特許第6047328号(P6047328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047328
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】焼結磁石用塗布材料
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20161212BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20161212BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H01F1/04 H
   H01F1/08 B
   H01F41/02 G
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-169069(P2012-169069)
(22)【出願日】2012年7月31日
(65)【公開番号】特開2014-29896(P2014-29896A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2014年4月14日
【審判番号】不服-458(P-458/J1)
【審判請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(72)【発明者】
【氏名】佐通 祐一
(72)【発明者】
【氏名】小室 又洋
(72)【発明者】
【氏名】丸山 鋼志
【合議体】
【審判長】 森川 幸俊
【審判官】 國分 直樹
【審判官】 井上 信一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266767(JP,A)
【文献】 特開2006−66853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F1/04-1/08
H01F41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NdFeB系焼結磁石の表面に塗布、拡散させることにより前記焼結磁石の磁気特性を向上可能な塗布材料において、
前記塗布材料がYF3組成のフッ化物とアルコールとの混合物であって、前記アルコールに水と共沸点を有する溶媒が混合されており、前記フッ化物が非晶質構造であり、
前記アルコールがメタノール、前記水と共沸点を有する溶媒がn−プロパノールまたはn−ブタノールであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結磁石用塗布材料において、前記アルコール前記水と共沸点を有する溶媒1〜10体積%混合されていることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項3】
請求項1に記載の焼結磁石用塗布材料において、フッ化物粒径が1μmであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれかに記載のYF3成のフッ化物とアルコールとの混合物において、溶媒10mL当りのYF3度が0.1〜10gであることを特徴とする焼結磁石用塗布材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒界にYを含有偏在させ重希土類元素の使用量を低減可能な焼結磁石用処理材料に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結磁石は種々の磁気回路に適用されている。中でもNdFeB系焼結磁石はNd2Fe14B系結晶を主相とする高性能磁石であり、自動車や産業、発電機器、家電、医療、電子機器など広範囲の製品で使用され、その使用量が増加している。NdFeB系焼結磁石には希土類元素であるNd以外に耐熱性確保のためにDyやTbなどの高価な重希土類元素が使用されている。この重希土類元素は希少かつ資源の偏在、資源保護のため高騰しており、重希土類元素使用量の削減に対する要求が高まっている。
重希土類元素使用量を削減できる手法として、従来、重希土類元素を含む材料を焼結磁石の表面に塗布後拡散させる粒界拡散法があり、この手法を適用した焼結磁石が特許文献1に開示されている。また重希土類元素を含む蒸気を使用して焼結磁石表面から重希土類元素を拡散させる手法を採用した焼結磁石が特許文献2に開示されている。
焼結磁石表面にフッ化物を塗布拡散させた磁石においても重希土類元素使用量を削減でき、焼結磁石の粒界に酸フッ化物が形成されることが特許文献3に開示されている。
Y濃化部を含有した焼結磁石の製造方法が特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2009−513990号
【特許文献2】特開2009−124150号公報
【特許文献3】特開2008−147634号公報
