特許第6045927号(P6045927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045927
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】めっき液及びめっき材
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20161206BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C25D15/02 J
   C25D15/02 G
   C25D15/02 E
   C25D15/02 F
   H01R13/03 D
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-16171(P2013-16171)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-145127(P2014-145127A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】繪面 健
(72)【発明者】
【氏名】小林 良聡
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−052116(JP,A)
【文献】 特表2008−544077(JP,A)
【文献】 特開2008−050668(JP,A)
【文献】 特開2004−018909(JP,A)
【文献】 特開平09−020996(JP,A)
【文献】 特開2012−036436(JP,A)
【文献】 特開2008−088498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D9/00−21/22
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分を含有する粒子及びめっき金属源を有するめっき液であって、
前記pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分が、W、Mo、Ti、Te、Snからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、該金属成分は金属として前記めっき液中に1mg/L以上10g/L以下含まれ、
前記粒子は、金属単体、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種類以上であり、該粒子のうち粒径が15nm以下の粒子が60体積%以上であり
前記めっき金属源は、銅、ニッケル、コバルト、鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するめっき液。
【請求項2】
金属又は合金中にpH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分を含有する介在粒子を有するめっき層を備えためっき材であって、
前記pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分が、W、Mo、Ti、Te、Snからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、該金属成分を金属として前記めっき層中に10ppm以上含み、
前記介在粒子は、金属単体、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種類以上であり、該介在粒子の平均粒径が0.5nm以上20nm以下であり、
前記金属又は合金は、銅、ニッケル、コバルト、鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するめっき材。
【請求項3】
前記めっき層が、導電性基体上に形成されている請求項2に記載のめっき材。
【請求項4】
前記めっき層上に、錫、銀、金、白金、パラジウム、ロジウムまたはこれらの元素を含む合金からなる最表層が形成されている請求項に記載のめっき材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液及びめっき材に関するものである。更に詳しくは、高強度かつ耐熱性に優れためっき材に関する。
【背景技術】
【0002】
電気接点部品には、電気伝導性に優れた銅又は銅合金が利用されてきたが、近年、接点特性の向上が求められるのに伴い、銅又は銅合金上に各種表面処理を行った導電材が製造・利用されつつある。特に、電気接点材として、電気接点部が貴金属めっきであるものが多く利用されている。貴金属の中でも、金、銀、パラジウム、白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウムなどは、優れた電気伝導率及び安定性等を有することから、各種電気接点材料に利用されている。
【0003】
最近では、自動車ハーネス用のコネクター端子や携帯電話搭載のコンタクトスイッチ、あるいはメモリーカードやPCカードの端子などの繰返しの挿抜や摺動を伴う用途における電気接点材において、耐摩耗性に優れるといわれる電気接点材料が利用されている。耐摩耗性の向上に関して、汎用的には硬質銀や硬質金を使用した接点材料などが用いられる。更には、マイクロ粒子を分散させためっきやクラッド材料なども開発されており、電気接点材の摺動特性においてさまざまな表面処理材料が開発されている。
例えば、下記の特許文献1では、硬さと表面粗さを特定した銅素材にニッケル下地めっき、パラジウム中間めっき、金上地めっきを施すことにより、耐摩耗性及び耐食性の向上を図っており、母材のビッカース硬さを230以下、表面を粗度(Rz)を45μm以下に調整し、かつめっき構成を3.0μmの下半光沢または無光沢ニッケル下地めっき、1.5μm以下の光沢パラジウムまたは光沢パラジウム−ニッケル合金中間めっき、0.1〜0.5μmの金または金合金めっき、としたものがある。
【0004】
特に貴金属を主として使用する電気接点材料の分野においては、近年の省資源化によるニーズの高まりを受けて、省貴金属化の傾向が強いが、従来の被覆厚を薄くすると摺動特性が低下してしまうという問題があった。これに関し、本発明者は、例えば特許文献2において、貴金属層を複数層形成し、かつ下層の表面粗度を規定することで、上層の省貴金属化を達成し、耐磨耗性を改善するという技術を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−191084号公報
