(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046911
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】流動性のある被加熱物の加熱方法及び加熱装置
(51)【国際特許分類】
A23L 3/01 20060101AFI20161212BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20161212BHJP
A23L 3/22 20060101ALI20161212BHJP
A61L 2/12 20060101ALI20161212BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20161212BHJP
A61K 31/70 20060101ALI20161212BHJP
A61K 47/42 20060101ALI20161212BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20161212BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20161212BHJP
A23L 17/00 20160101ALN20161212BHJP
A23L 3/005 20060101ALN20161212BHJP
H05B 6/64 20060101ALN20161212BHJP
H05B 6/78 20060101ALN20161212BHJP
H05B 3/00 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
A23L3/01
A23L5/10 C
A23L3/22
A61L2/12
A61K37/02
A61K31/70
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/36
!A23L17/00 102B
!A23L3/005
!H05B6/64 D
!H05B6/78 Z
!H05B3/00 340
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-101075(P2012-101075)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-226084(P2013-226084A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512210962
【氏名又は名称】株式会社廣電
(72)【発明者】
【氏名】吉富 文司
(72)【発明者】
【氏名】橋立 知典
(72)【発明者】
【氏名】水城 健
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 裕平
【審査官】
長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−050292(JP,U)
【文献】
特開昭55−048371(JP,A)
【文献】
特開平07−039320(JP,A)
【文献】
特開2008−136486(JP,A)
【文献】
特開2001−291574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00−3/3598
A23L 5/10
A23L 17/00
H05B 3/00
H05B 6/64,6/78
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を筒体の中を移動させながら、マイクロ波加熱により連続的に、被加熱物の中心温度が60〜120℃になるように加熱する方法において、該筒体を垂直もしくは、傾きが15度以内である略垂直に設置し、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱することを特徴とする加熱方法。但し、被加熱物は加熱により対流しないものである。
【請求項2】
被加熱物が103mPa・s以上の粘度を有する、タンパク質又は糖類と水分を含有し、少なくとも筒体への導入時には流動性を有するものである請求項1の加熱方法。
【請求項3】
被加熱物が食品又は医療材料である請求項1又は2の加熱方法。
【請求項4】
流動性のある被加熱物を筒体の中を移動させながら、マイクロ波加熱により連続的に、被加熱物の中心温度が60〜120℃になるように加熱する装置において、