【特許文献4】特開2012−43968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3では、NdFeB系焼結磁石の表面から重希土類元素を含有する材料を用いて、粒界に沿って重希土類元素を拡散偏在化させており、母材であるNdFeB系焼結磁石に重希土類元素を外部から追加する手法である。このような従来技術は、焼結磁石の磁気特性向上のために新たに重希土類元素(Tb, Dy)を拡散により加えており、重希土類元素を追加使用せずに焼結磁石の磁気特性向上を実現させることは困難である。
【0005】
特許文献4では、拡散元素としてDyを使用しておりDy主相外殻に(Y, Nd)2Fe14B結晶を形成しているが、重希土類元素であるDyを加える工程を採用していることは特許文献1〜3と同様である。
上記特許文献では主相のNdを他の希土類元素で置換することで磁気特性向上を実現させている。これに対し本発明では主相のNdを置換する元素を新たに磁石表面に塗布せず、粒界に偏在化させる元素を塗布拡散させている。
特に、本発明では、NdFeB系焼結磁石の表面からフッ素及びY(イットリウム)を導入するための材料及びそれを用いた手法を開示しており、重希土類元素を追加しない。磁気特性向上のために、導入フッ素及びYによる焼結磁石の組成構造変化を利用しており、重希土類元素の新たな添加はない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の焼結磁石を作成する手段の一つは、焼結磁石の表面からイットリウム(Y)含有フッ化物を拡散させる工程を採用し、結晶粒界に酸フッ化物やフッ化物を低温で形成し、焼結磁石にすでに含有している重希土類の濃度分布と粒界近傍の組成・構造を変えることである。
Yは主相であるNd2Fe14Bや(Nd, Dy)2Fe14Bの希土類元素(NdやDy)位置を置換すると保磁力が減少する。これはY2Fe14Bの異方性磁界(1.59MA/m)はNd2Fe14Bの値(5.33MA/m)よりも小さいためである。従って、Yを主相に拡散させることなく、二相粒界や粒界三重点などの粒界相のみに拡散偏在化させることが不可欠である。粒界のみにYを偏在化させるためには拡散温度を低温にすることも必須であり、低温拡散を実現するための処理材料が必要となる。
Yの粒界偏在化のためには、YF3の粒径を細かくするとともに、粉の凝集を抑制して塗布ムラをなくす必要がある。
イットリウム含有フッ化物としてYF3があり、粉砕粉のYF3を使用するよりもアルコール溶媒に膨潤させたY:Fが1:3の組成の処理液は溶媒除去により非晶質構造にすることができ、この構造が準安定構造であるため低温で構造変化を起こし易く焼結磁石の粒界に沿って700℃で容易に拡散する。
一方、アルコール溶媒に膨潤させたYF3は準安定構造であるため溶液中の水分含有量が高くなるとYF3は酸化されやすくなる。しかし、溶媒のベースはメタノールであり、メタノールは水と共沸しないため、磁石の表面処理後の脱溶媒プロセス中に水が濃縮されるためYF3は酸化されやすくなる。そこで溶媒中に水と共沸点を有する有機溶媒を1〜10vol%含有させることでこのYF3の酸化をほぼ抑えることが可能となる。前記有機溶媒としてはアルコールに体積で10%以上均一に混合可能で、且つ、沸点が200℃以下であるものが良い。また、金属に対して腐食性の高い有機酸または有機アミンは好ましくない。例として、水と近い沸点を有し、共沸の際、水を多く含むn−(ノルマル)プロパノールまたはn−ブタノールのような有機溶媒が好ましい。
この溶媒中に水と共沸点を有する有機溶媒を1〜10vol%含有させる手法は、従来法のNd2Fe14B磁石の磁気特性向上におけるDyF3処理及びTbF3処理における、Dy,Tbの酸化や磁石の酸化防止にも有効である。
水と共沸しないケトン類、例えばアセトンの場合は溶媒がメタノール単独と同じとなり、磁石の表面処理後の脱溶媒プロセス中に水が濃縮されるためYF3は酸化されやすくなる。
一方、水と共沸するがアルコールと混合しにくく2層になり易い溶媒で、例えば、トルエンやヘキサンの場合、アルコール溶媒に膨潤されたYF3はゾル状態が不安定となり、沈殿が生じ易くなり、磁石の表面処理の際、磁石の表面に生成したYFコート膜は磁石から脱離しやすくなる。また、後述するように拡散温度処理の温度の上昇を伴う。
又、一部水による酸化のないYF3の粉砕粉をアルコール溶媒に膨潤させたYF3と併用することは有用である。これはYF3の粉砕粉とアルコール溶媒に膨潤させたYF3と併用することにより、懸濁液中で沈降し易いYF3の粉砕粉の分散性を改善するためである。そのため、後述する実施例で示すように拡散温度処理の温度の上昇を伴うが、磁石の表面処理回数を減らすことが可能となるためである。
【0007】
上記のようなYF系処理液を採用することにより、次のような機構により磁気特性が大幅に向上する。1)YとFが粒界に導入されることにより、粒界相に含有しているFeの濃度が減少する。Fe濃度減少により粒界相の磁化率が減少し主相の磁気的孤立性が高められる。隣接主相結晶粒の磁化反転の影響を受けにくくなり、磁化反転しにくくなる。
2)Yに加えてF(フッ素)も拡散するので粒界には酸フッ化物が形成される。主な酸フッ化物はNdOFであるが(Nd,Y)OFや(Nd, Y, Dy)OFなども形成され、粒界のDy濃度は減少する。同時に強磁性元素であるFeあるいはCoは焼結磁石の最表面に拡散し、粒界中のFeあるいはCo濃度が減少する。このため、粒界相の飽和磁化または磁化率が減少し主相結晶粒の磁気的な結合が弱められ、主相結晶粒の孤立化が助長され保磁力が増加する。
