特許第6046189号(P6046189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6046189六方晶フェライト粉末および磁気記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046189
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】六方晶フェライト粉末および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/706 20060101AFI20161206BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20161206BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G11B5/706
   H01F1/11 Q
   G11B5/714
【請求項の数】11
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-69177(P2015-69177)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2015-201246(P2015-201246A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2015年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-74718(P2014-74718)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】細谷 陽一
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−054000(JP,A)
【文献】 特開2012−142529(JP,A)
【文献】 特開2005−322280(JP,A)
【文献】 特開2002−298331(JP,A)
【文献】 特開2012−133837(JP,A)
【文献】 特開2010−250922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/706
G11B 5/714
H01F 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
長軸長/短軸長<2.0 …(1)
を満たす等方状六方晶フェライト粒子を粒子数基準で70%以上含み、前記等方状とは、板状ではないことであり、
平均粒子サイズが10.0nm以上35.0nm以下であり、かつ
飽和磁化が30A・m/kg以上である六方晶フェライト粉末。
【請求項2】
保磁力が159kA/m以上318kA/m以下である請求項1に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項3】
下記式(A):
60≦KuV/kT …(A)
を満たす熱的安定性を有し、式(A)中、Kuは異方性定数、Vは活性化体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度を表す、請求項1または2に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項4】
反転磁界分布が0.8以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項5】
平均粒子サイズが20.0nm以上30.0nm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項6】
前記式(1)を満たす等方状粒子の平均粒子サイズは10.0nm以上30.0nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項7】
前記式(1)を満たす等方状粒子の平均粒子サイズは15.0nm以上25.0nm以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項8】
前記式(1)を満たす等方状粒子の粒子サイズの変動係数は30%以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項9】
前記式(1)を満たす等方状六方晶フェライト粒子を粒子数基準で80%以上含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項10】
磁気記録用磁性粉である請求項1〜9のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末。
【請求項11】
非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の六方晶フェライト粉末である磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶フェライト粉末および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶フェライト粉末は、磁気記録媒体の磁性層に含まれる強磁性粉末として広く用いられている。六方晶フェライト粉末は、保磁力は永久磁石材料にも用いられた程に大きく、保磁力の基である磁気異方性は結晶構造に由来するため粒子を微細化しても高保磁力を維持することができる。更に、六方晶フェライト粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト粉末は、高密度記録化に適した強磁性粉末である。
【0003】
近年、上記優れた特性を有する六方晶フェライト粉末を改良するための各種提案がなされている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−208969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録媒体、特にバックアップテープ等の高密度記録媒体には、長期にわたり高い信頼性を持って使用可能であること、即ち優れた走行耐久性を有することも求められる。そのためには、強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層(塗膜)を有する塗布型磁気記録媒体(以下、単に「磁気記録媒体」ともいう。)については、磁性層が記録再生時にヘッドとの摺動により大きく削れることのない、高い塗膜耐久性を有することが望ましい。
【0006】
また、磁気記録分野では、磁性層の充填度向上およびノイズ低減のために、磁性層に含まれる強磁性粉末の微粒子化が求められる。この点に関し、特許文献1には、六方晶フェライト粉末の一種であるバリウムヘキサフェライトのサイズ等の制御のために、超臨界水または亜臨界水の存在下での水熱合成反応に有機分子を共存させることが提案されている。そして特許文献1には、特許文献1の実施例において、平均サイズ8nmのバリウムヘキサフェライトが得られたと記載されている(特許文献1の段落0036参照)。
【0007】
一方、磁気特性に関しては、飽和磁化σsが高い強磁性粉末を含む磁気記録媒体は、高出力を示すことができるためSNR(signal-to-noise-ratio)向上を達成することができる。したがって、六方晶フェライト粉末の飽和磁化σsを高めることは、高SNRを達成可能な磁気記録媒体を得る観点から好ましい。しかるに特許文献1には、特許文献1の実施例で得られたバリウムヘキサフェライトは、従来報告されていた製法により製造されたものよりも飽和磁化が低いと記載されている。更に特許文献1には、その理由について、粒子サイズが減少するとそれに並行して飽和磁化が減少することは一般に知られた現象であると記載されている(特許文献1の段落0040参照)。
【0008】
以上の通り、磁気記録分野では、強磁性粉末の微粒子化、飽和磁化の向上、および磁性層の塗膜耐久性向上が求められている。しかるに本発明者の検討によれば、特許文献1に記載の方法をはじめとする従来の技術では、上記すべてを達成することは、困難である。
【0009】
そこで本発明の目的は、六方晶フェライト粉末の微粒子化と飽和磁化の向上をともに達成することができ、しかも塗膜耐久性の高い磁性層を形成可能な六方晶フェライト粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、
下記式(1):
長軸長/短軸長<2.0 …(1)
を満たす等方状六方晶フェライト粒子を粒子数基準で70%以上含み、
平均粒子サイズが10.0nm以上35.0nm以下であり、かつ
飽和磁化が30A・m/kg以上である六方晶フェライト粉末、
を新たに見出した。上記六方晶フェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として含む磁気記録媒体は、磁性層が高い塗膜耐久性を示すことができることも、本発明者による検討により明らかとなった。粒子サイズが小さな六方晶フェライト粉末であっても、上記の等方状粒子を粒子数基準で70%以上含むものであれば、30A・m/kg以上の飽和磁化を示すことができる点は、特許文献1をはじめとする従来の技術からは予期し得ない、本発明者により得られた新たな知見である。更に、そのような六方晶フェライト粉末を強磁性粉末として含む磁性層が、高い塗膜耐久性を示すことができることも、本発明者により新たに見出された知見である。
【0011】
ここで本発明における粒子サイズとは、以下に特記する場合を除き長軸長とし、平均粒子サイズとは平均長軸長とする。また、粒子サイズは、透過型電子顕微鏡観察法により求められる値とする。具体的には、加速電圧100kVの電子顕微鏡(例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型)を用いて直接法で撮影した粒子写真における、500個の粒子について長軸長を求め、500個の粒子の長軸長の平均値(算術平均)を平均長軸長とする。より詳しくは、粒子写真を、撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントする。粒子写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースし画像解析ソフト(例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS−400)で粒子の長軸長を測定する。長軸長とは、粒子の長さを最も長く取ることができる軸(直線)を長軸として決定し、この長軸の長さとする。一方、短軸とは、長軸と直交する直線で粒子長さを取ったときに最も長さが長くなる軸として決定し、この軸の長さを短軸長とする。ただし、形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、粒子サイズとは球相当径とし、平均粒子サイズとは平均球相当径をいうものとする。具体的には、加速電圧100kVの電子顕微鏡(例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型)を用いて直接法で撮影した粒子写真における、500個の粒子の投影面積から球相当径を求め、500個の粒子の平均値を平均球相当径とする。
【0012】
本発明における粒子に関する「等方状」とは、板状ではないことをいうものとする。等方状には、楕円状、球状が包含され、また八面体形状や不定形も包含される。一方、板状とは主表面を有する形状であり、主表面とは、粒子上で最も多くの面積を占める外表面のことをいう。例えば板状の六方晶フェライトの粒子形状の一例としては、六角平面形状が挙げられる。六角平面形状において、最も多くの面積を占める表面は六角形の外表面であり、この部分を主表面という。
【0013】
上記式(1)を満たす等方状粒子が六方晶フェライト粉末に占める割合(粒子数基準)は、無作為に抽出した500個の粒子について、長軸長と短軸長を測定し、これらの比(長軸長/短軸長)を求め、500個の粒子の中で式(1)を満たす等方状粒子数の全粒子数(500個)に占める割合として算出される。長軸長、短軸長は、平均粒子サイズの測定方法について先に記載した透過型電子顕微鏡観察法により求めるものとする。また、後述する式(1)を満たす等方状粒子の平均粒子サイズとは、上記方法により粒子サイズを測定した500個の粒子の中で、式(1)を満たす等方状粒子と判定された全粒子についての長軸長の平均値(平均長軸長(算術平均))とする。また、後述する式(1)を満たす等方状粒子の粒子サイズの変動係数とは、等方状粒子と判定された粒子の長軸長について標準偏差を求め、上記の等方状粒子の平均長軸長で除した値である。
【0014】
以上記載した平均粒子サイズ、長軸長、短軸長は、粉末として存在するものについては、この粉末を透過型電子顕微鏡により観察し求めることができる。一方、磁気記録媒体に含まれている粉末については、磁気記録媒体から粉末を採取し測定用試料を得ることができる。例えば、磁性層からの六方晶フェライト粉末の採取は、以下の方法により行うことができる。
