特許第6046860号(P6046860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6046860光学部品,赤外線カメラおよび光学部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046860
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】光学部品,赤外線カメラおよび光学部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20161212BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G02B1/113
   G02B1/00
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-507469(P2016-507469)
(86)(22)【出願日】2015年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2015056220
(87)【国際公開番号】WO2015137197
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-49613(P2014-49613)
(32)【優先日】2014年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】金谷 元隆
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−046868(JP,A)
【文献】 特開2011−237510(JP,A)
【文献】 特開2011−221048(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/008484(WO,A2)
【文献】 特開2008−129197(JP,A)
【文献】 特開平11−281801(JP,A)
【文献】 特開2014−032213(JP,A)
【文献】 特許第5414945(JP,B1)
【文献】 国際公開第2013/154077(WO,A1)
【文献】 特開2013−231780(JP,A)
【文献】 特開昭63−294501(JP,A)
【文献】 特公平04−030561(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 − 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウムおよびセレンの含有率が60パーセント以上のカルコゲナイドガラス,ならびに
10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,ダイヤモンドライクカーボン粒子又はカーボン粒子を含み,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下の反射防止材料が,0.5μm以上2.0μm以下の一定の間隔で上記カルコゲナイドガラスの表面に該表面に沿って複数形成され,前記複数の反射防止材料の大きさ及び形状が同一であり,前記複数の反射防止材料の間には,空気層が形成されており,前記反射防止材料と前記空気層により,反射防止膜の単位面積に占める前記反射防止材料の面積比で決まる,10.5μmの波長の光に対する等価屈折率が1.4以上1.9以下である反射防止膜,
を備えた光学部品。
【請求項2】
前記反射防止材料は,前記カルコゲナイドガラスの表面に平行な面内において矩形である
請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
前記反射防止材料は,10.5μmの波長の光に対する屈折率が2.6である,
請求項1または2に記載の光学部品。
【請求項4】
前記反射防止膜に含まれるダイヤモンドライクカーボン粒子またはカーボン粒子の平均粒径は,0.3μmである,
請求項1から3のいずれか一項に記載の光学部品。
【請求項7】
請求項1から4のうち,いずれか一項に記載の光学部品を備えた赤外線カメラ。
【請求項8】
請求項1から4のうち,いずれか一項に記載の光学部品を複数備えた赤外線カメラ。
【請求項9】
ダイヤモンドライクカーボン粒子又はカーボン粒子を含み,10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下であり,紫外線硬化特性または特定の波長の光によって硬化する反射防止材料を,0.5μm以上2.0μm以下の一定の間隔で,ゲルマニウムおよびセレンの組成比が60パーセント以上のカルコゲナイドガラス基材の表面に該表面に沿って複数回塗布し,