【特許文献2】特開2007−280945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の硬質銀あるいは硬質金処理した電気接点材では、摺動箇所に用いられた貴金属(硬質銀又は硬質金)がすぐに消耗し、基体表面が露出することにより摺動接点の導通不良をしばしば起こすことがあった。これに対して、当該貴金属の厚みを厚くして耐摺動性を向上するような手法も取られているが、高価な貴金属を大量に使用するため、製造コストが高くなってしまうという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載のめっき材では、基体上に形成されためっき膜の最表層の粗度が規定されているが、摺動接点材では最表面はすぐに消失してしまうため、最表面の粗度規定による摺動接点材の特性向上は十分ではないと考えられる。また、クラッド手法で形成される貴金属層を有した摺動接点材も存在するが、クラッド手法ではμm単位やnm単位の薄膜化が困難であることから、貴金属の使用量が多く、かつ製造コストが高くなるという問題がある。
【0008】
また、特許文献2の技術を使用すると、貴金属層を複数層形成しているため、製造工程がやや煩雑になり、また、より一層のコストダウンが望まれている。このため、より薄い厚みの貴金属層でも従来のめっき材と同等以上の特性を維持しつつ、かつコスト低減が可能な技術開発が望まれている。
【0009】
さらに、電気接点材はリフローなどの熱処理が加えられることが多く、その熱により貴金属で形成されためっき層や中間層のめっき膜において再結晶化が進行してしまう。このことにより、強度が低下し、その結果、耐磨耗性が低下してしまうという事例が見られた。そこで、耐熱試験後の動摩擦係数を測定したところ、一部の例において動摩擦係数が低下してしまう現象が見られた。
また、近年の接点材料においては、高温環境下において摺動させる接点材が存在しており、優れた耐熱性も有する接点材のニーズが高まってきている。
【0010】
そこで、本発明は、これら特性を維持できるめっき液、特に高強度かつ耐熱性に優れ、形成しためっき膜単体の特性として、高強度かつ優れた耐熱性を示し、かつ、めっき材の下地層や最表層に適用した場合には、主に摺動を伴う電気接点材として高強度かつ優れた耐熱性を示すめっき材を容易に製造することができるめっき液を提供することを目的とする。さらに、本発明のめっき液を用いて形成されためっき材が、摺動特性に優れた接点材として提供できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分を含有する粒子及びめっき金属源を有し、前記粒子のうち粒径が15nm以下の粒子が60体積%以上であるめっき液を提供することで、従来方法では達成できなかった高強度かつ優れた耐熱性を有するめっき材を形成できることを見出した。このめっき液を使用して製造しためっき層は、金属又は合金中にpH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分を含有する粒子を有し、前記粒子の平均粒径が0.5nm以上50nm以下であり、これまで容易に形成し得なかった高強度でかつ優れた耐熱性を有することを見出した。
また、このめっき層を電気接点材料の中間層や下地層として用いることで、接点材料の貴金属被覆の厚みが従来のめっき材よりも薄い場合であっても、耐熱性や耐磨耗性が従来と同等レベル以上に得られることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
(1)pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分を含有する粒子及びめっき金属源を有を有するめっき液であって、
前記pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分が、W、Mo、Ti、Te、Snからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、該金属成分は金属として前記めっき液中に1mg/L以上10g/L以下含まれ、
前記粒子は、金属単体、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種類以上であり、該粒子のうち粒径が15nm以下の粒子が60体積%以上であり
前記めっき金属源は、銅、ニッケル、コバルト、鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するめっき液。
)金属又は合金中にpH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分を含有する介在粒子を有するめっき層を備えためっき材であって、
前記pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分が、W、Mo、Ti、Te、Snからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、該金属成分を金属として前記めっき層中に10ppm以上含み、
前記介在粒子は、金属単体、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種類以上であり、該介在粒子の平均粒径が0.5nm以上20nm以下であり、
前記金属又は合金は、銅、ニッケル、コバルト、鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するめっき材。
)前記めっき層が、導電性基体上に形成されている(2)に記載のめっき材。
)前記めっき層上に、錫、銀、金、白金、パラジウム、ロジウムまたはこれらの元素を含む合金からなる最表層が形成されている(3)に記載のめっき材。
本発明において、「pH4以下の酸性条件において」とは好ましくは、水溶液中における条件である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高強度でかつ優れた耐熱性を有するめっき材を提供することができる。
特に、接点材料の最表層に本発明のめっき液により形成されためっき層を適用することで、耐磨耗性に優れた接点材料を提供することができる。また、接点材料の中間層又は下地層に本発明のめっき液により形成されためっき層を適用することにより、摺動特性及び接触特性に優れた接点材料を提供することができる。
なお、ここで、高強度とは、機械的強度が高いことを意味し、引張強さや、0.2%耐力などを指す。また、優れた耐熱性とは、300℃で1時間の加熱を行った場合の抗張力の低下率が30%以下であることや、同加熱条件前後での動摩擦係数の変化率が15%以下であることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】SAXS(USAXS)の装置概略図。