1.磁性層表面にヤマト科学製プラズマリアクターで1〜2分間表面処理を施し、磁性層表面の有機物成分(結合剤、硬化剤等)を灰化して取り除く。
2.シクロヘキサノンまたはアセトンなどの有機溶剤を浸したろ紙を金属棒のエッジ部に貼り付け、その上で上記1.の処理後の磁性層表面をこすり、磁性層成分を磁気テープからろ紙へ転写し剥離する。
3.上記2.で剥離した成分をシクロヘキサノンやアセトンなどの溶媒の中に振るい落とし(ろ紙ごと溶媒の中にいれ超音波分散機で振るい落とす)、溶媒を乾燥させ剥離成分を取り出す。
4.上記3.でかき落とした成分を十分洗浄したガラス試験管に入れ、その中にn−ブチルアミンを磁性層成分の20ml程度加えてガラス試験管を封緘する。(n−ブチルアミンは、灰化せず残留した結合剤を分解できる量加える。)
5.ガラス試験管を170℃で20時間以上加熱し、有機物成分を分解する。
6.上記5.の分解後の沈殿物を純水で十分に洗浄後乾燥させ、粉末を取り出す。
7.上記6.で採取した粉末にネオジウム磁石を近づけ吸着した粉末(即ち六方晶フェライト粉末)を取り出す。
以上の工程により、磁性層から六方晶フェライト粉末を採取することができる。上記処理による粒子へのダメージはほとんどないため、上記方法により、磁性層に含まれていた状態の粉末の粒子サイズの測定が可能である。
【0015】
一態様では、上記六方晶フェライト粉末の保磁力は、159kA/m以上318kA/m以下(2000Oe以上4000Oe以下)である。
【0016】
一態様では、上記六方晶フェライト粉末は、下記式(A):
60≦KuV/kT …(A)
を満たす熱的安定性を有する。ここで、式(A)中、Kuは異方性定数、Vは活性化体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度を表す。
【0017】
一態様では、上記六方晶フェライト粉末の反転磁界分布は、0.8以下である。
【0018】
一態様では、上記六方晶フェライト粉末の平均粒子サイズは、20.0nm以上30.0nm以下である。
【0019】
一態様では、上記式(1)を満たす等方状粒子の平均粒子サイズは、10.0nm以上30.0nm以下である。
【0020】
一態様では、上記式(1)を満たす等方状粒子の平均粒子サイズは、15.0nm以上25.0nm以下である。
【0021】
一態様では、上記式(1)を満たす等方状粒子の粒子サイズの変動係数は、30%以下である。
【0022】
一態様では、上記六方晶フェライト粉末は、上記式(1)を満たす等方状六方晶フェライト粒子を粒子数基準で80%以上含む。
【0023】
一態様では、上記六方晶フェライト粉末は、磁気記録用磁性粉として用いられる。
【0024】
本発明の更なる態様は、
非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
強磁性粉末が、上記六方晶フェライト粉末である磁気記録媒体、
に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、優れた電磁変換特性と磁性層の高い塗膜耐久性とを兼ね備えた磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】前駆体調製に使用可能な回分式反応槽の一例を示す概略断面図である。
図2】前駆体調製に使用可能な連続式反応槽の一例を示す概略断面図である。
図3】連続的水熱合成法による六方晶フェライトの調製に使用可能な製造装置の一例の概略説明図である。
図4】連続的水熱合成法による六方晶フェライトの調製に使用可能な製造装置の一例の概略説明図である。
図5】連続的水熱合成法による六方晶フェライトの調製に使用可能な製造装置の一例の概略説明図である。
図6】連続的水熱合成法による六方晶フェライトの調製に使用可能な製造装置の一例の概略説明図である。
図7】連続的水熱合成法による六方晶フェライトの調製に使用可能な製造装置の一例の概略説明図である。
図8】連続的水熱合成法による六方晶フェライトの調製に使用可能な製造装置の一例の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[六方晶フェライト粉末]
本発明の一態様にかかる六方晶フェライト粉末は、下記式(1):
長軸長/短軸長<2.0 …(1)
を満たす等方状六方晶フェライト粒子を粒子数基準で70%以上含み、平均粒子サイズが10.0nm以上35.0nm以下であり、かつ飽和磁化が30A・m/kg以上である。
以下、上記六方晶フェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0028】
<六方晶フェライト粉末のサイズ、形状>
上記六方晶フェライト粉末は、平均粒子サイズが10.0nm以上35.0nm以下である
なお平均粒子サイズとは、先に記載した方法により求められる。平均粒子サイズが10nm以上の六方晶フェライト粉末は、磁化の安定性が高く、磁気記録用磁性粉として好適である。この点から平均粒子サイズは、12.0nm以上であることが好ましく、15.0nm以上であることがより好ましい。また、磁性層の塗膜耐久性をより向上する観点からは、平均粒子サイズは、15.0nm以上であることが好ましく、20.0nm以上であることがより好ましい。一方、平均粒子サイズが35.0nm以下の六方晶フェライト粉末は、高密度記録用の磁性粉として好適である。この点から平均粒子サイズは、好ましくは33.0nm以下であり、より好ましくは30.0nm以下である。
【0029】
先に記載した通り、従来、上記平均粒子サイズを有する六方晶フェライト粉末において、飽和磁化を向上することは困難であった。これに対し本発明者は、六方晶フェライト粉末を構成する粒子の中で粒子数基準で70%以上の粒子が、下記式(1):
長軸長/短軸長<2.0 …(1)
を満たし、かつ前述の定義による等方状粒子に該当するものである六方晶フェライト粉末が、高い飽和磁化を示すことができることを新たに見出した。式(1)を満たす等方状粒子において、上記の比(長軸長/短軸長)は、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.2以上である。上記六方晶フェライト粉末において式(1)を満たす等方状粒子の占める割合は、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上である。また、式(1)を満たす等方状粒子の占める割合は、例えば99%以下、98%以下、または96%以下であるが、式(1)を満たす等方状粒子の占める割合は高いほど好ましく、100%であってもよい。
【0030】
上記六方晶フェライト粉末は、粉末を構成する粒子の多く(70%以上)が式(1)を満たす等方状粒子であり、粒子形状のばらつきが少ない粉末と言える。一方、粒子サイズについては、式(1)を満たす等方状粒子の粒子サイズのばらつきが小さいことは、六方晶フェライト粉末の磁気特性向上の観点から好ましい。この点から、上記六方晶フェライト粉末に含まれる式(1)を満たす等方状粒子について、粒子サイズの変動係数は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは25%以下である。また、式(1)を満たす等方状粒子の粒子サイズの変動係数は、例えば10%以上または15%以上であることができるが、小さいほど好ましい。式(1)を満たす等方状粒子の平均粒子サイズについては、10.0nm以上であることが好ましく、12.0nm以上であることが好ましく、14.0nm以上であることがより好ましい。また、式(1)を満たす等方状粒子の平均粒子サイズは、30.0nm以下であることが好ましく、25.0nm以下であることがより好ましく、20.0nm以下であることが更に好ましい。
【0031】
<磁気特性、熱的安定性>
飽和磁化については、上記六方晶フェライト粉末の飽和磁化は、30A・m/kg以上である。平均粒子サイズが10nm以上30nmの六方晶フェライト粉末において、30A・m/kg以上の飽和磁化を実現することは従来困難であったところ、上記のように粒子形状のばらつきを低減することにより実現することが可能となったものである。飽和磁化は、好ましくは33A・m/kg以上であり、より好ましくは35A・m/kg以上である。一方、飽和磁化は、ノイズ低減の観点からは、80A・m/kg以下であることが好ましく、60A・m/kg以下であることがより好ましい。
【0032】
また、上記のように粉末を構成する粒子の形状やサイズのばらつきが小さいことは、磁気特性のばらつき低減の観点から好ましい。この点に関し、磁気特性のばらつきの指標としては、保磁力を示す反転磁界分布SFD(Switching Field Distribution)を挙げることができる。上記六方晶フェライト粉末のSFDは、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.7以下であり、更に好ましくは0.6以下である。また、SFDは、例えば0.2以上であるが、小さいほど好ましい。
【0033】
磁気特性に関し、上記六方晶フェライト粉末の保磁力は、磁化の安定性の観点からは、159kA/m以上(2000Oe以上)であることが好ましく、199kA/m以上(2500Oe以上)であることがより好ましい。また、記録のしやすさ(書き込み容易性)の観点からは、保磁力は318kA/m以下(4000Oe以下)であることが好ましく、279kA/m以下(3500Oe以下)であることがより好ましい。上記のように形状のばらつきを低減することにより、上記範囲の保磁力を得ることができる。
【0034】
また、六方晶フェライト粉末をはじめとする各種強磁性粉末においては、一般に粒子サイズを小さくするほど磁化の熱的安定性は低下し記録保持性は低下する傾向があると言われている。したがって粒子サイズの低減と磁化の熱的安定性をともに達成することは、磁気記録分野において解決すべき課題とされている。これに対し本発明者は、上記のように形状のばらつきを低減し、式(1)を満たす等方状粒子の占める割合を高めた六方晶フェライト粉末は、磁化の熱的安定性にも優れることも、新たに見出した。熱的安定性の指標としては、KuV/kTが挙げられる。ここでKuは異方性定数、Vは活性化体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。KuVとは磁気エネルギーを、kTとは熱エネルギーを意味する。磁気エネルギーKuVを熱エネルギーkTに対して大きくすることで熱揺らぎの影響を抑えることが可能となるためKuV/kTの大きな六方晶フェライト粉末は熱的安定性の高い強磁性粉末と言える。上記六方晶フェライト粉末は、先に記載したように形状のばらつきが低減されており、これにより磁化の熱的安定性として、下記式(A):
60≦KuV/kT …(A)
を満たす熱的安定性を示すことができる。より好ましくは、KuV/kTは70以上であり、更に好ましくは75以上である。KuV/kTは、例えば100以下、または90以下であるが、高いほど好ましい。
【0035】
以上記載した磁気特性および熱的安定性は、振動試料型磁束計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて求めることができる。測定方法の具体例を、後述の実施例に示す。
【0036】
更に、上記六方晶フェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることにより、高い塗膜耐久性(塗膜強度)を有する磁性層を形成することが可能となる。この点について本発明者は、粉末を構成する粒子の多くを式(1)を満たす等方状粒子が占めていることが、磁性層の塗膜耐久性向上に寄与しているのではないかと推察している。ただしこれは本発明者による推察であって、本発明を何ら限定するものではない。
【0037】
<製造方法>
本発明の一態様にかかる六方晶フェライト粉末は、共沈法、逆ミセル法、水熱合成法、ガラス結晶化法等の六方晶フェライト粉末の製造方法として公知の製造方法により製造することができる。好ましい製造方法の一態様として、水熱合成法による製造方法について以下に説明するが、本発明は下記態様に限定されるものではない。
【0038】
水熱合成法とは、六方晶フェライト前駆体を含む水系溶液を加熱することにより六方晶フェライト前駆体を六方晶フェライト粉末に転換する手法である。中でも、粒子サイズの小さな六方晶フェライト粉末を容易に得る観点からは、六方晶フェライト前駆体を含む水系流体を反応流路に送液しつつ加熱および加圧することにより、加熱および加圧されている水(以下、「高温高圧水」とも記載する。)、好ましくは亜臨界〜超臨界状態の水の高い反応性を利用し、六方晶フェライト前駆体をフェライトに転換する連続的水熱合成法が好ましい。
【0039】
連続的水熱合成法において、得られる六方晶フェライト粉末の形状を制御する具体的手法としては、
(1)六方晶フェライト前駆体調製時の反応系のpH変動を抑制する;
(2)六方晶フェライト前駆体を六方晶フェライトに転換する反応を、還元性化合物存在下で行う;
(3)高温高圧水と、六方晶フェライト前駆体と、後述する有機化合物の共存開始箇所における液温を制御する;
(4)六方晶フェライト前駆体を六方晶フェライトに転換する反応を行う反応系のpHを制御する;
