【文献】
Science,2009年 2月,Vol. 323,pp. 1053-1057
【文献】
花き研報 Bull.Natl.Inst.Flor.Sci.,2010年,Vol. 10,pp. 11-53
【文献】
Database GenBank,[online],Accession No. NM_123323, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/145358655?sat=14&satkey=6806915>,公知日:2011-05-26,[検索日:2016-04-14], DEFINITION: Arabidopsis thaliana NAC domain containing protein 6 (NAC6) mRNA, complete cds.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
InNAL1を抑制する因子であって、該因子は、InNAL1核酸のRNA干渉を起こす二本鎖形態の核酸であり、配列番号1のうち塩基690−1059位の370塩基の配列と、その相補配列を含む、因子。
請求項14に記載の核酸分子、またはそれがコードするタンパク質あるいは請求項17に記載のタンパク質を用いるInNAL1を抑制する物質または因子のスクリーニング方法。
前記物質または因子は、InNAL1タンパク質に対する抗体またはその抗原性断片、InNAL1核酸のRNA干渉を起こす二本鎖形態の核酸、InNAL1核酸のアンチセンス核酸、InNAL1核酸のアプタマー、InNAL1核酸のsiRNA(低分子干渉RNA)およびInNAL1核酸のリボザイムからなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0018】
(定義)
本明細書において、「InNAL1」とは本発明において見出された遺伝子をさし、核酸分子およびタンパク質の両方を包含することを意図し、当業者は文脈に応じて適宜核酸分子またはタンパク質のいずれかのみあるいは両方を意味するかを理解する。本明細書の目的で使用される場合は、「InNAL1」は、特定の配列番号またはアクセッション番号に記載されるアミノ酸配列を有するタンパク質(あるいはそれをコードする核酸)のみならず、機能的に活性なその誘導体、または機能的に活性なそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体もまた、意味することが理解される。「変異体」または「改変体」は、このほか、限定を意図するものではないが、もとのタンパク質に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、もとのタンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、天然存在タンパク質を修飾した所産であり、その誘導体がなお天然に存在するタンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示す、 タンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。
【0019】
本発明では、InNAL1はアサガオが主に論じられるが、それ以外にもペチュニア(GenBank番号:AAM34777)、リンゴ(ACI13682)、ブドウ(XP_002283811)、ポプラ(XP_002323870)、ダイズ(XP_003549684)等、アサガオ以外の多くの植物がタンパク質を発現していることが知られているため、これらの植物、特に非エチレン依存性植物についても、本発明の範囲内に入ることが理解される。
【0020】
本明細書で使用される「機能的に活性な」あるいは「生物学的機能を有する」は、本明細書において、本発明のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体を指す。
【0021】
InNAL1の代表的なヌクレオチド配列は、
(a)配列番号1に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドまたはそのフラグメントであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体もしくは対立遺伝子変異体またはそのフラグメントである、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはそのフラグメントをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、InNAL1の有する活性をいう。
【0022】
好ましくは、InNAL1のヌクレオチド配列としては、
(A)配列番号1に示す配列(InNAL1自体)もしくは配列番号2をコードする配列;または
(B)
(B−1)(A)において1もしくは数個の置換、付加もしくは欠失を有する配列改変体、
(B−2)(A)の配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、もしくは
(B−3)(A)の配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体であって、
該配列改変体は(A)の生物学的機能を有する配列
を挙げることができる。
【0023】
InNAL1のアミノ酸配列としては、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
であり得る。ここで、生物学的活性とは、代表的に、InNAL1の有する活性をいう。
【0024】
本発明の関連において、「InNAL1を抑制する因子」または「InNAL1抑制剤」は、InNAL1に対して直接または間接的に作用し、InNAL1の機能を一時的または永久に抑制、低下または消失させることができる因子(例えば、分子または物質)をいう。InNAL1を抑制する因子はInNAL1の阻害剤(物質)であってもよく、その例としては、抗体またはその抗原性断片、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA等のRNAi因子、低分子量分子(LMW)、結合性ペプチド、アプタマー、リボザイムおよびペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができ、例えばInNAL1に対して向けられる、特にInNAL1の活性部位に対して向けられる、結合性タンパク質または結合性ペプチド、ならびにInNAL1遺伝子に対して向けられる核酸も含まれる。InNAL1に対する核酸は、例えばInNAL1遺伝子の発現またはInNAL1の活性を阻害する、二本鎖または一本鎖DNAまたはRNA、あるいはその修飾物または誘導体を指し、そして限定なしに、アンチセンス核酸、アプタマー、siRNA(低分子干渉RNA)およびリボザイムを含む。本明細書において、InNAL1について「結合性タンパク質」または「結合性ペプチド」とは、InNAL1に結合する種類のタンパク質またはペプチドを指し、そしてInNAL1に対して指向されるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、抗体フラグメントおよびタンパク質骨格を含むがこれらに限定されない。
【0025】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0026】
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0027】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0028】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0029】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは植物におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。ある特定の植物または他の種からオルソログ遺伝子対を検出するためのアルゴリズムは、これらの生物の全ゲノムを用いる。まず、予測されるタンパク質の完全Smith−Waterman並列を用いて、対合ベストヒットを回収する。信頼性をさらに改善するため、対合ベストヒットを用いて、これらの対のクラスターを形成する。このような分析は、例えば、Nature,2001,409:860−921に提供される。他の種の遺伝子に対する、本明細書に提供するタンパク質をコードする遺伝子の配列相同性に基づいて、慣用的技術を適用してそれぞれの遺伝子をクローニングし、そしてこのような遺伝子からタンパク質を発現させることによって、あるいは本明細書に提供する方法に従って、または当該分野で周知の他の適切な方法に従って、類似の複合体を単離することにより、他の種のタンパク質を単離することによって、本明細書に記載のタンパク質の相同体を単離することも可能である。
【0030】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9(2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0031】
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A PRac1tical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。従って、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、InNAL1がコードするタンパク質)には、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。これらの低ストリンジェンシー条件は、35%ホルムアミド、5xSSC、50mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.02% PVP、0.02% BSA、100μg/ml変性サケ精子DNA、および10%(重量/体積)デキストラン硫酸を含む緩衝液中、40℃で18〜20時間ハイブリダイゼーションし、2xSSC、25mM Tris−HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中、55℃で1〜5時間洗浄し、そして2xSSC、25mM Tris−HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中、60℃で1.5時間洗浄することを含む。
