散した組織を有するのが好ましい。
【0011】
ドル量を増大させる方法として、(a) 合金溶湯噴出ノズルと冷却ロールとの間のギャップを大きくする方法、(b) 合金溶湯の噴出圧力を高める方法、(c) 冷却ロールの周速を遅くする方法、及び(d) これらの方法の組合せが挙げられる。
【0012】
離温度を高める好ましい方法として、前記超微結晶合金薄帯の剥離位置をロールの下流側から上流側(ノズルに近い位置)にずらす方法が挙げられる。
【0013】
前記超微結晶合金薄帯を製造するのに用いる合金溶湯の好ましい組成は、一般式:Fe100-x-y-zAxByXz(ただし、AはCu及び/又はAuであり、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ原子%で0<x≦5、4≦y≦22、0≦z≦10、及びx+y+z≦25の条件を満たす数である。)により表される。
【0014】
上記超微結晶合金薄帯の熱処理により得られる微結晶軟磁性合金薄帯は、非晶質母相中に平均粒径60 nm以下の微細結晶粒が30体積%以上の割合で分散した組織を有し、1.7 T以上の飽和磁束密度及び24 A/m以下の保磁力を有する。上記微結晶軟磁性合金薄帯から各種の磁性部品が形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法により従来の巻取り装置をそのまま利用して超微結晶合金薄帯を破断することなく巻き取ることができるので、超微結晶合金薄帯を高い生産歩留まりで安定的に量産することができる。かかる超微結晶合金薄帯から、高飽和磁束密度で軟磁気特性に優れた微結晶軟磁性合金薄帯及び磁性部品が得られる。
【0016】
本発明の方法により製造された微結晶軟磁性合金薄帯を用いた磁性部品は、飽和磁束密度が高いので、磁気飽和が問題となるハイパワーの用途(例えばアノードリアクトル等の大電流用リアクトル、アクティブフィルタ用チョークコイル、平滑用チョークコイル、レーザ電源や加速器等に用いられるパルスパワー磁性部品、トランス、通信用パルストランス、モータ又は発電機の磁心、ヨーク材、電流センサ、磁気センサ、アンテナ磁心、電磁波吸収シート等)に好適である。微結晶軟磁性合金薄帯の積層体は、ステップラップやオーバラップ状に巻いた変圧器用鉄心にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】曲げ試験方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
超微結晶合金薄帯はFe基合金溶湯から液体急冷法により得られ、熱処理により優れた軟磁気特性を有する微結晶軟磁性合金薄帯とすることができる。本発明の製造方法は、巻取り開始前は高靱性の組織を有するような条件で薄帯を形成し、巻取り開始後は優れた軟磁気特性を発揮する組織を有するように薄帯の形成条件を変更することを特徴とする。このような組織の変化が起こる限り、Fe基合金の組成は限定的でない。
【0019】
[1] 超微結晶合金薄帯の製造方法
(1) 合金溶湯
巻取り開始前に高靱性の組織とし、巻取り開始後に優れた軟磁気特性を発揮する組織とすることができる組成を有する限り、合金溶湯は特に限定されないが、例えばFe100-x-y-zAxByXz(ただし、AはCu及び/又はAuであり、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ原子%で0<x≦5、4≦y≦22、0≦z≦10、及びx+y+z≦25の条件を満たす数である。)により表される組成を有するものが好ましい。超微結晶合金薄帯の熱処理により得られる微結晶軟磁性合金薄帯の飽和磁束密度Bsは、0.5≦x≦2、10≦y≦20、及び1≦z≦9の場合1.74 T以上であり、1.0≦x≦1.8、10≦y≦18、及び2≦z≦8の場合1.78 T以上であり、また1.2≦x≦1.6、10≦y≦16、及び3≦z≦7の場合1.8 T以上である。
【0020】
上記組成式においてA元素としてCuを使用した場合を例にとって、本発明の製造方法を以下詳細に説明するが、勿論本発明はそれに限定されるものではない。
【0021】
(2) 溶湯の急冷
合金溶湯の急冷は単ロール法により行うことができる。溶湯温度は合金の融点より50〜300℃高いのが好ましく、例えば超微細結晶粒が析出した厚さ数十μmの薄帯を製造する場合、1300℃台の溶湯をノズルから冷却ロール上に噴出させるのが好ましい。単ロール法における雰囲気は、合金が活性な金属を含まない場合は空気又は不活性ガス(Ar、窒素等)であり、活性な金属を含む場合は不活性ガス(Ar、He、窒素等)又は真空である。表面に酸化皮膜を形成するためには、溶湯の急冷を酸素含有雰囲気(例えば空気)中で行うのが好ましい。
【0022】
(3) 巻取り
(a) 巻取り開始前
薄帯は巻取り時に大きな応力、衝撃、捻じり等を受けるおそれがあるので、破断なしにリールに巻き取れるように十分な靱性及び耐衝撃性を有する必要がある。ところが、非晶質母相中に形成される超微細結晶粒が多すぎると、超微結晶合金薄帯の靭性は満足な巻取りに不十分であり、破断等のトラブルが起こるおそれがある。
【0023】
