(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記p側窒化物半導体層に最も近い前記井戸層の上端から150nm以内に前記第1のp型窒化物半導体層を有することを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体レーザダイオード。
前記第2のp型窒化物半導体層のp型不純物濃度は、前記p側窒化物半導体層に最も近い前記井戸層の上端から250nm以内に極小を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化物半導体レーザダイオード。
請求項1乃至9のいずれか1項に記載された波長500〜560nmで発振する窒化物半導体レーザダイオードと、波長440〜480nmで発振する窒化物半導体レーザダイオードと、波長600〜660nmで発振する半導体レーザダイオードとを有するディスプレイ装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本件発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。各図面は模式図であり、そこに示された配置、寸法、比率、形状等は実際と異なる場合がある。
【0024】
図1は、本発明に係る窒化物半導体レーザダイオードの一例を示す模式断面図である。窒化物半導体から成る基板2の上に、Si等のn型不純物を含むn側窒化物半導体層4、活性層6、Mg等のp型不純物を含むp側窒化物半導体層8が積層され、p側窒化物半導体層8の一部には導波路を構成するためのリッジ36が形成されている。リッジ36の周囲は埋め込み層46で覆われており、さらに保護膜48が形成されている。リッジ36の上端に露出したp側窒化物半導体層8にp側電極38が形成され、さらにp側電極38に接しながら、リッジ36を被覆するようにp側パッド電極40が形成されている。一方、窒化物半導体から成る基板2の裏面にはn側電極42が形成されている。
【0025】
図2は、
図1に示す窒化物半導体レーザダイオードの活性層6とp側窒化物半導体層8の部分を拡大した模式断面図である。活性層6は、InGaN又はGaNから成る障壁層22a、b、cとInGaNから成る井戸層24a、bを交互に積層した多重量子井戸構造となっており、InGaN井戸層24a、bが発光層となる。また、p側窒化物半導体層8として、活性層6に近い側から順に、Alを含む窒化物半導体層26(第1のp型窒化物半導体層)、p側光ガイド層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)、p側クラッド層32(第3のp型窒化物半導体層)、p側コンタクト層34が積層されている。
図1及び2に示す層構成を持つストライプ構造が共振器本体を構成し、端面発光型のレーザダイオードとなっている。
【0026】
図1の窒化物半導体レーザダイオードは、InGaN井戸層24a、bのIn含有率を変化させることで発振波長を変化させることができ、In含有率を高くする程、発振波長が長くなる。しかし、この窒化物半導体レーザダイオードのライフ特性は、発振波長に対して強い依存性を示し、発振波長が500nmを越えると急激に寿命が短くなる。
図3は、
図1のような構造を持つ窒化物半導体レーザダイオードの推定寿命を発振波長に対してプロットしたものであるが、発振波長が500nmに近づくと推定寿命が急激に低下し、500nm以上の波長では僅か数十時間しかない。
【0027】
従来より、InGaN井戸層24a、bのIn含有率が増えると下地となるInGaN又はGaN障壁層22a、bとの格子不整合が大きくなり、活性層6で新たな転位が発生することが知られていた。実際に本件発明者が調べたところ、発振波長が500nmを越える活性層6では、
図4に模式的に示すように、InGaN井戸層24aとInGaN障壁層22aの界面や、InGaN井戸層24bとGaN障壁層22bの界面で多数の転位が発生していた。発振波長を長波長化するためにIn含有率を高めると、それに応じて転位発生量も増大する。
図5は、基板2の転位密度が約5×10
5cm
−2である窒化物半導体レーザダイオードにおいて、p側窒化物半導体層8の転位密度と発振波長の関係を示すグラフである。ここで基板に含まれる転位は約5×10
5cm
−2であるので、
図5の転位密度から5×10
5を引いた値が活性層6で新たに発生した転位となる。
図5に示す通り発振波長が480nm付近から活性層6で転位が発生し始め、発振波長が長くなるに従って活性層6で発生する転位密度が増大している。また、発振波長が500nmではp側窒化物半導体層8における転位密度が2×10
6cm
−2以上となっていることから、発振波長500nmでは、1.5×10
6cm
−2以上の転位が発生していることがわかる。
【0028】
レーザダイオード素子中の転位密度が増えるとライフ特性が低下することは知られていたが、転位密度の増大によってライフ特性が低下する原因は、転位自身が非発光再結合中心として働くためと考えられていた。そこで従来は、InGaN井戸層24a、bと障壁層22a、bとの間の格子不整合に基づく歪を薄膜化によって緩和し、或いは、より少ないIn含有率で目的波長を得られるようにする等、転位の発生を減少させる努力がされていた。しかし、転位発生を減少させるために井戸層24a、bを薄膜化したり、井戸層に他のV族元素を添加してボウイングパラメータを大きくすると、井戸層24a、bへのキャリア閉じ込めが弱まったり、井戸層24a、bの結晶性が低下するなどの問題が発生する。
【0029】
一方、本件発明者が、発振波長が506nmの窒化物半導体レーザダイオードの高温動作(60℃)における劣化挙動を調べたところ、
図6に示すように最初の数時間で劣化が急速に進行し、その後の劣化速度も大きなものであった。また、この窒化物半導体レーザダイオードのI−V特性を調べると、
図7に示すように初期には正常な整流特性を示していたが、長時間駆動後には電流の立ち上がり部分に異常なスパイク52が観察され、その異常がライフ中にさらに拡大することがわかった。
【0030】
この知見に基づいて種々検討の結果、本件発明者は、発振波長500nm以上の長波長窒化物半導体レーザダイオードでは、p型不純物濃度の深さ方向の分布を制御することによりライフ特性が飛躍的に改善することを見出した。
【0031】
図8は、
図6のライフ特性を示した窒化物半導体レーザダイオードにおいて、p型不純物(Mg)濃度の深さプロファイルを2次イオン質量分析装置(以下、単に「SIMS」)で測定した結果を示す。
図8の左端がp側窒化物半導体層8の表面に対応し、
図8の略中央に2層目の井戸層24bの上端に対応する位置が矢印で示されている。また、2番目の井戸層24bの上端から300nmの距離も破線で示されている。この距離内であれば、井戸層24b及び24aに対して正孔を効率的に供給することができる。この300nmの範囲内において、井戸層24bからp側窒化物半導体層8の表面に向けてのp型不純物濃度の分布を観察すると、活性層6からp側窒化物半導体層8に入ると共にp型不純物濃度が増大し、Alを含む窒化物半導体層26(第1のp型窒化物半導体層)に対応する位置で極大54を示している。そして極大54を過ぎるとp型不純物濃度は低下し、p側光ガイド層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)に対応する位置で極小56を示す。