塗布された反射防止材料に紫外線または特定の波長の光を照射して,反射防止膜の単位面積に占める前記反射防止材料の面積比で決まる,10.5μmの波長の光に対する等価屈折率が1.4以上1.9以下の単一層の反射防止膜を形成する,
光学部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,光学部品,赤外線カメラおよび光学部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルコゲナイドガラスは,遠赤外線(波長が8μmから14μm)レンズの材料として従来用いられるゲルマニウム結晶,セレン化亜鉛などに比べると安価であるとともに,モールド成型によって,要求される光学要素の形状に容易に加工可能であり,適切な光学部材材料である。しかし、カルコゲナイドガラスの屈折率は遠赤外線では2.5から2.6であるために,表面反射が多く,透過率は60%程度に留まる。従って、カルコゲナイドガラスを単にレンズ等の形状に表面形状を加工しただけでは充分な撮影光量が得られにくい。このため,赤外線用硝材からなる光学要素の表面には,表面反射による光量損失を抑えるために反射防止膜が設けられる(特許文献1)。
【0003】
また,赤外線透過光学素子では,擦り傷を抑えるために表面強度を高くするものもある(特許文献2)。さらに,光導波路からの光を効率よく出射するものもある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-221048号公報
【特許文献2】特開昭64-56401号公報
【特許文献3】特開2003-215305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在の主流の反射防止膜は,半導体と酸化物とを組み合わせた多層膜,ダイヤモンドライクカーボン膜などであるが,いずれも真空プロセスを利用して形成される。このために従来の反射防止膜では,大きな膜応力に起因して光学部材と反射防止膜との密着性が低下し,膜剥離が生じるという問題が生じることがある。
【0006】
この発明は,反射防止膜の密着性が良好な光学部品,赤外線カメラおよび光学部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明による光学部品は,ゲルマニウムおよびセレンの含有率が60パーセント以上のカルコゲナイドガラス,ならびに10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,ダイヤモンドライクカーボン粒子又はカーボン粒子を含み,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下の反射防止材料が,0.5μm以上2.0μm以下の一定の間隔で上記カルコゲナイドガラスの表面に当該表面に沿って複数形成され,複数の反射防止材料の大きさ及び形状が同一であり,複数の反射防止材料の間には,空気層が形成されており,反射防止材料と空気層により,反射防止膜の単位面積に占める反射防止材料の面積比で決まる,10.5μmの波長の光に対する等価屈折率が1.4以上1.9以下である反射防止膜,を備えたことを特徴とする。
【0008】
反射防止材料は,たとえば,カルコゲナイドガラスの表面に平行な面内において矩形である。
【0009】
反射防止材料は,たとえば,10.5μmの波長の光に対する屈折率が2.6である。等価屈折率は,反射防止膜の単位面積に占める反射防止材料の面積比で決まる。反射防止材料の屈折率をn1,反射防止材料の体積をV1,空気の屈折率をn2(n2=1),空気の体積をV2とすると,反射防止膜の等価屈折率nはn=n1×[V1/(V1+V2)+n2×[V2/(V1+V2)]となる。更に、反射防止膜の単位面積をS、単位面積S中の反射防止材料の面積をS1、単位面積S中の空気の面積をS2とすると、n=n1×(S1/S)+(S2/S)となる。
【0010】
反射防止膜に含まれるダイヤモンドライクカーボン粒子またはカーボン粒子の平均粒径は,0.3μmであることが好ましい。
【0013】
1または複数の光学部品を備えた赤外線カメラを提供するようにしてもよい。
【0014】
