特許第6047416号(P6047416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6047416有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047416
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
   H05B33/14 A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-29302(P2013-29302)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-157992(P2014-157992A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年1月4日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、総務省、「究極の省電力ディスプレイ実現に向けた高効率・長寿命有機ELデバイスの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−319781(JP,A)
【文献】 特開2012−243983(JP,A)
【文献】 特開2012−186460(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0206035(US,A1)
【文献】 特開2003−317966(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0205696(US,A1)
【文献】 特開2006−128632(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0066225(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に発光層を有し、前記発光層がリン光発光するゲスト材料とホスト材料とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子のDexterエネルギー移動効率を評価する評価方法であり、
前記発光層に含まれる前記ゲスト材料の混合比率が0.1〜3重量%であり、
前記一対の電極から供給された正孔と電子とが、主に前記ホスト材料で再結合して励起状態を生成するものであり、
前記ホスト材料の一重項励起状態のエネルギーと、前記ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーとが同程度であり、前記ホスト材料の三重項励起状態のエネルギーが、前記ゲスト材料の三重項励起状態のエネルギーよりも大きく、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率を測定した結果に基づいて、前記Dexterエネルギー移動効率を評価することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法。
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子として、前記発光層の材料のみ異なる複数の評価用有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、各評価用有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率を測定する工程と、
前記複数の評価用有機エレクトロルミネッセンス素子のうち、前記外部量子効率の高いものを、前記Dexterエネルギー移動効率の高いものと評価する工程とを備えることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す。)素子の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陰極と陽極との間に、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の複数の層が積層された構造を有している。現在、有機EL素子の各層を構成するのに適した材料について、研究、開発が行われている。
【0003】
発光層としては、電荷輸送・再結合の役割を担うホスト材料と、発光する発光材料(ゲスト材料)とから構成されているものがある。このような発光層では、陽極から供給された正孔と陰極から供給された電子とが、主にホスト材料で再結合して励起状態を生成する。この時、一重項励起状態(S)と三重項励起状態(T)を25:75の割合で生成する。一重項励起状態(S)からの発光は、蛍光発光と呼ばれている。また、三重項励起状態(T)からの発光は、リン光発光と呼ばれている。
【0004】
リン光発光を利用する有機EL素子においては、ホスト材料のSからゲスト材料のSにエネルギー移動 (Forsterエネルギー移動) が起こり、ゲスト材料のSからゲスト材料のTに項間交差(ISC)が起こることで、リン光発光が得られる。
従来、Forsterエネルギー移動効率の高い発光層の得られる材料として、多数の材料が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ホスト材料のSとゲスト材料のSとの間のForsterエネルギー移動機構については、フォトルミネッセンス(PL) 分光法により測定可能である。
【0005】
一方、ホスト材料のTのエネルギーは、ゲスト材料のTにエネルギー移動(Dexterエネルギー移動)して発光する。
特許文献1には、有機EL素子におけるDexterエネルギー移動について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−177462号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Kawamura, J. Brook, J. J. Brown, H. Sasabe, and C. Adachi, Phys. Rev. Lett. 96, 017404 (2006).
【非特許文献2】H. Fukagawa, T. Shimizu, H. Hanashima, Y. Osada, M. Suzuki and H. Fujikake, Adv. Mater. 24, 5099 (2012).
【非特許文献3】S. H. Liao, J. R. Shiu, S. W. Liu, S. J. Yeh and Y. H. Chen, J. Am. Chem. Soc., 131, 763 (2009).
【非特許文献4】S. Wu, W. Li, B. Chu, C. S. Lee, Z. Su, J. Wang, Q. Ren, Z. Hu, and Z. Zhang, Appl. Phys. Lett., 97, 023306 (2010).
