(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。
【0025】
<1. 実施形態>
<1.1 構成および機能>
図1は、実施形態に係る検査装置100の概略構成図である。検査装置100は、半導体デバイスまたはフォトデバイスである検査対象物に対し、パルス光を照射し、該パルス光の照射に応じて検査対象物から放射される電磁波(例えば、周波数が0.1THz〜10THzのテラヘルツ波)を検出することによって、検査対象物の検査を行う。
【0026】
本願において、半導体デバイスとは、半導体によりトランジスタ、集積回路(ICやLSI)、抵抗またはコンデンサなどにより構成される電子装置をいう。また、フォトデバイスとは、フォトダイオード、CMOSセンサ若しくはCCDセンサなどのイメージセンサ、太陽電池またはLEDなど、半導体の光電効果を利用する電子装置をいう。以下では、検査対象物が、フォトデバイスの一種である平板状の太陽電池9である場合を例にして、具体的に説明する。太陽電池9の表面9Sは、平面状でもよいが、曲面状などに形成されていてもよい。
【0027】
図1に示されるように、検査装置100は、ステージ11、照射部12、検出部13、測定用遅延部14A、検出用遅延部14B、ステージ移動機構15および制御部16を備えている。
【0028】
ステージ11は、図示を省略する固定手段によって、太陽電池9をステージ11上に固定して保持する。固定手段としては、太陽電池9を挟持する挟持具を利用したもの、粘着性シート、または、ステージ11の表面に形成される吸着孔などが例示される。ただし、太陽電池9を保持できるのであれば、これら以外の固定手段が採用されてもよい。
【0029】
照射部12は、パルス光を出射する光源として、フェムト秒レーザ121を備えている。フェムト秒レーザ121は、例えば、300nm(ナノメートル)以上1.5μm(マイクロメートル)以下の可視光領域を含む波長のパルス光(パルス光LP1)を放射する。好適な例としては、中心波長が800nm付近であり、周期が数kHz〜数百MHz、パルス幅が10〜150フェムト秒程度の直線偏光のパルス光が、フェムト秒レーザから放射される。もちろん、その他の波長領域(例えば、青色波長(450〜495nm)、緑色波長(495〜570nm)の可視光波長)のパルス光が出射されるようにしてもよい。
【0030】
フェムト秒レーザ121から出射されたパルス光LP1は、ハーフミラーHM1によって、2つに分光される。分光された一方のパルス光(測定用パルス光LP10)は、太陽電池9へ導かれる。測定用パルス光LP10の光強度は、例えば数百mW程度とされる。また、もう一方のパルス光(検出用パルス光LP21)は、電磁波を検出する検出部13の検出器131へと導かれる。検出用パルス光LP21の光強度は、例えば5mW程度とされる。
【0031】
測定用パルス光LP10は、ハーフミラーHM2によって、2つに分光される。分光された一方の測定用パルス光は、光チョッパ123によって数kHz(例えば、2kHzまたは4kHz)の変調がかけられる。なお、変調素子として、AOM(Acousto-Optic Modulator)などを用いてもよい。光チョッパ123によって変調された測定用パルス光は、測定用プローブ光LP11として、ガルバノミラー125を介して太陽電池9の表面に導かれる。
【0032】
ガルバノミラー125は、測定用プローブ光LP11の光路を変更することによって、太陽電池9に対して予め設定された検査範囲内を測定用プローブ光LP11で走査する。ガルバノミラー125は、ガルバノミラー駆動機構127によって駆動される。測定用プローブ光LP11は、ガルバノミラー125によって、太陽電池9に対して、測定用プローブ光LP11の光軸に垂直な2方向に走査しつつ照射される。ガルバノミラー125およびガルバノミラー駆動機構127は、走査機構の一例である。なお、ガルバノミラー125の代わりに、ポリゴンミラー、ピエゾミラー、音響光学素子などを用いることも可能である。また、測定用パルスLP11に対してステージ11を移動させることによっても、所定の検査範囲を測定用パルス光LP11で走査することもできる。しかしながら、ガルバノミラー125を用いることで、走査を効率的に行うことができる。
【0033】
ハーフミラーHM2によって分光された他方の測定用パルス光についても、測定用ポンプ光LP13として太陽電池9の表面に導かれる。ハーフミラーHM2から太陽電池9までの測定用ポンプ光LP13の光路上には、測定用遅延部14Aが設けられている。測定用遅延部14Aは、測定用ポンプ光LP13が太陽電池9へ到達する時間を連続的に変更する。測定用遅延部14Aは、測定用遅延ステージ141Aおよび測定用遅延ステージ移動機構143Aを備えている。