第2の発明の光学部品の製造方法は,ダイヤモンドライクカーボン粒子又はカーボン粒子を含み,10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下であり,紫外線硬化特性または特定の波長の光によって硬化する特性を有する反射防止材料を,0.5μm以上2.0μm以下の一定の間隔で,ゲルマニウムおよびセレンの含有率(組成比)が60パーセント以上のカルコゲナイドガラス基材の表面に当該表面に沿って複数回塗布し,塗布された反射防止材料に紫外線または特定の波長の光を照射して,反射防止膜の単位面積に占める反射防止材料の面積比で決まる,10.5μmの波長の光に対する等価屈折率が1.4以上1.9以下の単一層の反射防止膜を形成する。
【0015】
第3の発明による光学部品の製造方法は,10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下である、紫外線硬化特性または特定の波長の光によって硬化する特性を有する反射防止材料が,ゲルマニウムおよびセレンの含有率(組成比)が60パーセント以上のカルコゲナイドガラス基材の表面に塗布し,塗布された反射防止材料に紫外線または特定の波長の光を照射して硬化し,硬化した反射防止材料を,0.5μm以上2.0μm以下の間隔で残して反射防止材料を除去することにより反射防止膜を形成する,あるいは,硬化した反射防止材料に,最大幅が0.5μm以上2.0μm以下である穴を形成することにより反射防止膜を形成する。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によると,10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下の反射防止材料が用いられるから,赤外線を透過することができる。また,10.5μmの波長の光に対する屈折率が空気の屈折率1より大きく,かつカルコゲナイドガラスの屈折率2.6以下の反射防止材料が用いられるから,反射防止膜として機能する。そして,そのような反射防止材料が,0.5μm以上2.0μm以下の間隔でカルコゲナイドガラの表面に形成されている,あるいは,反射防止材料がカルコゲナイドガラスの表面に形成されており,反射防止材料に最大幅が0.5μm以上2.0μm以下である穴が形成されているから,カルコゲナイドガラスの表面に反射防止材料が均一に塗布されている場合に比べて反射防止膜の密着性が高くなる。
【0017】
第2の発明によると,反射防止膜の密着性の高い光学部品を製造できるようになる。
【0018】
第3の発明においても,反射防止膜の密着性の高い光学部品を製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】光学部品の斜視図である。
図2】光学部品の平面図である。
図3】光学部品の側面図である。
図4】(a)〜(c)は、光学部品の製造工程を示す図である。
図5】(a)〜(d)は、光学部品の製造工程を示す図である。
図6】光学部品の反射率特性を示すグラフである。
図7】光学部品の反射率特性を示すグラフである。
図8】光学部品の反射率特性を示すグラフである。
図9】光学部品の反射率特性を示すグラフである。
図10】光学部品の反射率特性を示すグラフである。
図11】光学部品の反射率特性を示すグラフである。
図12】光学部品の反射率特性を示すグラフである。
図13】光学部品の反射率特性を示す表である。
図14】光学部品の斜視図である。
図15】光学部品の平面図である。
図16】光学部品をXV−XV線から見た断面図である。
図17】光学部品の平面図である。
図18】光学部品の平面図である。
図19】赤外線カメラの斜視図である。
図20】赤外線カメラの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1から図3は,この発明の第1の実施形態を示す図であり,光学部品(レンズ)1の一部を示している。図1は光学部品1の斜視図,図2は光学部品1の平面図,図3は光学部品1の側面図である。
【0021】
光学部品1には,ゲルマニウムおよびセレンの含有率(組成比)が60パーセント以上のカルコゲナイドガラス2が含まれている。このカルコゲナイドガラス2の表面には,10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下の反射防止材料3A(一辺がaμmの矩形)が,0.5μm以上2.0μm以下の間隔wで形成されている。これらの複数の反射防止材料3Aと反射防止材料3Aの間に形成されている空気層3Bとが反射防止膜3となる。これらの反射防止材料3Aには,ダイヤモンドライクカーボンまたはカーボンが含まれていることが好ましい。もっとも,Al203,Bi,Gd203,SiON,Ta205,Zn02,ZnSe,ZnSなどが反射防止材料3Aに含まれていてもよい。
【0022】