図2】Wを含むめっき層の焼成(加熱処理)前後のSAXS測定結果。
図3】焼成前のWを含むめっき層のSAXS測定のフィッティング結果。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<めっき液>
本発明のめっき液は、めっき金属源の他に、pH4以下の水溶液などの酸性条件では固体(例えば、金属単体、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物)として存在する金属(分散析出金属)を粒子として含有している。
【0016】
(めっき液中の粒子)
めっき液中には、分散析出金属が粒子として存在しており、その粒子中には、常法のX線回折法では検出されないが、DLS(動的光散乱法:Dynamic Light Scattering)にて初めて検出される程度の粒径(直径)15nm以下の粒子(以下、微粒子とも呼ぶ。)が60体積%以上存在している。この微粒子は、めっき膜(層)に形成した際に結晶粒の成長を抑制するピン止めの効果が高い粒子径とするという点から、好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下の、非常に微小な粒径を有していることが望ましい。なお、固体粒子として存在する場合、金属原子の直径が0.3nm程度であることを考慮すると粒径は0.5nm以上と考えられる。
本発明のめっき液により、従来の分散めっきなどでは達成できなかった粒径の粒子(微粒子)を共析させ、詳細は後述するが、ピン止め効果や結晶粒微細化などの効果により、従来では達成し得なかった高強度かつ優れた耐熱性を有するめっき層を形成することができる。
なお、粒径15nm以下の微粒子が粒子中で60体積%未満のめっき液の場合には、めっき膜中に取り込まれた際に高いピン止め効果を発揮する微粒子が少ないために、不具合が発生する。
【0017】
また、pH4以下の酸性条件中、好ましくは硫酸酸性の液中では酸化物として存在する金属(分散析出金属)としては、W、Mo、TiまたはTeの少なくとも1種であることが好ましい。さらに好ましくは、これらの金属種の内のいずれか1種を含む。
特に、Wの場合には、めっき膜(層)となった場合の高温におけるピン止め効果が高いという点で特に好ましい。
【0018】
また、pH4以下の酸性条件において固体として存在する金属成分を金属として1mg/L以上10g/L以下含有していることが望ましい。この濃度が低すぎると目的の金属が十分にめっき層中に取り込まれにくくなる。一方、この濃度が高すぎると目的の金属がめっき層中に過剰に取り込まて、導電率が低下したり、耐熱性の向上効果が飽和して逆に耐熱性が低下してしまい加熱後の抗張力が低下したりしてしまう場合がある。
【0019】
なお、めっき液中の粒子は、金属単体、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物からなる群から選ばれる1種類以上であることが好ましい。
特に、耐熱性向上という点で、粒子は比較的融点の高い金属単体、もしくはその金属酸化物、金属炭化物からなることが好ましく、具体的には、例えば、金属モリブデン、金属タングステン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化テルル、硫化タングステンなどが挙げられる。
【0020】
本発明において、pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属とは、例えば、M.PourbaixのAtlas of electrochemical equilibria in aqueous solutions. Pergamon Press(1966)に示される電位−pH図において、4以下のpHで酸化物として存在する金属成分から選択され、これらの金属成分を添加しためっき液に対してDLSによる粒度分布測定を実施した結果、添加金属成分が固体粒子として検出されたものをいう。
【0021】
(めっき金属源)
めっき金属源は、めっき液中に主に金属イオンとして存在しており、銅、ニッケル、コバルト、鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。例えば、シアン化銀、硫酸第一錫などを含む。
【0022】
本発明のめっき液は、上述した粒子とめっき金属源以外は、特に限定されるものではなく、通常のものを用いることができ、さらに、例えばイオン系界面活性剤、光沢剤などを含むことができる。
【0023】
(めっき液の製造方法)
分散析出金属(微粒子)が金属酸化物の場合について述べる。
硫酸銅水溶液と分散析出金属の金属塩の水溶液との混合液に、3mg/L以下の塩化物イオン濃度となるように塩酸若しくは水溶性塩素含有化合物を添加する。
【0024】
1.めっき金属源の組成
めっき金属源として、銅イオン濃度50〜120g/L、遊離の硫酸イオン濃度30〜150g/L、塩化物イオン濃度3mg/L以下に調製した硫酸銅含有水溶液を基本のめっき金属源組成とする。ここで、本発明において、塩化物イオンを含まないとは、塩化物イオン濃度が3mg/L以下であることをいう。
銅イオンと遊離の硫酸イオンは、硫酸銅水溶液を前記各イオン濃度を与えるように調整すれば得られる。あるいは、所定の銅イオン濃度を与える硫酸銅水溶液に、追加で硫酸を加えてこれらのイオン濃度を調整してもよい。
塩化物イオンは、塩酸若しくは水溶性塩素含有化合物によって与えればよい。水溶性塩素含有化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムなどを用いることができる。
【0025】
2.金属塩の添加
まず、硫酸銅水溶液と分散析出金属(微粒子)の金属塩の水溶液との混合液に、3mg/L以下の塩化物イオン濃度となるように塩酸若しくは水溶性塩素含有化合物を添加し金属の塩を溶解させた金属塩水溶液をpH4以下のめっき金属源、好ましくは硫酸酸性のめっき金属源に添加することで、金属酸化物の超微粒子をめっき液中に分散させる。
分散析出金属(微粒子)の金属塩としては、水(pHがpH4より高くpH9未満)、アルカリ(pH9以上)、熱濃硫酸などの溶媒中でイオン化し、pH4以下では酸化物となるものであればよく、その種類に特に制限はない。これらの金属塩の例としては、金属がWやMoであれば各々その酸素酸塩を、金属がTiであればその硫酸塩を挙げることができる。例えば、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウムなどのタングステン酸塩、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムなどのモリブデン酸塩、硫酸チタンなどのチタン塩を用いることができる。
