特許第6044552号(P6044552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044552
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】酸化スズ質耐火物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/457 20060101AFI20161206BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20161206BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20161206BHJP
   C03B 5/43 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C04B35/00 R
   C04B35/00 W
   F27D1/00 N
   C03B5/43
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-551805(P2013-551805)
(86)(22)【出願日】2012年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2012083928
(87)【国際公開番号】WO2013100074
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2015年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-289690(P2011-289690)
(32)【優先日】2011年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 修平
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 泰夫
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 旧東ドイツ国経済特許第205888(DD,A1)
【文献】 特公昭56−12278(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00
C04B 35/457
C04B 35/484
C04B 35/657
C03B 5/43
F27D 1/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnO、SiOおよびZrOを必須成分として含有する酸化スズ質耐火物であって、
前記酸化スズ質耐火物中におけるSnO、SiOおよびZrOの含有量の合量が70質量%以上であり、かつ、前記SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量に対して、SnOの含有割合が32〜98モル%、SiOの含有割合が1〜35モル%、ZrOの含有割合が1〜35モル%、であることを特徴とする酸化スズ質耐火物。
【請求項2】
1300℃、350時間の熱処理後に、前記酸化スズ質耐火物の焼結体表面に、ZrSiO相およびZrO相が形成される請求項1に記載の酸化スズ質耐火物。
【請求項3】
SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量が、95質量%以上である請求項1または2に記載の酸化スズ質耐火物。
【請求項4】
前記SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量に対して、SnOの含有割合が76〜98モル%、SiOの含有割合が1〜12モル%、ZrOの含有割合が1〜12モル%、である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸化スズ質耐火物。
【請求項5】
CuO、CuO、ZnO、Mn、CoO、Al、SbおよびLiOの酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の成分を、さらに含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化スズ質耐火物。
【請求項6】
1300℃、−700mmHg、350時間の熱処理後において、SnO含有量99モル%以上のSnO焼結体と比較したSnOの揮散速度が1/5以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の酸化スズ質耐火物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の酸化スズ質耐火物を具備してなるガラス溶解炉。
【請求項8】
粉末原料を均一に混合した後、所望の形状に成形し、これを焼結処理して得られる酸化スズ質耐火物の製造方法であって、
