【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明の第1の実施形態を説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
以下に示す条件により、第1の製造方法を用いて反射防止膜を形成して光学部品のサンプルを作製した。
【0034】
<反射防止材料>
オレフィン系UV硬化樹脂に炭素粒子(C膜を粉砕したもの平均粒系0.3μm)を混合したものを使用した)。この反射防止材料は、10.5μmの波長の光に対する屈折率が2.6である。また、この反射防止材料の表面張力は、30mN/mであり、 粘度は、20cpsである。
【0035】
<インクジェット塗付装置>
インクジェット塗付装置として、ダイナマティクス社製IJヘッド(型番PN700-10701-01)を用いた。この装置のノズル径は20μmであり、吐出量は15pリットル/回である。本実施例では、3回に分けて紫外線硬化樹脂の吐出及び硬化を行って、ドット状の反射防止材料からなる反射防止膜を形成した。ここで、紫外線硬化樹脂を硬化させる紫外線(UV)は、波長385nmの光源を用いた。光源の照射強度は、2W/cm
2である。樹脂の硬化を促進するため、ドット状の反射防止材料が形成されたサンプルは、100℃、2時間、 窒素雰囲気中でアニールを行った。
【0036】
<ドット形状>
反射防止材料のドットは、平均高さhが1.75μm、一辺の長さaを1μmとした。カルコゲナイドガラス表面10μm
2あたりのドットの個数は30個、ドット同士の間隔wは1μmとした。
【0037】
<塗布後の等価屈折率の測定>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge
20Se
70Sb
10 オプトクリエイト社製)の平板に上記反射防止材料のドットを形成し、エリプソメーター(JAウーラム社製、型番:IR-VASE)を使用して反射防止膜の等価屈折率を測定した。
【0038】
<透過率特性測定サンプル>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge
20Se
70Sb
10 オプトクリエイト社製)をレンズ(最大厚さ2mm)に成形し、その表面上に、上記反射防止材料のドットからなる反射防止膜を形成してサンプルを作製した。なお、反射防止層はレンズ両面に形成した。
【0039】
<透過率測定>
赤外分光光度計 (島津製作所社製FT-IR8500)を用いてサンプルの透過率の測定を行った。測定光は、レンズの中心に入射させた。
【0040】
図6は,光学素子1の反射率特性の一例を示すグラフである。
【0041】
図6に示す反射率特性は,光学部品1の反射防止膜3の等価屈折率が1.5の場合である。
図6は、横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。具体的には、上記のように反射防止膜を形成したレンズに対して7000nm〜15000nmの波長の光を入射させて透過率Tをそれぞれ測定し、続いて、それらの光の透過率Tから、反射率Rを式R=100-Tに従って算出し、
図6に示す反射率特性を算出した。
【0042】
図6から明らかなように、8μmから14μmの波長の光に対する平均反射率が約3%以下であり,特に約10.5μmの波長の光についての反射率が低い良好な反射率特性を持つ光学部品1が得られた。ここで、平均反射率は、以下のように算出した。まず、波長8〜14μmの光の透過率Tを4cm
-1間隔で測定し、R=100-Tの式から各測定波長の反射率Rをそれぞれ算出する。続いて、算出されたそれぞれの波長の光に対する反射率を合計し、合計した値を測定点数で割った値を平均反射率とした。なお、光の透過率の測定においては、反射防止膜が施されていないカルコゲナイドガラス基板の透過率を基準とした。以下、8μm〜14μmの波長帯の光に対する平均反射率の評価は、3%未満を「良好」、3〜4%を「普通」、4%超えを「悪い」とする。
【0043】
<信頼性試験>
上記のように作成した反射防止膜の等価屈折率が1.5のサンプルを、相対湿度(Relative Humidity)90%、90℃の環境下に240時間放置後に、外観検査、剥離試験及び光学測定を行った。
【0044】
<外観検査>
顕微鏡を用いて反射防止層の剥がれを確認したが、反射防止層の剥がれは無かった。
【0045】
<剥離試験>
JIS K5600規格に従って、剥離試験を実施した。この結果、反射防止層の剥離が無いことを確認した。
【0046】
<光学特性>
このサンプルについて、上記と同様に反射率特性の測定を行った。その結果、
図6と同じ反射率特性が得られた。
【0047】
以上から、上記サンプルの反射防止膜は、使用波長の範囲内で実用状問題の無いことが確認できた。
【0048】
同様に、等価屈折率が1.3, 1.4, 1.75, 1.8, 1.9,及び 2.0となるように、反射防止材料3Aの一辺の長さa及び間隔wを調整したドット型の反射防止膜を平板状のカルコゲナイド(厚さ2mm)基板に形成し、これらの反射防止膜の透過率を測定し、反射率特性の評価を行った。
【0049】
図7は,等価屈折率が1.75の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。また,
図8は,等価屈折率が1.8の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
【0050】
図7および
図8も,
図6と同様に横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。
【0051】
反射防止膜3の等価屈折率が1.75または1.8の場合にも等価屈折率が1.5の場合とほぼ同様の「良好」な反射率特性をもつ光学部品1が得られた。
【0052】
