特許第6046737号(P6046737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6046737-レンズシートの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046737
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】レンズシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 47/06 20060101AFI20161212BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20161212BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   B29C47/06
   B29L9:00
   B29L11:00
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-544613(P2014-544613)
(86)(22)【出願日】2013年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2013079784
(87)【国際公開番号】WO2014069641
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2016年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-241491(P2012-241491)
(32)【優先日】2012年11月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】船崎 一男
(72)【発明者】
【氏名】植田 達也
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−290552(JP,A)
【文献】 特開平04−327937(JP,A)
【文献】 特開2012−144033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
B29C59/00−59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と、前記熱可塑性樹脂(A)よりもMFR(ISO1133に準じ、230℃、荷重37.3Nの条件で測定した値)の小さい熱可塑性樹脂(B)と、熱可塑性樹脂(A)とを押出成形して、熱可塑性樹脂(A)からなり、単位長さあたりの体積がy(yは正数である)であり、かつ表層である第1層と、熱可塑性樹脂(B)からなる第2層と、熱可塑性樹脂(A)からなる第3層とを順次備える溶融状態の複層シートをマルチマニホールドダイにより得る第1工程;および、
前記単位長さあたりの体積が下記式(1)を満足するx(xは正数である)である溝を複数有する賦形金型を、第1工程で得られた溶融状態の複層シートの第1層からなる表面に密着させて、n個(nは自然数である)の畝状レンズを形成する第2工程;
を含むレンズシートの押出製造方法。
0.7≦y/nx≦2.0 (1)
【請求項2】
前記y,n,xが下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載のレンズシートの押出製造方法。
1.05≦y/nx≦1.4 (2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの表面に、平行に配列した複数の畝状レンズを備えるレンズシートの製造方法に関し、詳細には、本発明は、特に樹脂シートの厚さが厚く、畝状レンズのアスペクト比が高いレンズシートを好適に製造し得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂シートの表面に、平行に配列した複数の畝状レンズを備えるレンズシートが知られている。かかる畝状レンズの形状としては、例えばかまぼこ形状のレンズや、頂角90度の三角柱状のプリズムレンズが挙げられる(特許文献1〜4参照)。かかるレンズシートにおいては、通常、畝状レンズのアスペクト比(すなわち(畝状レンズの高さ)/(畝状レンズのピッチ))を高くすることが求められる。
【0003】
上記のレンズシートの製造方法としては、熱可塑性樹脂を押出成形又は射出成形する方法、紫外線硬化樹脂を光硬化成形する方法が挙げられる。中でも熱可塑性樹脂を押出成形する方法は、連続生産性の観点で優れる。
【0004】
両面に畝状レンズを有したレンズシートを、熱可塑性樹脂の押出成形により製造する方法として、粘度の低い熱可塑性樹脂で粘度の高い熱可塑性樹脂を挟むように配置して多層押出成形する方法が知られている。かかる方法でレンズシートを製造することで、アスペクト比の高い畝状レンズを有するレンズシートを製造する際の溶融シートの樹脂垂れを抑制でき、生産安定性が高まるとされている(特許文献5参照)。
