【文献】
WANG, Gang et al.,Synthesis of Carboxymethyl Polysaccharides and Their Moisture Absorption and Retention Abilities,ASIAN JOURNAL OF CHEMISTRY,2014年,Vol. 26, No. 16,pp. 5239-5241,ISSN 0970-7077, TABLE 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、熱安定性および耐酵素分解性に優れたカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、縮合剤を用いて、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、前記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間でエステル結合によって架橋させることで、熱安定性および耐酵素分解性に優れたカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物が得られることを見出した。
【0008】
さらに、前記カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物は、優れた水膨潤性を有している。
【0009】
つまり、本願発明は、
(1)縮合剤を用いて、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、前記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間でエステル結合によって架橋させる、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法、
(2)(1)の架橋物の製造方法において、
前記縮合剤が、カルボジイミド系縮合剤、またはトリアジン系縮合剤から選ばれる少なくとも1種である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法、
(3)(1)または(2)の架橋物の製造方法において、
前記カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩1,000質量部に対して前記縮合剤の割合が5質量部以上400質量部以下である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法、
(4)(1)ないし(3)のいずれかの架橋物の製造方法において、
前記カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の1質量%以上80質量%以下の溶液に縮合剤を添加する、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法
(5)(1)ないし(4)のいずれかの架橋物の製造方法において、
前記カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量が4,000以上400万以下である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法、
(6)(1)ないし(5)のいずれかの架橋物の製造方法において、
前記カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が、
ヒアルロン酸を構成する2糖単位に対するカルボキシメチル化率が10%以上200%以下である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法、
(7)(1)ないし(6)のいずれかの架橋物の製造方法において、
前記カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法は、
温度が30℃以下の含水溶媒中で、溶解した原料ヒアルロン酸および/またはその塩をハロ酢酸および/またはその塩と反応させる工程を含み、
前記含水溶媒は、水、または水溶性有機溶媒と水との混合液であり、
前記混合液における水溶性有機溶媒の割合が60v/v%以下である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法、
(8)同一または異なるカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩同士をエステル結合により架橋させた架橋物であって、
前記架橋物は水膨潤性を有し、膨潤度が5倍以上250倍以下(質量比)である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物、
(9)(8)の架橋物において、
熱安定性試験におけるゲル残存率が10質量%以上である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物、
(10)(8)の架橋物において、
耐酵素分解性試験におけるゲル残存率が60%以上である、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物、
(11)(1)ないし(7)のいずれかの製造方法により得られるカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物、
または(8)ないし(10)のいずれかのカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物を含む、
関節注射剤、癒着防止剤、皮下注射剤、または薬物徐放剤、
(12)(1)ないし(7)のいずれかの製造方法により得られるカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物、
または(8)ないし(10)のいずれかのカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物を含む、化粧料、
である。
【発明の効果】
【0010】
上記製造方法によれば、熱安定性および耐酵素分解性に優れたカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物を提供できることから、架橋剤を使用しない安全性の高いヒアルロン酸の架橋物として、医療材料、美容材料、および化粧料の成分として使用することができる。
【0011】
さらに、前記架橋物は優れた水膨潤性を有し、やわらかい水膨潤性ゲルを形成することができることから、医療材料・美容材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0013】
