特許第6047295号(P6047295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小林製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047295
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】粘膜適用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20161212BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20161212BHJP
   A61K 31/205 20060101ALI20161212BHJP
   A61K 31/185 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20161212BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20161212BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20161212BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   A61K8/44
   A61K8/46
   A61K31/205
   A61K31/185
   A61P27/02
   A61P31/00
   A61P1/02
   A61P13/10
   A61P15/08
   A61P27/16
   A61K9/08
   A61Q19/10
   A61P1/00
   A61P11/02
   A61Q11/00
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-81822(P2012-81822)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209336(P2013-209336A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】中村 牧
(72)【発明者】
【氏名】五味 満裕
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−076411(JP,A)
【文献】 特開平09−110892(JP,A)
【文献】 特開昭60−197614(JP,A)
【文献】 特開昭61−188496(JP,A)
【文献】 特開平05−247492(JP,A)
【文献】 特開2005−247830(JP,A)
【文献】 特表平11−505840(JP,A)
【文献】 特開平06−287114(JP,A)
【文献】 特開平11−049654(JP,A)
【文献】 特開2000−302669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
C11D 1/00−19/00
A61P 1/00−43/00
A61K 31/00−31/327
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルキル硫酸エステル型界面活性剤と、(B)アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤とを含み、
用時の(A)成分の含有量が1.5重量%以上、
(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.4〜2.5重量部であり、
鼻腔、咽頭、口腔、耳、膣、膀胱及び直腸からなる群より選択される少なくとも1種の粘膜に適用される、粘膜適用組成物(但し、デキストラナーゼを含有する場合を除く)。
【請求項2】
用時の(A)成分の含有量が1.5〜5重量%である、請求項1に記載の粘膜適用組成物。
【請求項3】
(A)成分がオクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、パルミチル硫酸ナトリウム及びステアリル硫酸ナトリウムからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の粘膜適用組成物。
【請求項4】
(A)アルキル硫酸エステル型界面活性剤と、(B)スルホベタイン型両性界面活性剤とを含み、
用時の(A)成分の含有量が1.5重量%以上、
(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.2〜2.8重量部であり、
鼻腔、咽頭、口腔、耳、膣、膀胱及び直腸からなる群より選択される少なくとも1種の粘膜に適用される、粘膜適用組成物(但し、デキストラナーゼを含有する場合を除く)。
【請求項5】
用時の(A)成分の含有量が1.5〜5重量%である、請求項4に記載の粘膜適用組成物。
【請求項6】
(A)成分がオクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、パルミチル硫酸ナトリウム及びステアリル硫酸ナトリウムからなる群より選択される、請求項4又は5に記載の粘膜適用組成物。
【請求項7】
(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.3〜2.5重量部である、請求項4〜6のいずれかに記載の粘膜適用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた洗浄効果を有しながらも粘膜に対する刺激が抑制された粘膜適用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