【0032】
本発明で用いられるInNAL1の機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびinsituハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
本発明の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。
【0033】
本明細書において「単離」された生物学的因子(例えば、遺伝子(InNAL1)、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいい、天然物と識別するために用いられる。従って、通常、単離された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0034】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「精製された」物質である。
【0035】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、例えば酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S−S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0036】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。従って、アサガオのInNAL1は、例えば、ユリにおいて、対応するInNAL1を見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。従って、例えば、ある植物(例えば、アサガオ)における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、InNAL1等)は、配列番号1等の配列をクエリ配列として用いてその植物(例えばユリ)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0037】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーとして機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーとしての機能を有する限り、本発明の範囲内に入ることが理解される。
【0038】
本明細書において「活性」とは、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。
【0039】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本発明においては、例えば、InNAL1等が花弁の老化を促進または制御する機能などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。本発明のように、花弁の老化を遅延する活性の場合は、そのような活性を包含する。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が、挙げられる。
【0040】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたもの(本明細書にいう誘導体)であり得る。例えば、InNAL1の発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、InNAL1のmRNAの量、InNAL1タンパク質の量、そしてInNAL1タンパク質の生物学的な活性を評価することによって、InNAL1の発現レベルを知ることができる。InNAL1のmRNAやタンパク質の量は、本明細書に記載したような方法によって決定することができる。
【0041】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、「InNAL1またはその機能的等価物」または「InNAL1およびその機能的等価物からなる群」という場合は、InNAL1自体のほか、InNAL1の変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、花弁の老化を遅延させる作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、InNAL1自体またはこのInNAL1の変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、InNAL1自体またはInNAL1の変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本発明において、InNAL1の機能的等価物は、格別に言及していなくても、InNAL1と同様に用いられうることが理解される。
【0042】
InNAL1の改変アミノ酸配列は、例えば1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜9個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、InNAL1のアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0043】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0044】
本明細書において「アゴニスト」とは、対象となる実体(例えば、レセプター)に対してそのレセプターの生物学的作用を発現させる物質をいう。天然のアゴニスト(リガンドとも称される)のほか、合成されたものや改変されたもの等を挙げることができる。
【0045】
本明細書において「アンタゴニスト」とは、対象となる実体(例えば、レセプター)に対してそのレセプターの生物学的作用を阻害する物質をいう。アゴニスト(またはリガンド)と競合的に阻害するもののほか、非競合的に阻害するもの等がある。アゴニストを改変することによっても得られうる。生理現象を阻害することから、アンタゴニストは阻害剤または抑制(する)因子の概念に包含されうる。
【0046】
(アンチセンス・RNAi)
本明細書において「アンチセンス活性」とは、標的となる遺伝子の発現を特異的に抑制または減少させることができる活性をいう。より具体的には細胞内に導入したあるヌクレオチド配列に依存して、その配列と相補的なヌクレオチド配列領域をもつ遺伝子のmRNA量を特異的に低下させることで、タンパク発現量を減少させ得る活性をいう。手法としては、標的となる遺伝子からつくられるmRNAに相補的なRNA分子を直接的に細胞に導入する方法と、細胞内に目的遺伝子と相補的なRNAを発現させ得る構築ベクターを導入する方法に大別されるが、植物においては、後者のほうが一般的である。
【0047】
アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。したがって、本明細書において、「アンチセンス活性」には、遺伝子の発現量の減少が含まれるがそれらに限定されない。
【0048】
一般的なアンチセンス技術については、教科書に記載されている(Murray,JAH eds.,Antisense RNA and DNA,Wiley−Liss Inc,1992)。さらに最新の研究でRNA interference(RNAi)と呼ばれる現象が明らかになり、アンチセンス技術の発展をもたらした。RNAiは、標的遺伝子に相同な配列をもつ短い長さの2本鎖RNA(20ベ−ス程度)を細胞内に導入すると、そのRNA配列に相同な標的遺伝子のmRNAが特異的に分解されて発現レベルが低下する現象である。当初線虫において発見されたこの現象は、植物を含めて生物に普遍的な現象であることがわかってきて、アンチセンス技術で標的遺伝子の発現が抑制される分子レベルのメカニズムは、このRNAiと同様のプロセスを経ることが解明された。従来は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的である1つのDNA配列を適当なプロモーターに連結して、その制御下に人工mRNAを発現させるような発現ベクターを構築して、細胞内に導入することが行われた。最近の知見においては、細胞内に2本鎖RNAを構成できるようにデザインされた発現ベクターが用いられる。基本構造はある標的遺伝子に相補的な1種のDNA配列をプロモーター下に1つを連結し、それと同じ物をさらに逆向きにもう1つ連結してつくられる。この構築遺伝子から転写された1本鎖のmRNAでは、逆向きにつながれた1種類のヌクレオチド配列部分が相補的な関係にあるため対合してヘアピン様の二次構造を持つ2本鎖RNA状態をとり、これがRNAiのメカニズムに従って標的遺伝子のmRNA分解を引き起こすわけである。植物においてはシロイヌナズナで用いられた例が報告されている(Smith,NA et al.,Nature 407.319−320,2000)。またRNAi全般については、最近の総説にまとめられている(森田と吉田、蛋白質・核酸・酵素47、1939−1945、2002)。これらの文献に記載された内容は、本明細書おいてその全体を参考として援用する。
【0049】