3)上記1)のY酸化物とランタノイド元素の酸化物の生成ギブスエネルギー差は、低温の方が大きくなるため、高温ではYが主相に拡散し易くなる。拡散温度は400〜800℃であり、800℃を超える温度ではYの主相への拡散を伴う。主相であるNd2Fe14B相にYが拡散すると結晶磁気異方性エネルギーが低下するため、保磁力が増加しにくくなり、900℃以上の拡散温度では焼結磁石最表面の保磁力が減少する。
本発明の具体的な手法は実施例に記載するが、磁気特性が向上した代表的な焼結磁石の特徴を以下に示す。1)フッ素及びイットリウムを焼結磁石の表面から拡散させており、焼結磁石の表面から内部にかけてフッ素及びイットリウムの濃度が減少する。焼結磁石の表面から内部にかけてフッ素とイットリウム以外の元素の10000μm2の分析面積での濃度勾配はフッ化処理前後で変わらないが、処理後の粒界近傍組成分布が変化する。これはフッ素及びイットリウムの導入に伴って、粒界中のDy濃度及びFe濃度が減少する。2)処理拡散後の焼結磁石にはReOF(ReはY及びランタノイド元素(原子番号57〜71)の少なくとも1種)及びY2O3が成長する。3)粒界相中のFe濃度が焼結磁石表面から内部にかけて増加する傾向がある。 3)一部の粒界には、Nd2Fe14B主相/(Nd, Dy)2Fe14B主相/(Y, Nd)OFあるいはNd2Fe14B主相/(Nd, Dy)2Fe14B主相/(Y, Nd)2O3, Nd2Fe14B主相/(Nd, Dy)2Fe14B主相/(Y, Nd)2O3/(Y, Nd)OFの層構造が認められる。
上記特徴は、焼結磁石材料に低温で拡散可能なフッ素及びイットリウムを供給できる手法を採用することによって初めて実現でき、従来の手法でYを粒界のみに選択的に拡散偏在化させることは困難である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により重希土類元素使用量を増加させることなく焼結磁石の耐熱性を向上できるため資源セキュリティ向上と焼結磁石の使用体積削減が図れ、応用製品の小型軽量化と低コスト化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】YF系処理焼結磁石の断面組織
図2】YF系処理焼結磁石の粒界部相構成の例
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。
【実施例1】
【0011】
イットリウム、及びスカンジウムフッ化物コート膜の形成処理液は以下のようにして作製した。
(1) 水に溶解度の高い塩、例えばYの場合は酢酸Y、または硝酸Y5gを100mLの水に導入し、振とう器または超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
(2) 1%に希釈したフッ化水素酸をYFが生成する化学反応の当量分徐々に加えた。
(3) ゲル状沈殿のYFが生成した溶液を4000〜10000r.p.mの回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同量のメタノールを加えた。
(4) ゲル状のYFを含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、超音波攪拌器を用いて1時間程度攪拌した。
(5) (3)と(4)の操作を酢酸イオン、又は硝酸イオン等の陰イオンが検出されなくなるまで、3〜10回繰り返した。その結果、透明なゾル状のYFとなった。
(6) 次に処理液として,(5)で作製したものを直接磁石の処理液として用いると僅かに含有されている水によって、磁石の酸化またはYFが酸化される可能性があるため、体積分率で1〜5vol%の脱水したn−プロパノールまたはn−ブタノールを溶媒として用いた。最終的にYFを1g含んだ10mLの処理液を用いた。更に、処理される磁石表面の保護剤として0.1wt%のベンゾトリアゾール加えた処理液がより好ましい。
上記形成処理液(YFを1g含んだ10mLの処理液)を(Nd, Dy)2Fe14B焼結磁石に塗布する。塗布後、350℃0.5時間で真空乾燥させて溶媒を除去し、700℃3時間の拡散熱処理を施し460℃で加熱保持後急冷する。加熱中の真空度は1x10-6Torr以下にして酸化を抑制した。10x7x5mmの焼結磁石において、前記YF3処理により保磁力の増加及び減磁曲線の角型性上昇を確認した。
処理条件と磁気特性の結果を表1のNo.2〜No.12に示す。未処理焼結磁石の磁気特性をNo.1に示す。No.2〜No.12のフッ化物処理液はろ紙を通過しフッ化物粒径は1μm未満である。溶媒10mL当りのフッ化物濃度が1gで添加物無しで溶媒がメタノールとnプロパノールとの混合物である場合、nプロパノールが0.5vol%では保磁力増大効果が顕著でではないが、5vol%で保磁力が23.5kOeと3kOe増加する。保磁力が2kOe以上増加し、残留磁束密度減少が2%以内であるためにはnプロパノール混合量を1〜10vol%の範囲にする必要がある。nプロパノールの混合量を12vol%にするとY含有物が磁石表面で残留、析出し易くなるためNo.8に示すように残留磁束密度が1.37Tに減少する。水と共沸点をもたないアセトンをエタノールと混合した場合、No.9に示すように保磁力増大量が小さい。