また、芯体とパターン部材との間に熱緩衝部材を配したパターンロールを賦形金型として用いて、押出成形した溶融状態のシートにパターン部材の形状を転写する方法が知られており、アスペクト比0.5のプリズムレンズを厚さ1mmの樹脂シートに配列したレンズシートの製造例が開示されている(特許文献6参照)。
【0005】
ところで、上記レンズシートの用途の一つとして、液晶表示装置などに用いられる導光板がある。かかる用途では近年装置の大型化が進み、これに伴い、導光板の強度を確保するため、樹脂シートを厚くすることが求められている。
【0006】
本発明者らの検討によれば、特許文献5に記載の方法では、樹脂シートを厚くした場合、賦形率(すなわちレンズシートの畝状レンズの高さ/賦形金型の溝の深さ)が低下し、畝状レンズのアスペクト比が低下する傾向があり、改善の余地があることが判明した。
また、特許文献6に記載の方法では、熱緩衝部材によって効率よく樹脂シートに熱が伝わるので、樹脂シートの厚さが厚い場合、形成した凹凸パターンの冷却、硬化が速やかに進まず、パターンロールから剥がした後に畝状レンズが変形する傾向があり、問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−190835号公報
【特許文献2】特開2009−37803号公報
【特許文献3】特開2009−265380号公報
【特許文献4】特開2009−283383号公報
【特許文献5】特開平4−299329号公報
【特許文献6】特開2003−53834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂を用いて押出成形によりレンズシートを製造する方法において、大型の導光板などに好適な、樹脂シートの厚さが厚く、畝状レンズのアスペクト比が高く押出幅方向で均一なレンズシートを工業的に容易に製造し得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記の目的は、以下の態様を包含する発明により解決される。
[1]熱可塑性樹脂(A)と、前記熱可塑性樹脂(A)よりもMFR(ISO1133に準じ、230℃、荷重37.3Nの条件で測定した値)の小さい熱可塑性樹脂(B)とを押出成形して、熱可塑性樹脂(A)からなり、単位長さあたりの体積がy(yは正数である)であり、かつ表層である第1層と、熱可塑性樹脂(B)からなる第2層とを隣接して備える溶融状態の複層シートをマルチマニホールドダイにより得る第1工程;および、単位長さあたりの容積が下記式(1)を満足するx(xは正数である)である溝を複数有する賦形金型を、第1工程で得られた溶融状態の複層シートの第1層からなる表面に密着させて、n個(nは自然数である)の畝状レンズを形成する第2工程;
を含むレンズシートの押出製造方法。
0.7≦y/nx≦2.0 (1)
[2]前記y,n,xが下記式(2)を満足することを特徴とする[1]に記載のレンズシートの押出製造方法。
1.05≦y/nx≦1.4 (2)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大型の導光板などに好適な、樹脂シートの厚さが厚く、畝状レンズのアスペクト比が高いレンズシート、例えば、樹脂シートの厚さが2.5〜15mm、畝状レンズのアスペクト比0.3〜1.0のレンズシートを工業的に容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1〜5および比較例3、4の畝状レンズの中央部の賦形率とy/nxとの関係を示す図である。
図2】実施例および比較例のレンズシートを製造した押出成形機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[熱可塑性樹脂]
本発明の製造方法で用いる熱可塑性樹脂(B)のMFRは熱可塑性樹脂(A)のMFRよりも小さい。すなわち、熱可塑性樹脂(A)のMFRをMFR(A)とし、熱可塑性樹脂(B)のMFRをMFR(B)としたとき、MFR(A)/MFR(B)の値は1を超える。MFR(A)/MFR(B)の値は、1.5〜40の範囲が好ましく、2〜30の範囲がより好ましく、3〜20の範囲がさらに好ましい。MFR(A)/MFR(B)の値が1を超えることで、畝状レンズのアスペクト比を高められる。得られるレンズシートの厚さの均一性を高める観点から、MFR(A)/MFR(B)の値が40以下であることが好ましい。なお、本明細書においては、MFRとは、ISO1133に準じ、230℃、荷重37.3Nの条件で測定した値である。
【0013】