反射防止膜3の等価屈折率をnとした場合,8μmから14μmの波長について反射防止機能が得られるように,反射防止膜3(反射防止材料3A)の厚さd[μm]が8/4n以上14/4n以下となることが好ましい。
【0023】
反射防止膜の単位面積を10μm×10μmとし、反射防止材料3Aの屈折率n1が2.6,反射防止膜3の単位面積あたりの反射防止材料3Aの面積比が0.3の場合には,上記の反射防止膜3の等価屈折率n=1×0.7+2.6×0.3=1.48となる。したがって,反射防止膜3の厚さd[μm]は,8/(4×1.48)=1.35[μm]以上,14/(4×1.48)=2.36[μm]以下となることが好ましい。なお、上述のように、等価屈折率は,反射防止膜の単位面積に占める反射防止材料の面積比で決まる。反射防止膜3の単位面積あたりの反射防止材料3Aの面積比は、反射防止材料3Aの一辺の長さa及び反射防止材料3Aの間隔wによって決定される。つまり、反射防止材料3Aの一辺の長さa及び間隔wは、所望の等価屈折率に合わせて決定される。
【0024】
反射防止膜3の等価屈折率は,1.4以上1.9以下であることが好ましいが,より好ましくは,1.5以上1.8以下である。
【0025】
図4の(a)〜(c)は,光学部品1の第1の製造工程を白抜き矢印に示す時系列の順で示した図である。
【0026】
カルコゲナイドガラス(カルコゲナイドガラス基材)2は,インクジェット塗付装置の高精度ステージ(図示略)上に載せられる。カルコゲナイドガラス2は、ゲルマニウムおよびセレンの含有率(組成比)が60パーセント以上である。図4の(a)に示すように,カルコゲナイドガラス2が、図中黒矢印で示す方向にコンピュータ制御により精密に動かされながら,反射防止材料3Aの原料である紫外線硬化樹脂4が,インクジェット・ノズル11からカルコゲナイドガラス2の表面上にドット状となるように一定間隔で滴下される。第1の製造方法においては、紫外線硬化樹脂4が、0.5μm以上2.0μm以下の間隔でカルコゲナイドガラス基材の表面に滴下される。紫外線硬化樹脂4は、10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きくかつ2.6以下であり,紫外線によって硬化する特性を有する。紫外線硬化樹脂4は,たとえば,10.5μmの波長の光を透過する特性を有するオレフィン系紫外線硬化樹脂に,ダイヤモンドライクカーボンまたはカーボンを含ませたものである。
【0027】
次いで、図4の(b)及び(c)に示すように,一定間隔で滴下された紫外線硬化樹脂4は、紫外線照射用ノズル12から照射される紫外線によって瞬時に硬化させられる。これにより,紫外線硬化樹脂4が硬化し,反射防止材料3Aとなる。同様にして、カルコゲナイドガラス2の表面上の所望の範囲に反射防止材料3Aを形成することにより、反射防止膜3が形成されることとなる。紫外線硬化樹脂4の滴下及び硬化は1回のみ行ってもよいし,複数回に分けてもよい。本実施形態においては、3回の滴下により反射防止材料3Aを形成した。より具体的には、紫外線硬化樹脂4の滴下及び紫外線照射による硬化を1回とした場合に、同じ場所への紫外線硬化樹脂4の滴下及び紫外線照射による硬化を合計3回行って、反射防止材料3Aを形成した。この反射防止膜3の形成において、上述の好ましい厚さとなるように反射防止材料3Aの厚さd[μm]が規定されるのはいうまでもない。
【0028】
なお、上述の実施の形態では,反射防止材料として紫外線硬化樹脂を用いているが,特定の波長の光により硬化する光硬化樹脂をカルコゲナイドガラス2の表面に塗布し,特定の波長の光を照射して光硬化樹脂を硬化させ、反射防止膜を形成するようにしてもよい。また、反射防止材料は、光硬化樹脂に限られず、その他のエネルギー硬化型の樹脂を用いても良い。たとえば、熱硬化型樹脂を用いても良い。
【0029】
図5の(a)〜(d)は,光学部品1の第2の製造工程を白抜き矢印に示す時系列の順で示した図である。
【0030】
図5の(a)に示すように、カルコゲナイドガラス2が図中黒矢印で示す方向に移動させられながらインクジェット・ノズル11によって紫外線硬化樹脂4が滴下され、紫外線硬化樹脂4がカルコゲナイドガラス2の表面全体に渡って塗布される。図5の(b)に示すように,カルコゲナイドガラス2が移動させられながら塗布された紫外線硬化樹脂4は、紫外線硬化ノズル12から照射される紫外線によって瞬時に硬化させられる。このようにして、紫外線硬化樹脂4が硬化した塗布層5が形成される。第2の製造方法において、紫外線硬化樹脂4は、10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下であり、紫外線により硬化する特性を有する。また、本実施形態のカルコゲナイドガラス2は、ゲルマニウムおよびセレンの含有率(組成比)が60パーセント以上である。この塗布層5の形成において、上述の好ましい反射防止膜3の厚さdとなるように塗布層5の厚さが規定される。
