(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[電荷輸送性物質]
本発明の電荷輸送性ワニスは、式(1)で表されるN,N'−ジアリールベンジジン誘導体からなる電荷輸送性物質を含む。なお、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性と同義である。また、本発明の電荷輸送性ワニスは、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、ワニスを使用して得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。
【0013】
式(1)において、R
1〜R
8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基又は炭素数2〜20のアルキニル基を表す。
【0014】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
炭素数1〜20のアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等の炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の炭素数3〜20の環状アルキル基が挙げられる。
【0015】
炭素数2〜20のアルケニル基の具体例としては、エテニル基、n−1−プロペニル基、n−2−プロペニル基、1−メチルエテニル基、n−1−ブテニル基、n−2−ブテニル基、n−3−ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−エチルエテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、n−1−ペンテニル基、n−1−デセニル基、n−1−エイコセニル基等が挙げられる。
【0016】
炭素数2〜20のアルキニル基の具体例としては、エチニル基、n−1−プロピニル基、n−2−プロピニル基、n−1−ブチニル基、n−2−ブチニル基、n−3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、n−1−ペンチニル基、n−2−ペンチニル基、n−3−ペンチニル基、n−4−ペンチニル基、1−メチル−n−ブチニル基、2−メチル−n−ブチニル基、3−メチル−n−ブチニル基、1,1−ジメチル−n−プロピニル基、n−1−ヘキシニル、n−1−デシニル基、n−1−ペンタデシニル基、n−1−エイコシニル基等が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、R
1〜R
8は、水素原子、フッ素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はフッ素原子であることがより好ましいが、全て水素原子であることが最適である。
【0018】
式(1)において、Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立して、式(2)又は(3)で表される基を表す。
【0020】
式(2)及び(3)において、R
9〜R
18は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基又は炭素数2〜20のアルキニル基を表す。これらの中でも、R
9〜R
18は、水素原子、フッ素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はフッ素原子であることがより好ましいが、全て水素原子であることが最適である。
【0021】
X
1及びX
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、ジフェニルアミノ基、1−ナフチルフェニルアミノ基、2−ナフチルフェニルアミノ基、ジ(1−ナフチル)アミノ基、ジ(2−ナフチル)アミノ基又は1−ナフチル−2−ナフチルアミノ基を表す。これらの中でも、X
1及びX
2は、水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、ジフェニルアミノ基、1−ナフチルフェニルアミノ基、2−ナフチルフェニルアミノ基、ジ(1−ナフチル)アミノ基、ジ(2−ナフチル)アミノ基又は1−ナフチル−2−ナフチルアミノ基であることが好ましく、水素原子、ジフェニルアミノ基、1−ナフチルフェニルアミノ基、2−ナフチルフェニルアミノ基、ジ(1−ナフチル)アミノ基、ジ(2−ナフチル)アミノ基又は1−ナフチル−2−ナフチルアミノ基であることがより好ましく、水素原子又はジフェニルアミノ基であることがより一層好ましい。
【0022】
なお、R
9〜R
18、X
1及びX
2で表されるハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基としては、R
1〜R
8として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0023】
本発明で用いるN,N'−ジアリールベンジジン誘導体の分子量は、通常200〜5,000であるが、溶解性を高める観点から、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下である。
【0024】
本発明においては、N,N'−ジアリールベンジジン誘導体は、市販品を用いてよく、公知の方法(例えば、Thin Solid Films, 520 (24), pp. 7157-7163, (2012)に記載の方法)や後述の方法で合成したものを用いてもよいが、いずれの場合も電荷輸送性ワニスを調製する前に、再結晶や蒸着法等によって精製したものを用いることが好ましい。精製したものを用いることで、当該ワニスから得られた薄膜を備えた有機EL素子の特性をより高めることができる。再結晶にて精製する場合、溶媒としては、例えば、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0025】