【0034】
なお、本実施形態では、1台のフェムト秒レーザ121から出射された測定用パルス光LP10を分光したものを、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13としている。このため、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13のパルス周期は一致している。
【0035】
測定用遅延ステージ141Aは、測定用ポンプ光LP13を入射方向に折り返させる折り返しミラー10Mを備えている。測定用遅延ステージ移動機構143Aは、制御部16の制御に基づいて、測定用ポンプ光LP13の入射方向に沿って測定用遅延ステージ141Aを平行移動させる。測定用遅延ステージ141Aが平行移動することによって、測定用ポンプ光LP13の光路長が連続的に変更されることとなる。
【0036】
太陽電池9の内部電界が存在する部位に、禁制帯幅を超えるエネルギーを持つ測定用プローブ光LP11が照射されると、光励起キャリア(自由電子および自由正孔)が発生し、内部電場によって加速される。これにより、パルス状の電流が発生することとなり、それに応じて電磁波LT1が発生することとなる。内部電界は、例えばpn接合部やショットキー接合部などに発生していることが知られている。
【0037】
電磁波LT1は、内部電界の状態(強さや向きなど)に依存して発生する。つまり、pn接合やpn接合に接続されている配線状況などに依存して、電磁波LT1が発生する。このため、電磁波LT1を検出することによって、太陽電池9の特性を調べたり、不良判定などの検査をしたりすることができる。
【0038】
測定用遅延ステージ141Aは、測定用プローブ光LP11が太陽電池9に到達する時間および測定用ポンプ光LP13が太陽電池9に到達する時間の時間差を変更する装置である。本実施形態では、測定用ポンプ光LP13が太陽電池9を励起してから、測定用プローブ光LP11が太陽電池9を励起するまでの時間の差を遅延時間として、測定用プローブ光LP11によって得られる信号(電磁波LT1)を、遅延時間の関数として測定する。これにより、光励起に対する太陽電池9の超高速応答をフェムト秒領域の高い時間分解能で測定される(ポンプ・プローブ法)。
【0039】
なお、測定用遅延ステージ141Aとは異なる構成によって、測定用ポンプ光LP13の太陽電池9への到達時間を変更することも可能である。具体的には、電気光学効果を利用することが考えられる。すなわち、印加する電圧を変化させることで屈折率が変化する電気光学素子を、遅延素子として用いてもよい。例えば、特許文献3(特開2009−175127号公報)に開示されている電気光学素子を利用することができる。
【0040】
また、測定用ポンプ光LP13の光路長を変更する代わりに、測定用プローブ光LP11の光路長を変更することも考えられる。この場合においても、測定用ポンプ光LP13に対して、測定用プローブ光LP11が検出器131に到達する時間を、相対的に遅延させることができる。
【0041】
なお、後述するように、測定用ポンプ光LP13のみを太陽電池9に照射し、それによって放射される電磁波LT1を測定する場合がある。この場合、図示を省略するが、光チョッパ123と同様の変調素子によって、測定用ポンプ光LP13が変調される。
【0042】
太陽電池9から放射された電磁波LT1は、放物面鏡M1,M2において集光される。より詳細には、放物面鏡M1,M2は、測定用プローブ光LP11が照射される表面9Sと同じ側に放射される電磁波LT1を集光する。そして、集光された電磁波LT1は、検出器131に入射する。
【0043】
検出器131は、検出用パルス光LP21が入射する光伝導スイッチで構成されている。検出用パルス光LP21は、光チョッパ145によって数kHzの変調がかけられる。電磁波LT1が検出器131に入射する状態で、検出用パルス光LP21が検出器131に照射されると、光伝導スイッチに瞬間的に電磁波LT1の電場強度に応じた電流が発生する。この電場強度に応じた電流は、図示しないロックインアンプやA/D変換回路などを介して適宜デジタル量に変換される。このように、検出部13は、検出用パルス光LP21の照射に応じて太陽電池9から放射された電磁波LT1の電場強度を検出する。なお、検出器131に、その他の素子、例えば非線形光学結晶を適用することも考えられる。
【0044】
ハーフミラーHM1から検出器131までの検出用パルス光LP21の光路上には、検出用遅延部14Bが設けられている。検出用遅延部14Bは、検出用パルス光LP21が検出器131に到達する時間を変更する。検出用遅延部14Bは、検出用遅延ステージ141Bおよび検出用遅延ステージ移動機構143Bを備えている。
【0045】