本明細書において「RNA干渉」または「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、当該分野で一般に知られており、RNAiを引き起こす因子によって媒介される、細胞における遺伝子発現を阻害または下方制御する生物学的プロセスである。例えば、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書において「RNAi」はまた、場合によっては、「RNAiを引き起こす因子」、「RNAiを起こす因子」、「RNAi因子」なと同義に用いられ得る。RNAiについては、例えば、Zamore and Haley,2005,Science,309,1519−1524;Vaughn and Martienssen,2005,Science,309,1525−1526;Zamore et al.,2000,Cell,101,25−33;Bass,2001,Nature,411,428−429;Elbashiretal.,2001,Nature,411,494−498;およびKreutzer他、国際公開第00/44895号;Zernicka−Goetz他、国際公開第01/36646号;Fire、国際公開第99/32619号;Plaetinck他、国際公開第00/01846号;MelloおよびFire、国際公開第01/29058号;Deschamps−Depaillette、国際公開第99/07409号およびLi他、国際公開第00/44914号;Allshire,2002,Science,297,1818−1819;Volpe et al.,2002,Science,297,1833−1837;Jenuwein,2002,Science,297,2215−2218;およびHall et al.,2002,Science,297,2232−2237;Hutvagner and Zamore,2002,Science,297,2056−60;McManus et al.,2002,RNA,8,842−850;Reinhart et al.,2002,gene & Dev.,16,1616−1626;およびReinhart & Bartel,2002,Science,297,1831を参照。)。また、本明細書では、RNAiという用語は、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、転写阻害、エピジェネティクスなどの配列特異的RNA干渉の記述に用いられる他の用語と同義のものを示すものとして理解される。本明細書では、「RNAiを起こす因子」は「RNAi」を起こす限りどのようなものであってもよい。
【0050】
本明細書では「RNAiを起こす因子」としては、「低分子干渉核酸」、「siNA」、「低分子干渉RNA」、「siRNA」、「低分子干渉核酸分子」、「低分子干渉オリゴヌクレオチド分子」または「化学修飾低分子干渉核酸分子」等が挙げられ、これらの用語は、RNA干渉「RNAi」または遺伝子サイレンシングを配列特異的に媒介することによって、遺伝子発現またはウイルス複製を阻害または下方制御することができる任意の核酸分子を指す。これらの用語は、個々の核酸分子、複数のかかる核酸分子、またはかかる核酸分子のプールも表し得る。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む二本鎖核酸分子であり得る。ここで、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、一方の鎖がセンス鎖であり、他方がアンチセンス鎖である、2個の別々のオリゴヌクレオチドから組み立てることができる。ここで、アンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的である(すなわち、アンチセンス鎖とセンス鎖が二本鎖または二本鎖構造を形成するなど、各鎖は、他方の鎖中のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。ここで、例えば、二本鎖領域は、約15から約30、例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30塩基対でありうるが、これらより長くてもよい。アンチセンス鎖は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を含む(例えば、その分子の約15から約25個またはそれを超えるヌクレオチドは、標的核酸またはその一部に相補的である)。あるいは、これらの分子は、単一のオリゴヌクレオチドから組み立てられ、これらの分子の自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域は、核酸リンカーまたは非核酸リンカーによって連結されている。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む、二本鎖、非対称二本鎖、ヘアピンまたは非対称ヘアピン二次構造を有するポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、別個の標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、2個以上のループ構造と、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む軸(stem)とを有する、環状一本鎖ポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有するセンス領域を含み、環状ポリヌクレオチドは、インビボまたはインビトロでプロセシングを受けて、RNAiを媒介し得る活性な分子を生成し得る。これらの因子は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドも含み得る(例えば、これらの因子は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列がこれらの因子内に存在する必要がない。)。一本鎖ポリヌクレオチドは、5’リン酸(例えば、Martinez et al.,2002,Cell.,110,563−574およびSchwarz et al.,2002,Molecular Cell,10,537−568参照)、5’,3’−二リン酸などの末端リン酸基を更に含み得る。ある実施形態においては、本発明のInNAL1を抑制する因子は、別々のセンスおよびアンチセンス配列または領域を含む。ここで、センス領域とアンチセンス領域は、当該分野で公知のヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカー分子によって共有結合しており、またはイオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水的相互作用および/またはスタッキング相互作用によって交互に非共有結合している。ある実施形態においては、本発明のInNAL1を抑制する因子は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。別の実施形態においては、本発明のInNAL1を抑制する因子は、標的遺伝子の発現を阻害するように、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。本明細書では、InNAL1を抑制する因子は、RNAのみを含む分子に必ずしも限定されず、化学修飾ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドも包含する。ある実施形態においては、本発明が低分子干渉核酸分子である場合は、2’ヒドロキシ(2’−OH)含有ヌクレオチドを欠いていてもよいく。ある実施形態において、本発明はRNAiを媒介するのに2’ヒドロキシル基を有するヌクレオチドの存在が不要である低分子干渉核酸でありうる。したがって、本発明が低分子干渉核酸分子である場合は、リボヌクレオチド(例えば、2’−OH基を有するヌクレオチド)を含まなくてもよい。しかし、RNAiを維持するのにInNAL1を抑制する因子内のリボヌクレオチドの存在が不要である場合は、2’−OH基を有する1個以上のヌクレオチドを含む、結合したリンカー、または他の結合若しくは会合した基、部分若しくは鎖を有し得る。場合によっては、本発明のInNAL1を抑制する因子は、ヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40または50%においてリボヌクレオチドを含み得る。本明細書ではInNAL1を抑制する因子は、配列特異的RNAiを媒介し得る核酸分子、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロRNA(miRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学修飾siRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)であってもよい。
【0051】
本明細書においてRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
【0052】
あるいは、本発明において用いられるRNAiとしては、例えば、短い逆向きの相補的配列(例えば、15bp以上であり、例えば、24bpなど)のペアが挙げられるがそれらに限定されない。
【0053】
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものを、RNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
【0054】
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
【0055】
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
【0056】
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
【0057】
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法等の任意の適切な方法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明において有用である。
【0058】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、原核生物細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体等の宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書においてベクターは、発現ベクター、組換えベクターなどであり得る。