【非特許文献5】R. Meerheim, K. Walzer, G. He, M. Pfeiffer, and K. Leo, Proc. SPIE 6192, 61920P (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
三重項励起状態(T)は、ホスト材料の励起状態の75%を占めるため、Dexterエネルギー移動効率を向上させることによって、有機EL素子の発光効率を高効率化できると見込まれている。
【0009】
しかしながら、三重項励起状態(T)は光励起によって直接励起することはできないため、フォトルミネッセンス(PL)を用いて、Dexterエネルギー移動効率が高い材料を探索することは困難である。また、その他、Dexterエネルギー移動効率を観測する方法はなかった。このため、Dexterエネルギー移動効率と有機EL素子の発光効率との関係を調べたり、Dexterエネルギー移動効率が高い発光層の得られるホスト材料とゲスト材料との組み合わせを選択したりすることは困難であった。実際、Dexterエネルギー移動効率が高いホスト材料とゲスト材料との組み合わせは報告されていない。特許文献1には、Dexterエネルギー移動の重要性について記載されているが、実際に効率的なDexterエネルギー移動を観測した例はない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決し、発光層におけるホスト材料とゲスト材料との間のDexterエネルギー移動効率を評価することができる有機EL素子の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を鑑みて、Dexterエネルギー移動効率を評価すべく、有機EL素子の発光効率の指標として用いられる外部量子効率とDexterエネルギー移動効率との関係に着目して、以下に示すように、検討を重ねた。
例えば、発光層の材料のみが異なる複数の有機EL素子を製造し、発光効率の指標として各有機EL素子の外部量子効率を測定しても、有機EL素子間の外部量子効率の差は、Dexterエネルギー移動効率の差と相関関係にはならない。
【0012】
従来、外部量子効率など有機EL素子の特性を評価する際に作製している評価用の有機EL素子では、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率を6重量%程度としていた。しかし、上記の混合比率が6重量%である場合には、電極から供給された電荷の一部がゲスト材料にトラップされて、直接ゲスト材料の励起状態を生成してしまうことによる外部量子効率への影響が大きかった。このため、有機EL素子の外部量子効率の差に基づいて、Dexterエネルギー移動効率の差を見積もることはできなかった。
そこで、本発明者は、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率を0.1〜3重量%とした。このことにより、ゲスト材料による発光機能を確保しつつ、電荷をトラップして生成する励起状態のゲスト材料を十分に少なくでき、発光層内で生成する励起状態を全てホスト材料の励起状態によるものとみなすことができる。
【0013】
さらに、本発明者は、Forsterエネルギー移動効率による外部量子効率への影響を最小限とするべく、ホスト材料とゲスト材料との組み合わせとして、一重項励起状態(S1)のエネルギーが極めて近い組み合わせを用いた。さらに、ホスト材料の三重項励起状態(T1)のエネルギーを、ゲスト材料の三重項励起状態(T1)のエネルギーよりも大きくした。これらのことにより、Forsterエネルギー移動効率が極めて低くなり、得られた素子の外部量子効率はDexterエネルギー移動効率を反映するものとなる。
【0014】
そして、本発明者らは、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率を0.1〜3重量%とし、ホスト材料のSのエネルギーと、ゲスト材料のSのエネルギーとを同程度にするとともに、ホスト材料のTのエネルギーを、ゲスト材料のTのエネルギーよりも大きくすることで、有機EL素子の外部量子効率にDexterエネルギー移動効率が反映されるものとなり、外部量子効率を測定した結果に基づいて、Dexterエネルギー移動効率を評価できることに想到し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の発明に関わるものである。
(1) 一対の電極間に発光層を有し、前記発光層がリン光発光するゲスト材料とホスト材料とからなる有機エレクトロルミネッセンス素子のDexterエネルギー移動効率を評価する評価方法であり、
前記発光層に含まれる前記ゲスト材料の混合比率が0.1〜3重量%であり、
前記一対の電極から供給された正孔と電子とが、主に前記ホスト材料で再結合して励起状態を生成するものであり、