等が挙げられ、これらの1つまたは2つ以上を任意に組み合わせて行うことにより、先に記載した本発明の一態様にかかる六方晶フェライト粉末を得ることができる。
以下に、連続的水熱合成法について更に詳細に説明する中で、上記具体的手法についても説明する。
【0040】
(六方晶フェライト前駆体の調製)
(i)原材料(鉄塩、二価金属塩)、塩基、水系溶媒
六方晶フェライト前駆体とは、高温高圧の水の存在下に置かれることにより六方晶フェライトに転換(フェライト化)するものであればよい。高温高圧の水とは、加熱および加圧されている水をいい、詳細は後述する。前駆体は、水に対して高い溶解性を示し後述する水系溶媒に溶解するものであってもよく、水に対する溶解性に乏しく、水系溶媒中でコロイド粒子として分散(ゾル状)していてもよい。
【0041】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(M型)、W型、Y型、Z型が知られている。上記製造方法により得られる六方晶フェライトは、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。例えば、置換原子を含まないM型六方晶フェライトは、AFe1219で表される金属酸化物である。ここでAは、二価金属原子である。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンとなり得る金属原子であって、バリウム、ストロンチウム、カルシウム等のアルカリ土類金属原子や鉛等が包含される。なお六方晶フェライトには、上記二価金属原子の一部が、置換原子により置換されているものもある。そのような六方晶フェライトを得る場合には、二価金属塩とともに、置換原子を含む塩を併用すればよい。二価金属原子を置換し得る原子としては、例えば、後述の任意原子を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
以上説明した六方晶フェライトの前駆体は、鉄塩と二価金属塩とを、塩基を含む水系溶液中で混合することにより得ることができる。上記水系溶液中では、通常、鉄原子と二価金属原子とを含む塩(例えば水酸化物)が粒子状、好ましくはコロイド粒子として析出する。ここで析出する粒子は、その後に高温高圧の水の存在下に置かれることによりフェライト化し六方晶フェライトとなる。
【0042】
二価金属塩としては、バリウム、ストロンチウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の塩や鉛塩を用いることができる。二価金属原子の種類は、所望の六方晶フェライトに応じて決定すればよい。例えばバリウムフェライトを得たい場合には、二価金属塩としてバリウム塩を使用し、ストロンチウムフェライトを得たい場合には、ストロンチウム塩を使用する。また、バリウムフェライトとストロンチウムフェライトとの混晶を得たい場合には、二価金属塩としてバリウム塩とストロンチウム塩を併用すればよい。塩としては、水溶性塩が好ましく、例えば、水酸化物、塩化物、臭化物、沃化物等のハロゲン化物、硝酸塩等を用いることができる。また、水和物を用いてもよい。
【0043】
鉄塩としては、鉄の水溶性塩、例えば、塩化物、臭化物、沃化物等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、有機酸塩および錯塩等を用いることができる。また、水和物を用いてもよい。鉄塩と二価金属塩の混合比および添加量は、所望のフェライト組成に応じて決定すればよい。また、鉄塩、二価金属塩に加えて、鉄原子および二価金属原子とともに六方晶フェライトを構成可能な任意原子の塩を添加してもよい。そのような任意原子としては、Nb、Co、Ti、Zn等が挙げられる。上記任意原子の塩の添加量も、所望のフェライト組成に応じて決定すればよい。
【0044】
以上説明した塩を、水系溶媒中、好ましくは塩基を含む水系溶媒中で混合することにより、これらの塩に含まれていた原子を含む六方晶フェライト前駆体が析出する。主に、塩基を含む水系溶媒中の水酸化物イオン(OH)が、鉄塩に含まれていた鉄イオンおよび二価金属塩に含まれていた二価金属イオンと水酸化物ゾルを形成することにより、前駆体が形成されると考えられる。そしてここで析出する前駆体は、その後、六方晶フェライトに転換(フェライト化)される。
【0045】
本発明における塩基とは、アレニウスの定義、ブレンステッドの定義、およびルイスの定義のいずれか1つ以上により塩基と定義される(アレニウス塩基、ブレンステッド塩基、ルイス塩基)ものをいう。
塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、無機塩基に限定されるものではなく、有機塩基を用いることもできる。前駆体調製のための水系溶液が塩基を含む場合、塩基とともに添加される塩の中には酸性を示すものもあるため、水系溶液のpHは、塩基性に限定されるものではなく、中性または酸性の場合もある。水系溶液のpHは、前駆体調製時(反応時)の液温でのpHとして、例えば4.00以上14.00以下であり、前駆体調製のための反応を良好に進行させる観点から、5.00以上14.00以下であることが好ましく、6.00以上13.00以下であることがより好ましく、6.00以上12.00以下であることが一層好ましい。7.00以上または7.00超のpH(中性〜塩基性)であることが、より一層好ましい。反応時の水系溶液の液温は、加熱または冷却により温度制御してもよく、温度制御なしの室温であってもよい。好ましくは、上記液温は、10〜90℃の範囲であり、温度制御なし(例えば20〜25℃程度)で反応を十分に進行させることができる。温度制御のために、後述する反応槽は、加熱手段や冷却手段を備えていてもよい。また、後述する送液路を、温度制御のために加熱手段によって加熱してもよく、冷却手段によって冷却してもよい。
【0046】
水系溶媒とは、水を含む溶媒をいい、水のみであってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。前駆体の調製に用いる水系溶媒は、水が50質量%以上を占めることが好ましく、水のみであることがより好ましい。
【0047】
水系溶媒において水と併用され得る有機溶媒としては、水と混和性のもの、または、親水性のものが好ましい。この点からは極性溶媒の使用が好適である。ここで極性溶媒とは、誘電率が15以上、溶解パラメータが8以上の少なくとも一方を満たす溶媒をいう。好ましい有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、ニトリル類、ラクタム類、オキシム類、アミド類、尿素類、アミン類、スルフィド類、スルホキシド類、リン酸エステル類、カルボン酸類またはカルボン酸誘導体であるエステル類、炭酸または炭酸エステル類、エーテル類などが挙げられる。
【0048】
(ii)還元性化合物
上記のように調製された六方晶フェライト前駆体を六方晶フェライトに転換する反応は、還元性有機化合物および還元性無機化合物からなる群から選択される還元性化合物の存在下で行うことができる。一態様では、そのためには、六方晶フェライト前駆体の調製を、還元性化合物の存在下で行ってもよい。例えば、具体的一態様では、還元性化合物を、前駆体調製時に原材料および塩基とともに水系溶媒と混合することができる。前駆体調製のための水系溶液中に還元性化合物を共存させることにより、前駆体表面および内部の少なくともいずれかに還元性化合物を存在させることができる。ここで還元性とは、他の化合物へ水素原子を付加する能力および電子を供与する能力の一方または両方を有することを言う。還元性化合物としては、常温常圧下で固体または液体として存在する化合物が好ましい。常温常圧下で固体または液体で存在するとは、少なくとも、25℃1気圧(約1013.25hPa)において固体または液体として存在することをいい、固体と液体が混合した状態で存在することも包含されることとする。還元性化合物として常温常圧下で固体または液体として存在する化合物を用いることは、前駆体における還元性化合物の存在状態(例えば表面への付着状態)の均一性を高めるうえで好ましい。また、工程の安全性の観点からも、常温常圧下で固体または液体として存在する化合物は好ましい。
【0049】
還元性化合物の具体例としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウムなどのヒドリド化合物、ホルマリンやアセトアルデヒド等のアルデヒド類、亜硫酸塩類、蟻酸、蓚酸、コハク酸、アスコルビン酸等のカルボン酸類もしくはラクトン類、エタノール、ブタノール、オクタノール等の脂肪族モノアルコール類、ターピネオール等の脂環族モノアルコール類等のモノアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の脂肪族ジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類、ジエタノールアミンやモノエタノールアミン等のアルカノールアミン類、ハイドロキノン、レゾルシノール、アミノフェノール、ブドウ糖、もしくはクエン酸ナトリウム、次亜塩素酸またはその塩等が挙げられる。また後述する有機化合物の中で還元性を示すもの、好ましくは常温常圧下で固体または液体として存在するものを、還元性化合物として用いてもよい。好ましい還元性化合物としては、ヒドラジン化合物およびアミン化合物を挙げることができる。
【0050】
ヒドラジン化合物には、ヒドラジン(NH−NH)、およびヒドラジンの4つの水素原子の1つ以上が置換基によって置換されたヒドラジン誘導体、それらの水和物および塩が包含される。なお本発明および本明細書において置換基としては、例えば、直鎖、分岐、または環状のアルキル基(例えば炭素数1〜6のアルキル基)、アルコキシ基(例えば炭素数1〜6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、アリール基(例えばフェニル基)、ヘテロアリール基等を挙げることができる。また、ヒドラジン化合物の好ましい具体例としては、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジニウム、フェニルヒドラジン、1-メチル-1-フェニルヒドラジン、1,1-ジフェニルヒドラジン塩酸塩等を挙げることができる。
【0051】
アミン化合物としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれであってもよい。また、構造中に環状構造を含んでいてもよい。アミン化合物の具体例としては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどが挙げられる。また、後述の有機アミンを用いてもよい。
【0052】
前駆体調製時に還元性化合物を混合する場合、前駆体の原材料である鉄塩および二価金属塩の合計100モル部に対して、2モル部以上添加することが好ましく、5モル部以上添加することがより好ましく、10モル部以上添加することが更に好ましく、20モル部以上添加することがいっそう好ましく、30モル部以上添加することがよりいっそう好ましく、40部以上添加することが更にいっそう好ましく、50部以上添加することがなおいっそう好ましい。また、その添加量は300モル部以下とすることが好ましく、250モル部以下とすることがより好ましく、200モル部以下とすることが更に好ましく、150モル部以下とすることがいっそう好ましく、100モル部以下とすることがよりいっそう好ましい。
【0053】
(iii)有機化合物
上記の前駆体の調製は、有機化合物(還元性の有無を問わない)の存在下で行うこともできる。有機化合物の存在下で調製された前駆体は、表面に有機化合物が被着した状態で六方晶フェライトに転換され(転換反応に付され)、高温高圧の水が存在する反応系内で一旦瞬間的に溶解した後に結晶化し、これにより六方晶フェライトが粒子として析出する(六方晶フェライトへ転換する)と考えられる。この溶解〜結晶化までの間に粒子近傍に有機化合物が存在することが、結晶化する六方晶フェライト粒子の微粒子化、粒子サイズの均一化、形状制御に寄与するのではないかと、本発明者は推察している。また、前駆体を有機化合物存在下で調製することは、前駆体の凝集が抑制され、粒子サイズが小さく、更には粒子サイズの均一性に優れる前駆体が得られることに寄与し、このことがより一層微粒子で、更には粒子サイズの均一性に優れる六方晶フェライトが得られることに寄与するのではないかと、本発明者は考えている。
【0054】
有機化合物としては、例えば、有機カルボン酸類、有機窒素化合物類、有機硫黄化合物類、有機リン化合物類およびそれらの塩、界面活性剤、各種ポリマーなどが挙げられる。ポリマーとしては、重量平均分子量が1000〜10万程度のポリマーが好適であり、水溶性を示すものが好ましい。また、好ましいポリマーとしては、非イオン性ポリマー、水酸基含有ポリマーを挙げることができる。上記の塩としては、アルカリ金属塩が好適である。なお本発明における重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値をいうものとする。