【0059】
本明細書においてベクターとしては、遺伝子実験に用いられる一般的なバクテリア(代表的なものとして大腸菌K12株由来の大腸菌株)で複製可能かつ単離精製可能な物があげられる。これは植物に導入する目的遺伝子を構築するために必要である。具体的には、例えば大腸菌のpBR322プラスミドやpUC18、pUC19、pBluescript、pGEM−Tといった市販構築プラスミドがある。エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法といった直接的に遺伝子断片を植物細胞に導入して形質転換する場合には、このような市販されている一般的なプラスミドを用いて導入する遺伝子の構築を行えばよい。また、ベクターの特殊な例として、アグロバクテリウムを介した遺伝子導入法を用いて植物細胞を形質転換する場合は、大腸菌とアグロバクテリウム双方の複製開始点、および植物に導入され得る境界領域を示すT−DNA由来の境界配列(Left borderおよびRight Border)に相当するヌクレオチド配列を有する「バイナリーベクター」と呼ばれるプラスミドを用いる必要がある。例えばpBI101(Clontech社より市販)、pBIN(Bevan,N.,Nucleic Acid Research 12,8711−8721,1984)、pBINPlus(van Engelen,FA et al.,Tranegenic Research 4,288−290、1995)、pTNまたはpTH(Fukuoka H et.al.,Plant Cell Reports 19,2000)、pPZP(Hajdukiewicz P et al.,Plant Molecular Biology 25,989−994,1994)などが挙げられるがそれらに限定されない。このほか、植物に利用され得るベクターとしては、タバコモザイクウイルスベクターも例示されるが、このタイプのベクターは目的遺伝子を植物染色体に導入するわけではないので、遺伝子導入した植物を種子を介して増殖させること必要がない場合に用途が限定されるが、本発明に使用し得る。
【0060】
本明細書において「発現カセット」は、ある構造遺伝子、およびその発現を調節するプロモーター配列や種々の調節エレメント、およびmRNA転写を終結させるターミネーター配列を、宿主の細胞中で構造遺伝子が動作し得る状態で連結してある人工構築遺伝子の1単位を示す。代表的なものとしては、遺伝子導入された宿主細胞のみを選択するための選択マーカー(例えばハイグロマイシン耐性遺伝子)発現カセット、あるいは宿主細胞内に発現させたい有用タンパク質遺伝子の発現カセットといったものが例示される。準備するべき発現カセットの種類・構造と数については、生物・宿主細胞・目的に応じて使い分けられるべきであり、その組み合わせは当業者には周知である。
【0061】
本明細書において「発現ベクター」は、上記の「発現カセット」を1つ以上含み得る「ベクター」として定義される。植物に導入を行うべき目的遺伝子発現カセットごとに別々のベクター上に配置しても良いし、1つのベクター上に全ての発現カセットを連結しても良い。本発明に用いる植物用の発現ベクターは、バイナリーベクタータイプであり得る。さらにはこのベクターには導入する目的遺伝子発現カセットと同時に、宿主植物に適した選択マーカー(例えばハイグロマイシン耐性遺伝子)発現カセットを含み得る。
【0062】
本明細書において使用される選択マーカーとしては、例えばハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、変異型アセト酪酸シンターゼなどがあげられるがそれらに限定されない。選択マーカー発現カセットに利用し得るプロモーターとしては、CaMV35Sプロモーターおよびその改変プロモーター、ユビキチンプロモーターなど、ターミネーターとしてはNosターミネーター、Tmlターミネーター、10kDaプロラミンターミネーター、13kDaプロラミンターミネーター、16kDaプロラミンターミネーターが挙げられるがそれらに限定されない。
【0063】
本明細書において「ターミネーター」とは、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターとしては、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。本発明では、植物においてターミネーターの活性を示すものであれば、どのような配列でも使用することができる。
【0064】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の中または下流にも存在し得る。本発明では、InNAL1のRNA干渉を起こす因子の機能を発揮させるプロモーターであればどのようなものでも使用され得る。
【0065】
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、植物)の部位(例えば、植物の場合、プロテインボディー、根、茎、幹、葉、花(花弁等)、種子、胚乳、胚芽、胚、果実など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(たとえば、植物)の発達段階(例えば、植物であれば生長段階(例えば、花弁が開花する時期))に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
【0066】
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、例えば、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域、オクトピン合成酵素遺伝子の上流領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「サイレンサー」とは、遺伝子発現を抑制し静止する機能を有する配列をいう。本発明では、サイレンサーとしてはその機能を有する限り、どのようなものを用いてもよく、サイレンサーを用いなくてもよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0067】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、AusubelF.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、NewYork、NY;SambrookJら(1987)Molecular Cloning:ALaboratory Manual,2ndEd.およびその3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0068】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法が挙げられる。
【0069】
本明細書において「遺伝子導入試薬」とは、遺伝子導入方法において、導入効率を促進するために用いられる試薬をいう。そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。トランスフェクションの際に利用される試薬の具体例としては、種々なソースから市販されている試薬が挙げられ、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM−20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101−30,Polyplus−transfection,France)および ExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0070】
本発明を植物において利用する場合、植物細胞への植物発現ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法および直接細胞に導入する方法、が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Nagelら(1990)、Microbiol.Lett.,67,325)が用いられ得る。この方法は、まず、例えば植物に適切な発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをGelvinら(Gelvinら編(1994)、Plant Molecular Biology Manual(Kluwer Academic Press Publishers))に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法(Shimamotoら(1989)、Nature、338:274−276;およびRhodesら(1989)、Science、 240:204−207を参照のこと)、パーティクルガン法(Christouら(1991)、Bio/Technology 9:957−962を参照のこと)ならびにポリエチレングリコール(PEG)法(Dattaら(1990)、Bio/Technology 8:736−740を参照のこと)が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択さ れ得る。
【0071】
植物発現ベクターを導入された細胞は、まずハイグロマイシン耐性、カナマイシン耐性などの薬剤耐性で選択される。次いで、当該分野で周知の方法により、植物組織、植物器官および/または植物体に再分化され得る。さらに、植物体から種子が取得され得る。導入した遺伝子の発現は、ノーザンブロット法またはPCR法により、検出し得る。必要に応じて、遺伝子産物たるタンパク質の発現を、例えば、ウェスタンブロット法により確認し得る。
【0072】
本発明は、植物において特に有用であることが示されているが、他の生物においても利用することができる。本発明において使用される分子生物学技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0073】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0074】
