【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
〔実施例1〕ビスピリバックナトリウム塩に耐性を示すコシヒカリ/カサラスの戻し交雑系統SL202の選抜
コシヒカリ/カサラスの戻し交雑によって作成した39系統のコシヒカリ/カサラス染色体断片置換系統群(Chromosome segment substitution lines、CSSL、(独)農業生物資源研究所イネゲノムリソースセンター分譲、Ebitaniら, Breed. Sci., 55, 65-73(2005))を用いて、ビスピリバックナトリウム塩(BS)感受性試験を行った。BS感受性はBS 1μMを含むゲランガム培地での生育試験で調べた。
【0076】
ホグラントmix 1.6g(Sigma-Aldrich社)とゲルライト3g(和光化学)を1Lの蒸留水に懸濁させた後、電子レンジで加温溶解し、50〜60℃に温度を下げてからBSを終濃度1μMで添加した。これを30mL容の管ビンに15mL分注し、ゲランガム培地を作製した。CSSLのイネもみを0.5%次亜塩素酸ナトリウム中で20分間ほど浸した後、よく水洗いした。これを蒸留水中に浸し、27℃で3〜5日間ほど静置して催芽させた。催芽種子を芽の方を上にしてゲランガム培地中に軽く埋め込んだ。これと蒸留水を入れたビーカーと一緒に透明なケースに入れ、ラップで蓋をした。27℃、蛍光灯照明下 (明期14時間、暗期10時間) で7〜9日間生育させた。使用した39系統の種子の内、コシヒカリ1番染色体の一部分がカサラス1番染色体の当該部分と置換した系統SL201とSL202がBSに対してカサラスと同等の抵抗性を示した(
図1)。
【0077】
〔実施例2〕SL202とコシヒカリとの戻し交雑によって得られたF2個体からのBS耐性個体の選抜とビスピリバックナトリウム塩耐性チトクロームP450遺伝子のデータマイニング
系統SL201とSL202がビスピリバックナトリウム塩耐性であったが、以下の実験では系統SL202を用いて行った。SL202とコシヒカリで戻し交雑を行い、得られた190系統のF2個体のBS感受性試験を実施例1に記載したゲランガムを用いたBS感受性検定の方法で行った。
【0078】
その結果、供試した190個体中、138個体がBS耐性を示したので、BS抵抗性に関わる遺伝子は1遺伝子座に座上しており、優性遺伝することがわかった。引き続き、BS耐性を示した80個体を用いて1番染色体上のマーカー部分(R2635、C122、R2417、C86)の遺伝子型がコシヒカリ型かカサラス型かを調べた結果、R2635ではカサラス型ホモかカサラス型とコシヒカリ型のヘテロであったのに対して、マーカーC122、R2417、C86ではコシヒカリ型ホモ、カサラス型ホモ及びカサラス型とコシヒカリ型のヘテロであった。系統SL202のマーカー、C161からC178の領域はコシヒカリ型でその他の領域はカサラス型かカサラス型とコシヒカリ型が混在する領域であるので、BS耐性遺伝子が系統SL202の1番染色体上のマーカーC178とC122間の遺伝子領域に存在すると考えられた。更に、C178とC122間の遺伝子領域がカサラス型とコシヒカリ型のヘテロ遺伝子型であると考えられた個体を自殖して得られた次世代(F3世代)の個体を用いて、BS感受性試験を実施例1に記載したゲランガムを用いたBS感受性検定の方法で行った。供試した925個体中、418個体がBS抵抗性を示した。このうち、BS耐性を示した258個体を用いて1番染色体上のマーカー部分 (RM7075、C178、RM5638、RM9、41834-50、R2635、RM2574、RM7266、RM1180、RM5919、RM3642、RM1349-1、RM3143、C122)の遺伝子型がコシヒカリ型かカサラス型かを調べた。その結果、マーカーRM9と41834-50ではカサラス型ホモかカサラス型とコシヒカリ型のヘテロのみが存在し、コシヒカリ型ホモの個体がなかったことから、原因遺伝子が1番染色体上のマーカーRM9〜41834-50間の約372kbに存在すると考えられた(
図2)。日本晴の公開ゲノム情報 (The Rice Annotaion Project Database(RAP-BD)、http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)からこの領域には3つのP450遺伝子(Os01g0602200、Os01g0602400、Os01g0602500)が座上していることがわかった(
図3)。
【0079】