<本発明の特徴−カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法>
本発明のカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物(以下、単に「架橋物」ともいう)の製造方法は、縮合剤を用いて、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、前記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間でエステル結合によって架橋させる、
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法に特徴を有する。
本発明の製造方法で得られる架橋物は、優れた熱安定性および耐酵素分解性を有する。さらに、該架橋物は水膨潤性を有することから、やわらかい水膨潤ゲルを形成することができる。
【0014】
<ヒアルロン酸および/またはその塩>
本発明において、「ヒアルロン酸」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、「ヒアルロン酸の塩」としては、特に限定されないが、食品または薬学上許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0015】
ヒアルロン酸は、基本的にはβ−D−グルクロン酸の1位とβ−D−N−アセチル−グルコサミンの3位とが結合した2糖単位を少なくとも1個含む2糖以上のものでかつβ−D−グルクロン酸とβ−D−N−アセチル−グルコサミンとから基本的に構成され、2糖単位が複数個結合したものである。該糖は不飽和糖であってもよく、不飽和糖としては、非還元末端糖、通常、グルクロン酸の4,5位炭素間が不飽和のもの等が挙げられる。
【0016】
<修飾ヒアルロン酸および/またはその塩>
本発明において、「修飾ヒアルロン酸および/またはその塩」とは、少なくとも一部に有機基が導入されているヒアルロン酸および/またはその塩のことをいい、ヒアルロン酸および/またはその塩とは異なる構造を有する。また、本発明において「有機基」とは、炭素原子を有する基のことをいう。
【0017】
<カルボキシメチル基>
本発明において、「カルボキシメチル基」とは、「−CH
2−CO
2H」または「−CH
2−CO
2−」で表される基のことをいう。また、本発明の製造方法で使用する原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、後述する方法にて製造されたものであることができる。
したがって、本発明において、「カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩」とは、少なくとも一部にカルボキシメチル基が導入されているヒアルロン酸および/またはその塩のことをいう。
【0018】
より具体的には、例えば、ヒアルロン酸(下記式(1)参照)を構成する水酸基(下記式(1)において、ヒアルロン酸を構成するN−アセチルグルコサミンのC−4位、C−6位、ならびに、ヒアルロン酸を構成するグルクロン酸のC−2位、C−3位)の少なくとも一部の水酸基の水素原子が、−CH
2−CO
2Hおよび/または−CH
2−CO
2−で表される基)で置換されていることができる。
【0019】
【化1】
・・・(1)
(式中、nは1以上7,500以下の数を示す。)
【0020】
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸は例えば、下記式(2)で表される化合物であることができる。
また、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の塩としては、特に限定されないが、食品または薬学上許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0021】
【化2】
・・・(2)
(式中、R
1〜R
5は独立して、水素原子、−CH
2−CO
2H、−CH
2−CO
2−、または炭素原子を有する基を表し、nは1以上7,500以下の数を示す。ただし、当該カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩全体のR
1〜R
5がいずれも水素原子を表す場合を除く。)
【0022】
<本発明の製造方法のメカニズム>
本発明の製造方法では、前記縮合剤と反応させることで、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間でエステル結合が形成される。
その結果、同一または異なるカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩同士がエステル結合によって架橋されることにより、熱安定性および耐酵素分解性が高まると推察される。
さらに、前記水酸基とカルボキシメチル基中のカルボキシル基との間でエステル結合が形成された場合、熱安定性および耐酵素分解性がより高まることが推察される。
なお、前記架橋物において、未修飾ヒアルロン酸に由来するカルボキシル基と水酸基がエステル結合を形成していてもよい。
【0023】
また、ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物は、該架橋物が有する水酸基とカルボキシル基とがエステル結合を介して結合することにより、3次元網目構造が構築され、この3次元網目構造の中に水を取り込むことにより、水膨潤性ゲルを形成することができると推察される。
【0024】
特に、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、カルボキシメチル基を有している分、未修飾ヒアルロン酸および/またはその塩と比較して、ヒアルロン酸骨格の一構成単位中により多くのカルボキシル基を有する。すなわち、該一構成単位中においてエステル結合に関与することができるカルボキシル基が、未修飾ヒアルロン酸および/またはその塩よりも多いため、前記縮合剤と反応させると、より多くのエステル結合を形成することができるため、水膨潤性に優れたやわらかい水膨潤性ゲルを形成することができると推察される。
【0025】
<縮合剤>
本発明の製造方法に用いる縮合剤は、エステル結合を形成させるものであり、特に、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間にエステル結合を形成させるものである。
具体的には、例えば、カルボジイミド系縮合剤、トリアジン系縮合剤、イミダゾール系脱水縮合剤、ホスホニウム系縮合剤、またはウロニウム系縮合剤等が挙げられる。