前記酸化スズ質耐火物が、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の酸化スズ質耐火物であることを特徴とする酸化スズ質耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化スズ質耐火物に係り、特に、SiOおよびZrOを必須成分として含有し、これらを所定量含有させてガラスに対する耐侵食性を大きく低下させることなく、SnOの揮散を効果的に抑制する酸化スズ質耐火物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化スズ(SnO)を主成分とする耐火組成物を焼結してなる酸化スズ質耐火物は、一般に使用される耐火物と比較し、ガラスに対する耐食性が非常に高く、ガラス溶解炉用の耐火物としての使用が検討されている。
【0003】
たとえば、特許文献1にはSnOを85〜99重量%含有するガラス溶融炉用酸化スズ耐火物が提案されている。しかし、このような耐火物は、ガラス製造装置におけるガラス接触部の耐火物として実際に再利用されている例は知られていない。
【0004】
その理由としては、基本的な特性として、SnOは高温場、特に1200℃以上の高温場においてはSnOとして揮散する性質がある。この揮散により耐火物の表面の組織が多孔質化して脆化し、SnO自身が剥離したり、あるいは揮散したSnO成分がガラス製造装置中の低温部において濃縮・凝固したりして、SnO成分がガラス中に異物として落下、混入し、ガラス成形体の製造における歩留まりを低下させるという問題が考えられる。
【0005】
一方、SnO焼結体は、高温場においてはガラス溶融用の電極材料として使用されており、一般的にこのようなSnO電極材料は、90〜98質量%以上のSnOと、0.1〜2.0質量%程度の焼結助剤および低抵抗化剤から作製されており、溶融ガラスに対する高耐侵食性と、通電に充分な低抵抗性の両方の特性を有する材料として利用されている。しかし、このような一般的なSnO電極材料は、高温場、特に1200℃以上の高温場においてはSnOとして徐々に揮散してしまうため、劣化が避けられなかった。
【0006】
SnOの高温場での揮散問題を解決するための既存技術として、非特許文献1には、SnO粉末に焼結助剤CoOを0.5モル%、揮散抑制成分としてZrOを、ZrOおよびSnOの含有量の合量に対して0〜10モル%含有せしめ、SnOの揮散を抑制するSnO焼結体が報告されている。
【0007】
また特許文献2には、焼結助剤、低抵抗化剤とともに、揮散抑制剤としてZrO、HfO、TiO、Ta、CeOなどの酸化物であるY成分を、YおよびSnOの含有量の合量に対して0〜8質量%となるように含有せしめ、SnOの揮散を抑制したガラス溶融用電極材料が提案されている。
【0008】
これら揮散抑制成分を含有したSnO焼結体は、SnO粒子内部に揮散抑制成分が固溶した組織を有しており、高温場でSnOが揮散していくと、SnO粒子内部に固溶していた揮散抑制成分が濃縮され、SnO粒子表面に析出し、SnO粒子表面を被覆していくため、SnOの揮散の抑制を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本特開昭54−132611号公報
【特許文献2】国際公開第2006/124742号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Maitre, D.Beyssen, R.Podor、「Effect of ZrO2 additions on sintering of SnO2-based ceramics」、Journal of the European Ceramic Society、2004年、第24巻、p.3111-3118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のようなSnOの揮散抑制成分は、SnOの揮散により、SnO粒子内で濃縮され固溶限界濃度を超えた時点で、初めてSnO粒子表面へ析出してくるため、SnOの揮散開始後の初期段階においては、SnO粒子表面へ揮散抑制成分は十分に析出しておらず、揮散開始後の初期の段階からは、優れた揮散抑制効果が発現されない。このため、SnO焼結体を部材として長期に使用した際には、SnOの揮散による部材の劣化が避けられない。
【0012】
したがって、このようなSnO焼結体をガラス製造装置に使用した場合には、焼結体表層の脆化により、SnO自身が剥離したり、あるいは揮散したSnO成分がガラス溶融装置中の低温部において濃縮・凝固することにより、SnO成分がガラス中に異物として落下、混入したりして、ガラス成形体の製造における歩留まりを低下させるという問題が発生すると考えられる。
【0013】
そこで本発明は、上記した従来技術が抱える課題を解決して、高温場におけるSnOの揮散を早期の段階から抑制し、かつ、ガラスに対する高耐侵食性を併せて有し、ガラス製造装置用の耐火物として好適な酸化スズ質耐火物およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1]SnO、SiOおよびZrOを必須成分として含有する酸化スズ質耐火物であって、