検出用遅延ステージ141Bは、検出用パルス光LP21を入射方向に折り返させる折り返しミラー10Mを備えている。検出用遅延ステージ移動機構143Bは、制御部16の制御に基づいて、検出用パルス光LP21の入射方向に沿って検出用遅延ステージ141Bを平行移動させる。検出用遅延ステージ移動機構143Bが平行移動することによって、検出用パルス光LP21の光路長が連続的に変更される。
【0046】
検出用遅延ステージ141Bは、電磁波LT1が検出器131に到達する時間と、検出用パルス光LP21が検出器131へ到達する時間との時間差を変更する。つまり、検出用遅延ステージ141Bにより、検出用パルス光LP21の光路長を変化させることによって、検出器131において電磁波LT1の電場強度を検出するタイミング(検出タイミングまたはサンプリングタイミング)が遅延される。
【0047】
検出用遅延ステージ141Bについても、測定用遅延ステージ141Aと同様に、電気光学効果を利用することが考えられる。また、検出用パルス光LP21の光路長を変更する代わりに、測定用プローブ光LP11の光路長、もしくは、太陽電池9から放射された電磁波LT1の光路長を変更してもよい。いずれの場合においても、検出用パルス光LP21が検出器131に到達する時間に対して、電磁波LT1が検出器131に到達する時間を、相対的に遅延させることができる。つまり、検出器131における電磁波LT1の電場強度の検出タイミングを遅延させることができる。
【0048】
また、検査装置100は、太陽電池9に対して、検査時に逆バイアス電圧を印加する逆バイアス電圧印加回路99を備えている。太陽電池9の受光面およびその反対側の面にそれぞれ形成された電極(表面電極および裏面電極)に、逆バイアス電圧印加回路99が接続され、逆バイアス電圧が印加される。逆バイアス電圧印加回路99が太陽電池9に印加する電圧の大きさは、制御部16からの制御に基づいて、変更することが可能とされている。
【0049】
逆バイアス電圧が印加されることによって、pn接合部の空乏層を大きくすることができる。これにより、検出器131において検出される電磁波LT1の電場強度を大きくすることができるため、検出部13における電磁波LT1の検出感度を向上することができる。ただし、逆バイアス電圧印加回路99は省略することもできる。
【0050】
ステージ移動機構15は、ステージ11を二次元平面内で移動させる装置であり、例えばX−Yテーブルなどで構成されている。ステージ移動機構15は、ステージ11に保持された太陽電池9を、照射部12に対して相対的に移動させる。検査装置100は、ステージ移動機構15によって、太陽電池9を2次元平面内で任意の位置に移動させることができる。ステージ移動機構15は、照射位置変更部の一例である。
【0051】
図2は、制御部16とその他の要素の接続関係を示すブロック図である。制御部16は、図示を省略するCPU、ROMおよびRAMなどを備えた一般的なコンピュータなどによって構成されている。
図2に示されるように、制御部16は、フェムト秒レーザ121、検出器131、測定用遅延ステージ移動機構143A、検出用遅延ステージ移動機構143B、ステージ移動機構15、ガルバノミラー駆動機構127および逆バイアス電圧印加回路99に接続されており、これらの各要素の動作を制御したり、あるいは、これらの各要素からデータを受け取ったりする。
【0052】
また、制御部16は、画像生成部21,時間波形復元部23に接続されている。画像生成部21および時間波形復元部23は、制御部16が備えるCPUによって実現される機能であるが、専用の回路によってハードウェア的に実現されてもよい。
【0053】
画像生成部21は、太陽電池9の検査範囲(太陽電池9の一部または全部)において、パルス光LP11を照射により放射される電磁波LT1の電場強度の分布を視覚化した電場強度分布画像を生成する。電場強度分布画像においては、電場強度の相違が、例えば、異なる色または異なる模様などで視覚的に表現される。
【0054】
時間波形復元部23は、検出器131にて検出される電場強度に基づいて、太陽電池9から放射される電磁波LT1の時間波形を復元する。具体的には、検出用遅延ステージ141Bを移動させることで、検出用パルス光LP21が検出器131に到達する時間を変更し、各位相で検出された電磁波LT1の電場強度が取得される。そして、この取得された電場強度が、時間軸上にプロットされることによって、電磁波LT1の時間波形が復元される。
【0055】
制御部16には、各種データが格納される記憶部31が接続されている。記憶部31は、ハードディスクなどの固定ディスクの他、可搬メディア(例えば磁気メディア、光ディスクメディアまたは半導体メモリなど)、または主記憶メモリなどで構成されていてもよい。また、制御部16と記憶部31とは、ネットワーク回線を介して接続されていてもよい。