【0032】
この極大54と極小56におけるp型不純物濃度を所定の値以上に高めることにより、窒化物半導体レーザダイオードのライフ特性が劇的に改善する。
図9に示す例では、
図8に示すp型不純物濃度の深さプロファイルを示した窒化物半導体レーザダイオードと同様の構造を取りながら、極大54におけるp型不純物濃度を5×10
18cm
−3以上とし、極小56におけるp型不純物濃度を6×10
17cm
−3以上としている。
図9に示すp型不純物濃度の深さプロファイルを持った窒化物半導体レーザダイオードの高温動作(60℃)におけるライフ試験の結果を
図10に示す。100時間まで駆動電流に変化は見られず、高温動作での推定寿命は約5万時間であった。尚、推定寿命は、所定の駆動条件において駆動電流の変化率を調べ、その変化率をもとに駆動電流が初期の1.3倍になるまでの時間として推定したものである。
【0033】
図11A及び
図11Bは、各々、極大54及び極小56におけるp型不純物濃度と高温動作における推定寿命の関係を示すグラフである。
図11A及び
図11Bに示す通り、極大54におけるp型不純物濃度を5×10
18cm
−3以上、かつ、極小におけるp型不純物濃度を6×10
17cm
−3以上にすることにより、窒化物半導体レーザダイオードのライフ特性が飛躍的に改善することがわかる。
【0034】
このようにp型不純物濃度を制御することによって窒化物半導体レーザダイオードのライフ特性が飛躍的に改善する理由は以下の通りと考えられる。上述の通り、発振波長を500nm以上とするために井戸層24a、bのIn含有率を増大する結果、井戸層24a、bより上にある窒化物半導体層の転位密度は増大し、少なくとも1×10
6cm
−2以上となる。転位近傍の窒化物半導体層の結晶性は低下するため、転位密度の増大に伴ってp型不純物による正孔の生成が部分的に阻害され、通常のp型不純物濃度であるとInGaN井戸層24a、bへの正孔の供給不足が生じる。そのため、InGaN井戸層24a、bのp側に電子が拡散して非発光再結合が発生する。また、InGaN井戸層24a、bのIn含有率が高まる結果、InGaN井戸層24a、bからの転位が増加する。その転位は、p側窒化物半導体層の結晶性に影響を与え、その結果、上述したようにライフ特性が急激に低下する。しかし、井戸層24a、bにキャリアを効率的に供給可能な距離(井戸層24bの上端から300nm以内の範囲)において、p型不純物濃度を所定値以上に制御することにより、InGaN井戸層24a、bへの正孔供給が確保される。また、発光層の上端から300nm程度の領域には発光層の光が強く分布しているため、p型不純物濃度を一旦5×10
18cm
−3以上に高めた後、6×10
17cm
−3を下回らない範囲でp型不純物濃度を低下させることにより、p型不純物による発光の吸収を抑えることができ、閾値電流の増大も抑制できる。したがって、窒化物半導体レーザダイオードのライフ特性を飛躍的に改善できる。
【0035】
実用的な窒化物半導体レーザダイオードとするためには、60℃、5mWにおける推定寿命が、5000時間以上、好ましくは1万時間以上とすることが望ましい。
【0036】
本実施の形態では、p側窒化物半導体層8に近い方の井戸層24bの上端から300nm以内の範囲におけるp型不純物濃度の分布を以下のようにして制御している。p側窒化物半導体層8に最も近い井戸層24bの上端から300nm以内の範囲に、(a)井戸層24a、bよりもバンドギャップが大きなAlを含む窒化物半導体から成り、p型不純物濃度が5×10
18cm
−3以上である第1のp型窒化物半導体層26と、(b)井戸層26bの上端から300nm以内の範囲におけるp型不純物濃度が第1のp型窒化物半導体層26よりも低く、かつ、6×10
17cm
−3以上である第2のp型窒化物半導体層28a、bとを形成する。第1のp型窒化物半導体層26内でp型不純物濃度が最大となるところがp型不純物の深さ方向の濃度分布における極大となる。第2のp型窒化物半導体層28a、bの中でp型不純物濃度が最低となるところがp型不純物の深さ方向の濃度分布における極小となる。尚、p側窒化物半導体層8に最も近い井戸層24bの上端から300nm以内の範囲にp型不純物濃度が添加されていないか、p型不純物が6×10
17cm
―3よりも小さな濃度で添加された窒化物半導体層が挿入されていても、その窒化物半導体層の膜厚が十分に薄ければ問題がない。例えば、井戸層24bの上端から300nm以内にアンドープの窒化物半導体層が挿入されていても、後述するSIMSで測定したp型不純物の濃度が井戸層24bの上端から300nm以内の範囲で6×10
17cm
-3を下回っていなければ本件発明の要件を充足する。本件明細書に例示した条件でSIMSで測定した場合にp型不純物の濃度が6×10
17cm
-3を下回らない程度にアンドープ層の膜厚が薄ければ、アンドープ層に隣接する層からのp型不純物の拡散によってアンドープ層のp型不純物濃度が本件発明の効果を得るために必要な程度になっていると考えられるからである。
【0037】
各層におけるp型不純物の濃度は、その層を気相成長させる際のp型不純物の原料ガスの流量、成長温度、圧力、V−III比等によって制御することができる。例えば、p型不純物の原料ガスの流量が高く、成長温度が高い程、p型不純物の濃度が高くなる。但し、Inを含む窒化物半導体層の場合、成長温度が高くなるほどInの偏析が起き易くなるため、成長温度を上げ過ぎることは好ましくない。また、窒化物半導体の気相成長中にp型不純物の原料ガスをある一定量で流し始めると、ドーピングされるp型不純物の濃度は階段状に変化するのではなく、窒化物半導体の成長と共にp型不純物の濃度が徐々に高くなる傾向がある。また、ある層に一定の濃度でp型不純物をドープした場合であっても、その隣接層のp型不純物濃度の影響を受ける。例えば、隣接層のp型不純物濃度が高ければ、隣接層からのp型不純物の拡散によって、隣接層の近傍においてp型不純物濃度が高くなるような濃度勾配ができる。
【0038】
(p型不純物濃度の極大:第1のp型窒化物半導体層26)
第1のp型窒化物半導体層26内におけるp型不純物濃度の極大値は、5×10
18cm
−3以上であれば良いが、より好ましくは7×10
18cm
−3以上、さらに好ましくは1×10
19cm
−3以上とすることが望ましい。このp型不純物濃度が高い程、井戸層24a、24bへの正孔の注入が容易となる。一方、p型不純物濃度が高過ぎると、第1のp型窒化物半導体層26の結晶性が低下し、光吸収も増加するので、閾値電流が増大する原因となる。従って、第1のp型窒化物半導体層26におけるp型不純物濃度の極大値は、1×10
20cm
−3以下、より好ましくは5×10
19cm
−3以下とすることが望ましい。第1のp型窒化物半導体層26内におけるp型不純物濃度は、第1のp型窒化物半導体層26中で深さ方向に一定でも良いし、何らかの分布を持っていても良い。但し、第1のp型窒化物半導体層26においてp型不純物濃度を5×10
18cm