溶媒10mL当りのフッ化物重量は0.1g以上であれば0.1kOe以上の保磁力増大が可能であり、10gを超えると磁石表面にY含有物が残留しめっきなどの保護膜を形成する後工程のために表面を加工する必要がある。したがって最適なフッ化物重量は溶媒10mL当り0.1〜10gとなり、1kOe以上の保磁力増大には0.5〜10gのフッ化物濃度が最適となる。
上記最適フッ化物濃度において、処理液中のYF3組成物の主構造は非晶質構造であり、溶媒除去の加熱により三方晶構造のα-YF3あるいは斜方晶構造のβ-YF3へと結晶化する。処理液中にnプロパノールを混合することにより非晶質から成長するY2O3やYOFの量を低減できる。乾燥直後のフッ化物膜はα-YF3あるいはβ-YF3>YOF>Y2O3であり、乾燥直後のYF系膜においてY2O3の体積率は10%以下にすることが望ましく、できれば0〜5%の範囲にすることで保磁力増大効果が安定する。
【0012】
保磁力が増大したDy2wt%含有(Nd, Dy)2Fe14B焼結磁石の主相を含む最表面部の断面模式図を図1に示す。図1において、(Nd, Dy)2Fe14B焼結磁石は主相結晶粒1、粒界相2、及び-粒界三重点3が主要構成であり、粒界相2及び粒界三重点3にはY及びFが認められる。Y及びFの濃度は焼結磁石表面で高く、表面から中心方向では減少する傾向がある。処理前の粒界には酸素が残留しているため、処理後の焼結磁石において、粒界には酸フッ化物が成長する。典型的な二粒子粒界の相構成を図2に示す。(1)〜(8)のいずれかの粒界における相構成が認められる。図2において粒界中心からみて相構成が対称ではなく(1)から(8)のいずれかの組み合わせとなって良い。酸化物あるいは酸フッ化物の一部にYが認められ、主相のNd2Fe14B系相よりも粒界のY濃度の方が高い。
処理液の溶媒に水と共沸点(87.65℃)をもつnプロパノールを混合することにより、処理液中の水分量を削減できるため、YやFが焼結磁石の表面から厚さ方向に拡散し易くなる。拡散処理後粒界にはYを含有する酸化物や酸フッ化物が成長し、Feの一部が焼結磁石の最表面に拡散し、粒界中心(主相結晶粒の間の粒界の中央部)のFe濃度が減少する。Fe濃度の減少に伴い、粒界相の磁化率が減少し、保磁力が増加する。
本実施例のようにYF3あるいはScF3処理による保磁力の増大が認められた焼結磁石では以下の特徴が確認できる。1)最表面層(処理後の最表面から10μm)を除去した場合、粒界部のFe濃度は焼結磁石の表面から中央にかけて増加する傾向を示す。2)粒界にはYやScを含有する酸化物や酸フッ化物が形成され、これらの粒界相のFe濃度は拡散前のFe濃度よりも小さい。3)Y濃度は主相よりも粒界部で高い。
粒界の各相には不可避不純物である炭素、窒素、リンやAl, Cu, Ga, Zrなどの金属元素が偏在していても良い。
本実施例のようなYやScフッ化物を使用した焼結磁石の保磁力は、Dy2wt%含有(Nd, Dy)2Fe14B以外に、Dy蒸気拡散焼結磁石、DyF系粉末拡散磁石、DyO系粉末混合焼結磁石などの各種重希土類元素偏在NdFeB系磁石材料についても増大効果が認められる。
【実施例2】
【0013】
粉砕粉を混合したイットリウム、及びスカンジウムフッ化物コート膜の形成処理液は以下のようにして作製した。
(1)例えばYを用いた形成処理液の場合は、購入したYF粉をジェットミルにより平均粒径が30μmになるまで砕き、その微細粉を真空オーブンで140℃、3hPa以下の圧力で一日放置して、脱水した。
(2)その脱水したYF粉と透明なゾル状のYF溶液とを超音波をもちいて混合した。
(3)最終的な処理液として,(2)で作製したものを直接磁石の処理液として用いると僅かに含有されている水によって、磁石の酸化またはYFが酸化される可能性があるため、体積分率で1〜5vol%の脱水したn−プロパノール(水との共沸点87.7℃)またはn−ブタノール(水との共沸点92.7℃)を溶媒として用いた。最終的にYFを1g含んだ10mLの処理液を用いた。更に、処理される磁石表面の保護剤として0.1wt%のベンゾトリアゾール加えた処理液がより好ましい。
イットリウム、及びスカンジウムフッ化物コート膜を磁石焼結体表面に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
YFコート膜形成プロセスの場合:YF濃度1g/10mLのメタノール・nプロパノール(95:5vol%)透明溶液
(1) 寸法が6mm×6mm×5mmの磁石焼結体を、濃度1g/10mLの超音波処理直後のYF形成処理液に浸漬した。
(2) (1)のYF形成処理液を磁石焼結体表面に塗布した磁石焼結体を2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
(3) 上記(1)と(2)の操作を1から10回の間で必要回数繰り返した。