前記筒体は、マグネトロン及び導波管を備える加熱部内を通過するように、垂直もしくは、傾きが15度以内である略垂直に配置され、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱することを特徴とする加熱装置。但し、被加熱物は加熱により対流しないものである。
【請求項5】
前記加熱部及び前記筒体を回転して前記筒体の傾斜角を変更する回転機構をさらに含む請求項4の加熱装置。
【請求項6】
前記加熱部は、チャンバーと、該チャンバーに固定された導波管と、該導波管に接続されたマグネトロンを含み、前記筒体は、該チャンバーを貫通して配置された請求項4又は5の加熱装置。
【請求項7】
前記筒体は垂直もしくは略垂直に配置された状態において前記筒体の上端が開放され、被加熱物を前記筒体の上端から吐出する請求項4ないし6いずれかの加熱装置。
【請求項8】
筒体と、該筒体の中を移動する流動性のある被加熱物をマイクロ波加熱により連続的に、被加熱物の中心温度が60〜120℃になるように加熱する加熱部と、該筒体及び該加熱部を回転して該筒体の傾斜角を変更する回転機構を含むことを特徴とする加熱装置。但し、被加熱物は加熱により対流しないものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内部加熱方式を用いて、流動性のある被加熱物を連続的に加熱する方法及び装置に関する。加熱方法として内部加熱方法であるジュール加熱やマイクロ波加熱、高周波加熱を用いる発明である。
【背景技術】
【0002】
食品加工における加熱工程は、その対象物の種類や目的にかかわらず、対象物に質的な変化をもたらし、その性質を決定する重要な処理の1つであり、種々の加熱方法が知られているが、その方法は、外部加熱(直接加熱、間接加熱)と内部加熱(自己発熱)に分類される。内部加熱方式に分類される代表的なものとして、ジュール加熱やマイクロ波加熱・高周波加熱がある。
【0003】
ジュール加熱は例えば、ジュース、ソース、ケチャップ、マヨネーズ等の流動性のある食品の殺菌や内在酵素失活等の目的で利用されている(特許文献1〜4等)。畜産練り製品の製造においてジュール加熱で予備加熱した後、成型し、成型されたものをさらにジュール加熱する技術が開示されている(特許文献5)。また、竹輪、さつま揚げ、カニ風味カマボコ等の練り製品の製造においては、成型後の練り肉の加熱にジュール加熱を利用するもの、あるいは、成型前の練り肉の予備加熱にジュール加熱を利用するものなどがある(特許文献6〜9等)。
【0004】
マイクロ波加熱は電子レンジとして広く普及している。特許文献10、11には、マイクロ波加熱を用いて皮なし練り製品を加熱成型する方法が開示されている。
高周波加熱はマイクロ波加熱と同じ原理であるが、周波数の小さい加熱方式である。
【0005】
ミンチ肉の加工品として知られているソーセージには、魚肉の練り肉と副原料を混合し、ケーシングに充填し加熱した魚肉ソーセージや、羊腸など、可食ケーシングに練り肉を充填し、燻製などにされ、加熱して食する畜肉のソーセージなどがある。いずれも、ケーシングなど成型してから、加熱処理される食品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5−33024号
【特許文献2】特許4143948号
【特許文献3】特許4065768号
【特許文献4】特開2003−289838号
【特許文献5】特開2002−142724号
【特許文献6】実開平5−20590号
【特許文献7】特開平9−121818号
【特許文献8】特許3179686号
【特許文献9】特許3614360号
【特許文献10】特開昭55−48371号
【特許文献11】特開2003−325138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、流動性のある被加熱物を連続的に加熱する方法及び加熱装置を提供することを課題とする。
食品にはタンパク質や糖類などを含み粘度の高い液状〜ゲル状の製品が多くある。いずれの食品も調理のための加熱や微生物汚染を防ぐための加熱殺菌など、加熱工程が必要である。液状〜ゲル状のものは、容器内に入れて外から加熱するか、バッチ式で加熱することが多いが、連続的に流しながら加熱できれば生産効率が高くなる。しかし、粘度の低い液状であれば連続的に流しながらの加熱は容易であるが味噌やジャムのようなペースト状のものを均一に加熱するのは難しい。
本発明は、そのような流動性はあるが粘度が高く均一に加熱するのが難しい被加熱物を連続的に加熱する方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