【0055】
有機カルボン酸類としては、脂肪族カルボン酸類、脂環式カルボン酸類、芳香族カルボン酸類などが挙げられ、脂肪族カルボン酸類が好ましい。脂肪族カルボン酸は飽和脂肪族カルボン酸でも不飽和脂肪族カルボン酸でもよく、不飽和カルボン酸が好ましい。カルボン酸類の炭素数は、特に限定されるものではなく、例えば2以上である。また、例えば24以下であり、好ましくは20以下であり、より好ましくは16以下である。脂肪族カルボン酸の具体例としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、酢酸など、さらにはマロン酸、コハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸類などが挙げられるが、これに限定されるものではない。有機カルボン酸およびその塩は、上記製造方法において好適な有機化合物の1つである。
【0056】
有機窒素化合物類としては、有機アミン類、有機アミド化合物類、窒素含有複素環式化合物類などが挙げられる。
【0057】
有機アミン類としては、1級アミン類、2級アミン類および3級アミン類のいずれであってもよい。好ましくは1級アミン類、2級アミン類が挙げられる。例えば、脂肪族アミン類などが挙げられ、1級脂肪族アミン類、2級脂肪族アミン類を挙げることができる。アミン類の炭素数は、特に限定されるものではなく、例えば5以上24以下、好ましくは8以上20以下、より好ましくは12以上18以下である。有機アミン類の具体例としては、例えば、オレイルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン類、アニリン等の芳香族アミン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の水酸基含有アミン類、さらにそれらの誘導体などが挙げられる。
【0058】
窒素含有複素環式化合物類としては、例えば、窒素原子を1〜4個含有している飽和または不飽和の3〜7員環を有する複素環式化合物類が挙げられる。ヘテロ原子として硫黄原子、酸素原子などを含有していてもよい。具体例としては、例えば、ピリジン、ルチジン、コリジン、キノリン類などが挙げられる。
【0059】
有機硫黄化合物類としては、有機スルフィド類、有機スルホキシド類、硫黄含有複素環式化合物類などが挙げられる。具体例としては、例えば、ジブチルスルフィド等のジアルキルスルフィド類、ジメチルスルホキシドやジブチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシド類、チオフェン、チオラン、チオモルホリン等の硫黄含有複素環式化合物類などが挙げられる。
【0060】
有機リン化合物類としては、リン酸エステル類、フォスフィン類、フォスフィンオキシド類、トリアルキルフォスフィン類、亜リン酸エステル類、フォスフォン酸エステル類、亜フォスフォン酸エステル類、フォスフィン酸エステル類、亜フォスフィン酸エステルなどが挙げられる。例えば、トリブチルフォスフィン、トリヘキシルフォスフィン、トリオクチルフォスフィン等のトリアルキルフォスフィン類、トリブチルフォスフィンオキシド、トリヘキシルフォスフィンオキシド、トリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)、トリデシルフォスフィンオキシド等のトリアルキルフォスフィンオキシド類などが挙げられる。
【0061】
更に、ポリマーおよび界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン(1)ラウリルエーテルリン酸、ラウリルエーテルリン酸、ポリリン酸ナトリウム、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩、ポリビニルアルコール等の水酸基含有ポリマー、ポリビニルピロリドン等の非イオン性ポリマー、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも用いることができ、アニオン性界面活性剤が好ましい。
【0062】
有機化合物の使用量は、前駆体100質量部に対して0.01〜1000質量部の範囲とすることが好ましく、0.05〜500質量部の範囲とすることがより好ましく、0.1〜300質量部の範囲とすることがより好ましい。なお本発明において前駆体量を基準として示す値は、実測値または原材料仕込み量からの理論生成量である。
【0063】
(上記成分の混合)
前駆体調製時の原材料、塩基、必要に応じて添加される還元性化合物、有機化合物の混合順序は特に限定されるものではない。上記成分を任意の順序で順次水系溶媒へ添加してもよく、2種以上を同時に混合してもよく、すべてを同時に混合してもよい。また、一態様では、混合は、反応槽内で行うことができる。反応槽では、通常、マグネチックスターラー等の公知の撹拌手段により上記成分と水系溶媒を含む水系溶液の撹拌混合が行われる。また、他の一態様では、前駆体の調製を、連続的な製造プロセスの中で行うこともできる。好ましくは、鉄塩および二価金属塩を含む溶液が送液されている送液路を、塩基含有水系溶液が送液されている送液路と合流させることにより、両溶液を混合することによって、前駆体を調製することができる。
【0064】
一態様では、前駆体調製工程を、反応槽への原材料を継続して供給しながら行うことができる。このように原材料を全量一度に供給せず継続して反応槽へ継続して供給することは、前駆体調製のための反応が穏やかに進行することに寄与すると考えられる。このことは、得られる前駆体の粗大化を防ぎ、この前駆体から得られる六方晶フェライトの微粒子化に寄与すると、本発明者は推察している。供給を継続する期間(以下、供給継続期間と記載する。)を開始する前の反応槽には、少なくとも水系溶媒が含まれていることが、供給される原材料を均一に混合する観点から好ましい。水系溶媒の詳細は、先に記載した通りである。継続供給開始の反応槽中の水系溶媒には、鉄塩、二価金属塩、および塩基からなる群から選択される一種以上が含まれていてもよい。原材料の供給を継続的に行うことによる効果を十分に得るために、供給継続期間開始前の反応槽中の溶液(反応前溶液)には、鉄塩と塩基は共存しないことが好ましい。鉄イオンと水酸化物イオンにより形成される水酸化物は水系溶媒への溶解性に乏しいため、鉄塩と二価金属塩が共存すると析出物の形成が開始される可能性が高いことが、主な理由である。一方、二価金属イオンと水酸化物イオンにより形成される水酸化物の水系溶媒への溶解性は比較的高いため、二価金属塩と塩基が共存したとしても析出物が形成される可能性は低い。したがって、反応前溶液に、二価金属塩と塩基が共存してもよい。継続供給開始前に、酸または塩基によりpH調整を行うこともできる。ここで使用される塩基については、先に記載した通りである。酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等のpH調整に使用される公知の酸を何ら制限なく使用することができる。また、酸としては、無機酸に限らず有機酸の使用も可能である。
【0065】
反応槽は、一態様では回分式(バッチ式)反応槽であり、他の一態様では連続式反応槽である。回分式反応槽では、原材料の供給および反応と、反応生成物の抜き取りは、別工程として行われる。一方、連続式反応槽では、原材料の供給および反応と、生成物の抜き取りは並行して行われる。したがって連続式反応槽は、少なくとも一つの供給流路と、少なくとも1つの排出流路を備えている。上記製造方法は、いずれの反応槽を用いて行ってもよい。以下に、回分式反応槽を用いる態様、連続式反応槽を用いる態様について、図面を参照し具体的態様を説明する。ただし本発明は、これらの具体的態様に限定されるものではない。
【0066】
図1は、前駆体調製に使用可能な回分式反応槽の一例を示す概略断面図である。図1に示す回分式反応槽10は、原材料を反応槽へ供給する供給路11、12、13を備えている。各供給路は、図示しない原材料貯蔵槽に接続されている。そして原材料貯蔵槽中の原材料は、通常、溶液の状態で、図示しない送液ポンプにより反応槽へ送液される。この送液ポンプにより流速を変化させることにより、原材料の供給量を制御することができる。3つの供給路からは、それぞれ、鉄塩、二価金属塩、塩基が反応槽へ供給される。なお図1では、3つの供給路を備える反応槽を示し、鉄塩、二価金属塩、塩基をそれぞれ別供給路を介して反応槽へ供給する態様を示した。ただし、鉄塩と二価金属塩を混合した後に同一供給路から反応槽に供給することもできる。一方、塩基は、反応槽内の反応液のpH変動を抑制するためには、原材料と別供給路から供給することが好ましい。塩基の供給量を、原材料の供給量とは独立に設定、調整することができるからである。この点は、連続式反応槽を用いる態様についても、同様である。また、図1に示す態様では、塩基は鉄塩および二価金属塩とは別の供給路を介して供給するため、他の供給路を介して供給される供給物(例えば鉄塩、二価金属塩、または鉄塩と二価金属塩との混合物)には、塩基は添加されない。
【0067】
図1に示す回分式反応槽10は、上記供給路とともに、撹拌羽根14を備えている。原材料の供給時に撹拌を行うことにより、反応液中で供給路の排出口に近い部分と遠い部分とでpHが不均一になることを防ぎ、反応槽中の反応液のpHを均一化することができる。撹拌方法は、撹拌羽根によるものに限定されるものではなく、マグネチックスターラー、スタティックミキサー等の各種撹拌手段を、何ら制限なく用いることができる。なお撹拌羽根の周速等の撹拌条件は特に限定されるものではない。
【0068】
鉄塩、二価金属塩および塩基は、固体の状態で供給してもよく、液体の状態で供給してもよい。反応槽中での混合時の均一化が容易である点で、液体として、例えばこれらを適当な水系溶媒に溶解または分散させた水系溶液として、添加することが好ましい。水系溶液中の塩または塩基の濃度は適宜設定すればよい。
【0069】
鉄塩、二価金属塩および塩基の供給は、これら三種の供給を同時に開始してもよく、任意の順番で順次開始してもよい。鉄塩と塩基が反応槽中の反応液に共存するようになった時点をもって、継続供給期間の開始とし、すべての原材料の供給が停止した時点をもって、継続供給期間の終了とする。なお鉄塩と塩基が反応槽中の反応液に共存するようになった時点とは、鉄塩および塩基のいずれか一方を含む反応前溶液に他方の供給が開始された時点、鉄塩も塩基も含まない反応前溶液に鉄塩および塩基の供給が同時に開始された時点、鉄塩も塩基も含まない反応前溶液に鉄塩および塩基のいずれか一方の供給が先行して行われた場合に他方の供給が開始された時点、等があり得る。なお本発明において、供給開始、および供給停止について「同時」とは、装置の動作精度等の原因により意図せず開始時期がずれることも包含するものとする。
一方、反応槽への二価金属塩の供給は、任意の段階で開始される。例えば、鉄塩および塩基の供給開始前または後、いずれか一方の供給開始から他方の供給開始前の間の期間、等に、反応槽への二価金属塩の供給を開始することができる。供給継続期間中の原材料の供給については、常時供給を続ける(継続的に供給する)ことにより行ってもよく、供給の実施と停止を繰り返す(断続的に供給する)ことにより行ってもよい。少なくとも、単位時間あたりの供給量を制御する制御対象の原材料は、精密かつ容易な制御を行う観点からは、連続的に供給することが好ましい。
【0070】
そして好ましくは、継続供給期間開始前の反応槽中の溶液(反応前溶液)のpHであるpHbeoreを基準として、継続供給期間における反応槽中の反応液のpHが、
pHbefore−2.00≦pH≦pHbefore+2.00
の範囲内にあるように、供給継続期間における鉄塩、二価金属塩、および塩基の少なくとも1つの単位時間あたりの供給量を制御する供給量制御、ならびに反応槽内の反応液への酸添加の少なくとも一方を行う。供給量制御のみ、または酸添加のみを行ってもよく、供給量制御および酸添加を並行して行ってもよく、任意の順序で、任意に繰り返し、行ってもよい。
上記の単位時間あたりの供給量とは、特に限定されるものではなく、例えば1時間あたりの供給量、1分あたりの供給量、1秒あたりの供給量等の、任意の間隔毎の供給量をいう。液体については、単位時間あたりの供給量を、流速で示すこともできる。前駆体調製時に原材料を一度に全量混合せずに供給継続期間を設けて徐々に混合することは、こうして調製される前駆体を転換して得られる六方晶フェライトの微粒子化に主に寄与すると考えられる。そして供給継続期間における反応槽中の反応液のpHを制御することは、こうして調製された前駆体の転換により得られる六方晶フェライトの粒子形状や粒子サイズの均一化に寄与すると、本発明者は推察している。これは主に、原材料の溶解度、中でも鉄塩の溶解度のpH依存性が大きいことによるものと、本発明者は考えている。ここで、単位時間あたりの供給量の制御とは、単位時間あたりの供給量を変化させること、即ち、増加させるか、減少させるか、増加させ次いで減少させるか、減少させ次いで増加させることを、1回以上行うことをいう。増加、減少は、いずれも連続的に行ってもよく、段階的に行ってもよい。増加、減少の程度(即ち供給量の増加率または減少率)は、pH変動を所望の範囲内に抑えることができればよく、任意に調整可能である。