カルボジイミド系縮合剤としては、例えば、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]―3−エチルカルボジイミド(EDC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、またはN−シクロヘキシル−N’−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドメト−p−トルエンスルホ塩酸(CME−カルボジイミド)等が挙げられる。カルボジイミド系縮合剤と併用して使用する縮合反応用添加剤としては、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシアザベンゾトリアゾール(HOAt)、またはN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)等を使用することができる。
トリアジン系縮合剤としては、例えば、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウム−クロリドn水和物(DMT−MM)、またはトリフルオロメタンスルホン酸(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−(2−オクトキシ−2−オキソエチル)ジメチルアンモニウム(界面集積型DMT)等が挙げられる。
イミダゾール系脱水縮合剤としては、例えば、N,N’−カルボジイミダゾール(CDI)が挙げられる。
ホスホニウム系脱水縮合剤としては、例えば、1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(BOP)、1H−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、またはクロロトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyCloP)等が挙げられる。
ウロニウム系縮合剤としては、{{[(1−シアノ−2−エトキシ−2−オキソエチリデン)アミノ]オキシ}−4−モルホリノメチレン}ジメチルアンモニウムヘキサフルオロりん酸塩(COMU)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’, −テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩(HBTU)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’, −テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸塩(HATU)、O−(N−スクシンイミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチ ルウロニウムテトラフルオロほう酸塩(TSTU)、またはO−(3,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン−3−イル)−N,N,N’,N ’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩(TDBTU)等が挙げられる。
前記縮合剤が水溶性を有することから、カルボジイミド系縮合剤、またはトリアジン系縮合剤を使用するとよい。
特に、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間のエステル結合を形成させやすいことから、カルボジイミド系縮合剤としてEDCを、トリアジン系縮合剤としてDMT−MMを使用するとよい。
【0026】
<カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩に対する縮合剤の割合>
本発明の製造方法において、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩に対する縮合剤の割合を調整することにより、本発明の架橋物を用いて得られる水膨潤性ゲルの硬さを調整することができる。エステル結合をより確実に形成して熱安定性および耐酵素分解性に優れた架橋物を得られやすい点から、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩1,000質量部に対する縮合剤の割合は、5質量部以上400質量部以下であるとよく、さらに30質量部以上300質量部以下、60質量部以上200質量部以下であるとよい。
【0027】
<反応温度および反応時間>
本発明の製造方法において、反応液の温度は、1℃以上100℃以下であればよく、さらに1℃以上50℃以下、1℃以上30℃以下であるとよい。
また、反応時間は、30分以上168時間以下であればよく、さらに1時間以上72時間以下、1時間以上48時間以下であればよい。
【0028】
<溶媒>
本発明の製造方法において、原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を溶解させる溶媒は、水、または水と混和する水溶性有機溶媒との混和物であることができる。
【0029】
水と混和する水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等を挙げることができ、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。
特に、前記架橋物の精製工程を簡易にすることができる点から、前記溶媒は水、またはエタノールを使用するとよい。
【0030】
[原料カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩(原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩)]
<反応溶液中の原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の濃度>
本発明の製造方法では、エステル結合をより確実に形成して、得られる架橋物の熱安定性および耐酵素分解性を高めることができる点で、前記原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の1質量%以上80質量%以下の溶液に縮合剤を添加するとよく、さらに5質量%以上70質量%以下、5質量%以上50質量%以下の溶液に縮合剤を添加するとよい。
【0031】
<原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量>