食品製造工程において、「加熱」は加工対象物に様々な性質や特徴を付与する非常に重要な工程である。そのため、加工対象物の用途や目的に応じて様々な加熱方式を使い分けることで製造の効率化や商品の高品質化や差別化等が可能となる。
畜産や水産加工品の成形性の付与や向上のために、ジュール加熱やマイクロ波加熱、高周波加熱等の内部加熱を用いて、40〜50℃付近の低温での一次加熱をしている例がある。そのような場合、加熱域内では被加熱物は自己流動性を保持しており、その自己流動性を利用して、例えばポンプ等で被加熱物を連続的に移送しながら内部加熱を行うことは可能であった。しかしながら、それ以上の温度、特に85℃以上の100℃近い温度になれば水蒸気の発生量がおおくなるため、被加熱物を安定して送ることができず、突沸するなどの問題があった。また、撹拌されないため、部位による温度差が発生してしまう問題もあった。
【0009】
本発明者らは、内部加熱方式を用いた加熱方法について検討するなか、被加熱物の吐出方向を水平方向から垂直上方向に変更することにより、優れた効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
内部加熱方式を利用した畜産や水産物由来熱凝固性タンパク質の連続加熱装置や方法は種々提案されているが、その利用や運用に重大な欠点があった。従来の方法はいずれも被加熱物を重力に対し水平方向に移動させながら加熱する方式や装置である(以下、この方式を水平方向吐出方式と称する(
図1))。
この水平方向吐出方式の場合、被加熱物の温度が低い温度帯であればまだしも、70〜120℃のような高温の温度帯においては被加熱物が流路を塞ぎ、同時に、発生した蒸気は周囲の物質よりも比重が小さいため、加熱筒体の上部に移動する(
図2)。しかし、筒内は蒸気の開放経路が塞がれているため筒内圧力が高まり、蒸気と被加熱物が一気に噴出するフラッシュ現象が発生し、加熱物の安定吐出は不可能であった。そこで、加熱筒体を重力方向、つまり垂直として被加熱物を重力方向と逆方向へ連続的に移動させながら加熱する(垂直方向吐出方式)ことにより、加熱により筒内で発生する蒸気は加熱物と同方向に円滑に移動する(
図3)ことで加熱物の安定吐出が可能となることを見出した。
【0010】
本発明は、(1)〜(5)の加熱方法、(6)〜(12)の加熱装置を要旨とする。
(1)被加熱物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱する方法において、該筒体を垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に設置し、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱することを特徴とする加熱方法。
(2)内部加熱方式がマイクロ波加熱、ジュール加熱、又は高周波加熱である(1)の加熱方法。
(3)加熱が被加熱物の中心温度が60〜120℃になるような加熱であることを特徴とする(1)又は(2)の加熱方法。
(4)被加熱物が10
3mPa・s以上の粘度を有する、タンパク質又は糖類と水分を含有し、少なくとも筒体への導入時には流動性を有するものである(1)ないし(3)いずれかの加熱方法。
(5)被加熱物が食品又は医療材料である(1)ないし(4)いずれかの加熱方法。
(6)流動性のある被加熱物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱する装置において、
前記筒体は、マグネトロン及び導波管を備える加熱部内を通過するように、垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に配置され、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱することを特徴とする加熱装置。
(7)前記加熱部及び前記筒体を回転して前記筒体の傾斜角を変更する回転機構をさらに含む(6)の加熱装置。
(8)前記加熱部は、チャンバーと、該チャンバーに固定された導波管と、該導波管に接続されたマグネトロンを含み、前記筒体は、該チャンバーを貫通して配置された(6)又は(7)の加熱装置。
(9)前記筒体は垂直もしくは略垂直に配置された状態において前記筒体の上端が開放され、被加熱物を前記筒体の上端から吐出する(6)ないし(8)いずれかの加熱装置。