(4) (3)の溶媒の除去を行った磁石焼結体を石英製ボートに移し、1×10−5torrの減圧下で200℃、30分と350℃、30分の熱処理を行った。
(5) (4)で熱処理した磁石焼結体に対して、1×10−6torrの減圧下で、熱処理条件として、700℃、3時間で熱処理を行った。
(6) (5)で作製した磁石焼結体に30kOe以上のパルス磁界を印加した。その磁石について磁気特性を調べた。
【0014】
処理条件と磁気特性の結果を表1のNo.13〜No.15に示す。メタノールのみの溶媒では保磁力増大が小さいが、水と共沸点をもつnプロパノールを5vol%混合させることで1kOe以上保磁力が増加する。またベンゾトリアゾールを0.1wt%添加した場合はNo.16に示すように添加しない場合よりも保磁力は増加する。
【0015】
メタノール以外の溶媒は表1のNo.22〜28に示すように保磁力増大幅が小さく、メタノールがこれらの中で最適な溶媒であると考えられる。
【実施例3】
【0016】
YFコート膜形成プロセスの場合:YF濃度0.5g+YF粉砕粉(平均粒径30μm)0.5g混合物/10mLのメタノール・nブタノール(98:2vol%)懸濁溶液
(1)寸法が6mm×6mm×3mmの磁石焼結体を、濃度1g/6mLのYFコート膜形成液(超音波処理直後)に浸漬した。
(2)(1)のYF形成処理液を磁石焼結体表面に塗布した磁石焼結体を2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
(3)上記(1)と(2)の操作を1から4回の間で必要回数繰り返した。
(4)(3)の溶媒の除去を行った磁石焼結体を石英製ボートに移し、1×10−5torrの減圧下で200℃、30分と350℃、30分の熱処理を行った。
(5)(4)で熱処理した磁石焼結体に対して、1×10−6torrの減圧下で、熱処理条件として、800℃、3時間で熱処理を行った。
(6)(5)で作製した磁石焼結体に30kOe以上のパルス磁界を印加した。その磁石について磁気特性を調べた。
処理条件と磁気特性の結果を表1のNo.17〜No.18に示す。メタノールのみの溶媒を使用する場合(No.19)よりも水と共沸点をもつnブタノールを5vol%混合させた場合(No.17)の方が保磁力は大きい。
【実施例4】
【0017】
実施例1で示した(1)から(6)の工程を使用して作成したYF3液を(Nd, Pr, Dy)2Fe14B焼結磁石に塗布、乾燥後拡散熱処理を施した。塗布直後で乾燥前のYF3は非晶質構造を有しており、300℃で溶媒を乾燥させるとβ-YF3に構造変化し、この構造変化と同時に一部のY及びFが焼結磁石の粒界相である希土類リッチ相と反応する。
焼結磁石の酸素濃度が5000ppmを超えるとY2O3が焼結磁石表面の粒界相で成長し、磁石中心方向へのY及びFの拡散が妨げられ、磁気特性の向上は困難となる。したがって焼結磁石の酸素濃度は5000ppm以下200ppm以上が望ましい。200ppm未満ではYと結合し易い酸素が少ないため主相内にYが拡散し易くなり保磁力が減少する。また、処理液を塗布乾燥させて作製したフッ化物膜中の酸素濃度は焼結磁石の粒界における酸素濃度よりも小さいことが望ましい。β-YF3の量を焼結磁石に対して0.5wt%の場合、残留磁束密度の減少が0.02Tで保磁力が3.2kOe増加する。このような磁気特性向上により重希土類元素の使用量を約20%削減可能である。
【0018】
(Nd, Pr, Dy)2Fe14B焼結磁石において、Y及びFは粒界に拡散する。その結果、粒界組成や粒界近傍の重希土類組成分布、粒界の構成ならびに結晶構造が変化する。また粒界中の磁性金属元素であるFeやCoの一部が焼結磁石最表面方向に拡散し、粒界相のFeあるいはCo濃度は減少する。このため粒界相の磁化率が10〜80%減少し主相の磁気的な孤立化が進むことが保磁力増加に寄与する。
【0019】
このようなYF3による磁気特性向上はNdFeB系焼結磁石だけでなく、ε-Fe2O3やSm2Fe17系磁石においても認められる。ε-Fe2O3では酸素の原子配置の一部がFで置換されε-(Fe, M)2(O, F)3の場合に残留磁束密度0.4〜0.8T, 保磁力15〜30kOe、キュリー点490〜580Kを実現できる。ここでMはAl, Zn, Mn, Co, Cu, In, Y, Zr, Bi, Sr, Ba, La, Ce, Pr, Ndの一種または二種以上の元素である。
【実施例5】
【0020】
YF3処理液を塗布する焼結磁石は次のような構成である。焼結磁石には強磁性のNd2Fe14B相及びフェリ磁性のε-Fe2O3相が混合しており、互いに磁気的に結合している。フェリ磁性のε-Fe2O3相の保磁力はNd2Fe14B相の保磁力の値よりも20℃から200℃の温度範囲において大きく、フェリ磁性のε-Fe2O3相がNd2Fe14B相の磁化反転を抑制する。