前記ホスト材料の一重項励起状態のエネルギーと、前記ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーとが同程度であり、前記ホスト材料の三重項励起状態のエネルギーが、前記ゲスト材料の三重項励起状態のエネルギーよりも大きく、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率を測定した結果に基づいて、前記Dexterエネルギー移動効率を評価することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法。
【0016】
(2) 前記有機エレクトロルミネッセンス素子として、前記発光層の材料のみ異なる複数の評価用有機エレクトロルミネッセンス素子を製造し、各評価用有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率を測定する工程と、
前記複数の評価用有機エレクトロルミネッセンス素子のうち、前記外部量子効率の高いものを、前記Dexterエネルギー移動効率の高いものと評価する工程とを備えることを特徴とする(1)に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、評価する有機EL素子において、発光層内で電荷をトラップして生成する励起状態のゲスト材料を十分に少なくするとともに、外部量子効率に対するForsterエネルギー移動効率の影響を最小限としたので、有機EL素子の外部量子効率を測定した結果に基づいて、Dexterエネルギー移動効率を評価できる。すなわち、有機EL素子の外部量子効率とDexterエネルギー移動効率とが略比例関係であるものとみなすことができ、外部量子効率の高いものを、Dexterエネルギー移動効率が高いものと評価できる。
【0018】
また、本発明の評価方法において、発光層の材料のみが異なる複数の評価用有機EL素子を製造し、各評価用有機ELの素子の外部量子効率を測定した場合、複数の評価用有機EL素子のうち外部量子効率の高いものを、Dexterエネルギー移動効率の高いものと評価できる。
【0019】
本発明によれば、外部量子効率の高いと評価された有機EL素子に使用したホスト材料とゲスト材料との組み合わせを、Dexterエネルギー移動効率が高い発光層の得られるホスト材料とゲスト材料との組み合わせとして選択できる。したがって、Dexterエネルギー移動効率が高い発光層の得られるホスト材料とゲスト材料との組み合わせを用いて、発光効率の高い有機EL素子を得ることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)は、Bebq2とBAlqの蛍光スペクトル・リン光スペクトルおよびm−PF−pyの吸収スペクトルを示したグラフであり、図1(b)は、Bebq2にm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜(Bebq2:m−PF−py膜)と、BAlqにm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜(BAlq:m−PF−py膜)の光励起スペクトルと発光スペクトルを示したグラフである。
図2図2は、評価用有機EL素子Aを示した断面構成図である。
図3図3(a)は、評価用有機EL素子Aおよび評価用有機EL素子Bの電流密度と印加電力との関係を示したグラフであり、図3(b)は、評価用有機EL素子Aおよび評価用有機EL素子Bの電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図4図4(a)は、評価用有機EL素子Aにおけるエネルギー移動を説明するための模式図であり、図4(b)は、評価用有機EL素子Bにおけるエネルギー移動を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の有機EL素子の評価方法について、例を挙げて詳細に説明する。
本実施形態の有機EL素子の評価方法は、一対の電極間に発光層を有し、発光層がリン光発光するゲスト材料とホスト材料とからなる有機EL素子のDexterエネルギー移動効率を評価する評価方法である。
【0022】
本実施形態の有機EL素子の評価方法では、有機EL素子の外部量子効率を測定した結果に基づいて、Dexterエネルギー移動効率を評価する。
外部量子効率は、内部量子効率と光取り出し効率の積で表されるものであり、有機EL素子に電極から注入した電子数に対して素子の外部に放射された光子数を百分率(%)で表現したものである。外部量子効率の測定方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0023】