【0056】
制御部16には、モニター17および操作入力部18が接続されている。モニター17は、液晶ディスプレイなどの表示装置であり、オペレータに対して各種画像情報を表示する。モニター17には、カメラ20などで撮影された太陽電池9の表面9Sの画像、画像生成部21が生成した電場強度分布画像、または、時間波形復元部23によって復元された電磁波LT1の時間波形などが表示される。また、モニター17には、検査条件を設定するために必要なGUI(Graphical User Interface)画面を表示する。検査条件としては、例えば、検査範囲、測定用遅延ステージ141Aまたは検出用遅延ステージ141Bを固定する位置などが挙げられる。
【0057】
カメラ20は、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13の照射位置を特定するために利用することができる。
【0058】
操作入力部18は、マウスおよびキーボードなどの各種入力デバイスで構成されている。オペレータは操作入力部18を介して所定の操作入力を行うことができる。なお、モニター17がタッチパネルとして構成されることにより、モニター17が操作入力部18として機能するようにしてもよい。
【0059】
<測定用プローブ光の走査>
図3は、太陽電池9の表面9Sを測定用プローブ光LP11で走査する様子を示す平面図である。
図3に示されるように、太陽電池9の表面には、縦方向(y軸方向)に延びるバスパー電極部91と、該バスパー電極部91から横方向(x軸方向)に延びる複数の細いフィンガー電極部93が設けられている。これらバスパー電極部91およびフィンガー電極部93は、表面電極の一部を構成している。
【0060】
図3に示されるように、ポンプ・プローブ測定法では、所要の範囲に測定用ポンプ光LP13がスポット状に照射される。測定用プローブ光LP11自体の照射範囲(プローブ光スポットSP11)は、測定用ポンプ光LP13の照射範囲(ポンプ光スポットSP13)よりも小さい(例えば、最大で1/10程度)。しかしながら、ガルバノミラー125によって、測定用プローブ光LP11で走査される範囲は、測定用ポンプ光LP13の照射範囲よりも広い範囲(広域範囲R11)とされている。
【0061】
なお、具体的な走査の態様としては、
図3に示されるように、x軸方向に沿って、測定用プローブ光LP11のプローブ光スポットSP11を左右に往復移動させながら、広域範囲R11の内部をなぞることが考えられる。もちろん、プローブ光スポットSP11を、x軸方向に沿って一方向に進めたあと、元の位置に戻して、y軸方向の次の段に移動させ、先ほどと同一の方向に進める、というようにしてもよい。また、x軸方向ではなく、y軸方向に沿ってプローブ光スポットSP11を進ませるようにしてもよい。
【0062】
<ポンプ・プローブ測定法>
次に、ポンプ・プローブ測定法について説明する。
図4は、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13の時間的関係を示す図である。
図4中、横軸は時間を示している。上述したように、測定用遅延部14Aによって、測定用ポンプ光LP13を、測定用プローブ光LP11に対して遅延させることが可能である。
図4では、上から順に、それぞれ遅延時間をt1〜t6に変更したときの、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13を示している。
【0063】
遅延時間がt1,t2の場合、測定用プローブ光LP11が、測定用ポンプ光LP13よりも先に太陽電池9に到達する。つまり、測定用ポンプ光LP13によって光励起キャリアが発生する前に、測定用プローブ光LP11が照射される。また、遅延時間t3の場合、測定用プローブ光LP11は、測定用ポンプ光LP13と同時に太陽電池9に到達する。すなわち、測定用プローブ光LP11・測定用ポンプ光LP13の間に位相差がない状態である。さらに、遅延時間がt4,t5およびt6の場合、測定用プローブ光LP11が、測定用ポンプ光LP13よりも後に太陽電池9に到達する。つまり、測定用ポンプ光LP13によって光励起キャリアが発生した後に、測定用プローブ光LP11が照射される。
【0064】
図5は、測定用プローブ光LP11・測定用ポンプ光LP13間の遅延時間を変えたときに放射される電磁波の電場強度の波形60を示す図である。