本発明の製造方法において、粘弾性に富む水膨潤ゲルを形成する架橋物が得られやすいことから、前記原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量は4,000以上400万以下であるとよい。下限としては、さらに20万以上であるとよく、30万以上、80万以上であるとよい。一方、上限としては、さらに300万以下であるとよく、280万以下、250万以下であるとよい。
特に、本発明の架橋物を美容整形用の皮下注射剤用途に用いる場合、膨潤度の高いゲルが得られ易いことから、前記原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量は、50万以上200万以下であるとよく、さらに80万以上180万以下であるとよい。
なお、本発明において、原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量は、以下の方法にて測定することができる。
【0032】
ゲル濾過カラムを用いて、分子量が既知である複数の(精製)ヒアルロン酸(基準物質)を液体クロマトグラフィー分析することで、それらの保持時間より検量線を作成する。同様に、測定対象である原料修飾ヒアルロン酸を液体クロマトグラフィー分析し、前記検量線を用いて分子量を求めることで、原料修飾ヒアルロン酸の分子量を求めることができる。
前記液体クロマトグラフィー分析に使用することができる液体クロマトグラフィー分析装置としては、例えば、WatersAlliance 2690 HPLC Separations Module(Waters社製)、Waters Alliance 2695 HPLC SeparationsModule(Waters社製)、1200
Series(Agilent社製)が挙げられる。
また、液体クロマトグラフィー分析に使用することができるカラムとしては、例えば、shodex社製 配位子交換クロマトグラフィー用カラム(配位子交換モード+サイズ排除モード)、型名「SUGAR KS−801」、「SUGAR KS−802」、「SUGAR KS−803」、「SUGAR KS−804」、「SUGARKS−805」、「SUGAR KS−806」、「SUGARKS−807」や、TOSOH製 サイズ排除クロマトグラフィーカラム、型名「TSKgel GMPW」が挙げられる。
【0033】
<原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の動粘度>
本発明の製造方法において、粘弾性に富む水膨潤ゲルを形成する架橋物が得られやすいことから、前記原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の動粘度は1mm
2/s以上200mm
2/s以下とすることができ、さらに30mm
2/s以上150mm
2/s以下とすることができる。本発明において、原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の動粘度は、ウベローデ粘度計(柴田科学器械工業株式会社製)を用いて測定することができる。この際、流下秒数が200秒以上1,000秒になるような係数のウベローデ粘度計を選択する。また、測定は30℃の恒温水槽中で行ない、温度変化のないようにする。ウベローデ粘度計により測定された前記水溶液の流下秒数と、ウベローデ粘度計の係数との積により、動粘度(単位:mm
2/s)を求めることができる。
【0034】
<カルボキシメチル化率>
本発明において、カルボキシル基を有する修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のヒアルロン酸を構成する2糖単位に対するカルボキシメチル化率(以下、単に「カルボキシメチル化率(CM化率)」ともいう。)は、
1H−NMRスペクトルにおいて、ヒアルロン酸骨格中のC−2位に結合するN−アセチル基のメチル基(−CH
3)のプロトンを示すピーク(2ppm付近に発現)の積算値に対する、カルボキシメチル基(−CH
2−CO
2Hまたは−CH
2−CO
2−)のメチレン基(−CH
2−)のプロトンを示すピーク(3.8ppm以上4.2ppm以下の範囲に発現)の積算値の割合(%)で表される。
【0035】
本発明において、「ヒアルロン酸を構成する2糖単位」とは、ヒアルロン酸を構成する、隣り合って結合する2糖(グルクロン酸およびN−アセチルグルコサミン)で構成される1単位をいい、「ヒアルロン酸を構成する2糖単位に対するカルボキシメチル化率」とは、該1単位に対する、該1単位に含まれるカルボキシメチル基の数であり、より具体的には、該1単位を100%とした場合、該1単位に対する、該1単位に含まれるカルボキシメチル基の数の割合(%)をいう。
【0036】
<原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のカルボキシメチル化率>
本発明の製造方法では、エステル結合をより確実に形成して得られる架橋物の熱安定性および耐酵素分解性を高めることができる点で、前記原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩のカルボキシメチル化率は10%以上200%以下であるとよい。下限としては、さらに20%以上、30%以上、50%以上であるとよい。一方、上限としては、さらに150%以下、100%以下、90%以下であるとよい。
【0037】
[原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法]
本発明の製造方法において、原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩は、温度が30℃以下の含水溶媒中で、溶解した原料ヒアルロン酸および/またはその塩をハロ酢酸および/またはその塩と反応させる工程を含み、前記含水溶媒は、水、または水溶性有機溶媒と水の混合液であり、
前記混合液における水溶性有機溶媒の割合が60v/v%以下であることによって得ることができる。
【0038】
上記反応させる工程において、反応液(含水溶媒)中に原料ヒアルロン酸および/またはその塩の少なくとも一部(ヒアルロン酸および/またはその塩の全部または大部分であるとよい)とハロ酢酸および/またはその塩とが溶解した状態で該ヒアルロン酸および/またはその塩と該ハロ酢酸および/またはその塩とを反応させることができる。
【0039】
<原料ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量>
原料ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量は、カルボキシメチル化を円滑に行うことができる点で、4,000以上400万以下とすることができる。下限としては、さらに20万以上であるとよく、30万以上、80万以上であるとよい。一方、上限としては、さらに300万以下であるとよく、280万以下、250万以下であるとよい。
