(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044907
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】半導体コンタクト構造及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/28 20060101AFI20161206BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20161206BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20161206BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
H01L21/28 301S
H01L29/78 301S
H01L29/78 301F
H01L29/82 Z
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-503769(P2014-503769)
(86)(22)【出願日】2013年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2013054682
(87)【国際公開番号】WO2013133060
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2014年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-49040(P2012-49040)
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構委託研究「高性能薄膜トランジスタおよびそれを用いた不揮発メモリ」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100133282
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 春喜
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(72)【発明者】
【氏名】内田 紀行
(72)【発明者】
【氏名】金山 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 直也
【審査官】
右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−327319(JP,A)
【文献】
特開2011−066401(JP,A)
【文献】
特開2010−093221(JP,A)
【文献】
特開2004−099349(JP,A)
【文献】
小安喜一郎,直野泰知,小原通昭,三井正明,中嶋敦,茅幸二,遷移金属をドープしたケイ素クラスターの水分子との吸着反応性,第19回化学反応討論会講演要旨集,日本,化学反応討論会実行委員会,2003年 6月10日,p.153
【文献】
直野泰知,小安喜一郎,小原通昭,中嶋敦,茅幸二,金属内包ケイ素クラスターの気相生成,ナノ学会創立大会講演予稿集,日本,ナノ学会,2003年 5月29日,p.122
【文献】
Michiaki Ohara, Kiichirou Koyasu, Atsushi Nakajima, Koji Kaya,Geometric and electronic structures of metal(M)-doped silicon clusters (M=Ti, Hf, Mo and W),Chemical Physics Letters,米国,2003年 4月 7日,Vol. 371, No. 3,4,p.490-497
【文献】
HIURA, H. et al.,Formation of Metal-Encapsulating Si Cage Clusters,Phys. Rev. Lett.,米国,2001年 2月,Vol. 86, No. 9,p. 1733-1736
【文献】
松下 裕介(外2名),「遷移金属内包Siクラスター半導体薄膜の合成と電界効果測定」,第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集,日本,社団法人応用物理学会,2009年 9月 8日,Vol.2,p.811
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/336
H01L 29/78
H01L 29/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属Mとシリコンの組成比が、1:n(7≦n≦16)の範囲の半導体基板界面でヘテロエピタキシャル成長している金属珪素化合物薄膜を半導体基板表面上に作製することを特徴とする半導体コンタクト構造。
【請求項2】
上記金属珪素化合物薄膜において、M原子の周りを、7個以上16個以下のシリコン原子が取り囲む遷移金属内包シリコンクラスターを単位構造とし、該遷移金属原子の第1及び第2近接原子にSiが配置されることを特徴とする請求項1に記載の半導体コンタクト構造。