図5において、横軸は遅延時間を示しており、縦軸は電場強度を示している。ポンプ・プローブ測定法では、一般的に、遅延時間が「0」のとき(すなわちt3のとき)に、放射される電磁波の電場強度がほぼ最大となる。しかしながら、それよりも遅延時間が正方向に大きくなる(すなわち、測定用プローブ光LP11が測定用ポンプ光LP13に対してさらに遅延される)と、電場強度が急峻に減少する。また、遅延時間が正方向に大きくなるt4,t5およびt6では、徐々に電場強度が少しずつ大きくなっている(
図5中、破線で囲まれた部分)。このt4〜t6における、電場強度の傾きは、測定用ポンプ光LP13によって励起された電子が、緩和(再結合)する時間に対応している。
【0065】
図6は、測定用ポンプ光LP13の照射によって起こる、光励起キャリアの生成および移動を説明するための概念図である。
図6に示されるように、太陽電池9は、n型半導体層94とp型半導体層95とが積層されており、n型半導体層94およびp型半導体層95の接合部(pn接合部)に、空乏層96が形成されている。また、n型半導体層94の上面には、表面電極の一部であるフィンガー電極部93が形成されており、p型半導体層95の下面には、裏面電極97が形成されている。
【0066】
図6に示されるように、測定用ポンプ光LP13が照射されると、空乏層96において、光励起キャリア(自由電子41および正孔43)が生成される(時間T11)。発生した自由電子41は、拡散、内部電界または外部電界の影響を受けることによって、多数キャリアとしてn型半導体層94内を表面電極(フィンガー電極部93)に向かって移動する(時間T12〜T15)。
【0067】
正孔43についても、p型半導体層内を移動する。しかしながら、自由電子41に比べて、正孔43の移動速度は遅い。このため、サブピコ秒オーダーの解析であるポンプ・プローブ測定法では、主に自由電子41の動きに関する解析が主となる。
【0068】
図7は、測定用プローブ光LP11の照射によって太陽電池9から放射される電磁波LT1の時間波形51を示す図である。
図7中、横軸は時間軸を示しており、縦軸は電場強度を示している。なお、
図7に示される時間波形51は、測定用ポンプ光LP13が照射されていない状態で、太陽電池9上の同一箇所に測定用プローブ光LP11が照射され、かつ、検出用遅延部14Bが駆動され、多数の検出タイミングで検出された電磁波LT1の電場強度を元に復元されたものである。
【0069】
平常状態のときの電場強度(基準電場強度)よりも大きい電場強度を正の電場強度とし、基準電場強度よりも小さい電場強度を負の電場強度とする。すると、時間波形51は、時間t21にて正のピークをとり、その後、時間t22にて基準電場強度となって、さらにその後の時間t23にて負のピークをとる。そして、時間波形51は、時間t23以降(例えば、時間t24)で、電場強度は再び基準電場強度に近づいている。
【0070】
時間波形51のうち、正側に変化する電場強度の信号(一点鎖線で囲まれる部分)は、主に、測定用プローブ光LP11の照射によって、光励起キャリアが生成されるときの情報(キャリア生成情報)が含まれると考えられる。また、時間波形51のうち、主に負側に変化する電場強度の信号(二点鎖線で囲まれる部分)は、測定用プローブ光LP11の照射によって発生した光励起キャリアの移動および再結合の情報(キャリア移動・再結合情報)が含まれていると考えられる。したがって、例えば、時間t22〜t24に合うように、検出用遅延部14Bを駆動するで、測定用プローブ光LP11の照射に応じた光励起キャリアの生成、移動および再結合の情報を取得することができる。
【0071】
<1.2 検査>
次に、検査装置100における、太陽電池9の検査の流れについて説明する。検査装置100においては、上述したように、ポンプ・プローブ測定法を行うことによって、太陽電池9の検査が行われる。ポンプ・プローブ測定の検査が行われる前に、各種条件の設定(初期設定)が行われる。
【0072】
図8は、初期設定の一例を示す流れ図である。この初期設定では、まず、試料である太陽電池9がステージ11に設置される(
図8:ステップS11)。そして、測定用ポンプ光LP13および測定用プローブ光LP11の重ね合わせが行われる(
図8:ステップS12)。具体的に、ステップS12では、測定用ポンプ光LP13のポンプ光スポットSP13内に、測定用プローブ光LP11のプローブ光スポットSP11が入るように、ガルバノミラー125が調整される。
【0073】
測定用ポンプ光LP13に測定用プローブ光LP11が重ね合わされると、測定用ポンプ光LP13の光強度の決定(
図8:ステップS13)、測定用プローブ光LP11の光強度の決定(
図8:ステップS14)、および、逆バイアス電圧の大きさの決定(
図8:ステップS15)が行われる。なお、ステップS13,S14およびS15は、必ずしもこの順に実行される必要はない。
【0074】
まず、測定用ポンプ光LP13の光強度の決定(ステップS13)について説明する。