【0071】
一方、酸添加は、好ましくは、上記原材料とは別供給路から連続的もしくは断続的に、または一回のみ行うことができる。酸については、先に記載した通りである。pH制御を精密かつ容易に行うためには、酸は液体として供給することが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0072】
上記供給量制御、酸添加により供給継続期間中のpH変動を所望の範囲内に抑えるためには、反応槽中の反応液を、pHを供給継続期間中、常時モニタリングすることが好ましい。また、公知の制御プログラムにより、モニタリング結果を送液ポンプの運転条件にフィードバック(フィードバック制御)することにより、反応槽中の反応液のpH変動を所望の範囲内に抑えることができる。なお、供給継続期間中のpHを所望の範囲内に抑えることができさえすれば、原材料の単位時間あたりの供給量は、特に限定されるものではなく、生産性等を考慮し適宜設定することができる。この点は、酸の添加量についても同様である。
供給継続期間における反応槽中の反応液のpHは、
pHbefore−1.50≦pH≦pHbefore+1.50
の範囲内にあることがより好ましく、
pHbefore−1.00≦pH≦pHbefore+1.00
の範囲内にあることが更に好ましく、
pHbefore−0.50≦pH≦pHbefore+0.50
の範囲内にあることがいっそう好ましい。
【0073】
一態様では、pH変動の主な原因となり得る塩基の単位時間あたりの供給量を制御することが好ましい。この場合、鉄塩の単位時間あたりの供給量、二価金属塩の単位時間あたりの供給量は、変化させてもよく、変化させなくてもよい。一態様では、反応の均一化の観点から、鉄塩および二価金属塩の単位時間あたりの供給量は、供給継続期間中、変化させないことが好ましい。また他の一態様では、塩基の単位時間あたりの供給量は変化させず、鉄塩および二価塩のいずれかまたは両方の単位時間あたりの供給量を変化させてもよい。
【0074】
回分式反応槽を用いる態様では、供給継続期間の終了後、任意に撹拌混合を継続した後、反応槽から取り出した前駆体含有水系溶液を、連続的水熱合成法による六方晶フェライトの調製に付し、前駆体を六方晶フェライトに転換する。一態様では、回分式反応槽に送液管を取りつけ、送液管を介して回分式反応槽から直接、連続式水熱合成法による六方晶フェライトの調製を行う反応装置へ前駆体含有水系溶液を送液することができる。他の一態様では、回分式反応槽から取り出した前駆体含有水系溶液を連続式水熱合成法による六方晶フェライトの調製を行う液槽へ移した後、連続式水熱合成プロセスによる前駆体の六方晶フェライトへの転換を行うことができる。連続的水熱合成法の詳細は、後述する。
【0075】
上記説明では、回分式反応槽へ鉄塩、二価金属塩、塩基を継続して供給する態様について記載したが、供給継続期間に反応槽へ供給されるものは上記三種の原材料に限定されるものではない。例えば精製水、蒸留水等の酸も塩基も含まない中性の水や、前述の還元性化合物、有機化合物を、供給継続期間に反応槽へ供給することもできる。これらの任意に供給される成分の単位時間あたりの供給量は、適宜設定すればよい。必須成分として反応槽へ添加される原材料の単位時間あたりの供給量制御により供給継続期間中の反応槽中のpH変動を抑制するため、任意成分については、供給継続期間中、単位時間あたりの供給量を変化させても変化させずに一定に維持してもよい。
【0076】
次に、連続式反応槽を用いる態様について、説明する。
【0077】
図2は、前駆体含有水系溶液の調製に使用可能な連続式反応槽の一例を示す概略断面図である。図2に示す連続式反応槽20は、原材料を反応槽へ供給する供給路21、22、23を備えている。各供給路は、図示しない原材料貯蔵槽に接続されている。図2に示す連続式反応槽への供給においても、原材料貯蔵槽中の原材料は、通常、溶液の状態で、図示しない送液ポンプにより反応槽へ送液される。この送液ポンプにより流速を変化させることにより、原材料の供給量を制御することができる。ここで供給継続期間開始前の連続式反応槽20には、反応前溶液が充填されている。反応前溶液については、先に記載した通りである。そして一態様では、3つの供給路からは、それぞれ、鉄塩、二価金属塩、塩基が反応槽へ供給される。少なくとも塩基が、鉄塩および二価金属塩と別供給路を介して反応槽へ供給されることが好ましく、鉄塩と二価金属塩を混合した後に同一供給路から反応槽に供給することもできる。また、先に記載した通り、水や還元性化合物、有機化合物を、供給継続期間に反応槽へ供給してもよい。
【0078】
図2に示す連続式反応槽は、反応槽内の上部および下部に、撹拌羽根25、26を備えている。撹拌羽根25、26は、図示しないモーターにより駆動し回転することで、反応槽内の反応液を撹拌混合する。攪拌羽根は、モーターと直結していてもよいし、磁気により結合されていてもよい。攪拌羽根は、上下のどちらか一方に設けてもよく、上下にあることが好ましい。上下に撹拌羽根を備える場合、上下の攪拌方向は逆方向とすることが好ましい。撹拌混合の詳細は、先に記載した通りである。図2に示す反応槽は、連続式反応槽であるため、原材料の供給と並行して、反応槽内の溶液の取り出しが行われる。図2に示す連続式反応槽20では、取り出し口24から取り出しが行われる。取り出し速度は特に限定されるものではなく、原材料の供給量(供給速度)とのバランスを考慮して決定すればよい。
その他、図2に示す連続式反応槽を用いる態様の詳細は、図1に示す回分式反応槽を用いる態様について、記載した通りである。
【0079】
前述の他の一態様である、2つの送液路を合流させることにより、鉄塩および二価金属塩を含む溶液と塩基含有水系溶液とを混合し、前駆体を調製することができる。かかる態様は、六方晶フェライト前駆体調製時の反応系のpH変動を抑制するうえで好ましい態様である。詳細については、後述する。
【0080】
<有機化合物、有機化合物溶液の調製>
有機化合物は、上記の通り、一態様では前駆体調製時に添加することができる。また、他の一態様では、有機化合物を、溶媒に添加した有機化合物溶液として、前駆体溶液と混合することができ、または高温高圧水が送液されている送液路へ導入することができる。この場合、有機化合物は、六方晶フェライト前駆体100質量部に対して1〜1000質量部程度の量で混合することが好ましい。溶媒としては、水、または水と混和性もしくは親水性の有機溶媒が好ましい。この点からは、有機溶媒としては極性溶媒の使用が好適である。好ましい有機溶媒としては、前述の各種溶媒を挙げることができる。有機化合物溶液における有機化合物濃度は、上記の好ましい量の有機化合物が混合または導入されるように設定すればよい。
【0081】
<六方晶フェライトの調製>
六方晶フェライト前駆体を六方晶フェライトに転換する反応は、好ましくは、以下の工程:
六方晶フェライト前駆体および有機化合物を、同時または順次、加熱および加圧されながら連続的に水が送液されている送液路に導入すること;
上記送液路を介して、六方晶フェライト前駆体、有機化合物および水を少なくとも含む水系溶液を、内部を流れる流体を加熱および加圧する反応流路に連続的に送液することにより、反応流路内で六方晶フェライト前駆体を六方晶フェライトに転換すること;
六方晶フェライトを含む水系溶液を、上記反応流路から排出し冷却部へ送液すること;
冷却部において冷却された水系溶液から六方晶フェライトを回収すること;
により行うことができる。ここで、上記送液路における六方晶フェライト前駆体と有機化合物との共存開始箇所の液温を制御することが、先に記載した本発明の一態様にかかる六方晶フェライト粉末を得るための手段の1つとして挙げることができる。
また、上記冷却後の水系溶液のpHは、反応流路内の反応系におけるpHと同様か、相関しており、この冷却後の水系溶液のpHを制御することも、上記六方晶フェライト粉末を得るための手段の1つとして挙げることができる。
【0082】
ここで上記の共存開始箇所とは、例えば、高温高圧水が送液されている送液路に、六方晶フェライト前駆体および有機化合物をともに含む溶液の流路を合流させるのであれば、この流路が送液路と合流する合流箇所である。
また、高温高圧水が送液されている送液路へ六方晶フェライト前駆体含有溶液の流路を合流させた後、この合流箇所より下流側に位置する箇所において、送液路へ有機化合物含有溶液の流路を合流させるのであれば、有機化合物含有溶液の流路と送液路との合流箇所である。ここで下流側とは、送液路内の送液方向において、より反応流路側をいう。また、後述する上流側とは、この逆をいう。
または逆に、高温高圧水が送液されている送液路へ有機化合物含有溶液の流路を合流させた後、この合流箇所より下流側に位置する箇所において、送液路へ六方晶フェライト前駆体含有溶液の流路を合流させるのであれば、六方晶フェライト前駆体含有溶液の流路と送液路との合流箇所である。
【0083】
一方、上記の冷却後の水系溶液のpHは、冷却部の排出口から排出された水系溶液のpHをいい、排出口から排出された水系溶液の少なくとも一部を任意の位置で回収し、液温25℃に調整し測定する値とする。
【0084】
反応流路から排出され冷却部で冷却された水系溶液のpHを制御する一手段としては、塩基、酸の添加を挙げることができる。具体的には、有機化合物として酸性化合物を使用すること、有機化合物として塩基性化合物を使用すること、有機化合物溶液に塩基、酸、または塩基および酸を混合すること、それらの添加量を反応流路から排出され冷却部で冷却された水系溶液のpHが所望の範囲となるように決定すること等を挙げることができる。ここで有機化合物について酸性とは、アレニウスの定義、ブレンステッドの定義、およびルイスの定義のいずれか1つ以上により酸(アレニウス酸、ブレンステッド酸、ルイス酸)と定義されることをいう。また、有機化合物についての塩基性とは、アレニウスの定義、ブレンステッドの定義、およびルイスの定義のいずれか1つ以上により塩基と定義される(アレニウス塩基、ブレンステッド塩基、ルイス塩基)ことをいう。一方、塩基、酸については、先に記載した通りである。
【0085】
(前駆体溶液、有機化合物溶液、高温高圧水の混合)
前駆体と有機化合物との混合の一態様としては、先に記載した通り、前駆体調製を有機化合物の存在下で行う態様が挙げられる。こうして得られた前駆体溶液には、前駆体と有機化合物が含まれ、好ましくは前駆体表面に有機化合物が被着している。以下、本態様を、態様Aと記載する。
他の一態様としては、高温高圧水が送液されている送液路へ、前駆体溶液、有機化合物溶液を順次導入する態様が挙げられる。以下、本態様を、態様Bと記載する。
また、他の一態様としては、前駆体溶液と有機化合物溶液とを混合した後に、得られた混合溶液を高温高圧水が送液されている送液路へ導入する態様が挙げられる。以下、本態様を、態様Cと記載する。
態様B、Cには、更に、前駆体の調製も連続的な製造プロセスの中で行う態様も包含される。
以下、上記態様A〜Cについて、図面を参照し説明する。
【0086】
図3図8は、それぞれ、水熱合成プロセスを連続的に行うこと(連続的水熱合成プロセス)により六方晶フェライト粉末を製造するために使用可能な製造装置の概略説明図である。
より詳しくは、図3は、態様Aに好適な製造装置の一例の概略説明図である、図4は、態様Bに好適な製造装置の一例の概略説明図である。図5は、態様Cに好適な製造装置の一例の概略説明図である。
また、図6図7は、それぞれ、態様Bにおいて、前駆体(前駆体溶液)の調製も連続的な製造プロセスの中で行う態様に好適な製造装置の一例の概略説明図である。図8は、態様Cにおいて、前駆体(前駆体溶液)の調製も連続的な製造プロセスの中で行う態様に好適な製造装置の一例の概略説明図である。
図3〜8において、同一の構成要素については、同一の符号が付されている。
【0087】
図3を例にとり説明すると、図3に示す製造装置は、液槽31、32、加熱手段34(34a〜34c)、加圧送液手段35a、35b、反応流路36、冷却部37、濾過手段38、圧力調整弁(背圧弁)39、および回収部40を含み、送液路100、流路101に、各液槽から流体が送液される。なお図中、加熱手段は3つであるが、あくまでも例示であって、これに限定されるものではない。
図4および図5に示す製造装置では、上記構成に加えて更に、液槽33、加圧送液手段35c、流路102が含まれる。
図6図7および図8に示す製造装置では、上記構成に加えて更に、液槽41、42、加圧送液手段35d、35e、流路103、104、105が含まれる。
【0088】
一態様では、液槽31に精製水、蒸留水等の水を、液槽32に六方晶フェライト前駆体溶液(態様Aでは有機化合物が更に含まれる)を、液槽33に有機化合物溶液を、導入する。液槽31に導入された水は、加圧送液手段35aにより圧力を加えられながら送液路100内に送液され、加熱手段34において加熱される。この加熱および加圧は、水を高温高圧状態とするために行われるものであり、水を亜臨界〜超臨界状態とするように行うことが好ましい。亜臨界〜超臨界状態の水はきわめて高い反応性を示すことができるため、このような状態の水と接触することにより、六方晶フェライト前駆体が瞬時に高反応状態に置かれ。フェライト化を早期に進行させることができるからである。一般に水は、200℃以上に加熱され、かつ20MPa以上に加圧されることで亜臨界〜超臨界状態となる。したがって、上記の水の加熱および加圧は、200℃以上、かつ20MPa以上の温度および圧力で行うことが好ましい。上記の加熱および加圧された高温高圧水は送液路100内で送液され、混合部M1に達する。
