特許第6046894号(P6046894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046894
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】液状封止材
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20161212BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20161212BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C08G59/50
   H01L23/30 R
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-288998(P2011-288998)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136702(P2013-136702A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】松村 かおり
(72)【発明者】
【氏名】山田 和義
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/037862(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/068092(WO,A1)
【文献】 特開2007−182562(JP,A)
【文献】 特開2007−039449(JP,A)
【文献】 特開2001−019745(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/075427(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/089874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
H01L 23/28−23/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エポキシ樹脂、(b)芳香族アミン系硬化剤、(c)包接化合物、(d)無機充填材を含む液状封止材であって、
前記(b)芳香族アミン系硬化剤が、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)であり、
前記(c)包接化合物が、5−ヒドロキシイソフタル酸とイミダゾール誘導体との包接化合物、および、5−ニトロイソフタル酸とイミダゾール誘導体との包接化合物の少なくとも一方であり、
前記(a)〜(c)成分の合計質量に対する前記(c)成分の質量比((c)/((a)+(b)+(c))が0.003以上0.05以下であることを特徴とする液状封止材。
【請求項2】
前記イミダゾール誘導体が、2−メチルイミダゾール、および、2−エチル−4−メチルイミダゾールの少なくとも一方である、請求項1に記載の液状封止材。
【請求項3】
前記(a)〜(d)成分の合計質量に対する前記(d)成分の質量比((d)/((a)+(b)+(c)+(d))が0.3以上0.8以下である、請求項1または2に記載の液状封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーフィル材として用いられる液状封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い半導体の実装形態がワイヤーボンド型からフリップチップ型へと変化してきている。
フリップチップ型の半導体装置は、バンプ電極を介して基板上の電極部と半導体素子とが接続された構造を持っている。この構造の半導体装置は、温度サイクル等の熱付加が加わった際に、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差によってバンプ電極に応力がかかり、バンプ電極にクラック等の不良が発生することが問題となっている。この不良発生を抑制するために、アンダーフィル材と呼ばれる液状封止材を用いて、半導体素子と基板との間のギャップを封止し、両者を互いに固定することによって、耐サーマルサイクル性を向上させることが広く行われている。
【0003】
アンダーフィル材の供給方法としては、半導体素子と、基板上の電極部と、を接続させた後、半導体素子の外周に沿ってアンダーフィル材を塗布(ディスペンス)し、毛細管現象を利用して、両者の間隙にアンダーフィル材を注入するキャピラリーフローが一般的である。アンダーフィル材の注入後、該アンダーフィル材を加熱硬化させることで両者の接続部位を補強する。
