特許第6044950号(P6044950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6044950-汗腺細胞の検出方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6044950
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】汗腺細胞の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20161206BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20161206BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20161206BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   G01N33/53 Y
   C12Q1/04ZNA
   G01N33/53 D
   G01N33/48 M
   !C07K14/47
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-213485(P2012-213485)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-66661(P2014-66661A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年2月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 郁尚
(72)【発明者】
【氏名】二木 杉子
(72)【発明者】
【氏名】関口 清俊
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−526109(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0151487(US,A1)
【文献】 Kabasawa Y et al.,A male infant case of lipofibromatosis in the submental region exhibited the expression of the connective tissue growth factor,Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod,2007年 5月,103(5),677-682
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
C12Q 1/04
C07K 14/47
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚細胞または皮膚細胞集団のなかから汗腺の筋上皮細胞を検出する用途に用いられる汗腺の筋上皮細胞の判定用マーカーであって
(A)配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド、および
(C)配列番号:1において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド
からなる群より選ばれたポリペプチド、または前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる部分ポリペプチドからなる汗腺の筋上皮細胞の判定用マーカー。
【請求項2】
皮膚細胞または皮膚細胞集団のなかから汗腺の筋上皮細胞を検出する用途に用いられる汗腺の筋上皮細胞の検出剤であって、請求項1に記載の汗腺の筋上皮細胞の判定用マーカーに特異的に結合する結合物質と、前記汗腺の筋上皮細胞の判定用マーカーに結合した前記結合物質を検出するための検出試薬とを含有してなる汗腺の筋上皮細胞の検出剤。
【請求項3】
前記結合物質が、
(A)配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド、および
(C)配列番号:1において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド
からなる群より選ばれたポリペプチド、または前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる部分ポリペプチドに対する抗体または前記ポリペプチドもしくは部分ポリペプチドに対する結合活性を有する抗体断片である請求項2に記載の汗腺の筋上皮細胞の検出剤。
【請求項4】
皮膚組織または皮膚細胞集団における請求項1に記載の汗腺の筋上皮細胞の判定用マーカーの発現を指標として汗腺の筋上皮細胞を検出することを特徴とする汗腺の筋上皮細胞の検出方法。
【請求項5】