前記酸化スズ質耐火物中におけるSnO、SiOおよびZrOの含有量の合量が70質量%以上であり、かつ、前記SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量に対して、SnOの含有割合が32〜98モル%、SiOの含有割合が1〜35モル%、ZrOの含有割合が1〜35モル%、であることを特徴とする酸化スズ質耐火物。
[2]1300℃、350時間の熱処理後に、前記酸化スズ質耐火物の焼結体表面に、ZrSiO相およびZrO相が形成される上記[1]に記載の酸化スズ質耐火物。
[3]SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量が、95質量%以上である上記[1]または[2]に記載の酸化スズ質耐火物。
[4]前記SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量に対して、SnOの含有割合が76〜98モル%、SiOの含有割合が1〜12モル%、ZrOの含有割合が1〜12モル%、である上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の酸化スズ質耐火物。
[5]CuO、CuO、ZnO、Mn、CoO、Al、SbおよびLiOの酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の成分を、さらに含む上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の酸化スズ質耐火物。
[6]1300℃、−700mmHg、350時間の熱処理後において、SnO含有量99モル%以上のSnO焼結体と比較したSnOの揮散速度が1/5以下である上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の酸化スズ質耐火物。
【0015】
[7]上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の酸化スズ質耐火物を具備してなるガラス溶解炉。
[8]粉末原料を均一に混合した後、所望の形状に成形し、これを焼結処理して得られる酸化スズ質耐火物の製造方法であって、
前記酸化スズ質耐火物が、SnO、SiOおよびZrOを必須成分として含有し、前記SiOおよびZrO成分の粉末原料として、ZrSiO粉末を使用することを特徴とする酸化スズ質耐火物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の酸化スズ質耐火物によれば、ガラスに対する耐侵食性の高いSnOと、高温場におけるSnOの揮散を抑制する効果が高いZrOとSiOとをバランスよく含有するため、ガラスに対する耐侵食性を大きく低下させずに、SnOの揮散開始後の初期の段階から、優れた揮散抑制効果を発揮することが可能な高耐食性の耐火物を提供できる。
【0017】
また、本発明の酸化スズ質耐火物の製造方法によれば、上記の優れた特性を有する酸化スズ質耐火物を簡易な操作で、効率的に、かつ、安定的な製品品質が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、酸化スズ質耐火物中のSnO、SiOおよびZrOの含有量が所定の量になるように配合された点に特徴を有するものであり、以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明に用いられるSnOは、溶融ガラスの侵食に対する抵抗力が強く、耐熱性が高いため耐火物の主要成分として含有される。
【0020】
本発明に用いられるSiOは、マトリックスガラスを形成し、応力緩和の働きをする成分である。また、耐火物中の主成分であるSnOの揮散を抑制する作用も有する成分である。
【0021】
本発明に用いられるZrOは、溶融ガラスの侵食に対する抵抗力が強く、さらに、耐火物の主成分であるSnOの揮散を抑制する作用を有する成分である。
【0022】
本発明においては、耐火物中に含有されるSnO、SiOおよびZrOの含有量の合量を70質量%以上とする。これは、耐火物中に他の成分があまりに多量に含まれてしまうと、SnO、SiOおよびZrOの含有量が低下し、特に、SnOが有しているガラスに対する優れた耐侵食性が損なわれてしまうためである。耐侵食性を良好なものとするには、SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量は、85質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。また、SnO、SiOおよびZrOの含有量の合量としては、97〜99.5質量%が好ましい。
【0023】
また、本発明においては、これら必須成分であるSnO、SiOおよびZrOの含有量の合量を100モル%としたとき、SnOを32〜98モル%、SiOを1〜35モル%、ZrOを1〜35モル%含有する。
【0024】
本発明においては、上記のように、耐火物中におけるSnO、SiOおよびZrOの含有量を所定の範囲とし、さらに、これら成分の関係を所定の関係を有するようにすることにより、高温場におけるSnOの揮散を早期の段階から抑制し、かつ、ガラスに対する高耐侵食性を併せて有する酸化スズ質耐火物が得られる。