−3以上とする領域の厚さは、1nm以上、より好ましくは5nm以上であることが望ましく、20nm以下、より好ましくは50nm以下とすることが望ましい。この領域が、あまり厚すぎると結晶性の低下や光吸収が問題となり、あまり薄すぎると井戸層24a、bへの正孔の注入が不足するからである。
【0039】
本実施の形態において、第1のp型窒化物半導体層26は、井戸層24a、bよりもバンドギャップが大きなAlを含む窒化物半導体から成る。より好ましくは、障壁層22cよりもバンドギャップの大きな窒化物半導体層から成る。これによって第1のp型窒化物半導体層26は、電子を活性層6に閉じ込めるキャリア閉じ込め層として機能するため、好ましい。また、活性層6中のInGaN結晶の分解を抑制するためのキャップ層としても機能させることができる。尚、第1のp型窒化物半導体層26は、p側窒化物半導体層8の一部としても良いし、活性層6の一部であっても良い。
【0040】
第1のp型窒化物半導体層26内におけるp型不純物濃度の極大は、p側窒化物半導体層8に近い方の井戸層24bの上端から300nm以内の距離にあれば良いが、より好ましくは井戸層24bの上端から150nm以下、さらに好ましくは100nm以内にすることが望ましい。また、好ましくは、第1のp型窒化物半導体層26の全体が所定の距離内となるようにする。それによって井戸層24a、bへの正孔の注入が一層容易になる。井戸層24bの上端からの距離は、本実施の形態では最終の障壁層22cの厚さで調整することができる。また、障壁層22c以外の層を井戸層24bと第1のp型窒化物半導体層26の間に介在させても良い。また、p型不純物濃度の極大を第1のp型窒化物半導体層26の中ではなく、その下の障壁層22c等に形成することもできる。
【0041】
(p型不純物濃度の極小:第2のp側窒化物半導体層28a、b)
一方、第2のp型窒化物半導体層28a、b内におけるp型不純物濃度の極小値は、6×10
17cm
−3以上であれば良いが、より好ましくは8×10
17cm
−3以上、さらに好ましくは1×10
18cm
−3以上とすることが望ましい。このp型不純物濃度が高い程、井戸層24a、24bへの正孔の注入が容易となる。一方、p側窒化物半導体層8に近い井戸層24bの上端から300nm程度の範囲は発光が比較的強く分布するため、この範囲における第2のp型窒化物半導体層28a、b中のp型不純物濃度が高過ぎると、閾値電流が増大する原因となる。特に本実施の形態では、第2のp型窒化物半導体層28a、bが分離閉じ込め構造(SCH構造)の光ガイド層として機能するため、第2のp型窒化物半導体層28a、b内におけるp型不純物による光吸収の影響は特に大きくなる。従って、第2のp型窒化物半導体層28a、bにおけるp型不純物濃度の極小値は、第1のp型窒化物半導体層26内におけるp型不純物濃度の極大値に対して1/5以下、より好ましくは1/10以下とすることが望ましい。また、第2のp型窒化物半導体層28a、bにおけるp型不純物濃度の極小値は、1×10
19cm
−3を越えないことが望ましく、より好ましくは5×10
18cm
−3を越えないようにする。
【0042】
第2のp型窒化物半導体層28a、b内におけるp型不純物濃度の分布は、上記の極小を過ぎた後、井戸層22bの上端から300nmの範囲において1×10
18cm
−3以上にまで増大することが好ましい。p型不純物による光吸収は、井戸層22bからの距離が近いほど大きくなる。したがって、井戸層22bの上端から300nmの範囲内において、井戸層24bの上端から近いところではp型不純物濃度を低下させて光吸収を抑制しながら、距離が遠いところでは1×10
18cm
−3以上にp型不純物濃度を増加させることにより、井戸層24a、bへの正孔の注入が一層促進される。
【0043】
このようなp型不純物濃度の分布は、第2のp型窒化物半導体層28a、bの気相成長中にp型不純物の原料ガスの流量を変化することで実現できる。例えば、第2のp型窒化物半導体層28a、bを、第1層28aと第2層28bに分け、第1層28aの成長中には原料ガスの流量を低くするか流量をゼロとし、第2層28bの成長中にp型不純物の原料ガスの流量を高くしても良い。第1層28aの成長中におけるp型不純物の原料ガス流量をゼロとしても、その下にある第1のp型窒化物半導体層26の成長中に流したp型不純物の原料ガスが残留しているため、第1層28a中のp型不純物濃度は第1のp型窒化物半導体層26との界面から離れるに従って徐々に低下し、第2層28bとの界面で最も小さくなる。その次にp型不純物の原料ガスを流しながら第2層28bを成長することによって、p型不純物濃度が増大する。
【0044】
本実施の形態において、第2のp型窒化物半導体層28a、bは、第1のp型窒化物半導体層26及び次に成長するp側クラッド層32よりもバンドギャップが小さく、かつ、井戸層24a、bよりも大きな窒化物半導体から成ることが好ましい。例えば、第1のp型窒化物半導体層26及びp側クラッド層32よりも少ないAlを含む窒化物半導体によって構成することができる。これによって第2のp型窒化物半導体層28a、bを、p側光ガイド層として機能させることができる。尚、第2のp型窒化物半導体層28a、bは、光ガイド層を省略した素子ではクラッド層等の別の機能を持つ層であっても良い。
【0045】
第2のp型窒化物半導体層28a、b内におけるp型不純物濃度の極小は、p側窒化物半導体層8に近い方の井戸層24bの上端から300nm以内の距離にあれば良いが、より好ましくは井戸層24bの上端から250nm以内にする。それによって井戸層24a、bへの正孔の注入が一層容易になる。井戸層24bの上端からの距離は、本実施の形態では最終の障壁層22c、第1のp型窒化物半導体層26及び第2のp型窒化物半導体層の第1層28aの厚さで調整することができる。また、これらの層以外を介在させて距離を調整しても良い。また、p型不純物濃度の極小を第2のp型窒化物半導体層28a、bの中ではなく、その下の第1のp型窒化物半導体層26内に形成することもできる。
【0046】
尚、窒化物半導体レーザダイオードの発振波長が長くなるほど、活性層6で発生する転位の密度が高くなる。このため第1のp型窒化物半導体層26におけるp型不純物濃度の極大値や、第2のp型窒化物半導体層28a、bにおける極小値は、発振波長が長くなるほど高くすることが好ましい。例えば、発振波長が560nmである場合、p型不純物濃度の極大値を5×10
19cm
−3程度とし、極小値を5×10
18cm
−3程度とすることが好ましい。このp型不純物濃度を越えると、p側窒化物半導体層8の結晶性が低下し、また発光の吸収による影響も大きくなる。したがって、本件発明の窒化物半導体レーザダイオードにおいては、発振波長を560nm以下とすることが望ましい。
【0047】
本件発明において、p型不純物濃度の深さ分布は、SIMS(ATOMIKA社製、SIMS4500)によって測定することができる。例えば、1次イオン種をO
2+、加速電圧を2kV、電流を110nA、ラスター領域(サンプルをエッチングしている領域)を120μm
2として1次イオンを試料に対して垂直に入射し、測定領域(データを取得している領域)30μm