皮膚組織または皮膚細胞集団を含む試料と、請求項2または3に記載の汗腺の筋上皮細胞の検出剤とを接触させ、前記検出剤に含まれる結合物質が結合した細胞を汗腺の筋上皮細胞であると判定する請求項4に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汗腺細胞の検出方法に関する。さらに詳しくは、皮膚化粧料などの開発などに有用な汗腺細胞を検出するための汗腺細胞の判定用マーカー、汗腺細胞の検出剤および汗腺細胞の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汗腺は、汗を分泌する器官であり、主に体温調節の機能を担っていると考えられている。汗には、例えば、体臭の原因となるトランス−3−メチル−2−ヘキセン酸などの化合物の生成または分泌に関与する物質が含まれていることが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、過度の発汗は、肌のベタつきおよび不快感を招くことがある。
【0003】
そこで、体臭の原因となる化合物の生成または分泌を抑制する成分を含むデオドラント剤、汗腺を閉塞または収斂させることなどによって発汗を抑制する成分を含む制汗剤などが開発されている。
【0004】
しかしながら、近年の清潔志向の高まりに伴い、体臭の原因となる化合物の生成または分泌、発汗などをより効果的に抑制することが求められている。そこで、体臭の原因となる化合物の生成または分泌、発汗などをより効果的に抑制する成分を開発するために、汗腺を特異的に同定する技術が求められている。
【0005】
一方、汗腺細胞においては、ケラチン5が発現していることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、ケラチン5は、皮膚組織または皮膚細胞集団において、表皮の基底細胞、皮脂腺などにおいても発現していることから、ケラチン5の発現に基づいて汗腺細胞のみを特異的に検出することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−062159号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ローランド・モール(Roland Moll)ら、「上皮の2相性中皮腫の顕著な特徴としてのケラチン5の発現;モノクローナル抗体AE14を用いた免疫組織学的研究(Expression of keratin 5 as a distinctive feature of epithelial and biphasic mesotheliomas An immunohistochemical study using monoclonal antibody AE14)」、ウィルヒョー・アーカイブ・ビー・セル・ペイソロジー・インクルーディング・モレキュラー・ペイソロジー(Virchows Archiv B Cell Pathology Including Molecular Pathology)、1989年発行、第58巻、pp.129−145
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、皮膚組織または皮膚細胞集団に含まれる細胞のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができる汗腺細胞の判定用マーカー、汗腺細胞の検出剤および汗腺細胞の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)(A)配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド、および
(C)配列番号:1において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド
からなる群より選ばれたポリペプチド、または前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる部分ポリペプチドからなる汗腺細胞の判定用マーカー、
(2)前記(1)に記載の汗腺細胞の判定用マーカーに特異的に結合する結合物質と、前記汗腺細胞の判定用マーカーに結合した前記結合物質を検出するための検出試薬とを含んでなる汗腺細胞の検出剤、
(3)前記結合物質が、
(A)配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド、および
(C)配列番号:1において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドと同じ生理活性を示すポリペプチド
からなる群より選ばれたポリペプチド、または前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる部分ポリペプチドに対する抗体または前記ポリペプチドもしくは部分ポリペプチドに対する結合活性を有する抗体断片である前記(2)に記載の汗腺細胞の検出剤、
(4)皮膚組織または皮膚細胞集団における前記(1)に記載の汗腺細胞の判定用マーカーの発現を指標として汗腺細胞を検出することを特徴とする汗腺細胞の検出方法、ならびに
(5)皮膚組織または皮膚細胞集団を含む試料と、前記(2)または(3)に記載の汗腺細胞の検出剤とを接触させ、前記検出剤に含まれる結合物質が結合した細胞を汗腺細胞であると判定する前記(4)に記載の検出方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の汗腺細胞の判定用マーカー、汗腺細胞の検出剤および汗腺細胞の検出方法によれば、皮膚組織または皮膚細胞集団に含まれる細胞のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)は実施例1において、表皮における配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現の有無を調べた結果を示す図面代用写真、(B)は実施例1において、汗腺における配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現の有無を調べた結果を示す図面代用写真、(C)は(B)を拡大して観察した結果を示す図面代用写真である。