MFR(A)は、熱可塑性樹脂(A)を賦形金型の溝に可能な限り隙間なく充填する観点から、従来の押出成形で用いられる熱可塑性樹脂よりも高い範囲が好ましい。例えば、7〜50g/10分の範囲が好ましく、7〜30g/10分の範囲がより好ましく、10〜25g/10分の範囲がさらに好ましく、10〜20g/10分の範囲が特に好ましい。MFR(A)が7g/10分より小さいと得られるレンズシートの賦形率が低下する場合があり、50g/10分より大きいと押出成形時の熱可塑性樹脂(A)の押出量が不安定になる場合がある。
なお本明細書中で2つの数値を「〜」で結ぶ記載は該2つの数値およびその間の範囲を意味する。
【0014】
MFR(B)は、押出成形の運転安定性の観点から、0.2〜5g/10分の範囲が好ましく、0.4〜4g/10分の範囲がより好ましく、0.5〜3g/10分の範囲がさらに好ましい。MFR(B)が0.2g/10分より小さいと押出成形機内の溶融樹脂の圧力が高くなりすぎ、押出成形機が破損する場合があり、5g/10分より大きいと得られるレンズシートの厚さむらが増大する場合がある。
【0015】
[第1工程]
第1工程では、熱可塑性樹脂(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを押出成形して、熱可塑性樹脂(A)からなり表層である第1層と、熱可塑性樹脂(B)からなる第2層とを隣接して備える溶融状態の複層シートを得る。
【0016】
熱可塑性樹脂(A)と、熱可塑性樹脂(B)との押出成形の条件には特に制限はない。通常、熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)をそれぞれ押出成形機のシリンダー中で溶融し、押出ダイ内で積層した後に、押出成形して、溶融状態の複層シートを得る。押出ダイは、各層の厚さを均一にする観点から、内部に複数のマニホールドを持つマルチマニホールドダイを用いる。
本願で用いるマルチマニホールドダイで複層シートを製造する場合、各層を構成する熱可塑性樹脂はダイ内部の別々の流路へ供給され、各層を構成する樹脂は別々に板の幅方向へ広げられたのち、ダイの吐出口近傍で合流されて押出される。そのため、マルチマニホールドダイでは、樹脂の流動性が異なっていても各層の厚みを板の幅方向で均一にすることができる。
【0017】
押出成形において、熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)を溶融させる温度(成形温度)は、例えば熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の荷重たわみ温度よりも通常それぞれ130〜180℃高くすることが好ましい。熱可塑性樹脂(A)と、熱可塑性樹脂(B)との成形温度は異なっていてもよい。第2工程における畝状レンズの形成において、熱可塑性樹脂(A)の流動性を高めて賦形率を高める観点から、熱可塑性樹脂(A)の成形温度を熱可塑性樹脂(B)の成形温度よりも高くすることが好ましい。
【0018】
マルチマニホールドダイは、通常、各熱可塑性樹脂を加熱するためのヒータを有する。マルチマニホールドダイが有するヒータは、各熱可塑性樹脂ごとに異なっていてもよく、その場合、各熱可塑性樹脂のヒータの温度(成形温度)をそれぞれ変更できる。第1層となる熱可塑性樹脂(A)が接するヒータの温度は、マルチマニホールドダイが有する熱可塑性樹脂(B)が接するヒータの温度よりも、通常5〜40℃の温度差で高くすることが好ましく、10〜35℃の温度差で高くすることがより好ましく、15〜30℃の温度差で高くすることがさらに好ましい。かかる温度差を40℃以下とすることで得られるレンズシートの反りが発生しにくくなる。
【0019】
熱可塑性樹脂(A)の押出量に特に制限はないが、例えば5〜100kg/時などとすることができる。
【0020】
熱可塑性樹脂(B)の押出量に特に制限はないが、例えば50〜400kg/時などとすることができる。
【0021】
熱可塑性樹脂(A)と、熱可塑性樹脂(B)の押出量の比は、例えば1:2〜1:50などとすることができる。
【0022】
溶融状態の複層シートの押出速度に特に制限はないが、例えば0.1〜10m/分などとすることができる。
【0023】
用いる各熱可塑性樹脂の押出量および、マルチマニホールドダイの吐出口の幅等によって調整される溶融状態の複層シートの厚さによって、第1層の単位長さあたりの体積yを調整できる。
【0024】
押出成形において、上記熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の一方または両方に、必要に応じて、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、高分子加工助剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などを添加してもよい。
【0025】