これら3つの遺伝子は、P450のアノテーション情報(Cytochrome P450 ホームページ、http://drnelson.uthsc.edu/rice.html)から、CYP72A31(偽遺伝子)、CYP72A32、CYP72A33であった。日本晴、カサラスについて、これらの遺伝子の比較解析を行ったところ、カサラスにおけるCYP72A31遺伝子は、開始コドンから終止コドンまで全ORFが存在し、機能的であると推定されたのに対し、日本晴では、CYP72A31遺伝子の第1、第2エキソンを含む約3.2kbが欠失し、偽遺伝子であることが分かった(
図4)。なお、CYP72A32及びCYP72A33は、日本晴、カサラスとも機能的な遺伝子をコードしていた。以上の結果から、CYP72A31遺伝子がBS耐性に関与している可能性が強く示唆された。
【0080】
〔実施例3〕CYP72A31、72A32、72A33遺伝子発現解析
日本晴(NB)及びカサラス(Kas)の脱穎種子を滅菌後、MSHF培地(Toki et al., Plant J., 47, 969 (2006))に置床し、30℃、恒常明条件下で栽培した。7日目に茎葉部 (seedling) と根(root)をサンプリングし、液体窒素で急速凍結後、-80℃で保存した。また、日本晴(NB)及びカサラス(Kas)の脱穎種子を滅菌後、N6D培地(Toki et al., Plant J., 47, 969 (2006))に置床し、33℃明条件下10時間/30℃暗条件下14時間で培養した。培養7日目または21日目にカルス[7日目 (primary callus) 、播種後21日目 (secondary callus) ]をサンプリングし、液体窒素で急速凍結後、-80℃で保存した。これらを用いてCYP72A31、CYP72A32、CYP72A33遺伝子の発現解析を行った
各サンプルからRNeasy Plant mini kit (QIAGEN社, Piscataway, NJ, USA)を用いて全RNAを抽出した。cDNAは逆転写酵素ReverTra Ace (東洋紡社, Osaka, Japan)を用いて増幅した。全RNA1μg、10pmol/μL Oligo(dT)20 primer(Kit添付) 2μL、5×RT Buffer(ReverTra Ace添付) 4μL、dNTP mixture(各10mM、Kit添付) 1μL、10U/μL RNase Inhibitor(Kit添付) 1μL、ReverTra Ace(Kit添付) 1μLを含む20μLの反応液を作製し、42℃で20分間逆転写反応を行った後、99℃で5分間加熱し反応を停止した。これらは4℃で保存した。
【0081】
反応後のcDNA溶液を10倍希釈したものをリアルタイムPCRに使用した。リアルタイムPCRについてはPower SYBR Green PCR Master Mix (LIFE TECHNOLOGY社, Foster City, CA, USA)を用いて反応液を調製し、ABI7300 Real-Time PCR (Applied Biosystems社)を用いて転写産物の定量を行った。cDNA溶液 5μL、1μM primer 各1μL、Power SYBR Green PCR Master Mix 10μLを含む20μLの反応液を作製し、95℃で10分間で加熱後、95℃、15秒と60℃、1分の反応を40サイクル繰り返した。各遺伝子の転写産物量は、OsActin1遺伝子の発現量で補正した。CYP72A31遺伝子を増幅する際、フォワードプライマーとして5'-GAAGAACAAACCTGACTACGAAGGCT-3'(配列番号3)、リバースプライマーとして5'-CTCCATCTCTTTGTATGTTTTCCGACCAAT-3'(配列番号4)を使用した。CYP72A32遺伝子を増幅する際、フォワードプライマーとして5'-AGGACTATTTGGGAAGAACAAACCTGAG-3'(配列番号5)で、リバースプライマーとして5'-TTCATCTCCTTGTATGTTCTCCGCTTAAG-3'(配列番号6)を使用した。CYP72A33遺伝子を増幅する際、フォワードプライマーとして5'-GGAAGAATAAACCAGACTATGATGGCC-3'(配列番号7)、リバースプライマーとして5'-CTCCATCTCCTTGTATGTTTTTCGAGTAAG-3'(配列番号8)を使用した。また、OsActin1遺伝子を増幅する際、フォワードプライマーとして5'-AGGCCAATCGTGAGAAGATGACCCA-3'(配列番号9)、リバースプライマーとして5'-GTGTGGCTGACACCATCACCAGAG-3'(配列番号10)を使用した。