本実施形態の有機EL素子の評価方法では、有機EL素子として、発光層の材料のみ異なる複数の評価用有機EL素子を製造し、各評価用有機EL素子の外部量子効率を測定する工程と、複数の評価用有機EL素子のうち、外部量子効率の高いものを、Dexterエネルギー移動効率の高いものと評価する工程とを備えることが好ましい。発光層の材料のみ異なる複数の評価用有機EL素子としては、例えば、ホスト材料のみ異なる複数のものであってもよいし、ゲスト材料のみ異なる複数のものであってもよいし、ゲスト材料とホスト材料の両方が異なる複数のものであってもよい。
【0024】
本実施形態の評価方法を用いて評価する有機EL素子は、一対の電極から供給された正孔と電子とが、主にホスト材料で再結合して励起状態を生成するものである。本実施形態の評価方法を用いて評価する有機EL素子は、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率が0.1〜3重量%であるものである。発光層に含まれるゲスト材料の混合比率は、0.5〜1重量%であることが好ましい。上記混合比率が、0.1重量%以上であると、ゲスト材料による発光機能が得られる。また、上記混合比率が、3重量%以下であると、発光層内で電荷をトラップして生成する励起状態のゲスト材料を十分に少なくして、外部量子効率に基づきDexterエネルギー移動効率の高低の評価が可能になる。さらに、上記混合比率が1重量%以下であると、発光層内で電荷をトラップして生成する励起状態のゲスト材料をより一層少なくでき、本実施形態の評価方法による評価結果の信頼性がより一層向上する。
【0025】
また、本実施形態の評価方法を用いて評価する有機EL素子は、ホスト材料の一重項励起状態(S)のエネルギーと、ゲスト材料の一重項励起状態(S)のエネルギーとが同程度であり、ホスト材料の三重項励起状態(T)のエネルギーが、ゲスト材料の三重項励起状態(T)のエネルギーよりも大きいものである。このことにより、本実施形態においては、測定した外部量子効率の結果におけるForsterエネルギー移動効率の影響を極力抑えている。
【0026】
本実施形態において、ホスト材料の一重項励起状態のエネルギーと、ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーとが同程度であるとは、エネルギー差が0.1eV以下であることを意味する。エネルギー差が0.1eVを超えると、Forsterエネルギー移動効率が高くなり、得られた素子の外部量子効率におけるForsterエネルギー移動の影響が大きくなって、外部量子効率がDexterエネルギー移動効率を反映したものとは言えなくからである。
【0027】
ホスト材料の三重項励起状態のエネルギーは、Dexterエネルギー移動が生じればよいので、ゲスト材料の三重項励起状態のエネルギーよりも大きいものであればよい。ホスト材料とゲスト材料との三重項励起状態のエネルギーの差は、0.05〜0.3eVであることが好ましい。三重項励起状態のエネルギーの差が上記範囲であると、ゲスト材料の三重項励起状態の吸収スペクトルとホスト材料のリン光スペクトルの重なりが大きくなり、外部量子効率がDexterエネルギー移動効率をより的確に反映したものとなるため好ましい。
【0028】
本実施形態の評価方法を用いて評価される有機EL素子において使用されるゲスト材料およびホスト材料は、ホスト材料の一重項励起状態のエネルギーと、ゲスト材料の一重項励起状態のエネルギーとが同程度であり、ホスト材料の三重項励起状態のエネルギーが、ゲスト材料の三重項励起状態のエネルギーよりも大きいという関係を満たすものが用いられ、評価の目的に応じて適宜選択する。
例えば、ゲスト材料(またはホスト材料)として、有機EL素子の発光効率の向上が期待できるものなど予め決定された特定の材料を用いる場合、ホスト材料(またはゲスト材料)として、ゲスト材料(またはホスト材料)との上記関係を満たす材料を選択して用いる。
【0029】
本実施形態の評価方法を用いて評価される有機EL素子において使用されるゲスト材料としては、リン光発光するものであり、例えば、下記一般式(1)に示されるm−PF−py、一般式(2)に示されるイリジウムトリス(1−フェニルイソキノリン)(Ir(piq))などを用いることができる。
【0030】
【化1】
【0031】
【化2】
【0032】
また、本実施形態の評価方法を用いて評価される有機EL素子において使用されるホスト材料としては、例えば、下記一般式(3)に示されるビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(Bebq2)などを用いることが好ましい。これらのホスト材料を用いた場合、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率を3重量%以下に低くしても、高い発光効率を有する素子が得られる(例えば、非特許文献2参照)。このため、これらのホスト材料を用いた場合、本実施形態の評価方法を用いてDexterエネルギー移動効率を評価できる。