式(1)で表されるN,N'−ジアリールベンジジン誘導体は、例えば、式(4)で表されるビフェニル化合物と式(5)で表される芳香族アミン化合物とを反応させることで得ることができる。
【0026】
【化5】
(式中、R
1〜R
8は上記と同じ。Ar
3は上記Ar
1及びAr
2と同じ。Yは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。)
【0027】
式(4)で表されるビフェニル化合物としては、4,4'−ジクロロビフェニル、4,4'−ジブロモビフェニル、4,4'−ジヨードビフェニル、4−クロロ−4'−ブロモビフェニル、4−クロロ−4'−ヨードビフェニル、4−ブロモ−4'−ヨードビフェニル等が挙げられる。
【0028】
式(5)で表される芳香族アミン化合物としては、アニリン、1−ナフチルアミン、4−(ジフェニルアミノ)アニリン、4−ジフェニルアミノ−1−ナフチルアミン等が挙げられる。
【0029】
式(4)で表されるビフェニル化合物と式(5)で表される芳香族アミン化合物との仕込み比は、ビフェニル化合物1molに対し芳香族アミン化合物1.8〜4.0mol程度とすることができるが、2.0〜3.0mol程度が好適である。
【0030】
上記反応に用いられる触媒としては、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等の銅触媒、Pd(PPh
3)
4(テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム)、Pd(PPh
3)
2Cl
2(ビス(トリフェニルホスフィン)ジクロロパラジウム)、Pd(dba)
2(ビス(ベンジリデンアセトン)パラジウム)、Pd
2(dba)
3(トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム)、Pd(P−t−Bu
3)
2(ビス(トリ(t−ブチルホスフィン)パラジウム))等のパラジウム触媒等が挙げられる。これらの触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、これらの触媒は適切な配位子とともに使用してもよい。
【0031】
触媒の使用量は、ビフェニル化合物1molに対して0.001〜0.5mol程度とすることができるが、0.01〜0.2mol程度が好適である。
【0032】
上記反応は溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、反応に悪影響を及ぼさないものであれば、いかなる溶媒を用いてもよい。溶媒の具体例としては、脂肪族炭化水素類(ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、デカリン等)、ハロゲン化脂肪族炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、メシチレン等)、ハロゲン化芳香族炭化水素類(クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、ラクタム及びラクトン類(N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等)、尿素類(N,N−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチルウレア等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド、スルホラン等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等)等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0033】
反応温度は、用いる溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよいが、特に、0〜200℃程度が好ましく、20〜150℃がより好ましい。
反応終了後は、常法に従って後処理をし、目的とするN,N'−ジアリールベンジジン誘導体を得ることができる。
【0034】
本発明において、特に好適なN,N'−ジアリールベンジジン誘導体としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
[電荷受容性ドーパント]
本発明の電荷輸送性ワニスは、ヘテロポリ酸からなる電荷受容性ドーパントを含む。ヘテロポリ酸とは、代表的に式(A)で表されるKeggin型又は式(B)で表されるDawson型の化学構造で示される、ヘテロ原子が分子の中心に位置する構造を有し、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等のオキソ酸であるイソポリ酸と異種元素のオキソ酸とが縮合してなるポリ酸である。このような異種元素のオキソ酸としては、主にケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)のオキソ酸が挙げられる。
【0038】
ヘテロポリ酸は市販品として入手可能である。また、ヘテロポリ酸は公知の方法により合成してもよい。
【0039】
ヘテロポリ酸の具体例としては、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸等が挙げられる。ヘテロポリ酸は1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
とりわけ、電荷受容性ドーパントが1種類のヘテロポリ酸単独からなる場合、その1種類のヘテロポリ酸は、リンタングステン酸又はリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。