(10)筒体と、該筒体の中を移動する流動性のある被加熱物を内部加熱方式により連続的に加熱する加熱部と、該筒体及び該加熱部を回転して該筒体の傾斜角を変更する回転機構を含むことを特徴とする加熱装置。
(11)前記加熱部は、マグネトロン及び導波管を備える加熱部を含み、前記筒体は、垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に配置され、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱する(10)の加熱装置。
(12)前記加熱部は、前記筒体の中を移動する被加熱物に通電する複数の電極を有するジュール加熱機構を備えた加熱部を含み、前記筒体は、垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に配置され、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱する(10)の加熱装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の加熱方法及び装置では、被加熱物を重力方向Gと逆に移動させることで、内部で発生した蒸気Sの自然開放方向と被加熱物の移動方向を一致せしめ、加熱筒体4を煙突のように利用しつつ、蒸気Sの筒体内部滞留ならびに内部圧力上昇を防止することで被加熱物の安定した円滑移動が可能となる(
図3)。さらに、加熱筒体4の内壁面に沿って上昇する蒸気Sは筒体4の内壁面と被加熱物との動摩擦抵抗を軽減せしめ、被加熱物の円滑移動を補助する機能をも有している。また、加熱筒体4を垂直にすることにより、筒体4内部に充填されている被加熱物はその自重により内部圧力が高まり、加熱による発生する蒸気Sならびに被加熱物の膨張を抑制する。これらの複数の効果が組み合わされて、効果的な内部加熱方式による連続加熱が可能となる。また、筒体の傾斜角を変更する回転機構を備えた装置を用いることにより、垂直加熱を行う時には筒体を縦にし、準備や清掃時には横にして作業できるなど、作業効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は従来技術の水平方向吐出方式を示す模式図である。
【
図2】
図2は従来技術の水平方向吐出方式を用いて加熱した際の蒸気の状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は被加熱物を垂直方向吐出方式を用いて加熱した際の筒体中で加熱中の水蒸気の動きを示す模式図である。
【
図4】
図4は本発明に用いる加熱装置の一態様を示す模式図である。
【
図5】
図5は内部加熱方式としてマイクロ波加熱を用いる際に用いるマイクロ波加熱装置の一態様を示す模式図である。
【
図6】
図6は内部加熱方式としてジュール加熱を用いる際に用いるジュール加熱装置の一態様を示す模式図である。
【
図7】
図7は本発明の一実施形態にかかる加熱装置10の正面図である。
【
図8】
図8は加熱装置10の内部構造を示す縦断面図である。
【
図9】
図9は加熱装置10を回転させた状態を示す縦断面図である。
【
図10】
図10は
図9のX−X’断面における加熱装置10の内部構造を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、被加熱物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱する方法において、該筒体を垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に設置し、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱することを特徴とする加熱方法である。
本発明の一実施形態の加熱装置は、流動性のある被加熱物を筒体の中を移動させながら、内部加熱方式により連続的に加熱する装置において、前記筒体は、マグネトロン及び導波管を備える加熱部内を通過するように、垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に配置され、被加熱物を該筒体中の下から上へ向けて送りながら加熱することを特徴とする。
また、本発明の一実施形態の加熱装置は、筒体と、該筒体の中を移動する流動性のある被加熱物を内部加熱方式により連続的に加熱する加熱部と、該筒体及び該加熱部を回転して該筒体の傾斜角を変更する回転機構を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明において、被加熱物とは、液体から固体まで種類を問わないが、少なくとも原料の時点では筒体に送り込める程度の流動性が必要である。特に、本発明は一定の粘度を有する原料の加熱に適している。粘度の低い水のようなものであれば、筒体中で連続加熱を行っても移動中に対流が生ずるため、温度差を生ずることがなく、水平方向吐出方式であってもさほど問題はない。しかし、粘度が高い場合、