図2】比較例1において、表皮および汗腺それぞれにおけるケラチン5およびケラチン14それぞれの発現の有無を調べた結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.汗腺細胞の判定用マーカー
本発明の汗腺細胞の判定用マーカーは、
(A)配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドの生理活性と同等の生理活性を示すポリペプチド、および
(C)配列番号:1において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなり、前記(A)のポリペプチドの生理活性と同等の生理活性を示すポリペプチド
からなる群より選ばれたポリペプチド、または前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる部分ポリペプチドからなることに1つの大きな特徴を有する。
【0013】
前記ポリペプチドまたは部分ポリペプチドは、後述の実施例にも示されるように、ヒトの皮膚細胞のうち、汗腺細胞では発現しているが、汗腺細胞以外の皮膚細胞では発現していないため、かかるポリペプチドまたは部分ポリペプチドからなる本発明の汗腺細胞の判定用マーカーによれば、皮膚組織または皮膚細胞集団のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができる。
【0014】
なお、本明細書において、「皮膚細胞集団」とは、皮膚組織から分離された複数の細胞の群をいう。
【0015】
汗腺細胞としては、例えば、筋上皮細胞、管腔細胞などが挙げられるが、本発明は、係る例示のみに限定されるものではない。本発明の汗腺細胞の判定用マーカーは、前記汗腺細胞、好ましくは汗腺の基底側に存在する筋上皮細胞に発現している。
【0016】
前記(A)において、配列番号:1に示されるアミノ酸配列は、配列番号:2に示される配列からなるポリペプチドが切断されることによって生じる活性型ポリペプチドのアミノ酸配列である。
【0017】
前記(B)において、配列同一性は、ポリペプチドが、汗腺細胞における特異的な発現が見られる範囲であればよく、90%以上であり、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは100%である。本明細書において、「配列同一性」は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列(参照配列)に対して、評価対象のアミノ酸配列(クエリー配列)を、Expect threshold:10、word size:3、Gap Costs(Existence 11、Extension 1)およびMatrix:BLSUM62の条件でBLASTアルゴリズムに基づくPROTEIN BLASTを用いてアライメントして算出された値をいう。
【0018】
前記(C)において、前記「1個もしくは数個」とは、1〜30個であるが、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜3個、特に好ましくは1個または2個をいう。また、前記(C)において、前記置換は、特定のアミノ酸残基と、当該特定のアミノ酸残基と親水性、疎水性、極性、非極性、電荷、pK、立体構造上における特徴などの物理化学的性質が類似したアミノ酸残基(以下、本明細書においては、「類似アミノ酸残基」ともいう)との間の保存的置換であってもよい。前記保存的置換としては、例えば、グリシン残基およびアラニン残基の相互間での置換、バリン残基、イソロイシン残基およびロイシン残基の相互間での置換、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、アスパラギン残基およびグルタミン残基の相互間での置換、セリン残基およびスレオニン残基の相互間での置換、リジン残基およびアルギニン残基の相互間での置換、フェニルアラニン残基およびチロシン残基の相互間での置換などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
前記(A)のポリペプチドの生理活性としては、例えば、シグナル伝達などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記シグナル伝達は、例えば、前記(A)のポリペプチドに対するリガンドとの結合活性を測定することなどによって評価することができる。なお、本明細書において、「前記(A)のポリペプチドの生理活性と同等の生理活性」とは、前記(A)のポリペプチドの生理活性と同じ種類の活性をいう。
【0020】
前記部分ポリペプチドは、前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる。かかる部分配列の長さは、汗腺細胞に特異的に発現するポリペプチドのエピトープを含む範囲で適宜設定することができる。
【0021】
