特許第6046594号(P6046594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6046594リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046594
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20161212BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20161212BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20161212BHJP
   C01B 33/113 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/36 B
   H01M4/36 E
   C01B33/113 A
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-233638(P2013-233638)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-95342(P2015-95342A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩一朗
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/050507(WO,A1)
【文献】 特開2000−215887(JP,A)
【文献】 特開2006−100255(JP,A)
【文献】 特開2004−146292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/48
C01B 33/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出する珪素系活物質の粒子の表面を、蒸着法により炭素原料を用いた炭素被膜で被覆する蒸着工程を有するリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、
前記蒸着工程を2回以上実施し、蒸着工程毎に使用する前記炭素原料の種類を少なくとも1回は変更することで、2種類以上の前記炭素原料を使用した前記炭素被膜を形成し、各蒸着工程において、前記炭素原料の種類は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、タール蒸留工程で得られる留分の3種類の中から1種類選択し、該選択した種類の物質の単体又は混合物を使用することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族炭化水素を、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、プロピレンの単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物とすることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族炭化水素を、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、メシチレンの単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
前記タール蒸留工程で得られる留分をガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油の単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
各蒸着工程で使用する前記炭素原料の種類は、先に前記芳香族炭化水素の種類から選んで使用し、その後、前記脂肪族炭化水素の種類から選択して使用することで前記炭素被膜を形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
前記蒸着工程において、600〜1200℃の温度範囲で炭素被膜を形成することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項7】
前記珪素系活物質の粒子は、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子のいずれか、又はこれらのうちの2種類以上の混合物とすることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法で製造されたリチウムイオン二次電池用負極材を用いてリチウムイオン二次電池を製造することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。
【0003】
従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Sn等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特許文献1、2参照)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(特許文献3参照)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許文献4参照)、負極材料にSiO及びGeOを用いる方法(特許文献5参照)等が知られている。
【0004】
また、負極材に導電性を付与する目的として、SiOを黒鉛とメカニカルアロイング後に炭化処理する方法(特許文献6参照)、珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特許文献7参照)、酸化珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特許文献8参照)がある。