上記焼結磁石の最表面にYF3を塗布後600℃で拡散熱処理を実施し、粒界にはNdFeB系焼結磁石で認められる粒界相以外にY2O3、ε-(Fe, Y)2O3やε-(Fe, Y)2(O, F)3、またはε-Fe2(O,F)3等が成長する。これらの酸フッ化物はフェリ磁性を示しフッ素導入により保磁力が増加する。上記酸フッ化物において、酸素とフッ素が規則的に配置した斜方晶構造でフッ素濃度がε相において0.2〜50原子%であればフッ素導入によるε-Fe2O3相の磁気特性が向上し、フッ化物拡散処理による磁気特性向上効果が認められる。0.1原子%のフッ素濃度では保磁力向上幅が0〜1kOeの範囲であるが、0.2〜50原子%でフッ素が規則配列することにより保磁力がフッ素無しの場合と比較して2〜10kOe増加する。特に0.5〜30原子%では飽和磁化も増加する。イットリウム(Y)やフッ素(F)は酸化物の酸素と結合し易く、600℃という低温において選択的にε相に導入できる。
YF3塗布量が焼結磁石に対して0.2重量%、ε-Fe2O3が焼結磁石の5重量%の場合、ε-Fe2O3相のフッ素導入量は10原子%となる。このときε-Fe2O3相の保磁力は6kOe増加する。導入量10原子%では、ε-Fe2O3相の導入元素による保磁力増加はフッ素で6kOe, 酸素原子位置をフッ素と同様に置換する元素の中で窒素1kOe, 炭素0.5kOe, 塩素0.6kOeであり、フッ素の効果が顕著である。この導入元素別保磁力増大効果は飽和磁化増大効果においても同等であり、フッ素による酸素原子の特定原子位置置換効果が異方性エネルギーを増大させることによる。
前記のようなε-Fe2O3相へのフッ素導入による保磁力及び磁化増加に伴い、YF3拡散処理により、Nd2Fe14B/Fe2O3複合磁石の保磁力が20kOeから25kOeに増加し、重希土類元素の使用量を50%削減できる。ε-Fe2O3相へのフッ素導入に伴う反応によって、一部のε-Fe2O3相が脱酸されα-Feが成長すると磁化が増加し残留磁束密度が増加する。
本実施例において、ε相に窒素や硼素、炭素が酸素原子位置に置換していてもその規則構造が維持されて不規則相とならない濃度範囲であれば同等の磁気特性向上が認められる。また、本実施例において、フッ化物処理液のフッ化物はYF3以外にMxFy(Mは金属元素、Fはフッ素、x及びyは正数)、あるいはMxFyOz(Mは金属元素、Fはフッ素、Oは酸素、x, y及びzは正数)であっても保磁力増加効果、減磁曲線の角型性向上効果が認められる。特にM元素の少なくとも一種がYを含む希土類元素から選択されることで保磁力増大効果は顕著となる。
また本実施例のようにYF3処理などのフッ化物拡散処理によりε-Fe2O3の保磁力が増加することから、ε-Fe2O3を主とする磁石においてフッ素導入のためのフッ化材料として本発明の処理材料は使用することができる。フッ化材料としてYF3処理液以外に各種フッ化物処理液ならびに粉砕粉とメタノール及び水と共沸点を有する溶媒を混合したスラリーまたはコロイド等も使用できるが、上記のようなフッ素含有量の制御ならびに低温でのフッ化処理を実現するためには非晶質構造あるいは高次構造の準安定構造をもったフッ化物溶液処理がフッ素導入反応の制御がしやすく最適である。
【実施例6】
【0021】
α-Feとε-Fe2O3が1:1の体積比で作成された成形体の最表面からYF3処理液を塗布拡散させる。α-Feとε-Fe2O3の平均粒径はそれぞれ20nm, 50nmである。YF3の拡散によりFe2(O, F)3が成長し、その他にYhFeiOjFk(h, i, j, kは正数)も形成される。Fe2(O, F)3がα-Feとε-Fe2O3の界面に層状に成長することで成形体の保磁力が増加し、α-Feと他の磁性相との磁気的な結合が強くなる結果、残留磁束密度も増加する。
Fe2(O, F)3の結晶磁気異方性エネルギーはフッ素濃度及びフッ素置換位置に依存する。ε-Fe2O3の4種類のFe位置に対してFが隣接している(第一隣接位置にある)FeとFが隣接していないFeから構成され、フッ素濃度は0.1〜60原子%の範囲でフッ素及び酸素が規則配列することで20℃における保磁力が21kOeから35kOeに増加する。
前記フッ素濃度範囲においてε-Fe2O3のFe位置が他のFe以外の金属元素で置換されてもフッ素の規則配列が維持されれば保磁力などの磁気特性も維持される。金属元素の中で特にIn, Ba, Sr, Co, Mn, Cr, Zn, Zr, Mo, Ti, Bi, NiがFe位置を置換するとキュリー点上昇、残留磁束密度増加、減磁曲線の角型性向上、着磁性向上のいずれかの効果が向上する。
本実施例のε-Fe2O3と交換結合することで残留磁束密度が増加可能な材料はα-Fe以外にα-Fe-0.1-40%Co, α-Fe-3%Si, α-Fe-2%C, Fe16N2, Fe4N, Fe3CなどのFe系強磁性材料とε-Fe2O3との混合により実現でき、フッ素導入なしで保磁力5〜20kOe, フッ素導入により10〜25kOeと5kOe保磁力が増加する。
【実施例7】
【0022】
実施例1で作成したYF3処理液にAgアセチルアセテートを添加しAgが0.1wt%含有したYF3処理液は、乾燥前の溶媒中でフッ化物は非晶質構造を有しており、乾燥後結晶化が進行する。この処理液をDy0.5wt%含有する(Nd, Dy)2Fe14B焼結磁石の表面に塗布し、真空乾燥炉にて乾燥後、不活性ガス雰囲気で700℃に加熱保持し冷却する。焼結磁石に対する塗布量は0.2wt%である。