以上説明したように、本発明の汗腺細胞の判定用マーカーによれば、ヒトの皮膚細胞のうち、汗腺細胞に特異的に発現していることから、皮膚組織または皮膚細胞集団のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができる。したがって、本発明の汗腺細胞の判定用マーカーは、汗腺で分泌される成分の特定、汗腺の挙動の観察などの際に汗腺の特定に用いることができることから、制汗成分、デオドラント成分などの評価およびスクリーニング、制汗剤、デオドラント剤などの皮膚化粧料の開発などに有用である。
【0022】
2.汗腺細胞の検出剤
本発明の汗腺細胞の検出剤は、前述した汗腺細胞の判定用マーカーに特異的に結合する結合物質と、前記汗腺細胞の判定用マーカーに結合した前記結合物質を検出するための検出試薬とを含んでいることに1つの大きな特徴を有する。したがって、本発明の汗腺細胞の検出剤によれば、汗腺細胞に発現する前記判定用マーカーに特異的に結合した当該結合物質を前記検出試薬によって検出することができることから、皮膚組織または皮膚細胞集団のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができる。
【0023】
前記結合物質としては、例えば、前記ポリペプチドまたは前記部分ポリペプチドに対する抗体(以下、単に、「抗体」という)、前記ポリペプチドまたは部分ポリペプチドに対する結合活性を有する抗体断片(以下、単に、「抗体断片」という)、汗腺細胞内における前記ポリペプチドまたは部分ポリペプチドの下流エフェクター分子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0024】
前記抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。前記抗体のなかでは、前記汗腺細胞の判定用マーカーに対する特異性が高いことから、モノクローナル抗体が好ましい。
【0025】
前記モノクローナル抗体は、例えば、前記ポリペプチドまたは部分ポリペプチドに対して反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを培養し、培養上清を得、得られた培養上清について、必要に応じて、硫安分画法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどによる精製を行なうことにより得られる。前記ハイブリドーマは、前記ポリペプチドまたは部分ポリペプチドを動物の静脈内、皮下または腹腔内に投与することにより当該動物を免疫し、抗体産生細胞を得、この抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合させ、得られた融合細胞をHAT培地で培養することにより得られる。
【0026】
前記ポリクローナル抗体は、前記ポリペプチドまたは部分ポリペプチドを動物の静脈内、皮下または腹腔内に投与することにより当該動物を免疫し、抗血清を得、得られた抗血清について、必要に応じて、硫安分画法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどによる精製を行なうことにより得られる。
【0027】
前記抗体断片としては、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、前記抗体の軽鎖の可変領域と前記抗体の重鎖の可変領域とがリンカーを介して連結された単鎖抗体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記Fabフラグメントは、例えば、前記抗体をシステイン存在下に消化酵素であるパパインで分解し、必要に応じて、精製を行なうことなどによって作製することができる。また、F(ab’)2フラグメントは、例えば、前記抗体を、消化酵素であるペプシンなどで分解し、必要に応じて、精製を行なうことなどによって作製することができる。単鎖抗体は、前記抗体の軽鎖の可変領域をコードする核酸とリンカーをコードする核酸と前記抗体の重鎖の可変領域をコードする核酸とを連結した核酸構築物を含む単鎖抗体発現用ファージミドベクターを適切な宿主細胞に導入した後、当該宿主細胞内で核酸構築物にコードされるポリペプチドを発現させ、必要に応じて、精製を行なうことなどによって作製することができる。
【0028】
本発明の汗腺細胞の検出剤に用いることができる抗体または抗体断片の前記汗腺細胞の判定用マーカーに対する反応性は、例えば、酵素標識免疫測定法(ELISA)、免疫沈降法などの免疫測定法などによって確認することができる。
【0029】
前記下流エフェクター分子としては、例えば、CSLファミリー転写因子などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
本発明の汗腺細胞の検出剤中における前記結合物質の含有量は、前記結合物質の種類、本発明の汗腺細胞の検出剤の用途などによって異なるため、一概に決定されるものではないことから、前記結合物質の種類、本発明の汗腺細胞の検出剤の用途などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0031】
前記検出試薬としては、例えば、標識物質、前記結合物質または当該結合物質と汗腺細胞の判定用マーカーとを含む複合体への特異的結合能を有する第2の結合物質に前記標識物質が結合している標識結合物質などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