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなく、更なるエネルギー密度の向上が望まれていた。
【0006】
特に、特許文献4では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池負極材として用い、高容量の電極を得ているが、本発明者らが知る限りにおいては、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったりする等の問題があり、改良する余地がある。
【0007】
また、負極材に導電性を付与した技術についても、特許文献6では固体と固体の融着であるため均一な炭素被膜が形成されず、導電性が不十分であるといった問題がある。
そして、特許文献7の方法においては、均一な炭素被膜の形成が可能となるものの、Siを負極材として用いているため、リチウムイオンの吸脱着時の膨張・収縮が余りにも大きすぎて、結果として実用に耐えられず、サイクル性が低下するためにこれを防止するべく充電量の制限を設けなくてはならない。
特許文献8の方法においては、サイクル性の向上は確認されるものの、微細な珪素結晶の析出、炭素被覆の構造及び基材との融合が不十分であることより、充放電のサイクル数を重ねると徐々に容量が低下し、一定回数後に急激に低下するという現象があり、二次電池用としてはまだ不十分であるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−174818号公報
【特許文献2】特開平6−60867号公報
【特許文献3】特開平10−294112号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特開平11−102705号公報
【特許文献6】特開2000−243396号公報
【特許文献7】特開2000−215887号公報
【特許文献8】特開2002−42806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、珪素系活物質の高い電池容量と低い体積膨張率の利点を維持しつつ、初回充放電効率が高くまたサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法及びその製造方法で製造された負極材並びにその負極材を含むリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、リチウムイオンを吸蔵及び放出する珪素系活物質の粒子の表面を、蒸着法により炭素原料を用いた炭素被膜で被覆する蒸着工程を有するリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、前記蒸着工程を2回以上実施し、蒸着工程毎に使用する前記炭素原料の種類を少なくとも1回は変更することで、2種類以上の前記炭素原料を使用した前記炭素被膜を形成し、各蒸着工程において、前記炭素原料の種類は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、タール蒸留工程で得られる留分の3種類の中から1種類選択し、該選択した種類の物質の単体又は混合物を使用することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供する。
【0011】
このように、蒸着工程を2工程以上に分け、少なくとも2種類以上の炭素原料を各蒸着工程において使い分けることで、生産性と電池容量、初回充放電効率、サイクル特性といった負極材としての特性の向上とを両立したリチウムイオン二次電池用負極材の製造ができる。また、本発明の製造方法は、特別複雑なものではなく簡便であり、工業的規模の製造にも十分に耐えることが可能である。
【0012】
このとき、前記脂肪族炭化水素を、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、プロピレンの単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物とすることが好ましい。
【0013】
また、前記芳香族炭化水素を、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、メシチレンの単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物とすることが好ましい。
【0014】
このとき、前記タール蒸留工程で得られる留分をガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油の単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物とすることが好ましい。
【0015】
これらのようなものを、それぞれ脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、タール蒸留工程で得られる留分の種類から選択することで、良好な炭素被膜を蒸着することができ、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性をより向上させることができる。
【0016】
また、各蒸着工程で使用する前記炭素原料の種類は、先に前記芳香族炭化水素の種類から選んで使用し、その後、前記脂肪族炭化水素の種類から選択して使用することで前記炭素被膜を形成することが好ましい。
このように、まず、先の蒸着工程で芳香族炭化水素を使用して効率よく炭素量を稼ぐことで導電性を確保し、その後の蒸着工程で脂肪族炭化水素を使用して、電解液との相性が良好な炭素被膜の表面状態を形成させることで、生産性と電池容量、初回充放電効率、サイクル特性といった負極材としての特性の向上をより確実に両立することができる。
【0017】
このとき、前記蒸着工程において、600〜1200℃の温度範囲で炭素被膜を形成することが好ましい。