また、厳密には金属塩に該当しないが、溶媒中でイオン化し、pH4以下では酸化物となるものであればよい。例えば酸化テルルは、熱濃硫酸中でイオン化するため、本発明に用いることができる。
【0026】
本発明においては、前記所定の塩化物濃度に調整するために、めっき金属源や金属塩水溶液を調製する為に用いる水が塩化物イオンを極力含まないことが好ましい。この点では、金属塩水溶液の調製を、金属塩を純水中に溶解させて行うことが好ましい。ここで、純水とは、金属イオンおよび塩化物イオンをなるべく含まない水が好ましい。具体的には、塩化物イオン濃度が3mg/L以下の水が好ましく、塩化物イオン濃度が1mg/L未満の水がさらに好ましい。
【0027】
<めっき材>
本発明のめっき材は、pH4以下の水溶液などの酸性条件では固体として存在する金属(分散析出金属)を微粒子として含有するめっき層を有する。めっき層は、例えば導電性基体の上に形成される。
めっき層が最表面に形成されためっき材の他に、めっき層の上に、錫、銀、金、白金、パラジウム、ロジウムまたはこれらの元素を含む合金からなる最表層を更に有するめっき材であってもよい。
【0028】
(めっき層)
本発明の実施形態に係るめっき層は、多数の金属(例えば、銅)の結晶粒を有し、結晶粒の内部や、結晶粒同士の粒界に介在粒子を有する。
【0029】
めっき層に含有される介在粒子は、金属単体、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、金属炭化物のいずれか1種又は2種以上の混合粒子であってもよい。介在粒子は、好ましくは平均粒径が0.5nm以上20nm以下である。なお、平均粒径が50nmよりも大きい場合は、ピン止め効果が十分ではない。
【0030】
この介在粒子により、従来の分散めっきなどでは達成できなかったサイズの粒子を共析させ、その粒子によるピン止め効果や結晶粒微細化などの効果により、従来では達成し得なかった高強度かつ優れた耐熱性を有するめっき材を形成できるものである。
【0031】
pH4以下の酸性条件中、好ましくは硫酸酸性の液中では酸化物として存在する金属(分散析出金属)としては、W、Mo、TiまたはTeの少なくとも1種であることが好ましい。さらに好ましくは、これらの金属種の内のいずれか1種を含む。
【0032】
めっき層中でのこれらの金属の含有量(取り込み量)は、該金属として換算して80〜2610ppmが好ましく、100〜2500ppmがより好ましく、110〜2460ppmがさらに好ましく、210〜2460ppmが特に好ましい。この含有量が少なすぎると、耐熱効果が著しく減少し、例えば300℃で加熱した後の抗張力が常態の抗張力に対する比として80%以下と低くなってしまう。一方、この含有量が多すぎると、前記抗張力の向上効果にそれ以上の改善が見られず、また、導電率が低下する。
【0033】
また、めっき層は塩素を10ppm未満(塩素フリー、つまり塩素含有量0ppmの場合も含む)の量で含有することが好ましく、塩素を1ppm未満の量で含有することがさらに好ましい。めっき層の塩素含有量が10ppm以上の場合、微粒子(分散析出金属)の取り込み量が極端に減少し、耐熱性の向上効果が著しく低下する。
【0034】
本発明のめっき層の好ましい一実施形態は、分散析出金属としてタングステンを含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる。
ここで、タングステンを含有するとは、タングステン酸化物の微粒子としてめっき母材中に分散されて存在することをいう。ただし、タングステンのめっき母材への取り込み過程でタングステン酸化物のごく一部が金属タングステンに還元されて介在粒子として取り込まれている場合もある。本発明においてめっき層がタングステンを含むとは、タングステン酸化物の微粒子がめっき母材中に分散して存在している場合の他に、このような金属タングステンの微粒子として母材中に分散して介在粒子として存在している場合も含める意味である。
発明においては、このようなタングステン酸化物の微粒子と金属タングステンの微粒子を合わせて、めっき層中に含まれるタングステンと称する。
【0035】
めっき層中に含まれるタングステンの量は10ppm以上であることが好ましく、特に10〜2000ppmの範囲が好ましく、280〜2000ppmの範囲がさらに好ましい。ここで、めっき層に含まれるタングステンの量とは、タングステン酸化物もしくは金属タングステンの各々の微粒子として含有されているタングステン成分を金属タングステンに換算した含有量である。タングステンの含有量が少なすぎるとその添加効果が殆ど現れない。一方、タングステンの添加量が多すぎるとその添加効果が飽和してしまい、コスト高になるにも拘らず、物性改善の効果が見られない。
【0036】
即ち、タングステンを10ppm未満の量で含有するめっき層では、300℃で1時間(以下、「300℃×1H」と略記する)加熱後の機械的強度が、タングステンを含有しない場合とほぼ同様に著しく低下する。
タングステンの添加量を増加するに従って300℃×1H加熱後の強度の低下は小さくなるが、含有量がある程度多くなるとその効果は飽和してくる。その有効な添加量の上限は2000ppm程度である。
なお、成分の含有量表示に使用した単位「ppm」は、「mg/kg」を意味する。また、0.0001mass%=1ppmである。
【0037】
なお、本発明によるめっき層の層厚に特に制限はないが、めっき材に対してプレスや曲げなどの加工が入る場合、その加工性や耐熱性を考慮して、その層厚は、0.05〜3μm、より好ましくは0.2〜1μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μmとすることが望ましい。
【0038】
本発明のめっき液を使用して形成されためっき層を有するめっき材を接点材料に適用すれば、汎用的に形成されている銅または銅合金、ニッケルまたはニッケル合金、コバルトまたはコバルト合金などよりも高強度な金属皮膜(めっき層)を有することになるため、従来以上に耐磨耗性が向上し、摺動特性が改善する。従って、高強度かつ耐熱性に優れた接点材料とすることができる。
また、基体上に本発明によるめっき層を形成し、当該めっき層を最表面とするめっき材を接点材料に適用した場合、初期強度が高いため、耐磨耗性に優れた摺動材を得ることができる。
【0039】
また、電気接点特性が要求される接点材料、例えば自動車ハーネス用のコネクター端子や携帯電話搭載のコンタクトスイッチ、あるいはメモリーカードやPCカードの端子等に適用する場合には、これら挿抜や摺動のある最表層に貴金属を用いる。本発明によるめっき層を導電性基体上に形成し、当該めっき層を中間層又は下地層として用い、前述した貴金属を本発明によるめっき層上に形成して、貴金属からなる最表層を有するめっき材とすれば、摺動特性だけでなく接触特性に優れた接点材料に適用することが可能である。