2として2次イオンの検出を行うことで測定できる。また、p型不純物濃度の数値をSIMS測定に基づいて決定するには、p型不純物濃度が既知の窒化物半導体層を標準サンプルをSIMS測定し、その2次イオンの検出量を基準すれば良い。標準サンプルは、例えば、窒化物半導体層にp型不純物をイオン注入して作成することができる。また、また、p側窒化物半導体層の転位密度は、p側窒化物半導体層の上面をカソードルミネッセンス(CL)で観察したり、断面を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することで測定できる。
【0048】
以下、本実施の形態の窒化物半導体レーザダイオード1の各構成について詳細に説明する。
【0049】
(基板2)
基板2は、窒化物半導体から成ることが好ましく、より好ましくはGaNから成ることが望ましい。窒化物半導体から成る基板は、熱伝導率がサファイアに比べて高いため放熱効率の向上が可能であり、転位等の欠陥を低減して結晶性を良好にすることができる。
基板2における転位密度は低い方が、井戸層24a、bの面状態が改善され、ライフ特性も向上する。InGaN発光層を用いた半導体レーザダイオードは、他の材料系に比べると転位によるライフ特性の低下が比較的緩やかであるが、やはり転位に対する依存性がある。また、基板2の転位密度が少ない方がESD耐性も高くなる。基板2の転位密度は、1×10
7cm
−2以下、より好ましくは5×10
6cm
−2以下、さらに好ましくは5×10
5cm
−2以下とすることが望ましい。なお、基板2の転位密度は、窒化物半導体層を成長すべき主面における転位密度で考える。
【0050】
また、基板2の転位密度は、活性層6で発生する転位密度と同等以下であることが好ましい。基板2の転位密度は、活性層6で発生する転位密度と同等以下であると、素子全体の転位分布が特徴的な形になる。即ち、基板から活性層までは転位密度が低く、活性層から上は転位密度が高い構造となる。このような構造では、転位の導入によって、下地層から活性層(井戸層)にかかる歪みを緩和し、歪みが起因で発生する発光効率の低下(例えば、ピエゾ分極など)を弱めることが出来るため好ましい。
【0051】
基板2としては、種々の方法で製造したものを使用できる。例えば、サファイア等の異種基板上にハイドライド気相成長法(HVPE法)等によって窒化物半導体層を厚膜に成長した後、異種基板を除去して窒化物半導体から成る基板を得ても良い。また、サファイア等の異種基板上に窒化物半導体層を成長させる際、公知の横方向成長方法を用いて窒化物半導体の転位密度を低減しても良い。適切な種結晶を用いて成長させた窒化物半導体結晶のインゴットから切り出したウエハを基板2としても良い。
【0052】
また、窒化物半導体から成る基板のC面にレーザダイオードを成長することが好ましい。窒化物半導体のC面にレーザダイオードを形成すれば、劈開面(m面)が簡単に出る、C面が化学的に安定していることからプロセスしやすい、後の工程に必要な程度のエッチング耐性がある、などの利点が得られる。
【0053】
(n側窒化物半導体層4)
図12に、本実施の形態で用いるn側窒化物半導体層4の層構成を示す。尚、下記に説明する層のうち、n側クラッド層16以外の層は、素子構造によっては省略可能である。
【0054】
まず、窒化物半導体から成る基板2の上に、基板を構成する窒化物半導体よりも熱膨張係数が小さく、Si等のn型不純物をドープした窒化物半導体から成る第1のn側窒化物半導体層12を成長する。第1のn側窒化物半導体層12は、下地層として機能する。第1のn側窒化物半導体層12は、Alを含む窒化物半導体、好ましくはAlGaNから成ることが望ましい。第1のn側窒化物半導体層12を基板を構成する窒化物半導体よりも熱膨張係数の小さな材料とすることによって第1のn側窒化物半導体層12に圧縮歪を加え、基板2上に成長する窒化物半導体層への微細なクラックの発生を防止することができる。第1のn側窒化物半導体層12は、0.5〜5μmの膜厚で形成することが好ましい。
【0055】
第1のn側窒化物半導体層12の上に、Inを含む窒化物半導体、好ましくはInGaNから成り、n型不純物をドープした第2のn側窒化物半導体層14を成長する。第2のn側窒化物半導体層14は、クラック防止層として機能させることができる。Inを含む窒化物半導体は、結晶が比較的柔らかいため、その上に成長する窒化物半導体層に加わる歪を緩和して、クラックの発生を防止することができる。第2のn側窒化物半導体層14は、50〜200nmの膜厚で形成することが好ましい。
【0056】
第2のn側窒化物半導体層14の上に、Alを含む窒化物半導体、好ましくはAlGaNから成り、n型不純物をドープした第3のn側窒化物半導体層16を成長する。第3のn側窒化物半導体層16は、n側クラッド層として機能させることができる。第3のn側窒化物半導体層16は、少なくとも障壁層22a、b、cよりも大きなバンドギャップを持つ窒化物半導体により構成する。第3のn側窒化物半導体層16は、単層でも多層でも良い。また、超格子構造の多層膜としても良い。第3のn側窒化物半導体層16は、0.5〜2.0μmの膜厚で形成することが好ましい。
【0057】
第3のn側窒化物半導体層16の上に、第3のn側窒化物半導体層16よりもバンドギャップが小さく、井戸層24a、bよりもバンドギャップの大きな窒化物半導体から成る第4のn側窒化物半導体層18a、bを形成する。第4のn側窒化物半導体層18a、bは、n側光ガイド層として機能させることができる。第4のn側窒化物半導体層18a、bは、GaN又はInGaNとすることが好ましい。また、第4のn側窒化物半導体層18a、bは、光吸収を抑制しながら活性層6への電子の供給を十分に行うため、(i)活性層6から遠く、n型不純物をドープして成長した第4のn側窒化物半導体層18aと、(ii)活性層6に近く、n型不純物をドープせずに成長した第4のn側窒化物半導体層18bに分けることが好ましい。第4のn側窒化物半導体層18a、bは、合計で200〜300nmの膜厚で形成することが好ましい。
【0058】
(活性層6)
活性層6としては、In
xAl
yGa
1−x−yN(0<x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を含む発光層を有するものであれば良く、
図1に示した多重量子井戸構造の活性層の他に、単一量子井戸構造の活性層、薄膜の発光層単体から成る活性層などを用いることができる。量子井戸構造の場合は、井戸層24a、bが発光層となる。発光層は、In
xAl
yGa
1−x−yN(0<x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を含むものであれば良いが、より好ましくはInGaNとする。尚、本件明細書において「発光層」とは、電子と正孔が発光再結合する層を指す。
【0059】
発光層の発光波長は、実施例で具体的に説明するようにIn含有率によって制御することができる。尚、In含有率が高い井戸層の場合、井戸層の分解を抑制するために各井戸層の上側に井戸キャップ層(図示せず)を設けることが好ましい。井戸キャップ層は、膜厚は1−5nmの範囲で、Al含有率が0−50%のAlInGaN、より好ましくはAl含有率が0−30%のAlGaNとすることが望ましい。井戸キャップ層は、井戸層と障壁層の間に形成する。
【0060】