超微細結晶粒は、液体急冷時にCu原子の拡散及び凝集により形成されたクラスタ(数nm程度の規則格子)を核として析出したものであり、その析出量は冷却速度に相関する。冷却速度が速いとCuの溶解度が過飽和に達する前に非晶質相が安定となるため、超微細結晶粒の数密度(単位面積当たりの数)は低く、通常の非晶質(アモルファス)合金とさほど変わらない。一方、冷却速度が遅いと超微細結晶粒の数密度が高くなり、析出硬化により硬度が上がり、低靭性で割れやすくなる。そこで、巻取り開始前の所定の時間(例えば、約20秒間)、合金溶湯の冷却速度を速くして超微細結晶粒の析出量を抑えることにより高靭性とする。
【0024】
超微結晶合金薄帯を破断なしに巻き取れる時期を製造現場で短時間で判定するために、超微結晶合金薄帯の靭性に対応する特性として、曲げ半径1mm以下の曲げ特性を評価するのが好ましい。図1に示すように薄帯1を直径Dが2 mmの丸棒2に巻き付けたときに破断が生じない場合、超微結晶合金薄帯は満足な曲げ特性を有すると言える。丸棒2の直径Dが1 mmでも破断が生じないのが好ましく、丸棒2の直径Dが0.5 mmでも破断が生じないのがより好ましく、完全に折り曲げても破断が生じないのが最も好ましい。なお、薄帯の全幅の90%以上が破断しなければ、巻取りは十分に可能であるので、ここで「破断が生じない」とは、安全な巻取りを保証し得る程度に破断が生じないことを意味する。
【0025】
曲げ試験の方法としては、例えば、丸棒2から十分に離隔した位置3で薄帯1を手で把持し、輪状になった薄帯1の内側に丸棒2を入れ、薄帯1にピンと接するように丸棒2を位置3から遠ざかる方向に移動させる。薄帯1の曲げ半径が1 mmであれば薄帯1を把持する位置3は限定されないが、一般に位置3での薄帯1の中心角αを30°以内にすれば良い。なお、丸棒はステンレススチール、アルミニウム等からなるもので良い。
【0026】
分析の結果、満足な曲げ特性を有する(破断なしにリールに巻取れる)超微結晶合金薄帯は、平均粒径0〜20 nmの超微細結晶粒の体積分率が0〜4体積%である組織を有することが分った。超微細結晶粒の体積分率が0〜4体積%であれば、薄帯は十分な強度及び靱性を有し、アモルファス合金と同様に、巻取り張力下でも破断することなく安定的に巻取りが可能となる。巻取り開始前の超微細結晶粒の体積分率は0〜3体積%が好ましく、0〜2体積%がより好ましい。このような超微細結晶粒の平均粒径は、一般に0〜20 nmであり、好ましくは0〜10 nmであり、より好ましくは0〜5 nmであり、最も好ましくは0〜2 nmである。
【0027】
(b) 巻取り開始後
薄帯のリールへの巻取りは、例えばリールの表面に貼り付けた粘着テープ等に薄帯の端部を接着させることにより行うことができる。一旦リールに巻き取られると、合金薄帯は剥離ガスを吹き付けられても空中を舞わなくなるので、破断の原因となるねじれ等を抑制でき、確実に破断なく巻取りを行うことができる。その後、例えばノズルとロール間のギャップを広げて薄帯を厚くし、もって冷却速度を遅くするパドル制御を行い、超微細結晶粒の体積分率を高め、平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が非晶質母相中に5〜30体積%分散した組織の薄帯を形成する。5〜30体積%の超微細結晶粒が分散した組織を有する薄帯は巻取り開始前の薄帯より脆いが、既にリールに巻かれているので、破断することなく継続して巻取り作業を行うことができる。
【0028】
巻取り開始前に形成される薄帯は、平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が非晶質母相中に5〜30体積%の割合で分散した組織を有さないので、不用の薄帯部分である。さらに、巻取り開始後に上記組織の薄帯を形成する条件に変更しても、ただちにそのような薄帯が得られる訳ではないので、巻取り開始直後から上記組織の薄帯が形成されるまでの間も同様に、不用の薄帯が形成される。従って、巻取り開始前と、巻取り開始から上記組織が得られるまでの間をできるだけ短くするのが好ましい。
【0029】
このように巻取り開始前に超微細結晶粒の析出を抑えて靭性を高め、巻取り開始後に超微細結晶粒の析出量を高めて所望の組織とすることにより、高靱性の薄帯でも巻取り作業を安定化できる本発明の方法は、超急冷法により超微細結晶粒が形成される組成を有する限りいかなる合金薄帯に対しても実施可能である。
【0030】
(4) 冷却ロールの周速制御
超微細結晶粒の体積分率は合金薄帯の冷却速度及び時間と密接に関連するので、冷却ロールの周速制御は超微細結晶粒の体積分率を制御する重要な手段の一つである。一般にロールの周速が速くなると超微細結晶粒の体積分率は低減し、遅くなると増加する。巻取り開始後のロール周速は15〜50 m/sが好ましく、20〜40 m/sがより好ましく、20〜30 m/sが最も好ましい。高靭性の薄帯を形成する巻取り開始前の工程と、5〜30体積%の超微細結晶粒を有する薄帯を形成する巻取り開始後の工程とを連続してスムーズに行うためには、薄帯の巻取り開始前後のロールの周速差(巻取り開始前のロール周速−巻取り開始後のロール周速)を2〜5 m/s程度にするのが好ましい。
【0031】
ロールの材質としては、高熱伝導率を有する純銅又はCu-Be、Cu-Cr、Cu-Zr、Cu-Zr-Cr等の銅合金が適している。大量生産の場合、又は厚い及び/又は広幅の薄帯を製造する場合、ロールは水冷式が好ましい。ロールの水冷は超微細結晶粒の体積分率に影響するので、ロールの冷却能力(冷却速度と言っても良い。)を鋳造当初から終了まで一定に維持する。ロールの冷却能力は冷却水の温度に相関するので、冷却水を所定温度に保つ必要がある。