咽頭、鼻腔、膣等の粘膜においては、異物が付着することにより不快感や炎症が生じることが知られている。このような粘膜における症状を予防及び改善するためには、粘膜用の洗浄液等によって粘膜の異物を除去することが有効であるとされている。洗浄の際、界面活性剤等の洗浄剤を使用することによって、優れた洗浄効果を発揮させることができ、当該界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤が一般的である。なかでも、ラウリル硫酸塩等に代表されるアルキル硫酸エステル型界面活性剤は、洗浄作用に優れていることが知られている。しかしながら、アルキル硫酸エステル型界面活性剤は、通常皮膚や毛髪に適用されるものであり、咽頭、鼻腔、膣、口腔等の粘膜に対しては強い刺激があるため、低濃度でなければ、粘膜に適用した場合に赤く腫れたり(紅斑)、粘膜がはがれたりすることがある。従って、アルキル硫酸エステル型界面活性剤は、洗浄効果が優れているにも関わらず、粘膜への使用は敬遠されている。
【0003】
また、口腔粘膜については、近年、口呼吸の増加、老化、ストレス、薬の副作用等を原因とする唾液の分泌量の低下により、口腔内、特に口腔粘膜が乾燥している人が増加している。口腔粘膜が乾燥すると、口腔粘膜の刺激感受性が高まるため、アルキル硫酸エステル型界面活性剤を含む口腔用洗浄剤等を使用すると、強い刺激を感じ、不快感を生じる。そのため、口腔用洗浄剤に含有されるアルキル硫酸エステル型界面活性剤の量には制約があった。
【0004】
このような背景から、アルキル硫酸エステル型界面活性剤である、ラウリル硫酸塩に起因する刺激を低減するための方法が検討され、ラウリル硫酸塩と脂肪酸アミドプロピルベタインを所定量含有する、低刺激性の歯磨組成物(例えば特許文献1を参照)等が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載される組成物には、ラウリル硫酸塩が含有されているものの、その含有量は0.2〜0.7重量%と少量であり、ラウリル硫酸塩による洗浄効果はそれほど期待できるものではなく、そもそもラウリル硫酸塩の含有量が少量であるために刺激が低減されているものと考えられる。即ち、ラウリル硫酸塩を高濃度で含有することにより、優れた洗浄効果を奏しながらも、粘膜に対する刺激が低減された組成物は未だ得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−084277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた洗浄効果を有し、且つ粘膜に対する刺激が抑制された粘膜適用組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルキル硫酸エステル型界面活性剤と、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤及び/又はスルホベタイン型両性界面活性剤を所定の含有比率で含有する組成物は、粘膜に適用した際に十分な洗浄効果を奏しながらも、アルキル硫酸エステル型界面活性剤に起因する刺激が抑制され、使用感に優れたものであることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。即ち、本発明は下記態様の粘膜適用組成物を提供する。
項1.(A)アルキル硫酸エステル型界面活性剤と、(B)アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤及びスルホベタイン型両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤とを含み、
用時の(A)成分の含有量が1.5重量%以上、
(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.2〜2.8重量部である粘膜適用組成物。
項2.用時の(A)成分の含有量が1.5〜5重量%である、項1に記載の粘膜適用組成物。
項3.(A)成分がオクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、パルミチル硫酸ナトリウム及びステアリル硫酸ナトリウムからなる群より選択される、項1又は2に記載の粘膜適用組成物。
項4.(B)成分がアミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤である、項1〜3のいずれかに記載の粘膜適用組成物。
項5.(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.4〜2.5重量部である、項4に記載の粘膜適用組成物。
項6.(B)成分がスルホベタイン型両性界面活性剤である、項1〜3のいずれかに記載の粘膜適用組成物。
項7.(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.3〜2.5重量部である、項6に記載の粘膜適用組成物。
項8.粘膜が鼻腔、咽頭、口腔、耳、膣、膀胱及び直腸からなる群より選択される少なくとも1種の粘膜である、項1〜7のいずれかに記載の粘膜適用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高濃度でアルキル硫酸エステル型界面活性剤を含有することにより、優れた洗浄効果を達成することができる。しかも、高濃度のアルキル硫酸エステル型界面活性剤は粘膜に対する刺激が強いため、従来は粘膜への適用が困難であったところ、本発明の粘膜適用組成物はこのような粘膜への刺激が低減されたものである。従って、本発明の粘膜適用組成物によれば、高い洗浄効果と優れた使用感を同時に実現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粘膜適用組成物は、(A)アルキル硫酸エステル型界面活性剤と、(B)アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤及びスルホベタイン型両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を含み、用時の(A)成分の含有量が1.5重量%以上、(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.2〜2.8重量部であることを特徴とする。以下、本発明の粘膜適用組成物を「本発明の組成物」と略記することがある。
【0010】
(A)成分