対流による熱伝導が困難となるため、局所的な温度差が生じ易く、安定した吐出は望めない。水分を含み、10
3mPa・s以上の粘度を有する液状〜ゲル状の成分の加熱に適する。
具体的には、本発明は、水分とタンパク質や澱粉などの糖類を含む天然物や食品素材の加熱に適している。練り肉、味噌、餡のような物性のもの、クリームのような物性のもの、粥のような物性のものなど、粘度の高い食品、あるいは、天然物由来成分を含有する医薬品原料、医薬品成分、健康食品原料、培地など、タンパク質や糖分を含有するものなどを内部加熱により連続加熱するには本発明の垂直方向吐出方式による加熱が適している。
本発明において「筒体」とは、その内部に被加熱物を通すことができ、内部加熱方式、すなわち、マイクロ波・高周波を透過し、電気的な絶縁性を有し、さらに加熱耐性を有した素材が好ましい。加えて、被加熱物が付着しにくい合成樹脂、シリコン樹脂、フッ化樹脂、それらの素材で表面加工した筒が好ましい。筒の直径は加熱方法や加熱エネルギーによるが、マイクロ波加熱の場合、本発明に使用する原料素材のマイクロ波半減深度は深くないためは直径40mm以内、好ましくは30mm以内の直径の筒が望ましい。高周波加熱は、マイクロ波と比較して電磁波の半減深度が深いので、太い幅の筒体でも可能である。ジュール加熱では、マイクロ波と加熱原理が異なるため、理論的には加熱電極の大きさに依存し、直径200mmでも可能である。筒体の長さは、被加熱物の内部移動速度と必要到達温度を勘案した長さに調節する。
本発明において「筒体を垂直もしくは、略垂直(15度以内の傾き)に設置する」とは、内部加熱方式により加熱される部分の筒体を垂直もしくは略垂直に設置することであり、加熱前・後の部分は垂直でなくてもよい。原則としては垂直が好ましいが、被加熱物によっては、15度以内程度、好ましくは5度以内程度の傾きであれば、効果が大きく損なわれることはない。
具体的には、例えば、
図4に示すような態様で被加熱物を加熱筒体4へ送り込む。加熱筒体4部分の外側には、内部加熱方式の加熱装置を配置する。例えば、
図5に示すマイクロ波加熱や
図6に示すジュール加熱の装置である。
【0015】
ジュール加熱とは、通電加熱とも呼ばれる内部加熱方式の一つである。食品など被加熱物に直接通電して、被加熱物の電気抵抗により発熱させる方法である。流動性を有する食品を連続加熱するためのジュール加熱の装置は特許文献1〜4などに開示されているような装置を利用することができる。基本的には、
図6に示すように、絶縁性の筒体4とその筒体4に対をなして設けられた電極E、Eを有し、電極E、Eは電源に接続されたものがジュール加熱装置であり、この筒体4に連続的に被加熱物を送り込めるようにポンプ1(例えば送肉ポンプ)を接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部2があれば本発明の製造方法に用いることができる装置となる。加熱筒体4は垂直もしくは略垂直に設置され、加熱された食品の吐出方向Dは重力方向Gとは逆方向である。流動性のある食品を筒体4中でジュール加熱する場合でも筒体4の内部に食品が焦げ付かないための工夫や、温度管理をするために温度センサーを設けるような技術も知られている。本発明においてもこれら技術を利用することができる。
例えば、電圧150〜400V、電流10〜30A程度の装置を使用することができる。
高周波加熱は、被加熱物を誘電体として、
図6に示した電極E,E間に高周波電流Fを流し、高周波電圧をかけることで加熱することができる。
【0016】
マイクロ波加熱とは、高周波により被加熱物に含まれる水分子などの電気双極子を激しく振動させることによって加熱をする方法で、その原理は家庭用の電子レンジに応用され、広く普及している。マイクロ波加熱の装置は特許文献10〜11に開示されている装置を利用することができる。基本的には、
図5に示すように高周波透過性のある、例えばフッ化樹脂性の加熱筒体4とその筒体4部分に高周波を照射する装置から成り、この筒体4に連続的に食品原料を送り込めるようにポンプ1を接続し、加熱された食品を受ける受け皿あるいは冷却部2があれば本発明の製造方法に用いることができる装置となる。