【0031】
図5の(c)に示すように,パルスレーザー10によって,塗布層5のうち,不要部分にレーザー照射が行われ,不要部分が取り除かれる。この取り除き処理が塗布層5の全体にわたって行われる。この処理を機材表面の縦及び横方向に行うことにより、図5の(d)に示すように,一定間隔でドット状に反射防止材料3Aが形成される。本実施形態においては、反射防止材料3Aが,0.5μm以上2.0μm以下の間隔で残され、その他の反射防止材料3Aが除去され,反射防止膜が形成される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明の第1の実施形態を説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
以下に示す条件により、第1の製造方法を用いて反射防止膜を形成して光学部品のサンプルを作製した。
【0034】
<反射防止材料>
オレフィン系UV硬化樹脂に炭素粒子(C膜を粉砕したもの平均粒系0.3μm)を混合したものを使用した)。この反射防止材料は、10.5μmの波長の光に対する屈折率が2.6である。また、この反射防止材料の表面張力は、30mN/mであり、 粘度は、20cpsである。
【0035】
<インクジェット塗付装置>
インクジェット塗付装置として、ダイナマティクス社製IJヘッド(型番PN700-10701-01)を用いた。この装置のノズル径は20μmであり、吐出量は15pリットル/回である。本実施例では、3回に分けて紫外線硬化樹脂の吐出及び硬化を行って、ドット状の反射防止材料からなる反射防止膜を形成した。ここで、紫外線硬化樹脂を硬化させる紫外線(UV)は、波長385nmの光源を用いた。光源の照射強度は、2W/cm2である。樹脂の硬化を促進するため、ドット状の反射防止材料が形成されたサンプルは、100℃、2時間、 窒素雰囲気中でアニールを行った。
【0036】
<ドット形状>
反射防止材料のドットは、平均高さhが1.75μm、一辺の長さaを1μmとした。カルコゲナイドガラス表面10μmあたりのドットの個数は30個、ドット同士の間隔wは1μmとした。
【0037】
<塗布後の等価屈折率の測定>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge20Se70Sb10 オプトクリエイト社製)の平板に上記反射防止材料のドットを形成し、エリプソメーター(JAウーラム社製、型番:IR-VASE)を使用して反射防止膜の等価屈折率を測定した。
【0038】
<透過率特性測定サンプル>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge20Se70Sb10 オプトクリエイト社製)をレンズ(最大厚さ2mm)に成形し、その表面上に、上記反射防止材料のドットからなる反射防止膜を形成してサンプルを作製した。なお、反射防止層はレンズ両面に形成した。
【0039】
<透過率測定>
赤外分光光度計 (島津製作所社製FT-IR8500)を用いてサンプルの透過率の測定を行った。測定光は、レンズの中心に入射させた。
【0040】
図6は,光学素子1の反射率特性の一例を示すグラフである。
【0041】
図6に示す反射率特性は,光学部品1の反射防止膜3の等価屈折率が1.5の場合である。図6は、横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。具体的には、上記のように反射防止膜を形成したレンズに対して7000nm〜15000nmの波長の光を入射させて透過率Tをそれぞれ測定し、続いて、それらの光の透過率Tから、反射率Rを式R=100-Tに従って算出し、図6に示す反射率特性を算出した。
【0042】
図6から明らかなように、8μmから14μmの波長の光に対する平均反射率が約3%以下であり,特に約10.5μmの波長の光についての反射率が低い良好な反射率特性を持つ光学部品1が得られた。ここで、平均反射率は、以下のように算出した。まず、波長8〜14μmの光の透過率Tを4cm-1間隔で測定し、R=100-Tの式から各測定波長の反射率Rをそれぞれ算出する。続いて、算出されたそれぞれの波長の光に対する反射率を合計し、合計した値を測定点数で割った値を平均反射率とした。なお、光の透過率の測定においては、反射防止膜が施されていないカルコゲナイドガラス基板の透過率を基準とした。以下、8μm〜14μmの波長帯の光に対する平均反射率の評価は、3%未満を「良好」、3〜4%を「普通」、4%超えを「悪い」とする。