このような温度範囲で炭素被膜を形成すれば、珪素系活物質の粒子の珪素結晶の肥大化を抑制できるため、充電時の珪素系活物質の粒子の膨張を抑制できる。その結果、負極材としての特性、特にはサイクル特性をより確実に向上させることができる。
【0018】
また、前記珪素系活物質の粒子は、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子のいずれか、又はこれらのうちの2種類以上の混合物であることが好ましい。
これらを珪素系活物質の粒子として使用すれば、より初回充放電効率が高く、高容量でサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を製造することができる。
【0019】
本発明では、上記のいずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法で製造されたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材を提供する。
このようなものであれば、生産性、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材となる。
【0020】
また、本発明では、上記のいずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法で製造されたリチウムイオン二次電池用負極材を用いたものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
このようなものであれば、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明により、高容量で初回充放電効率が高く、またサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を製造できる。本発明の製造方法で製造した負極材は、リチウムイオン二次電池に好適なものとなり、この負極材を用いたリチウムイオン二次電池は高容量で初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れたものとなる。また、本発明は特別複雑なものではなく簡便であり、工業的規模の製造にも十分に耐えることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
前述のように、負極材に使用する珪素系活物質の高い電池容量と低い体積膨張率という利点を維持しつつ、初回充放電効率とサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法の開発が待たれていた。
【0024】
負極材に使用する珪素系活物質としては、例えば酸化珪素等が挙げられる。この、酸化珪素はSiOと表記することができる。また、酸化珪素は、X線回折による分析では数nm〜数十nm程度のナノシリコンが酸化珪素中に微分散している構造をとっている。このため、電池容量は炭素と比較すれば質量あたりで5〜6倍と高く、さらには充電時の体積膨張も小さく、負極活物質として使用しやすいと考えられている。
【0025】
しかしながら、酸化珪素は絶縁体であるために何らかの手段で導電性を付与する必要がある。導電性を付与する方法として、酸化珪素の粒子と黒鉛等の導電性のある粒子と混合する方法、酸化珪素の粒子の表面を炭素被膜で被覆する方法、及びその両方を組み合わせる方法がある。例えば、酸化珪素の粒子の表面を炭素被膜で被覆する方法としては、粒子を有機物ガス及び/又は蒸気中で化学蒸着(CVD)する方法が好適であり、熱処理時に反応器内に有機物ガス及び/又は蒸気を導入することで効率よく行うことが可能である。
【0026】
このような事情から、本発明者等は、リチウムイオンを吸蔵、放出する珪素系活物質の表面を炭素被膜で被覆することで著しい電池特性の向上が見られることを確認することができた。しかし同時に単なる炭素被覆では市場の要求特性に応えられないことも判った。
【0027】
そこで、本発明者等は負極材としての電池特性の更なる向上を目指し、詳細検討を行った。その結果、被覆する炭素被膜の被覆状態を特定範囲に制御することで、市場の要求特性のレベルに到達し得ることを見出した。
具体的には、導電性に影響を及ぼすのは、炭素被覆の量だけでなく、炭素被膜の均一性や膜質も重要であることが判った。例えば、十分な炭素量が得られていても、炭素被膜が不均一で酸化珪素の表面が部分的に露出していたり、また黒鉛化が不十分でタール成分が残留していたりすると、その部分は絶縁性となってしまい充放電容量やサイクル特性に悪影響を及ぼす。
【0028】
化学蒸着による炭素被膜の形成には様々な有機物がその炭素原料として挙げられるが、熱分解温度や蒸着速度、また蒸着後に形成される炭素被膜の特性などは用いる物質によって大きく異なる。蒸着速度が大きい物質を使用する場合は、表面の炭素被膜は十分な均一性を得られないことが多い。また、熱分解に高温を要する物質を使用する場合は、高温での蒸着時に母粒子の珪素結晶が大きく成長し過ぎて放電効率やサイクル特性の低下を招く恐れがある。
【0029】
均一性は、母粒子中の珪素結晶や平均粒径、被覆炭素量によっても変化するが、例えばラマン分光分析の珪素と黒鉛の結晶強度比などで確認することができる。炭素被膜の黒鉛化についても同様に、ラマン分光分析の炭素のグラファイトとダイヤモンド結晶強度比や半値幅で確認可能である。
【0030】
炭素被膜を十分に黒鉛化し、タール成分の残留を抑制するには、蒸着時の温度が高いほど効果的にタール成分の残留を抑制できる。更に、蒸着時の温度が高いと、蒸着速度も高くなり生産性の向上に寄与するが、酸化珪素中に微分散しているナノシリコンの肥大化に繋がり電池容量やサイクル特性を低下させる要因となってしまう。また、蒸着速度が大きいと生産性が向上するが、被膜の均一性という点では不利となってしまう。
【0031】