【0082】
結果を
図5A〜
図5Cに示した。
図5A〜
図5Cに示すように、日本晴では、CYP72A31遺伝子は偽遺伝子であるので遺伝子発現は確認されなかった。また、
図5A〜
図5Cに示すように、カサラスのカルスにおいては、CYP72A31遺伝子の発現量が低かった。これは、これは、カサラスのカルスはBS耐性を示さない事象と一致している(後述の
図8参照)。また、CYP72A31遺伝子は茎葉部よりも根部での発現が多いことがわかった。
【0083】
一方、CYP72A32遺伝子は日本晴の茎葉部で特に高い発現パターンを示した。CYP72A33遺伝子は日本晴およびカサラスで発現パターンに大きな差は見られなかった。
【0084】
〔実施例4〕HptII::35Spro::カサラス CYP72A31::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A31)、HptII::35Spro:: カサラスCYP72A32::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A32)、HptII::35Spro:: カサラスCYP72A33::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A33)、HptII::35Spro::日本晴 CYP72A32::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-nbCYP72A32)、HptII::35Spro::日本晴 CYP72A33::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-nbCYP72A33)、HptII::35Spro::sGFP::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-sGFP及びpCAMBIA1302-sGFP)、OsALS(W548L/S627I)::OsAct-1pro::sGFP::Tnosベクタープラスミド(pSTARA-sGFP)のAgrobacterium tumefaciens EHA105株への導入
上述の8種類のベクタープラスミド(50ng、
図6)を氷上で溶解した40μlのエレクトロポレーション用アグロバクテリウムコンピテントセル(EHA105株)に加え、穏やかに混和した。コンピテントセル混合液を、氷冷したキュベットに移し、Gene Pulser Xcell(Bio Rad社)を用いて25μF, 2.4kV, 200Ωの条件でエレクトロポレーションを行なった。その後、速やかに1mlのYM液体培地(培地1L中に0.4g yeast extract(DIFCO社製), 10g mannitol, 0.1g NaCl, 0.1g MgSO4, 0.5g K2HPO4-3H2Oを含む。pHは7.0に調整した。)をキュベットに加え混合した後、全量を1.5mlエッペンチューブに移して、27℃、250rpmで3時間震盪培養を行った。培養終了後、YM寒天培地(12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール、50ppm カナマイシン含有(pSTARA-sGFP以外のベクタープラスミド)もしくは12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール、50ppm スペクチノマイシンに50μl程を塗布し、27℃で2-3日間培養した。コロニーをYM液体培地(12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール、50ppm カナマイシン含有(pSTARA-sGFP以外のベクタープラスミド)もしくは12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール、50ppm スペクチノマイシンに接種し、27℃で2-3日間震盪培養した。グリセロールストックを作製後-85℃で保存した。
【0085】
〔実施例5〕形質転換イネの作出
次亜塩素酸ナトリウムで滅菌したイネ(Oryza sativa, cv. Nipponbareもしくは Oryza sativa, cv. Kasarath)の種子を用いてアグロバクテリウム菌による形質転換を行った(Toki et al., Plant J., 47, 969 (2006))。
【0086】
<アグロバクテリウムの前培養>