【請求項3】
上記遷移金属Mが、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体コンタクト構造。
【請求項4】
上記半導体基板がシリコン、ゲルマニウム、ダイヤモンド、炭化ケイ素、珪化ゲルマニウムのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造。
【請求項5】
上記タングステンとシリコン組成の組成比が、1:n(10≦n≦14)の範囲のタングステンケイ素化合物薄膜を半導体基板表面上に作製することを特徴とする請求項3に記載の半導体コンタクト構造。
【請求項6】
上記半導体基板が、シリコン又はゲルマニウムであることを特徴とする請求項5に記載の半導体コンタクト構造。
【請求項7】
上記タングステンケイ素化合物が、シリコン又はゲルマニウム基板界面でヘテロエピタキシャル成長していることを特徴とする請求項6に記載の半導体コンタクト構造。
【請求項8】
レーザーアブレーション法によって上記遷移金属原子をシランガス中に放出し、シランとの気相反応によって、上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成し、半導体基板表面に堆積することを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項9】
スパッタ法によって上記遷移金属原子をシランガス中に放出し、シランとの気相反応によって、上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成し、半導体基板表面に堆積することを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項10】
電子線加熱法によって上記遷移金属原子をシランガス中に放出し、シランとの気相反応によって、上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成し、半導体基板表面に堆積することを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項11】
レーザーアブレーション法によって上記遷移金属原子を半導体基板表面に供給し、その後、シランとの反応によって半導体基板上で上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成することを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項12】
スパッタ法によって上記遷移金属原子を半導体基板表面に供給し、その後、シランとの反応によって半導体基板上で上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成することを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項13】
電子線加熱法によって上記遷移金属原子を半導体基板表面に供給し、その後、シランとの反応によって半導体基板上で上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成することを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項14】
上記遷移金属内包シリコンクラスターを堆積する基板温度が、室温から600℃の範囲であることを特徴とする請求項8ないし13のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項15】
上記半導体基板表面上で、遷移金属内包シリコンクラスターを形成する基板温度が、室温から600℃の範囲であることを特徴とする請求項11ないし13のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【請求項16】
上記半導体基板表面に遷移金属内包シリコンクラスターを堆積、もしくは半導体基板上で遷移金属内包シリコンクラスターを形成した後に、300℃から600℃の範囲で熱処理を行うことを特徴とする請求項8ないし13のいずれか1項に記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスにおける半導体コンタクト構造及びその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiのMOSFETは、微細化によって性能の向上を図ってきた。今後、ゲート長をシングルナノサイズに縮小するには、特性ばらつきを抑制するためにソース・ドレイン領域とチャネルの接合深さを、サブナノレベルで制御することが必要である。これまでヒ素やリン、ホウ素をイオン注入して形成していたPN接合によるソース・ドレイン形成では、サブナノレベルの急峻性の要請を満たすのは困難である。
【0003】
また、MOSFETの低消費電力化を目的に、ソース・ドレイン領域を金属シリサイドに置き換えることによる低抵抗化技術が検討されている。しかし、n型Siに対して低い障壁を持つ接合は実現されていない。