【0004】
アンダーフィル材として用いられる液状封止材は、注入性、接着性、硬化性、保存安定性等に優れることが求められる。また、アンダーフィル材で封止した部位が、耐湿性、耐サーマルサイクル性等に優れることが求められる。
【0005】
アンダーフィル材として用いられる液状封止材は、上述した要求特性を満足するため、エポキシ樹脂を主剤とし、該エポキシ樹脂の硬化剤、および、無機充填材を通常含有する。
アンダーフィル材として用いられる液状封止材は、上記の成分に加えて、硬化促進剤を含有する場合もある。
【0006】
上記の目的で使用されるエポキシ樹脂の硬化剤としては、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤などがある。これらの中でもアミン系硬化剤、特にイミダゾールのような芳香族アミン系硬化剤が、耐湿性および耐サーマルサイクル性に優れることから、好ましく用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−111711号公報
【特許文献2】特開2007−231146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、エポキシ樹脂の硬化剤として、アミン系硬化剤を使用した場合、加熱硬化時に、半導体素子の周囲の基板上にアンダーフィル材が染み出すブリード現象が生じる場合があることが明らかとなった。
半導体装置を構成する部品は、ハンダ等を用いて基板上に電極部に接続されるが、ブリード現象によって基板上の電極部が汚染されると、ハンダ付け等の不良が起こる場合があり、該部品の接続信頼性が失われてしまうという問題がある。
【0009】
特許文献1に記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物は、(イ)室温における初期粘度、(ロ)120℃保持における粘度挙動が初期の10倍に到達する時間、(ハ)120℃に保持された10μmの隙間を有する二枚重ねのガラス板の該隙間への端部から深さ10mmまでの侵入時間、(ニ)120℃の雰囲気下に置かれたSiの鏡面に3g滴下し、広がりが止まった状態でのその直径が、所定の条件を満たすことで、隙間侵入性と汚染防止(ブリード防止)の機能を併せ持つとしている。
しかしながら、特許文献1に記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物の場合、調製した組成物について、上記(イ)〜(ニ)が所定の条件を満たしているか確認する必要があり、工業的規模でのアンダーフィル材の製造という観点では現実的ではない。
また、特許文献1は、チップ・オン・チップ用アンダーフィルであり、実施例でもシリコンを鏡面研磨した基板を用いて汚染防止性を評価しているため、半導体装置に一般的に用いられるFR−4などの有機基板でも汚染防止性を発揮するかは不明である。
【0010】
また、特許文献2に記載の液状エポキシ樹脂組成物では、保存性を維持しつつ硬化時間を短縮するため、硬化触媒(硬化促進剤)として、カルボキシル基を有する化合物を含有するマイクロカプセルを使用している。
樹脂組成物の製造時において、各成分の混練には、ロールミル等が用いられるが、硬化触媒として、マイクロカプセルを使用する場合は、マイクロカプセルが破損するおそれがあるため、高シェアでの混練ができず、製造される樹脂組成物における各成分の分散安定性を確保することができないおそれがある。
【0011】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するため、アンダーフィル材として使用する際に、加熱硬化時のブリード現象を抑制することができ、かつ、液状封止材の製造時において、高シェアでの混練が可能であることから、各成分の分散安定性に優れた液状封止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、(a)エポキシ樹脂、(b)芳香族アミン系硬化剤、(c)包接化合物、(d)無機充填材を含む液状封止材であって、
前記(c)包接化合物が、5−ヒドロキシイソフタル酸とイミダゾール誘導体との包接化合物、および、5−ニトロイソフタル酸とイミダゾール誘導体との包接化合物の少なくとも一方であり、
前記(a)〜(c)成分の合計質量に対する前記(c)成分の質量比((c)/((a)+(b)+(c))が0.003以上0.1以下であることを特徴とする液状封止材を提供する。
【0013】
本発明の液状封止材において、前記イミダゾール誘導体が、2−メチルイミダゾール、および、2−エチル−4−メチルイミダゾールの少なくとも一方であることが好ましい。