拡散工程において、Y, Ag, 及びFが前記焼結磁石の粒界を拡散し粒界がフッ化されると共に粒界にY及びAgが偏在する。YはNdやDyなどの希土類元素と置換し、Agは粒界と主相の界面付近に偏在化する。
その結果フッ化された粒界部はNdOFが形成され粒界中心のDy濃度は処理後減少し、粒界中心のFe濃度も減少する。酸フッ化物やフッ化物中のFeは酸化物と比較して固溶しにくいため、Fe濃度が減少し粒界の磁化あるいは磁化率が減少する。Feは塗布膜近傍に拡散移動する傾向がある。
粒界拡散後、拡散処理温度よりも低温で時効処理を進め、保磁力を増加させる。処理液を用いた場合、未処理の場合と比較して保磁力が3.5kOe増加する。これは前記粒界組成の変化によるものであり、処理による焼結磁石内の粒界構造、粒界近傍の組成分布の変化が保磁力増大に貢献している。
本実施例の焼結磁石は以下の特徴をもつ。1)粒界に酸フッ化物が形成され、一部の酸フッ化物や酸化物はYを含有している。2)粒界中心のFe濃度が焼結磁石の厚さ方向で濃度勾配を有している。磁石表面から中心方向に100μmの深さ位置で分析する粒界中心のFe濃度は中心方向に10μmの深さ位置での粒界中心にけるFe濃度と5〜90%異なり、特に2kOeの保磁力増大効果を得るためには10%以上の差が必要である。このような濃度勾配は透過電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscope)、電子エネルギー損失分光分析器(EELS:Electron Energy Loss Spectroscope)分析によって評価できる。尚焼結磁石の最表面から中心方向に10μmの深さ未満の範囲では、表面にFeが拡散しているため表面側でFeの濃度が増加する傾向にある。塗布膜及び主相最表面から10μmの範囲でFeの濃度は焼結磁石中心部よりも高い。3)Yは主相よりも粒界に多く分布している。4)粒界と主相の界面には微量添加元素とともにAgが偏在している。5)粒界中のフッ素濃度が高いほど粒界中のFe濃度及びDy濃度が減少する。6)Yが偏在している粒界に接した主相結晶粒においてDyの偏在が認められる。
本実施例ではYF3処理液にAgアセチルアセテートを添加した塗布材料を使用しているが、添加元素として、Ag以外にTi, V, Cr, Mn, Cu, Zn, Ga, Ge, Zr, Nb, Mo, Pd, In, Sn, Ta, W, Biも保磁力増大効果が確認できる。このような添加元素は粒界と主相の界面に沿って偏在する傾向があり、酸フッ化物と主相あるいは酸化物と主相の境界に偏在化して磁化反転を抑制している。処理液の代わりにYと上記添加元素を少なくとも1種類含有する粉末を焼結磁石表面に塗布拡散させることにより0.2〜1kOeの保磁力増大が確認できる。焼結前にNdFeB系粉末、Dy含有粉末及びY含有粉末を混合後、仮成形、焼結する工程を採用する場合にはY含有粉末にフッ化物または酸フッ化物を使用し、さらに上記添加元素を0.1〜5wt%の範囲で添加することでY含有粉末を使用しない場合と比較して0.5〜2kOeの保磁力増大効果が確認できる。また、Yの代わりにScも保磁力増大効果が確認でき同様な手法をNdFeB系焼結磁石に適用できる。
本実施例のように粒界を構成している元素の一部が焼結磁石の最表面に拡散して濃縮されるのはFe以外に、拡散時効熱処理条件を最適化することでCu, Dyについても最表面に拡散させることが可能であり、余分なDyを最表面に濃縮後、濃縮したDy含有層を除去して焼結磁石や塗布材料の原料として再利用することが可能である。
【実施例8】
【0023】
実施例1で作成したYF3処理液は、乾燥前の溶媒中でフッ化物は非晶質構造を有しており、乾燥後結晶化が進行する。この処理液をNd2(Fe,Co)14B焼結磁石の表面に塗布し、真空乾燥炉にて乾燥後、不活性ガス雰囲気で700℃に加熱保持し冷却する。焼結磁石に対する塗布量は0.5wt%である。
Co含有量5〜10wt%の範囲では、粒界または主相外周側にYCo5などYx(Co,Fe)y(x, yは正数)が形成され、主相結晶粒外周側のCo濃度が減少する。特にYCo5のキュリー点は主相のキュリー点よりも高く結晶磁気異方性エネルギーも大きいため磁化反転が抑制される。またCo含有量が0.1〜5wt%の範囲ではYF3処理により、主相外周側のCoが主相中心部よりも高濃度になり、粒界から10nm離れた主相外周側のCo濃度は平均濃度よりも5〜50%高く、粒界にはYあるいはFが認められる。粒界面(粒界と主相の界面)の一部にはCo-Co対が認められ、このCo-Co対が高保磁力に寄与する。Co含有量が0.1wt%未満では保磁力増大が0.1〜0.3kOeと小さく、粒界面でのCoとYの配列が界面磁気異方性に影響して磁化反転が抑制されていると推定している。従って1kOe以上の保磁力増大にはCo濃度が添加量で0.3wt%以上10wt%以下の範囲で必要となる。
上記のようにYF3処理液による保磁力増大効果を高めるにはCoの使用が有効であり、特にCoが粒界近傍(粒界中心から100nm以内の幅で粒界に沿った場所)で主相に含有していることが望ましく、Coを含有するYF3処理液はCo未含有YF3処理液よりも保磁力増大効果が大きい。