以上のように、光学部品1に等価屈折率が1.5の反射防止膜3から等価屈折率が1.8の反射防止膜3を用いた場合のいずれの条件でも良好な反射率特性を有することがわかった。すなわち、本発明に係る反射防止膜は、製造トレランス(許容誤差)が大きいことが確認できた。
【0053】
図9は,等価屈折率が1.4の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
図10は,等価屈折率が1.9の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
【0054】
図9および
図10も,横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。
【0055】
図9および
図10に示す例では,8μmから14μmの波長の光に対する平均反射率が3%〜4%であり,「普通」の反射率特性であることが分る。
【0056】
図11は,等価屈折率が1.3の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
図12は,等価屈折率が2.0の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
【0057】
図11および
図12においても,横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。
【0058】
図11および
図12に示す例では,8μmから14μmの波長の光についての平均反射率が4%超えであり,「悪い」反射率特性であることが分る。
【0059】
図13は,反射防止膜3の等価屈折率と平均反射率等との関係を示す表である。
【0060】
反射防止膜3の等価屈折率は,10.5μmの波長の光に対しての値であり,平均反射率は,8μmから14μmの波長の光に対する平均反射率[%:パーセント]である。
【0061】
等価屈折率が1.3の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは2.0μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は25である。この場合、平均反射率は5.6%となり,上述のように「悪い」評価となる。
【0062】
等価屈折率が1.4の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.9μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は25である。この場合、平均反射率は3.3%となり,上述のように「普通」の評価となる。
【0063】
等価屈折率が1.5の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.8μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は36である。この場合、平均反射率は2.0%となり,上述のように「良好」な評価となる。
【0064】
等価屈折率が1.75の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.53μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は49である。この場合、平均反射率は2.1%となり,上述のように「良好」な評価となる。
【0065】
等価屈折率が1.8の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.53μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は49である。この場合、平均反射率は2.1%となり,上述のように「良好」な評価となる。[0065]等価屈折率が1.8の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.5μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は49である。この場合、平均反射率は2.6%となり,上述のように「良好」な評価となる。
【0066】
等価屈折率が1.9の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.4μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は64である。この場合、平均反射率は3.9%となり,上述のように「普通」の評価となる。
【0067】
等価屈折率が2.0の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.3μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は64である。この場合、平均反射率は5.6%となり,上述のように「悪い」評価となる。
【0068】
[実施例2]
以下に示す条件により、第2の製造方法を用いて、反射防止膜を形成して光学部品のサンプルを作製した。
【0069】
<反射防止材料>
オレフィン系UV硬化樹脂に炭素粒子(ダイヤモンドライクカーボン膜を粉砕したもの平均粒径0.3μm)を混合したものを使用した。この反射防止材料は、10.5μmの波長の光に対する屈折率が2.6である。また、この反射防止材料の表面張力は、30mN/mであり、粘度は、20cpsである。
【0070】
<インクジェット塗付装置>
インクジェット塗付装置として、ダイナマティクス社製IJヘッド(型番PN700-10701-01)を用いた。この装置のノズル径は20μmであり、吐出量は、15pリットル/回である。本実施例では、上記のように、3回に分けて紫外線硬化樹脂の吐出及び硬化を行って、ドット状の反射防止材料からなる反射防止膜を形成した。ここで、紫外線硬化樹脂を硬化させる紫外線(UV)は、波長385nmの光源を用いた。光源の照射強度は、2W/cm2である。樹脂の硬化を促進する