【0043】
<信頼性試験>
上記のように作成した反射防止膜の等価屈折率が1.5のサンプルを、相対湿度(Relative Humidity)90%、90℃の環境下に240時間放置後に、外観検査、剥離試験及び光学測定を行った。
【0044】
<外観検査>
顕微鏡を用いて反射防止層の剥がれを確認したが、反射防止層の剥がれは無かった。
【0045】
<剥離試験>
JIS K5600規格に従って、剥離試験を実施した。この結果、反射防止層の剥離が無いことを確認した。
【0046】
<光学特性>
このサンプルについて、上記と同様に反射率特性の測定を行った。その結果、図6と同じ反射率特性が得られた。
【0047】
以上から、上記サンプルの反射防止膜は、使用波長の範囲内で実用状問題の無いことが確認できた。
【0048】
同様に、等価屈折率が1.3, 1.4, 1.75, 1.8, 1.9,及び 2.0となるように、反射防止材料3Aの一辺の長さa及び間隔wを調整したドット型の反射防止膜を平板状のカルコゲナイド(厚さ2mm)基板に形成し、これらの反射防止膜の透過率を測定し、反射率特性の評価を行った。
【0049】
図7は,等価屈折率が1.75の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。また,図8は,等価屈折率が1.8の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
【0050】
図7および図8も,図6と同様に横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。
【0051】
反射防止膜3の等価屈折率が1.75または1.8の場合にも等価屈折率が1.5の場合とほぼ同様の「良好」な反射率特性をもつ光学部品1が得られた。
【0052】
以上のように、光学部品1に等価屈折率が1.5の反射防止膜3から等価屈折率が1.8の反射防止膜3を用いた場合のいずれの条件でも良好な反射率特性を有することがわかった。すなわち、本発明に係る反射防止膜は、製造トレランス(許容誤差)が大きいことが確認できた。
【0053】
図9は,等価屈折率が1.4の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。図10は,等価屈折率が1.9の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
【0054】
図9および図10も,横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。
【0055】
図9および図10に示す例では,8μmから14μmの波長の光に対する平均反射率が3%〜4%であり,「普通」の反射率特性であることが分る。
【0056】
図11は,等価屈折率が1.3の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。図12は,等価屈折率が2.0の反射防止膜3が形成されている光学部品1の反射率特性を示すグラフである。
【0057】
図11および図12においても,横軸が光学部品1に入射する光の波長,縦軸が反射率である。
【0058】
図11および図12に示す例では,8μmから14μmの波長の光についての平均反射率が4%超えであり,「悪い」反射率特性であることが分る。
【0059】
図13は,反射防止膜3の等価屈折率と平均反射率等との関係を示す表である。
【0060】
反射防止膜3の等価屈折率は,10.5μmの波長の光に対しての値であり,平均反射率は,8μmから14μmの波長の光に対する平均反射率[%:パーセント]である。
【0061】
等価屈折率が1.3の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは2.0μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は25である。この場合、平均反射率は5.6%となり,上述のように「悪い」評価となる。
【0062】
等価屈折率が1.4の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.9μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は25である。この場合、平均反射率は3.3%となり,上述のように「普通」の評価となる。
【0063】