本実施例において、塗布したYF3組成物は粒界の希土類酸化物と反応しながら拡散し、焼結磁石中心に向かう。希土類酸化物の一部は希土類酸フッ化物となる。その主な生成相はNdOFである。またYは酸素と結合し易く酸フッ化物よりも酸化物に認められ、粒界には主相/Y含有酸化物/酸フッ化物/Y含有酸化物/主相の層構成が確認できる。酸フッ化物は非晶質であり酸化物は結晶質のため、主相/Y含有酸化物界面は整合界面、Y含有酸化物/酸フッ化物界面は非整合界面となり、整合界面にYとCoが偏在して界面磁気異方性を増大させている。YF3処理前に粒界相中心に分布しているFeは拡散処理後、主相/Y含有酸化物/酸フッ化物の主相/Y含有酸化物に一部拡散し、酸フッ化物のFe濃度が小さくなる。
粒界三重点の一部には上記Y含有酸化物や酸フッ化物以外にNdF3やNdF2などの希土類フッ化物が成長する。Yはこれらのフッ化物よりも酸化物や酸フッ化物で高濃度となる。Y濃度は酸化物>酸フッ化物>フッ化物>主相のように主相で最も小さく、粒界相の中でも偏在する。このような濃度分布において高保磁力が得られ、重希土類元素使用量を削減できる。上記酸化物の一部は規則相を形成し、Fe含有量に依存して磁気物性が変化する。酸化物中のFe濃度が10〜50原子%の範囲でフェリ磁性を示す。フェリ磁性酸化物とNd2Fe14Bの整合界面で界面磁気異方性が発現し保磁力増大に寄与している。
前記界面磁気異方性の発現のために、拡散後の工程において磁場を印加し、界面におけるフェリ磁性相の磁化方向を揃えることも保磁力増大に寄与する。
本発明のような重希土類削減効果はYF系処理液の代わりにScF系処理液あるいはこれらの混合処理液に有機コバルトを添加した場合においても確認できる。
【実施例9】
【0024】
実施例1で作成したYF3処理液は、乾燥前の溶媒中でフッ化物は非晶質構造を有しており、乾燥後結晶化が進行する。この処理液をGaが0.1wt%添加されたNd2Fe14B焼結磁石の表面に塗布し、真空乾燥炉にて乾燥後、不活性ガス雰囲気で700℃に加熱保持し冷却する。焼結磁石に対する塗布量は0.5wt%である。
【0025】
拡散時効熱処理後、粒界三重点の一部にはNdF3が成長し、粒界三重点や二粒子粒界の一部にGaが偏在する。フッ素と結合してフッ化物を形成し易い元素が焼結磁石に添加されている場合、YF3処理によるフッ素導入によって粒界にフッ化物が成長すると同時に前記フッ化物にフッ化物を形成し易い添加元素が拡散して偏在化する。このようなフッ化物への偏在はGa以外に Mn, V, Zr, Al, Crなどで確認できる。これらの元素はいずれもフッ化物(MF3, Mはフッ化物形成元素)形成エネルギー(ΔH)がFeF3の値よりも小さい。
【0026】
FeF3よりもΔHが小さい元素を添加することにより、粒界あるいは粒界と主相との界面に添加元素が偏在し保磁力増加に貢献する。特に本実施例のGaの場合にはGaF3のΔHが-255kcal/mol(298K)でありFeF3の値(-232kcal/mol)よりも小さくフッ化物内のFeとNd2Fe14B内のGaが交換して拡散が進行することが熱力学上推定できる。このような拡散により主相内の添加元素が粒界に移動して偏在化が顕著になることで保磁力が1〜5kOe増加する。保磁力を2kOe増加させるためには、前記のようなフッ化物形成エネルギーが鉄よるも小さい元素を0.1〜5wt%の範囲で添加し、YF3処理によるY及びFの拡散を進めることが有効である。0.1wt%未満の添加量では保磁力増大効果が小さい。また5wt%を超えると残留磁束密度の低下を招くため、上記のような0.1〜5wt%の範囲が保磁力増大には有効である。
【0027】
本実施例では非晶質構造のYF3組成を有する処理液を使用しているが、一部結晶化した処理液、あるいは結晶YF3の処理液、粉砕粉を使用したスラリーまたは懸濁液においても保磁力増大効果は確認できる。また本実施例の粒界フッ化物には酸素、炭素、窒素、硼素、塩素、リンが偏在組成分布に大きく影響を与えない範囲で含有されていても問題ない。
【0028】
本実施例のYF3処理液に前記フッ化物形成エネルギーが鉄よるも小さい元素を添加し粒界に沿ってY、Fとともに拡散させて保磁力を増大させることも可能である。また,フッ化を加速させるために YF3処理液にフッ化アンモニウム(NH4F)などのフッ化剤を添加して粒界中のフッ素濃度を大きくして偏在化を助長することが可能である。
【0029】
前記のように拡散熱処理時に粒界近傍のFeが拡散し、粒界におけるFeの濃度分布が拡散により変化する。Feの拡散時に磁場を印加してFeを磁場方向及び磁場に垂直方向とで異方的に分布させることでさらに保磁力が1〜3kOe増加する。700℃の熱処理において冷却時に2T以上の磁場を容易磁化方向あるいは困難磁化方向に印加する。あるいは時効熱処理時に同様に2T以上の磁場を印加する。YF3処理によるY及びFの拡散に伴うFeの移動は磁場に影響され、処理前と比較して偏在化したFeは磁場方向に異方的に配列する。Feの異方的配列により、主相粒子間の交換結合あるいは静磁結合が粒界近傍で変化し、磁化反転サイトが減少する。
【0030】
【表1】
【符号の説明】
【0031】
1---主相結晶粒、2---粒界相、3---粒界三重点
図1
図2