本工程で得られる溶融状態の複層シートの厚さは、通常2〜20mmの範囲が好ましく、2.5〜10mmの範囲がより好ましい。厚さが2mmより薄いと樹脂シートの強度が不足する場合があり、20mmより厚いと形成した凹凸パターンの冷却、硬化が速やかに進まず、賦形金型から剥がした後に畝状レンズが変形する傾向がある。
【0026】
本工程で得られる溶融状態の複層シートの第1層と第2層との厚さの比は、例えば1:2〜1:50などとすることができる。
【0027】
本明細書においては、第1層の単位長さあたりの体積をyと定義する。また、第1層は、溶融状態の複層シートの表層であり、第2工程において、賦形金型と密着する。この結果、第1層は、第2工程において形成されるn個の畝状レンズの少なくとも一部となる。
【0028】
第2層は、溶融状態の複層シートの表層であってもよく、他の層に覆われていてもよい。すなわち、溶融状態の複層シートは第1層、第2層以外の他の層を含んでもよい。かかる他の層は熱可塑性樹脂(A)または熱可塑性樹脂(B)からなっていても、他の熱可塑性樹脂からなっていてもよい。得られるレンズシートの反りを抑制する観点から、別の層として熱可塑性樹脂(A)からなる第3層を用いて、第1層/第2層/第3層の順に配置した3層の複層シートとすることが好ましい。このような3層の複層シートを製造する場合、この際、第3層の押出量は第1層の押出量の0.9〜1.1倍の範囲とすることが好ましく、第1層の押出量と等しくすることがより好ましい。
【0029】
[第2工程]
第2工程では、単位長さあたりの容積が式(1)を満足するxである溝を複数有する賦形金型を、第1工程で得られた溶融状態の複層シートの第1層からなる表面に密着させて、n個の畝状レンズを形成する。この際、溶融状態の複層シートの他の表面には、押付金型を密着させることが好ましい。
【0030】
賦形金型および押付金型の形状は、例えば、ベルト状、ロール状などが挙げられる。
【0031】
n個の畝状レンズを形成するにあたり、必要となる賦形金型の溝の単位長さあたりの容積の合計は、nxである。式(1)におけるy/nxの値は、高い賦形率を実現する観点から0.7〜2.0の範囲であり、1.05〜1.4の範囲が好ましく、1.2〜1.3の範囲がより好ましい。
【0032】
本発明のレンズシートの畝状レンズの個数nは、(製造するレンズシートの幅)/(畝状レンズのピッチ)として決定される。かかる畝状レンズの個数nと、前記第1工程において決定される溶融状態の複層シートの第1層の単位長さあたりの体積yと、賦形金型の溝の単位長さあたりの容積xによって、y/nxの値を所望の範囲に調整できる。具体的には、前記第1工程で溶融状態の複層シートを製造する際に、用いる全熱可塑性樹脂の単位時間当たりの押出量の合計をr、熱可塑性樹脂(A)の単位時間当たりの押出量をrとすると、比率r/rを調整することで、y/nxの値を調整でき、r/rを大きくするにしたがってy/nxは大きくなる。
【0033】
y/nxの値によって、第1層が賦形金型の溝内の容積のうち、どの程度を満たすかが決定される。すなわち、y/nxの値が1を超えるとき、熱可塑性樹脂(A)のみが該溝内を満たし、得られるレンズシートは第1層が畝状レンズおよび樹脂シートの一部を、第2層が樹脂シートを形成できる。一方、y/nxの値が1未満であれば、溝内は熱可塑性樹脂(A)の全量および熱可塑性樹脂(B)の一部が満たし、得られるレンズシートは第1層が畝状レンズの一部を、第2層が畝状レンズの一部および樹脂シートを形成できる。y/nxの値が1であれば、熱可塑性樹脂(A)のみが該溝内は満たし、得られるレンズシートは第1層が畝状レンズのみを、第2層が樹脂シートのみを形成できる。以上、説明したように、本発明の製造方法は、第1層のうち畝状レンズを形成する割合、および畝状レンズのうち第1層で形成する割合を調整することで目的を達成する。
【0034】
賦形金型の温度は、熱可塑性樹脂(A)を賦形金型へ可能な限り隙間なく充填する観点から、熱可塑性樹脂(A)の荷重たわみ温度±10℃の範囲が好ましい。賦形金型の温度が熱可塑性樹脂(A)の荷重たわみ温度よりも10℃を超えて下回ると賦形金型への樹脂の充填が不十分となり、また、10℃を超えて上回ると賦形金型からの樹脂の離型がスムーズに行われず、樹脂シートがロールに巻きつくというトラブルを発生したり、離型マークと呼ばれる表面欠点を生じたりする。
押付金型の温度は、熱可塑性樹脂(B)を十分冷却する観点から、(熱可塑性樹脂(B)の荷重たわみ温度−20℃)〜(熱可塑性樹脂(B)の荷重たわみ温度)の範囲が好ましい。
なお、熱可塑性樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の荷重たわみ温度は、ISO75−2にしたがって測定される。
【0035】
得られるレンズシートの畝状レンズのアスペクト比を高める観点から、用いる賦形金型のピッチは、通常、0.05〜1.0mmの範囲が好ましく、0.1〜0.8mmの範囲がより好ましい。