【0041】
また、電荷受容性ドーパントが、2種類以上のヘテロポリ酸からなる場合も、その2種類以上のヘテロポリ酸のうち少なくとも1種は、リンタングステン酸又はリンモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸が最適である。
【0042】
本発明においては、ヘテロポリ酸、好ましくはリンタングステン酸を、質量比で、電荷輸送性物質1に対して1.0〜11.0程度、好ましくは2.5〜9.0程度、より好ましくは3.0〜7.0程度とすることで、有機EL素子に用いた場合に高輝度を与える電荷輸送性薄膜を再現性よく得ることができる。すなわち、本発明の電荷輸送性ワニスは、N,N'−ジアリールベンジジン誘導体の質量(W
H)に対するヘテロポリ酸の質量(W
D)の比が、1.0≦W
D/W
H≦11.0、好ましくは2.5≦W
D/W
H≦9.0、より好ましくは3.0≦W
D/W
H≦7.0を満たす。
【0043】
なお、本発明の電荷輸送性ワニスには、上述したN,N'−ジアリールベンジジン誘導体やヘテロポリ酸のほかに、公知のその他の電荷輸送性物質や電荷受容性ドーパントを用いることもできる。
【0044】
[有機溶媒]
本発明の電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる有機溶媒としては、電荷輸送性物質及び電荷受容性ドーパントを良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。このような高溶解性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で又は2種以上混合して用いることができ、その使用量は、ワニスに使用する溶媒全体に対して5〜100質量%とすることができる。なお、電荷輸送性物質及び電荷受容性ドーパントは、いずれも上記溶媒に完全に溶解しているか、均一に分散している状態となっていることが好ましい。
【0045】
また、本発明の電荷輸送性ワニスは、25℃で10〜200mPa・s、特に35〜150mPa・sの粘度を有し、常圧(大気圧)で沸点50〜300℃、特に150〜250℃の高粘度有機溶媒を少なくとも1種含有してもよい。これによって、ワニスの粘度の調整が容易になり、その結果、平坦性の高い薄膜を再現性よく与える、用いる塗布方法に応じたワニス調製が可能となる。
【0046】
高粘度有機溶媒としては、シクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0047】
本発明のワニスに用いられる溶媒全体に対する高粘度有機溶媒の添加割合は、固体が析出しない範囲内であることが好ましく、固体が析出しない限りにおいて、添加割合は、5〜80質量%が好ましい。
【0048】
更に、基板に対する濡れ性の向上、溶媒の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、その他の溶媒をワニスに使用する溶媒全体に対して1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%の割合で混合することもできる。
【0049】
その他の溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン、エチルラクテート、n−ヘキシルアセテート等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの溶媒は1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0050】
本発明のワニスの粘度は、作製する薄膜の厚み等や固形分濃度に応じて適宜設定されるものではあるが、通常、25℃で1〜50mPa・sである。
【0051】
また、本発明における電荷輸送性ワニスの固形分濃度は、ワニスの粘度及び表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものではあるが、通常、0.1〜10.0質量%程度であり、ワニスの塗布性を向上させることを考慮すると、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜3.0質量%である。
【0052】
[電荷輸送性薄膜]
本発明の電荷輸送性ワニスを基材上に塗布して焼成することで、基材上に電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
【0053】
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられ、塗布方法に応じてワニスの粘度及び表面張力を調節することが好ましい。
【0054】
また、本発明のワニスを用いる場合、焼成雰囲気も特に限定されるものではなく、大気雰囲気だけでなく、窒素等の不活性ガスや真空中でも均一な成膜面及び高い電荷輸送性を有する薄膜を得ることが可能である。
【0055】
焼成温度は、得られる薄膜の用途、得られる薄膜に付与する電荷輸送性の程度等を勘案して、概ね100〜260℃の範囲内で適宜設定されるものではあるが、得られる薄膜を有機EL素子の正孔注入層として用いる場合、140〜250℃程度が好ましく、145〜240℃程度がより好ましい。なお、焼成の際、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよい。加熱は、例えばホットプレートやオーブン等適当な機器を用いて行えばよい。
【0056】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子内で正孔注入層として用いる場合、5〜200nmが好ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0057】