形質転換を行う3日前に、実施例4で調製したアグロバクテリウム菌 (Agrobacterium tumefaciens EHA105株)をAB固形培地(12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール、50ppm カナマイシン含有(pSTARA-sGFP以外のベクタープラスミド)もしくは12.5ppm リファンピシン、25ppm クロラムフェニコール、50ppm スペクチノマイシン)に塗布し、24℃、暗黒条件下で3日間培養した。
【0087】
<アグロバクテリウム菌の感染と共存培養>
50mlファルコンチューブにAAM培地を40ml入れ、アセトシリンゴンを40mg/lとなるように加えた。前培養したアグロバクテリウムを200μlチップの先で少量かき取り、前述のAAM培地中に溶かし、暗黒条件下で30分間振とうした。N6D培地で5日間培養した胚盤由来カルスからシュートと胚乳部分を除去し、アグロバクテリウム菌を入れたAAM培地に入れ、1.5分間振とうした。AAM培地の上澄みをビーカーに空け、イネ種子に残った余分なAAM培地を滅菌したキムタオル(商品名:株式会社クレシア製)で除去した。2N6-AS培地(40mg/lアセトシリンゴン添加)にカルスを置いて24℃、暗黒条件下で3日間共存培養した。
【0088】
<アグロバクテリウムの除去と選抜>
共存培養したカルスを50mlファルコンチューブに移し、500mg/l カルベニシリンを含む滅菌水で7-8回洗浄し、余分な洗液を駒込ピペット等でできるだけ除去した。洗浄後、水が透きとおってきた時点で滅菌水中に10分間静置した。滅菌水500mlで10回程洗浄し、カルスを滅菌済キムワイプに乗せ余分な水分を除去した。カルスをN6D(50ppm ハイグロマイシン(pSTARA-sGFPベクター以外)もしくは0.25μM ビスピリバックナトリウム塩(pSTARA-sGFPベクター)、400mg/l カルベニシリン)培地に移植し、34℃、明所で二週間培養後、継代し、更に二週間培養した。
【0089】
<形質転換体の再分化>
選抜培養後、カルスをイネ再分化培地RE-III(50ppm ハイグロマイシンもしくは0.25μM ビスピリバックナトリウム塩含有)へと移植し27℃、16L/8Dで培養し、再分化を誘導した。2週間後に継代を行い、更に約2〜3週間で再分化した形質転換イネ(T0)が得られた。シュート、根が分化してきたらホルモンフリー(HF)培地(50ppm ハイグロマイシンもしくは0.25μM ビスピリバックナトリウム塩含有)へと移植した。各培地組成は表1に示した。
【0090】
【表1】
【0091】
<形質転換体の栽培及びT1種子の採種>
ホルモンフリー(HF)培地で十分発根した個体を直径8cmのビニールポットに移植して閉鎖系温室(25-30℃、16L/8D)で育成し、T1種子を採種した。
【0092】
〔実施例6〕HptII::35Spro::カサラス CYP72A31::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A31)及びHptII::35Spro::sGFP::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-sGFP)で形質転換したイネカルス(日本晴、カサラス)のBS含有培地でのカルスの増殖試験
実施例5に従ってHptII::35Spro::カサラス CYP72A31::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A31、kasCYP72A31過剰発現コンストラクト)及び対照としてHptII::35Spro::sGFP::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-sGFP、sGFP過剰発現コンストラクト)をアグロバクテリウム法によってイネ (品種:日本晴及びカサラス) に導入した。50ppm ハイグロマイシンで選抜した形質転換カルスを単離し、ビスピリバックナトリウム塩(BS)を含む培地に移植しカルスの増殖を調べた。
【0093】
日本晴およびカサラスのカルスにGFP過剰発現コンストラクトを導入した場合、いずれの系統においても0.25, 0.5, 0.75 μMのBSを含む培地に置床することで、その生育が阻害された(
図7)。一方、日本晴及びカサラスのカルスにCYP72A31過剰発現コンストラクトを導入し、同様に0.25, 0.5, 0.75 μMのBSを含む培地に置床した場合には、日本晴およびカサラス共にBSを含まない培地に置床したカルスと同様に増殖したカルスが確認できた(