【0036】
本発明においては、第2工程ののちに得られるシート成形品を通常押出方向に垂直な方向に切断して、長さを調整してレンズシートとする。また、押出方向に平行な押出幅方向の両端を適宜切断して、幅を調整してもよい。
【実施例】
【0037】
以下に実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
【0038】
用いた賦形金型は、以下のとおりである。
賦形金型の表面形状を2液硬化型シリコーン樹脂を用いて転写し、その断面形状を顕微鏡で観察して、溝のピッチと深さを測定した。この結果、賦形金型ロールの溝の断面形状はピッチが0.4mm、深さが0.231mmの半楕円形であった。
また、得られた溝のピッチと深さから半楕円形状の溝の面積を算出し、さらに単位長さあたりの容積x(m/m)を算出した。この結果、xは0.14×10−6/mであった。
【0039】
得られたレンズシートは以下の方法で評価した。
(1)畝状レンズの高さ
レンズシートの押し出し方向に垂直な断面を顕微鏡で観察し、畝状レンズの頂部から谷部までの厚さ方向と平行な距離を測定した。押出幅方向の中央部にて測定したものを中央部の畝状レンズの高さとし、押出幅方向の中央部から一方の押出幅方向の端部へ600mm離れた場所にて測定したものを端部の畝状レンズの高さとした。
(2)樹脂シートの厚さ
レンズシートの押し出し方向に垂直な断面を顕微鏡で観察し、畝状レンズの谷部から第三層の表面までの距離を測定した。
(3)y/nxの算出
熱可塑性樹脂(A)の押出量Q(kg/時)、レンズシートの押出速度v(m/分)、熱可塑性樹脂(A)の比重ρ(g/cm)から下記式により第1層の単位長さあたりの体積y(m/m)を算出した。
y=Q/(60000×ρ×v)(m/m)
算出したyと、形成した畝状レンズの数nおよび前記算出したx(m/m)より、y/nxを算出した。
(4)畝状レンズのピッチ
レンズシートの押し出し方向に垂直な断面を顕微鏡で観察し、畝状レンズの頂部から隣り合う畝状レンズの頂部までの距離を測定した。
(5)畝状レンズのアスペクト比
前記(1)で測定した中央部の畝状レンズの高さを前記(4)で測定した畝状レンズのピッチで除し、アスペクト比とした。
(6)賦形率(%)
賦形金型の溝の深さに対する、前記(1)で測定した中央部および端部の畝状レンズの高さの百分率を求めて中央部および端部の賦形率(%)とした。
(7)第3層の厚さ
シートの押し出し方向に垂直な断面を顕微鏡で観察して測定した。押出幅方向の中央部にて測定したものを中央部の第3層の厚さとし、押出幅方向の中央部から一方の押出幅方向の端部へ600mm離れた場所にて測定したものを端部の第三層の厚さとした。
【0040】
図2は、実施例および比較例で使用した押出成形機1の概略図である。押出成形機1は図示しない押出スクリュー部と、多層押出T型マルチマニホールドダイ2、押付金型ロール31、賦形金型ロール32、冷却ロール33、34からなる。賦形金型ロール32の表面にはロールの外周に沿って延びる溝が3250本設けられている。
押付金型ロール31、冷却ロール33、34の表面は滑らかである。多層押出T型マルチマニホールドダイ2の溶融樹脂吐出部から溶融した帯状の樹脂が下方に吐出される。押付金型ロール31と賦形金型ロール32とは溶融樹脂を挟むように対向して互いに平行に、水平に配置される。冷却ロール33、34は押付金型ロール31および賦形金型ロール32と平行に、それぞれの回転軸が同一平面に位置するように配置される。
【0041】
実施例および比較例では次のアクリル樹脂(a)およびアクリル樹脂(b)を用いた。
アクリル樹脂(a):(株)クラレ製、「パラペットGH」、MFR=10(ISO1133に準じ、230℃、荷重37.3Nで測定されたカタログ値)、荷重たわみ温度=95℃(ISO75−2に準じ、アニール有り、荷重1.82MPaで測定されたカタログ値)、比重1.19。
アクリル樹脂(b):(株)クラレ製、「パラペットEH」、MFR=1.3g/10分(ISO1133に準じ、230℃、荷重37.3Nで測定されたカタログ値)、荷重たわみ温度=93℃(測定条件:ISO75−2に準じ、アニール有り、荷重1.82MPaで測定されたカタログ値)、比重1.19。
【0042】
実施例1
押出成形機にアクリル樹脂(a)およびアクリル樹脂(b)を仕込み、アクリル樹脂(a)を260℃、アクリル樹脂(b)を245℃に加熱し、溶融樹脂が吐出される押出幅方向の長さが約1500mmの多層押出T型マルチマニホールドダイ内で、アクリル樹脂(a)、アクリル樹脂(b)、アクリル樹脂(a)の順に積層し、アクリル樹脂(a)を第1層、アクリル樹脂(b)を第2層、アクリル樹脂(a)を第3層とする溶融状態の複層シートを押し出した。アクリル樹脂(a)(第1層および第3層)の押出量はそれぞれ20kg/時、アクリル樹脂(b)(第2層)の押出量は200kg/時とした。