(A)成分として使用されるアルキル硫酸エステル型界面活性剤(以下、「(A)成分」と略記することがある)としては、特に制限されず、アニオン性界面活性剤として一般に使用されているものを広く用いることができる。
【0011】
アルキル硫酸エステル型界面活性剤を構成するアルキル基の炭素数については、特に制限されないが、例えば8〜20、好ましくは10〜18、更に好ましくは10〜16が挙げられる。また、アルキル硫酸エステル型界面活性剤を構成するアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状が挙げられる。また、アルキル硫酸エステル型界面活性剤としては、フリー体又は塩の形態のいずれを使用してもよい。アルキル硫酸エステル型界面活性剤の塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩等が挙げられる。
【0012】
アルキル硫酸エステル型界面活性剤として、具体的には、オクチル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、パルミチル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。本発明の組成物においては、アルキル硫酸エステル型界面活性剤を1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのアルキル硫酸エステル型界面活性剤の中でも、洗浄効果が高いことから、ラウリル硫酸塩及びミリスチル硫酸塩が挙げられ、好ましくはラウリル硫酸塩、より好ましくはラウリル硫酸アルカリ金属塩、更に好ましくはラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。ラウリル硫酸ナトリウムについては、例えば、第一工業製薬株式会社、花王株式会社等から商業的に入手可能である。
【0013】
本発明の組成物において、用時における(A)成分の含有量は、通常1.5重量%以上、好ましくは1.5〜5重量%、より好ましくは2.5〜5重量%更に好ましくは3〜5重量%、特に好ましくは3〜4重量%が挙げられる。このような範囲で(A)成分を含有することにより、アルキル硫酸エステル型界面活性剤による優れた洗浄効果が得られ、更に、後述するアミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤又はスルホベタイン型両性界面活性剤を含有させることによる刺激低減効果が高いため好ましい。本発明の組成物は、このように(A)成分を高濃度で含有しながらも粘膜への刺激が抑制され、使用感に優れたものである。なお、本明細書において「用時における含有量」とは、本発明の組成物が粘膜に適用される際に含まれる各成分の含有量を指す。
【0014】
(B)成分
本発明において両性界面活性剤として、下記一般式に示されるアミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤及び/又はスルホベタイン型両性界面活性剤が使用される。以下、これらの界面活性剤を「(B)成分」と略記することがある。
【0015】
本発明において(B)成分として使用されるアミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤は、下記一般式(1)で示される。
【化1】
【0016】
式(1)中、R1は炭素数8〜22、好ましくは炭素数10〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。R1としては、例えば、デシル基、ラウリル基、ミルスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基等が挙げられ、好ましくはラウリル基、パルミチル基、ステアリル基等が挙げられる。また、式(1)中、aは1又は0を表す。
【0017】
また、式(1)中、R2及びR3は同一又は異なって炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基又はヒドロキシエチル基が挙げられる。
【0018】
アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤の具体例としては、ヤシ油アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミノ酢酸ベタイン、パルミチルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジヒドロキシエチルベタイン等が例示され、好ましくはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインが挙げられる。これらアミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤を1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤については、例えば、新日本理化株式会社、花王株式会社、三洋化成工業株式会社等から商業的に入手可能である。
【0019】
本発明において、(B)成分として使用されるスルホベタイン型両性界面活性剤は、下記一般式(2)で示される。
【化2】
【0020】
式(2)中、R4は炭素数9〜21、好ましくは11〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基を表し、例えば、ラウリル基、ミルスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基等が挙げられ、好ましくはラウリル基、ミルスチル基等が挙げられる。
【0021】
また、式(2)中、R5及びR6は同一又は異なって、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は−(CH2CH2O)pH(pは1〜3の整数を表す)を表し、Qは−CH2CH(OH)CH2SO3、又は−(CH2qSO3(qは1〜3の整数を表す)を表し、cは1〜4の整数を示し、dは0又は1を表す。Qとして好ましくは−CH2CH(OH)CH2SO3が挙げられる。R5及びR6で表されるアルキル基又はヒドロキシアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基が挙げられる。