【0025】
本発明者らは、SnO、SiOおよびZrOの含有量について検討した結果、SiOを含まずに、SnOおよびZrOの2つを主成分とする場合には、SnOの揮散抑制効果を発揮するZrOが、SnO中に固溶して存在することがわかった。そして、得られる耐火物の特性は、耐火物製造時の焼成温度および降温速度に影響されるが、例えば、1400℃で5時間焼成し、300℃/時間で降温させた場合、SnOへのZrOの固溶限界濃度は約20〜25モル%であった。
【0026】
ところが、本発明のようにSiOを含有する組成とすると、原因は明らかでないが、ZrOのSnOへの固溶限界濃度が約12モル%と大幅に低下する。したがって、SiOを含有する組成範囲においては、SiOを含有せずにZrOだけを含有する場合と比較し、高温場でSnOが揮散した際に、SnO内に固溶していたZrOが、早期の段階で固溶限界に達し、SnO粒子表面へ析出する。そのため、SiOを含有していない場合と比べて、揮散開始後の初期の段階から優れたSnOの揮散抑制効果を発揮可能となる。
【0027】
また、ZrOの固溶したSnO(以下、SnO−ZrO固溶体とも記載する)の粒界に、非晶質化した状態で存在していたSiOの大部分は、固溶限界を超え析出したZrOと反応し、ZrSiOとしてSnO−ZrO固溶体の粒界に存在し、SnOの相対的な表面積を減少させる。そのため、SiOを含有せずにZrOを含有する場合と比較しても、長期的に優れた揮散抑制効果を発揮する。
また、SiOと反応しないZrOも存在し、このZrOは単独でも揮散抑制効果を発揮する。ZrSiOおよびZrOは、SEM−EDX(Scanning Electron Microscope−Energy Dispersive X−ray Detector、日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:S−3000H)等の電子顕微鏡装置を用いることで、その存在を確認できる。
【0028】
なお、ここで固溶限界濃度は、ZrSiOの添加量を変えて得られた焼結体において、焼結体組織をSEM−EDXで分析し、SnO中に固溶しているZrOの、おおよその固溶限界濃度として決定した。
【0029】
本発明における耐火物を上記の組成に限定した理由を以下に説明する。
SnO、ZrOおよびSiOの合量を100モル%としたときの各成分の含有割合が、上記のとおり、SnOが32〜98モル%、ZrOが1〜35モル%、SiOが1〜35モル%の関係を満たすと、ZrOの固溶限界濃度が低減し、SnOの揮散開始時から、早期にZrOがSnO粒子表面に析出する。したがって、SiOを全く含有しない場合と比較して、より早期の段階から優れたSnOの揮散抑制効果を発揮できる。また、SiOの大部分は、固溶限界を超えて析出したZrOと反応し、ZrSiOとしてSnO−ZrO固溶体の粒界に存在し、外部環境に露出しているSnOの表面積を減少させる。そのため、SiOを含有せずにZrOを含有する場合と比較し、長期的に優れたSnOの揮散抑制効果を発揮する。
【0030】
この組成範囲内においては、ZrOは主にSnO中に固溶した状態であり、固溶限界を超えた分がSnOの粒界に析出する。析出したZrOは、SiOと反応して、ZrSiOとしてSnO−ZrO固溶体の粒界に存在するが、SiOの存在量によって、一部未反応のものは、ZrOとしてSnO−ZrO固溶体の粒界に存在する。
【0031】
SiOは、SnO、ZrOおよび他の成分と反応し、非晶質化した状態でSnO−ZrO固溶体の粒界に存在した組織となっており、粒界にZrOが析出してくると、ZrOと反応してZrSiOとなる。
【0032】
上記のように、本発明の酸化スズ質耐火物は、SnOが揮散した早期の段階から、ZrOのSnOへの固溶量が固溶限界濃度に達し、焼結体表面にZrSiOおよびZrOがSnO表面に形成されていくため、優れたSnOの揮散抑制効果を発揮する。
【0033】
本発明の酸化スズ質耐火物によれば、例えば1300℃、350時間の熱処理後に、焼結体表面にはZrSiO相、およびZrO相が形成される。また、SnO、ZrOおよびSiOの合量に対してSiO含有量が、およそ5モル%以上の場合には、SiO相も残存している。したがって、使用前に高温処理をしておけば、使用直後から優れた揮散抑制効果を発現できる耐火物を製造し、使用することも可能である。
【0034】
このとき、SnO、ZrOおよびSiOの含有量の合量に対して、SiOの含有割合が1モル%未満と少なくなると、ZrOのSnOへの固溶限界濃度の低下現象が見られず、SnOの揮散開始後の初期段階における揮散抑制効果の発現が若干遅くなり、また、SiO含有量が少ないため、ZrOが析出しても、ZrSiOがごく少量生成するだけで揮散抑制効果の向上が小さい。
【0035】
また、SnO、ZrOおよびSiOの含有量の合量に対して、ZrOの含有割合が1モル%未満と少なくなると、ZrOおよびZrSiOによる揮散抑制効果が極めて小さくなる。
【0036】
さら、SnO、ZrOおよびSiOの含有量の合量に対して、SiOの含有割合が35モル%超と多くなると、SiOの含有量が多すぎてSnOの含有量が少なくなり、ガラスに対する耐侵食性が低下してしまう。