なお、本発明において、原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量は、極限粘度法により測定することができる。
【0040】
<含水溶媒における原料ヒアルロン酸および/またはその塩の濃度>
原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法において、反応液(含水溶媒)における前記ヒアルロン酸の濃度は0.05g/mL以上0.5g/mL以下とすることができる。
【0041】
<ハロ酢酸および/またはその塩>
原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法において、ハロ酢酸および/またはその塩は、カルボキシメチル基を原料ヒアルロン酸および/またはその塩に導入するために使用される。
【0042】
ハロ酢酸は例えば、モノハロ酢酸および/またはその塩であるとよく、より具体的には、クロロ酢酸および/またはその塩、または、ブロモ酢酸またはその塩とするとよい。ハロ酢酸の塩は例えば、クロロ酢酸のアルカリ金属塩および/またはブロモ酢酸のアルカリ金属塩であるとよく、クロロ酢酸ナトリウムおよび/またはブロモ酢酸ナトリウムであるとよい。
【0043】
<ハロ酢酸および/またはその塩の使用量>
ハロ酢酸および/またはその塩の使用量は、原料ヒアルロン酸および/またはその塩の使用量に対して10質量%以上500質量%以下とすることができ、さらに50質量%以上200質量%以下とすることができる。
【0044】
<含水溶媒>
原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法において、原料ヒアルロン酸および/またはその塩の溶解性が高い点から、前記含水溶媒は、水、または水溶性有機溶媒と水との混合液であるとよい。
【0045】
含水溶媒が水溶性有機溶媒と水との混合液である場合、ヒアルロン酸の溶解性を高めることができる点で、該混合液中における水溶性有機溶媒の割合は60v/v%以下であるとよく、さらに20v/v%以上40v/v%以下であるとよい。
【0046】
水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等を挙げることができ、これらを単独でまたは組み合わせて使用することができる。このうち、イソプロパノール、エタノール等の炭素原子数1、2または3の低級モノアルコールを用いるとよい。
【0047】
<pH>
原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法において、水酸基の求核性を高めることができる点で、前記原料ヒアルロン酸および/またはその塩とハロ酢酸および/またはその塩との反応は塩基性条件下で行われるとよく、反応液のpHが9以上14以下とすることができ、さらに10以上14以下、11以上14以下とすることができる。
【0048】
なお、前記反応の反応液を塩基性に調整するために、塩基性電解質を反応液中で使用することができる。塩基性電解質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を効率良く得ることができる点で、反応液中の塩基性電解質の濃度は、0.2モル/L以上10モル/L以下であるとよく、さらに0.5モル/L以上8モル/L以下であるとよい。
【0049】
<反応温度>
原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法において、カルボキシル化を円滑に進行でき、かつ、原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の低分子化を抑制できる点から、反応液の温度は30℃以下であるとよく、さらに0℃超10℃以下であるとよい。特に、反応液の温度を0℃超10℃以下にする方が、平均分子量80万以上の高分子の原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を容易に得ることができる。
【0050】
<反応時間>
原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法において、カルボキシル化を円滑に進行でき、かつ、原料修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の低分子化を抑制できる点から、反応時間は30分以上100時間以下とするとよく、さらに60分以上60時間以下とするとよい。
【0051】
[架橋物]
<構造>
本発明の架橋物は、同一または異なるカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩同士が有する水酸基とカルボキシル基との間に形成されるエステル結合によって架橋されている。該架橋物は、未修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物よりも後述する熱安定性および耐酵素分解性に優れている。
【0052】
<熱安定性>
本発明の架橋物は優れた熱安定性を有する。具体的には、後述の熱安定性試験におけるゲル残存率が10%以上であり、さらに15%以上100%以下、20%以上80%以下であるとよい。熱安定性試験におけるゲル残存率が10%未満であると、加熱滅菌処理のよりゲルが熱分解してしまうため、医療材料や美容材料として使用することができない。
【0053】
本発明において、熱安定性試験は以下の方法で行う。
(a)50mLバイアル瓶に、本発明で得られた架橋物1g(乾燥質量換算)をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)50mLに分散させ、該架橋物の濃度が2質量%である架橋物水溶液を調製する。
(b)前記架橋物水溶液を、121℃で20分間オートクレーブ処理する。より具体的には、開始温度25℃で40分間かけて121℃まで昇温させ、121℃で20分間オートクレーブ処理し、加圧・加熱終了後1時間静置してから、該架橋物を取り出す工程をいう。
(c)前記オートクレーブ処理後の架橋物を420メッシュのナイロンストレーナーに載置し、残存物を蒸留水で洗浄後、吸引ろ過する。
(d)前記ろ過残渣の全量を、秤量済みシャーレ上で55℃で3時間減圧乾燥する。
(e)前記減圧乾燥後のシャーレを含めた質量を秤量し、シャーレの質量の変化分から残留物の質量を算出する。次いで、架橋物の質量および残留物の質量から、熱安定性試験におけるゲル残存率を以下の式(3)により算出する。
熱安定性試験におけるゲル残存率(質量%)=オートクレーブ処理後の架橋物の残留物の質量/オートクレーブ処理前の架橋物の質量×100・・・(3)