活性層6の発光層は、薄い方が閾値電流を低下させることができ、障壁層との格子定数不整も緩和し易くなるが、薄くし過ぎるとキャリアの閉じ込めが不十分となる。そこで発光層の膜厚は、1.0nm以上、より好ましくは2.0nm以上、5.0nm以下、より好ましくは4.0nm以下とすることが望ましい。活性層6の発光層には、n型不純物がドープされていても、いなくても良い。しかしながら、Inを含む窒化物半導体はn型不純物濃度が大きくなると結晶性が悪化する傾向にあるため、n型不純物濃度を低く抑えて結晶性の良好な発光層とすることが好ましい。
【0061】
活性層6を多重量子井戸構造とすれば、出力の向上、発振閾値の低下などが図ることが可能となる。活性層6が多重量子井戸構造から成る場合、井戸層と障壁層が交互に積層されていれば、最初と最後の層は井戸層でも障壁層でも良い。但し、本実施の形態のように、最外層は障壁層であることが好ましい。また、多重量子井戸構造において、井戸層に挟まれた障壁層は、特に1層であること(井戸層/障壁層/井戸層)に限るものではなく、2層若しくはそれ以上の層の障壁層を、「井戸層/障壁層(1)/障壁層(2)/・・・/井戸層」というように、組成・不純物量等の異なる障壁層を複数設けても良い。
【0062】
量子井戸構造の活性層6に用いる障壁層22a、b、cとしては、特に限定されないが、井戸層24a、bよりIn含有率の低い窒化物半導体、GaN、Alを含む窒化物半導体などを用いることができる。より好ましくは、InGaN、GaN又はAlGaNを含むことが望ましい。障壁層22a、b、cの膜厚や組成は、量子井戸構造中で全て同じにする必要はない。本実施の形態においても、最もn側にある障壁層22a>最もp側にある障壁層22c>それらの間に挟まれた障壁層22bの順に膜厚を大きくしている。また、最もn側にある障壁層22aにだけn型不純物をドープし、残りの障壁層22b、cと井戸層24a、bはn型不純物をドープせずに成長している。
【0063】
尚、本実施の形態では、井戸層24a,bの数を2層、障壁層22a、b、cの数を3層としたが、本件発明はこれに限定されない。例えば、井戸層24a,bの数を2層ではなく、3層又は4層等、より多い数に増やしても良い。一般には発振波長が長波長になるほど、活性層6における転位発生を抑制するために井戸層の厚みを薄くする必要がある。本件発明では、活性層6における転位の発生を許容するため、活性層6の全体としてキャリア閉じ込めが不十分となるような膜厚にまで井戸層を薄膜化する必要はない。しかし、井戸層の数を増やせば、より薄い膜厚の井戸層を用いても活性層6全体としてキャリア閉じ込めが達成できる。したがって、活性層6における過剰な転位発生を避けることができる。発振波長が500nm以上の窒化物半導体レーザダイオードの場合、井戸層の数が2層の場合よりも、3層又は4層の方が閾値電流は低下する。
【0064】
本件発明における活性層6の発振波長は、500nm以上であれば良いが、あまりに長波長になると活性層6で発生する転位の密度が高くなり過ぎるため好ましくない。
図5に示す通り、活性層6の発振波長が560nmの場合に活性層6で発生する転位の密度は約1×10
7cm
−2となる。転位密度がこれ以上になると、必要なp型不純物の濃度が高くなり過ぎるため好ましくない。そこで活性層6で発生する転位密度が1×10
7cm
−2以下となるように、活性層6の発振波長を560nm以下とすることが好ましい。
【0065】
(p側窒化物半導体層8)
p側窒化物半導体層8としては、Alを含む窒化物半導体層26(第1のp型窒化物半導体層)、p側光ガイド層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)、p側クラッド層32(第3のp型窒化物半導体層)、p側コンタクト層34(第4のp型窒化物半導体層)が積層されている。p側クラッド層32を除く他の層は、素子によっては省略することもできる。p側窒化物半導体層8は、少なくとも活性層6と接する部分において活性層6よりも広いバンドギャップを有することが必要であり、そのためにAlを含む組成であることが好ましい。また、各層は、p型不純物をドープしながら成長させてp型としても良いし、隣接する他の層からp型不純物を拡散させてp型としても良い。p型不純物としては、Mgの他に、Be、Zn、Cd等を用いることができる。
【0066】
Alを含む窒化物半導体層26は、p側クラッド層32よりも高いAl混晶比を持つp型窒化物半導体から成り、好ましくはAl
xGa
1-xN(0.1<x<0.5)を含む。また、Mg等のp型不純物が5×10
18cm
−3以上の濃度でドープされている。これによりAlを含む窒化物半導体層26は、電子を活性層6中に有効に閉じ込めることができ、レーザの閾値を低下させる。また、Alを含む窒化物半導体層26は、3〜50nm、より好ましくは3〜20nm程度の薄膜で成長させれば良く、薄膜であればp側光ガイド層28a、bやp側クラッド層32よりも低温で成長させることができる。したがって、Alを含む窒化物半導体層26を形成することにより、p側光ガイド層28a、b等を活性層6の上に直接形成する場合に比べて、Inを含む活性層6の分解を抑制することができる。
【0067】
また、Alを含む窒化物半導体層26は、アンドープで成長させた障壁層22cにp型不純物を拡散によって供給する役割を果たしており、両者は協働して、井戸層24a、bを分解から保護すると共に、井戸層24a、bへの正孔の注入効率を高める役割を果たす。即ち、活性層6の最終層としてアンドープ障壁層22cを他の障壁層よりも厚く形成し、その上にMg等のp型不純物を高濃度にドープしたp型Al
xGa
1-xN(0.1<x<0.5)を含む薄膜の窒化物半導体層26を低温で成長させることにより、Inを含む活性層6が分解から保護されると共に、p型Al
xGa
1-xN層からアンドープ障壁層22cにMg等のp型不純物が拡散して活性層6への正孔注入効率を向上することができる。
【0068】
また、このAlを含む窒化物半導体層26は、電子閉込め層として機能させるため、活性層6とクラッド層32との間に設けるものであり、更に光ガイド層28a、bを有する場合には、光ガイド層28a,bと活性層6との間に設けることが好ましい。p側窒化物半導体層8に最も近い井戸層24bの上端から300nm以内、より好ましくは200nm以内、さらに好ましくは100nm以内にAlを含む窒化物半導体層26を形成すれば、電子の閉込め層として機能し、かつ、正孔も効率的に供給可能となる。Alを含む窒化物半導体層26は、活性層6に近いほどキャリアの閉込めが効果的に機能し、その上レーザ素子において活性層6との間には、殆どの場合、特に他の層を必要とすることがないため、通常は活性層6に接してAlを含む窒化物半導体層26を設けることが最も好ましい。尚、バッファ層を両者の間に設けることも可能である。
【0069】
p側光ガイド層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)は、Alを含むp型窒化物半導体層26及び次に成長するp側クラッド層32よりもバンドギャップが小さく、かつ、井戸層24a、bよりも大きな窒化物半導体から成ることが好ましい。例えば、Alを含むp型窒化物半導体層26及びp側クラッド層32よりも少ないAlを含む窒化物半導体によって構成することができる。また、p側光ガイド層28a、bは、光吸収を抑制しながら活性層6への正孔の供給を十分に行うため、(i)活性層6に近く、p型不純物をドープしないで成長した第1p側光ガイド層28aと、(ii)活性層6から遠く、p型不純物をドープして成長した第2p側光ガイド層28bに分けることが好ましい。