次いで、かかる溶融状態の複層シートを、3mm離間して互いに平行に配置した押付金型ロール31と賦形金型ロール32との間に供給してレンズ形状を賦形し、次いで冷却ロール33、34に密着させ、表面に複数の畝状レンズを配列したシート成形品を得た。シート成形品の幅はおよそ1.4(m)であった。
押付金型ロール31の表面温度は80℃、賦形金型ロール32の表面温度は100℃、冷却ロール33の表面温度は100℃、冷却ロール34の表面温度は70℃、レンズシートの押出速度は0.8m/分であった。
y/nxの値は0.750となった。
【0043】
得られたシート成形品を押出方向と垂直に1.3mの長さで切断した。また、押出方向に平行な押出幅方向の両端を均等な幅ずつ切断して、幅1.3mとして、レンズシートとした。
【0044】
以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.8mm、中央部の畝状レンズの高さは0.16mm、端部の畝状レンズの高さは0.159mm、畝状レンズのアスペクト比は0.400、中央部および端部の賦形率は69%であった。中央部の第3層の厚さは0.136mm、端部の第3層の厚さは0.135mmだった。
【0045】
実施例2
アクリル樹脂(a)(第1層および第3層)の押出量をそれぞれ28.8kg/時、アクリル樹脂(b)(第2層)の押出量を182.3kg/時とした以外は実施例1と同様にしてレンズシートを製造した。この結果、y/nxは1.081となった。以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.8mm、中央部の畝状レンズの高さは0.164mm、端部の畝状レンズの高さは0.162mm、畝状レンズのアスペクト比は0.410、中央部の賦形率は71%、端部の賦形率は70%であった。中央部の第3層の厚さは0.196mm、端部の第3層の厚さは0.194mmだった。
【0046】
実施例3
アクリル樹脂(a)(第1層および第3層)の押出量をそれぞれ32kg/時、アクリル樹脂(b)(第2層)の押出量を176kg/時とした以外は実施例1と同様にしてレンズシートを製造した。この結果、y/nxは1.230となった。以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.8mm、中央部および端部の畝状レンズの高さは0.177mm、畝状レンズのアスペクト比は0.443、中央部および端部の賦形率は77%であった。中央部の第3層の厚さは0.223mm、端部の第3層の厚さは0.222mmだった。
【0047】
実施例4
アクリル樹脂(a)(第1層および第3層)の押出量をそれぞれ36.8kg/時、アクリル樹脂(b)(第2層)の押出量を164.4kg/時とした以外は実施例1と同様にしてレンズシートを製造した。この結果、y/nxは1.379となった。以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.8mm、中央部の畝状レンズの高さは0.164mm、端部の畝状レンズの高さは0.166mm、畝状レンズのアスペクト比は0.410、中央部の賦形率は71%、端部の賦形率は72%であった。中央部および端部の第3層の厚さは0.25mmだった。
【0048】
実施例5
アクリル樹脂(a)(第1層および第3層)の押出量をそれぞれ51.5kg/時、アクリル樹脂(b)(第2層)の押出量を137kg/時とした以外は実施例1と同様にしてレンズシートを製造した。この結果、y/nxは1.930となった。以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.8mm、中央部の畝状レンズの高さは0.156mm、端部の畝状レンズの高さは0.157mm、畝状レンズのアスペクト比は0.390、中央部および端部の賦形率は68%であった。中央部の第3層の厚さは0.35mm、端部の第3層の厚さは0.348mmだった。
【0049】
比較例1
押出成形機にアクリル樹脂(b)を仕込み、245℃に加熱し、押出量240kg/時でT型マルチマニホールドダイから溶融状態のシートを押し出した。次いで、かかる溶融状態のシートを、3mm離間して互いに平行に配置した押付金型ロール31と賦形金型ロール32との間に供給してレンズ形状を賦形し、次いで冷却ロール33、34に密着させ、表面に複数の畝状レンズを配列したレンズシートを製造した。押付金型ロール31の表面温度は80℃、賦形金型ロール32の表面温度は100℃、冷却ロール33の表面温度は100℃、冷却ロール34の表面温度は70℃、レンズシートの押出速度は0.8m/分であった。