そこで、本発明者等は、化学蒸着により炭素被膜の形成を行う蒸着工程を、2回以上実施し、2種類以上の炭素原料、例えば短時間で炭素量を稼ぐための炭素原料と表面特性を向上させるための炭素原料を各蒸着工程において使い分けることで、生産性と負極材としての特性(電池容量、初回充放電効率、サイクル特性)の向上とを両立させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明は、リチウムイオンを吸蔵及び放出する珪素系活物質の粒子の表面を炭素被膜で被覆した導電性粉末からなるリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法及びその製造方法で製造された負極材、並びにその負極材を用いたリチウムイオン二次電池である。
【0033】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法について詳細に説明するが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0034】
まず、リチウムイオンを吸蔵及び放出する珪素系活物質の粒子を用意する。
【0035】
ここで、リチウムイオンを吸蔵及び放出する珪素系活物質の粒子として、珪素粉末(珪素単体)、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粉末のいずれか、又はこれらのうちの2以上の混合物を用いることが好ましい。
このように、珪素を含むリチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料からなる粉末として、高容量で、充放電を繰り返した際の体積膨張率が低い等の特徴を有する、珪素粉末や、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粉末のいずれか、またはこれらのうちの2以上の混合物を用いることによって、より初回充放電効率が高く、また高容量でかつサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材が得られる。
【0036】
この原料となる粉末の1つである珪素の微粒子(珪素ナノ粒子)が珪素系化合物(例えば酸化珪素)中に分散した構造を有する粒子は、例えば、珪素の微粒子を珪素系化合物と混合したものを焼成する方法や、一般式SiOで表される不均化前の酸化珪素粒子を、アルゴン等不活性な非酸化性雰囲気中、400℃以上、好適には800〜1100℃の温度で熱処理し、不均化反応を行う方法で得ることができる。特に後者の方法で得た材料は、珪素の微結晶が均一に分散されるため好適である。上記のような不均化反応により、珪素ナノ粒子のサイズを1〜100nmとすることができる。
なお、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子中の酸化珪素については、二酸化珪素であることが望ましい。なお、透過電子顕微鏡によってシリコンのナノ粒子(結晶)が無定形の酸化珪素に分散していることを確認することができる。
【0037】
本発明における酸化珪素としては、非晶質の珪素酸化物の総称であり、不均化前の酸化珪素は、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるものが挙げられる。また、この酸化珪素は、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0038】
そして不均化前の酸化珪素粒子、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子の物性は、目的とする複合粒子により適宜選定することができる。
例えば、平均粒子径は0.1〜50μmが望ましく、下限は0.2μm以上がより望ましく、0.5μm以上がさらに望ましい。上限は30μm以下がより望ましく、20μm以下がさらに望ましい。
なお、上記の平均粒子径とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均粒子径で表すものである。
【0039】
更に、珪素系活物質の粒子のBET比表面積は、0.5〜100m/gが望ましく、1〜20m/gであることがより望ましい。
BET比表面積が0.5m/g以上であれば、電極に塗布した際の接着性が低下して電池特性が低下するおそれも無い。また100m/g以下であれば、粒子表面の二酸化珪素の割合が大きくなり、リチウムイオン二次電池負極材として用いた際に電池容量が低下するおそれも無いものとすることができる。
【0040】
そして、先に用意した珪素系活物質の粒子に対して、有機物ガス及び/又は蒸気雰囲気中、所定の温度範囲で炭素を化学蒸着して炭素被膜を形成して導電性を付与する。
【0041】
本発明では、この炭素被膜を形成する工程で、蒸着工程を2回以上実施し、蒸着工程毎に使用する炭素原料の種類を少なくとも1回は変更することで、2種類以上の炭素原料を使用した炭素被膜を形成する。ここでいう炭素原料の種類とは、肪族炭化水素、芳香族炭化水素、タール蒸留工程で得られる留分のことである。この3種類の炭素原料の種類の中から1種類選択し、該選択した種類の物質の単体又は混合物を各蒸着工程で使用する。それぞれの蒸着工程は必ずしも同一の温度、圧力で行う必要性はなく、炭素原料となる物質の特性に応じて適宜選択することが可能である。
【0042】
化学蒸着による炭素被膜の生成には様々な有機物が炭素原料として挙げられるが、熱分解温度や蒸着速度、また蒸着後に形成される炭素被膜の特性などは用いる物質によって大きく異なる場合がある。蒸着速度が大きい物質は表面の炭素被膜の均一性が十分でない場合が多く、充放電効率やサイクル特性が低下する。反面、分解に高温を要する場合、生産性が下がり、更に、高温での蒸着時に母粒子の珪素結晶が大きく成長し過ぎて充放電効率やサイクル特性の低下を招く。そこで本発明のように、蒸着工程を2回以上実施し、炭素原料を蒸着工程毎に適宜使い分けることで、生産性と電池容量、初回充放電効率、サイクル特性といった負極材としての特性の向上を両立したリチウムイオン二次電池用負極材の製造が可能となる。また、本発明の製造方法は、特別複雑なものではなく簡便であり、工業的規模の製造にも十分に耐えることが可能である。