【0070】
p側クラッド層32(第3のp型窒化物半導体層)は、Alを含む窒化物半導体層、好ましくはAl
XGa
1−XN(0<x<1)を含む超格子構造とすることが望ましく、さらに好ましくはAl組成の異なるAlGaNを積層した超格子構造とする。p側クラッド層32を超格子構造とすることによって、クラッド層全体のAl混晶比を上げることができるので、クラッド層自体の屈折率が小さくなり、さらにバンドギャップエネルギーが大きくなるので、閾値を低下させる上で非常に有効である。さらに、超格子にすれば、クラッド層自体に発生するピットやクラックが超格子にしないものよりも少なくなるので、ショートの発生も低くなる。p側クラッド層32(第3のp型窒化物半導体層)が持つバンドギャップは、p側光ガイド層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)よりも大きく、第1のp型窒化物半導体層26よりも小さなことが好ましい。A層とB層を積層して成る超格子構造のp側クラッド層32(第3のp型窒化物半導体層)のバンドギャップは、A層とB層の平均として考えれば良い。p側クラッド層32(第3のp型窒化物半導体層)のp型不純物濃度は、p側光ガイド層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)よりも高く、p側コンタクト層34(第4のp型窒化物半導体層)よりも低くすることが好ましい。p側光ガイド層28a,b(第2のp型窒化物半導体層)よりも高いp型不純物濃度を有することで正孔供給機能を補助しながら、p側コンタクト層34(第4のp型窒化物半導体層)よりも低いp型不純物濃度を持つことで、結晶性の低下による閾値電流の増大を抑制することができる。A層とB層を積層して成る超格子構造のp側クラッド層32(第3のp型窒化物半導体層)の不純物濃度は、A層とB層の平均として考えれば良い。
【0071】
p側コンタクト層34(第4のp型窒化物半導体層)は、p型の窒化物半導体で構成することができ、好ましくはMgをドープしたGaNとすれば、p側電極38と好ましいオーミック接触が得られる。p側コンタクト層34は電極を形成する層であるので、5×10
19/cm
3以上の高キャリア濃度とすることが望ましい。
【0072】
本実施の形態のレーザダイオードでは、光ガイド層28a、bの途中までエッチングすることによってリッジ36を設けた後、リッジ36の側面をSiO
2等の絶縁性の埋め込み層46で覆い、さらにSiO
2等の絶縁性の保護膜48を形成している。保護膜48として、半絶縁性、i型の窒化物半導体、リッジ部とは逆の導電型の窒化物半導体等を用いることもできる。
【0073】
尚、リッジ36を設ける際、
図13に示すように、リッジ36の底部の両側にリッジ36と平行な溝49を形成することが好ましい。井戸層のIn含有率が高くなると、p側クラッド層32として通常用いられるAlGaNとの屈折率差が小さくなり、十分な光閉じ込め係数が得られ難くなる。そこでリッジ36の両側に共振器方向に連続する溝部49を設けることで、井戸層のIn含有率が高い場合であっても、十分な光閉じ込めが行える。
【0074】
本発明のレーザダイオードは、上記のリッジ構造を持つ屈折率導波型に限定されず、リッジ側面を再成長により埋め込んだBH構造や、電流狭窄層を設けた構造など種々の構造とすることができる。また、本発明のレーザダイオードは、Al
xIn
yGa
1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表される窒化物半導体から成るが、六方晶系の窒化物半導体であることが好ましい。六方晶系であれば、III族元素又はV族元素に他の元素が結晶性を低下させない程度に少量含まれていても構わない。
【0075】
本件発明によれば、発振波長が500nm以上の窒化物半導体レーザダイオードであって、発光効率とライフ特性に優れた窒化物半導体レーザダイオードを実現することができる。本発明によって得られた緑色の窒化物半導体レーザダイオードに、従来からの青色の窒化物半導体レーザダイオードと赤色の半導体レーザダイオードを組み合わせれば、フルカラーのディスプレイが実現できる。例えば、本件発明に従って構成された波長500〜560nmで発振する窒化物半導体レーザダイオードと、波長440〜480nmで発振する窒化物半導体レーザダイオードと、波長600〜660nmで発振する半導体レーザダイオードとを組み合わせることで、半導体レーザを用いたフルカラーディスプレイ装置を得ることができる。
【実施例1】
【0076】
図1に示す構造の窒化物半導体レーザを以下のようにして製造する。
(n側窒化物半導体層4)
まず、C面を主面とし、転位密度が約5×10
5cm
−2である窒化ガリウム基板2を準備する。MOCVD法によりこの窒化ガリウム基板2上に、水素をキャリアガスとして、1140℃でTMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、SiH
4(シラン)、アンモニアを用い、Siを3×10
18/cm
3ドープしたn型Al
0.03Ga
0.97N層12を膜厚2μmで成長させる(第1のn側窒化物半導体層)。続いて温度を930℃とし、TMI(トリメチルインジウム)を用いてSiを4×10
18/cm
3ドープしたn型In
0.06Ga
0.94N層14を膜厚0.15μmで成長させる(第2のn側窒化物半導体層)。次に温度を990℃としSiを2×10
18/cm
3ドープしたn型Al
0.09Ga
0.91N層16を膜厚1μmで成長させる(第3のn側窒化物半導体層16)。なおこの層は平均Al組成が9%となる任意の膜厚比のAl
xGa
1−xN/Al
yGa
1−yN(0≦x≦1、0≦y≦1)などの多層膜構造とすることも出来る。次にTMAを止め、990℃でSiを1×10
18/cm
3ドープしたn型GaN層18a、アンドープのn型GaN層18bをそれぞれ0.15μmの膜厚で成長させる(第4のn側窒化物半導体層18a、b)。なおこのアンドープGaN層18bにn型不純物をドープしてもよい。
【0077】
(活性層6)
次に活性層6を以下のようにして成長する。キャリアガスを窒素に切り替え、温度を925℃にしてSiを2×10
18/cm
3ドープしたIn
0.04Ga
0.96Nからなる障壁層22a、アンドープGaN層(図示せず)をそれぞれ210nm、1nmの膜厚で成長させる。続いて温度を780℃にしてアンドープIn
0.23Ga
0.77Nよりなる井戸層24aを3nmを成長した後、アンドープGaNよりなる井戸キャップ層(図示せず)を1nm成長し、温度を925℃に上げてアンドープGaNよりなる障壁層22bを14nm成長する。温度を780℃にして再度アンドープIn
0.23Ga
0.77Nよりなる井戸層24bを3nm成長させた後、アンドープGaNよりなる井戸キャップ層(図示せず)を1nm成長し、温度を925℃に上げてアンドープIn
0.04Ga
0.96Nよりなる障壁層22cを70nm成長させ、多重量子井戸構造(MQW)の活性層を形成する。
【0078】
(p側窒化物半導体層8)