【0032】
(5) ノズルと冷却ロール間のギャップの調整
ロール急冷法では合金溶湯を高速で回転する冷却ロールに吹き付けるが、溶湯はロール上で直ちに凝固することはなく、ある程度の粘度及び表面張力を有する湯溜まり(パドル)がノズル直下に10-8〜10-6 秒程度保持される。パドル量を多くすると薄帯は厚くなり、その結果超微細結晶粒の体積分率は大きくなる。巻取り開始後にパドル量を多くする方法としては、ノズルとロール間のギャップを広げる方法(ギャップ調整法)、ロールの周速を遅くする方法、及び出湯圧力又は溶湯の自重を増大させる方法が挙げられる。ただし、出湯圧力又は溶湯の自重を増大させる方法では、溶湯の残量、温度等によりパドル量が変動するため、正確な制御が困難である。これに対して、ギャップ調整の場合、ノズルとロール間の距離をモニタリングし、常にフィードバックをかけることにより比較的簡単に正確な制御が可能である。従って、ギャップ調整により超微細結晶粒の析出量を制御するのが好ましい。
【0033】
具体的には、非晶質母相中に平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が5〜30体積%の割合で分散した組織を有する薄帯の厚さを目標厚さとし、目標厚さより2μm以上薄い薄帯を形成すると、平均粒径0〜20 nmの超微細結晶粒の体積分率を0〜4体積%にできることが分かった。目標の薄帯の厚さを約15〜30μmに設定した場合、目標厚さより2μm以上薄くなるようにパドル制御することにより、平均粒径0〜20 nmの超微細結晶粒が0〜4体積%の割合で分散した組織を有する薄帯が得られる。目標厚さ−巻取り開始前の薄帯の厚さは組成にもよるが2〜5μmが好ましく、2〜3μmがより好ましい。
【0034】
ギャップ調整の場合、ギャップが広すぎると、薄帯は中央部が厚く端部が薄い断面形状となり易くなり、冷却速度の差により幅方向中央部における超微細結晶粒の体積分率が端部におけるより高くなる傾向になる。従って、ギャップの上限は300μmが好ましく、250μmがより好ましく、220μmが最も好ましい。一方、ギャップを狭くすると端部より幅方向中央部の方を薄くできるので板厚差を抑制できるが、パドルが崩壊し易くなる。従って、ギャップの下限は100μmが好ましく、130μmがより好ましく、150μmが最も好ましい。スリット形状を変えても超微細結晶粒の体積分率の幅方向分布を平均化できるが、中央部におけるスリット間隔を狭くすると溶湯が詰まり易くなるので、端部のスリット間隔/中央部のスリット間隔の比を2倍以下にするのが望ましい。
【0035】
(6) 剥離温度及び剥離位置の制御
巻取り開始後に薄帯の剥離温度を高くすると、超微細結晶粒の体積分率は増大する。急冷した薄帯の冷却ロールからの剥離は、薄帯と冷却ロールとの間に不活性ガス(窒素等)を吹き込むことにより行うことができる。薄帯の剥離温度は不活性ガスを吹き付けるノズルの位置(剥離位置)を変えることにより調整できる。一般に、剥離位置をロールの下流側(吐出ノズルから遠い位置)にすると、急冷の進行により超微細結晶粒の体積分率が低下し、上流側(吐出ノズルに近い位置)にすると急冷が進まずに超微細結晶粒の体積分率が高くなる。従って、薄帯の剥離温度を上昇させるために、巻取り開始後に剥離位置を吐出ノズルに近付ける。
【0036】
平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒を5〜30体積%の割合で含有する組織を得るには、薄帯の剥離温度は170〜350℃が好ましく、200〜340℃がより好ましく、250〜330℃が最も好ましい。剥離温度が350℃超であると、Cuによる結晶化が進み過ぎ、表面近傍に高B濃度非晶質層が形成されないので、高靭性が得られない。一方、剥離温度が170℃未満であると、急冷が進んで合金組織がほぼ非晶質となる。そこで、巻取り開始前には剥離位置の調整により薄帯の剥離温度を160℃以下とし、薄帯を非晶質に近い状態で剥離し、巻取り開始後に、剥離位置を上流側(吐出ノズルに近い位置)にずらして薄帯の剥離温度を170〜350℃とし、もって5〜30体積%の超微細結晶粒を有する組織の薄帯を得ることができる。巻取り開始前の薄帯の剥離温度は150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。ただし、剥離位置の制御は上述のギャップ調整やロール周速の制御より難しい制御技術を要する。
【0037】
[2] 超微結晶合金薄帯
本発明の方法により得られる超微結晶合金薄帯のうち、巻取り開始後に形成される部分は、平均粒径が1〜30 nmの超微細結晶粒が非晶質母相中に5〜30体積%の割合で分散した組織を有する。超微細結晶粒の平均粒径が30 nm超であると、熱処理により粗大な微結晶粒が得られ、満足な軟磁気特性が得られない。一方、超微細結晶粒の平均粒径が1 nm未満であると(完全に又はほとんど非晶質であると)、かえって熱処理により粗大結晶粒ができ易い。超微細結晶粒の平均粒径の下限は3 nmが好ましく、5 nmがより好ましい。従って、超微細結晶粒の平均粒径は一般に1〜30 nmであり、好ましくは3〜25 nmであり、より好ましくは5〜20 nmであり、最も好ましくは5〜15 nmである。このような超微細結晶粒の体積分率は一般に5〜30%であり、好ましくは6〜25%であり、より好ましくは8〜25%であり、最も好ましくは10〜25%である。