更に、当該めっき層を中間層又は下地層として用いると、めっき材の下層(基体側の層)において硬度が向上するため、最表層の厚みを従来よりも薄くしても、従来と同等以上の耐磨耗性及び接触特性を得ることができる。また、当該めっき層は、耐熱性に優れた皮膜となるため、従来の中間層又は下地層よりも薄くめっき層を形成しても同等の効果を有することが可能となるため、曲げ割れ性などの改善も認められる。
【0040】
上述した、優れた接触特性(安定した接触抵抗)を得るには、最表層として錫または錫合金、銀または銀合金、金または金合金、白金または白金合金、パラジウムまたはパラジウム合金、ロジウムまたはロジウム合金のうちいずれかを用いることが好ましい。本願のめっき材によれば、特に貴金属である金または金合金、白金または白金合金、パラジウムまたはパラジウム合金、ロジウムまたはロジウム合金を最表層に用いた場合、従来の最表層の被覆厚の4分の3〜3分の2程度で同様の特性を得ることができる。
なお、最表層の被覆厚については特に制限はないが、貴金属系の場合は厚すぎるとコスト高となり、薄すぎると接点特性の低下が避けられなくなるため、好ましくは0.001〜1μm、さらに好ましくは0.05〜0.3μm、最も好ましくは0.1〜0.15μmとする。
【0041】
(導電性基体)
本発明における導電性基体としては、例えば銅又は銅合金、鉄又は鉄合金、アルミニウム又はアルミニウム合金などが好適に用いられる。
導電性基体のうち、銅合金の例としては、CDA(Copper Development Association)規格合金の例として、C19400(Cu−Fe系合金材料:例えば、Cu−2.3Fe−0.03P−0.15Zn)、C26000(黄銅:Cu−30Zn)、C26800(黄銅:Cu−35Zn)、C52100(リン青銅:Cu−8Sn−P)、C77000(洋白:Cu−18Ni−27Zn)、が挙げられる。更に、CDA規格合金のC14410(Cu−0.15Sn:古河電気工業(株)製EFTEC−3)、C18045(Cu−0.3Cr−0.25Sn−0.2Zn系合金:同社製EFTEC−64T)、C52180(Cu−8Sn−0.1Fe−0.05Ni−0.04P:同社製F5218)、C70250(Cu−3.0Ni−0.65Si−0.15Mg:同社製EFTEC−7025)なども好適な例として挙げられる。
また、導電性基体のうち、鉄合金の例としては、日本工業規格(JIS G 4305:2005)規定のステンレス鋼(SUS301、SUS304、SUS401)や、Fe−Ni合金である42アロイ(Fe−42%Ni)などが挙げられる。
更に、アルミニウム合金例としては、日本工業規格(JIS H 4000:2006 など)に規定されるA1100、A2014、A3003、A5052などが挙げられる。
【0042】
(めっき層の物性)
本発明のめっき層は、接点材料として用いる場合には、導電率が55%IACS以上であることが好ましく、65%IACS以上であることがさらに好ましく、70%IACS以上であることが特に好ましい。導電率の上限には特に制限はなく、100%IACSを超えてもよい。
本発明のめっき層は、加熱後の良好な摺動特性を得るために、300℃加熱処理後の抗張力の値が500MPa以上であることが好ましく、700MPa以上であることがさらに好ましい。常態における抗張力の上限には特に制限はなく、通常1100MPa以下である。
【0043】
<めっき材の製造方法>
本発明のめっき材は、次の製造方法によって製造することができる。
まず、上述しためっき液を準備し、めっき液を電解析出することで導電性基体上にめっき層を製造する。
電解析出時の条件は以下の通りである。
電流密度30〜100A/dm
温度30〜70℃
以上の条件で、チタンからなる導電性基体の上にめっき層の厚さが例えば12μmのめっき材を製造することができる。
【0044】
<タングステンを含有する微粒子の場合>
タングステンを含有する微粒子が分散しためっき層を形成する場合は、銅イオンと、タングステン塩からpH4以下で生成したタングステン酸化物を含有するpH4以下の硫酸銅系めっき液を電解することにより得られる。
めっき液に含有されるタングステン塩としては、硫酸−硫酸銅溶液中で溶解するものであればよく、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム等を挙げることができる。
【0045】
本発明のめっき層は、めっき液中において、タングステン塩から生じたタングステン酸イオンがpH4以下のめっき液中で変じたタングステン酸化物が、このめっき液を用いた電解析出によって、タングステン酸化物(WO、W、WO等)のままで或いは還元された金属タングステンとしてめっき層中に取り込まれたものと考えられる。ここで、これらのタングステン酸化物(WO、W、WO等)または金属タングステンは、微粒子としてめっき母材中に分散されて存在している。
【0046】
即ち、本発明のめっき層は、硫酸−硫酸銅電解液であってタングステン酸化物を含むめっき液から電解析出により形成する。このタングステン酸化物を含む硫酸−硫酸銅めっき液中では、タングステン塩からタングステン酸イオン(WO2−或いはWO2−等)を経てタングステン酸化物が微粒子状に形成されていると考えられる。
【0047】
タングステン酸化物を含む硫酸−硫酸銅めっき液により銅電析を行い、導電性基体上にめっき層を形成するとタングステン酸化物(WO、W、WO等)或いは金属タングステンの各々の微粒子が結晶粒界に吸着され、結晶核の成長が抑制され、結晶粒が微細化(低プロファイル化)され、常態で大きな機械的強度を備えためっき層が形成される。
【0048】
このめっき層の結晶粒界に存在するタングステン酸化物(WO、W、WO等)或いは金属タングステンの各々の超微粒子は、バルクの銅結晶と結合若しくは吸収されることなく、タングステン酸化物(WO、W、WO等)或いは金属タングステンの各々の微粒子のまま結晶粒界にとどまると考えられる。
【0049】
タングステン酸化物若しくはタングステンを含有するめっき層は300℃程度の高温で加熱しても、タングステン酸化物(WO、W、WO等)或いは金属タングステンの微粒子は結晶粒界にとどまることによって、銅の微細結晶が熱により再結晶して結晶粒が粗大化するのを防ぐ働きをする。
【0050】
従って、本発明のめっき層は、機械強度が大きく、300℃位の高温で加熱した後でも機械的強度の低下が小さいという、優れた特徴を有する。
【0051】