【0014】
本発明の液状封止材において、前記(a)〜(d)成分の合計質量に対する前記(d)成分の質量比((d)/((a)+(b)+(c)+(d))が0.3以上0.8以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液状封止材は、アンダーフィル材として使用する際に、加熱硬化時のブリードを抑制することができる。
本発明の液状封止材は、加熱硬化時の硬化性に優れ、かつ、室温での保存安定性が良好である。
また、本発明の液状封止材は、製造時において、高シェアでの混練が可能であり、各成分の分散安定性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液状封止材は、以下に示す(a)〜(d)成分を必須成分として含有する。
【0017】
(a)成分:エポキシ樹脂
(a)成分のエポキシ樹脂は、本発明の液状封止材の主剤をなす成分である。
(a)成分のエポキシ樹脂は、常温で液状であることが好ましいが、常温で固体のものであっても、他の液状のエポキシ樹脂又は希釈剤により希釈し、液状を示すようにして用いることができる。
【0018】
具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのグリシジルエーテルであるビスフェノール型エポキシ樹脂:ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、パラアミノフェノール型エポキシ樹脂などの液状グリシジルアミン型エポキシ樹脂;(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタンなどの脂環型エポキシ樹脂;2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジグリシジルエーテルなどの水添型エポキシ樹脂、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどのエポキシ基を有するシクロヘキサンオリゴマー、ノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。好ましいのは液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状グリシジルアミン型エポキシ樹脂、エポキシ基を有するシクロヘキサンオリゴマーであり、特に好ましいのは液状ビスフェノールAエポキシ樹脂、液状ビスフェノールFエポキシ樹脂、液状パラアミノフェノール型エポキシ樹脂、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、液状ビスフェノールAエポキシ樹脂の水素化物、(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、1,2:8,9−ジエポキシリモネンなどである。
(a)成分としてのエポキシ樹脂は、上述したエポキシ樹脂のうち、いずれか1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(b)成分:芳香族アミン系硬化剤
(b)成分は、(a)成分のエポキシ樹脂の硬化剤である。
本発明では、液状封止材をアンダーフィル材として使用した際に、耐湿性および耐サーマルサイクル性に優れることから、(a)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として、芳香族アミン系硬化剤を用いる。
(b)成分の芳香族アミン系硬化剤は、常温で液状であることが好ましいが、常温で固体のものであってもよい。常温で固体の場合は、加熱して液状化してから(a)成分のエポキシ樹脂と混合することが好ましい。
【0020】
(b)成分の芳香族アミン系硬化剤は、アルキレンジアニリン構造を有する芳香族アミンであることが好ましく、芳香環に少なくとも一つの置換基を有する芳香族アミンであることが好ましい。置換基はメチル基、エチル基などの低級アルキル基、メトキシ基などの低級アルコキシ基であることが好ましい。(b)成分の芳香族アミン系硬化剤は、それを合成する際に副生するオリゴマーなどを含有していても差支えない。(b)成分の芳香族アミン系硬化剤は単独使用でも複数を併用することもできる。勿論、(b)成分の芳香族アミン系硬化剤の特性を損なわない限り、その他のアミン硬化剤を併用することができる。
【0021】