前記標識物質としては、例えば、蛍光物質、酵素などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記蛍光物質としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート、2−(3−イミニオ−4,5−ジスルホナト−6−アミノ−3H−キサンテン−9−イル)−5−[[5−(2,5−ジオキソ−3−ピロリン−1−イル)ペンチル]カルバモイル]安息香酸〔例えば、インビトロジェン製、商品名:Alexa Fluor 488など〕、4−[[2−[(5−カルボキシペンチル)アミノ]−2−オキソエチル]チオ]−2,3,5−トリクロロ−6−(1,3,4,8,9,10−ヘキサヒドロ−2,2,4,8,10,10−ヘキサメチル−12,14−ジスルホ−2H−ピラノ[3,2−g:5,6−g’]ジキノリン−6−イル)安息香酸・ナトリウム〔例えば、インビトロジェン製、商品名:Alexa Fluor 546など〕などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、前記酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスフォターゼなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの標識物質のなかでは、操作が容易であり、かつ共染色によってマーカーの局在を高い精度で解析することができることから、蛍光物質が好ましく、2−(3−イミニオ−4,5−ジスルホナト−6−アミノ−3H−キサンテン−9−イル)−5−[[5−(2,5−ジオキソ−3−ピロリン−1−イル)ペンチル]カルバモイル]安息香酸および4−[[2−[(5−カルボキシペンチル)アミノ]−2−オキソエチル]チオ]−2,3,5−トリクロロ−6−(1,3,4,8,9,10−ヘキサヒドロ−2,2,4,8,10,10−ヘキサメチル−12,14−ジスルホ−2H−ピラノ[3,2−g:5,6−g’]ジキノリン−6−イル)安息香酸・ナトリウムがより好ましい。
【0033】
前記検出試薬が標識物質である場合、当該標識物質を前記結合物質に直接結合させて用いることができる。
【0034】
前記第2の結合物質および標識結合物質は、前記結合物質の種類によって異なるため、一概に決定されるものではないことから、前記結合物質の種類に応じて適宜選択することが好ましい。前記結合物質が抗体または抗体断片である場合、前記第2の結合物質としては、例えば、前記抗体を製造する際に免疫した動物が有する免疫グロブリンまたは当該免疫グロブリンの断片などに対する抗体(以下、「抗免疫グロブリン抗体」ともいう)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記結合物質が抗体または抗体断片である場合、前記標識結合物質としては、例えば、前記抗免疫グロブリン抗体に前記標識物質が結合している標識抗免疫グロブリン抗体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、前記結合物質が前記下流エフェクター分子である場合、前記第2の結合物質としては、例えば、前記下流エフェクター分子に対する抗体(以下、「抗エフェクター抗体」ともいう)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記結合物質が抗エフェクター抗体である場合、前記標識結合物質としては、例えば、前記抗エフェクター抗体に前記標識物質が結合している標識抗エフェクター抗体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0035】
なお、本発明においては、前記結合物質にビオチン、アビジン、ストレプトアビジンなどを結合させて用いることもできる。ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンなどを用いた場合、ビオチン−アビジン間の特異的親和性またはビオチン−ストレプトアビジン間の特異的親和性を利用して汗腺細胞の判定用マーカーに結合した前記結合物質を検出することが可能になる。前記結合物質にビオチンを結合させた場合、第2の結合物質としてアビジンまたはストレプトアビジンを用いることができる。また、前記結合物質にアビジンまたはストレプトアビジンを結合させた場合、第2の結合物質としてビオチンを用いることができる。
【0036】
本発明の汗腺細胞の検出剤中における前記検出試薬の含有量は、前記結合物質および検出試薬の種類、本発明の汗腺細胞の検出剤の用途などによって異なるため、一概に決定されるものではないことから、前記結合物質および検出試薬の種類、本発明の汗腺細胞の検出剤の用途などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0037】
本発明の汗腺細胞の検出剤は、本発明の目的が妨げられない範囲内で、例えば、前記結合物質の安定化剤、水、pH調整剤、キレート化剤などの助剤をさらに含有していてもよい。また、本発明の汗腺細胞の検出剤は、汗腺細胞の検出精度をより向上させる観点から、前記(A)〜(C)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を除く部分配列に対応するアミノ酸配列からなる内部部分ポリペプチドに対する抗体または抗体断片をさらに含有していてもよい。