ため、ドット状の反射防止材料が形成されたサンプルは、100℃、2時間、窒素雰囲気中でアニールを行った。
【0071】
<パルスレーザー条件>
パルスレーザーを照射する装置として、キーエンス社製レーザー装置(型番MD-V9920)を使用した。レーザーのビーム径は1μm(1/e
2)、強度は10W/cm
2、Qスイッチ周波数は400kHzとした。
【0072】
<ドット形状>
反射防止材料のドットは、平均高さhが1.75μm、一辺の長さaを1μmとした。カルコゲナイドガラス表面10μm
2あたりのドットの個数は30個、ドット同士の間隔wは1μmとした。
【0073】
<塗布後の等価屈折率の測定>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge
20Se
70Sb
10 オプトクリエイト社製)の平板に上記反射防止材料のドットからなる反射防止膜を形成し、この反射防止膜の等価屈折率をエリプソメーター(JAウーラム社製、型番:IR-VASE)を使用して測定した。
【0074】
<透過率特性測定サンプル>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge
20Se
70Sb
10 オプトクリエイト社製)をレンズ(最大厚さ2mm)に成形し、その表面上に、上記の反射防止材料のドットからなる反射防止膜を形成してサンプルを作製した。なお、反射防止膜はレンズ両面に形成した。
【0075】
<透過率特性及び反射率特性>
以上のように作製したサンプルについて、実施例1と同じ手法により、透過率特性及び反射率特性を測定した。その結果、
図9に示すグラフとほぼ同じ反射率特性であった。これにより、第2の製造方法を用いても、第1の製造方法と同様の反射率特性を有する反射防止膜が形成された光学部品を製造できることが確認された。
【0076】
図14から
図18は,この発明の第2の実施形態を示している。第2の実施形態は,反射防止膜に穴が形成されている。この穴は,どのような形状であってもよく,最大幅(最大となる穴の長さをいう)Lが0.5μm以上2.0μm以下の穴が形成されていればよい。
【0077】
図14は,光学部品1Aの斜視図であり,
図1に対応している。
図12は,光学部品1Aの平面図であり,
図2に対応している。
図16は,光学部品1Aを
図15のXVI−XVI線から見た断面図である。
【0078】
カルコゲナイドガラス2の表面には,上述した反射防止材料3と同じ特性をもつ反射防止材料13Aが形成されている。すなわち,反射防止材料13Aは,10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下である。反射防止材料13Aには穴14が形成されている。この穴14は,矩形であり,その最大幅(この場合は,対角線の長さ)Lは,0.5μm以上2.0μm以下である。反射防止材料13Aと穴14とが反射防止膜13となる。
【0079】
反射防止材料13Aには,反射防止材料3Aと同様に,ダイヤモンドライクカーボンまたはカーボンが含まれていることが好ましい。もっとも,Al
20
3(10.5μmの波長の光に対する屈折率は1.6),Bi(同じく1.9),Gd
20
3(同じく1.9),SiON(同じく2から1.6),Ta
20
5(同じく2.1),Zn0
2(同じく2.03),ZnSe(同じく2.39),ZnS(同じく2.2)などが反射防止材料13Aに含まれていてもよい。
【0080】
また,反射防止膜3と同様に,反射防止膜13の等価屈折率をnとした場合,10.5μmの波長の光に対して反射防止機能が得られるように,反射防止膜13(反射防止材料13A)の厚さd[μm]が8/4n以上14/4n以下となることが好ましい。反射防止膜13の等価屈折率nも反射防止膜3と同様に,反射防止材料13Aの面積比で決まるのはいうまでもない。また,反射防止膜13の等価屈折率は,1.4以上1.9以下であることが好ましいが,より好ましくは,1.5以上1.8以下である。
【0081】
図14から
図16に示す光学部品1Aは,
図5を参照して説明した方法で製造できる。もっとも,
図4に示したように,反射防止材料13Aの形状にしたがって紫外線硬化樹脂を塗布し,硬化させることにより,光学部品1Aを製造することもできる。
【0082】
図17および
図18は,光学部品1Bおよび1Cの平面図である。
【0083】
図17に示すように,反射防止材料13Aには,楕円の穴14Aが形成されている。このように穴14Aは矩形でなくとも楕円(または円)でもよい。楕円の穴14Aが反射防止材料13Aに開けられている場合には,最大幅Lは楕円の長径となる(円の場合は直径)。
【0084】
図18に示すように,反射防止材料13Aには,不定形の穴14Bが形成されている。不定形の穴14Bがあけられている場合には,最大幅Lは穴14Bの最長となる長さとなる。
【0085】
このように最大幅Lは穴の開口寸法で最大となる長さとなる。そのような最大幅Lが0.5μm以上2.0μm以下の穴が反射防止材料13Aに形成されていればよい。穴は,円,楕円,矩形,不定形に限らず,五角形,六角形などの多角形でもよい。また、穴は必ずしも複数形成されている必要はなく、上記の最大幅Lを満たす穴が少なくとも1つ形成されていれば良い。さらに、複数の穴が溝によって接続されたような全体として1つの穴が形成されていても良い。
【0086】
図19は,赤外線カメラ20の斜視図である。
【0087】
赤外線カメラ20には,上述した1つの光学部品1(光学部品1Aでもよい)が利用されている。上述した光学部品1(1A)は,良好な反射率特性を有するから,充分な撮影光量が得られるようになる。
【0088】
図20は,赤外線カメラ21の斜視図である。
【0089】
赤外線カメラ21には,上述した光学部品1(光学部品1Aでもよい)が複数枚利用されている。このような赤外線カメラ21においても,充分な撮影光量が得られるようになる。