図5に示すマイクロ波加熱装置は、重力方向Gの逆方向が加熱された食品の吐出方向Dになるように垂直もしくは略垂直に設置された加熱筒体4と、加熱筒体4の周囲であって異なる高さに配置された3つのマグネトロン3を有している。マグネトロン3は加熱筒体上部からの図に示すように、120度位相をずらして配置され、3方向から加熱筒体4内の被加熱物に対してマイクロ波を照射することができる。
例えば、2450MHz、200V、20A程度の装置を使用することができる。
高周波加熱はマイクロ波加熱よりも周波数の低い電磁波を用いる加熱方式であるが、装置や理論はマイクロ波加熱と基本的に同様のものを使用することができる。
【0017】
食品製造工程において原料や製品を加熱する方法は、外部加熱方式(直接加熱、間接加熱)と、内部加熱方式に分類される。外部加熱方式は被加熱物を目標の温度まで加熱するために目標温度より高い温度の加熱媒体(熱煤)が必要である。つまり、被加熱物と熱媒の間で熱エネルギーを移動させるための温度差が必要となり、被加熱物の一部は加熱目標温度より高温になることは避けられない。このため、外部加熱装置での加熱は過加熱を避けるため、加熱温度や時間の調整、あるいは被加熱物の攪拌等が必要である。これに対して、内部加熱方式であるジュール加熱やマイクロ波加熱は被加熱物の自己発熱を利用して加熱する。そのため、以下の特徴が知られている。
1)熱媒がないため設定した温度以上の加熱がない。
2)被加熱物の温度制御は電気的制御によるため、正確な温度調整が可能である。
3)食品の粘度に関係なく加熱が可能である。また、熱伝導の低い液体も急速な加熱が可能である。
4)固形物入り食品も均一な加熱が可能である。
5)均一かつ迅速な加熱が可能である。
【0018】
垂直方向吐出方式を用いることで、加熱時に筒体内で発生する蒸気は筒体内を煙突と同様に重力方向と逆、つまり上部に移動する。さらに被加熱物も筒体内を上部に移動するため、内部で発生した蒸気と被加熱物の移動方向が一致する。その結果、蒸気の内部滞留も生ずることなく、安定した被加熱物の吐出が可能となった。また、加熱筒体壁面に沿って上昇する蒸気は筒体壁面と被加熱物との動摩擦抵抗を軽減せしめ、被加熱物の円滑移動を補助する機能をも有している。
加えて、垂直方向吐出方式を用いることで加熱筒体内の被加熱物は、重力により加熱筒体の長軸長に比例した自重を常に受け、内部圧力が高まることとなる。このため、原料に含まれる水の沸点が高まり、常圧よりも高温まで安定して加熱できる。さらに、加熱により加熱筒体内で発生する蒸気や被加熱物が加熱膨張することを抑制し、安定した被加熱物の吐出に寄与する結果となった。
【0019】
本発明の一実施形態について、
図7〜
図10を参照しながら詳細に説明する。
図7は、本発明の一実施形態にかかる加熱装置10の正面図である。
図8は、加熱装置10の内部構造を示す縦断面図である。
図9は、加熱装置10を回転させた状態を示す縦断面図である。
図10は、
図9のX−X’断面における加熱装置10の内部構造を示す横断面図である。
【0020】
加熱装置10は、機台12と、機台12上に設けられた2本の支柱14,14と、支柱14,14間に回転可能に配置した筐体16と、筐体16を回転する回転機構20と、筐体16の内部に配置された加熱部30と、筐体16を上下方向に貫通する筒体40を有する。筐体16は上下方向の中心付近の両側面から支柱14,14を貫通するように突出した回転軸部28,28を有し、回転軸部28,28は支柱14の上部に回転自在に支持されている。回転軸部28の先端には支柱14から突出したプーリー26aが固定されている。
回転機構20は、機台12上に固定された電動のモータ22と、モータ22によって回転するプーリー26bと筐体16の回転軸部28,28に固定されたプーリー26aとを連結するベルト24を有する。モータ22を駆動してプーリー26bを回転させると、ベルト24によって連結したプーリー26aが回転して筐体16が回転中心軸oを中心に回転することができる。回転中心軸oは、筐体16及び筒体40の高さ方向の中心付近とすることができる。回転機構20は、筒体40及び加熱部30を回転して、筒体40の傾斜角を変更することができる。筒体40の傾斜角とは、接地面に対する垂直を0度としたときに、垂直に対して筒体40が傾斜した角度である。
筒体40は、筐体16から突出した両端が金具46,46によって配管42,44に連結されている。筒体40の下端に連結した配管42は、図示しない原料供給ポンプに連結され、被加熱物を連続的に加熱装置10へ供給することができる。筒体40の上端に連結した配管44は、湾曲した開口端部44aを有する。筒体40の中を移動しながら加熱された被加熱物は、配管44の開口端部44aから吐出される。このように筒体40の上端が配管44を介して上方へ開放されることによって、筒体40内部で発生した蒸気を内部滞留することなく排気することができる。