【0037】
また、SnO、ZrOおよびSiOの含有量の合量に対して、ZrOの含有割合が35モル%超と多くなると、ZrOの含有量が多すぎてSnOの含有量が少なくなり、ガラスに対する耐侵食性が低下してしまう。
【0038】
ここで、本発明の酸化スズ質耐火物は、SnO、ZrOおよびSiOの含有量の合量に対して、ZrOの含有割合が1〜12モル%の範囲が好ましい。また、SnO、ZrOおよびSiOの含有量の合量に対して、SiOの含有割合も1〜12モル%の範囲が好ましい。したがって、SnO、ZrOおよびSiOの含有量の合量に対して、SnOの含有割合は、76〜98モル%の範囲が好ましい。
【0039】
なお、焼結処理の条件は上記条件によらず、一般に、1200〜1600℃、3〜5時間の加熱処理で行われるため、実際に処理する焼結条件によって、耐火組成物中のSnO、ZrOとSiOの配合量を調整すればよい。
【0040】
なお、上記の他の成分としては、本発明の耐火物としての特性を損なわないものであれば特に限定されず、酸化スズ質耐火物に使用される公知の成分が挙げられる。
他の成分としては、例えば、CuO、CuO、ZnO、Mn、CoO、LiO、Al、TiO、Ta、CeO、CaO、Sb、Nb、Bi、UO、HfOなどの酸化物が挙げられる。
【0041】
これら酸化物のなかでも、CuO、ZnO、Mn、CoO、Al、SbおよびLiOからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物を含有することが好ましい。また、CuO、ZnO、Mn、CoO、LiOなどは、焼結助剤として有効に作用する。これら焼結助剤を含有させると、例えば1400℃、5時間の焼成で緻密化し、耐火物の強度をより向上できる。したがって、CuO、ZnO、Mn、CoO、およびLiOからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物を含有することがよりこのましく、CuOを含有することが特に好ましい。
【0042】
本発明の好ましい酸化スズ質耐火物は、例えば、1300℃、−700mmHg、350時間の熱処理後において、SnO含有量99モル%以上のSnO焼結体と比較した揮散速度が1/5以下となる耐火物が好ましい。なお、このとき、互いに開気孔率差を1%以下として比較する。ここで、開気孔率は、公知のアルキメデス法により算出する。
【0043】
本発明の酸化スズ質耐火物を製造するには、粉末原料を均一に混合した後、所望の形状に成形し、これを1200℃以上、好ましくは1300〜1450℃となるような高温で焼結処理すればよい。より具体的には、得られる耐火物中の成分が上記説明した含有量となるように、例えば、SnO、SiO、ZrO、CuO等の成分が所定の配合量となるように、微細な粉末原料を所要量秤取し、回転ボールミルや振動ボールミル等に入れてエタノール等の有機溶媒を媒体として粉砕機で混合粉砕する。得られたスラリーを減圧下で乾燥後、金型プレスや静水圧プレスなどで加圧成形し、得られた成形物を、例えば、1400℃で5時間焼結して酸化スズ質耐火物が得る。
【0044】
原料は上記粉末の組み合わせに限定されるものではなく、揮散抑制成分であるZrOおよびSiOの原料として、例えばZrSiO粉末が使用できる。
また、Zr、Si、Cu等の単体金属の粉末、これら金属を含んだ金属塩化合物、Zr(OH)、CuZrO、CuCO、またはCu(OH)などが使用できる。中でも、CuZrOまたはCuCOが好ましい。
【0045】
揮散抑制成分であるZrOおよびSiOの原料として、ZrSiO粉末を使用した場合には、SnOへのZrOの固溶量が、12モル%以下である範囲においては、SnOがZrSiOの解離促進剤として働くため、例えば1400℃、5時間の焼成により、ZrSiOをZrOとSiOへ解離させ、本発明の酸化スズ質耐火物を製造できる。
【0046】
さらに、原料としてZrSiO粉末を使用した場合には、例えばZrOとSiOの原料粉末を分けて混合装置に投入する必要がなく、製造プロセスを簡略化できる。また、原料粉末の混合が容易となり、均一な混合物が得られるため製造プロセスの短縮や製品の品質安定性に寄与する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0048】
(例1〜26)
まず、酸化スズ質耐火物を製造するための原料として、表1に示した平均粒子径と化学成分および純度を有する粉末原料を準備した。次に、酸化スズ質耐火物が表2に示す組成となるように、SnO、ZrO、SiO、ZrSiO、Al、Sb、CuO、Mn等の各粉末を、表3に示した割合で調合した。
表2中、ZrOとSiOのモル比が1:1のもの(例1、2、4〜6、11〜17、23、および25)は、ZrSiO粉末を使用した。また、ZrOとSiOのモル比が1:1でないものは、ZrO粉末およびSiO粉末を使用した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】

【0052】