【0038】
超微結晶粒間の平均距離(重心間の平均距離)が50 nm以下であると、微結晶粒の磁気異方性が平均化され、実効結晶磁気異方性が低下するので好ましい。平均距離が50 nmを超えると、磁気異方性の平均化の効果が薄れ、実効結晶磁気異方性が高くなり、軟磁気特性が悪化する。
【0039】
[3] 熱処理方法
超微結晶合金薄帯に施す熱処理の態様には、薄帯を100℃/分以上の昇温速度で(TX2−50)℃以上(TX2は化合物の析出温度である。)の最高温度まで加熱し、最高温度に1時間以下保持する高温高速熱処理と、薄帯を約350℃以上〜430℃未満の最高温度に1時間以上保持する低温長時間熱処理とがある。
【0040】
(1) 高温短時間熱処理
高温短時間熱処理では、最高温度までの平均昇温速度は100℃/分以上が好ましい。特に粒成長が始まる300℃以上の高温域での昇温速度は磁気特性に大きな影響を与えるため、300℃以上での平均昇温速度は100℃/分以上で短時間に通過させるのが好ましい。熱処理の最高温度は(TX2−50)℃以上(TX2は化合物の析出温度である。)が好ましく、具体的には430℃以上が好ましい。430℃未満であると、微細結晶粒の析出及び成長が不十分である。最高温度の上限は500℃(TX2)であるのが好ましい。最高温度の保持時間を1時間超にしても微結晶化はあまり変わらず、生産性が低いだけである。従って、最高温度の保持時間は好ましくは30分以下であり、より好ましくは20分以下であり、最も好ましくは15分以下である。このような高温熱処理でも、短時間であれば結晶粒成長を抑制するとともに化合物の生成を抑えることができ、保磁力が低下し、低磁場での磁束密度が向上し、ヒステリシス損失が減少する。
【0041】
(2) 低温長時間熱処理
低温長時間熱処理では、薄帯を約350℃以上〜430℃未満の最高温度に1時間以上保持する。量産性の観点から、保持時間は24時間以下が好ましく、4時間以下がより好ましい。保磁力の増加を抑制するため、平均昇温速度は0.1〜200℃/分が好ましく、0.1〜100℃/分がより好ましい。この熱処理により角形性の高い微結晶軟磁性合金薄帯が得られる。この熱処理はまた既存の装置を用いることができ、かつ量産性に優れている。
【0042】
(3) 熱処理雰囲気
熱処理雰囲気は空気でもよいが、窒素、Ar、ヘリウム等の不活性ガスと酸素との混合ガスが好ましい。Si,Fe,B及びCuを表面側に拡散させることにより所望の層構成を有する酸化皮膜を形成するために、熱処理雰囲気の酸素濃度は6〜18%が好ましく、8〜15%がより好ましく、9〜13%が最も好ましい。熱処理雰囲気の露点は−30℃以下が好ましく、−60℃以下がより好ましい。
【0043】
(4) 磁場中熱処理
磁場中熱処理により合金薄帯に良好な誘導磁気異方性を付与するために、熱処理温度が200℃以上である間(20分以上が好ましい)、昇温中、最高温度の保持中及び冷却中のいずれでも、軟磁性合金を飽和させるのに十分な強さの磁場を印加するのが好ましい。磁場強度は合金薄帯の形状に応じて異なるが、薄帯の幅方向(環状磁心の場合、高さ方向)及び長手方向(環状磁心の場合、円周方向)のいずれに印加する場合でも8 kA/m以上が好ましい。磁場は直流磁場、交流磁場、パルス磁場のいずれでも良い。磁場中熱処理により高角形比又は低角形比の直流ヒステリシスループを有する微結晶軟磁性合金薄帯が得られる。磁場を印加しない熱処理の場合、微結晶軟磁性合金薄帯は中程度の角形比の直流ヒステリシスループを有する。
【0044】
[4] 微結晶軟磁性合金薄帯の組織
熱処理後の合金薄帯(微結晶軟磁性合金薄帯)は、平均粒径60 nm以下の体心立方(bcc)構造の微細結晶粒が30%以上の体積分率で非晶質相中に分散した組織を有する。微細結晶粒の平均粒径が60 nmを超えると軟磁気特性が低下する。微細結晶粒の体積分率が30%未満では、非晶質の割合が多すぎ、飽和磁束密度が低い。熱処理後の微細結晶粒の平均粒径は40 nm以下が好ましく、30 nm以下がより好ましい。微細結晶粒の平均粒径の下限は一般に12 nmであり、好ましくは15 nmであり、より好ましくは18 nmである。また熱処理後の微細結晶粒の体積分率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。60 nm以下の平均粒径及び30%以上の体積分率で、Fe基非晶質合金より磁歪が低く軟磁気特性に優れた合金薄帯が得られる。同組成のFe基非晶質合金薄帯は磁気体積効果により比較的大きな磁歪を有するが、bcc-Feを主体とする微細結晶粒が分散した微結晶軟磁性合金は磁気体積効果により生じる磁歪がはるかに小さく、ノイズ低減効果が大きい。
【0045】
[5] 表面処理
微結晶軟磁性合金薄帯に、必要に応じてSiO2、MgO、Al2O3等の酸化物被膜を形成しても良い。表面処理を熱処理工程中に行うと酸化物の結合強度が上がる。必要に応じて微結晶軟磁性合金薄帯からなる磁心に樹脂を含浸させても良い。
【0046】
[6] 磁性合金の例