このため、ニッケルシリサイドとSiの原子レベルで平坦な界面の形成技術と、リンやホウ素などの不純物偏析による高キャリアドーピング技術の組み合わせで、実効的に0.1eV以下のショットキー障壁高さを有する接合形成技術が開発されている。しかし、ドーパントの偏析が空間的に揺らいでしまうため、シリサイド界面の原子レベルでの急峻性が損なわれてしまう。
【0004】
SiGeやβ鉄シリサイドなど、Siより狭いバンドギャップを持つ半導体を金属とSiの間に挿入することで、ショットキーバリアハイトの低減を行う技術が提案されているが、p型のSiには効果があるものの、n型に対して低い障壁を持つ接合は実現されていない(非特許文献1参照)。
【0005】
次に、MOSFETの高性能化・低消費電力化を行うために、Siよりもキャリアの移動度が大きな材料を用いたデバイス開発が急務となっている。現在、最も注目されている材料がGeである(非特許文献2参照)。
【0006】
GeはSiに比べて高キャリア移動度を持つため、大きな駆動電流を得られる次世代チャネル材料として期待されている。しかし、高性能なGe-MOSFETを実現するためには、Geの物性に起因するいくつかの課題を解決する必要がある。
その一つとして、ソース・ドレイン接合部での接触抵抗の低減が挙げられる。これは、Ge中のドーパントの最大固溶度が低いために、高キャリア濃度層の作製が困難であることや、金属とGeとの間で強いフェルミレベルピンニングが生じるために、ショットキー障壁高さの制御が困難であることが原因で、Ge-MOSFETを高性能化する上での大きな課題の一つとなっている。
【0007】
ほとんどの金属とn型Geの接合は、金属の仕事関数に依らずGeのバンドギャップに相当する高いショットキー障壁を形成し、p型Geではオーミック接合を形成してしまう。これは、電荷中性準位がGeの価電子帯近傍に存在するために、フェルミレベルのピンニングがGeの価電子帯端近傍で起こるためである。
例えば、p型Geとの金属接合によるショットキー型のNMOSFETを作製した場合、高いショットキー障壁が駆動電流を抑制してしまう。そのため、金属とGeの間に絶縁体を挿入することでピンニングを解除し、ショットキー障壁高さを制御する技術等が開発されている。しかし、絶縁体である挿入層(GeO、GeN、SiNなど)に起因する寄生抵抗が接触抵抗を増大させてしまう(非特許文献3参照)。
金属とGeとの間のフェルミレベルピンニングを解除し、かつ、寄生抵抗を抑制できる接合技術が必要である。
【0008】
また、さらに将来に向けて、現在の動作原理とは異なる物理現象に基づくデバイスの開発が行われている。その一つとして、スピントランジスタが提案されている。
Geは、電界によってスピン状態を制御するスピン軌道相互作用が強くスピントランジスタのチャネル材料として期待されているが、スピントランジスタにおいて、ソース・ドレイン領域は、ホイスラー合金などの強磁性体に置き換える必要がある。しかし、Ge基板上に、強磁性体金属を成膜しても、界面準位が発生し良好なショットキー接合が得られないため、GeのMOSFETでは強磁性体ソース・ドレインを実現することが難しかった。
【0009】
これを回避するために、Geと強磁性体の界面にトンネル絶縁膜を挟む手法や、Geと格子整合がある強磁性体を形成する方法が開発されている。前者は、寄生抵抗の上昇によるMOSFETの性能劣化を招き、後者はスピントランジスタに用いる強磁性体ソース・ドレインの種類を限定してしまう。スピントランジスタでは、チャネルへのスピン注入効率が低く大きな信号を得にくいことが課題であり、スピン注入効率の高いソース・ドレインを用いることができれば有利である。
【0010】
実際に、Fe
3Si強磁性体をGe(111)基板上にヘテロエピタキシャル成長することで、ショットキー接合が得られることが報告されているが、十分なスピン注入が確保できていない。スピン注入効率の高い強磁性体をGe基板に界面準位を形成せずに接合する技術が必要である。(非特許文献4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−93221号公報
【特許文献2】特開2011−66401号公報
【0012】
【非特許文献1】R. T. Tung, Materials Science and Engineering R 35 (2001) p42-43.
【非特許文献2】ICガイドブック09−10年版、p228-230、社団法人電子情報技術産業協会ICガイドブック編集委員会、日経BP企画
【非特許文献3】M. Kobayashi, et al., 2008 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers p.54-55
【非特許文献4】日経エレクトロニクス12月12日号、p47、2011.12.12発行
【非特許文献5】T. Nishimura, et al., Appl. Phys. Lett., 91 ,123123-1 (2007)
【非特許文献6】N. Uchida, T. Miyazaki, and T. Kanayama, Phys. Rev. B, vol. 74, pp. 205427-1-9, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、これまでの問題点を解決し、半導体基板に対して良好なオーミックあるいは整流性の接合を与えることができる半導体コンタクト構造及びその形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための手段は次のとおりである。