【0054】
本発明の架橋物は、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を含むことにより、未修飾ヒアルロン酸および/またはその塩と比較して、エステル結合に関与できるカルボキシル基を多く含むため、熱安定性により優れている。
【0055】
<耐酵素分解性>
本発明の架橋物は優れた耐酵素(ヒアルロニダーゼ)分解性を有する。より具体的には、後述の耐酵素分解性試験におけるゲル残存率が60%以上であり、さらに60%以上95%、70%以上90%以下であるとよい。耐酵素分解性におけるゲル残存率が60%未満であると、ヒアルロニダーゼにより分解されやすく、滞留性が低くなってしまう。
【0056】
本発明において、耐酵素分解性試験は以下の方法で行う。
(a)本発明の架橋物100mg(乾燥質量換算)を50mMリン酸緩衝液9.5mLに分散させて、該架橋物の濃度が1質量%(固形分)である架橋物水溶液を調製し、25℃で10分間静置して、膨潤溶解させる。
(b)前記架橋物水溶液を、ヒアルロニダーゼ(0.25単位/架橋物1mgあたり)存在下にて40℃で15時間保存する。
(c)さらに、ヒアルロニダーゼ(0.25単位/架橋物1mgあたり)を追加し、40℃で24時間保存する。
(d)前記保存後の架橋物を420メッシュのナイロンストレーナーに載置し、残存物を蒸留水で洗浄後、吸引ろ過する。
(e)前記ろ過残渣の全量を、秤量済みシャーレ上で55℃で3時間減圧乾燥する。
(f)前記減圧乾燥後のシャーレを含めた質量を秤量し、シャーレの質量の変化分から残留物の質量を算出する。次いで、架橋物の質量および残留物の質量から、耐酵素分解性試験におけるゲル残存率を以下の式(4)により算出する。
耐酵素分解性試験におけるゲル残存率(%)=残留物の質量/架橋物の質量(固形分)
×100 ・・・(4)
【0057】
本発明の架橋物が耐酵素分解性に優れている原因のひとつとして、前記架橋物がカルボキシメチル基を含有することが挙げられる。具体的には、前記架橋物がカルボキシメチル基を含有することより、ヒアルロニダーゼが、前記架橋物に含まれるヒアルロン酸骨格を認識しづらくなるため、耐酵素分解性が向上すると推測される。
【0058】
<水膨潤性>
さらに、本発明の架橋物は、優れた水膨潤性を有することから、やわらかい水膨潤性ゲルを形成することができる。ここで、「水膨潤性」とは、水を取り込んで膨潤する性質のことをいい、一般に、水を取り込んでゲル状になる性質のことをいう。本発明の架橋物は、縮合剤との反応によって生じたエステル結合によって形成される3次元網目構造を有し、該3次元網目構造の中に水を取り込むことにより膨潤して、ゲルを構成することができる。
【0059】
<膨潤度>
本発明の架橋物は、よりやわらかい水膨潤性ゲルを形成することができる点で、水に対する膨潤度が5倍以上250倍以下(質量比)であり、さらに5倍以上200倍以下であるとよい。ここで、「膨潤度」とは、乾燥ゲルの質量に対する、膨潤ゲルの質量(膨潤ゲル/乾燥ゲル)を意味する。
膨潤度が5倍未満であると、医療材料・美容材料として使用するには硬すぎるゲルになってしまう。一方、膨潤度が250倍より大きいと、やわらかすぎてもろいゲルとなってしまう。
【0060】
より具体的には、本発明の架橋物において、熱安定性試験前の膨潤度は、5倍以上50倍以下(質量比)であるとよく、さらに5倍以上20倍以下であるとよい。
【0061】
また、熱安定性試験後の膨潤度は、10倍以上250倍以下(質量比)であるとよく、さらに15倍以上200倍以下、20倍以上150倍以下であるとよい。
【0062】
<貯蔵弾性率G’>
本発明の架橋物は、粘弾性が優れた水膨潤性ゲルが得られやすいことから、貯蔵弾性率G’(周波数1Hz)が100Pa以上10万Pa以下であるとよく、さらに150Pa以上5万Pa以下であるとよい。なお、本発明において、貯蔵弾性率G’は後述の実施例に示される方法により測定することができる。
【0063】
[架橋物の用途]
本発明の膝関節注射剤、癒着防止剤、皮下注射剤、または薬物徐放剤は、前記架橋物(または、水膨潤性ゲル)を含むことにより、熱安定性および耐酵素分解性に優れており、さらに固体にて保存が可能であるため、保存安定性に優れている。
【0064】
<関節注射剤・癒着防止剤>
本発明の架橋物を関節注射剤・癒着防止剤として使用する場合、前記架橋物は優れた熱安定性および耐酵素分解性を有していることから、生体内である程度の期間分解されずに残存し、その後、生体内で分解されるため、組織同士の癒着を防止することができる上、架橋剤を使用していないため安全性に優れている。
特に、関節注射剤においては、前記架橋物は優れた水膨潤性を有しているため、注射後の痛みを低減することができる。また、癒着防止剤においては、前記架橋物が優れた加工性を有していることから、シート状やフィルム状として幅広い形態で使用することができる。
【0065】
<皮下注射剤>
本発明の架橋物を皮下注射剤として使用する場合、医療材料だけでなく、例えば、顔、頭、首、胸部、腹部、臀部、背中、腰、上肢、下肢に注射することにより、美容上の効果(例えば、豊胸、美顔、美脚等、外観をより良くするため)を奏するために使用することができる。前記水膨潤性ゲルは優れた熱安定性および耐酵素分解性、さらに水膨潤性を有するため、美容上の効果を持続させることができる。
【0066】
<薬物徐放剤>
本発明の架橋物を薬物徐放剤として使用する場合、前記架橋物は優れた熱安定性および耐酵素分解性を有していることから、生体内である程度の期間分解されずに残存し、その後、生体内で分解されるため、薬物の徐放を補助する作用を有し、かつ、安全性に優れている。
【0067】
<化粧料>
本発明の化粧料は前記架橋物を含み、該架橋物は構成するカルボキシル基に起因して、高い保水効果を有する。より具体的には、本発明の架橋物に含まれるカルボキシル基が水と水素結合を構成するため、該カルボキシル基に起因して、優れた保水力を発揮すると推測される。このため、例えば皮膚等の生体組織において高い保水効果を有する。
また、本発明の化粧料が前記水膨潤性ゲルを含む場合、ゲルとして適度な粘弾性を有するため、ゲル特有のみずみずしい触感を実感することができる上、ゲルの中に有効成分を配合することにより、有効成分を徐放させることができる。
【0068】
本発明の化粧料の態様は特に限定されないが、例えば、皮膚用化粧料が挙げられる。具体的には、例えば、洗顔料、洗浄料、化粧水、クリーム、乳液、美容液、パック、クレンジング、ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、リップライナー、頬紅、シェービングローション、アフターサンローション、デオドラントローション、ボディローション、ボディオイル、石鹸、入浴剤が挙げられる。