【0043】
また、この炭素被膜の蒸着工程を、50Pa〜30000Paの減圧下で行ってもよい。特に、蒸着装置が粉体を静置して行うバッチ式の装置の場合、減圧下で行なうことにより炭素を更に均一に被覆することができ、電池特性の向上を図ることができる。
【0044】
このとき、蒸着工程において、600〜1200℃の温度範囲で炭素被膜を形成することが好ましい。
このような温度範囲で炭素被膜を形成すれば、珪素系活物質の粒子の珪素結晶の肥大化を抑制できるため、充電時の珪素系活物質の粒子の膨張を抑制できる。その結果、電池容量、サイクル特性をより確実に向上させることができる。
【0045】
そして、本発明における有機物ガス及び/又は蒸気を発生させ炭素原料として用いられる物質としては、特に非酸性雰囲気下において、上記の600〜1200℃の温度範囲での熱処理で熱分解して炭素(黒鉛)を生成する以下のものから選択することが好ましい。
脂肪族炭化水素の種類のものは、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン、プロピレンの単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物を使用することが好ましい。
更に、芳香族炭化水素の種類のものは、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン、メシチレンといった1環〜3環の芳香族炭化水素の単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物を使用することが好ましい。
また、タール蒸留工程で得られる留分の種類のものは、ガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油の単体又はこれらの中の少なくとも2個以上の混合物を使用することが好ましい。
脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、タール蒸留工程で得られる留分の中から、上記したこれらの物質を選択して炭素原料として使用することで、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性をより確実に向上させることができる。
【0046】
更に、本発明において、上記の有機物のうち、先に芳香族炭化水素の種類から選んで使用し、その後、脂肪族炭化水素の種類から使用することで炭素被膜を形成することが好ましい。
芳香族炭化水素は比較的低温であっても蒸着速度が高い。また、脂肪族炭化水素の蒸着によって形成される炭素被膜は電解液との接触面で電解液を分解させにくいため電池特性の悪化を抑制できる。そこで、炭素被膜を被覆する蒸着工程において、まず芳香族炭化水素を使用して効率よく炭素量を稼ぐことで十分な導電性を確保し、その後、脂肪族炭化水素の化学蒸着により、電解液との相性が良好な表面状態を形成させることで、生産性と電池特性の向上をより確実に両立させることができる。
【0047】
この場合の炭素被膜の被覆量は特に限定されるものではないが、炭素の割合は、炭素被覆した珪素系活物質の粒子全体に対して0.3〜40質量%が望ましく、0.5〜30質量%がより望ましい。
炭素被覆量を0.3質量%以上とすることで、十分な導電性を維持することができ、非水電解質二次電池の負極とした際のサイクル性の向上を確実に達成することができる。また、炭素被覆量が40質量%以下であれば、効果の向上が見られずに負極材料に占める炭素の割合が多くなってリチウムイオン二次電池用負極材として用いた場合に充放電容量が低下するような事態が発生する可能性を極力低くすることができる。
【0048】
また、炭素被膜の蒸着工程の圧力は、常圧、減圧下共に適用可能である。
【0049】
更に、炭素被膜の蒸着工程に使用する装置はバッチ式炉やロータリーキルン、ローラーハースキルンといった連続炉、又流動層炉など一般的に知られた装置が使用可能である。
【0050】
以上説明したようなリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法でリチウムイオン二次電池用負極材を製造する。
このような方法で製造されたものであれば、生産性、電池容量、初回充放電効率、サイクル特性により優れたリチウムイオン二次電池用負極材となる。
【0051】
[リチウムイオン二次電池]
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用負極材を用いた負極からなる点に特徴を有し、その他の正極、電解質、セパレータ等の材料及び電池形状等は公知のものを使用することができ、特に限定されない。
【0052】
ここで、上記リチウムイオン二次電池用負極材を用いて負極を作製する場合、更にカーボンや黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。
具体的にはAl、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粒子や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粒子、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0053】
負極(成型体)の調製方法としては、一例として下記のような方法が挙げられる。
上述の負極材と、必要に応じて導電剤と、結着剤等の他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。
この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。
なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0054】
また、正極活物質としてはLiCoO、LiNiO、LiMn、V、MnO、TiS、MoS等の遷移金属の酸化物、リチウム、及びカルコゲン化合物等を用いることができる。
電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられる。非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の1種又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
平均粒子径が5μm、BET比表面積が3.5m/gのSiO(x=1.0)粒子100gを粉体層厚みが10mmとなるようトレイに敷き、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。
そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を900℃に昇温した。そして、炉内の温度が900℃に達した後、炉内に芳香族炭化水素であるトルエンを0.3cc/minで流入し、炭素被膜を形成するための蒸着工程を4時間行った。トルエン停止後、脂肪族炭化水素であるメタンガスを0.3NL/minで通気する蒸着工程を3時間行った。この時の炉内圧は800Paとした。このように、実施例1では、蒸着工程を2回実施し、蒸着工程毎に使用する炭素原料の種類を1回変更して、2種類(先に芳香族炭化水素を使用し、その後に脂肪族炭化水素を使用した。)の炭素原料を使用した炭素被膜を形成した。
【0057】
処理後に降温し、106gの黒色粒子を得た。
得られた黒色粒子は、平均粒子径5.2μm、BET比表面積が6.5m/gで、黒色粒子に対する炭素被覆量4.8質量%の導電性粒子であった。
【0058】
<電池評価>
次に、以下の方法で、得られた粒子を負極活物質として用いた電池評価を行った。
まず、得られた負極材45質量%と人造黒鉛(平均粒子径10μm)45質量%、ポリイミド10質量%を混合し、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。
このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥させた。その後、2cmに打ち抜き、負極とした。
【0059】
そして、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0060】
作製したリチウムイオン二次電池を、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.5mA/cmの定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が40μA/cmを下回った時点で充電を終了させた。そして放電は0.5mA/cmの定電流で行い、セル電圧が1.4Vに達した時点で放電を終了して、放電容量を求めた。
そしてこの際の充電容量(初回充電容量)と放電容量(初回放電容量)から初回充放電効率を算出した。
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクル後の充放電試験を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
その結果、初回充電容量は2150mAh/gで初回放電容量は1656mAh/gとなり、初回充放電効率(初回放電容量/初回充電容量)は77%となった。また、50サイクル目の放電容量は1573mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は94%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池は、高電池容量となり、初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0062】
(実施例2)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粒子をバッチ式加熱炉内に仕込んだ。
そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を800℃に昇温した。そして、炉内の温度が800℃に達した後、炉内に芳香族炭化水素であるメシチレンを0.3cc/minで流入し、炭素被膜を形成するための蒸着工程を5時間行った。メシチレン停止後、脂肪族炭化水素であるプロピレンガスを0.3NL/minで通気する蒸着工程を3時間行った。この時の炉内圧は800Paとした。このように、実施例2では、蒸着工程を2回実施し、蒸着工程毎に使用する炭素原料の種類を1回変更して、2種類(先に芳香族炭化水素を使用し、その後に脂肪族炭化水素を使用した。)の炭素原料を使用した炭素被膜を形成した。
【0063】
処理後に降温し、106gの黒色粒子を得た。
得られた黒色粒子は、平均粒子径5.3μm、BET比表面積が4.0m/gで、黒色粒子に対する炭素被覆量4.9質量%の導電性粒子であった。
【0064】
<電池評価>
次に、この負極材を用いて実施例1と同様な方法で負極を作製し、得られた負極の充放電特性を評価するために、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池の電池評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
その結果、初回充電容量は2225mAh/gで初回放電容量は1691mAh/gとなり、初回充放電効率(初回放電容量/初回充電容量)は76%となった。また、50サイクル目の放電容量は1606mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は95%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池は、高電池容量となり、初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0066】