図9は、測定用ポンプ光LP13の光強度と、放射される電磁波の電場強度の関係を示す図である。
図9中、横軸は光強度を示しており、縦軸は電場強度を示している。
【0075】
図9に示されるように、測定用ポンプ光LP13の光強度を上げていくと、ある光強度のところで、電場強度が最大となる。以下、この光強度をAとおく。すると、光強度をAよりも大きくしたとしても、電場強度は弱まってしまう、という減少が起こる。これは、光が強すぎるために、光励起キャリアが多量に発生してしまい、電極に移動せずに残留することが原因であると考えられる。そこで、ポンプ・プローブ測定法を実行する上では、測定用ポンプ光LP13の光強度は、好ましくは、その最大電場強度が検出される最大時光強度よりも小さく、より好ましくは、最大時光強度の1/2〜3/4の範囲内に収まるように設定される。測定用ポンプ光LP13の光強度をこのような範囲に設定することで、信頼性の高いデータを得ることができる。
【0076】
また、ステップS14で決定される測定用プローブ光LP11の光強度については、検出される電磁波の強度のS/Nを高く維持しつつ、できるだけ小さい光強度となるように決定される。
【0077】
次に、逆バイアス電圧の大きさの決定(ステップS15)について説明する。
図10は、逆バイアス電圧に依存した、電場強度の変動を示す図である。本実施形態では、異なる逆バイアス電圧を印加して、ポンプ・プローブ測定法を実行し、逆バイアス電圧が決定される。
図10に示される波形61〜64は、それぞれ、逆バイアス電圧を0.5V,1V,3Vおよび5Vに設定したときのものに対応している。
図10において、横軸は測定用プローブ光LP11・測定用ポンプ光LP13間の遅延時間を示しており、縦軸は電場強度を示している。
【0078】
図10に示されるように、太陽電池9に印加される逆バイアス電圧を大きくすればするほど、放射される電磁波LT1の電場強度のS/N比は向上する。しかしながら、太陽電池9の内部に外部電界を強く発生させることになるため、測定用プローブ光LP11によって発生する光励起キャリアのダイナミクスの検出感度が低下してしまう、という問題が発生する。そこで、ポンプ・プローブ測定で得られる典型的な波形となる逆バイアス電圧のうち、最小限の電圧が選択される。典型的な波形とは、例えば
図5に示される波形60のように、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13の遅延時間が0を超えたときに、電場強度が顕著に弱まり、緩和時間がなめらかに変化するような波形である。
図10に示される例では、波形62〜64が、ポンプ・プローブ測定の典型的な波形である。このため、これらの波形62〜64に対応する複数の逆バイアス電圧(1V,3Vおよび5V)のうち最小である1Vが逆バイアス電圧に選択される。
【0079】
以上のように、逆バイアス電圧の大きさを決定することによって、ポンプ・プローブ測定に支障をきたすことがないように、適切な大きさの逆バイアス電圧を選択することができる。このため、検出される電場強度のS/N比を向上しつつ、かつ、測定用プローブ光LP11によって発生する光励起キャリアのダイナミクスを良好に観測することができる。
【0080】
初期設定が完了すると、太陽電池9の検査が開始される。
図11は、検査の一例を示す流れ図である。なお、以下の説明において、検査装置100の各動作は、特に断らない限り制御部16の制御の下、行われるものとする。また、工程の内容によっては、複数の工程を並列に実行したり、各工程の実行順序を適宜変更したりしてもよい。
【0081】
まず、太陽電池9について、検査すべき範囲(検査範囲)の設定が行われる(
図11:ステップS21)。この設定処理は、オペレータが操作入力部18を介して、所望の検査範囲に対応する座標情報を制御部16に対して入力することにより実行される。これにより、
図3に示されるように、測定用ポンプ光LP13が照射される位置、および、測定用プローブ光LP11で走査される範囲(広域範囲R11)の設定が行われる。
【0082】
検査範囲が設定されると、ポンプ・プローブ測定の際における、測定用遅延ステージ141Aおよび検出用遅延ステージ141Bを配置する位置の決定が行われる(
図11:ステップS22)。ポンプ・プローブ測定中に測定用遅延ステージ141Aを配置する複数の位置(X1…Xi)を決定することによって、測定用ポンプ光LP13に対して測定用プローブ光LP11を遅延させる複数の遅延時間が設定されることとなる。また、ポンプ・プローブ測定中に検出用遅延ステージ141Bを配置する複数の位置(Y1…Yj)を決定することによって、放射される電磁波LT1に対する検出用パルス光LP21を遅延させる複数の遅延時間が設定されることとなる。
【0083】