[有機EL素子]
本発明の電荷輸送性ワニスを用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にUVオゾン処理、酸素−プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくてもよい。
【0059】
本発明の電荷輸送性ワニスから得られる薄膜からなる正孔注入層を有するOLED素子の作製方法の例は、以下のとおりである。
【0060】
上記の方法により、陽極基板上に本発明の電荷輸送性ワニスを塗布して焼成し、電極上に正孔注入層を作製する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。発光領域をコントロールするために任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
【0061】
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
【0062】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、N,N'−ジ(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー(Spiro−TAD)等のトリアリールアミン類、4,4',4''−トリス[3−メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4',4''−トリス[1−ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1−TNATA)等のスターバーストアミン類、5,5''−ビス−{4−[ビス(4−メチルフェニル)アミノ]フェニル}−2,2':5',2''−ターチオフェン(BMA−3T)等のオリゴチオフェン類等が挙げられる。
【0063】
発光層を形成する材料としては、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq
3)、ビス(8−キノリノラート)亜鉛(II)(Znq
2)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)及び4,4'−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、電子輸送材料又は正孔輸送材料と発光性ドーパントとを共蒸着することによって、発光層を形成してもよい。
【0064】
電子輸送材料としては、Alq
3、BAlq、DPVBi、2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、シロール誘導体等が挙げられる。
【0065】
発光性ドーパントとしては、キナクリドン、ルブレン、クマリン540、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)
3)、(1,10−フェナントロリン)−トリス(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオナート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)
3phen)等が挙げられる。
【0066】
キャリアブロック層を形成する材料としては、PBD、TAZ、BCP等が挙げられる。
【0067】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li
2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al
2O
3)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化ストロンチウム(SrF
2)、Liq、Li(acac)、酢酸リチウム、安息香酸リチウム等が挙げられる。
【0068】
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。
【0069】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いたPLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
【0070】
上記OLED素子作製において、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、正孔輸送性高分子層、発光性高分子層を順次形成することによって本発明の電荷輸送性ワニスによって形成される電荷輸送性薄膜を有するPLED素子を作製することができる。具体的には、陽極基板上に本発明の電荷輸送性ワニスを塗布して上記の方法により正孔注入層を作製し、その上に正孔輸送性高分子層、発光性高分子層を順次形成し、更に陰極電極を蒸着してPLED素子とする。
【0071】
使用する陰極及び陽極材料としては、上記OLED素子作製時と同様のものが使用でき、同様の洗浄処理、表面処理を行うことができる。
【0072】
正孔輸送性高分子層及び発光性高分子層の形成法としては、正孔輸送性高分子材料若しくは発光性高分子材料、又はこれらにドーパントを加えた材料に溶媒を加えて溶解するか、均一に分散し、正孔注入層又は正孔輸送性高分子層の上に塗布した後、それぞれ焼成することで成膜する方法が挙げられる。
【0073】