(実施例3)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粒子をバッチ式加熱炉内に仕込んだ。
そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を900℃に昇温した。そして炉内の温度が900℃に達した後、炉内に芳香族炭化水素であるトルエンを0.3cc/min流入し、炭素被膜を形成するための蒸着工程を5時間行った。トルエン停止後、200℃/hrの昇温速度で炉内を1000℃に昇温し、1000℃到達後に、脂肪族炭化水素であるメタンガスを0.3NL/minで通気する蒸着工程を1時間行った。この時の炉内圧は800Paとした。このように、実施例3では、蒸着工程を2回実施し、蒸着工程毎に使用する炭素原料の種類を1回変更して、2種類(先に芳香族炭化水素を使用し、その後に脂肪族炭化水素を使用した。)の炭素原料を使用した炭素被膜を形成した。
【0067】
処理後に降温し、106gの黒色粒子を得た。
得られた黒色粒子は、平均粒子径5.5μm、BET比表面積が6.5m/gで、黒色粒子に対する炭素被覆量5.1質量%の導電性粒子であった。
【0068】
<電池評価>
次に、この負極材を用いて実施例1と同様な方法で負極を作製し、得られた負極の充放電特性を評価するために、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池の電池評価を行った。その結果を表1に示す。
【0069】
その結果、初回充電容量は2096mAh/gで初回放電容量は1635mAh/gとなり、初回充放電効率は78%となった。また、50サイクル目の放電容量は1504mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は92%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池は、高電池容量となり、初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0070】
(実施例4)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粒子をバッチ式加熱炉内に仕込んだ。
そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を900℃に昇温した。そして炉内の温度が900℃に達した後、炉内に芳香族炭化水素であるトルエンを0.3cc/minで流入し、炭素被膜を形成するための蒸着工程を5時間行った。トルエン停止後、200℃/hrの昇温速度で炉内を1000℃に昇温し、1000℃到達後に、タール蒸留工程で得られる留分であるガス軽油を0.2cc/minで流入する蒸着工程を1時間行った。この時の炉内圧は800Paとした。このように、実施例4では、蒸着工程を2回実施し、蒸着工程毎に使用する炭素原料の種類を1回変更して、2種類(先に芳香族炭化水素を使用し、その後にタール蒸留工程で得られる留分を使用した。)の炭素原料を使用した炭素被膜を形成した。
【0071】
処理後に降温し、106gの黒色粒子を得た。
得られた黒色粒子は、平均粒子径5.7μm、BET比表面積が4.1m/gで、黒色粒子に対する炭素被覆量5.0質量%の導電性粒子であった。
【0072】
<電池評価>
次に、この負極材を用いて実施例1と同様な方法で負極を作製し、得られた負極の充放電特性を評価するために、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池の電池評価を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
その結果、初回充電容量は2129mAh/gで初回放電容量は1640mAh/gとなり、初回充放電効率は77%となった。また、50サイクル目の放電容量は1459mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は89%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池は、高電池容量となり、初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0074】
(実施例5)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粒子100gを粉体層厚みが10mmとなるようトレイに敷き、バッチ式加熱炉内に仕込んだ。
そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を900℃に昇温した。そして、炉内の温度が900℃に達した後、脂肪族炭化水素であるメタンガスを0.3NL/minで通気する蒸着工程を3時間行った。メタンガス停止後、芳香族炭化水素であるトルエンを0.3cc/minで流入し、炭素被膜を形成するための蒸着工程を4時間行った。つまり実施例5では、実施例1と順番を逆に、先に脂肪族炭化水素を使用し、その後に芳香族炭化水素を使用した。
【0075】
処理後に降温し、107gの黒色粒子を得た。
得られた黒色粒子は、平均粒子径5.2μm、BET比表面積が3.0m/gで、黒色粒子に対する炭素被覆量5.1質量%の導電性粒子であった。
【0076】
<電池評価>
次に、この負極材を用いて実施例1と同様な方法で負極を作製し、得られた負極の充放電特性を評価するために、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池の電池評価を行った。その結果を表1に示す。
【0077】