(b)成分の芳香族アミン系硬化剤は、具体的には、メタフェニレンジアミン、1,3−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエン、2−メチル−4,6−ビス(メチルチオ)−1,3−ベンゼンジアミン、4−メチル−2,6−ビス(メチルチオ)−1,3−ベンゼンジアミン、2,4−ジアミノアニソールなどの芳香環1個の芳香族アミン硬化剤;2,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタンなどの芳香環2個の芳香族アミン硬化剤;該芳香族アミン硬化剤の加水分解縮合物;ポリテトラメチレンオキシドジ−p−アミノ安息香酸エステル、ポリテトラメチレンオキシドジパラアミノベンゾエートなどの芳香族アミン硬化剤;芳香族ジアミンとエピクロロヒドリンとの縮合物や芳香族ジアミンとスチレンとの反応生成物などが挙げられる。
【0022】
好ましいのは、アルキレンジアニリン構造を有する芳香族アミンであり、特に好ましいのは反応性および硬化物性などの点から液状の4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)である。
また、粘度が低い液状封止材を得ることができることから、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエンの併用が好ましい。
また、好適な粘度、反応性、硬化物性を兼ね備えることから、2−メチル−4,6−ビス(メチルチオ)−1,3−ベンゼンジアミンおよび4−メチル−2,6−ビス(メチルチオ)−1,3−ベンゼンジアミンも好ましく用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエンなどと併用することもできる。
【0023】
(b)成分の芳香族アミン系硬化剤は、そのアミノ基が、(a)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対し0.7〜1.5当量、好ましくは0.8〜1.2当量の割合になるように配合される。上記範囲外であると、液状封止材の半導体素子に対する接着強度の低下やガラス転移点の低下などの問題が起きることがある。
【0024】
(c)成分:包接化合物
(c)成分の包接化合物は、(a)成分のエポキシ樹脂の硬化促進剤である。
本発明では(c)成分の包接化合物が、5−ヒドロキシイソフタル酸(HIPA)とイミダゾール誘導体との包接化合物、および、5−ニトロイソフタル酸(NIPA)とイミダゾール誘導体との包接化合物の少なくとも一方である。
これらの包接化合物では、HIPA(またはNIPA)の複数分子が、分子間引力により擬似的なカプセルを形成しており、その間隙にイミダゾール誘導体が包接されている、または、HIPA(またはNIPA)と、イミダゾール誘導体と、が水素結合によって安定な状態の結晶構造を形成していると考えられる。
このような包接化合物を用いることで、常温では、イミダゾール誘導体がエポキシ樹脂の硬化促進剤として作用せず、保存安定性に優れている。
また、HIPA(またはNIPA)は、(b)成分のアミン系硬化剤の作用を促進するものであるが、このような包接化合物を用いることで、HIPA(またはNIPA)による、アミン系硬化剤の作用の促進が抑制される。これによっても、保存安定性が向上する。
また、この包接化合物は、キャピラリーフローによる注入時の温度域(概ね90℃〜110℃)では包接が解離しないため、本発明の液状封止材をアンダーフィル材として使用した場合に、アンダーフィル材の注入性が良好である。
一方で、液状封止材を加熱硬化する目的で、150℃以上に加熱した際には、包接が解離して、イミダゾール誘導体がエポキシ樹脂の硬化促進剤として作用し、また、HIPA(またはNIPA)がアミン系硬化剤の作用を促進することにより、(a)成分のエポキシ樹脂の硬化反応が速やかに進行するので、加熱硬化時のブリードが抑制される。
なお、(c)成分の包接化合物として、HIPAとイミダゾール誘導体との包接化合物、および、NIPAとイミダゾール誘導体との包接化合物のうち、いずれか一方を含有していていてもよく、両方を含有していてもよい。
【0025】
イミダゾール誘導体としては、常温およびキャピラリーフローによる注入時の温度域では、HIPA(またはNIPA)との間で安定な包接化合物を形成することができ、かつ、加熱硬化温度付近では包接が解離して、エポキシ樹脂の硬化促進剤として作用することができる限り特に限定されないが、2−メチルイミダゾール、および、2−エチル−4−メチルイミダゾールが、上述した常温およびキャピラリーフローによる注入時の温度域では、HIPA(またはNIPA)との間で安定な包接化合物を形成することができ、かつ、加熱硬化温度付近では包接が解離して、エポキシ樹脂の硬化促進剤として作用するという点で好ましい。