上記の実施形態はタングステンを用いた例であるが、他の分散析出金属を用いた場合も同様である。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
実施例1−1〜1−6、比較例1−1及び比較例1−3〜1−5では、以下のめっき液と表面を#2000の研磨紙を用いて研磨を行ったチタンからなる導電性基体を用いて、浴温30〜75℃、電流密度30〜100A/dmで12μm厚のめっき層を形成した。また、チタン基体からめっき層を剥がすことにより、後述するめっき層のみの評価を行った。
【0054】
(基本浴組成)
硫酸−硫酸銅系のめっき金属源として以下の浴を基本浴組成として用いた。
硫酸銅200〜500g/L
硫酸20〜200g/L
塩化ナトリウム0〜100mg/L
【0055】
(添加剤)
次のように添加剤を基本浴に添加した。その際、添加剤の金属成分を金属として所望の濃度となるように調整した。
・実施例1−1
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように添加した。
・実施例1−2
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして200mg/Lとなるように添加した。さらにチオ尿素を3mg/Lとなるように添加した。
・実施例1−3
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして100mg/Lとなるように添加した。さらにエチレンチオ尿素を5mg/Lとなるように添加した。
・実施例1−4
モリブデン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、モリブデンとして20mg/Lとなるように添加した。
・実施例1−5
硫酸チタンを純水に溶解し、チタンとして2g/Lとなるように添加した。
・実施例1−6
酸化テルルを熱濃硫酸中に溶解し、テルルとして10g/Lとなるように添加した。
・比較例1−1
何も添加せず。
・比較例1−3
硫酸鉄(II)を純水に溶解し、鉄として100mg/Lとなるように添加した。
・比較例1−4
硝酸銀を純水に溶解し、銀として50mg/Lとなるように添加した。
・比較例1−5
最初に硫酸スズを基本浴に添加した後、酸素含有ガスによるバブリング処理を行うことでSnOを3g/L、SnSOを10g/Lとなるように調整した。
【0056】
実施例1−7及び比較例1−2は、以下のめっき液とチタンからなる導電性基体を用いて、浴温50℃、電流密度5A/dmで12μm厚のニッケルめっき層を形成した。また、チタン基体からニッケルめっき層を剥がすことにより、後述するニッケルめっき層のみの評価を行った。
【0057】
(基本浴組成)
硫酸−硫酸ニッケル系のめっき金属源として以下の浴を基本浴組成として用いた。
硫酸ニッケル300g/L
塩化ニッケル45g/L
ホウ酸10g/L
【0058】
(添加剤)
次のように添加剤を基本浴に添加した。その際、添加剤の金属成分を金属として所望の濃度となるように調整した。
・実施例1−7
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように添加した
・比較例1−2
何も添加せず。
【0059】
得られた各実施例及び比較例のめっき液中の金属成分を含有する粒子の粒径は、マルバーン社製、ゼータサイザー(粒子径、ゼータ電位、分子量測定装置)を用い、分散質屈折率:2.20、分散質吸収率:0.1、分散媒屈折率1.33、分散媒粘度0.887cpの条件において25℃で測定した。
【0060】
チタン基体から剥がして得られためっき層に対して、常態及び300℃で1時間の加熱を行った後の抗張力(引張強さ、TS)、抗張力の低下率、金属成分の含有量を、それぞれ次のようにして測定した。
【0061】
抗張力は、JISZ2241−1880に基づき測定した。めっき層の常態における抗張力の値が500MPa以上を良好、500MPa未満を不良と判断した。また、300℃で1時間加熱処理した後の抗張力を常態の抗張力から引いた値を常態の抗張力で割ることで加熱による抗張力の低下率を求め、加熱による抗張力の低下率が30%以下であることを要求特性とした。
【0062】
めっき層中の金属成分の含有量については、一定質量のめっき層を酸で溶解した後、得られた溶液中の金属成分の濃度をICP発光分光分析法により分析することで求めた。
【0063】
めっき層中の金属成分を含有する介在粒子の平均粒子径の測定には小角X線散乱法を用いた。小角X線散乱は、バルク試料における1nm〜1μmの物体のサイズや形状、ナノスケールの原子・分子の分布・揺らぎを直接測定する方法である。
【0064】
例えば、タングステンを添加しためっき層を試料とした場合(実施例1−1)についてSAXS(small angle X−ray scattering、小角X線散乱)とUSAXS(ultra small angle X−ray scattering、極小角X線散乱)測定を行った。SAXS(USAXS)測定においてはSpring−8(super photon ring 8GeV、高輝度放射光施設)の産業利用ビームラインBL19B2で行った。
【0065】
図1(a)にSAXS(USAXS)測定の簡単な光軸図を示す。シャッター15を備えるX線源13から生じる入射X線14は、モノクロメーター17、第1ピンホール19、第2ピンホール21、第3ピンホール25を通って、試料27に照射される。試料27に照射された入射X線14から、試料27を透過する透過X線29と、試料27により散乱された散乱X線31を生じる。検出器35は、光軸の最後に設けられ、透過X線29または散乱X線31を検出する。
【0066】
検出器35で散乱X線31を測定する場合は、図1(b)に示す通り、減衰器23を通さずに入射X線14を試料27に照射し、透過X線29をビームストッパー33で遮蔽し、検出器35で散乱X線31を測定する。
【0067】
検出器35で透過X線29を測定する場合は、図1(c)に示す通り、減衰器23で入射X線14の強度を弱めた上で、入射X線14を試料27に照射し、透過X線29をビームストッパー33で遮蔽せずに検出器35で透過X線35を測定する。
【0068】
試料27から検出器35までの距離をLとする。試料27を透過した透過X線29が検出器35に到達する場所をOとして、同じく試料27から角度θで散乱された散乱X線31が検出器35に到達する場所をAとする。AO=rとすればtanθ=r/Lとなりθがもとまる。以後、SAXS及びUSAXSのデータの横軸を式(1)で表すq(nm−1)で記述する。
q=4πsinθ/λ・・・(1)
【0069】