形質転換を行う方法において、物理的手法には、ポリエチレングリコール法(PEG法)、電子穿孔(エレクトロポレーション)法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法がある。これらの方法は、単子葉、双子葉の両植物体に適用できる点で有用性が高い。しかし、ポリエチレングリコール法とエレクトロポレーション法では、細胞壁が障害となるため、プロトプラストを用いなければならない上、導入された遺伝子の植物細胞の染色体DNAへの組込み頻度が低いことが問題である。また、プロトプラストを用いずに、カルスや組織を用いたマイクロインジェクション法では、針の太さや組織の固定等に関して困難が多い。組織を用いたパーティクルガン法でも、変異がキメラの形で出現してくる等の問題がある。また、これら物理的手法では、一般に、導入された外来遺伝子が核ゲノムに不完全な状態で多コピーの遺伝子として組込まれやすい。外来遺伝子が多コピー導入されると、その遺伝子が不活化されやすいことが知られている。
【0075】
他方、生物を利用して単離遺伝子を導入する方法には、アグロバクテリウム法、ウイルスベクター法、および花粉をベクターとして用いる方法等がある。これらの方法は、プロトプラストを用いず植物のカルス、組織または植物体を用いて遺伝子導入を行うため、培養が長期間に及ぶことがなく、またソマクローナル変異等の障害を受けにくいという長所を有している。これらのうち花粉をベクターとして用いる方法は、まだ実験例も少なく、植物の形質転換法としては未知数の部分が多い。ウイルスベクター法は、ウイルスに感染した植物体全体に導入すべき遺伝子が広がるという利点はあるものの、各細胞内で増幅されて発現されるだけで、次世代に伝えられるという保証がないという点、および長いDNA断片を導入できないという点に問題がある。アグロバクテリウム法は、約20kbp以上のDNAを大きな再編成なしに染色体に導入できること、導入される遺伝子のコピー数が、数コピーと少ないこと、および再現性が高いこと等、多くの利点がある。イネ科植物等の単子葉植物にとってアグロバクテリウムは宿主範囲外であるため、イネ科植物への外来遺伝子導入は、従来は、先に述べたような物理的手法により行われてきた。しかしながら、近年、単子葉植物でもイネ等、培養系が確立されている植物においては、アグロバクテリウム法が適用されるようになっており、むしろ現在ではアグロバクテリウム法が好んで用いられている。
【0076】
アグロバクテリウム法による外来遺伝子の導入では、TiプラスミドVir領域に植物が合成するアセトシリンゴン等の低分子フェノール化合物が作用すると、TiプラスミドからT−DNA領域が切り出され、幾つかの過程を経て植物細胞の核染色体DNAに組み込まれる。双子葉植物では、植物自身がそのようなフェノール化合物の合成機構を備えているため、リーフディスク法等により容易に外来遺伝子を導入することができ、再現性も高い。これに対し、単子葉植物では、そのようなフェノール化合物を植物自身が合成しないため、アグロバクテリウムによる形質転換植物の作出は困難であった。しかし、アグロバクテリウムの感染時にアセトシリンゴンを添加することで、単子葉植物への外来遺伝子導入も現在では可能となっている。
本発明において、形質転換体では、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されていても導入されていなくてもよい。好ましくは、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されており、より好ましくは、2つの染色体の両方に導入されている。
【0077】
植物細胞としては、本明細書において以下に記載されるものが挙げられ、アサガオ、ユリ等のエチレン非依存性花き植物の細胞などを挙げることができる。より好ましくは、植物細胞は、ヒルガオ科の植物であり得、さらに好ましくはアサガオであり得る。
【0078】
植物細胞への組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であれば、本明細書において他の場所で詳述したように、いずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)(特開昭59−140885、特開昭60−70080、WO94/00977)、エレクトロポレーション法(特開昭60−251887)、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法(特許第2606856、特許第2517813)等が例示される。
【0079】
本明細書において「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、クロロフィル、かたい細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在,および運動する能力がない生物により特徴付けられる。代表的には、植物は、細胞壁の形成・クロロフィルによる同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。好ましい植物としては、例えば、「エチレン非依存性花き」の植物が挙げられる。「エチレン非依存性花き」とは花弁の老化において植物ホルモンであるエチレンの関与がない、あるいは小さい花きであり、このような植物としては、アサガオ、バラ、ユリ、チューリップ、キク、ヒマワリ、ガーベラ、マーガレット、ダリア、グラジオラス、ハナショウブ、アイリス、フリージア、サンダーソニアが挙げられる。
【0080】
より好ましくは、植物は、ヒルガオ科、バラ科、ユリ科、キク科、アヤメ科の植物であり得、さらに好ましくはアサガオ、バラ、ユリ、チューリップ、キク、ヒマワリ、ガーベラ、マーガレット、ダリア、グラジオラス、ハナショウブ、アイリス、フリージア、サンダーソニアであり得る。
【0081】
好ましい植物は花を観賞するための観賞用植物に限られず、花弁の老化を防ぐことが有用である任意の植物、例えば、作物、樹木、芝生、雑草なども含まれる。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも包含する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花(例えば、花弁)などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0082】
「エチレン非依存性花き」の植物の例としては、アサガオ、バラ、ユリ、チューリップ、キク、ヒマワリ、ガーベラ、マーガレット、ダリア、グラジオラス、ハナショウブ、アイリス、フリージア、サンダーソニアなどを含む。
【0083】
ヒルガオ科の植物の例としては、ナガバアサガオ属(Aniseia)、セイヨウヒルガオ属(Convolvulus)、ネナシカズラ属(Cuscuta)、アオイゴケ属(Dichondra)、ホルトカズラ属(Erycibe)、アサガオガラクサ属(Evolvulus)、サツマイモ属(Ipomoea)、フサヒルガオ属(Jacquwmontia)、オオバケアサガオ属(Lepistemon)、コガネヒルガオ属(Merremia)、フウセンアサガオ属(Operculina)、オオバハマアサガオ属(Stictocardia)などを挙げることができ、例えばアサガオ、モミジヒルガオ、ヒルガオ、サツマイモ、ヨルガオ、ルコウソウ、などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0084】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
【0085】
本明細書において、」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。植物では、カルス、根、茎、幹、葉、花、種子、胚芽、胚、果実、胚乳などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0086】
本明細書において「生物体」(または、植物の場合「植物体」)とは、当該分野における最も広義に用いられ、生命現象を営むもの(または植物)をいい、代表的には、細胞構造、増殖(自己再生産)、成長、調節性、物質代謝、修復能力など種々の特性を有し、通常、核酸のつかさどる遺伝と、タンパク質のつかさどる代謝の関与する増殖を基本的な属性として有する。生物には、原核生物、真核生物(植物、動物など)などが包含される。好ましくは、本発明では、生物は、植物であり得る。本明細書では、好ましくは、そのような植物体は稔性であり得る。より好ましくは、そのような植物体は、種子を生産し得る。本発明の遺伝子構築物、因子(agent)、組成物および方法は、エチレン非依存性花き植物だけでなくエチレン依存性花き植物において機能することが企図される。
【0087】
本明細書において、「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子がある生物に組み込むことまたは組み込まれた生物(例えば、植物(アサガオなど)を含む)をいう。
【0088】
本明細書では、植物の栽培は当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。植物の栽培方法は、例えば、「アサガオ 江戸の贈りもの」(米田芳秋):栽培の仕方pp.65−76(アサガオの栽培方法が記載されている。実際の栽培方法は後述の実施例も参照)。
【0089】
植物細胞、植物組織および植物体の培養、分化および再生のためには、当該分野で公知の手法および培地が用いられる。このような培地には、例えば、 Murashige−Skoog(MS)培地、GaMborg B5(B)培地、White培地、Nitsch&Nitsch(Nitsch)培地などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの培地は、 通常、植物生長調節物質(植物ホルモン)などが適当量添加されて用いられる。
【0090】
本明細書において、植物の場合、その植物を「再分化」するとは、個体の一部分から個体全体が復元される現象を意味する。例えば、再分化により、細胞(葉、根など)のような組織片から器官または植物体が形成される。