【0022】
前記式(2)により表されるスルホベタイン型両性界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルアミドスルホベタイン等が挙げられる。
【0023】
スルホベタイン型両性界面活性剤の具体例としては、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、ミリスチン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン等が例示され、好ましくはラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタインが挙げられる。これらのスルホベタイン型両性界面活性剤を1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。スルホベタイン型両性界面活性剤については、例えば、川研ファインケミカル株式会社、松本油脂製薬株式会社、花王株式会社、三洋化成工業株式会社等から商業的に入手可能である。
【0024】
本発明の組成物において、粘膜への刺激が一層顕著に低減されるという観点から、(B)成分として好ましくは、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン及びラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタインからなる群より選択される少なくともいずれか1種が挙げられる。
【0025】
本発明の組成物中の用時の(B)成分の含有量は、前記(A)成分1重量部に対して0.2〜2.8重量部に設定され、このような含有量で(B)成分を含有することにより、(A)成分による優れた洗浄効果を発揮しながら、粘膜への刺激を低減することができる。粘膜への刺激をより一層低減するという観点から、用時の(B)成分の含有量は、好ましくは前記(A)成分1重量部に対して0.3〜2.5重量部、より好ましくは0.4〜2.5重量部、更に好ましくは0.5〜2.5重量部が挙げられる。ここで(B)成分の含有量は、(B)成分として2以上の化合物を使用する場合にはそれらの総量とする。
【0026】
また、特に、(B)成分がアミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤の場合、(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.2〜2.8重量部、好ましくは0.4〜2.5重量部、更に好ましくは0.5〜2.5重量部が挙げられる。
【0027】
また、特に、(B)成分がスルホベタイン型両性界面活性剤の場合、(B)成分の含有量が(A)成分1重量部に対して0.2〜2.8重量部、好ましくは0.3〜2.5重量部、より好ましくは0.4〜2.5重量部、更に好ましくは0.5〜2.5重量部が挙げられる。
【0028】
本発明の組成物において使用される溶媒としては、薬学的に許容され、且つ上記各成分を溶解することができる限り特に限定されないが、例えば、蒸留水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、多価アルコール等が挙げられる。
【0029】
また、本発明の組成物は、上記成分に加え、本発明の効果を損なわない範囲で薬学的に許容される従来公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、防腐剤、甘味剤、香料、着色料、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、増粘剤、粘稠剤、発泡剤、酵素、顔料、植物抽出エキス、賦形剤、pH調整剤、等張化剤、清涼化剤、キレート剤等が挙げられるが、これらに限定されない。また、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤、鎮痛剤、消臭剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤等の薬理活性成分を含んでいてもよい。
【0030】
本発明の組成物のpHは、粘膜に適用した場合に粘膜を傷害しない程度であれば特に制限されないが、例えば4〜8、好ましくは4〜6が挙げられる。本発明の組成物をこのようなpHに調整する場合は、従来公知の方法に従って行うことができ、例えば、塩酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、ソルビン酸、乳酸、マレイン酸、硫酸、リン酸、リンゴ酸、アルギニン、アンモニア水、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、及びこれらの塩等の緩衝剤を適宜添加して行うことができる。
【0031】
また、本発明の組成物の浸透圧は、生理学的に許容される範囲の浸透圧に調整されていることが望ましい。このような浸透圧としては、150〜400mOsm、好ましくは200〜400mOsm、より好ましくは200〜290mOsmである。このような範囲に浸透圧を調整することにより、更に粘膜への刺激を低減することができる。
【0032】
以上の成分を、当該分野において通常採用される方法に従って混合することにより、本発明の組成物とすることができる。本発明の組成物の剤型は特に限定されないが、例えば、液剤、ペースト剤、軟膏剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、クリーム剤等の形態が挙げられる。また、本発明の組成物の用途としては、腸内洗浄剤、直腸洗浄剤、膀胱洗浄剤、膣洗浄剤、耳内洗浄剤、含嗽剤、口腔用洗浄剤、鼻腔洗浄剤等が挙げられ、好ましくは膣洗浄剤、耳内洗浄剤、含嗽剤、口腔用洗浄剤、鼻腔洗浄剤等が挙げられる。また、本発明の組成物は、前記濃度で(A)及び(B)成分を含む製品として提供されてもよく、用時に適宜水等により希釈され、(A)及び(B)成分が前記濃度範囲になるように調製された濃縮物として提供されてもよい。