【0038】
以上説明したように、本発明の汗腺細胞の検出剤によれば、ヒトの皮膚細胞のうち、汗腺細胞に特異的に発現している前記汗腺細胞の判定用マーカーに特異的に結合する結合物質と前記結合物質を検出するための検出試薬とを含んでいるので、皮膚組織または皮膚細胞集団のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができる。したがって、本発明の汗腺細胞の検出剤は、汗腺で分泌される成分の特定、汗腺の挙動の観察などの際に汗腺の特定に用いることができることから、制汗成分、デオドラント成分などの評価およびスクリーニング、制汗剤、デオドラント剤などの皮膚化粧料の開発などに有用である。
【0039】
3.汗腺細胞の検出方法
本発明の汗腺細胞の検出方法は、皮膚組織または皮膚細胞集団における本発明の汗腺細胞の判定用マーカーの発現を指標として汗腺細胞を検出することに1つの大きな特徴を有する。本発明の汗腺細胞の検出方法は、皮膚組織または皮膚細胞集団における本発明の汗腺細胞の判定用マーカーの発現が汗腺細胞の指標として用いられているため、皮膚組織または皮膚細胞集団のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができる。
【0040】
本発明の汗腺細胞の検出方法は、操作が簡便であることから、皮膚組織または皮膚細胞集団を含む試料と、前記汗腺細胞の検出剤とを接触させ、前記検出剤に含まれる結合物質が結合した細胞を汗腺細胞であると判定することが好ましい。
【0041】
本発明の汗腺細胞の検出方法においては、例えば、
(I)皮膚組織または皮膚細胞集団を含む試料と、前記汗腺細胞の検出剤とを混合して前記皮膚組織または皮膚細胞集団と前記検出剤に含まれる結合物質とを接触させるステップ、
(II)前記ステップ(I)で得られた混合物中の前記結合物質が結合した細胞を検出するステップ、および
(III)前記ステップ(II)において、前記結合物質が結合したことが検出された細胞を汗腺細胞であると判定するステップ
を含むプロセスを行なうことができる。
【0042】
ステップ(I)では、皮膚組織または皮膚細胞集団を含む試料と、前記汗腺細胞の検出剤とを混合して前記皮膚組織または皮膚細胞集団と前記検出剤に含まれる結合物質とを接触させる。
【0043】
前記皮膚組織または皮膚細胞集団を含む試料としては、例えば、固定液によって皮膚組織または皮膚細胞集団を固定した試料(以下、「固定試料」という)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記固定試料は、前記皮膚組織または皮膚細胞集団に含まれる各細胞の細胞膜が前記検出剤を透過させるのに十分な透過性を有する状態にされた試料であればよい。
【0044】
皮膚組織または皮膚細胞集団は、用いられる皮膚組織または皮膚細胞集団に適した培地中、用いられる皮膚組織または皮膚細胞集団に適した条件下で培養することができる。
【0045】
前記培地としては、皮膚組織または皮膚細胞集団が生育するのに適した成分、例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩、糖類、細胞増殖促進因子〔例えば、細胞成長因子、ホルモン(例えば、インスリン、上皮細胞増殖因子、ハイドロコーチゾンなど)など〕、ウシ脳下垂体抽出物(BPE)などを含む培地であればよい。前記培地は、慣用の基本培地に、必要な成分を補った培地であってもよく、市販されている培地であってもよい。
【0046】
皮膚組織または皮膚細胞集団の固定は、例えば、皮膚組織または皮膚細胞集団が入っている培養容器中に、固定液を添加して、皮膚組織または皮膚細胞集団と固定液とを接触させることなどによって行なわれる。
【0047】
前記固定液としては、例えば、アセトン、メタノール、アセトンとメタノールとの混合溶液(以下、「アセトン−メタノール混合溶液」という)、ホルムアルデヒド水溶液、ホルムアルデヒドのリン酸緩衝液溶液、パラホルムアルデヒド水溶液、パラホルムアルデヒドのリン酸緩衝液溶液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの固定液のなかでは、固定組織または固定細胞集団において、前記検出剤に含まれる結合物質との反応性を十分に確保する観点から、好ましくはアセトンである。
【0048】
皮膚組織または皮膚細胞集団を固定することによって得られた固定組織または固定細胞集団は、必要に応じて、適切な洗浄液で洗浄してもよく、洗浄しなくてもよい。前記洗浄液としては、例えば、リン酸緩衝化生理的食塩水、トリス緩衝化生理的食塩水などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0049】
ステップ(I)において、皮膚組織または皮膚細胞集団を含む試料と、前記汗腺細胞の検出剤との混合比および接触時間は、前記試料中における皮膚組織または皮膚細胞集団の含有量、前記検出剤中における結合物質の含有量などによって異なるため、一概に決定されるものではないことから、前記試料中における皮膚組織または皮膚細胞集団の含有量、前記検出剤中における結合物質の含有量などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0050】