【0033】
【化3】
【0034】
本実施形態において、例えば、有機EL素子において使用されるゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2や下記一般式(4)に示されるBAlqを用いた場合、ホスト材料のSのエネルギーと、ゲスト材料のSのエネルギーとが同程度となるとともに、ホスト材料のTのエネルギーが、ゲスト材料のTのエネルギーよりも大きくなる。
【0035】
【化4】
【実施例】
【0036】
以下に示す複数の評価用有機EL素子を製造し、Dexterエネルギー移動効率を評価した。
「発光層の材料」
評価用有機EL素子の発光層の材料には、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2またはBAlqを用いた。
以下に示すように、評価用有機EL素子の発光層に使用したホスト材料(Bebq2またはBAlq)のSのエネルギーと、ゲスト材料(m−PF−py)のSのエネルギーとは同程度であり、ホスト材料のTのエネルギーは、ゲスト材料のTのエネルギーよりも大きいものであり、発光層はForsterエネルギー移動効率が低いものである。
【0037】
図1(a)は、Bebq2とBAlqの蛍光スペクトル・リン光スペクトルおよびm−PF−pyの吸収スペクトルを示したグラフである。
図1(a)に示す材料のリン光スペクトルから分かる通り、Bebq2とBAlqとは同程度の三重項励起状態エネルギーを有している。
【0038】
また、図1(a)に示すBebq2とBAlqの蛍光スペクトルと、m−PF−pyのMLCT(Metal to rigand charge transfer)吸収との相関関係から分かるように、Bebq2の一重項励起状態(S)のエネルギーは、m−PF−pyのそれよりわずかに小さく、BAlqの一重項励起状態(S)のエネルギーはm−PF−pyのそれよりわずかに大きい。
したがって、ホスト材料(Bebq2またはBAlq)のSのエネルギーと、ゲスト材料(m−PF−py)のSのエネルギーとは同程度である。
【0039】
また、図1(b)は、Bebq2にm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜(Bebq2:m−PF−py膜)と、BAlqにm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜(BAlq:m−PF−py膜)の光励起スペクトルと発光スペクトルを示したグラフである。
図1(b)に示す光励起スペクトルと発光スペクトルとを用いて、フォトルミネッセンス (PL) 分光法により発光量子効率を算出すると、Bebq2:m−PF−py膜では19%であり、BAlq:m−PF−py膜では21%であった。このことは、以下に説明するように、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2またはBAlqを用いた場合のForsterエネルギー移動効率は低いことを示していると考えられる。
【0040】
ホスト材料であるCBP(4、4´−Bis(carbazol−9−yl)biphenyl)にm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜の発光量子収率は85%程度である。ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2またはBAlqを用いた場合に、高効率なForsterエネルギー移動が起こるのであれば、上記のBebq2:m−PF−py膜およびBAlq:m−PF−py膜においても、CBPにm−PF−pyを混合した材料からなる膜と同程度の発光量子収率が得られると考えられる。しかし、上記のBebq2:m−PF−py膜およびBAlq:m−PF−py膜の発光量子収率は、CBPにm−PF−pyを混合した材料からなる膜と比較して大幅に低くなっている。
また、Bebq2薄膜の発光量子効率は25%程度である。上記のBebq2:m−PF−py膜の発光量子効率(19%)は、Bebq2薄膜の発光量子効率よりも低い。このことからも、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2を用いた場合のForsterエネルギー移動効率は低いものと考えられる。
【0041】
「評価用有機EL素子A」
図2は、評価用有機EL素子Aを示した断面構成図である。図2に示すように、評価用有機EL素子Aは、基板1と、透明電極2と、正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6と、電子注入層8と、電極層7とを有している。
【0042】