なお、イミダゾール誘導体として、2−メチルイミダゾール、および、2−エチル−4−メチルイミダゾールのうち、いずれか一方を含有していていてもよく、両方を含有していてもよい。
【0026】
(c)成分の包接化合物は、HIPAまたはNIPAと、イミダゾール誘導体と、を直接混合するか、あるいは溶媒中で混合することにより得ることができる。
上記の手順で得られる生成物が、上記した構造の包接化合物をなしていることは、熱分析(TG及びDTA)、赤外吸収スペクトル(IR)、X線回折パターン、固体NMRスペクトル等により確認できる。
【0027】
本発明の液状封止材では、(a)〜(c)成分の合計質量に対する(c)成分の質量比((c)/((a)+(b)+(c))が0.003以上0.1以下である。
(c)/((a)+(b)+(c))が0.003未満の場合、エポキシ樹脂の硬化促進剤としての作用が不十分になるため、液状封止材をアンダーフィル材として使用した場合に、加熱硬化時のブリードを抑制することができない。
一方、(c)/((a)+(b)+(c))が0.1超だと、液状封止材をアンダーフィル材として使用した場合に、キャピラリーフローによる注入性が低下するおそれがある。
(c)/((a)+(b)+(c))は、0.003以上0.05以下であることが好ましく、0.009以上0.03以下であることがより好ましい。
【0028】
(d)成分:無機充填材
(d)成分の無機充填材は、封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させる目的で液状封止材に添加される。無機充填材の使用により耐サーマルサイクル性が向上するのは、線膨張係数を下げることにより、サーマルサイクルによるアンダーフィル材の硬化物の膨張・収縮を抑制できるからである。
【0029】
(d)成分の無機充填材は、添加により線膨張係数を下げる効果を有するものである限り特に限定されず、各種無機充填材を使用することができる。具体的には非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、チッ化ホウ素、チッ化アルミニウム、チッ化珪素等が挙げられる。
これらの中でも、シリカ、特に、非晶質の球状シリカが、本発明の液状封止材をアンダーフィル材として使用した際に流動性に優れ、硬化物の線膨張係数を低減できることから望ましい。
なお、ここで言うシリカは、製造原料に由来する有機基、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基を有するものであってもよい。
非晶質の球状シリカは、溶融法、燃焼法、ゾルゲル法など、公知の製造方法によって得られるが、所望の粒度や不純物含有量、表面状態などの特性に応じて、その製造方法を適宜選択することができる。
また、無機充填材として用いるシリカとしては、特開2007−197655号公報に記載の製造方法によって得られたシリカ含有組成物を用いてもよい。
【0030】
また、無機充填材は、シランカップリング剤等で表面処理が施されたものであってもよい。表面処理が施された無機充填材を使用した場合、無機充填材の凝集を防止する効果が期待される。これにより、本発明の液状封止材の保存安定性の向上が期待される。
【0031】
(d)成分としての無機充填材は、平均粒径が0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜2μmであることがより好ましい。
ここで、無機充填材の形状は特に限定されず、球状、不定形、りん片状等のいずれの形態であってもよい。なお、無機充填材の形状が球状以外の場合、無機充填材の平均粒径とは該無機充填材の平均最大径を意味する。
【0032】
本発明の液状封止材では、(a)〜(d)成分の合計質量に対する(d)成分の質量比((d)/((a)+(b)+(c)+(d))が0.3以上0.8以下であることが好ましい。
(d)/((a)+(b)+(c)+(d))が0.3未満だと、(d)成分の無機充填材の添加により線膨張係数を下げる効果が不十分であり、本発明の液状封止材をアンダーフィル材として使用した場合に、耐サーマルサイクル性を向上させる効果が不十分となるおそれがある。
一方、(d)/((a)+(b)+(c)+(d))が0.8超だと、本発明の液状封止材をアンダーフィル材として使用した際に、キャピラリーフローによる注入性や電気的接続性が低下するおそれがある。
(d)/((a)+(b)+(c)+(d))が、0.5以上0.7以下であることがより好ましい。
【0033】
(その他の配合剤)
本発明の液状封止材は、上記(a)〜(d)成分以外の成分を必要に応じてさらに含有してもよい。