図8:日本晴、
図9:カサラス)。また
図7で非組換えカサラスのカルスがBS耐性を示さないのは、カサラスカルス中のCYP72A31遺伝子の発現量が少ないことに起因する(
図5A〜
図5C参照)。
【0094】
〔実施例7〕HptII::35Spro:: カサラスCYP72A32::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A32)、HptII::35Spro:: カサラスCYP72A33::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A33)、HptII::35Spro::日本晴 CYP72A32::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-nbCYP72A32)、HptII::35Spro::日本晴 CYP72A33::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-nbCYP72A33)で形質転換したイネカルス(日本晴、カサラス)のBS含有培地でのカルスの増殖試験
実施例5に従ってHptII::35Spro:: カサラスCYP72A32::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A32、kasCYP72A32過剰発現コンストラクト)、HptII::35Spro:: カサラスCYP72A33::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A33、kasCYP72A33過剰発現コンストラクト)、HptII::35Spro::日本晴 CYP72A32::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-nbCYP72A32、nbCYP72A32過剰発現コンストラクト)、HptII::35Spro::日本晴 CYP72A33::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-nbCYP72A33 nbCYP72A33過剰発現コンストラクト)をアグロバクテリウム法によってイネ (品種:日本晴) に導入した。50ppm ハイグロマイシンで選抜した形質転換カルスを単離し、ビスピリバックナトリウム塩(BS)を含む培地に移植しカルスの増殖を調べた。
【0095】
日本晴由来のCYP72A32を過剰発現させた結果、カサラス由来のCYP72A32を過剰発現させた結果をそれぞれ
図10(a)及び(b)に示す。また、日本晴由来のCYP72A33を過剰発現させた結果、カサラス由来のCYP72A33を過剰発現させた結果をそれぞれ
図11(a)及び(b)に示す。
図10及び11に示すように、カサラス由来及び日本晴由来のCYP72A32及びCYP72A33のいずれを過剰発現させても、日本晴カルスはBS含有の培地で増殖しなかった。
【0096】
〔実施例8〕カサラス由来CYP72A31遺伝子形質転換イネカルスのBS含有再分化培地上での再分化試験
実施例5に従ってHptII::35Spro::カサラス CYP72A31::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A31、kasCYP72A31過剰発現コンストラクト)及び対照としてHptII::35Spro::sGFP::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1302-sGFP、sGFP過剰発現コンストラクト)及びOsALS(W548L/S627I)::OsAct-1pro::sGFP::Tnosベクタープラスミド(pSTARA-sGFP 、BS耐性コンストラクト)をアグロバクテリウム法によってイネ(品種:日本晴)に導入した。
図12のA)に示したスケジュールに従って、50ppmのハイグロマイシンで形質転換したカルスを選抜した。pCAMBIA1390-KasCYP72A31コンストラクトでの形質転換効率は85% (83/98カルス)であった。このうち43カルスを0.25μMのBSを含む再分化培地に移植した結果、91% (39/43カルス)の再分化効率でカルスからシュートと根が分化した (
図13)。引き続いて、0.25 μMのBSを含むホルモンフリー培地へ移植した結果、根部伸長する個体は再分化個体の73% (16/22再分化個体)であった(