本発明を適用し得る磁性合金は、一般式:Fe100-x-y-zAxByXz(ただし、AはCu及び/又はAuであり、XはSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、y及びzはそれぞれ原子%で0<x≦5、4≦y≦22、0≦z≦10、及びx+y+z≦25の条件を満たす数である。)により表される組成を有する。勿論、上記組成は不可避不純物を含んでも良い。ここで1.7 T以上の飽和磁束密度Bsを必要とする場合は、bcc-Feの微細結晶(ナノ結晶)を有する組織となる必要があり、そのためにはFe含有量が高いことが必要である。具体的には、Fe含有量は75原子%以上が必要であり、好ましくは77原子%以上、より好ましくは78原子%以上である。
【0047】
良好な軟磁気特性、具体的には24 A/m以下、好ましくは12 A/m以下の保磁力と1.7 T以上の飽和磁束密度Bsとをともに有するために、この合金は、高いFe含有量でも安定的に非晶質相が得られる下記Fe-B系を基本組成に、Feと非固溶の核生成元素A(Cu及び/又はAu)を含有する。具体的には、非晶質の主相が安定的に得られるFeが88原子%以下のFe-B系合金に、Feと非固溶であるCu及び/又はAuを添加することにより超微細結晶粒を析出させる。超微細結晶粒はその後の熱処理により均質に成長する。
【0048】
A元素の量xが少なすぎると微細結晶粒の析出が困難であり、5原子%を超えると急冷により非晶質相を主相とする薄帯が脆化する。コスト的にA元素はCuが好ましい。3原子%を超えると軟磁気特性が悪化する傾向にある。従って、Cuの含有量xは一般に0原子%超〜5原子%以下であり、好ましくは0.5〜2原子%であり、より好ましくは1.0〜1.8原子%であり、最も好ましくは1.2〜1.6原子%であり、特に1.3〜1.4原子%である。
【0049】
B(ボロン)は非晶質相の形成を促進する元素である。Bが4原子%未満であると非晶質相の形成が困難になる。非晶質相を主相とする組織を得るためには10原子%以上が好ましい。一方、22原子%を超えると得られる合金薄帯の飽和磁束密度が1.7 T未満となる。従って、Bの含有量yは一般に4〜22原子%であり、好ましくは10〜20原子%であり、より好ましくは10〜18原子%であり、最も好ましくは10〜16原子%であり、特に12〜14原子%である。
【0050】
X元素はSi,S,C,P,Al,Ge,Ga及びBeから選ばれた少なくとも一種の元素であり、特にSiが好ましい。X元素の添加により結晶磁気異方性の大きいFe-B又はFe-P(Pを添加した場合)が析出する温度が高くなるため、熱処理温度を高くできる。高温の熱処理を施すことにより微細結晶粒の割合が増え、Bsが増加し、B-H曲線の角形性が改善され、薄帯表面の変質又は変色を抑えることもできる。X元素の含有量zの下限は0原子%でも良いが、1原子%以上であると薄帯の表面にX元素による酸化物層が形成され、内部の酸化を十分に抑制できる。またX元素の含有量zが10原子%を超えるとBsが1.7 T未満となる。従って、X元素の含有量zは一般に0〜10原子%であり、好ましくは1〜9原子%であり、より好ましくは2〜8原子%であり、最も好ましくは3〜7原子%であり、特に3.5〜6原子%である。
【0051】
超微結晶合金薄帯の飽和磁束密度は、0.5≦x≦2、10≦y≦20、及び1≦z≦9の領域では1.74 T以上であり、1.0≦x≦1.8、10≦y≦18、及び2≦z≦8の領域では1.78 T以上であり、1.2≦x≦1.6、10≦y≦16、及び3≦z≦7の領域では1.8 T以上である。
【0052】
X元素のうちPは非晶質相の形成能を向上させる元素であり、微細結晶粒の成長を抑えるとともに、Bの酸化皮膜への偏析を抑える。そのため、Pは高靭性、高Bs及び良好な軟磁気特性の実現に好ましい。Pの含有により、例えば合金薄帯を半径1 mmの丸棒に巻きつけても割れが発生しなくなる。この効果はナノ結晶化熱処理の昇温速度に係わらず得られる。X元素として他の元素S,C,Al,Ge,Ga及びBeも用いることができる。これらの元素の含有により磁歪及び軟磁気特性を調整できる。X元素はまた表面に偏析しやすく、強固な酸化皮膜の形成に有効である。
【0053】
Feの一部をNi,Mn,Co,V,Cr,Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta及びWから選ばれた少なくとも一種のE元素で置換しても良い。E元素の量は好ましくは0.01〜10原子%であり、より好ましくは0.01〜3原子%であり、最も好ましくは0.01〜1.5原子%である。E元素のうち、Ni,Mn,Co,V及びCrはB濃度の高い領域を表面側に移動させる効果を有し、表面に近い領域から母相に近い組織とし、もって軟磁性合金薄帯の軟磁気特性(透磁率、保磁力等)を改善する。またA元素及びB、Si等のメタロイド元素とともに熱処理後も残留する非晶質相に優先的に入るため、Fe含有量の高い微細結晶粒の成長を抑制し、微細結晶粒の平均粒径を低下させ、もって飽和磁束密度Bs及び軟磁気特性を改善する。
【0054】
特にFeの一部をA元素とともにFeに固溶するNi又はCoで置換すると、添加し得るA元素の量が増加し、もって結晶組織の微細化が促進され、軟磁気特性が改善される。Niの含有量は0.1〜2原子%が好ましく、0.5〜1原子%がより好ましい。Niの含有量が0.1原子%未満ではハンドリング性(切断や巻回の加工性)の向上効果が不十分であり、2原子%を超えるとBs、B80及びHcが低下する。Coの含有量も0.1〜2原子%が好ましく、0.5〜1原子%がより好ましい。