【0091】
形質転換体を植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118:627−640(1986);Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338:274(1989);Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995)などに記載されるものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、当業者は、上記周知方法を目的とするトランスジェニック植物に 応じて適宜使用して、再分化させることができる。このようにして得られたトランスジェニック植物には、目的の遺伝子が導入されており、そのような遺伝子の 導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0092】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0093】
<InNAL1の抑制因子>
1つの局面において、本発明は、InNAL1を抑制する因子を提供する。InNAL1は、花弁の老化時に発現量が増加するNAC転写因子ファミリー遺伝子のひとつであるが、InNAL1の発現を抑制した形質転換体(InNAL1r)を作出した結果、花弁が萎れるまでの期間が2倍程度に延長することが、エチレン非依存性花き植物であるアサガオにおいて観察された(実施例参照)。これらの結果は、InNAL1がエチレン非依存性花きであるアサガオの花弁老化を制御(促進)するNAC 転写因子ファミリー遺伝子であり、InNAL1の発現抑制により、アサガオ花弁の老化を遅延することができることを示している。他のエチレン非依存性花きにおいても、InNAL1 オルソログを標的とした遺伝子組換えまたは阻害剤等のInNAL1の抑制因子により、観賞期間を延長することができると理解される。NAC転写因子ファミリーは、NACドメインタンパク質、NACファミリータンパク質、NAC転写因子とも言う。NACドメインと呼ばれる保存されたDNAに結合すると予想される領域を共通に持つ。シロイヌナズナには100以上のNACドメインタンパク質遺伝子が見出されているが、ほとんどの遺伝子の機能はわかっていない。他方、InNAL1に相当する配列は、他の植物においても見出されることからInNAL1オルソログは他の植物においても花弁の老化制御に関与していると理解される。、特に、理論に束縛されることは望まないが、エチレン非依存性植物では、花弁の老化時にプログラム細胞死が起きており、また、共通の遺伝子群の発現が誘導されることから(例えば、van Doorn WG, Woltering EJ. Physiology and molecular biology of petal senescence. Journal of Experinental Botany 59:453−80, 2008を参照)、同様の制御機構が存在するものと理解され、InNAL1オルソログの活性阻害は、アサガオ以外でも同様に効果を発揮すると理解される。本発明は、実施例以外の他の植物においても同様の効果を奏することが理解される。本発明の因子は、InNAL1の機能を一時的または永久に抑制、低下または消失させることができる因子であれば、どのようなものであってもよく、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されず、場合によっては、物質以外の他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。
【0094】
1つの実施形態において、前記因子は、核酸形態のものである。核酸形態の阻害剤としては、アプタマー、リボザイム、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA等のRNAi因子などを挙げることができる。他の実施形態では、タンパク質形態の因子も用いられうる。このようなタンパク質形態のものとしては、抗体または抗原性断片、結合性ペプチド、ペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができる。あるいは、本発明の因子は、低分子等の他の分子であってもよい。
【0095】
1つの実施形態では、前記因子は、二本鎖核酸の形態のInNAL1のRNA干渉を起こす因子である。
【0096】
特定の実施形態では、本発明の因子は二本鎖形態であり、その一方の鎖は(I)(A)配列番号1に示す配列(InNAL1自体)もしくは配列番号2をコードする配列;または(B)(B−1)(A)において1もしくは数個の置換、付加もしくは欠失を有する配列改変体、(B−2)(A)の配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、もしくは(B−3)(A)の配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体であって、該配列改変体は(A)の生物学的機能を有する配列を含み、他方の鎖は、(II)(I)の相補配列を含む。
【0097】
さらに特定の実施形態において、本発明の因子は、二本鎖形態であり、その一方の鎖は配列番号1のうち塩基690−1059位の370塩基の配列であり、他方の鎖は、その相補配列を含む。具体的な実施形態は、これに限定されず、例えば、98−853塩基の長さであれば、どのような範囲でも使用されることが理解される(Wesley et al., Plant Journal 27:581−590)。また、適切なRNAi因子はWesley et al. Plant Journal 27:581−590等を参照して設計することができる。
【0098】
植物のRNAiでは一般的に標的遺伝子の転写物(mRNA)のどの領域の配列を用いてもmRNAの分解を誘導できると考えられている。RNAiの原理からすれば、標的遺伝子の転写された配列を含んでいれば、mRNAの分解が起きるのは当業者には明白である(例えば、Wesley et al. Plant Journal 27:581−590を参照)。どのような領域を選択してもよいが、好ましくは、保存性が非常に高い領域の配列(複数の遺伝子間で共通した配列)を標的にした場合、目的の遺伝子の他にも同じ配列を持った遺伝子のmRNAを分解してしまう可能性があることから、標的配列から保存領域を外すことが有利である。本発明のInNAL1のRNAiコンストラクトにおいても、実施例において行ったものは、念のため保存性が比較的高い領域は外してある。コード領域ではなく、5’UTRおよび3’UTR(非翻訳領域)を標的にしてもRNAiを誘導できることが知られている(例えば、Wesley et al. Plant Journal 27:581−590を参照)。植物では、siRNAも使用しうるが、好ましくは、より長いRNAi因子も使用しうることが理解される(植物では長めのdsRNAを発現させるが、最終的には20塩基ほどのsiRNAにプロセスされてサイレンシングを誘導することになる。)。
【0099】
1つの局面では、本発明はInNAL1のRNA干渉を起こす核酸を含むベクターを提供する。ここで含まれるInNAL1のRNA干渉を起こす核酸は、本発明のInNAL1を抑制する因子で例示される任意の形態であって、InNAL1のRNA干渉を起こす核酸である限り、どのようなものでも使用されることが理解される。
【0100】
別の実施形態では、本発明のベクターは、プロモーターおよび/またはターミネーターを含む。
【0101】
特定の実施形態では、本発明のベクターは、pH7−InNAL(配列番号3)である。
【0102】
別の局面では、本発明は、本発明のInNAL1を抑制する因子を含む植物細胞を提供する。
【0103】
1つの実施形態では、本発明の植物細胞は、エチレン非依存性花きの植物の細胞である。
【0104】
好ましい実施形態では、本発明の植物細胞は、ヒルガオ科の植物細胞である。このような植物細胞としては、例えば、ナガバアサガオ属(Aniseia)、セイヨウヒルガオ属(Convolvulus)、ネナシカズラ属(Cuscuta)、アオイゴケ属(Dichondra)、ホルトカズラ属(Erycibe)、アサガオガラクサ属(Evolvulus)、サツマイモ属(Ipomoea)、フサヒルガオ属(Jacquwmontia)、オオバケアサガオ属(Lepistemon)、コガネヒルガオ属(Merremia)、フウセンアサガオ属(Operculina)、オオバハマアサガオ属(Stictocardia)などを挙げることができ、例えばアサガオ、モミジヒルガオ、ヒルガオ、サツマイモ、ヨルガオ、ルコウソウを挙げることができるがこれらに限定されない。さらに好ましい実施形態では、本発明の植物細胞は、アサガオの細胞である。
【0105】
別の局面において、本発明は、本発明のInNAL1を抑制する因子を含む植物を提供する。
【0106】
1つの実施形態では、本発明の植物は、エチレン非依存性花きの植物である。
【0107】
好ましい実施形態では、本発明の植物は、ヒルガオ科の植物である。このような植物としては、例えば、ナガバアサガオ属(Aniseia)、セイヨウヒルガオ属(Convolvulus)、ネナシカズラ属(Cuscuta)、アオイゴケ属(Dichondra)、ホルトカズラ属(Erycibe)、アサガオガラクサ属(Evolvulus)、サツマイモ属(Ipomoea)、フサヒルガオ属(Jacquwmontia)、オオバケアサガオ属(Lepistemon)、コガネヒルガオ属(Merremia)、フウセンアサガオ属(Operculina)、オオバハマアサガオ属(Stictocardia)などを挙げることができ、例えばアサガオ、モミジヒルガオ、ヒルガオ、サツマイモ、ヨルガオ、ルコウソウを挙げることができるがこれらに限定されない。さらに好ましい実施形態では、本発明の植物は、アサガオである。
【0108】