図14)。一方、BS耐性マーカーを持たないpCAMBIA1302-sGFPで形質転換したカルスは0.25 μMのBSを含む再分化培地上では再分化個体が確認できず、KLB-279 (pSTARAベクター) はカルスからシュートと根が分化し、再分化個体が確認できた(
図13)。
【0097】
〔実施例9〕カサラス由来CYP72A31遺伝子形質転換イネ再分化個体のBS含有ホルモンフリー培地上での発根試験
実験例8でpCAMBIA1390-KasCYP72A31コンストラクトで形質転換されたイネ(日本晴)カルスが 50ppm ハイグロマイシン選抜により得られた。これらを50 ppmのハイグロマイシンを含む再分化培地に移植した場合、95% (38/40カルス) の再分化効率でカルスからシュートと根が分化した。引き続き、pCAMBIA1390-KasCYP72A31コンストラクトの再分化個体25個体を1 μMのBSを含むホルモンフリー培地へ移植した結果、7個体が根部伸長した(28%の根部伸長率、
図15)。一方、対照としてpCAMBIA1302-sGFPコンストラクトで形質転換された再分化個体は1μMのBSを含むホルモンフリー培地で全く根の発根が見られず、植物体は枯死した。
【0098】
実施例8と実施例9から、カサラスCYP72A31遺伝子を用いて、イネ2点変異型ALS (W548L/S627I) 遺伝子と同様に0.25μMのBSを含む再分化培地で再分化個体を選抜でき、0.25、1μMのBSを含むホルモンフリー培地で根部が伸長することが明らかとなった。さらに1μMのBSを含むホルモンフリー培地を用いることで導入遺伝子のエスケープを防ぐことができることが明らかとなった。
【0099】
〔実施例10〕形質転換シロイヌナズナの作出
本実施例では、実施例4で作出したアグロバクテリウムを利用して、HptII::35Spro::カサラスCYP72A31::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A31)、HptII::35Spro::カサラスCYP72A32::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A32)、HptII::35Spro::カサラスCYP72A33::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A33)をfloral-dip法によってシロイヌナズナ(エコタイプ:Col-0)に導入した。floral-dip法は定法に従った。得られたT2種子を20ppmハイグロマイシンを含む培地上で栽培し、ハイグロマイシンに対して感受性を示した個体の割合を調べた。播種したすべての個体でハイグロマイシン耐性を示した系統をT-DNAがホモで固定されていると考えられる系統と考え、pCAMBIA1390-KasCYP72A31の固定系統としてK31-4-2、K31-6-5、pCAMBIA1390-KasCYP72A32の固定系統としてK32-1-1、K32-3-1、K32-5-1、pCAMBIA1390-KasCYP72A33の固定系統としてK33-1-3、K33-2-4を選抜した。これらの種子を各濃度のBSを含む培地に播種し、10日間栽培した。結果を
図16A及び
図16Bに示す。
【0100】
図16A及び
図16Bから判るように、カサラス由来のCYP72A31を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナ系統では、非形質転換シロイヌナズナ(NT)の生育に障害がみられる高濃度のBS条件下においても、BSを処理しない条件と同様に生育することが示された。一方、カサラス由来のCYP72A32及びCYP72A33のいずれを過剰発現させた形質転換シロイヌナズナ系統では、このようなBS感受性の低下は認められなかった。
【0101】
次に、非形質転換シロイヌナズナ(NT(
図17中A〜C中「Col-0」))及び形質転換個体(K31-4-2(
図17中A〜C中「K31oe-4-2」)、K31-6-5(
図17中A〜C中「K31oe-6-5」))について、各系統15粒の種子を各濃度のBSを含む培地上で栽培した。栽培開始から10日目に(a)発芽した個体(種子からの発根がみられた個体)の割合、(b)本葉が展開した個体の割合、(c)地上部の新鮮重(15個体の総和)を調べた。これら(a)〜(c)の測定結果をそれぞれ
図17A〜Cに示す。なお、
図17A〜Cに示すグラフは、3反復の平均±SE(n=3)を示している。
図17A〜Cに示すように、(a)〜(c)いずれの指標においても、K31-4-2、K31-6-5では、NTと比較して有意にBS感受性が低下することが示された。