【0089】
態様A(図3)では、六方晶フェライト前駆体と有機化合物を含む前駆体溶液は、液槽32から加圧送液手段35bにより配管101に送液され、混合部M1において高温高圧水が送液されている送液路100と合流する。したがって、態様Aでは、上記送液路において六方晶フェライト前駆体と有機化合物との共存が開始する共存開始箇所は、混合部M1である。
【0090】
一方、態様B(図4)では、六方晶フェライト前駆体溶液が液槽2から加圧送液手段35bにより流路101に送液され、混合部M1において高温高圧水が送液されている送液路100)と合流する。その後、高温高圧水と六方晶フェライト前駆体溶液との混合流が、液槽33から加圧送液手段35cにより流路102に送液された有機化合物溶液と、混合部M2において合流する。したがって、態様Bでは、上記送液路において六方晶フェライト前駆体溶液と有機化合物との混合が開始する共存開始箇所は、混合部M2である。なお態様Bにおいては、上記の例とは逆に、液槽32に有機化合物溶液、液槽33に六方晶フェライト前駆体溶液を導入してもよい。
【0091】
また、態様C(図5)では、六方晶フェライト前駆体溶液が液槽32から加圧送液手段35bにより流路101に送液され、混合部M0において、液槽33から加圧送液手段5cにより流路102に送液されている有機化合物溶液と合流する。その後、六方晶フェライト前駆体溶液と有機化合物溶液との混合流が流路101を介して混合部M1において、高温高圧水と合流する。したがって、態様Cでは、上記送液路において六方晶フェライト前駆体溶液と有機化合物との混合が開始する共存開始箇所は、混合部M1である。なお態様Cにおいても、上記の例とは逆に、液槽32に有機化合物溶液、液槽33に六方晶フェライト前駆体溶液を導入してもよい。
【0092】
また、図6図7に示す製造装置は、態様Bにおいて、六方晶フェライト前駆体溶液の調製も連続的な製造プロセスの中で行う態様に好適な製造装置である。図6図7に示す製造装置では、液槽41に鉄塩および二価金属塩を含む溶液(以下、原料溶液とも記載する。)を、液槽42に塩基含有水系溶液(通常、鉄塩および二価金属塩を含まない。)を導入し、液槽41から加圧送液手段35dにより配管103に送液された原料溶液と、液槽42から加圧送液手段35eにより配管104に送液された塩基含有水系溶液とを混合部M4において合流させる。なお、上記の例とは逆に、液槽41に塩基含有水系溶液、液槽42に原料溶液を導入してもよい。
そして、図6に示す製造装置では、こうして得られた混合流を、流路105を経て、混合部M1において、液槽31から加圧送液手段35aにより流路100に送液され、加熱手段34により加熱された高温高圧水と合流させる。更に、こうして得られた混合流を、混合部M2において、液槽33から加圧送液手段35cにより流路102に送液された有機化合物溶液と合流させる。
図7に示す製造装置は、上記のように得られた混合流を、流路105を経て、混合部M2において、液槽31から加圧送液手段35aにより流路100に送液され、加熱手段34により加熱された高温高圧水と液槽33から加圧送液手段35cにより流路102に送液された有機化合物溶液とを混合部M1において合流させて得られた混合流と、合流させる。
図6図7に示す製造装置では、上記送液路において六方晶フェライト前駆体溶液と有機化合物との混合が開始する共存開始箇所は、混合部M2である。
図6図7に示す製造装置について、以降の工程の詳細は、先に図4に示す製造装置について記載した通りである。
【0093】
一方、図8に示す製造装置は、態様Cにおいて、六方晶フェライト前駆体溶液の調製も連続的な製造プロセスの中で行う態様に好適な製造装置である。図8に示す製造装置では、液槽41に鉄塩および二価金属塩を含む溶液(原料溶液)を、液槽42に塩基含有水系溶液(通常、鉄塩および二価金属塩を含まない。)を導入し、液槽41から加圧送液手段35dにより配管103に送液された原料溶液と、液槽42から加圧送液手段35eにより配管104に送液された塩基含有水系溶液とを混合部M4において合流させる。なお、上記の例とは逆に、液槽41に塩基含有水系溶液、液槽42に原料溶液を導入してもよい。
そして、こうして得られた混合流を、流路105の混合部M5において、液槽33から加圧送液手段35cにより配管102に送液された有機化合物溶液と合流させる。更に、こうして得られた混合流を、混合部M1において、液槽31から加圧送液手段35aにより流路100に送液され、加熱手段34により加熱された高温高圧水と合流させる。図8に示す製造装置では、上記送液路において六方晶フェライト前駆体溶液と有機化合物との混合が開始する共存開始箇所は、混合部M1である。
以降の工程の詳細は、先に図5に示す製造装置について記載した通りである。
【0094】
共存開始箇所の液温に関し、本発明者は、ここでの液温を制御することは、上記平均粒子サイズを有するとともに式(1)を満たす等方状粒子を多く含む六方晶フェライト粉末を得ることに寄与すると考えている。これは、共存開始箇所の温度が低いほど、有機化合物存在下での六方晶フェライト前駆体が六方晶フェライトに転換する反応の進行は穏やかに進んでしまい、その結果、粒子サイズが大きくなり、また粒子サイズがばらついてしまうと考えられるからである。この点から、共存開始箇所の温度は200℃以上であることが好ましく、230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることが好ましい。また、本発明者は、共存開始箇所の温度が高すぎる場合には、反応が過剰に早く進むことが得られる六方晶フェライト粉末の粒子形状の等方性低下をもたらすと推察している。上記観点から、共存開始箇所の液温は、400℃以下であることが好ましく、380℃以下であることがより好ましく、350℃以下であることが更に好ましい。また、一態様では、300℃未満であることがいっそう好ましく、290℃以下であることがよりいっそう好ましい。
【0095】
共存開始箇所の温度制御は、例えば、共存開始箇所に送液される溶液の温度を制御することにより行うことができる。そのために、例えば、流路101、102、103、104、105に送液される溶液を加熱冷却するための公知の温度制御手段を、装置の任意の位置に設けてもよい。なお六方晶フェライト前駆体溶液の流路と有機化合物溶液の流路を合流させた後、得られた混合流を高温高圧水が流れる送液路に導入する態様Cでは、粒子サイズのばらつきの少ない六方晶フェライト粉末を得る観点からは、六方晶フェライト前駆体溶液の流路と有機化合物溶液の流路を合流させた後の混合流は加熱しないことが好ましい。したがって、上記態様では、六方晶フェライト前駆体溶液を加熱するのであれば、有機化合物溶液と合流させる前に加熱することが好ましい。例えば、好ましい一態様では、図5に示す製造装置において流路101の混合部M0の上流側に加熱手段を設けることができる。この場合、混合部M0の下流側に冷却手段を設けることもできる。各溶液の加熱、冷却は、共存開始箇所での液温を所望の温度に制御できるように行えばよい。
【0096】
また、共存開始箇所の温度は、高温高圧水の温度、流速、六方晶フェライト前駆体溶液の流速、有機化合物溶液の流速、六方晶フェライト前駆体溶液と有機化合物溶液を混合した混合流の流速、の1つ以上を調整することによっても制御することができる。これらは、共存開始箇所での液温を所望の温度に制御できるように調整すればよい。一例として、通常、上記溶液や混合流の液温は、送液路に送液されている高温高圧水の液温とは異なる(通常は低い)ため、高温高圧水の流速と送液路へ導入される上記溶液や混合流の流速の比率を変えることにより、共存開始箇所の温度を制御することができる。
【0097】
上記混合部での混合の後、高温高圧水、六方晶フェライト前駆体および有機化合物の混合流(六方晶フェライト前駆体、有機化合物および水を含む水系溶液)は、送液路100を経て反応流路36に送液される。反応流路36において混合流を加熱し、更に加圧手段35aにより圧力を加えることにより、反応流路36内の混合流に含まれる水が高温高圧状態、好ましくは亜臨界〜超臨界状態となり六方晶フェライト前駆体のフェライト化が進行する。その後、排出口D1から、六方晶フェライト前駆体がフェライトに転換した、六方晶フェライトの粒子を含む溶液が排出される。排出された溶液は、冷却部37に送液され冷却部37において冷却される。その後、濾過手段(フィルター等)38により、六方晶フェライトの粒子が捕集される。濾過手段38で捕集された六方晶フェライトの粒子は濾過手段38から放出され圧力調整弁39を経て回収部40に回収される。
【0098】
上記反応流路36における加熱および加圧に関して、水が存在する反応系を、300℃以上に加熱し、かつ20MPa以上の圧力を加えて加圧することで、水が亜臨界〜超臨界状態となり、きわめて高い反応性を有する反応場がもたらされる。この状態の下に六方晶フェライト前駆体を置くことによりフェライト化が迅速に進行し、六方晶フェライト磁性粒子を得ることができる。したがって加熱温度は、反応流路内の混合流が300℃以上となる温度とすることが好ましい。また、加熱温度は、上記反応流路から排出され冷却部へ送液される水系溶液の液温が350℃以上450℃以下となるように設定することがより好ましい。ここで上記の液温は、反応流路の排出口(図3図8に示す装置では排出口D1)における液温をいうものとする。反応流路排出口における液温が上記範囲となる温度条件で反応流路内で六方晶フェライト前駆体を六方晶フェライトに転換する反応を行うことは、得られる六方晶フェライト粉末の磁気特性向上の観点から好ましい。これは、六方晶フェライト粉末の結晶性が向上することによるものであると、本発明者は推察している。上記液温は、より好ましくは360℃以上430℃以下であり、更に好ましくは380℃以上420℃以下である。一方、反応流路内の混合流に加える圧力は、好ましくは20MPa以上であり、より好ましくは20MPa〜50MPaの範囲である。
【0099】
上記の通り、反応流路から排出された水系溶液は冷却部において冷却される。冷却部において冷却することにより、六方晶フェライト前駆体が六方晶フェライトに転換する反応を完全に停止することができる。この点は、粒子サイズのばらつきのより少ない六方晶フェライト粉末を得るうえで好ましい。この点から冷却部における冷却は、冷却部内の水系溶液の液温が100℃以下になるように行うことが好ましく、室温(20〜25℃程度)以上100℃以下になるように行うことがより好ましい。なお冷却は、例えば、冷水を循環させることにより内部を冷却する水冷装置等の、公知の冷却手段を用いて行うことができる。なお冷却部内の水系溶液には、通常、上記送液路および反応流路と同様の圧力が加わっている。
【0100】
冷却部における冷却後の水系溶液のpHは、好ましくは6.00以上12.00以下である。ここで冷却後のpHとは、先に記載したように冷却部の排出口(図3図5では排出口D2)から排出された水系溶液のpHである。上記pHは、例えば、圧力調整弁39を経て回収部40で回収された水系溶液の一部を採取し、液温25℃に調整して測定されるpHであることができる。なお冷却部においては水系溶液のpHを変化させる成分は通常添加しない。したがって、冷却後の水系溶液のpHは、六方晶フェライト前駆体が六方晶フェライトに転換する反応が行われる反応流路内の反応系のpHと同様であるか、または相関している。この冷却後の水系溶液のpHを制御するための手段については、先に記載した通りである。六方晶フェライトの粒子形状の制御の容易性の観点からは、上記pHは11.50以下であることが好ましく、11.00以下であることがより好ましい。一方、六方晶フェライトの粒子サイズをより小さくするため、更には粒子サイズのばらつきの更なる低減の観点からは、上記pHは、6.50以上であることが好ましい。
【0101】
以上記載した製造方法では、内部に送液される流体に圧力をかけるため、送液路および流路(以下、配管とも記載する。)として、高圧用の金属配管を用いることが好ましい。配管を構成する金属としては、低腐食性であることから、SUS316、SUS304などのステンレス鋼、またはインコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)などのニッケル基合金が好ましい。ただし、これらに限定されるものではなく、同等もしくは類似の材料も用いることができる。また、特開2010−104928号公報に記載された積層構成の配管を用いてもよい。
【0102】