【0021】
図8は、筐体16の内部に配置された加熱部30の構造を示す。加熱部30は、図示の例では、筐体16を上下に貫通する筒体40の周囲にマイクロ波加熱機構を配置しているが、
図6に示したようなジュール加熱機構を配置した構成とすることもでき、その場合、被加熱物に通電する複数の電極を有することができる。筐体16内部には、筐体16の上下方向に複数例えば6個のチャンバー32が積み重ねられて連結して配置され、チャンバー32内を筒体40が上下方向に貫通している。
図10に示すように、チャンバー32は横断面が六角形の六角柱形状であり、6面ある側壁面の内の3面に導波管34が連結され、導波管34の先端付近にはマグネトロン36と図示しない冷却ファンが固定されている。したがって、1つのチャンバー32に3つのマグネトロン36が設置され、チャンバー32の中心を通る筒体40内の被加熱物に対して3方向からマイクロ波を照射することによって被加熱物を効率よく加熱することができる。しかも、被加熱物が移動する方向に沿って6個のチャンバー32が積み重ねられ、導波管34が30度ずつ位相をずらして配置されているので、被加熱物の全周からまんべんなく加熱することができ、加熱むらが少ない。そのため、被加熱物の送り速度を速めても被加熱物を所望の温度まで加熱することができる。
【0022】
加熱装置10は、筒体40の清掃やメンテナンスの際に、回転機構20のモータ22を駆動することで筐体16を90度回転し、
図9に示すように筒体40を水平に配置した状態で筒体40を筐体16から矢印A方向へ引き抜くことができる。
被加熱物を加熱する場合は
図7及び
図8に示すように筒体40を垂直もしくは略垂直(15度以内の傾き)とすることが好ましいが、筒体40を清掃やメンテナンスのために加熱装置10から引き抜いて取り外す場合はこのように筒体40を水平にすることで作業性が格段に向上する。特に、被加熱物が食品原料の場合には、筒体40の取り外し及び洗浄工程を頻繁に行うことになるので、作業性の向上は生産効率の向上に大きく影響することになる。
図7及び
図8において筒体40の中心軸Pは機台12の接地面に対して垂直の状態を示し、
図9において筒体40の中心軸Pは機台12の接地面に対して水平の状態を示している。
また、
図7のような状態のまま筒体40を上方へ引き抜く場合には加熱装置10を設置する工場の天井が高くなければならないが、
図8のように筒体40を水平にできると天井の低い工場でも加熱装置10を設置可能である。なお、筒体40は水平に限らず、筒体40の傾斜角を適当な角度に変更することができればよく、作業状態に合わせて適宜設定することができる。また、回転機構20は電動のモータ22を用いたが、これに限らず、例えば油圧式アクチュエータ、空圧式アクチュエータもしくは手動などを用いることもできる。
【0023】
加熱装置10を用いた加熱方法は、
図7のように筒体40を垂直もしくは略垂直(15度以内の傾き)に固定した状態で、被加熱物を図示しない原料ポンプから配管42へ送りこみ、筐体16内の加熱部30を貫通する筒体40内へ移動させる。加熱部30において18個のマグネトロン36で発生したマイクロ波は、導波管34を通ってチャンバー32内へ導かれ、チャンバー32の中心付近にある筒体40に向けて照射する。被加熱物は、筒体40の中を移動しながらマイクロ波によって連続的に加熱される。
加熱装置10から筒体40を取り外す方法は、
図7に示すように加熱装置10の隣に搬送装置50などの周辺装置が配置されている場合、筐体16を回転させる前に、少なくとも筐体16の回転半径外へ移動させる。さらに、金具46,46をはずして配管42,44と筒体16との連結を解除する。そして、回転機構20のモータ22を駆動して、筐体16を回転中心軸oを中心に回転させ、所定角度、例えば90度回転させたところでモータ22の駆動を停止する。
図9に示すように筒体40は水平もしくは略水平(水平に対して15度以内の傾き)にあるので、作業者は矢印Aの方向にそって筐体16から容易に引き抜くことができる。
加熱装置10は、
図7に示すように搬送装置50を併設することができる。搬送装置50は、ベルトコンベヤー52を有し、湾曲した配管44の先端の開口端部44aがベルトコンベヤー52上に開口している。このような構成においては、加熱装置10の下方にある配管42から流動性のある被加熱物が加熱装置10に連続的に送り込まれると、上方にある配管44から加熱された被加熱物が搬送装置50に向けて押し出される。例えば、被加熱物がタンパク質と脂質と水分を含有するタンパク質加工食品の原料である場合、加熱後の被加熱物は搬送装置50のベルトコンベヤー52上を搬送されながら所定温度まで冷却することができる。