別の局面では、本発明は、InNAL1が天然の状態よりも抑制された植物細胞を提供する。このような細胞は、InNAL1が天然の状態よりも抑制される状態は、本発明のInNAL1を抑制する因子によって達成されてもよく、スクリーニング等によって選抜してきてもよい。スクリーニングは、自然発生した突然変異や、人為突然変異処理をした集団の中からInNAL1に変異を起こしている植物や細胞をPCRなどによって選抜してもよい。この場合、たとえば、アサガオの場合は、本発明で開示した天然のInNAL1よりも発現または活性のレベルが低下しているものが選抜されうる。他の植物の場合も同様に選抜することができる。あるいは、抑制する因子を導入する手法やスクリーングで探すことのほか、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、或いはジーンターゲッティングなどの手法を使って内在NAL1の配列を改変し発現を抑制する方法を用いてもよい。本発明の実施において、植物におけるジンクフィンガーヌクレアーゼの応用に関しては、Keishi Osakabe,Yuriko Osakabe and Seiichi Toki,Site−directed mutagenesis in Arabidopsis using custom−designed zinc−finger nucleases.Proc.Nat.Acad.Sci.USA(2010)June 29,107(26): 12034−12039を参考にすることができる。ジーンターゲッティングに関しては、Molecular breeding of a novel herbicide−tolerant rice by gene targeting.Endo,Masaki;Osakabe,Keishi;Ono,Kazuko;Handa,Hirokazu;Shimizu,Tsutomu;Toki,Seiichi.The Plant Journal vol.52 issue 1 October 2007.p.157−166;Rie Terada,Hiroko Urawa,Yoshishige Inagaki,Kazuo Tsugane,and Shigeru Iida:Efficient gene targeting by homologous recombination in rice.Nature Biotechnology 20(10)1030−1034 (2002)を参考にすることができる。
【0109】
1つの実施形態では、本発明の植物細胞は、エチレン非依存性花きの植物の細胞である。
【0110】
好ましい実施形態では、本発明の植物細胞は、ヒルガオ科の植物細胞である。このような植物細胞としては、例えば、ナガバアサガオ属(Aniseia)、セイヨウヒルガオ属(Convolvulus)、ネナシカズラ属(Cuscuta)、アオイゴケ属(Dichondra)、ホルトカズラ属(Erycibe)、アサガオガラクサ属(Evolvulus)、サツマイモ属(Ipomoea)、フサヒルガオ属(Jacquwmontia)、オオバケアサガオ属(Lepistemon)、コガネヒルガオ属(Merremia)、フウセンアサガオ属(Operculina)、オオバハマアサガオ属(Stictocardia)などを挙げることができ、例えばアサガオ、モミジヒルガオ、ヒルガオ、サツマイモ、ヨルガオ、ルコウソウを挙げることができるがこれらに限定されない。さらに好ましい実施形態では、本発明の植物細胞は、アサガオの細胞である。
【0111】
別の局面では、本発明は、InNAL1が天然の状態よりも抑制された植物を提供する。このような植物は、InNAL1が天然の状態よりも抑制される状態は、本発明のInNAL1を抑制する因子によって達成されてもよく、スクリーニング等によって選抜してきてもよい。このような植物は、本発明のInNAL1が天然の状態よりも抑制された植物細胞をもとに誘導しあるいは再生して生産することもできる。植物のスクリーニングもまた、植物細胞のスクリーニングと同様に、自然発生した突然変異や、人為突然変異処理をした集団の中からInNAL1に変異を起こしている植物や細胞をPCRなどによって選抜してもよい。この場合、たとえば、アサガオの場合は、本発明で開示した天然のInNAL1よりも発現または活性のレベルが低下しているものが選抜されうる。他の植物の場合も同様に選抜することができる。あるいは、抑制する因子を導入する手法やスクリーングで探すことのほか、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、或いはジーンターゲッティングなどの手法を使って内在NAL1の配列を改変し発現を抑制する方法を用いてもよい。
【0112】
1つの実施形態では、本発明の植物は、エチレン非依存性花きの植物である。
【0113】
好ましい実施形態では、本発明の植物は、ヒルガオ科の植物である。このような植物としては、例えば、ナガバアサガオ属(Aniseia)、セイヨウヒルガオ属(Convolvulus)、ネナシカズラ属(Cuscuta)、アオイゴケ属(Dichondra)、ホルトカズラ属(Erycibe)、アサガオガラクサ属(Evolvulus)、サツマイモ属(Ipomoea)、フサヒルガオ属(Jacquwmontia)、オオバケアサガオ属(Lepistemon)、コガネヒルガオ属(Merremia)、フウセンアサガオ属(Operculina)、オオバハマアサガオ属(Stictocardia)などを挙げることができ、例えばアサガオ、モミジヒルガオ、ヒルガオ、サツマイモ、ヨルガオ、ルコウソウを挙げることができるがこれらに限定されない。さらに好ましい実施形態では、本発明の植物は、アサガオである。
【0114】
<InNAL1核酸分子・タンパク質>
他の局面において、本発明は、以下:
(A)配列番号1に示す配列もしくは配列番号2をコードする配列;または
(B)
(B−1)(A)において1もしくは数個の置換、付加もしくは欠失を有する配列改変体、
(B−2)(A)の配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、もしくは
(B−3)(A)の配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体であって、
該配列改変体は(A)の生物学的機能を有する配列
を含む、単離された核酸分子を提供する。これらは、InNAL1でありうる。
【0115】
1つの実施形態では、本発明の核酸分子は、配列番号1に示す配列を含む。
【0116】
好ましい実施形態では、本発明の核酸分子は、配列番号1に示す配列からなる。
【0117】
別の局面では、本発明は、(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド
を含む、単離されたタンパク質を提供する。これらはInNAL1でありうる。
【0118】
1つの実施形態では、本発明の単離されたタンパク質は、配列番号2に示す配列を含む。
【0119】
好ましい実施形態では、本発明の単離されたタンパク質は、配列番号2に示す配列からなる。
【0120】
(スクリーニング)
別の局面では、本発明は、本発明の核酸分子(InNAL1またはその改変体)またはそれがコードするタンパク質を用いる花弁の老化を遅延させる薬剤のスクリーニング方法を提供する。スクリーニングの方法としては、当該分野において公知の方法を応用することができる。この方法は、(i)InNAL1またはそれを含む物質、細胞、植物等と、被験物質とを接触させる工程;および(ii)被験物質を接触させた後の前記物質、細胞、植物等におけるInNAL1の発現を検出する工程を包含する。工程(i)において、使用される細胞等はエチレン非依存性花き植物のものが使用される。花弁の老化を遅延させる薬剤は、被験物質においてInNAL1の発現または活性を抑制する物質または因子から選択することができる。そのような物質または因子を、さらに、植物または植物細胞に導入して、花弁の老化を遅延させることができるかどうかを確認することができる。
【0121】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et
al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997「植物のPCR実験プロトコール」秀潤社(1997)、モデル植物の実験プロトコール秀潤社(1996)などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0122】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0123】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0124】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0125】
必要な場合、以下の実施例で用いる動物の取り扱いは、日本国政府、または独立行政法人農業食品産業技術総合研究機構において定める基準を遵守して行った。また、試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(SIGMA-ALDRICH,和光純薬、ナカライテクス、関東化学等)の同等品でも代用可能である。
【0126】
(実施例1:アサガオでのInNAL1を用いた花弁の老化の遅延実験)
(実験材料と方法)
植物材料および育成条件
植物はアサガオ‘紫’(Ipomoea nil cv. Violet)(九州大学より分譲)を用いた。種子を鉢に入れた園芸用培土(クレハ園芸培土、クレハ)に播種し、週に一度、1g/Lのハイポネックス15−30−15(ハイポネックスジャパン)を施肥した。植物体は、播種後1カ月間は植物培養用インキュベータ(気温24℃、相対湿度70%、16時間日長、PPFD 100μmol・m
-2・s
-1)(FLI-2000、東京理化器機)で育成し、その後、開花を誘導するために、日長を12時間に変更して育成した。明期の始まる時間を開花後0時間とした。開花後0時間では花弁はほぼ完全に開いている(Shibuya K, et al. 2011. Expression of autophagy−associated ATG8 genes during petal senescence in Japanese morning glory. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science 80: 89−95)。