正孔輸送性高分子材料としては、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレニル−2,7−ジイル)−コ−(N,N'−ビス{p−ブチルフェニル}−1,4−ジアミノフェニレン)]、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−コ−(N,N'−ビス{p−ブチルフェニル}−1,1'−ビフェニレン−4,4−ジアミン)]、ポリ[(9,9−ビス{1'−ペンテン−5'−イル}フルオレニル−2,7−ジイル)−コ−(N,N'−ビス{p−ブチルフェニル}−1,4−ジアミノフェニレン)]、ポリ[N,N'−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N'−ビス(フェニル)−ベンジジン]−エンドキャップド ウィズ ポリシルセスキオキサン、ポリ[(9,9−ジジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−コ−(4,4'−(N−(p−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]等が挙げられる。
【0074】
発光性高分子材料としては、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2−メトキシ−5−(2'−エチルヘキソキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)等のポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
【0075】
溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロホルム等を挙げることができ、溶解又は均一分散法としては攪拌、加熱攪拌、超音波分散等の方法が挙げられる。
【0076】
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット法、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗布は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
【0077】
焼成する方法としては、不活性ガス下又は真空中、オーブン又はホットプレートで加熱する方法が挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下の通りである。
(1)
1H−NMR測定:バリアン製 高分解能核磁気共鳴装置
(2)基板洗浄:長州産業(株)製 基板洗浄装置(減圧プラズマ方式)
(3)ワニスの塗布:ミカサ(株)製 スピンコーターMS−A100
(4)膜厚測定:(株)小坂研究所製 微細形状測定機サーフコーダET−4000
(5)EL素子の作製:長州産業(株)製 多機能蒸着装置システムC−E2L1G1−N
(6)EL素子の輝度等の測定:(有)テック・ワールド製 I−V−L測定システム
【0079】
[1]化合物の合成
[合成例1]4−(ジフェニルアミノ)アニリンの合成
【化8】
【0080】
p−ブロモトリフェニルアミン(10.0g、30.8mmol)とPd(dba)
2(0.887g、1.54mmol)のトルエン溶液(77mL)にLiN(SiMe
3)
2(33.9mL、1mol/Lトルエン溶液)を滴下した。次に、t−Bu
3P(0.312g、1.54mmol)を反応混合液に加えた後、20時間室温で攪拌した。
攪拌終了後、1mol/L塩酸を加え、酸性化して反応を停止させた。そこへトルエンを加え分液抽出し、トルエン層を2mol/L水酸化ナトリウム水溶液、水の順で洗浄した後、洗浄後のトルエン層から溶媒を留去して粗物を得た。
最後に、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒を用いて再結晶を行い、4−(ジフェニルアミノ)アニリンを得た(収量:6.16g、収率:77%)。
1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl
3): δ 7.22-7.16(m,4H), 7.06-7.01 (m, 4H), 6.96 (d, J=8.8Hz, 2H), 6.91-6.88 (m, 2H), 6.65 (d, J=8.8Hz, 2H), 3.60 (bs, 2H, N
H2)
【0081】
[合成例2]N,N'−ビス(p−(ジフェニルアミノ)フェニル)ベンジジンの合成
【化9】
【0082】
4,4'−ジブロモビフェニル(2.00g、6.41mmol)及び4−(ジフェニルアミノ)アニリン(3.50g、13.5mmol)のトルエン溶液(52mL)に、t−BuONa(1.85g、19.2mmol)、Pd(dba)
2(0.0737g、0.128mmol)及びt−Bu
3P(0.0207、0.103mmol)をこの順で加え、70℃に昇温した後、20時間攪拌した。
攪拌終了後、反応混合液に水を加えて反応を停止させ、そこへ酢酸エチルとヘキサンを加え、析出した固体をろ取した。得られた固体をテトラヒドロフランに溶解させて不溶物をろ過で除去し、ろ液から溶媒を留去して粗物を得た。
最後に、得られた粗物をテトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒中でスラリー状態で洗浄し、ろ過をすることで、N,N'−ビス(p−(ジフェニルアミノ)フェニル)ベンジジンを得た(収量:3.88g、収率:90%)。
1H−NMRの測定結果を以下に示す。
1H-NMR (CDCl
3): δ 7.45 (d, J=8.8Hz, 4H), 7.23 (dd, J=7.6, 8.8Hz, 8H), 7.13-7.08 (m, 20H), 6.96 (t, J=7.6Hz ,4H), 5.67 (s, 2H, N
H)
【0083】
[2]電荷輸送性ワニスの調製
[実施例1−1]
N,N'−ジフェニルベンジジン(東京化成工業(株)製)0.148g及びリンタングステン酸(関東化学(株)製)0.594gを、窒素雰囲気下で1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン8.0gに溶解させた。得られた溶液に、シクロヘキサノール12.0g及びプロピレングリコール4.0gを加えて攪拌して電荷輸送性ワニスを調製した。なお、N,N'−ジフェニルベンジジンは、1,4−ジオキサンを用いて再結晶し、その後、減圧下でよく乾燥してから用いた。