ステップ(II)では、前記ステップ(I)で得られた混合物中の前記結合物質が結合した細胞を検出する。前記結合物質が結合した細胞の検出は、前記検出剤に含まれる検出試薬の種類に応じた方法によって検出することができる。前記検出試薬が標識物質として蛍光物質が用いられた標識結合物質である場合、当該蛍光物質が発する蛍光に基づいて前記結合物質が結合した細胞を検出することができる。また、前記検出試薬が標識物質として酵素が用いられた標識結合物質である場合、当該酵素とその基質との反応時に生じる反応生成物に基づいて前記結合物質が結合した細胞を検出することができる。
【0051】
ステップ(III)では、前記ステップ(II)において、前記結合物質が結合したことが検出された細胞を汗腺細胞であると判定する。前記結合物質が結合した細胞は、汗腺細胞の判定用マーカーを発現する皮膚細胞であることから、汗腺細胞であると判断することができる。
【0052】
以上説明したように、本発明の汗腺細胞の検出方法によれば、汗腺細胞に特異的に発現している前記汗腺細胞の判定用マーカーが汗腺細胞の指標として用いられているので、皮膚組織または皮膚細胞集団に含まれる細胞のなかから、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができる。したがって、本発明の汗腺細胞の検出方法は、汗腺で分泌される成分の特定、汗腺の挙動の観察などの際に汗腺の特定に用いることができることから、制汗成分、デオドラント成分などの評価およびスクリーニング、制汗剤、デオドラント剤などの皮膚化粧料の開発などに有用である。
【0053】
4.汗腺細胞の分離方法
前記汗腺細胞の判定用マーカーは、皮膚細胞集団からの汗腺細胞の分離に用いることができる。本発明の汗腺細胞の分離方法は、
(i)皮膚細胞集団を含む試料と本発明の汗腺細胞の判定用マーカーに特異的に結合する結合物質とを混合して当該皮膚細胞集団と前記結合物質とを接触させるステップ、および
(ii)前記ステップ(i)で得られた混合物中に含まれる皮膚細胞集団から前記結合物質が結合した細胞を分離するステップ
を含むことに1つの大きな特徴を有する。本発明の汗腺細胞の分離方法は、皮膚細胞集団から前記結合物質が結合した細胞を分離するため、汗腺細胞を簡便に分離することができる。
【0054】
前記皮膚細胞集団を含む試料としては、例えば、固定液によって皮膚細胞集団を固定した試料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。皮膚細胞集団の固定は、前記汗腺細胞の検出方法における皮膚細胞集団の固定と同様の操作を行なうことによって実施することができる。
【0055】
前記ステップ(i)において、皮膚細胞集団を含む試料と、前記結合物質との混合比および接触時間は、前記試料中における皮膚細胞集団の含有量などによって異なるため、一概に決定されるものではないことから、前記試料中における皮膚細胞集団の含有量などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0056】
前記ステップ(ii)において、前記ステップ(i)で得られた混合物中に含まれる皮膚細胞集団から前記結合物質が結合した細胞を分離する。前記結合物質が結合した細胞の分離は、前記結合試薬などを用いることによって行なうことができる。かかるステップ(ii)における前記結合物質が結合した細胞の分離には、例えば、フローサイトメトリーなどを用いることができる。
【0057】
以上説明したように、本発明の汗腺細胞の分離方法によれば、皮膚細胞集団から前記結合物質が結合した細胞を簡便に分離することができる。
【実施例】
【0058】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
実施例1
ヒト皮膚凍結組織を、凍結組織切片作製用包埋剤〔サクラファインテックジャパン(株)製、商品名:ティッシュー・テックO.C.Tコンパウンド〕に包埋させた。包埋後の組織を、液体窒素で冷却された2−メチルブタンで凍結させ、凍結切片を作製した。得られた凍結切片を1時間風乾させた後、−20℃に冷却されたアセトンで固定した。固定後の切片をリン酸緩衝生理的食塩水で2回洗浄した。洗浄後の切片を0.3体積%過酸化水素含有リン酸緩衝生理的食塩水溶液中でインキュベーションすることにより、当該切片における内因性のペルオキシターゼを不活化させた。つぎに、インキュベーション後の切片をリン酸緩衝生理的食塩水で3回洗浄した。洗浄後の切片を、0.5体積%Triton−X含有リン酸緩衝生理的食塩水溶液中で10分間インキュベーションすることにより、切片の浸透化処理を行なった。浸透化処理後の切片をリン酸緩衝生理的食塩水で3回洗浄した。つぎに、得られた切片を1質量%ヤギ血清−リン酸緩衝生理的食塩水溶液中で30分間インキュベーションすることにより、ブロッキング処理を行なった。
【0060】