【0102】
次に、非形質転換シロイヌナズナ(NT(
図18中A〜C中「Col-0」))及び形質転換個体(K32-1-1(
図18中A〜C中「K32oe-1-1」)、K32-3-1(
図18中A〜C中「K32oe-3-1」)、K32-5-1(
図18中A〜C中「K32oe-5-1」))について、各系統15粒の種子を各濃度のBSを含む培地上で栽培した。栽培開始から10日目に(a)発芽した個体(種子からの発根がみられた個体)の割合、(b)本葉が展開した個体の割合、(c)地上部の新鮮重(15個体の総和)を調べた。これら(a)〜(c)の測定結果をそれぞれ
図18A〜Cに示す。なお、
図18A〜Cに示すグラフは、グラフは3反復の平均±SE(n=3)を示している。
図18A〜Cに示すように、いずれの指標においても、K32-1-1、K32-3-1、K32-5-1では、NTと同程度のBS感受性を示すことが明らかとなった。
【0103】
次に、非形質転換シロイヌナズナ(NT(
図19中A〜C中「Col-0」))及び形質転換個体(K33-1-3(
図18中A〜C中「K33oe-1-3」)、K33-2-4(
図18中A〜C中「K33oe-2-4」))について、各系統15粒の種子を各濃度のBSを含む培地上で栽培した。栽培開始から10日目に(a)発芽した個体(種子からの発根がみられた個体)の割合、(b)本葉が展開した個体の割合、(c)地上部の新鮮重(15個体の総和)を調べた。これら(a)〜(c)の測定結果をそれぞれ
図19A〜Cに示す。なお、
図19A〜Cに示すグラフは、グラフは3反復の平均±SE(n=3)を示している。
図19A〜Cに示すように、いずれの指標においても、K33-1-3、K33-2-4では、NTと同程度のBS感受性を示すことが明らかとなった。
【0104】
〔実施例11〕 カサラス由来CYP72A31過剰発現コンストラクトを導入したシロイヌナズナ又はイネを用いた薬剤感受性試験
カサラス由来CYP72A31遺伝子がBS以外の薬剤に対しても耐性を示すかどうかを調べるため、実施例10に従って作出したHptII::35Spro::カサラスCYP72A31::Tnosベクタープラスミド(pCAMBIA1390-KasCYP72A31)で形質転換したシロイヌナズナのホモ系統(K31-4-2)又は実施例5で作出したイネの後代のホモ系統(T3)(K31-4-6-2)を用いて薬剤感受性を調べた。
【0105】
<形質転換シロイヌナズナを用いた薬剤感受性試験>
ムラシゲ・スクーグ(MS)培地用混合塩類(和光純薬工業株式会社製)を1袋、スクロースを20g、チアミン塩酸塩を3mg、ニコチン酸を5mg、ピリドキシン塩酸塩を0.5mgを蒸留水に溶解させ、蒸留水でメスアップし1Lとした。1MのKOHでpHを5.8〜6.3に調製した後、3gのゲルライトを加え、電子レンジでゲルライトを溶解させた。その後、オートクレーブし、無菌MS培地を調製した。この無菌MS培地に供試薬剤を終濃度1.3、4.1、12、37、110又は330nMとなるように添加した。種子滅菌したシロイヌナズナを薬剤含有MS培地に播種し、22℃、連続明期で12〜14日間栽培した。
【0106】
なお、本実施例では、薬剤としてビスピリバックナトリウム塩(bispyribac-sodium)、ピリチオバックナトリウム塩(pyrithiobac-sodium)、ピリミノバック(pyriminobac)、ベンスルフロンメチル(bensulfuron-methyl)、ペノキススラム(penoxsulam)、ピラゾスルフロンエチル(pyrazosulfuron-ethyl)、アミドスルフロン(amidosulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)及びプロピリスルフロン(propyrisulfuron)を使用した。
【0107】
薬剤としてビスピリバックナトリウム塩(bispyribac-sodium)及びピリチオバックナトリウム塩(pyrithiobac-sodium)を使用して12日間栽培した結果を表2及び
図20に示した。
【0108】
【表2】
なお、表2に示した「感受性比」とは、[K31-4-2で本葉展開率40%以上を示した最高薬剤濃度]/[NTで本葉展開率40%以上を示した最高薬剤濃度]で計算した値である。
【0109】