【0033】
本発明の組成物が適用される粘膜としては、特に限定されないが、例えば、鼻腔、咽頭、口腔、耳、膣、膀胱、直腸等の粘膜に対して適用することができ、好ましくは鼻腔、咽頭、口腔、耳、膣の粘膜が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物は、洗浄効果が高く、且つ粘膜への刺激が低減されていることから、粘膜の洗浄用として好適に使用される。粘膜の洗浄を目的として本発明の組成物を使用する場合の使用方法は、洗浄効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、粘膜に滴下する方法、スプレー等で粘膜に噴霧する方法、カテーテル等により注入する方法、鼻腔であれば洗浄液を鼻腔に流しこみ、口から吐き出す方法、口腔であれば口に含んで洗口する方法及びブラシにより磨く方法等が挙げられる。また、その際の本発明の組成物の適用量は特に限定されず、適用部位の大きさ、粘膜への異物の付着の程度等を考慮して適宜設定され得るが、例えば、鼻腔粘膜の洗浄を目的とする場合であれば、10〜30mL、好ましくは15〜25mL、耳粘膜の洗浄を目的とする場合であれば、0.2〜1mL、好ましくは0.2〜0.7mL、口腔粘膜の洗浄を目的とする場合であれば、5〜30mL、好ましくは10〜20mLが例示される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0036】
[参考試験例1]
後述する実施例及び比較例の組成物の粘膜に対する評価は、ヒト粘膜又は動物粘膜の代わりにヒト三次元培養皮膚を用いて行った。従って、予めモルモット粘膜への刺激とヒト三次元培養皮膚を用いた確認方法が相関することを確認するため、以下の予備試験を行った。
【0037】
モルモット(雌、6週齢、30匹)を上海生旺実験動物養殖有限会社から入手した。当該モルモットの下唇直下の皮膚を引き下げ、前歯部歯肉と下唇粘膜を露出させ、当該露出した口腔粘膜部位に下表1に記載の組成物を100μL滴下投与し、30秒間、当該組成物を絵筆で塗り広げた。投与は2時間間隔で1日4回、4日間連日行った。投与終了後1日目と3日目に、前歯部歯肉及び下唇部粘膜の変化をCTFAガイドライン(Hynes,C.R, and Estrin, N. F., CTFA Safety Testing Guidelines: CTFA Technical Guidelines, Cosmetic, Toiletry and Fragarance Association, Inc., Washington,11-13(1981))に準じ、肉眼により観察した。
(細胞生存率の評価方法)
下表1に示される参考処方1〜4の組成物を培地に添加した後の、生細胞数を計測するため、MTT(3−[4,5−dimethylthiazol−2−yl]−2,5−diphenyltetrazolium bromide)アッセイを行った。評価手順は以下の通りである。
【0038】
株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下J−TEC)製ヒト三次元培養表皮(LabCyte EPI−MODEL24)を入手し、付属のアッセイ培地(0.5mL)の入った24ウェルアッセイプレートに、培養カップ(予め、カップ底面に、ヒト三次元培養表皮が接着している)を移し、37℃、5%CO2の条件に設定されたインキュベーター内で2時間培養した。下表1に示される参考処方1〜4の組成物をヒト三次元培養表皮上に25μLずつ滴下し、更に2時間培養した。培養後、ヒト三次元培養表皮の表面をPBS(−)で10回以上洗浄した後、0.5mg/mLのMTT試液(臭化3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウム:(株)同仁化学研究所製)を用い、37℃、5%CO2の条件下で3時間インキュベートすることにより生細胞のMTT染色を行った。MTT染色の終了後、ヒト三次元培養表皮をイソプロパノール300μLに20〜25℃の暗所で16時間浸漬して細胞抽出物を得た。この細胞抽出物の570nmにおける吸光度を測定した。細胞生存率の算出を下記数式(1)に従って行った。ブランクの吸光度はイソプロパノールを用いて測定した場合の値である。

細胞生存率(%)=(細胞抽出物の吸光度−ブランクの吸光度)/
(PBS(−)の吸光度−ブランクの吸光度)×100…数式(1)
【0039】
結果を下表1に示す。
【表1】
【0040】
表1に示される結果より、動物スコアが低い(即ち、刺激が少ない)ほど細胞生存率が高く、両者に相関性があることが示された。また、これらの結果は、ヒトにおける刺激性とも相関性があることが示された。更に、特に、(A)成分であるラウリル硫酸ナトリウムを3重量%以上含み、且つ(B)成分を含まない組成物の場合は、粘膜に対して強い刺激性を有することが示された。なお、市場では動物スコアが0〜2である口腔用組成物が許容されている。
【0041】
[試験例]
下表2〜14に示される組成物をヒト三次元培養表皮に滴下する以外は、前記参考試験例1(細胞生存率の評価方法)に従い、細胞生存率について評価を行った。下表2〜14に示される組成物は、(A)成分及び(B)成分をそれぞれ水に溶解させることにより作製した。
【0042】
本試験に用いた、原料は以下のとおりである。
ラウリル硫酸ナトリウム(モノゲンY―100):第一工業製薬株式会社
ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(リカビオンA―100):新日本理化株式会社
ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(アンヒトール86B):花王株式会社
ラウリルヒドロキシスルホベタイン(アンヒトール20HD):花王株式会社
ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン(ソフタゾリンLSB):川研ファインケミカル株式会社
【0043】
(B)成分としてラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインを使用した場合の細胞生存率を下表2〜6に示す。
