【実施例】
【0036】
以下に示す複数の評価用有機EL素子を製造し、Dexterエネルギー移動効率を評価した。
「発光層の材料」
評価用有機EL素子の発光層の材料には、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2またはBAlqを用いた。
以下に示すように、評価用有機EL素子の発光層に使用したホスト材料(Bebq2またはBAlq)のS
1のエネルギーと、ゲスト材料(m−PF−py)のS
1のエネルギーとは同程度であり、ホスト材料のT
1のエネルギーは、ゲスト材料のT
1のエネルギーよりも大きいものであり、発光層はForsterエネルギー移動効率が低いものである。
【0037】
図1(a)は、Bebq2とBAlqの蛍光スペクトル・リン光スペクトルおよびm−PF−pyの吸収スペクトルを示したグラフである。
図1(a)に示す材料のリン光スペクトルから分かる通り、Bebq2とBAlqとは同程度の三重項励起状態エネルギーを有している。
【0038】
また、
図1(a)に示すBebq2とBAlqの蛍光スペクトルと、m−PF−pyの
1MLCT(Metal to rigand charge transfer)吸収との相関関係から分かるように、Bebq2の一重項励起状態(S
1)のエネルギーは、m−PF−pyのそれよりわずかに小さく、BAlqの一重項励起状態(S
1)のエネルギーはm−PF−pyのそれよりわずかに大きい。
したがって、ホスト材料(Bebq2またはBAlq)のS
1のエネルギーと、ゲスト材料(m−PF−py)のS
1のエネルギーとは同程度である。
【0039】
また、
図1(b)は、Bebq2にm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜(Bebq2:m−PF−py膜)と、BAlqにm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜(BAlq:m−PF−py膜)の光励起スペクトルと発光スペクトルを示したグラフである。
図1(b)に示す光励起スペクトルと発光スペクトルとを用いて、フォトルミネッセンス (PL) 分光法により発光量子効率を算出すると、Bebq2:m−PF−py膜では19%であり、BAlq:m−PF−py膜では21%であった。このことは、以下に説明するように、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2またはBAlqを用いた場合のForsterエネルギー移動効率は低いことを示していると考えられる。
【0040】
ホスト材料であるCBP(4、4´−Bis(carbazol−9−yl)biphenyl)にm−PF−pyを1重量%混合した材料からなる膜の発光量子収率は85%程度である。ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2またはBAlqを用いた場合に、高効率なForsterエネルギー移動が起こるのであれば、上記のBebq2:m−PF−py膜およびBAlq:m−PF−py膜においても、CBPにm−PF−pyを混合した材料からなる膜と同程度の発光量子収率が得られると考えられる。しかし、上記のBebq2:m−PF−py膜およびBAlq:m−PF−py膜の発光量子収率は、CBPにm−PF−pyを混合した材料からなる膜と比較して大幅に低くなっている。
また、Bebq2薄膜の発光量子効率は25%程度である。上記のBebq2:m−PF−py膜の発光量子効率(19%)は、Bebq2薄膜の発光量子効率よりも低い。このことからも、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2を用いた場合のForsterエネルギー移動効率は低いものと考えられる。
【0041】
「評価用有機EL素子A」
図2は、評価用有機EL素子Aを示した断面構成図である。
図2に示すように、評価用有機EL素子Aは、基板1と、透明電極2と、正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6と、電子注入層8と、電極層7とを有している。
【0042】