評価用有機EL素子Aは、以下に示す方法により製造した。すなわち、基板1上に、ITO(酸化インジウム錫)からなる透明電極2と、下記一般式(5)に示されるPEDOT:PSSからなる厚み30nmの正孔注入層3と、下記一般式(6)に示されるNPDからなる厚み40nmの正孔輸送層4と、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2を用い、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率を1重量%とした35nm発光層5と、下記一般式(7)に示されるTPBIからなる厚み40nmの電子輸送層6と、LiF膜からなる厚み1nmの電子注入層8と、Al膜からなる電極層7とを公知の方法により順に形成した。
【0043】
【化5】
【0044】
【化6】
【0045】
【化7】
【0046】
「評価用有機EL素子B」
ホスト材料をBAlqに代えたこと以外は、評価用有機EL素子Aと同様にして、評価用有機EL素子Bを形成した。
【0047】
得られた評価用有機EL素子Aおよび評価用有機EL素子Bについて、電流密度と印加電力との関係および電流密度と外部量子効率との関係を調べた。その結果を図3(a)および図3(b)に示す。また、図4(a)は、評価用有機EL素子Aにおけるエネルギー移動を説明するための模式図であり、図4(b)は、評価用有機EL素子Bにおけるエネルギー移動を説明するための模式図である。
【0048】
図3(a)に示すように、Bebq2をホスト材料に用いた評価用有機EL素子Aは、評価用有機EL素子Bと比較して低い駆動電圧で動作していることが分かる。これはBebq2・BAlqともに電子輸送性の材料であるが、Bebq2の方が高い電子輸送性を有しているためであると考えられる(例えば、非特許文献3および非特許文献4参照)。
【0049】
また、図3(b)に示すように、評価用有機EL素子Aは、評価用有機EL素子Bと比較して、外部量子効率が大幅に高いことが分かる。
評価用有機EL素子Aおよび評価用有機EL素子Bでは、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率が1重量%であり、図1(a)、図4(a)および図4(b)に示すように、ホスト材料のSのエネルギーと、ゲスト材料のSのエネルギーとが同程度であるとともに、ホスト材料のTのエネルギーが、ゲスト材料のTのエネルギーよりも大きく、Forsterエネルギー移動効率が低い。
このため、評価用有機EL素子Aと評価用有機EL素子Bとの外部量子効率の差は、Dexterエネルギー移動効率の差によるものと考えられる。
【0050】
したがって、評価用有機EL素子Aでは、ホスト材料であるBebq2とゲスト材料であるm−PF−pyとの間のDexterエネルギー移動効率が高く、評価用有機EL素子Bでは、評価用有機EL素子Aと比較して、ホスト材料であるBAlqとゲスト材料であるm−PF−pyとの間のDexterエネルギー移動効率が低いと考えられる。この結果から、Bebq2の方がBAlqよりもDexterエネルギー移動効率が高いホスト材料であると評価することができる。
【0051】
「評価用有機EL素子C」
ゲスト材料をイリジウムトリス(1−フェニルイソキノリン)(Ir(piq))に代えたこと以外は、評価用有機EL素子Aと同様にして、評価用有機EL素子Cを形成した。
「評価用有機EL素子D」
ゲスト材料をイリジウムトリス(1−フェニルイソキノリン)(Ir(piq))に代えたこと以外は、評価用有機EL素子Bと同様にして、評価用有機EL素子Dを形成した。
【0052】
このようにして得られた評価用有機EL素子Cおよび評価用有機EL素子Dについて、外部量子効率を調べた。その結果、評価用有機EL素子Cでは、15%以上の外部量子効率が得られ、評価用有機EL素子Dでは、12%程度の外部量子効率に留まった(例えば、非特許文献2および非特許文献5参照)。
評価用有機EL素子Cおよび評価用有機EL素子Dでは、ホスト材料のSのエネルギーと、ゲスト材料のSのエネルギーとが同程度であるとともに、ホスト材料のTのエネルギーが、ゲスト材料のTのエネルギーよりも大きいため、外部量子効率の差は、Dexterエネルギー移動効率の差によるものと考えられる。
この結果も、Bebq2の方がBAlqよりもDexterエネルギー移動効率が高いホスト材料であるという上記の評価の信頼性を裏付けるものである。
【0053】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法は、Dexterエネルギー移動効率の高い材料の探索、あるいは、Dexterエネルギー移動効率の高いホスト材料とゲスト材料の組み合わせの探索に道を開くものである。
【符号の説明】
【0054】
1:基板、2:透明電極、3:正孔注入層、4:正孔輸送層、5:発光層、6:電子輸送層、7:電極層、8:電子注入層。
図1
図2
図3
図4