等価屈折率が1.5の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.8μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は36である。この場合、平均反射率は2.0%となり,上述のように「良好」な評価となる。
【0064】
等価屈折率が1.75の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.53μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は49である。この場合、平均反射率は2.1%となり,上述のように「良好」な評価となる。
【0065】
等価屈折率が1.8の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.53μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は49である。この場合、平均反射率は2.1%となり,上述のように「良好」な評価となる。[0065]等価屈折率が1.8の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.5μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は49である。この場合、平均反射率は2.6%となり,上述のように「良好」な評価となる。
【0066】
等価屈折率が1.9の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.4μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は64である。この場合、平均反射率は3.9%となり,上述のように「普通」の評価となる。
【0067】
等価屈折率が2.0の場合は,たとえば,反射防止材料3Aの平均厚さdは1.3μmであり,10μm×10μmあたりの反射防止材料3Aの個数は64である。この場合、平均反射率は5.6%となり,上述のように「悪い」評価となる。
【0068】
[実施例2]
以下に示す条件により、第2の製造方法を用いて、反射防止膜を形成して光学部品のサンプルを作製した。
【0069】
<反射防止材料>
オレフィン系UV硬化樹脂に炭素粒子(ダイヤモンドライクカーボン膜を粉砕したもの平均粒径0.3μm)を混合したものを使用した。この反射防止材料は、10.5μmの波長の光に対する屈折率が2.6である。また、この反射防止材料の表面張力は、30mN/mであり、粘度は、20cpsである。
【0070】
<インクジェット塗付装置>
インクジェット塗付装置として、ダイナマティクス社製IJヘッド(型番PN700-10701-01)を用いた。この装置のノズル径は20μmであり、吐出量は、15pリットル/回である。本実施例では、上記のように、3回に分けて紫外線硬化樹脂の吐出及び硬化を行って、ドット状の反射防止材料からなる反射防止膜を形成した。ここで、紫外線硬化樹脂を硬化させる紫外線(UV)は、波長385nmの光源を用いた。光源の照射強度は、2W/cm2である。樹脂の硬化を促進する
ため、ドット状の反射防止材料が形成されたサンプルは、100℃、2時間、窒素雰囲気中でアニールを行った。
【0071】
<パルスレーザー条件>
パルスレーザーを照射する装置として、キーエンス社製レーザー装置(型番MD-V9920)を使用した。レーザーのビーム径は1μm(1/e)、強度は10W/cm2、Qスイッチ周波数は400kHzとした。
【0072】
<ドット形状>
反射防止材料のドットは、平均高さhが1.75μm、一辺の長さaを1μmとした。カルコゲナイドガラス表面10μmあたりのドットの個数は30個、ドット同士の間隔wは1μmとした。
【0073】
<塗布後の等価屈折率の測定>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge20Se70Sb10 オプトクリエイト社製)の平板に上記反射防止材料のドットからなる反射防止膜を形成し、この反射防止膜の等価屈折率をエリプソメーター(JAウーラム社製、型番:IR-VASE)を使用して測定した。
【0074】
<透過率特性測定サンプル>
カルコゲナイドプリフォーム(組成:Ge20Se70Sb10 オプトクリエイト社製)をレンズ(最大厚さ2mm)に成形し、その表面上に、上記の反射防止材料のドットからなる反射防止膜を形成してサンプルを作製した。なお、反射防止膜はレンズ両面に形成した。
【0075】
<透過率特性及び反射率特性>