また、薬剤としてビスピリバックナトリウム塩(bispyribac-sodium)、ピリミノバック(pyriminobac)、ベンスルフロンメチル(bensulfuron-methyl)、ペノキススラム(penoxsulam)、ピラゾスルフロンエチル(pyrazosulfuron-ethyl)、アミドスルフロン(amidosulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)及びプロピリスルフロン(propyrisulfuron)を使用して14日間栽培した結果を表3及び
図21〜24に示した。
【0110】
【表3】
なお、表3に示した「感受性比」とは、[K31-4-2で本葉展開率80%以上を示した最高薬剤濃度]/[NTで本葉展開率80%以上を示した最高薬剤濃度]で計算した値である。
【0111】
表2及び3並びに
図20〜24から判るように、カサラス由来CYP72A31遺伝子を過剰発現するように導入したシロイヌナズナのホモ系統(K31-4-2)は、ビスピリバックナトリウム塩 (bispyribac-sodium)、ピリチオバックナトリウム塩(pyrithiobac-sodium)、ピリミノバック(pyriminobac)、ベンスルフロンメチル(bensulfuron-methyl)、ペノキススラム(penoxsulam)、ピラゾスルフロンエチル(pyrazosulfuron-ethyl)、アミドスルフロン(amidosulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、プロピリスルフロン(propyrisulfuron)に対して耐性を示した。
【0112】
<形質転換イネを用いた薬剤感受性試験>
また、実施例1の方法に従い、供試薬剤濃度0.01、0.1、1又は10μM含有のゲランガム培地を作成し、イネ種子を滅菌・催芽・播種し、栽培した。その結果を表4及び
図25に示した。
【0113】
【表4】
なお、表4に示した「感受性比」とは、[K31-4-6-2でCK比40%以上を示した最高薬剤濃度]/[野生型イネでCK比40%以上を示した最高薬剤濃度]で計算した値である。
【0114】
表4及び
図25から判るように、カサラス由来CYP72A31遺伝子を過剰発現する形質転換イネは、ビスピリバックナトリウム塩(bispyribac-sodium)及びピノキサデン(pinoxaden)に対して耐性を示した
以上の結果より、CYP72A31遺伝子がBS以外の生育阻害物質に対しても耐性を示すことが明らかとなった。
【0115】
〔実施例12〕pCAMBIA1390-KasCYP72A31を導入したイネカルスのBSによる形質転換体の選抜
BSを選抜試薬として、カサラス由来CYP72A31遺伝子を形質転換の選抜マーカーとして利用できるかどうかを、pCAMBIA1390-KasCYP72A31で形質転換したイネを用いてで調べた。実施例5に従い、pCAMBIA1390-KasCYP72A31或いはpSTARA-sGFPを用いてアグロバクテリウム法でそれぞれイネ(日本晴)の形質転換を行った。
【0116】
<N6D培地での薬剤耐性カルスの選抜>
pCAMBIA1390-KasCYP72A31で形質転換したイネ(日本晴)カルスを0.1又は0.25μMのBS含有のN6D培地或いは50ppmのハイグロマイシン含有N6D培地で4週間培養し、薬剤耐性カルスの選抜を行った。また、pSTARA-sGFPで形質転換したイネカルスを0.25μMのBS含有N6D培地で同様に選抜を行った。
【0117】
結果を
図26に示す。その結果、pCAMBIA1390-KasCYP72A31で形質転換したイネカルスをBS濃度0.1又は0.25μM含有N6D培地で培養した場合の選抜効率(得られた形質転換カルス/全カルスの割合)はそれぞれ71%、61%であった。同じ形質転換カルスを50ppmハイグロマイシン含有N6D培地で培養した場合の選抜効率は79%で、BSを選抜試薬とした場合とほぼ同等の選抜効率であった。なお、pSTARA-sGFPで形質転換したイネカルスのBS選抜の選抜効率は82%であった。
【0118】
<形質転換体の再分化>
次に、pCAMBIA1390-KasCYP72A31で形質転換し、0.1μMのBS含有N6D培地で選抜したカルスを、0.25μMのBS含有のイネ再分化培地RE-IIIで13日間培養を行い、その後、薬剤無添加の再分化培地RE-IIIで14日間培養を行った。
【0119】
その結果、
図27に示すように、再分化個体が得られた。
【0120】
以上の結果より、BSを選抜試薬として、CYP72A31遺伝子を形質転換マーカーとして利用できることが明らかとなった。
【0121】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。