λは入射X線の波長である。測定ではλ=0.068nm、試料から検出器までの距離をL=4.2m(SAXS)、L=42m(USAXS)とした。測定の範囲はq=0.05〜4(nm−1)である。検出器は半導体二次元検出器ピラタスを使用した。SAXS測定をした後、2次元のX線の強度のマッピングを見て異方性が無いのを確認して、一次元化を行った(図2)。縦軸にX線の強度、横軸にqとしたSAXSデータを示す。図中、△マークが焼成後のめっき層、○マークが焼成前のめっき層のデータを示し、実線のみは純銅のデータを示している。図2からわかる様に、純銅と焼成前のめっき層とを比較してq=0.4〜2の間でX線の強度が異なる。これはめっき層中に10nm以下の介在物(介在粒子)が存在していることを示唆している。
【0070】
タングステン入りのめっき層のSAXSデータから純銅のSAXS強度を差し引くことで、WOからのX線の散乱を抽出し、この抽出データを用いて、WOの数密度を算出するために散乱X線から散乱断面積を求め、Fittingを行った。測定されたX線散乱強度I(q)と散乱断面積dΣ/dΩ(q)は式(2)関係にある。
【0071】
【数1】
【0072】
Φ0はダイレクトビームの強度、ηは検出器による補正項、Sは照射面積、Tは透過率、Dは厚さである。基本的にはΦ0、η、Sは一定なので、A=Φ0・η・Sとすると、A=constとなり、Aを装置固有の値とする。
【0073】
Aに関しては予めΦ0、η、Sを決定している装置で測定したグラッシーカーボンをSPring−8, BL19B2でも測定を行い、Aを算出した。式(2)のS、C、Nの記号はそれぞれSample、Cell、Noiseの略記号であり、本発明中ではSampleがめっき層、Cellが純銅となる。式(2)から散乱断面積を求めると式(3)となる。
【0074】
【数2】
【0075】
一方で散乱断面積は式−(4)で表される。
【0076】
【数3】
【0077】
dΣ/dΩ(q)は散乱断面積、Δρ2は原子散乱因子、dNは粒子数密度、Vは粒子体積、Fは粒子の形状因子、N(r)は粒径分布関数である。TEM観察の結果から、量子の形状因子は球体とした(式(5))。
【0078】
【数4】
【0079】
散乱X線強度から求めた散乱断面積:dΣ/dΩ(q)を変数qで式(3)を用いてFittingを行った。その結果、図3に示すように平均粒子径(半径)は0.8nm程度であることがわかった。
【0080】
以上は、実施例1−1について説明したが、他の実施例及び比較例についても同様の測定解析を行い、めっき層中の介在粒子の平均粒子径を測定した。
【0081】
また、めっき層中に含有される介在粒子中の金属の化学結合状態や電子状態の解析をXAFS(X線微細吸収構造:X-ray Absorption Fine Structure)法で行った。XAFS法では、試料にX線エネルギーを変化させながらX線を照射し、得られたX線吸収スペクトルから試料中の化学結合状態や電子状態の解析を行う。
X線吸収スペクトルを得る手法として、入射したX線の強度と透過したX線の強度からX線吸収スペクトルを求める透過法、X線の吸収に伴って試料から発せられる蛍光X線の強度を測定する蛍光法がある。
金属材料などの添加元素を分析対象とするとき、その添加量は微量であり透過法でのXAFSスペクトルを得ることは困難である。この様な場合に有効なのが上記に記した蛍光法である。蛍光法の特徴としては、その光軸系よりX線の照射面積が広く取れることにより微量成分の元素でもXAFS測定が可能であることである。
本測定ではめっき層中の介在粒子中の金属の化学結合状態や電子状態を知ることが目的であり、介在粒子中の金属(例えば、タングステン)の量は微量であり、透過法でXAFSスペクトルを得るには困難であることから蛍光法を選択した。
測定に関してはSPring−8の産業利用ビームラインBL14B2を使用した。ここでは、タングステンの測定を目的とし、測定したX線のエネルギー範囲は10000〜10434eVとした。このエネルギー範囲にはタングステンのL3−吸収端(10207eV)があるため本測定の目的に適う。
【0082】
測定試料はタングステンを1870ppm含有するめっき層を用意した。また比較のため、タングステン単体とWOを用意した。測定時間としては1試料当り4時間とした。タングステン含有めっき層のスペクトルは金属タングステンではなくWOのスペクトルとほぼ一致したエネルギー領域にピークをもつことを確認し、めっき層中のタングステン元素は酸化物状態として含有されていることが分かった。この結果を基に各実施例においても測定した結果、酸化物状態で含有されていることを確認した。
【0083】
表1に得られた測定結果として、めっき液中の粒径15nm以下の粒子が占める割合、めっき層中の金属成分の含有量、めっき層中の介在粒子の平均粒径、加熱前(常態時)及び加熱後(300℃で1時間加熱後)の抗張力、加熱後の抗張力の低下率を示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1より、本実施例1−1〜1−7によれば、常態における抗張力の値が500MPa以上であり、かつ300℃で1時間の加熱による抗張力の低下率が30%以下であることから、高強度でかつ耐熱性に優れためっき層を提供できることがわかる。
【0086】
一方、金属成分を含有する粒子を有しない比較例1−1のめっき層では、常態の抗張力が低く、比較例1−2のニッケルめっき層では抗張力の熱劣化が大きい。また、鉄を添加した比較例1−3では、鉄がpH4以下で固体とならないため、めっき層中に鉄を取り込むことができず、常態、加熱後ともに抗張力の向上は見られない。比較例1−4では、電気化学共析によりめっき層中に銀が取り込まれているものの、本発明のように粒子として分散しているわけではないため、加熱による抗張力の低下率が大きい。比較例1−5は、めっき液中に酸素を吹き込むことによりスズを強制的に酸化させているため、一部に非常に大きな粒径を有する酸化物粒子が存在し、ピン止め効果を著しく低下させることから、加熱による抗張力の低下率が大きい。また、時間経過により、分散した酸化物粒子が一部の大きな粒径を持つものを核として凝集沈殿しやすいという問題もある。
【0087】
以上の結果から、従来には達成し得なかった高強度でかつ優れた高耐性を有するめっき層を提供できた。特に銅めっき層については、常態での強度が大きく、かつ、300℃程度の高温で加熱しても強度の熱劣化が小さいことから、高温環境下で用いられる、例えば、自動車用途や大容量電子機器の電子接点材などの各種用途に好適に用いることができるめっき材が得られることが分かる。
【0088】
〔実施例2〕
厚さ0.15mm、幅30mmの表2に示す基体に下記前処理を行った後、下記電気めっき処理を基体全面に実施することにより、表2に示す初期の被覆状態となる本実施例2−1〜18、従来例1及び比較例2−1のめっき材を得た。
【0089】