ブロッキング処理後の切片を、一次抗体含有0.1質量%ヤギ血清−リン酸緩衝生理的食塩水溶液中、4℃で16時間インキュベーションした後、リン酸緩衝生理的食塩水で3回洗浄した。なお、一次抗体として種々のポリペプチドに対するモノクローナル抗体を用いた。その後、得られた切片を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(抗ヤギIgG抗体)とともに室温(25℃)で1時間インキュベーションした。インキュベーション後の切片をリン酸緩衝生理的食塩水で3回洗浄した後、当該切片に3,3−ジアミノベンジジンを滴下してペルオキシダーゼ反応を行なうことにより、前記切片中における一次抗体が結合した部位を染色した。また、染色後の切片をリン酸緩衝生理的食塩水で3回洗浄した後、切片の核を核染色剤〔和光純薬社製、商品名:ヘマトキシリンン染色液〕によって染色した。染色後の切片を流水で10分間洗浄した。洗浄後の切片を95体積%エタノール水溶液中で3分間浸漬させた後、100体積%エタノール中で3分間のインキュベーションを3回行ない、つぎにキシレン中で3分間のインキュベーションを4回行なうことにより、当該切片の脱水を行なった。処理後の切片を封入剤で封入し、顕微鏡〔(株)ニコン製、商品名:Nikon Eclipse E800〕で観察した。
【0061】
その結果、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する抗体、すなわち、Notchファミリーに属する膜貫通型糖タンパク質Notch1(配列番号:2)の細胞内ドメイン(以下、「NICD1」という)に対する抗体が、汗腺細胞に結合することがわかった。そこで、皮膚における配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現パターンを調べた。実施例1において、表皮における配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現の有無を調べた結果を図1(A)に、実施例1において、汗腺における配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現の有無を調べた結果を図1(B)に、(B)を拡大して観察した結果を図1(C)に示す。図中、スケールバーは20μmを示す。なお、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現の検出には、一次抗体として、配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いた。
【0062】
図1(A)〜(C)に示された結果から、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、表皮においては検出されないが、汗腺細胞(図中、矢印)においては検出されることがわかる。これらの結果から、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、皮膚においては、汗腺細胞、特に、汗腺の筋上皮細胞に特異的に発現していることが示唆される。
【0063】
以上の結果から、配列番号:1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドならびにその変異体である配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号:1において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなる群より選ばれたアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記アミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる部分ポリペプチドは、汗腺細胞の判定用マーカーとして有用であることが示唆される。
【0064】
比較例1
実施例1において、従来、汗腺細胞を同定するためのマーカーとして用いられているケラチン5またはケラチン14に対する抗体(抗ケラチン5抗体または抗ケラチン14抗体)を一次抗体として用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、表皮および汗腺におけるケラチン5およびケラチン14それぞれの発現を調べた。比較例1において、表皮および汗腺細胞におけるケラチン5およびケラチン14それぞれの発現を調べた結果を図2に示す。図中、スケールバーは20μmを示す。
【0065】
図2に示された結果から、従来、汗腺細胞を同定するためのマーカーとして用いられていたケラチン5(図2中の「K5」)およびケラチン14(図2中の「K14」)は、表皮および汗腺細胞の両方で検出されることがわかる。これらの結果から、皮膚組織または皮膚細胞集団において、ケラチン5またはケラチン14の発現を指標として細胞を選別した場合、表皮および汗腺細胞の両方が検出されてしまうことから、ケラチン5およびケラチン14は、汗腺細胞の判定用マーカーとしては適していないことが示唆される。
【0066】
以上の結果から、皮膚組織または皮膚細胞集団において、配列番号:1に示されるアミノ酸配列、配列番号:1に示される配列に対する配列同一性が90%以上であるアミノ酸配列、および配列番号:1において、1個もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加または挿入を有するアミノ酸配列からなる群より選ばれたアミノ酸配列からなるポリペプチド、および前記アミノ酸配列において、配列番号:1に示される配列中のアミノ酸番号:1のアミノ酸残基を含む連続した部分配列に対応するアミノ酸配列からなる部分ポリペプチドの発現を調べることにより、汗腺細胞を簡便、かつ特異的に検出することができることがわかる。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]