【0055】
Ti,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta及びWも同様にA元素及びメタロイド元素とともに熱処理後も残留する非晶質相に優先的に入るため、飽和磁束密度Bs及び軟磁気特性の改善に寄与する。一方、原子量の大きいこれらの元素が多すぎると、単位重量当たりのFeの含有量が低下して軟磁気特性が悪化する。これらの元素は総量で3原子%以下とするのが好ましい。特にNb及びZrの場合、含有量は合計で2.5原子%以下が好ましく、1.5原子%以下がより好ましい。Ta及びHfの場合、含有量は合計で1.5原子%以下が好ましく、0.8原子%以下がより好ましい。
【0056】
Feの一部をRe、Y、Zn、As、Ag、In、Sn、Sb、白金族元素、Bi、N、O、及び希土類元素から選ばれた少なくとも一種の元素で置換しても良い。これらの元素の含有量は総量で5原子%以下が好ましく、2原子%以下がより好ましい。特に高い飽和磁束密度を得るためには、これらの元素の総量は1.5原子%以下が好ましく、1.0原子%以下がより好ましい。
【0057】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、薄帯の剥離温度、超微細結晶粒及び微結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び薄帯の飽和磁束密度及び保磁力は下記の方法により求めた。
【0058】
(1) 薄帯の剥離温度
ノズルから吹き付ける窒素ガスにより冷却ロールから剥離するときの薄帯の温度を放射温度計(アピステ社製、型式:FSV-7000E)により測定し、薄帯の剥離温度とした。
【0059】
(2) 超微細結晶粒及び微結晶粒の平均粒径及び体積分率
巻取り開始前又は後の薄帯における超微細結晶粒の平均粒径は、各薄帯の任意の領域のTEM写真において任意に選択したn個(30個以上)の超微細結晶粒の長径DL及び短径DSを測定し、Σ(DL+DS)/2nの式に従って平均することにより求めた。またTEM写真に5本の長さLtの直線を任意に引き、各直線が微結晶粒と交差する部分の長さの合計Lcを求め、各直線に沿った結晶粒の割合LL=Lc/Ltを計算した。この操作を5本の直線に対して繰り返し、LLを平均することにより超微細結晶粒の体積分率を求めた。ここで、体積分率VL=Vc/Vt(Vcは超微細結晶粒の体積の総和であり、Vtは試料の体積である。)は、VL≒Lc3/Lt3=LL3と近似的に扱った。熱処理後の薄帯における微細結晶粒の平均粒径及び体積分率の測定方法も同じである。
【0060】
(3) 薄帯の飽和磁束密度及び保磁力
実施例、参照例及び比較例のいずれも、約15分で410℃まで昇温した後、1時間保持する低温長時間熱処理を施すことにより作製した微結晶軟磁性合金薄帯に対して、B-Hループトレーサー(メトロン技研株式会社製)により、8000 A/mにおける磁束密度B8000(ほぼ飽和磁束密度Bsと同じ)と80 A/mにおける磁束密度B80、及び保磁力Hcを測定した。
【0061】
実施例1
Febal.Cu1.4Si4B14(原子%)の組成を有する合金溶湯(1300℃)を、30 m/sと一定の周速で回転する銅合金製冷却ロール上に吹き付け、表1に示す出湯条件で幅25 mm及び全長約10000 mの超微結晶合金薄帯を形成し、250℃の温度でロールから剥離した。図1に示すように、この超微結晶合金薄帯を直径Dが2 mmの丸棒に巻き付け、曲げ半径が1 mmの曲げ試験を行ったところ、破断は起こらなかった。
【0062】
次に、冷却ロールから剥離されて宙に舞う超微結晶合金薄帯の端部を回転するリールの表面に巻き付けた粘着テープに貼付け、リールに巻き取ったが(特開2001-191151号を参照)、破断は全く起こらなかった。これから、曲げ半径1 mmの曲げ試験をパスした薄帯はリールに破断なく巻き取れることが分かる。
【0063】
出湯開始から最大20秒後までの巻取り開始前の間、ノズルと冷却ロールとのギャップを180μmに設定した。巻取り開始後約10秒間でギャップを目標の200μmまで拡大し、その後フィードバック制御によりギャップを一定に保持した。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。なお、坩堝内の溶湯残量の減少を補うために、出湯時間に比例して出湯圧力を223 g/cm2から342 g/cm2に連続的に増加させた。出湯圧力の増加は以下の実施例、参考例及び比較例でも同様に行った。
【0064】
巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
参照例1