測定用遅延ステージ141Aおよび検出用遅延ステージ141Bを、ステップS22において設定された位置(例えば、位置X1,Y1)に移動させる(
図11:ステップS23)。そして、測定用ポンプ光LP13が照射された状態で、測定用プローブ光LP11の走査が行われる(
図11:ステップS24)。この測定用プローブ光LP11の走査は、
図3で説明したように行われる。すなわち、測定用ポンプ光LP13の照射範囲(ポンプ光スポットSP13)よりも広い広域範囲R11が、測定用プローブ光LP11で走査される。そして、検出器131により検出された電磁波LT1の電場強度情報が、測定用プローブ光LP11が照射された位置の情報(位置情報)と関連付けられて、記憶部31に保存される。
【0084】
ステップS24の走査が完了すると、測定用遅延ステージ141Aを移動させるかどうかが判定される(ステップS25)。つまり、ステップS25では、測定用遅延ステージ141Aを、ステップS22で設定された複数の位置(X1…Xi)の全てに配置して、ポンプ・プローブ測定が行われたかどうかが判断される。
【0085】
測定用遅延ステージ141Aの移動が必要な場合(ステップS25においてYES)、測定用遅延ステージ141Aの移動が行われる(
図11:ステップS26)。このステップS26では、測定用遅延ステージ141Aが、上記複数の位置(X1…Xi)のうち、未だ配置されていない位置に配置される。そして、ステップS24に戻って、測定用プローブ光LP11で走査が行われる。測定用遅延ステージ141Aの移動が不要である場合(ステップS25においてNO)、次のステップS27が実行される。
【0086】
ステップS27では、検出用遅延ステージ141Bを移動させるかどうかが判定される。つまり、ステップS27では、検出用遅延ステージ141Bを、ステップS22で設定された複数の位置(Y1…Yj)の全てに配置して、ポンプ・プローブ測定が行われたかどうかが判断される。
【0087】
検出用遅延ステージ141Bの移動が必要な場合(ステップS27においてYES)、検出用遅延ステージ141Bの移動が行われる(
図11:ステップS28)。このステップS28では、検出用遅延ステージ141Bが、上記複数の位置(Y1…Yj)のうち、未だ配置されていない位置に配置される。移動が不要である場合(ステップS27においてNO)、ポンプ・プローブ測定による検査が完了する。
【0088】
なお、検出用遅延ステージ141Bを配置する位置は、一つに限定されてもよい。つまり、検出器131にて電磁波LT1を検出するタイミングを、1つに固定して、ポンプ・プローブ測定が実行されてもよい。例えば、
図7に示される、測定用プローブ光LP11の照射によって放射される電磁波LT1の電場強度が最大となるタイミング(すなわち時間t21)に対応した位置に、検出用遅延ステージ141Bを固定することが考えられる。
【0089】
図12は、遅延時間が異なる複数の電場強度分布画像701〜715の例を示す図である。また、
図13は、測定用ポンプ光LP13のみの照射によって発生した電磁波の時間波形53、および、ポンプ・プローブ測定により得られた波形65を示す図である。
図13において、横軸は時間を示しており、縦軸は電場強度を示している。
【0090】
図12に示される複数の電場強度分布画像701〜715のそれぞれは、以下の要領で得られたものである。まず、検査範囲に測定用ポンプ光LP13のみが照射され、放射された電磁波の時間波形53が復元される。そして、時間波形53における電場強度が最大となる検出タイミングに対応する位置に、検出用遅延ステージ141Bが固定される。そして、測定用プローブ光LP11が測定用ポンプ光LP13に重なるように照射されつつ、測定用遅延ステージ141Aが駆動されることによって、ポンプ・プローブ測定が行われる。これにより、
図13に示される波形65が取得される。
【0091】
波形65においては、時間波形53が最大の電場強度となるときの、測定用ポンプ光LP13に対する測定用プローブ光LP11の遅延時間を0ps(ディレイ(0ps))としている。電場強度分布画像702〜715は、測定用遅延ステージ141Aが、複数の遅延時間(−3.2ps,−2.8ps,−2.4ps,−2.0ps,−1.6ps,−1.2ps,−0.8ps,−0.4ps,0ps,0.4ps,0.8ps,2.8ps,4.8psおよび6.8ps)のそれぞれに対応した位置に固定され、所定の検査範囲(広域範囲R11)を測定用プローブ光LP11で走査して得た電場強度の分布を画像化したものである。
【0092】
図12において、電場強度分布画像702上には、測定用ポンプ光LP13が照射されるポンプ光スポットSP13が図示されている。また、電場強度分布画像701は、測定用ポンプ光LP13を照射せずに、検査範囲に測定用プローブ光LP11で走査して得た電場強度の分布を画像化したものである。