次に温度を990℃に上げ、キャリアガスを窒素から水素に切り替えながら、Cp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)をMgドーパントに用い、Mgを1×10
19/cm
3ドープしたp型Al
0.2Ga
0.8 N層26(第1のp型窒化物半導体層)を10nmの膜厚で成長させる。なおこの層26は成長方向にAl組成分布が0〜20%の間である。続いて990℃でアンドープのp型Al
0.03Ga
0.97N層28a、Mgを3×10
18/cm
3ドープしたp型Al
0.03Ga
0.97N層28bをそれぞれ0.15μmの膜厚で成長させる(第2のp型窒化物半導体層)。なおアンドープ層28aではMgを意図的にはドーピングしていないが、直前に層26を成長した際のMgがMOCVD反応室内に残留しており、そのMgが層28aを成長する際に取り込まれることによって層28a中のMg濃度は1.2×10
18cm
−3以上となる。尚、層28aに意図的にMgをドーピングしてもよく、Al組成が0〜3%であってもよい。次に990℃でMgをドープしたAl
0.06Ga
0.94 Nよりなる2.5nmの層と、アンドープAl
0.12Ga
0.88 Nよりなる2.5nmの層とを交互に成長させ、総膜厚0.45μmよりなる層32を成長させる(第3のp型窒化物半導体層)。層32における平均のMg濃度は、約1×10
19cm
−3となる。最後に990℃で層26の上にMgを1×10
20/cm
3ドープしたp型GaN層32を15nmの膜厚で成長させる。
【0079】
次に、窒化物半導体を成長させたウェハを反応容器から取り出し、最上層のp型GaN層32の表面にSiO
2からなるマスクを形成し、このマスクを用いて窒化物半導体層を3μmエッチングし、600μmの長さ(共振器長に対応)のストライプ構造を形成する。この部分がレーザ素子の共振器本体となる。共振器長は200μm〜5000μm程度の範囲であることが好ましい。次にp型GaN層32の表面にSiO
2からなるストライプ状のマスクを形成し、このマスクを用いてp型GaN層32の表面をRIE(反応性イオンエッチング)によりエッチングする。これによってストライプ状の導波路領域であるリッジ部36を幅2μmで形成する。またこの際、
図13に示すようにリッジ脇部分49が周辺領域よりも30nm深くエッチングされ、かつリッジ部36の側壁はp型GaN層32に対して75度の角度で形成されるようエッチング条件(圧力、温度)を調整する。
【0080】
次にフォトレジストによりウェハ全面を覆い、リッジ部36上のSiO
2が露出するまでフォトレジストのエッチングを行う。続いてチップ化された際に共振器の端面となる領域を再度フォトレジストによりマスクした後、共振器端面付近を除くリッジ36上のSiO
2をエッチングし、p型GaN層32を露出させる。次にウェハ全体にNi(10nm)/Au(100nm)/Pt(100nm)よりなるp電極38をスパッタリングにより形成し、その後すべてのフォトレジストを除去することによってストライプ状のリッジ部36のSiO
2を除去した部分のみにp電極38を残す。その後、600℃でオーミックアニールを行う。
【0081】
次にSi酸化物(SiO
2、200nm)からなる埋め込み層46をスパッタリングにより成膜する。ここでリッジ部36の形状はテーパー状であり、リッジ36の側壁はウェハ表面に対する断面積がその他の領域に比べて小さいため、埋め込み層46の膜厚はリッジ側壁部分<リッジ脇部分49の関係で形成される。またリッジ脇部分49はリッジ側壁に膜が形成されるに従って反応性イオンの密度が低下し、成膜レートがリッジ外領域に比べて低下するため、埋め込み層46の膜厚がリッジ脇部分49<リッジ外領域の関係で形成される。従って埋め込み層46の膜厚はリッジ側壁部分<リッジ脇部分49<リッジ外領域34の関係となる。
【0082】
次に再度フォトレジストによりウェハ全面を覆い、リッジ部36上のp電極38が露出するまでフォトレジストのエッチングを行う。続いてp電極38および共振器端面部分上のSiO
2を除去する。次にSi酸化物(SiO
2)からなる保護膜48を埋め込み膜の上及び半導体層の側面に0.5μmの膜厚で、スパッタリングにより成膜する。
【0083】
次に先ほど露出させたp電極38に連続してNi(8nm)/Pd(200nm)/Au(800nm)からなるpパット電極40を形成する。次に基板2の厚みが80μmになるように窒化物半導体層の成長面と反対側の面から研磨する。次に研磨した面にV(10nm)/Pt(200nm)/Au(300nm)よりなるn電極42を形成する。次にウェハをレーザによってピース状に分割し、(1−100)面をへき開面としてへき開して、共振器端面を形成する。次にこの端面の両側にSiO
2/ZrO
2からなるミラーを形成する。最後に、共振器端面に垂直な方向で、バーを切り分けることによって半導体レーザ素子とする。
【0084】
このようにして作成した窒化物半導体レーザダイオードは、活性層6から約2×10
6cm
−2の転位が発生する。p側窒化物半導体層8内におけるMg濃度のプロファイルは、
図9のようになり、Mg濃度の極大値は1×10
19/cm
3、極小値は1.2×10
18cm
3となる。500nmでレーザ発振し、閾値電流は、25mA、出力は5mWである。60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、
図10のような結果を示し、60℃における推定寿命が5万時間となる。
【0085】
実施例1において、p型Al
0.2Ga
0.8 N層26(第1のp型窒化物半導体層)のMg濃度を4.3×10
18cm
−3とし、p型Al
0.03Ga
0.97N層28a、28b(第2p型窒化物半導体層)のMg濃度を各々5.6×10
17cm
−3、1.4×10
18cm
−3とする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザダイオードを作成する。活性層6から約2×10
6cm
−2の転位が発生する。p側窒化物半導体層8内におけるMg濃度のプロファイルは、
図8のようになり、Mg濃度の極大値は4.3×10
18cm
−3、極小値は5.6×10
17cm
−3となる。500nmでレーザ発振し、閾値電流は、30mA、出力は5mWである。60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、
図6のような結果を示し、60℃における寿命は約40時間となる。
【実施例2】
【0086】
実施例1において、井戸層の組成をIn
0.25Ga
0.75Nとし、膜厚を2.5nm、井戸層の数を3層とする。また、p型Al
0.2Ga
0.8N層26(第1のp型窒化物半導体層)のMg濃度を2×10
19cm
−3とし、p型Al
0.03Ga
0.97N層28a、28b(第2p型窒化物半導体層)のMg濃度を各々2×10
18cm
−3、4×10
18cm
−3とする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザダイオードを作成する。活性層6から約5×10
6cm