(1)遷移金属Mとシリコンの組成比が、1:n(7≦n≦16)の範囲の金属珪素化合物薄膜を半導体基板表面上に作製することを特徴とする半導体コンタクト構造。
(2)上記金属珪素化合物薄膜において、M原子の周りを、7個以上16個以下のシリコン原子が取り囲む遷移金属内包シリコンクラスターを単位構造とし、該遷移金属原子の第1及び第2近接原子にSiが配置されることを特徴とする(1)に記載の半導体コンタクト構造。
(3)上記珪素金属化合物薄膜が、半導体基板界面でヘテロエピタキシャル成長していることを特徴とする(1)又は(2)に記載の半導体コンタクト構造。
(4)上記遷移金属Mが、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金のいずれかであることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造。
(5)上記半導体基板がシリコン、ゲルマニウム、ダイヤモンド、炭化ケイ素、珪化ゲルマニウムのいずれかであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造。
(6)上記タングステンとシリコン組成の組成比が、1:n(10≦n≦14)の範囲のタングステンケイ素化合物薄膜を半導体基板表面上に作製することを特徴とする(4)に記載の半導体コンタクト構造。
(7)上記半導体基板が、シリコン又はゲルマニウムであることを特徴とする(6)に記載の半導体コンタクト構造。
(8)上記タングステンケイ素化合物が、シリコン又はゲルマニウム基板界面でヘテロエピタキシャル成長していることを特徴とする(7)に記載の半導体コンタクト構造。
(9)レーザーアブレーション法によって上記遷移金属原子をシランガス中に放出し、シランとの気相反応によって、上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成し、半導体基板表面に堆積することを特徴とする(2)ないし(8)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(10)スパッタ法によって上記遷移金属原子をシランガス中に放出し、シランとの気相反応によって、上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成し、半導体基板表面に堆積することを特徴とする(2)ないし(8)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(11)電子線加熱法によって上記遷移金属原子をシランガス中に放出し、シランとの気相反応によって、上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成し、半導体基板表面に堆積することを特徴とする(2)ないし(8)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(12)レーザーアブレーション法によって上記遷移金属原子を半導体基板表面に供給し、その後、シランとの反応によって半導体基板上で上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成することを特徴とする(2)ないし(8)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(13)スパッタ法によって上記遷移金属原子を半導体基板表面に供給し、その後、シランとの反応によって半導体基板上で上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成することを特徴とする(2)ないし(8)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(14)電子線加熱法によって上記遷移金属原子を半導体基板表面に供給し、その後、シランとの反応によって半導体基板上で上記遷移金属内包シリコンクラスターを合成することを特徴とする(2)ないし(8)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(15)上記遷移金属内包シリコンクラスターを堆積する基板温度が、室温から600℃の範囲であることを特徴とする(9)ないし(14)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(16)上記半導体基板表面上で、遷移金属内包シリコンクラスターを形成する基板温度が、室温から600℃の範囲であることを特徴とする(12)ないし(14)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
(17)上記半導体基板表面に遷移金属内包シリコンクラスターを堆積、もしくは半導体基板上で遷移金属内包シリコンクラスターを形成した後に、300℃から600℃の範囲で熱処理を行うことを特徴とする(9)ないし(14)のいずれかに記載の半導体コンタクト構造の形成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体基板表面に、遷移金属内包SiクラスターMSi