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
(B)成分としてステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインを使用した場合の細胞生存率を下表7及び8に示す。
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
表2の参考例2と比較例1とを比較すると分かるように、ラウリル硫酸ナトリウムを1重量%含有する場合に比べて、ラウリル硫酸ナトリウムの含有量が1.5重量%以上の場合の方が、細胞生存率が低く、粘膜刺激が強いことが示された。一方、実施例1から分かるように、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインを、所定の含有比率で含有させることによって、ラウリル硫酸ナトリウムを1.5重量%以上含有する場合であっても、十分に細胞生存率が改善され、粘膜刺激が低減されることが示された。また、比較例2、5及び6から分かるように、ラウリル硫酸ナトリウムの含有量が3重量%以上の場合、細胞生存率は0%となり、粘膜刺激が特に強いことが示されたが、実施例2〜13と比較例2〜4とを比較すると分かるように、ラウリル硫酸ナトリウムを3重量%含有する場合であっても、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインを所定の含有比率で含有させることによって、細胞生存率が顕著に上昇し、粘膜刺激が低減されることが示された。また、表5及び6から分かるように、当該刺激低減効果は、ラウリル硫酸ナトリウムを3重量%よりも多く含有する場合(例えばラウリル硫酸ナトリウムの含有量が、4重量%及び5重量%の場合)においても、同様の傾向となることが示された。また、表7及び8から分かるように、ラウリル硫酸ナトリウムに対して、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインを所定の含有比率で含有する場合において、当該刺激低減効果は、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインを含有させた場合と同様の傾向となることが示された。
【0051】
(B)成分としてラウリルヒドロキシスルホベタインを使用した場合の細胞生存率を下表9〜12に示す。
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
【表11】
【0054】
【表12】
【0055】
(B)成分としてラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタインを使用した場合の細胞生存率を下表13及び14に示す。
【表13】
【0056】
【表14】
【0057】
表9の実施例28〜32と比較例1、8及び9とを比較すると分かるように、ラウリル硫酸ナトリウムを1.5重量%以上含有する場合であっても、ラウリルヒドロキシスルホベタインを所定の含有比率で含有させることによって、細胞生存率が十分に改善され、粘膜刺激が低減されることが示された。また、実施例33〜45と比較例2、10及び11とを比較すると分かるように、ラウリル硫酸ナトリウムを3重量%含有する場合であっても、ラウリルヒドロキシスルホベタインを所定の含有比率で含有させることによって、細胞生存率が顕著に上昇し、粘膜刺激が低減されることが示された。
【0058】
また、表11及び12から分かるように、当該刺激低減効果は、ラウリル硫酸ナトリウムを3重量%よりも多く含有する場合(例えばラウリル硫酸ナトリウムの含有量が、4重量%及び5重量%の場合)においても、同様の傾向となることが示された。また、表13及び14から分かるように、ラウリル硫酸ナトリウムに対して、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタインを所定の含有比率で含有させた場合において、当該刺激低減効果は、ラウリルヒドロキシスルホベタインを含有させた場合と同様の傾向となることが示された。
【0059】
以上の結果より、組成物中にアルキル硫酸エステル型界面活性剤を多量に含むことに起因する粘膜に対する刺激が、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤又はスルホベタイン型両性界面活性剤を、所定の含有比率となるように含有させることによって、顕著に低減されることが示された。特に、アルキル硫酸エステル型界面活性剤を3重量%以上含有し、且つアミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤又はスルホベタイン型両性界面活性剤を含有しない場合は、細胞生存率が0%となり、粘膜に強い刺激が生じることが示されたが、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤又はスルホベタイン型両性界面活性剤を含有することによって、当該刺激が低減されることが示された。
【0060】
また、アルキル硫酸エステル型界面活性剤の含有量が1.5重量%以上であれば、アルキル硫酸エステル型界面活性剤がどのような濃度で含有された場合であっても、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤又はスルホベタイン型両性界面活性剤を所定の含有比率となるように含有させることによる刺激低減効果は同様の傾向となることが示された。
【0061】
[処方例]
以下の処方例に記載の組成物を従来公知の方法により原料を混合することで調製した。いずれも、実施例と同様に細胞生存率に優れ、刺激性が低い粘膜適用組成物であった。
【0062】
【表15】
【0063】
【表16】
【0064】
【表17】
【0065】
【表18】
【0066】
【表19】
【0067】
【表20】
【0068】
【表21】
【0069】
【表22】
【0070】
【表23】
【0071】
【表24】
【0072】
【表25】
【0073】
【表26】
【0074】
【表27】
【0075】
【表28】