また、基体に用いた材料のうち、「C52100」、「C19400」、「C18045(EFTEC−64)」、および「C14410(EFTEC−3)」は銅または銅合金基体を表し、Cの後の数値はCDA(Copper Development Association)規格による種類を示す。また、「C18045(EFTEC−64T)」「C14410(EFTEC−3)」は古河電気工業(株)製の銅合金である。
【0090】
前処理としては、下記電解脱脂、次いで下記酸洗を行った。なお、銀めっき層を形成する場合には、銀めっき層を形成する前に銀ストライクめっきを厚さ0.01μmとなるように施した。
【0091】
(前処理条件)
以下の条件で、下地層の形成の前処理を行った。
[カソード電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/L
脱脂条件:2.5 A/dm、温度60℃、脱脂時間60秒
[酸洗]
酸洗液:10%硫酸
酸洗条件:30秒 浸漬、室温
【0092】
使用した各めっきのめっき液組成およびめっき条件は下記に示す。
[Agストライクめっき:被覆厚:0.01μm]
めっき液:KAg(CN) 5g/L、KCN 60g/L
めっき条件:電流密度 2A/dm、浴温 25℃
(中間層)
[Ni−W分散めっき]
実施例1−7の液を使用して形成した。
[Cu−W分散めっき]
実施例1−1の液を使用して形成した。
[Cu−Mo分散めっき]
実施例1−4の液を使用して形成した。
[Niめっき]
比較例2−6および従来例1で使用
めっき液:Ni(SONH・4HO 500g/L、NiCl 30g/L、HBO 30g/L
めっき条件:電流密度 5A/dm、浴温 50℃
[Cu−Sn分散めっき]
比較例1−5の液を使用して形成した。
[Cu−Si分散めっき]
めっき液:Cu 180g/L、HSO 80g/L(界面活性剤を適宜使用)
分散材(シリカ粒子):30g/L(日産化学工業(株)製:MP−2040)
めっき条件:電流密度 5A/dm、浴温 50℃
【0093】
(最表層)
[Auめっき]
めっき液:KAu(CN) 14.6g/L、C 150g/L、K 180g/L
めっき条件:電流密度 1A/dm、浴温 40℃
[Pdめっき]
めっき液:Pd(NH)2Cl 45g/L、NHOH 90mL/L、(NHSO 50g/L
めっき条件:電流密度 1A/dm、浴温 30℃
[Ptめっき]
めっき液:Pt(NO(NH 10g/L、NaNO 10g/L、NHNO 100g/L、NH 50mL/L
めっき条件:電流密度 5A/dm、浴温 90℃
[Rhめっき]
めっき液:RHODEX(商品名、日本エレクトロプレイティングエンジニヤース(株)製)
めっき条件:電流密度 1.3A/dm、浴温 50℃
[Agめっき]
めっき液:AgCN 50g/L、KCN 100g/L、KCO 30g/L
めっき条件:電流密度 1A/dm、浴温 30℃
[Snめっき]
めっき液:SnSO 80g/L、HSO 80g/L
めっき条件:電流密度 2A/dm、浴温 30℃
【0094】
(評価)
得られためっき材について、下記の評価を行い、それぞれの結果について表2に示す。
(A)接触抵抗測定
4端子法を用いて、被覆初期及び動摩擦係数試験経過時の接触抵抗測定を行った。測定条件は、AgプローブR=2mm、荷重10g、10mA通電時の抵抗値を読み取り、その抵抗値が5mΩ以下を要求特性とした。
(B)動摩擦係数測定
バウデン摺動試験装置を用いて、往復50回、100回、300回摺動後の動摩擦係数測定を行った。測定条件は、以下の通りである。
プローブ半径R=2.0mm 鋼球プローブ使用、摺動距離10mm、摺動速度 100mm/min.、摺動回数 往復300回、荷重 10g、65%Rh、25℃
(C)耐熱性評価
耐熱性評価として、300℃で1時間加熱後の上記条件による動摩擦係数を測定し、往復300回摺動後の動摩擦係数を測定した。その後、加熱を行わずに(B)の300回測定時の動摩擦係数に対する上昇率を算出した。15%以下の上昇率である場合に、耐熱性良好と判断した。これは、耐熱性が劣る場合、下地層および最表層の軟化による摺動抵抗の増大で動摩擦係数が上昇しているものとして考えられるため、本指標を耐熱性の指標とする。
なお、最表面が本発明のめっき層である接点材は、接触抵抗特性を求められない摺動部材(例えば、ベアリング等)としての利用が想定されるため、接触抵抗測定は貴金属の最表層が形成されたものについてのみ評価を行っており、最表層に貴金属層が形成されていないものについては、動摩擦係数測定による評価のみを実施した。
【0095】
【表2】
【0096】
表2より、本実施例2−1〜2−14によれば、初期及び摺動試験後の接触抵抗も5mΩ以下の要求特性を満足しつつ、かつ耐熱試験後の動摩擦係数も上昇率が15%以下であることが分かった。つまり、本実施例2−1〜2−14のように、本発明のめっき層を下地層としてめっき材を形成することで、耐熱性及び接触抵抗特性に優れた接点材料が提供できることが分かる。
一方、比較例として本発明によるめっき液(めっき層)を使用せず、Niめっきで形成された中間層を有した比較例2−1では、耐熱試験後の摺動特性の劣化割合が大きく、本発明による下地層の耐熱効果が得られていることが分かる。
また、従来の分散めっきとして、SnやSiを分散させためっき液を用いて形成された中間層を有した比較例2−2及び比較例2−3のめっき材では、実施例2−11に比べると、摺動初期状態の動摩擦係数にはあまり大きな差はないが、回数を重ねた後の摺動特性の劣化割合が大きいことが分かる。また、耐熱試験後のμk上昇率も高く、本実施例2−11では、本発明による下地層の耐熱効果が従来の分散めっきよりも優れていることが分かる。
また、従来例1では、同様に耐熱試験後の動摩擦係数上昇が大きく、加熱していない場合と比べて倍増しており、耐熱性に劣る様子が分かる。
【0097】
これらの結果、本発明におけるめっき液(めっき層)を有するめっき材を適用した接点材料において、中間層ないしは下地層に形成することで、接点特性と摺動特性を兼ね備え、かつ貴金属層厚も薄く形成しても従来材と同等以上の特性を示す接点材料が得られることが分かる。
【0098】
更に、実施例2−15〜2−18によれば、最表面に本発明のめっき層を有するめっき材とすることで、動摩擦係数が低く、かつ耐熱試験後の動摩擦係数にも変化が生じないため、耐磨耗性を要求される摺動部材に好適であることが分かる。
【符号の説明】
【0099】
13 X線源
14 入射X線
15 シャッター
17 モノクロメーター
19 第1ピンホール
21 第2ピンホール
23 減衰器
25 第3ピンホール
27 試料
29 透過X線
31 散乱X線
33 ビームストッパー
35 検出器
図1
図2
図3