このような成分の具体例としては、シランカップリング剤、レベリング剤、着色剤、イオントラップ剤、消泡剤、難燃剤などを配合することができる。各配合剤の種類、配合量は常法通りである。また、オキセタン、アクリレート、ビスマレイミドなどの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマーなどを配合してもよい。
【0034】
(液状封止材の調製)
本発明の液状封止材は、上記(a)〜(d)成分、および、さらに必要に応じて配合するその他の配合剤を混合し、攪拌して調製される。混合攪拌は、ロールミルを用いて行うことができるが、勿論、これに限定されない。
本発明の液状封止材では、エポキシ樹脂の硬化促進剤として、(c)成分の包接化合物を用いているため、マイクロカプセル化した硬化促進剤を使用した場合とは違い、高シェアでの混練が可能であり、各成分の分散安定化が可能である。
なお、各成分を同時に混合しても、一部成分を先に混合し、残り成分を後から混合するなど、適宜変更しても差支えない。
【0035】
本発明の液状封止材は、以下に述べる特性を有しているため、アンダーフィル材に好適である。
【0036】
(初期粘度、ポットライフ(増粘倍率))
本発明の液状封止材は、初期粘度が低く、アンダーフィル材として使用した場合に、キャピラリーフローによる注入性が良好である。
具体的には、後述する実施例に記載の手順で測定される初期粘度が0.01〜100Pa・sであり、1〜80Pa・sであることが好ましい。
【0037】
また、本発明の液状封止材は、常温での保存安定性が良好であり、ポットライフに優れている。後述する実施例に記載の手順で測定される増粘倍率が2倍以下であり、1.8倍以下であることが好ましい。
【0038】
(注入性)
また、本発明の液状封止材は、アンダーフィル材として使用した場合に、キャピラリーフローによる注入性が良好である。具体的には、後述する実施例に記載の手順でギャップへの注入性を評価した際に、注入時間が600秒以下であることが好ましい。
【0039】
(速硬化性)
本発明の液状封止材は、速硬化性に優れており、150〜200℃の温度で10分〜2時間の加熱で硬化させることができる。
本発明の液状封止材は、後述する実施例に記載の手順で測定されるゲルタイムが800秒以下であることが好ましい。
【0040】
(加熱硬化時のブリード)
本発明の液状封止材は、アンダーフィル材として使用した場合に、加熱硬化時のブリードが抑制されている。具体的には、後述する実施例に記載の手順で測定されるブリード幅が500μm以下であり、300μm以下であることが好ましい。
なお、後述する実施例の結果から明らかなように、キャピラリーフローによるアンダーフィル材の注入時にもブリードは生じるが、加熱硬化時に生じるブリードに比べると軽微であり、その影響は無視できる。
後述する実施例に示すように、本発明の液状封止材は、半導体装置に一般的に用いられる有機基板であるFR−4について、加熱硬化時のブリードが抑制されることを確認している。この結果から、半導体装置に一般的に用いられる他の有機基板や、セラミック基板やシリコン基板の場合でも、加熱硬化時のブリードが抑制されると考えられる。
【0041】
次に、本発明の液状封止材をアンダーフィル材として使用する場合の使用方法について説明する。
本発明の液状封止材は、フリップチップボンディング方式により配線基板に半導体チップが実装された半導体装置を製造する際に、キャピラリーフローで供給するアンダーフィル材として使用される。
【0042】
まず始めに、配線基板に半導体素子を接続する。具体的には、配線基板上に設けられた電極部と、半導体素子のバンプ電極と、を接続する。一例を挙げると、両者をハンダ接続する場合、配線基板上に設けられた電極部上、若しくは、半導体素子のバンプ電極上、あるいはその両方にフラックスを塗布した後、該電極部上に該バンプ電極が位置するように基板上に半導体素子を仮置きし、その後、該基板を加熱してハンダを溶融させることにより、該電極部と該バンプ電極とを接続する。
次に、配線基板を加熱して60℃〜120℃に保持した状態で、半導体チップの外周に沿ってアンダーフィル材を塗布(ディスペンス)し、毛細管現象を利用して、両者の間隙にアンダーフィル材を充填する。
次に、配線基板を150〜200℃に加熱してアンダーフィル材を硬化させる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1〜6、比較例1〜4)
下記表に示す成分を、表に示す量(質量部)で量り取り、各成分を混合した混合物を三本ロールミル混練し、均一な液状封止材を得た。
なお、表中の記号は、それぞれ以下を表わす。
(a):ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量168g/Eq)