【0024】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
魚肉ソーセージの原料を混合し練り肉を調製し、垂直方向吐出方式のフッ化樹脂性加熱筒体に供し、ジュール加熱及び/又はマイクロ波加熱により、ケーシング無しの魚肉ソーセージを製造した。
表1の配合で、すり身に食塩を添加して塩摺りし、その後、その他の調味料、植物タンパク、植物油及び水を添加して、混合しペースト状にして練り肉を調製した。
【0026】
【表1】
【0027】
表2の機器と条件を用いて、加熱温度は吐出された被加熱物の中心温度が85℃となるように、ジュール加熱の場合は電圧と電流を調整した。また、マイクロ波加熱の場合はマグネトロンの出力を調整した。使用した機器はジュール加熱の連続処理では、筒体に対を成して電極が設けられたタイプの装置を用いた(
図6)。マイクロ波加熱の連続処理では、筒体の外周に金属壁で三つに区分けされたそれぞれの区画にマイクロ波発生装置(マグネトロン)が120度の位相で装着されたマイクロ波加熱装置を用いた(
図5)。
いずれの方法でもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシング無しの魚肉ソーセージができた。筒体中に練り肉が詰まることもなく、ケーシングの無い魚肉ソーセージを安定して連続生産が可能であった。
【0028】
【表2】
【0029】
注1:被加熱物の中心温度である。
注2:被加熱物はジュール加熱で40℃まで加熱し、その後、マイクロ波加熱で85℃まで加熱した。
その他:送肉ポンプはHandtmann製真空定量充填機、もしくは兵神装備製モーノポンプを用いた。加熱筒体は直径23mmのフッ化樹脂性管を用いた。
【実施例2】
【0030】
実施例1と同じ練り肉と、同じジュール加熱装置を用いて、表3の条件で加熱を行った。
表3の条件で、いずれもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシングの無い魚肉ソーセージを連続生産できた。
【0031】
【表3】
【実施例3】
【0032】
実施例1と同じ練り肉と、同じマイクロ波加熱装置を用いて、表4の条件で加熱を行った。
表4の条件で、いずれもケーシングに充填してレトルト処理して製造する魚肉ソーセージに遜色ないケーシングの無い魚肉ソーセージを連続生産できた。
【0033】
【表4】
【0034】
[比較例1]
実施例1のマイクロ波加熱装置を用いた場合と同様のケーシング無し魚肉ソーセージの製造を、加熱筒体の部分を垂直ではなく45度傾けて実施した。
45度の傾きでは、水平方向吐出方式の場合と同様に水蒸気が筒体の上側に片寄って上昇するため、上半分は過加熱となり、下半分が加熱不足となり、均一な加熱ができなかった。蒸気が筒体の内部を均一に上昇することが必要であることが確認された。
【実施例4】
【0035】
本発明の装置を用いて、筒体を垂直にした状態と水平にした状態でオカラを加熱殺菌する試験を行った。いずれも加熱することができたが、縦にしたほうが、部位によるムラが少なく、均一に加熱することができた。加熱殺菌のような場合、充分に温度上昇しない部位があると好ましくなく、垂直加熱の優位性が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
内部加熱は効率的に電気エネルギーを熱エネルギーに転換する特徴があり、これを利用することで、化石燃料消費の削減や地球温暖化ガスの削減も可能ともなり、各種食品加工産業に有用な加熱方法を提供することができる。本発明の製造方法により、流動性のある被加熱品を安定して均一に連続加熱することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 送肉ポンプ、2 冷却部、3 マグネトロン、4 加熱筒体、D 吐出方向、G 重力方向、S 蒸気、E 電極、F 高周波電流、10 加熱装置、12 機台、14 支柱、16 筐体、20 回転機構、22モータ、24 ベルト、26a,26b プーリー、28 回転軸部、30 加熱部、32 チャンバー、34 導波管、36 マグネトロン、40 筒体、42 配管、44 配管、44a 開口端部、46 金具、50 搬送装置、52 ベルトコンベヤー、A 矢印、o 回転中心軸、P 筒体の中心軸