以上のように作製したサンプルについて、実施例1と同じ手法により、透過率特性及び反射率特性を測定した。その結果、図9に示すグラフとほぼ同じ反射率特性であった。これにより、第2の製造方法を用いても、第1の製造方法と同様の反射率特性を有する反射防止膜が形成された光学部品を製造できることが確認された。
【0076】
図14から図18は,この発明の第2の実施形態を示している。第2の実施形態は,反射防止膜に穴が形成されている。この穴は,どのような形状であってもよく,最大幅(最大となる穴の長さをいう)Lが0.5μm以上2.0μm以下の穴が形成されていればよい。
【0077】
図14は,光学部品1Aの斜視図であり,図1に対応している。図12は,光学部品1Aの平面図であり,図2に対応している。図16は,光学部品1Aを図15のXVI−XVI線から見た断面図である。
【0078】
カルコゲナイドガラス2の表面には,上述した反射防止材料3と同じ特性をもつ反射防止材料13Aが形成されている。すなわち,反射防止材料13Aは,10.5μmの波長の光に対する消衰係数が0.01以下であって,10.5μmの波長の光に対する屈折率が1より大きく,かつ2.6以下である。反射防止材料13Aには穴14が形成されている。この穴14は,矩形であり,その最大幅(この場合は,対角線の長さ)Lは,0.5μm以上2.0μm以下である。反射防止材料13Aと穴14とが反射防止膜13となる。
【0079】
反射防止材料13Aには,反射防止材料3Aと同様に,ダイヤモンドライクカーボンまたはカーボンが含まれていることが好ましい。もっとも,Al203(10.5μmの波長の光に対する屈折率は1.6),Bi(同じく1.9),Gd203(同じく1.9),SiON(同じく2から1.6),Ta205(同じく2.1),Zn02(同じく2.03),ZnSe(同じく2.39),ZnS(同じく2.2)などが反射防止材料13Aに含まれていてもよい。
【0080】
また,反射防止膜3と同様に,反射防止膜13の等価屈折率をnとした場合,10.5μmの波長の光に対して反射防止機能が得られるように,反射防止膜13(反射防止材料13A)の厚さd[μm]が8/4n以上14/4n以下となることが好ましい。反射防止膜13の等価屈折率nも反射防止膜3と同様に,反射防止材料13Aの面積比で決まるのはいうまでもない。また,反射防止膜13の等価屈折率は,1.4以上1.9以下であることが好ましいが,より好ましくは,1.5以上1.8以下である。
【0081】
図14から図16に示す光学部品1Aは,図5を参照して説明した方法で製造できる。もっとも,図4に示したように,反射防止材料13Aの形状にしたがって紫外線硬化樹脂を塗布し,硬化させることにより,光学部品1Aを製造することもできる。
【0082】
図17および図18は,光学部品1Bおよび1Cの平面図である。
【0083】
図17に示すように,反射防止材料13Aには,楕円の穴14Aが形成されている。このように穴14Aは矩形でなくとも楕円(または円)でもよい。楕円の穴14Aが反射防止材料13Aに開けられている場合には,最大幅Lは楕円の長径となる(円の場合は直径)。
【0084】
図18に示すように,反射防止材料13Aには,不定形の穴14Bが形成されている。不定形の穴14Bがあけられている場合には,最大幅Lは穴14Bの最長となる長さとなる。
【0085】
このように最大幅Lは穴の開口寸法で最大となる長さとなる。そのような最大幅Lが0.5μm以上2.0μm以下の穴が反射防止材料13Aに形成されていればよい。穴は,円,楕円,矩形,不定形に限らず,五角形,六角形などの多角形でもよい。また、穴は必ずしも複数形成されている必要はなく、上記の最大幅Lを満たす穴が少なくとも1つ形成されていれば良い。さらに、複数の穴が溝によって接続されたような全体として1つの穴が形成されていても良い。
【0086】
図19は,赤外線カメラ20の斜視図である。
【0087】
赤外線カメラ20には,上述した1つの光学部品1(光学部品1Aでもよい)が利用されている。上述した光学部品1(1A)は,良好な反射率特性を有するから,充分な撮影光量が得られるようになる。
【0088】
図20は,赤外線カメラ21の斜視図である。
【0089】
赤外線カメラ21には,上述した光学部品1(光学部品1Aでもよい)が複数枚利用されている。このような赤外線カメラ21においても,充分な撮影光量が得られるようになる。
【符号の説明】
【0090】
1,1A,1B,1C 光学部品
2 カルコゲナイドガラス
3,13 反射防止膜
3A,13A 反射防止材料
14 穴
L 最大幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20