調合された各原料粉末を、回転ボールミル(愛知電気社製、商品名:AN−3S)を使用し、エタノール(400ml)を媒体として48時間混合、粉砕した後、得られたスラリーを減圧乾燥し、1500kg/cmで静水圧プレス(プレス機は日機装社製、商品名:CL15−28−20)を使用して成形体とした。得られた成形体を、大気雰囲気中1400℃で5時間保持して焼成後、300℃/時間で降温して酸化スズ質耐火物を得た。
【0053】
得られた酸化スズ質耐火物の一部からφ15mm、高さ5mmの試験片を切り取って、1300℃、−700mmHgの環境下で、10時間から400時間熱処理した後の質量減少量を、それぞれ測定し(エー・アンド・デイ社製、商品名:GH−252を使用)、揮散量(単位:mg)および揮散速度(単位:mg/hr)を算出した。
【0054】
また、得られた酸化スズ質耐火物から切り取った15mm×25mm×50mm(縦×横×長さ)の試験片を、ソーダライムガラス(旭硝子社製、商品名:サングリーンVFL)に、大気雰囲気中1300℃で100時間浸漬させ、その後、侵食量を測定し、耐侵食性を調べた。
【0055】
上記で得られた揮散速度および侵食量のデータを表4にまとめて示した。
【表4】
【0056】
表2〜4において、例1〜17は本発明の実施例であり、例18〜26は比較例である。
実施例および比較例のそれぞれのガラスに対する耐侵食性は、1300℃の温度域において、ガラス製造装置に広く利用されているアルミナ質電鋳煉瓦(AGCセラミックス社製、商品名:MB−G)の例26と比較し、MB−Gの侵食試験後の侵食部の最大侵食深さを100として、相対的な侵食量を示した。
【0057】
また、例1〜17および例18〜26のそれぞれの揮散速度は、例18の試験片を1300℃、−700mmHgの環境下で、10時間および350時間熱処理した後の揮散速度を100とし、相対的な揮散速度を示した。ここで10時間および350時間熱処理した後のそれぞれの揮散速度は、熱処理時間0時間から10時間までの質量減少量から算出される単位表面積当たりの平均的な揮散速度、および熱処理時間350時間から400時間までの質量減少量から算出される単位表面積当たりの平均的な揮散速度を相対的に示した。
【0058】
なお、各サンプルの開気孔率はアルキメデス法により測定し、いずれも1.0%以下であるサンプルを用いた。
【0059】
例18は、ZrOおよびSiOを除いた組成の酸化スズ焼結体であり、ガラスに対する耐侵食性が例1〜17とほぼ同等であるが、揮散抑制成分を含有していないために、SnOの揮散速度が非常に速い。
【0060】
例19は、ZrOを除いた組成の酸化スズ焼結体であり、ガラスに対する耐侵食性が例1〜17とほぼ同等であるが、揮散抑制成分であるZrOを含有していないために、SnOの揮散速度が非常に速い。
【0061】
例20および21は、SiOを除いた組成の酸化スズ焼結体であり、ガラスに対する耐侵食性が例1〜17とほぼ同等であるが、SiOを含有していないために、SnOへのZrOの固溶限界濃度が高い。また、揮散抑制成分であるZrOの含有量が少ないため、SnOの揮散により、ZrOが固溶限界濃度に達するまでに時間を要し、SnOの熱処理10時間後の揮散速度が例1〜17よりも速い。また、SiOを含有していないために、熱処理350時間後においても、例1〜17と比較しSnOの揮散速度が速い。
【0062】
例22は、SiOを増量した組成の酸化スズ焼結体であり、揮散速度は実施例1〜17とほぼ同等であるが、SnOの含有量が少ないために、ガラスに対する耐侵食性が例1〜17よりも低い。
【0063】
例23は、ZrOとSiOを増量した組成の酸化スズ焼結体であり、揮散速度は例1〜17とほぼ同等であるが、SnOの含有量が少ないために、ガラスに対する耐侵食性が例1〜17よりも低い。
【0064】
例24は、ZrOを増量した組成の酸化スズ焼結体であり、揮散速度は例1〜17とほぼ同等であるが、SnOの含有量が少ないために、ガラスに対する耐侵食性が例1〜17よりも低い。
【0065】
例25は、Alをその他の成分として含有せしめた組成の酸化スズ焼結体であり、揮散速度は例1〜17とほぼ同等であるが、SnOの含有量が少ないために、ガラスに対する耐侵食性が例1〜17よりも低い。
【0066】
例26は、アルミナ質電鋳煉瓦(AGCセラミックス社製、商品名:MB−G)であり、揮散は起こらないがガラスに対する耐侵食性が例1〜17よりも低い。
【0067】
一方、本発明の実施例である例1〜17は、例18〜26と比較し、揮散速度およびガラスに対する耐侵食性が良好な結果となっている。これらの評価結果から、本発明の実施例である酸化スズ質耐火物は、比較例の酸化スズ質耐火物と比較し、いずれもSnOの揮散抑制効果およびガラスに対する耐侵食性が高く、両物性のバランスが取れた優れた酸化スズ質耐火物であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の酸化スズ質耐火物は、ガラスに対する耐侵食性に優れ、SnOの揮散等を有効に防止できるため、ガラス溶解炉用の耐火物として好適である。
なお、2011年12月28日に出願された日本特許出願2011−289690号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。