【0069】
[実施例]
次に、本発明を実施例および比較例に基づき、さらに説明する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0070】
<調製例1:カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の調製>
30mLのサンプル瓶に水酸化ナトリウム1.04gを秤り取った後、水12mLを添加して溶解させた。次に、平均分子量が175万のヒアルロン酸2.0gを添加し溶解させた後、モノブロモ酢酸3.62gを添加して溶解させて、1℃で16時間静置した。その後、200mLビーカーにエタノール80mLを入れ、該反応液を撹拌しながら添加した。その後、400メッシュのろ布で沈殿を回収した後、10%塩化ナトリウム水溶液40mLを添加して沈殿を溶解させた。さらに、8%塩酸水溶液でpHを調製した後、エタノール100mLで3回洗浄した後、減圧濾過し、55℃で3時間減圧乾燥することにより、調製例1のカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸(原料修飾ヒアルロン酸)を含有する組成物を得た。
【0071】
調製例1で得られたカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸は分子量が107万であり、カルボキシメチル化率が77%であった。
【0072】
<カルボキシメチル化率の測定および算出>
調製例1で得られたカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸のカルボキシメチル化率は、以下の方法にて
1H−NMRスペクトルの積算値より求めた。
【0073】
(試料調製)
試料7mgと内部標準物質4,4−ジメチル−4−シラペンタンスルホン酸ナトリウム(DSS)1mgを重水0.7mlに溶かし、NMR試料管に移し入れ、キャップをした。
(測定条件)
装置:Varian NMR system 400NB型(バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド)
観測周波数:400MHz
温度:30℃
基準:DSS(0ppm)
積算回数:64回
(解析方法)
1H−NMRスペクトルの2.0ppm付近に現れるヒアルロン酸のN−アセチル基(CH
3)のピークと、3.8ppm以上4.2ppm以下の範囲に現れるカルボキシメチル基のメチレン基(−CH
2―)のピークを積分した。積分値から下記の式より、カルボキシメチル化率(CM化率)を求めた。
CM化率=(3.8ppm以上4.2ppm以下の範囲に現れるピークの積分値/2)/(2.0PPMのピークの積分値/3)
【0074】
<実施例1:カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物の調製>
10cm×7cmのポリエステル製チャック袋に、調製例1で得られた原料修飾ヒアルロン酸1.5gを添加し、さらに90mg/mL 1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水溶液(以下、「HOBt水溶液」ともいう)2.54mLおよびイオン交換水1.21mLを加えた。ここで、反応液における原料修飾ヒアルロン酸の濃度は40質量%であった。この反応液を手で捏ねて25℃で2時間保存し、膨潤溶解させた。
次いで、この反応液に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド塩酸塩(以下、「EDC」ともいう)を288mg添加した。この反応液を手で捏ねて25℃で16時間保存し、膨潤溶解させることで、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物を含む組成物を得た。
【0075】
<実施例1:カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物の精製>
500mLビーカーに実施例1で得られた架橋物を含む組成物を移し、イオン交換水250mLを加えた。ヒスコトロン(5000rpm×2分)で粉砕処理後、5分間撹拌、5分間静置し、架橋物を沈殿させて上澄みをデカンテーションにより除去した。
次いで、イオン交換水200mLで2回、60%エタノール200mLで1回、90%エタノール100mLで1回洗浄した。その後、架橋物を420メッシュのナイロンストレイナーで吸引ろ過により回収した後、55℃で4時間減圧乾燥し、粉末状のカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物1.54gを得た。
【0076】
<実施例2ないし10、および比較例1ないし6>
表1記載の条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2ないし10、および比較例1ないし6の粉末状のカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物を得た。
【0077】
<比較例7>
20mLビーカーに未修飾ヒアルロン酸ナトリウム(平均分子量:222万)2.0gを添加し、さらに10%HOBt/70%エタノール溶液を10mL、EDCを144mg添加した。この反応液を25℃で終夜撹拌し、ヒアルロン酸の架橋物を含む組成物を得た。
その後、実施例1と同様の精製処理を行い、比較例7の粉末状のヒアルロン酸の架橋物1.92gを得た。
【0078】
<比較例8ないし10>
表1記載の条件に変更した以外は、比較例7と同様の方法で、比較例8ないし10の粉末状のヒアルロン酸の架橋物を得た。
【0079】
<試験例1:熱安定性試験>
50mLバイアル瓶中に、実施例1ないし7、および比較例1ないし10で得られたカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物それぞれ1g(乾燥質量換算)を、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)50mL中に分散させて、架橋物濃度が2質量%(固形分)の混合物を調製した。
次いで、前記バイアルの口にゴム栓をはめて、さらにアルミニウム製の蓋をし、該混合物を121℃で20分間オートクレーブ処理した。
処理後の架橋物を420メッシュのナイロンストレイナーに載置し、蒸留水で洗浄後、吸引ろ過により回収し、秤量済みのシャーレ上に広げて55℃で3時間減圧乾燥した。
その後、シャーレの質量を測定して、シャーレの質量の変化分から残留物の質量を算出した。架橋物の質量および残留物の質量から、熱安定性試験におけるゲル残存率を上述の式(3)により算出した。