−2の転位が発生する。517nmでレーザ発振し、閾値電流70mA、出力は5mWである。60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、推定寿命は1万時間以上となる。
【実施例3】
【0087】
実施例1において、井戸層の組成をIn
0.27Ga
0.73Nし、膜厚を2.2nm、井戸層の数を4層とする。また、p型Al
0.2Ga
0.8N層26(第1のp型窒化物半導体層)のMg濃度を3×10
19cm
−3とし、p型Al
0.03Ga
0.97N層28a、28b(第2p型窒化物半導体層)のMg濃度を各々3×10
18cm
−3、6×10
18cm
−3とする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザダイオードを作成する。活性層6から約7.5×10
6cm
−2の転位が発生する。540nmでレーザ発振し、60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、比較例に対して、顕著に良好な寿命特性を示す。
【実施例4】
【0088】
実施例1において、井戸層の組成をIn
0.3Ga
0.7Nとし、膜厚を2nm、井戸層の数を4層とする。また、p型Al
0.2Ga
0.8N層26(第1のp型窒化物半導体層)のMg濃度を5×10
19cm
−3とし、p型Al
0.03Ga
0.97N層28a、28b(第2p型窒化物半導体層)のMg濃度を各々5×10
18cm
−3、1×10
19cm
−3とする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザダイオードを作成する。活性層6から約1×10
7cm
−2の転位が発生する。560nmでレーザ発振し、60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、比較例に対して、顕著に良好な寿命特性を示す。
【実施例5】
【0089】
実施例1において、p型Al
0.03Ga
0.97N層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)の成長を省略し、p型Al
0.2Ga
0.8N層26(第1のp型窒化物半導体層)の上に、膜厚
0.45μmよりなる層32を直接成長する。層32の最初の0.15μmはAl
0.06Ga
0.94N層とAl
0.12Ga
0.88N層を両方アンドープで成長し、残りの0.3μmはAl
0.06Ga
0.94N層に実施例1と同じ濃度のMgをドープして成長する。層32は、層28a、bよりバンドギャップが大きい(=屈折率が小さい)ため、これにより光閉じ込めが強化され、かつMgをドーピングした際の光吸収を低減できる。活性層6から約2×10
6cm
−2の転位が発生する。p側窒化物半導体層8内におけるMg濃度のプロファイルは、実施例1と同様に、Mg濃度の極大値は1×10
19/cm
3、極小値は1.2×10
18cm
3となる。500nmでレーザ発振し、閾値電流は、実施例1よりもやや高くなるが、60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、実施例1と同程度の寿命を示す。
【実施例6】
【0090】
実施例1において、p型Al
0.03Ga
0.97N層28a、b(第2のp型窒化物半導体層)中のMg濃度を次のようにして3×10
18cm
−3で一定にする。層26の成長後、成長温度を一定としてMg原料を成長初期10nmだけ供給し、一旦Mg原料の供給を停止する。そこから50nm程度成長後に再びMg原料の供給を開始し、徐々にMg原料ガスの流量を絞っていく。これによりp型Al
0.03Ga
0.97N層28a、bの全体に渡ってMg濃度が一定の層となる。実施例1と同様に、活性層6から約2×10
6cm
−2の転位が発生する。p側窒化物半導体層8内におけるMg濃度のプロファイルは、Mg濃度の極大値は1×10
19/cm
3となるが、その後p型Al
0.03Ga
0.97N層28a、bの中は3×10
18cm
3と一定となる。500nmでレーザ発振し、閾値電流は、50mAになるが、60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、実施例1と同程度の寿命を示す。
【実施例7】
【0091】
実施例1において、障壁層22cを連続的もしくは段階的にバンドギャップが大きくなるように成長する。実施例1と同様に、アンドープIn
0.04Ga
0.96Nよりなる障壁層22cを70nm成長させた後、それよりもバンドギャップが大きなアンドープAlInGaN層(例えばGaN、AlGaN)を20nmの膜厚で成長する。その後、実施例1と同様にしてp側窒化物半導体層8を成長する。これによりp側窒化物半導体層8の膜厚を増加させることなく光閉じ込めが強化されるので、動作電圧が低減する。また、60℃、APC、5mWでライフ試験をすると、実施例1と同程度の寿命を示す。
【実施例8】
【0092】
実施例1において、MgをドープしたAl
0.06Ga
0.94Nよりなる2.5nmの層と、アンドープAl
0.12Ga
0.88Nよりなる2.5nmの層とを交互に成長させた層32(第3のp型窒化物半導体層)の成長を省略する。また、p電極38としてNi/Au/Ptの代わりにITOを形成する。その他は実施例1と同様にして窒化物半導体レーザダイオードを作成する。ITOから成るp電極38が層32の代わりにクラッド層として機能する。p側窒化物半導体層8の厚みが減少するため、駆動電圧が低減する。その他は、実施例1と同様の特性が得られる。
【実施例9】
【0093】
実施例1において、第4のn側窒化物半導体層18a、bの組成をGaNから、第3のn側窒化物半導体層16よりもAlの少ないAlGaNに変える。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザを作成する。実施例1と同様の特性が得られる。
【実施例10】
【0094】
実施例1において、第4のn側窒化物半導体層18a、bを全てアンドープとする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザを作成する。実施例1と同様の特性が得られる。
【実施例11】
【0095】
実施例1において、次に温度を990℃としSiを2×10
18/cm
3ドープしたn型Al
0.09Ga
0.91N層(第3のn側窒化物半導体層16)の膜厚を2μmにする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザを作成する。実施例1よりも基板側への光の漏れが小さくなり、FFP−Y形状が改善される。その他は実施例1とほぼ同様の特性が得られる。
【実施例12】
【0096】
実施例1において、障壁層22bをGaNに代えて、井戸層よりもInの少ないInGaNとGaNの2層構造とする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザを作成する。実施例1に比べて駆動電圧が低減する。その他は実施例1と同様の特性が得られる。
【実施例13】
【0097】
実施例1において、井戸キャップ層をGaNからAlInGaNとする。その他は、実施例1と同様にして窒化物半導体レーザを作成する。実施例1と同様の特性が得られる。