nを単位構造とした原子層シリサイド半導体を形成し、MSi
nの性質を利用することで、半導体基板に対して良好なオーミックあるいは整流性の接合を与えることができる半導体コンタクト構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】WSi
n膜の形成プロセスを模式的に示す図である。
【
図2】n型Si(100)基板上に作製したWSi
n膜の断面走査電子顕微鏡像(a)と、W電極、WSi
n膜、Si基板(W/WSi
n/Si)積層構造の模式図(b)である。
【
図3】n型Si(100)基板上に作製したエピタキシャルWSi
n層のX線光電子分光(XPS)スペクトルである。
【
図4】W電極、WSi
n膜、Si基板(W/WSi
n/Si)積層構造に対する電流−電圧(IV)特性である。
【
図5】W/WSi
n/Si(p型)のCV特性より得られた障壁高さ、p型Siの内蔵電位及びフェルミ準位の温度依存性を示す図である。
【
図6】W/WSi
n/Si(n型)のCV特性より得られた障壁高さ、n型Siの内蔵電位及びフェルミ準位の温度依存性を示す図である。
【
図7】p型Ge(111)基板上に作製したWSi
n膜の断面走査電子顕微鏡像(a)と、W電極、WSi
n膜、Si基板(W/WSi
n/Si)積層構造の模式図(b)である。
【
図8】Ge(111)基板上に作製したWSi
n膜のX線光電子分光(XPS)スペクトルを示す図である。
【
図9】Ge(111)基板(1Ωcm)を用いたW/ Ge、W/WSi
n/ Ge 積層構造に対する電流−電圧(IV)特性を示す図である。
【
図10】金属電極/WSi
n膜(n=14)/n-Geのショットキー障壁高さと電極の仕事関数の関係を示す図である。
【
図11】n型のGe基板に対する接合高さとコンタクト抵抗の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の原理)
本発明者らは、先にMSi
n(M:遷移金属、n=7〜16)に係る遷移金属とシリコンの化合物であり、シリコンと遷移金属との組成比(=シリコン/遷移金属)nが7以上16以下である金属硅素化合物薄膜を提案している。(特許文献1、2参照)
【0018】
金属硅素化合物薄膜(MSi
n膜)は、遷移金属原子の第1及び第2近接原子にシリコンが配置されているため、遷移金属Mにとっての第2近接原子もSiとなる。このため、遷移金属内包シリコンクラスター同士がSi−Si結合することになり、有限のバンドギャップを有する半導体膜とすることができる。
【0019】
本発明の原理は、このようなMSi
nの性質を利用することで、半導体基板表面に、遷移金属内包SiクラスターMSi
nを単位構造とした原子層シリサイド半導体を形成し、これにより原子レベルの急峻性で高濃度ドーピング層を形成し、半導体コンタクト構造とするものである。
なお、遷移金属Mは、チタンTi、バナジウムV、クロムCr、マンガンMn、鉄Fe、コバルトCo、ニッケルNi、ジルコニウムZr、ニオブNb、モリブデンMo、ルテニウムRu、ロジウムRh、パラジウムPd、ハフニウムHf、タンタルTa、タングステンW、レニウムRe、オスミウムOs、イリジウムIr、白金Ptのいずれかである。
【0020】
(半導体基板上のMSi
n層形成)
MSi
n膜の形成は、
(1)半導体表面上に配列したM原子を形成核にシランガスとの反応を用いる方法、
(2)気相中でM原子とシランガスの反応により予め形成したMSi
nを半導体基板表面上に堆積する方法のいずれかの方法で行う(
図1参照)。
いずれの方法でも、遷移金属元素の供給方法として、遷移金属ターゲット及び遷移金属と半導体元素の化合物ターゲットを用いた、レーザーアブレーション法、スパッタ法、電子線加熱法を用いる。
【0021】
半導体基板表面は、MSi
n層の形成に先立ち、溶液処理、真空中加熱又はその両方を用いて清浄化する。
形成核となる遷移金属原子Mは、半導体基板表面に供給し、1回当たりの供給量を0.1モノレイヤー以下にし、M原子同士の凝集を抑制する。
その後、シランガスと反応させることで、MSi
n構造を形成する。
【0022】
シランガス由来の水素を脱離するために、真空中で500℃の熱処理を行う。このプロセスを10回程度行い、1モノレイヤーのMSi
n層を形成する。この際、M原子の堆積、シランガスとの反応は、MSi
2などの熱的な安定組成シリサイドの形成を抑えるために、600℃を越えない基板温度で行うことが重要である。安定シリサイドの形成温度が、600℃以上の遷移金属Mを使用する場合には、この限りではない。また、ここでシランガスは、モノシランガス(SiH
4)、ジシランガス(Si
2H
6)、トリシランガス(Si
3H
8)とシクロペンタシラン(Si
5H
10)、シクロヘキサシラン(Si
6H
12)などのポリシランガスを含む。
【0023】
シランガス中に遷移金属M原子を供給し、予め形成したMSi
nを半導体基板表面上に1モノレイヤー以上堆積することで薄膜を形成し、シランガス由来の水素を脱離するために、真空中で500℃の熱処理を行う。この際、MSi