なお、前記オートクレーブ処理としては、具体的には、開始温度25℃で40分間かけて121℃まで昇温させ、121℃で20分間オートクレーブ処理し、加圧・加熱終了後1時間静置してから、該架橋物を取り出す工程をいう。
【0080】
<試験例2:耐酵素分解性試験>
上述の試験例1で得られた架橋物それぞれ100mg(乾燥質量換算)を、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)9.5mLに分散させて濃度1質量%(固形分)の混合物を調製し、25℃にて10分間静置して、膨潤溶解させた。
次いで、該混合物にヒアルロニダーゼ(シグマ社、bovine testes由来)0.25単位(0.5mL)を添加した後、該混合物を40℃にて15時間静置した。さらに、ヒアルロニダーゼ0.25単位(0.5mL)を追加し、40℃にて24時間静置した。
この架橋物を420メッシュのナイロンストレイナーで吸引ろ過により回収した後、蒸留水で洗浄し、秤量済みのシャーレ上に広げて55℃で3時間減圧乾燥した。
その後、シャーレの質量を測定して、シャーレの質量の変化分から残留物の質量を算出した。耐酵素分解性試験におけるゲル残存率を上述の式(4)により算出した。
なお、比較例1ないし7、および比較例10で得られた架橋物は、試験例1の熱安定性試験においてゲルの残存率が0%であったため、試験例2の耐酵素分解性試験は行っていない。
【0081】
<膨潤度の測定>
実施例1ないし10、および比較例1ないし10で得られた架橋物について、以下の方法により膨潤度を算出した。
具体的には、架橋物を膨潤させて、水膨潤ゲルを形成させた後、420メッシュのナイロンストレイナーで吸引ろ過により回収し、秤量済みのシャーレ上に広げて膨潤ゲルの質量を測定した。次いで、55℃で3時間減圧乾燥し、乾燥ゲルの質量を測定した。
膨潤ゲルの質量および乾燥ゲルの質量から、水膨潤ゲルにおける膨潤度を以下の式(5)により算出した。
膨潤度(質量比)=膨潤ゲルの質量/架橋物の質量(固形分)・・・(5)
【0082】
<貯蔵弾性率G’の測定>
実施例1ないし10、および比較例1ないし10で得られた架橋物について、以下の測定条件にて貯蔵弾性率G’を測定した。
【0083】
(測定条件)
測定装置:AR−G2(ティー・エー・インスツルメント・ジャパン(株)製)
ギャップ:800μm
測定モード:frequency sweep step
測定温度:25℃
振幅周波数:0.1〜10Hz
【0085】
表1より、縮合剤を用いて、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、前記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間でエステル結合によって架橋させる、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物の製造方法によって得られた架橋物は、熱安定性および耐酵素分解性に優れていることが理解できる(実施例1ないし10)。
【0086】
具体的には、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物は、試験例1の熱安定性試験におけるゲル残存率が10%以上であり、優れた熱安定性を有することが理解できる(実施例1ないし10)。
【0087】
また、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物は、試験例2の耐酵素分解性試験におけるゲル残存率が60%以上であり、優れた耐酵素分解性を有することが理解できる(実施例1および2、実施例4ないし7、ならびに実施例9および10)。
【0088】
さらに、カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩の架橋物は、水膨潤性ゲルを形成する性質を有し、膨潤度が5倍以上250倍以下(質量比)であることが理解できる(実施例1ないし10)。
【0089】
<配合例1:美容液>
本配合例では、以下に記す処方にて、実施例4で得られたカルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物を配合した美容液を調製した。
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸の架橋物 0.8%
ヒアルロン酸ナトリウム(平均分子量:200万) 0.2%
加水分解ヒアルロン酸(平均分子量:80万) 0.1%
カチオン化ヒアルロン酸 0.1%
加水分解ヒアルロン酸アルキル(C12‐C13)グリセリル 0.1%
1,3−ブチレングリコール 5.0%
カルボキシビニルポリマー 5.0%
エチルヘキシルグリセリン 3.0%
カプリル酸グリセリン 3.0%
ペンチレングリコール 5.0%
グリセリン 1.5%
POEソルビタンモノステアリン酸エステル 1.0%
ソルビタンモノステアリン酸エステル 0.5%
キサンタンガム 0.2%
アルギン酸ナトリウム 0.2%
水酸化カリウム 0.1%
オリーブ油 0.2%
トコフェロール 0.1%
EDTA−2ナトリウム 0.02%
アルギニン 0.15%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05%
アルブチン 0.2%
パルミチン酸レチノール 0.2%
トラネキサム酸 0.1%
エラスチン 0.1%
コラーゲン 0.1%
リン酸アスコルビン酸マグネシウム 0.1%
クエン酸ナトリウム 1.0%
クエン酸 0.1%
プロピルパラベン 0.1%
メチルパラベン 0.15%
香料 適量
精製水 残量
【0090】
<実施例11:癒着防止剤>
実施例3で得られた架橋物を厚さ1mmのフィルム状に圧延して成型し、滅菌処理後、シート状の癒着防止剤を得た。
【0091】
<実施例12:皮下注射剤>
実施例7で得られた架橋物(固形分換算1%)の乾燥物を、0.9%NaClを含む注射用水で膨潤させ、1mLの注射器に無菌充填し、滅菌処理後、皮下注射剤を得た。
【0092】
<実施例13:薬物徐放剤>
実施例5で得られた架橋物(固形物換算2%)の乾燥物を、0.9%NaCl、0.001%プロスタグランジンE1を含む注射用水で膨潤させ、滅菌処理後、3mLの注射器に無菌充填し、薬物徐放剤を得た。
【0093】
<実施例14:膝関節注射剤>
実施例6で得られた架橋物(固形物換算0.8%)の乾燥物を、0.9%NaClを含む注射用水で膨潤させ、滅菌処理後、2mLの注射器に無菌充填し、膝関節注射剤を得た。
カルボキシメチル基含有修飾ヒアルロン酸および/またはその塩を、前記修飾ヒアルロン酸および/またはその塩が有する水酸基とカルボキシル基との間でエステル結合によって架橋させる、