【0093】
図13に示される波形65によると、電場強度が急峻に変化する範囲が、−3.2ps〜0.8psとなっている。そこで、この範囲については、遅延時間を小刻み(ここでは、0.4ps毎)に変更することで、多くの電場強度分布画像702〜712を取得する。これにより、測定用ポンプ光LP13が照射される前後における、光励起キャリアのダイナミクス(特に、光励起キャリアが生成される過程)を詳細に解析することができる。また、波形65における、電場強度の変化が緩い範囲(0.8ps〜6.8ps)については、遅延時間を大刻み(ここでは、2.0ps毎)に変更している。もちろん、遅延時間の刻み方は、このようなものに限定されるものではなく、検査の目的に応じて適宜変更することができる。
【0094】
図12に示されるように、本実施形態に係る検査装置100によると、測定用ポンプ光LP13の照射による、光励起キャリアの励起、移動、再結合、消失、および、電場の変化といった各種情報を、イメージングにより視覚的に捉えることができる。
【0095】
特に、本実施形態では、測定用ポンプ光LP13が照射される範囲(ポンプ光スポットSP13)よりも広い広域範囲が、測定用プローブ光LP11で走査される。このため、測定用ポンプ光LP13の照射範囲外での、光励起キャリアのダイナミクスに関する情報を得ることができる。
【0096】
<2. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0097】
例えば、フェムト秒レーザ121を2台設けて、一方のフェムト秒レーザからのパルス光を測定用プローブ光LP11とし、他方のフェムト秒レーザからのパルス光を測定用ポンプ光LP13としてもよい。この場合、2台のフェムト秒レーザ121の同期をとることで、測定用ポンプ光LP13に対して測定用プローブ光LP11を遅延させることができる。このため、測定用遅延ステージ141Aを省略することが可能である。同様に、測定用プローブ光LP11と検出用パルス光LP21についても、2台のフェムト秒レーザからそれぞれ出力されるようにしてよい。この場合、検出用遅延ステージ141Bを省略することができる。
【0098】
また、検査対象物がフォトデバイスである場合、該フォトデバイスの動作状態に近い状態で検査を行うため、検査範囲に連続光を重ねて照射するようにしてもよい。連続光としては、各フォトデバイスに適した受光波長領域の単一波長、複数波長、もしくは、擬似太陽光のような白色光などが考えられる。
【0099】
さらに、上記実施形態では、
図1に示されるように、太陽電池9の表面9Sに測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13を照射し、表面9Sの側に、かつ、測定用プローブ光LP11とは非同軸に放射される電磁波LT1を検出する(非同軸反射型)。しかしながら、本発明に係る検査装置は、このような構成に限定されるものではなく、例えば、以下に説明する検査装置100A〜100Dのような構成であってもよい。
【0100】
図14は、変形例に係る検査装置100Aの概略図である。検査装置100Aは、測定用プローブ光LP11と同軸に放射される電磁波LT1を、検出器131によって検出するように構成されている(同軸反射型)。検査装置100Aは、測定用プローブ光LP11を透過しつつ電磁波LT1を反射する、ITO膜などが形成された透明導電膜基板133を備えている。
【0101】
図15は、変形例に係る検査装置100Bの概略図である。検査装置100Bは、測定用プローブ光LP11などが照射される太陽電池9の表面9Sとは反対の裏面側に放射される電磁波LT1を、検出器131が検出するように構成されている(透過型)。
【0102】
図16は、変形例に係る検査装置100Cの概略図である。検査装置100Cは、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13が同軸となるように照射が行われるとともに、検査装置100Aと同様、表面9S側に放射される電磁波LT1を検出器131によって検出するように構成されている(プローブ光・ポンプ光同軸反射型)。
【0103】
図17は、変形例に係る検査装置100Dの概略図である。検査装置100Dは、検査装置100Cと同様、測定用プローブ光LP11および測定用ポンプ光LP13が同軸となるように照射され、太陽電池9の裏面側に放射される電磁波LT1を検出器131によって検出するように構成されている(プローブ光・ポンプ光同軸透過型)。
【0104】
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。