2などの熱的な安定組成シリサイドの形成を抑えるために、600℃を越えない基板温度で行うことが重要である。安定シリサイドの形成温度が、600℃以上の遷移金属Mを使用する場合である場合には、この限りではない。
また、ここでシランガスは、モノシランガス(SiH
4)、ジシランガス(Si
2H
6)、トリシランガス(Si
3H
8)とシクロペンタシラン(Si
5H
10)、シクロヘキサシラン(Si
6H
12)などのポリシランガスを含む。
【0024】
(Si基板上へのWSi
n層形成)
レーザーアブレーションで生成したW原子とSiH
4ガス(50Pa)との反応により厚さ5nm(n=10)を合成し、300℃のSi(100)基板上に堆積、500℃、超高真空中でアニールすることでn型Si基板(Pドープ、8Ωcm)、及びp型Si基板(Bドープ、8Ωcm)上に、厚さ5nmのWSi
n膜を作製した。
【0025】
図2に、n型基板上に作製したWSi
n膜の断面走査電子顕微鏡像と、W電極、WSi
n膜、Si基板(W/WSi
n/Si)積層構造の模式図を示す。
図2(b)において、1はSi基板、2は非晶質WSi
n膜、3はエピタキシャルWSi
n層である。
図2(a)中の矢印の位置がWSi
n膜とSi基板界面であり、界面近傍のWSi
n膜に1〜2nmのヘテロエピタキシャル層が確認できる。
この界面エピタキシャル層は、1)Wを含みSiを主成分としていること、2)Siの結合状態が結晶Siと異なること、3)Si基板と比較して(100)方位に面間隔が7%程度伸びていることが判明し、WSi
nを単位とした配列構造で形成されていることを示す結果が得られている。エピタキシャル層の上部は、非晶質のWSi
n膜である。
【0026】
さらに、
図3に示すように、X線光電子分光(XPS)で価電子帯の構造を調べたところ、価電子帯エッジがフェルミレベル(結合エネルギー=0eV)から0.29eV低い位置にあり、エピタキシャル層がギャップを有する半導体であることも判っている。図中の矢印は、価電子帯エッジを示す。
p型基板に堆積した場合も、同様のエピタキシャル構造が確認でき、価電子帯エッジは0.49eV低い位置に確認でき、半導体であることが確認できる。
以上のように、WSi
nとSi基板界面では原子層レベルで急峻な界面が形成されている。
【0027】
原子層レベルでの配列構造を作製するためにはWSi
n堆積前のSi基板表面も原子層レベルでの清浄化や平坦化が必要であり、Si基板の通電加熱によるフラッシング(1200℃、超高真空中)により、Si基板の清浄表面を得た。フラッシングしたn型Si基板、p型Si基板及びフラッシングを行わないフッ酸洗浄済みのn型Si基板を用い、電気的特性測定のための電極は室温でのスパッタで作製した厚さ100nmのWを用いた。電流−電圧(IV)特性を接合特性の指標として評価し、容量−電圧(CV)特性から障壁高さを算出した。
【0028】
図4に、W電極、WSi
n膜、Si基板(W/WSin/Si)積層構造に対する電流−電圧(IV)特性を示す。
Si基板としては、
図4(a)ではn型(Pドープ、10Ωcm)のSi(100)基板、(b)ではp型(Bドープ、10Ωcm)のSi(100)基板、(c)ではフラッシング処理を行わないn型(Pドープ、10Ωcm)のSi(100)基板を用いている。
n型Si基板との接合では、オーミック特性を示し、直列抵抗値0.48Ωは、Si基板の抵抗値0.4Ωと整合する。
【0029】
一方、p型Si基板及びフラッシング処理を行っていないn型Si基板との接合では、オーミック特性を示さず、それぞれ、CV特性より算出した、0.8eV及び0.6eVの障壁高さを示した。フラッシングを行わない場合、表面が十分に清浄化できず、WSi
n層のエピタキシャル構造を形成できない。
エピタキシャル層を形成することがn型Si基板に対してオーミック接合を得るために必要である。また、p型Si基板に対するIV特性から、接合の理想係数を求めると、1〜1.2の値を示し、良好な整流特性を示す。
【0030】
図5に、W/WSi
n/Si(p型)のCV特性より得られた障壁高さ、p型Siの内蔵電位(Vbi)及びフェルミ準位(Vn)の温度依存性を示す。
ここで、障壁高さ=Vbi+Vnである。室温付近で、0.8eVの障壁高さを示し、WSi
n層はp型Siに対して高い障壁を持つ。
【0031】
図6に、W/WSi
n/Si(n型)のCV特性より得られた障壁高さ、n型Siの内蔵電位(Vbi)及びフェルミ準位(Vn)の温度依存性を示す。
ここで、障壁高さ=Vbi+Vnである。220K以下で空乏層を形成し、0.4eVの障壁高さを示す。室温付近では、WSi
n層が高い電子密度を持っているためにトンネル電流が支配的となり、実質的なオーミック接合となり、220K以下では、WSi
n層のキャリアが凍結したために空乏化している。
【0032】
以上のように、WSi
n層は、高い電子密度を持つ原子層シリサイド半導体材料であり、n型Siに対してオーミック接合、p型Siに対して0.80eVと高い障壁を有する接合材料である。また、これらの接合特性は、ヘテロエピタキシャル構造を形成したWSi
n層に基づくと考えられる。
以上の結果は、n型Siに対して、WSi