なお図3図8に示す製造装置では、各混合部は、配管同士をティー型の継ぎ手で接合した構成であるが、混合部としては、特開2007−268503号公報、特開2008−12453号公報、特開2010−75914号公報に記載のリアクター等を用いてもよい。リアクターの素材としては、特開2007−268503号公報、特開2008−12453号公報、特開2010−75914号公報に記載された素材が好ましい。具体的には、配管を構成する金属として好適なものとして上述したものが好ましい。ただし、これらに限定されるものではなく、同等もしくは類似の材料も用いることができる。また、低腐食性のチタン合金、タンタル合金、およびセラミックスなどと組み合わせてもよい。
【0103】
以上、本発明の一態様にかかる六方晶フェライト粉末の製造方法の具体的態様をいくつか説明した。ただし上記六方晶フェライト粉末は、これら具体的態様により製造されたものに限定されない。
【0104】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、強磁性粉末として、上記の本発明の一態様にかかる六方晶フェライト粉末を含む磁気記録媒体に関する。本発明の一態様にかかる六方晶フェライト粉末を強磁性粉末として用いることにより、高い塗膜耐久性を有する磁性層の形成が可能となり、また優れた電磁変換特性を示す磁気記録媒体を得ることも可能となる。この点は、本発明者により新たに見出された知見である。
以下、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0105】
磁性層
磁性層に使用される強磁性粉末の詳細は、前述の通りである。
【0106】
磁性層は、強磁性粉末とともに結合剤を含む。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落0029〜0031を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0107】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。以上説明した添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。
【0108】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落0036〜0039を参照できる。
【0109】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落0040〜0042を参照できる。
【0110】
非磁性支持体
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0111】
層構成
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0112】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0113】
バックコート層
磁気記録媒体には、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0114】
製造方法
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。また、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズも好適である。これら分散ビーズの粒径と充填率は最適化して用いることができる分散機は公知のものを使用することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落0051〜0057を参照できる。
【0115】
以上説明した本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、上述の六方晶フェライト粉末を磁性層に含むことにより高い電磁変換特性を発揮することができ、かつ優れた走行耐久性を示すこともできるため、バックアップテープ等の大容量磁気記録媒体として好適である。
【実施例】
【0116】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」は、「質量部」、「質量%」を示す。また、下記工程および評価は、特記しない限り、23℃±1℃の大気中で行った。
【0117】
1.六方晶フェライト粉末製造に関する実施例・比較例
【0118】
[実施例1−1]
(1)前駆体含有水溶液の調製
図1に概略を示す回分式反応槽10を用いて、以下の方法で前駆体含有水溶液を調製した。以下の工程は、反応槽中の液温度が30℃に維持されるように、ヒーターにより温度制御して行った。また、下記の水溶液の供給開始から停止までの間、撹拌羽根14による撹拌を継続した。
反応槽10に満たした精製水に、精製水100gあたり4.0gの硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO33・9H2O)を添加し液温30℃で攪拌した。こうして調製した水溶液に、濃度1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を、供給路13を介して一定流速(流速7.5ml/min)で供給した。水酸化カリウム水溶液の供給を停止した後、精製水100gあたり1.6gの水酸化バリウム八水和物(Ba(OH)2・8H2O))を添加して調製した水酸化カリウム水溶液を、供給路11を介して一定流速(流速25ml/min)で供給することで、前駆体含有水溶液(水酸化物ゾル)を調製した。
【0119】
(2)連続的水熱合成法による六方晶フェライト(バリウムフェライトナノ粒子)の合成
図3に示す製造装置の液槽32に、上記(1)で調製した水溶液(ゾル)を導入した。なお製造装置の配管としては、SUS316BAチューブを用いた。
液槽31に導入した精製水を高圧ポンプ35aで送液しつつヒーター34で加熱することで配管100中に高温高圧水を流通させた。この際、加熱手段34cを通過後の高温高圧水の温度が345℃、圧力が30MPaとなるよう温度および圧力を制御した。
一方、液槽32に導入した水溶液(ゾル)を25℃で配管101に高圧ポンプ35bを用いて送液し混合部M1において上記高温高圧水と混合させ、引き続き、オレイン酸をエタノールに溶解した有機化合物溶液(濃度0.75mol/L)を25℃で配管102に高圧ポンプ35cを用いて送液し混合部M2において高温高圧水と水溶液(水酸化物ゾル)の混合液と合流させた。混合部M2における液温は、熱電対により測定した。有機化合物溶液を合流させた混合流を、反応流路36において加熱および加圧することにより、六方晶フェライトを合成(前駆体を転換)した。反応流路36において混合流は30MPaに加圧され、反応流路36の排出口D1における液温(熱電対により測定)が350℃となるように300℃以上の温度に加熱された。
その後、六方晶フェライトを含む液を反応流路36から排出し、水冷機構を備えた冷却部37において100℃以下に冷却した後、圧力調整弁39を経て回収部40において回収した。回収した液の一部を採取し、液温25℃に調整した後にpHメーター(HORIBA製のポータブルpHメーターDシリーズ)によりpHを測定した。回収部から回収した液の残りから六方晶フェライトの粒子を収集した。収集した粒子をエタノールで洗浄し、続いて遠心分離することにより粉末を分離した。
【0120】
[実施例1−2]
有機化合物溶液をオレイン酸カリウムを精製水に溶解したオレイン酸カリウム水溶液(濃度0.75mol/L)に変更し、オレイン酸カリウム水溶液のpHを水酸化カリウムを添加することにより調整した結果、回収部で回収された液のpHは、表1に示す値となった。
更に、反応流路36の排出口D1における液温(熱電対により測定)が400℃となるように加熱を行った。
その他は実施例1−1と同様に実施した。
【0121】
[実施例1−3]
図1に概略を示す回分式反応槽10を用いて、以下の方法で前駆体含有水溶液を調製した。
その他は、実施例1−1と同様に実施した。
以下の工程は、反応槽中の液温度が30℃に維持されるように、ヒーターにより温度制御して行った。また、下記の水溶液の供給開始から停止までの間、撹拌羽根14による撹拌を継続した。
反応槽10において、反応前溶液として、精製水を酸または塩基によりpHを11.50に調整した。
水酸化バリウム八水和物(Ba(OH)・8HO)を精製水100gあたり1.6g添加して調製した水酸化バリウム水溶液を供給路11を介して、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO・9HO)を精製水100gあたり4.1g添加して調製した水酸化鉄(III)水溶液を供給路12を介して、濃度1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を供給路13を介して、貯蔵槽から送液ポンプで送液し、反応槽10への供給を開始した。三種の水溶液の反応槽への供給は送液ポンプの動作プログラムを設定することにより同時に行った。三種の水溶液の供給は、供給開始から終了までは停止することなく連続して行った。水酸化バリウム水溶液と硝酸鉄(III)水溶液は、いずれも流速を25cm3/minに設定し単位時間あたりの供給量を、供給中(送液中)一定に維持した。これに対し、水酸カリウム水溶液の流速は、pHのモニタリング結果をフィードバックし流速を制御するプログラム(フィードバック制御プログラム)により制御した結果、流速5.0〜10.0cm/min程度の範囲で増減を繰り返した。
その後、三種の水溶液の反応槽10への供給を同時に停止した。こうして前駆体含有水溶液(水酸化物ゾル)を得た。
反応槽10への供給中に継続してモニターしたpHと反応前溶液のpHとの差分最大値は0.70、供給終了時のpHは12.00であった。
【0122】
[実施例1−4]
(1)原料溶液の調製
精製水に水酸化バリウム(Ba(OH)・8HO)、硝酸鉄(III)(Fe(NO・9HO)を溶解することで上記の鉄塩およびバリウム塩を含んだ水溶液(原料溶液)を調製した。調製した原料溶液中の鉄塩およびバリウム塩の合計濃度は0.075mol/Lで、Ba/Feモル比は0.5であった。
また、水酸化カリウムを水に添加し溶解することで水酸化カリウム水溶液(濃度0.20mol/L)を調製した。
(2)有機化合物溶液の調製
オレイン酸をエタノールに溶解して有機化合物溶液(濃度0.75mol/L)を調製した。
(3)六方晶フェライトの合成反応
図6に示す製造装置の液槽41に上記(1)で調製した原料溶液を、液槽42に上記(1)で調製した水酸化カリウム水溶液を、液槽33に有機化合物溶液として上記(2)で調製した有機化合物溶液(濃度0.75mol/L)を導入した。なお製造装置の配管としては、SUS316BAチューブを配管として用いた。
液槽31に導入した精製水を高圧ポンプ35aで送液しつつヒーター34で加熱することで配管100中に高温高圧水を流通させた。この際、加熱手段34cを通過後の高温高圧水の温度が350℃、圧力が30MPaとなるように温度および圧力を制御した。
原料溶液と水酸化カリウム水溶液は、体積比で原料溶液:水酸化カリウム水溶液=50:50の割合となるように各々加熱加圧手段(高圧ポンプ35d、35e)を用いて液温25℃で配管103、104に送液し、混合部M4において混合した後、引き続き配管105に送液し混合部M1において上記高温高圧水と混合させた。
一方、有機化合物溶液は、体積比で(原料溶液+水酸化カリウム水溶液):有機化合物溶液=40:60の割合となるように加熱加圧手段(高圧ポンプ35c)を用いて液温25℃で配管102に送液し、混合部M2において上記高温高圧水と混合させ、引き続き、反応器36において加熱・加圧することにより、六方晶フェライトを合成(前駆体を転換)した。
反応流路36において混合流は30MPaに加圧され、反応流路36の排出口D1における液温(熱電対により測定)が400℃となるように300℃以上の温度に加熱された。
その後、六方晶フェライト粒子を含む液を反応流路36から排出し、水冷機構を備えた冷却部37において100℃以下に冷却した後、圧力調整弁39を経て回収部40において回収した。回収した液の一部を採取し、液温25℃に調整した後にpHメーター(HORIBA製のポータブルpHメーターDシリーズ)によりpHを測定した。回収部から回収した液の残りから六方晶フェライトの粒子を収集した。収集した粒子をエタノールで洗浄し、続いて遠心分離することにより粉末を分離した。
【0123】
[実施例1−5]
(1)原料溶液の調製
精製水に水酸化バリウム(Ba(OH)・8HO)、硝酸鉄(III)(Fe(NO・9HO)を溶解することで上記の鉄塩およびバリウム塩を含んだ水溶液(原料溶液)を調整した。調製した原料溶液中の鉄塩およびバリウム塩の合計濃度は0.075mol/Lで、Ba/Feモル比は0.5であった。
また、水酸化カリウムを水に添加し溶解することで水酸化カリウム水溶液(濃度0.20mol/L)を調製した。
(2)有機化合物溶液の調製
オレイン酸をエタノールに溶解して有機化合物溶液(濃度0.75mol/L)を調製した。
(3)六方晶フェライトの合成反応
図7に示す製造装置の液槽41に上記(1)で調製した原料溶液を、液槽42に上記(1)で調製した水酸化カリウム水溶液を、液槽33に上記(2)で調製した有機化合物溶液を導入した。なお製造装置の配管としては、SUS316BAチューブを配管として用いた。