【0127】
InNAL1の単離
シロイヌナズナORE1(At5g39610;別名NAC6、AtNAC2)の配列およびマイクロRNA164(miR164)の配列を用いて、アサガオESTデータベースにおいてBLAST検索を行った。これにより、ORE1と高い相同性を示し、かつ、miR164の認識配列を含むEST(contig005501)を選抜した。ESTの配列情報を基に、アサガオ‘紫’から抽出したRNAを用いてRT−PCRを行い、全長ORFを含むcDNAクローンを得た。RNAの抽出はTrizol reagents(Invitrogen)を用いて行い、cDNAの合成にはSuperScript III first−strand synthesis system for RT−PCR (Invitrogen)を用いた。PCRはInNAL1−F1(5’−TTTCTTTTTAACACCGCTCTTTTT−3’(配列番号4)とInNAL1−R1(5’−CAGAGCAATTAGTTTCCCAAGAA−3’(配列番号5))プライマーを用い、PrimeSTAR HS DNA polymerase(Takara bio)を用いて増幅した。得られたcDNAクローンをpGEM−T easy vector(Promega)にクローニングし、塩基配列を決定してInNAL1(InNAC−like 1)と命名した。InNAL1はORE1と推定アミノ酸配列で58%一致した。
【0128】
InNAL1発現抑制形質転換体の作出
InNAL1の発現を抑制した形質転換体はRNAi法を用いて作出した。370塩基対のInNAL1 cDNA断片(690−1059塩基)をpDONR201(Invitrogen)にクローニングし、その後、ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hyg)を持つ植物形質転換用ベクターpH7GWIWG(II)(Karimi M, et al. 2002. GATEWAY vectors for Agrobacterium−mediated plant transformation. Trends Plant Sci 7: 193−195.)に、LR ClonaseII Enzyme mix(Invitrogen)を用いて挿入した。得られた形質転換ベクターpH7−NAL1は、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流に、InNAL1のcDNA断片をアンチセンスおよびセンス方向に含み、その下流に35Sターミネーターを含む。pH7−NAL1は、アグロバクテリウムAGL0系統を用いてアサガオ‘紫’の未熟胚由来の培養細胞に導入した。具体的には、アサガオの未熟種子(開花後11−14日)を滅菌し、中から未熟胚を取り出して液体培養(N6培地+MSビタミン、3mg/L NAA、60g/Lショ糖)(和光純薬)した。形成されたカルスは1−2週間毎に新鮮な培地に継代培養して増殖させた。増殖したカルスをアグロバクテリウムの菌液に浸し、共存培地(MS培地、10g/Lショ糖、3.2g/Lゲランガム)(和光純薬)で3日間共存培養した。共存培養後、選抜培地にカルスを移殖し培養した。選抜培地の組成はMS培地に3mg/L NAA、60g/Lショ糖、3.2g/Lゲランガム、50mg/Lハイグロマイシン(和光純薬)、200mg/Lクラフォランまたは1〜2粒/Lのオーグメンチン250RS(グラクソ・スミスクライン)を含んでいる。選抜培地で生き残った胚様体は1ヶ月後に新鮮な同じ組成培地に移殖し、さらに1−3ヶ月間培養した。胚様体は1ヶ月毎に新鮮な培地に移殖した。胚様体をシュート形成培地に移しシュート形成を促した。シュート形成培地の組成はMS培地、2mg/L BAP、0.2mg/L IAAを、30g/Lショ糖、10g/L寒天、200mg/Lクラフォランまたは1g/Lのオーグメンチンを含んでいる。シュートは1/2 MS培地+MSビタミンと30g/Lショ糖を含む発根培地で約1ヶ月間発根させ、園芸培土に移植後馴化した。導入遺伝子の有無はHyg遺伝子のPCR増幅で確認した。
【0129】
定量的リアルタイムRT−PCRによる遺伝子発現の解析
RNAはTrizol reagents(Invitrogen)を用いて抽出し、Cloned DNase I(Takara bio)を処理した。cDNAの合成にはランダムヘキサマープライマーとPrimeScript RT Master Mix(Takara bio)を用い、PCRはSYBR Premix EX TaqII(Takara bio)とThermal Cycler Real Time System(Model TP600、Takara bio)を用いて行った。PCRに使用したInNAL1増幅用プライマーはInNAL1−q1F(5’−TTGTGTGATCATCAGTCCATCA−3’(配列番号6))と InNAL1−q1R(5’−CAGAGCAATTAGTTTCCCAAGAA−3’(配列番号7))である。また、内部コントロールとして、InACTIN4を用いた。InACTIN4増幅用のプライマーは InACTqF1(5’−AATTACTGCAATGGCCCCTA−3’(配列番号8))とInACTqR1(5’−CCACATCTGTTGGAATGTGC−3’(配列番号9))である。
【0130】
(結果)
図1に結果を示す。形質転換系体InNAL1rでは、野生型に比べて、InNAL1の発現が抑制されていることが確認された。
【0131】
(野生型とInNAL1r-1の花の老化の様子)
野生型アサガオと形質転換アサガオ(InNAL1r)の種子を鉢に入れた園芸用培土(クレハ園芸培土、クレハ)に播種し、週に一度、1g/Lのハイポネックス15−30−15(ハイポネックスジャパン)を施肥した。植物体は、播種後1カ月間は植物培養用インキュベータ(気温24℃、相対湿度70%、16時間日長、PPFD 100μmol・m
-2・s
-1)(FLI-2000、東京理化器機)で育成し、その後、開花を誘導するために、日長を12時間に変更して育成した。明期の始まる時間を開花後0時間とした。開花後0時間では花弁はほぼ完全に開いている(Shibuya K, et al. 2011. Expression of autophagy−associated ATG8 genes during petal senescence in Japanese morning glory. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science 80: 89−95)。
【0132】
(結果)
結果を
図2〜4に示す。
【0133】
図2は野生型とInNAL1r−1の花の老化の様子を示す。
図2では、それぞれ、上段に野生型を、下段に、InNAL1r−1植物体の花を開花から4時間おきに撮影したものを示す。InNAL1r−1植物体では、花弁の老化が顕著に遅延している(花持ちが伸びている)。InNAL1r−2と3植物体でも同様である。
【0134】
図3は、InNAL1r−1の開花後24時間の様子を示す。矢印は開花後24時間(2日目)の花、三角印は開花後0時間(1日目)の花を示す。野生型では、通常開花後14時間ほどで、花弁が萎れてしまう。これに対して、InNAL1r−1植物体では、花弁が24時間以上萎れずに咲いているため、図のように前日咲いた花と、当日咲いた花が同時に咲いている様子が観察される。InNAL1r−2と3植物体でも同様である。なお、花弁の色は、開花後時間が経つにつれ、青から赤色に変化する。
【0135】
図4は開花後24時間の野生型とInNAL1r植物体の花の様子を示す。野生型では完全に花弁が萎れているのに対し、InNAL1r系統では、3系統とも花弁はまだ萎れていない。
【0136】
開花時から花弁の萎れが開始するまでの時間(n≧8)を表1に示す。
(表1 InNAL1発現抑制体(InNAL1r)における花持ち期間)
【0137】
【表1】
【0138】
以上の結果から、−アサガオにおいてInNALlの発現を抑制した形質転換体(InNAL1r)を作出した1nNAL1r系統では花弁が萎れるまでの期間が2倍程度に延長したことがわかった。これらの結果は、InNAL1の発現抑制により、アサガオ花弁の老化を遅延することができることを示している。他のエチレン非依存性花きにおいても、InNAL1rオルソログを標的とした遺伝子組換えまたは阻害剤処理より、観賞期間を延長することができると推察される。
【0139】
(実施例2:ユリでの実施例)
ユリにおいてInNAL1のオルソログを単離する。単離はユリESTデータベースにおけるBLAST解析、または、InNAL1の保存された配列に設定したプライマーを用いたRT−PCRで行うことができる。得られた配列を用いて、RNAiを誘導する形質転換ベクターを作製する。形質転換ベクターはアサガオの場合と同様に作製することができる。形質転換ベクターをユリに導入し、形質転換ユリを作出する。ユリの形質転換方法に関しては、以下の文献を参考に実施できる。田中正美、パーティグルガンによるユリ属の形質転換、熊本県農業研究センター研究報告12: 41−48, 2003;Kohei Irifune, et al., Production of Herbicide Resistant Transgenic Lily Plants by Particle BombardmentJournal of the Japanese Society for Horticultural Science 72, 511−516, 2003。
【0140】
(実施例3:阻害剤のスクリーニング)
InNAL1タンパク質と相互作用するタンパク質あるいは遺伝子配列を単離し、InNAL1タンパク質との相互作用を試験管内(96穴プレート)でモニタリングできる系を開発する。具体的には、蛍光タンパク質等のレポーターを用いて、化合物による相互作用の阻害の程度を測定する。実施に当たっては、がん研究における分子標的治療薬の探索手法を参考にできる。開発したモニタリング系を用いて、化合物ライブラリーを用いたケミカルスクリーニングを行い、InNAL1タンパク質の活性を阻害する薬剤を見出す。
【0141】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。