(b):芳香族アミン系硬化剤(4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、カヤハードA−A、日本化薬株式会社製)
(c1):NIPAと2−エチル−4−メチルイミダゾールとの包接化合物(NIPA−2E4MZ、日本曹達株式会社製)
(c2):HIPAと2−メチルイミダゾールとの包接化合物(HIPA−2MZ、日本曹達株式会社製)
(c3):HIPAと2−エチル−4−メチルイミダゾールとの包接化合物(HIPA−2E4MZ、日本曹達株式会社製)
(c´1):HIPA
(c´2):2−エチル−4−メチルイミダゾール
(d):非晶質球状シリカ(平均粒径0.5μm)
【0045】
上記の手順で得られた液状封止材について、下記評価を実施した。
【0046】
(初期粘度、ポットライフ)
調製した液状封止材について、ブルックフィールド社製回転粘度計HBDV−1(スピンドルSC4−14使用)用いて、50rpmで25℃における粘度(Pa・s)を測定して初期粘度とした。次に、液状封止材を密閉容器に入れて25℃、湿度50%の環境にて24時間保管した時点における粘度を同様の手順で測定し、調製直後の粘度に対する倍率を算出してポットライフの指標となる増粘倍率を求めた。なお、比較例3は24時間保管後にはゲル化してしまっていたために、粘度を測定できなかった。
【0047】
(注入性)
有機基板(FR−4基板)上に50μmのギャップを設けて、半導体素子の代わりにガラス板を固定した試験片を作製した。この試験片を110℃に設定したホットプレート上に置き、ガラス板の一端側に液状封止材を塗布し、注入距離が20mmに達するまでの時間を測定した。この手順を2回実施し、測定値の平均値を注入時間の測定値とした。
【0048】
(DSC Onset)
下記手順でDSC測定を実施した。
アルミパンに10mg前後の液状封止材を滴下する。このアルミパンをDSC(ブルカーAXS製DSC 204 F1 Phoenix)にセットし、10℃/MIN昇温で25℃から250℃まで加熱し、DSCチャートを得た。得られたDSCチャートから硬化発熱の立ち上がり温度(DSC Onset)を求め、これを反応開始温度とした。
【0049】
(ゲルタイム)
150±2℃の熱板上に液状封止材を約5mmφの大きさに滴下し、糸引きがなくなるまでの時間を、ストップウォッチにより測定した。
【0050】
(ブリード幅)
FR−4基板上に、鏡面処理した10mm□のシリコンチップを接着剤で固定した試験片を作製した。試験片を150℃で30分間乾燥させた後、基板表面をプラズマ処理した。プラズマ処理の条件は以下の通り。
ガス種:Ar
出力:400W
処理時間:300sec
ガス流量:80mmTorr
プラズマ処理後、シリコンチップの外周部にアンダーフィル材を塗布し、90℃で10分間放置した後、165℃で60分間加熱してアンダーフィル材を硬化させた。アンダーフィル材の硬化後、光学顕微鏡(オリンパス社製、型式STM6−F21−3)を用いて、ブリード幅を測定した。測定は4辺にて行い、4辺のブリード幅の平均値を加熱硬化時のブリード幅の測定値とした。なお、90℃で10分間放置した後も上記と同様の手順でブリード幅の測定を行い、注入時のブリード幅の測定値とした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
実施例1〜6の液状封止材は、いずれも初期粘度、ポットライフ、注入性、ゲルタイム、ブリード幅の評価結果がいずれも良好であった。実施例2の液状封止材については、70℃、90℃、110℃における粘度の経時変化も測定した。これらの温度では、経時的な粘度の上昇は認められなかった。この結果は、キャピラリーフローによる注入時の温度域では、エポキシ樹脂の硬化反応が進行しないことを示している。
一方、(c)成分を含有させなかった比較例1は、加熱硬化時のブリード幅が大きく、加熱硬化時のブリードを抑制することができなかった。
また、(c)成分の含有量が少なく、(c)/((a)+(b)+(c))が0.003未満の比較例2についても、加熱硬化時のブリード幅が大きく、加熱硬化時のブリードを抑制することができなかった。
また、(c)成分の代わりにして、HIPA(c´1)を単独で添加した比較例3では、24時間放置後にはゲル化してしまい、保存安定性に劣ることが確認された。また、初期粘度も高く、アンダーフィル材として使用する場合に、キャピラリーフローによる注入性に劣る。
また、(c)成分の代わりにして、2−エチル−4−メチルイミダゾール(c´2)を単独で添加した比較例4では、加熱硬化時のブリード幅が大きく、加熱硬化時のブリードを抑制することができなかった。