液槽31に導入した精製水を高圧ポンプ35aで送液しつつヒーター34で加熱することで配管100中に高温高圧水を流通させた。この際、加熱手段34cを通過後の高温高圧水の温度が350℃、圧力が30MPaとなるように温度および圧力を制御した。
有機化合物溶液は、体積比で(原料溶液+水酸化カリウム水溶液):有機化合物溶液=40:60の割合となるように加熱加圧手段(高圧ポンプ)35cを用いて液温25℃で配管102に送液し、混合部M1において上記高温高圧水と混合させた。
一方、原料溶液と水酸化カリウム水溶液は、体積比で原料溶液:水酸化カリウム水溶液=50:50の割合となるように各々加熱加圧手段(高圧ポンプ)35d、35eを用いて液温25℃で配管103、104に送液し、混合部M4において混合した後、引き続き配管105に送液し混合部M2において上記高温高圧水と混合させ、引き続き、反応器36において加熱・加圧することにより、六方晶フェライトを合成(前駆体を転換)した。
反応流路36において混合流は30MPaに加圧され、反応流路36の排出口D1における液温(熱電対により測定)が400℃となるように300℃以上の温度に加熱された。
その後、六方晶フェライトを含む液を反応流路36から排出し、水冷機構を備えた冷却部37において100℃以下に冷却した後、圧力調整弁39を経て回収部40において回収した。回収した液の一部を採取し、液温25℃に調整した後にpHメーター(HORIBA製のポータブルpHメーターDシリーズ)によりpHを測定した。回収部から回収した液の残りから六方晶フェライトの粒子を収集した。収集した粒子をエタノールで洗浄し、続いて遠心分離することにより粉末を分離した。
【0124】
[比較例1−1]
ヒーター34の温度設定を調整することにより送液路100に送液される高温高圧水の温度を上げた結果、混合部M2における温度は表1に示す値となった。
その他は実施例1−1と同様に実施した。
【0125】
[比較例1−2]
オレイン酸カリウム水溶液に添加する水酸化カリウム水溶液量を実施例1−2より増量した結果、回収部で回収された液のpHは、表1に示す値となった。
その他は実施例1−2と同様に実施した。
【0126】
[比較例1−3]
前駆体含有水溶液の調製時に添加する水酸化カリウム水溶液量を実施例1−1より減量した結果、回収部で回収された液のpHは、表1に示す値となった。
その他は実施例1−1と同様に実施した。
【0127】
評価方法
(1)X線回折分析による同定
実施例、比較例で得られた粉末をX線回折分析したところ、いずれも六方晶フェライト(バリウムフェライト)であることが確認された。
(2)平均粒子サイズ(平均長軸長)、粒子サイズの変動係数
実施例、比較例で得られた粉末の平均粒子サイズ(平均長軸長)、下記(3)により式(1)を満たす等方状粒子と判定された全粒子についての平均粒子サイズ(平均長軸長)および粒子サイズ(長軸長)の変動係数を、電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて、先に記載した方法により求めた。
(3)粒子の形態観察
前述の方法により、実施例、比較例で作製した粉末から無作為に抽出した500個の粒子について形態観察を実施し、全粒子中で式(1)を満たす等方状粒子の占める割合を算出した。なお実施例1−1〜1−3に関し、式(1)を満たす等方状粒子と判定された全粒子は、長軸長/短軸長は1.0以上であった。
(4)飽和磁化σs、保磁力Hcの測定
実施例、比較例で得た六方晶フェライト粉末の飽和磁化σsおよび保磁力Hcを、振動試料型磁束計(東英工業社製)を用い磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定した。
(5)SFDの測定
上記保磁力測定と同じ装置および同じ磁場強度にて磁場に対する磁化量を測定し、その微分曲線の半値幅を保磁力Hcで規格化したものを反転磁界分布SFDとして求めた。
(6)異方性定数、熱的安定性KuV/kTの測定
振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いてHc測定部の磁場スイープ速度を3分と30分で測定し、以下の熱揺らぎによるHcと磁化反転体積の関係式から活性化体積Vと異方性定数Kuを計算した。算出した値から、KuV/kTを求めた。
Hc=2Ku/Ms{1−[(KuT/kV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数、Ms:飽和磁化、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、V:活性化体積、A:スピン歳差周波数、t:磁界反転時間]
【0128】
以上の結果を、表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
2.磁気記録媒体(磁気テープ)に関する実施例・比較例
【0131】
[実施例2−1〜2−5、比較例2−1〜2−3]
(1)磁性層塗布液処方
(磁性液)
強磁性粉末(上記実施例または比較例で得た粉末、表2記載):100部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:14部
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.4meq/g)
シクロヘキサノン:150部
メチルエチルケトン:150部
(研磨剤液)
研磨剤液A アルミナ研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):3部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:0.3部
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン:26.7部
研磨剤液B ダイヤモンド研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):1部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:0.1部
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン:26.7部
(シリカゾル)
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:100nm):0.2部
メチルエチルケトン:1.4部
(その他成分)
ステアリン酸:2部
ブチルステアレート:6部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート):2.5部
(仕上げ添加溶剤)
シクロヘキサノン:200部
メチルエチルケトン:200部
【0132】
(2)非磁性層塗布液処方
非磁性無機粉末 α−酸化鉄:100部
平均粒子サイズ:10nm
平均針状比:1.9
BET比表面積:75m2/g
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):25部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:18部
(重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g)
ステアリン酸:1部
シクロヘキサノン:300部
メチルエチルケトン:300部
【0133】
(3)バックコート層塗布液処方
非磁性無機粉末 α−酸化鉄:80部
平均粒子サイズ:0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):20部
塩化ビニル共重合体:13部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:6部
フェニルホスホン酸:3部
シクロヘキサノン:155部
メチルエチルケトン:155部
ステアリン酸:3部
ブチルステアレート:3部
ポリイソシアネート:5部
シクロヘキサノン:200部
【0134】
(3)磁気テープの作製
上記磁性液を、バッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散した。分散メディアとしては、0.5mmΦのジルコニアビーズを使用した。研磨剤液はバッチ型超音波装置(20kHz,300W)で24時間分散した。これらの分散液を他の成分(シリカゾル、その他成分および仕上げ添加溶剤)と混合後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で30分処理を行った。その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過を行い磁性層塗布液を作製した。
非磁性層塗布液については、各成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて、24時間分散した。分散メディアとしては、0.1mmΦのジルコニアビーズを使用した。得られた分散液を0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過を行い非磁性層用塗布液を作製した。
バックコート層塗布液は、潤滑剤(ステアリン酸およびブチルステアレート)とポリイソシアネート、シクロヘキサノン200部を除いた各成分をオープン型ニーダにより混練・希釈した後、横型ビーズミル分散機により、1mmΦのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で、1パス滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行った。その後残りの成分を分散液に添加し、ディゾルバーで攪拌した。得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過しバックコート層塗布液を作製した。
その後、厚み5μmのポリエチレンナフタレート製支持体(光学式3次元粗さ計で、20倍対物レンズを使用して測定した際の中心線表面粗さ(Ra値):1.5nm、幅方向ヤング率:8GPa、縦方向ヤング率:6GPa)に、乾燥後の厚みが100nmになるように非磁性層塗布液を塗布、乾燥した後、その上に乾燥後の厚みが70nmになるように磁性層塗布液を塗布した。この磁性層塗布液が未乾状態にあるうちに磁場強度0.6Tの磁場を、塗布面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後乾燥させた。その後支持体の反対面に乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層塗布液を塗布、乾燥させた。
その後金属ロールのみから構成されるカレンダで、速度100m/分、線圧300kg/cm、温度100℃で表面平滑化処理を行った後、70℃のDry環境で36時間熱処理を行った。熱処理後1/2インチ(0.0127メートル)幅にスリットし、磁気テープを得た。
【0135】
評価方法
1.電磁変換特性(SNR)の評価
作製した各磁気テープに対して、下記条件で磁気信号をテープ長手方向に記録し、MRヘッドで再生した。再生信号をシバソク製スペクトラムアナライザーで周波数分析し、300kfciの出力と、0〜600kfci範囲で積分したノイズとの比をSNRとした。
(記録再生条件)
記録:記録トラック幅5μm
記録ギャップ0.17μm
ヘッド飽和磁束密度Bs1.8T
再生:再生トラック幅0.4μm
シールド間距離(sh−sh距離)0.08μm
記録波長:300kfci
【0136】
2.塗膜耐久性(耐擦り傷性(アルミナ擦り傷))の評価
温度23℃相対湿度10%RH環境下において、直径4mmのアルミナ球を、作製した各磁気テープの磁性層表面で荷重20gにて20回繰り返し走行させた後のテープ磁性層表面を光学顕微鏡(倍率:200倍)により観察し、以下の基準によって評価した。
A・・・光学顕微鏡の視野中で試料表面のキズがみられないもの
B・・・光学顕微鏡の視野中で試料表面のキズが1〜5箇所以下のもの
C・・・光学顕微鏡の視野中で試料表面のキズが6〜10箇所以下のもの
D・・・光学顕微鏡の視野中で試料表面のキズが11〜50箇所以下のもの
E・・・光学顕微鏡の視野中で試料表面のキズが50箇所超のもの
【0137】
以上の結果を、表2に示す。
【0138】
【表2】
【0139】
評価結果
表2に示すように、実施例2−1〜2−5の磁気テープの磁性層は、高い塗膜耐久性を示した。更に、実施例2−1〜2−5の磁気テープは、優れた電磁変換特性(高SNR)を示した。
表1に示すように、実施例2−1〜2−5の磁気テープの磁性層に用いた六方晶フェライト粉末は、平均粒子サイズが小さく、かつ等方状粒子を多く含んでいた。これらの点が、表2に示されている優れた電磁変換特性と高い塗膜耐久性達成に寄与していると、本発明者は推察している。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は、高密度記録用磁気記録媒体の製造分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8