以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.9mm、中央部および端部の畝状レンズの高さは0.100mm、畝状レンズのアスペクト比は0.250、中央部および端部の賦形率は43%であった。
【0050】
比較例2
アクリル樹脂(b)の押出量を160kg/時とし、押付金型ロール31と賦形金型ロール32との間を2mm離間して互いに平行に配置した以外は、比較例1と同様にしてレンズシート4を製造した。
以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは1.9mm、中央部および端部の畝状レンズの高さは0.150mm、畝状レンズのアスペクト比は0.375、中央部および端部の賦形率は65%であった。
【0051】
比較例3
アクリル樹脂(a)(第1層および第3層)の押出量をそれぞれ5.9kg/時、アクリル樹脂(b)(第2層)の押出量を228.2kg/時とした以外は実施例1と同様にしてレンズシートを製造した。この結果、y/nxは0.221となった。以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.9mm、中央部の畝状レンズの高さは0.115mm、端部の畝状レンズの高さは0.113mm、畝状レンズのアスペクト比は0.288、中央部の賦形率は50%、端部の賦形率は49%であった。中央部および端部の第3層の厚さは0.040mmだった。
【0052】
比較例4
アクリル樹脂(a)(第1層および第3層)の押出量をそれぞれ88.2kg/時、アクリル樹脂(b)(第2層)の押出量を63.5kg/時とした以外は実施例1と同様にしてレンズシートを製造した。この結果、y/nxは3.309となった。以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.9mm、中央部および端部の畝状レンズの高さは0.112mm、畝状レンズのアスペクト比は0.280、中央部および端部の賦形率は48%であった。中央部の第3層の厚さは0.600mm、端部の第3層の厚さは0.597mmだった。
【0053】
比較例5
アクリル樹脂(b)に代えてアクリル樹脂(a)を使用し、260℃に加熱して押し出した以外は比較例1と同様にしてレンズシートを製造した。T型マルチマニホールドダイから押し出された溶融状態のシートが頻繁に破断して安定的な製造ができなかった。また、得られたレンズシートは畝状レンズの形状が不均一で実用に耐えるものではなかった。
【0054】
比較例6
多層押出T型マルチマニホールドダイを多層押出T型フィードブロックダイに変えた以外は実施例3と同様にしてレンズシートを製造した。この結果、y/nxは1.230となった。以上のようにして得たレンズシートの畝状レンズのピッチは0.4mm、樹脂シートの厚さは2.8mm、中央部の畝状レンズの高さは0.165mm、端部の畝状レンズの高さは0.114mm、畝状レンズのアスペクト比は0.413、中央部の賦形率は71%、端部の賦形率は49%であった。中央部の第3層の厚さは0.230mm、端部の第3層の厚さは0.088mmだった。
【0055】
実施例および比較例で得られたレンズシートのy/nxの値および畝状レンズの高さ、アスペクト比、賦形率などを表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1〜5および比較例3、4で得られたレンズシートにおける畝状レンズの中央部の賦形率とy/nxとの関係を図1に示す。
図1中のE1〜E5は順に実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5について示しており、C3、C4は、それぞれ比較例3、比較例4について示している。
図1および表1から、実施例1〜5で得られたレンズシートは比較例3および4で得られたレンズシートに比べて、賦形率および畝状レンズのアスペクト比が高いことが分かる。
また比較例1および2から、アクリル樹脂(b)のみで作製したレンズシートは、賦形率および畝状レンズのアスペクト比が低く、特に樹脂シートの厚さが厚い場合にその傾向が大きいことが分かる。
また比較例5から、アクリル樹脂(a)のみで作製したレンズシートは安定的に生産できず、レンズの形状も不均一となることが分かる。
また比較例6から、マルチマニホールドダイを使用しなかったレンズシートはアクリル樹脂(a)からなる層の厚さが押出幅方向で差があり、賦形率が不均一となることが分かる。
以上の結果から、本発明のレンズシートの製造方法によれば、樹脂シートの厚さが3.0mmと厚い場合であっても高い賦形率を実現でき、畝状レンズのアスペクト比が高いレンズシートが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0058】
1:押出成形機
2:多層押し出しT型ダイ
31:押付金型ロール
32:賦形金型ロール
33、34:冷却ロール
4:レンズシート
図1
図2