評価用有機EL素子Aは、以下に示す方法により製造した。すなわち、基板1上に、ITO(酸化インジウム錫)からなる透明電極2と、下記一般式(5)に示されるPEDOT:PSSからなる厚み30nmの正孔注入層3と、下記一般式(6)に示されるNPDからなる厚み40nmの正孔輸送層4と、ゲスト材料としてm−PF−pyを用い、ホスト材料としてBebq2を用い、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率を1重量%とした35nm発光層5と、下記一般式(7)に示されるTPBIからなる厚み40nmの電子輸送層6と、LiF膜からなる厚み1nmの電子注入層8と、Al膜からなる電極層7とを公知の方法により順に形成した。
【0043】
【化5】
【0044】
【化6】
【0045】
【化7】
【0046】
「評価用有機EL素子B」
ホスト材料をBAlqに代えたこと以外は、評価用有機EL素子Aと同様にして、評価用有機EL素子Bを形成した。
【0047】
得られた評価用有機EL素子Aおよび評価用有機EL素子Bについて、電流密度と印加電力との関係および電流密度と外部量子効率との関係を調べた。その結果を
図3(a)および
図3(b)に示す。また、
図4(a)は、評価用有機EL素子Aにおけるエネルギー移動を説明するための模式図であり、
図4(b)は、評価用有機EL素子Bにおけるエネルギー移動を説明するための模式図である。
【0048】
図3(a)に示すように、Bebq2をホスト材料に用いた評価用有機EL素子Aは、評価用有機EL素子Bと比較して低い駆動電圧で動作していることが分かる。これはBebq2・BAlqともに電子輸送性の材料であるが、Bebq2の方が高い電子輸送性を有しているためであると考えられる(例えば、非特許文献3および非特許文献4参照)。
【0049】
また、
図3(b)に示すように、評価用有機EL素子Aは、評価用有機EL素子Bと比較して、外部量子効率が大幅に高いことが分かる。
評価用有機EL素子Aおよび評価用有機EL素子Bでは、発光層に含まれるゲスト材料の混合比率が1重量%であり、
図1(a)、
図4(a)および
図4(b)に示すように、ホスト材料のS
1のエネルギーと、ゲスト材料のS
1のエネルギーとが同程度であるとともに、ホスト材料のT
1のエネルギーが、ゲスト材料のT
1のエネルギーよりも大きく、Forsterエネルギー移動効率が低い。
このため、評価用有機EL素子Aと評価用有機EL素子Bとの外部量子効率の差は、Dexterエネルギー移動効率の差によるものと考えられる。
【0050】
したがって、評価用有機EL素子Aでは、ホスト材料であるBebq2とゲスト材料であるm−PF−pyとの間のDexterエネルギー移動効率が高く、評価用有機EL素子Bでは、評価用有機EL素子Aと比較して、ホスト材料であるBAlqとゲスト材料であるm−PF−pyとの間のDexterエネルギー移動効率が低いと考えられる。この結果から、Bebq2の方がBAlqよりもDexterエネルギー移動効率が高いホスト材料であると評価することができる。
【0051】
「評価用有機EL素子C」
ゲスト材料をイリジウムトリス(1−フェニルイソキノリン)(Ir(piq)
3)に代えたこと以外は、評価用有機EL素子Aと同様にして、評価用有機EL素子Cを形成した。
「評価用有機EL素子D」
ゲスト材料をイリジウムトリス(1−フェニルイソキノリン)(Ir(piq)
3)に代えたこと以外は、評価用有機EL素子Bと同様にして、評価用有機EL素子Dを形成した。
【0052】
このようにして得られた評価用有機EL素子Cおよび評価用有機EL素子Dについて、外部量子効率を調べた。その結果、評価用有機EL素子Cでは、15%以上の外部量子効率が得られ、評価用有機EL素子Dでは、12%程度の外部量子効率に留まった(例えば、非特許文献2および非特許文献5参照)。
評価用有機EL素子Cおよび評価用有機EL素子Dでは、ホスト材料のS
1のエネルギーと、ゲスト材料のS
1のエネルギーとが同程度であるとともに、ホスト材料のT
1のエネルギーが、ゲスト材料のT
1のエネルギーよりも大きいため、外部量子効率の差は、Dexterエネルギー移動効率の差によるものと考えられる。
この結果も、Bebq2の方がBAlqよりもDexterエネルギー移動効率が高いホスト材料であるという上記の評価の信頼性を裏付けるものである。
【0053】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の評価方法は、Dexterエネルギー移動効率の高い材料の探索、あるいは、Dexterエネルギー移動効率の高いホスト材料とゲスト材料の組み合わせの探索に道を開くものである。