その結果、初回充電容量は2142mAh/gで初回放電容量は1650mAh/gとなり、初回充放電効率は77%となった。また、50サイクル目の放電容量は1485mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は90%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池は、高電池容量となり、初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0078】
(比較例1)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粒子をバッチ式加熱炉内に仕込んだ。
そして油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、炉内を1100℃に昇温させた。1100℃に達した後に脂肪族炭化水素であるメタンガスを0.3NL/min流入し、5時間の炭素被覆処理を行った。なお、この時の炉内圧は800Paとした。このように、比較例1では、蒸着工程を1回のみ実施し、1種類の炭素原料を使用した炭素被膜を形成した。
この粉末を混合して測定したところ、炭素被覆量5.0質量%、平均粒子径5.3μm、BET比表面積5.1m/gの粒子であった。
【0079】
<電池評価>
次に、この負極材を用いて実施例1と同様な方法で負極を作製し、得られた負極の充放電特性を評価するために、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池の電池評価を行った。その結果を表1に示す。
【0080】
その結果、初回充電容量は2091mAh/gで初回放電容量は1631mAh/gとなり、初回充放電効率は78%となった。また、50サイクル目の放電容量は1402mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は86%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池に比べてサイクル特性が大幅に劣ることが確認された。
【0081】
(比較例2)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粒子100gをバッチ式加熱炉内に仕込んだ。
油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を900℃に昇温した。そして、炉内の温度が900℃に達した後、炉内に芳香族炭化水素であるトルエンを0.3cc/minで流入し、4時間の炭素被覆処理を行った。トルエン停止後、芳香族炭化水素であるベンゼンを0.3NL/minで通気し2時間の炭素被覆処理を行った。この時の炉内圧は800Paとした。このように、比較例2では、蒸着工程を2回実施し、蒸着工程毎に使用する炭素原料の種類を変更しないで、1種類(2回とも芳香族炭化水素を使用した。)の炭素原料を使用した炭素被膜を形成した。
冷却後この粉末を混合して測定したところ、炭素被覆量5.3質量%、平均粒子径5.3μm、BET比表面積2.1m/gの粒子であった。
【0082】
<電池評価>
次に、この負極材を用いて実施例1と同様な方法で負極を作製し、得られた負極の充放電特性を評価するために、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池の電池評価を行った。その結果を表1に示す。
【0083】
その結果、初回充電容量は2155mAh/gで初回放電容量は1660mAh/gとなり、初回充放電効率は77%となった。また、50サイクル目の放電容量は1211mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は73%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池に比べてサイクル特性が大幅に劣ることが確認された。
【0084】
(比較例3)
実施例1と同じSiO(x=1.0)粒子100gをバッチ式加熱炉内に仕込んだ。
油回転式真空ポンプで炉内を減圧しつつ、200℃/hrの昇温速度で炉内を900℃に昇温した。そして900℃に達した後、炉内にメタンガスを0.3NL/minで通気し、42時間の炭素被覆処理を行った。このように、比較例3では、蒸着工程を1回のみ実施し、1種類の炭素原料を使用した炭素被膜を形成した。
冷却後この粉末を混合して測定したところ、炭素被覆量4.7質量%であったが、他の実施例及び比較例と比較して生産性が非常に低かった。
【0085】
<電池評価>
次に、この負極材を用いて実施例1と同様な方法で負極を作製し、得られた負極の充放電特性を評価するために、実施例1と同様な方法でリチウムイオン二次電池を作製した。そして、作製したリチウムイオン二次電池の電池評価を行った。その結果を表1に示す。
【0086】
その結果、初回充電容量は2144mAh/gで初回放電容量は1651mAh/gとなり、初回充放電効率は77%となった。また、50サイクル目の放電容量は1518mAh/gとなり、50サイクル後のサイクル保持率(容量維持率)は92%となった。以上の結果から、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル特性を得るためには、蒸着工程に要する時間(CVD時間)が42時間必要となり、これでは生産性が大幅に悪化してしまうことが確認された。
【0087】
実施例、比較例の炭素蒸着工程及び電池特性の一覧表を表1に示す。比較例1、2の負極材は実施例1−3の負極材に比べて明らかにサイクル特性に劣るリチウムイオン二次電池であり、比較例3では電池特性こそ実施例に劣っていないが工程に難があることが確認された。
【0088】
【表1】
【0089】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。