【0084】
[実施例1−2〜1−3]
N,N'−ジフェニルベンジジン及びリンタングステン酸の使用量を、それぞれ0.124g及び0.619g(実施例1−2)、0.106g及び0.636g(実施例1−3)とした以外は、実施例1−1と同様の方法で電荷輸送性ワニスを調製した。
【0085】
[実施例1−4]
合成例2で製造したN,N'−ビス(p−(ジフェニルアミノ)フェニル)ベンジジン0.082g及びリンタングステン酸0.408gを、窒素雰囲気下で1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン8.0gに溶解させた。得られた溶液に、シクロヘキサノール12.0g及びプロピレングリコール4.0gを加えて攪拌して電荷輸送性ワニスを調製した。なお、N,N'−ビス(p−(ジフェニルアミノ)フェニル)ベンジジンは、1,4−ジオキサンを用いて再結晶し、その後、減圧下でよく乾燥してから用いた。
【0086】
[実施例1−5]
N,N'−ビス(p−(ジフェニルアミノ)フェニル)ベンジジン及びリンタングステン酸の使用量を0.070g及び0.420gとした以外は、実施例1−4と同様の方法で電荷輸送性ワニスを調製した。
【0087】
[比較例1]
N,N'−ジフェニルベンジジン0.742g、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン8.0g、シクロヘキサノール12.0g及びプロピレングリコール4.0gを用いてワニスの調製を試みたが、ワニスは懸濁し、有機EL素子用の電荷輸送性薄膜の形成に用い得る均一なワニスを得ることができなかった。
【0088】
[比較例2]
N,N'−ビス(p−(ジフェニルアミノ)フェニル)ベンジジン0.490g、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン8.0g、シクロヘキサノール12.0g及びプロピレングリコール4.0gを用いてワニスの調製を試みたが、ワニスは懸濁し、有機EL素子用の電荷輸送性薄膜の形成に用い得る均一なワニスを得ることができなかった。
【0089】
[3]有機EL素子の作製及び特性評価
[実施例2−1]
実施例1−1で得られたワニスを、スピンコーターを用いてITO基板に塗布した後、50℃で5分間乾燥し、更に大気雰囲気下230℃で15分間焼成し、ITO基板上に30nmの均一な薄膜を形成した。ITO基板としては、インジウム錫酸化物(ITO)が表面上に膜厚150nmでパターニングされた25mm×25mm×0.7tのガラス基板を用い、使用前にO
2プラズマ洗浄装置(150W、30秒間)によって表面上の不純物を除却した。
次いで、薄膜を形成したITO基板に対し、蒸着装置(真空度1.0×10
-5Pa)を用いてN,N'−ジ(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq
3)、フッ化リチウム、及びアルミニウムの薄膜を順次積層し、有機EL素子を得た。この際、蒸着レートは、α−NPD、Alq
3及びアルミニウムについては0.2nm/秒、フッ化リチウムについては0.02nm/秒の条件でそれぞれ行い、膜厚は、それぞれ30nm、40nm、0.5nm及び120nmとした。
なお、空気中の酸素、水等の影響による特性劣化を防止するため、有機EL素子は封止基板により封止した後、その特性を評価した。封止は以下の手順で行った。
酸素濃度2ppm以下、露点−85℃以下の窒素雰囲気中で、有機EL素子を封止基板の間に収め、封止基板を接着材(ナガセケムテックス(株)製XNR5516Z−B1)により貼り合わせた。この際、捕水剤(ダイニック(株)製HD−071010W−40)を有機EL素子と共に封止基板内に収めた。貼り合わせた封止基板に対し、UV光を照射(波長:365nm、照射量:6,000mJ/cm
2)した後、80℃で1時間、アニーリング処理して接着材を硬化させた。
【0090】
[実施例2−2〜2−3]
実施例1−1で得られたワニスの代わりに、それぞれ実施例1−2〜1−3で得られたワニスを用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0091】
[実施例2−4]
焼成温度を180℃とした以外は、実施例2−1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0092】
[実施例2−5〜2−6]
焼成温度を160℃とした以外は、それぞれ実施例2−1〜2−2と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0093】
[実施例2−7〜2−8]
実施例1−1で得られたワニスの代わりに、それぞれ実施例1−4〜1−5で得られたワニスを用い、焼成温度を150℃とした以外は、実施例2−1と同様の方法で有機EL素子を作製した
【0094】
[比較例3]
ワニスを用いて薄膜を形成する代わりに、N,N'−ジフェニルベンジジンを蒸着源とする蒸着法(蒸着レート0.2nm/秒)で、ITO基板上にN,N'−ジフェニルベンジジンのみからなる30nmの均一な薄膜を形成した以外は、実施例2−1と同様の方法で有機EL素子を作製した。
【0095】
作製した有機EL素子の駆動電圧5Vにおける電流密度及び輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示したとおり、本発明の電荷輸送性ワニスから得られる電荷輸送性薄膜を正孔注入層として用いた場合、N,N'−ジフェニルベンジジンからなる蒸着膜を用いた場合と比較して、良好な輝度特性を示す有機EL素子を得ることができた。