実施例1と同じ合金溶湯を用いて、表2に示すようにギャップをほとんど変えない以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例1及び参照例1のいずれにおいても、ロールから剥離された薄帯を粘着テープでキャッチし、正常にリールに巻き取ることができたのは、巻取り開始前の超微細結晶粒の体積分率が0〜4体積%の範囲内であり、十分な靭性を有していたためである。また、実施例1及び参照例1のいずれの薄帯も1.80 Tの飽和磁束密度B8000を有していたが、保磁力は実施例1では7 A/mであるのに対して、参照例1では15 A/mと比較的高かった。これは、巻取り開始後にギャップを変えなかったために、平均粒径1〜30 nmの超微細結晶粒が5〜30体積%の割合で分散した組織を有する超微結晶合金薄帯が得られなかったので、熱処理しても高飽和磁束密度で低保磁力の微結晶軟磁性合金薄帯が得られなかったためであると考えられる。
【0069】
実施例2
Febal.Cu1.4Si5B13(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表3に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
実施例3
Febal.Cu1.4Si6B12(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表4に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また、上記曲げ試験において曲げ半径を0.5 mmに変えても、薄帯に破断は起こらなかった。さらに、薄帯の折曲部が密着するまで完全に折り曲げても破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
実施例4
Febal.Cu1.35Si4B13(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表5に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
実施例5
Febal.Cu1.35Si4B13(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表6に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして幅50 mm及び全長約5000 mの薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また、上記曲げ試験において曲げ半径を0.5 mmに変えても、薄帯に破断は起こらなかった。さらに、薄帯の折曲部が密着するまで完全に折り曲げても破断は起こらなかった。
【0076】
冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表6に示す。
【0077】
【表6】
【0078】
実施例6
Febal.Cu1.3Si4B14(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表7に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例3と同様に曲げ半径0.5 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。さらに、薄帯の折曲部が密着するまで完全に折り曲げても破断は起こらなかった。
【0079】
冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表7に示す。
【0080】
【表7】
【0081】
実施例7
Febal.Cu1.3Si3B13(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表8に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表8に示す。
【0082】
【表8】
【0083】
実施例8
Febal.Ni0.5Cu1.35Si3.5B14(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表9に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして幅50 mm及び全長約5000 mの薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表9に示す。
【0084】
【表9】
【0085】
実施例9
Febal.Ni1Cu1.4Si4B14(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表10に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例3と同様に曲げ半径0.5 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表10に示す。
【0086】
【表10】
【0087】
実施例10
Febal.Ni1Cu1.4Si6B12(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表11に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例3と同様に曲げ半径0.5 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。さらに、薄帯の折曲部が密着するまで完全に折り曲げても破断は起こらなかった。
【0088】
冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表11に示す。
【0089】
【表11】
【0090】
比較例1〜9
表12に示す組成を有する各合金溶湯を用いて、出湯当初から目標厚さになるように表12に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして幅25 mmの薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、いずれの薄帯も破断した。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯のうち、比較例1〜7の薄帯はリールへの巻取り直後に破断し、比較例8の薄帯は巻取り開始から10秒後に破断し、比較例9の薄帯は巻取り開始から15秒後に破断した。各薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び巻取りの可否を表12に示す。比較例1〜9における薄帯の巻取り時の破断の原因は、巻取り開始前の超微細結晶粒の組織にあると考えられる。
【0091】
【表12-1】
【0092】
【表12-2】
【0093】
実施例11
Febal.Cu1.4Si5B13(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表13に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして幅25 mm及び全長約10000 mの薄帯を製造した。実施例3と同様に曲げ半径0.5 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。本例では、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために、巻取り開始後にノズルとロール間のギャップを変えずにロール周速を30 m/sから27 m/sに低下させたが、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表13に示す。
【0094】
【表13】
【0095】
実施例12
Febal.Cu1.4Si6B12(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表14に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例1と同様に曲げ半径1 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。本例でも、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために、巻取り開始後にノズルとロール間のギャップを変えずにロール周速を28 m/sから25 m/sに低下させたが、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表14に示す。
【0096】
【表14】
【0097】
実施例13
Febal.Cu1.35Si4B13(原子%)の組成を有する合金溶湯を用いて、表15に示す出湯条件とした以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例3と同様に曲げ半径0.5 mmの曲げ試験を行ったところ、薄帯に破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。本例でも、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために、巻取り開始後にノズルとロール間のギャップを変えずにロール周速を30 m/sから26 m/sに低下させたが、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。巻取り開始前及び後における薄帯の厚さ、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率、及び熱処理後の薄帯の保磁力を表15に示す。
【0098】
【表15】
【0099】
実施例14
合金溶湯の組成を以下の通り変更した以外実施例1と同様にして薄帯を製造した。実施例3と同様に曲げ半径0.5 mmの曲げ試験を行ったところ、いずれの薄帯にも破断は起こらなかった。また冷却ロールから剥離して宙に舞う薄帯は、破断なくリールに巻き取ることができた。さらに、超微細結晶粒の平均粒径及び体積分率を増大させるために巻取り開始後にノズルと冷却ロールとのギャップを拡大しても、薄帯のリールへの巻取りを正常に継続することができた。
FebalCu1.2B18
FebalCu1.25B16
FebalCu1.4Si6B11
FebalCu1.6Si8B10
FebalCu1.4Si2B12P2
FebalCu1.5Si2B10P4
FebalCu1.2Si2B8P8、及び
FebalCu1.0Au0.25Si1B15
【0100】
上記実施例、参照例及び比較例のいずれにおいても、熱処理後の薄帯は、平均粒径60 nm以下の微細結晶粒が30体積%以上の割合で非晶質母相中に分散した組織を有し、かつ1.7 T以上の飽和磁束密度B8000を有していた。
図1