n層を用いることで低抵抗かつ急峻な接合を形成できることを示している。
【0033】
(Ge基板上へのWSi
n層形成)
レーザーアブレーションで生成したW原子とSiH
4ガス(50Pa)との反応によりWSi
n(n=10)を合成し、300℃のp型のGe(111)基板上に30分間堆積し、超高真空中で470℃、20分間アニールすることで、Ge基板上に、厚さ10nmのWSi
n膜を作製した。WSi
nの堆積に先立ち、Ge(111)基板は、真空中で550℃、10分間の加熱をすることで清浄表面を形成した。
【0034】
図7に、Ge基板上に作製したWSi
n膜の断面走査電子顕微鏡像(a)とW電極、WSi
n膜、Si基板(W/WSi
n/Si)積層構造の模式図(b)を示す。
図7(b)において、1はGe基板、2は非晶質WSi
n膜、3はエピタキシャルWSi
n層である。
図7(a)中の矢印の位置がWSi
n膜とGe基板界面であり、数原子層からなるWSi
n膜のエピタキシャル構造が形成されている。エピタキシャル層の上部は、非晶質のWSi
n膜である。この場合も、n型Ge基板に対して電流−電圧特性を測定すると、良好なオーミック特性が得られた。
【0035】
図8(a)に、Ge基板上に作製したWSi
n膜のXPSスペクトルを示す。
図8(b)に、Si2pとW4fシグナルの強度比とSi/W組成の関係を示す。直線は、ラザフォード後方散乱で測定した組成とXPSのシグナル強度の校正直線である。
この校正直線を用いて強度比を組成に変換している。WとSiの組成比(Si/W)が、7、13,14であると見積もることができる。
【0036】
図9に、Ge(111)基板(1Ωcm)を用いたW/Ge、W/WSi
n/Ge積層構造に対するIV特性を示す。真空中で清浄化したGe基板、及び希塩酸洗浄済みのGe基板を用い、電気的特性測定のための電極にはスパッタ(室温)で作製したW(厚さ〜100nm)を形成した。
図9(a)に、n型Ge(111)基板(1Ωcm)を用いたW/Ge、W/WSi
n/Ge積層構造に対するIV特性を示す。両者ともに整流特性を示すが、CV特性より得られた障壁高さは、室温で、W/Geが0.6eVなのに対し、W/WSi
n/Geは0.4eVに低減した。
図9(b)に、p型Ge(111)基板(0.3Ωcm)を用いたW/Ge、W/WSi
n/Ge積層構造に対するIV特性を示す。W/Geの場合オーミック接合になるが、W/WSi
n/Geは、0.2eVの障壁高さ(CV特性より算出)を有する整流特性を示した。
【0037】
図10に、金属電極/WSi
n膜(n=14)/n-Geのショットキー障壁高さと電極の仕事関数の関係を示す。金属電極としては、W、Ti、Alを用いた。この関係の傾きSは、フェルミレベルピンニングの強さを示す。WSi
n膜を挿入しない金属電極/n-Geでは、Sの値が0.02と小さく、強いピンニングを示すことが知られている(非特許文献5参照)。WSi
n膜を挿入することでS=0.65を示し、ピンニングが解除されたことが分かる。
【0038】
図11に、n型のGe基板に対する接合高さとコンタクト抵抗の関係を示す。W/Geに比べてWSi
nを挿入した場合のコンタクト抵抗は1桁以上低減し、仕事関数の低いTiを用いた場合、熱電子放出電流モデルに応じたコンタクト抵抗の低減効果が得られた。
【0039】
以上のとおり、本発明に係る半導体コンタクト構造によれば、半導体デバイスにおいて、次のような超高濃度ドーピング及び原子レベル急峻性を達成することができる。
【0040】
(超高濃度ドーピング)
MSi
12は、Mが6価の金属(Cr,Mo,W)になるときに安定化する。Mとして5価(Ti,Nb,Ta)や7価(Mn,Re)の金属を用いると、それぞれ電子親和的、及び電子供与的になり、MSi
nは人工元素的な振る舞いを見せることが知られている(非特許文献6参照)。
【0041】
各MSi
nが1つのキャリアを発生するとすれば、最大10
22cm
-3程度のキャリア密度が期待できる。この効果は、n=12に限るものではなく、内包する金属元素又は金属を囲むSiの数を変えることで同様な効果を得ることができる。
例えば、n=10ならば、8価の金属(Fe,Ru,Os)の場合安定し、7価と9価(Ni,Pd,Pt)の金属を用いると、それぞれ、電子親和的、及び電子供与的になる。10
22cm
-3程度のキャリア密度は、半導体基板へのB、P、Asなどのドーパントの固溶限界を超えており、決して得ることができない。
【0042】
(原子レベル急峻性)
半導体基板上の遷移金属内包SiクラスターMSi
n(nは、7以上16以下の整数)膜は、基板との界面にエピタキシャル層を形成することが可能であり、原子レベルで急峻な界面層(MSi
n層)を形成できる。
MSi
n層は、一種の半導体表面ダングリングボンド終端構造であり、半導体基板との界面に界面状態を形成せずフェルミレベルを制御可能である。また、MSi
n層は、Mの変更によってバンドギャップや仕事関数を変調することで、p型及びn型の半導体基板との接合のバリアハイトを調整することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 シリコン基板(
図2)又はGe基板(
図7)
2 非晶質WSi
n膜
3 エピタキシャルWSi
n層